中小法人の〈交際費課税〉 平成26年度改正のポイント 【第2回】 「改正により生じた実務の疑問点」 公認会計士・税理士 新名 貴則 前回は平成26年度改正のあらましについて解説したが、今回はこの改正を受けて新たに生じた疑問点について解説したい。 Q1 「接待飲食費の50%損金算入」と従来の「5,000円基準」の関係は? 前回解説したとおり、平成26年度税制改正において「接待飲食費の50%損金算入」が導入された。 ここでいう「接待飲食費」の定義は次のとおりである。 また、交際費課税においては以前から、いわゆる「5,000円基準」が存在する。 これは、1人当たり5,000円以下の飲食費(社内飲食費を除く)については、税務上の交際費等から除かれ、全額が損金算入されるというものである。 ここで、平成26年度税制改正によって「接待飲食費の50%損金算入」が導入された結果、従来の「5,000円基準」は適用できなくなり、飲食費はその金額に関係なくすべて50%損金算入となるのか、という疑問が生じる。 しかし、決してそのようなことはなく、改正後も「5,000円基準」を満たす飲食費は交際費等から除かれて全額損金に算入できる(措法61の4④二、措令37の5)。 ここで、1年間の交際費支出が次のとおりだったとする。 この場合、下図のような取扱いとなる。 なお、「5,000円基準」における「飲食費」の定義は次のとおりである。 したがって、帳簿書類への記載事項の要件には違いがあるが、「接待飲食費の50%損金算入」における「接待飲食費」と、「5,000円基準」における「飲食費」の範囲は同じである。 それぞれの用語の位置づけを整理すると、下図のようになる。 Q2 「接待飲食費の50%損金算入」の具体的な適用期間は? 平成26年度税制改正によって「接待飲食費の50%損金算入」が導入されたが、具体的に『いつ支出した接待飲食費が適用対象となるのか?』という疑問が生じる。 これについては において支出する接待飲食費が適用対象とされている。 「平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に支出する接待飲食費」ということではないので、注意が必要である。 したがって、3月末決算法人であれば、通常は次の2事業年度において支出する接待飲食費が対象となる。 また、仮に9月末決算法人であれば、通常は次の2事業年度において支出する接待飲食費が対象となる。 上記を図で示すと、以下のようになる。 〈9月末決算法人の適用関係〉 Q3 「年間800万円まで全額損金算入」と「接待飲食費の50%損金算入」の選択適用の手続は? 資本金1億円以下の中小法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)では、「年間800万円まで全額損金算入」と「接待飲食費の50%損金算入」を、事業年度ごとに選択して適用できる。 具体的には法人税申告書別表15において、選択した方法に従った記入をして申告することになり、事前の申請等は要求されていない。 なお、別表15の具体的な記載方法については、次回(第3回)で解説する。 Q4 「年間800万円まで全額損金算入」と「接待飲食費の50%損金算入」はどちらが有利か? 中小法人においては決算のつど、上記のどちらが有利かを検討した上で選択適用する必要があるが、接待飲食費が年間1,600万円を超える場合は、「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が有利となる。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第2回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)②」 公認会計士 佐藤 信祐 第1回目で解説したように、本事件の争点は下記の3点である。 ① 法人税法132条の2の意義【争点1】 (ⅰ) 法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)の解釈について (ⅱ) 「その法人の行為又は計算」の意義について ② 法人税法施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について、法132条の2の規定に基づき否認することができるか否か【争点2】 ③ 本件更正処分に理由付記の不備があるか否か【争点3】 原告には7名の著名な学者の鑑定書、被告には今村教授のほか財務省主税局のOBである朝長税理士が鑑定書を出されており(※1)、裁判所の判断を分析する前に、それぞれ原告、被告の主張に触れてみるのも意義のあることと考えている。 (※1) 新日本法規「検証ヤフー・IDCF事件」T&Amaster 542号5頁 原告、被告の主張は、判決文の別紙4に記載されており、争点ごとにまとめられているため、第2回目以降は、それぞれの争点ごとにおける原告、被告の主張について検討したい。 (5) 法人税法132条の2の意義【争点1】についての当事者の主張 【争点1】については、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)の解釈についても争われているが、「その法人の行為又は計算」の意義についても争われている。 しかしながら、後者については、本件副社長の就任が「その法人の行為又は計算」であるか否かという点を争っているが、形式的なものであると考えられるため、本稿においては、前者のみについて解説を行うこととする。 ① 被告の主張 法132条の2においては、法132条1項と同様に、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは」との文言が用いられていることに鑑みれば、同項をめぐる議論を参考とすべきであって、法132条の2の「不当」の意義についても、法132条1項の「不当」の意義について、純経済人の行為として不合理・不自然な行為又は計算によって税負担の減少が生じている場合がそれに当たると解されていることを参考とすべきである。 法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の解釈・適用は、組織再編成に係る法人の行為又は計算の特徴、組織再編税制における各個別規定の趣旨・目的について十分に考慮し、その実態に即して行われるべきである。 