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基礎から身につく組織再編税制 【第22回】「適格分割(共同事業)」

基礎から身につく組織再編税制 【第22回】 「適格分割(共同事業)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は共同事業を行うための適格分割の要件について解説します。 1 共同事業を行うための適格分割の要件 共同事業を行うための適格分割の要件は、次の8つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 (※) ①~④の詳細は本連載の【第20回】を参照。   3 従業者引継要件 (1) 従業者引継要件とは 「従業者引継要件」とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務((2)参照)に従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧四)。 (2) 「分割承継法人の業務」について 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に、分割承継法人との間に完全支配関係がある法人の業務と分割後に行われる適格合併に係る合併法人の業務も分割承継法人の業務に含まれます。   4 事業継続要件 「事業継続要件」とは、分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧五)。 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に分割承継法人との間に完全支配関係がある法人、分割後に行われる適格合併に係る合併法人において、分割事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   5 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます(法令4の3⑧三)。 分割事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかの判定は、支配関係がある場合の適格要件と同様です(前回参照)。   6 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。   7 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、分割事業と分割承継法人の分割前に行ういずれかの事業とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます(法令4の3⑧一)。 分割事業は分割法人から移転する事業であればよく、共同事業を行うための適格合併の場合の要件とは異なり、主要な事業である必要はありません。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」とは、次のような場合をいいます(法規3①二・②・③)。   8 事業規模要件又は経営参画要件 共同事業を行うための適格分割の要件としては、事業規模要件又は経営参画要件のいずれかを満たすことが求められています(法令4の3⑧二)。 (1) 事業規模要件 「事業規模要件」とは、分割事業と分割承継法人の事業(分割事業と関連する事業に限ります)のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。共同事業を行うための適格合併の要件(本連載【第8回】参照)と異なり、資本金による規模の判定はできませんのでご留意ください。 (例) 事業規模要件は、規模があまりに異なる分割は共同で事業を行うものとは認められないという趣旨により設けられたもので、事業の規模の割合がおおむね5倍を超えないかどうかは、売上金額等の指標のうち、いずれか1つが要件を満たすかどうかにより判定します(法基通1-4-6(注))。 (2) 経営参画要件 ① 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、分割前の分割法人の役員等(②参照)のいずれかと分割承継法人の特定役員(③参照)のいずれかとが分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれていることをいいます。 事業規模要件を満たさない場合でも、分割法人と分割承継法人の両方の経営陣が分割後に経営参画しているものは共同で事業を行うためのものとして認めるという趣旨により設けられています。 ② 役員等とは 「役員等」とは、役員及び社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいいます。 ③ 特定役員とは 「特定役員」とは社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(④参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 ④ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。 共同事業を行うための適格合併の要件(本連載【第8回】参照)と異なり、分割法人、分割承継法人の双方において特定役員である必要はないことに加え、分割法人については「役員等」と規定されていることから、常務取締役以上の役員である必要はなく、対象となる役員の範囲が広くなっています。   9 株式継続保有要件 (1) 分割型分割の株式継続保有要件 分割型分割における株式継続保有要件は、分割型分割により交付される分割承継法人の株式又は分割承継親法人株式のいずれか一方の株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主((2)参照)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧六イ)。 (2) 「支配株主」とは 株式継続保有要件における「支配株主」とは、分割型分割の直前に、分割法人の発行済株式の50%超を保有する株主をいいます。 下図の株主Aは支配株主に該当するため、対価(分割承継法人株式)を継続保有することが求められます。 (3) 分社型分割の株式継続保有要件 分社型分割における株式継続保有要件は、分社型分割により交付される分割承継法人の株式又は分割承継親法人株式の全部を分割法人が継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑧六ロ)。 分割型分割における株式継続保有要件と異なり、支配株主の有無に関係なく求められ、議決権のない株式を含めてすべて継続保有することが求められています。   ◆共同事業を行うための適格分割の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件により、原則、株式以外の対価を交付しないことが求められています。 従業者引継要件については、分割法人の全事業の従業者ではなく、分割事業にかかる従業者の引継ぎが求められています。 事業引継要件については、合併と異なり、主要な事業ではなく分割事業を引き継げばよいこととされています。 事業関連性要件については、合併と異なり、分割法人の主要な事業である必要はありません。 事業規模要件については、事業関連性で使用した事業を用いて判定します。 事業規模要件の判定指標として資本金を選択することはできません。 経営参画要件については、単なる役員ではなく特定役員に就任する必要があります。 経営参画要件については、合併と異なり、分割法人における対象役員の範囲が広くなっています。 分割型分割と分社型分割とでは、株式継続保有要件の判定の仕方が異なります。   (了)

