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収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第29回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第29回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   イ 法人税法22条の2第2項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例 『平成30年度 税制改正の解説』274頁は、法人税法22条の2第2項の「別段の定め」から同法22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例について、法人税法22条の2第1項と同様であると説明されている。よって、次の規定が2項の「別段の定め」の例となる(本連載第18回参照)。 既述のとおり、法人税法61条の2第1項は有価証券の譲渡損益の計上時期について、「その譲渡に係る契約をした日・・・の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する」として、いわゆる約定日基準を定めている(本連載第25回参照)。このことに鑑みて、立案担当者は、法人税法61条の2について、収益の計上時期として引渡基準を定める22条の2第1項や近接日基準を定める2項の「別段の定め」であると解しているのであろう。 なお、法人税法22条は、別段の定めがあるものを除き、収益の額から原価・費用・損失の額を控除し、課税所得を算出するというグロス計算を求めているが、61条の2第1項は譲渡利益額を益金の額に算入し、譲渡損失額を損金の額に算入することを規定している。いわば、有価証券の譲渡損益に係る課税所得金額の計算について、法人税法22条2項又は3項を通じたグロス計算ではなく、ネット計算を求めている。課税所得の算出の仕方という点からすれば、法人税法61条の2第1項は22条2項や3項の「別段の定め」であるともいえよう。 ただし、上記の立案担当者のものとは異なる見解も示されている。すなわち、酒井克彦教授は、法人税法61条の2は22条2項の「別段の定め」であり、22条の2第1項や2項の「別段の定め」ではなく、法人税法22条の2第3項が2項の「別段の定め」に該当するという見解を示されている(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』255~257頁(中央経済社2019)参照)。法人税法22条の2各項が定める「別段の定め」の具体的範囲については、更なる議論の余地があろう。 ウ 法人税法22条の2第2項による収益計上に当たっては継続性が求められること 『平成30年度 税制改正の解説』は、法人税法22条の2第2項の近接日基準による収益計上に当たって、継続処理が要請されることを明らかにしている。また、その根拠は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が継続性の原則を含むことにあるとしている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 エ 割賦基準・延払基準による収益計上は別段の定めがない限り、認められないこと 『平成30年度 税制改正の解説』は、割賦基準・延払基準による収益計上は別段の定めがない限り、認められないことを明らかにしている。かかる説明は、これらの基準が「近接する日」に当たらないことを根拠としているようである。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 例えば、企業会計原則注解6は、割賦販売について、割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日をもって売上収益実現の日とすることも認めているが、かかる回収期限到来基準や回収基準は、基本的に資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡日又は役務提供日に近接する日に該当しないため、法人税法22条の2第2項の適用要件を満たさないということであろう。 オ 法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は法人税法第22条4項と同様の範囲であること 『平成30年度 税制改正の解説』275頁は、法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は法人税法第22条4項と同様の範囲であり、大竹貿易事件の最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決(民集47巻9号5278頁)を参照すべきであるとしている。   (了)

#No. 370(掲載号)
#泉 絢也
2020/05/21

基礎から身につく組織再編税制 【第16回】「適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第16回】 「適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱いについて解説します。   1 適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2②)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 (2) みなし配当 利益積立金額が株主に交付されるときは、みなし配当を計上する必要があります(法法24)。 適格合併が行われた場合には、被合併法人の利益積立金額は合併法人に引き継がれ、被合併法人の株主に交付されないため、被合併法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (3) 少数株主への金銭等交付 合併法人が被合併法人の発行済株式の3分の2以上を保有している場合には、少数株主に対して合併対価が金銭等で交付された場合も適格合併になることとされました。この場合の少数株主については、金銭等の交付を受けているため、旧株の譲渡損益が計上されますが、みなし配当は生じないこととされています(法法24①、61の2①)。 (4) 合併法人株式の取得価額 被合併法人の株主が対価として合併法人株式のみを交付された場合のその合併法人株式の取得価額は、被合併法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①五)。 (5) 具体例 【具体例①(合併法人株式のみ交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主の仕訳〕 【具体例②(現金のみ交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主(少数株主)の仕訳〕   2 非適格合併があった場合の被合併法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2②)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 したがって、非適格合併の場合でも、被合併法人の株主が金銭等の交付を受けていないときは、旧株の譲渡損益は繰り延べられます。 (2) 完全支配関係がある法人間の非適格合併が行われた場合 完全支配関係がある法人間で非適格合併が行われた場合には、被合併法人の法人株主は旧株の譲渡損益を計上できず、譲渡損益相当額は被合併法人の株主の資本金等の額に加減算されます(法法61の2⑰、法令8①二十二)。 (3) みなし配当 非適格合併が行われた場合には、被合併法人の利益積立金額、資本金等の額は合併法人に引き継がれず、被合併法人の株主に交付されることとなるため、合併対価として交付された金銭等が払込資本を超える部分については、みなし配当として認識する必要があります(法法24①一)。 〇みなし配当の金額 交付を受けた金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額から資本金等の額のうち交付基因株式に対応する部分の金額を控除した金額とされています。 (4) 譲渡損益及びみなし配当の認識時期 譲渡損益を最後事業年度の損益とするのは被合併法人のみで、被合併法人の株主は非適格合併に伴う譲渡損益やみなし配当を、原則通り、合併の日において計上します。 (5) 合併法人株式の取得価額 ① 株式以外に金銭等が交付される場合 合併対価として株式以外に金銭等が交付される場合の合併法人株式の取得価額は、取得時に通常取得に要する価額(時価)とされています(法令119①二十七)。 ② 株式のみ交付される場合 合併対価として株式のみが交付される場合の合併法人株式の取得価額は、被合併法人株式の帳簿価額にみなし配当相当額と付随費用を加算した金額とされています(法令119①五)。 (6) 具体例 【具体例①(合併法人株式+現金を交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主の仕訳〕 【具体例②(株式のみ交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主の仕訳〕 ◆適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱いのポイント◆ 被合併法人株式の譲渡損益を認識するかどうかは、適格合併か非適格合併かに関わらず、投資の継続で判定します。 適格合併があった場合でも、合併法人が被合併法人の発行済株式の3分の2以上を保有しており、被合併法人の株主(少数株主)が金銭等の交付を受けるときは、旧株の譲渡損益を計上します。 非適格合併が行われた場合でも、合併法人株式のみが交付されるときには、被合併法人株式の譲渡損益は認識せず、合併法人株式の取得価額については合併時の時価とならないので留意が必要です。   (了)

