企業結合会計基準に対応した 改正連結実務指針等の解説 【第4回】 「取得関連費用(付随費用)の会計処理」 公認会計士 布施 伸章 ◆ 解説 ◆ 1 企業結合における取得関連費用(付随費用を含む)の取扱い 平成25年改正の企業結合会計基準では、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は発生した事業年度の費用として処理することとされ(企業結合会計基準26項)、また、主要な取得関連費用の内容及び金額の注記が求められることとされた(企業結合会計基準49項(3)④)。 2 個別上の子会社株式の取得原価の算定における付随費用の取扱い 個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、金融商品会計基準及び金融商品会計実務指針に従って算定することになる(企業結合会計基準94項)。 金融商品会計実務指針56項では、金融資産(デリバティブを除く)の取得時における付随費用(支払手数料等)は、取得した金融資産の取得価額に含めることとされており(経常的に発生する費用で、個々の金融資産との対応関係が明確でない付随費用は、取得価額に含めないことができる)、また、金融商品会計Q&AのQ15-2では、個別財務諸表における子会社株式の取得原価には、購入手数料その他、その有価証券の購入のために直接要した費用を含めることとされている。 3 取得関連費用と付随費用との関係 子会社株式の取得原価に含める付随費用(支払手数料等)は、改正前企業結合会計基準26項の「取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等」が相当するものと考えられる。 他方、平成25年改正の企業結合会計基準26項における取得関連費用には間接費も含まれるものと考えられることから(企業結合会計基準94項)、取得関連費用には、付随費用より広い範囲の支出が含まれるものと考えられる(金融商品会計Q&AのQ15-2)。 4 付随費用に関する連結財務諸表と個別財務諸表との調整 子会社株式の取得及び一部売却したときの取得関連費用(付随費用)の個別上と連結上の会計処理を設例により解説する。 なお、以下の解説中の仕訳では、付随費用の会計処理に焦点を当てるため、付随費用に関する部分を区分して記載している。 〔前提〕 X1年3月にX社はY社株式のすべて(100株)を1,000(@10)で購入し、その際、手数料等の付随費用を100支払った。 支配獲得時のY社の純資産は1,000であり、その時価と簿価は一致していた。 X2年3月にX社はY社株式の一部(60株)を1,200(@20)で売却した。なお、X2年3月期のY社の損益はゼロであった。 なお、本設例は、付随費用の会計処理の理解を目的とするため、残存株式の保有割合と有価証券の保有区分との関係は無視する。 (1) 子会社株式取得時の付随費用の会計処理 子会社株式の取得関連費用(付随費用を含む)(100)は、個別上は、付随費用は子会社株式の取得価額に含めることとされているが、連結上、発生した連結会計年度の費用として処理される。 (2) 子会社株式売却時の付随費用の会計処理 【ケース1】 子会社株式の一部売却後も支配関係が継続している場合 (※) NCI(Non Controlling Interest)=非支配株主持分 子会社株式を一部売却したものの、残存株式が子会社株式である場合(支配は継続)、連結上、親会社の持分変動による差額は資本剰余金に計上されるため、売却価額(1,200)と親会社持分の減少額(600=1,000×60%)との差額(600)は資本剰余金に計上される。 付随費用については、子会社株式の売却持分に対応した額(60)を、連結上は、資本剰余金に振り替えることになる。 【ケース2】 子会社株式の一部売却により、残存株式が関連会社株式となった場合 (※) 開始仕訳及びその振戻処理は省略している。 子会社株式の一部売却により、残存株式が関連会社株式となった場合(支配の喪失)、連結上、親会社の持分変動による差額は損益に計上されるため、売却価額(1,200)と親会社持分の減少額(600=1,000×60%)との差額(600)は損益に計上される。 付随費用については、子会社株式の売却持分に対応した額(60)を、連結上は、個別財務諸表に計上された子会社株式売却損益の修正として処理することになる。 なお、持分法適用関連会社の株式の帳簿価額には、原則として付随費用が含まれることになるが(持分法実務指針2-2項(3))、本設例のように、支配を喪失して子会社から関連会社となり、持分法を適用することとなった場合には、連結上、支配獲得時に生じた取得関連費用は発生時に費用処理されていることから、関連会社株式の投資原価には過年度に費用処理した支配獲得時の付随費用を含めないことになる(資本連結実務指針46-2項、66-7項)。 【ケース3】 子会社株式の一部売却により、残存株式がその他有価証券となった場合 (※) 開始仕訳及びその振戻処理は省略している。 子会社株式の一部売却により残存株式がその他有価証券となった場合には、連結上、親会社の持分変動による差額は損益に計上されるため、売却価額(1,200)と親会社持分の減少額(600=1,000×60%)との差額(600)は損益に計上される。 付随費用については、子会社株式の売却持分に対応した額(60)を、連結上は、個別財務諸表に計上された子会社株式売却損益の修正として処理することになる。 また、売却後のその他有価証券の帳簿価額は、個別上の帳簿価額によることになる(当該帳簿価額には付随費用(40)が含まれる)。このため、連結上、既に費用処理されている付随費用を資産計上するため、連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に「連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)」等、その内容を示す適当な名称をもって計上することになる(資本連結実務指針46-2項、66-7項)。 5 税効果会計との関係 子会社株式に関する支配獲得時の付随費用や追加取得時の付随費用の会計処理が、連結上と個別上とで異なることから、子会社への投資の個別貸借対照表上の価額と連結貸借対照表上の価額との間に差額が生じることになる。 