検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10457 件 / 3821 ~ 3830 件目を表示

プロフェッションジャーナル No.384が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年9月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.384を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/09/03

monthly TAX views -No.92-「始まる「日本型記入済み申告制度」」

monthly TAX views -No.92- 「始まる「日本型記入済み申告制度」」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   本年10月から、マイナポータルを活用して申告に必要な証票を入手できる情報連携が始まる。これを活用して、令和2年分の確定申告から、年末調整だけでなく個人の申告についても、いわゆる「日本型記入済み申告」がスタートする。 *  *  * 仕組みのイメージは、以下のとおりである。 【参考】(筆者作成イメージ図) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 納税者が確定申告書作成コーナーを立ち上げ、マイナポータルでの本人確認を行うことで民間送達サービスを活用して得られる納税関係証明を確認することができる。 例えば、生命保険会社が発行する生命保険料控除証明書、損保会社が発行する地震保険料控除証明書などである。これらを入手し、申告書作成コーナーに自動転記してe-Taxに送信する。これで申告が完了する。また給与所得の源泉徴収票についても、簡素に取り込める方向で検討が進められている。 国民のニーズの高い医療費控除については、すでに2018年(17年分確定申告)から、被保険者が各保険者の開設するWebサイトより医療費通知をダウンロードしてe-Taxにアップロードすることが可能となっているが、これを審査支払機関と情報連携することにより、簡素に取り込み申告できるようにする方向での検討が進んでいる。つまり医療費控除・還付申告も簡単にe-Taxで申告できるようになる。 *  *  * このような制度は、先進諸国がすでに導入している記入済み申告制度を、マイナポータルを通じて実現しようとするもので、「日本型記入済み申告制度」というべきものである。 記入済み申告制度とは、税務当局が納税者の申告に当たって行う納税者サービスである。税務当局が、納税者の所得金額、源泉徴収額、各種控除など法定調書によって得られた情報を、あらかじめ申告書に記入して納税者に送付する。納税者は記入内容を確認、必要があれば追加・修正して申告する仕組みである。 わが国では、納税者と国税当局が直接オンラインで結ばれていないので、マイナポータルの情報連携を活用して同様のサービスを行う。 この制度は、本来、納税者(給与所得者)が年末調整を行わず、自ら申告調整をすることに道を開くことになり、いわば選択的自主申告制度の始まりといってもよい。 *  *  * 自ら納税額を確定する自主申告制度は民主主義の原点であり、それによって、行政サービスや公共事業に対する関心、さらには税制への関心も大いに高まることが期待される。 筆者は現在、内閣官房に設置されたマイナンバーワーキンググループの一員として、マイナンバーの新たな工程表作りに参加している。新たな政権は、デジタルの発達やその成果をどのように政策に取り組むかが問われることになり、マイナンバー・マイナポータルの活用はその中心といってよい。 (了)

