日本の企業税制 【第76回】 「BEPS包摂的枠組みに関する声明(2020.1.31)から見た 本年のデジタル課題の動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇OECD事務局案に基づいた「2つの柱」に関する声明 1月31日、OECDのインクルーシブ・フレームワーク(包摂的枠組み(137の国と地域が参加)、以下IFという)は、経済の電子化に伴う課税上の課題に対する2ピラー・アプローチに関するステートメントを発表した。 “2ピラー・アプローチ”とは、①ピラー1に関して昨年10月に公表された「統合的アプローチ(a possible unified approach)」に関する事務局案(public consultation document)及び、②ピラー2に関して11月に公表された「グローバル税源浸食対抗(global anti-base erosion(GloBE)」に関する事務局案(public consultation document)を指している。 なお、ピラー1に関する事務局案については本連載【第72回】、ピラー2に関する事務局案については本連載【第73回】をそれぞれ参照されたい。 今回のステートメントでは、ピラー1に関しては、昨年10月の事務局案である「統合的アプローチ」を本年内に取りまとめる予定のコンセンサスに基づく解決策の交渉のたたき台として、正式にIFとして承認したことが明記されている。 また、解決策が合意された際には、関連する一方的措置(unilateral actions)を撤回することについてIF加盟国・地域がコミットするよう求めている。フランス、イギリス、イタリア、スペイン、オーストリアなど欧州諸国に拡大している一方的措置を意識したものである。 一方、ピラー2に関しては、11月からの進捗報告にとどまっており、政策目的自体についてもIF参加国の中で見解の相違があることが示されている。すなわち、例外を設けず最低税率まで課税を実施すべきであるという意見がある一方、残されたBEPSの課題(remaining BEPS issues)に絞って対処する観点から、実質基準によるカーブアウト(substance carve-outs)を主張する意見も紹介されている。 IFでは、今後さらに検討を進め、7月初旬(early July)の会合において、重要な政策上の論点(key policy features)について合意することを目指すこととしている。 〇米国のセーフハーバー提案への懸念 今回のステートメントでは、昨年12月3日にムニューシン米国財務長官がグリアOECD事務総長に書簡で提案した「セーフハーバー」に基づく第1の柱の実施について触れている。 この「セーフハーバー」提案は、多国籍企業がグローバルベースで、ピラー1に従って課税を受けることを選択するというものである。つまり各国・地域における課税権の発生が多国籍企業の選択によって決定されるというものといえる。 ステートメントでは、多くのIF加盟国・地域がその提案された「セーフハーバー」に基づくピラー1の実施に懸念を表明していることが記されている。また、「セーフハーバー」の問題は、第1の柱に関して、他の検討課題について合意された後に、検討することとされている。 〇統合的アプローチの制度の大枠 昨年10月のOECD事務局案と同様、ピラー1はAmount A、B、Cの3種類の課税所得から構成されている。Amount Aは多国籍企業のグループ単位(又はビジネスライン単位)で、定式的な方法(つまり従来の独立企業原則(ALP)によらない方法)により市場国に配分される残余利益の一部をいう。これに対して、Amount B、Cは、あくまでも(PEの存在を前提とすることも含め)従来の所得配分ルールに基づくものである。 中でもAmount Bは、市場国において行われる基礎的な販売・マーケティング機能に関するALPに基づく固定的な所得である。一方、Amount Cは基礎的機能を超える場合の追加的な所得であり、改善された紛争解決手段の必要性が強調されている。 〇Amount Aの対象(スコープ) 昨年10月のOECD事務局案では、Amount Aの対象(スコープ)として「消費者向けビジネス(Consumer-facing businesses)」というカテゴリーが提示されていたが、今回の提案では、そこから除外されるものがいくつか明らかにされるとともに、もう1つのカテゴリーとして「自動化されたデジタルサービス(Automated digital services)」が追加されている。 まず、「自動化されたデジタルサービス」とは、複数の国・地域にまたがり大規模なユーザーに対して標準化され提供される自動化されたデジタルサービスを指し、具体的には、次のものが含まれる(限定列挙ではない)とされている。 クラウドコンピューティングサービスやオンライン広告サービスのように顧客が消費者(個人)ではなく、従前の「消費者向けビジネス」では捉えきれなかった事業が含まれていることに注目すべきである。 