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プロフェッションジャーナル No.394が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年11月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.394を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/11/12

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第93回】「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その3)」~後法優位の原則~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第93回】 「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その3)」 ~後法優位の原則~   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   Ⅲ 後法優位の原則 1 概観 「後法は前法に勝る」とか、「後法は前法を破る」という法諺がある。 これは、その効力が同等である2つ以上の法令の矛盾抵触がある場合において、法令の所管事項の原則(本連載「その1」)によっても、法令の形式的効力の原則(本連載「その2」)によっても、特別法優先の原則によっても解決できない場合に時間的に後から制定されたものが前に制定されたものよりも優越するということを表す考え方である(伊藤義一『税法の読み方 判例の見方〔改訂版〕』84頁(TKC出版2007))。 そもそも、社会の変容に応じて法律はその時代に即応するように制定される。そうであるとすれば、古い時代の社会に適用すべく設けられた法律が、時代の変容についてこれなくなることは当然にあり得る。 法律の適用は、社会通念等をも斟酌しながら行われるものであり、その社会における共通認識が織り込まれるのが常ではあるものの、法律は建築物と似たところがあって、いったん出来上がり適用されることになると、これを廃止したり、改正したりすることがさほど自由に柔軟にできるわけではない。 そのような硬直性を乗り超えるべく、新しい法律が制定されることがあるが、この場合、旧来の法律の規定と新しく設けられた法律の規定が抵触することも生じ得る。 そのような場合には、社会の変容に即応して設けられた新しい法律を優先的に適用する方が、新しい法律を承認した国民の意識(自己同意)にも合致することは明らかである。かような観点から、旧法と新法との間での抵触関係が生じた場合には、上記に示した「後法優位の原則」が適用されることになるのである。 2 ヤフー事件-法人税法132条と同法132条の2- 後法優位の原則を考えるに当たっては、いわゆるヤフー事件が参考になるように思われる。 ヤフー事件最高裁平成28年2月29日第一小法廷判決(民集70巻2号242頁)は、法人税法132条の2《組織再編成に係る行為又は計算の否認》に規定する「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の意義が争われた極めて有名かつ重要な事例であるが、かかる概念の意義について、最高裁の考え方が初めて明らかにされたという点で注目されたのである。 同最高裁は、同条にいう「不当に」の意義を「組織再編成に関する税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用すること」と判示したのである。 最高裁は、このように法人税法132条の2の性格を捉えた上で、以下のように判示した。 上記のとおり、最高裁は、法人税法132条の2にいう「不当に」の意義を「濫用」という観点から論じるとともに、その該当性の判断基準を示したのである。 ここでは、いわば個別規定の要件を仮に充足していたとしても、組織再編税制を濫用して適用しているような場合には、個別規定の要件の充足には拘泥せず、組織再編税制の趣旨に基づいて法人税法132条の2が適用されることがあり得ることを示したもので、同条は、個別規定をオーバーライドすることができるものと位置付けられたのである。 いわば、「租税回避否認規定」としての意味に、「包括的租税回避否認規定」としての意味を付与したものともいい得るのである。 そもそも、従来の裁判例は、法人税法132条《同族会社等の行為又は計算の否認》1項に規定する「不当性」については、純経済人の行為として不合理あるいは不自然かどうかという経済合理性基準で判断すると判示してきた。 例えば、札幌高裁昭和51年1月13日判決(訟月22巻3号756頁)は次のように判示している(かかる判断は、上告審最高裁昭和53年4月21日第二小法廷判決(訟月24巻8号1694頁)においても維持されている。)。 こうした考え方は、いわゆる明治物産事件控訴審東京高裁昭和26年12月20日判決(民集12巻8号1271頁)などでも採用されているが、学説の通説もこれを支持していると解される(金子宏『租税法〔第23版〕』532頁(弘文堂2019)も参照)。 法人税法132条の2は、同法132条のいわば枝番としての条項であるし、不当性はいずれの条文も共通に求める要件であることからすれば、132条の2にいう不当性も純経済人の行為として不合理あるいは不自然かどうかという経済合理性基準で判断すべきとの解釈論には説得力もあるといえよう。 しかしながら、前述のとおり、最高裁は、これまでの法人税法132条の解釈を前提とせずに、同法132条の2にいう「不当性」に別の意味を付与したものと整理することもできよう。 法人税法132条の後に創設された同条132条の2につき、前法の解釈に拘束されずに新法としての解釈論が展開されており、これなども、後法優位の原則の適用例の一例であるとみることができそうである。 3 配当異議事件 次に、いわゆる配当異議事件最高裁昭和35年12月21日大法廷判決(民集14巻14号3140頁)をみてみよう。 この事件では、競売手続が開始された場合において、国(被告・被控訴人・被上告人)が過年度の国税について交付を求め、優先徴収権を行使したため、競売申立人(原告・控訴人・上告人)に対する配当が皆無になったことについて、優先徴収権の行使が権利濫用に当たるか否かなどが争われた。 この事例の控訴審において、控訴人は、控訴人の債権が民法306条《一般の先取特権》のいわゆる共益費用に該当するとし、この共益費用は第一順位において他の債権に優先すべきことを主張したところ、東京高裁昭和30年8月9日判決(民集14巻14号3152頁)は、次のように判示して、かかる主張を排斥している。 これに対して、控訴人は上告し、「国税徴収法は明治30年7月1日から施行せられ民法は明治31年7月16日の施行であるから後法は前法に優るの法諺によっても後法即ち民法の規定により優劣を定むべきであったに拘わらずこの点を顧慮しなかった原判決は法律の解釈を誤ったものである。」と主張した。すなわち、民法が後法に当たり、民法の規定が優先されるというのである。 しかし、これについては、最高裁が次のように排斥している。 最高裁としては、「本件に適用された国税徴収法2条1項の規定は、新憲法施行後、昭和25年法律69号、同26年法律78号により改正されたものであって、・・・憲法30条、84条に基づく法律であると解すべき」であるから、そもそも民法が後法に位置するわけではないということであろう。 なお、民法と国税徴収法との関係が、前者が一般法で後者が特別法の関係にあることからすれば、かかる法令間の抵触関係は、特別法優先の原則によって適用関係が整理されるべきであって、後法優位の原則を適用しての主張は、法令間の解釈原理の観点からも無理があったといわざるを得ないと解される。 (続く)

