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相続税の実務問答 【第71回】「相続人に被相続人の死亡を知らせなかった場合の相続税の課税」

相続税の実務問答 【第71回】 「相続人に被相続人の死亡を知らせなかった場合の相続税の課税」   税理士 梶野 研二   [答] 相続人であるあなた方姉妹は、お父様の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に、お父様が死亡したことによる相続税の申告書を提出しなければなりません。あなた方姉妹は、お父様の亡くなられた日に、その死を知ったと思われますので、その日の翌日から10ヶ月以内の日、つまり今年の6月2日までに申告書を提出する必要があります。 しかし、お母様につきましては、お母様が未だにお父様の死を知らないとすれば、現時点では、お母様の申告書の提出期限は定まっていないこととなります。今後、お母様がお父様の死を知った場合には、その日の翌日から起算して10ヶ月以内に相続税の申告をする必要があります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の申告書の提出期限 相続や遺贈により財産を取得した者は、被相続人から相続や遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(相続や遺贈により取得した財産の価額から、債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その相続人又は受遺者について相続税額が算出されることとなるときは、その者が被相続人の相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければならないこととされています(相法27①)。 相続税の申告書の提出期限の起算日は「相続の開始があったことを知った日」の翌日ですが、「相続の開始があったことを知った日」とは、相続人や受遺者が、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解されています。相続が開始した被相続人に相続人や受遺者が2名以上いる場合には、各相続人や受遺者ごとに「相続の開始があったことを知った日」が異なることもありますが、その場合には、相続人や受遺者ごとに相続税の申告書の提出期限が異なることとなります。 (注) 相続税の申告書は、相続人や受遺者全員が共同で提出するケースが多く、その場合、相続の開始があったことを知った日が相続人及び受遺者間で異なるときには、被相続人が亡くなったことを最も早く知った相続人又は受遺者、すなわち最も早く申告書の提出期限を迎える者の申告期限に間に合うように、相続税の申告書を提出することとなると思います。しかしながら、相続人又は受遺者のうちに被相続人(遺贈者)の死亡を知らない者がいる場合、その者についてはそもそも相続税の申告書を提出することは不可能ですので、その者が共同申告をする相続人等に加わることはありません。   2 相続税の申告書の提出期限前における相続税の課税 被相続人から相続や遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その相続人又は受遺者について相続税額が算出されることとなるときは、税務署長は、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月が経過していれば、相続税の申告書の提出期限前においてもその者の相続税の課税価格又は相続税額の決定をすることができるとされています(相法35②一)。 税務署長としては、死亡の日を知ることはできても、相続人等が相続開始を知ったかどうかを知ることはできず、また、仮に相続人等が相続開始を知らないまま時が流れるとするならば、いつまでも相続税の課税ができないという不都合な状態が続くこととなってしまうことから、租税の確保を確実なものとするために設けられた規定であると考えられます。 なお、相続税の申告書の提出期限前に税務署長が決定を行った場合には、その決定によりその者の申告書の提出義務は消滅します。また、この決定処分により無申告加算税や延滞税が生じることもありません(武田昌輔監修「DHCコンメンタール相続税法」(第一法規、加除式)2813頁)。   3 ご質問の場合 あなた方はお父様がお亡くなりになられた昨年8月2日にそのことを知ったということですので、相続税の申告期限は、その翌日から10ヶ月後の令和4年6月2日になります。しかしながら、お母様が未だにお父様の死を知らないということであれば、お母様については、現時点では、相続税の申告期限は定まっていない状態であり、しばらくは、お母様の相続税の申告はできない状態が継続することになると思われます。 共同相続人の一部の者について相続税の申告がないとすると、税務署長は、相続税法第35条第2項第1号の規定に基づき、税務調査を経て、相続税の決定処分を行うことができますので、お母様がお父様の死を知らないとしても、相続税の決定処分がなされる可能性があります。 また、お母様がお父様の死を知らないとの事実は、お母様及びあなた方ご家族の申立て以外の客観的な証明が困難であるとすると、税務署長が無申告加算税賦課決定処分を伴う通常の決定処分を行うおそれもあります。 あなた方のお母様に対する気遣いも理解できますが、お母様が薄々はお父様がお亡くなりになったことに感づいているとすれば、頃合いを見てお母様にお父様が亡くなられたという事実を告げ、あなた方と共に相続税の申告をするように相談されてはいかがでしょうか。 (了)