当該差額は、連結財務諸表固有の一時差異に該当するため、連結税効果実務指針32項(子会社への投資に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上するための要件)又は37項(配当送金されると見込まれるもの以外の将来加算一時差異)に準じて繰延税金資産又は繰延税金負債の計上の可否及び計上額を決定する。なお、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上するときの相手勘定は、法人税等調整額となる(連結税効果実務指針40項及び40-2項のなお書き)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第45回】 資産除去債務① 「会計処理の概要」 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X1年4月1日(設備Aの購入時) ② X2年3月31日(期末時) ③ X6年3月31日(設備Aの除去時) 〈会計処理の解説〉 資産除去債務とは、有形固定資産に係る将来の不可避的な義務に関連して生じる除去費用を当期の負債として財務諸表に反映させたものをいいます。 我が国においては、資産除去債務に関する会計基準が適用される前は、電力業界の原子力発電施設の解体費用等の例を除き、有形固定資産の除去に係る将来の不可避的な義務を財務諸表に反映させる会計処理は、行われていませんでした。 しかし、資産除去債務に関する会計基準の適用によって、例えば、定期借地権契約で賃借した土地の上に建設した建物等を除去する義務、鉱山等の原状回復義務、建物等の除去に伴い付随的に発生するアスベストやPCBを除去する義務等はすべて資産除去債務として整理されることとなりました。 それでは、資産除去債務の会計処理の概要を本事例に沿って見てみましょう。 本事例においては、まず、設備Aを取得した時点で、当該設備を使用後に除去する法的義務が生じることが明らかであるため、資産除去債務を計上する必要があります。 そのため、設備Aの除去に要する将来キャッシュ・フロー100を見積もり、当該将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いた86が資産除去債務として負債に計上されます。同時に、資産除去債務として計上された86と同額を、設備Aの帳簿価額に加えます(①の仕訳)。 設備Aの帳簿価額に加えられた86は、減価償却を通じて、設備Aの残存耐用年数である5年間にわたり、各期に費用配分されます。また、時の経過による資産除去債務の調整額3は、発生時に利息費用として処理します。当該調整額3は、期首の資産除去債務の帳簿価額86に当初資産除去債務計上時の割引率である3%を乗じて算定されます(②の仕訳)。 なお、資産除去債務の履行時の資産除去債務残高100と資産除去債務の履行のために実際に支払われた額120との差額20は発生時の費用として認識されます(③の仕訳)。 設備Aの取得から除去までの費用計上額と資産除去債務の変動をまとめると、下記の表のとおりとなります。 * * * 次回は「資産除去債務の適用範囲」です。資産除去債務についてもう少し詳しく見てみましょう。 (了)
IT業界の労務問題と対応策 【第1回】 「日本のIT業界、拡大の変遷」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 本連載では、拡大を続けるIT業界においてどのような労務問題が起きているかを明らかにしたいが、第1回では、まず、日本におけるこの業界の変遷について触れておきたい。 「IT業界」というと、先進的な技術が次から次と生まれ、スピード感があり、常に世の中の先頭を走っている業界というイメージがあるのではないか。 「IT業界」はコンピュータの登場からその歴史が始まり、インターネットの普及により今では社会の多方面に影響する業界となっている。 1946年、米国で世界初のコンピュータENIAC(エニアック)が開発され、1951年、世界で初めての商用コンピュータが米国政府連邦統計局向けに納入されたのが商用ビジネスとしての普及の第一歩となる。 日本国内では、商用ネットワークは1960年代から実用化が始まっていたが、中小企業や個人向けのネットワークが登場するのは、1995年以降になる。 1980年代に個人向けコンピュータである「パソコン(パーソナル・コンピュータ)」が登場し、さらにパソコンを動かすための基本ソフトであるWindowsの普及により、中小企業や個人でのコンピュータ利用が一気に拡大していく。 1995年以降、国内でインターネットが爆発的な広がりをみせ、当たり前のようにホームページやE-mailを利用するようになった。さらにインターネットの登場で、家庭生活からオフィスでの仕事のやり方までが激変した。 また、携帯電話の普及も我々の生活を一変させる。 1996年以降、本格的に普及し始めた携帯電話は、2000年に入ると1人1台以上保有するまでに普及し、その機能も充実していく。 そして、2007年にアップル社のiPhoneが登場すると、携帯電話市場は一変する。 携帯電話からスマートフォンへと携帯電話市場の潮流は向きを変え、さらにiPadの登場で、新たにタブレット端末市場が登場した。 コンピュータに対する企業の取組みも変化し、今では、商用システムから個人向けアプリケーションと、多種多様な機種・システムが求められている。 さらに、2011年に発生した東日本大震災により、一気にクラウドコンピューティングが進み、コンピュータ産業はクラウドコンピューティングとビッグデータの時代に入りつつあるといえる。 これらの流れから生まれた「IT業界」。ひとくくりに表現されることが多いようだが、実は様々な業種・職種が混在しているのがIT業界といえる。 業界構造から見ると、主に大きく4つに分けられる。 1つ目は携帯ゲーム、SNS、ネット決済などの「インターネットサービス」に注力する業界。 2つ目にコンピュータに必要不可欠なオペレーションシステムや、ワープロ機能・表計算機能など様々な機能を実現させるアプリケーションなどを開発する「ソフトウェア開発」に注力する業界。 3つ目にコンピュータ自体や、その周辺機器などを開発する「ハードウェア開発」に注力する業界。 そして4つ目にインターネットを始めとしたネットワーク環境に必要不可欠な「通信インフラ」を取り扱う業界となる。 次回は、IT業界にありがちな労務トラブルについてお伝えしたい。 (了)
