日本の企業税制 【第38回】 「平成29年度税制改正大綱における 配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 与党の平成29年度税制改正大綱が12月8日に取りまとめられた。 今回の大綱の大きなテーマは、「一億総活躍社会の実現」であり、そのための両輪として「働き方改革」と「イノベーション」が掲げられている。 「イノベーション」の観点からは、研究開発税制における増加インセンティブの強化、コーポレートガバナンス改革・事業再編の環境整備などの法人課税関係の改正が盛り込まれている。 一方、「働き方改革」の観点からは、経済社会の構造変化を踏まえた個人所得課税改革が盛り込まれた。今回の大綱では、その第一弾として、就業調整を解消し、働きたい人が就業時間を調整することを意識せずに働くことができる環境を整備し、また最低賃金が引き上げられていく中でも人手不足を解消できるよう、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しを行うこととされた。この改正は平成30年分以後の所得税について適用される。 ▷配偶者特別控除の拡充 具体的には、所得控除額38万円の対象となる配偶者の給与収入の上限を現在の103万円(給与所得控除の最低額65万円+38万円)から150万円に引き上げることとされた。なお、この引き上げは、配偶者控除の対象となる配偶者の給与収入の上限を見直すことはせずに、配偶者特別控除の控除額が、配偶者の給与収入が103万円から150万円までの間、38万円に固定することによって実現するものである。つまり、103万円の内訳である65万円と38万円の水準については何ら変更はない。 この150万円の意味合いは、安倍内閣が目指す最低賃金1,000円で、1日6時間、週5日働いた場合の年収を上回る水準である。 現在の配偶者特別控除の所得控除額は、配偶者の給与所得103万円から141万円にかけて段階的に逓減する仕組みであるが、改正後は、配偶者の給与所得103万円から150万円までの間は38万円で固定であり、その後、150万円から201万円にかけて段階的に逓減することとなる。 ▷配偶者控除及び配偶者特別控除の適用の所得制限 ただし、この見直しによって、配偶者特別控除の減税額が増加することから、税収中立の観点から、配偶者控除及び配偶者特別控除を適用できる納税者の所得制限を導入することとされた。 現在は、配偶者控除には所得制限はなく、配偶者特別控除には給与収入1,220万円(給与所得控除(220万円(平成29年分から))適用後の合計所得金額1,000万円)以下という所得制限があったが、改正後は、給与収入1,220万円超の納税者には配偶者控除も適用されなくなる。さらに、給与収入1,120万円超1,170万円以下(合計所得金額900万円超950万円以下)の納税者には、通常の配偶者控除及び配偶者特別控除の額のほぼ3分の2、また、給与収入1,170万円超1,220万円以下(合計所得金額950万円超1,000万円以下)の納税者には、通常の配偶者控除及び配偶者特別控除の額のほぼ3分の1の所得控除額が適用される。 【改正後の所得控除額】 ▷ 今後の個人所得課税改革 今回の配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しはあくまでも第一弾であり、今後も改革は続くことが見込まれる。 今回の大綱では、まず、所得再配分機能の回復の観点から、基礎控除などの人的控除等の「控除方式」の見直しが掲げられており、これまでの「所得控除方式」から「ゼロ税率方式」や「税額控除方式」あるいは所得控除方式を維持しつつ高所得者について税負担の軽減額が逓減・消失する仕組みが提示されている。 次に、多様な働き方を踏まえた給与所得控除等の所得の種類に応じた控除と人的控除とのあり方を全体として見直すことが掲げられている。これは所得の種類に応じた控除から人的控除に重点を移すことが念頭にあるものとみられる。 最後に、老後の生活に備えるための自助努力を支援するための企業年金、個人年金、貯蓄・投資、保険等に関連する公平な制度の構築が挙げられている。 (了)
〔平成29年度税制改正大綱からみた〕 組織再編税制の改正内容と実務への影響 【前編】 公認会計士 佐藤 信祐 1 概要 平成28年12月8日に平成29年度与党税制改正大綱が公表された。税制改正大綱が公表される前はスピンオフ税制のみが報道されていたが、実際に公表されてみると、平成18年度税制改正(会社法への対応)、平成22年度税制改正(グループ法人税制)に匹敵する大改正であったということが言える。 その概要は以下の通りである。 このうち、②から⑤までの改正は、平成29年10月1日の施行が予定されており、それ以外は、平成29年4月1日の施行が予定されている。 詳細な内容については、政省令を確認しないと分からないが、本稿では、税制改正大綱から読み取れる実務上の留意事項について解説を行う。 