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高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第3回】「自己建設高額特定資産を建設等した場合」

高額特定資産を取得した場合の 納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第3回】 (最終回) 「自己建設高額特定資産を建設等した場合」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   ① 自己建設高額特定資産を建築等した場合の納税義務の免除の特例 事業者(免税事業者を除く)が、簡易課税の適用を受けない課税期間中に自己建設高額特定資産(注1)の仕入れ等を行った場合には、自己建設高額特定資産の仕入れを行った場合に該当することとなった日(注2)の属する課税期間の翌課税期間からの建設等が完了した日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない。 (注1) 自己建設高額特定資産とは、他の者との契約に基づき、又はその事業者の棚卸資産若しくは調整対象固定資産として、自ら建設等をした高額特定資産をいう。 (注2) 自己建設高額特定資産の建設等に要した一定の費用の額(原材料及び経費に係るもので消費税等を除く)が1,000万円以上となった日。 (注3) 上記の課税資産の譲渡等からは、特定資産の譲渡等を除く。   ② 自己建設高額特定資産を建築等した場合の簡易課税制度選択届出書の提出の制限 簡易課税の適用を受けようとする事業者が、自己建設高額特定資産を建築等した場合には、その建設等が完了した日の属する課税期間の初日からその初日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は、簡易課税制度選択届出書を提出することができない。   ③ 留意事項 (イ) 適用開始時期 平成28年4月1日以後に自己建設高額特定資産を建築等した場合に適用される。 (ロ) 経過措置 平成27年12月31日までに締結した契約に基づき、平成28年4月1日以後に自己建設高額特定資産を建築等した場合には、上記①及び②の規定は適用されない。 (ハ) 高額特定資産を売却等した場合の取扱い 上記①及び②の規定は、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に自己建設高額特定資産を建築等した場合に適用されるのであるから、その後に自己建設高額特定資産を廃棄、売却等により処分したとしても、適用されることに留意する。 (ニ) 自己建設資産が調整対象固定資産である場合の高額特定資産の判定 高額特定資産に該当するかどうかは、自己建設資産が調整対象固定資産(※)である場合には、その資産ごとに、その建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額の合計額を基礎として判定することに留意する。 (※) 調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、建物附属設備、構築物、機械及び装置、車両運搬具、工具器具備品その他の資産で、一の取引単位の価額(税抜)が100万円以上のものをいう。 (ホ) 自己建設資産が棚卸資産である場合の高額特定資産の判定 棚卸資産の原材料として仕入れるものは、調整対象固定資産に該当しないのであるから、当該原材料を自ら建設等する棚卸資産の原材料として使用した場合には、その原材料の仕入れに係る支払対価の額についても、当該棚卸資産の建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額の合計額に含まれることに留意する。 (へ) 保有する棚卸資産を自己建設資産の原材料として使用した場合 自己が保有する建設資材等の棚卸資産を自己建設資産の原材料として使用した場合には、その棚卸資産の仕入れに係る支払対価の額は、当該自己建設資産の建設等に要した仕入れ等に係る支払対価の額に含まれることに留意する。   -具体例- 平成28年度の税制改正により、自己建設高額特定資産を建設した場合には、その費用の累計額が1,000万円以上となった課税期間の翌課税期間からその資産の建設等が完了した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までは「課税事業者、かつ、原則課税」となる。なお、この期間内で資産を売却しても継続して適用される。 ※ 建設に要した費用の累計が1,000万円以上となった課税期間の翌課税期間からその資産の建設等が完了した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までの期間 (連載了)

#No. 199(掲載号)
#島添 浩
2016/12/22

マイナンバーの会社実務Q&A 【第25回】「所得税の確定申告書へのマイナンバーの記載」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第25回】 (最終回) 「所得税の確定申告書へのマイナンバーの記載」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 所得税の確定申告書へのマイナンバーの記載について教えてください。   〈A〉 第一表には、提出者のマイナンバーを記載する。 【図表1】 確定申告書Aの第一表   【図表2】 確定申告書Bの第一表   第二表には、以下の者のマイナンバーを記載する。   【図表3】 確定申告書Aの第二表   【図表4】 確定申告書Bの第二表   確定申告書を提出する際、本人確認書類の提示又は写しの添付が必要である。ただし、e-TAXで送信する場合、本人確認書類の提示又は写しの添付は不要である。本人確認書類の写しとは、次の書類をいう。   【図表5】 添付書類台紙 (連載了)

#No. 199(掲載号)
#上前 剛
2016/12/22

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例45(法人税)】 「「エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却」に該当する太陽光発電設備を設置したが、即時償却の処理をせずに消耗品費で処理したため、税務調査で否認されてしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例45(法人税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却(措法42の5) 青色申告法人が新品のエネルギー環境負荷低減推進設備等の取得等をして、その取得等をした日から1年以内に国内において事業の用に供した場合には、その事業の用に供した事業年度において、特別償却(取得価額の30%)が認められる。また、平成24年7月1日から平成27年3月31日までの期間内に取得等をした太陽光発電設備については、取得価額の全額を償却(即時償却)できる。 ◆エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除(措法42の5) 青色申告法人のうち、中小企業者等が、新品のエネルギー環境負荷低減推進設備等の取得等をして、その取得等をした日から1年以内に国内において事業の用に供した場合において、特別償却の適用を受けないときは、一定の金額(基準取得価額の7%。ただし法人税額の20%相当額を限度とする)を法人税額から控除することができる。 ◆中小企業者等(措法42の4) 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(ただし、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人及び同一の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上を所有されている法人及び2以上の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を所有されている法人を除く)又は、資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人をいう。       (了)