一方、「消費者向けビジネス」の内容について具体化が図られており、次のものが列挙されている。 消費者に販売される最終製品に組み込まれる中間製品及び部品の販売はこれには含まれないが、中間製品又は部品そのものがブランド化され、個人使用のために一般に消費者によって購入される場合は対象となる。 また、航空業や海運業、原材料及びコモディティの採掘事業及びその他の製造者・販売者は対象外であり、リテールバンキングや保険といった消費者向けサービスも規制業種であることから対象外である。 〇Amount Aのネクサス ネクサス(関連性)の有無の判断基準として、市場国・地域との間の「重要かつ持続的な関与(significant and sustained engagement)」の存在が提示されている。その第1のメルクマールとしては、当該市場国・地域において複数年にまたがる一定水準を超える売上高の存在が挙げられている。 特に「自動化されたデジタルサービス」に関しては、市場国における一定期間内の売上高が、ネクサスの有無の唯一の判定基準とされる。一方、それ以外のビジネスに関しては、単に製品を市場国・地域で販売しているだけでは、ネクサスは生じないとされ、物理的拠点や市場国・地域に向けたターゲティング広告の存在など追加的な要素を加味することが検討課題として提示されている 〇Amount Aの算定方法 Amount Aの算定方法については、具体的な数値は明らかにされていないが、算定の基礎は、連結財務諸表における税引前利益から出発することが示されている。もっとも、キャピタルゲインや持分法損益の取扱いなど重要な課題は残されている。 Amount Aは一定の利益水準を超える部分の利益(残余利益)の一部を対象とするものであることから、対象となる部分を特定する必要があるが、ビジネスラインによってデジタル化の度合いが異なれば、その対象となる部分の割合も異なるのではないかという問題意識から、Amount Aの算定の定式に、デジタル化の度合いを反映するよう調整(digital differentiation)が必要となるかもしれないとの指摘もある。 (了)
〔令和2年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 「「中小企業の設備投資を支援する措置の延長等」及び 「地域未来投資促進税制の見直しと延長」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和元年度税制改正における改正事項を中心として、令和2年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第2回】は「特定事業継続力強化設備等の特別償却制度の創設」、「みなし大企業の範囲の見直し」及び「中小企業向け租税特別措置の適用除外措置」について解説した。 【第3回】は「中小企業の設備投資を支援する措置の延長等」及び「地域未来投資促進税制の見直しと延長」について解説する。 1 中小企業の設備投資を支援する措置の延長等 中小企業の設備投資を支援するための税制措置が、令和元年度税制改正により延長されている。したがって、令和2年3月期の決算申告においては適用されることになる。具体的には、次の通りである。 ① 「中小企業経営強化税制」の見直しと延長 「中小企業経営強化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得して指定事業に供用した場合に、即時償却又は税額控除(7%又は10%)を認める制度である。 (※) 資本金又は出資金3,000万円以下の中小企業者等 適用対象となる設備は次の通りである。また、令和元年度税制改正により、働き方改革に資する設備(休憩室に設置される冷暖房設備、作業場等に設置されるテレワーク用PCなど)も、適用対象であることが明確化された。 (※1) 情報通信業や医療保険業においては、一定の場合に制限あり。 (※2) 医療保険業を行う事業者が取得等するものは除く。 (※3) 複写販売用の原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除く。 平成31年3月31日までの間に取得等して事業供用した資産が対象とされていたが、これが2年延長され、令和3年3月31日までに取得等して事業供用した資産が対象とされた。したがって、令和2年3月期の決算申告においては適用が継続される。 ② 「中小企業投資促進税制」の延長 「中小企業投資促進税制」とは、青色申告書を提出している中小企業者等が、特定の機械装置などを取得等して、指定事業(風俗営業や娯楽業等を除くほぼ全業種)の用に供した場合に、その事業の用に供した事業年度において、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。 (※) 資本金又は出資金3,000万円以下の中小企業者等 適用対象となる設備は次の通りである。 