2020年8月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.382を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第82回】 「令和3年度税制改正における研究開発税制の課題」 -見直し事項とグループ通算制度での取扱い- 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 令和3年度税制改正における法人課税関係の重要課題の1つが研究開発税制となることは間違いない。 研究開発税制は、企業が研究開発を行っている場合、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合(6~14%)を乗じた金額を控除できる制度である。ただし、法人税額に対する控除上限がある(総額型と呼ばれる本体部分は、法人税額の25%)。 総額型の基本的部分は恒久措置であるが、税額控除割合の上限の引上げ(10%⇒14%)の部分は期限切れを迎える。また、平均売上金額に占める試験研究費の割合が10%を超える場合の控除率・控除上限の上乗せ措置も期限切れを迎えるからである(それぞれ令和2年度末まで)。 〇研究開発税制見直しの課題 特に、新型コロナウイルス感染症の拡大により企業の業績が悪化する中、控除上限の金額が大幅に低下する恐れがある一方、積極的な研究開発投資を続けるインセンティブとしては、控除上限の在り方も課題となろう。 また、パッケージソフトの販売からクラウドサービスの提供へとビジネスモデルが転換する中、クラウドに係るソフトウェアは自社利用のソフトウェアとされ、自社利用のソフトウェアの研究開発費の額は、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており、それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされ、必ずしも現状にマッチしていない取扱いとなっている。 〇グループ通算制度における取扱い (1) 控除額の計算 令和2年度税制改正で創設されたグループ通算制度に関しては、令和4年4月1日からの施行に向け、その間の租税特別措置の改正も踏まえながら順次、租税特別措置の取扱いについて、グループ調整計算を行うのか、個別法人ごとの取扱いとするのかについて確定させていくこととされている。 なかでも研究開発税制については、減税規模が大きく、企業の関心が高いことから、例外的に、令和2年度税制改正の時点で、その取扱いが示されている。 グループ全体の試験研究費の合計額に基づき増減試験研究費割合を計算して税額控除割合を判定し、グループ全体の試験研究費の合計額にその税額控除割合を乗じて、グループ全体の税額控除限度額を計算するとともに、グループ全体の調整前法人税額の合計額の25%が控除上限となる。 ここまでの計算については、現行の連結納税制度と同様の処理となっており、グループ調整計算が維持されている。 (2) 通算法人への控除額の配分 上記のように計算したグループ全体での控除額を、各通算法人に配分することになるが、グループ通算制度は個別申告方式であることから、損益通算後の所得に係る法人税額(すなわち調整前法人税額)がない通算法人に控除額を配分しても控除できないので、調整前法人税額の比により、調整前法人税額のある法人(つまり黒字法人)の間で配分することとなる。 したがって、試験研究費の支出に応じて控除額が配分されるわけではなく、また試験研究費を支出していない黒字法人に控除額が配分されるということも起こりうる。 (3) 控除額の清算・会計処理 このように、各通算法人の支出した試験研究費のシェアと配分される控除額とは食い違うことから、事後的に、通算による税効果額を通算法人間で授受することも考えられる。 たとえば、各通算法人の試験研究費の比で按分した金額と、各通算法人の税額控除額との差額を通算による税効果額として授受することもありえよう。 税務上は、グループ内で税金精算をするかどうかは任意であり、通算による税効果額を授受しても、その授受する金額は、益金の額及び損金の額に算入しないこととされている。 もっとも、このような金銭の授受を、個別の通算法人が任意で行うのか、通算親法人が一括して清算することができるのか、また、こうした金額が、会計上、果たして「法人税等」として処理してよいのかどうかについては、会計基準等で明確化が図られることが期待される。 (4) 修更正の場合の処理 ある通算法人において試験研究費の額や調整前法人税額について修更正があった場合、他の通算法人においては、当初の確定申告書に記載された数値で固定され、修更正の影響は遮断される。 もっとも、修更正の生じた法人においては、グループ全体の控除税額計算をやり直し、グループ全体の税額控除可能額が当初の確定申告書に記載された税額控除可能額に満たなくなる場合には、その差額をすべて修更正の生じた法人にチャージし、税額控除可能分配額から減額し、場合によっては取り戻し課税が行われることになる。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第17回】 「『事前確定届出給与に関する届出書』を提出する前に事前確定届出給与を支給した場合」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 事前確定届出給与制度は、役員に対して、従業員と同じ時期に賞与を支給する場合等に用いられている。