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〔失敗事例から考える〕この相続対策の問題はドコ!? 【第3回】「贈与税の配偶者控除に関する失敗事例(その2)」~贈与を原因とする所有権移転登記の要否~

〔失敗事例から考える〕 この相続対策の問題はドコ!? 【第3回】 (最終回) 「贈与税の配偶者控除に関する失敗事例(その2)」 ~贈与を原因とする所有権移転登記の要否~   公認会計士・税理士 木下 勇人   - 事 例 - 資産家の夫は余命2ヶ月の宣告を受けた妻に対し、贈与税の配偶者控除を使って自宅2,110万円に相当する持分(全体持分の5分の1)を贈与することを12月15日に決定した。 この決定の背景には、1人娘が義理の両親と2世帯住宅で一緒に住むことになったため、いわゆる「家なき子特例」が娘に使えなくなるということを顧問税理士から教えてもらったことがある。つまり、保有資産が少額である妻を経由して、娘に自宅の一部を相続させるほうが節税になると判断したわけである。 妻が意識を保てる期間はそう長くないため、顧問税理士へ早急に段取りを確認したところ、贈与契約を締結するだけでは要件を満たしておらず、当該贈与契約に基づく所有権移転登記が必ず必要との回答があった。 そこで、贈与契約と所有権移転登記の手続を同時に進めるため、税理士へ司法書士の紹介を依頼した3日後、妻の容態が急変し帰らぬ人となってしまった(贈与契約未了)。妻の推定相続人は、夫・長女の2名である。   ■ ■ ■ 回 答 ■ ■ ■ この事例における失敗は、顧問税理士が平成28年度税制改正の「贈与税の配偶者控除に係る添付書類の見直し」を押さえておらず、贈与契約と所有権移転登記の手続きを同時に進めようとしたため、準備に時間を要し、妻が意識を保てている間に贈与契約を締結することができなかった点です。 -解 説- 1 贈与税の配偶者控除に係る添付書類の見直し(平成28年度税制改正) 平成28年度税制改正前までは、贈与税の配偶者控除の適用を受ける場合、法定添付書類として「居住用不動産の登記事項証明書」を申告書に添付する必要があった。 しかしながら、この贈与は夫婦間の財産移転であることから所有権の移転登記を行っていない場合や、改正前の規定では所有権の移転登記後の登記事項証明書の添付までは求められるものになっていなかったことから、贈与者名義のままの登記事項証明書が添付される事案が散見されていた。 そこで、平成28年度税制改正により、「所有権の移転登記後の登記事項証明書」や「贈与契約書」等、その居住用不動産を配偶者が取得したことを証する書類に改められた(相規9二)(財務省「平成28年度税制改正の解説」546頁)。   2 税理士の判断による贈与契約未了の罪 上記のとおり、妻が意識を保てていた期間に贈与契約書だけでも締結しておくべきであった。本件の家族構成は、父・母・長女の3人であり、父は資産家であることから、親族間の争いの可能性は一般的に低いため、相続税節税の観点が優先される案件となる。 平成30年度税制改正により「家なき子特例」の要件厳格化に伴い「相続開始前3年以内に3親等以内の親族の家に居住していないこと」が求められるようになった(措法69の4③二ロ)ため、本件長女が義理の両親と2世帯住宅に居住することで、要件を満たせなくなるとの顧問税理士の判断は正しい。 しかしながら、上記1を押さえていたならば、妻が意識を保てていた段階で早急に贈与契約書を締結すべきであった。また、その場合、相続直前と予想される贈与契約であるならば、公正証書を用いた贈与契約や、贈与契約の締結場面を録画しておくなどして贈与契約の事実を固め、税務調査を意識した疎明資料の強化を図るべきである。 仮に、12月中に贈与契約を締結し、翌年1月中に妻の相続が発生した場合でも、妻の立場として贈与税申告が必要になることは言うまでもないが、その場合には「贈与税の申告書付表」を用いて相続人が贈与税申告をすることになる。   3 最後に 認知症に罹患する高齢者の割合が増加している昨今の情勢を鑑みた場合、税理士としての提案も、緊急性を要し「時間との勝負」となる場面も多くなる。また、事前提案をしてもクライアントが高齢者の場合、実行の意思決定が長期化することは頻繁に起こりうる。筆者の肌感覚にはなるが、意思能力を保てる直前におけるクライアントからの駆け込み依頼が多くなっているようにも感じる。そのため、迅速な対応ができるようあらかじめ優先順位を決めておくなど、日頃からシミュレーションしておくことが望ましい。 ただし、本件においても、仮に両親と長女の間に確執がある場合は、贈与契約そのものの有効性につき、税務の観点から離れて、民事訴訟が長女から提起される可能性も否めない。贈与による財産の取得を課税原因として贈与税が課されるが、その前提に「贈与」という法律行為があることを、税理士の立場でも意識する必要性が高まっていると考える。 (連載了)

