措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第19回】 「期限内の公益目的事業供用が困難な場合の「やむを得ない事情」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 譲渡所得の非課税措置を受けるためには、寄附財産が、その寄附日から2年を経過する日までの期間内に寄附を受けた公益法人等の公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みである必要があります。 この「2年」という期間について、延長等の例外措置はないのでしょうか。 - 回 答 - 贈与をした者(当該贈与した者の相続人及び包括受遺者を含む)又は遺贈をした者(当該遺贈をした者の相続人及び包括受遺者を含む)及び贈与又は遺贈を受けた公益法人等の責めに帰せられない次に掲げる事情がある場合など、当該贈与又は遺贈に係る財産を、当該贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該公益法人等の公益目的事業の用に直接供することが困難である事情が客観的に認められる場合には、国税庁長官が認める日までの延長が認められます(措令25の17④、措置法40条通達10)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 租税特別措置法第40条において、譲渡所得の非課税措置を受けるためには、当該贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該公益法人等の当該公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであることが要件とされています。 ただし、2年以内に当該公益法人等の公益目的事業の用に直接供することが困難である場合として政令で定める事情があるときは、国税庁長官が認める日までの期間の延長が認められています。 この「特別な事情」とは ・公益法人等が贈与又は遺贈を受けた土地の上に建設をする、贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供する建物の、その建設に要する期間が通常2年を超えること ・災害により、当該財産等を当該期間内に当該公益目的事業の用に直接供せないこと ・建築基準法その他の法令による制限を受けるなどのため、施設の設置に関する計画の変更を余儀なくされ、施設の設置ができなくなったことに伴い、当該財産等を2年以内に公益目的事業の用に直接供せないこと ・施設の設置認可に係る行政庁の指導又は施設の設置についての隣接地などの所有者などの反対などにより、施設の設置に関する計画の変更を余儀なくされ、施設の設置ができなくなったことに伴い当該財産等を2年以内に公益目的事業の用に直接供せないこと とされています(措置法40条通達10)。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第23回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 〈更なる検討〉 ~法人税法22条の2第2項と22条4項のいずれを根拠とすべきか~ 仕切精算書到達基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当する場合、法人税法22条4項を適用して、仕切精算書到達基準による収益計上が認められることになるのであろうか。あるいは、仕切精算書到達基準による収益計上は、目的物の引渡し日に「近接する日」にも該当するものとして、法人税法22条の2第2項の適用により、認められることになるであろうか。 根拠条文をいずれとして考えるかという問題である。結論からいうと、法人税法22条の2第2項の適用により、認められることになる。 法人税法22条4項は、2項に規定する当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとするとしているが、別段の定めがある場合は除かれている。 別段の定めに関する論点については本連載の第Ⅳ部において別途検討する予定であるが、少なくとも法人税法22条の2が22条4項の「別段の定め」であるという理解は学説の支持を得つつある(金子宏『租税法〔第23版〕』355頁(弘文堂2019)、酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』286頁以下(中央経済社2019)参照)。 かように、法人税法22条の2第2項が22条4項にいう「別段の定め」に該当するのであれば、22条の2第2項は22条4項に優先して適用されることは明白である。 かかる交通整理の規定は、法人税法22条4項だけではなく、22条の2第2項にも手当てされている。22条の2第2項には、同項の「別段の定め」から22条4項を除外する規定がわざわざ設けられている。 すなわち、法人税法22条の2第2項は、「別段の定め」がある場合には適用されない(「別段の定め」がある場合には同項ではなく当該「別段の定め」に該当する規定が優先的に適用されることになる)ところ、同項の「別段の定め」から22条4項が除かれているのである。 