#No. 199(掲載号)
#齋藤 和助
2016/12/22

金融・投資商品の税務Q&A 【Q25】「外国法人発行の株式の配当に外国源泉税が課される場合の外国税額控除の適用」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q25】 「外国法人発行の株式の配当に外国源泉税が課される場合の 外国税額控除の適用」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 配当の課税方法による外国税額控除の適用の有無 所得税法上、居住者たる個人が、国外において発行された上場株式の配当で国外において支払われるものを、国内の支払の取扱者を通じて支払を受ける場合は、配当に対しては、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率による源泉徴収が日本で行われます(水際源泉徴収)。 日本の源泉徴収の対象となる金額は、配当に外国所得税が課されている上場株式の場合にはその外国所得税を控除した後の配当金額とされます。 個人投資家は、受け取った配当について、以下のいずれかの処理が可能です。 ① 申告不要制度 源泉徴収のみで課税関係を終了することができます。 この場合、配当について課された外国所得税について外国税額控除の適用をすることはできません。 ② 申告分離課税 配当については、上場株式等に係る配当所得に含まれ、上場株式等に係る配当所得の合計額について申告分離課税を選択することができます。申告分離課税を選択した場合、上場株式等に係る配当所得の金額に対し20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率が適用されます。 個人投資家が申告分離課税を選択する場合には、配当について課されている外国所得税は、外国税額控除の対象とすることができます。 ③ 総合課税 上場株式等に係る配当所得の合計額について、申告分離課税に代えて、総合課税を選択することができます。総合課税を選択した場合、上場株式等に係る配当所得の金額に対し累進課税が適用されます。この場合、配当について課されている外国所得税は、外国税額控除の対象とすることができます。 *  *  * なお、その年の1月1日から12月31日までの1年間における上場株式の配当等のうち、①の申告不要を選択したもの以外については、②の総合課税か③の申告分離課税かのいずれかを選択しなければなりません(すなわち、配当毎に選択することはできません)。   2 外国税額控除の方法 具体的な外国税額控除の方法は、【Q24】と同様です。   (了)

#No. 199(掲載号)
#箱田 晶子
2016/12/22

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第6回】「大規模災害時の特例措置(その1)」~災害損失特別勘定~

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第6回】 「大規模災害時の特例措置(その1)」 ~災害損失特別勘定~   公認会計士・税理士 新名 貴則   阪神・淡路大震災や東日本大震災のように、災害の被害状況が甚大である場合には、特例法や国税庁の個別通達による特例措置がとられることがある。【第6回】から【第8回】においては、これらの大規模災害時の特例措置について解説する。 これらの特例措置は、大規模災害の都度設定されるものであり、今後も必ず同様の内容となるとは限らない。しかし、平成28年4月に発生した熊本地震における特例措置(個別通達)は、東日本大震災時の特例措置を参考として概ね同様の内容となっていることから、今後特例措置が設定される際も同様であると考えられる。 【第6回】では、原則として平成28年6月に公表された「平成28年熊本地震に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」を基礎として解説していく。   1 災害損失特別勘定の繰入 ① 災害損失特別勘定とは 法人が、災害が発生した日の属する事業年度等(被災事業年度等)において、被災資産の修繕等にかかる費用の見積額を災害損失特別勘定として経理した場合、その金額を被災事業年度等の損金に算入する。損金経理が要件であり、原則として申告調整による損金算入はできない(通達の公表までに決算が終わってしまった法人などは、特例的に申告調整が認められる場合がある)。 この適用を受ける場合には、確定申告書等に災害損失特別勘定の損金算入に関する明細書を添付する必要がある。 災害損失特別勘定は、個々の被災資産ごとに次の①又は②のいずれか多い方の金額(被災資産に係る保険金、損害賠償金又は補助金等による補填額を控除した残額)を把握し、その合計額以下である必要がある。ただし、〇〇工場建物一式、××製造設備一式といった単位で計算することも認められる。 (※1) 法令や地方公共団体の復興計画等により、一定期間修繕等に着手できない場合は、「修繕等の工事に着手できることとなる日から1年を経過する日」と読み替えることができる。ただし、この場合であっても、災害損失特別勘定の繰入は被災事業年度等において行うことに変わりはない。 (※2) 対象となるのは、次の期間に支出すると見込まれる修繕費用等である。 【計算例】 災害損失特別勘定は180,000千円以下である必要がある。 ② 対象となる被災資産 災害損失特別勘定の対象となる被災資産とは、災害により被害を受けた次の資産をいう。 ③ 被災資産の時価 一般的に資産の時価とは、当該資産が使用収益されるものとして、その時点で譲渡されるとした場合に通常付される価額をいう。しかし、大規模災害時の被害の甚大さを考慮すると、被災資産の構造検査等により厳格に時価を評価することが困難な場合も考えられる。 このような場合には、建築業者など一定の専門知識を有する者が行った見積りによるなど、合理性がある金額であれば、被災資産の時価として取り扱われる。 ④ 修繕費用等の見積り 修繕等を行うことが確実な被災資産につき、次のような金額によるなど合理的に見積もることが必要である。 外部者による見積りが必要とされるわけではなく、法人内部の技術者等の専門家が見積りを行った場合であっても、合理的と認められる場合は当該金額を基礎として災害損失特別勘定へ繰り入れることができる。 ⑤ 保険金の控除 災害損失特別勘定を繰り入れる際に、被災資産に係る保険金によって補填される場合は、当該保険金額を控除する必要がある。 しかし、大規模災害時には保険金の額が確定するまでに長期間を要する場合も考えられる。したがって、被災事業年度等の末日までに保険会社の査定が終わらないなど、保険金額の見積りが困難な場合には、保険金の金額を控除しなくても差し支えない。 また、被災事業年度等において既に受領して益金に算入している保険金等については、災害損失特別勘定の繰入額の算定において考慮しない。 ⑥ 仮決算による中間申告書での繰入 被災事業年度等において仮決算による中間申告を行う場合に、対象となる中間期間において災害が発生している場合は、当該中間申告において災害損失特別勘定を繰り入れることができる。このときも、損金経理が必要となる。 その際の修繕費用等の見積りの対象期間は、次のとおりである。   2 災害損失特別勘定の取崩 ① 確定申告において繰入を行った場合 被災事業年度等の確定申告において災害損失特別勘定の繰入を行った場合、災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度(1年経過事業年度等)の末日において、原則として全額を取り崩すことになる。つまり、通常であれば災害のあった事業年度の翌事業年度において、全額を取り崩して益金算入することになる。 ◆被災事業年度等 【災害損失特別勘定の繰入】 ◆1年経過事業年度等 【実際の修繕費の支出】  【災害損失特別勘定の取崩】 ② 仮決算による中間申告において繰入を行った場合 被災事業年度等の中間期間(被災中間期間等)について仮決算による中間申告を行い、災害損失特別勘定を繰り入れた場合、被災事業年度の末日において一部の取崩が発生する。つまり、被災事業年度等の下半期において、被災資産について損金算入した修繕費等の合計額と同額を取り崩すことになる。 また、被災事業年度等の末日の翌日から災害発生日から1年を経過する日までに支出すると見込まれる修繕費用等の見積額が、上記の取崩後の災害損失特別勘定の残高を超える場合、その超える部分の金額を災害損失特別勘定の繰入対象にできる。 ◆被災中間期間等 【災害損失特別勘定の繰入】 ◆被災事業年度等(下半期) 【実際の修繕費の支出】 【災害損失特別勘定の取崩】 【災害損失特別勘定の追加繰入】 (※) 被災事業年度等の終了時の災害損失特別勘定の残高は6,000 ◆1年経過事業年度等 【実際の修繕費の支出】 【災害損失特別勘定の取崩】 ③ 繰入額が過大であった場合 合理的に見積もった金額に基づいて災害損失特別勘定を繰り入れたにもかかわらず、結果的にこれが過大であったことが判明したとしても、繰り入れた事業年度等に遡って修正をする必要はない。   3 災害損失特別勘定の延長 ① 益金算入時期の延長 災害損失特別勘定は、被災事業年度等において繰り入れ、1年経過事業年度等において取り崩すのが原則である。 しかし、やむを得ない事情により被災資産の修繕等が1年経過事業年度等の末日までに完了しない場合には、申請により取崩を延長することができる。つまり、「災害損失特別勘定の益金算入時期の延長確認申請書」を所轄税務署長(又は所轄国税局長)に提出して確認を受けることにより、修繕等が完了すると見込まれる日の属する事業年度等(修繕完了事業年度等)まで、取崩による益金算入を延長することができる。なお、当該申請書は1年経過事業年度等の末日までに提出する必要がある。 ② 延長申請を行った場合の取崩 やむを得ない事情により益金算入時期の延長申請を行った場合、1年経過事業年度等の末日においては、次の(ⅰ)、(ⅱ)の合計額に相当する災害損失特別損失の取崩を行う。 (ⅰ) 修繕済額 被災事業年度等の末日の翌日から、1年経過事業年度等の末日までに、被災資産について損金算入した修繕費等の合計額(保険金等による補填額を控除した残額) (ⅱ) 災害損失特別勘定の繰入額から(ⅰ)修繕済額を控除した残額から、1年経過事業年度等の末日の翌日から修繕完了事業年度等の末日までに支出が見込まれる修繕費用等の合計額を控除した金額 (※) 修繕済額5,000+1,000(繰入額8,000-修繕済額5,000-修繕費用等の見込額2,000) ③ 益金算入時期の再延長 益金算入時期の延長を行ったものの、更にやむを得ない事情によって修繕等が遅れ、修繕完了事業年度等の末日までに修繕等が完了しない場合には、再延長を申請することができる。この申請は、当初の延長申請に基づく修繕完了事業年度等の末日までに行う必要がある。   (了)

