山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第37回】 「収益認識通達と商慣行のズレ」 税理士 山本 守之 ◆建設業の収益の計上時期 1 3つの考え方 事例の場合、収益の計上時期としては、次の3つの考え方があります。 2 問題点(争点) 建設請負の場合に工事中途で(通常)受け入れる着手金、中間金に代えて収受する利子相当額を利子であると考えれば、法人税基本通達2-1-24における「・・・利子の額は、その利子の計算期間の経過に応じ当該事業年度に係る金額を当該事業年度の益金の額に算入する。」という取扱いを適用しますから、毎月収受する利子相当額は期間の経過に応じて益金の額に算入することになります。 これに対して、「利子相当額」を工事値増金の一種だと考えれば、その利子相当額を工事中途で受け入れたときは仮受金とし、工事が完了して相手方に引き渡した時点で収益に計上すればよいことになります。 「利子相当額」を貸した利子ではないので、値増金の一種として引渡し時の益金となるのです。 3 検討 建設会社等では、工事を請け負う場合に、契約によって着手金、中間金を収受する取引上の慣行があります。しかし、施主の資金繰りの都合から、これらを収受できないこともあるでしょう。 事例の場合も、施主が建設目的物の引渡しを受けてから、これを金融機関の担保に供し、融資を受けた金額から工事代金を払うことになっていますから、着手金、中間金が支払われません。 このような場合に、通常ならば収受すべき着手金、中間金に利率を乗じた金額を毎月収受して、他の建築主との間の権衡を図るということが行われます。 この場合の「利子相当額」の性格とは何かを考える前に、着手金、中間金を収受する慣行がなぜ生じたかを考えてみましょう。 まず、一般的に建築請負代金はどのように決まるのでしょうか。 一般的に、建設会社が工事を請け負うときには、その目的物の工事原価を算定し、これに請負会社の利益の額を上乗せして請負金額を決定するでしょう(図1)。 ところで、建物を建設する場合には、材木、鉄筋、コンクリートなど建設資材は建設会社が調達しなければなりませんから、工事原価の中には建設資材の資材調達コストが含まれます。 【図1】 ここで、工事着手金や中間金を収受する場合は、これらの金額で建設資材の購入に充てられますから、工事原価は資材調達コストだけ安くなります。これに対して、着手金や中間金を収受しない場合は、工事原価は資材調達コストだけ高くなるのです(図2)。 【図2】 このように考えれば、着手金や中間金を収受しないことによる「利子相当額」は、資材調達コストを全体の工事原価の枠から外して、工事代金の外枠として請求しているだけのことであって、工事期間の資金不足額に見合う工事値増金と考えることができます。 事例のように「利子相当額」が期間の経過に伴って一定の利率によって計算されているとしても、これは工事値増金を算定する1つの手法に過ぎず、相手方から融資を受けたわけではないので、利子そのものとはいえないでしょう。 このため、たとえ利子相当額を工事の目的物の引渡し前に収受する場合であっても、仮受金等として経理しておき、引渡し時に工事収入に振り替えるのが妥当な処理といえます。 つまり、債権に対する利子と、工事代金の一部を構成するものとは、厳格に使い分けて収益を認識すべきでしょう。 税務の第一線では、「利子相当額」を「利子」として期間の経過に従って収益計上すべきだとする主張や税務指導が目立っています。 しかし、「利子相当額」をどのような理由で収受するかを考え、さらに当事者間で融資が行われていないものに対して「利子額」を認定できないという租税法上の課税要件を中心とした思考をすれば、「利子相当額」は工事値増金の一種ですから、工事目的物の引渡しがあった段階で収益計上すべきだと理解できるでしょう。 4 当事例の検討 税務では、課税庁によって利子等を認定するという処理がよく行われています。しかし、利子と利子相当額とは明らかに異なりますし、税実務で利子を認定するためには、その前提として融資が行われていなければなりません。 事例の場合の「利子相当額」は、取引の実態からみて工事値増金であり、その金額の算定手法として利率等を適用したにすぎないと考えるべきです。 もともと税務においては、課税庁が単純な発想で「認定」を行うことは、課税要件を歪めることになりかねません。 調査の立会いに当たっては、このようなことを調査官に説明すべきでしょう。 法人税基本通達2-1-24は利子の収益計上時期の取扱いを示したものですが、事例の場合は利子ではなく、利子相当額であり、性格は工事値増金です。 3つの考え方の②の契約をつけただけで、単なる慣行とするものは、それに基づいて収益を計上する必要はありません。 (了)
〈平成29年度改正対応〉 所得拡大促進税制の実務 【第3回】 「FAQ①(給与等の範囲)」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 今回から2回にわたり、過去の連載記事で取り上げたFAQ(よくある質問)について、平成29年度税制改正までの内容を踏まえて加筆修正を行う。 FAQとして取り上げる論点は次の通りである。 Q1(基本的な考え方) 所得拡大促進税制の対象となる「給与等」の範囲に関し、以下のそれぞれについてどのように取り扱われるか教えて下さい。 〈回答〉 ① 未払給与 ⇒ 含まれる / 前払給与 ⇒ 含まれない ② 含まれない ③ 継続適用を要件として、含めることができる。 ④ 継続適用を要件として、支給日の属する事業年度において含めることができる。 〈解説〉 所得拡大促進税制の適用対象となる「雇用者給与等支給額」とは、以下のように定義されている(措法42の12の5②三)。 ここで「給与等」とは、所得税法第28条第1項に規定する給与等をいう(措法42の12の5②二)。 所得税法第28条第1項は給与所得に関する規定であり、給与所得の対象となる「給与等」について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」とされていることから、名義のいかんによらず、給与の性質を有するものは広く含まれるものと考えることができる。 したがって、お問い合わせの各ケースについては、それぞれの手当が損金の額に算入され、かつ、給与所得として課税されるかどうかによって判断することとなる。 ① 未払給与、前払給与 未払給与は、計上時に損金算入されるものであり、かつ、給与所得課税されるものであるから、「給与等」に含まれる。 これに対して前払給与は、給与所得課税されるものではあるが、計上時に損金算入されないため、「給与等」に含まれないこととなる(支給時に損金算入されるため、その時点で「給与等」に含まれることとなる)。 ② 賞与引当金繰入額 賞与引当金繰入額は、その計上時に損金算入されないため、「給与等」には含まれない(支給時に損金算入されるため、その時点で「給与等」に含まれることとなる)。 ③ 非課税通勤手当 所得税が非課税とされる通勤手当(所法9①五)は、所得税法第28条第1項に規定する「給与等」とは別の定めによるものであり、原則として所得拡大促進税制の対象となる「給与等」には含まれない。 ただし、例えば、賃金台帳に記載された支給額(非課税通勤手当を含む)のみを対象として雇用者給与等支給額を計算するなど、合理的な方法により継続して雇用者給与等支給額を計算している場合には、これを認めることとされている(措通42の12の5-1の2)。 これは、厳密に非課税通勤手当を除外して雇用者給与等支給額を集計しなければならないとすると、事務が過度に煩雑になる可能性があり、これに配慮したものと考えられる。 ④ 資産の取得価額に算入された給与等 給与等の額が、製品やソフトウェア等の資産の取得価額を構成することとなる場合、その資産の販売や減価償却等を通じて損金算入されることとなるから、その損金算入される事業年度において所得拡大促進税制を適用することが原則である。 ただし、資産の取得価額に算入された給与等の額について、法人が継続して給与等を支給した日の属する事業年度の雇用者給与等支給額に含めることとしている場合には、その計算を認めることとされている(措通42の12の5-4)。 これは、損金算入額のうち給与等から構成される金額を計算することとすると、事務が過度に煩雑になる可能性があり、これに配慮したものと考えられる。 