#No. 395(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/11/19

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第20回】「『役員報酬』と『役員給与』」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第20回】 「『役員報酬』と『役員給与』」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 会社法上の「役員報酬」 まずは会社法上の役員に対する人件費について概要を確認したい。 会社と役員(取締役・会計参与・監査役)の関係は委任関係にあるため(会社法330)、その報酬は無償であることが原則であるが(民法648①)、有償特約があるものとして報酬が支払われるケースが常である(※1)。 (※1) 【第10回】参照。 そして、会社法361条は取締役の報酬等について定めており、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるとしている。重要なのは、役員が受ける「報酬等」の定義を示している点であり、これによると「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と示されている(※2)。 (※2) 会社法上の役員とされる会計参与や監査役も(会社法329)、報酬等について定款にその額の定めがない場合には、株主総会の決議による旨が定められている(会社法379、387)。 「報酬等」と表現されているのは、職務執行の対価であればその全てが含まれることを意味し、例えばストックオプションや株式報酬等、その報酬は金銭報酬に限られず、その額は固定額でなくても制限はない。ただし、報酬のうち金銭でないものについては、定款又は株主総会の決議に拠る必要がある(会社法361①三)。このような例として、役員に居住させる社宅等が典型例である。 このように、「報酬等」は、職務執行の対価として支給されるあらゆるものが含まれるが、有価証券報告書等、そして銀行法における開示対象としての「報酬等」も、この報酬等と同義と捉えて差し支えない(※3)。したがって、「役員報酬」は、職務執行の対価として役員に支給されるあらゆる利益を総称したものであるといえる。なお、役員報酬の会計処理に関しては、役員賞与を含め、費用として処理されることが示されている(※4)。 (※3) 高田剛『実務家のための役員報酬の手引き(第2版)』(商事法務、2017)4-5頁。 (※4) 企業会計基準委員会「役員賞与に関する会計基準(企業会計基準第4号)」4頁。 留意点としては、職務執行の対価ではなく「職務執行の費用」であれば報酬等に含まれないことにある(民法650①)。したがって、役員特別室や福利厚生施設・制度の利用、便益の程度が僅少な場合においては、職務執行の対価性を欠くため、役員報酬には含まない(※5)。 (※5) 田辺総合法律事務所・Moore至誠監査法人・Moore至誠税理士法人編著『役員報酬をめぐる法務・会計・税務(第5版)』(清文社、2020)289頁。   (2) 法人税法上の「役員給与」 これに対して、法人税法上の役員に対する人件費についても概要を確認する。 基本中の基本ではあるが、法人税法においては「役員給与」という言葉が使用されており、法人税法34条の見出しが「役員給与の損金不算入」である他、経過措置として現存する改正法附則においても見出しに「役員給与」という言葉が用いられている(平成18年改正法附則27他)。なお、「役員給与」の意義については法人税法上言及されていない。 そこで、法人税法34条がターゲットとする「役員」について確認すると、法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者(法法2⑮、法令7)とされており(※6)、会社法上の役員よりも範囲が広い。法人税法34条は、これらの者に対して支給する給与こそが原則として損金不算入となる旨、そして3形態(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)に該当して初めて損金算入が可能な旨を定めている。 (※6) 【第1回】の通り、みなし役員の概念が存在する。 また、法人税法や通達にて経済的利益も役員給与に含まれることが示されており(法法34④、法基通9-2-9以下)、これは会社法上の役員報酬のうち金銭報酬以外のものに対応するものである。したがって、両者にはほとんど相違点はないといってよく、会社法と法人税法、いずれの議論であるかによって使い分けるケースがよく見られる(※7)。 (※7) なお、当連載においても、(多少の主観は入るものの)会社法上の議論が色濃い場面では「役員報酬」と、法人税法上の議論が色濃い場面では「役員給与」という言葉を用いている。   (3) 職務執行の対価=役員給与の3類型ではない 詳細な経緯等は割愛するが、平成18年度税制改正前の法人税法における役員人件費は、職務執行の対価の性格を受けて「役員報酬」と呼ばれており(※8)、利益分配の性格を有するため損金算入が認められない「役員賞与」の概念も存在した(旧法法35)。その後の税制改正により、「役員賞与」は費用計上が相当であるとした会社法や企業会計に呼応する形で、「役員給与」に一本化されている。 (※8) 旧法人税法によると、役員に対して支給する報酬の額のうち、不相当に高額な一定の金額は損金の額に算入しない旨が定められ(旧法法34①)、その役員報酬の範囲は、経済的利益を含む役員に対する給与のうち、賞与及び退職給与以外のものであるとされていた(旧法法34③)。 当時の法人税法では損金算入が可能であったが、「役員給与」となり損金算入の機会が失われたものとして、役員に対する歩合給・能率給(旧法基通9-2-15)や、増額改定の遡及(旧法基通9-2-9の2)がある。これらは定期同額給与の「同額」要件を充足しないことが理由となる。このように、会社法において職務執行の対価とされた役員報酬の全てが、法人税法における役員給与の3形態に該当し得るわけではないことは知っておくべきである。 (了)