#No. 199(掲載号)
#新名 貴則
2016/12/22

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第22回】「租税法上の評価⑥」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第22回】 「租税法上の評価⑥」   公認会計士 佐藤 信祐   前回では、東京地裁平成19年1月31日判決について解説を行った。 本稿では、最高裁平成7年12月19日判決について解説を行う。本事件は、低廉譲渡により、法人税法22条が適用された事件である。   6 最高裁平成7年12月19日判決・TAINSコード:Z214-7633 (1) 事実の概要 原告会社は、保有していた株式会社宮崎太陽銀行の株式(以下「本件株式」という)につき、昭和63年及び平成元年に、いずれも1株当たり225円で原告岡に対し譲渡した。被告は、本件株式の各譲渡は、時価よりも、低廉な価格でなされたものであるから、原告会社については、法人税法22条2項により、時価との差額に相当する金額を益金に算入すべきであり、原告岡については、原告会社から、時価との差額に相当する金額の経済的利益の供与を受けたものであるから、その経済的利益を原告会社からの賞与と認定すべきであるとして課税処分を行った。 なお、被告は、昭和63年の譲渡当時の時価につき、宮崎太陽銀行の従業員持株会と一般株主との間で行われた取引事例である1株当たり280円とし、平成元年の譲渡当時の時価につき、宮崎太陽銀行が、単位未満株式の買取価格と従業員持株会での売買事例を参考に1株当たり430円としている。 (2) 第一審(宮崎地裁平成5年9月17日判決・TAINSコード:Z198-7194) (3) 控訴審(福岡高裁平成6年2月28日判決・TAINSコード:Z200-7294) 控訴審は、第一審の判断をそのまま踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 裁判所の判断 (5) 評釈 このように、本事件では、取引事例を参考に時価が算定されている。従業員持株会の売買事例を用いてよいのかという点については、第一審では、当該持株会が会員以外からも買い取っている透明性の高い団体であり、取引事例も第三者間取引と考えることができると判断したように思える。そのため、法人税基本通達9-1-13(1)が適用され、売買事例を時価とする取扱いとなっている。すなわち、ここでは財産評価基本通達の議論は出てこない。 さらに、法人税法22条2項の内容についても争われている。現在では当たり前のことであるし、第一審当時である平成5年でもそれほど違和感がないとは思うが、無償譲渡や低廉譲渡において譲渡側で課税されるというのは、利益を得ていない者が課税されるということで、法律家からは違和感がある話であると言われている。そのため、昭和の時代では、争われた事件はいくつかあるものの、現在では争いになり得ない内容であると思われる。 次回では、東京高裁平成22年12月15日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 199(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/12/22

