空き家をめぐる法律問題 【事例32】 「空き家をDIY型賃貸借契約に利用する場合の留意点」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、相続をした空き家を所有していますが、住環境や都市圏へのアクセスが比較的良いことから、自己負担で改修するので、安く賃借させてもらえないかとの問合せを受けました。当分、空き家を利用・処分をする予定もなかったので、前向きに検討しています。 賃借人に改修工事をさせて賃貸借契約を締結する上で、どのようなことに留意するべきでしょうか。 1 はじめに 全国的に空き家が増加している状況を受け、国土交通省を中心に、個人の所有する空き家を賃貸住宅として流通させる取組みが行われている。その取組みの中心になっているのが、DIY型賃貸借契約の利用である。 これまでもDIY型賃貸借契約は利用されてきたところであるが、近時は、リモートワークの普及に伴って地方都市への移住の機運も高まっており、その利用が注目されるところである。 そこで、今回は賃貸人がDIY型賃貸借契約を締結する際の留意点を検討することとしたい。 2 DIY型賃貸借契約の特徴 DIY(Do It Yourself)型賃貸借契約とは、法律上の定義はないが、一般的には、費用負担者の主体にかかわらず、借主の意向を反映して住宅の改修(設備や造作の取替え又は取付けを含む)を行うことができる賃貸借契約をいうものとされている。たとえば、賃借人が自らの費用負担で、外壁や壁紙等を変更し、その代わりに賃料を相場よりも低廉なものに設定するものから、サブリース事業者のような転貸人が介在して行われる比較的複雑なものまである。 一般的な賃貸借契約においては、賃借人が賃借物に附属させた物は、当該附属物が賃借人の所有に属する場合だけでなく、付合によって賃貸人の所有に属することになった場合であっても、賃借人は収去義務を負うことが前提となっている(民法第622条、同第599条第1項本文)。また、契約終了時点において、附属させた物に係る費用償還請求権や造作買取請求権が問題になることもある。 このことを踏まえ、DIY型賃貸借契約は、契約締結時点において、①契約期間中及び明渡時の附属物に関する所有権の帰属、②契約終了時の収去義務や原状回復義務の有無、③費用償還請求権や造作買取請求権の有無を詳細に合意しておくところに特徴がある。 3 定期賃貸借契約の利用の可否について 賃貸人は、DIY型賃貸借契約を締結するにあたって、定期建物賃貸借契約を利用するかを検討することもあるように思われる。空き家の所有者である賃貸人は、当該空き家を当分の間利用する必要性が低いことが想定されるが、将来の利用の可能性が見込まれるのであれば、定期建物賃貸借契約を選択し、必要に応じて期間終了前に再契約の合意を締結するべきである。 この時、賃貸人は、定期建物賃貸借契約に係る契約書とは別に、賃借人に対し、契約の更新がなく、期間満了によって賃貸借が終了する旨記載した書面を交付して説明しなければ、賃借人の認識にかかわらず、定期建物賃貸借契約としての効力を有さず、普通建物賃貸借契約となるため留意が必要である(最判平成24年9月13日民集66-9-3263)。 また、DIY型賃貸借契約を定期建物賃貸借にする場合、相当の資本を投下して居住等のために改修を行っていることから、賃貸期間は1年以上になることが多いと考えられる。この場合、賃貸人は、再契約の合意をせず契約を終了させるためには、期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に、賃借人に対して期間満了によって賃貸借が終了する旨の通知をする必要がある(借地借家法第38条第4項)。 このように、個人の賃貸人が定期建物賃貸借契約を利用する場合、契約期間の管理を適切に行う必要がある。賃貸人がこれを怠り、上記の通知期間経過後も賃借人に利用を継続させた場合、契約終了通知を送達することによって6ヶ月経過後に契約を終了させることはできるものの(同項)、期間満了時点からの経過時間や賃貸人の言動(賃料を継続して受領し続けていた等)等の事情によっては、再契約の合意が認められるおそれもある。 4 改修工事を念頭に置いた留意点 賃借人は、賃貸人の所有物である空き家に関して、賃貸人の承諾がなければ、改修工事を行うことはできないのが原則である。特に、建物の外観や躯体部分に影響のある改修工事については、慎重な考慮が必要である。賃貸人としては、賃借人から改修工事の内容について書面で提出させ、工事内容の是非を判断し、実際の工事に当たっては、必要に応じて立会いをし、是正を求めること等を合意しておくべきである。 また、賃貸人は、空き家が老朽化したものである場合、賃借人による改修工事に際して第三者に損害が生じた場合の対応も検討しておく必要もある。この点に関して、民法第717条に基づく工作物責任は、占有者が一次的に損害賠償責任を負わせているところ、ここでいう「占有者」は、当該被害者に対する関係で工作物から生ずる危険を管理、支配し、損害の発生を防止し得る地位にある者とされている。 賃貸人は、間接占有者であるため、そのことのみをもって同条の占有者には該当するとは考えにくいが、賃貸人が当該空き家から生じる危険を管理・支配し、損害の発生を防止する地位にある場合には、同条の占有者に該当する可能性があることになる。 