#No. 470(掲載号)
#梶野 研二
2022/05/19

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第37回】「新たに貸付事業の用に供された宅地等の判定(貸付事業用宅地等の判定)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第37回】 「新たに貸付事業の用に供された宅地等の判定 (貸付事業用宅地等の判定)」   税理士 柴田 健次   [Q] 平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く)」が除かれることになりましたが、次に掲げるA宅地からF宅地のうち、3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するものを教えてください。 [A] A宅地及びE宅地が「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。なお、被相続人が相続開始の日まで3年を超えて引き続き租税特別措置法施行令40条の2第19項で定める貸付事業(以下「特定貸付事業」という)を行っていた場合には、A宅地及びE宅地も貸付事業用宅地等の対象となる宅地等から除かれないことになります。 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の基本的な考え方は、本連載【第9回】の「新たに事業の用に供された宅地等の判定」と同様になります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 平成30年度税制改正により除外される貸付事業用宅地等 平成30年度税制改正により、相続開始直前に賃貸用不動産の購入などをして金融資産を不動産に変換し、小規模宅地等の特例を適用する節税手法を防止するため、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされました。 ただし、相続開始前3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③四、措令40の2⑲)。 特定貸付事業とは、貸付事業のうち、準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)以外のものをいいます(措令40の2①⑲)が、特定貸付事業の判定については、次回(【第38回】)解説します。 上記の取扱いは、原則として平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に係る相続税について適用されますが、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地等については、平成30年4月1日以後に新たに貸付事業の用に供されたものについて適用する経過措置が設けられています(附則118④、措通69の4-24の8)。 したがって、平成30年4月1日以後に新たに貸付事業の用に供された宅地等から適用され、同日前に新たに貸付事業の用に供された宅地等については適用されませんので、改正前の要件のみ確認することになります。   2 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の範囲 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは、次に掲げる宅地等が貸付事業の用に供された場合のその宅地等をいうとされています(措通69の4-24の3)。 上記の判定の具体的な注意点については、それぞれ下記の通りとなります。 (1) 貸付事業の用以外の用に供されていた宅地等 貸付事業の用以外の用から貸付事業の用に供された場合には、当然に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。したがって、居住用宅地等又は貸付事業以外の事業用宅地等を貸付事業の用に供した場合には、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 なお、貸付事業用宅地等は、被相続人又は生計一親族の貸付事業の用に供されていた宅地等がその対象とされていますが、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するかどうかの判定は、被相続人又は生計一親族のそれぞれの利用状況により行うことになります。したがって、被相続人にとって「新たに貸付事業の用に供された宅地等」であるかどうか、生計一親族にとって「新たに貸付事業の用に供された宅地等」であるかが問題になります。 本問のA宅地のように被相続人の貸付事業を廃止した上で生計一親族の貸付事業の用に供した場合には、生計一親族にとっては「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。ただし、被相続人が相続開始前3年以内に開始した相続又はその相続に係る遺贈により貸付事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後その宅地等を引き続き貸付事業の用に供していた場合におけるその宅地等については、この「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないこととされています(措令40の2⑨⑳)。 したがって、B宅地は被相続人の父から相続により承継していますが、父の相続時点においては「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは考えず、父の貸付事業開始時点まで遡って3年の判定を行うことになります。 (2) 宅地等若しくはその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の宅地等 被相続人が所有する未利用の宅地を被相続人又は生計一親族が貸付事業の用に供した場合には、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。一方で次に掲げる場合のように、貸付事業に係る建物等が一時的に賃貸されていなかったと認められるときには、その建物等に係る宅地等は、上記の「何らの利用がされていない場合」の宅地等に該当しないことになりますので、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは考えません。 上記の取扱いにより「何らの利用がされていない場合」の宅地等に該当しないことになった場合の新たに貸付事業の用に供された時は、上記の退去前、建替え前又は休業前の賃貸に係る貸付事業の用に供された時となります。 本問のC宅地のように2年前に建替えが行われた場合には、一時的に賃貸されていなかったと考えられますので、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。これに対して、E宅地については、D宅地及びその建物の売却代金で貸付事業を行っていたとしても、貸付事業を行っている場所が異なるため被相続人にとって、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 なお、被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのためその建物等を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物等に代わるべき建物等の建築中に、又はその建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合については、租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合)の救済措置がありますが、その救済措置が移転又は建替えが対象になるのに対して、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の判定では、上記の通り、移転と建替えでは、取扱いが異なる点については注意する必要があります。 本問のF宅地のように2年前の台風被害については、一時的に賃貸されていなかったと考えられますので、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。なお、本問のF宅地が仮に相続税の申告期限において台風被害のために貸付事業を一時的に休業した場合には、租税特別措置法関係通達69の4―17(災害のため事業が休止された場合)の救済措置があります。   ★実務上のポイント★ 相続開始の直前において、被相続人又は生計一親族の貸付事業の用に供された宅地等がある場合には、その貸付事業が3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するかどうか、相続人等からヒアリングをすることが重要となります。   (了)

#No. 470(掲載号)
#柴田 健次
2022/05/19

マスクと管理会計~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第4回】「在庫の管理、このままでいい?」

マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第4回】 「在庫の管理、このままでいい?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔登場人物〕 ●  ●  ● 「消費者ニーズの多様化」というキーワードを頻繁に見聞きしますが、新型コロナウイルス感染症の流行はこの流れを加速させたようです。 ライフスタイルや行動、意識などが大きく変化した人もいれば、従前と大きな変化のない人もいます。また、デジタル化やオンライン化が進展する一方で、リアルな体験や直接のコミュニケーションの重要性が再認識されるような場面もあります。 消費者のニーズは、こうした様々な違いを反映して一層多様化しています。消費者ニーズの多様化に合わせ、企業の扱う商品のアイテム数も増加する傾向があります。 ●  ●  ● ●  ●  ● アイテム数が増えると、なかなか販売されずに滞留するアイテムが出てくることもあります。また、消費者ニーズが変化し、売れ筋商品から外れてしまうアイテムが生じることもあります。こうした状況では、在庫の滞留を防ぐ管理が重要です。 ●  ●  ● ●  ●  ● 以前から利用されてきた在庫管理の指標の1つに、「在庫回転期間」があります。 在庫回転期間が長いほど、在庫がなかなか販売されずに企業にとどまっていることを意味します。 アイテム数が多い状況では、在庫全体ではなくアイテムごとに在庫回転期間を把握し、早めに滞留を防ぐことが有効です。回転期間の単位に決まりはありませんが、日数や月数ベースにすると管理を担当する人がイメージしやすいようです。 また、滞留在庫に関する具体的なルールを設けて運用する方法も効果的です。「半年以上滞留しているアイテムは特売品として販売する」「3ヶ月以上注文がないアイテムは、今後は取り寄せ品扱いとする」などのルールがあれば、長期滞留を防ぎやすくなります。 ただし、補修のための在庫などは長期的に保有せざるを得ないので、アイテムの性質なども考慮するとよいですね。 ●  ●  ● ●  ●  ● アイテム数の多い在庫について、メリハリをつけて効率的に管理する方法として、「ABC分析」という方法が広く利用されています。ABC分析とは、データを重要度に基づいてA・B・Cの3グループに分類する方法です。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ●  ●  ● ●  ●  ● 上記の例では在庫金額を基準として重要度のグループ分けをしましたが、各アイテムの売上高や利益を基準としてグループ分けを行うことも考えられます。自社の状況に合わせて分析してみましょう。 ●  ●  ● ●  ●  ● 管理会計では、複数の案がある場合に各案の損益を比較して意思決定を行う方法が利用されています。部品を自製するか外注するかといった業務的意思決定は、その一例です(「ファーストステップ管理会計」【第12回】参照)。 意思決定会計の考え方は合理的ですが、損益面しか捕捉していないことが弱みとなる可能性があります。 ●  ●  ● ●  ●  ● 新型コロナウイルス感染症の流行によって、思いがけない様々な影響が多くの企業で生じました。その1つとして、部品や材料の入荷が大幅に遅延したり、それらが調達できなくなったりする事例が挙げられます。こうした事態が起こるリスクは、損益面のみを考える意思決定会計では取り込むことができません。 先行きが不透明な現状では、部品などの調達方針や保有方針を検討する際に、こうしたリスクも考慮する必要性が高まっています。意思決定会計で得られる情報に加えて、例えば、「部品が調達できなくなる可能性」と「その部品の自社における重要性」に着目してリスクに備える方針を取ることなどが想定できます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ●  ●  ● (了)

