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〈令和5年度改正及び改正通達を踏まえた〉生前贈与加算・相続時精算課税制度のポイント 【第2回】「相続時精算課税制度の見直し①」~基礎控除の創設~

〈令和5年度改正及び改正通達を踏まえた〉 生前贈与加算・相続時精算課税制度のポイント 【第2回】 「相続時精算課税制度の見直し①」 ~基礎控除の創設~   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 佐藤 達夫   1 改正の背景 【第1回】の「生前贈与加算制度の見直し」においても述べたとおり、相続時精算課税制度の使い勝手を向上させるため、相続時精算課税においても基礎控除110万円が設けられた。 また、相続時精算課税により贈与を受けた土地又は建物について、災害により一定の被害を受けた場合には、相続時に相続税の課税価格へ加算又は算入される金額を再計算することができることとなった。 なお、土地又は建物の相続税の課税価格へ加算又は算入される金額の再計算の詳細については、次回の【第3回】において解説を行う。   2 基礎控除の創設 (1) 相続時精算課税における基礎控除の改正内容 相続時精算課税を選択した受贈者は、特定贈与者ごとに、その贈与年の特定贈与者からの贈与により取得した財産の価額の合計額から基礎控除110万円及び特別控除(最高2,500万円)の適用がある場合はその金額を控除した残額に対して、税率20%を乗じて贈与税額を計算することになった(相法21の11の2、相法21の12①、措法70の3の2①)。相続時精算課税に係る基礎控除の額は、各年分において、受贈者ごとに110万円になる(相基通21の11の2-1)。 なお、相続時精算課税に係る基礎控除110万円は、暦年課税に係る基礎控除110万円とは別のものであり、例えば、2人から贈与される場合に暦年課税に係る基礎控除110万円と相続時精算課税に係る基礎控除110万円をそれぞれ適用することが可能である。そのため、暦年課税と相続時精算課税を併用すれば、年間で最大220万円までの贈与について、贈与税が課税されないことになる。 〈贈与税の計算〉 特定贈与者ごとに、次のとおり贈与税を計算する。 (※) 既に特定贈与者からの贈与について控除した金額がある場合には、既に控除した金額の合計額を控除した残額になる。 (注1) 同一年に2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合の特定贈与者ごとの基礎控除の額は、基礎控除額(110万円)を特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分する(相基通21の11の2-2)。 (注2) (注1)の算式により計算した特定贈与者ごとの相続時精算課税に係る基礎控除の額に1円未満の端数がある場合には、特定贈与者ごとの相続時精算課税に係る基礎控除の額の合計額が110万円になるように端数調整を行って差し支えない。 (注3) 特定贈与者には、贈与をした年の中途において死亡した特定贈与者も含まれる。 (注4) 贈与税の申告期限後に、その年分の課税価格に異動が生じたときは、特定贈与者ごとの相続時精算課税に係る基礎控除の額は、異動後の贈与税の課税価格を基礎として再計算を行う(相基通21の11の2-3)。 また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算又は算入される特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、贈与時の価額から基礎控除額110万円を控除した残額になる(相法21の15①、21の16③)。 《計算例》 5,000万円相当の不動産について相続時精算課税により贈与した場合は、次のとおりになる。 〇贈与税の計算 (※1) 「基礎控除110万円」は毎年110万円まで、「特別控除2,500万円」は特定贈与者ごとの累積2,500万円までとなる。 〇相続時に加算される金額 (※2) 災害により相当の被害を受けていないものと仮定する。 〈相続時精算課税制度の見直し〉 〈相続時精算課税の改正前後の比較〉 (※) 贈与年の1月1日現在の年齢 (2) 相続時精算課税選択届出書の提出方法の見直し 相続時精算課税における基礎控除が設けられたことにより、特定贈与者から贈与を受けた財産の価額が相続時精算課税における基礎控除以下となる場合には、贈与税の申告書の提出が不要になる(相法28①②)。 そのため、相続時精算課税選択届出書のみを提出することができることになり、この場合、届出書へその旨を記載することとなった(相令5①、相規10①四・②五)。 (3) 適用時期 この改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用される(改正法附則19①④⑤⑥、51④)。   3 実務上のポイント   (了)