#No. 370(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/05/21

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第2回】「値上げのインパクトを認識する」~値下げ戦略の「落とし穴」~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第2回】 「値上げのインパクトを認識する」 ~値下げ戦略の「落とし穴」~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * 消費者は価格に敏感です。私たちがお世話になっているハンバーガーも、以前、大幅な値下げによって販売個数が跳ね上がったことで話題になりましたね。 通常、モノの価格が下がれば需要は増え、価格が上がれば需要は減ります。「価格が1%下がったとき需要量が何%増えるか」を、「需要の価格弾力性」と呼びます。 サボテンの鉢植えは、先月は販売価格1,000円で100個販売したのに対し、今月は価格800円で130個販売しました。鉢植えについて需要の価格弾力性を考えてみましょう。 需要の価格弾力性が1よりも大きいということは、言い換えると、価格の変化率よりも需要の変化率が大きいということです。需要の価格弾力性が1よりも大きいモノについては、販売価格を下げることで、売上高(=販売価格×販売個数)が増加します。ハナダ店長が、値下げの効果があったと感じた理由もここにあるようですね。 あくまでも一般論ですが、生活必需品や代替品が存在しないモノは、価格が変化しても需要の変動が小さいため、価格弾力性が小さくなります。反対に、贅沢品や代替品が存在するモノは、価格が変化すると需要の変動が大きくなるため価格弾力性が大きいと言われています。 *  *  * *  *  * サボテンの鉢植えの変動費は1個当たり600円、固定費は月20,000円です。先月と今月のサボテン鉢植えの利益を計算してみましょう。 先月と今月を比較してみると、販売価格を20%下げた効果で販売量が30%アップし、売上高が増加していますが、最終的な利益は減少していることがわかります。 *  *  * *  *  * 「20%引き」・・・よく見かける値札ですね。しかし、販売価格を値下げすることは、同額の利益が失われることを意味します。このインパクトを十分に認識しないまま安易に値下げをすると、売上が増加しても利益が減少するという落とし穴にはまってしまうこともあります。 *  *  * *  *  * モノの価格は、単に「対価としてその金額を支払う」という意味以外に、「モノの品質を示す指標」という一面を持っています。特に、そのモノの品質が一見よくわからないような場合には、価格がモノの品質を示す「バロメーター」として機能していることがあります。 そこで、店長こだわりの鉢植えについても高品質をアピールして、販売価格を20%値上げして1,200円にするとしましょう。その結果、販売個数は30%減少した70個になったケースをシミュレーションしてみます。 1個当たりの限界利益@600円を使って逆算してみると、先月と同じ利益を確保するには、40,000÷600円≒67個の販売個数でよいことになります。 つまり、販売個数が34%以上落ち込まない限りは、先月と同じ利益を確保できるわけです。値上げが利益に与えるインパクトの大きさがよくわかりますね。値上げや値下げをする際には、それが利益にダイレクトにインパクトを与えることを認識することが大切です。 (了)

#No. 370(掲載号)
#石王丸 香菜子
2020/05/21

給与計算の質問箱 【第5回】「役員報酬の期中減額に伴う注意点」

給与計算の質問箱 【第5回】 「役員報酬の期中減額に伴う注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 新型コロナウイルスの影響で当社の売上が激減したので、2020年5月分(6月25日支給)から代表取締役の役員報酬を月額50万円から月額0円又は月額5万円に減額する予定です。 税金や社会保険で注意する点があれば教えてください。 なお、当社は10月決算の会社です。 A 税金に関しては、役員報酬の期中減額分の差額「50万円(月額50万円-月額0円)×月数」又は「45万円(月額50万円-月額5万円)×月数」は損金にならないのが原則だが、今回のケースにおいては業績悪化改定事由による改定に該当し、全額損金になる可能性が高いと考える。 社会保険に関しては、月額0円の場合は2020年5月1日に社会保険(健康保険・厚生年金保険)は資格喪失になり、月額5万円の場合は9月に月額変更届を年金事務所へ提出する。 * * 解 説 * * 1 税金 役員報酬の期中減額分の差額は損金にならないのが原則だが、業績悪化改定事由による改定に該当すれば損金になる(法基通9-2-13)。 今回のケースにおいては業績悪化改定事由による改定に該当し、全額損金になる可能性が高いと考える(国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 「5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」問6、問7)。   2 社会保険 (1) 月額0円に減額した場合 役員報酬を月額0円にすると社会保険(健康保険・厚生年金)の資格を喪失する。この場合、次の(2)のように月額変更届を提出することはできないので注意が必要である。役員報酬を再び支給するようになったら、その際に再加入することになる。 その間は、市区町村役場にて国民健康保険と国民年金に加入する。前年の所得が高ければ、国民健康保険料も高くなる。国民年金の保険料は月額16,540円(令和2年度)である。あるいは、会社員をしている配偶者がいる場合、配偶者の社会保険の扶養に入ることができる。この場合、健康保険料と国民年金保険料はともに0円である。 (2) 月額5万円に減額した場合 役員報酬を月額50万円から月額5万円に減額すると標準報酬月額が2等級以上変動するので、5月分(6月25日支給)、6月分(7月25日支給)、7月分(8月25日支給)の3ヶ月分の役員報酬を支給した後の9月に、月額変更届を年金事務所へ提出する。 この場合、9月分の社会保険料(10月31日支払)から月額5万円に対応した社会保険料になる。そのため、会社は9月分の役員報酬(10月25日支給)から月額5万円に対応した社会保険料を給料から天引きする。 なお、5月分(6月25日支給)~8月分(9月25日支給)の給料計算は以下のとおりである。 上記から代表取締役は、会社の口座に20,425円を振り込むことになる。 (了)