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第10回】 「業種別の転嫁拒否等の留意点〔②製造業〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 製造業者に対する多数の指導 公正取引委員会及び中小企業庁が平成26年5月13日に公表した「平成26年4月までの消費税転嫁対策の取組について」によれば、公正取引委員会及び中小企業庁が平成26年4月までの間に行った転嫁拒否等の行為に対する勧告・指導1,219件のうち、492件が製造業者に対するものであった。この件数は、卸売業・小売業よりも多く、業種別内訳の中で最大の数となっている。 製造業者に対する指導件数が最大となった理由は、製造業においては、部品等の仕入や製造委託など、他社に対価を支払って物品の提供を受けるという取引が事業の重要な部分を占め、製造原価として大きな負担を強いることになるため、これらの費用を少しでも削減したいという考えが、減額や買いたたき等の行為を誘引することとなりやすいからであると考えられる。 したがって、製造業者は、引き続き公正取引委員会及び中小企業庁による摘発を多数受けることが予想されるため、転嫁拒否等の行為を行うことのないよう、入念な注意が必要となる。 なお、本連載第1回で解説したように、消費税転嫁拒否等の禁止対象となる取引は極めて広範に及ぶものの、製造業者においては、特に部品等の仕入・発注取引に注意が必要であろう。 2 買いたたき及び減額に関する留意点 (1) 部品等を新規に採用する場合 本連載第4回及び第6回で解説したように、買いたたきとは、商品・役務の対価の額を、通常支払われる対価よりも低く定める場合をいう。 そして、「通常支払われる対価」について、公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)は という一文を載せているのみであり、それ以上の解説を行っていない。 そのため、「消費税率引上げ前の対価」が存在しない新規採用の部品等について、「通常支払われる対価」がどのように判断されるかは、ガイドライン上全く明らかにされておらず、公正取引委員会等による調査の現場でどのような判断がなされていくか、不透明と言わざるを得ない。 もっとも、公正取引委員会「『消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方(案)』に対する意見の概要とこれに対する考え方」(以下「公取委パブコメ考え方」という)には、以下の記述がある。 これによれば、新規採用の部品等については、当該買手(完成品メーカー等)と売手(部品メーカー等)との間における、同種や類似の部品等の従前の購入・発注価格が参照される一方、市価や他の当事者間における購入・発注価格は基本的には検討されないということになりそうである。 したがって、新規に採用する部品等の購入・発注単価については、当該買手が当該売手から従前より購入したり、発注したりしている部品等の消費税率引上げ前の価格との対比が重要になると思われる。 (2) 既存の部品等に対する定期値引き要請等 製造業においては、継続して特定の部品等の納入を受ける場合、完成品メーカー等が部品メーカー等に対し、定期的に値引きを求め、部品メーカー等がこれに応じているという状況が見受けられるように思われる。 しかし、前述のとおり、公取委ガイドラインは、「通常支払われる対価」について、 と述べ、消費税率引上げ前後の価格の比較が問題となることを明らかにしているのみで、消費税率引上げ後、新たに値引きを行う際の考え方については言及していないため、このような場合における当局の考え方は、不透明な部分が多いと言わざるを得ない。 もっとも、消費税転嫁対策特別措置法は、消費税率引上げのタイミングに限らず、平成29年3月31日まで引き続き適用されるから、消費税率引上げ時に一旦その分だけ対価を引き上げたが、その後値下げを行うという場合にも、買いたたきの問題は生ずるのであり、公取委ガイドラインの上記記述は、典型的な場面について述べたものにすぎないと解される。 定期値引き要請等における考え方の参考になる情報としては、公取委パブコメ考え方における以下の記述がある。 これによれば、「消費税率引上げ分を値下げしてほしい」などと要請する場合に限らず、本体価格について(例えば3%や5%の)値引きを求め、値引きさせた本体価格に8%の消費税相当額を上乗せして支払うような場合にも、買いたたきの問題が生ずるということになる(公取委パブコメ考え方26番参照)。 他方で、買いたたきに当たらない「合理的な理由」が認められるためには、基本的には特定供給事業者のコスト削減等の客観的事情が必要とされるが(本連載第6回)、そのような事情がない場合であっても、当事者の交渉経緯や取引実態によっては、「合理的な理由」が認められる可能性があることが示唆されている(公取委パブコメ考え方27番参照)。 これらを踏まえると、今後の定期コストダウン要請等は、一律に禁止されるものではないが、当局の調査に対し「合理的な理由」を説明できるよう、これまで以上に慎重な対応が求められるといえる。 一例としては、以下のような対応が考えられるであろう。 (3) 買いたたき等の被害を受けた場合の対応 第9回で解説したように、近年、バイイングパワーの増大を背景に、大規模小売事業者が製造業者よりも強い立場に立つ例が多くみられる。そのため、製造業者は、大規模小売事業者等から買いたたきを受ける可能性がある。 このような場合には、消費税転嫁対策特別措置法において報復措置が強力に禁止されていること(同法3条4号)などを踏まえ、公正取引委員会・中小企業庁等に報告することを検討すべきであろう。報告の手段としては、電話や面談のほか、逐次行われる書面調査(本連載第7回参照)への回答として記載することも有効である。 3 商品購入、役務利用または利益提供の要請に関する留意点 公取委ガイドラインが挙げる問題事例(第1部第1、4(6))の中には、製造業で起こる可能性がある事例も多数含まれているが、特に製造業に特有なものとしては、以下のものがある。同様の行為を行うことのないようにご留意いただきたい。 4 独占禁止法・下請法に抵触する行為 第9回で解説したとおり、特定事業者(買手)が、消費税転嫁の拒否に関連して、受領拒否、納期の延期、不当返品、支払遅延、取引拒絶、差別対価、不当な給付内容の変更、不当なやり直し等を行った場合には、消費税転嫁対策特別措置法には違反しないものの、独占禁止法上の優越的地位の濫用や、下請法違反として取締りを受ける可能性がある。 消費税率引上げに伴う優越的地位の濫用規制や下請法に関する考え方は、公取委ガイドライン第1部第2及び第3において解説されており、ここには多数の問題事例が記載されているが、製造業で問題となりやすい事例をピックアップすると、以下のとおりである。 これらに類する行為を行うことのないよう、ご留意いただきたい。 (了)