以上からすると、資産の販売等に係る収益の計上時期については、引渡・役務提供基準又は近接日基準という具体的規範を擁する法人税法22条の2第1項や第2項の適用領域であり、22条4項の適用はない。 仕切精算書到達基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当する場合、同基準による収益計上は、目的物の引渡し日に「近接する日」にも該当するものとして、法人税法22条の2第2項の適用により、認められるものと整理されよう。 さて、法人税法22条4項と法人税法22条の2第2項のいずれを根拠条文とするかは、公正処理基準準拠要件が求められるという点で共通点を有するが、確定決算による収益経理が要求されるか否かという点で相違点を有する。法人税法22条の2第2項を根拠条文とする場合には、確定決算による収益経理が要求されるが、22条4項を根拠条文とする場合には要求されない。 もっとも、法人税法22条の2は、第3項において、申告調整により近接日基準による収益計上を行うことも認めている。近接日基準の採用に確定決算による収益経理という要件が付されているが、申告調整による処理が認められている限りにおいては、平成30年度税制改正が申告実務に与える影響は緩和されているといえよう。 〈更なる検討〉 ~法令用語「その他の」・「その他」と契約効力基準~ 法人税法22条の2第2項は、「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の」1項に規定する引渡し又は役務提供の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合にその適用を検討することになる。 法人税法22条の2第2項が同項による収益計上日として認められるものとして具体的に明記しているのは「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日」のみである。法人税法は、契約効力発生日は通常、資産の販売等に係る目的物の引渡日又は役務提供日に近接することを前提として、いわば契約効力発生基準として昇華させたものと見ることができるかもしれない。 それでは、「資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日」であれば、一律に引渡日又は役務提供日に近接する日に該当することになり、契約効力発生日と当該契約に係る実際の引渡日又は役務提供日とが時間的に相当程度離れていても近接日基準として認められるのであろうか。 ここでは「その他の」という法令用語の意義を手掛かりとして、考察してみたい。 「その他の」は、「その他の」の前に出てくる字句が、後に出てくる一層意味内容の広い字句の例示として、その一部をなしている(その広い字句に包含される)場合に用いられる。いわば、包括的な例示の役割を果たす。 他方、「その他」という場合、「その他」の前にある字句と後にある字句は、「その他の」の場合と異なり、全部対一部例示の関係にあるのではなくて、並列関係にあるのが原則である(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』17頁(日本評論社1975)、法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務〔第2版〕』766頁(ぎょうせい2018)、石毛正純『法制執務詳解〔新版Ⅱ〕』598頁(ぎょうせい2012)参照。)。 かかる用語法に従うならば、法人税法22条の2第2項にいう「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日」は、「その他の」を挟んで後に続く一層意味内容の広い「前項に規定する目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日」に包含されるものであり、1項に規定する「目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日」の例示的な役割を果たしていることになる。 例示にすぎないのであるから、契約効力発生日であれば、無条件に近接日基準の採用が認められるのではなく、やはり「目的物の引渡し又は役務の提供の日に近接する日」でなければならないという見方がありうるが、議論の余地は残る。 さらにいえば、契約効力発生日による収益計上が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものであることを要するという見方もありうる。かかる要請を満たしているか否かを個別具体的に検討する必要があるならば、一般的ないし抽象的に「契約効力発生基準」ないし「契約効力発生日基準」として議論を進めることには注意が必要である。 逆に、契約効力発生日であれば一律に、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものであるという公正処理基準準拠要件を満たすのではないかという反論もあるかもしれない。 既に指摘した、採用する収益計上の基準ベースで近接性を判断すべきか、あるいは実際の収益計上日ベースで近接性を判断するのかという点は、ここでも議論の俎上にあげることができる。