組織再編成によって行われる資産の移転には、事業上の必要性や、事業上の目的が全くないような場面を想定することができないことから、租税回避防止規定の適用場面として、事業上の必要性や事業上の目的が全くないことを要求することは、相当でなく、当該行為又は計算について、事業目的が完全に否定できないとしても、そのことから直ちに「不当」性が否定されるものではなく、主たる目的が租税回避目的であると認められる場合には、課税減免等に係る規定ないし制度の濫用があったとみて、否認されるべきである。 ② 原告の主張 租税回避行為の意義を踏まえると、法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」の要件は、私的経済取引プロパーの見地から合理的理由があるか否か、すなわち経済人の行為として不合理・不自然な行為又は計算か否かという観点から判断されるべきである。 特定役員引継要件の充足が「不当」と認められるか否かという本件で問題となっている争点に即して敷衍すると、当該の特定役員の就任は私法上有効であるものの、その者において特定役員として職務執行する意思もなければ職務執行の客観的事実もおよそ一切存在しない場合かどうかという基準となると解される。この基準であれば、およそ職務執行の意思と事実があるかどうかを判断すれば足りることから、すべての納税者によって明確かつ客観的な基準といえるものである。 法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」の要件は、第1に、法132条1項は、租税回避行為の否認規定という点において、法132条の2と趣旨及び性質を同じくすること、第2に、法132条の2は、法132条の直後に同条の枝番として新設されたものであること、第3に、法132条の2は、法132条1項では同族会社でない法人の組織再編成取引に対応できないため、新設されたものであること、第4に、法132条の2と法132条1項は、「法人税の負担と不当に減少させる」という同一の文言を用いていること、第5に、組織再編税制の創設が議論された税制調査会の場において、法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」の要件が、法132条1項の不当性の要件とは異なるとの解釈は、一度たりとも議論されたことはないことなどの点からすると、法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」の要件は、法132条の「法人税の負担を不当に減少させる」の要件と同様に解釈されるべきである。 個別否認規定が想定している取引の否認は、原則として、現実に発生した具体的な事実を対象に、法57条3項のような個別否認規定の適用による否認に委ねられるべきであって、法132条の2は、租税負担の公平の観点からみて看過し難い具体的な不当性がある場合に限り、発動される規定と解すべきである。そして、そのような「具体的な不当性がある場合」とは、前記の通り、納税者の行為が純経済人の行為としての不合理・不自然であること、より具体的には、行為が異常ないし変則的で、かつ、租税回避以外に正当な事業目的ないし理由がないことを意味すると解すべきである。 特定役員への選任が私法上適法有効にされているという事実こそ存在するものの、特定役員として職務執行する意思もなければ職務執行の客観的事実もおよそ一切存在しないような、いわば「形だけ」「名前だけ」にすぎない場合のみが、法132条の2の解釈適用上「不当」と評価されると解すべきである。 特定役員が、特定役員として職務執行するというその就任の目的に従って(主観面)、実際にも会社の経営の中枢に関与し特定役員として職務執行しており、合併後も被合併法人から承継した事業の中枢に関与している客観的事実が存在する(客観面)ならば、その就任は、経済社会において通常行われている正常な行為であるとともに、特定役員として職務執行する意思を伴った行為であり、正当な理由ないし事業目的も伴っているものであるから、異常ないし変則的で、かつ、租税回避以外に正当な事業目的ないし理由がない行為、すなわち純経済人の行為として不合理・不自然な行為であるとは到底評価できず、法132条の2の解釈適用上「不当」と評価する余地はないものと解される。 ③ 総括 このように、法人税法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定の射程範囲については、原告側は従来の租税回避や法人税法132条の判例・学説に従って主張したのに対し、被告側は法人税法132条の判例・学説を参考にすべきとしつつも、組織再編成に係る法人の行為又は計算の特徴、組織再編税制における各個別規定の趣旨・目的からして別個に判断すべきであると主張している。 租税回避についての学説については、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認のみを対象としたものではなく、租税回避一般について対象としたものであることから、包括的租税回避防止規定が組織再編成を利用した租税回避行為を否認するために導入されたものであるという点を考えると、原告側の主張の方が正しいようには思える。しかしながら、「租税回避以外に正当な事業目的ないし理由がない行為」とまで限定してしまうと、わずかな事業目的を外形的に作り出して、実行された組織再編成に経済的合理性があることを主張したとしても、租税回避に該当する可能性は十分にあり(※2)、訴訟上の戦術としてはともかくとして、実務上は、より保守的に考えるべきであると思われる。 (※2) 佐藤信祐(2009)『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』中央経済社12頁 本争点については、法人税法132条の2の射程範囲を同法132条よりも広く捉えるという裁判所の判断となっているが、いずれその内容についても、本連載において解説する予定である。 次回においては、【争点2】に関する当事者の主張について解説を行う予定である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第2回】 「報酬の分割支払時の復興特別所得税の計算」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、フリーの経営コンサルタントと契約することになりました。報酬額は200万円(税込)で、6月に50万円、9月に残り150万円を支払う契約になっています。この場合の所得税及び復興特別所得税の計算方法についてご教示ください。 