賃貸人が民法第717条の占有者に該当するかの問題は、賃借人に十分な賠償能力がない場合に顕在化する。なぜなら、民法第717条は所有者が二次的に損害賠償責任を負う場合を、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときと規定しているにとどまり、賃借人が賠償能力のない場合を、所有者が損害賠償責任を負う場合に含めていないからである。このような場合に、第三者が、賃貸人に対して、改修工事の是正権や立会権を有していることを理由に、占有者として損害賠償請求を行う可能性がある。 もっとも、賃貸人は賃借人が行う改修工事を承諾したに留まることから、一般的には賃貸人が空き家から生ずる危険を管理支配していると認められる事案は限られるように思われる。賃貸人としては、賃借人との間で、①改修工事に際して第三者に損害が生じた場合に、賃借人の負担と責任で被害者に対応することや、②改修工事に関する付保書類を提出すること等を合意しておくべきである。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第5回】 「公共サービス×ブロックチェーン(後編)」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 今回は前回に引き続き、行政機関におけるブロックチェーンの活用事例を紹介しながら、概説を行うこととする。 1 身分証明・本人確認 世界には公式な法的身分証を持たない人が11億人以上もいると言われており、日本のように本人確認書類の取得がしやすい国・地域ばかりではない。紛争が続いている、政治不安がある国・地域では、住民に対して本人を確認する手段を提供できていない国・地域があり、本人確認書類がない場合には、医療や教育、金融サービスが容易には受けられない。 このような人々に法的身分証を提供する国連支援プロジェクト「ID2020」の一環として、ブロックチェーンを使用したデジタルIDネットワークを構築しようという動きがある。これを使えば、難民などの個人が、自分が誰であるかを証明することが可能になり、医療や教育、金融サービスなどの個人サービスを受けることが可能となる。当該ネットワークでは、ブロックチェーンを使い様々な組織にある既存の記録保管システムと接続し、利用者はこれらのシステムを通じて資格証明を取得できるようにするというものである。個人の機密情報の保存、転送、そして認証は、より安全な方法が必要であり、ブロックチェーンの活用が重要となる。 一方、日本においては、多くの国民が当たり前のように運転免許証や健康保険証、マイナンバーカードなど本人を確認するものを保有している。ブロックチェーンの活用により、本人証明取得のための印鑑文化や、各種契約時(携帯電話、銀行口座開設等)の際の本人確認のための書類提出等のプロセスを変更できる可能性がある。 2 医療データ・電子カルテ管理 医療業界では、データ管理が紙のカルテから電子カルテに発展するなどし、他の業界に比べてIT化が進んでいる。しかし、当該データは依然として病院、施設ごとに独自の管理システムで管理がされているため、患者の過去の情報がわからないまま診断が行われている。 今後、患者の医療情報を管理・共有することで、過去の病歴を把握した上で診断が実施でき、医療用画像や診断データの改ざんを防止し、予約や支払いも一元管理できるといったことがブロックチェーンで可能となる。 3 法的証拠・裁判記録 現代の裁判において、法廷に提出される物的証拠はWi-Fiのアクセスデータやプロバイダーのログ、また電子メールやコンピュータのハードドライブに保存されているデータ、スキャンした文書など、電子的な形態のものが圧倒的に多い。 主張を証明する証拠の提示は非常に重要であり、裁判でこれを適切に行うためには、全ての証拠がきちんと管理されていなければならない。主張の立証に必要となるあらゆる電子データをブロックチェーンに書き込むと、コピーや改ざんは実質的に困難になるので、証拠隠滅や紛失の恐れはなくなる。そのため、ブロックチェーン上の記録は証拠となり得るであろう。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第42話】 「所得金額調整控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・おかしいな・・・」 浅田調査官は、電卓を叩きながら、頸を傾ける。 机の上には、「令和2年分の所得税の確定申告書B」がある。 「もしかして・・・コンピュータが間違っているのかな・・・」 令和2年の確定申告書はコンピュータで計算されているので、計算ミスはないだろうと思いながらも、浅田調査官は申告書に書かれている数字を何度も検算している。 「・・・何をそんなにムキになって、電卓を叩いているんだ?」 トイレから戻った中尾統括官は、ハンカチで手を拭きながら尋ねる。 「計算が・・・合わないんですよ。」 浅田調査官の顔は、興奮して赤くなっている。 中尾統括官は、机上にある確定申告書を覗く。 「・・・給与の所得金額が合わないんです・・・」 浅田調査官は、中尾統括官を見上げる。 