谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第39回】 「課税処分相互間の関係」 -課税処分取消訴訟の訴訟要件(広義の訴えの利益)を中心に- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 納税義務の確定制度とりわけ申告納税制度においては、納税義務の確定行為相互間の関係、すなわち、納税申告相互間の関係、納税申告と課税処分との関係及び課税処分相互間の関係が問題になる(谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」第11回4、第15回2・3も参照)。 納税義務の確定行為相互間の関係については、国税通則法制定前から議論されてきたところであるが、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月)62-63頁は次のとおり「基本的な考え方」を述べた(下線筆者)。 上記説明中の(a)の考え方については、これを「併存説」と呼ぶことに異論はないであろうが、(b)の考え方については、「消滅説」と呼ばれる考え方として理解することも「吸収説」と呼ばれる考え方として理解することもできるように思われる。というのも、「更正等の処分により前の申告等の効力はその行為時にさかのぼつてなかったものとされ[る]」という記述は、前の申告等が更正等の処分により当然に消滅することを意味するのか(消滅説)又は更正等の処分内容としてこれに吸収されて一体となりその外形が消滅することを意味するのか(吸収説)が、上記の説明では必ずしも明らかでないからである(学説の名称に係る用語法には種々のものがみられるが、「併存説」(「独立追加処分説」、「段階説」、「分離説」などとも呼ばれる)も含め、「消滅説」(「蒔き直し説」とも呼ばれる)と「吸収説」(「吸収消滅説」、「一体説」とも呼ばれる)に関する以上の理解については、園部逸夫「判解」最判解民事篇(昭和56年度)275頁、282-283頁参照)。 もっとも、前記説明中の「これらの解決のあり方を統一的に説明する基本的な考え方」は、その前半(「更正等の処分の効力は、増差額に関する部分についてのみ生ずる」)が併存説を意味し、その後半(「その処分が行われた結果として、前にされた申告等は、更正等に吸収され、あわせて一体のものとなる」)が吸収説を意味する、両説のいわば「折衷説」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E296~298頁[新井隆一・波多野弘執筆])ともいうべき考え方であるように思われる。 いずれにせよ、国税通則法は、そのような「基本的な考え方」に基づいて20条(修正申告の効力)、29条(更正等の効力)、73条1項1号(時効の中断及び停止。現行規定は時効の完成猶予及び更新)、81条(他の審査請求に伴うみなす審査請求。現行規定は90条)、82条(併合審理等。現行規定は104条)、87条1項3号(不服申立ての前置を要しない場合。現行規定は115条1項2号)等の各規定を整備したものと解されるが、それらの規定は学説の多くが国税通則法の立場を併存説として理解する根拠とされるものである(差し当たり、清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)257頁参照)。ただ、それらの規定は少なくとも直接的には訴訟とりわけ課税処分取消訴訟に関する事項を定めた規定ではないので、訴訟のレベルにおいて更正・決定と再更正との関係をどのように考えるかは、広義の訴えの利益という訴訟要件の判断において重要な意味をもつにもかかわらず、基本的には国税通則法制定前と同じく解釈に委ねられてきたといわざるを得ない。この点については、夙に次のとおり指摘されていたところである(清永敬次「更正と再更正」シュトイエル100号(1970年)91頁、95-96頁)。 なお、広義の訴えの利益という訴訟要件については次のとおり説明されている(泉徳治ほか『租税訴訟の審理について〔第3版〕』(法曹会・2018年)43-44頁。下線筆者)。 Ⅱ 更正と再更正との関係に関する判例の立場 1 更正と増額再更正 更正と増額再更正との関係について裁判所は、次の見解(園部・前掲「判解」283頁)が述べるように、国税通則法の制定前後を通じて、消滅説ないし吸収説の立場に立っていたといわれている(裁判例について詳しくは最高裁判所事務総局編『続々行政事件訴訟十年史』(法曹会・1981年)406頁参照)。 上記見解はこれに続けて「同説ないし同説を採る裁判例が、通常、確立した判例として引用する最高裁の判例は、次の二つである。」(園部・前掲「判解」283頁)と述べ、最判昭和32年9月19日民集11巻9号1608頁と最判昭和42年9月19日民集21巻7号1828頁を挙げている。もっとも、これらのうち後者については、「右の事件では、第二次更正処分は、第一次更正処分との関係では減額再更正の性質を有するのであり、第三次更正処分は第二次更正処分との関係では増額再更正処分であるが、第一次更正処分との関係では同額再更正処分に当たるという、まことに変則的な事案であって、増額再更正処分について吸収説をとった判例というには、事案として必ずしも適当なものではない。」(園部・前掲「判解」290頁。最判昭和55年11月20日訟月27巻3号597頁(以下「昭和55年最判」という)に係る鈴木実「解説」同号599頁も同旨)といわれるように、その先例性は疑わしいように思われる(碓井光明「判批」判例評論275号(1982年)10頁、12頁も同旨)。 このような先例性に関する疑義があるとはいえ、租税訴訟実務では、更正と増額再更正との関係については、次の見解(泉ほか・前掲書49頁)が支配的であるように思われる。 この見解が吸収説を採用するものとする判例のうち後二者はいずれも原審の判断(①東京高判昭和53年1月31日訟月24巻2号414頁、②東京高判平成8年2月28日税資215号797頁)を正当とするにとどまるものであるから、それらの原審判断を以下に引用しておくことにする。 上記①の東京高判が「確立した判例」として参照する最判昭和42年9月19日民集21巻7号1828頁の先例性については、前述のとおり疑わしいように思われ、また、上記②の東京高判は申告と更正との関係について、しかも不服申立ての対象を問題にする判決であるから、これを正当とする上告審・最判平成9年11月14日税資229号652頁が、更正と再更正との関係について課税処分取消訴訟の対象を判断する場合に先例性を有するかどうかも疑問であることから、結局、前記見解が言及する最高裁の判断のうち、上記①の東京高判が「確立した判例」として参照する最判昭和32年9月19日民集11巻9号1608頁(これは下記のとおり判示している。下線筆者)と、これを先例とする限りで(碓井・前掲「判批」12頁参照)昭和55年最判の2つの判断のみが、更正と増額再更正との関係に関する判例としての意義を有すると考えられる。 念のため、昭和55年最判の判示を引用しておくと、次のとおりである。 