#No. 384(掲載号)
#森信 茂樹
2020/09/03

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第1回】「序論」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第1回】 「序論」   公認会計士 佐藤 信祐 《第1章:総論》 1 はじめに 「連結納税制度と組織再編税制の整合性がない」という問題があったことから、令和2年度税制改正による連結納税制度からグループ通算制度への移行においては、組織再編税制との整合性が意識されている(※1)。 (※1) 連結納税制度に関する専門家会合「連結納税制度の見直しについて」9頁(令和元年)。 その結果、グループ内の適格組織再編成を完全支配関係内の適格組織再編成と支配関係内の適格組織再編成に分けて規定したことによる弊害がむしろ明らかになったようにも思える。それだけでなく、それぞれの時代における要請に応える形で改正を重ねていった結果、全体からすると整合性が保たれているとは言い難い。今後、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度について整合性の保たれた制度にするためには、さらなる改正が必要になると思われる。 結論を先取りすれば、①グループ通算制度のうち相当程度をグループ法人税制に取り込む必要があると考えており、かつ、②グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、金銭等不交付要件、主要資産等引継要件、従業者従事要件及び事業継続要件を課さないようにすべきであると考えている。本連載において、そのような税制改正の可能性について探っていきたい。 そのほかにも、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度には、様々な問題点がある。実務家の立場から言い換えると、「抜け穴」と「落し穴」があるということが言える。立法論の立場からすれば税制改正をすべきということになるが、実務家の立場からすると「抜け穴」が使える場合には租税回避に該当しないようにする必要があり、「落し穴」にはまりそうな場合には避けるようにする必要があるということが言える。そのため、こういった立法論による分析も実務家にとって決して無駄なことではない。 さらに、「抜け穴」や「落し穴」があるということは、今後の税制改正の可能性があるということなので、将来的な税制改正に備えるという意味でも重要なことであると思われる。本連載では、現行法上の問題点を探るとともに、今後の税制改正の可能性についても探っていきたい。   2 グループ通算制度の加入に伴う時価評価課税から見える現行法上の問題点 「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会 論点とりまとめ」(平成21年)では、中長期的課題として、以下の3点を掲げていた。 (※2) 連結納税制度からグループ通算制度に移行する前に公表されたものであるため、厳密には、「連結子法人」と表記されていたが、分かりやすさの観点から「通算子法人」と表記している。 このうち、③については、平成29年度税制改正により、吸収合併及び株式交換における金銭等不交付要件が緩和され、合併法人又は株式交換完全親法人が被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合には、金銭等不交付要件が課されないことになった(法法2十二の八・十二の十七)。 これに対し、①②については、未だ先送りの状態となっているが、今後の税制改正の対象になる可能性は否めない。もし、そのような税制改正がなされた場合には、支配関係内の適格組織再編成を廃止し、完全支配関係の定義を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係」に改正すべきであると考えている。この考え方は、筆者独自の理論ではなく、上記①②を受けてのものであり、「3分の2以上」という数値を持ち出したのは、金銭等不交付要件との整合性を意識してのものである。 そもそも金銭等不交付要件の緩和の対象が吸収合併及び株式交換に限定されているのは、新設合併及び株式移転については、組織再編成の対価が株主ごとに異なるのは租税回避防止の観点から問題があるからであり、分割及び現物出資については、グループ法人税制との整合性が取れないからである(※3)。すなわち、完全支配関係の定義を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係」にしてしまえば、グループ法人税制の対象が広がり、グループ内の組織再編成のすべてに対して金銭等不交付要件を緩和することができる。 (※3) 藤田泰弘ほか『平成29年度税制改正の解説』327頁(国立国会図書館HP、平成29年)。 さらに、支配関係内の適格組織再編成に対しては、個別資産の売買取引との違いを設けるために、事業単位の移転であることを要求し、その結果、主要資産等引継要件、従業者引継要件及び事業継続要件がそれぞれ設けられることになった(※4)。これに対し、グループ通算制度では、組織再編税制との整合性から、以下の法人については、グループ通算制度の加入に伴う時価評価課税の対象から除外されている(法法64の12①、法令131の16③~⑤)。 (※4) 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」参照(朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』39頁(日本租税研究協会、平成13年)掲載)。 このように、いきなり通算子法人となる法人の発行済株式の全部を取得するのではなく、通算子法人となる法人の発行済株式総数の100分の70に相当する数の株式を取得し、数ヶ月後に100分の30に相当する数の株式を取得すれば、加入の直前に支配関係があることから、上記(ニ)(ホ)の要件を満たす必要がなくなる。 組織再編税制との整合性を考えれば、組織再編成の直前に支配関係があり、組織再編成後に当該支配関係が継続することが見込まれていれば、支配関係内の組織再編成に該当することから、このような制度でもやむを得ないのかもしれないが、そもそも支配関係内の適格組織再編成という制度がなく、完全支配関係内の適格組織再編成と共同事業を行うための適格組織再編成という制度だけであれば、このような問題は生じることはない。 このように、支配関係内の適格組織再編成という制度を認めてしまったが故に、グループ法人税制ともグループ通算制度とも整合性が取れなくなってしまっている。もちろん、現行法のように、完全支配関係の定義が「発行済株式又は出資の全部を保有する関係」となっていれば、支配関係内の適格組織再編成を廃止すべきという議論は、実務のニーズを無視した暴論ということになるが、完全支配関係の定義を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係」としてしまえば、組織再編成を行うためには株主総会の特別決議が必要になることから(会社法309②十二)、現行法上の支配関係内の組織再編成のうち多くのものが完全支配関係内の組織再編成として取り扱うことができるため、それほど暴論というわけでもなくなってくる。 さらに言えば、支配関係の定義が「発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を保有する関係」となった経緯は、当時の商法を参考にしただけであり、理論的な根拠があるわけではない(※5)。当時の大蔵省主税局から経団連に対して「80%でどうか」という提案があった(※6)ということも考えると、完全支配関係の定義を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係」とすることは、それほど違和感のある話でもないと思われる。 (※5) 阿部泰久「改正の経緯と残された問題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』83頁(商事法務、平成14年)参照。 (※6) 阿部前掲(※5)83頁。 *   *   * 次回では、グループ通算制度及び受贈益の益金不算入の範囲を拡大することの問題点について解説する予定である。 (了)