「・・・給与の収入金額が2,400,000円だから・・・令和2年分の給与所得控除額は800,000円になります・・・」 浅田調査官は電卓を叩いて、その数字を見せる。 「その計算は、正しいだろう。」 中尾統括官は、電卓の表示の金額を見て頷く。 「ところが・・・この確定申告書にプリントアウトされている[6]欄の給与の所得金額が1,500,000円になっているのです・・・」 浅田調査官は、再び、頸を傾ける。 「・・・そして、この納税者は、他に公的年金等の収入金額がありまして・・・」 と言って、浅田調査官は再び確定申告書に目を向ける。 令和2年分の確定申告書の公的年金等に係る収入金額は、「4,315,050円」と記載されている。 浅田調査官は、机の上に置いてある「公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)」を見ながら、電卓を叩く。 「納税者は、昭和23年生まれだから・・・65歳以上の速算表に該当します。」 そう言いながら、浅田調査官は、電卓を叩く。 「この金額は、確定申告書の[7]欄に記載されている数値と一致します。」 そのとき、中尾統括官は突然、ニヤニヤとした笑みを浮かべて言う。 「浅田君・・・確定申告書の給与の所得金額が10万円違う原因は、平成30年度の税制改正で創設された「所得金額調整控除」だろう・・・これは令和2年分の所得税から適用されるものなのだが・・・」 中尾統括官は、令和2年分の確定申告のパンフレットを手に取って説明する。 「所得金額調整控除には、①子ども・特別障害者等を有する者等のものと、②給与所得と年金所得の双方を有する者に対するものとがある・・・そして、浅田君の手元にある申告書は②のケースに該当し、次の者が適用対象者になる。」 そう言うと、中尾統括官は、適用対象者の定義を読み上げる。 「・・・給与と年金の収入がある人に対して、所得金額調整控除が設けられた理由は・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の机の上にある罫紙に、几帳面な字を書く。 「・・・すなわち、基礎控除額は10万円増加したけれど、給与所得控除額と公的年金等控除額は、それぞれ10万円ずつ、合わせて20万円減少しているので、給料と年金の両方をもらっている人は、前年と比べると税金の負担が増えてしまう・・・そこで、所得金額調整控除を使って調整をしているわけだ。・・・子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除と同様に、給料の控除の調整のため、給料をもらっていない人は、所得金額調整控除を受けることはできない。」 中尾統括官は、自分の書いた罫紙の金額を見ながら、説明を続ける。 「そして、租税特別措置法施行令26条の5で、所得金額調整控除の適用がある場合、その適用後の給与所得の金額から他の所得の損失を差し引くことになっている・・・だから、この確定申告書の[6]欄に記載されている給与所得金額は、1,600,000円から100,000円(所得金額調整控除)を控除した1,500,000円になっているんだ。ちなみに給与等の収入金額を記載する[カ]欄の「区分」に「2」と書かれていると思うが、これは上記②に該当することを示している。」 浅田調査官は、中尾統括官の言葉を黙って聞いている。 「・・・さらに令和2年分の所得税の確定申告書では、新たに『公的年金等以外の合計所得金額』[53]という欄が設けられている・・・この中に給与所得金額は当然含まれるが、このときには、100,000円を控除しない1,600,000円を記載することになる・・・」 中尾統括官は、令和2年分の所得税確定申告書Bの[53]欄を指さしながら言う。 「所得税の確定申告書の記載欄も、変わることがあるから。」 浅田調査官は、電卓を叩きながら、今の説明を確認する。 「今年の所得税の確定申告は、税法改正の影響を受ける項目が多いから、特に注意しないとな・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の肩をポンと叩いて、自分の机に戻る。 (つづく)
《速報解説》 会計士協会、東証の有価証券上場規程に定める 結合財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針案を公表 ~保証実3420の公表を受け、結合財務情報に係る保証業務実施上の留意点等示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月2日、日本公認会計士協会は、保証業務実務指針3700「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める結合財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」(2017年12月19日)等の公表に伴い、東京証券取引所意見表明業務に関する従来の監査・保証実務委員会研究報告第17号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める結合財務情報に関する書類に対する公認会計士又は監査法人の報告業務について(中間報告)」に代わるものである。 