#No. 395(掲載号)
#中尾 隼大
2020/11/19

相続税の実務問答 【第53回】「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告(法定相続分以上の財産を取得した者があるとき)」

相続税の実務問答 【第53回】 「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告 (法定相続分以上の財産を取得した者があるとき)」   税理士 梶野 研二   [答] 未分割財産については、分割済みの財産の価額と合わせて法定相続分相当額となるように分割したものとして各相続人の相続税の課税価格を計算します。しかし、お母様は、既に法定相続分相当額を超える財産を取得していますので、未分割財産は、お母様以外の相続人であるあなた方姉妹が分割済みの財産と合わせて同額を取得したものとなるように調整して、相続税の課税価格を計算します。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産が未分割の場合の相続税の申告 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算することとされています(相法55)。   2 遺産の一部が未分割の場合の課税価格の計算 遺産の全部が未分割である場合には、当該遺産を各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って取得したものとして相続税の課税価格を計算します。 ところで、遺産の一部が分割され、残りの遺産が未分割である場合には、相続税の課税価格の計算方法について、いわゆる積上方式と穴埋方式の2つの計算方法が考えられますが、後者の穴埋方式、すなわち、既に分割により取得した財産の価額と未分割の財産の価額を合わせたところで、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って取得したものとなるように、各共同相続人又は包括受遺者の課税価格に加える未分割財産の価額を調整する方法が相当であることは前回説明したとおりです。 しかしながら、遺産の一部分割により、一部の相続人又は包括受遺者が、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合を超える価額の財産を取得している場合には、穴埋方式をそのまま適用することはできません。 このような場合、遺産の一部分割により民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合を超える価額の財産を取得した相続人又は包括受遺者を除いた相続人又は包括受遺者の間で、これらの者の間における民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合と等しくなるように遺産を取得したものとなるように各共同相続人又は包括受遺者の課税価格に加える未分割財産の価額を調整することとなります。   3 ご質問の場合 お父様の遺産の総額は、1億1,500万円であり、お母様の民法の規定による相続分は2分の1ですから、5,750万円(1億1,500万円 × 1/2)がお母様の民法の規定による相続分に相当する額となりますが、お母様は分割協議により既に6,000万円の自宅土地建物を取得しています。そこで、あなた方姉妹は、既に分割により取得した財産の価額と未分割財産の価額の合計額が、お母様を除いた相続人であるあなたとお姉様の民法の規定による相続分の割合と等しくなるようにそれぞれの課税価格に加える未分割財産の価額を調整することとなります。 あなたとお姉様は、ともに被相続人であるお父様の子ですので、民法に定める相続分の割合は同じです。したがって、未分割財産について、次のとおり取得したものとして相続税の課税価格を計算することとなります。 したがって、お母様及びあなた方の相続税の課税価格は次のとおりとなります。 (注) お母様が取得した自宅土地について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4第1項)が適用できる場合には、お母様の課税価格は同特例を適用することにより減額されます。 (了)