#No. 376(掲載号)
#木下 勇人
2020/07/02

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第32回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第32回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (3) 法人税法22条の2第3項の適用要件 法人税法22条の2第3項は、資産の販売等を行った場合において、次の❶及び❷の要件を満たさないと適用されない。 ❶ その資産の販売等に係る法人税法22条の2第2項に規定する近接する日の属する事業年度の確定申告書に、その資産の販売等に係る収益の額の益金算入に関する申告の記載があること ❷ その資産の販売等に係る収益の額につき、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、法人税法22条の2第1項の目的物の引渡日又は役務提供日、あるいは2項の近接日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合に該当しないこと ❶からすれば、引渡・役務提供基準という原則的なルールとは異なる収益計上基準を採用しようとする場合に、法人税法22条の2第3項をもってしても、2項に規定する近接日以外の日の属する事業年度に益金算入できるわけではないことは明らかである。 いかに、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理(従前から認められてきた会計処理)であっても、目的物の引渡日又は役務の提供日との時間的近接性が認められなければ、法人税法上はその採用が認められないということになる。 この意味で、法人税法22条の2第3項は、2項と同様に、引渡・役務提供基準から離れた会計処理を行う場面を想定する場合に、引渡・役務提供基準との関係において“限定された柔軟さ”を体現する規定であるといえよう(本連載第21回参照)。 また、法人税法22条の2第3項を適用する場合の申告調整は、当初申告における申告調整に限られる。修正申告書において初めて、近接日基準に基づく申告調整を行ったとしても、法人税法22条の2第3項の適用はない。 確定申告書とは、法人税法「第74条第1項(確定申告)又は第144条の6第1項若しくは第2項(確定申告)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)」を指すからである(法人税法2三十一・三十六)。 ❷について、法人税法22の2第1項を適用する場合に、公正処理基準に従っているとはいえない場合があるのか、明らかではない(無償取引については検討の余地があろうか)。 そもそも法人税法22条の2第1項は、2項と異なり、少なくとも明示的には公正処理基準に従うことを求めていない。そうすると、わざわざ3項括弧書きで、「第1項に規定する日・・・の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」という部分についても、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」という限定的な語を付加したことの意味はどこにあるのであろうか。 さらにいえば、法人税法22条の2第3項の括弧書き(上記❷の部分,以下の(※)の部分)において、法人税法22条の2「第1項に規定する日」という部分はその後の「の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」につながっている。 法人税法22条の2第1項は、確定決算により引渡・役務提供基準に基づく収益計上を行うことまでは求めていない。そうであるにもかかわらず、わざわざ3項で、「第1項に規定する日」「の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」としたことの意味を検討する必要もありそうである。 すなわち、法人税法22条の2第1項は、引渡・役務提供基準の適用に際し、少なくとも形式上、法人税法22条の2第2項が定める公正処理基準準拠要件や確定決算収益経理要件を課していない。法人税法22条の2第1項は、2項のような確定決算収益経理要件を課していないため、3項のような申告調整の規定も用意されていない(本連載第14回参照)。 もう少し考えてみよう。 法人税法22条の2第1項に規定する引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益経理した場合には、第3項の適用はないことになるが、それは、引渡日又は役務提供日の属する事業年度の「確定した決算において」収益として経理した場合に限られる。 他方、引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益の額を益金算入すること自体は、申告調整によっても認められるはずである。第1項は、確定決算による経理を求めていないからである。 もっとも、申告調整によって引渡日又は役務提供日の属する事業年度で益金算入している場合には、法人税法22条の2第3項を適用する場合から除かれる「当該資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って第1項に規定する日・・・の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」には該当しないものの、結局は、法人税法22条の2第3項の適用はないと考えるべきか。申告調整が競合した場合の規定の優先順位はどのようになるのか。 この点は、いくつかのパターンに分けてシミュレーションする余地が残されている。 例えば、引渡日又は役務提供日において、確定決算で収益計上せずに、法人税法22条の2第1項に基づき、申告調整により益金算入していた(又はしようとする)場合において、その引渡日又は役務提供日より後(又は前)の近接日において3項を適用しようとする(又はしていた)ときは、いずれの規定が優先されるのであろうか。2項や3項を1項の「別段の定め」としてこれらの規定が1項に優先すると整理すべきであろうか。   (了)