2 更正と減額再更正 ところで、「更正と再更正の問題は、従来主として増額再更正について論じられてきた」(園部・前掲「判解」281頁)が、それでも、更正と減額再更正との関係についても、従来、増額再更正の場合と同じく吸収説の立場に立ち当初の更正処分の取消しを求める訴えの利益はないとする裁判例のほか、「実務の大勢は、減額再更正処分について、当初更正処分の一部取消し(講学上の職権による一部取消し『一部撤回』)と同じ性格のものとみている」(同293頁)という立場に立って、減額再更正処分の取消しを求める訴えの利益はないとする裁判例がみられた(裁判例について詳しくは最高裁判所事務総局編・前掲書406-407頁参照)。 最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(以下「昭和56年最判」という)の事件(本案では事業所得と給与所得との区分が争われたいわゆる弁護士顧問料事件)において、第一審・横浜地判昭和50年4月1日訟月21巻6号1332頁(下記①)及び控訴審・東京高判昭和51年10月18日訟月22巻12号2876頁(下記②)は吸収説の立場に立ち以下のとおり判示し(下線筆者)、減額再更正処分の取消しを求める訴えの利益はあるが当初更正処分の取消しを求める訴えの利益はないとした。 これに対して、昭和56年最判は次のとおり判示して(下線筆者)「いわゆる一部取消説に立つことを明言し」(片山博仁「判批」法務省訟務局内行政判例研究会編『昭和56年行政関係判例解説』(ぎょうせい・1983年)425頁、431頁)、減額再更正処分の取消しを求める訴えの利益はないとした。 昭和56年最判については、「本判決は、減額再更正の場合について、従来の実務の大勢に沿い、これを確認するもので、前記増額再更正の場合に関する最高一小判昭和55年11月20日[=昭和55年最判]と並んで、更正と再更正との関係に関する争いに、一応の終止符を打ったものと理解することができる。その意味で本判決は、この分野における重要な先例的意義を有するものといえよう。」(園部・前掲「判解」293頁)と解説されている。 Ⅲ 広義の訴えの利益という訴訟要件の解釈 以上で更正と再更正との関係に関する裁判所の立場をみてきたが、これについて、昭和55年最判及び昭和56年最判で「一応の終止符」(園部・前掲「判解」293頁)が打たれる以前から、次の批判的見解(清永・前掲論文105頁。下線筆者。以下「一貫性否認論」という)がみられた。 一貫性否認論は、昭和55年最判及び昭和56年最判についても妥当し、むしろ昭和56年最判の前記判示によってその妥当性は確定的なものとなったといえようが、その後、両最判の整合性を承認する次の見解(占部裕典『租税法と行政法の交錯』(慈学社出版・2015年)248頁[初出・2012年]。下線筆者。以下「整合性承認論」という)が唱えられるようになった。 一貫性否認論は、「再更正の性質」の観点から判例の立場を理解しようとするものであるのに対して、整合性承認論は、「総額主義のもとで常にもっとも大きい税額の更正処分を争わせるというスタンス」の観点から判例の立場を理解しようとするものであり、その「スタンス」は、訴訟レベルでの「総額主義か争点主義かという理論的な問題」(占部・前掲書248頁)に関するものである。 租税訴訟実務の支配的見解は、更正と増額再更正との関係に関しては、一貫性否認論と整合性承認論の両方の観点を踏まえ、下記のとおり吸収説と総額主義を結びつける理解(泉ほか・前掲書48頁。下線筆者)を示した上で、既にⅡの1で述べたように、吸収説を採用した判例として昭和55年最判を挙げている。 しかし、吸収説と総額主義を結びつける上記の理解は、更正と減額再更正との関係については妥当しない。というのも、昭和56年最判は、減額再更正の「実質」を「当初の更正処分の変更であり、それによって、税額の一部取消という納税者に有利な効果をもたらす処分」とする理解を示したからである。 そうすると、昭和56年最判は減額再更正について吸収説を採用しなかったことは明らかであるから、再更正の性質の観点からはやはり一貫性否認論が妥当であるといえよう。しかし、租税訴訟実務の支配的見解は次のとおり述べて、一貫性の欠如を問題にしていない(泉ほか・前掲書50頁。下線筆者)。 ここで租税訴訟実務の支配的見解が減額再更正について「職権による更正・決定の一部取消処分と異なるところはな[い]」と述べているのは、当然のことながら、「職権による更正・決定の一部取消処分」が減額更正処分とは別に実定税法上可能であることを前提としてそのように述べているのではなく、再更正の性質の観点から、昭和56年最判の前記判示と同じく減額再更正の「実質」をそのように述べているものと解される。そうすると、一貫性否認論の説く「うらみ」を解消するには、減額再更正の「実質」の意味を明らかにしておく必要があるように思われる。この点について、昭和56年最判に関する判例評釈で述べられている次の見解(原田尚彦「判批」ジュリスト768号(昭和56年度重判解・1982年)49頁、50-51頁)は示唆に富むものである。 この見解の説くように「増額再更正と減額再更正とでは利益状態が異なる」ことは明らかであり、そのことをもって一貫性の欠如を正当化することには説得力があるように思われる。ただ、この見解が利益状態の差異に関して挙げる問題もあろうが、より直截的かつ一般的には、昭和56年最判が説示するとおり減額再更正が「税額の一部取消という納税者に有利な効果をもたらす処分」であることこそ、増額再更正との利益状態の差異であり、「訴えの利益の解釈に当たっては・・・・・・十分に踏まえる必要がある」とされる「行政行為等の実質的側面」(泉ほか・前掲書44頁)であると考えるところである。 この差異は、更正と再更正との関係を実体法のレベルで考えると、その意味がより一層明確になるように思われる。このことは、次の見解(碓井・前掲「判批」13頁。下線筆者)の説くところからいえるように思われる。 この見解によれば、増額再更正と減額再更正とで利益状態が異なるということは、「課税標準や税額の器」ないし「更正や再更正の効果としての器」に入る課税標準や税額の「量」の増減を意味していることになるが、その「量」の増(追加)又は減(排除)こそが納税者にとって不利か又は有利かを決定する最も重要な要素であると考えられ、しかもそう考えるのが「国民の一般常識」(碓井・前掲「判批」14頁)に合致していると考えられる。この点について昭和56年最判に即していえば、次の理解(清永敬次「判批」民商法雑誌85巻6号(1982年)1023頁、1031-1032頁)が正当であろう。 いずれにせよ、そうすると、昭和56年最判は、減額再更正については、その性質(「実質」)を更正の一部取消処分として理解する立場(一部取消説)に立ち、これを納税者にとって有利な処分とみて、「右の再更正処分に対してその救済を求める訴の利益」を否定したものと解される。ここでいう「訴の利益」は、広義の訴えの利益のうち狭義の訴えの利益であると解される。 