#No. 470(掲載号)
#石王丸 香菜子
2022/05/19

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第125回】株式会社ジー・スリーホールディングス「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2022年1月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第125回】 株式会社ジー・スリーホールディングス 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2022年1月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社ジー・スリーホールディングス特別調査委員会の概要】   【株式会社ジー・スリーホールディングスの概要】 株式会社ジー・スリーホールディングス(以下「G3」と略称する)は、2000年5月に設立した株式会社コネクトテクノロジーズを母体として、2011年3月に純粋持株会社として設立した株式会社コネクトホールディングスを、2016年1月に商号変更したものである。事業内容は、グループ経営管理、再生可能エネルギー事業、新規エネルギー事業及びサスティナブル事業。売上高は3,309百万円、経常利益168百万円、資本金1,062百万円、従業員数20名(いずれも2021年8月期連結実績)。本社所在地は東京都品川区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は赤坂有限責人監査法人。   【調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 G3は、外部機関から、過去に関東財務局長に提出した有価証券報告書及び四半期報告書に関し、一部適正性に疑義がある旨の指摘を受けたことから、2017年8月期以降の取引の売上計上時期の適正性等について検討したところ、2017年8月期に計上した未稼働太陽光発電所(伊勢志摩案件)の権利売却による売上2億8,000万円について、2019年8月期に計上することが適切であった疑いが浮上するなど、会計処理が適切だったとはいい難い取引が複数存在することがうかがわれた。 そこで、G3は、外部機関から指摘を受けた案件等に係る事実関係を調査するために、法律・会計の専門家で構成される特別調査委員会による専門的かつ客観的な調査が必要であると判断し、2021年11月10日開催の取締役会において、当委員会の設置を決議した。 2 調査対象となった案件 特別調査委員会が調査対象とした案件は、調査の契機となった伊勢志摩案件を含む4件の太陽光発電事業に係る権利関係の譲渡契約及び3件の持分譲渡契約に係る案件(これら7案件はいずれも太陽光発電事業に関するものである)に加えて、「つけまつげ案件/永九能源案件」と略称されているつけまつげの販売及び株式譲渡に係る業務委託契約である。 3 調査結果の概要 特別調査委員会は、調査対象となった8案件について、以下のような判断を示した(赤網掛け部分は、特別調査委員会が不適切な会計処理であると判断した案件)。 4 原因論(調査報告書67ページ以下) 特別調査委員会による原因分析は、次の4項目に分けて論じられている。 本稿では、とくに「太陽光発電事業の聖域化」と「コーポレート・ガバナンスの機能不全」に注目して、委員会の分析を検証したい。まず、「太陽光発電事業の聖域化」に関する原因分析についての項目は次のとおりである。 次いで、「コーポレート・ガバナンスの機能不全」に関する分析項目を挙げる。 これらの原因分析の中で、特別調査委員会が結語としているのが、G3経営陣が、現商号変更前の2015年10月26日に、当時の第三者委員会から受領した調査報告書の中で提言「機能不全に陥ったコーポレート・ガバナンスの回復」を受けて策定・導入されたはずの再発防止策を安易に緩和・変容し、あるいは重視しなくなった結果、コーポレート・ガバナンスが機能不全に陥ってしまい、不適切な会計処理の発生を許したという分析である。そして、特別調査委員会は、今回の不適切な会計処理が誰か特定の個人の行為のみによって生じたと即断することは実態にそぐわず、G3の複数の役職員が積極的あるいは消極的にそれぞれ関わり合ったために生じた問題であると捉えるべきであると締め括っている。 5 経営改善に向けた提言(調査報告書77ページ以下) 特別調査委員会は、提言を「コーポレート・ガバナンスの更なる改革」と「業務提携先との関係整備」との2つの側面から論じている。本稿では、特別調査委員会が「機能不全」と評した、「コーポレート・ガバナンス」に関する更なる改革の提言項目を見ておきたい。 監査等委員である取締役3名は、2名が公認会計士資格を、残る1名が弁護士資格を有していたが、いずれも非常勤であったこともあるのか、不適切な会計処理に気づくことはなかった。特別調査委員会は、「監査等委員会の実効性が失われていた」という原因論に基づく経営改善策として、「社外取締役には、経営、法務、会計などのスキルに基づく気づきを業務執行の適正化に活かすことのできる人材がふさわしい」ことから、「取締役会や監査等委員会において積極的に発言、意見交換ができる資質や、的確なリスク分析をしてそのリスクにあった施策を選択できる能力や資質を有する者を社外取締役として選任することが肝要である」と、提言を締め括っている。   