《速報解説》 住宅用家屋の所有権保存登記に係る特例等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 令和元年12月12日、「令和2年度税制改正大綱(与党大綱)」が公表された。 登録免許税についての主な改正は以下のとおり、住宅用家屋の保存登記等に係る軽減措置の延長等が行われる。 1 住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置の延長 住宅取得の際の負担を軽減するとともに、流通の促進を図ることを目的としての登録免許税に係る軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 2 認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の延長 認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る登録免許税の軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 3 認定低炭素住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の延長 高度な省エネ性能を有する低炭素住宅の普及を促進することで、地球温暖化対策計画に掲げるCO2排出量の削減目標を達成することを目的として、認定低炭素住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで延長される。 4 中小企業・小規模事業者の認定経営力向上計画に基づく再編・統合等に係る税負担の軽減措置 中小企業・小規模事業者の事業継続を支援し、地域経済の活性化や雇用の維持を図ることを目的とし、軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 5 産業競争力強化法に基づく事業再編等に係る登録免許税の軽減措置 組織再編・事業再編を強力に推進することにより、国内産業の競争力強化を図ることを目的とし、軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 (了)
《速報解説》 居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和元年12月12日に令和2年度税制改正大綱(与党大綱)が公表された。以下では、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化(大綱84頁~85頁)について概説する。 1 改正の背景 住宅の貸付けは非課税売上である。居住用賃貸建物の取得など非課税売上にのみ要する課税仕入れは、仕入税額控除できない。 ところが、金などの投資商品の売買を繰り返すことで課税売上割合を嵩上げ。居住用賃貸建物の取得に係る消費税の還付を受け、さらに課税売上割合の著しい変動の要件に該当しないよう調整する手法が散見された。 2 改正の内容と適用時期 (1) 居住用建物の取得等に係る仕入税額控除 ① 居住用賃貸建物の仕入れ時 高額特定資産に該当する居住用賃貸建物については、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。 大綱では、ただし書きにて、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、引き続き仕入税額控除制度の対象としている。したがって、無償で社員寮として貸すために取得した居住用建物や、販売用に取得した居住用賃貸建物については、引き続き、仕入れ時に仕入税額控除を適用できる可能性が考えられる。 ② 第3年度の課税期間における調整 【施行時期】 令和2年10月1日以後の居住用賃貸建物の仕入れから適用する。ただし、同日以後の仕入れであっても、令和2年3月31日までに締結した契約に基づく仕入れについては、適用しない。 (2) 住宅の貸付けにつき、契約による判断から建物の状況等による判断へ変更 住宅の貸付けは消費税法別表第一において、貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限り非課税とされている。 改正により、契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合であっても、その貸付けの用に供する建物の状況等から人の居住の用に供することが明らかな貸付けについて、非課税とする。 【施行時期】 令和2年4月1日以後に行われる貸付けから適用する。 (3) 平成28年度改正の補完 免税事業者であった期間に取得した高額特定資産に該当する棚卸資産について、納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整(消法36)を受けたときは、調整をした課税期間から3年間、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができなくなる(下図参照)。 【施行時期】 令和2年4月1日以後に棚卸資産の調整の適用を受けた場合について適用する。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例の創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 1 改正の背景 令和元年12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)にて、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」として、富裕層などで行われている海外高額不動産投資を用いた節税に対しての対策が行われた。