#No. 394(掲載号)
#酒井 克彦
2020/11/12

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第47回】「租税法律主義の基礎理論」-手続的保障原則-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第47回】 「租税法律主義の基礎理論」 -手続的保障原則-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、租税手続法(租税争訟法を含む)に関する租税法律主義の内容として、適正手続の保障を要請する手続的保障原則を取り上げ検討する。 租税手続法について、「租税の賦課・徴収は公権力の行使であるから、それは適正な手続で行われなければならず、またそれに対する争訟は公正な手続で解決されなければならない。」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)88頁)と説かれるのが、このような要請が手続的保障原則である(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【27】参照)。 金子宏教授は、手続的保障原則を「ルール・オブ・ロー」の観点から論じておられるが(同『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)121頁以下[初出・2008年]参照)、そもそも、適正手続の保障については「憲法31条以下の諸条文の中には、・・・・・・『法の支配』の要請を直截に表現したものがある」(長谷部恭男『憲法〔第7版〕』(新世社・2018年)265頁)以上、租税法律主義の内容に手続的保障原則を加えることは、法の支配による租税法律主義のコーティングの一環として理解してもよいであろう(拙稿「租税法律主義(憲法84条)」日税研論集77号(2020年)243頁、267頁)。   Ⅱ 租税手続の適正化の意義 行政手続一般の適正化については、次のように説かれることがある(芝池義一『行政法総論講義〔第4版補訂版〕』(有斐閣・2006年)281-282頁。下線筆者)。 以上の引用文(特に下線部)で説かれていることは、基本的には、租税手続についても妥当すると考えられる。すなわち、税務行政の領域において行政手続法の適用が原則として除外されている現状(税通74条の14、地税18条の4)に鑑みると、租税手続の適正化を(手続的)適法性の問題として合法性の原則(この原則については次回検討する)にのみ委ねることはできず、むしろ、国税通則法・地方税法上の既存の手続規定の内容の適正化をも含め、手続的保障原則に従って租税手続法を整備していくことが依然として必要である。 手続的保障原則に従って租税手続法を整備するに当たっては、租税手続の適正さの意味を明らかにしておく必要があろう。租税手続の適正さについては、法律の世界における適正な手続の典型である裁判手続をモデルとして想定した上で、租税法律関係の当事者である納税者と税務官庁との手続法上の関係を、対等・対称的な権利義務の関係(法律関係)として構成することが、特に必要かつ重要であると考えるところである(第5回Ⅱ1参照)。 租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性は、現行税法上は、申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造として(不完全ながら)具体化されているが(第5回Ⅱ2参照)、租税実体法も含めた税法の基礎理論の観点からみると、納税義務の成立及び確定に関する租税債務関係説的構成(同Ⅲ2参照)によって基礎づけられるといえよう。 以上のように考えてくると、平成23年度[11月]税制改正による更正の請求可能期間の延長(税通23条1項、地税20条の9の3第1項)、税務調査手続の整備(税通74条の2以下、地税26条1項・3項等地方税については個別税目ごとの規定)、処分理由附記の範囲の拡大(税通74条の14第1項、地税18条の4第1項)等の改善、平成26年6月の行政不服審査法の改正に伴う国税通則法及び地方税法の改正による不服申立手続の改善などは、手続的保障原則の制度化ないし租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性の具体化のための措置として、評価することができよう。   Ⅲ 租税手続の適正化の課題 もっとも、例えば税務調査手続においては納税者と税務官庁との関係につき非対等性・非対称性がなお色濃く残されていること(この点については、拙稿「申告納税制度と税務調査-税務調査手続における手続的保障原則の実現に向けての一考察-」三木義一先生古稀記念論文集編集委員会編『現代税法と納税者の権利』(法律文化社・2020年)228頁参照)のほか、行政手続法の原則的適用除外、審査請求前置主義(税通115条1項本文、地税19条の12)などのような、他の行政領域と異なる取扱いが定められている場合があることを考えると、租税手続法の内容を手続的保障原則の観点から更に見直していくべきであろう。 ここでは、従来あまり注目されてこなかった国際課税の分野における租税手続の適正化について、若干の検討を加えることにしたい(国際課税の分野での手続的保障原則の実現に向けて相互協議手続を検討するものとして、拙稿「国際的租税救済論序説-国際的租税救済手続の体系的整備に向けた試論-」租税法研究42号(2014年)1頁参照)。国際課税に関する租税手続法の整備が最近急速に進められているが、その一環として整備された国際的源泉徴収(非居住者・外国法人に対する源泉徴収)を手続的保障原則の観点から検討することにする。 非居住者・外国法人による国内の土地・建物等の譲渡の対価に係る国内源泉所得(所税161条1項5号)は譲受人(対価支払者)による源泉徴収の対象とされているが(同212条1項)、この制度は平成2年度税制改正によって次のような趣旨に基づいて導入されたものである(加藤治彦ほか『改正税法のすべて』(日本税務協会・1990年)154頁)。 これと同様の源泉徴収手続は、国内不動産の譲渡人が居住者・内国法人である場合については、定められていないことから、国内不動産の譲渡対価に対する源泉徴収に当たっては、譲受人(対価支払者)は、譲渡人が非居住者・外国法人に該当するか否かを判断しなければならないが、その判断には、譲渡人の住所・居所等の判定に関して著しい困難を伴うことがある。このことが争点の背景にある事案において、東京高判平成28年12月1日税資266号順号12942(判決文は裁判所ウェブサイトによる)は、所得税法161条1号の3(現行同条1項5号)及び212条1項の解釈・適用の在り方について次のとおり判示した(下線筆者)。 