#No. 559(掲載号)
#佐藤 達夫
2024/03/07

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例60】「未経過固定資産税相当額を支払った場合における当該金額の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例60】 「未経過固定資産税相当額を支払った場合における当該金額の損金性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、九州地方のある県庁所在地に本社を置き、旅館やホテルを数件所有して経営する株式会社X(資本金1億円で3月決算)に勤務しており、現在経理部長を務めております。ここ数年続くコロナ禍でわが国の旅行業界は大変なダメージを受け、政府や地方自治体の繰り出す様々な旅行支援も思いのほか効果がなく、地方に所在する多くの旅館やホテルが経営危機に陥り、廃業に追い込まれるか、同業他社に買収されるか、全く別の業種に転換するかといったいくつかの選択肢の中から自らの将来を決めざるを得ないという、きわめて厳しい状況でした。 そのような中でも、SNSを駆使した地道なプロモーション活動を行った結果、徐々にリピーターを獲得し、コロナ禍の影響が薄らいだ昨年から、おかげさまで週末は満室、平日も3分の2ほどの稼働率が得られるようになり、何とかやっていけているところまで回復しました。地域経済はおしなべて疲弊していて、同業他社も全般的に苦境にある会社が多いためか、比較的ましな当社に、様々な身売り等の話が舞い込んできます。先日も、取引先である信用金庫から隣県にある、既に廃業した旅館の敷地及び建物の売却の話があり、応じることにしました。その際、建物と敷地の代金のほか、両者にかかっている固定資産税及び都市計画税のうち、売却日までのものを日数按分した額を合わせて支払っております。 ところが、この件につき弊社の顧問税理士に相談したところ、未経過固定資産税(都市計画税を含む)は新たに取得した旅館の取得価額に算入されるべきものであり、損金算入はまかりならんと苦言を呈されました。税務署上がりのこの税理士は、かなり保守的な会計処理を好む傾向にあり、私としてはもう少し納税者有利のアドバイスが欲しいところですが、社長と馬が合うようで、強く言えないところです。税務上の取扱いは本当にこれでよいのでしょうか、教えてください。 【A】 固定資産税及び都市計画税の納税義務者は、賦課期日である毎年1月1日における固定資産の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている者ですので、年の途中で不動産の売買があった場合には、1月1日時点における不動産の所有者である売手に1年分の固定資産税及び都市計画税が課されます。そのため、実務上は売手に課された固定資産税及び都市計画税を、売買期日をもとに期間按分して、買手から売手に買手が負担すべき金額(未経過固定資産税精算額)を交付するのが通例となります。当該精算額は、固定資産税等に係る買主の納税義務に基づくものではなく、固定資産税等そのものではないことから、実質的には、売買対象となる不動産の「購入の代価」の一部を成すため、取得価額に算入されるべきものとなります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 固定資産税・都市計画税の意義 不動産(土地及び家屋)の所有者、及び償却資産の所有者に対しては、固定資産税が課される。また、都市計画法による市街化区域内に所在する土地及び家屋の所有者に対しては、都市計画税が課される。いずれも地方税で市町村税である。 固定資産税は、一般に、固定資産の所有の事実に着目して課される財産税であると解されている(※1)。一方、都市計画税は、都市計画事業又は土地区画整理事業に要する費用に充てるため、都市計画区域内の一定の土地及び家屋に対して課される目的税である(※2)。固定資産税と納税義務者及び課税標準を同じくする都市計画税が、固定資産税のほかに課される根拠としては、一般に、市街化区域内に所在する土地及び家屋が、都市計画事業等によって利用価値が増大し、また価格の上昇等に係る利益を得ることとなるため、それらの利益に着目して課される受益者負担的目的税であるためと解されている(※3)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)769頁。 (※2) 金子前掲(※1)書800頁。 (※3) 金子前掲(※1)書800頁。   (2) 未経過固定資産税の意義 固定資産税及び都市計画税の納税義務者は、賦課期日である毎年1月1日における固定資産の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている者である(地法343①、702①)。そのため、年の途中で不動産の売買があった場合も、その年の不動産の所有者である売主に1年分の固定資産税・都市計画税が課されることとなる。そうなると、例えば、1月2日に売買があった場合であっても、売手は1日しか当該不動産を使用していないにもかかわらず、1年分の固定資産税・都市計画税を負担することとなり、公平(衡平)性の観点から疑問が呈されるところである。 そこで、不動産売買においては、当該不公平感を解消するため、売買当事者間の合意により、固定資産税・都市計画税の負担を所有期間により日数按分し、買手が自己の所有期間に応じた金額(未経過固定資産税相当額)を売手に支払う(精算する)実務慣行が定着しているところである。これを以下の例に即してみていこう。 〈例〉   (3) 未経過固定資産税相当額を支払った場合における当該金額の損金性が争われた事例 それでは、本件と同様に、未経過固定資産税相当額(固定資産税等精算金)を支払った場合における当該金額の損金性について争われた事例(長崎地裁平成27年10月5日判決・税資265号-148(順号12731)、TAINSコード:Z265-12731)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 菓子製造業等を営む原告は、平成22年4月、土地建物を売買により取得し、その際に、その年の固定資産税及び都市計画税の税額のうち日割計算による未経過分に相当する金額を支払うことを合意して、売主に精算金(固定資産税等精算金)として支払った。そして、法人税について、本件精算金の額を損金の額に算入するなどして確定申告をしたところ、長崎税務署長(処分行政庁)から、本件精算金は上記土地建物の取得価額に含まれるなどとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。 本件は、原告が、被告に対し、本件精算金は上記土地建物の取得価額に含まれず、損金に算入されるべきものであるなどと主張して、本件更正処分等の取消しを求める事案である。 〇 取引概要図 長崎税務署長が本件更正処分等をした根拠は、本件精算金の額合計60万8,028円は、法人税法施行令第54条第1項第1号イの「当該資産の購入の代価」にあたり、「取得価額」(同法第31条第6項)に算入すべきものであって、納税者の主張である、租税公課であり一般管理費(同法第22条第3項第2号)にあたるものとして「損金」の額に算入することはできないとしたものである。 ② 事案の争点 本件の争点は、本件精算金が「当該資産の購入の代価」(法人税法施行令第54条第1項第1号イ)にあたるとして本件不動産の「取得価額」(同法第31条第6項)に算入すべきか、固定資産税等そのものであるなどとして「損金」(同法第22条第3項)に算入すべきか、である。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されているが棄却され(福岡高裁平成28年3月25日判決・税資266号-55(順号12833)、TAINSコード:Z266-12833)、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 事業の用に供している不動産に係る固定資産税・都市計画税は、一般に、それにより得られる収益に対する費用(租税公課)として損金に算入される。そのため、固定資産税の負担額であるために単純に損金に算入されると考えがちであるが、本件のようにそうではないケースもある。すなわち、不動産売買においては、売買当事者間の合意により、固定資産税・都市計画税の負担を所有期間により日数按分し、買手が自己の所有期間に応じた金額(未経過固定資産税相当額)を売手に支払う(精算する)実務慣行が定着しているところであるが、これは私人間の契約により生じるものであって、地方税法に規定された納税義務に基づくものではない。そうなると、買手にとって当該精算金は、不動産の購入代価の一部であるから取得原価(法令54①一イ)に算入すべきものとなり、租税公課として損金算入するのは妥当ではないということになる。 本件精算金の性格について、高裁では、以下の通り判示しており、あくまでも売買当事者間の契約により発生するものであることをさらに明確にしているといえよう。   (4) 本件へのあてはめ 固定資産税及び都市計画税の納税義務者は、賦課期日である毎年1月1日における固定資産の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている者であるので、年の途中で不動産の売買があった場合には、1月1日時点における不動産の所有者である売手に1年分の固定資産税及び都市計画税が課される。そのため、実務上は、売手・買手間における租税負担の公平性の観点から、売手に課された固定資産税及び都市計画税につき、売買期日をもとに期間按分して、買手から売手に買手が負担すべき金額(未経過固定資産税精算額)を交付するのが通例となっている。当該精算額は、固定資産税等に係る買主の納税義務に基づくものではなく、固定資産税等そのものではないことから、実質的には、売買対象となる不動産の「購入の代価」の一部を成すと考えられるため、取得価額に算入されるべきものとなる。 (了)

#No. 559(掲載号)
#安部 和彦
2024/03/07

金融・投資商品の税務Q&A 【Q87】「申告不要とした配当等を更正の請求で総合課税に変更することの可否」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q87】 「申告不要とした配当等を更正の請求で総合課税に変更することの可否」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 配当所得と配当控除 (1) 確定申告を要しない配当所得 上場株式等の配当(株式の保有割合が3%以上である大口株主等が支払を受ける配当等を除きます。詳細は【Q74】参照)、受益権の募集が公募により行われた投資信託の収益の分配金など一定の配当等については、総所得金額の計算上、これらの配当等の金額を除外して計算することができることとされています。 つまり、納税者の選択により、確定申告をしないことが可能であり、他の所得について確定申告する場合もこれらの配当等を所得に含めないことが認められています。 (2) 配当控除 日本に本店がある法人から支払われる配当や一定の証券投資信託の収益の分配について、確定申告において総合課税を選択して所得計算をした場合には、その年分の課税総所得金額や配当所得の金額に応じて一定の方法で計算した金額を所得税の額から控除することとされています(配当控除)。 これは、法人の所得に対して課された法人税が個人株主の所得に対して課される所得税の前払いであると捉え、法人と個人との間の二重課税を排除することを目的とした制度です。 (3) 確定申告との関係 確定申告不要制度は、これを選択することによって、配当等を受領した際に源泉徴収された税額を最終的な税負担額とする措置です。つまり、上場株式等の配当等であれば、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率で源泉分離課税がされたのと同様の効果となり、配当控除の適用を受けることは認められないことになります。 また、確定申告不要制度を選択しないで総合課税の対象とした配当所得については配当控除を適用することはできますが、その後において、更正の請求や修正申告をする際に総所得金額等の計算から除外することはできないこととされています。逆に、確定申告不要制度を選択して総所得金額等の計算に含めなかった配当所得について、後日、更正の請求や修正申告をする際に総所得金額等の計算に含めることもできないこととされています(当然に配当控除の適用もありません)。 つまり、上場株式等の配当等については、納税者の判断によって、総合課税か申告不要かを選択することとされているため、一旦選択して申告した方法を後日変更することはできないということになります。   2 本件へのあてはめ 昨年の確定申告書において、A株式に係る配当とB証券投資信託に係る収益の分配金について申告不要制度を適用し、総所得金額等の計算に含めなかったとのことですので、配当控除は適用されなかったと解されます。この場合、配当控除を適用したほうが税額計算において有利であったことが分かったとしても、申告不要制度を適用しないで計算した更正の請求書を提出することは認められないと考えられます。 したがって、確定申告する際には、有利不利判定を的確に行った上で、申告不要制度を選択するか否かを慎重に決定する必要があります。   (了)