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第3回】 「“ERPパッケージ”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第156回】 収益認識基準① 「収益認識基準の開発経緯と概要」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 《商品a販売時》 〈会計処理の解説〉 1 収益認識基準が開発された経緯 我が国においては、企業会計原則の「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」(「企業会計原則」第二 損益計算書原則 三 B)という原則に従って収益認識に関する実務を行っているものの、収益認識に関する包括的な会計基準は開発されていませんでした。 一方、国際会計基準や米国会計基準では、収益認識に関する包括的な会計基準が開発されており、両基準とも概ね同じ内容の基準となっています。 収益、つまり売上高や営業収入等は、企業の主な営業活動からの成果を示すもので、企業の経営成績を示すうえで重要な情報であるにもかかわらず、日本と海外で基準に相違する部分があり、国際的な比較可能性の観点から課題があります。 例えば、上記の〈事例による解説〉を参考にすると、日本の従来の基準によれば、売上高と売上原価を総額表示することが認められていた取引も、国際会計基準や米国会計基準では総額表示が認められず、利益部分だけの純額で収益認識しなければならない場合もあります。この場合、同じ取引を行っているにもかかわらず収益の金額が異なり、財務諸表利用者に「実態が異なるのではないか」といった誤解を与えかねません。 そこで、日本においても収益認識に関する包括的な会計基準が開発されることになりました。 2 収益認識基準の概要 (1) 開発の基本的な方針 収益認識に関する会計基準は、IFRS第15号の収益認識基準をベースとして、日本で実務上の課題となる部分について代替的な取扱いを追加的に定めるといった方針で開発されています。 IFRS第15号をベースに作られた部分、日本仕様に代替的な取扱いを追加した部分は、それぞれ次のとおりです。 そのため、「収益認識基準は基本的には海外と同じ基準」という理解で、概ね差し支えないと考えられます。 (2) 適用範囲 収益認識に関する会計基準は、連結財務諸表のみならず、個別財務諸表にも適用され、上場会社のみ等の限定もありません。そのため、上場していないが会社法の法定監査を受けている会社なども収益認識に関する会計基準の適用が必要となります。 なお、他の会計基準と同様に、重要性が乏しい取引には、収益認識基準を適用せず、従来の方法で収益を認識することも可能です。 (3) 適用時期 収益認識に関する会計基準及び同適用指針は、2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。つまり、3月決算の企業であれば、2021年4月1日以降の取引から新基準によらなければならないということになります。 * * * (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第12回】 「総合的な事例の検討①」 弁護士 阪本 敬幸 今回からは、これまでの復習も兼ねて、総合的な事例について検討することとする。 1 Bに対する贈与について Bに対する贈与は、それぞれ、持ち戻し対象とならないかが問題となる。 (1) 2005年の現金500万円の贈与 2005年は、相続開始の15年前である。「相続法改正により、相続人に対する贈与の持ち戻しは相続開始10年前に限定されることになったはずだから、持ち戻し対象とならない」と思われた方もおられるかもしれない。 確かに、遺留分の価額の算定にあたっての持ち戻しの期間は、今回の改正により10年に制限されることとなった(改正後民法1044条)。 しかし、相続分の算定にあたっての持ち戻しの期間については、改正前民法同様、期間の制限はない。したがって、2005年の贈与についても、持ち戻し免除の意思表示があったといえるような事情がない限り、相続分の算定にあたっては持ち戻しをして計算することとなる。 (2) 2011年の不動産の贈与 AとBは、A死亡まで、25年の婚姻生活が継続していた。 「相続法改正により、婚姻期間20年以上の夫婦については、持ち戻し免除の意思表示が推定されるはず」として、2011年(婚姻から16年経過)の居住用不動産の贈与には、持ち戻し免除の意思表示があったと推定されると思われた方もおられるかもしれない。 しかし、条文上、「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人」が遺贈又は贈与したことが要求されているから、遺贈・贈与の時点で婚姻期間が20年以上でなければ、本条文の適用はない。本件では、婚姻期間が20年未満の時点で居住用不動産の贈与があったため、持ち戻し免除の意思表示は推定されない。 もっとも、その他の事情から、黙示に持ち戻し免除の意思表示があったといえるような場合もあり得るため、本条文の適用がないことから直ちに、持ち戻し免除の意思表示がないと断定すべきではない。 (3) 2016年の現金500万円の贈与 改正後民法903条の4は、遺贈・贈与の対象を居住用不動産に限定しているため、2016年(婚姻から21年経過)の500万円の贈与についても、本条文の適用はなく、持ち戻し免除の意思表示は推定されない。 その他の事情から、黙示に持ち戻し免除の意思表示があったといえるような場合もあり得るのは、不動産の贈与同様である。 2 Bによる預金1,000万円の払戻しについて Bは、相続開始後遺産分割前にM銀行のAの預金1,000万円の払戻しを受けており、現在、M銀行にAの遺産として500万円の預金が残っているということなので、相続開始時にはM銀行に1,500万円のAの預金があったということになる。 改正後民法909条の2により、相続人は、遺産である預貯金債権のうち、預金額×1/3×法定相続分については、単独で権利行使できることとなった。ただし、権利行使できる上限は150万円である(H30法務省令)。 Bの相続分は2分の1であり、上記計算を行うと1,500万円×1/3×1/2=250万円となり、150万円を超える。したがって、BはAの預金のうち150万円については、単独で権利を行使することができたということになる。 このようにBは、預金150万円について単独で権利行使できたものではあるが、Aの預金1,000万円の払戻しを受けた際には、「A相続人」としてではなく、Aが死亡した事実を告げずに「A代理人」かのように装って手続を行ったと考えられる。仮にBがA相続人として出金したとすれば、150万円を超える金額の払戻しを受けることはできないはずだからである。 このような場合、Bが受けた払戻しのうち150万円も、改正後民法909条の2に基づく相続人の権利行使であったということはできず、同条の適用を受けないと考えるべきではないかと思われる。 このように考えると、Bは、払戻しを受けた1,000万円全額について遺産分割を経る必要があったにもかかわらず(最判平成28年12月19日)、遺産分割前に払戻しを受けたということになる。 このような場合について、改正後民法906条の2第1項は、「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」と定めている。したがって、Bの1,000万円の引き出しについては、C・Dの同意(Bの同意は不要。改正後民法906条の2第2項)があれば、遺産分割時に遺産として存在するものとみなすこととなる。 相続人は、遺産である預貯金債権のうち、一部は単独で権利行使できるようになったとはいえ、相続人としての権利を行使したといえなければ、上記のような結論となるのではないかと思われるため、注意されたい。 3 Cによる預金1,000万円の払戻しについて Cは、相続開始前の2008年、2011年に、Aの預金から無断で500万円ずつ払戻しを受けている。 「相続法改正により、遺産分割前の財産処分は、遺産として考えてよいことになったはずなので、払戻しを受けた金額は遺産となる。」と思われた方もおられるかもしれない。 改正後民法906条の2が定めるのは、遺産の分割前に「遺産に属する財産が処分された場合」である。本件のように相続開始前の財産処分は、「遺産に属する財産」を処分しているわけではないので、民法906条の2の適用を受けることはない。 このように、被相続人の生前に、相続人が被相続人の財産を不法に取得していたような場合、相続開始後、他の相続人としては、被相続人が財産取得者に対し有していた不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を相続し、財産取得者に対する請求を行うこととなる。本件では、Bには具体的相続分は発生しないため(後述4参照)、Dが相続分に応じ、Cに対し損害賠償請求又は不当利得返還請求を行うこととなる。 なお、2008年の払戻しについては、2020年時点で行為から10年以上が経過している。不当利得返還請求による場合、時効中断(改正債権法(民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号))による改正後民法では「時効更新」と呼ぶこととなった(2020年4月1日より施行))事由がない限り、消滅時効が完成している可能性がある(改正前債権法167条。改正後債権法166条1項では、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年で消滅時効が完成する)。 不法行為構成による場合も、Aが損害及び加害者を知った時期により、消滅時効が完成している可能性がある(改正後債権法724条では、損害及び加害者を知った時から3年、行為の時から20年で消滅時効が完成するとされている)。 4 各人の相続分について 以上を前提に考えると、以下のようにまとめることができる。 (ア) 現存する相続財産 ・M銀行の預金:500万円 ・Cに対する不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権:計1,000万円 (イ) 遺産として存在するものとみなすことができる財産 ・Bが相続開始後に出金したM銀行のAの預金:1,000万円(遺産とみなすことにつきC・Dの同意がある場合) (ウ) 持ち戻し対象となる特別受益 ・AからBに対する現金贈与:合計1,000万円(ただし、贈与時と相続開始時で貨幣価値が変動していた場合、相続開始時の価値に換算する。) ・AからBに対する不動産贈与:2,000万円(相続開始時の価額) したがって、(イ)の1,000万円を遺産とみなすことにつきC・Dの同意があり、他に特段の事情がない場合、(ア)~(ウ)の合計5,500万円が、未分割のみなし相続財産の総額ということになる。 