《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成30年9月及び 平成31年4月~令和元年6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2019(令和元)年12月18日、「平成30年9月21日及び平成31年4月から令和元年6月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、17件と最近では最も多くなっており、国税通則法が6件、相続税法が5件、所得税法が4件、法人税法及び国税徴収法が各1件となっている。 国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が13件、棄却された裁決が4件となっている。 【表:公表裁決事例平成30年9月21日及び平成31年4月~令和元年6月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された11件の裁決事例のうち、「隠ぺい、仮装」の認定が争点となった国税通則法の事案2件と損害賠償金の収益の帰属年度が争われた法人税法の事案1件について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 なお、前掲表のうち③とした平成30年9月21日裁決については、本誌「租税争訟レポート」連載第44回ですでに取り上げているので、合わせてお読みいただければ幸いである。 1 請求人の取締役の行為が事実の仮装に当たるとした事例・・・ ① 本件は、建築、土木資材販売等を目的とする株式会社である審査請求人が、原処分庁の調査を受けて法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の専務取締役G(以下「G専務」という)が取引先に内容虚偽の請求書を発行させた行為は、請求人の行為と同視することができ、請求人に仮装の事実があるとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、G専務の行為は請求人の行為とは認められないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は、G専務が各取引先に対し各請求書を発行させた行為をもって、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装したと認められるか否か、である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、通則法第68条第1項に規定する「納税者」について、「基本的に納税者本人(法人の場合は、その代表者)を指すものと解される」としたうえで、「法人における事業活動、経済活動は」、「組織に所属する複数の者がそれぞれの部署において一定の権限を与えられ、その権限と裁量に基づき、法人としての有機的な事業活動を担っているのが常態である」ことから、結論を次のように判示した。 そのうえで、事実認定の結果、G専務が各取引先に対し内容虚偽の各請求書を発行させた行為は、G専務が請求人の内部において有していた地位及び権限に基づき、請求人の業務として行われた行為であると認められ、請求人において仮装を防止するための措置を講じたとも認められないことから、全体として、納税者たる請求人の行為と評価できるという判断を示した。 審判所は、こうした評価に基づき、G専務による仮装は、請求人の行為と同視でき、請求人が課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したと認められることから、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装」したことに当たるとして、請求人の審査請求には理由がないから、棄却するという裁決を行った。 2 当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した事例・・・ ④ 本件は、電気計装工事業を営む個人事業主である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて、所得税等及び消費税等の各期限後申告を行ったところ、原処分庁が、当該各期限後申告について、それぞれ課税要件事実を隠蔽又は仮装したところに基づくものであるとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は、以下の2つであるが、本稿では、争点②について、審判所の判断を検討する。 (2) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人が内容虚偽の住民税申告書を提出した行為及び個人事業主であることを偽って「会社員である」と偽りの回答をした電話答弁等は、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことに該当する旨主張した。 