エコ関連(環境・エネルギーに関する) 助成金・補助金とはどういうものか? 【第1回】 「関連する助成金・補助金の特徴と留意点」 行政書士 石下 貴大 1 エコ関連の助成金とは? よく「助成金」というと、雇用関係のものがイメージされやすいが、エコ関連(いわゆる環境・エネルギーに関する)助成金にも多様な種類のものがある。 エコ関連というと非常に広い概念であるが、大きく分けると に関し普及促進するための「助成金」「補助金」に分けられる。 地球温暖化、砂漠化、生物多様性、環境破壊、資源の枯渇など地球を取り巻く環境問題は多岐にわたっており、我が国としても環境問題への課題は多い。 中でも化石燃料を輸入に頼っている日本にとって、エネルギー問題は非常に重要な問題である。 2010年6月に策定されたエネルギー政策基本法の第三次計画では、2030年に向けた目標として、エネルギー自給率と化石燃料の自主開発比率を倍増して自主エネルギー比率を約70%とすること、電源構成に占めるゼロ・エミッション電源(原子力及び再生可能エネルギー由来)の比率を約70%とすることなどを記載している。 また二酸化炭素の削減目標についても2009年に、排出量を2020年までに1990年比で25%削減するという目標を打ち出した(その後原発の問題もあり2013年の条約第19回締約国会議(COP19)で2020年に「05年比3.8%削減」に修正)。 こうした状況の中で、特にエネルギー問題、低炭素社会への実現に向けた助成金や補助金が地方自治体、環境省、経済産業省、その他外郭団体などから公募されている。 2 どのようなケースで使えるか? エコ関連の助成金・補助金といっても、所管部署が違えば助成金額、補助率、申請主体から申請するための要件も異なる。 また、これらは毎年決まった時期に公募されるというわけではなく、例えば去年公募されていた助成金や補助金が今年はないというケースも珍しくない。 廃止されていないまでも、助成金額や助成率、要件などが変わっていることはよくあるので、申請に当たっては注意が必要だ。 また、助成金や補助金は返済義務がないのがメリットといえるが、先に支払っている費用に対して一部補填されるというものである。 例えばスーパーで使用している照明をすべてLED照明に換える場合に、関連する助成金の申請が通ったとしても、先にそのLEDの代金や工事費を支払い、その金額に対して助成金が支払われるのである。 当然、申請した際の計画との整合性を報告書の形で提出するので、助成金ありきではなく、それぞれの募集事項に合う事業計画をお持ちの場合に検討したほうがよい。 その一方で、太陽光発電システムの設置工事に関しては、要件を満たせば補助金が支給されるというものもある。以前あったエコポイントも同様といえるだろう。 3 それぞれの補助金のカテゴリについて 省エネ、創エネ、蓄エネについて、それぞれもう少し具体的にみていこう。 ① 『省エネ』・・・LED、空調、厨房機器、エコキュート等の省エネ機器など ② 『創エネ』・・・自家発電、コージェネレーションシステム、燃料電池、エネファームなど ③ 『蓄エネ』・・・蓄電池などの蓄エネ設備 * * * 以上、今回はそれぞれの分類と概要についてみてきたが、次回は先日公募されたばかりで、今注目されている「エネルギー使用合理化等事業者支援補助金」について、申請上の注意点などを踏まえながら具体的に見ていきたい。 (了)
会社を成長させる「会計力」 【第10回】 「終わりなきリスクマネジメントへの取組み」 島崎 憲明 《経営改革に成功した総合商社のリスク管理》 総合商社5社の2014年3期の連結純損益は、 三菱商事 4,447億円 三井物産 4,221億円 伊藤忠商事 3,102億円 住友商事 2,230億円 丸紅 2,109億円 となり、各社のROEも資本コストを大幅に上回る高パフォーマンスとなった。 総合商社が業績を伸ばしてきた背景として、資源・エネルギー関連の収益が大きく寄与していることが指摘されるが、2000年初めからのダイナミックな経営改革の実行により、総合商社の収益力が改善されたことに注目すべきであろう。 つまり、資本コストを意識し、「低リスク低リターン」取引から「高リスク高リターン」取引へ、「リスクのないところにリターンはない」、「リスクとリターンはトレードオフの関係にある」という認識への変化である。 これは、「リスクを回避する経営」から、「リスクを取り、リスクを管理する経営」への転換であった。 総合商社各社はアニュアルレポートにおいて、リスクマネジメントへの取組みについて詳説しており、住友商事では2004年度、2007年度、2013年度のアニュアルレポートでリスクマネジメントの特集を組んでいる。 そのうち2004年度では、高度なリスク管理ができてこそ、複雑かつ多様なビジネスを行う資格があるとして、次のように説明している。 さらに2013年度では、リスクマネジメントの基本方針として、 と述べている。 《欧米に比べ遅れていたリスク管理体制》 1990年後半から2000年初めにかけて総合商社各社が推進した経営改革は、不採算事業の縮小・撤退と成長事業・コア事業に経営資源を集中して収益の極大化を図ることであったことは、既に本連載において述べたところである。 事業の集中と選択を関係者の納得の下で進めるために、資本コストを意識したグループ共通のモノサシを開発し、この共通のモノサシ(リスク・リターン指標)を活用した事業ポートフォリオ管理を進めることで収益基盤の改善を実現した。 