税務判例を読むための税法の学び方【98】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その26:「政令委任と租税法律主義③」)

税務判例を読むための税法の学び方【98】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その26:「政令委任と租税法律主義③」)   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   ④ 木更津木材事件 (この事案は、かつて別件で紹介している。) 第一審 千葉地裁平成7年2月22日(行集46巻10・11号1057頁、税務訴訟資料208号358頁、判例時報1553号64頁、判例タイムズ894号131頁) 控訴審 東京高裁平成7年11月28日(行集46巻10・11号1046頁) 法律による政省令への委任が租税法律主義に違反しているとされた具体的な事例を提供するものとして、重要な先例的意義を有する(佐藤英明「課税要件法定主義一政令への委任の限界」租税判例百選第4版(別冊ジュリスト178号)10頁(ただしこれは控訴審の評釈である))とされる裁判例である。 原告は、通常税率による登録免許税を納付して所有権移転登記を受けたが、これは協同組合の組合員への土地譲渡であり、かかる登記については租税特別措置法(平成4年法律14号による改正前のもの。以下「措置法」という)78条の3第1項に規定する中小企業者が集団化等のため取得する土地又は建物の所有権の移転登記についての軽減税率の特例の適用が可能であった。登記後にこの軽減規定を知り登記官に対して差額について還付請求したところ、同施行規則により登記申請書に添付すべきとされる知事証明書を添付していなかったことを理由に還付を拒否された。そこで原告は知事証明書を提出したうえで、登録免許税法31条2項に基づき所轄税務署長に還付通知をするように請求したが、登記官は過誤納付の事実は認められないため税務署長への還付通知はできない旨の通知をした。そこで原告がこの通知の取消と国に対する不当利得の返還を求めたものである。 関係法令は以下のとおりである。 (A) 第一審の判断 このように、判決は、手続規定であっても、それが軽減既定の適用のための要件とされる以上、手続的要件として課税要件の定めと解し、手続的要件を白紙的に政令に委任するものは、租税法律主義の原則上、有効なものではない旨判示した。 (B) 控訴審の判断 地裁の判断に加え以下を付加する。 このように抽象的な委任文言は、限定的に解釈すべきものであり、追加的な課税要件として手続的な事項を定めることの委任や、解釈により課税要件を追加しその細目を決定することの委任を含むものでではない旨判示した。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 ⑤ 阪神淡路大震災登録免許税事件 第一審 神戸地裁平成12年3月28日(民集59巻3号546頁、訟務月報48巻6号1519頁。税務訴訟資料247号81頁) 控訴審 大阪高裁平成12年10月24日(民集59巻3号558頁、訟務月報48巻6号1534頁。判例タイムズ1068号171頁、税務訴訟資料249号217頁) 上告審 最高裁一小平成17年4月14日(民集59巻3号491頁、訟務月報52巻4号1256頁。判例時報1897号5頁、判例タイムズ1181号176頁、税務訴訟資料255号順号9996) この事案は、裁判所HPで紹介されている。是非、入手の上、ご一読頂きたい。また類似の事案として、神戸地裁尼崎支部平成12年3月23日判決があるが、争点が異なっているため、ここに紹介するに留める。また、上告審はこの命令への委任に関する点について判断を示していないため、ここに紹介するに留める。 阪神・淡路大震災の被災者が建物を新築した場合、阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(以下「特例法」という)37条1項により、その建物の保存登記に係る登録免許税は非課税とされていたところ、建物を新築した被災者が、このことを知らずに通常税率の登録免許税を納付した後に非課税であることを知り過誤納金還付請求した事案である。原告が、前事案同様に登記官に還付通知を請求したところ、被災証明書を添付して登記申請のあった事実が認められず、登録免許税の過誤納がないので、還付の通知はできない旨を通知した。そこで原告がこの通知の取消と国に対する不当利得の返還を求めたものである。 関係法令は以下のとおりである。 (A) 第一審の判断 このように、前事案と同様、法律による白紙的委任に基づく省令規定であるとして、「租税法律主義に反して無効」と判示した。 (B) 控訴審の判断 前記事案と異なり、白紙委任ではなく、委任内容を限定しているとして、省令の規定が有効である旨判示した。 その差として大きな点は、「・・・に限る(り)」という限定が法律上明記されていて(④事案には、これがない)、政令による手続要件付加の手掛かりが明示されていたか否かにあるといえる。また④事案においては、「政令の定めるところにより」とありながら、政令から省令へ再委任されている。この点、判決では特に判断要素とはされていないが、大きな問題点といえる。 (続く)