これに対し、国税不服審判所は、原処分庁の調査担当職員が作成した質問応答記録書は重要な部分に関する解明が不足しており、その申述内容も不自然かつ不合理であると評価せざるを得ないことから、請求人が、住民税申告書を提出したことが、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできないと判断を示した。 さらに、請求人が、電話答弁をした当時、G社から給与として収入を得ていたことが認められることを併せ考えれば、請求人が「会社員です。」と答えたことだけを捉えて、虚偽の答弁であると評価することはできず、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することもできないとの判断を行った。 以上のことから、審判所は、所得税の重加算税の賦課決定処分を取り消す裁決をしたものである。 3 収益の帰属年度(損害賠償金)について請求人の主張を認めなかった事例・・・ ⑩ 本件は、農業機械機具の販売等を目的とする株式会社である審査請求人の元従業員が、請求人の仕入れた商品をインターネットオークションで販売して得た収益について、原処分庁が、当該収益は請求人に帰属するものであり、請求人は当該収益を帳簿書類に記載せず隠蔽していたなどとして、法人税の青色申告の承認の取消処分、法人税等及び消費税等の更正処分並びに重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該収益は請求人には帰属しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は次の7点と多岐にわたっているが、本稿では、主に①の収益の帰属、②の損害賠償請求権の収益計上時期及び⑤の事実の隠蔽について、国税不服審判所の判断を検討したい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、ネットオークション取引による落札代金は請求人に帰属するという原処分庁の主張に対し、本件取引は、元従業員が主体となって、請求人から窃取した商品を販売したものであり、その収益は実質的にも本件元従業員が享受したものと認められることから、その落札代金は、請求人に帰属しないものと判示した。 次いで、損害賠償請求権の収益認識時期については、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在及び内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断するべきであると一般論を述べたうえで、本件に係る商品の窃取は、反復継続して多数回にわたり行われ、その被害額は、毎年1,000万円前後であり、その態様は大胆なものであるから、仕入れに係る資料と売上げ及び棚卸しに係る資料とを照合すれば容易に発覚したものであるという事実認定を行った。 そのうえで、結論としては、通常人を基準とすると、各事業年度において、損害賠償請求権につき、その存在及び内容等を把握し得ず、権利行使を期待できないような客観的状況があったとはいえないことから、請求人の元従業員に対する損害賠償請求権は、落札代金等が元従業員の預金口座に入金された時点において順次発生したと解するのが相当であるとの判断を示した。 さらに、「事実の隠蔽」について、法人税については、損害賠償請求権が請求人の帳簿に計上されていなかったことは、請求人において、損害賠償請求権の存在を知らなかったことによるものであって、請求人がこれを隠蔽したことによるものではないと認め、消費税についても、事実を隠蔽したとは認められず、他に請求人に「偽りその他不正の行為」があったとは認められないという判断を示し、青色申告の承認の取消事由があるとも認められないとの結論を示した。 以上をまとめると、裁決の中で、国税不服審判所が全部取消しと判断した原処分は、青色申告の承認の取消処分、消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分であり、一部取消しと判断した原処分は、法人税等の更正処分のうち過少申告加算税の賦課決定処分を超える部分(重加算税の賦課決定処分)であった。 (了)
《速報解説》 利子税・還付加算金等の割合の引下げ ~令和2年度税制改正大綱~ 弁護士 下尾 裕 1 現行制度 現行の利子税、延滞税(延滞金)及び還付加算金の割合については、長期間にわたる低金利の状況を踏まえ、平成11年度税制改正及び平成25年度税制改正において、それぞれ割合の引下げ等の対応がなされていたが、それ以降もなお市中金利の実勢に比して高比率であるという問題は解消していなかった。 そこで、12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)では以下のとおり、利子税・還付加算金等の割合のさらなる引下げが行われることが明記された。 2 令和2年度税制改正大綱(与党大綱)における具体的な変更点 令和2年度税制改正大綱(与党大綱)から読み取ることのできる主な改正点は、以下の3点である。 以上を前提に、令和2年度税制改正大綱(与党大綱)の記載内容から想定される種類毎の本則による割合、改正前の割合及び改正後の割合をそれぞれ整理すると、以下のとおりである。 