Bの相続分は5,500万円×1/2=2,750万円、C・Dの相続分はそれぞれ1,375万円となる。 Bは現金・不動産合計3,000万円の贈与を受けているため、具体的相続分はゼロである。 C・Dは、2,500万円分の相続財産について遺産分割を行うこととなり、C・D共に特別受益者ではないため、具体的相続分はそれぞれ1,250万円ずつとなる。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例44】 HOYA株式会社 「株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード:6256)に 対する公開買付けの不実施に関するお知らせ」 (2020.1.17) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、HOYA株式会社(以下、「HOYA」という)が2020年1月17日に開示した「株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード:6256)に対する公開買付けの不実施に関するお知らせ」である。 同社は、2019年12月13日に「株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード:6256)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示し、株式会社ニューフレアテクノロジー(以下、「ニューフレア」という)に対してTOB(株式公開買付け)を行う予定であるとしていたのだが、それを行わないこととしたという内容である。 2 敵対的TOBだったのか? HOYAの「株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード:6256)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を受けて、ニューフレアは、同じ2019年12月13日、「HOYA株式会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示し、その中で次のように記載している(下線は筆者による)。少し怒っているように見受けられる。 また、当時、ニューフレアは株式会社東芝(以下、「東芝」という)によるTOBを受けている途中だった(実際にTOBを行っていたのは、東芝の完全子会社である東芝デバイス&ストレージ株式会社)。東芝は2019年11月13日に「当社子会社(東芝デバイス&ストレージ株式会社)による株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード6256)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、ニューフレアを完全子会社化するとしていた。 なお、東芝はニューフレアの株式を52%超保有し、両社は親子関係にあり、ニューフレアは、東芝によるTOBに対しては賛同していた(2019年11月13日に「支配株主である東芝デバイス&ストレージ株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」を開示)。 こうしたことから、HOYAが「株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード:6256)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示した際、マスコミは、HOYAがニューフレアに対して「敵対的TOB」を仕掛けたとか、HOYAと東芝がニューフレアをめぐって「争奪戦」を展開といった報道を行った(例えば、同日付の日本経済新聞夕刊)。 しかし、そうした「敵対的TOB」や「争奪戦」といった表現には違和感を覚える。なぜなら、HOYAはTOBを行う予定であるとしただけで、未だTOBを行っていなかったし、また、TOBを行う条件の1つに、東芝によるTOBが成立しないことをあげていたのである。HOYAは、決して強引にニューフレア株式を取得しようとしたわけではなく、ニューフレアと東芝に対して提案を行ったに過ぎない。 3 ちゃんと考えたのか? HOYAの「株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード:6256)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」には、次のように記載されている。 HOYAも、以前からニューフレアの取得を考えていたのだろう。そうしたところ、東芝がニューフレアに対するTOBを始めてしまったので、東芝に対して、この開示により、「貴社そして貴社の株主にとってプラスだと思うので、ニューフレアを当社に譲っていただけないでしょうか」という提案を行ったのだ。