#No. 384(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/09/03

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第11回】「〔第1表の1〕種類株式と株主判定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第11回】 「〔第1表の1〕種類株式と株主判定」   税理士 柴田 健次   Q 下記の図において、経営者甲が所有しているA社株式の全て(30株)を長男である後継者乙に贈与する場合、A社株式の評価方式は原則的評価方式が適用されるのでしょうか。それとも特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるのでしょうか。 なお、A社及びB社の株主構成は、下記の通りとなります。 ◇贈与前のA社の株主構成 ◇B社の株主構成 (※) 丙は甲及び乙の同族関係者には該当しません。 A 乙はA社の同族株主に該当し、5%以上の議決権割合となる株式を取得していますので、原則的評価方式が適用されます。同族株主がいる場合の株主判定の手順については、本連載【第1回】の「同族株主がいる場合の株主判定の手順」をご確認ください。  ◆  ◆  ◆ ① 種類株式と議決権数の算定 種類株式には、株主総会における議決権の行使について、全部又は一部を制限することができる議決権制限株式がありますが、同族株主に該当するか否かの判定は、持株割合ではなく議決権割合により行うことから、無議決権株式については、議決権がないものとして同族株主の判定を行う必要があります。 また、議決権に制限がされている種類株式については、制限された範囲で議決権を行使することも可能であり、また、議決権を行使することができる事項によって会社支配に影響する度合いを区別することも困難であることから、株主判定は、普通株式と同様に議決権があるものとして取り扱います(評価通達188-5)。 したがって、本問における種類株式Aについては、議決権の数に含めて計算を行います。   ② 株主判定 贈与後のA社及びB社の株主と議決権割合は、下記の通りとなります。 ◇A社の株主構成 ◇B社の株主構成 A社の同族株主の判定においては、B社が乙の同族関係者に該当するかどうかを判定することになりますが、B社は乙に100%支配されている会社に該当しますので、B社は乙の同族関係者に該当することになります。なお、会社を支配しているかどうかの判定は、本連載【第5回】の「2 法人たる同族関係者」の(注)1をご確認ください。 したがって、乙は同族株主に該当し、かつ、5%以上の議決権割合となる株式を取得していますので、原則的評価方式が適用されることになります。 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。 本問の場合には、乙及びB社が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。本問の場合には、甲、甲の配偶者は乙の同族関係者となります。 特殊の関係のある法人は、例えば、乙及びその親族が直接又は間接に会社を支配している場合におけるその会社が該当します。本問の場合には、B社は乙が支配している会社であるため、B社は乙の同族関係者に該当します。   ☆実務上のポイント☆ 株主判定は、持株割合ではなく議決権割合により行いますので、贈与後の株主の議決権割合を正しく算定することが重要となります。 (了)