#No. 370(掲載号)
#上前 剛
2020/05/21

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第5回】「借地権とは異なる借家権の評価の意味」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第5回】 「借地権とは異なる借家権の評価の意味」   不動産鑑定士 黒沢 泰     1 財産評価基準書からみた借家権割合 相続税評価額を計算する際に適用する財産評価基準書には、都道府県ごとに借家権割合が以下のとおり記載されていますが、その割合は全国一律に30%となっています。 (※1) 筆者注。財産評価基本通達94とは、以下のものを指します。   2 実際には~借地権と大きく異なる点 ところで、規定上ではこのように扱われているものの、実際の建物賃貸借において権利金が授受されているケースはどれだけあるのでしょうか。 例えば、家族で居住用マンションを借りようとする場合、敷金以外に権利金を支払ってその利用権を買い取るような商慣習が根づいているのでしょうか。ほとんどのケースでは、家主に対し賃料不払いの担保として家賃の数ヶ月分相当の敷金(又は保証金)を預け金の名目で差し入れるだけで、借地権のように(権利設定の対価としての)権利金を授受して賃貸借契約を結んでいる例を見受けません。 もし、借地権のように多額の権利金を支払って賃借しているのであれば、借主は相当の対価を受け取って借家権を他人に譲渡することでしょう。ところが、現実にこのようなケースは滅多に見掛けることはありません。 すなわち、借家権はその取引慣行が成熟していないということです。 この点が借地権の場合と大きく異なる点です。   3 不動産の鑑定評価では ちなみに不動産の鑑定評価では、借家権の評価をどのように扱っているのでしょうか。 不動産鑑定評価基準では、借地借家法(廃止前の借家法を含みます)が適用される建物の賃借権を借家権と定義しています(同基準各論第1章第3節Ⅲ)。そのため、一時使用の建物賃貸借は対象外となります。そして、借地借家法は土地や建物の用途に関係なく適用されるため、建物が居住用であれ、事業用(事務所、店舗、工場、倉庫等)であれ、適用対象となる点に留意しなければなりません。 ただ、土地の賃借権の場合には、その譲渡に関して賃貸人の承諾が得られないときは裁判所がこれに代わる許可を与えることのできる法制度がありますが、建物の賃借権に関しては、このような制度は存在しません。その意味で、借家権は借地権に比べ譲渡性が薄い(=取引の対象となることが少ない)といえます。 このような事情があるためか、(意外と思われるかもしれませんが)不動産鑑定評価基準では借地権の価格を綿密に定義しているのとは裏腹に、借家権の価格については何らの定義を設けておりません。 これに換え、借家権の鑑定評価額を求める手法を、 の2つの側面から規定するに留めています(既述のように取引慣行が認められるケースはきわめて少ないのが実情です)(※2)。 (※2) 不動産鑑定評価基準では、借家権の取引慣行が認められる案件の鑑定依頼を受けた場合に備えて評価手法をいくつか規定していますが、本稿では割愛させていただきます。 そして、借家権の鑑定評価が実施されるケースとしては、上記(イ)に該当して立退料の金額を求めることが必要とされる場合が圧倒的に多いものと推察されます。すなわち、借家権の取引に伴って価格が生ずるというものではなく、立退補償的な色彩の強いものです。 なお、不動産鑑定評価基準では上記(イ)に関連して鑑定評価を行う場合、対象建物と同程度の建物を賃借する際に必要とされる新規賃料と現行賃料の差額の一定期間に相当する額に、賃料の前払的性格を有する一時金の額等を加算した額を試算し、他の手法による検証も行って鑑定評価額を求めることとしています(同基準各論第1章第3節Ⅲ)。   4 他の基準では 参考までに、ここで述べている考え方は、公共用地の取得に伴う損失補償基準における「借家人補償」の算定方式に端を発します。 なお、同損失補償基準における「借家人補償」では、借家人が喪失する経済的利益等の客観的な算定が困難であることから、代替建物等を賃借するために必要とされる家賃の差額の一定期間分と賃料の前払的性格を有する一時金の額等(仲介業者への手数料も含みます)をもって補償することとされています。   5 相続税の財産評価における「借家権割合」の意味 ここで、再び相続税の財産評価に戻りますが、財産評価基準書には都道府県別に借家権割合が記載されていたり(ただし、具体的割合は上記のとおり全国一律30%です)、財産評価基本通達における貸家建付地や貸家の評価規定のなかに、借家権割合という概念が以下のとおり登場します。 筆者は、今まで述べてきた理由により、ここにいう借家権割合とは借家人にとっての積極的な財産価値割合を示すものではなく、借家人がその土地や建物を使用していることにより所有者が受ける利用上の制約(減価割合)を示すものと理解しています(もちろん、借家人が立退きを要求された場合は、借家人の潜在的利益が立退料となって顕在化しますが、ここではこのような事態は考慮外としています)。 税理士の皆様も相続に伴う貸家建付地や貸家の評価を行うことがしばしばあると存じます。ただ、借家権割合と呼ぶ場合、その取引慣行があり不動産の価格の何割が借家権の財産価値であるという積極的な捉え方をするよりも、むしろ所有者にとって借家権が付いていることにより不動産の評価額が何割下落するかという消極的な捉え方をしているケースの方が多いのではないでしょうか。 (了)