意見募集期間は2021年4月2日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 結合財務情報 東証では、新規上場申請者が持株会社であって、持株会社になった後、上場申請日の直前事業年度末日までに2年以上を経過していない場合(他の会社に事業を承継させる又は譲渡することに伴い持株会社になった場合を除く)で、かつ、持株会社になった日の子会社が複数あるときに、結合財務情報の提出を求めている。 結合財務情報とは、当該期間のうち持株会社になる前の期間における当該複数の子会社(以下「結合対象会社」という)の損益計算書等を結合して作成される損益計算書(新規上場申請者が新規上場申請日の属する事業年度の初日以後持株会社になった場合には、結合対象会社の貸借対照表等を結合した貸借対照表を含む)をいう。 東証が定める「結合財務情報の作成基準」により作成される結合財務情報は、持株会社になる前の企業集団における財務及び業績の概況について把握するために、結合財務情報の作成対象期間における結合対象会社の損益計算書等又は貸借対照表等を合算した上で、作成基準に示した事項を調整して作成されるものである。 結合財務情報は、連結財務諸表又は四半期連結財務諸表とは異なる目的、手続により作成される財務情報であり、新規上場申請者である持株会社が提出する連結財務諸表又は四半期連結財務諸表とは異なるものである。 2 業務を実施する上での留意事項 本実務指針は、保証業務実務指針3420「プロフォーマ財務情報の作成に係る保証業務に関する実務指針」が公表されたことを受け、当該保証業務実務指針3420を前提として、公認会計士等が結合財務情報に対して、業務実施者として実施する保証業務に係る実務上の指針を提供するものである。 次の事項に関する留意点が記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その7)」を公表 ~平時よりも経営者等との適時かつ適切なコミュニケーションの実施を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月2日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その7)」を公表した。 これは、2021年2月10日に、企業会計基準委員会の第451回企業会計基準委員会議事概要が公表されたことを受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計上の見積りの監査に関する留意事項 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」では、概ね次の事項が記載されており、引き続き留意する必要がある。 Ⅲ 経営者及び監査役等との適時かつ適切なコミュニケーション 日本公認会計士協会の会員は、新型コロナウイルスの感染拡大が企業業績等に与える影響を的確に認識し、監査リスクを適切に評価するとともに、見積りに関する会計処理について、被監査企業の経営者及び監査役等と通例よりも注意を払って適時かつ適切にコミュニケーションを実施することが求められる。 その際、経営者の過度に楽観的な会計上の見積りを許容することは適切ではないが、他方、監査人が、企業の収益力やキャッシュ・フローの獲得能力について、実態と乖離した過度に悲観的な予測を行い、経営者の行った会計上の見積りを重要な虚偽表示と判断することも適切でないことに改めて留意されたいとのことである。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「企業及び企業環境の理解を通じた 重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正案を公表 ~現行監基報315から大幅な項目の追加・削除等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月26日、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、2019年12月に国際監査・保証基準審議会(IAASB)から公表されたISA 315(Revised 2019)及び監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)に対応するものである。 現行監基報315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」を、改正監基報315では、「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に変更する予定である。 意見募集期間は2021年3月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」の公開草案は、現行の監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」から大幅な項目の追加・削除等を行っており、表紙を含めて101ページに及ぶものである。 1 本報告書の目的と定義 監査人の目的は、不正か誤謬かを問わず、財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクと、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクを識別し評価することである(10項)。 