#No. 384(掲載号)
#柴田 健次
2020/09/03

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例21】「従業員名義預金口座に振り込まれていた決算賞与の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例21】 「従業員名義預金口座に振り込まれていた決算賞与の損金性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、都内でスマホ向けゲームのアプリを開発しているA株式会社を代表取締役として経営しております。昨年秋の消費税増税に加え、今年2月以降のコロナ禍により、わが国の経済は極めて厳しい状況にありますが、わが社の商品はいわゆる「巣ごもり消費」にはまって大ヒットを連発しており、わが社の2020年6月期の業績は、お陰様で昨年度までの3期連続の増収増益をも上回り、過去最高を更新するのは確実な情勢です。 これもひとえに昼夜を問わずアイディア出し、製品化に勤しんでいる、クリエイティブかつ勤勉な従業員の頑張りの賜物であり、経営者としてそれに報酬面で報いるのは当然のことと考えております。そのため、毎年のように従業員に対し決算賞与を弾むようにしています。勿論、税務面でも問題ないよう顧問税理士とよく打ち合わせて当該賞与を支払っております。すなわち、私を含む取締役に対しては法人税法上損金不算入となる決算賞与を支払わず、翌期の役員報酬に均等に上乗せするという方法で支払っております。 ところが、先日受けた税務調査で予期せぬ指摘を受けました。それは、従業員に対して支払った賞与のうち、一部分は従業員名義の預金口座を経理部が直接管理しているため、当該口座に支払われた決算賞与は損金不算入となるというものでした。 わが社が一部の従業員に対して支払う決算賞与を、調査官が指摘するような方法で行っているのは事実ですが、これには理由があり、一部の独身の従業員は多額の決算賞与を一度に受け取ると、ギャンブル等にそれを浪費してしまいがちであるため、会社がその分を代わって管理し、結婚して配偶者が当該従業員の給与を管理できるようになれば、それを引き渡すという「親心」からのものです。 会社のこのような行為は「過保護ではないか」という批判に対しては真摯に受け止めますが、それと税務上の取扱いは全く別の話で、役員であればともかくとして、従業員に対して支払った賞与が損金算入されないというのは、どうにも納得がいきません。従業員に対する決算賞与に関する調査官の指摘は妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 従業員に対する決算賞与は通常、支払った法人において全額損金に算入されますが、法人が開設し、かつ管理している従業員名義の銀行口座に振り込まれた決算賞与は、従業員に対する賞与とは認められませんので、当該振込みは支払った法人において損金には算入されないこととなります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法上の賞与の取扱い 法人が従業員(使用人ないし被用者で、法人と雇用関係にある者)に対して支給する給与は、それが賞与に該当するものであったとしても、人件費として、原則、すべて損金に算入される(※1)。 (※1) 使用人兼務役員の使用人部分の賞与も損金算入されるが(法法34①)、特殊関係使用人に対する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されない(法法36)。 一方で、法人の役員は、法人との関係において委任類似の関係(委任ないし準委任)に立っているため(会社法330)、法人税法上、その報酬に関する取扱いは異なっている。特に役員に対する賞与は、従来、商法及び企業会計において利益の処分であると考えられてきたことから、平成18年度税制改正前の法人税法においては、損金不算入とされてきた。 もっとも、会社法において取締役に対する賞与は職務執行の対価であると位置づけており(会社法361①)、企業会計上も役員賞与は法人の費用であるという見解が有力になったという経緯があり、法人税法においても、平成18年度の税制改正で、役員に対する報酬や賞与の支払いを一括して「役員給与」として取り扱うこととされた。更に、同改正で役員給与のうち定期同額給与、事前確定届出給与及び業績連動給与(旧利益連動給与)の3種類のみが損金に算入されることとされた(法法34①)(※2)。 (※2) 詳細は拙著『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』(清文社・2016年)参照。   (2) 決算賞与の損金性 賞与(一時金)の法的性格については、基本的には支給対象期間の勤務に対応する賃金(賃金の後払いないし生活補填)という意味合いが強いと考えられるが、1990年代以降の長期経済低迷期においては、基本給は抑制し、業績が良好なときは賞与で報いる企業が増加しており、結果として賞与の業績連動型・成果主義的な性格が色濃くなっている(※3)。 (※3) 菅野和夫『労働法(第十一版)』(弘文堂・2016年)421頁参照。 また、夏・冬の年2回賞与を支給する企業が現在でも多いが、それ以外に決算期(多くの場合3月)に賞与を支給する企業も一定数存在する。