2 スピンオフ税制 現行法人税法では、支配株主の存在しない新設分割型分割や子会社株式の現物分配は、グループ内の組織再編にも該当せず、共同事業を営むための組織再編にも該当しないことから、非適格組織再編として取り扱われている。このような取扱いが企業の円滑な組織再編を妨げているという批判から、スピンオフ税制が導入された。 スピンオフ税制の対象となる組織再編は以下の通りである(なお、具体的な税制適格要件は、平成29年度税制改正大綱(p68-69)を確認されたい)。 これらはいずれも、他の者(※)による支配関係がないことを前提としていることから、非上場会社で適用されることは稀であり、実務上、上場会社がbad事業を切り離す場合にのみ適用される手法であると思われる。 (※) 「他の法人」としていないことから、個人による支配関係がある場合についても含まれると推定。正確なことについては、改正後の条文を確認する必要がある。 このようなニーズがあることは否定しないが、約3,500社存在する上場会社のうち、スピンオフ税制を適用する会社は極めてわずかであろう。 そのため、多くの税務専門家にとっては、スピンオフ税制の存在を知っておくことは重要かもしれないが、実際に関与することはそれほど多くはないと思われる。 3 スクイーズアウト税制 (1) 対価要件の見直し 平成29年度税制改正大綱を見て、多くの税務専門家が注目したのは、スピンオフ税制ではなく、スクイーズアウト税制であったと言われている。 まず、吸収合併及び株式交換に係る適格要件のうち対価に関する要件について、合併法人又は株式交換完全親法人が被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を有する場合におけるその他の株主に対して交付する対価を除外して判定することになった(p70)。 これは極めて大きな改正であり、発行済株式の3分の2以上を支配した後に、現金交付型合併又は株式交換を行ったとしても、適格合併又は適格株式交換に該当するということを意味している。 しかし、平成29年度税制改正大綱の文言を形式的に読むと、合併法人又は株式交換完全親法人が被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2以上を直接に有する場合に限定されており、間接保有は認められていない可能性があり得る。さらに、同一の者によって、発行済株式の3分の2以上を有する場合については適用されないようにも読める。この点については、2月に公表される改正法案を確認する必要があろう。 そして、税制改正大綱から読み取れないが、発行済株式の3分の2以上を支配した後に、無対価合併又は株式交換を行った場合の取扱いについても注目すべきであろう。この点については、法人税法施行令に規定する支配関係が成立しているかどうかの要件の一つとなっているため、本改正の影響を受けない可能性はあり得る。 なお、例えば、発行済株式の90%を支配している場合に、10%の少数株主に対して現金交付型合併又は株式交換を行った場合には、立法論としては、10%だけ譲渡損益を課税するという考え方もあり得る。平成29年度税制改正大綱を読む限り、そのような考え方は採用されなかったと予想されるが、この点については、念のため、改正法案を確認する必要がある。 さらに、現金交付型合併又は株式交換を行った場合における株主課税の問題、合併法人又は株式交換完全親法人の純資産の部の取扱いについても確認する必要がある。 現金交付型株式交換を行った場合には株式譲渡損益課税になると予想されるが、現金交付型合併を行った場合も同様の取扱いになるのか、みなし配当課税の対象になるのかは、今のところ明らかではない。そして、交付した現金について、合併法人又は株式交換完全親法人における資本金等の額の減額要因になると推定されるが、この点についても、政省令を確認する必要があると考えられる。 なお、現行法上、支配関係が成立しているかどうかは、合併又は株式交換の直前とその後の継続見込みで判断するため、発行済株式の3分の2を取得してから合併又は株式交換を行う場合には、支配関係での組織再編に該当することから、事業継続要件や従業者引継要件を満たせば、税制適格要件を満たすことができる。 この考え方が平成29年度税制改正後も踏襲された場合には、発行済株式の3分の2を取得してから現金交付型株式交換を行うという手法が採用される可能性があり得る(現金交付型合併については、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失の損金不算入の問題があることから、それほど利用されないと思われる)。 (後編(2016/12/22)に続く)