【調査報告書の特徴】 本調査報告書の特徴を2つ挙げるとすれば、①長い調査期間(約2ヶ月半)、②前回調査時の第三者委員会委員長が再び特別調査委員会委員長に就任していることであろう。本調査報告書末尾にある「最後に」という文章には、2015年10月に受け容れられたはずの経営改善の提言に基づく再発防止策が骨抜きにされていたのみならず、前回調査時と同じ類型の不正を調査することになった、委員長の無念さがにじみ出ているように感じられるので、引用したい。 なお、「特別損失の計上及び通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」によれば、特別調査委員会による調査費用及び過年度決算の訂正に要する費用等として2022年8月期に特別損失に計上する金額は、概算額で500百万円であるとのことである。 1 会計監査人に対する虚偽説明 会計不正事案にもかかわらず、会計監査人に対するインタビューを行っていない調査委員会が目立つ中、G3特別調査委員会は、過去3代にわたるG3の会計監査人に対するインタビューを行っているようである。その中で、発覚したのが、特別調査委員会が、子会社に対する売上であり、連結内取引であると判断した「伊勢志摩案件」に関して、当時の会計監査人であった監査法人ハイビスカス(報告書上の表記は「X26」)に対し、誤った、又は虚偽の情報を提供して、2017年8月期第3四半期に売上を計上することに対する承認を得ていたという疑惑である。同監査法人の担当者によれば、当時、G3からは、G3がそれまで有していたX3社の持分を譲渡した相手先であるX22一般社団法人については、X13社が主導するために資金拠出して設立した一般社団法人であるとの情報が提供されていたということであった。 特別調査委員会は、調査の結果、X22一般社団法人の意思決定には登記上の職務執行者は関与しておらず、X3社の資金調達の大部分は、G3によって拠出されており、G3はX3社の財務及び営業又は事業の方針を決定していたことから、当時の会計監査人に提供した情報は誤ったものであり、X3社は、子会社に該当するという判断を示したものである。 2 取締役の退任・辞任 G3は、2022年4月14日、「監査等委員である取締役の辞任及び後任人事に関するお知らせ」をリリースして、2016年11月から監査等委員である取締役に就任していた松山昌司氏及び本間周平氏が、2022年5月20日開催予定の臨時株主総会終結の時をもって退任すること及び後任人事を公表した。 また、2022年4月19日には、「取締役の辞任に関するお知らせ」をリリースして、取締役松本隆氏が、一身上の都合により、同年4月30日付で取締役を辞任することを公表した。 3 会計監査人の異動 G3は、2022年2月18日、「会計監査人の異動及び金融商品取引法監査の監査証明を行う公認会計士等の選任に関するお知らせ」をリリースして、会計監査人である赤坂有限責任監査法人から退任の申出があり、監査法人アリアを公認会計士等として選任したことを公表した。 G3は、その後、2022年4月12日には、「一時会計監査人の選任に関するお知らせ」をリリースして、赤坂有限責任監査法人の会計監査業務終了に伴い、監査法人アリアを一時会計監査人として選任したことを公表している。 なお、公表されている有価証券報告書で確認したところ、G3の過年度における会計監査人の推移は、次のとおりである。 4 G3による再発防止策 2022年3月16日、G3は、「再発防止策に関するお知らせ」を公表した。その内容は次のとおりであり、概ね、特別調査委員会の提言内容に沿った形でまとめられている。 なお、同リリースでは、「関係者の責任等について」という項目を設けて、G3は、「責任の所在の明確化も再発防止の一環をなすものと考え、不適切な会計処理に関与した役職員への責任追及や社内処分を行う方針」に基づき、「客観的な判断を行うべく、法的責任の有無の判定を外部法律事務所へ委任」していることも公表しているが、本稿執筆時点において、前代表取締役社長をはじめとする関与した役職員の責任追及に関するリリースは公表されていない。 5 東京証券取引所による特設注意銘柄指定 2022年3月31日、東京証券取引所は、「特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求について」というリリースを発出して、G3に対して、①2022年4月1日(金)付での特設注意市場銘柄指定、②上場契約違約金2,880万円の徴求を公表した。 日本取引所自主規制法人の審査結果に基づき、東京証券取引所が認定した「上場規則に違反して虚偽と認められる開示」が行われた背景を引用しておきたい。 6 証券取引等監視委員会による課徴金納付命令勧告 2022年4月26日、証券取引等監視委員会は、「株式会社ジー・スリーホールディングスにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」をリリースして、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、課徴金4,605万円の納付命令を発出するよう勧告を行ったことを公表した。 証券取引等監視委員会が認定した「法令違反の事実関係」は次のとおりである。 (了)