#No. 370(掲載号)
#黒沢 泰
2020/05/21

〈Q&A〉消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第2回】「当局による調査・勧告等の状況」

〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第2回】 「当局による調査・勧告等の状況」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也   はじめに 第2回は、消費税転嫁対策特別措置法と下請法のそれぞれについて、当局による調査や勧告・指導がどのようになされているかを解説する。 消費税転嫁拒否等の行為及び下請法違反に対する調査は、いずれも、公正取引委員会(以下「公取委」という)及び中小企業庁が中心的な役割を果たしており、調査の手法や違反した企業に対する措置も類似しているため、横断的に理解することが有益である。   1 消費税転嫁拒否等の行為に対する調査・勧告等の状況 【Q】 令和2年5月1日付けで、公取委から「消費税率引上げ後の消費税の転嫁状況に関する調査(令和2年度)」という書面が届きました。 上記書面には、公取委が消費税転嫁拒否等の行為に対する監視及び取締りを行っていることが記載されており、赤字で「必ず提出してください」、「この調査は、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第15条第1項の規定に基づき、特定事業者に報告の義務を課して実施するものです」などと書かれています。 何やら物々しく感じますが、当社に消費税転嫁対策特別措置法違反の疑いがあるということでしょうか? また、当社は社名を公表されることになるのでしょうか?   【A】 ご質問の書面調査は、消費税転嫁対策特別措置法により回答義務が課されたものですので、社内調査を行い、正確に回答してください。 この書面調査は、極めて多数の企業を対象に一斉に行われていますので、書面調査票を受け取ったからといって、貴社が特に法律違反の疑いを受けているということではありませんが、書面調査での回答を契機として、公取委等による立入検査等の調査が行われる可能性があり、調査を通じて違反が発覚した場合には、勧告や指導を受けることとなります。 (1) 当局による調査 消費税転嫁対策特別措置法の禁止する転嫁拒否等の行為に対する取締りは、主に公取委及び中小企業庁が分担して行っている。 消費税転嫁拒否等の行為については、立場の弱い特定供給事業者(売り手側)が自ら被害を申告することは困難と考えられるため、公取委及び中小企業庁による調査においては、質問にあるような書面調査を通じた情報収集が重要な役割を果たしている。 例えば、公取委は、令和元年5月に、同年10月からの消費税率引上げに際し、事業者間でそれよりも早い段階から新税率を前提とした価格交渉が始まることを想定して、売り手側に当たる中小企業・小規模事業者等約30万名に対する書面調査を行うとともに、買い手側に当たる大規模小売事業者・大企業等約8万名に対する書面調査を行っている。 そして、公取委は、令和2年5月1日付けでも、買い手側企業に対し、「消費税率引上げ後の消費税の転嫁状況に関する調査(令和2年度)」と題する書面調査票を郵送し、同年6月12日までに回答するよう求めているところである(※)。 (※) 公正取引委員会「消費税率引上げ後の消費税の転嫁状況に関する調査について」 上記の買い手側に対する書面調査は、拒否したり虚偽の報告をしたりした場合には刑罰の対象となるという意味での間接強制を伴うものであり(消費税転嫁対策特別措置法15条1項、21条、22条)、これにより公取委等が消費税転嫁拒否等の行為に関する正確な情報を把握することが可能な仕組みとなっている。 そこで、書面調査票の送付を受けた買い手側企業においては、社内調査を行って実情を把握した上で、書面調査に対する回答を行うと共に、社内調査の過程で消費税率引上げ分を上乗せして支払っていない事例があることを把握した場合には、自主的に売り手側に対する追加支払いを行ったり、再発防止策を講じたりし、違反の重大性等の事情によっては公取委に対する自主申告も検討することが望ましい。 なお、後述のとおり、下請法の運用においても書面調査が重視されているが、両法律に基づく調査は連動しているため、下請法の書面調査を通じて消費税転嫁拒否等の行為に関する情報が得られた場合には、消費税転嫁対策特別措置法に基づく調査へと連携されることがあり、消費税転嫁対策特別措置法に基づく調査の過程で下請法違反の事実が判明した場合には、下請法に基づく調査へと連携されることがある。 書面調査の結果、消費税転嫁拒否等の行為が疑われた場合には、公取委や中小企業庁により、立入検査や事業者に対するヒアリング等の調査が行われる。公取委及び中小企業庁が平成25年10月から令和2年3月末までの間に着手した調査件数は12,754件、立入検査は7,108件と非常に多数に上っている。 消費税転嫁対策特別措置法に基づく立入検査は、独占禁止法に基づく立入検査のように予告なく突然行われるのではなく、あらかじめ公取委等と企業の間で調整した日時及び場所において行われている。 そして、立入検査後は、公取委等が検査を通じて注目するに至った取引を中心に、消費税率引上げ分の転嫁が適正になされているかについて特定事業者(買い手側)が自ら社内調査を行い、その結果を公取委等に報告するよう促されることが一般的である。 他方、公取委等は、特定事業者の報告を受けて追加の調査を指示したり、報告内容の正確性を確認したりしている。このように、消費税転嫁拒否等の行為に対する調査は、事業者側のリソースも活用することにより、効率的に行われている。 (2) 違反に対する措置等 公取委や中小企業庁による調査を通じて消費税転嫁拒否等の行為が認定されると、一般的には、当該特定事業者(買い手側)に対して指導が行われることとなる。指導の内容は、特定供給事業者(売り手側)に対してこれまで支払っていなかった消費税率引上げ分を改めて支払うことや、再発防止策を講じることである。この指導は、公取委等と特定事業者の内々のやり取りの中で行われるため、社名公表までは至らないという点がポイントになる。 他方、全体に占める件数は限定的であるものの、特に重大な違反については、非公表の指導に止まらず、公取委による勧告・社名公表が行われている。勧告がなされると、公取委のホームページ上で社名が公表され、どのような違反を行ったかも公表される。報道される場合も多いため、勧告を受けた企業は重大なレピュテーションリスクを免れないこととなる。 公取委及び中小企業庁は、平成25年10月から令和2年3月末までの間に、5,771件の指導を行うとともに、54件の勧告を行っているが、下記の【図表1】のとおり、そのうち大多数は買いたたきに対するものであるため、転嫁拒否等の行為の中でも特に買いたたきの予防に努めることが重要である。 