#No. 395(掲載号)
#梶野 研二
2020/11/19

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第5回】「居住の用に供されなくなった後で、事業の用に供した場合」-譲渡資産の範囲-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第5回】 「居住の用に供されなくなった後で、事業の用に供した場合」 -譲渡資産の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、大阪にある自己所有の家屋に妻とともに居住していましたが、一昨年3月に東京本社への転勤命令があって、大阪の家屋は賃貸に出し、東京の社宅に引っ越しました。 大阪の賃借人が立ち退いて直ぐの本年9月、その家屋をその敷地とともに売却したところ多額の譲渡損失が発生し、銀行で住宅ローンを組んで東京に新宅を購入し、東京の社宅から引っ越して、現在、居住の用に供しています。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 居住の用に供されなくなった後、事業の用に変更した場合であっても、居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡された場合は、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● Xは、居住の用に供されなくなった家屋を、事業の用に供しています。しかしながら、「居住用財産買換の譲渡損失特例」にも、「居住用財産の特別控除(措法35②)」と同様に、その居住用家屋が当該個人の居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合には、当該譲渡に該当すると規定されています(措法41の5⑦一ロ)。 したがって、Xは当該特例の控除等を受けることができます。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても同様の該当規定が定められています(同条⑦一ロ)。 (了)

#No. 395(掲載号)
#大久保 昭佳
2020/11/19

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第8回】「価格設定の方法を考える」~100円ショップで試される目利きの力~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第8回】 「価格設定の方法を考える」 ~100円ショップで試される目利きの力~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 《新製品:壁掛け一輪挿し》 *  *  * 製品の販売価格を設定する方法として思いつきやすいのは、単位当たりのコストに利益を上乗せして販売価格とするアプローチです。 〈コストを重視したアプローチ〉 単位当たりのコストに、一定割合の利益を上乗せして販売価格とする方法を「」と言います。また、得たい利益の算出については、投資利益率(ROI:Return On Investment)を考慮する方法も考えられます。例えば、その事業の元手として500万円を投資したとして、投資額に対して30%の利益を得たい場合、製品1個当たりで得たい利益は500万円 × 30% ÷ 3,000個 = @500円です。これを単位当たりコストに上乗せする考え方は、「」と呼ばれます。 いずれにせよ、これらの価格設定方法はコストを重視した内部志向のアプローチです。 *  *  * *  *  * コストを重視した内部志向のアプローチは、計算が容易で公正な印象があり、また、一定の利益を確保しやすいという安心感があります。 ただし、このアプローチによる場合、単位当たりのコストを求めるために、販売数量を事前に見積もる必要があります。一方で、販売できる数量は販売価格に大きく左右されます。つまり、販売価格を設定するにあたって、販売価格の影響を受けて増減してしまう販売数量を見積もらなければならないという、ある意味矛盾した側面があるといえます。 *  *  * *  *  * 100円ショップの商品をよく見ると、原価自体が100円近いと思えるようなお買い得の商品もあれば、スーパーでは100円以下で売っているような商品もあることに気付きます。100円ショップで買い物をするときには、お買い得の商品を見抜く『目利き力』が試されているといっても過言ではないかもしれませんね。 ですが、たいていの場合は、お買い得でなくても「ついで買い」をしたり、不要ものまで買ったりしてしまうものです。100円ショップでは商品ごとの利益率はバラバラですが、全て100円という均一価格で販売することで、気軽に複数商品を購入してもらい、全体での利益を確保しているのですね。 *  *  * *  *  * 顧客は、商品に対して総合的に抱いている価値と、商品の価格が釣り合っていると感じるときに、その商品を購入しようと思います。そこで、多くの人がその商品に対して感じている価値を調べ、それを基準として販売価格を設定する発想があります。マーケティング・リサーチなどによって『売れる』価格を見つけ、それを元に販売価格を決定する方法で、「」と呼ばれます。 また、同じように顧客を重視した価格設定方法として、高品質の商品に思い切って低い販売価格を付ける「」という戦略もあります。プライベート・ブランド(小売業者や流通業者が企画・販売する独自ブランド)やファストファッションなどが典型ですが、低い販売価格を実現できる背景には、仕入や製造・流通といったビジネス・プロセス全体における抜本的な効率化による徹底したコスト削減があります。 こうした価格設定は、いずれも、顧客や需要を重視して『売れる』価格をまず設定し、そこから目標利益を控除した額を目標原価として、目標原価を実現していく発想です。つまり、需要を重視した外部志向のアプローチといえます。 *  *  * 〈需要を重視したアプローチ〉 *  *  * これらのアプローチ以外に、競合他社の価格を考慮して価格設定するアプローチもあります。鉄鋼・紙などの寡占業界や家電量販店などは、そうした傾向が強い業界です。価格の設定にはいろいろなアプローチがあるので、複数の視点から検討して、利益を確保したいですね。 *  *  * (了)