相続税の実務問答 【第6回】 「遺産分割協議のやりなおし」 税理士 梶野 研二 [答] いったん有効に成立した遺産分割協議をやり直して、当初の分割とは異なる内容の分割を行った場合には、相続人間で贈与又は交換等が行われたものとして、贈与税や所得税の課税の問題が生じることがあります。 ご質問の場合には、あなたからお兄様に国債の贈与があったものとして、贈与税が課税されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産分割 相続が開始すると、その瞬間に被相続人に属していた財産は、共同相続人の共有財産となりますが、共同相続人の共有となった個々の財産は、遺産分割の手続きを経ることにより、各共同相続人に個別具体的に帰属することとなり、共有状態が解消することとなります。 遺産分割は、共同相続人全員の協議により行うこととなります。しかしながら、共同相続人間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所における審判や審判手続きに先立つ調停の手続きによることもあります。 2 遺産分割のやり直し 遺産分割が成立し、相続財産の具体的な帰属が確定したものの、その後、共同相続人の一部からの申出により、遺産分割をやり直すことがあります。 遺産分割をやり直したいという話が起こる背景には様々な原因が考えられます。たとえば、①他の相続人から示された遺産分割協議書の内容を十分に確認することなく、軽率に押印してしまったが、後からその内容を読み返してみると自分に不利な内容となっていることに気づいた場合、②分割の対象となった財産の一部の価値が著しく上昇したり、その逆に下落したような場合(駅前の再開発が進み地価が急騰したり、相続した株式の発行会社が倒産した場合など)、③共同相続人の一部の者の生活状況や事業の状態に著しい変動が生じたような場合、④親の面倒をみることを確約した相続人に多くの遺産を取得させたが、その相続人が約束を守らなかった場合などにおいては、遺産分割のやり直しの話が持ち上がることもあるでしょう。 どのような理由であれ、共同相続人全員の合意により、いったん有効に成立した分割協議を白紙に戻し、その内容とは異なる内容の分割をすることは、第三者の利益を害さない限り、私的自治の原則の支配するわが国の民法の下では、否定されるものではありません。 〇平成2年9月27日最高裁第一小法廷判決 (土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件・最高裁判所民事判例集44巻6号995頁) 3 遺産分割のやりなおしがあった場合の課税関係 いったん有効に成立した遺産分割の全部又は一部を取り消して、それとは異なった内容の分割をすることは、それ自体を否定されるものではないとしても、それは相続人間における財産権の移転を目的とした新たな法律行為であると考えられます。 そうしますと、遺産分割のやり直しにより新たに取得することとなった財産は、もはや相続を原因として取得するものではなく、当事者の自由な意思に基づく相続以外の原因による財産の取得ということになり、その態様に応じて贈与又は交換等が行われたものとし、贈与税又は所得税(譲渡所得等)の課税関係が生ずることとなります。 このことを直接的に明らかにしたものではありませんが、相続税基本通達では、相続税法第19条の2に規定する配偶者の税額軽減の規定の適用に関して、「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再分配した場合には、その再分配により取得した財産は、同項(筆者注:相続税法第19条の2第2項)に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」と定め、相続税法の適用において、遺産分割のやり直しにより財産の移転があった場合には、相続とは別の原因による財産の移転として取り扱うことを示しています(相基通19の2-8ただし書き)。 〇平成12年1月26日東京高裁判決 (相続税更正処分取消等、贈与税決定処分取消等請求控訴事件・税務訴訟資料246号205頁) もっとも、上記1で述べたように遺産分割のやり直しの原因や経緯は個々の事例ごとに千差万別であり、共同相続人間の意思に従いその態様に応じた課税を行う以上、当初の遺産分割協議後に生じたやむを得ない事情によって当該遺産分割協議が合意解除された場合などについては、合意解除に至った諸事情から贈与又は交換の有無について総合的に判断する必要があるといえるでしょう(『平成27年版 相続税法基本通達逐条解説』326頁(野原誠編・大蔵財務協会))。 4 質問の場合 ご質問の場合、遺産分割協議が調った後に、お兄様の事業が思わしくなくなり、事業の運転資金にも不自由するようになったことから、その支援しようとの趣旨で、遺産分割協議により取得した国債をお兄様に渡したいというものです。遺産分割のやり直しに至った経緯その他の諸事情を総合的にみても、特段のやむを得ない事情があるとは考えられません。 したがって、名目は遺産分割のやり直しということではあっても、その実態は、質問者に有効に帰属している国債を、共同相続人全員の同意を経て、質問者の新たな意思表示によりお兄様に移転するものであって、もはや相続とは切り離された取引であるといえます。 そうしますと、質問者からお兄様が移転を受ける国債は、お兄様が贈与により取得したものと認められますので、お兄様には贈与税が課されることとなります。 (了)