#No. 559(掲載号)
#西川 真由美
2024/03/07

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第38回】「ケイマンのLPSに対する役務提供の輸出免税該当性」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第38回】 「ケイマンのLPSに対する役務提供の輸出免税該当性」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 ケイマンのLPSに対する役務提供には消費税法上の輸出免税規定が適用されるのでしょうか。 〔A〕 ケイマンの法律では、パートナーシップとは収益を目的として共同で事業を営む人の間に存在する関係であるとされ、特例有限責任パートナーシップに法人格が付与される旨の定めもないことから、我が国の法令上、当該LPSは、法人格を有せず、収益を目的として共同で事業を営むための構成員間の契約関係という性質を有するものであり、役務提供の相手方は居住者である有限責任パートナーであるとし、消費税法上の輸出免税規定は適用されないと判断されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 外国事業体の法的性質について (1) 消費税法上の非居住者とは 消費税法上、非居住者とは、外国為替及び外国貿易法6条1項6号《定義》に規定する非居住者をいい、本邦内に住所又は居所を有しない自然人及び本邦内に主たる事務所を有しない法人がこれに該当する(※1)とされている(消令1②二)。 (※1) 昭和55年11月29日付蔵国第4672号「外国為替法令の解釈及び運用について」通達では、法人等(法人、団体、機関その他これらに準するものをいう)のうち、「外国の法人等」で非居住者に該当するものの例示として、「本邦にある外国政府の公館(使節団を含む。)及び本邦にある国際機関」が挙げられ、又、非居住者に該当するものの例示として、「外国の法人等の本邦にある支店、出張所その他の事務所」が挙げられているため、非居住者及び外国法人の意義は、所得税法及び法人税法における意義と実質的な差異はないものと思われる。 (2) 米国デラウェア州LPSの法人該当性に係る最高裁判例 外国法に基づいて組成された外国事業体の法人該当性については、日本の個人投資家が、米国デラウェア州のリミテッド・パートナーシップ(LPS)に出資し、そこで生じた損失を当該個人に帰属するものとして他の所得と損益通算したことについて、課税当局が、当該LPSは外国法人に該当するとして、当該損失の損益通算を否認したことが争点とされた事例(※2)がある。 (※2) 本連載【第21回】参照。 同事件の最高裁判決(※3)は、①設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討して判断、②(①による判断ができない場合には)当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かについて、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討して判断、という2つの判断基準を示し、本件の米国デラウェア州LPSは法人に該当すると判断した。 (※3) 最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決(平成25年(行ヒ)第166号) なお、上記最高裁判決と同時期に争われた英国領バミューダLPSの法人該当性が争われた事件(※4)では、上記最高裁判決が下されたことに対応し、他の事件はいずれも上告不受理とされた。すなわち、同じLPSと称されるものであっても、米国デラウェア州LPSは「法人」に該当するとされたが、バミューダLPSは「法人」に該当しないこととされたのである(※5)。 (※4) 東京地裁平成24年8月30日判決(平成23年(行ウ)第123号)及びその控訴審の東京高裁平成26年2月5日判決(平成24年(行コ)第345号)等 (※5) 品川芳宣『重要租税判決の実務研究(第4版)』(大蔵財務協会・2023年)493頁は、「バミューダ事件においては、バミューダLPS(中略)が、我が国の法人と同様な損益の帰属主体であることを否定した。最高裁判所がこの判断を容認したのは、関係法令を踏まえた上での一種の事実認定に関わる差異であるものと認めたものと考えられる。」と述べている。 以下では、役務提供の相手方の属性が何かについて、審査請求人が上記最高裁判決を参考に主張したと思われる、消費税の輸出免税規定の適用の是非が争われた審査請求事件を検討する。   2 最近の裁決例 《国税不服審判所令和3年11月10日裁決》(※6) (※6) 令和3年11月10日東審(諸)令3第32号・TAINSコード:F0-5-369 (1) 事案の概要 本件は、請求人が、英国領ケイマン諸島における特例有限責任パートナーシップ(本件LPS)の資産に係る運営管理業務を受託しているところ、原処分庁が、当該業務に係る役務提供(本件役務提供)は特例有限責任パートナーシップの構成員である居住者に対し行われたものであるから、当該業務の対価は課税売上げに該当するとして原処分を行ったのに対し、請求人が、当該役務提供は非居住者である特例有限責任パートナーシップに対するものであるから当該業務の対価は免税売上げに該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点及び請求人の主張 本件の争点は、本件役務提供取引の輸出免税該当性であるが、請求人は、①本件LPSは法律上の権利と権限を有しており、本件LPSが法人格を有しないと仮定しても、役務提供を受ける権利及び権限は消滅せず、契約の締結主体となる。②業務の役務提供と利益の分配は全く性質の異なる行為であるから、本件LPSが利益の分配先であることをもって本件役務提供の提供先であると評価することは合理性を欠いている等の主張を行った。かかる請求人の主張は、上記1(2)の最高裁判決を踏まえたものであることは明らかである。 (3) 審判所の判断 審判所は以下のように判断し、本件LPSの法人該当性を否定して、役務提供の相手方は本件LPSの有限責任パートナーである日本の居住者であり、消費税法7条1項の輸出免税規定は適用されないとした。 ① 本件LPSの法的性質について 本件LPSは、ケイマン特例法の諸規定に従い、特例有限責任パートナーシップとして、各パートナーの合意により創設され、その目的は、請求人が随時決定する投資先に本件LPSの資産を投資することとされている。 また、ケイマン法では、①パートナーシップとは収益を目的として共同で事業を営む人の間に存在する関係である旨②会社又は団体が、会社の登録に関する法律に基づき会社として登録されているときは、その会社又は団体における構成員の関係は、ケイマン法におけるパートナーシップには該当しない旨等がそれぞれ定められているとともに、特例有限責任パートナーシップに法人格が付与される旨の定めもない。 これらのことを踏まえると、我が国の法令上、本件LPSは、法人格を有せず、収益を目的として共同で事業を営むための構成員間の契約関係という性質を有するものであると認められる。 ② 消費税法基本通達1-3-1の当てはめ 消費税法基本通達1-3-1は、共同事業に属する資産の譲渡等又は課税仕入れ等については、共同事業の構成員が、持分の割合又は利益の分配割合に対応する部分につき、それぞれ資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行ったことになる旨定めている。 そうすると、本件LPSは法人格を有さず、LPSの構成員が共同事業を行っているものと認められるところ、有限責任パートナーが役務提供に係る課税仕入れを行ったことになるのであるから、役務提供の相手方は有限責任パートナーであると認められる。 (4) 請求人の主張の排斥 上記(2)のとおり、請求人は、役務の提供と利益の分配は全く性質の異なる行為であるから、有限責任パートナーが利益の分配先であることをもって役務提供の提供先であると評価することは、合理性を欠いていると主張した。 これに対し審判所は、消費税法上、本件LPSは役務提供の相手方とはならず、共同事業を行う場合の役務提供の相手方はその構成員となることを前提に、本件LPSの有限責任パートナーが役務提供の相手方となると評価したものであって、単に利益の分配先であることを理由として評価したものではないとして、請求人の主張を排斥した。   3 検討 上記1(2)で最高裁が示した判断基準では、「権利義務の帰属主体」=「法人」該当性と読めるが、請求人の主張では、「本件LPSは法律上の権利と権限を有しており(下線筆者)」としており、そこでは内容的には一致していない。(米国デラウェア州の法律及びケイマンの法律双方の原文に当たったわけではないが)、一般に「権限」と「義務」とは全く反対の概念といえるため、審判所は、「権利義務の帰属主体」という判断基準を採用し得なかったものと推察される。 この点、請求人も、「本件LPSが法人格を有しないと仮定しても」とし、主張を一歩後退させたうえで、本件LPSが役務提供の契約締結主体になるとし、役務提供取引そのもの(消費税法上の問題)と利益の分配(所得税上の問題)は全く別物、という主張を展開したが、上記2(4)のとおり排斥されている。 本件は、審判所が、法人格を有しない外国LPSについての従来からの解釈を踏襲し、取引の相手方はその構成員たる有限責任パートナーであると判断したものと思われる。 なお、最高裁判決が示した「権利義務の帰属主体」という基準(※7)については、その射程を慎重に確定する必要があるという見解がある(※8)。諸外国の中では、日本の民法上の組合に相当する組織体に対しても、権利能力を認める判例法理が展開されている(※9)とのことである。 (※7) 最高裁の法解釈と日本の年金基金の日米租税条約適用に係る国税庁の英文見解との実務上の問題については、本連載【第21回】(※4)を参照。 (※8) 田中啓之・『租税判例百選(第7版)』(有斐閣・2021年)49頁、吉村政穂・税務弘報63巻12号100頁。立法の必要性を説くものとして、宮塚久=北村導人・旬刊経理情報1426号40頁。 (※9) 高橋英治「ドイツ法における民法上の組合の法人格」『ドイツと日本における株式会社法の改革』(商事法務・2007年)323頁。 (了)