このような決算期に支給される賞与を一般に決算賞与という。 決算賞与も賞与の一形態であるため、その損金性は一般の賞与と同様、すなわち上記(1)で説明したとおりであると考えられる。   (3) 従業員名義預金口座に振り込まれていた決算賞与の損金 それでは、このような決算賞与を会社が管理する従業員名義預金口座に振り込んでいる場合、当該賞与は法人税法上、損金に算入されるのであろうか。この点について争われた裁判例(熊本地裁平成13年9月28日判決・税資251号順号8985、TAINSコード:Z251-8985)があるので、以下で確認しておきたい。 ① 事案の概要 被告・税務署長は、管工事業、鋼構造物工事業、機械器具設置工事業、土木工事業及びこれらに付帯する一切の業務等を業とする株式会社である原告会社に関し、多数の従業員名義の預金口座が借名預金であるとして、原告会社に帰属することを前提とした上、同口座に入金された決算賞与についての損金算入を否認した更正処分を行った。 これに対し、原告会社は異議申立てを経て審査請求を行ったところ、審判所長は、裁決において、原告らの本件従業員名義口座が各従業員のものであることを前提とする決算賞与の損金算入の主張に対し、本件従業員口座が原告会社に帰属すると認定した上、決算賞与の一部の損金算入を否認して、本件原処分を一部取り消した。 原告らは、本件訴訟において、本件裁決のとおり本件従業員名義預金口座が原告会社に帰属することを前提として、原告会社に係る決算賞与の一部の損金算入を主張し、本件裁決による一部取消し後の本件原処分の一部の取消しを求めた。 なお、本件従業員名義預金口座(B信用金庫三川支店普通預金口座・計158口)の開設は以下のとおりである。 また、原告会社は、平成2年度から平成6年度までの各事業年度末の3月期において本件従業員名義口座に振込入金をした上で、同振込金額を各事業年度の所得金額の計算上、従業員賞与等として損金の額に算入していた。 原告会社が本件従業員名義口座に決算賞与として振り込んだ金額は、事業年度別の合計額でみると、以下のとおりである。 ② 事案の争点 本件従業員名義預金口座は原告会社に帰属するのか。 ③ 審判所の判断 本件に関する裁判所の判断は、本件審査請求に係る審判所の判断を是認する点が多いため、以下で審判所の裁決(国税不服審判所平成10年6月29日裁決)の主要な部分を確認しておく。 ④ 裁判所の判断 なお、本件の控訴審(福岡高裁平成15年5月28日判決・税資253号順号9353、TAINSコード:Z253-9353、確定)でも裁判所は以下のとおり判示し、納税者の主張を斥けている。 ⑤ 本判決から学ぶこと 従業員名義預金口座に振り込まれた決算賞与が損金算入されるためには、当該預金口座が名義人である従業員に帰属することが前提となる。名義預金の帰属については、法人税のみならず相続税・贈与税の税務調査においても度々問題となるが(※4)、相続税・贈与税においては、「実質帰属者課税の原則」に従い、法律的帰属説に基づき、その財産が誰に帰属するのかによって課税関係が決まってくることとなる。 (※4) 相続税・贈与税において名義預金が生じる原因の1つに、親がその推定相続人である子に対して金銭を贈与する意思はあるものの、直ちに贈与すると子が浪費することを恐れて、子名義の預金口座に金銭を預け入れるもののその管理は親が引き続き行うという「親心」があるともの考えられる。相続税・贈与税における名義預金の詳細については、拙著『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第2版)』(中央経済社・2017年)参照。 法人税法においては、「実質所得者(帰属者)課税の原則」、すなわち、収益・費用についてはそれを実質的に享受する法人に帰属するものとして課税するという原則が妥当する(法法11)。 本件の場合、当該預金口座が名義人である従業員に帰属するかどうかにつき事実認定を行ったところ、 から、当該預金口座は法人に帰属するものと判断された。 そうなると、従業員名義預金口座への決算賞与の振込入金は、実質的には、単に法人の資金を同口座に振り替えたことに等しいのであるから、それを審判所の言うように「仮装行為」と認定するかどうかはともかくとして、高裁が認定する通り、当該行為はそのまま名義人である従業員に対する支払となるものではなく、同口座の預金も当然法人に帰属するものであることが明らかということになる。従業員名義預金口座が法人に帰属するのであれば、従業員に対する決算賞与の支払も行われていないことから、損金算入の前提を欠くこととなる。 したがって、従業員名義預金口座への決算賞与の振込入金は、法人において損金に算入されないこととなる。法人の管理・支配下にある従業員名義預金口座への決算賞与の支払(振替)は、「法人内部の資金の移動」に過ぎず、「社外に流失していない」賞与の支払といえることから、損金算入の余地はないということになるのであろう。   (4) 本件への当てはめ 従業員に対する決算賞与は通常、法人において全額損金に算入されるが、法人が開設し、かつ管理している従業員名義の銀行預金口座に振り込まれた決算賞与は、いわば法人内部の資金移動に過ぎず、従業員に対する賞与の支払いとは認められないことから、仮にそのような振込みを行った動機が従業員に対する「親心」から生じたものであるとしても、当該振込みは支払った法人において損金には算入されないこととなる。 (了)