#No. 395(掲載号)
#石王丸 香菜子
2020/11/19

税効果会計を学ぶ 【第17回】「未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い」

税効果会計を学ぶ 【第17回】 「未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、未実現損益の消去に係る一時差異の取扱いについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 未実現損益の消去に係る一時差異の取扱い 1 未実現損益 例えば、親会社と子会社の間で資産の売買が行われ、購入した会社では資産として保有したままであり、連結グループの外部には売却されていない場合、当該資産を売却した会社で発生した損益は、連結財務諸表上、未実現損益となっている。 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益は、その全額を消去すると規定している。ただし、未実現損失については、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分は、消去しないこととされている(連結会計基準36項)。 連結決算手続上、未実現損益が消去されると、売却された資産の連結貸借対照表上の額と購入側の連結会社における個別貸借対照表上の当該資産の額との間に一時差異が生じる。つまり、未実現損益の消去に係る一時差異については、個別財務諸表において未実現損益(資産に係る売却損益)が発生した連結会社と、一時差異の対象となった資産を保有している連結会社が相違するのである(税効果適用指針127項、128項)。 売却元の連結会社の個別財務諸表上、売却年度に資産に係る売却益(又は資産に係る売却損)に対して課税され、当該税金の納付額(又は当該税金の軽減額)が法人税等に計上されている。 一方、連結財務諸表では、当該未実現損益が実現した時には、売却元の連結会社において、当該資産に係る売却益(又は資産に係る売却損)に対して課税されないこととなる(税効果適用指針126項)。 つまり、売却元の連結会社の個別財務諸表においては、未実現損益の発生年度に当該未実現損益(資産に係る売却損益)に対して課税されており、将来において未実現損益の消去に係る税金を減額又は増額させる効果は有してない。同様に、購入側の連結会社においては、個別貸借対照表上に計上されている購入した資産の額と課税所得計算上の資産の額とは原則として一致しており、一時差異は生じていない(税効果適用指針129項)。 しかしながら、連結決算手続上、消去された未実現損益は、連結財務諸表固有の一時差異に該当するため、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することとなるのである(税効果適用指針129項)。 2 繰延法の採用 税効果会計基準は、税効果会計の方法として、資産負債法を採用している(税効果適用指針6項、88項、89項(1))。 しかしながら、未実現損益の消去に係る一時差異の会計処理については、資産負債法ではなく、その例外として「繰延法」を採用している(税効果適用指針130項、131項、136項)。 繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である(税効果適用指針89項(2))。 3 会計処理 未実現損益の消去に係る一時差異については、次のように会計処理する(税効果適用指針34項~36項)。 4 未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率 未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、繰延法が採用されるため、未実現損益が発生した売却元の連結会社に適用された税率による(税効果適用指針137項)。 次のように規定されている(税効果適用指針138項)。 また、未実現損益の消去に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額については、税法の改正に伴い税率等が変更されても修正しないと規定されている(税効果適用指針56項)。 5 計算例 税効果適用指針の「設例7-1」を参考に、未実現利益の消去に係る一時差異の会計処理を示すと次のようになる。 《X1年3月期の会計処理(連結修正仕訳)》 ① 連結会社間の取引高の消去及び未実現利益の消去 ② 未実現利益の消去に伴う繰延税金資産の計上 ・繰延税金資産80 = 未実現利益の消去に係る将来減算一時差異400 × S社(売却元)の売却年度における法定実効税率20%(税効果適用指針137項) ・X1年3月期において計上した繰延税金資産については、売却元であるS社に適用されている税率が将来変更されても見直しは行わない(税効果適用指針56項)。 ・X1年3月期以降、その回収可能性の判断を行わない(税効果適用指針35項)。 (了)