会計検査院の「平成27年度決算検査報告」において問題視されて以来、毎年改正されるのではないかと噂されていたが、本年度改正でついに節税策が封じられた。 この節税策は、まず、個人が償却費計上による不動産所得の損失金額を給与所得等の総合課税に属する他の各種所得金額から控除するなどして、最高税率50.945%(住民税含む)の課税総所得金額を減額する。そして、取得後5年経過してから当該不動産を譲渡することにより、譲渡所得の金額は、計上した償却費分増加するものの総合課税に比べて低い税率20.315%(住民税含む)が適用されるため、全体としての税負担が減少するというものであった。 日本では耐用年数の過ぎた中古建物にほとんど価値はないが、海外(特にアメリカ)の一部地域では耐用年数が過ぎた中古建物でも土地よりも高い金額で取引されることがあり、日本と海外との不動産市場の違いを利用した節税策として、広く富裕層に利用されてきた。 2 改正内容(令和2年度税制改正大綱より) (1) 改正による制度概要 「国外中古建物」((2)参照)から生ずる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上「国外不動産所得の損失の金額」((3)参照)があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の適用については、生じなかったものとみなす。 (2) 国外中古建物とは 「国外中古建物」とは、個人において使用され、又は法人において事業の用に供された国外にある建物であって、個人が取得してこれをその個人の不動産所得を生ずべき業務の用に供したもののうち、不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算する際の耐用年数を次の方法により算定しているものをいう。 (3) 国外不動産所得の損失の金額とは 「国外不動産所得の損失の金額」とは、不動産所得の金額の計算上生じた国外中古建物の貸付けによる損失の金額(※)をいう。 (※) その国外中古建物以外の国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額がある場合には、当該損失の金額を当該国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額 (4) 国外中古建物の譲渡 国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとされる償却費の額の累計額から上記(1)によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額を除くこととすることその他の所要の措置を講ずることとされている。 つまり、不動産所得の計算上損失とみなされなかった金額は、当該不動産の譲渡時の取得費に加算してもよいということである。 (5) 適用時期 令和3年以後の各年所得税について適用される。 (了)
《速報解説》 金融庁、時価算定基準の公表受け財務諸表等規則等の改正(案)を公表 ~令和2年度税制改正大綱にも新基準導入に伴う規定見直しについて記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月12日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、下記①から⑬の改正(案)について、意見募集を行っている。 これは、2019年7月4日に「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)等が公表されたことを受けたものである。 意見募集期間は令和2年1月14日までである。 また、「令和2年度税制改正大綱」(令和元年12月12日、自由民主党・公明党)では、後述するように、「時価の算定に関する会計基準」の導入に伴う整備について記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 以下では、財務諸表等規則に関する改正について解説する。 1 市場参加者の定義(財規(案)8条関係) 「市場参加者」の定義を示し、時価の算定の対象となる資産もしくは負債に関する取引の数量及び頻度が最も大きい市場、当該資産の売却による受取額を最も大きくすることができる市場又は当該負債の移転による支払額を最も小さくすることができる市場において売買を行う者であって、一定の要件をすべて満たす者とする(財規(案)8条64項)。 そのほか、時価の算定に係るインプット、観察可能な時価の算定に係るインプット、レベル1、2及び3について定義する(財規(案)8条65項~68項)。 2 金融商品に関する注記(財規(案)8条の6の2関係) 金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、その内訳に関する次に掲げる事項を注記する。 財務諸表等規則ガイドラインでは、留意点が詳細に規定されている。 財規(案)8条の6の2第1項本文の規定にかかわらず、市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、同項第2号に掲げる事項の記載を要しない。この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記しなければならない。 