#No. 384(掲載号)
#安部 和彦
2020/09/03

〔Q&Aで解消〕診療所における税務の疑問 【第2回】「医療法人の事業税に係る留意点」

〔Q&Aで解消〕 診療所における税務の疑問 【第2回】 「医療法人の事業税に係る留意点」   税理士法人赤津総合会計 税理士・医業経営コンサルタント 赤津 剛史   【Q】 医療法人の事業税における留意点を教えてください。 【A】 ① 医療法人の事業税計算には一定の非課税措置があります。 ② 医療法人は特別法人とされ、一般の法人とは異なる税率が適用されます。 ③ 医療法人に対する事業税は予定申告がありません。 ● ● ● 解 説 ● ● ● ① 医療法人の事業税計算 医療法人の法人事業税の課税標準である所得については、地方税法第72条の23第2項に「社会保険診療につき支払いを受けた金額は益金の額に算入せず、また、当該社会保険診療に係る経費には、損金の額又は個別帰属損金額に算入しない。」 と規定されています。なお、社会保険診療の定義は同条第3項に列挙されています。 しかし、医療保健業にかかる経費を、社会保険診療に係る経費とそれ以外とに区分するのは困難です。そこで一般的には、医療保健業にかかる所得を、一定の計算書を用いて合理的で簡易な収入按分計算により、「社会保険診療に係る所得」と「それ以外の所得」に分けることとしています。 なお、収入按分計算については、所在する都道府県の定める計算によることとなりますが、以下、東京都の計算書を基に解説していきます。 【計算イメージ】 ※医療保健業に係る全ての・・・収入は、次の3つに区分されます。 ❶ 「社会保険診療収入」 ❷ 「その他の収入」 ❸ 「❶❷のどちらにも区分されない収入」 【収入の区分】 医療法人の法人事業税を計算する上で、最も留意する点は、医療保健業にかかる収入を社会保険診療収入(非課税)とその他の収入(課税)及びどちらにも区分されない収入(不課税)の3つに区分することです。このうち社会保険診療収入については、前述のとおり地方税法にその定めがあるため、明確な区分が可能です。 一方、どちらにも区分されない収入については、地方税法に明確な区分規定がありません。実務においては、各都道府県が「事業税計算の手引き」若しくはこれに準ずるものを作成していますので、これを確認することで対応しています。 また、これらに記載のない事項については、都道府県の担当課に個別確認をしているのが実情です。   ② 法人事業税の税率 医療法人は特別法人とされ、一般の法人とは異なる税率が適用されます。   ③ 予定申告 医療法人は法人事業税の制度上では特別法人とされています。そのため、予定申告の義務がなく、予定納税もありません。 なお、法人都(道府県)民税にはこのような取扱い規定はありませんので、予定申告義務があります。 (了)