国 税 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 地 方 税 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※1) 貸出約定平均金利とは、日本銀行が公表する前々年10月~前年9月における「国内銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)」の月平均値を意味する。 (※2) 平均貸付割合とは、日本銀行が公表する前々年の9月~前年の8月までにおける「国内銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)」の月平均値と意味する。 (※3) 令和2年度税制改正大綱においては明示されていないが、本改正前の割合である「貸出約定平均金利」が「平均貸付割合」に変更されるほかは変更がないものと想定される。 (了)
《速報解説》 5G投資促進税制(特定高度情報通信用認定等設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度)の創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 与党による令和2年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)が、12月12日に公表された。 本稿では、令和2年度税制改正で新設される、特定高度情報通信用認定等設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度、いわゆるの「5G投資促進税制」について、概要をまとめたい。 2 「5G投資促進税制」とは (1) 大綱による説明(大綱62ページ) 大綱では、新たに制定される「特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律(仮称)」を前提に、青色申告書を提出する法人で同法に規定する「認定特定高度情報通信等システム導入事業者(仮称)」に該当するものが、同法施行日から令和4年3月31日までの間に、特定高度情報通信用認定等設備の取得等をして、国内にある事業の用に供した場合には、その法人は、取得価額について、30%の特別償却と15%の税額控除(控除税額は法人税額の20%を上限とする)との選択適用ができる、とされている。 このように15%の税額控除が可能となる大胆な施策であるが、本制度は研究開発税制等と同様、賃上げや投資に消極的な大企業に設けられた適用制限の対象に加えられることから、以下のすべての要件を満たす大企業については適用が停止されるため留意されたい。 (※) 令和2年度改正により現行10%から30%へ引き上げられる。詳しくは「こちら」。 (2) 制度導入の趣旨(大綱4ページ) 「5G投資促進税制」を創設する趣旨として、大綱では、次のように説明されている。 (3) 5Gとは 「5G」とは「5th Generation」の略称であり、「第5世代移動通信システム」と呼ばれる携帯電話やスマートフォンなどの通信に用いられる次世代通信規格のことを言う。 総務省のサイトによると、5Gの特徴としては、通信速度の向上だけではなく、「多数同時接続」、「超低遅延」といった特徴を有しており、4Gまでが基本的に人と人とのコミュニケーションを行うためのツールとして発展してきたのに対し、5Gはあらゆるモノ・人などが繋がるIoT時代の新たなコミュニケーションツールとしての役割を果たすことが期待されているということである。 【5Gの特徴】 (※) 総務省「平成30年版 情報通信白書」より (4) Society 5.0の定義 内閣府のサイトでは、Society 5.0について、次のように説明されている。 (※) 内閣府ホームページより 3 「5G投資促進税制」を推進する経済産業省の狙い 経済産業省が公表している「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」によれば、「5G投資促進税制」創設の趣旨は次のとおりである(同資料12ページ。強調・下線は、経済産業省による。以下同じ)。 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」P12より もっとも、同資料15ページに掲載された「3G,4G移動通信機器(基地局)の世界市場(2018年)」とタイトルがつけられた円グラフによると、世界市場は、HUAWEI、 ERIKSSON、 NOKIAの3社で約80%のシェアを占めており、国内メーカーでは、NEC、富士通ともに1%未満のシェアしかないことから、経済産業省としては、同ページに「(参考)国際環境を踏まえた、ベンダーの競争力強化」のための施策、世するに世界でシェアを獲得できていない国内メーカーを支援するという側面が強いものと考えられる。 経済産業省の見解を引用する。 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」P15より (了)
