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《速報解説》 会計検査院、子会社配当に対する源泉徴収から還付金及びそれに伴う事務等の発生を指摘~源泉徴収制度の趣旨に沿っていないとの見解を示す~

《速報解説》 会計検査院、子会社配当に対する源泉徴収から 還付金及びそれに伴う事務等の発生を指摘 ~源泉徴収制度の趣旨に沿っていないとの見解を示す~   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   1 はじめに 会計検査院は「令和元年度決算検査報告の概要」を令和2年11月10日に内閣に送付したことを公表している。 本稿では、検査報告の中で、「特定検査対象」として取り上げられた下記2項目のうち、「完全子法人株式等及び関連法人株式等に係る配当等の額に対して源泉徴収を行うことにより生ずる還付金及び還付加算金並びに税務署における源泉所得税事務及び還付事務等について」の解説を行う。   2 問題の概要 会計検査院は、完全子法人株式等に係る配当等の全額及び負債利子を控除した関連法人株式等に係る配当等の全額については、益金不算入となるため、仮に源泉徴収をしなければ、納税者側の源泉徴収事務負担等が軽減されるだけでなく、税務署側の還付事務が生じない可能性があるという観点で、源泉徴収制度が趣旨に沿ったものとなっているかなどについて、検査を行った。 検査結果については、平成29年度から令和元年度に完全子法人株式等又は関連法人株式等を保有している検査対象法人(1,667社)のうち、完全子法人株式等又は関連法人株式等に係る受取配当等に対する源泉所得税相当額について所得税額控除を適用したことにより還付金が生じた法人が1,262社あり、それらに支払われた還付金が約8,898億6,092万円となっていた。 これら還付金の支払いがある法人のうち、還付加算金が生じていた法人が888社あり、それらに支払われた還付加算金は約3億6,563万円となっていた。 このように、原則として法人税が課されない完全子法人株式等に係る配当等や関連法人株式等に係る配当等に対して源泉徴収を行っていたことから、納税者側の源泉徴収事務負担等、税務署側の還付事務が生じ、源泉徴収しなければ発生しなかった還付加算金まで生じているということが明らかとなった。   3 意見の概要 会計検査院は、納税者側では、配当等に係る源泉徴収により一時的な資金負担と事務負担が生じ、税務署側でも還付金及び還付加算金を支払うことによる還付事務が生じている状況は、源泉所得税が法人税の前払的性質を持つことや、所得税を効率的かつ確実に徴収するなどの源泉徴収の制度趣旨に必ずしも沿ったものとなっていないとの見解を示している。   4 今後の動向 令和2年度税制改正の「居住用財産の譲渡特例と住宅ローン税額控除の重複適用排除」や「国外中古建物の貸付けをして所得税負担の軽減を図る事例に対応するための国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」については、会計検査院の検査報告が契機となっている。 今回の意見公表により、源泉徴収制度について近い将来改正がなされる可能性があるため、今後の動きについて注視が必要である。 完全支配関係のある会社からの配当については、現物分配(金銭以外の配当)の場合には、源泉徴収する必要がないことと整合性をとるという点と完全支配関係のある子会社からの受取配当金が全額益金不算入となることから法人税の前払いをする必要はそもそもないという点から、完全支配関係のある子会社からの配当については、源泉徴収の対象としないことを検討する必要があると考えられる。 (了)

#No. 395(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/11/20

プロフェッションジャーナル No.395が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年11月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.395を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/11/19