#No. 376(掲載号)
#泉 絢也
2020/07/02

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第4回】「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」~その1:資産・事業価値の減少が買い手・売り手のM&Aの視点を変える~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第4回】 「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」 ~その1:資産・事業価値の減少が買い手・売り手のM&Aの視点を変える~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   1 コロナ禍で変わる3者のM&Aの視点 新型コロナウイルスの感染拡大によって、中小企業の多くは今後の経営のあり方や戦略の見直しを迫られています。中小企業のM&Aについても、足元の経営環境の把握や、戦略の転換を図る中で、買い手・売り手はもちろんのこと、支援機関といった第三者に至るまで、従来とはスタンスを変えつつあります。 新型コロナウイルスによって一変した世界において更に変化し続ける環境のもと、中小企業のM&Aはどのような影響を受け、これからの対応はどう変わっていくのか、買い手・売り手・第三者の各当事者の視点を通じて、今、整理しておくことは有用です。 そこで、今回から《特別編》として、コロナ禍が変える中小企業のM&Aについて解説していきます。 今回のテーマは、「資産・事業価値の減少が買い手・売り手のM&Aの視点を変える」となります。M&Aによって事業の一部ないしは全部の売却を検討中の中小企業が、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、資産の損失が生じた・拡大した、事業価値そのものが低下した、M&Aを断念した、といったケースが現に見られます。甚大な被害を受けたなら、今後の事業そのものに影響し、M&Aの計画や戦略自体を見直す可能性が高まります。 この環境下で、あるいは今後を見据えて、売り手は買い手にどう見せ、どう見られるか、買い手は、売り手をどう見たらよいか、支援機関など第三者は、コロナ後の世界の中で、中小企業M&Aにどう対応すればよいか、新たな視点が必要とされる時期がきています。   2 資産・事業価値の減少に影響を受けやすいM&Aの対価 さて、今後しばらくの間、特に中小企業M&Aの売り手側からは、次のような相談が寄せられることが多くなると予想されます。 新型コロナウイルスの影響で、自社の資産価値が落ちたことを実感しました。社長の私が高齢になったこともあって、近いうちに事業の売却を考えていた矢先、目先の状況を見通せなくなりました。自社にとって最大の危機ともいえる中で、これからM&Aに向けた計画をどう見直すべきか、困っています。 資産の中身にもよりますが、事業そのものの価値という観点まで含めると、資産価値や事業価値が落ちるケースには、たとえば、次のようなことが考えられます。 一例ですが、こうした要素の1つや、複数に当てはまる企業は増えていると言わざるを得ません。 このような資産や事業自体の価値が下落、低下、き損した場合に、影響を受けやすいのは、M&Aの対価です。事業を譲渡する際の取引価額や、株式を譲渡する際の価額が変わるので、売って入ってくるお金の見込み額が、従来の水準より少なくなる可能性がある、という意味です。余力のある買い手なら、安い買い物が可能な機会が訪れた、と考えることもできます。 中小企業のB/Sでは、普段、ほぼすべての資産は簿価で記録されていると思います。資産や事業の価値が落ちた場合、この前提を崩さなくてはなりません。簿価を下落している時価に置き換えると、会計の仕組み上、その分だけ損失を生じさせます。結果として、P/Lの利益金額は当初よりマイナスになります。そして、B/Sもその影響を受け、資産の下落額相当だけ、純資産も目減りします。目先の資金不足を借入で賄えば、負債が膨らむので、被害状況が大きいと、債務超過(負債>資産となった状態)に陥ることも考えられます。 コロナ禍によって資産や事業が悪影響を受けたのであれば、少なくとも売り手の売却価値は下がったと判断されやすくなります。 一方で、コロナ禍によって影響を受けた資産や事業を前にして、とても大変なことですが、ここで適切な分析や対策を講じておくことができれば、後々、買い手に対する有効な見せ方として活用することも考えられます。   3 影響別に見る有効な買い手の見方、売り手の見せ方 以下では、コロナ禍によって影響を受けた企業をAからCの3パターンに分類し、それぞれで有効とされる買い手の見方、売り手の見せ方を確認します。 〈パターン別の買い手の見方、売り手の見せ方〉 *  *  * コロナ禍によって、従来の買い手・売り手の見方・見られ方が変わる可能性が大いにあります。苦しい環境下でも、自社の置かれた状況をなるべく冷静に判断し、焦って最悪の選択をしないようにすることが、この場面では特に重要です。 次回も続けて《特別編》をお届けします。次回は、第三者の視点から、M&Aの売り手・買い手をどう見ればよいかについて解説します。 (了)