《速報解説》 消費税の申告期限、法人税と同様に1ヶ月延長の特例を創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 金井 恵美子 12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)では、法人に係る消費税の申告期限の特例の創設が明記された。以下ではその内容について解説する。 1 改正の内容 2 改正の背景 ① 法人税との違い 法人税法においては、決算が確定しない場合の確定申告期限の延長が設けられている(法法75、75の2)。これは、法人税が確定決算主義を採用しており(法法74)、各事業年度の所得の金額の計算は、株主総会における承認等により確定した決算を基礎とするからである。 他方、消費税は、課税資産の譲渡等をした時に納税義務が成立(通法15②七)し、確定申告書の作成に当たって決算の確定を待つ必要はない(※1)。したがって、消費税法には、申告期限の延長を定める規定は設けられていない。災害等については、国税通則法11条による災害等に伴う一般的な期限の延長及び特別法等における被災事業者の取扱いによって対応している。 (※1) 法人の課税期間は原則として法人税の事業年度とされている(消法19①二)が、決算の確定を基礎としないため、必ずしも事業年度と一定している必要はない。還付申告等に配慮して、課税期間を1ヶ月間又は3ヶ月間に短縮する特例が設けられている(消法19①四・四の二)。 ② 関西電力事件 過去には、法人税の申告期限の延長の適用を受ける関西電力が、消費税の法定申告期限内の申告書の提出を失念し、12億円余りの無申告加算税の賦課決定処分を受けた(※2)。平成18年度の改正では、このような事務的なミスについて、申告期限後2週間以内の自主申告等を要件として無申告加算税を賦課しない特例が創設され、さらに平成27年度改正において、2週間が1ヶ月となった(通法66⑥、通令27の2①)。 (※2) 大阪地判平成17年9月16日税資255号順号10134。 ③ 改正の理由 この改正は、働き方改革を後押しするため納税事務負担の削減を図る目的で、経済産業省が要望した。法人税について申告期限の延長の適用を受けているにもかかわらず消費税の申告期限に合わせたスケジュールによっている、決算確定後に消費税の修正申告や更正の請求を行う等の事務負担が生じているためだ。 大綱は、「働き方改革が進められる中、企業は非効率な業務プロセスの見直し等を行い、従業員の生産性をより一層向上させる等の取組みが求められている。企業の事務負担の軽減や平準化を図る観点から、法人税の申告期限を延長することができる企業について、消費税の預り金的な性格を踏まえつつ、消費税の申告期限を1か月に限って延長する特例を創設する」(※3)としている。 (※3) 「令和2年度税制改正大綱」令和元年12月12日(自由民主党、公明党)15頁。 【参考】 (出典) 「経済産業関係 令和2年度税制改正について」P21 (了)
《速報解説》 未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し ~令和2年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和2年度税制改正大綱では、未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直しが示されている。 以下、ひとり親に対する現行の税制上の制度と、今回の見直しの内容について解説を行う。 【1】 ひとり親に対する現行の税制上の制度(寡婦(寡夫)控除) (1) 制度の概要 納税者自身が寡婦(寡夫)に該当するときは、27万円(特別の寡婦の場合は8万円加算され35万円)の寡婦(寡夫)控除の適用を受けることができる(所法81、措法41の17①)。 (2) 寡婦(寡夫)とは 寡婦、特別の寡婦、寡夫とは、原則としてその年の12月31日現在において、次の要件を満たす人をいう(所法2①三十・三十一、措法41の17①)。 ① 寡婦 寡婦とは、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当する人をいう(所法2①三十、所令11)。 ② 特別の寡婦 特別の寡婦とは、寡婦のうち次の(ア)から(ウ)のすべてに該当する人をいう(措法41の17①)。 ③ 寡夫 寡夫とは、次の(ア)から(ウ)のすべてに該当する人をいう(所法2①三十一、所令11の2)。 【2】 現行制度の問題点 現行の寡婦(寡夫)控除については、以前より下記の問題点が指摘されていた。 ① 婚姻を前提とした制度である ⇒ 未婚のひとり親には適用されない。 ② 事実婚の確認が求められていない ⇒ 事実婚の状況にある人も制度の対象になる。 ③ 下記のように、男女で控除額が異なる。 (ア) 合計所得金額500万円以下、子(※)あり ・寡婦控除:35万円 ・寡夫控除:27万円 (※) 子の要件については【1】参照。 (イ) 合計所得金額500万円以下、子なし ・寡婦控除(夫と死別、夫の生死不明の場合):27万円 ・寡夫控除:適用なし (ウ) 合計所得金額500万円超 ・寡婦控除(扶養親族又は生計一の子あり):27万円 ・寡夫控除:適用なし 【3】 見直しの概要 【2】の問題点を踏まえ、令和2年度税制改正大綱では、次の2つの見直しが示された。