以上の判示において「確認すべき義務」という文言が2箇所で用いられているが、対価支払者が本件に関して負っているとされる2つ目の「確認すべき義務」は括弧内で「本件注意義務」と言い換えられていることから、「確認すべき義務」は注意義務と言い換えてよいであろう(以下の検討は、拙稿「国際課税における納税者の権利救済」法の支配193号(2019年)60頁、63-66頁をベースにしたものである)。 このことを前提にして注意義務の意義及び性格を検討すると、1つ目の注意義務は、本件条項から解釈によって導き出された規範のレベルで対価支払者が負っているとされる注意義務であり、その意味で「抽象的注意義務」と呼ぶことができよう。これに対して、2つ目の注意義務は、対価支払者が具体的事案に関して負っているとされる注意義務であり、その意味で「具体的注意義務」と呼ぶことができよう。 これらのうち抽象的注意義務は本件条項に根拠をもつことから、法的性格の点では公法上の義務である。これに対して、具体的注意義務は私法上の義務であると解される。というのも、本件注意義務については、前記判示のとおり、対価支払者がこれを負っていることについて「両当事者とも自認している」ことのほか、「同[=原審認定事実3(2)の]事実関係に照らすと、その[=Aの非居住者該当性の]確認のためにAに対してその生活状況等を質問することが不動産の売買取引を当事者間において取引通念上不可能または困難であったということも、当該質問等をしても確認できない結果に終わったということもできない」(下線筆者)と判示されていることからして、本件注意義務は取引当事者の意思に基づく義務でありその内容は取引通念によって決まるもの(原審・東京地判平成28年5月19日税資266号順号12856(裁判所ウェブサイト)でいう「本件売買契約に基づく注意義務」に相当するもの)とされていると解されるからである。 源泉徴収義務に含まれる注意義務に関する以上のような二分論(以下「注意義務二分論」という)は、源泉徴収の法律関係に関する判例(最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁、最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁)の立場に適合すると考えられる。すなわち、判例によれば、源泉徴収の法律関係は、①国と源泉徴収義務者との間の法律関係と②源泉徴収義務者と本来の納税義務者との間の法律関係、の二分論を基礎として理解され、しかも①は公法上の債権債務関係、②は私法上の債権債務関係とそれぞれ性格づけられていること(金子・前掲書998頁、前掲・拙著【152】等参照)からすると、抽象的注意義務は①に属する義務であり、具体的注意義務は②に属する義務であると考えられるのである。 しかしながら、注意義務二分論によれば、国際的源泉徴収に関する適正手続保障の不備が露呈することになる。源泉徴収制度においては、一般に、源泉徴収義務者について、確かに、税務官庁との関係では一定の手続が税法上定められているが、しかし、本来の納税義務者(所得稼得者)との関係では何らの手続も定められていない上に、国際的源泉徴収の場面では、具体的事案における対価受領者の非居住者・外国法人該当性の判断に係る注意義務が私法上の注意義務とされることから、対価支払者が税法上の適正手続保障の枠外に置かれることになる。 しかも平成28年東京高判の事案では、原審の認定したところによれば、調査担当職員は譲渡対価に関する税務調査に2年以上の年月を費やしただけでなく、譲渡土地の近隣住民に対する質問調査のほか、法務省入国管理局に対し譲渡人の入出国記録の照会、国税庁を通じて米国内国歳入庁に対し譲渡人の身分事項・所得税の申告状況等に関する照会を行うなどしたのであるが、源泉徴収義務者にはそのような長期の調査・確認期間は認められないだけでなく、それらの照会を行うことも通常はできないことからすれば、国際的源泉徴収は、納税者(税通2条5号)と税務官庁との間で極めてバランスを欠いた手続構造になっているといわざるを得ない。 そもそも、わが国の源泉徴収制度については、「きわめて広範・精密且つ強力であって、それが、迅速且つ確実な租税の徴収の確保に役立っていることは、疑問の余地がない。」(金子宏『所得課税の法と政策』(有斐閣・1996年)127頁[初出・1991年])といわれるように、所得税の徴収確保の観点からは優れた制度であるが、ただ、その違憲判断において最高裁は、憲法29条違反の主張については、給与所得に対する源泉徴収を念頭に置いて「給与所得者に対する所得税の徴収方法として能率的であり、合理的であつて、公共の福祉の要請にこたえるもの」としてその主張を斥け、憲法14条違反の主張については、給与支払者と給与所得者との「特に密接な関係」ないし「特別な関係」に着目して給与支払者の源泉徴収義務という「一般国民と異る特別の義務」に「合理的理由」を認めその主張を斥けたにとどまる(最大判昭和37年2月28日刑集16巻2号212頁)。 したがって、最高裁の上記の論理でもって、「当該非居住者・外国法人と我が国との間にネクサス(nexus)が生じる所得等の源泉部分を捕まえて、その源泉部分から、間接的に・・・・、租税を徴収する他ない。」(米田隆ほか「非居住者・外国法人に係る源泉徴収-源泉徴収対象の不明確性に起因する問題を中心に」金子宏監修=中里実ほか編『現代租税法講座第4巻 国際課税』(日本評論社・2017年)161頁)ことから導入された国際的源泉徴収制度を正当化することはできないように思われる。 このような問題を考慮すれば、尚更、国際的源泉徴収について適切手続の保障を検討・整備すべきであると考えるところである。さらに、そのような検討・整備を契機にして、源泉徴収制度全般にわたって手続的保障原則の観点から見直しを図るべきであろう。   Ⅳ おわりに 以上、今回は、租税法律主義の内容として手続的保障原則を取り上げ、租税手続の適正化の意義と課題を検討した。 租税手続の適正さは、租税法律関係の当事者である納税者と税務官庁との手続法上の関係を対等・対称的な権利義務の関係(法律関係)として構成することによって達成される、両者の手続的権利義務の対等性・対称性を意味するが、現行の租税手続は納税者と税務官庁に対して対等・対称的な権利義務の関係を十分に定めているとはいい難い。本来の納税義務者だけでなく源泉徴収義務者も含めて租税手続をみると、尚更である。 要するに、税法の実体的内容(租税実体法)だけでなく手続的内容(租税手続法)をも含めて実質的租税法律主義(第1回Ⅲ2、前掲・拙著第1編第3章(手続的保障原則については同章4)参照)を検討しその実現を図るべきであると考えるところである。 (了)