平成31年3月31日までに取得等をして事業供用した資産が対象であったが、これが2年延長され、令和3年3月31日までに取得等して事業供用した資産が対象とされた。したがって、令和2年3月期の決算申告においては適用が継続される。 ③ 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の見直しと延長 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」とは、青色申告書を提出する中小企業者等が認定経営革新等支援機関等の指導及び助言を受け、一定の器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、30%の特別償却又は7%の税額控除を認める制度である。 この制度の適用を受けるためには、指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類の提出が必要となる。また、令和元年度税制改正において、経営改善により売上高又は営業利益の伸び率が年2%以上となる見込みであることについて、認定経営革新等支援機関等の確認を受けることが要件に追加された。 (※) 資本金又は出資金3,000万円以下の中小企業者等 適用対象となる設備は次の通りである。 平成31年3月31日までに取得等をして指定事業に供用した資産が対象であったが、これが2年延長され、令和3年3月31日までに取得等して事業供用した資産が対象とされた。したがって、令和2年3月期の決算申告においては適用が継続される。 2 地域未来投資促進税制の見直しと延長 「地域未来投資促進税制」とは、地域経済牽引事業の促進区域内において、青色申告書を提出する承認地域経済牽引事業者が、特定事業用機械等を取得等して地域中核事業に供用した場合に、特別償却又は税額控除を認める制度である。 これについて、令和元年度税制改正において次の見直しが行われている。 (※) 前事業年度の付加価値額≧前々事業年度の付加価値額×108% 平成31年3月31日までの間に取得等して事業供用した資産が対象とされていたが、これが2年延長され、令和3年3月31日までに取得等して事業供用した資産が対象とされた。したがって、令和2年3月期の決算申告においては適用が継続される。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第11回】 「役員に不正があった場合に想定される税務上の論点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 役員に不正があった場合、通常の企業であれば当該役員の辞任、支給済の給与の自主返納やクローバック、そして役員給与額を改定することによる一時的な減額が想定される。このうち、クローバックについての留意点は【第8回】で触れている。 今回は、定時改定以外に役員報酬の減額を行う場合における、定期同額給与該当性について触れる。 (1) 定期同額給与の概要 定期同額給与は、役員報酬の税務を考える上で、「基本の基」となる重要な論点である。その趣旨は【第10回】で触れたように、お手盛りで利益を圧縮することを防止するためであり、法人税法は定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3類型の規定を準備している。そして、これら3類型に該当しなければ、すなわち給与支給に恣意性が認められれば損金算入を認めないという構造となっている。 換言すれば、定時株主総会等を経て、手続き上瑕疵なく決定された役員給与は恣意性の排除が担保されることにより損金算入が認められるのであって、法人税法上、役員給与は損金算入されないのが原則である。 これら3類型の支給形態のうち、最も典型的とされる形態が定期同額給与である。 定期同額給与とは、その名称の通り定期的に決まった金額を支給する給与であり、その定義は「その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」である(法法34①一)。 具体的に定期同額給与に該当するように支給するためには、事前の定めや慣習による支給基準に基づいて、毎日、毎週、毎月といった1月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給するとされており(法基通9-2-12)、役員給与の額を改定する場合は、以下①②③の通り、所定の改定時期や事由に基づいた改定を行う必要がある(法令69①一イ~ハ)。 (2) 懲戒処分による報酬減額の場合 ここで、役員の不正等が発覚し、懲戒処分により報酬減額を行った時期が定期的な改定時期と異なった場合、臨時改定事由として取り扱うことが可能かどうかを確認したい。 臨時改定事由による改定が認められるかどうかの判定は「個々の実態に即し、事前に定められていた役員給与の額を改定せざるを得ないやむを得ない事情が存在するかどうかにより判定される」と説かれている(※1)。 (※1) 武田昌輔編『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規、加除式)2161頁の22。 通達では、この具体的例示として、副社長が社長に就任する場合、そして合併により役員の職務内容が大きく変わる場合の2つが示されているのみであり(法基通9-2-12の3)、翻せば当該通達は、分掌変更や組織再編であれば臨時改定が認められるとしか示されていない。 しかし、企業コンプライアンスへの取り組みが重視される今日においては、役員の不正等があった場合は直ちに公表し、当該役員や代表者はその責を明らかにするという姿勢が一般的になっている。このような姿勢は、上場企業のみならず中小企業でも見られるところであり、金融機関や取引先との関係維持のため、不正等が判明した際には役員給与を減額する事例も散見されるところである。 役員の行為に不正があり、当該役員の給与を一時的に減額する処分を実施した場合において、当該処分の理由が企業秩序の維持や法人の社会的評価への悪影響を避けるためにやむを得ず行われたものであり、その役員の行為に照らして社会通念上相当のものであると認められる場合には、減額された期間においても引き続き同額の定期給与の支給が行われているものとして取り扱って差し支えないと考えられる(※2)。 (※2) 国税庁「役員給与に関する質疑応答事例」(平成18年12月)3頁。当該質疑応答事例は、平成18年の会社法改正を受けて税制改正がなされた直後に公表されたものであり、改正当時から役員の不正には報酬の減額をもって対応することも想定されていたといえる。 これは、不正を働き企業秩序を乱した役員に一定期間の役員給与の減額処分を行うことは、企業慣行として定着していること等を理由とする。 したがって、役員の不正など不祥事をトリガーとして、このような全額カットや一部減額処分を行う場合でも、臨時改定事由に該当し、定期同額給与として取り扱われることとなるだろう。 (了)
相続税の実務問答 【第44回】 「令和元年台風第19号による被災地内の土地等がある場合の相続税の申告期限」 税理士 梶野 研二 [答] お父様がお亡くなりになられたことによる相続税の申告書は、本来、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内、つまり令和2年3月10日までに提出しなければなりませんが、あなた方の場合には、相続財産の中に令和元年台風第19号による災害に係る「特定地域」に指定された長野県内に存する土地がありますので、相続税の申告期限は、少なくとも特定非常災害に指定された令和元年台風第19号の発生日の翌日から10ヶ月を経過する日、すなわち令和2年8月11日まで延長されます(国税通則法の規定に基づき申告期限がさらに延長される場合があります)。 なお、遺産分割の結果、この土地を弟さんが1人で相続することとなったとしても、相続人全員の相続税の申告期限が延長されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 特定の災害が発生した場合の相続税の特例措置 相続税の課税価格の計算上、各財産の価額は、相続開始日の時価によることが原則であり(相法22)、相続税の申告書は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出することとされています(相法27①)。 しかしながら、相続税の申告書の提出期限までの間に発生した災害により甚大な被害が生じた場合には、「被災者の不安を早期に解消するとともに、税制上の対応が復旧や復興の動きに遅れることのないよう」(財務省「平成29年度税制改正の解説」582頁)にとの観点から、平成29年度の税制改正により次の特例措置が設けられました。 2 特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例 相続税の課税価格の計算上、相続や遺贈により取得した財産の価額は、相続開始時における各財産の時価とされており(相法22)、相続開始後に生じた原因により財産の価額が下落したとしても、相続税の課税価格の計算には影響しません。 しかしながら、特定非常災害の発生日前に相続が開始し、かつ、その相続に係る相続税の申告書の提出期限前に特定非常災害が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産のうち、特定非常災害の発生日において所有していた特定土地等又は特定株式等について相続税の課税価格に算入すべき価額は、その特定非常災害の発生直後の価額とすることができることとされました(措法69の6①)。 この「特定非常災害」とは、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」第2条第1項の規定により特定非常災害として指定された災害をいいます。令和元年の台風第19号は、「令和元年台風第19号による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」(令和元年政令第129号)により特定非常災害に指定され、その発生日は令和元年10月10日とされています。 