いずれも令和2年分以後の所得税及び令和3年度分以後の個人住民税に適用される(所要の経過措置が設けられる)。 (1) 未婚のひとり親に対する税制上の措置 現に婚姻をしていない人のうち、次の全てに該当する場合には、総所得金額等から35万円を控除する。 上記(ウ)については、次に掲げる要件のいずれかを満たすこととされている。 なお、この控除は、給与等及び公的年金等の源泉徴収の際に適用できるとされている。 (2) 寡婦(寡夫)控除の見直し ① 寡婦の要件の見直し(所得要件の追加) 寡婦の下記要件に、合計所得金額500万円以下であることを加える。 この見直しにより、寡婦に該当するには寡夫と同様、合計所得金額500万円以下であることが要件となる。 ② 寡婦及び寡夫の要件の見直し(事実婚を適用外に) 現行の寡婦及び寡夫の要件に、住民票に事実婚の記載がないことを加える。具体的には、次に掲げるいずれかの要件を満たすことが必要とされる。 ③ 寡婦控除の特例の廃止 特別の寡婦に対する控除額の加算(8万円)を廃止する。 ④ 控除額の引上げ 生計を一にする子(※)を有する寡婦に係る寡婦控除及び寡夫控除の控除額を35万円に引き上げる。 (※) 総所得金額等が48万円以下である子に限られる。 【4】 見直し前後の控除額 見直し前と見直し後の控除額を男女別にまとめると、次のとおりである(( )内の金額は住民税における控除額、住民税の見直しは令和3年度分以後)。 女 性 男 性 (了)
《速報解説》 金融庁、パブコメを経て「検査マニュアル廃止後の 融資に関する検査・監督の考え方と進め方」を策定 ~12/18に廃止するも現状の実務は否定せず~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月18日、金融庁は、「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」を公表した。これにより、令和元年9月10日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」も公表されている。 これは、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30年6月29日)を踏まえ、個別分野ごとの考え方と進め方を示すディスカッション・ペーパーの一環として、融資の観点から「金融システムの安定」と「金融仲介機能の発揮」のバランスの取れた実現を目指す当局の検査・監督の考え方と進め方を整理したものである。 金融検査マニュアル関係の文書は、令和元年12月18日に廃止されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 表紙を含めて48ページある。 本文書は、引当・償却について現状の実務を否定するものではなく、現在の債務者区分を出発点に、現行の会計基準に沿って、金融機関が自らの融資方針や債務者の実態等を踏まえ、認識している信用リスクをより的確に引当に反映するための見積りの道筋を示しているものである。 この点、金融機関の経営理念、経営戦略・方針、内部管理態勢、融資方針やリスク管理等と切り離して、特定の引当の見積方針の是非を問う意見もあったが、どのような見積方法が信用リスクをより的確に引当に反映することができるかは、金融機関ごとに異なると考えられたため、上記意見についても、金融機関の経営理念、経営戦略・方針、内部管理態勢、融資方針やリスク管理等を踏まえた上で検討いただくことが考えられるとのことである。 なお、金融庁では相談受付窓口を設置している。 以下では、主な内容について解説する。 1 融資に関する検査・監督の基本的な考え方 次の考え方が示されている。 2 融資に関する検査・監督の進め方 次の考え方が示されている。 3 信用リスク情報の引当への反映 金融機関が自らの融資ポートフォリオの信用リスクを引当に反映しようとする取組みについて検査・監督を行うに際しては、以下のような基本的な視点が重要と考えられるとしている。 そのうえで、金融検査マニュアル別表に基づいて定着している現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に、現行の会計基準に沿って、金融機関が自らの融資方針や債務者の実態等を踏まえ、認識している信用リスクをより的確に引当に反映するための見積りの道筋を示すとし、①一般貸倒引当金の見積りにあたっての基本的考え方・見積りにあたっての視点、②個別貸倒引当金の見積りにあたっての基本的考え方・見積りにあたっての視点が記載されている。 4 会計監査人との関係 会計監査は、予想損失が財務諸表上に正確に表現され、出資者(株主等)や預金者といったステークホルダーに対する正確な財務報告となり、有用な意思決定の材料となることを目的とするものであるが、その前提として、経営理念等から出発して、融資ポートフォリオの信用リスクの特定・評価というプロセスを経ることが当該目的にも資するものと考えられるとしている。 そのうえで、当該信用リスクの財務会計上の償却・引当への反映も、第一次的には経営陣の判断によって行われるべきであるが、それが会計上適切になされているか否かに関する監査は会計監査人の職責であり、当局は、これらの経営陣の判断や専門的意見が信用リスクの特定・評価のプロセスを適切に経たものである限り、これらの判断や意見を尊重することが適切であると考えられるとしている。 (了)