#No. 394(掲載号)
#谷口 勢津夫
2020/11/12

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕税法や通達以外の実務知識 【第9回】「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その1)」-用途地域-

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第9回】 「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その1)」 -用途地域-   税理士 笹岡 宏保   基本的な論点 都市機能の維持及び発展のためには、土地の有効利用を図ることが必要とされます。その一方で、無秩序な開発が行われると効率的な都市計画の妨げになってしまいます。 そこで、都市計画法において『用途地域』の区分が規定されており、都市計画において区分された地区ごとに、当該地区に適合する建築物の建築が行われるものとされています。 そうすると、都市計画法に規定する用途地域を確認することで、相続税等における土地評価で確認することが求められる『その地域』の認識の理解が深まるものと考えられます。   解決への指針 都市計画法第8条(地域地区)第1項第1号において、都市計画区域については、都市計画に下記に掲げる13の地域(以下「用途地域」と総称します。)を定めることができるものとされています。この用途地域は大別すると、『住居系』、『商業系』及び『工業系』の三区分に分類されます。 用途地域の各区分の意義は、次のとおりとなっています。 (1) 第一種低層住居専用地域 『第一種低層住居専用地域』は、低層住宅に係る良好な住居の環境の保護を目的とするために定められた用途地域をいいます。一部の店舗兼住宅等を除いては、店舗及び事務所用の建築物の建築は認められていません。 (2) 第二種低層住居専用地域 『第二種低層住居専用地域』は、主として低層住宅に係る良好な住居の環境の保護を目的とするために定められた用途地域をいいます。上記   部分のとおり、主体的には低層住宅向けの土地利用を目的とはするものの、日用品販売店舗等でその床面積が150㎡以下(ただし、2階建以下)であるものについては、その建築が認められるものとされています。 (3) 第一種中高層住居専用地域 『第一種中高層住居専用地域』は、中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護することを目的とするために定められた用途地域をいいます。第一種中高層住居専用地域では、日用品販売店舗等に加えて飲食店舗等も床面積が500㎡以下(ただし、2階建以下)であるものについては、その建築が認められるものとされています。 (4) 第二種中高層住居専用地域 『第二種中高層住居専用地域』は、主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護することを目的とするために定められた用途地域をいいます。上記   部分のとおり、主体的には中高層住宅向けの土地利用を目的とはするものの、店舗等(上記(1)ないし(3)に掲げる店舗等に係る用途制限はありません。)であれば床面積が1,500㎡以下(ただし、2階建以下)であるものや事務所等の床面積が1,500㎡以下(ただし、2階建以下)であるものについては、その建築が認められるものとされています。 (5) 第一種住居地域 『第一種住居地域』は、住居の環境を保護することを目的とするために定められた用途地域をいいます。第一種住居地域では、店舗等(上記(1)ないし(3)に掲げる店舗等に係る用途制限はありません。)であれば床面積が3,000㎡以下(上記(1)ないし(4)に掲げる階数制限はありません。)であるものや事務所等の床面積が3,000㎡以下(上記(4)に掲げる階数制限はありません。)であるものについては、その建築が認められるものとされています。 (6) 第二種住居地域 『第二種住居地域』は、主として住居の環境を保護することを目的とするために定められた用途地域をいいます。上記   部分のとおり、主体的には住宅(低層又は中高層の区分はありません。)向けの土地利用を目的とするものの、店舗等(上記(1)ないし(3)に掲げる店舗等に係る用途制限はありません。)であれば床面積が10,000㎡以下(上記(1)ないし(4)に掲げる階数制限はありません。)であるものや事務所等(床面積や階数に係る制限はありません。)の建築が認められるものとされています。 (7) 準住居地域 『準住居地域』は、道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護することを目的とするために定められた用途地域をいいます。準住居地域は幹線道路に沿って設定されることが多く見受けられ、店舗等(上記(1)ないし(3)に掲げる店舗等に係る用途制限はありません。)であれば床面積が10,000㎡以下(上記(1)ないし(4)に掲げる階数制限はありません。)であるものや事務所等(床面積や階数に係る制限はありません。)のほか、客席200㎡(床面積)以下であれば劇場や映画館等の建築が認められるものとされています。 (8) 田園住居地域 『田園住居地域』は、農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護することを目的とするために定められた用途地域をいいます。また、農地と低層住宅の調和のとれた並存を目標とする地域をいいます。田園地域では、日用品販売店舗等でその床面積が150㎡以下(ただし、2階建以下)であるもの及び農産物直売所や農家レストラン等でその床面積が500㎡以下のもの(ただし、2階以下)の建築が認められるものとされています。 (9) 近隣商業地域 『近隣商業地域』は、近隣の住宅地の住民に対する住民の日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進することを目的とするために定められた用途地域をいいます。近隣商業地域では、店舗等及び事務所等に対する床面積や階数の各制限は設けられていません。キャバレ-、個室付浴場等を除く遊戯施設、風俗施設の建築も可能とされています。 (10) 商業地域 『商業地域』は、主として商業その他の業務の利便を増進することを目的とするため定められた用途地域をいいます。商業地域では、一定の工場を除いたほぼ全ての用途(住宅、店舗等、事務所等、ホテル・旅館、遊戯施設・風俗施設、公共施設・病院・学校等)の建築物の建築が可能とされています。 (11) 準工業地域 『準工業地域』は、主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進することを目的とするため定められた用途地域をいいます。準工業地域では、危険性が高い一部の工場を除いたほぼ全ての用途(住宅、店舗等、事務所等、ホテル・旅館、遊戯施設・風俗施設(ただし、個室付浴場を除きます。)、公共施設・病院・学校等)の建築物の建築が可能とされています。 (12) 工業地域 『工業地域』は、主として工業の利便を増進することを目的とするため定められた用途地域をいいます。工業地域では、全ての用途に係る工場・倉庫等の建築が可能とされます。その一方で、次に掲げる建築物の建築は認められないものとされています。 (13) 工業専用地域 『工業専用地域』は、工業の利便を増進することを目的とするため定められた用途地域をいいます。工業専用地域では、全ての用途に係る工場・倉庫等の建築が可能とされます。その一方で、住宅(兼用住宅を含みます。)の建築は認められないものとされています。 上記(1)ないし(13)に掲げる各用途地域と当該用途地域に建築可能な建築物の種類を掲げると、下表のとおりとなります。 ◎用途地域による建築物の用途制限の概要 (注1) 本表は改正後の建築基準法別表第二の概要であり、全ての制限について掲載したものではありません。 (注2) 卸売市場、火葬場、と畜場、汚物処理場、ごみ焼却場等は、都市計画区域内においては都市計画決定が必要など、別に規定があります。 (東京都都市整備局ホームページより)   (了)