#No. 376(掲載号)
#荻窪 輝明
2020/07/02

空き家をめぐる法律問題 【事例24】「倒壊のおそれがある隣家の空き家問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例24】 「倒壊のおそれがある隣家の空き家問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、地方に相続した建物を所有していますが、建物も古くなっていることや使い道もないことから、取り壊すことを考えています。ところが、実際に現地へ行ってみると、隣家の建物が傾いており、私の所有する建物に寄りかかっているような状態となっていました。 解体業者に相談したところ、私の所有する建物を取り壊そうとすると、支えを失って隣家が倒壊する可能性がある旨指摘を受けました。 このような場合に、どのようなことに注意して取壊しをすればよいですか。 なお、隣家は空き家となっており、誰が所有者か、現時点では分かっていません。   1 はじめに 建物の所有者が建物(以下「自己所有建物」という)を取り壊そうとしたところ、近接する隣家が傾いて寄りかかっている等の事情のために、取り壊すことに支障があるような事例が見受けられる。 現に、筆者の事務所所在地においても、市内中心部においては、このような状態の物件が散見されており、今後、全国においてもこのような事象が増えていく可能性があるように思われる。 そこで、今回は、自己所有建物を取り壊そうとする場合に、隣地に倒壊の危険性のある空き家の法律問題について検討することにしたい。   2 対策を講じない場合の法的責任 隣家の倒壊予防措置が講じられない状態が続くと、隣家が倒壊し、隣家の倒壊の影響を受けて自己所有建物が損傷する可能性がある。また、自己所有建物の屋根や外壁等が崩れた結果、通行人や第三者の物件にも損害を与えるおそれがある。 このような原因を作ったのは隣家の空き家ではあるが、自己所有建物の所有者が、隣家の空き家が自己所有建物側に傾いている状態を放置していたような場合には、自己所有建物の保存の瑕疵(当該工作物が、その種類に応じて、通常備えているべき安全性を欠いていること)が認められ、隣家の所有者とともに、損害賠償責任(民法第717条、民法第722条)を負う可能性がある。   3 隣家の修繕工事を行う方法 (1) 修繕工事の請求をする方法 自己所有建物の所有者は、隣家の倒壊等によって自己所有建物が損傷させられるおそれがあることから、隣家の所有者に対して、所有権に基づく物権的妨害排除請求権又は物権的妨害予防請求権を行使することが考えられる。これらの物権的請求権は、相手方が侵害状態を作出したか否かにかかわらず、費用を負担させて、侵害状態やそのおそれがある状態を取り除くことを請求する権利と解されているため、補強工事等の費用を隣家の所有者に負担させることができる。 しかしながら、隣家の所有者が任意に修繕工事を行う保障はなく(むしろ修繕工事する意思がないことから、倒壊のおそれのある状態が継続していると考えられる)、そのような場合は、調停、訴訟等の法的措置を講じざるを得ないが、法的手続は任意の対応に比べて時間を要するため、緊急性のある事案には適していない。 (2) 修繕工事を自ら行う方法 隣家の空き家の管理権は空き家の所有者にあるため、原則として、第三者が修繕工事を行うことはできない。しかしながら、建物の管理事務は当該所有者の事務と考えられることから、第三者は、事務管理(民法第697条)として、修繕工事を行うことが考えられる。この際に、事務管理を行った者の名義(非顕名代理)、本人の代理人名義(顕名代理)のいずれで修繕工事の契約を行っても、本人に修繕契約の効果を帰属させるためには、本人の追認が必要である。 そのため、空き家の所有者と連絡が取りにくいような場合、本人の追認がない限り、工事業者が本人に対して、修繕工事の請負代金請求をできないことから、請負工事業者は、例外的な事情がない限り、非顕名代理での修繕工事の契約を行うことを求めてくるものと思われる。 この場合、事務管理を行った者は、請負代金の負担について、①修繕工事代金を支払った後、本人に対して費用償還請求(民法第702条第1項)を行うか、②本人に対して、請負代金の代弁請求(民法第702条第2項)を行うかのいずれかによることになるが、本事例のような場合には、①によることになる可能性が高いと思われる。 このように、事務管理の方法によって自ら修繕工事を行うことは可能であるが、第一次的に費用を負担するリスクがあることには留意が必要である。 なお、第三者が事務管理を開始した場合、空き家の所有者が管理をすることができる状態になるまで事務管理を継続しなければならない(管理継続義務、民法第700条)が、空き家の所有者側に管理承継義務まで認められるかについては議論のあるところである。本件のような事案のほかに、地方公共団体が、やむをえず空き家の応急処置を行った後に、遠方に在住する空き家の所有権者に対して、管理を承継することを請求できるかというような事案で問題となりうる。 もっとも、民法第700条は管理者の管理継続義務を認めるに留まり、本人側の管理承継義務まで読み込むことは困難であろうから、管理継続義務消滅後に生じた空き家に関する管理問題は、不法行為その他の民法の規律によって判断されるべきもののように思われる。 (了)