《速報解説》 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例、 従業員数要件等を見直し2年延長へ ~令和2年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 自由民主党と公明党は、令和元年12月12日、令和2年度税制改正大綱を発表した。この中で、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例が延長された。その際、適用対象法人の要件の見直しが行われている。以下では、その内容について解説する。 1 少額減価償却資産の損金算入特例(現行制度) 取得価額10万円未満の減価償却資産を取得した場合、取得した事業年度に全額を損金算入できるが、取得価額10万円以上の減価償却資産(使用可能期間が1年未満のものを除く)を取得した場合は、原則として減価償却が必要となる。 しかし、青色申告書を提出する中小企業者等においては、取得価額10万円以上の減価償却資産であっても、30万円未満であれば、少額減価償却資産として取得時に全額損金算入できる特例が設けられている。 ただし、次の点に注意が必要である。 また、取得価額30万円未満の減価償却資産が対象であるため、有形固定資産だけでなく、ソフトウェアや特許権等の無形固定資産も対象となる。新品の資産だけでなく、中古資産も同様である。 2 令和2年税制改正後(改正案) 少額減価償却資産の損金算入特例については、令和2年3月31日までの取得等が対象とされていたが、令和2年度税制改正により2年間(令和4年3月31日までの取得等)延長されることとされた。 また、期間が延長されたのと同時に、次のように要件の見直しが行われ、適用対象法人の範囲が縮小されたので注意が必要である。 したがって、適用対象となるのは原則として青色申告書を提出する中小企業者等であるが、下記の法人は適用対象から除かれることになる。 (了)
2019年12月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.349を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第74回】 「令和2年度税制改正大綱における法人課税の主要改正点」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 12月12日に、令和2年度与党税制改正大綱が取りまとめられた。令和時代最初の税制改正となる。 今回の改正案では、「Society5.0の実現に向けたイノベーションの促進など中長期的に成長していく基盤を構築すること」を念頭にオープンイノベーション税制の創設や5G税制の創設、連結納税制度の抜本的な見直しなど法人課税において大胆な措置が講じられることとなった。 以下では法人課税関係の主な改正項目を整理したい。 〇オープンイノベーション税制の創設 今回の大綱では、「既存企業が従前の閉鎖的でコストの高い自己開発にこだわることなく、新たな分野に投資するなど自ら事業革新を進めることは、この時代において企業が生き残るために必要不可欠である」との観点から、一定のベンチャー企業への出資を通じて新たなビジネスの創造に取り組む企業に対して、「極めて異例の措置」として、そのベンチャー企業の株式の取得価額の25%相当額の所得控除を認めることとされた(令和2年4月1日から令和4年3月31日まで)。なお、控除額相当額を当該株の取得日の属する事業年度の確定した決算において特別勘定として経理したときに限り適用される。 対象となるベンチャー企業の要件としては、設立後10年未満(新規設立を除く)の非上場会社で大企業のグループに属さないものとされている。一方、出資する側の要件としては、投資法人を除く株式会社(いわゆる事業会社)・事業会社のCVC等とされ、出資の金額については、出資者が大法人の場合は1億円以上、中小法人の場合は1,000万円以上である。なお、国外のベンチャー企業への出資の場合は5億円以上である。 また、出資後に に関する資料を、経済産業大臣に提出し、経済産業大臣の証明(出資した年を含め5年間)を受け、その証明書を申告書に添付することが求められる。 ただし、株式の取得後5年以内に当該株式の全部又は一部を有しないこととなった場合や配当の支払いを受けた場合等にはその割合に応じて、特別勘定を取り崩して益金に算入することとなる。 〇5G税制の創設 Society5.0の実現に不可欠な社会基盤である5G(第5世代移動通信システム)を安全・信頼性、供給安定性、オープン性を保証しつつ早期に整備するため、新たに制定する特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律(仮称)に基づく認定導入計画(仮称)に従って(同法施行の日から令和4年3月31日までの間に)導入される5Gシステムに係る一定の投資について、30%の特別償却と15%の税額控除との選択適用ができることとされた。 