Q2(休業手当等の取扱い) 以下のそれぞれのケースで支給される「手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となるか教えて下さい。 〈回答〉 〈ケース1〉⇒ 該当しない 〈ケース2〉⇒ 該当する 〈ケース3〉⇒ 該当する 〈ケース4〉⇒ 該当しない 〈解説〉 お問い合わせの各ケースについては、Q1において示した「給与等」の基本的な考え方に従い、それぞれの手当が給与所得として課税されるかどうかによって判断することとなる。 ▷〈ケース1〉業務上のケガにより休職している社員に対して支給される「休業手当」 業務上のケガにより休職している社員に対して支払われる「休業手当」は、労働基準法第76条に定める「休業補償」に該当する。 同条に定める「休業補償」はまさに「補償」であって、業務疾病等に起因して労働不能状況に陥ったことに対する「償い(賠償)」としての性質を有するものである。 このように、労働基準法第76条の規定に基づく「休業補償」は、所得税法上は非課税所得とされている(所法9①三イ、所令20①二)。 なお、労働基準法では平均賃金の60%の休業補償を定めているが、企業独自の判断として、60%を超える休業補償を行うケースも考えられる(付加給付金)。この場合にあっても、その本質は「補償」である以上、付加給付金も含めた総支給額が通常支給されるべき賃金の範囲内であることなど、補償額として相当なものであれば非課税所得となる。 したがって、本ケースにおける「休業手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」には該当しない。 ▷〈ケース2〉業績悪化に伴い自宅待機をさせた社員に対して支給される「休業手当」 業績悪化に伴い自宅待機を余儀なくされる場合等、使用者責任により労働者環境を奪われ休業に至る場合には、労働基準法第26条の定めに従い「休業手当」を支払わなければならない。 同条に定める「休業手当」は、〈ケース1〉の「休業補償」とは異なり、本来であれば労働力の提供対価として受け取るべき賃金について、使用者側の都合で休業することとなった労働者の生活保障を図るため使用者側に支払が義務づけられたものであり、「賃金」の性質を有するものである。このため、労働基準法第26条に定める「休業手当」は給与所得として課税されることとなる。 したがって、本ケースにおける「休業手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」に該当する。 なお、景気変動等の理由により一時的な雇用調整を行った事業者については、従業員の雇用を維持する場合には雇用調整助成金の支給を受けることができる。 所得拡大促進税制の適用上、雇用調整助成金は「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」に該当し、雇用者給与等支給額の計算上はこれを控除する必要がある点に留意が必要である(措通42の12の5-2(1))。 ▷〈ケース3〉就業規則に定められている「産休・育休制度」を利用して休職している社員に対して支給される「休業手当」 会社の福利厚生制度の一環として「産休・育休制度」が定められ、これに基づき支払を受ける休業手当など、労働基準法第26条及び第76条のいずれにも該当しない休業手当は、一般的な取扱いにより給与所得として課税されることとなる。 したがって、本ケースにおける「休業手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」に該当する。 ▷〈ケース4〉就業規則に定められている「産休・育休制度」を利用して休職している社員に対して支給される「休業手当」 使用者が労働基準法第20条(解雇の予告)の規定による予告をしないで使用人を解雇する場合に、その使用者から支払われる「解雇予告手当」は、退職所得とされる。 このように「解雇予告手当」は給与所得ではなく退職所得として取り扱われることから、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」には該当しない。 * * * 次回は継続雇用者に関するFAQについて解説する。 (了)
平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第4回】 「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」 アースタックス税理士法人 代表社員 税理士 島添 浩 シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志 本連載では、平成29年度税制改正における中小企業者等の設備投資減税の全体像を確認し、対象資産ごとに選択できる税制について整理・解説することを主旨として、【第1回】では、3つの設備投資減税(①中小企業経営強化税制、②中小企業投資促進税制、③商業・サービス業・農林水産業活性化税制)の概要を確認した。続いて、【第2回】・【第3回】では、平成29年度税制改正において創設された中小企業経営強化税制の要件、対象資産、手続き等さらに固定資産税の特例措置について確認した。 また、平成29年度税制改正では、中小企業者等に対する上記3つの設備投資減税とは別に、地域経済を牽引する中核企業等が、地域経済に波及効果のある新たな事業に挑戦するために行う設備投資を対象に、特別償却又は税額控除が選択適用できる制度が創設された。 そこで今回は、この「地域未来投資促進税制」について確認する。 1 制度の概要 平成29年度税制改正で創設された地域中核企業向け設備投資促進税制は、地域未来投資促進税制とも呼ばれ、地域で伸びゆく成長分野への投資を促進するため、将来の市場規模拡大が見込まれ、また、地域との親和性も高い、地域経済の発展に寄与する波及効果の高い地域経済牽引事業を創出することを税制面から支援するものである。 この税制措置は「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律の一部を改正する法律」(以下「地域未来投資促進法」(※)という)の改正が前提となっており、同改正法案は、6月2日に公布され、7月31日に施行される。 本税制は、地方公共団体(都道府県・市町村)が地域との親和性の高い地域経済牽引事業の基本計画を策定し、基本計画に沿って事業者が策定する「地域経済牽引事業計画」を認定し、この「認定地域経済牽引事業計画」に基づき機械装置、器具備品、建物及びその附属設備並びに構築物を取得し事業供用した場合に、事業供用年度において、その取得価額の40%相当額(建物及びその附属設備並びに構築物については20%相当額)の特別償却と取得価額の4%相当額(建物及びその附属設備並びに構築物については2%相当額)の税額控除との選択適用ができる制度である。 (※) 地域未来投資促進法の基本スキームは、国の基本方針に基づき、市町村及び都道府県が策定し、国が同意した基本計画に従い事業者が作成する「地域経済牽引事業計画」を都道府県知事が承認する。そして、承認された事業につき地域経済牽引事業者を人材、設備投資、財政・金融、情報等の多方面から集中的に支援を行うものである。 2 地域経済牽引事業計画と地域経済牽引企業 本税制の適用を受けるためには、地域未来投資促進法のスキームに従い事業者が作成した「地域経済牽引事業計画」につき都道府県の承認を受け「地域未来牽引企業」に選定される必要がある。「地域未来牽引企業」は、地域経済の大黒柱部門、未来挑戦部門があり、新たな地域の牽引役として期待される成長分野の例として、経済産業省は以下のような事業を挙げている。 上記の事業の具体的な例としては、「飯田航空宇宙プロジェクト(長野県飯田市)」、「市街のテストヘッド化とICTオフィスの構築による産業集積(福島県会津若松市、会津大学、アクセンチュア(株))」、「地域商社によるアジア圏への農水産物輸出支援事業(福岡県福岡市)」、「インバウンド観光事業による温泉地の再興(長野県下高井郡山ノ内町、八十二銀行及びREVIC等)」などが挙げられている。 3 適用対象法人 なお、本連載において紹介してきた他の中小企業者向けの設備投資減税と異なり、資本金等による制限がないため、資本金1億円以上の企業でも要件を満たせば適用を受けられる可能性がある。 