また、「特定土地等」とは、特定地域内にある土地又は土地の上に存する権利をいい、「特定株式等」とは、特定地域内に保有する資産の割合が高い一定の法人の株式又は出資(上場株式等を除きます)をいいます。この場合の「特定地域」とは、被災者生活再建支援法第3条第1項の規定の適用を受ける地域(同項の規定の適用がない場合には、その特定非常災害により相当な損害を受けた地域として財務大臣が指定する地域)をいい、令和元年台風第19号に関しては、次の地域が該当します。 〇「令和元年台風第19号」による災害に係る特定地域 3 相続税の申告書の提出期限の延長の特例 相続税の申告書は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません。しかしながら、この本来の提出期限までの間に災害が発生した場合には、本来の申告書の提出期限内に申告をすることが困難となることも考えられます。 そこで、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者のうちに、上記2の特例の適用を受けることのできる者がいる場合には、その相続又は遺贈により財産を取得した相続人及び受遺者の全員の相続税の申告書の提出期限が、次の①②のいずれか遅い日まで延長されることとされました(措法69の8①)。 4 ご質問の場合 あなた方が、お父様の相続が開始したことを知った日が令和元年5月10日であるとしますと、本来の相続税の申告書の提出期限は、その日の翌日から10ヶ月を経過する日、すなわち令和2年3月10日です。 しかしながら、相続財産のうちに特定地域内に指定された長野県内の土地がありますので、この土地は、令和元年台風第19号による被害の発生直後の価額により評価することができるとともに、相続税の申告書の提出期限は、少なくとも特定非常災害の発生日(令和元年10月10日)の翌日から10ヶ月を経過する日(この10ヶ月を経過する日は令和2年8月10日ですが、同日が祝日(山の日)であるため、その翌日の8月11日)となります。なお、国税通則法第11条の規定により申告期限が8月11日より後の日とされた場合には、同条の規定により延長された申告期限となります。 なお、遺産分割の結果、この土地を弟さんだけが相続することとなったとしても、相続人全員の申告期限が延長されることとなります。 (了)
給与計算の質問箱 【第2回】 「配偶者控除と配偶者特別控除の見直し」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 今年(令和2年)から、配偶者控除と配偶者特別控除の要件が変更になるそうですが、変更点について教えてください。 A 変更点は、配偶者控除、配偶者特別控除ともに配偶者の合計所得金額の要件が10万円増額になる点である。 * * 解 説 * * 1 配偶者控除の変更点 (1) 令和元年分の配偶者控除 配偶者控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者控除額は、【図表1】を参照。 【図表1】 令和元年分の配偶者控除 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 令和2年分以降の配偶者控除 配偶者控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者控除額は、令和元年分と同じである(前掲【図表1】参照)。 (3) 具体例 ▷令和元年、令和2年ともに、配偶者の収入が給与収入103万円のみ、それ以外の要件はすべて満たしているケース (※) 給与所得控除額の計算については前回参照。 2 配偶者特別控除の変更点 (1) 令和元年分の配偶者特別控除 配偶者特別控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者特別控除額は、【図表2】を参照。 【図表2】 令和元年分の配偶者特別控除 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 令和2年分以降の配偶者特別控除 配偶者特別控除を受けるための要件は、次のとおりである。 配偶者特別控除額は、【図表3】を参照。 【図表3】 令和2年分以降の配偶者特別控除 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 具体例 ▷令和元年、令和2年ともに、配偶者の収入が給与収入180万円のみ、それ以外の要件はすべて満たしているケース (※) 給与所得控除額の計算については前回参照。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第13回】 「適格合併を行った場合の被合併法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いについて解説します。 