事前に所轄税務署長に対し、個人別に支給時期・支給金額を記載した「事前確定届出給与に関する届出書(以下、「届出書」という)」を提出し、その届出どおりの時期と金額で支給をしていれば、恣意性の排除が担保されているものとして、当該支給額が損金算入されることとなる(法法34①二)。 本件の疑問点として、株主総会等で確定したものとして所轄税務署へ届出書を提出する以前に、確定した役員賞与をその定めどおりに支給しても問題ないのか、という点である。 (1) 「事前確定届出給与に関する届出書」の提出期限 ここで、一般的なことではあるが、届出書の期限を確認しておきたい。法人税法は、届出書の提出期限について政令委任しており、法人税法施行令によると、以下①又は②のいずれか早い日とされている(法令69④)。 (※1) 新設法人や臨時改定事由についての期限は割愛。 例えば、3月決算法人が5月20日に定時株主総会を開催し、6月1日から役員が職務執行を開始する旨、そして特定の時期に事前確定届出給与を支給する旨を定めた場合の届出書提出期限を考えたい。 税務上の「期限」は大変重要な論点であり、その期限を把握するためには「期間」の考え方を確認する必要がある。その基礎は、初日不算入の原則(通法10①一)と、「経過する日」と「経過した日」の意義がある。 まず、初日不算入の原則は、期間計算をする場合に初日を算入しないとするものであるため、その翌日が期間計算の起算点となる。これには例外も存在し、「その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるとき」は初日が期間計算に算入される(※2)。 (※2) 例えば、法人税法74条に定める確定申告の期限は「各事業年度終了の日の翌日から二月以内」である。3月決算法人の場合、事業年度終了の日が3月31日、その翌日は4月1日であるから、午前零時から始まる「各事業年度終了の日の翌日」に初日不算入の原則は適用されず、4月1日が期間計算に算入されることとなる。なお、「二月以内」と記載されている通り、期間の定めが月単位であるため暦に従い(同法10①二)、5月末が申告期限となる。 次に、「経過する日」と「経過した日」は、「期間の末日」の翌日が含まれるか否かという点で異なる。「経過する日」が期間の満了する日(末日)であることに対し、「経過した日」が期間の末日の翌日を指すのである。 以上を前提に、届出書の提出期限について確認すると、定時株主総会の当日は初日不算入の原則により期間に含まれないため、5月21日が起算日となる。これに対して職務執行開始日は6月1日であることから、5月21日から1月を経過する日までに提出しなければならない。 5月21日から1月を「経過する日」は期間の末日を指すため、6月20日が上記①に定める期限となる。これに対して、上記②に定める期限については、会計期間開始日が零時から開始するため例外的に初日が算入され、4月1日から4月を「経過する日」である7月31日が期限となる。したがって、この前提に立てば、①の期限の方が早いため、届出書の提出期限は6月20日となる(※3)。 (※3) なお、実際にはここに閉庁日の運用が加わる。具体的には、届出期限が土日祝祭日等に当たる場合、その日の翌日が提出期限となる(通法10②、通令2②)。 (2) 届出書の提出期限内、かつ提出前に役員賞与を支給した場合 上記のように、届出書は提出期限まで1ヶ月程度の猶予があることが一般的であり、翻せば、株主総会日等から1月以内を支給日とする役員賞与の支給を決議したらどうなるのか、という冒頭の疑問が生じる。結果として、届出書の提出前に事前確定届出給与の支給をすることが可能であり、法人税法上の役員給与に関する規定の趣旨である恣意性の排除がなされていないようにも思われるのである。 しかし、この点については、事前確定届出給与の額が株主総会等の決議であらかじめ定められた確定額どおりであれば、その届出書の提出時期を問題とする理由はないという情報が当初から存在することに加え(※4)、(1)で確認した通り、事前確定届出給与に関する諸規定はその届出書の提出期限や届出を行うこと自体が要件であることのみが定められているため、理論上は可能であると考えられる。 (※4) 「事前確定届出給与の届出書、1回⽬の⽀給後の提出でもOK」T&A master305号(2009)。 また、事前確定届出給与は職務執行の対価として役員へ支給されるものであり、それを職務執行期間の前半に支給することについて、それが企業慣行であるならば不自然ではないとする質疑応答事例がある(※5)。 (※5) 国税庁「役員給与に関する質疑応答事例」(2006)8頁。 そして、平成19年度税制改正前の届出書の提出期限は「その給与に係る職務の執行を開始する日と会計期間開始の日から3月を経過する日のいずれか早い日」であり、その給与に係る職務の執行を開始する日を株主総会の日と解すると期限まで実質的余裕がないという指摘もあったことから現行の期限に改正されたという経緯がある(※6)。この点に鑑みると、改正により生まれた期限までの余裕期間中の支給が損金不算入となるのであれば、些か不自然であるといえる。 (※6) 武田昌輔『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規、加除式)2161頁の29。 なお、前回触れている通り、定時株主総会等の議事録をバックデートで作成する等の行為があった場合、「事実の仮装」であるとして重加算税の賦課決定対象となるため論外である。したがって、定時株主総会等で支給額の確定がリアルタイムで行われていたことを証することは前提条件となるだろう。 事前確定届出給与の特性や役員の職責に鑑みると、このようなリスクを敢えて取るよりは、通常通り届出書を提出した上で支給するべきであるといえる。