#No. 394(掲載号)
#笹岡 宏保
2020/11/12

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第11回】「繰越欠損金」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第11回】 「繰越欠損金」   公認会計士 佐藤 信祐 《第5章:繰越欠損金と特定資産譲渡等損失額》 1 適格合併以外の組織再編成 第7回で解説したように、適格合併以外の適格組織再編成に対して、合理的な計算を行った上で、繰越欠損金を引き継ぐという制度にすべきであると考えられる。   2 5年ルール 支配関係が生じてから5年を経過している場合において、適格組織再編成を行ったときは、繰越欠損金の引継制限、使用制限及び特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課されない(法法57③④、62の7)。さらに、支配関係が生じてから5年を経過した後に適用事由に該当した場合には、欠損等法人の規制の対象外とされている(法法57の2、60の3)。 上記のような5年ルールが導入された理由は、組織再編税制ができた平成13年当時は、欠損金の繰越期間が5年であったことから、長年にわたって支配関係がある法人については繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入を課さなくてよいという考え方における「長年」という基準が5年になったからである(※1)。その後、繰越欠損金の繰越期間も7年、9年、10年と延長されたが、それではあまりに長すぎるということで(※2)、上記の5年ルールはそのまま残されてしまった。 (※1) 朝長英樹『現代税制の現状と課題 組織再編成税制』40頁(注18)、42頁、佐々木浩(発言)仲谷修ほか『企業組織再編成税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』59頁(大蔵財務協会、平成24年)。 (※2) 佐々木前掲(※1)59頁。 そのため、支配関係が生じてから5年を経過するのを待つことにより、組織再編税制や欠損等法人の規制を免れるといった租税回避が考えられるようになった。もちろん、繰越欠損金の繰越期限に合わせて、5年ルールを10年ルールに見直した場合には、みなし共同事業要件を満たすのが難しくなるという問題がある。この点については、事業規模継続要件を緩和することにより(※3)、みなし共同事業要件を満たしやすくすることで対応すべきであると考えられる。 (※3) 例えば、一律に2倍とするのではなく、支配関係が生じてから5年を経過している場合には、5倍以上の増減がない場合に事業規模継続要件を満たせるようにするなどの対応が考えられる。   3 適格組織再編成による特定資産の移転 欠損等法人が他の法人に対して、欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入が課されるべき特定資産を適格組織再編成等により移転した場合において、当該他の法人が当該特定資産を譲渡したときは、欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入が課される(法法60の3②③、法令118の3④)。 これに対し、特定資産譲渡等損失額の損金不算入においては、そのような規定がないことから、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課されるべき特定資産を適格組織再編成により他の法人に移転し、当該他の法人において移転を受けた特定資産を譲渡した場合であっても、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課されないという問題がある。 そのため、特定資産譲渡等損失額の損金不算入においても、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の適用を受けるべき特定資産を適格組織再編成により他の法人に移転し、当該他の法人において移転を受けた特定資産を譲渡した場合には、特定資産譲渡等損失額が課されるように改正すべきであると考えられる。   4 二段階組織再編成における時価純資産価額が簿価純資産価額を超える場合等の特例 例えば、X2年10月1日に、P社を合併法人とし、A社を被合併法人とする適格合併を行い、X3年4月1日に、P社を合併法人とし、B社を被合併法人とする吸収合併を行った場合において、P社の支配関係事業年度の直前事業年度末がX1年3月31日であるときに、P社とB社の適格合併に対する時価純資産価額が簿価純資産価額を超える場合等の特例(法令113、123の9)の適用上、A社の資産及び負債を加味するかどうかが問題となる。 この点については、条文上、P社における支配関係事業年度の直前事業年度末であるX1年3月31日の時価純資産価額と簿価純資産価額を比較して時価純資産超過額を計算すると規定されていることから、その後に適格合併で取得したA社の時価純資産価額、簿価純資産価額を考慮せずに、P社単独の時価純資産価額と簿価純資産価額を比較して時価純資産超過額を計算すべきであると解されている。 そして、時価純資産超過額と比較すべき繰越欠損金についても、当該支配関係事業年度開始の時までに、法人税法57条2項の規定によりA社から引き継がれた繰越欠損金を含むものの、支配関係事業年度開始の日以後に、A社から引き継がれた繰越欠損金を含まないものとされている(法令113①④)。そのため、上記の事案では、A社から引き継がれた繰越欠損金を含まずに時価純資産超過額と比較することから、上記の解釈に不都合はないと思われる。 しかしながら、A社から引き継いだ資産の含み損とB社から引き継いだ資産の含み益を相殺することもできてしまうことから、本来であれば、二段階組織再編成をも考慮したうえで、時価純資産超過額を算定すべきである。そのため、二段階組織再編成を考慮した規定に改正すべきであると考えられる。   《第6章:欠損等法人》 1 5年ルール 第5章で解説したように、現行法上、支配関係が生じてから5年を経過した後に適用事由に該当した場合には、欠損等法人の規制が課されないこととされているが(法法57の2、60の3)、繰越欠損金の繰越期限に合わせて10年とすべきであると考えられる。 この場合における実務上の不都合を検討すると、法人税法57条の2第1項では、適用事由として、(1)欠損等法人が支配日の直前において事業を営んでいない場合、(2)欠損等法人が支配日の直前において営む事業のすべてを当該支配日以後に廃止し、又は廃止することが見込まれている場合、(3) 他の者又は関連者が当該他の者及び関連者以外の者から欠損等法人に対する特定債権を取得している場合、(4)(1)(2)に規定する場合又は(3)の特定債権が取得されている場合において、欠損等法人が自己を被合併法人とする適格合併を行い、又は当該欠損等法人の残余財産が確定する場合、(5)欠損等法人が特定支配関係を有することとなったことに基因して、当該欠損等法人の当該支配日の直前の特定役員のすべてが退任をし、かつ、当該支配日の直前において当該欠損等法人の業務に従事する使用人の総数のおおむね100分の20以上に相当する数の者が当該欠損等法人の使用人でなくなった場合が挙げられる。 上記のうち、(1)(3)(4)については、さほど不都合はないと思われるが、(2)(5)については、若干の不都合があるようにも思われる。しかしながら、(2)については、M&Aの対象となる事業が廃止されていることから、M&Aの時点では想定しておらず、7~8年後に事業が廃止されたとしても、繰越欠損金が切り捨てられるという点に不都合はないと思われる。 さらに、(5)についても、「基因」と規定されていることから、特定支配関係の成立と役員の退任及び使用人の退職との間に相当因果関係が必要になる。すなわち、買収後の後発事象により、役員の退任、使用人の退職があったとしても、欠損等法人の規制の対象にはならないことから、5年ルールが10年ルールに変わったとしても不都合はないと思われる。   2 「廃止」の明確化 実務上、例えば、居酒屋を廃止し、レストランを開始した場合に、旧事業を廃止し、新事業を開始したものとして、上記(2)に該当し、欠損等法人の規制が課されるのかという点が議論となる。さらに、グループ内の法人に事業を譲渡した後に清算した場合に、欠損等法人において事業が営まれなくなることから、上記(4)に該当し、欠損等法人の規制が課されるのかという点が議論となる。 この点について、前者については、旧事業のノウハウをそのまま活かす形で新しい事業に変えたに過ぎないことから、適用事由には該当しないと考えられる。そして、グループ内の法人に事業を移転した後に清算することが事業の廃止に該当するのであれば、支配関係が生じてから5年以内に残余財産の確定により繰越欠損金を引き継ぐことができなくなることから、明らかに組織再編税制と整合しなくなるため、事業の廃止には該当しないと考えられる。 しかしながら、実務上、上記のような疑義があることから、「廃止」という文言についての明確化を図るべきであると考えられる。   3 資産管理会社の買収 支配関係が生じてから5年以内に適用事由に該当した場合には、欠損等法人が保有する繰越欠損金が切り捨てられる(法法57の2①)。さらに、適用事由に該当した日(「該当日」という)以後に欠損等法人を合併法人とする適格合併を行うことにより、欠損等法人が被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことも認められていない(法法57の2②一)。 そのため、製造業を営むA社(事業会社)を買収するために、A社(事業会社)の100%親会社であるB社(資産管理会社)の発行済株式の全部を取得した場合において、B社(資産管理会社)が事業を営んでいないことを理由として欠損等法人の規制が課されるときに、B社(資産管理会社)を合併法人とし、A社(事業会社)を被合併法人とする適格合併を行ってしまうと、A社(事業会社)との合併による事業の受入れが事業の開始に該当することから、「欠損等法人が特定支配日の直前において事業を営んでいない場合において、特定支配日以後に事業を開始した場合」に該当するという問題が生じることになる。 それだけでなく、合併により事業を受け入れた日が「該当日」であり、当該「該当日」以後に欠損等法人が自己を合併法人とする適格合併を行っていることから、欠損等法人が被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことができないため、B社(資産管理会社)がA社(事業会社)の繰越欠損金を引き継ぐことができないという問題も生じることになる。 そのため、単独では事業を営んでいない場合であっても、グループ全体では事業を営んでいる場合には、欠損等法人の規制の対象から除外するように改正すべきであると考えられる。 *   *   * 次回では、譲渡損益の繰延べについて解説する予定である。 (了)