高額特定資産を取得した場合の 納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第2回】 「高額特定資産を取得した場合」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 本改正は、高額特定資産に係る特例規定(納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例)であるが、その資産を取得(購入等)したものか、自ら建設をしたものなのかで取扱いが異なる。以下、2つに区分して解説していく。 今回は「高額特定資産を取得した場合」について確認する。 ① 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例 事業者(免税事業者を除く)が、簡易課税の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等(注1)を行った場合には、高額特定資産の仕入れ等を行った日の属する課税期間の翌課税期間からその仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない。 (注1) 国内における高額特定資産(棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、その価額が1,000万円以上のもの)の課税仕入れ又は課税貨物の保税地域からの引取りをいう。 (注2) 上記の課税資産の譲渡等からは、特定資産の譲渡等を除く。 ② 高額特定資産を取得した場合の簡易課税制度選択届出書の提出の制限 簡易課税の適用を受けようとする事業者が、高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日からその初日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は、簡易課税制度選択届出書を提出することができない。 ③ 留意事項 (イ) 適用開始時期 平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合に適用される。 (ロ) 経過措置 平成27年12月31日までに締結した契約に基づき、平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、上記①及び②の規定は適用されない。 (ハ) 高額特定資産を売却等した場合の取扱い 上記①及び②の規定は、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合に適用されるのであるから、その後に当該高額特定資産を廃棄、売却等により処分したとしても、適用されることに留意する。 (ニ) 高額特定資産の支払対価 資産が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合における課税仕入れに係る支払対価の額とは、当該資産に係る支払対価の額をいい、当該資産の購入のために要する引取運賃、荷役費等又は当該資産を事業の用に供するために必要な課税仕入れに係る支払対価の額は含まれない。 (ホ) 共有に係る高額特定資産 事業者が他の者と共同で購入した資産が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合において、高額特定資産の支払対価の額が1,000万円以上であるかどうかについては、その事業者の共有物に係る持分割合に応じて判定する。 -具体例- 平成28年度の税制改正により、高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その仕入れ等を行った課税期間を含めた3年間は「課税事業者、かつ、原則課税」となる。なお、この期間内で資産を売却しても継続して適用される。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q24】 「外国法人発行の債券の利子に外国源泉税が課される場合の 外国税額控除の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 利子の課税方法による外国税額控除の適用の有無 所得税法上、居住者たる個人が、国外において発行された社債に係る利子で国外において支払われるものを、国内の支払の取扱者を通じて支払を受ける場合は、利子に対して20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率による源泉徴収が日本で行われます(水際源泉徴収)。 源泉徴収の対象となる金額は、特定公社債の場合で利子の支払の際に外国所得税が課される場合は、外国所得税控除後の利子の金額とされます。 個人投資家は、受け取った利子について、以下のいずれかの処理が可能です。 ① 申告不要制度 上記の源泉徴収(20.315%)のみで課税関係を終了することができます。 この場合、利子について課された外国所得税について外国税額控除の適用を受けることはできません。 ② 申告分離課税 特定公社債の利子について申告を行う場合、上場株式等に係る配当所得等として、申告分離課税の対象となります。この場合、利子の金額(外国所得税控除前のグロス金額)に対し20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率が適用されます。 利子について課された外国所得税は、外国税額控除の対象とすることができます。 2 外国税額控除の方法 個人の場合、その年において納付する外国所得税額があるときは、所得税額(配当控除等の税額控除後)から、次の算式によって計算した控除限度額を限度として、控除することができます。 外国税額控除の規定を適用する場合の外国所得税の額は、源泉徴収により納付することとなる利子、配当等に係る外国所得税の場合、その利子、配当等の額の換算に適用する外国為替の売買相場により換算した金額となります(【Q5】参照)。 外国税額控除を受けるためには、確定申告書等に控除を受ける金額及びその計算に関する明細を記載した明細書、外国所得税を課されたことを証する書類及び国外所得総額の計算に関する明細書などを添付する必要があります。 外国税額控除は所得税(国税)だけでなく住民税(地方税)においても規定されており、国税から引ききれない分は地方税から控除されます。 また、外国所得税額がその年の控除限度額(国税及び地方税)を超える場合、または、外国所得税額がその年の控除限度額に満たない場合には、一定の手続要件のもと、過去3年間の繰越控除限度額や繰越外国所得税額を利用することができます。 3 具体的計算 利息金額:100ドル×100=10,000円 外国所得税:10,000×10%=1,000円 国内源泉徴収税額:(10,000-1,000)×20.315%=1,828円 申告分離課税の対象となる利息金額:10,000円 外国税額控除の対象となる金額:1,000円 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第42回】 「債務の保証に関する契約書(連帯保証承諾書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社はクレジット会社です。この文書は、連帯保証人が購入者の債務を連帯して保証することを、クレジット会社に承諾書として提出するものですが、課税文書に該当しますか。 【事例】 連帯保証人がクレジット会社に対して購入者の債務を購入者と連帯して保証することを承諾する文書であり、第13号文書(債務の保証に関する契約書)に該当する。 [検討1] 債務の保証とは 「債務の保証」とは、主たる債務者がその債務を履行しない場合に保証人がこれを履行することを債権者に対し約することをいう(基通別表1第13号文書1)。したがって、第三者が債務者に対してその債務の保証を行うことを約する場合(保証委託契約書等)は、委任に関する契約書に該当し、課税文書には該当しない(基通別表1第13号文書2)。 また、「債務の保証」に類似したものとして、他人の受けた不測の損害を補てんする損害担保契約がある。この場合、債務保証契約は主たる債務(他人の債務)が存在していることを前提にしているが、損害担保契約は、主たる債務が存在しないため、債務の保証には該当しない(基通別表1第13号文書1)。 [検討2] 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書 主たる債務の契約書に債務保証契約の成立を併記した場合は、その債務の契約書が課税文書に該当しない場合であっても第13号文書とはならない。 第13号文書に該当する場合は以下のとおり。 (1) 保証契約のみが単独で契約される場合 (2) 主たる債務の契約書に併記した債務の保証契約を変更又は補充する契約書 (3) 契約の申込文書に併記した債務の保証契約書 【主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書の例】 保証人が保証債務を承諾する文書であることから、債務の保証に関する契約書に該当するが、主たる債務である賃料の契約の建物賃貸借契約書に併記されている文書であるため、第13号文書には該当しない。 ▷ まとめ (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第5回】 「被災資産の復旧費用・評価損等、災害損失欠損金の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 固定資産の復旧費用 ① 資本的支出と修繕費の判定 法人が固定資産の復旧作業を行う場合、これに要した費用を資本的支出として資産計上するのか、修繕費として損金算入するのかを判定する必要がある。