#No. 376(掲載号)
#羽柴 研吾
2020/07/02

〔これなら作れる ・使える〕中小企業の事業計画 【第4回】「事業計画の作成手順(前編)」

〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第4回】 「事業計画の作成手順(前編)」   税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸   第2回までは、事業計画のうち、損益計画・資金計画の作成手順(定量面)を中心に解説した。第4回及び第5回では、事業計画の作成手順(定性面を含む)について整理する。   ◎ 事業計画の作成手順 事業計画を作成するSTEPを4段階に分けて整理する。事業計画を作成する事業者として、新製品開発又は新サービスの展開による経営改善など明確な目的を持っている場合、「ものづくり補助金」あるいは金融機関からの融資など資金調達が必要な場合、事業承継制度を検討している場合などさまざまなケースが想定される。 なお、各段階における検討の範囲・レベルは、それぞれのケースに応じて検討することになる。また、各段階は、順序どおり進めようとせずに、繰り返し修正を加えることで、事業計画の精度・納得感を高めていくことになる。 (1) 【STEP1】:事業・自社・顧客を把握する 事業者の現状を適切に把握することがスタートになる。経営目標を立てるためには、事業者の概要、事業環境(外部環境・内部環境)、業界の特徴などを確認する。 ① 事業者の概要 事業者の概要として、 などを把握する。また、小規模事業者であれば、経営者の家族構成などを把握することがある。 ② 事業環境(外部環境・内部環境) 事業環境は、外部環境(顧客)、内部環境(製品・サービス)の視点を中心に確認する。 また、ライバル(競合他社)の状況と比較することで、事業者の長所(強み、差別化要素)、短所(弱み)を把握する。 ③ 業界の特徴 事業者の経営課題を検討する際に、事業者の属する業界の動向などを把握することが重要である。業界の特徴として、収益性が高いか低いか、多様性があるかないかなど大枠を捉えておく。 また、業界の詳細な動向は、インターネットや書籍(きんざい出版「業種別審査事典」)などの情報源から入手することができる。以下、インターネット上において無料で閲覧できるWebサイトを参考としてあげておく。 《富士経済グループ「マーケット情報」》 次に、定量面での把握のため、財務分析を行う。財務諸表の数値を入力することで、売上高営業利益率、自己資本比率、従業員1人当たり売上高などの経営指標が自動的に計算される。業界平均値との比較から、事業者の特徴を把握することができる。以下、インターネット上において無料で利用できるWebサイトを参考としてあげておく。 《独立行政法人中小企業基盤整備機構「経営自己診断システムの診断例」》 ただし、業界平均値より経営指標の数値が低いからといって、「悪い」と評価しないことである。たとえば、売上高人件費率が業界平均値より高い場合、高いサービス水準を維持するために、あえて人件費を高く設定していることが考えられる。 あくまでも業界平均値と比較することで事業者の特徴を想定・仮説した上で、定性的な情報(事業構造など)と一致するかどうかを検討・検証することがポイントになる。 (2) 【STEP2】:経営目標を立てる 事業計画の作成では、経営目標(予算)が確定していることが前提である。経営目標は経営陣からトップダウンで設定するケース、あるいは各部門の現場で作成する売上計画、人員計画などの個別計画をボトムアップで積み上げて設定するケースがある(2つのケースの折衷方式もある)。 その際、事業者を支援する立場で、試算を求められるケースもある。ここでは、美容サービス業を例に次の数値で確認する。 ※販売費及び一般管理費、支払利息を固定費とする。 まずは、損益分岐点売上高(損失・利益も発生しない売上高)を計算する。 固定費の合計=8,000+500=8,500千円である。変動費率が15%であるため、固定費8,500千円を回収するためには、 が必要になる。現状(6月の段階)では、9,000千円で損益分岐点売上高を下回っているため、赤字である。 次に、目標利益を達成するための売上高を計算する。仮に目標とする経常利益を1,000千円と設定した場合、固定費8,500+経常利益1,000=9,500千円を回収するためには、 が必要になる。そして、次回の【STEP3】で目標売上高を達成するためのアクションプランを検討することになる。 なお、資金を借入れしている場合、元金返済額は損益計算書に反映されない。しかし、獲得した利益から元金を返済するため、元金返済も回収すべきものと考えることができる。よって、元金返済額を固定費に加算して、損益分岐点売上高・目標売上高を試算することが望ましい。たとえば、月額の元金返済額が1,200千円とした場合、固定費8,500+元金返済額1,200=9,700千円を回収するためには、 が必要になる。 (後編に続く)