アサーションとは、経営者が財務諸表において明示的か否かにかかわらず提示するものであり、財務諸表が、情報の認識、測定、表示及び注記に関して適用される財務報告の枠組みに準拠して作成されていることを表すものである(11項(4))。 本報告書では、識別したアサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについては、固有リスクと統制リスクとに分けて評価することが要求されている(5項)。 また、特別な検討を必要とするリスクとは、識別された次のような重要な虚偽表示リスクをいう(11項(10))。 固有リスク要因とは、関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう(11項(6))。 内部統制とは、企業が、経営者、又は取締役会、監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会の統制目的を達成するために策定する方針又は手続をいう(11項(11))。 内部統制システムとは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、事業経営に係る法令の遵守を促すという企業目的を達成するために、経営者、取締役会、監査役等及びその他の企業構成員により、整備(デザインと業務への適用を含む)及び運用されている仕組みをいう(11項(12))。 2 リスク評価手続とこれに関連する活動 リスク評価手続には以下を含めなければならない(13項)。 3 企業及び企業環境並びに適用される財務報告の枠組みの理解 監査人は、以下の事項を理解できるように、リスク評価手続を実施しなければならない(18項)。 4 企業のリスク評価プロセス 監査人は、リスク評価手続を通じて得た以下の理解や評価により、財務諸表の作成に影響を及ぼす企業のリスク評価プロセスを理解しなければならない(21項)。 5 重要な虚偽表示リスクの識別 監査人は、以下の2つのレベルで重要な虚偽表示リスクを識別しなければならない(27項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 監査役協会より「改正会社法及び改正法務省令に対する 監査役等の実務対応」が公表される ~主に3月決算会社を念頭に株主総会等に係る対応を取りまとめる~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月26日、日本監査役協会 監査法規委員会は、「改正会社法及び改正法務省令に対する監査役等の実務対応」を公表した。 これは、2021年3月1日に施行される改正会社法及び改正法務省令に対応した監査役等の実務対応を取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主として大会社かつ公開会社を念頭に置き、かつ、3月決算会社(6月定時株主総会開催会社)を念頭に、次の事項について記載している。 「社債の管理」(社債管理補助者制度、社債権者集会)を含む一部の改正については言及していないとのことである。 表紙を含めて52ページに及ぶので、以下では主なものについて解説する。 Ⅲ 株主提案権の濫用的な行使を制限するための規定の整備 1 法令の概要 取締役会設置会社の株主が議案要領通知請求をする場合において提出する議案の数の上限を10とする(会社法305条4項)。 株主総会の目的事項である議題提案権及び議場における議案提案権については、制限されていない。 2 適用時期 改正会社法施行後(2021年3月1日以降)に開催される定時株主総会から適用される。 ただし、施行後に株主総会が開催される場合でも改正会社法施行前に行われた議案要領通知請求については、従前の例による。 3 監査役等の対応 監査役等としては、10を超える議案については、取締役が定めるとされていることから、自社に「株式取扱規程」があり、当該規程に対応する規定を設ける場合は、改正趣旨を反映した規程となっているか、当該規定に基づいた対応がなされているかについて確認する必要がある。 Ⅳ 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針 1 法令の概要 有価証券報告書の提出義務を負う監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)の取締役会及びすべての監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬等の内容について、定款又は株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められていない場合には、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針(会社法施行規則98条の5)を決定しなければならない(会社法361条7項)。 