このとき、どちらに該当するかは通常、次の通りに判定を行う(法基通7-8-1、7-8-2)。 ② 被災時の特例 災害により被害を受けた固定資産(災害による評価損(法法33②)を計上したものは除く)の復旧を行った場合、その費用に係る資本的支出と修繕費の判定については、次の通りとなる(法基通7-8-6)。 (1) 被災資産の原状回復のために支出した費用は、修繕費に該当する。 (2) 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のための費用について、法人が修繕費として経理しているときは、これが認められる。 (3) 被災資産について支出した費用(上記(1)又は(2)に該当する費用を除く)の額のうちに、資本的支出か修繕費かが明らかでないものがある場合で、法人がその30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出として経理しているときは、これが認められる。 被災した鉄道線路、電線路、ガス管、水道管、コンベアなどの一部を取り替えたような場合は、被災資産の被災前の効用を維持するものと考えられるため、法人が修繕費として経理したときは、これが認められる(国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q6)。 ただし、被災資産の復旧に代えて新たな資産を取得する場合、その取得のために支出した金額は、資産の取得価額に含めることになる(法基通7-8-6(注)1)。 ③ 被災資産の耐震性を高めるための補強工事 二次災害を避けるなどの目的で、被災資産の耐震性を高めるために補強工事を行う場合は、同規模の地震や余震が今後発生することによる当該資産の崩壊等を防止するなど、被災前の効用を維持するためのものが多いと考えられる。したがって、これに係る費用を法人が修繕費として経理しているときは、これが認められる(法基通7-8-6(2)、「災害FAQ」Q5)。 ただし、上記の取扱いはあくまで被災資産に対して補強工事を行った場合に限られる。被災資産でない固定資産に対して耐震性を高める補強工事を行った場合は、原則として資本的支出に該当する点に注意が必要である。 ④ 製造設備等の修繕費用の原価外処理 被災した製造設備等の修繕費用等について、適正な原価計算に基づいて原価外処理(費用処理)をしている場合は、税務上もこの処理が認められる(「災害FAQ」Q12)。 2 資産の滅失損失等 ① 被災資産の滅失損失又は除却損失 法人が所有する棚卸資産や固定資産が被災して滅失又は損壊した場合、それによる損失は損金に算入される。また、被災により固定資産の一部が滅失又は損壊したことにより、当該資産を除却した場合の除却損も損金に算入される。 ② 有姿除却 固定資産が被災したことにより除却の意思決定を行ったものの、事業年度末時点で実際の除却処理が完了していない場合がある。本来は除却処理が完了して初めて除却損が損金に算入されるが、次のような固定資産については「有姿除却」として、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金に算入できる(法基通7-7-2)。 ▷ 使用を廃止し、今後通常の方法による事業供用の可能性がないと認められるもの ▷ 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来の使用可能性のほとんどないことが、その後の状況等からみて明らかなもの 3 資産の評価損 法人が所有する棚卸資産や固定資産が災害により著しく損傷し、事業年度末における当該資産の評価額が帳簿価額より下落することとなった場合は、当該下落部分を評価損として損金経理することにより、損金に算入することができる(法法33②、法令68①)。 4 災害損失欠損金 青色申告書を提出していない事業年度における欠損金額のうちに、災害損失欠損金額がある場合は、9年間の繰越控除が認められる(法法58①)。青色欠損金の繰越控除制度と同様、中小法人等以外の法人については、控除限度額が設けられている(法法58①但書)。 災害損失欠損金額の発生事業年度において青色申告書を提出していることは要求されないが、その事業年度から連続して確定申告書(青色申告書である必要はない)を提出している必要がある(法法58⑤)。 災害損失欠損金額とは、震災、風水害、火災、冷害、噴火等の災害によって、棚卸資産、固定資産及び特定の繰延資産について発生した次のような損失をいう(法令114・115・116)。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第23回】 「岩瀬事件」 ~最決平成15年6月13日、東京高判平成11年6月21日(高等裁判所民事判例集52巻26頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第29回】 「課税減免規定の限定解釈」 公認会計士 佐藤 信祐 本稿では、課税減免規定の限定解釈について解説する。