#No. 376(掲載号)
#高畑 光伸
2020/07/02

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第34話】「オンライン税務調査」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第34話】 「オンライン税務調査」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「中尾統括官・・・新型コロナウイルスの影響で、今後の税務調査は、原則、オンラインになると思うのですが・・・」 浅田調査官は箸を持ちながら、中尾統括官に言う。 税務署の近くの蕎麦屋で、2人は対面ではなく、横並びで蕎麦を食べている。2日前まで休業していた蕎麦屋には、客は数人しかいない。新型コロナウイルスが騒がれる前は、お昼時には多くの客で店の中はごった返していた。 「なかなか客足は・・・元に戻りませんね・・・」 浅田調査官は、店の中をキョロキョロと見回している。 「君は前にも言ってたな。税務調査はオンラインになるって・・・」 中尾統括官は蕎麦を食べながら、尋ねる。 「僕はそう思うのですが・・・」 横に座っている浅田調査官は、中尾統括官の方ではなく、正面を向いて答える。 「しかし・・・納税者に直接会わずに、税務調査ができるのか・・・はなはだ疑問に思うのだが・・・」 中尾統括官も正面を向いたまま、チラリと横目で浅田調査官を見て言う。 「ベテランの調査官になると、相手の目の動きを見て、本当のことを言っているのか、噓を喋っているのかを判断するものだが・・・オンラインだと、互いにそれぞれの画面を見ているだけから、そもそも目と目が合わないだろう。」 中尾統括官は、苦笑する。 「しかし、それは・・・古典的な税務調査ですよね・・・」 浅田調査官は、皮肉を言う。 「僕は・・・納税者に直接会わなくても、オンラインで意思疎通ができますから、それで十分だと思います・・・それに税務調査は、原則、事前通知をしますから、ガサ入れなどしなくても調査はできると思います。」 「ほう、君は・・・税務調査にガサ入れは必要ないと思っているのか?」 中尾統括官は、箸でつかんだ蕎麦を持ったまま、横を向く。 「僕は今まで、税務調査で納税者のロッカーや机の引き出しの中などを見たことはありません。」 浅田調査官は、平然と言う。 「しかし・・・税務大学校での研修では・・・税務調査でのガサ入れなどを教えてもらっているだろう?」 中尾統括官は、不満そうに言う。 「ああ、あれは・・・時代遅れでしょう。」 浅田調査官の答えは、素っ気ない。 「初めて“ガサ入れ”という言葉を聞いたとき、ガサって何のことかわからなかったのですが、税務大学校の授業で『さがす』の反対が『がさ』で、警察で使われている隠語ということは教えてもらいましたけど。」 浅田調査官は、舌をペロッと出す。 「僕は、税務調査でわざわざ納税者の事務所や自宅に行く必要はないと思いますよ・・・個人の所得税は、一般にそれほど取引のボリュームもないので、提出された決算書の中の損益計算書や貸借対照表を精査して、異常な科目や数値について納税者に質問をすれば問題はないと思います・・・そして、取引先の資料せんなどから納税者の不正を発見できるように・・・納税者の情報をできるだけ収集すればよいのでは・・・」 そう言うと、浅田調査官は、蕎麦つゆを少し飲む。 「・・・やっぱり・・・オンライン税務調査に移行するかもしれません・・・」 浅田調査官は、横に座っている中尾統括官の顔をのぞく。 「例えば、税務署の中に税務調査の専用ブースが設けられて、その中で税務調査官が納税者とオンラインで接触し、調査を行う・・・なんてどうですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「・・・」 中尾統括官は、黙ったまま腕を組んで、蕎麦屋の天井を見上げる。 「・・・調査官は、わざわざ納税者の事務所へ行く必要もないし、納税者も税務職員に来てもらいたくないだろうから・・・それに、マスク着用などの感染拡大防止策もオンラインでは必要がない・・・」 浅田調査官は独り言のように正面を向いたまま言う。 「そうだな・・・ひょっとすると君の言うように、オンライン税務調査が主流になるかもしれない・・・すでに国税庁では密かに、オンラインによる税務調査について、実施要項などを検討しているかもしれない・・・」 中尾統括官は、真剣な顔で答える。 「そうすると、オンラインでの税務職員と納税者とのやり取りは、録画することも可能になります・・・税務調査の可視化ですね・・・もっとも、オンライン税務調査を録画するということになると、国税通則法でその旨を規定する必要がある・・・」 浅田調査官の空想は膨らむ。 「税務職員と納税者のやり取りが録画されることによって、互いに迂闊なことが言えなくなるかもしれないな・・・」 中尾統括官は苦笑いをする。 「そうですよ・・・税務調査で、納税者に重加算税を認めさせる代わりに、増差所得金額を減らしてやるなんて話は、録画されるオンラインでは絶対にできない・・・」 浅田調査官は真面目な顔になる。 「それと、資料等のデータの送付は、情報セキュリティなどの安全性の観点からオンライン税務調査の導入を難しくしていると言われますが、オンラインで100%安全なんてことはありえないわけですから、むしろオンライン税務調査の大きなメリットを考えた場合、僕は、早急に導入した方が良いと思います。」 浅田調査官は、残っていた蕎麦をスルスルと一気に飲み込む。 「蕎麦を食べながら浅田君のオンライン税務調査講義を聞いたせいか、私は食欲が失せて、食べた気がしなかったよ。」 中尾統括官は、ゆっくり立ち上がると、浅田調査官をみた。 (つづく)