日本の企業税制 【第85回】「OECDのブループリント」

日本の企業税制 【第85回】 「OECDのブループリント」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   2020年10月12日、OECDは、市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルールの見直し(Pillar1)と軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入(Pillar2)に関するブループリントを公表した。 このブループリントは、各国の見解の相違を埋め、多国間プロセスにおける次のステップに進むために、残された政治的、技術的問題を明らかにするものであり「将来の合意のための強固な土台」と位置付けられている。併せて、これら2本の柱がもたらす経済影響分析も公表されており、これによると、特にPillar2に含まれる世界共通最低税率を導入すると、年間で世界全体の法人税収が最大4%(約1,000億米ドル)増加することが見込まれている。 一方、合意に基づく解決策がなければ、一方的なデジタルサービスへの課税が横行し、課税紛争や貿易紛争で損害を受ける可能性が高まり、租税の確実性と投資が損なわれれば、世界全体のGDPが年間1%以上引き下げられる可能性すらあるとも指摘されている。 目下、ブループリントに関してパブリックコメントが募集されており(2020年12月14日まで)、2021年1月中旬にはオンラインでの公聴会も予定されている。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の影響等で、当初の予定であった本年末までの合意形成は延期され、来年半ばまでに合意ができるよう交渉を続けることとされているが、ここにきて米国の政権交代が確実となり、米当局の新体制が固まるまで一定の期間が必要となれば、交渉がさらにずれ込むおそれがあり予断を許さない状況である。 ブループリントの内容は、基本的には2020年1月にOECDが提示した制度の大枠の構造を踏襲しており、Pillar1と Pillar2という2本柱の構成や、Pillar1の内容として、「Amount A(物理的拠点の有無にかかわらず超過利益の一定部分を市場国に配分)」と「Amount B(基礎的な活動のみを行う物理的拠点のある市場国に固定比率による利益を配分)」が念頭に置かれている点も維持されているが、それ以降の検討を反映して制度の詳細の姿が見えてきた。   〇Pillar1 (1) Amount A Amount Aについては、大別すれば、「対象となる企業グループの特定(スコープ)」、「課税ベースの計算」、「市場国への配分方法」、「支払うべき法人の特定」の4つのプロセスが予定されている。 まずスコープについては、企業グループが行う事業に自動化されたデジタルサービス(ADS)と消費者向けビジネス(CFB)に該当するものがあるかを特定する必要がある。該当するものがある場合には、企業グループの連結財務諸表上の全世界収入が一定額(例えば国別報告書の適用基準と同様の7億5,000万ユーロ)を超え、しかも対象事業(ADS・CFB)に係る国外源泉収入が一定額(例えば2億5,000万ユーロ)を超える場合(デミニマス基準テスト)とされている。 ADSの判定にあたってはポジティブリストとネガティブリストが用意されるとともに、ADS特有のビジネスモデルの急速な変化に対応するための一般的な定義も設けられている。なお、ADSとCFBの両方に該当する場合には、ADSにカテゴライズされることとなっている。 スコープに該当する場合には、課税ベースの計算を行う必要が生じる。計算の出発点はIFRS及びそれと同等のGAAP(日本基準や米国基準)に基づく連結財務諸表の税引前利益(PBT)である(株式に係る配当やキャピタルゲインを除く)。全世界収入が一定金額を超える企業グループはADS・CFBをさらにビジネスラインごとに分割(セグメンテーション)して税引前利益を計算する必要があることに注意が必要である(基本的には財務報告上のセグメント区分に従うことができる)。なお、企業グループや分割されたセグメントに損失がある場合には後年度に繰越控除が可能である。 このようにして計算された税引前利益のうち、みなし通常利益(利益率は未定)を超える超過利益のうち市場国に配分されるべきもの(配分割合は未定)が、市場国に配分されることとなる。この超過利益の一定割合が配分されるべき市場国を判定するのが、市場国(ADSにおいては利用者の所在地、CFBにおいては商品の最終配達地)における売上(一定の基準額(500万ユーロ未満とすることが想定されている)を超えるものに限る)の存在である。CFBについては追加的要件(プラスファクター、例えば、より高い基準額、PEの存在等)も検討されている。 なお、商品の最終配達地を特定するため、独立販社を通じて販売を行っている場合に、独立販社の売り先の情報(国・地域、販売総数等)を把握する必要が生じることに注意しなければならない。超過利益は要件をクリアした各市場国の収入の比により配分されるが、基準額に満たない市場国に係る超過利益を、要件をクリアした市場国に分配するかどうかは未定である。 また、ブループリントでは新たに、①プロフィット・ショートフォール(実際の利益率がみなし超過利益率を下回った場合の差額の繰越)、②マーケティング&ディストリビューション・プロフィット・セーフ・ハーバー(市場国で既存ルールのもとで配分された利益が、一定の固定リターンを超える場合に配分されるAmount Aの額を減算)という提案もなされている。 各市場国に配分された超過利益に係る税額を支払うべき事業体を特定するため、4つのステップ(①活動テスト、②利益率テスト、③市場関連性優先テスト、④市場関連性の優劣がない場合や市場関連性の高い事業体に十分な利益がない等のプロラタ配分)が用意されている。 (2) Amount B Amount Bは、従来の独立企業原則と整合した方法で、「基礎的なマーケティング及び販売活動」に係る最低限の利益の保障(固定利益率)をするものである。この対象となる「基礎的なマーケティング及び販売活動」に該当するかどうかを判定するために、例えば機能、資産、リスクに基づくポジティブリストとネガティブリストが用意されている。この結果、コミッショネアや販売代理人は対象から除かれるが、対象の拡大を求める国もあることも言及されている。   〇Pillar2 Pillar2は、多国籍企業グループが経済活動の拠点をいかなる国・地域に置くかにかかわらず最低限の税負担をすることを確保することを目的としており、ひいては公平な競争条件の確保にもつながる。こうした観点から、主要なルールとして①所得合算ルール(IIR)と②軽課税支払ルール(UTPR)の2つのルールが提案されている。 所得合算ルールとは、軽課税国にある子会社等(連結財務諸表に含まれる事業体、なお重要性の観点から連結対象から除かれている非連結子会社も含まれる)に帰属する所得を世界共通の最低税率に達するまで最終親会社の所在する国・地域において課税するものである。なお、最終親会社の100%子会社ではない中間親会社がある場合には、当該中間親会社にも所得合算ルールが適用される可能性がある(分割保有ルール)ことに注意しなければならない。所得合算ルールと類似する米国のGILTI(国外軽課税無形資産所得)税制との関係についても継続検討とされている。特に将来、日本に所得合算ルールが導入された際、米国子会社でGILTI税制が適用されるかどうかは重要な課題となる。 一方、軽課税支払ルールとは、軽課税国への支払いを行っている子会社等に対して当該支払会社の国で課税するものである。なお、最終親会社において所得合算ルールが適用される場合には、軽課税支払ルールは適用されないので、軽課税支払ルールは所得合算ルールを補完するものという位置づけである。 軽課税かどうかは国・地域単位で判定され、最終親会社の適用する会計基準に基づき算出される各事業体の税引前利益をもとに判定される。なお、ブループリントでは新たに支払給与と有形固定資産の減価償却費(土地に係るみなし償却費も含む)の一定割合を税引前利益から控除(カーブアウト)されることとされた。 また、ブループリントでは、納税者のコンプライアンスコストを低減させる観点から、ホワイトリストをはじめとする実効税率計算を免除するための4つの簡素化オプションが新たに提示された。 (了)