#No. 395(掲載号)
#阿部 光成
2020/11/19

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第163回】収益認識基準⑧「契約資産、契約負債及び債権」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第163回】 収益認識基準⑧ 「契約資産、契約負債及び債権」   仰星監査法人 公認会計士 小林 清人     〈事例による解説〉(契約資産・債権)   〈会計処理〉(単位:千円) ◆X1年3月 〔製品Aに係る収益の計上〕 ◆X1年4月 〔製品Bに係る収益の計上〕 ◆X1年5月 〔製品A及びBの売掛債権にかかる入金〕   〈会計処理の解説〉 1 X1年3月の仕訳 甲社は3月に乙社に対し、製品Aを引き渡し、即日検収されたタイミングで売上高1,000千円を認識します。ただし、前提条件(2)のとおり、製品Bの引渡しという条件があるため、製品Aを引き渡しただけでは、上記の売上高1,000千円に係る法的な請求権はありません。よって、甲社はX1年3月時点では、借方科目として「売掛金(= 債権)」ではなく、「契約資産」という科目を使用します。 2 X1年4月の仕訳 甲社は4月に乙社に対し、製品Bを引き渡し、即日検収されたタイミングで売上高2,000千円を認識します。このタイミングで、前提条件(2)のとおり、乙社は甲社に対し支払義務が生じ、甲社は法的な請求権を獲得します。この時、X1年3月に認識した契約資産1,000千円とX1年4月に認識した売上高2,000千円を合わせて、「売掛金(= 債権)」3,000千円を認識します。 3 X1年5月の仕訳 甲社は5月に乙社からの入金を認識します。   〈事例による解説〉(契約負債) 契約負債は、履行義務が充足される前に企業が受け取る前受金です。簡単な設例を挙げると以下の通りです。   〈会計処理〉(単位:千円) ◆X1年2月 〔契約負債(前受金)の計上〕 ◆X1年3月 〔売上高の計上〕 *  *  * (了)