#No. 376(掲載号)
#八ッ尾 順一
2020/07/02

《速報解説》 国税庁から令和2年分の路線価が公表される~全国平均路線価は5年連続上昇もコロナの影響は反映せず~

《速報解説》 国税庁から令和2年分の路線価が公表される ~全国平均路線価は5年連続上昇もコロナの影響は反映せず~   Profession Journal編集部   7月1日、国税庁は相続税や贈与税の算定基準となる令和2年分の路線価を公表した。 今年も上昇傾向は変わらず、令和2年分の全国平均路線価は対前年比1.6%増となり、5年連続の上昇を記録した。なお、1.6%の上昇率はここ5年において最も高い上昇率となっている。 上昇の要因としては、昨年と同様にインバウンド(訪日外国客)需要を中心に、都市部を中心とした再開発の影響が大きいとみられる。 なお、令和2年分の路線価については、新型コロナウイルスの流行前である2020年1月1日を評価時点としているため、その影響は反映されていない。 〇インバウンド需要による上昇傾向 都道府県別に路線価の傾向を見ると、21都道府県が上昇し、26県では下落となった。なかでも上昇率トップとなったのは沖縄県で10.5%のプラスとなり、昨年の8.3%を上回る高い上昇率となっている。 ここ数年の傾向として再開発が進む交通利便性の高い地域やインバウンド需要が見込める観光地を中心に上昇が続いていたが、来年以降はコロナの影響により、特にインバウンド需要に牽引されてきた地域については、この傾向は大きく変わることが想定される。 なお、今年も地点別の路線価で最高額となったのは東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前であり、1平方メートル当たり4,592万円となっている。これで35年連続の全国1位となったが、上昇率は昨年の2.9%に比べ、0.7%とさらにゆるやかとなっている。 〇実態との乖離に注意 上述したとおり、令和2年分の路線価は2020年1月1日を評価時点としているため、コロナによる影響は反映されていない。そのため、今後、コロナ禍を要因とした経済活動の停滞などにより地価が大幅に下落した場合、路線価と地価に大きな乖離が起こることも考えられる。 そこで、路線価と地価の隔たりから生じる実態と乖離した課税を防ぐことを目的に、コロナの影響で基準地価が広範囲で大幅に下落した場合、その地域の路線価を減額修正できる措置を国税庁が検討しているとの報道もある。 そのため、相続税や贈与税の算定をする際には最新情報の収集を行い、実態に即した納税を行えるよう、例年以上に慎重な対応が求められる。 (了)

#No. 375(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/07/02

《速報解説》 会計士協会が「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」を公表~四半期レビューにおける留意点を明示~