一方で、ローカル5Gとは制度趣旨や対象設備に重複がみられるコネクテッド・インダストリーズ税制(革新的情報産業活用設備を取得した場合の特別償却又は税額控除)については、平成30年度税制改正で創設されその適用期限が2021年(令和3年)3月31日までであるが、5G税制に発展する形で、適用期限の満了を待たず、1年前倒しで2020年(令和2年)3月31日をもって廃止されることとなった。 〇国内設備投資の促進 賃上げ・設備投資に消極的な企業については、一定の租税特別措置(研究開発税制、コネクテッド・インダストリーズ税制、地域未来投資促進税)の適用対象から除外する措置が平成30年度税制改正で講じられているが(適用期限は令和3年3月31日)、この要件の厳格化が行われる。大綱では、積極的な投資や賃上げなどについて、「経営者自身の意識改革が重要であり、『攻めの経営』に向けた自己改革と挑戦を改めて強く求めたい」と指摘されている。 現行制度では、次の要件のいずれにも該当しない場合に一定の租税特別措置の適用が認められないこととされている。その要件とは、①継続雇用者給与等支給額が前事業年度の継続雇用者給与等支給額を超えること、②当期の国内設備投資額が当期の減価償却費の総額の10%を超えることである。ただし、当期の所得金額が前事業年度の所得金額以下の場合には対象外である。 大綱では、上記②の要件につき10%を30%に引き上げることとされている。 また、大企業に対する賃上げ及び投資促進税制について、近年の設備投資の増加状況を踏まえ、設備投資要件を強化する(国内設備投資額が当期減価償却費総額の90%以上→95%以上)こととされた。 〇連結納税の抜本見直し 連結納税制度については、平成14年度税制改正で創設されて以来、18年ぶりの抜本的な改正となった。新たな制度は、企業における準備等を考慮し、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用することとされており、連結納税制度は創設以来20年の節目でその役目を終えることとなる。その間若干の見直しはされたものの、その基本的な骨格は不変であり、創設当時において堅固な制度設計がなされたことがうかがえる。 現行制度では、連結納税グループをあたかも1つの法人であるかのごとく扱い、連結親法人がグループを代表して申告・納税義務を負うこととされているが、新たな制度では、グループ全体での損益通算については維持するが、グループに属する各法人が個別にそれぞれ申告・納税義務を負うこととなる。したがって、個別申告方式に戻るわけであり、「連結納税」制度という名称もなくなり、損益通算に着目した「グループ通算」制度という名称になる。 もっとも、個別申告方式に戻るとはいうものの、現行の税額控除の額等を連結グループ全体で計算するグループ調整計算については、個々の制度趣旨や企業の税負担を踏まえ、例えば研究開発税制についてはグループ全体での計算が維持され、外国税額控除についても、グループ調整計算を行うことにより結果としてはグループ全体の控除限度額を個別法人に配分する現行制度と同額となる。 なお、受取配当等益金不算入制度については、グループ通算を行わない単体納税制度も含め、関連法人株式等に係る負債利子控除額は、一律に、関連法人株式等に係る配当等の額の4%相当額(その事業年度において支払う負債利子の額の10分の1相当額を上限とする)となる。 グループ通算制度の適用開始やグループへの加入の際の時価評価課税や欠損金の持ち込み制限・含み損の制限については、組織再編税制との整合性の取れた制度とすることで、現行の連結納税制度の適用開始や連結納税グループへの加入の際の時価評価課税や欠損金の切り捨ての対象を縮小し、組織再編への柔軟な対応が可能となる。 なお、個別申告方式に移行することを踏まえ、親法人と子法人の制度適用前の欠損金の取扱いを統一し、自己の所得の範囲内で控除することとする。また、グループからの離脱に際しては、現行の複雑な投資簿価修正の仕組みが簡素化されるとともに、一定の場合には離脱法人に対して時価評価課税が行われることとなる。 〇資本等取引を通じた租税回避防止措置 法人が一定の資本関係(50%超)にある子会社等(連結納税グループ内の法人を除く)から一定の配当等を受ける場合、その配当等の額の基因となった株式等の帳簿価額を引き下げる措置が創設される。 この措置の対象となるのは、一事業年度に子会社等から受ける配当等の合計額(2,000万円超に限る)が当該子会社等の株式の帳簿価額の10%相当額を超える場合である。なお、一定の資本関係を有することとなった日から10年を経過した日以後に受ける配当等は対象外である。 (了)