また、その経営コンサルタントが「手取額が減るので、所得税及び復興特別所得税の源泉徴収をしないでほしい」と言うのですが、将来、税務調査で徴収もれを指摘されないでしょうか。 所得税及び復興特別所得税の計算方法について、6月の報酬額は100万円以下なので10.21%で源泉徴収し、9月の報酬額は100万円超なので100万円以下は10.21%、100万円超は20.42%で源泉徴収する。 また、会社が個人事業主へ支払いをする際、所得税及び復興特別所得税の源泉徴収が必要な場合と必要で無い場合がある。フリーの経営コンサルタントは、源泉徴収が必要な場合に該当する(所得税法基本通達204-15)。 したがって、会社が源泉徴収せずに報酬を支払った場合、将来、税務調査で所得税及び復興特別所得税の徴収もれを指摘される可能性がある。徴収もれを指摘された場合、報酬額であるはずの50万円と150万円は手取額とされることがある。 この場合、会社は手取額をもとにグロスアップ計算にて算出された所得税及び復興特別所得税を納付することになる。 (了)
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第7回】 「「課税売上割合に準ずる割合」の実務」 -課税売上割合・課税売上割合に準ずる割合の意義- 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 1 課税売上割合の意義 本連載では消費税の仕入税額控除の実務についてみているところであるが、第7回となる今回は、個別対応方式の一形態であり、一般になじみの薄い「課税売上割合に準ずる割合」の意義とその選択を検討すべきケースについて見ていくこととする。 「課税売上割合に準ずる割合」の意義を検討する前に、まず「課税売上割合」の意義について見ていくこととする。平成23年度の税制改正後の課税仕入れ等に係る消費税額の具体的な計算方法は、以下の区分により行うこととなる。 上記における「課税売上割合」とは、課税期間中の国内における資産の譲渡等の対価の額の合計額に占めるその課税期間中の国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の割合をいう(消法30⑥、消令48①)。 これを算式で示すと、以下の通りとなる。 資産の譲渡等から非課税取引を除いたものを「課税資産の譲渡等」という(消法2①九)から、上記算式中の分子・分母の違いは非課税取引の金額ということになる。そのため、課税売上割合の計算において最も重要なのは、課税取引(免税取引を含む)と非課税取引との区分である。 なお、上記算式中分子・分母はともに税抜(消費税及び地方消費税を含まない)の金額であり、かつ売上に係る対価の返還等の金額控除後の金額である。また、課税売上割合について、原則として端数処理は行わないが、行う場合には切り捨てることとなる(注)(消基通11-5-6)。 (注) したがって、例えば課税売上割合が四捨五入して95%になる場合(94.8%のケースなど)には、その期間における課税売上高が5億円以下であっても全額控除されるわけではない(個別対応方式か一括比例配分方式の選択適用となる)ことに留意する必要があるだろう。 上記課税売上割合を計算する際、一般に注意すべき事項は以下の点である。 2 課税売上割合に準ずる割合の意義 仕入税額控除の方法の一つである個別対応方式とは、課税仕入れ等について以下のア~ウの3つの用途区分に分類し、かつ以下の算式に基づきその区分に応じた仕入控除税額を計算する方法である。 すなわち、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合には、上記算式のとおり、原則としてウ「両方に共通して要するもの」に係る消費税額に課税売上割合を乗じることとなるが、所轄税務署長の承認を受けた場合には、当該課税売上割合に代えて、その他の合理的な割合により計算することも可能である(消法30③)。 このような合理的な割合のことを「課税売上割合に準ずる割合」という。 事業者が仕入税額控除の計算において課税売上割合ではなく「課税売上割合に準ずる割合」をわざわざ用いるのは、「両方に共通して要する課税仕入れ等(共通対応分)」を課税売上対応と非課税売上対応とに分類する際、その分類(按分)基準が課税売上割合では事業の実態に即していない、すなわち課税売上割合が事業の実態よりも低くそれを適用すると仕入控除税額が小さくなることが見込まれるため、それを回避し仕入控除税額を増額するタックスプランニングの目的があるためである。 ここで留意すべきは、「課税売上割合に準ずる割合」は税務署長の承認事項だということである。したがって、事業者が承認申請を行いそれを税務署長が認めない限り、当該割合を適用することができない。言い方を変えれば、通常のタックスプランニングのように、申告後一定期間を経て税務調査によりそのスキームが認められるかどうか確認される「不安定な」ものではなく、一度承認されれば、承認時の要件を満たしている限り税務調査で否認されるリスクはない「安全な」プランニングであるといえる。極論すれば、「ダメ元」で税務署長に承認申請をしてもよいのではないだろうか。 【「課税売上割合に準ずる割合」の位置づけ】 通達によれば、「課税売上割合に準ずる割合」の適用の前提となる「合理的な割合」とは、以下のような基準のことをいう(消基通11-5-7)。 課税売上割合に準ずる割合は、個別対応方式により課税仕入れ等に係る消費税額の計算を行っている事業者についてのみ適用され、一括比例配分方式により課税仕入れ等に係る消費税額の計算を行っている事業者には適用がないことに留意すべきである。したがって、用途区分を行っていない事業者は課税売上割合に準ずる割合の適用を受けることができないこととなる。 なお、課税売上割合に準ずる割合の適用の承認を受けた場合、共通対応分に係る仕入控除税額の計算は必ず当該承認を受けた割合を適用するのであり、仮にその後の事情の変化により課税売上割合を適用した方が有利であっても選択できないので、注意を要する(すなわち「有利選択」ではない、消法30③)。したがって、そのような場合には「課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出する必要がある。 * * * 次回は、課税売上割合に準ずる割合を検討すべきケースとして、事業部ごとに独立採算性を採用しているケースについて解説を行う。