#No. 395(掲載号)
#小畑 良晴
2020/11/19

これからの国際税務 【第22回】「包摂的枠組(IF)承認のデジタル課税に関する新ルール案(青写真)の課題」

これからの国際税務 【第22回】 「包摂的枠組(IF)承認のデジタル課税に関する新ルール案(青写真)の課題」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 青写真の公表 2020年10月9日、BEPSプロジェクトの最後のテーマである「デジタル経済の課税」について、過去5年間の詳細設計に向けた検討の成果物である「2つの柱からなる新しいルール」を提案する最終草案が、G20/OECDの下で約140ヶ国により構成された包摂的枠組(IF)により承認され、同月12日に公表された。 10月14日のG20財務大臣会議コミュニケは、この報告を歓迎し、これに基づき残存する課題を解決して、2021年半ばまでの最終合意を目指すよう求めている。以下では、その内容を概観するとともに、残された主な課題について考察を行う。   2 2つの柱の基本構造と残された課題 経済のデジタル化に伴い顕在化した市場国課税権の空白を埋める目的の第1の柱は、伝統的な国際課税ルール(PE帰属原則と独立企業間原則)と併存・上乗せする「利益A」の提案と、伝統的ルールの一部を定式配分により簡素化する「利益B」の提案から成っている。 市場国に新たに配分すべきとされる超過利益の一部から成る利益Aは、市場国における売上高などの新たな課税根拠(ネクサス)に基づき配分されることになるが、併存適用される既存ルール下で課税済みとなっている利益との間での二重計上への対処や、増加が予想される紛争防止のためのメカニズム等、技術的に詰めるべき課題をまだ残している。また、基礎的な販売活動に伴い固定利益率で算定された利益Bについても、産業別・地域別・機能水準別の細分化の必要性など独立企業原則との整合性確保に向けた諸課題が残っている。 一方、軽課税国事業体を利用した多国籍企業によるBEPS行動へのラストリゾートとして新設することを目的とする第2の柱は、当該事業体への流出利益について、国際的に合意した最低水準の税負担を求める「GloBE」と呼ばれるミニマムタックス構想を基本としている。このためには、軽課税国事業体の所得を親会社に合算するルール(IIR)を基本とし、これが稼働されない場合に、軽課税国への支払いの損金算入を否認することにより同一の課税効果を保障する軽課税国支払ルール(UTPR)を国内法上新設するルールが提案されているが、やはり、併存する既存制度であるCFC税制との関係や本制度がモデルとしたと思われる米国トランプ税制(GILTI税制)との関係整理などの課題を残している。 また、上記2つの柱に基づく増収効果のマグニチュードを決定づける諸指標(第1の柱では通常所得の利益水準、超過利益のうち市場国へ配分すべき割合など、第2の柱では追加課税される最低税率水準など)については、青写真の下での税収効果試算の際に一定の仮定条件を設定しているものの、その決定については今後の協議に委ねている。 なお、2020年に至り、ムニューシン財務長官を通じて米国から提示された第1の柱に関するセーフハーバーアプローチ(伝統的手法に基づく納税か、新しいルールに基づく納税かの選択を納税者に任せる方式)については、これまで検討してきた新制度の立法趣旨を損ねかねないとの多くの国からの懸念が提示されているものの、青写真では採否の結論に至っていない。   3 青写真にみる第1の柱の課題の検証 青写真は、2019年以降の作業計画の進捗段階で合意された自動化されたデジタルサービス(ADS)と消費者向けビジネス(CFB)の双方を対象とする「統合的アプローチ」の詳細設計であり、これら2種類のビジネスモデルの市場国売上高を新しいネクサスとして、市場国に新たに付与する課税権の仕組を明確化しようとしたものである。 そこでは、従来の移転価格などによる課税権配分ルールと併存させる制度設計となったため、予測されたとはいえ、2つの柱の制度設計のガイダンスとされてきた「簡素化」からは乖離した複雑な処方箋の検討も展開されている。即ち、PE不存在のための本来的な課税空白を理由とするADSへの課税と、既存の事業体課税ルールが既に部分的に把握済みであったCFBへの課税を、単一の課税メカニズムに服させると、中立性・公平性の観点から不当な結果が生じてしまうおそれがあり、これを回避するための仕組みの追加の要否が、青写真の重要な検討課題とされたと見受けられるのである。 その具体例として、青写真で検討されている利益Aの確定過程での2つの追加施策、①CFB向けの追加的なネクサス要件と、②利益Aと独立企業原則による二重計上を回避するための「マーケティング・販売基本活動に関するセーフハーバー」構想を紹介しよう。 (1) CFB向けの追加的ネクサス 課税対象となる2つのビジネスモデルの内、CFB向けには、市場国におけるPEの存在をネクサス認定のプラスファクターとして要求する考え方である。一見すると、統合アプローチの課税理論の中に残った理論的不整合のようにも見えるが、上述した通り、併存する従来の課税原則下でのカバー度合いの違いや、GAFAを代表とするADSの実現するデジタルビジネスの超過利得とブランド品販売等で追加的に発生する超過利得との間の、市場国におけるネクサス環境の違いを観察すると、適切な差異調整と評価できなくもない。 (2) 利益Aの二重計上リスクに備える「マーケティング・販売基本活動に関するセーフハーバー」 これは、伝統的な課税制度の下で既に利益Aに相当する金額と販売基本活動等に係る利益が課税済みであれば、それは、セーフハーバーの中にあるとして、計算上算定される利益Aの課税を控えるというものである。新旧両制度の併存体制を前提にすれば、利益Aに本来的に備わる二重計上リスクに対応する必要なメカニズムとも評価されうるが、一方ではこのセーフハーバーへの該当性判断等で、執行コストの増加も覚悟せねばならない。   4 これからの検討の方向性 公表された青写真をベースに、IFは12月中にビジネス界等利害関係者からパブリックコメントを受け付け、2021年1月に市中協議を完了して、その後2021年半ばまでのグローバル最終合意を目指している。 これからは、上記3で例示した詳細設計確定のための重要課題(第2の柱で提起されているIIRと既存のCFC税制間の調整なども追加)への対処ぶりを確定するIFベースでの実務協議に加え、課税権配分を左右する重要指標の政治協議が本格化すると思われる。ビジネスを含む税の専門家にとっては、新制度が既存制度との並行適用を前提としているがための諸調整の帰趨が、当面何よりも気がかりとなろう。 (了)

#No. 395(掲載号)
#青山 慶二
2020/11/19

〈令和2年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「令和2年分から適用される改正事項(その2)」