#No. 470(掲載号)
#米澤 勝
2022/05/19

給与計算の質問箱 【第29回】「65歳以上の従業員の給与計算における注意点」

給与計算の質問箱 【第29回】 「65歳以上の従業員の給与計算における注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社ではAさん(67歳)とBさん(71歳)の2名を正社員として雇用する予定です。高齢者(65歳以上の従業員)の給与計算における注意点があればご教示ください。 A 社会保険料が一部徴収不要になる。また、在職老齢年金制度により年金が支給停止される場合がある。 * * 解 説 * * 1 社会保険料の徴収 (1) 労災保険 労災保険には、年齢制限はない。そもそも会社が全額負担し従業員の負担はないことから給与計算には関係しない。 (2) 雇用保険 雇用保険には、年齢制限はない。Aさん、Bさんの給料から雇用保険料を天引きする。 (3) 健康保険 会社で加入する健康保険は75歳になるまでとされている。75歳以上は後期高齢者医療制度に移行する。Aさん、Bさんともに75歳未満なので給料から健康保険料を天引きする。 (4) 介護保険 会社で加入する介護保険は40歳以上65歳未満となる(第2号被保険者)。65歳以上は原則年金からの天引きとなる(第1号被保険者)。Aさん、Bさんともに65歳以上なので給料から介護保険料を天引きしない。 (5) 厚生年金 会社で加入する厚生年金は原則として70歳になるまでとされている。例外として老齢年金の受給資格が無い場合には任意で引き続き加入することができる。Aさんは70歳未満なので給料から厚生年金保険料を天引きする。Bさんは70歳以上なので給料から厚生年金保険料を天引きしない。   2 在職老齢年金制度による年金の支給停止 基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円を超える場合には年金の全部又は一部が支給停止になる。 上記を踏まえ、具体例を用いて計算すると下記の通りとなる。 【具体例】 (了)

#No. 470(掲載号)
#上前 剛
2022/05/19

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第29回】「間口が2mに満たない土地の価格はどのように求めるか」~無道路地との相違とは~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第29回】 「間口が2mに満たない土地の価格はどのように求めるか」 ~無道路地との相違とは~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 【第27回】では、都市計画区域及び準都市計画区域内の建築物の敷地は、建築基準法上の道路(ただし、自動車専用道路を除きます)に2m以上接していなければならないことを述べました(建築基準法における道路の定義は【第28回】に掲げたとおりです)。 しかし、なかには間口が著しく狭く、道路に接する幅が2mに満たない土地も散見されます。今回は、このような土地(=接道義務を満たさない土地)を不動産鑑定士はどのように評価しているのか解説していきます。 2 無道路地との相違 現実に存在する土地のなかには、建築基準法上の道路に全く接していないか、接していても間口が2m未満で建築可能な要件を満たしていないものがあります。前者はいわゆる無道路地であり、後者は無道路地ではないものの、土地の効用が無道路地にやや近いものと考えられます。 後者のような接道義務を満たさない宅地も建築物の建築ができないことから、このままでは資材置場や駐車場としての利用以外に活用の途はありません。 しかし、このような土地も道路に接していることは事実であり、全くの無道路地と比較すれば間口を2mに拡幅できる可能性が少しは残されているといえます。ただし、これは一般論であり、対象地や隣接地の利用状況は個々のケースで異なるため、いつでも思うように拡幅ができるというわけではありません。例えば、隣接地に建物が目一杯建築されていれば、隣接者は所有地の一部を譲ってくれない可能性が高いといえます。 このような事情を鑑みれば、相対的な比較ではありますが、接道義務を満たさない土地の価値は接道義務を満たす土地に比べて低い(減価が大きい)ものの、無道路地に比べれば高い(減価は少ない)といえます。 3 接道義務を満たさない土地の評価 接道義務を満たさない土地の評価方法については不動産鑑定評価基準に特段の定めはなく、固定資産評価基準においても然りです。なお、財産評価基本通達では接道義務を満たさない土地を無道路地と同様に扱っています。 鑑定実務では、下図のように道路に2m接すると想定した場合の路地状敷地の価格を最初に求め、この価格から接道義務を満たすために要する拡幅対象面積に相当する買収費用や工事費用を控除して求める方法を適用するのが一般的です。 【接道義務を満たさない土地】   4 理論と現実のギャップ 鑑定評価の考え方は上記のとおりですが、実際に土地買収に係る費用を検討する場合、対象地と同じ道路に面していて条件の似かよっている土地の価格をそのまま適用すれば足りるとは限りません。なぜなら、本件のような土地買収の場合、市場に供給されている売り物件とは異なり、隣接地の所有者がいつでも売却に応じてくれるかどうか予測が困難だからです。 また、隣接者が仮に売却に応じてくれたとしても、その結果が隣接者にとって残地利用に支障を来たすこととなる場合には、通常の相場ではなく、残地補償込みの価格でなければ売買が成立しないことも考えられます(隣接地所有者は土地の一部を売却することにより、使い勝手の悪い土地になってしまうこともあり得るからです)。 さらに、隣接地の所有者にとっては、もともと売却物件でない土地の一部を、接道義務を満たさない土地所有者の都合により、予期せず売却の検討をせざるを得ない状況となります。そのため、(仮に前向きな方向で交渉が進む場合であっても)買収までに要する期間も考慮に入れる必要があります。 それだけでなく、接道義務を満たさない土地の場合、同じような条件下にある土地の取引事例がきわめて少ないことから、鑑定実務で不可欠ともされる取引事例比較法の適用が実際には困難であることも事実です(仮に、このような事例が収集可能であったとしても、取引価格の中には特殊事情が含まれており規範性に欠ける場合が多いと思われます)。 このように、接道義務を満たさない土地の評価は鑑定実務においても難易度の高い部類に入るものです。   5 参考 ~財産評価基本通達では~ 財産評価基本通達では、無道路地も接道義務を満たしていない宅地も評価上の差異を設けず以下のとおり同じ考え方で行うこととしています(下線は筆者によります)。ただし、全くの無道路地と本稿で取り上げている接道義務を満たしていない宅地とは異なる部分があることから、このような措置はあくまでも申告者の評価の簡便性に配慮したものと受け止めるべきだと思われます。 (了)