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第15回】 「給与計算と労働保険」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 労働保険の概要 労働保険とは、雇用保険と労働者災害補償保険(いわゆる労災保険)とを総称したものです。 保険給付は各々の保険制度で別個に行いますが、保険料の納付等については一体として取り扱います。また、アルバイトやパートタイマーを含む労働者を1人でも雇用していれば、労働保険の適用事業所となり、事業主は成立(加入)手続を行い、労働保険料を納付する必要があります。 2 労働保険の対象者 労働保険の対象者は、職業の種類を問わず、事業に従事する者で賃金を支払われる者をいいます。 3 保険料率 雇用保険料と労災保険料は、労働保険料として併せて徴収します。具体的な保険料は、事業に従事するすべての労働者に支払う賃金総額に雇用保険料率と労災保険料率を加えた率を乗じた額となります。また、保険料は、標準報酬月額や標準賞与額ではなく、実際の給与、賞与の総額に保険料率を乗じて保険料を算出します。 (1) 雇用保険料率 平成26年4月1日から平成27年3月31日までの雇用保険料率は、次のとおりです。なお、平成25年度から変更はありません。 失業給付の保険料は労使折半ですが、雇用保険事業の保険料は全額が事業主負担であるため、事業主と労働者(被保険者)負担の保険料率が異なります。 (2) 労災保険料率 労災保険率は、事業の種類毎に過去の災害率等を考慮して定められており、54業種について最高1000分の89から最低1000分の2.5となっています。なお、詳細は「労災保険率表」をご参照ください。 4 労働保険の計算と納付方法 事業主は、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付する必要があります。 これを年度更新といい、原則して6月1日から7月10日までの間に、労働基準監督署等で手続を行います。 5 概算保険料の延納(分割納付) 概算保険料を分割して納付する制度のことをいい、原則として、納付すべき概算保険料の額が40万円以上の場合や、労働保険事務の処理を労働保険事務組合に委託している場合には、3回に分けて納付することができます。 また、事業主負担分の労働保険料の損金算入時期は次のとおりです(法人税基本通達9-3-3)。 6 労働保険料の計算例 〈保険料の計算〉 労働保険料は、賃金総額×(労災保険率+雇用保険率)で算定されるので、5,600,000円×(6+13.5)÷1000=109,200円となります。 また、労働者(被保険者)負担分は次のように28,000円と算定されます。事業主負担分は、雇用保険の労働者(被保険者)負担分を除いた額となるので、事業主負担分の労働保険料は、109,200円-28,000円=81,200となります。 なお、労働者(被保険者)負担額については、事業主は、労働者に賃金を支払う都度、その賃金額に応ずる労働者(被保険者)負担額を賃金から控除し、年度更新により納付するまで預かります。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【36】 〔第5章〕法令用語 (その22) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 13 科料と過料 前回、「科する」の説明をする際に次回詳述するとしていた「過料」と、それと同じ音である「科料」について説明する。 ① 科料 まず刑法には、次のように規定されている。 これから分かるように、「科料」は、死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留と並んで主刑の一つであるが、そのうち最も軽いものであり、罰金とともに財産刑の一種である。このため「科料」の場合には特別の定めがない限り刑法総則の規定が適用され、その手続は刑事訴訟法によることになる。 したがって、この「科料」について、前回説明した「科する」か「課する」いずれを使うかという点で確認すれば、これは刑罰の一種であるから、「科する」を使うことになる。 ② 過料 「過料」は、前回、秩序違反に対する制裁であると記した。すなわちこれは、法令違反に対して国又は地方公共団体が科する金銭罰の一種ではあるが、「罰金」や「科料」と異なり、刑罰ではない。したがって刑法総則の適用もなく、また刑事訴訟法も適用されない。 この「過料」については、原則、その「過料」を定めた各個別法規において定められた手続に従うが、特に定めがない場合又は定めのない事項については非訟事件手続法(第119条~122条)が適用されることになる。 ただし地方公共団体の条例や規則に基づき科される「過料」については、首長の処分としてなされるものとして地方自治法(第255条の3)が適用される。 なお、この「過料」の額については、「科料」と異なり通則的な定めはない。そのため「科料」の場合には単に「科料に処する」と規定することも許されるが、「過料」の場合にはこの「過料」を定めた各個別法規において額が定められる。 もっとも次の例のように、額だけを定める例が多い。例えば地方税法72条の57には、以下のように規定されている。 そしてこれを受けて東京都では、東京都都税条例の中で次のように規定している。 なお、この「過料」について先に「秩序違反に対する制裁」と記したが、詳細に分類すれば、その性格から大きく次の3つの種類に分けられる。 (A) 秩序罰としての過料 この「秩序罰としての過料」は、法令違反に対する一種の制裁と考えられるが、これを刑罰の「罰金」や「科料」としないのは、一般には、道徳的な非難をするほどでもない形式的で軽微な義務違反などに対して科されるものとされている。 例えば、「路上禁煙地区」での喫煙や吸い殻のポイ捨てを規制するいわゆる「路上喫煙禁止条例」では、多くの市区町村で「過料」を科しているが、「罰金」としているところ(例:高松市)もある。 これは、当該違反行為をその地方公共団体がどう捉えているかという当該違反行為に対する評価の問題だけではなく、「罰金」や「科料」の場合には刑法総則や刑事訴訟法の適用があるのに対し、上記のごとく「過料」にはこれらの適用がないことから、実効性の確保の点から「罰金」や「科料」ではなく「過料」としているともいわれている。このように実効性の視点から「罰金」や「科料」ではなく、「過料」としている例も多い。 (B) 執行罰としての過料 執行罰とは、「罰」という名が付いているものの、その実態は強制執行(間接強制)の方法の1つと考えられ、行政上の義務を履行しない者に対し一定額の過料を科すことを予告して心理的に強制を加え、間接的に義務の履行を促すものである。 