4 適用対象事業と適用対象区域 適用対象事業は、都道府県から承認を受けた「承認地域経済牽引事業計画」に従って行われる地域経済牽引事業であり、一定の基準に適合することについて主務大臣の確認を受けたものとされる。 また、本税制の適用対象区域は、市町村及び都道府県が策定した基本計画に定められた促進区域である。 5 適用期間 改正地域未来投資促進法の施行日(※)から平成31年3月31日まで。 (※) 施行日は、同法の公布の日(平成29年6月2日)から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、平成29年7月31日に施行される。 6 対象設備と税制措置 本税制の適用対象資産は、「地域経済牽引事業計画」に定められた施設又は設備(「特定地域経済牽引事業施設等」)で、取得価額の合計額が2,000万円以上のものの新設又は増設に係る機械装置、器具備品、建物及びその附属設備並びに構築物(「特定事業用機械等」)である。 本税制は、適用対象法人が適用期間内に、適用対象事業に係る適用対象区域内において「特定事業用機械等」を取得し、「承認地域経済牽引事業」の用に供した日を含む事業年度において、特別償却と税額控除の選択適用ができる制度である。 対象設備ごとの特別償却限度額と税額控除限度額は、以下のとおりである。 (1) 特別償却 特別償却限度額は、適用対象となる「特定事業用機械等」が機械装置及び器具備品である場合には取得価額の40%、建物、建物附属設備及び構築物である場合には取得価額の20%である。ただし、「特定事業用機械等」の取得価額の上限は100億円とされているため注意が必要である。なお、所有権移転外リース取引により取得した特定事業用機械等は特別償却の適用除外資産とされている。 (2) 税額控除 税額控除限度額は、適用対象となる「特定事業用機械等」が機械装置及び器具備品である場合には取得価額の4%、建物、建物附属設備及び構築物である場合には取得価額の2%である。なお、税額控除額は、その事業供用年度の法人税額の20%が上限となっている。 なお、「地域経済牽引事業計画」に従い新たに取得した建物・構築物・土地については、固定資産税及び不動産取得税が免除又は減税される自治体があるので確認いただきたい。 7 申告要件等 地域未来投資促進税制の適用を受ける場合の申告要件は、以下のとおりである。 ただし、「特定事業用機械等」の取得価額の合計額が100億円を超える場合には、100億円にその「特定事業用機械等」の取得価額がその合計額のうちに占める割合を乗じて計算した金額が、特別償却限度額又は税額控除限度額の計算における取得価額の上限となる。つまり、本税制の対象となる取得価額の上限は100億円ということになる。 なお、他の特別償却又は税額控除の制度と同様に、租税特別措置法の規定によるこの制度以外の特別償却もしくは税額控除制度等の適用を受ける減価償却資産については、本税制の適用対象資産から除かれることになる。つまり、同じ減価償却資産で2以上の特別償却・税額控除に係る税制の適用を受けることはできない。しかし、地方税である固定資産税の特例措置とは重複して利用することが可能である。 8 適用を検討する際の留意点等 地域未来投資促進税制の適用を受けるためには、都道府県及び市町村が策定した基本計画に合致し、地域経済に対して高い波及効果があり、国内外における競争力を有しているなどの項目について、都道府県等の認定を受ける必要がある。 本税制の適用を検討する際には、以下のような点について留意する必要がある。 (1) 地域未来牽引企業に選定されることが大前提 本税制の適用を受けるためには、事業者が地域未来牽引企業の2つの部門(地域経済の大黒柱部門、未来挑戦部門)のいずれかに選定される必要がある。未来挑戦部門については7月21日に推薦の受付が締め切られていることから、今後本税制の適用を検討する事業者は、地域経済の大黒柱部門で選定されることを目指すことになる。 (2) 投資総額2,000万円以上100億円以下 前述したとおり、本税制の適用対象資産は、地域経済牽引事業計画に定められた「特定地域経済牽引事業施設等」で、その取得価額の合計額が2,000万円以上のものである。これに対して、特別償却又は税額控除の適用対象となる「特定事業用機械等」の取得価額の上限は100億円である。このように、本税制の適用を受ける上で対象となる投資額の上限と下限の対象資産が異なるので注意が必要である。 (3) 前年度の減価償却費の10%超の設備投資が必要 地域未来投資促進法では、税法上の要件とは別に、前年度の減価償却費の10%を超える設備投資が要件に課されている。したがって、毎年の減価償却費が大きい企業にとっては、適用のハードルが高くなる。 (4) 地域経済牽引事業計画は共同作成も可能 本税制の適用を受けるためには、前提として事業者が策定した「地域経済牽引事業計画」について都道府県の承認が必要となるが、この事業計画は1社でなく、複数の会社が共同で作成することが可能である。また、投資額等の判定についても共同で事業を行う事業者の合計金額で判定することが可能となっている。例えば、2社が共同で事業を行う場合、2社合計で投資額が2,000万円以上であればよい。 (5) 基本計画の作成や都道府県による承認スケジュール等の確認を怠らないように 「地域未来投資促進税制」を適用するための手続き等を定めた「地域未来投資促進法」の改正案は5月11日に衆議院を通過し、6月2日に公布された。同法の施行日は交付日から起算して3月を範囲内とされており、7月31日に施行される。 本税制の適用を受けるためには、事業者が「地域経済牽引事業計画」を策定し、都道府県の承認を受ける必要があるが、事業者が計画の作成を行う前に市町村及び都道府県がその前提となる基本計画(対象区域、事業の要件等)の策定を行うため、実際に制度の適用が始まるのはさらに先になるものと思われる。 本税制の適用を検討する事業者は、今後の具体的な地方公共団体の「基本計画」や地域未来牽引企業選定プロセスなどの情報収集を怠らないことが肝要である。経済産業省が公表している地域未来投資促進法の執行スケジュールは、下記のとおりであるので参考にされたい。 なお、「地域未来投資促進法」については、経済産業省から資料が公表されているので、下記も併せて参照されたい。 * * * 次回からは設備種別ごとの適用税制の選択ポイントについて解説する。 (了)
平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「中小企業者向け設備投資促進税制の拡充(その1)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [7] 中小企業者向け設備投資促進税制の拡充 連結納税においても、単体納税と同様に、中小企業者向け設備投資促進税制が拡充されている(新措法42の6、42の12の3、42の12の4、68の11、68の15の4、68の15の5、新措令27の6、27の12の3、27の12の4、39の41、39の45の4、39の46)。 中小企業者向け設備投資促進税制については、連結納税の場合、単体納税と同じく、各連結法人ごとに適用要件の判定と特別償却限度額又は税額控除額の計算が行われる(つまり、税額控除について、研究開発税制や所得拡大促進税制のように連結納税グループでの全体計算の仕組みになっていない)。 そして、税額控除の限度額となる法人税額基準額が、連結法人税額の20%及び連結法人税個別帰属額の20%の両方を加味して計算される点と税額控除を受けることができる連結子法人の範囲が異なる点以外は単体納税と同じ取扱いとなる。 1 中小企業経営強化税制の創設 (1) 制度概要 中小企業投資促進税制の上乗せ措置 (生産性向上設備等に係る即時償却又は税額控除の上乗せ)について、 次の中小企業経営強化税制として改組し、全ての器具備品及び建物附属設備を対象とする。 