#No. 559(掲載号)
#霞 晴久
2024/03/07

〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第15回】「申告納税制度が納税者救済のハードルを上げている法令解釈」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第15回】 「申告納税制度が納税者救済のハードルを上げている法令解釈」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 申告納税制度の位置付けに言及した裁決例 多数あるため、大阪国税不服審判所による裁決例から抽出する。 (1) 更正の請求(平成26年9月8日裁決) (2) 過去からの非違の指摘(平成27年2月13日裁決) (3) 税務相談(平成27年4月28日裁決) (4) 納税者による相続財産の調査(令和2年1月23日裁決) (5) 確定申告の告知(平成24年7月18日裁決)   2 申告納税制度の表の面 税理士法第1条にも規定されている「申告納税制度」について、文化勲章受章者であった故金子宏氏の『租税法(第24版)』(弘文堂・令和3年)56頁には、「納税者の激増に対処するためのやむをえざる措置であったともいえるが、しかし、この制度は、納税者が自分の税額を自ら計算し納付する制度であるため、民主的な租税思想にふさわしいものであると考えられた」とある。 また、東京大学名誉教授の中里実氏は、日本税理士会連合会が令和4年7月28日に挙行した税理士制度80周年及び第6次税理士法改正記念式典における記念講演(※)において、申告納税制度の採用には社会の政治的・経済的成熟が必要である旨を述べており、他国において行った税制支援における現地高官とのやりとりなどを引き合いにして、成熟度の高い国民だからこそ成り立つ制度であるという見解を述べている。 (※) 日本税理士会連合会ホームページ参照。   3 申告納税制度の裏の面 一方、申告納税制度は、成熟度の高い国民を前提としていることもあって、納税者救済のハードルを引き上げる効果を発揮している制度であるようにも考えられる。 まず、徴税(行政)コストを納税者に負担させることに成功しており、申告納税制度によって、国税庁の予算はかなり縮減できているはずである。 そして、申告納税制度が納税者にとって酷だと考えられるのは、国税不服審判所の裁決書において、同制度は、納税者の主張を排斥するためにしか事実上使われないといってよいキーワードだからである。   4 申告納税制度というハードル 税制は「公平・中立・簡素」であるべきといいつつも、我が国の税制が、少なくとも簡素とはいえないのは周知のことだろう。 しかし、申告納税制度は、我が国の複雑かつ膨大な税制について、納税者に対して、その不知や誤解を許してはくれず、納税義務の適正な履行を納税者自らの力で果たせない場合には、税理士といった専門家の助力を(自費で)求めることを要求している。 不服申立てや訴訟といった税務争訟において、原処分の取消しを勝ち取るには、その前提として、申告納税制度を満足に履行しているという高いハードルを越えている必要があり、その上で自らの関与する事案の救済可能性を見極める必要があるだろう。 (了)

#No. 559(掲載号)
#大橋 誠一
2024/03/07

〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第13回】「リース取引の税務上のポイント」~ファイナンス・リース取引の借手側と貸手側の処理~

〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第13回】 「リース取引の税務上のポイント」 ~ファイナンス・リース取引の借手側と貸手側の処理~   公認会計士・税理士 喜多 弘美   前回は、リース取引の税務上のポイントについて概要を整理しました。今回は、ファイナンス・リース取引の借手側と貸手側の処理について確認します。 前回(第12回)のおさらいになりますが、今回は次の2点を頭の隅に置いて、読み進めていただけたらと思います。   1 ファイナンス・リース取引における借手側の取扱い まず、賃借人(借手)の処理を確認します。 (1) 取得価額 税法上は、賃借人(借手)におけるリース資産の取得価額は、原則として、そのリース期間中に支払うべきリース料の額の合計額としています。 ただし、リース料の額の合計額のうち利息相当額から成る部分の金額を合理的に区分することができる場合には、リース料の額の合計額から利息相当額を控除した金額をそのリース資産の取得価額とすることができます。 取得価額から利息相当額を控除した場合は、その利息相当額はリース期間の経過に応じて利息法又は定額法により損金の額に算入されます(法基通7-6の2-9)。 (2) 減価償却 税法上は、所有権移転リース取引か、所有権移転外リース取引かによって、減価償却方法が異なります。所有権移転外リース取引の場合は、リース期間定額法により減価償却するとされています(法令48の2①六)。 リース期間定額法とは、リース資産の取得価額をそのリース資産のリース期間の月数で除して、その事業年度におけるリース期間の月数を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として償却する方法をいいます。 また、賃借人(借手)が所有権移転外ファイナンス・リース取引のリース料を「賃借料」として処理していた場合も、売買があったものとされ、減価償却費として損金経理した金額に含まれます(法令131の2③)。   2 ファイナンス・リース取引における貸手側の取扱い 法人税法では、ファイナンス・リース取引を行った場合には、原則として、リース資産の賃貸人(貸手)から賃借人(借手)への引渡しがあった時に、リース資産の売買があったものとされます(法法64の2①)。リース資産の賃貸人(貸手)から賃借人(借手)への引渡しのことを「リース譲渡」といいます。 法人税法では、リース譲渡は長期割賦販売等に含まれるため、賃貸人(貸手)は、次の4つの処理のいずれかの方法により収益と費用を計上することで、譲渡損益を計上します。   (了)

#No. 559(掲載号)
#喜多 弘美
2024/03/07

2024年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】

2024年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋     Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準 2022年10月28日に、ASBJより以下の会計基準の改正が公表された。 また、2022年10月28日、日本公認会計士協会より以下の改正が公表された。 本改正では、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正が行われている。   1 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分 (1) 改正理由 その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、「取引等」という)が課税所得計算上、益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合がある。 従来、取引等は、その他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上され、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていなかった場合があった。 そのため、その他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しが行われた(改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表)。 (2) 影響があるケース 影響があるケースとして、以下の例示が挙げられている(「改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」の「公表にあたって」3頁、11頁)。 なお、株主資本に対して課税される場合については、従来から税効果適用指針等において取扱いが示されているため、以下の場合を除き、影響はない(「改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」の「公表にあたって」3頁)。 (3) 法人税等の計上区分 当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上する(法人税等基準5、5-2、8-2)。 なお、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合(退職給付に関する取引を想定)には、当該税額を損益に計上することができる(法人税等基準5-3(2))。 (4) 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定 株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、法定実効税率を乗じて算定する。 なお、課税所得が生じていないこと等から法令に従い算定した額がゼロとなる場合、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる(法人税等基準5-4)。 (5) その他の包括利益の組替調整(リサイクリング) その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等は、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額を損益に計上する(法人税等基準5-5)。 なお、税率変更に係る差額はリサイクリングしない(法人税等基準29-10)。 (6) 関連する繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合 親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについて、従来は法人税等調整額で計上していたが、改正後は、資本剰余金を相手勘定として取り崩す(法人税等基準9(3))。 (7) その他の包括利益の開示 包括利益計算書におけるその他の包括利益の内訳項目は、税効果を控除した後の金額で表示し、税効果の金額を注記する。そのため、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」と改正された(包括利益基準8)。 2 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 (1) 改正理由 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式及び関連会社株式(子会社株式等)の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合)に係る税効果について、従来では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されている場合は、連結上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正していなかった。 しかし、税効果適用指針の取扱いは、連結上、消去される取引に対して税金費用を計上するため、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないことから、改正が行われた(「改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」)。 (2) 影響を受けるケース 100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士又は親会社と100%子会社との間で、親会社又は100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合に、連結財務諸表について影響を受ける(「改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」)。 なお、個別財務諸表における取扱いは改正されていないため、税効果適用指針第8項に従い繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果適用指針143-2)。 (3) 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合、連結財務諸表において、以下の会計処理を行う(税効果適用指針39)。 3 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(法人税等基準20-2、包括利益基準16-5、税効果適用指針65-2)。 2024年3月期決算の会社で、適用していない場合、未適用の会計基準の注記が必要でないか検討する必要がある(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12)。 4 経過措置 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分について、以下の経過措置が定められている。 法人税等の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する。また、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、適用初年度期首から新たな会計方針を適用することができる(法人税等基準20-3、包括利益基準16-5、税効果適用指針65-2)。 なお、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果については、経過措置は定められていないため、遡及適用が必要である。   Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い 2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)により「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下、「資金決済法」という)が改正され、広く送金・決済手段として用いられるいわゆるステーブルコインの取引を行う事業者について必要な規制が導入された。 このうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義された。また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われた(実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(以下、「資金決済取扱い」という)BC1)。 これを受けて、2023年11月17日にASBJより以下の会計基準が公表された。 また、2023年11月17日に日本公認会計士協会より、以下の改正が公表された。 1 適用範囲 資金決済取扱いは、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とし、発行者側と保有者側の会計処理について定めている。 ただし、以下については、資金決済取扱いの適用範囲に含めていない(資金決済取扱い2、BC5~BC8)。 まとめると、以下のとおりとなる。 〈資金決済法第2条第5項〉 〈1~3号に相当する外国電子決済手段〉 2 会計上の性格 (1) 電子決済手段 電子決済手段は、会計上、以下の性格を有する(資金決済取扱いBC17)。 (2) 電子決済手段に係る払戻義務 電子決済手段に係る払戻義務は、会計上、以下の性格を有する(資金決済取扱いBC31)。 3 電子決済手段の保有に係る会計処理 (1) 取得時の会計処理 電子決済手段を取得した場合は、その受渡日に当該電子決済手段の券面額に基づく価額により電子決済手段を資産として計上する。 当該電子決済手段の取得価額と当該券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(資金決済取扱い5、BC24)。 (2) 電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理 電子決済手段を第三者に移転する場合又は電子決済手段の発行者から電子決済手段について金銭による払戻しを受ける場合は、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩す。 電子決済手段を第三者に移転する場合に金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(資金決済取扱い6)。 (3) 期末時の会計処理 期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする。 なお、電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めていない(資金決済取扱い7、BC28、BC29)。 4 電子決済手段の発行に係る会計処理 (1) 電子決済手段の発行時の会計処理 電子決済手段を発行する場合は、その受渡日に当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額により負債として計上する。 当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(資金決済取扱い8)。 (2) 電子決済手段の払戻時の会計処理 電子決済手段を払い戻す場合は、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩す(資金決済取扱い9)。 (3) 期末時の会計処理 電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とする(資金決済取扱い10)。 5 外貨建電子決済手段に係る会計処理 外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建基準」という)一2(1)①(外国通貨の換算)に準じて処理する(資金決済取扱い11)。 外貨建電子決済手段に係る払戻義務の期末時における円換算については、外貨建基準一2(1)②(外貨建金銭債権債務の換算)に従って処理する(資金決済取扱い12)。 6 預託電子決済手段に係る取扱い 電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者(合わせて「電子決済手段等取引業者等」という)は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった電子決済手段(預託電子決済手段)を資産として計上しない。また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しない(資金決済取扱い13)。 7 注記 電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品基準」という)第 40-2項に定める事項の注記を行う(資金決済取扱い14)。 電子決済手段が要求払預金に類似する性格を有する資産であるため(上記2(1))、金融商品の時価等に関する事項(金融商品基準40-2(2))を注記するにあたり、預金に関する取扱いに準ずる。また、電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務に該当すると考えられるため(上記2(2))、金融商品の時価等に関する事項を注記するにあたり、金銭債務に関する取扱いに従う(資金決済取扱いBC45)。 8 貸借対照表における電子決済手段の表示科目 電子決済手段は、現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であるが、現金又は預金そのものではない(資金決済取扱いBC18)。 そのため、(連結)貸借対照表において、財務諸表等規則第15条第1項に定める「現金及び預金」の範囲には含まれず、財務諸表等規則第17条第1項第12号に規定する「その他」に区分される。なお、財務諸表規則等第19条に基づき、電子決済手段に重要性が認められる場合には区分掲記が必要である(「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」No.1)。 9 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲 資金決済法第2条第5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。上記1参照)を現金に含める(CF一部改正BC6)。 10 適用時期 公表日以後適用する(資金決済取扱い15)。   Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い 2019年5月に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)が成立したことにより、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称)は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われた(「実務対応報告第 43 号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表」の「公表にあたって」)。 これを受けて、2022年8月26日にASBJより以下の会計基準が公表された。 1 適用範囲 電子有価証券取扱いは、株式会社が金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、「金商業等府令」という)第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としている(電子有価証券取扱い2)。 ここで、「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、「みなし有価証券」という)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいう(電子有価証券取扱い3(1))。 電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一のため、「基本的に」みなし有価証券と同様の会計処理を規定している(電子有価証券取扱い27)。 2 電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理 金融商品基準及び金融商品実務指針(以下、両方合わせて「金融商品基準等」という)上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様に、その発行に伴う払込金額を負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行う(電子有価証券取扱い4~6、28)。 これまで、払込金額が負債となるのか株主資本となるのかについての明確な会計基準は存在していなかったため、有価証券の法的形式等を勘案して、実務上の対応が行われていた。したがって、電子記録移転有価証券表示権利等を発行した場合の払込金額の区分についても、特段の定めを設けず、現行の実務を参考にして判断する(電子有価証券取扱い30)。 なお、金融商品基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理については、取り扱っていない(電子有価証券取扱い29)。 3 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、金融商品基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて会計処理を行う(電子有価証券取扱い7)。 (1) 金融商品基準等上の有価証券に該当する場合 ① 発生及び消滅の認識 金融商品基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識は、従来のみなし有価証券と同様に金融商品基準第7項から第9項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理を行う。 ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について、契約締結時から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合は、金融商品実務指針第22項の定めにかかわらず、契約締結時に、買手は電子記録移転有価証券表示権利等の発生を認識し、売手は電子記録移転有価証券表示権利等の消滅を認識する(電子有価証券取扱い8)。 ② 期末時 金融商品基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額に係る会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理(その他有価証券であれば時価評価等)を行う(電子有価証券取扱い9)。 (2) 金融商品基準等上の有価証券に該当しない場合 金融商品基準等の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理は、金融商品実務指針及び信託取扱いに従って行う。 ただし、金融商品基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び信託取扱いにより、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うものについては、その発生の認識(信託設定時を除く)及び消滅の認識は、金融商品実務指針及び信託取扱いにかかわらず、電子有価証券取扱い第8項の定め(上記(1)①参照)に従って行う(電子有価証券取扱い10)。 4 表示 電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示は、従来のみなし有価証券と同様である(電子有価証券取扱い11)。 5 注記 電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の注記事項は、従来のみなし有価証券で求められる注記事項(金融商品関係注記、有価証券関係注記)と同様である(電子有価証券取扱い12)。 6 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(電子有価証券取扱い13)。 (了)