#No. 470(掲載号)
#黒沢 泰
2022/05/19

〈エピソードでわかる〉M&A最前線 【第1回】「中堅・中小企業M&Aと地方創生」

〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第1回】 「中堅・中小企業M&Aと地方創生」   株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 営業本部 副本部長 提携統括事業部 事業部長 鈴木 康之   ◆◇◆はじめに◆◇◆ 日本の中堅・中小企業は今、大変な時代に直面しています。 人口減少、少子高齢化によって、国内市場は縮小し、働き手は減少。企業を牽引する経営者の平均年齢は60.3歳となり、日本経済を支える多くの中堅・中小企業が後継者不在問題に悩んでいるという状況です。 中小企業庁の発表によると、約380万社の中堅・中小企業のうち、70歳以上の経営者が245万人で、2025年までの10年間でその半分の127万社が後継者不在によって廃業する可能性があるといわれています。127万社のうちの半分が黒字企業なので、推計60万社が黒字にもかかわらず廃業の危機にあるということです。 廃業、特に黒字廃業は、日本の経済にとって大きな損失となります。廃業によって、従業員の雇用は喪失し失業者が増えます。連綿と受け継がれてきた日本が誇る素晴らしい技術や独特で愛すべき文化が消滅してしまいます。結果、地域の活気が徐々に失われ、日本にとって取り戻すことのできない大きな損失となります。 廃業のピンチを救い、経営者から後継者不在という悩みを払拭する方法の1つがM&Aによる事業承継です。M&Aは、後継者不在問題を解決に導くだけでなく、マッチングの相手さえ間違えなければ、新しい経営体制のもとで事業の成長を加速させることもできます。売り手企業も買い手企業も成長し、業績アップで給料も増え、従業員も幸福にできます。さらに、売り手企業のオーナーは、後継者問題の悩みから解放され憂いを残すことなく経営をゆだねられることで、老後の生活も保障され安泰となります。M&Aによって後継者不在企業を救うことは、個人、企業、地域、国、どのレベルから見ても明るい未来を期待できるのです。 本連載では、今後の日本経済の発展の一端を担うM&Aについて、現場で経営者と対峙してきたコンサルタントや公認会計士が、様々な業種、業界の事例とともにM&A実務上のポイントを含めて紹介していきます。 【第1回】となる今回は、中堅・中小企業のM&Aの現状と地方創生についてお伝えします。   1 経営者にとって必須のM&Aリテラシー 筆者が所属する日本M&Aセンターは創業して31年になりますが、この約30年間で経営者のM&Aに対する認識は大きく変わりました。最近では、M&Aによる事業承継を行った経営者が、経営者仲間から称賛されるという話もよく聞くようになりました。多くの経営者が後継者不在や企業の行く末に悩み解決の糸口を探しているからこそ、M&Aによる事業承継という大きな決断をした経営者に対して、称賛の声をかけるのでしょう。 日本M&Aセンターが支援するM&Aの売り手企業は年間約1,000件でその約9割が売上20億円以下、約半分が従業員20名以下の中堅・中小企業です。大企業のM&Aばかりがマスコミに紹介されるため目立ちにくいですが、この30年間で国内の中堅・中小企業のM&Aはすっかり根付いてきたと思います。 M&Aは、正しく理解して使うことができれば、日本企業の大多数を占める中堅・中小企業の大きな味方となります。経営者がM&Aに対するリテラシーを高め、経営環境が激しく変化する時代を勝ち抜いていく。この時代を生き抜く経営者にとって、なくてはならない力となってきています。   2 拡大する中堅・中小企業のM&Aニーズ レコフM&AデータベースのM&A件数推移によると、2021年に日本企業が関わったM&Aの件数は合計4,280件と過去最多となりました。ここ5年で破竹の勢いで増加しており、M&Aは日本企業に完全に定着したといっていいと言えます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (出所) レコフM&AデータベースのM&A件数推移を基に日本M&Aセンター作成 公表されていない中堅・中小企業などの非上場会社関連を含めると、実際の件数はさらに大きく増えます。前述のように、事業承継など差し迫った事情があり、中堅・中小企業によるM&A成約件数はうなぎ上りとなっています。潜在的な案件を含めると膨大な需要があると推定されます。 さらに、このコロナ禍による経営環境の変化に対応するため、M&Aによる事業承継を検討する中堅・中小企業の経営者が増加しています。 具体的には、 コロナ禍が経営者の事業承継への意識を変え、譲渡を希望する中堅・中小企業からのご相談が増えている状況です。 このように、M&Aが中堅・中小企業の経営者にとっても一般的になってきたこと、コロナ禍など経営環境の劇的な変化による先行き不安によって、M&Aニーズはここ数年で劇的に増加してきています。   3 動き出した政府の施策 中堅・中小企業のM&A熱が高まるのを背景に、政府による中小企業M&A支援・体制整備が急テンポで動き出しました。2020年に「中小M&Aガイドライン」、さらに2021年には「中小M&A推進計画」を策定したのです。前述の通り、60万社の中堅・中小企業が後継者不在により黒字廃業の危機にあるという現状が国の背中を押しています。中堅・中小企業の体質強化は、国家戦略の要です。M&Aで後継者難を解決に導き、同時に生産性を一気に引き上げて、海外企業との競争に負けない力を付けようとしているのです。 「中小M&A推進計画」では、M&A支援機関の質の担保にも触れ、M&A支援機関の登録制度が創設されました。登録を受けた機関を中堅・中小企業が利用する場合、各種の補助金を活用できます。また、2021年10月には、M&A仲介大手5社が中心となり、M&A仲介等に関わる自主規制団体を設立し、M&A支援機関の教育やレベルアップ、苦情の受付、「中小M&Aガイドライン」の徹底などを進め、中小企業が安心して支援を受けられる環境整備に努めています。 このように、中堅・中小企業の強化育成という大きな命題を達成するために、官と民がタッグを組み、M&A支援が進んでいます。このような取組みを通じて、全国の経営者にM&Aが後継者不在問題の解決方法や成長戦略の1つであることを周知しています。   4 中堅・中小企業のM&Aは会計・税務・法律の専門家による支援が不可欠 前述してきた通り、M&Aが中堅・中小企業にとって一般的になってきています。とはいえ、まだまだ馴染みのあるものではありません。M&Aについて知りたいと思った時にどこへ声を掛けたらいいか、迷う経営者も多いのが現実です。 普段から経営者に寄り添い、相談に乗られている税理士や公認会計士など専門家の方々から、M&Aが後継者不在や成長戦略などの悩みを解決する一手であることをお伝えいただくことが重要であると考えています。 M&Aの手続きの中には、法律、会計、税金、融資などの実務的な専門知識が必要となる場面が多々あります。それらは、公認会計士、税理士など専門家の力が不可欠なのです。 今の日本にとって最も重要なテーマの1つが「地方創生」です。日本M&Aセンターは、地域の企業に密着した会計事務所などと中堅・中小企業のM&Aを数多く支援させていただいています。今後も、公認会計士、税理士などの専門家の皆様と一緒に、中堅・中小企業の事業承継問題を解決すると同時に、地域経済の活性化を推進し「地方創生」を実現していきたいと考えています。 (了)