#No. 395(掲載号)
#小林 清人
2020/11/19

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第11回】「共有不動産はどうして価値が下がるのか」~税務の常識と鑑定評価の常識~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第11回】 「共有不動産はどうして価値が下がるのか」 ~税務の常識と鑑定評価の常識~   不動産鑑定士 黒沢 泰     1 相続税の財産評価における共有不動産の評価~税務の常識 財産評価基本通達では、共有財産の持分の価額につき次の規定を置いています。 また、国税庁ホームページ(質疑応答事例)では、共有地の評価につき次の回答を行っています。 このように、相続税評価の上では不動産の評価額(総額)に共有持分割合を乗じた金額そのものが共有者各人の持分の価額とされており、共有減価という考え方は登場しません。   2 鑑定評価の常識では 共有持分の評価に当たり参考になる考え方が、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のホームページで次のとおり紹介されています(下線は筆者によります)。 (注1) 筆者注:換価分割とは、共有物全部を売却し、売買代金を持分に従って共有者間で分割する方法を意味します。 (注2) 筆者注:代償分割とは、特定の共有者が他の共有者から持分を買い取る(=代償金を支払う)結果、その不動産を単独所有することを意味します。 なお、ここに紹介されているケースは共有減価の生じる(=共有減価を認識する必要の生じる)一例であり、このようなケースは他にも多くあります。ただし、ここに記載されているように、すべての共有持分を一括して特定の一人に売却する場合には共有状態が解消し、買主は単独所有の物件を取得することになるため、共有減価の必要はなくなります。   3 共有不動産はどうして価値が下がるのか 以上、税務の視点及び鑑定評価の視点から共有不動産の価値の捉え方の相違を検討してきました。そこで、共有不動産はどうして価値が下がるのかという素朴な疑問に対する考え方を述べてみたい思います。 (1) 売買との関連から 共有不動産の持分は、現実には親族間又は他の共有者との間で売買されるケースの方が圧倒的に多いといえます。また、一般に共有不動産といっても、共有者が2名で、その一方が他方から持分を譲り受ける場合は同時に完全所有権の状態が実現するため、購入後の制約に伴う市場性減価の生ずる余地はなくなります。 しかし、第三者が共有持分を購入しても、赤の他人である元々の共有者との折衝等に多くの手間を要するなど機動性に欠けるため、相応の減価(市場性減価)をしなければ購入者を見つけることが困難です。 このように、共有持分による所有形態の場合、土地建物の価格を単純に持分割合で按分した金額がそのまま評価額につながらないケースの方が多いといえます。しかも減価の程度は共有者の数が多くなればなるほど大きくなる傾向にあります。それだけでなく、持分のみの売買が市場で成立するかどうか難しいといえます(買手は特殊な専門業者に限定されるのではないでしょうか)。 (2) 維持管理面から 共有物の現状を維持管理していく上でも、また共有物を改良してその価値を高めていく上でも、その行為に関しては各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決しなければならない(民法第252条)こととされています。このように、各所有者が単独で意思決定できないところに共有の煩わしさがあり、減価要因となります。 また、共有物の維持管理には費用がかかり、その費用負担に関しても各共有者は持分に応じて管理費用を支払い、共有物から生ずる公租公課等の負担を負うこととなります(民法第253条第1項)(管理費用を立替払いした共有者のうちの1人が、立替払いを受けた他の共有者に対して持分割合に応じた費用償還請求をすることもできますが)。 (3) 共有であることによる様々なリスク 共有物の場合、民法第256条の規定により他の共有者からいつでも分割を請求される可能性があります。 その際、共有物の分割につき協議が整わないとき、共有者はその分割を裁判所に請求することができます。そして、現物を分割することができないとき、又は分割によって共有不動産の価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所はその競売を命ずることができるため、共有物全体が第三者の手に渡るリスクも生じます(民法第258条第2項)。 共有持分に関しては、共有者間の人間関係や協調関係がスムーズにいっている限り特段の問題は生じませんが、共有者のうちの1人が持分の処分を検討する場合、あるいは他の共有者に対して分割請求をする場合等を契機として、共有者は完全所有権の場合と比較してリスクを負うことになります。共有減価の発生要因は、このような点にも見い出すことができます。 最後に、区分所有建物(マンション)で専有部分が単独所有、敷地部分が共有という場合には、建物利用上の制約は生じないため、鑑定評価上も共有減価は織り込んでいないのが一般的です。 (了)

#No. 395(掲載号)
#黒沢 泰
2020/11/19

《速報解説》 留保金課税制度に対する会計検査院の指摘について詳細が明らかに~特定同族会社を子会社とするケースなど問題点を指摘~

《速報解説》 留保金課税制度に対する会計検査院の指摘について詳細が明らかに ~特定同族会社を子会社とするケースなど問題点を指摘~   Profession Journal編集部   先んじて一部新聞報道がなされていた、同族会社の留保金課税制度をめぐり会計検査院がその問題点を指摘した件について、11月10日に「令和元年度決算検査報告の概要」が公表されたことで、その詳細が明らかとなった。 同族会社の留保金課税制度(特定同族会社の特別税率:法人税法67条)とは、特定同族会社(同族会社のうち、発行済株式の50%超を1株主グループにより支配されている会社)における一定の留保金額に対し、通常の法人税に加え、特別税率(10~20%)の法人税が課税されるというもの。 この制度は、同族会社が非同族会社に比べ、利益が出ても配当をせず社内留保することで、税負担の軽減を図る傾向があるとして設けられたものだが、財務基盤の脆弱性を考慮し、平成19年度の税制改正によって、この特定同族会社のうち資本金の額又は出資金の額が1億円以下の「中小特定同族会社」については、課税対象から除外されている。 今回会計検査院が注目したのは、この財務基盤が脆弱とされている中小特定同族会社の純資産額と自己資本比率だ。 検査結果によると、まず純資産額については、中小特定同族会社16,845法人のうち、留保金課税の適用対象である特定同族会社1,445法人の平均純資産額(48億3,714万円)を上回る法人が456社あるとした。また自己資本比率では、特定同族会社1,445法人の平均自己資本比率(41.5%)を上回る中小特定同族会社が9,726法人あるとした。 さらにこの2つの指標がいずれも特定同族会社を上回る中小特定同族会社411法人の配当状況について、特定同族会社と比較するかたちで調査した結果、配当を行っていない法人の割合は中小特定同族会社が36.7%、特定同族会社が13.7%という結果になるなど、財務基盤が安定している中小特定同族会社が特定同族会社に比べて配当を行っていない傾向が見られるとし、課税の公平性が保たれていないと指摘した。 これらの調査結果と関連して会計検査院が問題視したのは、特定同族会社が子会社で、中小特定同族会社が親会社のケースだ。 この場合、子会社である特定同族会社(留保金課税対象)が、利益を留保せずに、親会社である中小特定同族会社(留保金課税対象外)へ配当を行った場合、配当を受けた親会社には受取配当等の益金不算入制度によって法人税は課されず、また、配当をしなかったり配当額を少なくするなどして、社内に留保することで、課税を避けることができる。実際に、上記特定同族会社1,445法人のうち、親会社である中小特定同族会社が子会社である特定同族会社の株式を100%を保有していて完全支配関係にある40法人のうち37法人が子会社から親会社へ配当を行っており、配当を受けた親会社のうち19法人が株主への配当を全く行っていなかったとしている。 〔中小特定同族会社が親会社になっている場合の留保金課税への影響〕 (※) 会計検査院ホームページより 会計検査院による税制上の問題点への指摘に対しては、そのほとんどが以後の税制改正で手当てされている。今回の指摘を受けどのような見直しがなされるのか、来月にも公表される令和3年度税制改正大綱への影響に注視されたい。 (了)