1 資産負債の引継ぎ 適格合併があった場合には、被合併法人の有する資産・負債は、最後事業年度終了の時の帳簿価額による合併法人への引継ぎがあったものとされ、被合併法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の2①)。したがって、適格合併が行われたことを理由に評価損益を計上することは認められません。 引き継ぐ負債には、被合併法人の法人税、地方法人税、法人住民税で申告期限が合併の日以後であるもの及び被合併法人の新株予約権に代えてその新株予約権者に交付すべき資産の交付に係る債務も含まれます(法令123②③)。 2 みなし事業年度 被合併法人の事業年度の中途で合併が行われた場合には、その事業年度開始の日から合併の日の前日までの期間を1事業年度とみなします(法法14①二)。このみなし事業年度が被合併法人の最後事業年度となります。「合併の日」とは、合併契約で効力が生じる日として定めた日をいい、新設合併の場合には設立登記の日をいいます(法基通1-2-4、1-4-1)。 3 申告納付手続き 被合併法人は合併により消滅するため、最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行うこととなります(通法6、地法9の3、消法59)。 4 最後事業年度の所得計算、税額計算上の留意点 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。被合併法人が最後事業年度終了時に有する減価償却資産、繰延資産については、通常通り損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金になります。ただし、最後事業年度が1年に満たない場合には、月数按分処理が必要になるため、留意が必要です。 5 被合併法人の役員、使用人に対する退職給与 一般に役員に対して支給する退職給与は、株主総会等で金額が具体的に確定した日又は退職給与を支給した日の属する事業年度の損金になるとされています(法基通9-2-28)。 合併に伴い退職した被合併法人の役員に対して退職給与を支給する場合に、合併承認総会等において金額が確定されていないときは、被合併法人が退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、最後事業年度において未払金として損金経理してもよいとされています(法基通9-2-33)。 この取扱いは、被合併法人の役員であると同時に合併法人の役員を兼ねている者又は被合併法人の役員から合併法人の役員となった者に対し、合併により支給する退職給与についても適用されます(法基通9-2-34)。 合併により退職した被合併法人の使用人に対して退職給与を支給する場合には、退職給与規定等で退職給与を支給する旨及びその金額が定められているときは、最後事業年度において未払金として処理しても債務として確定しているため、損金の額に算入されます。 6 欠損金の繰戻し還付 適格合併による解散の場合、原則として、被合併法人の未処理欠損金額は合併法人に引き継がれるため、欠損金の繰戻し還付の適用はありません(法法80④)。 7 事業税 被合併法人の最後事業年度の事業税は、被合併法人では損金にすることができず、合併法人において、その金額が確定した年度に損金算入されます。 8 最後事業年度の法人税申告書の添付書類 最後事業年度の法人税申告書には、貸借対照表、損益計算書等の他に、合併契約書の写し、組織再編成に係る主要な事項の明細書(適格組織再編成に該当するかの判定に必要な情報、移転資産負債の明細を記載するもの)を添付する必要があります。 9 具体例 (被合併法人の合併時の貸借対照表) 〔前提〕 〔被合併法人の移転税務仕訳〕 ◆適格合併を行った場合の被合併法人の取扱いのポイント◆ 被合併法人の最後事業年度の所得計算、税額計算は、基本的には通常の各事業年度の計算と同様に行います。 最後事業年度が1年に満たない場合には、減価償却、繰延資産など月数按分処理が必要になります。 適格合併により被合併法人が解散しても、欠損金の繰戻し還付の適用はありません。 最後事業年度の申告納付手続きは合併法人が行い、法人税の申告書の添付書類には合併契約書の写し等が必要になります。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第2回】 「“人材育成”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第36回】 「被結合企業の株主に係る会計処理③」 -受取対価が結合企業の株式のみである場合 (①関連会社を被結合企業とした企業結合と ②子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合)- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、被結合企業の株主に係る会計処理のうち、受取対価が「結合企業の株式のみ」(①関連会社を被結合企業とした企業結合と②子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合)である場合の会計処理を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理(関連会社を被結合企業とした企業結合) 関連会社を被結合企業とする企業結合では、被結合企業の株主に係る会計処理は、次のように行う(結合分離適用指針277項~279項)。 