具体的には、中小連結親法人又は中小連結子法人(注1)(注2)が、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの期間内に、生産等設備(注3)を構成する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備及びソフトウェアで、経営力向上設備等(注4)に該当するもののうち、一定の規模以上のもの(注5)(特定経営力向上設備等)(注6)の取得等をして、その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業(注7)の用に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む連結事業年度(供用年度)において、その特定経営力向上設備等の普通償却限度額との合計でその取得価額までの特別償却とその取得価額の7%(特定中小連結親法人(注8)又はその連結子法人(注9)にあっては、10%) の税額控除との選択適用(注10)ができることとする(新措法68の15の5①②、平成29年所法等改正法附則1)。 ただし、税額控除については、次の①又は②のうちいずれか少ない金額(法人税額基準額)を限度とする(措法68の15の5①②、措令39の46③)。 ※1 調整前連結法人税額は、【第3回】「3 研究開発税制の見直し」の(1)と同じ定義となる。 ※2 ①の調整前連結法人税額の20%に相当する金額は、中小企業投資促進税制及び商業・サービス業活性化税制の当期分の税額控除額がある場合、その税額控除額を控除した残額となる。 ※3 ②の金額は、中小連結親法人又はその中小連結子法人に中小企業投資促進税制及び商業・サービス業活性化税制の当期分の税額控除額の個別帰属額がある場合、その税額控除額の個別帰属額を控除した残額となる。 また、繰越税額控除限度超過額は1年間の繰越しができ、次の①又は②のうちいずれか少ない金額(法人税額基準額)を限度として繰越控除できる(新措法68の15の5③④、新措令39の46⑤)。 ※1 調整前連結法人税額は、【第3回】「3 研究開発税制の見直し」の(1)と同じ定義となる。 ※2 ①の調整前連結法人税額の20%に相当する金額は、中小企業経営強化税制の当期分の税額控除額、中小企業投資促進税制及び商業・サービス業活性化税制の税額控除額(繰越税額控除限度超過額の税額控除額を含む)がある場合、その税額控除額を控除した残額となる。 ※3 ②の金額は、連結親法人又はその連結子法人に中小企業経営強化税制の当期分の税額控除額、中小企業投資促進税制及び商業・サービス業活性化税制の税額控除額(繰越税額控除限度超過額の税額控除額を含む)の個別帰属額がある場合、その個別帰属額を控除した残額となる。 なお、各連結法人ごとに税額控除額(個別帰属額)が計算されるため、全体計算の場合の個別帰属額の計算はない(新措法68の15の5⑪⑫、新措令39の46⑥⑦)。 (2) 帳簿書類の備付け等により連結納税の承認が取り消された場合の税額控除額の取消し 連結法人が、帳簿書類の備付け等の不備や期限後申告によって、連結納税の承認を取り消された場合(法法4の5①)で、当該承認を取り消された連結法人の取消日前5年以内に開始した各連結事業年度において、中小企業経営強化税制の税額控除(繰越税額控除限度超過額の控除を含む)の適用があったときは、当該取消日の前日を含む連結事業年度又は事業年度の法人税の額に、その過去の税額控除額を加算する(新措法42の12の4⑤、68の15の5⑤、新措令27の12の4⑤、39の46⑨)。 (3) 地方法人税における中小企業経営強化税制の税額控除額の取扱い 法人税における中小企業経営強化税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において連結法人税額から控除される(新地方法6三)。 また、各連結法人の中小企業経営強化税制の税額控除額の個別帰属額に4.4%を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(新措法68の15の5⑪、新措令39の46⑥、地方法15①)。 なお、上記(2)の加算額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算においても連結法人税額に加算され、承認を取り消された連結法人の加算額に4.4%を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において加算される(新地方法6三、新措法68の15の5⑫、新措令39の46⑦、新地方法15①)。 (4) 住民税における中小企業経営強化税制の税額控除額の取扱い 各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における中小企業経営強化税制に係る税額控除額の個別帰属額は個別帰属法人税額から控除される(連結法人税個別帰属額に加算しない。新地法23①四の三、292①四の三)。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第4回】 「「相続空き家の特例」を受けられない家屋② (老人ホーム等に入居中であった場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- (平成31年(2019年)3月31日以前の譲渡に係る取扱い) 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年8月に死亡した母親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後、耐震リフォームをした上で、本年12月に4,800万円で売却しました。 母親は、相続の開始の直前において老人ホームに入居していて、既にその家屋を居住の用に供していませんでした。また、母親が老人ホーム入居後から譲渡の時まで空き家でした。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋と認められなければ、「相続空き家の特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」の適用対象となる家屋は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋でなければならないこととされています(措法35④)。 この規定に係る判定については、居住用財産を譲渡した場合の特例制度(措法31の3、35①、36の2、41の5、41の5の2)に共通するところの、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)の取扱いに準じて行うこととされていますので(措通35-10(被相続人居住用家屋の範囲))、例えば、相続開始直前に病院に入院されている場合でも、病状等が改善したならば再びその家屋に居住するような状況で死亡した場合であれば、「相続空き家の特例」の適用対象なり得ます。 しかしながら、老人ホーム等入居中の死亡については、 と示されており(財務省HP「平成28年度税制改正の解説」152頁)、その家屋が相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋と認められない場合は、「相続空き家の特例」の適用対象となりません。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第7回】 「非居住者の退職所得」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(現在、日本の非居住者)甲は、乙社(日本法人)の従業員として30年以上勤務していましたが、このたび退職することになりました。在職期間のうち最後の10年間は海外勤務であり、退職時も海外で仕事をしていました。 退職時に退職金を受け取ることになりますが、海外在住者の場合の税金は、国内勤務者と比較して高額になると聞いて驚いています。会社都合で海外勤務になっているのに、国内勤務者よりも高額な税金を払わなければならないことに納得できません。何とかなりませんでしょうか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者の退職所得の課税の原則 非居住者である国内法人の従業員に対して支払った退職金のうち、居住者であった期間の勤務に対応するものは国内源泉所得(所法161①十二ハ)であることから、国内勤務対応部分の退職手当等の支給額について20.42%の税率で所得税等が源泉徴収され、課税関係は終了する(所法164②二、169、170、復興財確法28)。 