#No. 199(掲載号)
#長島 弘
2016/12/22

〔経営上の発生事象で考える〕会計実務のポイント 【第12回】「多店舗展開企業における店舗の閉鎖」

〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第12回】 「多店舗展開企業における店舗の閉鎖」   仰星監査法人 公認会計士 上村 治     1 固定資産の減損 《解説》 減損処理の要否は、以下のフローで検討する。 【減損処理の要否の検討】 以下のような場合には、減損の兆候があると判定され、減損損失を計上するかどうかの回収可能性テストを実施することになる。 《減損の兆候の例示》 ① 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合 ② 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合 ③ 経営環境の著しい悪化の場合 ④ 市場価額の著しい下落の場合 (固定資産の減損に係る会計基準の適用指針12~15) 店舗撤退の意思決定は、②の事象に該当するため、減損損失の認識の判定を行う。その結果、投資額の回収が見込めない場合(当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合)は、減損損失の測定を行い、当該資産又は資産グループの回収可能価額までこれらの帳簿価額を減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする。   2 耐用年数の変更 《解説》 減損損失の計上が行われなかった場合や、減損損失を計上してもなお固定資産の帳簿価額が残っている場合、固定資産の耐用年数の変更の検討が必要になる。 店舗撤退の意思決定が行われた場合には、経済的に使用可能予測期間は店舗の撤退予定日までになると考えられる。この期間と当初予定の残存耐用年数とのかい離が明らかになった場合には、耐用年数の変更を行う必要がある。 店舗の撤退の意思決定を原因として耐用年数の変更を行う場合には、当初使用していた耐用年数はその見積り時点においては合理的に見積もられたものであると考えられるため、過去の誤謬にはあたらない。このような場合には、会計上の見積りの変更として将来にわたり変更を行うことになる。   3 店舗閉鎖損失引当金 《解説》 店舗の撤退に伴い発生する費用又は損失は、上述した減損損失や耐用年数の短縮による減価償却費の増加のほか、固定資産除却損、解体費用、撤去工事費用、賃貸借契約解約違約金、オペレーティング・リース取引に係る解約違約金などがある。このうち、賃貸借契約解約違約金、オペレーティング・リース取引に係る解約違約金については、以下の企業会計原則注解18の要件を満たす場合には、店舗閉鎖損失引当金を計上する必要がある。 「企業会計原則」注解18 引当金の計上要件 ① 将来の特定の費用又は損失である ② その発生が当期以前の事象に起因する ③ 発生の可能性が高い ④ 金額を合理的に見積もることができる 賃借していた店舗建物を中途解約した場合には、例えば賃料の数ヶ月分の解約違約金が発生するなどの契約条項が存在することが一般的である。このような場合には、解約違約金について契約書に明記されている以上、合理的に見積もることが可能である。そのため、期末時点において店舗撤退の意思決定が行われているのであれば、引当金の要件を満たすものと考えられる。 オペレーティング・リース取引に係る解約違約金についても同様の理由により引当金の要件を満たすケースがある。 なお、固定資産除却損、解体費用、撤去工事費用は、実際に除却や解体撤去工事が行われた時に損失計上すべきものと考えられる。   【検討事項のチェックリスト】 ~多店舗展開企業における店舗の閉鎖~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 199(掲載号)
#上村 治
2016/12/22