【図表1】 公取委による勧告・指導件数の累計 (※) 平成25年10月から令和2年3月末までの累計件数。  なお、事業者の中には、複数の行為を行っている場合があり、本文記載の指導・勧告の件数とは一致しない。 また、第5回で詳述するが、これまでに勧告・社名公表がなされた事案は、大きく、以下の2つのパターンのいずれか又は両方に当てはまるものが大部分であるため、まずは勧告・社名公表という最悪の事態を回避するという意味では、以下のように税込金額で定められた料金がないかを見直すことが効果的である。   2 下請法違反に対する調査・勧告等の状況 【Q】 毎年6月頃、公取委から「下請事業者との取引に関する調査について」という書面が届きます。 上記書面には、「貴社が親事業者に該当する場合には、報告する義務があります」と記載されており、マークシート方式で多数の質問に回答することが求められています。下請事業者の名簿も添付するようにとのことです。 この書面が届いたということは、当社に下請法違反の疑いがあるということでしょうか? また、当社は社名を公表されることになるのでしょうか?   【A】 ご質問の書面調査は、下請法により回答義務が課されたものですので、社内調査を行い、正確に回答してください。 この書面調査は、極めて多数の企業を対象に一斉に行われていますので、書面調査票を受け取ったからといって、貴社が特に下請法違反の疑いを受けているということではありませんが、書面調査での回答を契機として、公取委等による実地検査等の調査が行われる可能性があり、調査を通じて違反が発覚した場合には、勧告や指導を受けることとなります。 (1) 下請法の運用強化の流れ 近時、目に見えて下請法の運用が強化されている。 これは、大企業による買いたたき等を取り締まることを通じて、中小企業にも適正な利益がもたらされるようにし、中小企業の社員の賃上げを図り、もって景気の底上げを図るというアベノミクスの一環と位置づけられており、平成28年に行われた複数の閣議決定や安倍首相の所信表明演説などで下請法運用強化の方針が明言されるなど、政府全体の明確な方針となっている。 そして、このような政府全体の方針を受けて、下請法を所管する公取委及び中小企業庁も活発に動いている。例えば、下請法違反に対する公取委の指導件数は、下記の【図表2】のとおり年々増加しており、ここ数年、史上最多記録を更新し続けている。 【図表2】 公取委による下請法違反に対する指導件数の推移 (※) 公正取引委員会「(令和元年5月29日)平成30年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組等」より抜粋 また、公取委は、平成28年12月14日に13年ぶりに下請法運用基準を改正したほか、関連予算と人員を増加させて下請法違反の取締りを強化するなどしている。 (2) 当局による調査 下請法違反行為に対する当局の調査手法は、消費税転嫁拒否等の行為に対するものと相当類似している。 すなわち、消費税転嫁拒否等の行為と同様、下請法違反についても、立場の弱い下請事業者が自ら被害を申告することは困難と考えられるため、公取委及び中小企業庁による書面調査が重要な役割を果たしており、勧告・指導の対象となる下請法違反事件のほとんどが、書面調査を端緒として発覚している状況にある。 書面調査は、親事業者と下請事業者のそれぞれについて極めて広範囲にわたって行われており、例えば、令和元年度に公取委が行った書面調査は、親事業者に対するものが60,000件、下請事業者に対するものが300,000件にも上っている。 このうち親事業者に対する書面調査は、毎年6月頃に行われており、拒否したり虚偽の報告をしたりした場合には刑罰の対象になるという意味での間接強制を伴うものであるため(下請法9条1項~3項、11条、12条)、消費税転嫁拒否の行為に関する書面調査の場合と同様、書面調査票の送付を受けた親事業者においては、社内調査を行って実情を把握した上で、書面調査に対する回答を行うと共に、社内調査の過程で下請法違反の事実を把握した場合には、下請事業者に対する不利益回復を行ったり、再発防止策を講じたりし、違反の重大性等の事情によっては公取委に対する自主申告も検討することが望ましい。このように、公取委等の書面調査を、下請法違反の早期発見及び是正のために積極的に活用することがポイントである。 書面調査の結果、下請法違反の疑いがあると考えられた親事業者については、個別の調査が行われる。個別の調査の手法は様々であるが、典型的には、公取委等の担当官から電話連絡があり、日時を調整した上で担当官数名が親事業者の事業所に来訪し、あらかじめ指定して準備させておいた発注書や価格交渉の記録といった資料の内容を確認しつつ、企業の担当者から事情を聴くという実地検査が行われることが多い。実地検査の後は、散発的に、追加の資料提出要請や説明の要請があり、調査が進められていく。 (3) 違反に対する措置等 下請法違反に対する当局の措置等も、消費税転嫁拒否等の行為に対するものと相当類似している。 すなわち、公取委や中小企業庁による調査を通じて下請法違反の事実が認定されると、一般的には、親事業者に対して指導が行われることとなる。指導の内容は、下請事業者に対する不利益回復や、再発防止策を講じることなどである。この指導は、公取委等と親事業者の内々のやり取りの中で行われ、社名公表までは至らないという点も、消費税転嫁拒否等の行為の場合と同様である。 他方、全体に占める件数は限定的であるものの、下請事業者に与えた不利益が大きいなど特に重大な事案については、非公表の指導にとどまらず、公取委による勧告・社名公表が行われている。 勧告がなされると、消費税転嫁拒否等の行為の場合と同様、公取委のホームページ上で社名が公表され、どのような違反を行ったかも公表される。報道される場合も多いため、勧告を受けた企業は重大なレピュテーションリスクを免れないこととなる。 したがって、親事業者においては、指導も受けないよう努力すべきではあるものの、まずは勧告を受けないように努力することが最優先と言えるであろう。 そして、これまでの勧告・社名公表事例の多くは、下請代金の減額事案(減額のみ行った事案又は減額に加えて他の違反を行った事案)であるため、勧告・社名公表という最悪の事態を防ぐためには、まずは下請代金の減額を絶対に行わないようにすることが必要である。下請代金の減額の具体的内容については第6回で解説することとしたい。 また、下記の【図表3】のとおり、【第1回】で述べた4つの義務及び11の禁止行為のうち、「支払遅延」、「下請代金の減額」、「買いたたき」及び「不当な経済上の利益の提供要請」の4類型について、ここ数年、勧告・指導が目立って増加しており、公取委等が重点的な取締りを行っていることがうかがわれるため、上記4類型については、特に違反しないよう注意する必要があるだろう。 【図表3】 公取委による勧告・指導が特に増えている違反類型 (※) 公取委公表資料から筆者作成 (了)