強制執行の方法であるため、不作為が続く限り繰り返して行うことができる。 なお、この執行罰としての過料の規定例は、砂防法第36条に見ることができる。 (C) 懲戒罰としての過料 「懲戒罰としての過料」は、一定の身分のある者に対して懲戒として科す過料のことである。 裁判官分限法に規定されている「過料」はこれに当たる。 なお、先に記したように、「過料」は国の法令のみならず、地方公共団体が条例や規則に基づいても科することができる。 先に示した地方税法72条の57の例は、法律で「当該道府県の条例で10万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。」と地方公共団体が科することが認められていることを受けて条例で科している。しかしそれ以外に、地方自治法第14条第3項では、5万円以下の過料について一般的な権限として条例や規則で(すなわち地方公共団体独自に)過料を定めることができるとされている。 なお最後に、過料と科料を区別するために、科料を「とがりょう」と読み、過料を「あやまちりょう」と読むことがあることを付言しておく。また前回説明したように、過料の場合も制裁であるから「課する」ではなく「科する」を用いる。 (了)
《編集部レポート》 東京税理士会が報道関係者との懇談会を開催 ~消費税の軽減税率へ反対を表明・相続税の増税へ向け無料相談会を実施~ Profession Journal 編集部 東京税理士会は2014年5月23日(金)、日本記者クラブにおいて「報道関係者との懇談会」を開催し、税制改正に関する意見発表を行った。 〇消費税の軽減税率に対し反対を表明 冒頭の田口絢子広報部長、西村新副会長の挨拶に続き、日本税務会計学会学会長の多田雄司氏より「軽減税率適用に関する考え方(会長諮問)に対する答申」(平成26年1月28日)をもとに、消費税の軽減税率導入がもたらす問題点についての指摘があった。 具体的には、軽減税率の対象品目の選定が困難であること、どのような品目を選定した場合においても所得層による逆進性の問題が解消されないこと、インボイス等の導入による中小企業の事務負担及びコスト増が問題点として挙げられた。 さらに平井貴昭調査研究部長からは「平成27年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」(平成26年3月20日)をもとに、酒類・外食を除く「全食料品」に対して、消費税率10%時に軽減税率5%を適用した場合の逸失税収額(試算)1兆3,056 億円のうち、1兆1,424 億円(逸失税収額の87.5%)は低所得者世帯以外の世帯に対する軽減税額となる点など、逆進性についての具体的な検証について説明があった。 また消費税率8%引上げへの影響については、成田忠幸広報部副部長をはじめとした広報部委員より、各企業における値上げの判断等、消費税率引上げ時における取組み事例が紹介されたほか、経過措置に関する事務処理や新たな会計ソフトの導入等、負担増もあったことが報告された。 〇相続税の増税へ向け無料相談会を実施 平成27年からの相続税の基礎控除額引下げによる課税ベース拡大への影響を考慮し、東京税理士会では無料相談会(参加費無料・事前電話予約制)の取組みを行っており、2月23日(日)には東京都8会場にて開催された。 なお、同相談会は9月7日(日)においても下記のとおり実施される予定となっている。 ※詳細は東京税理士会へお問合せください。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第5回】 「連結財務諸表における税効果会計」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 税効果会計は大きく「個別財務諸表における税効果会計」、「連結財務諸表における税効果会計」、「連結納税における税効果会計」に分けることができる。前回は「個別財務諸表における税効果会計」について解説したが、今回は「連結財務諸表における税効果会計」について解説する。「連結納税における税効果会計」は次回取り上げたい。 連結財務諸表の作成は、親会社及び連結子会社の個別財務諸表を単純合算することから始まる。本解説では、単純合算「後」を解説する。 連結財務諸表における税効果会計は、以下の5つのステップに分けることができる。 この5つのステップをフロー・チャートにすると、以下のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 個別財務諸表で集計したものだけが一時差異ではない。連結手続によっても一時差異は生じる。連結手続により生じる一時差異のことを連結財務諸表固有の一時差異という。 連結財務諸表固有の一時差異についても税効果会計を適用する必要があるため、まず、連結財務諸表固有の一時差異を連結会社(納税会社)ごとに集計する(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「連結実務指針」という)10)。 また、連結財務諸表固有の一時差異も個別財務諸表における一時差異と同様に、将来減算一時差異と将来加算一時差異に分類することができる(連結実務指針5)。ただし、連結財務諸表固有の一時差異は、連結手続上で発生するだけで、実際の課税所得の計算には関係しないということに留意が必要である。 連結財務諸表固有の一時差異は、大きく(1)連結上の会計方針の統一により生じる一時差異、(2)資本連結により生じる一時差異、(3)成果連結により生じる一時差異に分けることができる(連結実務指針3、4)。 そのため、連結財務諸表固有の一時差異の集計の際には、一時差異が、(1)から(3)のどの内容により生じているかを検討し、集計することになる。 主な連結財務諸表固有の一時差異は以下のとおりである。 なお、連結手続上、計上される「のれん(負ののれん)」については、繰延税金負債(繰延税金資産)は計上しない(連結実務指針27)。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 連結上の会計方針の統一により生じる一時差異 連結財務諸表作成にあたっては、親子会社の会計方針を統一する必要がある。この統一により子会社の貸借対照表に計上している資産又は負債と連結財務諸表に計上される資産又は負債に差額が生じる場合がある。この差額が一時差異に該当する。 (2) 資本連結により生じる一時差異 資本連結により生じる一時差異は、大きく以下の4つに分けることができる。 ① 子会社支配獲得時における子会社の資産及び負債の時価評価に伴う評価差額 連結手続上、子会社支配獲得時に子会社の資産及び負債を時価評価することにより評価差額が生じる。これにより、個別貸借対照表に計上している資産及び負債と連結貸借対照表に計上する資産及び負債に差額が生じる。この差額が一時差異に該当する。 この一時差異は、資産の売却、減価償却(償却資産の場合)等により解消される。 ② 子会社株式評価損及び投資損失引当金の連結修正に伴う差異 個別貸借対照表上の子会社株式に対して、子会社株式評価損又は投資損失引当金(以下、「子会社株式評価損等」という)を計上している場合、連結上、これらは消去する。そのため、子会社株式評価損等が税金計算上、損金算入されていない場合、子会社投資に対する個別上の簿価と連結上の簿価に差額が生じる。当該差額が一時差異(将来加算一時差異)となる(連結実務指針28)。 個別財務諸表上、子会社株式評価損等に係る繰延税金資産を計上している場合、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債と同額となり、連結貸借対照表上、相殺されるため(詳細は【STEP5】(3)参照)、結果的に、この連結修正に関する繰延税金資産及び繰延税金負債は計上されない。また、個別財務諸表上、子会社株式評価損等に係る繰延税金資産について、回収可能性がなく、繰延税金資産を計上していない場合は、税効果は認識しない。 【子会社株式評価損及び投資損失引当金の連結修正に伴う差異】 ③ 子会社への投資の個別上の簿価と連結上の簿価の差異 子会社の支配獲得時には、子会社への投資に対する個別上の簿価と連結上の簿価は一致している。しかし、のれんの償却や連結子会社となった後に子会社で生じる利益・その他有価証券評価差額金・為替換算調整勘定等、段階取得(複数の取引による支配獲得)に係る損益により、個別上の簿価と連結上の簿価に差額が生じる。この差額が一時差異に該当する(連結実務指針29、29-2)。 一時差異の発生原因、解消、税効果の取扱いは以下のとおりである(連結実務指針30~38-3)。 (3) 成果連結により生じる一時差異 ① 未実現損益の消去に係る差異 連結会社相互間の取引で生じた未実現損益は連結手続上、消去する。例えば、親会社が子会社へ棚卸資産を売却した場合、子会社の貸借対照表上は、親会社から取得した金額で計上されるが、連結貸借対照表上は親会社の個別貸借対照表で元々計上されていた金額(未実現損益を含まない金額)で計上されることになる。 したがって、子会社の個別貸借対照表と連結貸借対照表の計上額に差異が生じるため、一時差異に該当する。 当該一時差異は、資産の売却、減価償却費(償却資産の場合)等により解消する。 ② 債権債務の消去に伴い減額修正される貸倒引当金 連結グループ内の会社に対する債権債務は、連結手続上、相殺消去する。そのため、連結手続上、相殺した債権に個別貸借対照表上、貸倒引当金を計上していた場合、当該貸倒引当金を修正する。 これにより、個別貸借対照表上と連結貸借対照表上の貸倒引当金の計上に差額が生じるため、一時差異に該当する。 なお、税務上損金算入されているかどうかで、以下のように会計処理が異なる。 (ⅰ) 税務上、損金算入されている場合 この場合、個別貸借対照表と税務上の貸倒引当金は一致している。そのため、連結手続における貸倒引当金の修正により、「個別貸借対照表(税務)上の貸倒引当金 > 連結貸借対照表上の貸倒引当金」となる。したがって、将来加算一時差異に該当し、原則、繰延税金負債を計上する。 (ⅱ) 税務上、損金算入されていない場合 この場合、「税務上の貸倒引当金 < 個別貸借対照表上の貸倒引当金」となる。そのため、個別貸借対照表上では、将来減算一時差異が生じる。ここで、連結手続における貸倒引当金の修正により、「税務上の貸倒引当金 = 連結貸借対照表上の貸倒引当金 < 個別貸借対照表上の貸倒引当金」となる。 これにより、連結上、将来減算一時差異がなくなるため、個別貸借対照表で繰延税金資産を計上していた場合、これを取り崩す必要がある。個別貸借対照表で、繰延税金資産を計上していない場合は、税効果について、特段の検討は不要である。 【債権債務の消去に伴い減額修正される貸倒引当金】 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債も、個別財務諸表と同様に一時差異に法定実効税率を乗じて算定する。 【STEP2】では、この法定実効税率を算定する。 未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で用いる法定実効税率は異なる。そのため、それぞれで法定実効税率を算定する。 (1) 未実現損益の消去以外の一時差異における法定実効税率 未実現損益の消去以外の一時差異における法定実効税率の計算方法は、個別財務諸表と同じため、第4回「個別財務諸表における税効果会計」を参照のこと。 また、連結財務諸表においても個別財務諸表と同様に、納税会社ごとに連結決算日又は子会社の決算日現在における税法規定に基づく法定実効税率を適用する。したがって、改正税法が当該決算日までに公布されて(施行ではない)おり、将来の税率改正が確定している場合は改正後の法定実効税率を適用する。 ただし、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合、連結決算日又は仮決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行っているときは、当該子会社で適用する法定実効税率は、連結決算日又は仮決算日現在における税法の規定に基づく法定実効税率とする(連結実務指針11)。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における法定実効税率 未実現損益の消去に係る一時差異に適用する法定実効税率は、計算方法は上記(1)と同様であるが、用いる法定実効税率の時点等が異なる。 未実現損益の消去に係る一時差異に適用する法定実効税率は、その取引の売却元に適用される法定実効税率が適用される。また、売却元での実際の課税関係は取引時に終了しているため、売却年度に適用された法定実効税率を用いる。 そのため、連結決算日又は仮決算日に改正税法が公布されていても、改正後の法定実効税率は用いない(連結実務指針13)。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 【STEP3】では、回収可能性考慮前・繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する。