以上の検討の結果をまとめると、増額再更正については、昭和55年最判は広義の訴えの利益のうち訴えの対象を問題にし、吸収説の立場から更正を訴えの対象として認めなかったのに対して、減額再更正については、昭和56年最判は狭義の訴えの利益を問題にし、一部取消説の立場から減額再更正に対する狭義の訴えの利益を認めなかったものと解される(このような判例の立場が紛争の一回的解決を重視したものと考えられることについては、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【147】参照。なお、納税申告に対する増額更正処分の取消訴訟との関係で広義の訴えの利益を検討するものとして、拙著『税法創造論』(清文社・2022年)1022頁以下[初出・2016年]参照)。 確かに、判例は、一貫性否認説の説くとおり、再更正の性質に関しては増額再更正と減額再更正との間で一貫性を欠く立場に立ってはいる。しかし、この一貫性の欠如は訴訟要件の判断において異なる結論に帰着することにはなっていない。それは、昭和55年最判が増額再更正について広義の訴えの利益のうち訴えの対象を問題にし、昭和56年最判が減額再更正について狭義の訴えの利益を問題にしたからである。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、更正と再更正の関係について、判例が再更正の性質及び広義の訴えの利益の点において増額再更正と減額再更正とで異なる取扱いを行っていることを確認し、その理由を検討した。 このような取扱いは、裁判所の正常な機能を維持する等という広義の訴えの利益の要請(Ⅰの最後参照)には適合しているのであろうが、納税者の権利救済の観点からは問題があるとされる場合がある。それは下記の場合(原田・前掲「判批」51頁)である。 この問題をどのように考えるかは、訴訟レベルで「総額主義か争点主義かという理論的な問題」(占部・前掲書248頁)の判断にかかっているが、昭和56年最判は減額再更正について「それ自体は、再更正処分の理由のいかんにかかわらず、当初の更正処分とは別個独立の課税処分ではなく、その実質は、当初の更正処分の変更であり、それによって、税額の一部取消という納税者に有利な効果をもたらす処分と解するのを相当とする。」(下線筆者)と判示したことから、総額主義の立場から判断したものと解される。総額主義は、前述したように吸収説と結びつけることができる(泉ほか・前掲書48頁参照)だけでなく、一部取消説と結びつけることもできるのである。 要するに、更正と再更正との関係が争点となる課税処分取消訴訟において納税者の権利救済の「壁」となるのは総額主義である。この「壁」をいかに克服するかが課税処分取消訴訟の重要な課題である(いわゆる理由の差替えとの関係でこの「壁」の克服については、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1098-1102頁、前掲拙著『税法基本講義』【165】等参照)。 最後に、今回の検討にも関連するが、更正と再更正との関係が争点となる課税処分取消訴訟においては、納税者の地位の安定の確保も重要な課題である。この課題について次の見解(原田・前掲「判批」51頁。下線筆者)は傾聴に値すると思われるので、引き続き検討していくことにしたい。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例135(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆特定同族会社の特別税率(法67) 内国法人である特定同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その特定同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、通常の法人税の額に、その超える部分の留保金額に一定の割合を乗じて計算した金額の合計額を加算した金額とする。 ◆特定同族会社 特定同族会社とは、被支配会社で、被支配会社であることについての判定の基礎となった株主等のうちに被支配会社でない法人がある場合には、その法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても、被支配会社となるものをいう。 ◆特定同族会社とならない法人 清算中のもの及び資本金の額又は出資金の額が1億円以下であるものは除かれる。ただし、資本金の額又は出資金の額が1億円以下であっても、次に該当するものは特定同族会社となる。 ◆被支配会社 被支配会社とは、会社の株主等(自己株式等を除く)の1人並びにこれと特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(自己株式等を除く)の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその会社をいう。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第6回】 「学会誌の論文掲載料(法人税)」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 出版業に該当するか否か 学会誌に論文を掲載する場合、査読等を行うため、論文掲載料を請求しているケースが一般的である。論文掲載料は、その名の通り、論文を掲載するための対価であるが、当該内容は、法人税法上の収益事業となる34の特掲事業(法令5①)のいずれにも含まれていない。 なお、34の特掲事業に該当するか否かにあたっては、付随行為も含まれることとされているため(法令5①かっこ書き)、論文掲載料が、34の特掲事業の付随行為に含まれるべきか否かという点が問題となる。 論文掲載料は、学会誌を刊行するにあたっての付随行為と考えられるが、学会誌に関して、会員以外に対する有償頒布部分については出版業に該当するものの、会員に対して無償配布する部分については、出版業に該当しない(【第4回】「学会誌と出版業(法人税)」参照)。 そして、学会誌の大部分(無償配布)について、出版業に該当していない以上、その付随行為も出版業には該当しないと考える(【第5回】「学会誌と広告掲載料(法人税)」参照)。よって、学会誌の論文掲載料は、出版業に該当しないと考える。 2 印刷業に該当するか否か 論文掲載者に対しては、一定部数の別刷(特定の論文だけを抜き出して印刷したもの)を無償で配布するケースがある。論文掲載者は、論文掲載料を支払うことで学会誌に自身の論文を掲載し、その結果、自身の論文を掲載した別刷(印刷物)の配布を受けるため、「論文掲載料=印刷業の対価」に該当するか否かという点が論点となるが、論文掲載料は、印刷業(法令5①十一)には該当しないと考える。 なぜなら、論文掲載料は、あくまで学会誌に論文を掲載するための対価として受領しているものであり、論文掲載料が別刷の印刷代を意味しているわけではないためである。 そのため、論文掲載者に対して一定部数の別刷を無償で配布していたとしても、印刷業に該当することはないと考える。 3 有償の別刷代と論文掲載料の関係 別刷に関して一定部数以上を希望する場合、有償となっているケースがあるが、有償で行う別刷代に関しては、印刷物の対価として受領しているものであるため、印刷業(法令5①十一)に該当すると考える。そのため、公益法人の学会が、公益目的事業の一環として実施していない限り(法令5②一)、有償となる別刷代については、法人税法上の収益事業に該当する。 