ヤフー・IDCF事件最高裁判決では、「(組織再編税制)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの」が租税回避に該当すると判示されたため、理解しておくべき内容であると考えられる。 1 課税減免規定の限定解釈 課税減免規定の限定解釈とは、外国税額控除余裕枠を利用することを目的とした住友銀行(現三井住友銀行)、大和銀行(現りそな銀行)及び三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)の3銀行が行った海外取引における否認事例により明らかになった否認手法である。 具体的には、課税減免効果を得るためだけに制度の趣旨から逸脱して濫用的な取引を行った場合には、当該課税減免規定の適用を認めないという否認手法である。当初は、課税減免規定は政策目的に限られると解されていた(※1)。しかし、ヤフー・IDCF事件では政策目的なのかどうかは争われておらず、とりわけIDCF事件で否認された資産調整勘定の償却が政策目的であろうはずがないため、政策目的に限られないと解することも可能かもしれない。 (※1) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号299頁 さらに、清水一夫教授は、課税減免規定の限定解釈を適用するための要件として、①本件取引に当該税法規定を適用することが、その立法趣旨を著しく逸脱する結果となることの評価根拠事実、②取引自体に経済的実質が認められないこと、③濫用の意図(租税回避目的以外に、本件取引を行った目的が存しないこと)を挙げられていた(※2)。しかし、ヤフー・IDCF事件は、控訴審はともかくとして、第一審では、経済合理性や事業目的が十分に認められるかどうかについての裁判所の判断がなされていないため、包括的租税回避防止規定だけでなく、課税減免規定の限定解釈についても、清水一夫教授が述べられた要件よりも拡大される可能性もあり得る。 (※2) 清水一夫前掲(※1)314頁 なお、清水教授は、「課税減免規定の『限定解釈』による法的効果は、当該規定の不適用という効果にとどまることになるが、行為計算否認の場合には、課税庁の認めるところにより、納税者の行為を引き直す(私法上、真正に成立している法律関係を別のものに組み替えた上で、租税法を適用する)ことが可能であり、法的効果としても強力である」と述べられていた(※3)。すなわち、IDCF事件に当てはめると、本来であれば適格組織再編になるところを非適格組織再編にすることにより資産調整勘定を認識していることから、包括的租税回避防止規定を適用するのであれば、適格組織再編として資産調整勘定の認識を認めず、課税減免規定の限定解釈を適用するのであれば、非適格組織再編であることを認めながらも、資産調整勘定の損金算入を認めないということになる。ただし、包括的租税回避防止規定も、引き直し計算ではなく、繰越欠損金や資産調整勘定を損金の額に算入することを認めないという適用もあり得るのかもしれない。 (※3) 清水一夫前掲(※1)296頁 そのため、租税回避の研究の中では、課税減免規定の限定解釈の考え方を、同族会社等の行為計算の否認、包括的租税回避防止規定にも適用することができるのかを検討する必要がある。 2 制度の濫用論 今村隆教授は、上述の外国税額控除事件について、 とされている(※4)。すなわち、包括的租税回避防止規定が適用される場合を制度の濫用と捉えていることが分かる。 (※4) 今村隆『租税回避と濫用法理』217頁(大蔵財務協会、平成27年) さらに、ヤフー・IDCF事件の第一審判決が、包括的租税回避防止規定が適用される場合として、(ⅰ)取引が経済不合理な場合だけでなく、(ⅱ)組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反する場合も含まれることとした点については、①我が国の組織再編税制の趣旨が株主にとっての投資の継続性だけでなく、移転資産に対する支配の継続性もあること、②法人税法132条の2の立法趣旨を上記(ⅰ)の場合にだけ限定するのでは、あえて立法する意味がないこと、③組織再編成には、欠損金のある法人を売買の対象とするといったような場合を除いて、何かしらの事業目的があることが通常であることを理由として、上記(ⅱ)を含めることは妥当であるとされた(※5)。 (※5) 今村前掲(※4)220頁 しかし、①については、ヤフー事件の控訴審で修正されている(※6)。②については、同族会社等の行為計算の否認が同族会社に限られていることから、意味がないわけではない。③についても、組織再編成全体ではなく、その手続きについても合理性がある場合についてまで否認する論拠にはなり得ない。 (※6) 佐藤信祐「ヤフー事件高裁判決からみる実務上の留意点」旬刊経理情報1404号37-38頁(平成27年) また、今村教授は、 とされている(※7)。