#No. 384(掲載号)
#税理士法人赤津総合会計
2020/09/03

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第82回】「第17号文書の非課税規定にある「営業に関しない受取書」に該当するか否かが争われた事例(平成18年9月29日裁決)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第82回】 「第17号文書の非課税規定にある「営業に関しない受取書」に 該当するか否かが争われた事例(平成18年9月29日裁決)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   [基礎事実] [事例のポイント] ① 「営業に関しない受取書」に該当するか 法別表1課税物件表第17号の非課税物件欄2において、「営業に関しない受取書」は非課税物件と規定されている。ここでいう「営業」とは、一般に、利益を得ることを目的として同種の行為を反復継続することとされている。 また、個人で営業を行う者が、個人の所有に係る資産を営業に供し、その資産を譲渡した場合には、営業者として営業に関連して行ったものであるか、個人の私的な財産の処分として行ったものかを区分し、後者の私的な財産の処分の場合の受取書については「営業に関しない受取書」に該当する。 ② 「営業に関するもの」とされたポイント 上記の内容からみると、賃貸は利益を得ることを目的として、継続的に行われており、営業に該当する。 また、営業として賃貸を行いながら、売買契約を締結し、売却先に引き渡すまでこの土地を賃貸していたことから、営業用資産を譲渡した営業に関するものであり、土地の譲渡代金に係る領収書は非課税文書にはあたらない。 (了)

#No. 384(掲載号)
#山端 美德
2020/09/03

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第36回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第36回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (6) 立案担当者の見解の要旨 『平成30年度 税制改正の解説』の記述から、法人税法22条の2第3項の規律内容を理解するために参考となる立案担当者の見解を抽出してみたい。なお、立案担当者の解説は、文字どおり、あくまで立案担当者の解説にすぎないため、これに盲従することは妥当ではないが、実際には、他に有力な立法関係資料がないことと相まって、改正規定の趣旨を理解するための1つの重要な手掛かりとなる。 ア 法人税法22条の2第3項は当初申告における申告調整により近接日基準による収益計上を可能とするものであること 法人税法22条の2第3項に関して、『平成30年度 税制改正の解説』は次のとおり解説している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 下線部分について、法人税法22条の2第3項を適用する場合の申告調整は、当初申告における申告調整に限られる。修正申告書において初めて、近接日基準に基づく申告調整を行ったとしても、法人税法22条の2第3項の適用はないことを述べているのであろう。 確定申告書とは、法人税法「第74条第1項(確定申告)又は第144条の6第1項若しくは第2項(確定申告)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)」を指すからである(法人税法2三十一・三十六)(本連載第32回参照)。 イ 法人税法22条の2第3項により、確定決算による収益認識日を申告調整により他の日(収益認識日)に「変更する」ことはできないこと 『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、法人税法22条の2第3項により、確定決算による収益認識日を申告調整により他の日(収益認識日)に「変更する」ことはできないと説明する。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 「上記①又は②による収益認識日に収益計上している場合には、申告調整により収益認識日を他の日に変更することはできません。」という部分は、先の事業年度で、引渡・役務提供基準又は近接日基準に基づき確定決算による収益計上(収益認識)が行われていて、後の事業年度で、法人税法22条の2第3項に基づいて、申告調整により、収益計上(収益認識)日を「変更する」ことはできないという趣旨である。 上記以外の場合には収益計上日の変更が認められることを含意しており、同項を収益計上日の変更のための規定と位置付けているか、少なくともそのようなケースを念頭に置いた解説となっている。 先の事業年度で、法人税法22条の2第3項に基づいて、申告調整により、収益を計上し、後の事業年度の確定決算で、やはり引渡日又は役務提供日、あるいは他の近接日において収益計上しようと考えなおすケースの場合に、どのように規定間の優先順位が決まるのかについては触れられていない。 1項との関係では、3項経由で2項を適用する場合でも、2項は1項に優先して適用されることから、当初の3項に基づく処理が優先されるのであろうか。 2項との関係では、2項には公正処理基準準拠要件が付されているから、先の事業年度の近接日で収益計上する場合と後の事業年度の近接日で収益計上する場合のいずれが公正処理基準準拠要件を満たすかによって優先劣後が決定されるのであろうか。そうであるとすると、3項の適用がある場合にも2項の公正処理基準準拠要件の充足が求められるか否かという論点の重要性が増すことになる(本連載第33回参照)。 酒井克彦教授のように、法人税法22条の2第3項こそが2項の「別段の定め」に該当するという見解をとるならば(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』256頁(中央経済社2019)参照)、3項と2項が競合する場面では3項が優先的に適用されるという結論になり、わざわざ2項の公正処理基準準拠要件を持ち出す必然性はなくなるのであろうか。 ウ 申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能であること 続けて、『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能であることに触れる。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 資産の販売等に係る収益の額について、法人税法22条の2第2項の要件を満たす場合には、1項の規定によらずに、すなわち1項が定める引渡・役務提供基準によらずに、その目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入される。法人税法22条の2第2項の要件を満たす場合には「1項に優先して」2項が「強制的に」適用されると言い換えてもよい(本連載第19回参照)。 上記解説の注書き部分は同様の理解から、資産の販売等に係る収益の額につき、法人税法22条の2第2項の適用がないときは1項が適用されることから、会計上その収益を1項が定める引渡日又は役務提供日でもなく、2項が定める近接日でもない日に計上していた場合において、申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすることも可能である旨を述べているのであろう。 上記解説にいう「会計上その収益を上記①の日でも上記②の近接する日でもない日に計上していた場合」については、法人税法上、そのような会計上の処理を収益計上日として認める受け皿がない(法人税法22条の2第1項及び第2項、あるいは「別段の定め」の適用がない)。よって、法人税法22条の2第3項を適用して、この会計上の収益計上日とは異なるような近接日の属する事業年度において申告調整を行うことの障害はないことになる。 引渡日又は役務提供日において申告調整で収益計上を行うことも可能であることについては、本連載第15回において、次のように解説をしていたところである。 引渡・役務提供基準を定める法人税法22条の2第1項は、確定決算による収益経理を要求していない。よって、差し当たり、法人税法22条の2第1項は、同項に優先して適用される2項の適用がない場合には、引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益経理をしていないとしても、申告調整により、引渡・役務提供基準に基づく収益計上を認める(求める)ものといえそうである。 ただし、上記解説の注書き部分のようなケースにおいて、申告調整によって1項が定める引渡日又は役務提供日の益金の額とすること「も可能」なのか、場合によってはそうすることが「義務」となるのか、あるいは視点を課税庁に移して、課税処分を行う際には「義務」となるのか、という疑問を投げかげる余地は残されている。 エ 法人税法22条の2第3項を適用する際にも公正処理基準準拠要件の充足が求められること 『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、法人税法22条の2第3項を適用し、申告調整により収益認識日を変更して2項を適用するためには、その変更後の収益認識日が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った場合の収益認識日である必要があると解説する。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』275頁 既に述べたところではあるが(本連載第32回参照)、法人税法22条の2第3項は、2項の適用に当たり、確定決算収益経理要件を満たす効果を発揮するにすぎない。よって、3項の適用がある場合でも、公正処理基準準拠要件をはじめとする2項の他の要件を同時に満たさない限り、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することは認められないと解される。上記解説も同様の立場であろう。 ただし、上記の理解には異論も示されていることに留意する必要がある(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号114頁、酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』257頁(中央経済社2019)参照)。   (了)