HOYAのTOBは、東芝が自社によるTOBを止めて、こちらに応募してくれることを前提としたものである。 これに対して、東芝は、2019年12月20日に「(開示事項の経過)当社子会社(東芝デバイス&ストレージ株式会社)による株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード6256)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、HOYAのTOBには応じないとした。それには次のように記載されている。 東芝は、当初の方針どおりニューフレアに対するTOBを続けるとしたのだが、ニューフレアを完全子会社化することと、ニューフレアを売却すること(HOYAによるTOBの買付価格の方が、自社によるものよりも高い)とのどちらが、自社そして自社の株主にとってプラスとなるのか、きちんと比較した上で判断したのだろうか。開示を見る限り、そのようには思われない。また、買付価格を上げるとはしておらず、ニューフレアの少数株主(東芝以外の株主)への配慮も全くない。 4 対照的な2社 こうした東芝の反応を受けて、HOYAの方は、買付価格を上げたりすることもなかった。そのまま待ち、東芝のTOBが成立したこと(東芝は2020年1月17日に「当社子会社(東芝デバイス&ストレージ株式会社)による株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード6256)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」を開示)、すなわち、やはり東芝が提案に応じてくれなかったことを見極めた上で、今回の開示を行うに至ったのである。 ニューフレアの取得はあくまで選択肢の1つと捉え、冷静に相手方の出方を見極めようとするHOYAに対して、冷静な判断を行わず、一度決めた方針に固執しようとする東芝。対照的な両社の姿が、今回の開示のやり取りに現れているように思われる。 ちなみに、東芝は、「当社子会社(東芝デバイス&ストレージ株式会社)による株式会社ニューフレアテクノロジー株式(証券コード6256)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示する前、2019年11月11日・12日・13日と3回にわたって「本日の一部報道について」を開示している。TOBの情報が漏れていたのである。本連載で何度も取り上げた粉飾決算の後、東芝は変わったように思われたが、東芝らしさは健在のようである。 (了)
《速報解説》 会計士協会が会長通牒「『担当者( チームメンバー) の 長期的関与とローテーション』に関する取扱い」を公表 ~社会的影響度が特に高い会社の監査業務に当たり留意すべき事項をまとめる~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年2月20日付(ホームページ掲載日は2020年2月26日)で、日本公認会計士協会は、会長通牒2020年第1号「『担当者(チームメンバー)の長期的関与とローテーション』に関する取扱い」を公表した。合わせて、「解説:チームメンバーローテーションの具体的な運用について」もホームページに掲載されている。 これは、2018年4月に改正された「独立性に関する指針」が、2020年4月1日以後開始する事業年度から適用され、すべての監査人は、改正後の「独立性に関する指針」を遵守することが求められることから、社会的影響度が特に高い会社の監査業務に当たって、当該監査業務に従事する会員が留意すべき事項をまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 独立性に関する指針 2018年4月に改正された独立性指針150項から150-5項、155項では、担当者が長期間にわたって監査業務に関与する場合、当該者の公正性及び職業的懐疑心に影響を与え得る馴れ合い及び自己利益の阻害要因が生じ、その重要性が高くなる可能性があるとしている。 また、阻害要因の重要性の程度を評価し、必要に応じてセーフガードを適用して、阻害要因を除去するか、又はその重要性の程度を許容可能な水準にまで軽減しなければならないとし、当該者をローテーションにより監査業務チームから外すことなどのセーフガードが例示されている。 2 社会的影響度が特に高い会社の監査業務における取扱い 独立性指針150項から150-5項に定める一般的規定は、すべての監査業務に適用されるものであるが、社会的影響度が特に高い会社の監査業務の場合には、当該規定に加え、公益の観点から、次のとおり取り扱うものとしている。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 複数税率制度下での消費税申告にあたり国税庁から日税連へ 「誤りの多い事例」の周知と発生防止の協力を要請 Profession Journal 編集部 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて国税庁は確定申告会場に出向くことなくe‐Taxで申告を行うよう呼びかけているところだが、個人事業者で消費税の課税事業者の場合、昨年10月からの軽減税率導入に伴い、令和元年分の確定申告からは複数税率制度下での消費税申告が求められる。 