〈令和2年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「令和2年分から適用される改正事項(その2)」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   連載第2回は、前回に引き続き令和2年分の所得税から適用される改正事項のうち、年末調整において注意しておくべき事項について解説を行う。また、令和2年分の年末調整で新たに設けられた「基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」の記載方法を示すこととする。     【1】 ひとり親控除の創設と寡婦控除の見直し (1) 改正の概要 令和元年分までの所得税では、ひとり親に対する措置として寡婦(寡夫)控除が設けられていた。しかし、寡婦(寡夫)控除は、婚姻歴があることが前提とされていることや、男性のひとり親と女性のひとり親で控除額が異なっている等の問題点が指摘されていた。 令和2年度税制改正により、婚姻歴に関係なくすべてのひとり親が控除の対象となり(ひとり親控除)、男性のひとり親と女性のひとり親は同じ取扱いとなった(所法2①三十一、81)。 また、ひとり親控除の創設に伴い、寡婦の範囲からひとり親が除かれるとともに、すべての寡婦に所得制限が設けられた(所法2①三十)。 改正前の制度の概要と改正後の制度の詳細及び源泉徴収における取扱いについては、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 令和2年分の年末調整における注意点 改正後の制度に基づいて源泉徴収を行うのは、令和3年1月以後に支給する給与からとされている(附則8①)。よって、令和2年分の月々の給与や賞与については、改正前の制度(寡婦控除、寡婦控除)に基づいて源泉徴収を行い、年末調整で改正後の制度に基づいて計算を行うこととなる(附則8⑦)。 令和2年分の年末調整に際し、改正前後で取扱いが変わる者については、令和2年の最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に扶養控除等申告書又は異動申告書を提出しなければならない(附則8③~⑤)。 申告書提出の要否については、次のフロー図を参考にされたい。   【改正前後の控除に係る適用判定のフロー図】 (※) 国税庁ホームページより   【2】 年末調整手続の電子化 (1) 改正の概要 源泉徴収事務を行う会社の負担を軽減し、納税者の利便性を向上する観点から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る年末調整関係書類(※1)が、電子データにより提供できるよう手当された(所法198②)。 (※1) 扶養控除等申告書、配偶者控除等申告書及び保険料控除申告書は、本改正前から電子データで提供することができる。 本改正は、令和2年10月1日以後に提出する年末調整関係書類(※2)について適用される。 (※2) 住宅借入金等特別控除関係書類については、家屋の居住年が平成31年以後のものに限られる。 本改正の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 令和2年分の年末調整における注意点 年末調整を電子化する場合に注意すべき点は、次のとおりである。 ① 使用するソフトウェアの選定 令和2年10月より、国税庁から年末調整申告書作成用のソフトウェア(※3)が無償で提供されているが、民間のソフトウェア会社が提供するソフトウェアを利用することも可能である。 (※3) 国税庁が提供するソフトウェアは年末調整申告書作成用のものであり、年末調整計算のすべてを行う給与システムではない。 ② 従業員への周知 年末調整関係の各種申告書及び控除証明書等を電子データにより提供を受けることについて、事前に従業員等から同意を得る必要はない。しかし、従業員が保険会社等から控除証明書等をデータで交付を受けるための手続をしたり、マイナンバーカードを取得したりするための期間を考慮する必要がある。 ③ 給与システムの改修 提供を受けた電子データを給与システムに取り込んで年税額を計算するため、給与システムの改修が必要となる。 ④ 税務署への届出 所轄税務署長に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」(以下、承認申請書という)を提出し、事前に承認を受けなければならない(所令319の2①)。なお、承認申請書を提出した月の翌月末日までに承認通知又は承認しないことの決定通知がなければ、承認申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされる(所令319の2④)。 ⑤ 書面で提出を受けることも可能 今回の改正により、すべての年末調整関係書類を電子データで提供できるよう手当されたが、必ずしも全員から電子データで提供を受ける必要はない。従前どおり書面で提出を受けることも可能である。   【3】 「基礎控除申告書」の記載方法 (1) 「基礎控除申告書」とは 令和2年分以後の所得税では、基礎控除の額は一律ではなく、その年の合計所得金額によって控除額が変わることとなった。そこで、給与支払者が従業員等の合計所得金額を把握し、基礎控除の額を確認できるよう「基礎控除申告書」が設けられた(※4)(所法195の3)。 (※4) 基礎控除申告書は、配偶者控除等申告書及び所得金額調整控除申告書と合わせて1つの様式にまとめられている。 (2) 「基礎控除申告書」の記載方法 「基礎控除申告書」には、次の事項を記載することとされている(所法195の3①、所規74の5①)。 《記載例》給与収入900万円、不動産所得30万円の人の場合 ◆給与所得者の基礎控除申告書◆ (3) 「基礎控除申告書」の注意点 ① 合計所得金額の見積額の計算 「給与所得」と「給与所得以外の所得の合計額」に分けて記載する様式となっている。それぞれの金額について、注意すべき点は次のとおりである。 ② 控除額の計算 合計所得金額の見積額に応じた基礎控除の額を求める。なお、合計所得金額が2,500万円を超えると基礎控除は適用されないので、令和2年分の合計所得金額が当該金額を超えると見込まれる場合には「基礎控除申告書」を提出する必要はない。また、「区分Ⅰ」欄は、「配偶者控除等申告書」を提出しないのであれば記載する必要はない。     【4】 「所得金額調整控除申告書」の記載方法 (1) 「所得金額調整控除申告書」とは 年末調整で所得金額調整控除の適用を受けるには、一定の要件を満たしていることが必要である。そこで、給与支払者が、適用を受けようとする者について要件を満たしているか確認できるよう「所得金額調整控除申告書」が設けられた(措法41の3の4①、措規18の23の3)。 (2) 「所得金額調整控除申告書」の記載方法 「所得金額調整控除申告書」の記載方法は、次のとおりである(措法41の3の4①)。 「☆扶養親族等」欄:同一生計配偶者又は扶養親族の氏名、個人番号、生年月日、住所(別居の場合)、申告書提出者との続柄、合計所得金額の見積額を記載 「★特別障害者」欄:特別障害者に該当する事実(障害の状態又は交付を受けている手帳等の種類と交付年月日、障害の程度(等級)等)を記載 《記載例》23歳未満の扶養親族を有する場合 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ◆所得金額調整控除申告書◆ (3) 「所得金額調整控除申告書」の注意点 ① 2ヶ所以上から給与等の支払を受けている場合、公的年金等の支払を受けている場合 「所得金額調整控除申告書」に基づいて計算する所得金額調整控除の額と、「基礎控除申告書」の合計所得金額を求める際に適用する所得金額調整控除の額は、異なることがある。 《所得金額調整控除の額》 ①の調整:子ども等を有する場合の調整 ②の調整:給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整 ② 「★特別障害者」欄の記載 特別障害者に該当する事実を「扶養控除等申告書」に記載しているときは、「扶養控除等申告書のとおり」と記載することで詳細な記載を省略することができる。 ③ 共働き世帯の所得金額調整控除 夫婦いずれにも給与所得がある場合、16歳以上の子がいても扶養控除はどちらか一方でしか適用することはできない(所法85⑤)。しかし、所得金額調整控除は、夫婦の給与等の収入金額がいずれも850万円を超えており、かつ扶養親族に該当する23歳未満の子がいる場合には、夫婦双方で適用を受けることができる。 *  *  * 次回(最終回)は、今年分の年末調整から適用される改正事項を中心に、実務上の留意点をQ&A方式で解説する予定である。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (了)   