2 適用時期 本規定は、特段の経過措置が定められていないため、対象となる会社は改正法の施行日である2021年3月1日よりも前に取締役会においてこれらの事項を決定しておかなければ、形式的には決定義務違反になることに留意が必要となる。 3 監査役等の対応 監査役等は決定手続等の透明性を高めるという法改正の趣旨に従って取締役会の決議がなされているかを確認する。 Ⅴ 会社役員の報酬等に関する事業報告による開示の充実化 1 法令の概要 事業年度の末日において公開会社である会社の事業報告では、会社役員に関する事項として報酬等に関する事項を記載しなければならない(会社法施行規則119条1項2号)とされており、新たに事業報告に記載すべき事項が追加されている(会社法施行規則121条1項4号、5号の2~6号の3)。 例えば、取締役、会計参与、監査役もしくは執行役ごとの報酬等の総額又は会社役員ごとの報酬等の額について、当該報酬等が業績連動報酬等又は非金銭報酬等を含む場合には、業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等の(総)額である。 2 適用時期 当該改正に係る経過措置として、施行日である2021年3月1日より前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告の記載については、なお、従前の例による(省令附則2条11項)。 そのため、3月決算の会社の2021年3月期の事業報告は、当該経過措置の対象とならないため、新たに事業報告に記載すべき事項を要することに留意が必要となる。 3 監査役等の対応 監査役等としては、当該記載が行われているか、並びにその内容が法改正の趣旨に沿うものとなっているかを確認することが求められる。 本改正は会社役員に対して適切なインセンティブが付与されているかどうかについて株主が判断し得るようにすることを目的としており、記載の確認の際には、かかる趣旨を満たす程度の記載がなされているかを検討することが必要となる。 Ⅵ 社外取締役に期待される役割に関する開示義務 1 法令の概要 取締役の選任議案において、その候補者が社外取締役候補者であるときは、当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要を株主総会参考書類に記載しなければならない(会社法施行規則74条4項3号、74条の3第4項3号)。 事業年度の末日において公開会社である場合には、会社役員に関する事項として、社外役員である社外取締役について、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を事業報告に記載しなければならない(会社法施行規則119条2号、124条4号ホ)。 2 適用時期 本規定につき、施行日前に招集の手続が開始された株主総会又は種類株主総会に係る株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による(省令附則2条9項)。 施行日より前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告については、なお従前の例による(省令附則2条11項)。 したがって、3月決算会社を例にとると、2021年3月期に係る事業報告、並びに2021年6月開催の定時株主総会参考書類における記載においてそれぞれ対応が必要となる。 なお、事業報告への記載については、規定上株主総会参考書類における記載との対応が示されていないため、施行以前に選任された社外取締役(当該社外取締役の選任議案において、選任された場合に果たすことが期待される役割についての記載がなかった場合)についても、期待される役割に関して行った職務の概要を記載しなければならない。 3 監査役等の対応 監査役等としては、当該記載が行われているか、並びにその内容が法改正の趣旨に沿うものとなっているかを確認することが求められる。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、KAM及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載に関する取りまとめを公表 ~審議のオンライン化に伴う自署押印の対応及び代替案にも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月26日、日本監査役協会 監査法規委員会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)及びコロナ禍における実務の変化等を踏まえた監査役等の監査報告の記載について」を公表した。 これは、「監査報告のひな型」における記載に関し、追記・修正等の対応を考慮することが必要な事項について取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のポイントと文例が記載されている。 1 監査上の主要な検討事項(KAM)について 監査役等の監査報告におけるKAMの取扱い、すなわちKAMに関する記載の要否について関心が寄せられていることから、本報告にて取り扱っている。 金商法上のKAMの記載の要否、及び会社法上の会計監査人の監査報告へのKAMの任意記載の有無のパターンごとに、監査役等の監査報告の「監査の方法及びその内容」において考え得る記載の在り方が整理されている。 