退職手当の計算期間のうち、居住者期間と非居住者期間がある場合は、賞与と同様に期間按分をして国内勤務相当部分を算出する。役員であった者の退職金については、たとえ海外勤務期間であったとしても、内国法人の経営に寄与するための対価であると考えて、原則的には全額が国内源泉所得とされる(所法161①十二ハ)(【第2回】参照)。 質問の場合、甲は、乙社(内国法人)の従業員であることから、退職手当のうち国内勤務対応部分については20.42%の税率で所得税等が源泉分離課税される。 ▷退職所得の課税方法 退職所得については、居住者の場合、退職手当の金額から退職所得控除額を差し引いて、その2分の1相当額について所得税や住民税が課される。退職所得控除額は勤務期間が20年以下である場合は40万円×勤務年数、20年を超える場合は800万円+70万円×(勤務期間-20年)で計算されることから、勤務期間が長くなると控除額も大きくなる。さらに、2分の1相当額について超過累進税率で所得税を計算することから、他の所得と比較して納税負担が著しく軽減されることになる(所法30①②③)。 なお、役員等勤続年数が5年以下である人が支払いを受ける退職金のうち、役員等勤続年数に対応する退職金として支払いを受けるもの(特定役員退職手当等)については2分の1を乗ずることはできない(所法30②④)。これにより、短期間役員を受任し賞与や給与は低めに支給した上で、差額をまとめて退職金として払うことによる節税策に歯止めがかけられている。 ▷非居住者の退職所得の例外 このように、居住者と比較して非居住者が受け取る退職金に対する納税負担が著しく重い場合もあることから、退職所得については、本人の選択により、居住者と同様に退職所得を計算して確定申告をすれば、既に納めた所得税等について精算し、還付を受けることができる制度が設けられている(所法171)。 この場合、退職所得の計算においては、居住者と同様に、退職手当の全額(居住者期間部分+非居住者期間部分)を収入金額として退職所得を計算することになる。 ここで注意すべきは所得控除である。選択課税の適用を受けた場合、各種控除は使えない(所法171)。 この計算のための確定申告は、退職金の支払いを受けた年の翌年の1月1日から行うことができる(所法173①)。また、翌年まで待たなくとも、退職手当等の総額が確定した場合には、確定した日以後(所法173①かっこ書き)、一般的には退職金の支払いは一度であることから、支給日以後においては確定申告をすることにより、源泉徴収された税金の全部又は一部の還付が可能となる。 したがって、甲のケースも、退職金の支給を受けた日以後、確定申告により所得税等の還付ができる。 ▷納税管理人による申告 非居住者の確定申告、還付については、納税管理人制度を利用して行うことになる。 納税管理人は、納税義務者の代わりに税務署からの書類を受け取り、申告書を提出し、納税し、還付を受けることになる。納税が生ずる場合は、本人から納税相当額の資金を送金してもらい、代わりに納付する。 もし、本人が納税資金を送金しなかったならば、代わりに納税する義務はない。滞納の問題があったとしても、納税管理人は税務署からの書類を納税者に渡すにとどまり、納税管理人の財産が差し押さえられることはない。 納税管理人は日本に居住している人なら誰でもできるし、法人でもなれる。納税管理人に選任された場合は、納税管理人の届出書を本人(納税義務者)の納税地の所轄税務署長に提出することになる。 甲が誰かを納税管理人に選任すると、その納税管理人が納税管理人の届出書を甲の納税地の所轄税務署長に提出し、その後、甲の申告書を提出することになる。甲の提出する申告書には、甲の氏名、納税地の住所、現在の住所、納税管理人の氏名、住所を記載することになる。還付額については、納税管理人の口座に支払われることになる。 なお、納税管理人を引き受け申告すると、すみやかに納税管理人の解任届出を提出するという実務がある。解任届出を提出しないと、たとえ、本人が帰国したとしても税務関係の書類が納税管理人に送付されることになる。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第17回】 「別表13(4) 収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 前回、前々回は法人税法上の圧縮記帳を採り上げたが、今回は租税特別措置法上の圧縮記帳の中から、実務で比較的採用するケースの多い、「別表13(4) 収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、法人が、租税特別措置法第64条から第65条まで(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例等)の規定の適用を受ける場合に記載する。 本制度は、いわゆる圧縮記帳と呼ばれるもののうち、収用等(第64条)、換地処分等(第65条)に係るものである。 そもそも法人が所有する土地等の資産の譲渡益があった場合には、その収益は課税所得となるのが原則である。しかし、土地収用法等に基づき法人の有する資産が強制的に収用される場合などは、いわゆる公権力による買取りであって、この利益までをも課税対象とすると、企業は退去させられた設備の代替資産の取得が困難となり、事業継続に支障をきたす恐れが生じてしまう。 そこで法人税法上の圧縮記帳のように、これら譲渡益のうち代替資産の取得に充てた部分に相当する金額等については、取得価額を圧縮して損金の額に算入することを特例として認めることとしたものであり、国土政策等の観点から必要性が高いものとして導入された租税特別措置法上の制度である。 〈収用等の場合〉 法人が収用等により対価補償金を取得した場合において、その補償金をもって、その収用等のあった日を含む事業年度又はその収用等のあった日から原則として2年以内(特定の場合にはその期間延長が認められる)に、収用等により譲渡した資産と同一種類の資産その他これに代わるべき資産(代替資産という)を取得した場合に、その代替資産につき圧縮記帳が認められる。また、代替資産の取得が翌事業年度以降になる見込みのときには、特別勘定として経理することができる。 〈換地処分等の場合〉 収用等があった場合において補償金の支払いに代えて同種の資産の交付を受けた時(交換取得資産という)や、土地改良法による土地改良事業等が施行された場合においてその土地等に係る交換により土地等を取得した時、あるいは土地区画整理法による土地区画整理事業等が施行された場合においてその土地等に係る換地処分により土地等を取得した時、などの場合に、一定の金額の範囲内で、その交換取得資産につき圧縮記帳が認められる。 ▼ 注意!▼ 収用換地等があった場合には、圧縮記帳による損金算入に代えて5,000万円の所得の特別控除制度を選択適用することもできるので十分留意する。 圧縮限度額の計算方法は次のとおり。 (※) 差益割合=(補償金の額-譲渡経費の額-譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額)/(補償金の額-譲渡経費の額) ▼ 注意!▼ 「譲渡経費の額」は、譲渡資産に係る斡旋手数料、謝礼、譲渡資産の借地人又は借家人等に対して支払った立退料、資産の取壊し又は除去費用、資産の譲渡に伴って支出する建物等の移設費用などの額の合計額から、譲渡経費に充てるために交付を受けた金額(経費補償金)を控除して算出する。 また、実際の譲渡に要した経費の額がその経費補償金の額を超える場合のその超える金額については、差益割合の計算上は、対価補償金等の額から控除することとなる。 なお、本制度の適用を受けるためには、確定申告書に損金の額に算入される金額の記載があり、かつ計算明細書及び収用証明書等を添付するとともに、一定事項を記載した適用額明細書を提出しなければならない。 