#No. 394(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/11/12

〈令和2年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第1回】「令和2年分から適用される改正事項(その1)」

〈令和2年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「令和2年分から適用される改正事項(その1)」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   11月も半ばとなり、今年も年末調整に向けた準備を始める時期となった。本年分の年末調整は、適用される改正事項が多く、新たな申告書も設けられている。改正の内容について理解を深め、処理を誤らないよう準備を進めたい。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。第1回と第2回は、令和2年分の所得税から適用される改正事項のうち、年末調整において注意しておくべき事項について解説を行う。 なお、本年分の記事に加え、論末の連載目次に掲載された過去の拙稿(年末調整のポイント)もご参照いただきたい。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。   【1】 主な改正事項 令和2年分の年末調整に影響のある主な改正事項は、次の6つである。 以下、順番に解説する。   【2】 給与所得控除及び公的年金等控除の見直し 令和2年分以後の所得税では、特定の収入にのみ適用される給与所得控除と公的年金等控除の控除額が引き下げられ、すべての収入を対象として適用される基礎控除の控除額が引き上げられた。 (財務省ホームページより) (1) 給与所得控除の見直し 給与所得控除の見直しのポイントは、次のとおりである。 《給与所得控除の見直し》 令和元年分までと令和2年分以後の給与所得控除額を比較すると、次のとおりである(所法28③)。 (2) 公的年金等控除の見直し 公的年金等控除についても、次のとおり見直しが行われている。役員や従業員(以下、従業員等という)及びその配偶者や親族が公的年金等を受給している場合には、合計所得金額を確認する際に注意が必要である。 《公的年金等控除の見直し》 令和元年分までと令和2年分以後の公的年金等控除額の比較については下記をご参照いただきたい(所法35④)。   【3】 配偶者、扶養親族等の所得要件の調整 給与所得控除と公的年金等控除の引下げに伴い、扶養親族等の合計所得金額要件の調整が行われた(所法2①三十二~三十四)。 調整の結果、「備考」欄に記載しているとおり、給与の収入金額でみると改正前後で金額は変わらない。 (※) ここでは省略しているが、公的年金等についても収入金額でみると改正前後で金額は変わらない。   【4】 基礎控除の見直し 給与所得控除額と公的年金等控除額の引下げに対し、基礎控除の控除額は一律10万円の引上げとなる。ただし、合計所得金額が2,400万円を超えると控除額は段階的に引き下げられ、2,500万円を超えると控除額はゼロとなる。 《基礎控除の見直し》 令和元年分までと令和2年分以後の基礎控除の控除額を比較すると、次のとおりである(所法86①)。 なお、年末調整で基礎控除の適用を受けようとする場合には、その年最後の給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に「基礎控除申告書」を提出する必要がある(所法190二ホ)。   【5】 所得金額調整控除の創設 (1) 創設の背景 【2】の(1)で示したとおり、今回の改正で給与所得控除の上限額が220万円から195万円に引き下げられたことにより、基礎控除の控除額が10万円引き上げられたとしても、給与収入850万円を超える人は改正前と比べ課税対象となる給与所得が増加することになる。 また、給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある人は、【2】の(1)及び(2)の改正により給与所得控除と公的年金等控除がそれぞれ10万円ずつ引き下げられることから、基礎控除の控除額が10万円引き上げられたとしても、税負担が増加するケースがあり得ることとなる。 (2) 所得金額調整控除とは 上記(1)で示した改正の影響に対し、子育てや介護に対して配慮する観点から、また、給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合に負担増が生じないようにするため、「所得金額調整控除」が措置された。 所得金額調整控除には、①子ども等を有する場合の調整と②給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整の2つがある(措法41の3の3①②)。 これらの調整のうち①子ども等を有する場合の調整は、年末調整においても適用を受けることができる(措法41の3の4)。 (3) 子ども等を有する場合の調整 給与等の収入金額が850万円を超える居住者のうち、次の(ア)から(ウ)のいずれかに該当するものは、給与所得の金額から下記[調整額]の金額が控除される(措法41の3の3①)。 なお、年末調整で所得金額調整控除の適用を受けようとする場合には、その年最後の給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に「所得金額調整控除申告書」を提出する必要がある(措法41の3の4①②)。 (4) 給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整 給与と公的年金等に係る雑所得の両方を受給している居住者のうち、給与所得と公的年金等に係る雑所得の合計額が10万円を超えるものについては、給与所得の金額(※)から下記[調整額]の金額が控除される(措法41の3の3②)。 (※) 上記(3)の適用がある場合には、(3)の調整額を控除した後の金額 *  *  * 次回は、「ひとり親控除の創設と寡婦控除の見直し」及び「年末調整手続の電子化」について解説し、令和2年分の年末調整で新設された「基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」の記載方法を取り上げる予定である。 (了)   