そこで、自社に当てはまる類型に応じて、いずれの考え方に沿って記載を行うかを検討するものと考えられる。 例えば、【文例1-2A 金商法上のKAMの記載が義務付けられる会社で、会社法上の会計監査人の監査報告に任意記載が行われない場合(監査役等の監査報告においてKAM について明示的に言及する記載例)】では、次の文例が示されている。 2 コロナ禍を契機とする監査の方法の変更について 新型コロナウイルス感染症の影響による監査活動の変化について、監査役等の監査報告に記載する場合の文例が示されている。 例えば、【文例2-1 ひな型をベースに修正を検討する場合】の記載例では、「電話回線又はインターネット等を経由した手段も活用しながら、」と記載されている。 3 自署押印について 監査報告作成のための監査役会等の審議もオンライン形式に移行し、監査役等が現実に一堂に会しての審議を行い、その場で自署押印を行うという従来の流れが実務上困難となるケースも増加しているとのことである。 そこで、今後の実務において考えられるいくつかの対応(全員が郵送回付等により自署押印を行う方法など)とともに、監査報告を電磁的記録により作成した場合に電子署名を行うに当たっての考え方が紹介されている。 (了)
《速報解説》 EDINETで提出される監査報告書のXBRLタグ付け範囲が KAMまで拡大するに伴い、タグ付け誤り防止のための 留意事項等が会計士協会から公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月22日付けで(ホームページ掲載日は2月24日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 金融庁の2021年版EDINETタクソノミにおいて、従前から行われているEDINETで提出される金融商品取引法に基づく監査報告書に対するXBRLのタグ付けの範囲が、「監査上の主要な検討事項(KAM)」にまで拡大されているので、注意が必要である。なお、2020 年3月期の金商法に基づく監査報告書においては、訂正事例が散見されたとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 業務本部2021年審理通達第1号 次のことが記載されている。 Ⅲ EDINETで提出される監査報告書のXBRLタグ付け範囲の拡大に関する留意事項 2021年3月31 日以後に終了する事業年度の財務諸表の監査から、KAMの記載が義務化されることに伴い、XBRLのタグ付けの対象にKAMが含まれることになった。 KAMは、監査人が作成する監査報告書に記載される事項であるが、EDINETで監査報告書を提出するためには、有価証券報告書等を提出する被監査会社が、監査人から入手した監査報告書の草案に基づいて、有価証券報告書等を作成するためのシステム(以下「開示書類作成支援システム」という)に監査報告書の記載事項を入力し、また、XBRLタグ付けを行うこととなる。 監査報告書には、被監査会社ごとの違いのない定型的な記載ではなく、KAMのように個々の被監査会社ごとに固有の事項が記載されるため、監査報告書へのXBRLタグ付けについても、XBRLのタグとタグ付け範囲に不一致が生じないように慎重な作業が求められる。 次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「倫理規則の体系及び構成等の見直しに 関する論点の整理」の方針案を公表 ~体系等の整備により更なる規則の遵守促進を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月24日、日本公認会計士協会は、「倫理規則の体系及び構成等の見直しに関する論点の整理」を公表し、意見募集を行っている。 これは、現行の倫理規則などの体系がわかりにくいとの意見があることから、倫理規則の理解のしやすさを向上させ、その遵守を促進するため、倫理規則の体系及び構成等の見直しを検討するものである。 論点の整理は、今後の検討を進めるために、公開草案として具体的な規定案を示す前に、まずは見直しの方針案を公表し、意見募集するものである。今後、実質的な内容の変更を伴う個別規定の見直しも検討する方針とのことである。 また、「公認会計士倫理宣言」の作成を検討するとのことである。 意見募集期間は2021年3月24日までである。 以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 現行の倫理規則など 現行の倫理規則などは次の4つから構成されている。 このほか、「職業倫理に関する解釈指針」、「独立性に関する法改正対応解釈指針」がある。 なお、国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)(以下「IESBA」という)は、2018年4月に「職業会計士のための国際倫理規程(国際独立性基準を含む)」(以下「再構成版IESBA倫理規程」という)を公表している。 2 論点の整理の対象 次の3つの論点について整理を行い、意見募集を行っている。 「職業倫理の規範体系のイメージ」について、現行と改正後(案)のものが示されている。 (了)