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第4回】「家族信託と生前贈与との違い」

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第4回】 「家族信託と生前贈与との違い」   弁護士 荒木 俊和   1 はじめに 財産を保有している本人が生前に次の代へ財産を引き継がせる制度として、生前贈与と同様に家族信託が挙げられるが、本稿では家族信託と生前贈与との比較をして、その異同について解説する。   2 財産管理機能を持つ信託 信託には「財産管理機能」があるとされている。 すなわち、委託者は受託者に対し、信託財産を信託することによって財産の管理を受託者に委ねることができ、財産管理の煩から免れることができるようになる。 このことにより、委託者が信託しておけば、認知症などによって意思能力を失っても、物理的に財産を管理する能力を失っても、ひいては委託者が死亡した後であっても、信託が存続する限りは受託者による財産管理が継続される。 一方で、生前贈与であれば贈与をした時点から、贈与を受けた者(受贈者)の財産となるため、受贈者が財産を管理することが当然となる。   3 所有権を移転させる効果の異同 (1) 法律上の前提 信託は、①信託契約の締結、②遺言による信託、③自己信託(信託宣言)の3種類の方法で成立するものとされている。 しかし、家族信託において信託を活用する場合、通常は①信託契約の締結によることになる。 一方、贈与も契約によって成立するものであることから、法律効果が発生する原因においては、家族信託と生前贈与との間で大きな差はないといえる。 (2) 法律上の効果 法律上の効果としては、家族信託であっても、生前贈与であっても、特定の財産の所有権を移転させるという点においては同じである。 ただし、信託の場合には、委託者が、信託する目的(「信託目的」又は「信託の目的」という)を定めて財産を受託者に移転し、受託者は、その財産を信託財産として信託目的に従い受益者のために管理又は処分等を行うとされる(神田秀樹他『信託法講義』弘文堂、1頁)。 すなわち、受託者は所有権を取得するとしても信託目的による制限を受け、受益者のために管理等を行うものとされるのに対し、贈与の場合には受贈者に完全な所有権が移転するため、受贈者は自らの意思に従って自由に財産を管理処分することができるという違いがある。 (3) 撤回や変更の可否 また、家族信託と生前贈与それぞれの場合において、従来財産を保有していた者が撤回をしたい(元の状態に戻したい)という場合や変更を行いたいという場合の異同についてはどうであろうか。 家族信託の場合、信託契約において特段の定めを置かなければ、信託法に従い、原則的に委託者、受託者及び受益者の三者間の合意によって信託の変更ができることとなるが(信託法第149条第1項)、信託契約において別段の定めを置くことができ(同条第4項)、委託者が単独で変更することも可能となる(ただし、受益者が不利益を受ける一定の場合には制限を受けることがある)。 一方、生前贈与の場合には、書面によって贈与した場合や、書面によらなくとも贈与の実行が完了した場合には、撤回ができないものとされている(民法第549条)。   4 税務上の取扱いの異同 (1) 家族信託における税務上の取扱い 本稿ではあまり詳細な解説は行わないが、家族信託(委託者、受託者、受益者ともに個人の場合)に関する財産権の移転に伴う税務上の取扱いは概ね以下のとおりである。 前提として、信託財産の所有権は法律上、受託者に移転するものの、税務上、その経済的な利益が帰属する受益者への課税を目的として、信託財産が受益者(等)に帰属するものと擬制して基本的な整理がなされている。 (ア) 家族信託を設定する時点 単独自益信託(委託者と受益者が同一であり、かつ、同一の自益信託)の場合には、委託者が信託設定前には信託財産を保有しており、一方で信託設定後には受益者が受益権を保有していることとなり、委託者と受益者が同一である以上、財産権が移転したものとはみられず、信託財産の移転に伴う課税関係は生じない。 他方で他益信託(委託者と受益者が異なる信託)の場合には、信託財産が委託者から受益者に対して移転したものとみなして、受益者に贈与税が生じる(受益者が時価相当額の対価を支払った場合は生じないが、この場合は委託者に譲渡所得が発生する可能性がある)。   (イ) 家族信託の期間中 信託財産に帰せられる資産及び負債並びに収益及び費用は、受益者の所得とみなされることとなる。 すなわち、収益物件を信託財産とする場合の賃料収入は、受益者の収入とみなされることとなる。 また、受益権が譲渡された場合には前受益者から新受益者へ信託財産が移転したものとみなして課税関係が生じる。   (ウ) 家族信託を終了する時点 信託の終了時点においては、その終了直前の受益者と残余財産の帰属者との関係により課税関係が整理される。 すなわち、終了直前の受益者と残余財産の帰属者が同一である場合(この場合の受益者を残余財産受益者という(信託法第182条第1項第1号))には課税関係が生じないが、異なる場合(この場合の残余財産の帰属者を帰属権利者という(同項第2号))には信託の終了事由に応じて贈与税又は相続税等の課税関係が生じうることとなる。 (2) 生前贈与における税務上の取扱い 生前贈与の場合には、財産の贈与の時点において受贈者に贈与税が発生する。 その後は受贈者が完全な財産の所有者となることから、受贈者が当該財産を移転させれば課税関係が生じることとなる。   5 活用方法の異同 以上を踏まえて、家族信託と生前贈与のいずれを活用するかについて以下に述べる。 (1) 即座に資産承継を行いたい場合 このような場合には生前贈与を行うことが原則的となる。 ただし、即座に生前贈与を行うと贈与税が高額になってしまう場合や財産を管理する者(受託者)と収益を得る者(受益者)を分けたいような場合には家族信託を検討する余地がある。 (2) 財産管理を委ねたいだけの場合 この場合は家族信託を検討すべきである。 すなわち、生前贈与で財産の所有権を移転した後、一定期間をおいて返還させるというような特約を付けた生前贈与も考えられなくもないが、通常は税務上の不利益となる。 また、生前贈与の場合には完全な所有権が受贈者に移転するため、その管理処分に対して契約上の制約を設けることは困難又は煩雑である。 (3) 資産承継のタイミングを前後させたい場合 この場合には家族信託の活用が有効である。 特に非上場株式を保有している経営者(オーナー社長)が事業承継対策を行う場合には、株式の承継のタイミングを早める、又は遅らすことが有効となる場合が多く存在する。 すなわち、現在は株価が低く、早めに株式を贈与してしまいたいが後継者が未熟な場合や、逆に現在は株価が高いが、将来的には株価が下がってくる見込みがある場合、家族信託によって会社の経営権(意思決定権限)を移すタイミングと財産権(受益権)を移すタイミングをずらすことで、理想的なタイミングの選択ができる。 また、財産をいつか譲ろうと考えているうちに財産を保有している者が認知症になってしまい、財産を移転させることができなくなるリスクを免れる意味でも家族信託の活用が考えられる。 (了)