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2020/11/12

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第4回】「居住用家屋の敷地と同時に私道の共有持分を譲渡した場合」-居住用家屋の敷地の判定-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第4回】 「居住用家屋の敷地と同時に私道の共有持分を譲渡した場合」 -居住用家屋の敷地の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、下図のようにA土地を単独所有し、自己の居住用家屋の敷地として利用していました。また、B土地・C土地は、私道として利用されており、X、Y及びZが共有しています。 このたび、Xは、A土地並びにB土地及びC土地に係る共有持分を売却しました。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」の適用範囲はどのようになるでしょうか。 A 譲渡損失のうち、A土地及びB土地の持分に対応する部分については「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができますが、C土地の持分に対応する譲渡損失については同特例の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 譲渡した土地等が居住用家屋の敷地に該当するかどうかは、社会通念に従い、その土地等がその家屋と一体として利用されている土地等であったかどうかにより判定します(措通31の3-12(居住用家屋の敷地の判定)、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 したがって、社会通念上、B土地はA土地と一体となっているものと認められますが、C土地はA土地と一体となっているものと認められませんので、譲渡損失のうちC土地に対応する部分については「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用対象外となります。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)

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2020/11/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第23回】「不動産の組み換えと「無償返還に関する届出書」制度を活用した承継対策」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第23回】 「不動産の組み換えと 「無償返還に関する届出書」制度を活用した承継対策」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) マネジャー 税理士 髙田 泰輔   相談内容 私は非上場会社D社のオーナーだった故Kの妻Y(70歳)です。 Kの相続の際に私が相続したのは自宅不動産と金融資産のみでD社株式についてはすべて息子のSとT(いずれも取締役)が承継しています。 地方の地主の娘だった私は父から相続した賃貸不動産を複数保有しています。しかし、近年はどれも収益性が悪いにもかかわらず、相続税評価額は約4億円と高額なため、息子の2人も相続することには抵抗があるようです。相続税対策も踏まえて、何かいい方法はありますか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 不動産の組み換え 一般に、現在保有している不動産を売却して新たに不動産を取得することを「不動産を組み換える」といいます。例えば、次のような事例が挙げられます。 上記のように、不動産の組み換え基本パターンは「収益性(財産価値)の低い不動産を処分して収益性(財産価値)の高い不動産を購入する」ことです。相続対策としての不動産の組み換えでは、この基本パターンに加え次のポイントを考慮する必要があります。 ご相談のケースも、ご子息が収益性の低い不動産の相続に抵抗があるということなので、上記のポイントをおさえた不動産の組み換えを行うことが有効と考えます。   [2] 法人と「無償返還に関する届出書」制度の活用 単に不動産を組み換えて収益性の高い土地付建物をYが取得すると、Yのキャッシュ・フローは良くなりますが、物件から生ずる賃料収入がYの相続財産を構成することとなります。 したがって、収益物件の土地の取得者をYとし、建物はD社が取得して賃料収入をD社の収入とします。この場合、D社はYに地代を支払う必要がありますが、使用貸借と認定されない程度の地代(その土地の固定資産税等の年税額や近隣の地代相場などを考慮して決定)を支払います。 Yの地代収入を最小限とすることで、Yの相続財産の増加を防止することができ、物件から生ずる収益はD社の収入となるため、ご子息であるSとTの役員報酬に充てることで所得の分散も図ることができ、納税資金の準備も図れます。 注意が必要なのが、借地権の認定課税の問題です。法人借地人が、通常権利金を支払う取引上の慣行があるにもかかわらず、権利金を支払わない場合において、支払う地代年額が「相当の地代」の額(※1)に満たない場合には、原則として借地権利金相当額の受贈益の認定課税が行われます。 (※1) 原則として、その土地の更地価額のおおむね年6%程度(法基通13-1-2、平成元年3月30日直法2-2「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」(法令解釈通達) しかし、土地の賃貸借契約を締結する際に、将来において法人がその土地を無償で返還することを定めた上で、「土地の無償返還に関する届出書」(以下、「無償返還届出書」といいます)を所轄の税務署へ提出した場合には、借地権の認定課税は行われません。相当の地代の額から実際に収受している地代の額を控除した金額を地主から贈与されたものとして、相当の地代の認定課税をするにとどめることとされています。税務上の仕訳は「支払地代(損金)/受贈益(益金)」となるため、認定課税により、法人に所得が生じるということはありません。 権利金の収受に代えて相当の地代を収受している場合も借地権の認定課税を回避できますが、相当の地代の額は「その土地の更地価額のおおむね年6%程度」と高額であるため、ご相談のケースにおいても地代収入がYの相続財産を構成することとなるため、適当ではありません。 上記理由から、相続税対策としての法人を活用した不動産の組み換えスキームでは、借地権設定時に無償返還届出書を提出することが通常です。 【地代年額の算定方法とイメージ】   [3] 無償返還届出書と貸宅地の相続税法上の評価 借地人が法人で地主が個人の土地賃貸借契約において、法人借地人が将来その土地を無償で返還することを約し、無償返還届出書を提出している場合には、その貸宅地の評価は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価することとされています(※2)。これにより、Yの相続税評価額の圧縮を図ることができます。 (※2) 昭和60年6月5日 課資2-58(例規)直評9「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(法令解釈通達)の8   [4] 小規模宅地等の特例による減額効果 Yが法人から受け取る地代が使用貸借とは認められない相当の対価であれば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(措法69の4)を適用することも可能です。 都心の土地であれば平米当たりの相続税評価額が高くなるため、現在所有の他の宅地等の平米当たりの相続税評価額が低い場合には、小規模宅地等の特例の適用による減額の効果も大きくなる可能性があります。 また、貸付事業用宅地については、原則として相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は対象外となりますが、相続開始前3年を超えて引き続き事業的規模で貸付を行っている者の貸付事業の用に供されたものであれば対象となります(措法69の4③四、措令40の2⑲、措通69の4-24の4)(平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、平成30年3月31日までに貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しないものとする経過措置が設けられています(所得税法等の一部を改正する法律(平成30年法律第7号)附則))。   [5] 使用貸借の場合の相続税評価額と小規模宅地等の特例の適用可否 使用貸借により貸し付けられている土地等については無償返還の届出書を提出している場合であっても、その土地の評価は自用地評価額により評価され(※3)、事業の用に供されていないため小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等にも該当しません。 (※3) 前掲(※2)の8(注) [2]のスキームにおいて、D社が法人に支払う地代を「使用貸借と認定されない程度の地代(固定資産税の年額や近隣の地代相場などを考慮して決定)」としているのは上記理由によります。   [6] 結論 法人を活用した不動産組み換えのスキームは相続税対策としても有効であるほか、キャッシュ・フローが健全化し、後継者に対して優良な財産の承継を図ることができます。不動産の譲渡と購入、その後の相続、相続後の法人への売却という取引段階を踏むため、各段階での税コスト(譲渡所得税・相続税、移転時の流通税、法人税・個人所得税への影響など)を加味したシミュレーションを行い、長期的な目線で計画を策定することが大切です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 394(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2020/11/12