#No. 394(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/11/13

《速報解説》企業会計審議会、「監査基準の改訂に関する意見書」等を公表~監査報告書に「その他の記載内容」の区分を新設し、記載事項についても定める~

《速報解説》 企業会計審議会、「監査基準の改訂に関する意見書」等を公表 ~監査報告書に「その他の記載内容」の区分を新設し、記載事項についても定める~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和2(2020)年11月6日付で(ホームページ掲載日は11月11日)、企業会計審議会は、次の意見書を公表した。 これにより、令和2(2020)年3月23日から意見募集していた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対するコメントの概要及びコメントに対する考え方も公表されている。 今回の監査基準の改訂は、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(その他の記載内容)について、監査人の手続を明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとするため、また、リスク・アプローチの強化を図るためのものである。 2020年11月11日、日本公認会計士協会は会長声明「『監査基準の改訂に関する意見書』の公表を受けて」を発出している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 監査基準の改訂 1 監査計画の策定 財務諸表全体レベルにおいて固有リスク及び統制リスクを結合した重要な虚偽表示のリスクを評価する考え方は維持しつつ、財務諸表項目レベルにおいては、固有リスクの性質に着目し重要な虚偽の表示がもたらされる要因などを勘案することが重要な虚偽表示のリスクのより適切な評価に結び付くことから、固有リスクと統制リスクを分けて評価する。 監査計画の策定に関して次の規定を設ける。 2 監査の実施 監査人が行う会計上の見積りの合理性の判断に際して、経営者が行った見積りの方法に、「経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを含む」と規定する。これは、リスクに対応する監査手続として、原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続が必要である点を明確にするものである。 また、経営者が行った見積りと監査人の行った見積りや実績とを比較する手続も引き続き重要であるとしている。 3 その他の記載内容 監査報告書に記載するに当たって、「その他の記載内容」を新設し、次の規定を設ける。 従来と同様に、監査人は「その他の記載内容」に対して意見を表明するものではなく、監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載は、監査意見とは明確に区別された情報の提供であるという位置付けは維持されている。 4 監査報告書 監査人は、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を設け、次の事項を記載する。 「その他の記載内容」に重要な誤りがある場合に、追加の手続を実施しても当該重要な誤りが解消されない場合には、監査報告書にその旨及びその内容を記載するなどの適切な対応が求められる。 5 経営者・監査役等の対応 経営者は、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、適切に修正することなどが求められる。 監査役等においても、「その他の記載内容」に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、経営者に対して修正するよう積極的に促していくことなどが求められる。   Ⅲ 中間監査基準の改訂 実施基準において、特別な検討を必要とするリスクは、監査人が、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスクとする。 また、報告基準において、従来の「会計方針の変更」を「正当な理由による会計方針の変更」とする。   Ⅳ 適用時期等 (了)

#No. 394(掲載号)
#阿部 光成
2020/11/12
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