#No. 370(掲載号)
#大東 泰雄、福塚 侑也
2020/05/21

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第25回】「相続税の納税資金と老後資金の関係」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第25回】 「相続税の納税資金と老後資金の関係」   税理士法人トゥモローズ   前回に引き続き、相続対策と老後資金の関係について、今回は「相続税の納税資金との関係」について解説を行っていきたい。 事業を成功させてきた中小企業の経営者の場合には、相続税の基礎控除を超える程度の相続財産を遺していることが想定され、状況によっては相続について多額の納税資金を要することとなる。 当たり前ではあるが、納税義務者としてこの納税を行うのは、遺す側の被相続人ではなく、遺された側の相続人である。この多額の納税資金を現役世代の相続人などが相続人自身の蓄財の中で一括納税することは困難であり、また、納税資金確保のために相続財産を処分するとしても、10ヶ月という短い期間の中で相続財産を処分し納税資金を確保することは非常に煩雑な手続きとなる。 したがって、遺された相続人が納税資金に困窮することがないように、遺す側の被相続人が、生活費などの老後資金とは別に、遺産の内から納税が可能な状況にしておくことが重要である。   1 現状把握 いずれ訪れるであろう親の相続税の支払いについて、子である相続人側で納税資金の確保を考慮しながら蓄財を行っているケースはごく稀である。また、前述のように多額の納税資金が必要となるようなケースにおいては、相続人側で納税資金を準備することが困難な場合も多い。 まして、中小企業経営者の相続のケースにおいては、その相続財産のうちに占める非上場会社株式の占める割合が高く、相続税が多額であるにもかかわらず、それに見合う流動資産の確保がされていないことも想定される。したがって、相続税の納税資金は可能な限り、被相続人の遺産のうちで用意しておくべきである。 この納税資金の把握のためには、まずは現状把握により、自身の相続財産がどの程度あるのか、それに伴う相続税額はいくらになるのかの試算を行う必要がある。 具体的には、前回も解説した今現在の個人貸借対照表(すなわち、財産債務目録)の作成と個人資金繰り表(すなわち、将来のキャッシュフローがわかる表)の作成により、納税資金に当てられる流動資産がどのくらいあるのかを確認し、不足が生じる場合には事前に対策を検討しなければならない。   2 生命保険の活用 生命保険は、相続発生後の納税資金が必要となるタイミングで相続人に対して支払われるため、納税資金の対策として有効な手段となる。また、相続対策としての非課税枠の活用も期待できるため、相続税の節税にも効果を発揮できる。 しかし、リタイヤ後の収入がなくなった後に保険料を支払い続けることは、老後資金の不足を招く恐れもあるため、可能であれば老後資金に不安が生じる前である現役のうちに、給与所得から保険料を支払い切ることが望ましい。 また、事業承継に伴って会社を引き継いだ後継者に自社株式を相続させるような場合において、他の相続人に係る遺留分の支払い原資を確保する必要があるときは、下図のように、当該後継者を受取人とする遺留分相当の保険に加入しておくことで、遺産分割の長期的な争いを回避することにもつながる。   3 非上場株式の自社株買い 老後資金のうちに流動資産が少ないことから納税資金に不安があるような場合で、事業承継後においても自社株式を保有しているときは、当該自社株式の買取りも納税資金の確保のための候補となりうる。 この自社株買いのタイミングは、生前によるのか、それとも相続発生後によるのかで、課税の取扱いが変わるため、老後資金の具合を見ながら慎重に検討する必要がある。 生前の買取りの場合には、金庫株として取得した会社側では資本等取引として法人税課税は生じないが、譲渡した推定被相続人側で以下のような配当所得と譲渡所得の課税関係が生じる。 一方で、相続発生後に、相続人が相続により取得した非上場株式である自社株式を相続税の申告期限の翌日以後3年以内に自社に売却したときは、金庫株の特例としてみなし配当の不適用が設けられている。 また、これに加えて、相続後の売却の特例として、相続税の申告期限の翌日以後3年以内の譲渡の場合には、取得費加算の特例の適用が可能となり、譲渡所得を減額することができる。   4 その他 老後資金のほかに納税資金の準備金となり得るものとしては、会社への貸付金の回収や会長職としての退職金の受給等も想定される。 しかし、自社株買いやこれらの方法は、あくまで会社側での分配可能額などのキャッシュフローにある程度の余裕があることが前提となるため、先代や後継者だけの問題としてではなく、会社を含めた中での検討が必要である。このため、先代、後継者、そして会社の状況を確認しながら進めていかなければならない。 (了)