さらには、グループとして取りうるリスクの許容度を定め、想定最大損失(リスクアセット)は、会社全体の体力に当たる株主資本の範囲内に収めるという大原則を決め、それを徹底した。 計測可能リスクと計測不能リスクとを「統合的に管理する仕組み」(ERM : Enterprise Risk Management)を構築したのである。 筆者が企業の抱えるリスクについて初めて網羅的に認識したのは、1996年にリスク・リターン指標の開発を手掛けた際に、コンサルタント会社(A.T.Kearney 社)からリスク・プロファイルについて説明を受けた時であった。 今から17年ほど前になるが、それほど古い話ではなく、これがリスクの定量的把握と統合的リスク管理の仕組みを構築する契機となった。 当時の資料では「企業を取り巻くリスク」として次のように整理している。 日本においては、今でこそリスクマネジメントが広く理解されているが、当時は「目からウロコ」の話であった。 この種の研究はアメリカが一歩も二歩も進んでいたように思う。いわゆる日本的経営は終身雇用、銀行などからの間接金融、株式の持合などに特徴があると言われていたが、このようなビジネス環境下では、企業を取り巻くリスクについて欧米ほどは意識しなくてもよかったし、リスクに対するセンスや感応度があまり磨かれなかったのかもしれない。 ただし、日本企業が市場から資金を調達し、海外での投融資やグローバルマーケットでのビジネス展開が増えてくるにつれ、欧米並みのリスクマネジメントが必要となってきたのである。 《各リスクにおいて重要なこと》 上記のRiskを整理してみると、「計測可能リスク」と「計測不能リスク」に大別することができる。 計測可能リスクは、「定量化が可能なリスク」であり、定量化の手法が開発されれば数字に基づくリスク管理が可能になる。企業が抱えるリスクが企業の体力に比べて妥当な水準にあるかとか、リスクの分散度合いなどを客観的に把握しながらの経営に進化していくのだ。 計測可能リスクは 投資 信用 市場 集中 の4つに整理できる。 以下では、そのうち「投資」、「信用」、「集中」リスクの管理と計測不能リスクについて、住友商事2013年度アニュアルレポートを参考に説明する。 《リスク管理は制度ではなく『人』が行う》 どれだけ堅牢なリスクマネジメント・システムを構築しても、ビジネスに伴うリスクを完全に防ぐことはできない。 このためリスクが顕在化したら、それを早期に発見し、迅速かつ適切な対応をとり、損失の累増や二次損失の発生を抑止する体制の整備が必要となる。 そのためには、かかる事態発生の報告が間髪入れず、しかるべき部署に報告されること、すなわち、事態が発生したら「まずは一報」を徹底し、対策・対応が後手に回らぬことが肝要である。 リスクマネジメントのフレームワークは、いったん作り上げたら、これで良いというものではない。 企業を取り巻く外部環境は常に変化しており、企業による新たな事業への取組みは止むことがない。これらの動きに適切に対応していくには、経営トップの主導のもと、構築した制度のタイムリーな見直しと、役職員一人一人のリスク管理能力のレベルアップを図るための教育・研修を欠かすことはできない。 要は、リスク管理を行うのは「制度ではなく人だ」ということを忘れてはならないのである。 (了)
私が出会った[相続]のお話 【第6回】 「誤った遺産分割アドバイスにご注意を」 ~目先の節税対策が“争続”リスクに~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔Oさんからのご依頼〕 Oさんは、Oさんのご主人の後妻としてO家に入り、Oさんのご主人と先妻との間には2人の子供(長男、長女)がいました。しかしながらOさんは、Oさんのご主人と先妻との子供たちとは養子縁組をしていませんでした(Oさんと長女との関係がうまくいっていなかったのが1つの理由)。 そんな時、Oさんのご主人の相続が発生したのです。 相続手続については、担当税理士のもとに遺産分割協議も整い、不動産を含む各自への財産分与も無事に行われました。 それから10年近く経ち、Oさんはご自身の係累が少ないことを考え、自らのこれからの行く末と、財産の管理と処分等に思い悩むようになっていました。 そんなある日、共通の友人の紹介で、Oさんから私のもとにアドバイスしてもらいたい旨のご依頼があったのです。 〔亡夫の長男に〕 まずOさんに、Oさんの相続人に当たる該当者を聞きました。 するとOさんは、自分の親戚は短命の人が多く、今までもほとんど音信がなくわずかに甥が一人いるはずだけだとのことでした。そして自分の財産は付き合いの薄い親戚よりも、亡くなった夫の子供(長男)に遺贈したいとのことでした。 その理由は、自分が亡くなったら夫のお墓に入れてもらい、夫の長男に祭ってもらうためということです。 ただしOさんは、養子縁組までするつもりはありませんでした。それというのも、Oさんのご主人と先妻は死に別れでなく生き別れであり、今も子供たちと行き来している模様だからです。 次に私は、Oさんの夫から相続した財産を含む、Oさん自身の財産明細を提出してもらいました。そのうえで今後のOさんのゆとりある生活の維持と、将来の相続対策を講じなければなりません。 その結果、金融資産等については全く問題がありませんでした。 ところが、居宅マンションを含む不動産のうち、収益不動産(事務所用テナントビル)については、大いに問題があることが判明しました。 〔事務所用テナントビルの所有関係〕 本物件は夫からの相続財産で、その遺産分割処理が将来リスクを抱えていました。 すなわち、事務所用ビル(建物)はすべてOさんの所有だったのですが、敷地は、Oさんには1/2、亡夫と先妻との子供たちに1/4ずつ共有持ち分で相続されていたのです。 どうやら税理士としてもOさんの立場を考慮し、潤沢な生活費を維持するためフロー所得を生ずるような分割としたのかもしれません(あるいは生前からの故人の希望かもしれませんが・・・)。 しかし、このままで突然にOさん自身の相続を迎えるとすると、どのような事態が予想されるでしょう。 まず、事務所用テナントビルの建物とその敷地の1/2は、Oさんの甥が相続することになります。一方、敷地の1/4ずつは、亡くなったOさんのご主人の子供たち2人の所有物となっています。 