複数税率制度では、旧税率8%、新税率(標準税率)10%、軽減税率8%それぞれの税率ごとに区分経理を行い税額計算する必要があるのだが、申告書の作成に当たって同様の誤りが発生していることから、このほど国税庁は、同庁課税部消費税軽減税率制度対応室長名で日本税理士会連合会会長宛て「消費税申告書の作成に当たってご留意いただきたい事項について」と題した協力要請を行っている(日本税理士会連合会会員専用ページで公開)。 この中で国税庁は、把握している誤りの多い事例として次の3つを紹介している。 まず1つ目が、令和元年10月1日以後終了課税期間の消費税申告で、「旧様式」を使用して申告している事例。つまり「旧税率8%適用分」、「軽減税率8%適用分」及び「標準税率10%適用分」の取引があるものの、旧様式によって「旧税率8%が適用される分」のみ申告を行っているというものだ。この場合の対応として、「軽減税率8%適用分」及び「標準税率10%適用分」を反映し再計算した修正申告書(更正の請求書)の提出が必要となる。 2つ目が、令和元年10月1日以後終了課税期間の消費税申告で、新しい様式を使用しているが、旧税率適用分のみの申告を行っている事例。これには、①1つ目の事例と同様に「旧税率8%が適用される分」のみ申告を行っているケースと、②「旧税率8%適用分」、「軽減税率8%適用分」及び「標準税率10%適用分」の取引があるものの、すべて「旧税率8%適用分」として計算しているケースに分けられる。この場合の対応として、①のケースは1つ目と同様の対応、②のケースでは正しく税率区分を行い再計算した修正申告書(更正の請求書)を提出する必要がある。 3つ目の事例が、令和元年9月30日以前開始課税期間の消費税申告で、「旧税率8%適用分」がない申告を行っているというもの。これはすなわち「旧税率8%適用分」、「軽減税率8%適用分」及び「標準税率10%適用分」の取引があるものの、「旧税率8%適用分」が「軽減税率8%適用分」として計算されている点が誤りとなる。旧税率と軽減税率は同じ税率8%でも国税(消費税)と地方税(地方消費税)の内訳が異なるため、別に区分して経理・申告を行う必要があることから、見落としされやすい。この場合も正しく税率区分を行い再計算した修正申告書(更正の請求書)の提出が必要だ。 なお、上記3事例とも、誤って申告した後の対応において、消費税と地方消費税はそれぞれ別の申告となるため、消費税が「増額」で地方消費税が「減額」となる場合は、消費税の修正申告書と地方消費税の更正の請求書を提出する必要がある点にも留意されたい。 (了)
《速報解説》 会計士協会、監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」等の改正(公開草案)を公表 ~各監査報告書文例に「除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由」の記載を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年2月25日、日本公認会計士協会は次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、2019年9月3日付けの監査基準改訂の内容を反映させるために、主として、各監査基準委員会報告書の監査報告書の文例における限定付適正意見の根拠区分に、除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由の記載を追加する改正である。 意見募集期間は2020年3月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「除外事項付意見の監査報告書の文例」において、「この影響は・・・・・・・である。したがって、財務諸表に及ぼす影響は重要であるが広範ではない。」という記載が追加されている。 当該記載に関して、「・・・・・・・」には、重要ではあるが広範ではないと判断し、不適正意見ではなく限定付適正意見とした理由又は意見不表明ではなく限定付適正意見とした理由を、財務諸表利用者の視点に立って分かりやすく具体的に記載すると説明されている。 広範性の判断の記載に当たっては、監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」Q1-6「除外事項の重要性と広範性及び除外事項の記載上の留意点」を参照する。 Ⅲ 適用時期等 2020年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 2020年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間監査から適用する(監査基準委員会報告書570「継続企業」)。 (了)
2020年2月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.357を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。