#No. 395(掲載号)
#篠藤 敦子
2020/11/19

給与計算の質問箱 【第11回】「年末調整書類の様式の変更点」

給与計算の質問箱 【第11回】 「年末調整書類の様式の変更点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 12月の給与計算時に年末調整を行うにあたり、年末調整書類を役員・従業員へ配付する時期になりました。年末調整書類の様式は、昨年と比較して変更点はあるでしょうか。 A 変更点の有無は、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 給与所得者の扶養控除等申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます(以下同様)。 ※ 上記様式の   は、平成31年(2019年)分からの変更箇所を示している。 ◎令和2年分の変更点 ※ 上記様式の   は、令和2年分からの変更箇所を示している。 ◎令和3年分の変更点   2 給与所得者の配偶者控除等申告書 ※ 上記様式の   は、令和元年分からの変更箇所を示している。 ◎令和2年分の変更点   3 給与所得者の保険料控除申告書、給与所得者の基礎控除申告書、所得金額調整控除申告書 給与所得者の保険料控除申告書については変更なし、給与所得者の基礎控除申告書及び所得金額調整控除申告書は新設のため省略。   (了)

#No. 395(掲載号)
#上前 剛
2020/11/19

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第12回】「譲渡損益の繰延べ、資産調整勘定」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第12回】 「譲渡損益の繰延べ、資産調整勘定」   公認会計士 佐藤 信祐 《第7章:譲渡損益の繰延べ》 1 グループ内における転売 内国法人が、完全支配関係にある他の内国法人に対して、その有する譲渡損益調整資産を譲渡した場合には、当該譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額が繰り延べられ(法法61の13①)、当該他の内国法人において、当該譲渡損益調整資産の譲渡、償却、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由が生じた場合に、当該内国法人において実現することになる(法法61の13②)。 そして、当該他の内国法人から完全支配関係にない法人に対して譲渡を行った場合だけでなく、完全支配関係にある法人に対して譲渡を行った場合にも、譲渡損益を実現させる必要がある。理論的には、完全支配関係にあるグループの外に移転するまで繰り延べたままとすべきであるものの、事務処理の簡便性に配慮したため、このような制度になっている(※)。 (※) 『平成22年版改正税法のすべて』197頁(大蔵財務協会、平成22年)。 そのため、本来であれば、譲渡損益を実現させるべきでない場合にも、譲渡損益が実現してしまっている事案もあることから、完全支配関係のあるグループの外に移転するまで譲渡損益を繰り延べるように改正すべきであると考えられる。   2 被合併法人株式が譲渡損益の繰延べの対象になる場合 譲渡法人又は譲受法人を被合併法人とする適格合併を行う場合には特例が認められており、譲渡損益を実現させる必要はない(法法61の13③⑤⑥)。これに対し、譲渡損益調整資産が有価証券である場合において、当該有価証券を発行している法人を被合併法人とする適格合併が行われたときの特例については定められていないため、譲受法人である被合併法人の株主が保有する被合併法人株式(譲渡損益調整資産)が消滅することを理由として、譲渡損益を実現させる必要がある。 これに対し、グループ通算制度を採用している場合において、他の通算法人株式が譲渡損益調整資産になるときは、譲渡損益を実現させないものとしていることから(令和4年度施行の法法61の11⑧)、このような不都合は生じない。本来であれば、グループ通算制度を採用していない場合であっても、グループ法人税制の対象となる法人の株式が譲渡損益調整資産に該当するときは、譲渡損益を実現させないように改正すべきであると考えられる。   3 少額資産の特例 譲渡損益調整資産から譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満のものが除外されている(法令122の14①三)。そして、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満であるか否かの判定単位は、次の資産区分に応じ、次に定めるところにより区分した後の単位とされている(法規27の13の3、27の15①)。 〈評価単位〉 このように、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象となる特定資産の評価単位と同じ取扱いになっている。ただし、特定資産の判定では、帳簿価額が1,000万円未満であれば、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象から除外できるため、納税者にとって有利になることが多いと思われる。 これに対し、譲渡損益の繰延べでは、帳簿価額が1,000万円未満である場合には、譲渡損失の金額が大きくなることは考えにくいものの、譲渡利益の金額が大きくなることがあり得ることから、納税者にとって不利になることが多いと思われる。そのため、事業譲渡のように、多種多様な資産を一度に譲渡する場合には、1単位当たりの譲渡利益が小さかったとしても、すべてを合計すると多額の譲渡利益になることもある。 さらに、現行法上、資産調整勘定は、譲渡損益調整資産に含まれないと解されていることから、事業譲渡を行った場合に資産調整勘定に係る譲渡損益が発生することが考えられる。