このように1つの収益物件を、他人同士の3人(うち2人は兄妹)が所有することになるのです。 やはりご主人の遺産分割の際に、不動産については単独所有にしておくべきだったのです。 Oさんに万一のことがあったときは、今以上に複雑な状態となります。 〈夫死亡時の収益不動産の分割状態〉 〔早急な対策が必要です!〕 そこで、この状態を解決するためには 等が考えられます。 このほか養子縁組対応なども考えられますが、前述のとおり先妻への感情面と亡夫の長女との不仲もあり、主に上記の①~④の方法を検討することにしました。 Oさん自身、自分が万一のときは、亡夫の長男に不動産を遺贈するつもりでした。それでも一部はまだ亡夫の長女の所有であり、長男の単独所有が望めないことや、お金で所有すれば自分も思いのまま活用できることから、生前にこの物件の売却をする決心をしました。 その結果、ちょうど亡夫の子供たちもお金が必要であったということで、本物件の売却に同意してくれました。 売りに出すと幸いにして比較的高く売却でき、各々の持分に応じて売却金を分配しました。 さあ、これでややこしい不動産も解決しました。 しかし、まだ居宅マンション(すべてOさんが所有)や金融資産があり、いずれにしても遺言書作成を早急にしなくてはなりません。 〔相続人が・・・13人?!〕 そこでOさんの希望通り、すべて亡夫の長男に遺贈する旨の遺言書作成のため、関係書類を取り寄せることになりました。 するとどうでしょう。 驚きの事実関係が判明したのです・・・ Oさんは複雑な家庭に育ち、戦前の3歳の時に養子に出され、しかも両方の両親とも早くから死に別れていました。そんなわけで生家との付き合いも全くなく(自分では養子に出されたという認識もなかった)、今日まで唯一、甥が1人いるというだけのつもりでした。 ところが戸籍謄本を取り寄せてみると、初めて自分には生家があることが判明し、次にその生家・養家と合わせ計13人(ほとんどが代襲相続人)もの推定相続人がいることが確認されました。 もしOさんの遺言書作成前に相続事態が発生すれば、法定相続人13人に相続権が移ります。当然ながらその13人は、Oさんの財産を期待するはずです。 大変なことになりました。 早急に亡夫の長男へ遺贈する旨の遺言書を作成する必要があります。 しかしながら、たとえ遺言書を作成したとしても、遺言執行に際しての告知等、13人もの相続人への対応は、執行者にとって大変な負担となります。 また、仮に自筆証書遺言書にて遺贈文言等の要件不備があった場合はどうなるでしょうか。 その遺言書の有効性の問題で「争族」になることが必至です。 このことから、できるだけ公正証書遺言書にて作成することをお勧めしました。 そして本件は、私の紹介する信頼のおける弁護士にその内容を検証してもらい、いざ相続に際しては、弁護士を遺言執行者として遺産の整理をお願いすることにしたのです。 〈判明後の家族構成〉 〔そもそもの原因は何ですか?〕 もし不動産の整理をしなかったら? もし遺言書を作成していなかったら? 当初考えていた法定相続人が甥1人でなく、なんと13人もの相続人がいるのがわからないままだったのです。 そしてOさんのご主人の子供2人が、同じ不動産を、13人の他人と共有することになっていたのです。 その複雑さを考えるだけで、ゾッとしますね。 最初の遺産分割が、このようなリスクを発生させることもあるのです。 Oさんのケースでは、本来、収益マンションをOさんが全部相続し、亡夫の子供たちへはその見合い分を金融資産で分与すべきだったのです。 * * * いかに将来まで見据えた分割協議が大切であるかがお分かりいただけたかと思います。 なおOさんには、自宅マンション以外の金融資産については、自分自身が元気な間に大いに活用し、生活をエンジョイされることをお勧めしたのは言うまでもありません。 Oさんは現在、年何回かの海外旅行を心行くまで楽しまれ、海外先からその様子を知らせるお葉書が私の事務所へ時々届けられます。 (了)
《速報解説》 IASBによるIFRS第15号 「顧客との契約から生じる収益」の公表について 公認会計士 松橋 香里 2014年5月28日に国際会計基準審議会(IASB)からIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表された。本基準について、要点を解説する。 はじめに 新基準では取引価格の決定には変動対価の見積もりが含まれ、それらは個々の履行義務に配分される。従って、従来よりも見積もりや判断の要素が多くなるであろう。また、企業によっては認識のタイミングが変わることが予想される。 IFRS第15号は、影響の大小はあれ、ほぼすべての企業に関連する基準であることから、個々の企業は自社にどのような影響を及ぼすのかを詳細に検討しなければならないものと思われる。 1 改訂の経緯・趣旨 国際会計基準にはIAS第18号「収益」、IAS第11号「工事契約」が存在していたが、これらは複雑な取引に適用するための指針が不足していた。一方で米国基準では業態毎に詳細な会計処理が求められており、類似する取引に対して異なる会計処理が適用されるという問題が指摘されていた。 このため、国際会計基準審議会と米国財務会計基準審議会(FASB)は、財務諸表の比較可能性を高めるため、原則としてすべての業界に適用される単一の基準の開発を共同で進めてきた。収益は企業の業績を示す最も重要な指標であることから、実務上の検討事項は多岐にわたり、最初の公開草案から約4年にわたる長期のプロジェクトは長い審議期間を経て、ようやく完成に至ることとなった。 2 新基準の特徴 新基準の特徴は、これまでの「リスク・経済価値アプローチ」に代えて、「履行義務アプローチ」を採用したことである。履行義務アプローチのもとでは、企業は顧客に対する履行義務を果たした時に収益を認識することとなる。 すなわち、企業は契約時点で顧客に対する財及びサービスを引き渡す義務(履行義務)を負い、対価請求権を得る。そして実際に財及びサービスを顧客に移転した時点で履行義務が消滅し、履行義務に配分された取引価格を収益として認識すると同時に対価請求権を資産として認識することになる。資産及び負債の変動に着目して収益を認識することから、概念フレームワークと整合した会計処理といえる。 3 適用上の論点 収益は具体的には以下の5ステップで認識される。 