このような考え方からか、筆者の見聞する限り、届出書の提出前に事前確定届出給与を支給した例はないが、もし実施するのであれば、このような留意点に気を払うべきである。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第9回】 「〔第1表の1〕法人株主がいる場合の株主判定」 税理士 柴田 健次 Q A社の株主と甲一族の親族関係図は、下記の通りとなりますが、株主である甲に相続が発生し、甲が所有しているA社株式を配偶者乙が4%、長男丙が4%に相当する議決権数を相続により取得した場合には、乙と丙のA社株式の評価方式は原則的評価方式が適用されるのでしょうか。それとも特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるのでしょうか。 【相続前後におけるA社の株主と議決権保有割合】 ※B社の株主と議決権保有割合は、下記の通りとなります。 【親族図】 A 乙は特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されることになりますが、丙は原則的評価方式が適用されることになります。 同族株主がいる場合には、下記の通り株主判定を行うことになります。 【同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◆ ◆ ◆ ① 筆頭株主グループの議決権割合 A社の株主を確認のうえ、同族関係者グループの議決権割合を算定し、筆頭株主グループの議決権割合が「50%超」「30%以上50以下」「30%未満」の3つのうち、どれに該当するかを判定します。 本問の場合には、乙の同族関係者として丙、戊、丁、B社が含まれるため、筆頭株主グループの議決権割合は100%となり、「50%超」の区分に該当することになります。 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。 本問の場合には、乙を中心とした同族株主の判定は、下記の通りとなり、株主全員が同族株主に該当することになります。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいいます(民法725)。 本問の場合には、戊及び丁は乙の2親等内の姻族であるため、戊及び丁は乙の親族に該当します。また、戊及び丁は、丙の3親等内の血族に該当し、丙の親族に該当することになります。 特殊の関係のある法人は、例えば、乙及びその親族が直接又は間接に会社を支配(議決権の50%超保有)している場合におけるその会社が該当します。 本問の場合には、B社は乙及び丙の親族の支配している会社となり、B社は乙及び丙の同族関係者に該当します。 ② 納税義務者の属する同族関係者グループの議決権割合 乙の属する同族関係者の議決権割合、丙の属する同族関係者の議決権割合はいずれも100%となり、「50%超」の区分に該当するので、③の手順に進みます。 ③ 納税義務者の議決権割合 乙又は丙の議決権割合が5%以上であれば原則的評価方式になりますが、いずれも4%であり、「5%未満」の区分に該当するため、④の手順に進みます。 ④ 判定対象者が役員 乙及び丙は、役員には該当しませんので、⑤の手順に進みます。 ⑤ 納税義務者が中心的な同族株主 納税義務者が中心的な同族株主か否かを判定することになります。 納税義務者が中心的な同族株主に該当すれば、原則的評価方式が適用されますが、中心的な同族株主に該当しなければ、⑥の判定に進みます。 下記の通り、乙は中心的な同族株主に該当しませんので、⑥の判定に進みますが、丙は中心的な同族株主に該当するため、原則的評価方式が適用される株主に該当することになります。 ◎用語の意義 ▷中心的な同族株主 課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます(評価通達188(2))。 ◎中心的な同族株主の判定 中心的な同族株主の判定は、株主ごとに行います。 (※) 「一定の会社」の範囲 同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社が該当します。 ⑥ 納税義務者以外に中心的な同族株主 納税義務者以外に中心的な同族株主がいるか否かを判定することになります。 上記⑤で確認したとおり、乙の判定において乙以外に中心的な同族株主がいる会社に該当しますので、乙は特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されることになります。 ☆実務上のポイント☆ 同族関係者の範囲及び中心的な同族株主の範囲の違いに注意しながら、株主ごとに同族株主の判定、中心的な同族株主の判定を行う必要があります。 (了)