すなわち、税制適格要件、みなし共同事業要件の制度趣旨に即して濫用か否かが判断すべきであるという主張と思われるが、この点についての異論はない(※8)。 (※7) 今村前掲(※4)221頁 (※8) 今村教授の説明だと、IDCF事件について、税制適格要件は定義規定なので、趣旨・目的を判断するのは資産調整勘定の規定であるとしているが(今村前掲(※4)222頁)、実務的には同じことである。 なお、今村教授は、同族会社等の行為計算の否認について、経済合理性基準が確立していることから、今さら、濫用基準に変更することには問題があるとされている(※9)。そうであるならば、同族会社等の行為計算の否認には、ヤフー・IDCF事件の射程は及ばないということになる。この点については、異なる考え方もあり得よう。 (※9) 今村前掲(※4)242頁 また、ヤフー・IDCF事件も最高裁判決が公表されているため、いずれこの内容についても検討を行いたい。 3 次回以降の解説 本連載ではここまで、租税回避の定義を明らかにするとともに、どのような場合であれば、包括的租税回避防止規定が適用される可能性が少ないのかという分析を行うことを目的に解説を行ってきた。 学術的な視野から分析するのであれば、【第19回】で宣言した通り、ここで租税回避の定義を検討するところであるが、やはり、個別の事案に当てはめたうえで租税回避の分析をしてからの方が、より実務的な視野からの分析が可能になると思われる。 そのため、次回以降では、拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定』(中央経済社、平成21年)の第2章から第8章で解説した内容について、グループ法人税制適用後の観点から、再度、検討を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【97】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その25:「政令委任と租税法律主義②」) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ② 細田商店(ホソダ)事件 第一審 広島地裁昭和41年10月31日(行集17巻10号1232頁) 控訴審 広島高裁昭和45年6月17日(税務訴訟資料59号1001頁) これも、残念ながら、裁判所ホームページでは公開されていない。そこで事案の概略をここで紹介しながら進めていく。 いくつかの争点がある事案ではあるが、政令委任の限界に関しては、事実上使用人としての給与を支給している名目的役員(ただしその名称は専務取締役・常務取締役である)に対する賞与が、使用人に対するものとして損金に算入しえるかが争われたものである。 前事案で示したように、当時の法人税法施行規則第10条の3第6項第1号によれば、専務取締役、常務取締役に対して支給される賞与は使用人賞与とは認められず損金に算入し得ない旨定めてあった。 (A) 第一審の判断 このように、当該政令の規定内容が委任の限度を逸脱していると判示し、違憲無効としたのであった。 (B) 控訴審の判断 前事案の控訴審と同様、原審判決が規則10条の3第6項4号は租税法律主義に反して適用できないとしたのに対し、この控訴審においても「右規定は、一般に専務取締役や常務取締役は定款等の定めるところにより会社の常務に属する事項につき業務執行の権限を付与された者であることに着目した規定」であり「右両名が前記施行規則や定款が予定しているような専務取締役又は常務取締役に該当するものとは認められない」と、当該規定がすべての場合に租税法律主義に反するとする判断を回避しながらも、納税者の主張を容れ、原審同様に、同規則第10条の3第6項第1号の適用を排除している。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 ③ 日通モータース事件 第一審 横浜地裁昭和44年11月6日(行集17巻10号1232頁) 控訴審 東京高裁昭和46年9月7日(税務訴訟資料63号460頁) この事案の第一審は、裁判所HPで紹介されている。是非、入手の上、ご一読頂きたい。 いくつかの争点がある事案ではあるが、政令委任の限界に関しては、使用人としての職務を常時行う名目的な監査役に対して支給された賞与の損金算入の是非が争われている。 (A) 第一審の判断 これらの事実認定に基づき、以下の判断を示している。 この判決においても、上記事案と同様、政令の規定内容を「法律の委任の範囲を超えるもの」と判示した。 (B) 控訴審の判断 この判決においては、明確に「租税法律主義の原則にかんがみると、法律はその規定自体から委任の目的、内容、程度等が明らかにされている場合にかぎり命令に委任することが許される」ことから、「実質的には法律の規定と異なる結果を招来する定めをするのは、租税法律主義の原則に照らし許されない」と判示し、原審の判断を支持した。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 (続く)