#No. 199(掲載号)
#荒木 俊和
2016/12/22

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第7回】「過重労働とコンプライアンス-行政・立法と大手広告代理店事件」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第7回】 「過重労働とコンプライアンス -行政・立法と大手広告代理店事件」   弁護士 原 正雄     1 1991年の事件 1991年8月、今回の事件が起きたのと同じ大手広告代理店で、入社2年目の社員(24才)が自ら命を絶った。同社員は長時間労働を続け、直前は3日に1回、午前6時30分まで残業し、家に帰れず会社近くで宿泊する状況であったとのことである。 1998年、同事件が労災認定された。遺族が会社を訴え、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の全てが会社の責任を認めた。特に、最高裁判所が、会社に「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」があり上司の配慮不足が「過失」であった、と認定したことは、その後の行政や立法に大きな影響を与えた(最判2000年3月24日民集54巻3号1155頁。2000年6月、差戻し後の高等裁判所で、会社が約1億6,800万円を支払い陳謝する、との和解が成立)。   2 立法や行政の取り組み (1) 行政による対応の強化 2001年12月12日、厚生労働省は「脳・心臓疾患の認定基準」を改正し、月100時間以上の時間外労働で、原則として過労死の労災認定をするとした。 2003年5月23日、厚生労働省は、「賃金不払残業総合対策要綱」を発表し、サービス残業の取り締まり強化を宣言した。その結果、全国の労働基準監督署による是正指導の件数は飛躍的に増加し、刑事立件化による書類送検も積極的に行われるようになった。 同年、大手消費者金融が、従業員にサービス残業をさせたとして、厚生労働省大阪労働局から強制捜索を受け、会社と役員らが書類送検された。後に従業員5,000人に残業代35億円を後払いしたことで起訴猶予となったものの、行政の強い決意を感じさせる事件であった。また、同年、中部地方の電力会社が、労働基準監督署の是正勧告を受けて、従業員1万2,000人に残業代65億円を後払いした。翌2004年は、関東地方の電力会社が、同様に労働基準監督署の是正勧告を受けて、従業員2,800人に残業代14億円を後払いした。行政の対応は、明らかに変わってきた。 2006年、改正労働安全衛生法による「長時間労働者に対する面接指導制度」や「過重労働による健康障害防止のための総合対策」が導入された。 もっとも、その後の2008年にも、大手居酒屋の26歳の社員が過労で自ら命を絶つという事件が起きた(2015年12月8日、会社と社長らが連帯して1億3,365万円を支払い、再発防止策を取る、との和解が成立)。 (2) 長時間労働の是正に向けた施策 2014年11月1日、議員立法により、過労死等防止対策推進法が施行された。同法に基づき、厚生労働省は過重労働の撲滅に向けた取り組みを開始した。 2015年4月、厚生労働省は、東京労働局と大阪労働局に、重大悪質な労働基準法違反を取り締まる組織として「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」を新設した。 2015年5月18日、厚生労働省は「違法な長時間労働を繰り返している企業に対する指導・公表について」を発表し、重大な労基法違反については企業名を公表する、との方針を明らかにした。 2015年4月から同年12月までの間、厚生労働省は、労基署を通じ、8,530事業場に立入調査し、4,790事業場に是正勧告を出した。書類送検に至った企業も複数存在する。 2015年12月1日、改正労働安全衛生法が施行され、企業が従業員のためにストレスチェックを実施することが義務付けられた。 2016年4月1日、厚生労働省は、長時間労働削減推進本部の会合で、月80時間超の残業の疑いで立入検査の対象とする方針を示した(従来は月100時間超)。また、各都道府県の全ての労働局に「過重労働特別監督監理官」を各1名配置することにした。 2016年10月7日、厚生労働省は、初の統計資料として「過労死等防止対策白書」を公表した。同白書は、月80時間超の残業がある企業が22.7%と指摘している。約5社に1社が立入検査の潜在的な対象になる。仕事が一因となった自殺は年間2,000人以上、労災請求件数1,500件以上(過去最多)という点も報告している。 (3) 安倍内閣による労働基準法の改正案 安倍内閣は、「働き方改革」の一環として、労働基準法の改正を目指している。 改正法案は、長時間労働の抑制という観点から、労働基準監督官が時間外労働について労働者の健康の確保に特に配慮して助言指導するとしている。改正法案が成立すると、月45時間、年360時間超の時間外労働を想定した「特別条項付き36協定」は、助言指導を受ける可能性が高い。 他方、改正法案は、多様で柔軟な働き方の実現という観点から、高度プロフェッショナル制度の創設を目指している。高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件(想定では1,075万円以上)を満たす高度プロフェッショナルについて、時間外・休日・深夜の割増賃金等を不要とする制度である。これは、安倍内閣の成長戦略の一つである「時間ではなく成果で評価される新たな労働時間制度の創設」に基づく。 しかし、高度プロフェッショナル制度は、野党から「残業代ゼロ法案」として強い反発を受けた。安倍内閣は、改正法案の2015年中の成立を断念した。その後、改正法案は、継続審議となって現在に至っている。今回の事件は、そのような状況下で起こった。   3 今回の事件 (1) 事件前の会社の状況 大手広告代理店では、上述のとおり、1981年、社員が自ら命を絶ち、2000年、最高裁判所で敗訴した。その後も2013年6月に30歳の男性社員が病気で亡くなったが、2016年に長時間労働による過労死であったとして労災認定を受けた。 また、同社は、2010年8月に中部支社が、2014年6月に大阪支社が、2015年8月に本社が、2015年秋に子会社が、それぞれ長時間労働で労基法違反であるとして労基署から是正勧告を受けた。 同社はノー残業デーを設けるなど改善に努めたが、報道によれば「(その後も)残業がなかったのは1日もない」との社員の声もあった(読売新聞2016年11月8日)。 (2) 事件発生に至る経緯 今回の事件で亡くなったTさんは、東京大学を卒業し、2015年4月、同社に入社、本社でインターネット広告を担当する部署に配属された。 その後、10月に使用期間が終わって本採用になり、かつ、部署の人数が14人から6人に減員したため、業務が大幅に増加した。Tさんは、同月4日、ツイッターに「神様、会社行きたくないです」と書き込んでいる。10月中のTさんの時間外労働は、労働基準監督署が認定しただけでも約105時間で、実際はそれ以上であったようだ。しかし、Tさんが申告した10月の時間外労働は、69.9時間であった。過少申告するよう指導されたため、とのことであった。これは、36協定で上限が70時間であったことに基づくとある(日本経済新聞2016年10月15日)。 11月の勤務状況も同様であったようだ。そのため、Tさんは、上司に仕事を減らすよう依頼したが、改善されなかったようである(日本経済新聞2016年11月10日)。労基署は、Tさんが疲れた様子で、友人らに「死にたい」と訴えた時点でうつ病を発症した、と推定した(読売新聞2016年10月8日)。Tさんが申告した11月の時間外労働は、69.5時間であった。 