相続税の実務問答 【第50回】 「「法定相続情報一覧図」の写しの添付」 税理士 梶野 研二 [答] 「法定相続情報一覧図」とは、被相続人と相続人の相続関係を一覧に表した図で、相続人のうちの1人が法務局にその写しの交付を申し出ることにより、その写しを入手することができます。 〇「法定相続情報一覧図」の写しの交付の流れ ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の申告書の添付書類 相続税の申告書を提出する際には、次の①又は②に掲げる書類のいずれか又はこれらの書類のコピーを提出しなければなりません(相法27④、相規16③一)。これらの書類の添付が義務付けられているのは、被相続人と相続人等との関係を明らかにし、基礎控除額の算定や税額計算をはじめとする申告内容の適正性を確認するためです(「平成30年版 改正税法のすべて」582頁(大蔵財務協会))。 2 法定相続情報一覧図 (1) 法定相続情報証明制度の概要 平成29年5月29日から、全国の登記所(法務局)において、「法定相続情報証明制度」(不動産登記規則247)が始まりました。 この法定相続情報証明制度とは、①被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本及び除籍謄本、相続人全員の現在の戸籍謄本又は抄本、被相続人の住民票の除票その他の必要書類とともにこれらの書類の記載に基づき相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を登記官に提出し、②登記官がこの法定相続情報一覧図の内容を確認し、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを申請者に交付し、③交付を受けた法定相続情報一覧図の写しを相続登記の申請手続きをはじめ被相続人名義の預貯金の払戻しなど各種の相続手続きに利用することができる制度です。 従来、各種の相続手続きでは、被相続人の戸除籍謄本等の書類一式を、相続手続きを取り扱う各種窓口に手続きの都度提出又は提示する必要がありましたが、この法定相続情報証明制度は、登記所(法務局)に被相続人の戸除籍謄本等の必要書類とともに法定相続情報一覧図を提出すれば、無償でその一覧図に登記官の認証文を付した写しの交付を受けることができます。 その後の相続手続きにはこの法定相続情報一覧図の写しを利用することで、戸除籍謄本等の必要書類一式を提出又は提示する必要がなくなりますので、相続手続きに係る相続人及び手続きの担当部署双方の負担を軽減することができます。相続税の申告に際しても、従来は、上記1の①に掲げる書類の提出が求められていましたが、法定相続情報証明制度の導入に伴い、平成30年4月1日以後に提出する相続税の申告書(期限後申告書を含みます)について、法定相続情報一覧図の写しの提出も認められることとなりました(平成30年改正相規附則3①)。 本制度を利用することができる者(法定相続情報一覧図の写しの交付の申出人となることができる者)は、被相続人の相続人又はその相続人ですが、申出人は、この申請手続きについて、親族、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士及び行政書士を代理人として委任することができます。 (注1) 法定相続情報証明制度は、戸除籍謄本等の記載に基づく法定相続人を明らかにするものです。そのため、相続放棄や遺産分割協議の結果によって、実際には相続人とならない方(相続分を有しない者)がいる場合も、法定相続情報一覧図にはその者の氏名等が記載されます。 (注2) 被相続人や相続人が日本国籍を有しないなど、戸除籍謄本(抄本)を提出することができない場合は、本制度を利用することができません。 (2) 法定相続情報一覧図の交付の申出の方法 イ 必要書類の収集 まず、次の書類を揃えます(不動産登記規則247③)。 【法定相続情報一覧図の写しの交付の申出に必要な書類】 ① 被相続人の出生から亡くなられるまでの連続した戸籍謄本及び除籍謄本 (注) 相続人を特定するためには、被相続人の全ての戸除籍謄本を漏れなく確認する必要があります。戸籍は、被相続人が生まれてから結婚による分籍や転籍、戸籍のコンピュータ化による改製などにより、複数種類にわたる場合があります。市区町村役場で戸籍謄本を請求する際は、被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸除籍謄本を請求してください。 ② 被相続人の住民票の除票 ③ 相続人全員の現在の戸籍謄本又は抄本 ④ 申出人(相続人の代表となって、手続を進める者)の氏名・住所を確認することができる公的書類(運転免許証の表裏両面のコピー、マイナンバーカードの表面のコピー、住民票記載事項証明書(住民票の写し)など) (注) 運転免許証の表裏両面のコピー、マイナンバーカードの表面のコピーには、原本と相違がない旨を記載し、申出人の記名・押印をします。 ⑤ (法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合)各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し) (注) 法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは、相続人の任意です。 ⑥ (委任による代理人が申出の手続きをする場合) ⑥-1 委任状 ⑥-2 (親族が代理する場合)申出人と代理人が親族関係にあることが分かる戸籍謄本(①又は③の書類で親族関係が分かる場合は、必要ありません) ⑥-3 (資格者代理人が代理する場合)資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等 ⑦ (②の書類を取得することができない場合)被相続人の戸籍の附票 ロ 法定相続情報一覧図の作成 被相続人及び戸籍の記載から判明する相続人を一覧にした図(参考1)を作成します。 (参考1):【法定相続情報一覧図の記載例】 (出所:法務局ホームページ) ハ 申出書の記載 「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」(参考2)に必要事項を記載します。 (参考2) (出所:法務局ホームページ) ニ 法務局へ申出 ハで記入した申出書に、イで用意した書類、ロで作成した法定相続情報一覧図を添付して次のいずれかの法務局に申出をします。 (注) 申出や法定相続情報一覧図の写しの交付(戸除籍謄抄本の返却を含みます)は、登記所の窓口に出向くほか、郵送によることも可能です(不動産登記規則248)。郵送による法定相続情報一覧図の写しの交付を希望する場合は、その旨を申出書に記入した上、返信用の封筒及び郵便切手を同封します。窓口で受け取る場合は、受取人の確認のため、「申出人の表示」欄に押印した印鑑を持参します。 ホ 法定相続情報一覧図の写しの交付 (注) 法定相続情報一覧図は5年間(申出日の翌年から起算)保存されますので、この間であれば、法定相続情報一覧図の写しの再交付を受けることが可能です。ただし、再交付を受けることができるのは、当初の申出において申出書に「申出人」として氏名を記載した方です(申出人とならなかった他の相続人は、再交付を受けることができません)。 3 相続税の申告書の添付書類として使用する場合 法定相続情報一覧図の「続柄」は、被相続人の子の場合、申出人の選択により、戸籍に記載された続柄(「長男」、「二男」、「養子」など)に代えて「子」と記載することができます。しかしながら、法定相続情報一覧図の写しを相続税の申告書の添付書類として使用する場合には、その法定相続情報一覧図には当該被相続人の子が実子又は養子のいずれであるかの別が記載されたものでなければなりません。これは、相続人の数に算入される養子の数には制限があるため(相法15②③)、被相続人の子が実子又は養子のいずれであるかを確認する必要があるためです。 また、被相続人に養子がある場合には、当該法定相続情報一覧図の写しに加えて、当該養子の戸籍の謄本又は抄本の提出が必要になります。これは、養子がいわゆる孫養子である場合は、その相続税額が2割加算の対象となるところ(相法18①②)、実子と養子の別が記載された法定相続情報一覧図の写しだけでは2割加算の対象となる孫養子か否かが明らかではないため、養子の戸籍謄本又は抄本の記載内容から、その養子が2割加算の対象となる孫養子か否かを判定するためです。 (了)
令和2年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】 「「修正・更正の遮断方式」 「グループ内の税金精算(税効果相当額の授受)」」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [11] 修正・更正の遮断方式 グループ通算制度では、事後的に自社の所得の金額等が違っていることがわかっても、他の法人の所得の金額等に反映(影響)させないように、修正・更正を遮断する方式(遮断方式)が採用される。 この遮断方式については、以下のようにグループ調整計算を行う計算項目ごとに取扱いが異なっている。 ここで、その通算法人にとっての当初申告額とは、例えば、損益通算の場合、他の通算法人の期限内申告書に記載された通算前所得金額又は通算前欠損金額に基づいて、その通算法人が期限内申告書において計算した損益通算の金額を意味している。 この遮断方式については、上記のように計算項目ごとに取扱いが異なるとともに、自社で誤りが生じる場合と他社で誤りが生じる場合、全体計算をやり直す場合、修正・更正が2回目となる場合、複数の計算項目に同時に修正・更正が生じる場合など様々な状況で様々な取扱いが生じることになる。 しかし、改正税法を読んでみると非常に複雑な条文となっており、これらを読み解いて実務に落とし込むことは、税務当局、企業、税理士いずれにとっても難易度が高いのではないだろうか。 したがって、この修正・更正の遮断方式については、財務省や国税庁からQ&Aでの事例解説や運用指針が公表されないと実務で対応することは難しいだろう。 [12] グループ内の税金精算(税効果相当額の授受) 内国法人が他の内国法人との間で通算税効果額を授受する場合には、その授受する金額は、益金の額及び損金の額に算入しない(法法26④、38③)。 「通算税効果額」とは、グループ通算制度を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として内国法人間で授受される金額をいう。 この点、連結納税制度と同様に、税務上は、グループ内で税金精算をするかどうかは任意となる。 一方、会計上は、通算税効果額をグループ内で精算することによって、連結納税制度と同様に、純粋に自己の税負担額又は税減少額、つまり、連結納税制度における連結法人税の個別帰属額を損益計算書において「法人税、住民税及び事業税」とすることができる。 また、繰延税金資産の回収可能性についても連結納税制度と同様にグループ内の他の法人の所得の金額を含めて判断することができることになる。 そのため、実務上は、グループ通算制度においてもグループ内の税金精算(税効果相当額の授受)が行われることになるだろう。 この場合、実務上は、連結納税制度と同様に、税効果相当額の授受は通算親法人を通じて行うことになると考えられる。 なお、グループ内の税金精算額については、連結納税制度では連結法人税の個別帰属額を連結親法人と連結子法人との間でやり取りしているが、グループ通算制度では通算税効果額を別途計算する必要があり、その点で事務負担が増えることになる。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第19回】 「分割の概要」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回までは「合併」について解説してきましたが、今回からは組織再編税制における「分割」について解説していきます。