3 棚卸資産に関する注記(財規(案)8条の33関係) 従来の「たな卸資産」を「棚卸資産」と表記し、市場価格の変動により利益を得る目的をもって所有する棚卸資産については、財規(案)8条の6の2第1項3号の規定に準じて注記しなければならないとする(重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる)。 当該事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、記載することを要しない。 なお、「期首たな卸高」を「期首棚卸高」と表記する改正なども行われている。 Ⅲ 施行日等 公布の日から施行予定である(経過措置に注意されたい)。 次の附則(案)も規定されている。 Ⅳ 令和2年度税制改正大綱における関係規定の整備 「時価の算定に関する会計基準」の導入に伴い、次の整備を行う(税制改正大綱79、80ページ)。 上記の改正は、令和2年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用する(経過措置に注意されたい)。 (了)
《速報解説》 企業会計審議会、「監査基準の改訂に関する意見書」を受け 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」等を改訂 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月6日付(ホームページ掲載日は12月13日)で、企業会計審議会は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」を公表した。これにより、令和元年9月6日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(平成30(2018)年7月5日)において財務諸表監査における監査報告書の記載区分等が改訂されたことから、内部統制監査報告書についても改訂するものである。 公開草案に対するコメントの概要及びコメントに対する考え方も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な改訂は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 改訂基準及び改訂実施基準は、令和2(2020)年3月31 日以後終了する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用する。 (了)
《速報解説》 金融庁、継続的な差異開示を廃止する開示府令の改正案を公表 ~IFRS任意適用拡大促進の観点から企業の開示負担軽減等を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月12日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表し、意見募集を行っている。 これは、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、指定国際会計基準を適用する企業の開示負担の軽減等を図るためのものである。 意見募集期間は令和2年1月14日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 第二号様式(有価証券届出書)の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(記載上の注意)(32)のeとfを改正し、継続的な差異開示を廃止するものである。 別紙1(下図)の「日本基準からIFRSに移行した企業の提出書類の見直し(案)(X2年3月期の年度末より指定国際会計基準を適用した場合)がわかりやすい。 (※) 金融庁ホームページより Ⅲ 施行日等 公布の日から施行予定である(経過措置に注意されたい)。 (了)
《速報解説》 交際費等の損金不算入制度の特例、2年延長も 接待飲食費特例から資本金100億円超の法人を除外 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 小林 穣 令和2年3月31日で期限切れとなる交際費等の損金不算入制度の特例については、先月の一部新聞等において大企業向けの減税措置が廃止されるとの報道も見られたが、令和元年12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)では、中小企業向けの特例措置を含め制度全体を2年延長する一方で、接待飲食費に係る損金算入の特例の対象から資本金の額等が100億円を超える法人を除外することが明記された。 1 現行制度の概要 交際費等の額は、原則として、その全額が損金不算入とされているが、損金不算入額の計算に当たっては、資本金の額又は出資金の額に応じ、一定の特例措置が設けられている(平成26年4月1日から令和2年3月31日までの間に開始する各事業年度)。 〔A〕 期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下である等の法人 損金不算入額は、下記①②のいずれかの金額となる。 〔B〕 上記〔A〕以外の法人 損金不算入額は、上記〔A〕の①の金額となる。 * * * なお、資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人の100%子法人等は、期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下であっても、〔A〕ではなく、〔B〕に従って損金不算入額を計算する。 2 改正内容 上記1の適用期限が令和4年3月31日まで2年延長された上で、〔A〕の①(接待飲食費に係る損金算入の特例)を適用できる法人から、その資本金の額等が100億円を超える法人が除外される(税制改正大綱P62・69)。 この対応について大綱では、「一部の大企業において、接待飲食費の特例によって交際費が大きく変化している状況とは言えず、現預金の大幅な減少に寄与していない」ことを理由に、投資や賃上げを促すための措置の一環としている(税制改正大綱P3)。 なお大綱では、交際費等の範囲に関する記述は見られないことから、いわゆる接待飲食費の5,000円基準は存置されると思われる(すなわち今回の改正案で適用除外とされる企業にも継続して適用される)。 (了)