なお、資産調整勘定の譲渡益と考えるのではなく、営業権(固定資産)の譲渡益と考えることにより、譲渡損益の繰延べを行うことができるようにも思えるが、たとえそうであったとしても、営業権の帳簿価額が0円であることがほとんどであることから、譲渡直前における帳簿価額が1,000万円未満の資産に該当してしまうため、譲渡損益調整資産には該当しないことになる。 立法論からすると、繰り延べられるのは譲渡損益であることから、帳簿価額が1,000万円未満であるかどうかではなく、譲渡損益が1,000万円未満かどうかで判定すべきであり、資産調整勘定についても譲渡損益の繰延べの対象にすべきである。   《第8章:資産調整勘定》 1 現行法の取扱い 資産調整勘定を認識した場合には、5年間の均等償却により各事業年度の損金の額に算入する必要があり(法法62の8④⑤)、差額負債調整勘定を認識した場合には、5年間の均等償却により各事業年度の益金の額に算入する必要がある(法法62の8⑦⑧)。また、この場合における資産調整勘定及び差額負債調整勘定の償却は、会計上の損金経理要件が課されていないため、会計上ののれんや負ののれんをどのように償却したとしても、法人税法上は、5年間の強制償却を行う必要がある。 さらに、組織再編成又は事業譲渡により、資産調整勘定及び差額負債調整勘定を認識する原因となった事業を移転した場合であっても、資産調整勘定及び差額負債調整勘定を取り崩さずに、均等償却を継続することになる。 これに対し、非適格合併又は残余財産が確定した場合には特例が定められており、被合併法人の合併の日の前日の属する事業年度又は解散法人の残余財産の確定の日の属する事業年度において資産調整勘定及び差額負債調整勘定の残高を取り崩すことにより、損金の額又は益金の額に計上することになる(法法62の8④⑤⑦⑧)。 そして、適格合併により解散する場合には、被合併法人の資産調整勘定及び差額負債調整勘定の残高を合併法人に引き継ぐことになる(法法62の8⑨一)。しかし、それ以外の組織再編成では、資産調整勘定及び差額負債調整勘定の残高を引き継ぐことができない。   2 実務上の問題点 例えば、A社が、X社の行う事業のうちY事業の買収を行う事案を検討したい。この事案では、Y事業のうち、一部の事業については早期の転売を想定しており、Z社を設立したうえで、A社との間に支配関係のないB社へ譲渡することを計画している。具体的なスケジュールは以下の通りである。 そして、X社からY事業を受け入れる際に、資産調整勘定(10億円)を認識したものの、そのうち、3億円については、B社へ転売するZ社に係るものであることから、A社からZ社への分割でも、Z社において資産調整勘定を認識せざるを得ない。 そうなると、A社においても、Z社に移転した資産調整勘定(3億円)に相当する部分の金額を譲渡原価に含めることができるようにも思えてしまう。 【現金交付型吸収分社型分割後の非適格新設分社型分割】 しかし、前述のように、資産調整勘定及び差額負債調整勘定は、5年間の均等償却により損金の額又は益金の額に算入することのみが認められており(法法62の8④⑤⑦⑧)、非適格合併や残余財産が確定した場合を除き、その残額を損金の額又は益金の額に算入することは認められていない。 このため、分割承継法人において、新たに資産調整勘定を認識するような場合であっても、分割法人において資産調整勘定の未償却残高を譲渡原価に含めることができない。そのため、上記の事案では、A社において10億円の資産調整勘定、Z社において3億円の資産調整勘定が認識されることから、A社において、3億円の譲渡利益が発生することになる。 このように、A社及びZ社において資産調整勘定に対する5年間の均等償却をすることから、長期的には、そのデメリットは解消されるが、単年度で多額の譲渡利益が生じるという問題がある。実務上、被買収会社の事業のうち不要な事業を早期に譲渡する場合にこのような問題が生じることがある。   3 税制改正の必要性 このように、資産調整勘定及び差額負債調整勘定については、一括償却資産(法令133の2)とほとんど同じ取扱いになっている。一括償却資産については、金額的重要性が乏しいことから、実務上、ほとんど問題にならないが、資産調整勘定及び差額負債調整勘定は多額になることが多く、実務上、問題になることが少なくない。 そのため、組織再編成又は事業譲渡を行った場合には、移転した事業に係る資産調整勘定及び差額負債調整勘定を合理的に計算し、譲渡原価に含めるようにすべきであると考えられる。そして、適格組織再編成を行った場合にも、移転した事業に係る資産調整勘定及び差額負債調整勘定を合理的に計算したうえで、分割承継法人等が合理的に計算された資産調整勘定又は差額負債調整勘定を帳簿価額で取得するように改正すべきであると考えられる。   4 その他の問題点 法人税法上、下記のような場合には、資産調整勘定として償却することがなじまないことから、その一部の金額を資産等超過差額として処理することになる(法令123の10④⑥、法規27の16)。 このうち、(イ)については、合併等対価資産が非上場株式である場合ではなく、上場株式である場合を想定した規定であると思われるが、合併等対価資産の組織再編成の日における価額が約定日の価額の2倍を超えることは稀であり、ほとんどの事案において該当しないという問題がある。 おそらくは、ほとんどの事案に対して資産等超過差額に該当しないように配慮したものであると思われるが、2倍という基準を見直すことにより、資産等超過差額に該当すべき事案に対して適切に対応できるようにすべきであると考えられる。 そして、(ロ)についても、条文構成上、寄附金の規定が資産等超過差額の規定に優先するため、ほとんどのケースにおいて寄附金として処理されてしまい、資産等超過差額として処理されるケースを見たことがない。本来であれば、削除すべき規定であると思われるが、寄附金に該当しなかった場合のために備えた保険的な規定であると考えるのであれば、削除するまでもないと思われる。 *   *   * 次回以降では、グループ通算制度について解説する予定である。 (了)