Step1(契約の識別) ―会計処理の対象となる契約を特定する 企業はまず、契約が基準の適用対象となるか否かを特定しなければならない。 契約は文書に限らず、口頭や企業の慣習的な事業慣行が含意される場合もあるが、(法律上の)強制力をもち、経済的な実質を伴うものでなければならない。 また、一定の条件を満たす場合には、企業は複数の契約を結合し、一つの契約として会計処理を行わなければならない。 新基準では、本基準の適用対象となる契約か否かを判定する際に、顧客の信用リスクを考慮することが示された(再公開草案からの変更点)。 すなわち、契約に基準を適用するためには、企業は顧客の支払能力と支払の意思を考慮し、対価の回収可能性が高い(probable)と結論づけていなければならない。 回収可能性が高くないと判断した場合には、顧客からキャッシュを回収するまで収益を認識することができない。 Step2(契約内の履行義務の識別) ―収益を履行義務単位で認識するため、契約を各履行義務に区別する 企業は契約に基づいて、財又はサービスを顧客に提供する約束をするが、これを履行義務という。企業は契約内の財又はサービスを別個の履行義務に区別し、区別した履行義務単位で収益を認識する。区別できない場合は、単一の履行義務として会計処理しなければならない。また、一定の要件を満たす場合には複数の財又はサービスの組み合わせを単一の履行義務として会計処理しなければならない。 Step3(取引価格の算定) ―顧客から受け取る対価に基づいて取引価格を測定する 取引価格とは、企業が約束した財又はサービスと引き換えに顧客から受け取る対価の金額をいう。対価が変動する場合には取引価格の算定が困難になるが、この場合には合理的な金額を見積もった上で収益を認識する。 対価が変動する場合には、以下のすべての要件を考慮して取引価格を算定する。 対価が変動する場合、企業は加重平均法か最頻値法のいずれかの方法を用いて受け取るであろう対価をより適切に表す額を見積もる。 また、事後的な変動によって大幅な収益の戻し入れ(取消)が生じない“可能性が非常に高くなる(highly probable)”ように収益の累計額を見積もらねばならない。 ただし、知的財産のライセンスから生じる収益については、収益を生じさせる売上または利用が生じた時のみに収益が認識される。 Step4(取引価格の履行義務への配分) ―企業は各履行義務が充足された時に収益として認識される金額を決定する 取引価格を各履行義務に配分する場合、通常は各履行義務の相対的な独立販売価格に基づき配分する。このため企業は入手可能な情報を用いて独立販売価格を算定しなければならない。独立販売価格が直接的に観察可能でない場合には、合理的に入手可能なすべての情報を考慮し、適切な見積もり方法によって独立販売価格を見積もる。また、独立販売価格の変動性が高い又は不確定である場合には、残余法(取引価格の総額から他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計を控除した額を参照して独立販売価格を見積もる方法)を用いることができる。 Step5(履行義務の充足時に収益を認識) ―企業は財又はサービスの「支配」が顧客に移転し、履行義務を充足した時点で収益を認識する ここでいう支配とは、顧客が財又はサービスの販売や使用によって収益を得ることができるようになることを意味する。履行義務は、支配の移転パターンに応じて一時点もしくは一定期間にわたり充足され、収益は支配の移転パターンと整合するように認識される。 履行義務が一時点で充足される場合は、収益も一時点で認識され、履行義務が一定期間にわたり充足される場合には、収益は当該期間にわたり認識される。この場合の進捗度の測定には、インプット法またはアウトプット法など顧客への支配の移転パターンを最も適切に表す方法を用いる。 4 その他 ◎不利な履行義務 再公開草案で提案されていた不利な履行義務、いわゆる赤字履行義務に関する負債及び対応する費用の認識については当基準書では取り扱わないこととされた。 ◎開示事項 新基準では開示情報の範囲が拡大されている。企業は以下に関する情報の開示が求められる。 顧客との契約 契約に基準を適用する際の重大な判断及び当該判断の変更 顧客との契約の獲得又は履行のためのコストから認識した資産 企業は顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性が経済的要因にどのように影響されるのかを描写する主要な区分に分解しなければならない。 契約残高については、再公開草案で提案されていた調整表の作成は求められないものの、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高の開示が求められる。 注記情報が増加するため、必要な情報を適時に入手できる体制を整備する必要がある。 (了)
2014年5月29日(木)AM10:30、Profession Journal No.71 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる 「従業者」に関する要件整理 ~雇用形態による適用関係の差異を検討する~ 【第1回】 「雇用者等の用語定義を整理」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 我が国経済の積年の課題であるデフレ脱却からの安定的な経済成長の達成に向け、現政権は様々な経済活性化政策を打ち出している。特に、雇用対策については非常に重視されており、雇用環境および個人所得の改善を通じた経済活性化が期待される。 既に本誌にも数回にわたり寄稿したところであるが、こういった雇用対策を税制面からサポートするための租税特別措置として、雇用促進税制(雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除:措法42の12)および所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除:措法42の12の4)が設けられている。 特に所得拡大促進税制は、平成25年度税制改正で創設されたものであるにもかかわらず、直後の平成26年度税制改正(民間投資活性化のための税制改正大綱)において適用要件の緩和を行い、本税制の一層の適用促進の姿勢を見せたことは記憶に新しく、非常に特異的であった。 