Ⅲ 受取対価が結合企業の株式のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理(子会社や関連会社以外の投資先を被結合企業とした企業結合) 子会社や関連会社以外の投資先(共同支配企業を除く)を被結合企業とする企業結合では、被結合企業の株主に係る会計処理は、次のように行う(結合分離適用指針280項~281-2項)。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q26】 会社分割した場合、労働保険に関してどのような手続きが必要か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 労働保険に関しては、分割会社、承継会社のそれぞれにおいて、分割後の事業所の設置状況や指定事業・被一括事業の関係を整理した上で必要な手続きを行う。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 継続事業の一括 労働保険においては、原則として労働者を1人以上雇用する事業所ごとに手続き事務(労働保険料の申告納付)を行うが、事務簡便の観点から事業の種類が同じ等の一定の要件を満たす場合は、所定の手続きを行うことにより、複数の事業所の手続き事務を1つの事業所でまとめて行うことができる。 これを「継続事業の一括」といい、手続き事務をまとめて行う事業所を「指定事業」、指定事業でまとめて手続き事務が行われる事業所を「被一括事業」という。 一般的には、同じ会社に複数の事業所がある場合でも、この継続事業の一括の手続きを行って、本社等で労働保険の手続き事務をまとめて行っていることが多い。 分割後の事業所の整理 分割時の労働保険の手続きは、分割後の事業所の設置状況や指定事業・被一括事業の関係等によって異なるため、まずは労働保険における事業所の関係を整理する必要がある。 ここでは、分割前後の事業所の設置状況が下記であることを前提として、必要な労働保険の手続きを確認する。なお、事業所はすべて継続事業で、事業の種類は同一とする。 《分割前》 ◇A社(分割会社) ◇B社(承継会社) 《分割後》 ◇A社(分割会社) ◇B社(承継会社) 労働保険の手続き ➤A社(分割会社)で必要な手続き A社では、a1事業所(東京本社)を管轄する労働基準監督署へ次の書類を提出する。 これは、a2事業所(横浜)の廃止に伴う手続きとなる。 a1事業所(東京本社)及びa4事業所(福岡)は、従業員の一部がB社に承継されるため所属従業員数は減少するものの、事業所自体は廃止されることなく設置状況は継続しているため、特に手続きは必要ない。 ➤B社(承継会社)で必要な手続き B社では、b5事業所(福岡)を管轄する労働基準監督署へ次の①の書類を提出し、b1事業所(東京本社)を管轄する労働基準監督署へ次の②③の書類を提出する。 ①は、b5事業所(福岡)を新設する手続きとなる。なお、①の届出書類の最下段には、継続一括申請予定としてb1事業所(東京本社)の労働保険番号も記載する。 ①の手続きを行った後、②③の手続きを行う。 ②は、b5事業所(福岡)の労働保険の手続き事務を、b1事業所(東京本社)でまとめて行うための手続きとなる。 ③は、労働保険概算保険料を追加申告する手続きとなり、会社分割によりA社から従業員が承継されたことにより、b1事業所(東京本社)の指定事業に関する労働保険概算保険料の基礎となる賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加し、かつ、概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合に必要となる。 労働保険の手続きにあたっては、事業所の整理状況により取扱いが異なるため、事前に労働基準監督署等に確認することをお勧めしたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第2回】 「必ずしも「1+1=2」とならない土地価格」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 形状との関係 個々の土地を併合して一体化した結果、従前よりも形状が良くなったり、反対に悪くなる場合のイメージを〔図1〕に掲げます。 