なお、1部100円で有償の別刷代を請求しているからといって、論文掲載料10,000円のうち、論文掲載者に対する無償配布分50部×100円=5,000円を印刷業の対価と考える必要はないと考える。なぜなら、有償頒布の際における価格設定と論文掲載者に対する無償配布には何ら関係がないからである。 学会誌の論文掲載に関して、通常は論文掲載料を請求することになるが、学会側から執筆依頼するような場合は、論文掲載料を請求することなく、論文を学会誌に掲載し、一定部数の別刷を執筆者に対して無償配布することがある。 このように執筆者に対して一定部数の別刷を無償配布する行為は、慣例的に行っているものであり、論文掲載料の有無と直接の関係はない。そのため、論文掲載料の中に別刷代が含まれていると考える必要はなく、論文掲載料の一部が印刷業に該当することはないと考える。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第38回】 「土地・建物の一括譲渡の対価を仕入時の土地・建物の固定資産税評価額に基づいて按分したが、リフォームによる建物の価値増加部分が反映されないことを理由に否認された事例」 税理士 菅野 真美 ▷土地・建物の一括譲渡の対価の按分方法 土地・建物を一括して売却することがあるが、消費税法上は、土地につき「消費する」という概念がないため、土地の譲渡は非課税取引とされ、建物は課税取引とされる。取引の買手が事業者の場合、消費税の負担がより少ない方がメリットがあるので、買手側は販売価額のうち建物の価額をより高く設定して交渉する可能性がある。 他方、一般消費者が取引の当事者の場合、土地・建物の各々の価額がいくらなのかはさほど重要ではなく、総額が低い方にニーズがある場合が多い。よって、一般消費者相手の売手側としては、販売価額のうち建物の価額を低めに設定することによって、消費税の節税をもくろむことが可能となる。 しかし、当局もこのような事業者の内心を想定して、租税回避を防止するための下記の規定を設けている。 消費税法施行令45条3項 資産の譲渡の対価の額が合理的に区分されていない場合は、それぞれの資産の譲渡時の価額の比率で対価を按分することになるとされているが、「合理的に区分されていないとき」とはどのような場合か、譲渡時の価額とは時価であるが、この場合の時価とはどのように算定するのか。 今回は、土地・建物の一括譲渡の対価を仕入時の土地・建物の固定資産税評価額に基づいて按分したが、リフォームによる建物の価値増加部分が反映されないことを理由に否認された事例を検討する。 ▷事例の概要と争点 納税者である法人は、中古住宅を仕入れてリフォームを実施し、物件の価値を増加させて販売する事業を営んでいる。仕入先の約9割は個人であり、仕入れた物件の約9割が戸建住宅である。 仕入時の消費税額の算出方法は、仕入時の土地・建物の固定資産税評価額の比率で按分する方法である。販売時の消費税額の算出方法は、戸建住宅の場合は、売買代金総額に2.7%を乗じた金額の1万円未満を切り捨てた金額とした。 これは、過去(平成25年4月1日から同年9月30日までの6ヶ月間)の建物の固定資産税評価額等が、各々の物件の固定資産税評価額合計額に占める割合の平均値が約34%であったことから消費税率8%を乗じて算出したものである。集合住宅については、この率を5.4%とした。上記で算出した消費税額を100分の8で除して建物の譲渡対価の額とし、売買代金総額から建物の譲渡対価の額と消費税額を差し引いた金額を土地の譲渡対価の額としていた。 この算出方法に基づいて納税者は消費税の申告をしたが、平成27年4月1日から平成31年3月3月31日までの各課税期間の消費税の還付申告が合計12億円にも上ったところ、課税庁は、販売時の消費税額を売買代金総額に2.7%や5.4%を乗じて算出した消費税額を100分の8を除して求めた譲渡対価の額については、「課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡対価の額とに合理的に区分されていないとき」(消令45③)に該当するとして、更正処分等を行った。 課税庁は、課税資産の譲渡対価の額は、各物件の売買代金総額に、各物件の売上原価の総額のうち建物の売上原価の占める比率で按分する方法に基づいて算出した金額に108分の100を乗じて、建物の譲渡に係る消費税額の課税標準を算出した。 これに不服な納税者が審査請求をしたが、請求から3ヶ月が経過しても裁決がなかったため、令和3年3月29日に提訴した。 争点は、以下の3点である。 ▷裁判所の判断は 裁判所は、上記の①~③の争点について次のように判示したうえで、納税者の請求をすべて棄却した。 * * * このように今回の裁判では、仕入時の固定資産税評価額による販売価額の按分は、仕入後のリフォームによる価値増加部分が反映されないことを理由に否認された。同じように固定資産税評価額の比率による按分が否認された事例としては、本連載【第32回】「土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について鑑定評価額に基づく按分が認められた事例」で取り上げた東京地方裁判所令和4年6月7日判決(TAINSコード:Z888-2479)がある。 固定資産税評価額の比率で按分することが否認されるのは、固定資産税評価額の比率では価値の著しい変動が反映されない場合に限られるのだろうか。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第49回】 「日本圧着端子事件 (高判平22.1.27)(その2)」 ~国税通則法77条1項及び2項、104条2項、租税特別措置法66条の4、同施行令39条の12~ 税理士 青木 幹 (2) 独立企業間価格の算定の合理性 ① 売手の機能に加えて買手の機能を考慮すべきとの主張について 納税者は、B社及びC社向け取引は商社向け取引であり、台湾法人グループ向け取引はハーネスメーカー向け取引であり、売手の機能だけでなく、買手の機能も考慮すべきと主張する。台湾法人グループの内H社を除きハーネスメーカーであるから、台湾法人グループ向け取引の粗利率から、商社が得るべき利益を切り出して、卸売機能のみに係る粗利率を抽出する作業が必要であると主張する。また、納税者が技術情報収集や広告宣伝費の7割を負担しているとの全体から見れば一部にすぎない事情を過大評価し、台湾法人グループ向け取引とB社及びC社向け取引とを同列に考えることはできないことを挙げて、本件比較対象取引と本件国外関連取引とは取引段階に差異があり、その間に重要な定性的差異が認められるから、調整が必要であると主張する。 しかしながら、B社及びC社を含め、海外子会社に対する輸出取引に係る対価の額を原則として工場仕切価格を0.909で除した金額(おおむね工場仕切価格に10%を乗じた利益を加算した金額)として、非関連者向けに通常設定される価格とは異なった低い価格を設定しているのであって、このような価格設定は取引段階の差異を考慮して定めたものとはいえない。 また、台湾法人は納税者の販売代理店として、納税者から製品を直接輸入し、台湾市場で商社機能を果たしてきた。