#No. 559(掲載号)
#西田 友洋
2024/03/07

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第46回】「改訂「中小M&Aガイドライン」の活用」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第46回】 「改訂「中小M&Aガイドライン」の活用」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒「中小M&Aガイドライン」の改訂内容をM&Aの検討に活かす。 売り手企業 ⇒「中小M&Aガイドライン」の改訂内容をM&Aの検討に活かす。 支援機関(第三者) ⇒「中小M&Aガイドライン」の改訂内容を、提案業務に役立てる。 その他の対象者 ⇒「中小M&Aガイドライン」の改訂内容を理解する。 2020年に策定された「中小M&Aガイドライン」の改訂版(第2版)が、2023年9月に中小企業庁より公表されました。 本稿では、本ガイドラインの改訂を踏まえて、買い手や売り手の当事企業視点で、M&Aを検討するにあたって知っておきたい点を中心に紹介します。   1 「中小M&Aガイドライン」改訂の背景と主な改訂内容 「中小M&Aガイドライン」の策定から改訂までに3年が経過し、M&Aが中小企業の事業承継手法の1つと広く認識されました。高齢の経営者や後継者未定の中小企業が、廃業することに伴って経営資源が散逸しないように、地域経済への悪影響等を防ぐために、M&A促進の必要性は高まっています。 しかし、中小M&A市場が拡大する中で、マッチング支援やM&Aの総合的な支援を専門に行う仲介者、FAなどのM&A専門業者との契約に関して、契約内容や手数料がわかりにくい、担当者によって支援の質に不満が見られるなどの課題が存在しています。 このため、第2版では次のような改訂が行われています。 (出典) 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第2版)概要資料」2ページ   2 改訂内容の主なポイント 筆者の私見になりますが、改訂に伴う本ガイドラインの記載内容のうち、中小企業M&Aの各当事者、なかでも買い手と売り手にとって重要と思われる点を挙げたいと思います。なお、「中小M&Aガイドライン(第2版)見え消し版」によれば、改訂前後の内容の変化がわかりやすいです。 (1) 仲介者・FAの選定等(34ページ(※)) (※) 「中小M&Aガイドライン(第2版)」のページ番号を示しています。 仲介者・FAの選定にあたって、ホームページや担当者から情報を確認し、複数の仲介者・FA の中から比較検討して決定することが重要としたうえで、仲介業務とFA業務のいずれの業務を依頼するか、どちらが自社に適しているか検討すべきとしています。 〈仲介者・FAの特徴と活用例〉 (※) 「中小M&Aガイドライン(第2版)」◆用語集(14-16ページ)より (出典) 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第2版)」38ページをもとに筆者作成 ご覧のように売り手や買い手にとって、双方の意向を踏まえた助言や調整がよいか、依頼者にとって有利な条件で進めるための助言や調整がよいかは、各当事者の置かれた状況や考えに左右されます。上記の活用例も参考にしながら、最初から1つの支援機関に決めるのではなく、互いの特徴を把握したうえで、支援機関の選定を行うのが望ましいと考えられます。 同様に本ガイドラインの40ページ「② マッチング支援を単独の支援機関に依頼する場合と複数の支援機関に依頼する場合の比較」では、支援機関の数に関する記載が改訂に伴い追加されていますので、支援機関探しの際の参考になります。 (2) 買い手候補の紹介を受けられない場合(42ページ) 売り手側の論点に関して、本ガイドラインでは、別の支援機関に依頼する等の対応が考えられるとしたうえで、「候補先がなかなか見つからない場合には、適宜、支援機関にその理由を確認する等して分析した上で、M&A に向けた活動を継続するか検討」(42ページ)するように提案しています。 支援機関や担当者の性格によりますが、多くの案件を抱えている支援機関に売り手側の要求を的確に伝え、要望を聞き入れてもらいやすくするには、やはり、売り手側からも一定のアプローチが効果的である可能性が高いです。 (3) 支援機関の質の充実(63ページ) 本ガイドラインによれば、「M&A 専門業者の善管注意義務(忠実義務)及び職業倫理」「経営トップの意識」「他の支援機関(特に士業等専門家)との連携」「知識・能力の向上のための取組」「適正な業務遂行のための取組」「M&A 仲介・FA業界の実務の発展に向けた取組」などの取組が紹介されています。数が増えている支援機関の取り締まりや質の向上が今後期待されます。 (4) 重要事項説明(67ページ) 「契約に係る重要な事項を記載した書面を交付して、説明しなければならない」とし、説明後は、「依頼者が契約内容を理解し、契約締結について適切に判断するために、依頼者に対し、十分な検討時間を与えるべき」で、説明者は、「依頼者からの質問や意見にも適切に対応できるような、十分な経験・能力を有する者が行うことが望ましい」とされています。 この点、本ガイドラインの参考資料11として、「M&A仲介契約/FA契約 重要事項説明書サンプル」が用意されていますので、これらの記載内容に従って、買い手や売り手に対して、十分な説明を行ってくれる支援機関かどうかの見極めが可能になります。 また、本ガイドラインでは、売り手や買い手の自由な行動に基づくM&Aの相手先を探す行動を妨げないように、直接交渉の制限に関して、一定の場合に限定すべきである旨の記載が改訂に伴い追加されました(73ページ)。 これらの事項は、買い手や売り手にとっての不利なM&Aを防止する、そのような状況を事前に察知するうえで有効と思われますので、可能であれば、支援機関が本ガイドラインに基づき、適切な対応を心がけているかよく観察するのが望ましいです。 第2版の内容の多くは、第2版の公表時から3年前に遡った初版の内容を引き継ぐものですから、この機会に改訂内容も含めて全体的に内容を把握しておくのをおすすめします。 (了)