#No. 370(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2020/05/21

老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話 【第10回】「特殊な状況だからこそ、相続リスクに注意すべし」~災害時のコンサル経験から学んだこと~

老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【10回】 「特殊な状況だからこそ、相続リスクに注意すべし」 ~災害時のコンサル経験から学んだこと~   財務コンサルタント 木山 順三   〔リスクは常に身近なところに潜んでいる〕 筆者は現在、自宅でこの原稿を書いています。そうです、「新型コロナ緊急事態宣言」によって、大阪市内の事務所へ行くことができないのです。このような事態になると、今年の初めには誰が想像したでしょう。 筆者はA型人間ですが、「物事なるようになる。」「山より大きな獅子は出ぬ。」と、物事をポジティブに捉える性格だと思っています。 しかしながら一方で、長年の銀行員生活から、常にリスク管理を心がける行動が身についています。すなわち、 「これは正しい判断か? 答えは間違っていないか?」 「顧客の反応はどうか? 部下の顔色・態度は日頃と変わりないか?」 等々です。 コンサル生活になってからも一層、「これで良いのか? もっと良い方法はないのか? 360度の角度から見ているか?」を心がけるようにしています。 コロナリスクは突然やってきましたが、相続関連リスクは十分な防止をする準備期間があります。 以下では数種の事例とリスク対処の視点をご紹介します。 今までのコンサル経験をもとに、どのようなリスクがあり、それらを踏まえ、どのようにクライアントへの指摘を行ってきたかをお示しします。 ただし念のため付け加えますと、もちろんすべてが正しい判断だったかどうかはわかりません。   〔具体的事例とリスク対処方法〕 ① 自筆証書の遺言書は法務局で保管してもらうよう勧めよう 今回のコロナ禍のように、世の中いつ災害が起こるかわかりません。同じように、高齢化に伴い、いつ認知症状態になるかもわかりません。 自筆証書遺言のリスクは「どこに保管されているのか」、また「その遺言書が最後に書かれた遺言書かどうか」がわからない点にあります。 現に筆者が経験したケースでは、1995年に発生した阪神・淡路大震災によって、倒壊した家屋の中から、幸いにも自筆証書遺言書が出てきました。おそらく火災により焼却された遺言書も多かったのではと推測されます(本件は残念ながら、要件違反で無効になりました)。 また、友人の歯科医に預けた自筆証書遺言書が、相続発生後もその友人が預かっていることを失念し、結果として遺産分割協議で相続手続がなされました。このような場合、相続人たちの異議がなければよいのですが、第三者への遺贈が書かれていたら大変です。 したがってこれらのリスクを回避するためには、公正証書による遺言書作成がベストなのですが、せっかく今回の相続法改正の一環で、簡易に法務局で自筆証書を保管できる制度ができたわけですから(2020.7.10より)、積極的にその制度を利用するよう勧めましょう。 当然ながら、法務局で遺言書が保管されていることを「推定相続人」へ忘れずに伝えておくことが必要です。 ② 震災時等の特殊な状況下での税務相談は、より慎重に対応しよう 阪神・淡路大震災の被災者が、居住用不動産を売却したいとの相談に来られました。その方の居宅は全壊で、当時私の知り合いの不動産屋を通じ、近くの賃貸マンションに住んでおられました。その間、すでに3年を経過する日の12/31を超えていました。そこで筆者はうっかり「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の適用はできません。」と言ってしまいました。 日頃から「譲渡所得」に係るご相談は、十分慎重を期す心得があったつもりなのですが、通常のケースとして回答してしまったのです。 幸いにして時を置かず、私の頭の装置が警告音を発しました。そこで念のため再度調べてみると、「被災時における緊急対応措置としての期限の延長」がなされていました。慌てて売却を勧めたのは言うまでもありません。 しかしながら、これが逆のケースだったらどうでしょう。 すなわち「特例適用不可」にもかかわらず、「大丈夫です!」と回答し、クライアントが安心して即、売却の契約を交わしたとしたら・・・大変な損害を負うことになります。 したがってコンサルの中でも「譲渡所得関連」については、常に細心の注意を払っておく必要があります。 今回のコロナ対策税制も、関連する特例措置がないか、しっかりチェックしておきましょう。 ③ クライアントの保有財産をしっかり把握しておこう 筆者は必ずクライアントに、毎年1年ごとの財産明細表の作成と更新をお願いしています(もちろん私自身もですが・・・)。 過去には某老人ホームの施設長から、入居中の独居老人の相続手続の依頼がありました。相続人は、日頃から付き合いのない甥2人と姪だけとのことです。 問題は故人の財産確定です。施設長はもとより、甥・姪たちも把握できていません。そこで部屋中の関係書類の収集と分析を行い、金融機関等の関係先に照会をし、何とか財産把握に努めましたが、これで完全だという自信がありません。あとは申告後の税務調査で調べてもらうしかない、と考えていました。 ところが、その税務調査すら行われないケースがあるのです。 それは阪神・淡路大震災による案件でした。筆者のクライアントのうち4名の方が亡くなられました。幸か不幸か、そのすべての方の申告後の税務調査はありませんでした(通常のケースでは調査対象の事案でした)。やはり特別な事態だったからでしょう。 しかしながら肝心なことは、故人が作り上げたせっかくの財産が、日の目を見ないままだとしたら・・・もったいない限りです。 このためクライアントには常日頃から、「財産リスト」の作成を指導しておきたいものです。 ④ 相続申告の財産隠しリスクに対する顧客への正しい指導と説明 故意の財産隠しは言うに及ばず、とかくクライアントは自分勝手な解釈で、我々の質問に対し回答するものです。あくまで筆者の私見ですが、特に配偶者(妻)名義の財産は申告したくないという方が多いように感じます。 すなわち妻曰く、「これは私の甲斐性でせっせと節約し、その結果としてヘソクリができたもの。私も夫と協力し作り上げた財産で、夫だけなら絶対にこれだけ溜まらなかったもの。長年絶対にわからないように隠しているから大丈夫!」等々・・・「だからこれは私の財産です!」と。 そんなとき、私はこう言います。 「妻の貢献度合いは、税金制度で評価されています。」 すなわち、①内助の功が認められる夫婦間贈与の特例、②配偶者に対する相続税額の軽減、③配偶者居住権の新設等々で、妻の貢献が配慮されています。」と。 それでも納得されない方には、税の追加負担リスクを付け加えます。 「すべての財産を申告されておられるはずのお客様が、結果として財産隠しをされ、国税局の査察により追徴を受けられました。すなわち、①過少申告加算税②延滞税③重加算税④配偶者に対する相続税額の軽減不適用等々により、多額の余分な税を追加支払いされました。」と。 これらのことは多少オーバー気味でも、きちんと説明することが、結果としてクライアントの正しい納税意識に寄与するものと思っています。   〔老コンサルタントのつぶやき〕 以上ほんの一例でしたが、クライアントの相談を受ける際は、経験した中から極力顧客の要望に応じた解決策を講じることはもちろんのこと、その反対にあたっては必ずそのリスクを伝えることが肝心です。 特に資産運用相談の際は、数多くの参考情報の提供を行い、最終的にはクライアントに決定させる方法をとってきました。 また相続関連相談の場合でも、上記④の事例のように、明らかに脱税を幇助する行為のときは、はっきりとその仕事をお断りしています。 すなわち、顧客のリスクに気をつけることはもちろんのことですが、同時に自分自身のリスク管理を行うことが、結果としてクライアントのためにもなると思っています。 *  *  * 現在「コロナリスク」は、落ち着く気配がありません(4月下旬現在)。 この稿が掲載される頃には、少しでも愁眉が開くようになってほしいものです。 皆様もくれぐれもご自愛ください。 (了)

#No. 370(掲載号)
#木山 順三
2020/05/21

《速報解説》 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、失効規定付きの会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令が公布される~事業報告に表示すべき事項等をウェブ開示によるみなし提供制度の対象に~

《速報解説》 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、失効規定付きの会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令が公布される ~事業報告に表示すべき事項等をウェブ開示によるみなし提供制度の対象に~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020(令和2)年5月15日、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第37号)が公布された。 これは、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、事業報告に表示すべき事項の一部並びに貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象とするためのものである。 今回の改正法務省令については失効が規定されており、施行の日から6ヶ月以内に招集の手続が開始される定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に限られている。 なお、「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、意見公募手続を実施することが困難であるとき」に該当するため、意見公募手続は実施していない。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 ウェブ開示によるみなし提供制度の対象となる事項 改正法務省令により、「事業報告等の提供の特則」(会社法施行規則133条の2)及び「計算書類等の提供の特則」(会社計算規則133条の2)が設けられ、次に掲げる事項についてウェブ開示によるみなし提供制度の対象とされた。 次のことに留意する。 2 株主の利益への配慮 上記のウェブ開示をする場合には、株主の利益を不当に害することがないよう特に配慮しなければならない(会社法施行規則133条の2第4項、会社計算規則133条の2第4項)。 どのように株主の利益に配慮するかについては、各社が置かれた個別具体的な事情を踏まえた各社の判断によることとなるが、例えば、上記のウェブ開示の事項について、できる限り早期にウェブ開示を開始することなどが考えられている。   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 369(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/19

プロフェッションジャーナル No.369が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年5月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.369を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/05/14
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