#No. 395(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/11/19

基礎から身につく組織再編税制 【第22回】「適格分割(共同事業)」

基礎から身につく組織再編税制 【第22回】 「適格分割(共同事業)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は共同事業を行うための適格分割の要件について解説します。 1 共同事業を行うための適格分割の要件 共同事業を行うための適格分割の要件は、次の8つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 (※) ①~④の詳細は本連載の【第20回】を参照。   3 従業者引継要件 (1) 従業者引継要件とは 「従業者引継要件」とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務((2)参照)に従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧四)。 (2) 「分割承継法人の業務」について 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に、分割承継法人との間に完全支配関係がある法人の業務と分割後に行われる適格合併に係る合併法人の業務も分割承継法人の業務に含まれます。   4 事業継続要件 「事業継続要件」とは、分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧五)。 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に分割承継法人との間に完全支配関係がある法人、分割後に行われる適格合併に係る合併法人において、分割事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   5 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます(法令4の3⑧三)。 分割事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかの判定は、支配関係がある場合の適格要件と同様です(前回参照)。   6 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。   7 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、分割事業と分割承継法人の分割前に行ういずれかの事業とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます(法令4の3⑧一)。 分割事業は分割法人から移転する事業であればよく、共同事業を行うための適格合併の場合の要件とは異なり、主要な事業である必要はありません。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」とは、次のような場合をいいます(法規3①二・②・③)。   8 事業規模要件又は経営参画要件 共同事業を行うための適格分割の要件としては、事業規模要件又は経営参画要件のいずれかを満たすことが求められています(法令4の3⑧二)。 (1) 事業規模要件 「事業規模要件」とは、分割事業と分割承継法人の事業(分割事業と関連する事業に限ります)のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。共同事業を行うための適格合併の要件(本連載【第8回】参照)と異なり、資本金による規模の判定はできませんのでご留意ください。 (例) 事業規模要件は、規模があまりに異なる分割は共同で事業を行うものとは認められないという趣旨により設けられたもので、事業の規模の割合がおおむね5倍を超えないかどうかは、売上金額等の指標のうち、いずれか1つが要件を満たすかどうかにより判定します(法基通1-4-6(注))。 (2) 経営参画要件 ① 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、分割前の分割法人の役員等(②参照)のいずれかと分割承継法人の特定役員(③参照)のいずれかとが分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれていることをいいます。 事業規模要件を満たさない場合でも、分割法人と分割承継法人の両方の経営陣が分割後に経営参画しているものは共同で事業を行うためのものとして認めるという趣旨により設けられています。 ② 役員等とは 「役員等」とは、役員及び社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいいます。 ③ 特定役員とは 「特定役員」とは社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(④参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 ④ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。 共同事業を行うための適格合併の要件(本連載【第8回】参照)と異なり、分割法人、分割承継法人の双方において特定役員である必要はないことに加え、分割法人については「役員等」と規定されていることから、常務取締役以上の役員である必要はなく、対象となる役員の範囲が広くなっています。   9 株式継続保有要件 (1) 分割型分割の株式継続保有要件 分割型分割における株式継続保有要件は、分割型分割により交付される分割承継法人の株式又は分割承継親法人株式のいずれか一方の株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主((2)参照)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧六イ)。 (2) 「支配株主」とは 株式継続保有要件における「支配株主」とは、分割型分割の直前に、分割法人の発行済株式の50%超を保有する株主をいいます。 下図の株主Aは支配株主に該当するため、対価(分割承継法人株式)を継続保有することが求められます。 (3) 分社型分割の株式継続保有要件 分社型分割における株式継続保有要件は、分社型分割により交付される分割承継法人の株式又は分割承継親法人株式の全部を分割法人が継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧六ロ)。 分割型分割における株式継続保有要件と異なり、支配株主の有無に関係なく求められ、議決権のない株式を含めてすべて継続保有することが求められています。   ◆共同事業を行うための適格分割の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件により、原則、株式以外の対価を交付しないことが求められています。 従業者引継要件については、分割法人の全事業の従業者ではなく、分割事業にかかる従業者の引継ぎが求められています。 事業引継要件については、合併と異なり、主要な事業ではなく分割事業を引き継げばよいこととされています。 事業関連性要件については、合併と異なり、分割法人の主要な事業である必要はありません。 事業規模要件については、事業関連性で使用した事業を用いて判定します。 事業規模要件の判定指標として資本金を選択することはできません。 経営参画要件については、単なる役員ではなく特定役員に就任する必要があります。 経営参画要件については、合併と異なり、分割法人における対象役員の範囲が広くなっています。 分割型分割と分社型分割とでは、株式継続保有要件の判定の仕方が異なります。   (了)