#No. 559(掲載号)
#荻窪 輝明
2024/03/07

四半期報告書制度廃止に伴う開示実務のポイント 【追補】

四半期報告書制度廃止に伴う開示実務のポイント 【追補】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   2024年2月21日に日本公認会計士協会より「「期中レビュー基準報告書実務ガイダンス「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」(公開草案)(以下、「実務ガイダンス案」という)」が公表された。 実務ガイダンス案は証券取引所の上場規程に定める四半期財務諸表等に適用される財務報告の枠組み及び期中レビューに関するQ&Aをまとめたものである。 ここでは、第1四半期・第3四半期の決算短信の四半期(連結)財務諸表に関するレビューについて、【前編】及び【後編】で解説していない内容で留意すべき事項について、追加で解説する。   1 継続企業の前提 東京証券取引所の決算短信作成基準において、継続企業の前提に関する注記が必要である。省略することは認められないため、準拠性に関する結論を表明する場合であっても、継続企業の前提に関する手続は現行の四半期報告書の四半期レビューと同様である。 (1) 評価期間 監査人は、継続企業の前提に関して経営者が行った評価の検討に当たって、経営者の評価期間と同じ期間を対象とする。経営者の評価期間は、適用される財務報告の枠組みで要求される期間又は法令(東京証券取引所の改正規則等)に規定される期間となる。 (2) レビュー手続 ① 常に実施する手続 経営者が継続企業の前提についての評価を前会計期間(期中レビューの対象となる期中会計期間の直前の年度又は期中会計期間をいう)から変更したかどうかを質問する。 ② 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に気付いた場合の手続 期中レビュー業務の過程で、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に気付いた場合には、合理的な期間について経営者が行った評価及び対応策並びにその内容の検討に際し、以下の手続を実施する。 ③ 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められた場合の手続 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在し、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められた場合には、以下の手続を実施する。   2 訂正第1四半期・第3四半期(連結)財務諸表に対する四半期レビュー 訂正前の第1四半期・第3四半期決算短信の四半期(連結)財務諸表に対してレビューを任意で受けていた場合、訂正第1四半期・第3四半期(連結)財務諸表に対する期中レビューは任意である。 そして、レビューを受けた第1四半期・第3四半期決算短信の四半期(連結)財務諸表を訂正する場合で、訂正後の四半期(連結)財務諸表等についてレビューを受けていないときは、その旨を「決算発表資料の訂正」の開示において記載する。 また、訂正前に公認会計士等によるレビューを受けていない場合、訂正第1四半期・第3四半期(連結)財務諸表に対する期中レビューも任意となる。 一方、訂正前にレビューが義務付けられていた場合(【前編】5参照)、訂正第1四半期・第3四半期財務諸表に対する期中レビューが必要である。   3 第1四半期・第3四半期決算短信の四半期(連結)財務諸表に関するレビュー契約 第1四半期・第3四半期決算短信の四半期(連結)財務諸表について任意のレビュー契約を締結していない場合、適時に論点を検討できるように監査人と会社は十分にコミュニケーションを行うことが考えられる。 なお、契約を締結していないため、当然に監査人は四半期(連結)財務諸表の内容を検討する義務を負わないが、四半期(連結)財務諸表において虚偽表示又はその他の記載内容の誤りの存在等明らかに間違った開示の事実を把握した場合には、経営者等に対して当該虚偽表示等の存在を通知することが推奨されるとともに、年度の監査人としての対応が求められる。 また、年度の監査においては、内部統制の不備の評価も含め、リスク評価を更新し、全般的な対応やリスク対応手続を変更することを要求しているため、年度の監査等におけるリスク評価に与える影響を検討する。   4 比較情報 決算短信の四半期(連結)財務諸表に対するレビューは、原則、任意であるため、比較情報(前期情報)に対するレビューが実施されていない場合がある。このような場合、監査人は、期中レビュー報告書のその他の事項区分に、その旨を記載する。 なお、適用初年度においては、前年度に金融商品取引法における四半期報告書及び有価証券報告書に対して、四半期レビュー及び監査が実施されている場合は、決算短信の四半期レビューの対象となる比較情報は、レビュー又は監査は実施されていると考えることができる。そのため、期中レビュー報告書のその他の事項区分への追記の必要はないと考えられる。   5 期中レビュー報告書 期中レビュー報告書のひな型(準拠施の枠組み)は、日本公認会計士協会ホームページの「「期中レビュー基準報告書実務ガイダンス「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」(公開草案)の公表について」における「期中レビュー基準報告書実務ガイダンス(本文)」の41頁~43頁にて示されているため、参考とされたい。 (連載了)