#No. 470(掲載号)
#株式会社日本M&Aセンター
2022/05/19

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が公布される~施行は公布日(2022.5.18)より1年以内、経過措置には注意を~

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が公布される ~施行は公布日(2022.5.18)より1年以内、経過措置には注意を~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和4年5月18日、「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(法律第41号)が公布された。 これは、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入などの措置を講ずるものである。 今回の改正にあたっては、令和4年1月4日に金融庁より公表された「金融審議会公認会計士制度部会報告」がベースになっていると思われる。 2022年5月11日、日本公認会計士協会の会長声明「公認会計士法の改正について」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 公認会計士法の一部改正 次の改正を行う。 2 金融商品取引法の一部改正 上場会社等は、その財務計算に関する書類及び内部統制報告書について、上場会社等監査人名簿に登録を受けた公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないこととする。   Ⅲ 施行期日 この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとする(経過措置に注意する)。 (了)

#No. 469(掲載号)
#阿部 光成
2022/05/18

プロフェッションジャーナル No.469が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年5月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.469を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/05/12

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第107回】「節税商品取引を巡る法律問題(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第107回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 税理士に節税義務なるものが当然に一般的に課されているのかという素朴な疑問を出発点として、これまでいくつかの事例を基に税理士の責任を論じてきた。結論めいたことを述べるのは早計であると思われるが、税理士法1条《税理士の使命》のみから直接に節税義務なるものを導出することは難しいといわざるを得ず、個々の事案ごとで異なる、納税者と税理士との契約内容等に踏み込んで、個別に判断すべきものであるという点を指摘できよう。 もっとも、税理士の責任論を議論するのみでは、必ずしも十分とはいえない。例えば、前回取り上げた変額保険を巡っては、特に変額保険の契約者である納税者(以下「投資者」ともいう。)が想定していた節税効果を得られずに損失を被ることとなったわけであるが、そもそも、節税商品取引を巡る法律問題を整理する必要性が再確認されるべきであろう。一見すると迂遠なようにもみえるかもしれないが、そのような整理の上で、税理士の役割を考えるというアプローチも必要なのではないかと考えるのである。 そこで、今回からは、節税商品取引を巡る法律問題について焦点を当ててみたい。まずは、節税商品取引における「投資者保護」の必要性について考えてみよう。   Ⅰ 節税商品取引における「投資者保護」の必要性 以下においては、次の2点の観点から、投資者保護の必要性を明確にすることとしたい。 これら投資者保護の必要性については、第一に深刻な投資者の被害救済への対応措置としての十分な情報の提供という側面と、第二に社会基盤整備としての側面から検討すべきであると考える。 1 一般的金融商品取引と投資者保護 節税商品取引における投資者保護の検討を行う前提として、一般的な金融商品取引(以下「一般的金融商品取引」という。)において、投資者保護がいかなる意味において要請されるのかについて確認する必要があろう。 投資者保護の要請は、第一に、投資者損害の発生を視野に入れて、金融商品に対する十分な情報が提供されなければならないという局面と、第二に、取引が公正でなければならないという局面において検討する必要がある。 そもそも、投資取引における商品には、その内容を理解し投資効果を判断するのに日常的な知識だけでは不十分で、かなりの能力を要するものが多々あり、投資者損害の発生は情報の量や質の格差のみならず、情報処理能力の格差にもその原因がある。したがって、第一に、情報は投資者にとって単にアクセス可能であるにとどまらず、理解可能なものになっていなければならないという命題を導出し得る。 投資者にはリスクとリターンを適正に判断するための、商品に関する十分な情報が提供されていなければならず、そうでなければ、投資者はまったく予想外の損害を被ることとなるからである。 第二に、投資者が合理的判断に基づいて投資することができる環境をつくることが肝要である。 自己責任原則が否定されるべきでないことはいうまでもないが、しかし、責任とは、自由な判断が保障されている状況の基でなされた行為について負うべきものであり、自己責任に基づく民事ルールの確立のためには、投資判断に必要な情報が適時、適正に投資者に利用可能な状態になっていることが求められる。 