【STEP2】で未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で別々に法定実効税率を算定したため、それぞれの一時差異に別々の法定実効税率を用いて算定する。 (1) 回収可能性考慮前・繰延税金資産の算定 回収可能性考慮前・繰延税金資産を納税会社ごとに、以下のとおり算定する。 (2) 繰延税金負債の算定 繰延税金負債も納税会社ごとに、以下のとおり算定する。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 【STEP3】で算定した繰延税金資産は、回収可能性がない限り連結貸借対照表にできない。また、繰延税金負債も例外的な場合に支払可能性の検討が必要な場合がある。ただし、未実現損益の消去に係る一時差異については、その検討方法が異なる。 そこで、【STEP4】では、納税会社ごとに未実現利益に係る一時差異とそれ以外の一時差異に分けて回収可能性を検討する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 未実現利益の消去以外の一時差異の繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産について、その全額を連結貸借対照表に計上できるわけではなく、将来の課税所得(税金)を減少させる部分しか連結貸借対照表に計上できない。 そこで【STEP4】では、連結貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定するために、納税会社ごとに未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産と個別財務諸表上の繰延税金資産を合算し、「繰延税金資産の回収可能性」を検討する(連結実務指針41)。 具体的には、以下の①~③の検討が必要である(詳細は第4回「個別財務諸表における税効果会計」参照)。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異の繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 ① 未実現利益の消去に係る税効果 連結手続上、消去された未実現利益に係る税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元で発生した税金額をそのまま繰延税金資産として計上する。この場合、繰延税金資産の回収可能性を検討する必要はない。 その後、未実現利益の実現(減価償却費の計上、売却等)に対応させて取り崩す(連結実務指針13)。 土地、建物等のように、未実現利益の実現が長期間にわたることになっても繰延税金資産を計上する。 ただし、無制限に繰延税金資産を計上できるわけではない。未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額は、売却元の売却年度における課税所得額が限度となる(連結実務指針15)。 ② 未実現損失の消去に係る税効果 未実現損失の消去に係る税効果は、売却元で課税所得の計算上、未実現損失が損金処理されたことによる税金軽減額を繰延税金負債として計上する。その後、未実現損失の実現(減価償却費の計上、売却等)に対応させて取り崩す(連結実務指針14)。 なお、未実現損失に係る繰延税金負債の計上にも限度額がある。未実現損失の消去に係る将来加算一時差異の額は、売却元の当該未実現損失に係る損金を計上する前の課税所得額が限度となる(連結実務指針15)。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 【STEP5】では、税効果会計の会計処理について検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債(その他有価証券評価差額金等の純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果を除く)の計上 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係るものを除く)の増減額を「法人税等調整額」を相手勘定科目として計上する(個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針2)。 繰延税金資産及び繰延税金負債(その他有価証券評価差額金に係るものを除く)の会計処理の例は以下のとおりである。 【会計処理】 (*1) 当期末の繰延税金資産-前期末の繰延税金資産 (*2) 当期末の繰延税金負債-前期末の繰延税金負債 (2) 直接純資産の部に計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果- その他有価証券評価差額金の場合 その他有価証券評価差額に係る税効果会計の会計処理(時価>取得価額の場合)は以下のとおりである。 【会計処理】 (※) (時価-取得価額)× 法定実効税率 (3) 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺 同一納税主体ごとに流動資産の繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債を相殺して表示する。また、同一納税主体ごとに投資その他の資産の繰延税金資産と固定負債の繰延税金負債も相殺して表示する(連結実務指針42)。 したがって、親会社と子会社、子会社間で繰延税金資産と繰延税金負債を相殺することはできない。 また、税効果会計においては、以下の注記が必要である(連結財務諸表等規則15条の15)。 なお、連結計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 (了)