Ⅲ 「別表13(4)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (4) 圧縮記帳に関する計算と仕訳例 (単位:円) 〔収用時の仕訳〕 〔代替資産取得時の仕訳〕 〔期末時の仕訳〕 〔圧縮限度額の計算〕 ◆譲渡資産の帳簿価額の按分計算 ◆譲渡経費の按分計算 ◆差益割合の計算 ◆代替資産の圧縮限度額 ◆交換取得資産の圧縮限度額 (5) 別表の各記載欄の説明 「譲渡資産の明細」 「譲渡経費の額の計算」 「帳簿価額の計算」 「差益割合の計算」 「代替資産について帳簿価額の減額等をした場合」 「特別勘定を設けた場合」 「交換取得資産について帳簿価額を減額した場合」 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例52(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆基準期間がない法人の納税義務の免除の特例(消法12の2①) その事業年度の基準期間のない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金額が1,000万円以上である法人(新設法人)については、納税義務は免除されない。 ◆特定期間における納税義務の免除の特例(消法9の2①) 平成25年1月1日以後に開始する事業年度について、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その課税期間の特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合には、その課税期間から課税事業者となる。なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額によることもできる。 ◆特定期間(消法9の2④) 個人事業者の場合はその年の前年の1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう。 ◆消費税課税事業者届出書(特定期間用)(消法57①一) この届出書は、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下(基準期間における課税売上高がない場合又は基準期間のない場合を含む)である事業者が、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより、その課税期間について納税義務が免除されないこととなる場合に速やかに提出する。 なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額によることもできる。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第36回】 「連結財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収指針」という)」が公表されている(なお、回収指針は、平成28年3月28日に改正が行われている)。 そこで、今回は回収指針に基づいて、連結財務諸表における税効果会計を解説する。今回の解説は、本連載【第5回】「連結財務諸表における税効果会計」の改訂版である。なお、本解説では3月末決算の会社を前提に解説している。 税効果会計は大きく「個別財務諸表における税効果会計」、「連結財務諸表における税効果会計」、「連結納税における税効果会計」に分けることができる。今回は「連結財務諸表における税効果会計」について解説する。「連結納税における税効果会計」は次回取り上げたい。 連結財務諸表の作成は、親会社及び連結子会社の個別財務諸表を単純合算することから始まる。本解説では、単純合算「後」を解説する。 連結財務諸表における税効果会計は、以下の5つのステップに分けることができる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 個別財務諸表で集計したものだけが一時差異ではない。連結手続によっても一時差異は生じる。連結手続により生じる一時差異のことを連結財務諸表固有の一時差異という。 連結財務諸表固有の一時差異についても税効果会計を適用する必要があるため、まず、連結財務諸表固有の一時差異を連結会社(納税会社)ごとに集計する(会計制度委員会報告第6号連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「連結実務指針」という)10)。 また、連結財務諸表固有の一時差異も個別財務諸表における一時差異と同様に、将来減算一時差異と将来加算一時差異に分類することができる(連結実務指針5)。ただし、連結財務諸表固有の一時差異は、連結手続上で発生するだけで、実際の課税所得の計算には関係しないということに留意が必要である。 〈将来減算一時差異〉 連結手続の結果として連結貸借対照表上の資産(負債)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産(負債)を下回(上回)っていて、将来、当該差異が解消されるときに、連結財務諸表上の利益が減少することによって、その減少後の利益と連結会社の個別財務諸表上の利益を一致させるものである(連結実務指針6)。 〈将来加算一時差異〉 連結手続の結果として連結貸借対照表上の資産(負債)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産(負債)を上回(下回)っていて、将来、当該差異が解消されるときに、連結財務諸表上の利益が増加することによって、その増額後の利益と連結会社の個別財務諸表上の利益を一致させるものである(連結実務指針8)。 * * * * 連結財務諸表固有の一時差異は、大きく(1)連結上の会計方針の統一により生じる一時差異、(2)資本連結により生じる一時差異、(3)成果連結により生じる一時差異に分けることができる(連結実務指針3、4)。そのため、連結財務諸表固有の一時差異の集計の際には、一時差異が、(1)から(3)のどの内容により生じているかを検討し、集計することになる。 主な連結財務諸表固有の一時差異は以下のとおりである。 なお、連結手続上、計上される「のれん(負ののれん)」については、繰延税金負債(繰延税金資産)は計上しない(連結実務指針27)。 (1) 連結上の会計方針の統一により生じる一時差異 連結財務諸表作成にあたって親子会社の会計方針を統一する必要がある。この統一により子会社の貸借対照表に計上している資産又は負債と連結財務諸表に計上される資産又は負債に差額が生じる場合がある。この差額が一時差異に該当する。 (2) 資本連結により生じる一時差異 資本連結により生じる一時差異は、大きく以下の4つに分けることができる。 (※) ④については、本解説では省略している。 ① 子会社支配獲得時における子会社の資産及び負債の時価評価に伴う評価差額 連結手続上、子会社支配獲得時に子会社の資産及び負債を時価評価することにより評価差額が生じる。これにより、個別貸借対照表に計上している資産及び負債と連結貸借対照表に計上する資産及び負債に差額が生じる。この差額が一時差異に該当する。 この一時差異は、資産の売却、減価償却(償却資産の場合)等により解消される。 ② 子会社株式評価損及び投資損失引当金の連結修正に伴う差異 個別貸借対照表上の子会社株式に対して、子会社株式評価損又は投資損失引当金(以下、「子会社株式評価損等」という)を計上している場合、連結上、これらは消去する。そのため、子会社株式評価損等が税金計算上、損金算入されていない場合、子会社投資に対する個別上の簿価と連結上の簿価に差額が生じる。当該差額が一時差異(将来加算一時差異)となる(連結実務指針28)。 そして、個別財務諸表上、子会社株式評価損等に係る繰延税金資産を計上している場合、当該将来加算一時差異に係る繰延税金負債と同額となり、連結貸借対照表上、相殺される(連結実務指針28(1)、詳細は【STEP5】(3)参照)。結果的に、この連結修正に関する繰延税金資産及び繰延税金負債は計上されない。 また、個別財務諸表上、子会社株式評価損等に係る回収可能性がなく繰延税金資産を計上していない場合は、特段の検討は不要である。同様に子会社株式評価損等が損金算入されている場合も特段の検討は不要である。 ③ 子会社への投資の個別上の簿価と連結上の簿価の差異 子会社の支配獲得時には、子会社への投資に対する個別上の簿価と連結上の簿価は一致している。