#No. 395(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/11/19

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第20回】「『役員報酬』と『役員給与』」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第20回】 「『役員報酬』と『役員給与』」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 会社法上の「役員報酬」 まずは会社法上の役員に対する人件費について概要を確認したい。 会社と役員(取締役・会計参与・監査役)の関係は委任関係にあるため(会社法330)、その報酬は無償であることが原則であるが(民法648①)、有償特約があるものとして報酬が支払われるケースが常である(※1)。 (※1) 【第10回】参照。 そして、会社法361条は取締役の報酬等について定めており、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるとしている。重要なのは、役員が受ける「報酬等」の定義を示している点であり、これによると「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と示されている(※2)。 (※2) 会社法上の役員とされる会計参与や監査役も(会社法329)、報酬等について定款にその額の定めがない場合には、株主総会の決議による旨が定められている(会社法379、387)。 「報酬等」と表現されているのは、職務執行の対価であればその全てが含まれることを意味し、例えばストックオプションや株式報酬等、その報酬は金銭報酬に限られず、その額は固定額でなくても制限はない。ただし、報酬のうち金銭でないものについては、定款又は株主総会の決議に拠る必要がある(会社法361①三)。このような例として、役員に居住させる社宅等が典型例である。 このように、「報酬等」は、職務執行の対価として支給されるあらゆるものが含まれるが、有価証券報告書等、そして銀行法における開示対象としての「報酬等」も、この報酬等と同義と捉えて差し支えない(※3)。したがって、「役員報酬」は、職務執行の対価として役員に支給されるあらゆる利益を総称したものであるといえる。なお、役員報酬の会計処理に関しては、役員賞与を含め、費用として処理されることが示されている(※4)。 (※3) 高田剛『実務家のための役員報酬の手引き(第2版)』(商事法務、2017)4-5頁。 (※4) 企業会計基準委員会「役員賞与に関する会計基準(企業会計基準第4号)」4頁。 留意点としては、職務執行の対価ではなく「職務執行の費用」であれば報酬等に含まれないことにある(民法650①)。したがって、役員特別室や福利厚生施設・制度の利用、便益の程度が僅少な場合においては、職務執行の対価性を欠くため、役員報酬には含まない(※5)。 (※5) 田辺総合法律事務所・Moore至誠監査法人・Moore至誠税理士法人編著『役員報酬をめぐる法務・会計・税務(第5版)』(清文社、2020)289頁。   (2) 法人税法上の「役員給与」 これに対して、法人税法上の役員に対する人件費についても概要を確認する。 基本中の基本ではあるが、法人税法においては「役員給与」という言葉が使用されており、法人税法34条の見出しが「役員給与の損金不算入」である他、経過措置として現存する改正法附則においても見出しに「役員給与」という言葉が用いられている(平成18年改正法附則27他)。なお、「役員給与」の意義については法人税法上言及されていない。 そこで、法人税法34条がターゲットとする「役員」について確認すると、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者(法法2⑮、法令7)とされており(※6)、会社法上の役員よりも範囲が広い。法人税法34条は、これらの者に対して支給する給与こそが原則として損金不算入となる旨、そして3形態(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)に該当して初めて損金算入が可能な旨を定めている。 (※6) 【第1回】の通り、みなし役員の概念が存在する。 また、法人税法や通達にて経済的利益も役員給与に含まれることが示されており(法法34④、法基通9-2-9以下)、これは会社法上の役員報酬のうち金銭報酬以外のものに対応するものである。したがって、両者にはほとんど相違点はないといってよく、会社法と法人税法、いずれの議論であるかによって使い分けるケースがよく見られる(※7)。 (※7) なお、当連載においても、(多少の主観は入るものの)会社法上の議論が色濃い場面では「役員報酬」と、法人税法上の議論が色濃い場面では「役員給与」という言葉を用いている。   (3) 職務執行の対価=役員給与の3類型ではない 詳細な経緯等は割愛するが、平成18年度税制改正前の法人税法における役員人件費は、職務執行の対価の性格を受けて「役員報酬」と呼ばれており(※8)、利益分配の性格を有するため損金算入が認められない「役員賞与」の概念も存在した(旧法法35)。その後の税制改正により、「役員賞与」は費用計上が相当であるとした会社法や企業会計に呼応する形で、「役員給与」に一本化されている。 (※8) 旧法人税法によると、役員に対して支給する報酬の額のうち、不相当に高額な一定の金額は損金の額に算入しない旨が定められ(旧法法34①)、その役員報酬の範囲は、経済的利益を含む役員に対する給与のうち、賞与及び退職給与以外のものであるとされていた(旧法法34③)。 当時の法人税法では損金算入が可能であったが、「役員給与」となり損金算入の機会が失われたものとして、役員に対する歩合給・能率給(旧法基通9-2-15)や、増額改定の遡及(旧法基通9-2-9の2)がある。これらは定期同額給与の「同額」要件を充足しないことが理由となる。このように、会社法において職務執行の対価とされた役員報酬の全てが、法人税法における役員給与の3形態に該当し得るわけではないことは知っておくべきである。 (了)

#No. 395(掲載号)
#中尾 隼大
2020/11/19

相続税の実務問答 【第53回】「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告(法定相続分以上の財産を取得した者があるとき)」

相続税の実務問答 【第53回】 「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告 (法定相続分以上の財産を取得した者があるとき)」   税理士 梶野 研二   [答] 未分割財産については、分割済みの財産の価額と合わせて法定相続分相当額となるように分割したものとして各相続人の相続税の課税価格を計算します。しかし、お母様は、既に法定相続分相当額を超える財産を取得していますので、未分割財産は、お母様以外の相続人であるあなた方姉妹が分割済みの財産と合わせて同額を取得したものとなるように調整して、相続税の課税価格を計算します。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産が未分割の場合の相続税の申告 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算することとされています(相法55)。   2 遺産の一部が未分割の場合の課税価格の計算 遺産の全部が未分割である場合には、当該遺産を各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って取得したものとして相続税の課税価格を計算します。 ところで、遺産の一部が分割され、残りの遺産が未分割である場合には、相続税の課税価格の計算方法について、いわゆる積上方式と穴埋方式の2つの計算方法が考えられますが、後者の穴埋方式、すなわち、既に分割により取得した財産の価額と未分割の財産の価額を合わせたところで、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って取得したものとなるように、各共同相続人又は包括受遺者の課税価格に加える未分割財産の価額を調整する方法が相当であることは前回説明したとおりです。 しかしながら、遺産の一部分割により、一部の相続人又は包括受遺者が、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合を超える価額の財産を取得している場合には、穴埋方式をそのまま適用することはできません。 このような場合、遺産の一部分割により民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合を超える価額の財産を取得した相続人又は包括受遺者を除いた相続人又は包括受遺者の間で、これらの者の間における民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合と等しくなるように遺産を取得したものとなるように各共同相続人又は包括受遺者の課税価格に加える未分割財産の価額を調整することとなります。   3 ご質問の場合 お父様の遺産の総額は、1億1,500万円であり、お母様の民法の規定による相続分は2分の1ですから、5,750万円(1億1,500万円 × 1/2)がお母様の民法の規定による相続分に相当する額となりますが、お母様は分割協議により既に6,000万円の自宅土地建物を取得しています。そこで、あなた方姉妹は、既に分割により取得した財産の価額と未分割財産の価額の合計額が、お母様を除いた相続人であるあなたとお姉様の民法の規定による相続分の割合と等しくなるようにそれぞれの課税価格に加える未分割財産の価額を調整することとなります。 あなたとお姉様は、ともに被相続人であるお父様の子ですので、民法に定める相続分の割合は同じです。したがって、未分割財産について、次のとおり取得したものとして相続税の課税価格を計算することとなります。 したがって、お母様及びあなた方の相続税の課税価格は次のとおりとなります。 (注) お母様が取得した自宅土地について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4第1項)が適用できる場合には、お母様の課税価格は同特例を適用することにより減額されます。 (了)

#No. 395(掲載号)
#梶野 研二
2020/11/19
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