《速報解説》 関連資料の不提示等及び相続国外財産に係る 「国外財産調書制度」の見直し ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 菅野 真美 1 現行の制度と問題点 国外財産調書制度とは、12月末現在の国外財産が5,000万円超の非永住者以外の居住者が、その種類や価額を記載して提出する義務のある調書である。この調書に記載された国外財産について、将来、所得税や相続税の税務調査で増差税額が生じた場合、加算税が5%軽減され、調書不提出・記載不備の場合は所得税について加算税が5%加重されていた。 現行制度の問題点として、調書に記載さえすれば、関連資料の不提示・不提出であったとしても軽減措置が適用され、相続税については、たとえ、国外財産調書の不提出・記載不備であったとしても加算税の加重措置は適用されず、これでは、国外財産についての適正な課税の確保が難しいと考えられていた。 このような状況を受け、12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)では以下のように、本制度の見直しが行われることが明記された。 2 改正案の概要 (1) 相続直後の相続国外財産の記載 相続開始年の12月31日基準の国外財産調書については、相続人等は相続等により取得した国外財産を記載しないで提出することができる。年末近くに相続があった場合、相続人等が被相続人の国外財産を把握することが難しい実務に配慮したからと考える。この判定方法は財産債務調書における相続財産も同様である。 (2) 相続税の加算税の加重措置 現行税制では、相続税については、調書の不提出・記載不備であったとしても加算税の加重はなされなかった。しかし、改正案では、相続国外財産に対する相続税に関して修正申告等があった場合においても、原則的には、加算税の加重措置の適用対象となる。ただし、相続人が全く知らない相続国外財産が見つかったような場合は、加重措置は適用されないと考える。 (3) 相続税の修正申告等があった場合の加算税の判定基礎 相続税の修正申告等があった場合、加算税の軽減・加重措置の判定の基礎となるのは下記3つの調書であり、軽減措置は、いずれか1つの調書について要件が満たされていれば適用となる。たとえ被相続人が調書未提出であったとしても、相続人が相続開始年の翌年に記載のある調書を提出して要件を満たせば軽減措置は可能と考える。また、加重措置は下記3つの調書すべてについて不提出・記載不備であれば、原則的には、適用になると考える。 (4) 関連資料不提示等の場合の軽減不適用、加算税の加重 改正案では、税務署等の職員から、国外財産の取得、運用、処分に関連する書類のうち通常なら保存し又は入手が可能なものについて提示等を求められた場合において、提示等のあった日から60日以内の指定日までに、国外財産を有する人がその書類の提示等をしなかった場合は、加算税の軽減措置は不適用となり、加重措置における加算割合は、原則的には、10%(適用前の割合は5%)となる。 (5) 施行時期 (1)の改正案は、令和2年分以後の国外財産調書や財産債務調書について適用される。 また、(2)(3)(4)の改正案は、令和2年分以後の所得税、令和2年4月1日以後の相続等により取得する財産に係る相続税について適用される。 (了)
《速報解説》 固定資産税における所有者不明土地対策として 現所有者(相続人等)の届出義務化・使用者を所有者とみなす改正 ~令和2年度税制改正大綱~ 弁護士 羽柴 研吾 1 はじめに 令和元年12月12日に公表された「令和2年度税制改正大綱(与党大綱)」において、所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応が明記された。 近年、所有者不明土地等が全国的に増加しており、公共事業や生活環境に様々な課題を生じさせおり、固定資産税の課税の局面においても、所有者情報を円滑に把握することが課題なっていた。 与党大綱は、このような背景を踏まえ、所有者不明土地等に係る固定資産税の課題に対応するための方針を示すものである。 2 「現に所有している者」の申告の制度化 固定資産税の納税義務者は、原則として、固定資産の所有者である(所有者課税の原則:地方税法第343条第1項)。この「固定資産の所有者」とは、その年度の属する年の1月1日現在において、土地又は家屋の登記簿等に所有者として登記又は登録されている者をいう(地方税法第343条第2項前段)。また、所有者として登記又は登録等されている者が賦課期日前に死亡している場合には、賦課期日において、土地又は家屋を現に所有している者(相続人等)が納税義務者になる(同項後段)。 しかしながら、相続が発生した場合でも相続登記が行われない事案も少なからずあり、地方公共団体としては、その所有者の特定に多大な時間と労力を要してきたところであった。 