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第65回】「「偽りその他不正の行為」の意義事件」~最判昭和42年11月8日(刑集21巻9号1197頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第65回】 「「偽りその他不正の行為」の意義事件」 ~最判昭和42年11月8日(刑集21巻9号1197頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 394(掲載号)
#菊田 雅裕
2020/11/12

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第41回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第41回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (3) どの時点の時価であるか 法人税法22条の2第4項は、どの時点の時価であるかという点について明らかにしている。同項の意義をこの点に見いだすことも可能である。 ア 資産の販売又は譲渡 法人税法22条の2第4項は、資産の販売等に係る収益の額として第1項又は第2項の規定により益金の額に算入する金額を定めており、1項のみならず、2項の場合にも適用がある。例えば、資産の販売又は譲渡を想定すると、1項は収益の計上時期として引渡基準を定めており、この場合の益金算入額は、4項によれば、その「資産の引渡しの時」における価額相当額となる。よって、収益の計上時期と収益の計上額に係る時価の測定時期が一致する。 資産の販売又は譲渡に法人税法22条の2第2項を適用する場合、すなわち収益の計上時期として近接日基準を適用する場合はどうか。この場合の益金算入額は、4項を文字どおり適用すれば、その近接日の価額ではなく引渡時の価額となり、収益の計上時期と収益の計上額に係る時価の測定時期が一致しないことに注意が必要である。法人税法22条の2第4項は、第1項を適用する場合と第2項を適用する場合とで、益金算入額のルールを書き分けておらず、同一のルールが適用されることになる。 引渡日よりも後の近接日で収益を計上するケース(下図の❸のケース)では、近接日②時点において引渡日の時価を把握しているため、近接日において引渡時の時価で益金算入することは可能であろう。では、引渡日よりも前の近接日で収益を計上するケース(下図の❶のケース)はどうか。近接日①時点では引渡日の時価を把握していないため、近接日において引渡時の時価を見積りし、益金算入することになろうか。 いずれにせよ、両ケースにおいて、引渡日の時価と近接日の時価に開差があるときに、実際に引渡日の時価で益金算入することを徹底すべきか、近接日、とりわけ約定日(契約締結日)等の時価で益金算入することは常に認められないのか、引渡日の時価と近接日の時価に開差がある場合にその差が常に所得金額に影響を及ぼすことになるか、という問題が残る。感覚的には、かかる開差に対して寄附金や役員給与などの損金不算入規定の適用があるような特殊なケースに注意を向けておけば足りるものと思われる。 既述のとおり、法人税法22条の2第4項は、益金の額に算入される時価ないし適正な価額が、単にインプットとしての対価の額そのものではなく、アウトプットとしての譲渡した資産又は提供した役務に係る時価であることを明らかにしている。無償により資産を譲渡する場合、つまりインプットとして収受される対価の額が零の場合にも有償(時価)により資産を譲渡した場合と同様の益金算入額となり、無償取引と有償取引の公平は確保されているといえよう(本連載第37回参照)。 無償譲渡を例にした場合、取引の相手方、つまり無償で資産を譲り受けた側には、法人税法22条の2の適用はないが、譲り受けた時にその時点の時価で収益の額を益金算入する。とすれば、資産の譲渡をした側が選択処理した収益の計上時期いかんにかかわらず、同条4項によって、資産の譲渡をした側の益金算入額と資産を譲り受けた側の益金算入額は一致することになる。すなわち、資産の譲渡をした側が引渡基準と近接日基準のいずれを採用していようが、資産の引渡時=譲受時であるとするならば、資産の譲渡をした側の益金算入額と資産を譲り受けた側の益金算入額は一致することになる。 資産の販売又は譲渡の取引は、基本的には、当事者が取引価格を含む取引条件に合意することによって成立し、その成立した取引の実行行為として、「資産の引渡し」が行われることとなる。このため、通常、当事者が取引価格に合意した時点では、「資産の引渡し」までは行われておらず、「資産の引渡し」は、当事者が取引価格に合意した時点よりも後の時点で行われることとなる。よって、資産の販売又は譲渡の取引における「時価」は、「約定時(取引が成立した時)」の「時価」となっており、「資産の引渡し時」の「時価」とはなっていないとして、資産の販売又は譲渡に係る「収益の額」とすべき資産の「時価」について、「資産の引渡し時における価額」を原則とするということに関しては、誤りであるという批判もなされている(朝長英樹「『収益認識に関する会計基準等への対応』として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(3)」T&A master751号25頁)。 引渡前に約定された対価の額をもって「資産の引渡しの時における価額相当額」として考えることができるのか、この後で述べる役務提供や法人税法61条の2第1項と表現振りを揃えなかった趣旨はどこにあり、それがどのような影響を及ぼすのか、という点について議論の余地があるといえよう。   (了)

#No. 394(掲載号)
#泉 絢也
2020/11/12
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