この点、上村達男早稲田大学名誉教授は、「今日、最も重要なことは、投資者の自己責任原則を強調することではなく、投資者の自己責任原則の強調が許されるような公正な土俵(市場条件)の確立を求めることであろう」と主張される(上村「投資者保護概念の再検討-自己責任原則の成立根拠-」専法42号6頁(1985))。 そこで、投資者と販売者との公正な取引関係を前提として大衆投資市場を育成・発展させるためには、投資者という相対的弱者を保護する法体系が必要になるところ、投資者保護の規制態様は、理論的には2つに分けて考えることができる。すなわち、業者を規制することによって間接的に保護する方法と、直接的に投資者を保護する方法である。 特に、後者の方法は、契約の無効・取消し、損害賠償、クーリング・オフなど、私法レベルの救済手段を認めることによって投資者の直接的な権利を保障する方法であり、説明義務違反による損害賠償はこの類型に入る。 2 節税商品取引と投資者保護 節税商品取引における投資者保護の必要性についても、一般的金融商品取引におけるそれと近似した理由を挙げることができる。すなわち、第一に、投資者損害の救済への対応として節税商品に関する十分な情報提供の必要性と、第二に、社会基盤整備の観点からの要請である。 以下、この2点について、節税商品取引における投資者保護の必要性を検討することとしたい。 (1) 節税商品に関する十分な情報提供の必要性の観点 (a) 損害発生の状況 変額保険は、保険契約者が払い込んだ保険料のうち、一般勘定に繰り入れられる部分を除いた部分を特別勘定として独立に管理し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険である(前回参考)。 前回の事例で見たように、変額保険は、相続税対策として高額な保険料融資とセットで資産運用を図る節税型の利用が盛んに行われたものの、1990年以降の株価の低迷によって保険料積立金の運用実績が低下し、保険給付額が支払保険料を下回ったこと等の理由から、保険契約者が損害を被る事例が続出した。 その時点で、既に膨大な数の判決が出されていたが、顕在化していなかったケースが、融資期限到来や保険価値・担保不動産価値の劣化などで銀行から融資の返済を迫られるなどして、後に事件として顕在化するケースも多い。 このように、決して変額保険訴訟は過去の問題ではなく、現在においても進行中の問題であるともいえよう。 さて、変額保険に関する損害の特徴については、①損害を受けた者の数が多いこと、②高齢で投資経験のない者が多いこと、③損害額が多額であること、④損害が深刻であることなどが指摘されている。 長年にわたり社会問題となってきた変額保険の損害が節税商品取引から生じていることは看過すべきではない。今後も節税商品過誤訴訟が発生すると思われる今日、変額保険と同様の投資者損害を招来しないよう、節税商品取引に係る投資者保護を検討することは有益であると考える。 (b) 情報提供の必要性 変額保険に関する事件を概観すると、節税商品取引に係る投資者損害の実態が判然とする。社会問題となった変額保険事件は、節税効果というものの誘引性がそれだけ高いことを見せ付ける事件である。つまり、節税効果は十分に商売のネタになるものなのである。 節税商品への投資は、その行為が法に反しないものである限り自由に行い得るものであり、合理的な経済活動として問題視されるところはなかろう。 しかし、節税効果が十分に確認されていない商品が節税効果を謡い文句に販売されることの危険性はもっと強調されるべきであると考える。また、課税上の取扱いが明確とされていないような商品を「節税商品」として販売することは一層問題視されるべきではないかと感じざるを得ない。 節税商品取引においては、商品を手にとって確かめたり、五感を使って確認したりすることのできない将来的なキャッシュ・フローに還元される効果が商品内容であることから、投資者は販売者の提供する情報を元に判断せざるを得ない。 そこで、商品内容説明としての情報が明確でないような商品は、いわゆるいかがわしい「悪徳商品」である。いわば「悪徳商品対策」としての意味からも投資者保護の視点が失われることがあってはならないのではなかろうか。 (2) 社会基盤整備の観点 節税商品取引は、課税上の優遇措置を積極的に商品内部に取り込んで設計されたものである。そもそも、租税特別措置法に規定する非課税措置など、課税上の優遇措置の多くは、政策的な意味合いが強いものも多い。このような政策的優遇措置を置いているのは資金需要を喚起する必要のある産業育成のためなどであるから、本来的には、このような課税上の優遇措置を適正かつ積極的に活用して、当該産業に資金が還流されることが望ましい。 しかし、資金需要の喚起ができたとしても、それを利用して詐欺的な行為が横行してしまうのでは、所期の政策目的が別の社会問題を惹起することとなる。このような環境は当然望ましいものではなく、かような詐欺的行為は規制されるべきものである。 ところで、旧来的な業界規制は市場を歪め、競争力を阻害するという問題を提起しているところ、このような問題は、私法上の規律によって解決されるべきであると考えられる。 つまり、私法による社会基盤整備機能の重視という視点が重要性を帯びることとなる。 節税効果が確実でないものをさも確実なものであるかのように説明し、勧誘する販売者の責任は、民事上のルールで規律すべきであり、その規律は情報劣後者である投資者の保護に視座を置いたものである必要があろう。   小括 本稿において、一般的金融商品取引における投資者保護の要請に加え、更に節税商品取引における投資者保護の要請を強調する特有の意義を再確認した。そこでは、パターナリズムによる保護の視点からではなく、投資者の合理的判断に基づく投資が行われるような十分な情報の提供や社会基盤整備としての民事上のルールの重要性が強調され得るであろう。 (続く)

#No. 469(掲載号)
#酒井 克彦
2022/05/12
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