まずは「分割」に関する基本的な考え方を解説します。 1 分割とは 分割とは、会社の事業の全部又は一部を他の会社に承継させることをいい、会社法上、「吸収分割」と「新設分割」に区分しています。また、それぞれ法人税法上で、「分割型分割」と「分社型分割」に区分しているため、組み合わせにより4種類の分割(※)があります。 (※) 「吸収分割である分割型分割」、「吸収分割である分社型分割」、「新設分割である分割型分割」、「新設分割である分社型分割」の4種類となります。 なお、下記は4種類の分割のうちの1つである「吸収分割である分割型分割」の組み合わせになります。 (例)吸収分割である分割型分割 (※1) 「分割法人」とは、分割によりその有する資産又は負債の移転を行った法人をいいます(法法2十二の二)。 (※2) 「分割承継法人」とは、分割により分割法人からその有する資産又は負債の移転を受けた法人をいいます(法法2十二の三)。 2 分割の課税関係 分割に係る課税関係を非適格・適格ごとに表にまとめると、次のようになります。なお、今回は分割の課税関係のイメージをつかんでもらうことを目的としているため、現時点で下記の表をすべて理解する必要はありません。 分割法人、分割承継法人、分割法人の株主の課税上の取扱いの詳細については、次回以降で解説していきます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 また、分割承継法人の処理のイメージは下記となります。 【分割承継法人の処理イメージ】 ① 非適格分割 (注) 一定の場合には、資産調整勘定等を認識する必要があります。 ② 適格分割型分割 ③ 適格分社型分割 3 無対価分割 分割により分割承継法人によって交付される分割承継法人株式その他の資産がない分割を「無対価分割」といいます。 無対価分割が分割型分割、分社型分割のいずれに該当するかについては、分割前の関係が下記のいずれの関係になっているかにより判定することとなります。 ◆分割の概要のポイント◆ 「吸収分割」と「新設分割」の2種類があり、それぞれ「分割型分割」と「分社型分割」があります。 分割の場合、分割法人から分割承継法人へ資産等が原則、時価で譲渡されたものとして取り扱います。 分割があった場合には、分割法人は移転資産等の譲渡損益を認識し、分割型分割では株主においても旧株の譲渡損益、みなし配当を認識するのが原則です。 特例として適格分割の場合には、分割法人は移転資産等を簿価で移転したものとされ、課税は生じず、分割型分割では分割承継法人は分割法人から利益積立金額を引き継ぎ、株主は原則として、旧株の譲渡損益、みなし配当を計上する必要はありません。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第35回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (5) 法人税法22条の2第3項は恣意的な申告調整を認めないものか 既に述べたとおり(本連載第32回参照)、法人税法22条の2第3項は、2項の適用に当たり、確定決算収益経理要件を満たす効果を発揮するにすぎない。よって、異論はあるものの、法人税法22条の2第3項の適用がある場合でも、公正処理基準準拠要件をはじめとする2項の他の要件を同時に満たさない限り、申告調整により、資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入することは認められないと解される。 ところで、法人税法22条の2第3項について、申告調整によって目的物の引渡しの日又は役務提供の日に近接する日に収益計上することを認めるものの、これは恣意的な申告調整を認めるものではないと指摘された上で、ここでの収益計上時期に関する基準は継続して適用することが求められているという見解がある(渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第2版〕』117頁(弘文堂2019)参照)。 上記見解は、明文上の根拠をどこに求めることができるのかという点を明らかにしていないものの、2項が定める公正処理基準準拠要件を根拠としている可能性はある。そうであるとすると、上記見解は3項を適用する場合でも、公正処理基準準拠要件の充足が必要であるという立場をとっていることになる。 このように考えると、法人税法22条の2第3項の適用に当たり、公正処理基準準拠要件が求められるか否かは、実務に与える影響が大きい論点であることがわかる。 ここでいう公正処理基準の意義も重要な問題となる。 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」という文言は、法人税法22条4項においても使用されている。同項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、抽象的には、一般社会通念に照らして公正妥当であると評価され得る会計処理の基準であるとか、客観的な規範性を持つ公正妥当な会計処理の基準であるといわれる。 公正妥当な会計処理の基準の具体的な中身であるが、学説は、その中心をなすのは、次のようなものであるが、それにとどまらず、確立した会計慣行を広く含むと解している(本連載第5回参照)。 特に定義規定等を設けずに直前の法人税法22条4項のものと同一の文言を使用しているのであるから、22条の2第3項括弧書きにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、22条4項のものと同義に解することが自然であろうか。 