#No. 384(掲載号)
#泉 絢也
2020/09/03

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第6回】「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」~その3:第三者の買い手に対する視点の転換~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第6回】 「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」 ~その3:第三者の買い手に対する視点の転換~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   1 コロナ禍の中小企業M&Aと第三者の存在価値 コロナ禍が中小企業経営のあり方を一変させ、今後の中小企業経営を考える上で大きな影響を与えていることは、これまでの「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」の各回でも触れてきました。 そして今、中小企業M&Aの当事者として、支援機関をはじめとする「第三者」の存在価値が以前にも増して高まっています。 M&Aは買い手と売り手が単に手を結ぶだけではなく、買い手も売り手も相手側の持つ“何か”によって、M&A後の経営維持、成長、発展といった今後に繋げるための手ごたえを期待できるからこそ、各当事者はM&Aの実行に価値を見出すものです。 しかし、コロナ禍はそうした目を曇らせる可能性があります。経営が苦しいことも伴って、安易なM&Aの選択、妥協するM&A、M&Aの躊躇など、普段ならしないであろう行動をとってしまう可能性があるということです。 このような時こそ冷静な視点、判断が欠かせません。会社自身も気づいていないコロナ禍による変化を見過ごさず、コロナ禍前との比較から買い手と売り手の特性を見極める視点を持ち、買い手と売り手の双方にとって的確かつ必要十分な助言のできる第三者が、今ほど求められ期待されるタイミングはありません。 今回は第三者の視点のうち、買い手・売り手への直接の助言に活かすための視点、なかでも下図の②に表される「買い手に対する視点」を中心に解説します。   2 「買い手が必要とする要素が売り手にあるか」を考える あなたが仮に仲介会社、金融機関、顧問といった立場でM&Aを考える買い手に対して助言を行うとすると、きっと、買い手にとってこのM&Aが良い選択かどうかを熟慮の上、考えうる最適な提案を探すでしょう。 中小企業M&Aの買い手からすれば、最も好ましいM&Aの形は、「ウチに無いものを相手(売り手)が持っていて、それを手にすれば今後の経営上プラスになる」と考えられそうな形です。だからこそ対価を支払う価値があると思うわけです。 これまでの経営資源の不足を補う場合や、さらに成長を加速できる足がかりを得られる場合など、様々な成功パターンがイメージされますが、いずれにしても「買い手がM&Aで手に入れたいものは何か」、「売り手は買い手が必要とする要素を持っているか」を明確にするのが基本です。そのためにもコロナ禍の影響を含めて、まずは「買い手に何が足りないか、何を求めているか」をこの状況下で分析することには、大きな意味があります。 (1) 買い手企業の経営状況の大枠を整理する たとえば、次の図などを用意して、買い手企業の足元の経営状況を整理することによって、買い手の経営上の課題克服や今後の目標達成を見据えて何が有効な策になりうるかを、一歩踏み込んで考えることが可能になります。 自力で成長可能な領域があるなら、現在の経営の延長線上に目標到達点があることが分かるでしょうし、M&Aよりも事業計画や中長期経営計画の策定や精緻化、管理といった高い計画性と実行力の方がカギになるでしょう。 M&Aニーズについては、コロナ禍前後に分けて整理しておく方が買い手にとって良い結論を導きやすくなります。コロナ禍に翻弄される中での決断は、必ずしも買い手が真に望む成果をもたらすとは限らないからです。 コロナ禍前からあったニーズについては、大幅な軌道修正は必要ありません。ただし、コロナ禍に伴い経営の方向性自体を変える必要に迫られているのであれば、自ずとニーズも変わっていくはずです。その場合は、経営計画の修正を前提に、M&Aで満たすニーズにも変化が生じるかどうかを再考します。再考しても、M&Aがなお買い手にとって有効な手段として残るのであれば、M&Aを既定路線とする方針に変更はありません。 一方、コロナ禍によって新たに生まれたニーズについては、今後の経営の命運を左右するかもしれませんので、簡単に決めることなく必要十分な時間を割いて慎重に判断します。 M&Aで満たせないニーズについては、資金調達などの各第三者が得意とする別途の対応策の提案がM&Aに優先します。 (2) 買い手企業の経営状況の大枠整理のポイントと例示 上図で分類した4象限別に、第三者として買い手企業について考える際のポイントや一例を挙げましたので、検討の際の参考にしてください。 こうした整理を踏まえた上で、コロナ禍による影響度も考慮して第三者が買い手に助言する際に、次の視点をヒントに買い手に対する提案を検討します。 買い手がM&Aを活用して持続可能な経営を目指すために“今”が良いチャンスと考えられる場合もあれば、コロナ禍だからと焦ることなく買い手の状況をみてじっくり良い相手(売り手)探しをする方が適切という場合もあります。 第三者として、買い手にとって良い売り手候補先を探すことは変わらず重要ですが、このような有事の際には、コロナ禍で買い手がどのような経営状態に変化したかを把握し、買い手視点でM&Aという選択肢自体の良否を再考することが優先されます。 コロナ禍は第三者のかじ取りや判断力がいかに重要か、そして第三者の存在価値の重要性を確認できるまたとない機会です。 *  *  * 次回も「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」をお送りします。今回の買い手に対する第三者の視点を活かしながら、M&A当事者のもう一方となる「売り手の見方」を中心に解説します。 (了)

#No. 384(掲載号)
#荻窪 輝明
2020/09/03

〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第4回】「企業と会社」-定義するのは会計基準か会社法か-

〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第4回】 「企業と会社」 -定義するのは会計基準か会社法か-   公認会計士 阿部 光成   ◆はじめに 会計基準を読んでいると、類似する用語があることに気づき、戸惑う方もいらっしゃるのではないだろうか。 「企業」と「会社」もその1つである。 さらにこれらの用語は、会計基準だけでなく、他の法令にも登場するため、同じ扱いをしてよいものか、さらに悩みが深くなる方もおられるだろう。 そこで今回は、「企業」とそれに類似する用語を取り上げることとした。   ◆企業・会社の定義 〇会計基準における定義 会計基準及び財務諸表等規則では、「企業」とそれに類似する用語を次のように定義している。 かつて、「連結財務諸表原則」では、「親会社とは、他の会社を支配している会社をいい、子会社とは、当該他の会社をいう」と定義していた(第三、一、2)。 2008年12月26日の連結会計基準の開発に際して、「会社」から「企業」へと改正され、上記のように「企業」の定義がなされた。 なお、連結会計基準の開発に際しての「公開草案に対するコメント」では、「企業」「事業」「会社」「株主資本」「資本」「持分」について、用語の定義の見直しなどが必要ではないかとのコメントが寄せられた。 当該コメントに対して、「今回の改正については、短期コンバージェンス・プロジェクトによるものであることから、従来からの用語の定義や表現などについて大きく変更していない」との対応が記載されている(コメント対応(46))。 〇会社法における定義 次に会社法及び法務省令では、会社及び会社等について次のように定義している。 *  *  * このように類似する用語でも、会計基準や法令等によって改めて定義されているものがある。 このため、実務では、会計基準だけを読んで判断したりせず、会計処理等の判断に際しては、法令等に規定されている定義に注意する必要がある。   ◆親会社の定義は? 参考までに、「親会社」についても次のように、会計基準や法令によって改めて定義がなされている。 (了)

#No. 384(掲載号)
#阿部 光成
2020/09/03
#