12月、Tさんは「1日の睡眠時間2時間はレベルが高すぎる」「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた後に何が残るんだろうか」等のメッセージを発信している。2015年12月25日クリスマス早朝、Tさんは、母親に「今までありがとう」とメールを送った後、会社の女子寮で自らの命を絶った。24歳であった。 (3) 労災認定と記者会見 2016年9月30日、労基署は、Tさんについて「長時間労働で精神障害を発症し、自殺」として労災認定した。 大手広告代理店は、1週間前の同月23日、本事件とは別に、インターネット広告の不正請求事件について記者会見を開いていた。会見で「現場は恒常的に人手が不足している」との説明がなされた。Tさんが配属されていたのは、本社でインターネット広告を担当する部署であった(朝日新聞2016年10月8日)。 2016年10月7日、Tさんの遺族が記者会見を開いた。同日は、安倍内閣が、初の「過労死等防止対策白書」を閣議決定した日であった。 (4) 行政による立入調査 行政の反応は素早かった。2016年10月11日、東京労働局長が同社の幹部を呼び、再発防止策を要求した。12日、厚生労働大臣が「再び自殺事件が発生したことは本当に遺憾の至りだ」とコメントを公表した。13日、首相が政府の働き方改革実現会議の意見交換会で、本事件に言及した。 上述のとおり、安倍内閣は、時間外・休日・深夜の割増賃金等を不要とする「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法の改正案の成立を目指している。が、野党は「残業代ゼロ法案」と反発している。改正法案が成立すれば、大手広告代理店は同制度の適用を受ける可能性もある。そのような企業で「長時間労働で精神障害を発症し、自殺」という事件が起きたことは、同法案の成立への逆風となりかねない。安倍内閣として危機感を有したことが伺える。 2016年10月14日、各地の労働局が、大手広告代理店の本社と支社に一斉に立入調査を行った。通常と異なり事前通知なしの「抜き打ち」であった。しかも、調査には「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」も参加した。上述のとおり、「かとく」は重大悪質な労働基準法違反を取り締まる組織である。既に、靴販売店や量販店、大手飲食業など複数社を書類送検し、内数社を略式起訴での罰金刑とした実績を有していた。同日、官房長官が記者会見で「結果を踏まえ、過重労働防止に厳しく対応する」とのコメントを公表した。一企業への立入調査について官房長官がコメントを発表するのは、異例であった。 翌18日、厚生労働大臣が記者会見で「事案を徹底的に究明し、違反事実には厳しく対処する」とコメントし、同社のみならず主要子会社5社全てへ立入調査する旨を公表した。グループ全体で違法な長時間労働が常態化していないか調べる、とのことであった。翌19日、首相は、転職・起業経験者らとの意見交換会で「このようなことは二度と起こしてはならない」とコメントを公表した。 (5) 刑事上の強制捜査への発展 2016年11月7日、厚生労働省は、労基法違反の疑いで、合計88名の職員を動員して大手広告代理店の本社と3支社に捜索を行い、勤務記録や入退館記録などを押収した。10月14日の立入調査は任意調査であったが、今回は強制捜査であった。それまでの調査で、入退館記録と勤務時間報告書に齟齬があり、30人以上で100時間以上の過少申告、残業代未払いとの事実が発覚したことに基づく。労働基準法は、36協定を超えた長時間労働や残業代未払について、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰を定めている(同法32条、37条、119条1号)。本事件は、会社や役員らの管理責任が刑事上の問題として問われることとなった。 2016年11月9日、厚生労働省は、同社の役員、労務担当者、過少申告を指示した上司たち、幹部数十名から事情聴取するとの方針を公表した。マスコミは「異例の大規模な聴取」と報道した。同日は、厚生労働省が都内で過労死等防止対策推進シンポジウムを開催した日でもあった。同シンポジウムには遺族が登壇し、本事件について語ったうえで改革を訴えた。   4 過重労働とコンプライアンス 上記の経緯を見ると、本事件は、行政がまさに全力で、長時間労働の改善や過労死の防止に取り組んでいる最中に起きた事件であることが分かる。大手広告代理店は、それ以前にも複数回にわたって是正勧告を受けるなどしていたが、今回の事件を防ぐことはできず、行政の取り組みに答えることができなかった。 大手広告代理店は、1951年に「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは・・・」等と説く、有名な「鬼十則」と呼ばれる社員心得を制定している。同社は、そうした心得のもと社員が一丸となって努力した結果、2001年に創立100周年を迎え、東証第一部に上場し、現在は世界有数の広告代理店にまで発展した。正社員として一定の報酬を得ている以上は激務もやむなしとする風潮が、同社に限らず世間に存在していた。 しかし、コンプライアンスの実現が強く求められるようになった現在、次第にそうした考え方は受け入れられなくなってきている。これまでも、無申告のサービス残業となった場合、未払い額の倍額の支払を必要とする「付加金制度」(労働基準法114条)や、年6%の遅延損害金制度(退職者には年14.6%の遅延利息、賃金の支払の確保等に関する法律第6条)、また、刑事罰などが存在した。刑事罰となれば、官庁からの指名や受注を停止されることもある。こうした制度は、今後ますます厳格に適用されるだろう。なぜなら、行政は、世論が求めていることを実現しようとするからである。 今回の事件は、いかなる場合も違法な過重労働は許されない、との社会的合意が形成される大きな契機となる可能性がある。   5 過重労働の防止策 事件が起きた大手広告代理店では、勤怠管理は、社員が毎日、パソコンで労働時間集計表に勤務時間を入力する仕組みとなっていた。そのため、短い時間を入力されてしまうと、会社が長時間労働を把握できないという問題があった。また、労働時間を月間で管理しており、1日単位では管理していなかったようである。この点については、企業によっては、ICカード等による入退館時間の記録や、PCのログオン・ログオフの時間などと、申告労働時間との差異を確認している。就業時間が過ぎると総務担当が見回りをし、申請のない残業をしている社員がいないかを確認する企業もあるとのことである(日本経済新聞2016年12月8日)。 現在、大手広告代理店は、労働時間管理の改善に向けて全力で取り組んでいる。2016年10月17日、同社は、社長名で社員に緊急メッセージのメールを送った。同年11月1日、社長を本部長とする「労働環境改革本部」を設置した旨を社長名でリリースした。同月7日、社内ホールに数百人の社員を集め、数十分かけて会社の現状や改革方針を説明した。 また、同社は、諸施策の策定に際し、社員の多様な意見や価値観を積極的に取り入れ、共に改革を進めていく趣旨から、「入社1~5年目」「同6~10年目」「同11年目以降」「マネジメント職」「契約社員」「他社からの出向者」から成る合計10の提言チームを組成し、問題提起と提言について役員と直接に意見交換する手続を進めている。同年12月2日には「労働環境改善の取り組みについて」とのリリースで、以下の改善策を公表している。 また、上記の「鬼十則」を社員手帳から削除する方向で検討している旨が、報道されている。 こうした改善策は、多くの企業にとっても参考になる点が多い。二度と本事件のようなことが起きないよう、私たちは労務管理におけるコンプライアンスを考えていかなければならない。 (了)

#No. 199(掲載号)
#原 正雄
2016/12/22
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