《速報解説》 会計士協会が「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」を公表 ~四半期レビューにおける留意点を明示~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年6月30日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」を公表した。 監査上の留意事項(その6)では、四半期決算を扱っており、四半期レビューにおける留意点について述べている。 なお、2020年6月26日に、企業会計基準委員会は、「新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)」を更新し、四半期決算における考え方について述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 四半期決算における固定資産の減損に関する留意事項 四半期会計期間における減損の兆候の把握に当たっては、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて留意するとされている(「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)14項、92項)。 そこで、四半期レビュー手続を実施する際には、新型コロナウイルス感染症に関連して、資産又は資産グループの使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生している可能性があることに留意し、質問事項について十分な知識を有し、責任をもって回答できる適切な経営者又は役職者等を選択して的確な質問を実施する必要があると述べている(「四半期レビューに関する実務指針」(監査・保証実務委員会報告第83号)31項、33項)。   Ⅲ 四半期決算における繰延税金資産の回収可能性に関する留意事項 四半期財務諸表に計上された繰延税金資産の回収可能性の判断は、原則として、年度決算と同様の方法により行い、四半期決算日ごとに、将来の回収見込みについて見直しを行う(「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」94項)。 ただし、四半期決算における繰延税金資産の回収可能性の判断に当たっては、重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境の著しい変化が生じておらず、かつ、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められる場合には、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができることなどの方法が認められている(「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」16~18項)。 そこで、四半期レビュー手続を実施する際には、新型コロナウイルス感染症に関連して、業績の著しい悪化や経営環境の著しい変化が生じている可能性及び一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動が生じている可能性があることに留意し、質問事項について十分な知識を有し、責任をもって回答できる適切な経営者又は役職者等を選択して的確な質問を実施する必要があると述べている(「四半期レビューに関する実務指針」31項)。   Ⅳ 四半期報告書における追加的な開示(見積り)に関する留意事項 2020年6月26日に更新された企業会計基準委員会の議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」に留意する必要があると述べている。 上記で述べたとおり、四半期財務諸表における会計上の見積りのうち、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性について、見積りの再評価のプロセスが年度末と異なる点にも留意が必要であるとしている。   Ⅴ 四半期レビューにおける継続企業の前提に関する留意事項 四半期レビュー手続は、質問と分析的手続等を基本とした限定された手続であることから、積極的に継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるか否かを確かめることまでは求められていないが、それぞれの状況に応じて、適切な四半期レビュー手続を実施する必要があるとし、状況ごとに詳細に述べている。 (了)

#No. 375(掲載号)
#阿部 光成
2020/07/01

平成30年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

平成30年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「平成30年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/06/29

《速報解説》 IESBAから新型コロナウイルス感染症に関する倫理及び独立性に関する留意事項が公表される~違法行為への対応、報酬、非保証業務等について言及~

《速報解説》 IESBAから新型コロナウイルス感染症に関する倫理及び独立性に関する留意事項が公表される ~違法行為への対応、報酬、非保証業務等について言及~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 国際会計士倫理基準審議会(IESBA)は、スタッフQ&A「新型コロナウイルス感染症(COVID-19):倫理及び独立性に関する留意事項」(2020年5月8日、スタッフQ&A)を公表した。 これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの結果として生じる倫理及び独立性の課題やリスクに対処する上で関連する可能性のある、職業会計士のための国際倫理規程の解釈について述べている。 この文書は、監査人の監査実務の動向を理解するうえで参考になる部分があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 基本原則に対する阻害要因 職業会計士は、その役割、職務、専門業務を遂行する状況にかかわらず、倫理規程に規定されている次の5つの倫理上の基本原則を遵守することが求められる。 当該基本原則に照らして、次のことなどが述べられている。   Ⅲ 情報の作成及び提供 危機的状況においては、職業会計士は、事業体がマイナスの進展を誤って報告したり、本質的な情報の開示を保留したり、財務状況に関して虚偽又は誤解を招くような内容を描いたりする機会及びリスクが生じることに留意する必要がある。   Ⅳ 違法行為への対応 職業会計士は、パンデミックが不正を行う重要な機会を生じさせることに注意を払う必要がある。例えば次のものである。   Ⅴ 報酬 報酬に関して、職業会計士は次のプレッシャーを受ける可能性があることについて述べている。   Ⅵ 非保証業務(助言及び支援の提供を含む) 会計事務所等は、依頼人に支援を提供する際には、潜在的な利益相反について念頭に置かなければならないと述べられている。 例えば、依頼人がCOVID-19関連の助成金を取得する際の支援に会計事務所等が関与する一方で、会計事務所等が、当該助成金の審査と承認を担当する政府機関に専門業務を提供する場合には、利益相反が生じる可能性がある。   Ⅶ 統治責任者とのコミュニケーション COVID-19のパンデミックは、事業体の業務だけでなく、会計事務所等の監査業務の依頼人(統治責任者を含む)との関わり方に重大な混乱をもたらしている。 当局によるソーシャルディスタンスの維持の措置や、事業者又は会計事務所等による安全対策により、会計事務所等と統治責任者のコミュニケーションの方法に影響する可能性がある。 このため、会計事務所等が統治責任者と積極的に関わり、いかにして倫理及び独立性に関する事項を効果的に取り上げ、適時に議論できるかについて、あらかじめ合意することが重要であるとしている。 (了)

#No. 375(掲載号)
#阿部 光成
2020/06/29
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