所得拡大促進税制の改正事項については多くの解説記事が出そろいつつあり、読者各位におかれても適用要件について一定の理解を得られていることと思う。 そこで今回は少し切り口を変え、それぞれの税制の適用対象となる「従業者」の雇用形態に着目し、いかなる雇用形態の従業者がそれぞれの税制の適用対象に含まれるのかを整理することとした。 本稿は原則として、平成26年3月31日に公布された平成26年度改正税法に基づいているが、必要に応じ、改正前の制度にも言及することとする。 なお、所得拡大促進税制に係る平成26年度改正事項については、『〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載58〕所得拡大促進税制の平成26年度改正事項と別表6(20)新様式の変更点』(竹内陽一氏)において詳細に述べられているため、そちらの記事を参照されたい。 2 所得拡大促進税制・雇用促進税制における「雇用者」概念の整理 (1) 所得拡大促進税制 本税制は、「国内雇用者」に対する給与等支給増加額の10%相当額の税額控除を認めるものであるから、「国内雇用者」の範囲を理解する必要がある。 「国内雇用者」とは、法人の使用人(当該法人の役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く)のうち、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の4②一、措令27の12の4①②)。 労働基準法第108条には、 との定めがあり、これを受けた労働基準法施行規則第54条では、 と定めている。 ここで「労働者」とは何かが問題となるが、労働基準法における労働者は と定義されている(9条)ことから、賃金台帳は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者について作成する義務を負っているということになる。 したがって「国内雇用者」という概念は、基本的には雇用形態とは無関係の、比較的幅広く捉えられるものであるといえる。 他方で、適用要件の一つである「平均給与等支給額」の算定に当たっては、「継続雇用者給与等支給額」という概念が登場する。 継続雇用者の概念は、平成26年度税制改正によって新たに導入されたものであり、平成26年3月期決算法人の税務申告に当たっては、従前の平均給与等支給額の算定方法が適用されるので留意されたい(日雇い者に係る金額及び支給人数を控除して算定。ただし翌期に上乗せ控除する場合の適用要件の検討に当たっては、継続雇用者給与等支給額を用いて判断することとなる)。 「継続雇用者」とは、当該適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者をいい、継続雇用者給与等支給額は、継続雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対して支給する額に限り、一定の継続雇用制度対象者に対して支給された額を除くものとされている(措法42の12の4②六、措令27の12の4⑪)。 要するに継続雇用者とは、前期と当期の2期にわたり給与等の支給対象となった雇用保険一般被保険者(継続雇用制度の適用対象者を除く)ということである。 よって以下のケースのように、2期にわたり給与等支給対象たる雇用保険一般被保険者となっていない(1期しか支給対象になっていない)者については、平均給与等支給額の算定対象となる継続雇用者には含まれないこととなる。 継続雇用者の範囲から除外される「一定の継続雇用制度対象者」は、当該法人の就業規則において継続雇用制度を導入している旨の記載があり、かつ、雇用契約書又は賃金台帳のいずれかに当該継続雇用制度に基づき雇用されているものである者である旨の記載がある場合の当該者をいう(措規20の9)。 「継続雇用制度」とは、現に雇用している高年齢者(55歳以上)が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて65歳まで雇用する制度をいう(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9①)。 本制度の適用を受ける上では、引き続き雇用保険の一般被保険者の立場を維持することができるが、65歳を迎えた段階で本制度の適用が終了するとともに、一般被保険者としての資格を喪失する(年齢制限)。 ただし、継続雇用制度の適用を受けている中で企業との別段の合意のもと、65歳を超えても引き続き雇用が維持される状況になったときは、雇用保険の高年齢継続被保険者の資格を取得することとなる。 このように、継続雇用者と雇用保険の高年齢継続被保険者(以下参照)とは直接関連しないので、念のため申し添える。 (2) 雇用促進税制 本税制は、「基準雇用者数」1人あたり40万円の税額控除を認めるものであり、「基準雇用者数」は「高年齢雇用者を除いた雇用者」の数を期間比較して算定される(措法42の12②四)ものであるから、「雇用者」及び「高年齢雇用者」の範囲を理解する必要がある。 「雇用者」とは、法人の使用人(当該法人の役員、特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のうち、雇用保険の一般被保険者に該当する者をいう(措法42の12②二)。 これに対して「高年齢雇用者」とは、法人の使用人のうち雇用保険の高年齢継続被保険者に該当する者をいう(措法42の12②三)。なお「高年齢継続被保険者」とは、被保険者であって、同一の事業主の適用事業に65歳に達した日の前日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されているもの(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く)をいう(雇用保険法37の2)。 3 本稿の検討対象とする雇用形態 以上を踏まえ、次回(2014/6/5公開)では、以下の雇用形態ごとに、それぞれの制度適用の可否を検討していくこととする。ただし説明の都合上、60歳定年制を前提とする。 (了)