B社及びC社が商社であり、台湾法人グループ各社がハーネスメーカーであるという明白な事実関係が存在するわけでもない。台湾法人グループ各社向け価格は商社であるH社向け価格とほぼ同額であるから、台湾法人グループ向け価格が純然たるハーネスメーカー向けに設定された価格であると直ちにいうことはできない。 さらに、本件国外関連取引と本件比較対象取引は、ともにメーカーである納税者の機能に基づき、商社又はメーカーに対して行われた、いわゆる製造卸取引であり、売手の果たす機能に差異は存しない。本件国外関連取引と本件比較対象取引が取引段階を異にし、その間に「通常の利益率」に影響を及ぼす客観的に明白な差異が存在するとは、にわかに認め難いところ、そのような差異が存在しないと推認するのが相当であると裁判所は判示した。 ② 台湾法人グループに対する原価が割高となっているかどうか 納税者は、納税者のT工場の1年間の生産状況に関する現実の情報量を完全忠実にデータ化し、分析することはおよそ不可能であるとした上で、平成11年3月期の納税者のT工場の受発注、生産、出荷等の状況を解析し、その過程において、膨大かつ複雑に相互関連しているデータ群を有意な分析を行える限度で簡素化・標準化したものであるとして、本件分析報告書に基づき、台湾法人グループとの製品原価は、B社及びC社との取引におけるそれと比べて割高となっていることを主張する。また、「機会原価」の概念を用いた分析方法による本報告書が正当であるとして、分析意見書を提出する。 しかしながら、その計算の前提条件については、種々の仮定値を織り交ぜたものであって、必ずしも実績値に基づくものではなく、種々の不合理な点が存在するから、到底採用できるものではないし、「機会原価」なる概念を用いた数値が法人税法上の所得計算において何らかの意味を持つ数字とはいえず、上記分析意見書の提出があっても何ら変わるものではない。 作業手順書にも、受注数に一定の数が加算されて製造指図がなされていることや各販売部門の在庫数や販売実績を基に在庫計画が行われていることが記載されているのであって、このような在庫品が台湾法人グループに出荷されていないことを認めるに足る証拠はない。そもそも、納税者においては、販売先からの受注割込み生産に対応することがあるとしても、同一工場で同一製品を製造するに当たり、計画生産であるか割込生産であるかによって区分した原価計算を行っていないのであって、このことは、本訴において計画生産における場合の原価と割込生産による場合の原価を端的に立証できず、法人税法における原価計算制度の範囲外である「機会原価」なる概念を用いて、割込生産による製造原価への影響額を数値化しようとしていることからも明らかである。 したがって、台湾法人グループからの受注を割高な割込生産で行っているとして、販売価格に反映しているとする納税者の主張は、そもそも納税者の原価管理の実態と乖離したものであり、到底採用できないと裁判所は判示した。 ③ 結論 納税者の独立企業間価格算定に関する上記主張はいずれも理由がなく、本件比較対象取引と本件国外関連取引のいずれにおいても納税者の果たす機能に差異はなく、取引段階における差異も認められないから、納税者の主張する調整の必要は認められないと裁判所は判示した。 4 判決の結論 納税者の独立企業間価格算定に関する上記主張はいずれも理由がなく、本件比較対象取引と本件国外関連取引のいずれにおいても納税者の果たす機能に差異はなく、取引段階における差異も認められないから、納税者の主張に係る調整の必要は認められない。 5 判決の検討 (1) 比較対象取引は単独か複数をまとめたものかについて 本件においては、納税者は台湾法人グループについて、同一の価格表を使用して、商社であるH社についても、他のハーネスメーカーであり、かつ、卸売販売をする会社についても基本的に同じ価格で販売を行っていた。また、販売代理店契約において取扱商品を裸圧着端子及びその他電子コネクタ製品として、これらの合計で最低購入数量を取り決めていた。これらのことが決め手となって、比較対象法人を台湾法人グループとし、圧着端子類とコネクタ類を一括して利益率を評価することが、合理的であるとの判断がなされたと考えられる。 これらの台湾法人グループ各社について、台湾法人グループを一括して計算することには、非関連者に個別具体的な差異に由来する利益率の較差があるとしても、これらをまとめて比較対象取引の相手方とすることで各法人間に存する差異が相殺され、より適切に比較を行うことができる場合も想定しうるとして、合理性があると判断している。しかしながら、圧着端子類とコネクタ類を一括して原価率を算定することには疑問が残る。 納税者は、原価計算を細かく行っていないことが伺われる状況であり、圧着端子類とコネクタ類についてどの程度製造原価を把握していたか疑問がもたれる。そのような状況であるから、両者を一括して計算した課税庁の処分を是認したのであろうが、これらの製品についてのユーザーや製造技術の観点からは、圧着端子類とコネクタ類が租税特別措置法施行令39条の12第7項に規定する「同種又は類似の棚卸資産」に該当するか疑問である。圧着端子は、主に電気回路(ある程度の電圧と電流を扱う電気回路等)に使用する製品であり、機械や電気工事などに使用される製品で、いわゆる強電の分野の製品である。 また、圧着端子類は、裸の金属又は裸の金属に被覆を施した程度の単純な構造の製品である。一方コネクタ類は、電子機器の接続に使用されるコンマ・ミリメートルピッチであるような精密な製品が含まれ、プラスチックモールド成型された筐体に接点があるような製品である。精密なプリント基板に取り付けられる製品なども存在する。これらの製品は電子回路に使用され、小電流や高周波信号の伝送回路に使用されるいわゆる弱電用の製品である。もちろん、車両用のハーネスのようにある程度の電圧と電流を通すための製品もあり、相当程度製品に幅がある。 このように異なる製品である圧着端子類とコネクタ類を同種又は類似の製品ということができるか疑問である。圧着端子類とコネクタ類は、製造工程や製品市場も異なるものであるから、別々にCP法を適用することができるのであれば、別々に適用されるべきと考える。 地裁でのこの点の判断は、原価基準法に定める「同種又は類似の棚卸資産」は、独立価格比準法に定める「同種の棚卸資産」より広く、国外関連取引に係る棚卸資産の性状、構造、機能等の面において類似である棚卸資産を含み、これらの一部について差異があっても、その差異が通常の利益率に重大な影響を与えないと認められるときは、同種又は類似の棚卸資産として取り扱うことができるとしている。 この点については、納税者が原価計算を詳細に行っていなかったこととあいまって、高裁の判断は圧着端子類とコネクタ類の製品は、電気を接続する部品であるから同種又は類似の製品と判示しているが、このような大まかな分類が許されるのであれば、食品を調理する製品であるから、トースターと電子レンジは同種又は類似の製品ということもあり得ることとなり、どの程度の類似性又は同種性があれば、類似又は同種の製品といえるかが今後の課題となろう。 (2) 差異調整について 地裁は、課税庁は、原価基準法の適用において、国外関連取引と比較対象取引との間でなんらかの要素について差異が存在する場合であっても、その差異が価格や利益に与える影響を十分正確に確認することができない場合には、その調整は不要であるとの主張を退け、仮に、国外関連取引と比較対象取引との間において通常の利益率に重大な影響を与えるような差異が存在し、かつ、その差異による具体的な影響額を相当程度正確に算定することができない場合には、当該比較対象取引の比較対象としての適格性に疑義が生ずべきことは参考事例集に記載のとおりであるから、仮に課税庁の主張がこれに反する趣旨であるとすれば、当該主張は採用することができないとして、基準を明確に示した。 また、租税特別措置法関係通達66の4(2)-3(当時)が列挙する下記の要素について検討し、それを踏襲している。 (3) 全般について 納税者は原価計算において、型の交換など製品ごとの製造に要した時間により、間接費を配賦する等の方法によっていたとしたならば、台湾法人グループの製品原価もその影響を受けて利益率がより低く算定されたことも想定される。 納税者は、そもそも移転価格のことを十分に想定せずに国外関連取引に係る価格を設定していたのではないかと思われる。現行法においては、documentationが求められており、この段階で相当程度検討がなされ、状況は本件当時とは変わっていると考えられる。判決においては、独立企業間価格に幅はないが、時価の概念においては、相対取引である以上、現実問題としてある程度幅があると思われる。独立企業間価格にも、諸要素や調整による差が発生する余地があり、算定者が異なれば計算結果にもある程度の幅で差が生じると考えられる。判示においても、台湾グループ法人各社の差がグループ化することにより平準化されるとしている。コンパラブルの抽出、納税者のイニシャティブで算定するのか、課税庁のイニシャティブで算定するかにより、算定される独立企業間価格に差が生じることになるであろう。算定結果から一定範囲の幅を独立企業間価格と認めるようなことは考えられないであろうか。今後の検討課題となろう。 (了)
〔重要ポイント解説〕 サステナビリティ開示基準案 【第4回】 (最終回) 「「気候関連開示基準(案)」の概要」 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 2024年3月29日にSSBJより以下のサステナビリティ開示基準案が公表された。 今回は、サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」(以下、「気候開示基準案」という)の概要を解説する。 〇 気候開示基準案の概要 気候開示基準案では、企業の気候関連のリスク及び機会に関する情報の開示について定めている。 (1) 目的 気候開示基準案の目的は、一般目的財務報告書の主要な利用者が企業に資源を提供するかどうかに関する意思決定を行う際に有用な、企業の気候関連のリスク及び機会に関する情報の開示について定めることにある(気候開示基準案1)。 気候関連開示は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれる気候関連のリスク及び機会に関する情報を開示する。また、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれない気候関連のリスク(※1)及び機会(※2、3)に関する情報は、開示する必要はない(気候開示基準案2)。 (※1) 「気候関連のリスク」とは、気候変動が企業に与える、潜在的なネガティブな影響をいう。これらのリスクは、「気候関連の物理的リスク」と「気候関連の移行リスク」に分類される(気候開示基準案4(1))。 「気候関連の物理的リスク」とは、気候変動によりもたらされるリスクで、事象を契機とするもの(急性の物理的リスク)又は気候パターンの長期的な変化によるもの(慢性の物理的リスク)をいう(気候開示基準案4(2))。 「気候関連の移行リスク」とは、低炭素経済に移行する取組みから生じるリスクをいう。移行リスクには、政策、法律、技術、市場及びレピュテーション・リスクが含まれる(気候開示基準案4(3))。 (※2) 「気候関連の機会」とは、企業にとって、気候変動から生じる潜在的なポジティブな影響をいう(気候開示基準案4(4))。 (※3) 「企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれる気候関連のリスク及び機会」とは、短期、中期又は長期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、企業のファイナンスへのアクセス又は資本コストに影響を与えると合理的に見込まれる気候関連のリスク及び機会をあわせたものをいう(気候開示基準案4(5))。 (2) 範囲 気候開示基準案は、企業がさらされている気候関連のリスク(気候関連の物理的リスク及び気候関連の移行リスクを含む)及び企業が利用可能な気候関連の機会に適用する(気候開示基準案3)。 (3) コア・コンテンツの開示 ① 4つの構成要素 以下に関する情報を開示する。 ② ガバナンス ガバナンスの開示の目的は、気候関連のリスク及び機会をモニタリングし、管理し、監督するために企業が用いるガバナンスのプロセス、統制及び手続を理解できるようにすることにある(気候開示基準案9)。 具体的には、主に以下の内容を開示する(気候開示基準案10~12)。 ③ 戦略 戦略を開示する目的は、気候関連のリスク及び機会を管理する企業の戦略を理解できるようにすることにある(気候開示基準案13)。 具体的には、主に以下の内容を開示する(気候開示基準案14~39)。 (※4) 気候レジリエンスとは、気候関連の変化、進展又は不確実性に対応する企業の能力をいう(気候開示基準案5(2))。 ④ リスク管理 リスク管理を開示する目的は、気候関連のリスク及び機会を識別、評価し、優先順位付けし、モニタリングするプロセスを理解できるようにすることにある(気候開示基準案40)。 具体的には、主に以下の内容を開示する(気候開示基準案41~42)。 ⑤ 指標及び目標 指標及び目標を開示する目的は、気候関連のリスク及び機会に関連する企業のパフォーマンスを理解できるようにすることにある(気候開示基準案43)。 具体的には、主に以下の内容を開示する(気候開示基準案44~101)。 (※5) 「スコープ1温室効果ガス排出」とは、報告企業が所有又は支配する排出源から発生する直接的な温室効果ガス排出をいう。「スコープ2温室効果ガス排出」とは、報告企業が消費する、購入・取得した電気、蒸気、温熱又は冷熱(電気等)の生成から発生する間接的な温室効果ガス排出をいう。「スコープ3温室効果ガス排出」とは、報告企業のバリュー・チェーンで発生する間接的な温室効果ガス排出(スコープ2温室効果ガス排出に含まれないもの)をいい、上流及び下流の両方の温室効果ガス排出を含む(気候開示基準案6(4)~(6))。 (連載了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第24回】 「その他の注記①」 -退職給付に関する注記- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における退職給付に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表及び個別注記表において、退職給付に関する注記は必ず記載しなければならない項目ではなく、その重要性を勘案して、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断した場合に注記することになります。 注記する内容は、会計基準で定められている注記事項や有価証券報告書で開示が求められる事項を参考に検討することが一般的です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも退職給付に関する注記について具体的な記載例は示されておらず、次のような記載上の注意が示されています。 【連結注記表】 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) その他の注記(退職給付に関する注記)の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき退職給付に関する注記事項の定めは会社計算規則にはなく、次のようなその他の注記として包括的に定められています(会社計算規則第116条)。 (2) 注記事項の解説 退職給付に関する注記は、会社計算規則上、必ずしも記載が求められているものではなく、財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と企業が判断した場合に注記することになります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [大東建託株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※大東建託株式会社「第49期定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」39頁より抜粋。 [株式会社キッツ 2023年12月期 連結注記表] ※株式会社キッツ「第110回定時株主総会招集ご通知(交付書面非記載事項)」41頁より抜粋。 * * * 次回の第25回は、「その他の注記(減損損失に関する注記)」をテーマに解説します。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第20回】 「退職代行業者からの退職依頼」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 「退職代行」を利用して勤め先を辞める人が増えています。今回は、退職代行業者から退職手続きの依頼があったときの対応と留意点について、解説します。 * * 解 説 * * 1 退職代行とは 退職代行とは、労働者が事業所に対して行う「退職の意思表示」を、労働者に代わって事業所に伝える業務のことです。退職代行業務を行う者は、弁護士事務所、専門の退職代行業者、労働組合等です。 2 退職代行業者からの依頼内容の確認 依頼の内容が、退職することだけなのか、未払い残業代、退職条件、ハラスメントなど労働問題への対応を含むのか等の確認が必要です。 退職代行業者が本人に代わって未払い残業代の請求や退職条件などの交渉をするためには、弁護士資格が必要です。 弁護士資格がない退職代行業者ができることは、「退職の意思を伝えること」と「書類の提出」などの事務的な手続きに限られます。 ただし、労働組合運営の退職代行の場合、労働組合は団体交渉ができるため、事業所との交渉を行っても非弁行為(弁護士法違反)には当たりません。 3 退職代行業者への対応 (1) 退職意思の確認 従業員本人が本当に退職を希望しているのかどうかの確認が必要です。 退職代行業者を利用している場合、従業員本人と直接連絡をとることは差し控えた方が望ましいので、退職代行業者に退職届又は委任状を提出してもらうなどして、本人からの依頼であることを確認する必要があります。 (2) 退職通知内容の確認 通知書の形式は様々ですが、下記通知例を参照してください。 〈弁護士事務所からの通知書の例〉 (3) 回答書の作成等 代行業者から内容証明郵便等の書面による連絡を受けたときは、その受領書を送付し、事務所としての方針を決定後、書面による回答をします。 回答書は、通知内容に従って作成します。回答例を参照してください。 〈回答例〉 4 留意点 退職代行業者から退職手続きの依頼があったときに、退職希望の従業員に対して、直接、電話連絡をすることや訪問することは避けなければなりません。トラブルに発展する可能性があります。 退職者が、退職代行業者に依頼する意図がどこにあるのかは、不明な場合も多いですが、できるならば、代行サービスを利用されずに円満退職してもらうのが、望ましいです。事務所としても、退職代行サービスを利用することなく、従業員が退職できるような環境を作っておくことが大切です。 (了)
〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第21回】 「所有権の登記における登記事項の追加」 司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行 【Q】 所有権の登記における登記事項の追加に関する詳細が、通達の公布等によって明らかになったと聞きました。この内容について教えてください。 【A】 以下の点が明らかになった。 -《解説》- 1 はじめに 令和4年8月25日に公開された本連載【第9回】「新設された“海外在住者取得の日本の不動産につき国内の連絡先となる者を登記させる制度”の概要と注意点」において、海外在住者取得の日本の不動産につき国内の連絡先となる者を登記させる制度の概要と注意点をご紹介した。 この当時は確定していなかった事項が、令和6年3月22日法務省民二第551号(所有権の登記の登記事項の追加関係)(通達)で明らかになった。 今回は、本Web情報誌の中心的読者であり、かつ相続実務に関わることが多いと思われる税理士、公認会計士、企業の実務担当者にとって必要な限度で、この明らかになった点を解説する。 また、相続実務に直接的には関係しなかったので、本連載の中では、所有権の登記名義人が法人であるときの登記の改正点について今まで解説をしてこなかった。しかし、今回紹介する通達によって、所有権の登記名義人が法人であるときの登記簿の記録例が明らかになったので、同じ通達を紹介する都合上ここで取り上げることにした。 所有権の登記名義人が法人であるときの登記の改正点についても、法人の税務会計に関わることが多い税理士、公認会計士、企業の実務担当者にとって必要な限度で、この明らかになった点を解説する。 2 「国内の連絡先となる者」に税理士等はなり得るか まずは復習代わりに、【第9回】の解説を確認してほしい。 【第9回】で【補遺】として取り上げた「「国内の連絡先となる者」に税理士等はなり得るか」という論点に関して、通達の考えをお伝えする。結論としては、通達上も法律上国内の連絡先となる者に資格の制限をしておらず、税理士や税理士法人も日本の不動産について国内の連絡先となる者になり得ると思われるという点は変わらない。 