そして、立案担当者は、後で取り上げるように、「収益認識に関する会計基準に基づく会計処理も、『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った計算に該当し得る」と解している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁)。加えて、法人税法22条の2第3項括弧書きの文脈も踏まえると、同項括弧書きにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」には、収益認識会計基準も含まれると解すべきであろうか。 この点に関して、酒井克彦教授は、法人税法22条の2第2項ないし2第3項括弧書きにいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは収益認識会計基準のみを指すと解する可能性もなくはないとされる(このあたりの議論は、本連載第20回も参照)。 ただし、酒井教授は、「これらの『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』は、広範囲の会計処理の基準を指すのではなく、あくまでも、引渡基準ないし契約日基準を採用する場面での限定的な処理についての規定であるから」、結局のところ、収益認識会計基準がこれらの「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当するということはないとの理解を示される(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ―公正処理基準―』258頁(中央経済社2019)参照)。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第5回】 「限界利益を可視化する」 ~ポテトとジュースもお願いします~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 * * * ファーストフード店では、ハンバーガーやポテト、ジュースなどをセット販売していますね。たいていの場合、セット価格は単品価格の合計よりも安いので、セットでの購入がお得な印象を受けます。ポテトやジュースが目的ではなくても、「セットで割安に頼めるなら・・・」とついセットで注文することが多いのではないでしょうか。また、あれこれ考えて単品を注文するのは手間なので、注文しやすいセットを頼むという一面もありそうです。 ハンバーガー・ポテト・ジュースのように、いくつかの商品をまとめてセットとして販売する手法を「」と言います。店長が買ったカメラセットや、ソフトウェアがインストールされているパソコンなどもバンドリングの例です。 * * * * * * ブルーベリーの苗木1本とブルーベリー用の土1袋に関する販売価格と変動費は以下の通りです。苗木と土の販売にあたっては、共通コストとして、売り場管理費などの固定費が年間170,000円かかります。 これまでの実績を調べたところ、苗木と土の販売数の割合はおおむね4:1で一定であることがわかりました。これをもとにブルーベリー関連の損益を分析してみましょう。 苗木4本と土1袋をまとめて1セットと仮定することで、損益分析を行うことができます。 ➤損益分岐点 ⇒固定費170,000円÷1セット当たり限界利益@3,400円=50セット ➤損益分岐点売上高 ⇒@10,800円×50セット=540,000円 * * * * * * 店長のアイデアで、苗木2本と土1袋をまとめた「ブルーベリー・セット」を販売することにしました。苗木2本と土1袋の単品価格の合計は(@2,400円×2本+@1,200円=)6,000円ですが、「ブルーベリー・セット」の価格は5,800円としてみましょう。1セット当たりの変動費の合計は(@1,800円×2本+@200円=)3,800円です。 全てのお客さんが、単品ではなくセット購入すると単純化してシミュレーションしてみます。 ➤損益分岐点 ⇒固定費170,000円÷1セット当たり限界利益@2,000円=85セット ➤損益分岐点売上高 ⇒@5,800円×85セット=493,000円 こうしたシミュレーションをするときには、限界利益がはっきり目に見えるように工夫してみましょう。「ブルーベリー・セット」が限界利益@2,000円を積み重ねて固定費を回収し、利益を計上していく様子をグラフにします(ここでは横軸を「ブルーベリー・セット」の販売数とします)。 限界利益のグラフと固定費ラインの交点が損益分岐点です。限界利益のグラフが固定費ラインを上回っていれば、利益が計上されます。仮に100セット販売した場合には、黄色のエリア(100セット-85セット)×@2,000円=30,000円が最終的な利益になることが、視覚的にわかりますね。 複数商品をバンドリングすることで効率的に利益計上できる場合があります。ハンバーガーのセットは、単品価格の合計よりもセット価格を安くしてお買い得感を演出することで、利益率の高いジュースなどの販売量を増やす戦略の例です。 また、あえてセット価格を単品価格の合計よりも高く設定する戦略も考えられます。最近見かける「ミール・キット」(献立を作るのに必要な食材や調味料、レシピカードなどのセット)は、単品価格の合計よりもセット価格が高い印象を受けます。それでも、いくつもの食材や調味料を買いそろえたり下処理したりする手間が省け、レシピ通りに作ればおいしいものができる、というセットならではの価値が付加されているので、購入する人が多いのです。 