しかし、のれんの償却や連結子会社となった後に子会社で生じる利益・その他有価証券評価差額金・為替換算調整勘定等、段階取得(複数の取引による支配獲得)に係る損益により、個別上の簿価と連結上の簿価に差額が生じる。この差額が一時差異に該当する(実務指針29、29-2)。 一時差異の発生原因、解消、税効果の取扱いは以下のとおりである(実務指針30、32、34、35、37)。 (3) 成果連結により生じる一時差異 ① 未実現損益の消去に係る差異 連結会社相互間の取引で生じた未実現損益は連結手続上、消去する。例えば、親会社が子会社へ棚卸資産を売却した場合、子会社の貸借対照表上は、親会社から取得した金額で計上されるが、連結貸借対照表上は親会社の個別貸借対照表で元々計上されていた金額(未実現損益を含まない金額)で計上されることになる。 したがって、子会社の個別貸借対照表と連結貸借対照表の計上額に差異が生じるため、一時差異に該当する。 当該一時差異は資産の売却、減価償却費(償却資産の場合)等により解消する。 ② 債権債務の消去に伴い減額修正される貸倒引当金 連結グループ内の会社に対する債権債務は、連結手続上、相殺消去する。そのため、連結手続上、相殺した債権に個別貸借対照表上、貸倒引当金を計上していた場合、当該貸倒引当金を修正する。これにより、個別貸借対照表上と連結貸借対照表上の貸倒引当金の計上に差額が生じるため、一時差異に該当する。 なお、税務上、損金算入されているかどうかで、以下のように会計処理が異なる。 (ⅰ) 税務上、損金算入されている場合 この場合、個別貸借対照表と税務上の貸倒引当金は一致している。そのため、連結手続における貸倒引当金の修正により、「個別貸借対照表(税務)上の貸倒引当金 > 連結貸借対照表上の貸倒引当金」となる。したがって、将来加算一時差異に該当する。 (ⅱ)税務上、損金算入されていない場合 この場合、「税務上の貸倒引当金 < 個別貸借対照表上の貸倒引当金」となる。そのため、個別貸借対照表上では、将来減算一時差異が生じる。ここで、連結手続における貸倒引当金の修正により、「税務上の貸倒引当金 = 連結貸借対照表上の貸倒引当金 < 個別貸借対照表上の貸倒引当金」となる。これにより、個別貸借対照表の将来減算一時差異がなくなるため、個別貸借対照表で繰延税金資産を計上していた場合、これを取り崩す必要がある。 連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債も、個別財務諸表と同様に、一時差異に法定実効税率を乗じて算定する。 【STEP2】では、この法定実効税率を算定する。 未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で用いる法定実効税率は異なる。そのため、それぞれで法定実効税率を算定する。 (1) 未実現損益の消去以外の一時差異における法定実効税率 未実現損益の消去以外の一時差異における法定実効税率の計算方法は、個別財務諸表と同じであるため、【第35回】「個別財務諸表における税効果(回収指針対応版)」を参照のこと。 なお、連結財務諸表を作成するにあたって、連結子会社の決算日が連結決算日と異なる場合で、かつ、当該連結子会社が連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行う場合、当該連結子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、「連結決算日」における税率による。 また、連結子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合、当該連結子会社の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、「連結子会社の決算日」の税率による(企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」9)。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における法定実効税率 未実現損益の消去に係る一時差異に適用する法定実効税率は、計算方法は上記(1)と同様であるが、用いる法定実効税率が異なる。 未実現損益の消去による一時差異に適用する法定実効税率は、その取引の売却元に適用される法定実効税率が適用される。また、売却元での実際の課税関係は取引時に終了しているため、売却年度に適用された法定実効税率を用いる。そのため、連結決算日までに税率が改正されていても、改正後の税率を用いない(連結実務指針13)。 【STEP3】では、回収可能性考慮前・繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する。【STEP2】で未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で別々に法定実効税率を算定したため、それぞれの一時差異に別々の法定実効税率を用いて算定する。 (1) 回収可能性考慮前・繰延税金資産の算定 回収可能性考慮前・繰延税金資産を納税会社ごとに、以下のとおり算定する。 (2) 繰延税金負債の算定 繰延税金負債も納税会社ごとに、以下のとおり算定する。 【STEP3】で算定した繰延税金資産は、回収可能性がない限り連結貸借対照表に計上できない。また、繰延税金負債も例外的な場合に支払可能性の検討が必要な場合がある。ただし、未実現損益の消去に係る一時差異については、その検討方法が異なる。 そこで、【STEP4】では、納税会社ごとに未実現利益に係る一時差異とそれ以外の一時差異に分けて回収可能性を検討する必要がある。 (1) 未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産について、その全額を貸借対照表に計上できるわけではなく、将来の課税所得(税金)を減少させる部分しか貸借対照表に計上できない。 そこで【STEP4】では、連結貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定するために、納税会社ごとに未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産と個別財務諸表上の繰延税金資産を合算し、「繰延税金資産の回収可能性」を検討する(連結実務指針41)。 具体的には、以下の①~③の検討が必要である。詳細は、【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」参照のこと。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 ① 未実現利益の消去に係る税効果 連結手続上、消去された未実現利益に係る税効果は、未実現利益が発生した連結会社と一時差異の対象となった資産を保有する連結会社が異なるという特殊性を考慮し、かつ、従来からの実務慣行を勘案し、売却元で発生した税金額をそのまま繰延税金資産として計上する。この場合、繰延税金資産の回収可能性を検討する必要はない。 その後、未実現利益の実現(減価償却費の計上、売却等)に対応させて取り崩す(連結実務指針13)。 土地、建物等のように、未実現利益の実現が長期間にわたることになっても繰延税金資産を計上する。 ただし、無制限に繰延税金資産を計上できるわけではない。未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額は、売却元の売却年度における課税所得額が限度となる(連結実務指針15)。 ② 未実現損失の消去に係る税効果 未実現損失の消去に係る税効果は、売却元で課税所得の計算上、未実現損失が損金処理されたことによる税金軽減額を繰延税金負債として計上する。その後、未実現損失の実現(減価償却費の計上、売却等)に対応させて取り崩す(連結実務指針14)。 なお、未実現損失に係る繰延税金負債の計上にも限度額がある。未実現損失の消去に係る将来加算一時差異の額は、売却元の当該未実現損失に係る損金を計上する前の課税所得額が限度となる(連結実務指針15)。 【STEP5】では、税効果会計の会計処理について検討する。