#No. 559(掲載号)
#西田 友洋
2024/03/07

空き家をめぐる法律問題 【事例58】「不可抗力が生じた場合の建物賃貸借契約の諸問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例58】 「不可抗力が生じた場合の建物賃貸借契約の諸問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 最大震度7の地震が発生したため、賃借していた自宅建物から親戚宅に避難しています。自宅は地震で部分的に損傷し、今後の居住に支障が出る可能性があります。そこで、賃貸借契約を終了させることを考えていますが、可能でしょうか。 また、賃貸借契約書を見ると、敷引特約の条項が記載されています。引越しをする場合、転居費用に充てるため敷金を使用したいと考えています。このような場合でも敷引特約は適用されますか。   1 はじめに 大規模な地震等の災害によって、賃借している自宅建物が損壊し、避難生活を余儀なくされる場合、損壊の程度によっては転居等を検討せざるを得ないこともある。そこで、不可抗力によって賃借している建物が損壊した場合に、賃貸借契約にどのような影響が生じるかを解説したい。 また、賃貸借契約の中には、いわゆる敷引特約が付されているものもある。そこで、不可抗力によって賃貸借契約が終了する場合にまで、敷引特約が適用されるかについても併せて検討することとしたい。   2 不可抗力と賃貸借契約の帰趨 賃貸借契約の目的物である建物の全部が滅失その他の事由によって使用及び収益をできなくなった場合、賃貸借契約は当然に終了する(民法第616条の2)。また、当該建物の一部が滅失その他の事由によって使用及び収益をできなくなった場合、賃借人に帰責性があるときを除いて、使用及び収益をできなくなった部分の割合に応じて、賃料債務は当然に減額されることになる(民法第611条第1項)。一部滅失の場合に残存部分で賃貸借契約の目的が達成できない場合には、賃借人は、自らの帰責性の有無にかかわらず、賃貸借契約を解除することができる(同条第2項)。 賃貸借契約の目的物である建物の全部が滅失したか否かの判断は、一般論としては、物理的に建物の主要な部分が消失したかどうかだけではなく、消失した部分の修復が通常の費用では不可能と認められるかどうかも考慮して判断される(最判昭和42年6月22日民集21-6-1468等参照)。 もっとも、修復が通常の費用によって可能であったとしても、大規模な地震等によって付近一帯の建物が損傷し、修復までに相当の時間を要し、賃貸借契約を存続させることが相当ではない場合もある。そのため、当該建物の被災状況だけでなく、地震に直接・間接に関係した地域全体の被災状況や置かれた状況等の事情を総合考慮して、賃貸借契約を存続させることが相当かどうかを判断する必要がある場合もあると考えられる(大阪高判平成7年12月20日判時1567-104は、阪神大震災後に修繕業者が優先的に公共施設の工事に従事していたこと等の事情も考慮して賃貸借契約の終了を認めている)。 ところで、上記のとおり、一部滅失の場合には、賃貸借契約は存続し、賃料が当然に減額されることになる。そのため、賃借人は、理論上、減額後の賃料相当額を支払うことで債務不履行を回避することはできる。もっとも、どのような根拠で減額後の賃料を算定するかについて明確な基準はないため、賃借人は、事実上、減額前の賃料を支払わざるを得ない場合もあり得るように思われる。   3 不可抗力と修繕義務の関係 賃貸人は、賃借人に建物を使用及び収益させる積極的な債務、すなわち、賃借人の使用及び収益に適する状態に置くべき義務を負っている。そのため、賃貸人は、賃借人に使用及び収益をするために必要な修繕義務を負う(民法第606条第1項)。また、賃貸人が建物の修繕を行う場合のように、建物の保存に必要な行為を行う場合には、賃借人に一時的に建物から退去等を求めることも可能である(同条第2項)。 賃貸人の修繕義務は、不可抗力によって修繕しなければならない場合でも発生する。賃借人は、賃貸人に対して、建物が修繕を要する状態になったことを通知して対応を求めることになる(民法第615条)。もっとも、不可抗力によって建物の修繕を要する状態が生じているとしても、賃貸人に修繕を求める通知を行っても対応を得られない場合や、修繕のために急を要する場合もある。このような場合には、賃借人自らが建物の修繕を行い、これに要した費用の償還を請求することができる(民法第607条の2、同法第608条)。   4 不可抗力と敷引特約の関係 上記2のとおり、建物が全部の使用及び収益をできない場合には当然に賃貸借契約は終了する(民法第616条の2)。また、建物の一部を使用及び収益できない場合で、残存部分のみでは契約の目的を達成できないときには、賃借人は賃貸借契約を解除できる(同法第611条第2項)。これらによって賃貸借契約を終了させられず、合意解除もできない場合には、期間の定めの有無に応じて賃貸借契約終了のための手続を講じることになろう。 それでは、賃貸借契約には敷引特約が付されている場合に、賃貸人は敷引特約に基づいて敷引きを行うことができるだろうか。一般に、敷引金は様々な性質を有するところ、賃貸借契約の当事者間に、賃貸借契約が火災、震災、風水害その他の災害によって予期していない時期に終了した場合についてまで敷引金を返還しないとの合意が成立しているとまで解することはできない。 そのため、災害により賃借家屋が滅失し、賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、敷引特約を適用することはできない(最判平成10年9月3日民集52-6-1467参照)。なお、同最判は、居住用建物を前提として判断したものであり、営業用建物の取扱いについては判決の射程外である。 同最判によれば、賃貸人が敷引特約に基づいて敷引きを行うためには、少なくとも、不可抗力による賃貸借契約が終了の場合でも敷金を返還しない旨の明確な合意が必要になると考えられる。もっとも、敷引特約が有効であるとしても、敷引額によっては消費者契約法第10条との関係で無効になることもあるので留意が必要である(最判平成23年3月24日民集65-2-903参照)。   5 本件について 実務的には賃貸人との間で合意解除の協議を行うことになると考えられる。また、協議が整わない場合に備えて、上記2の基準に照らし、賃貸借契約が当然に終了するかどうか、当然に終了しない場合には、目的不達成による解除の可否や、期間満了又は解約申入れによる契約終了の可否を検討することになろう。 賃貸借契約が不可抗力によって終了する場合でも敷引きをすることが明確に合意されているようなときは、敷引特約に基づいて敷引きが行われることになる。もっとも、敷引金の額が、通常損耗の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らして高額に過ぎると評価されるような場合には、敷引特約自体が消費者契約法第10条に照らして無効になる可能性もあるため、これらの点の検討も必要となる。 (了)

#No. 559(掲載号)
#羽柴 研吾
2024/03/07
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