1つ新たに情報提供をすると、「国内連絡先となる者の氏名又は名称並びに国内の住所又は国内の営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在地及び名称」が登記事項になったことが挙げられる。上記では、住所だけでなく営業所や事務所も登記事項となっている点に注目をしてほしい。ここからわかるのは、税理士が「国内の連絡先となる者」になったとしても、個人住所ではなく事務所の住所を登記事項とすることができる点である。 このように、個人住所を公開することなく税理士が「国内の連絡先となる者」として登記の対象となる。税理士が「国内の連絡先となる者」の地位を引き受けるにあたり1つの安心材料となるのではないだろうか。 3 所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときの登記簿の記録例 国内連絡先事項ごとに、登記記録例を紹介する。 〈自然人の氏名及び住所を国内連絡先事項とする場合〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 〈自然人の氏名及び営業所等を国内連絡先事項とする場合〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (※) 上記は司法書士事務所として、「国内の連絡先となる者」となった場合の記載例である。税理士の場合は、乙某税理士事務所のように記載されることになる。 〈法人の名称、住所(本店)及び会社法人等番号を国内連絡先事項とする場合〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (※1) 税理士法人が「国内の連絡先となる者」となった場合は、税理士法人の主たる事務所の住所と名称、税理士法人の会社法人等番号が記載されることになる。 (※2) 税理士法人に支店がある場合は、支店を登記対象とすることもできる。 4 所有権の登記名義人による法人識別事項の申出 法人識別事項の申出制度の趣旨については、法務省のホームページをご参照いただきたい。 (※) 法務省ホームページ「所有権の登記名義人による法人識別事項(会社法人等番号等)の申出について」より抜粋。 5 所有権の登記名義人が法人であるときの登記簿の記録例 法人の税務会計に関わることが多い税理士、公認会計士、企業の実務担当者は、所有者として法人が登記された不動産の登記簿を見る機会も多いと思われる。そのため、所有権の登記名義人が法人であるときの登記簿を読み解く必要もあるので、主要な登記簿の記録例を紹介する。 〈所有権の移転の登記〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (※1) 上記のように、令和6年4月1日以後は、商号の下に会社法人等番号が記録されることになった。 (※2) 令和6年4月1日以後に、法人が所有権の保存・移転の登記の申請をする場合、法人がすでに所有している不動産の所有権の登記名義人の名称又は住所について変更の登記の申請をする場合、法人自身が登記官に対し、その会社法人等番号を登記記録に記載するよう申し出た場合等が新たに会社法人等番号が記録される代表例である。 ➡ すなわち、令和6年4月1日以前に法人が所有権の不動産登記名義人になっている場合に、当然には会社法人等番号が記録されるわけではない。このように、すべての不動産登記簿に法人の会社法人等番号が記録されるわけではない点に注意する必要がある。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例94】 ニデック株式会社 「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」 (2024.5.24) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ニデック株式会社(以下「ニデック」という)が2024年5月24日に開示した「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」である。同社は、2023年3月期の内部統制報告書において自社の財務報告に係る内部統制は有効であるとしていたのだが、開示すべき重要な不備があり、有効ではないと訂正した。 今回の開示に記載されたその「開示すべき重要な不備の内容」は、次のとおりである。 同社は、同日、「過年度の決算短信及び有価証券報告書等並びに内部統制報告書の一部訂正に関するお知らせ」を開示して、2023年3月期の決算情報を訂正している。2023年3月期の親会社の所有者に帰属する当期利益は45,003百万円から36,982百万円へと実にマイナス17.8%の訂正である。 本連載【事例85】でみたとおり、同社は分配可能額の計算ができていなかった。それに続いて今回は大幅な決算情報の訂正である。【事例85】において「同社の内部統制と企業統治がプライム市場上場企業の水準と言えないことは明らか」と述べたが、もはや上場していてはいけない水準だろう。 2 また監査法人のせい? 今回の開示の主文は次のとおりである(下線は筆者による)。 また、「過年度の決算短信及び有価証券報告書等並びに内部統制報告書の一部訂正に関するお知らせ」の主文は次のとおりである(下線は筆者による)。 内部統制報告書も有価証券報告書も、監査法人による監査が済んでいないものは財務局に提出できないため、この「監査法人にて監査済」は、あえて記載する必要のない、おかしな表現である。なお、四半期報告書については、あえて記載するならば、「監査法人にてレビュー済」であろうが、それも同様におかしな表現になる。 【事例85】で取り上げた2023年6月2日開示の「分配可能額を超えた前期の中間配当金、並びに前期の当社株式取得について」の主文の前半も次のように記載されていた(下線は筆者による)。 「見落としにより」をあえて強調して、過大配当は監査法人のせいだと言いたいようであったが、今回の件も監査法人のせいにしたいのだろうか。上場企業ならばできて当たり前のことができていなかったのである。まずは謙虚に反省すべきだろう。 なお、警察による捜査等と異なり、監査は会社から情報を提供してもらって行うものである。監査法人と会社が協力して行うものであり、両者の間に信頼関係が成立していなければ、上手くいくはずがない。ニデックの開示をみていると、そもそも同社と監査法人の間には信頼関係が成立していないように思えてしまう。 3 ほかには? ニデックは分配可能額の計算ができていなかったうえに、今回は大幅な決算情報の訂正を行い、財務報告に係る内部統制が有効ではないというのである。ほかに問題点はないのだろうか。今回の開示に記載された「開示すべき重要な不備の是正方針」は次のとおりである。 「再発防止策を速やかに策定、実行する」として「具体的には以下のとおり」としているが、具体的な施策であるようには思われず、心配になってくる。今回の件だけでなく、ほかにも問題がないか、徹底的な調査を行ったうえで、より具体的な改善策を検討すべきではないだろうか。 (了)