相続税の実務問答 【第42回】 「遺産分割の結果、当初申告よりも評価額が減少した場合の更正の請求」 税理士 梶野 研二 [答] 遺産分割の結果に従って計算した相続税の課税価格が、当初申告における課税価格よりも減少することとなる場合には、相続税法の特則規定による更正の請求をすることができます。 この課税価格の計算において、相続財産である宅地を複数の者で分割して取得することとなったときには、もともと一画地の宅地であったとしても、各相続人が取得した部分ごとに評価した価額を基に計算することとなります。 相続財産である宅地のうち、あなたが取得した部分について評価額を求め、この金額を基に相続税の課税価格を計算したときに、当初申告における相続税の課税価格を下回ることとなる場合には、相続税法の特則規定に基づく更正の請求をすることができます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続財産である宅地の評価 (1) 相続税の課税上、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、当該財産を取得した者ごとに評価することとなります。すなわち、被相続人が一体として利用していた一団の土地であっても、遺産分割の結果、複数の者がそれぞれ分割して取得することとなった場合には、各人が取得した部分ごとに評価することとなります。 (注) ただし、遺産分割等による分割後の宅地が、宅地としての通常の用途に供することができないなど、その分割が著しく不合理であると認められるときには、その分割前の宅地を1つの評価単位として評価します(評基通7-2(1)(注))。 (2) ところで、遺産が未分割であったことから相続人及び包括受遺者(以下「相続人等」といいます)の共有状態にあるとして一体的に評価していた宅地について、遺産分割が行われ、各相続人等の取得する財産が確定した場合には、上記(1)のとおり、各相続人等が取得した部分ごとに評価をすることとなりますので、分割前と分割後では、評価額の合計額が一致しないことがあります。 典型的な事例としては、①角地を分筆して2名の相続人がそれぞれ取得した場合、②道路側と奥側を2名の相続人がそれぞれ取得した場合などが考えられます。 ① 角地を分筆して2名の相続人がそれぞれ取得した場合 ② 道路側と奥側を2名の相続人がそれぞれ取得した場合 2 遺産分割の結果、相続税の課税価格が減少することとなった場合 (1) 相続税の申告書を提出する時に、相続人等の間で遺産の全部又は一部の分割がされていない場合には、相続税法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従ってその遺産を取得したものとしてその課税価格を計算することとされていますが、その後に遺産分割が行われ、相続人等がその分割により取得した財産を基に計算した課税価格が、相続税法第55条の規定により民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格を下回ることとなった場合には、相続税法に定める更正の請求をすることができることとされています(相法32①一)。 (2) 遺産分割の結果に従って、各相続人等が取得した宅地の価額を相続人等ごとに評価した場合のそれぞれの評価額の合計額と、未分割の状態で一体評価した場合の評価額が異なる場合があることは上記1の(2)のとおりです。この差異は、遺産分割に伴い生じるものです。したがって、相続税法第32条第1項1号に該当するかどうかについては、分割前の申告等における未分割の状態で一画地の宅地として評価した価額ではなく、各相続人等が分割により取得した状態で評価した価額によって算定した課税価格が、分割前の申告等における課税価格を下回ることとなるかどうかにより判定することが相当であると考えられます。 (注) この結果、分割前の申告等におけるすべての相続人等の課税価格の合計額が、分割後のすべての相続人等の課税価格の合計額と異なることもあり得ます。 (3) なお、当初申告における評価誤りを相続税法の特則規定に基づく更正の請求によって是正することはできません(【第41回】「更正の請求の特則規定による評価誤りの是正」参照)が、遺産分割により取得することが確定した財産をその遺産分割の結果に従って評価したところ、当初の評価額とは異なる評価額が算出されることとなった今回のケースはこれとは異なりますのでご注意ください。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、分割前においては、正面路線価30万円を基に全体を一画地の宅地として評価しますが、上図のようにそれぞれが分割取得すると、あなたの取得した部分は正面路線価25万円を基に評価することとなります。そのため、全体を一画地の宅地として評価した場合の評価額1億2,285万円よりも分割後のそれぞれの宅地の評価額の合計額1億1,707万5,000円(5,250万円+6,457万5,000円)の方が低くなります。 しかしながら、このような差異が生じるのは、当初申告における評価に誤りがあったことに起因するものではなく、遺産分割の結果に基づいて各相続人が取得した宅地ごとに評価を行ったことによるものです。あなたが取得した宅地を単独で評価し、相続税の課税価格を計算すると当初申告における課税価格よりも減少するとのことですので、あなたは相続税法の特則規定に基づく更正の請求をすることができます。 (了)