〔図1〕 (1) 併合により形状が良くなる場合 〔図1〕の①のケースでは、A地はもともと整形地ですが、B地は不整形で旗竿状の土地となっています(間口が狭く、道路からの細長い進入部分は通路でしか使用できません)。 この2つの土地を併合して一体の土地とした場合(太枠の範囲)、B地を含む全体の土地が間口の広い整形地となり、全体が建物の敷地として有効利用できることになります。 このような場合、B地の価値はこれを単独で評価するよりも、併合後の一体地の一部として評価した方が高くなります。 すなわち、 A地単独での価格 + B地単独での価格 < 併合後の一体地の価格 となり、併合後の一体地には従前の各土地の価値を単純に合計した以上の価値が生ずるため、「1+1=2」ということにはならないといえます。 (2) 併合により形状が悪くなる場合 〔図1〕の②のケースでは、A地及びB地はもともと整形地ですが、それぞれ規模が異なります。 この2つの土地を併合して一体の土地とした場合(太枠の範囲)、全体の土地が鍵型の不整形地となり、整形地に比べれば建物配置(レイアウト)の上でやや使用勝手の劣る土地となってしまいます。 このような場合、A地、B地の価値をそれぞれ単独で合計した結果よりも、併合後の一体地としてみた場合の価値の方が低くなります。 すなわち、 A地単独での価格 + B地単独での価格 > 併合後の一体地の価格 となり、「1+1=2」という計算は成り立たず、併合によって不合理な結果が生ずることになります。 2 道路付けとの関係~併合により角地の一部となる場合 〔図2〕のケースでは、A地は道路に一面のみが接する土地(鑑定実務ではしばしば「中間画地」と呼んでいます)、B地は角地(道路に二面が接する土地)となっています。 〔図2〕 角地は、住宅地の場合は眺望や快適性、出入りの便に優り、商業地の場合は宣伝効果、商品陳列、商品の搬出入に優る等の利点があり、道路に一面のみが接する土地に比べて価値が高いという傾向にあります。 A地をB地と併合して一体の土地とした場合(太枠の範囲)、全体の土地が角地となり、A地そのものの価値も高まる結果、何かと便利な土地に変化します。 このような場合、A地の価値はこれを単独で評価するよりも、併合後の一体地の一部として評価した方が高くなります。 すなわち、 A地単独での価格 + B地単独での価格 < 併合後の一体地の価格 となり、併合後の一体地には従前の各土地の価値を単純に合計した以上の価値が生ずるため、「1+1=2」ということにはならないといえます。 3 正常価格と限定価格 (1) 大雑把なイメージ 以上、一般的な表現を用いて土地価格の特徴を説明してきましたが、ここで一歩踏み込んで、不動産鑑定評価基準との関係を押さえておく必要があります。 それは、「正常価格」と「限定価格」という関係です。 まず、イメージを大雑把にお話すれば、〔図1〕及び〔図2〕で、A地・B地の単独価格という表現を用いて説明した価格が正常価格に該当します。 また、〔図1〕の①では、併合後に価値が上昇した一体地の一部として捉えた場合のB地の価格が限定価格に、〔図2〕では、同様に併合後に価値が上昇した一体地の一部として捉えた場合のA地の価格が限定価格に該当します。 すなわち、ここでは、併合によりもともと所有していた土地の価値が上昇するため、その分だけ単独で捉えた場合の価格よりも高い価格で評価することが合理的だという考え方が成り立ちます。 これを一言で表現すれば、「正常価格」とは市場において誰が売り買いしても等しく成り立つ価格、「限定価格」とは(正常価格に比べて割高であっても)特定の当事者間では合理性をもって成り立つ価格という概念となります。 (2) 不動産鑑定評価基準における価格の定義 不動産鑑定評価基準では、正常価格及び限定価格を次のとおり定義しています。ただ、初めてこの基準に接する方がいきなりこの定義を読んでも抽象的な部分が多いため、今まで説明してきた価格のイメージを先に描きながら目を通していただければ理解に役立つと思われます。 ① 正常価格とは ② 限定価格とは (※) 下線筆者 ③ 限定価格の理解の仕方 (ⅰ) 「正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値」とは 端的に言えば、「誰が買っても同じ値段となるような価格」といえます(デパートやスーパーに陳列されている一般商品の価格と同じイメージです)。不動産は個別性が強く、このような明らかな市場がないため、不動産鑑定士が市場に成り代わり、誰に対しても等しく当てはまる市場価格(正常価格)を求めているといえます(公示価格はその代表例です)。 (ⅱ) 「市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格」とは 今まで説明してきたように、隣地買収により従来から所有していた土地の価値も上昇するため、その分、隣地を高めに買収しても(=相場を乖離した価格で買い取っても)合理性の認められる価格を意味します。ただし、この価格は特定の当事者間でのみ合理性をもって成り立つ価格である点に留意が必要です。 (了)