そこで、与党大綱においては、登記簿上の所有者が死亡し、市町村の条例で定めるところによって、土地又は家屋を現に所有している者(相続人等)に対し、氏名・住所等必要な事項を申告させることができることとされた。なお、届出義務違反があった場合、固定資産税の他の申告制度と同様の罰則が設けられることが予定されている。 この与党大綱に基づく改正は、令和2年4月1日以後の条例の施行の日以後に現に所有している者であることを知った者について適用することが想定されている。 3 使用者を所有者とみなす制度の拡大 地方公共団体の課税の現場では、固定資産を使用している者がいるにもかかわらず、所有者が正常に登記されていないなどの事情によって、調査を尽くしても所有者が一人も特定できないケースが存在する。また、地方公共団体が使用者に対して所有者の調査をするために協力を要請しても、使用者から協力を得られないなどの事情によって、所有者の特定に支障が生じる場合もある。 このような場合に、誰に対しても課税できないことは、課税の公平性から問題がある旨指摘されてきたところである。 現行の地方税法にも、固定資産の使用者等を所有者とみなし、納税義務者として課税するための条項が存在する(地方税法第343条第4項)。しかしながら、従来の裁判例においては、条文上、不明の原因が「震災、風水害、火災」とされていることから、「その他の事由」には、震災、風水害、火災に類する異常な自然現象が人為的原因による被害によるものが含まれ、過去の歴史的経緯等によって調査をしても現在の所有者が不明である場合は含まれないとされてきた(大阪高判平成28年3月10日判例秘書等参照)。 そこで、与党大綱では、市町村が調査を尽くしても固定資産の所有者が1人も明らかとならない場合には、使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、固定資産税を課すことができることとする方針が明記された。また、使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録する場合には、その旨を事前に使用者に通知するものとすることとされた。 この与党大綱に基づく改正は、令和3年度以後の年度分の固定資産税について適用することが想定されている。 (了)
《速報解説》 オープン・イノベーション促進税制の創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 令和2年度税制改正では、企業の事業革新につながるオープン・イノベーションを促進する観点から、次世代のイノベーションを担うベンチャー企業への出資について一定の所得控除を認める新たな税制措置が講じられる予定である。 (1) 背景 現状、日本企業は、欧米に比べて十分な付加価値を乗せることができておらず、その差は開く一方である。製品・サービスの付加価値を高めるためには、既存企業とベンチャー企業とが連携して行うオープン・イノベーションの促進を急ぐ必要がある。そのためには、既存企業が人材・技術・資本の閉鎖的な自前主義、囲い込み型の組織運営を脱し、開放型、連携型の組織運営に移行しなければならない。 そこで、オープン・イノベーションを促進し、既存企業の有するリソースを最大限活用するとともに、ユニコーン級のベンチャーの育成を図り、国際競争力を強化するために新税制が創設されることになった。 (2) 制度概要 対象法人が、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に特定株式を取得し、かつ、これをその取得した日を含む事業年度末まで有している場合において、その特定株式((4)参照)の取得価額の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理したときは、その事業年度の所得の金額を上限に、その経理した金額の合計額を損金算入できる。 (3) 対象法人 青色申告書を提出する法人で特定事業活動を行うものが対象となる。「特定事業活動を行うもの」とは、自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことを目指す株式会社等をいう。 国内の事業会社とコーポレート・ベンチャー・キャピタルによる出資が対象となる。投資法人などによる出資は認められない。 (4) 特定株式 特別新事業開拓事業者の株式のうち、次の要件を満たすことにつき経済産業大臣の証明(注)があるものをいう。「特別新事業開拓事業者」とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち特定事業活動に資する事業を行う内国法人(既に事業を開始しているもので、設立後10年未満のものに限る)又はこれに類する外国法人をいう。なお、大企業のグループ会社への出資は対象とならない。 (注) 出資後に企業から提出を受けた資料を、経済産業省において確認し、出資した年及び特定期間(5年間)中、経済産業大臣が証明する。 (5) 優遇措置 特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定の金額として経理することを前提に、その経理した金額の合計額の損金算入が認められる。ただし、その事業年度の所得の金額が上限とされる。 (6) 特別勘定の取崩し 次に掲げる場合は、特別勘定を取り崩し、益金算入する必要がある。ただし、特定期間(5年間)保有した株式についてはこの限りでない。 【制度概要図】 (※)CVC=コーポレートベンチャーキャピタル (注) 自由民主党税制調査会資料をもとに作成(一部筆者の加筆あり) (了)