減損会計を学ぶ 【第9回】 「共用資産の減損の兆候・のれんの減損の兆候」 公認会計士 阿部 光成 「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)、「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損適用指針」という)では、共用資産及びのれんも減損会計の対象となっている。 今回は、共用資産及びのれんについて、減損の兆候を識別する際の留意点を解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 共用資産の減損の兆候 1 共用資産 減損会計基準では、複数の資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産のうち、のれん以外のものを共用資産と定義している(減損会計基準注解(注1)5)。 共用資産は、通常、単独でキャッシュ・イン・フローを生じさせることはないが、他の資産または資産グループの将来キャッシュ・フローの生成に寄与する資産である。 共用資産には、次のようなものがある(監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)34ページ)。 2 共用資産のグルーピング 共用資産のグルーピングには、次の2つの方法がある。 減損会計基準では、上記①の方法を原則としている(減損会計意見書四、2(7))。 イメージで表すと次のようになる。 【図表1】 より大きな単位でグルーピングを行う方法 上記②の「共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法」では、各資産又は資産グループに、共用資産の帳簿価額を合理的な基準で配分することになる。 イメージで表すと次のようになる。 【図表2】 共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法 (出所:図表1及び図表2については、監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)36ページ(一部、筆者が修正)) 3 共用資産に関する減損の兆候 共用資産に関して、より大きな単位でグルーピングを行う場合には、減損の兆候の把握、減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定は、まず、共用資産を含まない資産又は資産グループごとに行い、その後、共用資産を含む、より大きな単位で行うことになる(減損会計意見書四、2(7)③)。 減損会計基準は、以下のいずれかに該当する場合には、共用資産に減損の兆候があることとなり、共用資産を含む、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行うと規定している(減損会計基準注解(注7)、減損適用指針16項、92 項)。 共用資産は、単独の資産である場合のほか、複数の資産である場合もある。 複数の資産の場合、共用資産全体について減損適用指針13項又は15項における事象がある場合のほか、共用資産全体の帳簿価額のうち、その帳簿価額が大きな割合を占める資産について、減損適用指針13項又は15項における事象がある場合には、減損の兆候に含まれる。 共用資産の帳簿価額を各資産又は資産グループに配分する方法を採用した場合には、共用資産に減損の兆候があるかどうかにかかわらず、その帳簿価額を各資産又は資産グループに配分することとなり(減損会計意見書四、2.(7)②ただし書)、当該配分された各資産又は資産グループに減損適用指針12項から15項における事象がある場合、減損の兆候があることとなる(減損適用指針16項)。 福利厚生施設について減損損失を計上した事例としては、次のものがある。 東京瓦斯(株)(平成25年3月31日) Ⅱ のれんの減損の兆候 1 のれんのグルーピング のれんのグルーピングには、次の2つの方法がある(減損会計意見書四、2.(8)②)。 のれんは、それ自体では独立したキャッシュ・フローを生まないことから、上記①の方法が原則とされている(減損会計意見書四、2.(8)②)。 2 減損の兆候 のれんを含む、より大きな単位について、減損適用指針12項から15項における事象がある場合は、のれんに減損の兆候があることとなり、より大きな単位で減損損失を認識するかどうかの判定を行う(減損会計基準注解(注7)、減損適用指針17項、95項)。 のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法を採用した場合には、のれんに減損の兆候があるかどうかにかかわらず、その帳簿価額を各資産グループに配分することとなり(減損会計意見書四、2.(8)②ただし書)、当該配分された各資産グループに減損適用指針12項から15項における事象がある場合、減損の兆候があることとなる。 のれんについて減損損失を計上した事例としては、次のものがある。 アサヒグループホールディングス(株)(平成24年12月31日) (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第7回:2014年5月改訂】 退職給付会計④ 「確定拠出制度(中小企業退職金共済制度)」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 〈事例による解説〉 確定拠出年金に要拠出額500を掛金として拠出しています。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 確定給付型の場合、将来の金利の変動や年金資産の運用リスク等を会社が負担します。そのため、会社が拠出した掛金以外でも将来、負担が増加する可能性があります。その負担の増加を認識するために連結財務諸表上、「退職給付に係る負債」(個別財務諸表上、「退職給付引当金」)を計上する必要があります。 他方、確定拠出型は、会社が制度に対して拠出した掛金が従業員の個人ごとに明確に区分され、従業員個人が自己責任により運用指示を行い、掛金と運用成績により、将来の退職給付の額が決まる制度です。 そのため、確定拠出型の場合、将来の金利の変動や年金資産の運用リスク等は会社が負担せず、従業員が負担することになります。つまり、会社の負担は掛金の拠出額のみとなります。 したがって、会計処理は、当期に負担する要拠出額を費用処理するのみとなります(退職給付に関する会計基準第31項)。なお、要拠出額のうち、当期において未払いがある場合には、その分を未払金として計上することになります。 また、従業員に退職金等を支払っても、会社が負担する費用は掛金のみであるため、会計処理は不要です。 なお、確定拠出年金と似たような制度として、「中小企業退職金共済制度」というものがあります。これも会社は掛金のみを拠出するだけで、追加で拠出が求められるわけではありませんので、確定拠出年金と同様に、要拠出額を費用処理するのみとなります。 (了)