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債(その他有価証券評価差額金等の純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果を除く)の計上 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係るものを除く)の増減額を「法人税等調整額」を相手勘定科目として計上する(会計制度委員会第10号個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「個別実務指針」という)2)。 繰延税金資産及び繰延税金負債(その他有価証券評価差額金に係るものを除く)の会計処理の例は以下のとおりである。 (※1) 当期末の繰延税金資産-前期末の繰延税金資産 (※2) 当期末の繰延税金負債-前期末の繰延税金負債 (2) 直接純資産の部に計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果- その他有価証券評価差額金の場合 その他有価証券評価差額に係る税効果会計の会計処理(時価>取得価額の場合)は以下のとおりである。 (※) (時価-取得価額)× 法定実効税率 (3) 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺 同一納税主体ごとに流動資産の繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債を相殺して表示する。また、同一納税主体ごとに投資その他の資産の繰延税金資産と固定負債の繰延税金負債も相殺して表示する(連結実務指針42)。したがって、親会社と子会社、子会社間で繰延税金資産と繰延税金負債を相殺することはできない。 また、税効果会計においては、以下の注記が必要である(連結財務諸表規則15条の5)。 なお、連結計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第14回】 「認知症患者の親族が負う監督責任」 -JR東海認知症事件- クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問13] 私の父親は91歳で、約7年ほど前からアルツハイマー型認知症の症状が出ていました。 そこで、私の母親(父の妻。事故当時85歳)と私の兄、そして私とで家族会議を開き、兄の奥さんが転居して母と一緒に父を介護することになりました。 その後、父の認知症の症状は進行し、最近では週6回前後の頻度で福祉施設に通っていました。 ◆ ◆ ◆ そのような中で、父は、福祉施設に行かない日に自宅を飛び出して徘徊し、行方不明になるといった事件も度々起こしました。このときは発見されて自宅まで戻ってこれたのですが、私たちは用心のため、自宅の玄関付近等にセンサーの付いたチャイムを設置するなどしました。 ところが、今回、父と母がふたりきりとなり、母がまどろんでいたところに父が自宅を抜け出して駅に向かい、電車に乗って隣駅で下りた後に線路内に立ち入り、そこで列車に衝突して亡くなってしまったのです。 ◆ ◆ ◆ 父が突然の事故で亡くなったことにショックを受けたのは当然ですが、私たち家族に追い打ちをかけるように、鉄道会社から遺族である母と兄に対して、父の事故に伴い発生した振替輸送費等として約720万円を支払うよう請求があったのです。 身内である父が大変な迷惑をかけたことは確かですが、他方で、私たち家族としてもできる限りのことはしてきたつもりです。 父のような認知症の高齢者を抱えた家族として、私たちはどのような法的責任を負うのでしょうか。 1 認知症高齢者本人の不法行為責任-責任能力があることが前提 前回の【設問12】で取り上げた交通事故を起こした相談者の父親の場合には、その挙動に照らしても不法行為責任を負う前提となる「責任能力」が認められる余地は少なからずあった。 また、自動車運転中の事故ということで、自賠責保険や任意保険により損害がカバーされることが通常といえる。 他方で、交通事故以外の原因により認知症高齢者が他人に損害を与えた場合には、より一層複雑な問題が生じる。 それが如実に現れたのが、新聞等でも大きく報じられたいわゆる“JR東海認知症事件”である(【設問13】はこの事件における事実関係をベースとしている)。 2 監督者の不法行為責任-どのような場合に責任を負うか? 事故の原因を発生させた高齢者本人の認知能力が低下し、不法行為責任の前提となる「責任能力」(その内容については前回参照)すら欠く状態にあった場合、いったい誰が、どのような条件のもとに法的責任を負うのか。 この点に関し、最高裁平成28年3月1日判決は、【設問13】におけるような「事実上の後見人」(法定後見の申立てがされないまま、事実上、親族等が身の回りの面倒や財産管理を行っている状態)の監督義務・責任につき、民法714条1項が定める法定監督義務者の解釈に関連して次のように判示した。 このように、高齢者本人が責任無能力であり、被害者が民法714条に基づき親族に対して賠償請求を行う場合について、上記最高裁判決は、①精神障害者(認知症の者)と同居する妻であっても、民法714条1項の法定監督義務者にはあたらないこと、②ただし、このような者でも監督義務を引き受けたと見るべき特段の事情が認められる場合には、法定監督義務者に準ずる者として民法714条1項が類推適用され、監督者責任を負うことがあることを判示した上で、③法定監督義務者に準ずる者といえるかを判断する際にあたっての考慮要素を明示した(その他の論点についても言及しているが、ここでは割愛する)。 その上で、線路に侵入した高齢者の妻(【設問13】における相談者の母)と長男(相談者の兄)が法定監督義務者に該当することを否定し、JR東海の賠償請求を棄却した。 この点、JR東海認知症事件の地裁判決は、妻だけではなく、同居していない長男の監督責任まで認めるなど、非常に広い範囲で親族の法的責任を認めていた。 他方、高裁判決は、妻については一部責任を認めたが、長男については法的責任を認めなかった。 このように、地裁・高裁・最高裁のそれぞれで判断内容が異なり、最高裁判決についてもトーンの違う(補足)意見が3つ付されている。 その意味では、今回示された最高裁の規範も固定的なものではなく、今後の状況の変化や事案の内容によっては規範の修正や事案へのあてはめ等をめぐり様々な判断がなされることも予想される。議論はまだ始まったばかりと言えよう。 なお、仮に民法714条に基づき親族に対する請求が認められた場合、この債務は親族固有のものであるから相続放棄をして免れることはできない。 そうすると、親族は自己破産をして債務を免れることを検討することになる(不法行為に基づく債務ではあるが、【設問13】のケースは破産法253条1項2号・3号には該当しないと思われる)。 3 認知症高齢者を介護する家族としての対応方法 【設問13】のように、認知症が進んだ高齢者本人が容易に自宅から外出できるということになれば、徘徊による行方不明や事故への巻き込まれ等、各種のトラブルに巻き込まれる恐れが発生する。 これを防ぐためには、①センサー付きチャイムを出入口に設置する、②GPS機能が付いたグッズを身に着けてもらう、③服の一部に氏名や電話等を記載する、④散歩の時間を作り、体を動かす機会を作る、⑤デイサービスを利用する等の対策が考えられる。 これらに加え、高齢者が誰かに損害を与えてしまう場合に備え、個人賠償責任保険(特約)を利用することも検討事項である。 この点、個人賠償責任保険は、他の保険(自動車保険、傷害保険、火災保険等)の特約として付けることが通常である。典型的には、日常生活の中で誤って他人に怪我をさせた、物を壊したといったようなケース等で補償がなされる。 ただし、【設問13】のように人に怪我をさせたり、物を壊したりということではなく、第三者に対して損害を与えた場合には、従来型の保険では補償が及ばないケースも出てくる。 そこで、保険会社各社では、上記最高裁判例を踏まえて、事故を起こした本人が責任無能力であった場合には、被保険者を法定監督義務者等まで拡大する等の改定を行ったり、電車の運行不能等に対する賠償責任も補償する新商品を販売する等といった対応をしているようである。 【設問13】のようなケースは今後ますます増加することが予想され、認知症高齢者を抱える家族としては、このような保険加入まで含めた総合的な対策を検討すべきであろう。 (了)