こうしたアイデアを模索する過程では、限界利益を可視化してシミュレーションするとよいですね。 * * * (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第160回】 収益認識基準⑤ 「取引価格の算定」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) ◆X1年3月31日 〔B社への機械装置Y10台の販売時〕 (※1) (@100-10)×10台=900 (※2) @12×10台=120 (※3) 900(※1)+120(※2)=1,020 ◆X1年4月30日 〔B社の代金(機械装置Y10台)支払時〕 ◆X1年6月30日 〔B社への機械装置Y80台の販売時〕 (※4) ① @90×80台-(@100-@90)×10台=7,100 ② 7,100(①)-100=7,000 ③ 7,000(②)×1%×2年分=140 ④ 7,000(②)-140(③)=6,860 ◆X1年9月30日~X3年6月30日の各四半期決算時 〔B社の代金(機械装置Y80台)に係る受取利息の認識、計8回(※6)〕 (※5) 7,000×1%×3ヶ月/12ヶ月=17.5 (※6) 上記の仕訳(※5)をX1年9月末、12月末、X2年3月末、6月末、9月末、12月末、X3年3月末、6月末の各四半期決算時に計上します。 ◆X3年6月30日 〔B社の代金(機械装置Y80台)支払時〕 (※7) 6,860(※4)+17.5(※5)×8回=7,000 〈会計処理の解説〉 1 会計処理と取引価格の算定のイメージ 取引価格は、「財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額」と定義されます。ただし、第三者のために回収する額を除くとされており、例えば、売上にかかる消費税等は第三者のために回収する額に該当することから、取引価格には含まれません。 取引価格を算定する際には、以下の①から④のすべての影響を考慮します。 【取引価格の算定のイメージ図】 (※1) 後払いの場合を想定しているため、減額しています。前払いの場合は、「取引価格」に加算します。 (※2) 割引する場合を想定しているため、減額しています。割増の場合は、「取引価格」に加算します。 (※3) 現金以外の対価の時価が契約書等の定めよりも高いと仮定しています。 2 事例へのあてはめ (1) X1年3月31日(B社への機械装置Y10台の販売時) A社は、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される時点(すなわち、購入の合計額が判明する時)までに計上された収益(すなわち、1台当たり100千円)の著しい減額が発生しない可能性が高いと判断したため、売上(取引価格)は1台当たり100千円で計算します。この時点では「①変動対価」は考慮されていません(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準第50項~54項」参照)。 また、対価の一部が機械装置の下取り(「③現金以外の対価」)で支払われているため、当該対価を時価(中古市場の価格)により算定しています(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準第59項~62項」参照)。 (2) X1年4月30日(B社の代金(機械装置Y10台)支払時) X1年3月31日に計上した売上高(取引価格)1,020千円から、下取りした機械装置の時価を控除した金額900千円が支払われました。 (3) X1年6月30日(B社への機械装置Y80台、販売時) A社は、新たな事実を考慮して、B社の購入数量は X1年12月31日までに100台を超えるであろうと見積り、1台当たりの価格を90千円に遡及的に減額することが必要になると判断したため、機械装置Yの販売単価を90千円で計算します(この時点で「①変動対価」を考慮しています)。この単価90千円は、X1年3月31日に1台当たり100千円で売却した機械装置Y10台の取引額の算定にも反映させる必要があります。ただし、見積りの変更であるため、その影響はX1年6月30日の機械装置Y80台の取引価格に反映させます(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準第55項」参照)。 また、A社がB社に支払った100千円は、A社がB社から受領する別個の財又はサービスとの交換によるものではないため、「④ 顧客に支払われる対価」と判断されます。したがって、この 100千円の支払は取引価格から減額されます(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準第63項~64項」参照)。 さらに、顧客との「②契約に重要な金融要素」が含まれる場合、取引価格の算定にあたっては、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する必要があります。A社は利息相当の140千円を取引価格から控除する必要があります(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準第56項~58項」参照)。 (4) X3年6月30日(B社の代金(機械装置Y80台)支払時) X1年6月30日に計上した売上高(取引価格)6,860千円と受取利息相当額140千円の合計額7,000千円が支払われました。 * * * (了)