2017年7月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.225を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.54- 「「働き方改革」と税の課題」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 先の都議会選挙の結果は、安倍一強政治への不信任といえよう。政治手法だけでなく、経済の分野においても、スローガンをくるくる変えるだけで、昨年の配偶者控除問題に象徴されるように、税の構造や所得再分配政策に手を付けない政権の本質が、国民から見透かされたとみることもできる。 今回は、アベノミクスの一丁目一番地の政策である「働き方改革」と税の課題を取り上げてみたい。もっとも、8月に予想される内閣改造後は、「人づくり革命」に変わるようだが。 * * * 本年3月に公表された「働き方改革実行計画」(以下、実行計画)では、「テレワーク」が大きく取り上げられている。 と大きくプレイアップされている。 しかし、マスコミで報道されるテレワークの現実、そこで働く人々の実態を見ると、決してバラ色のものではないように思われる。とりわけセーフティネットの問題が未整備であり、このままでは、「実行計画」は絵に描いた餅となりそうだ。 以下、税制の課題として、所得区分の問題と、所得把握の問題の2つを、テレワークを念頭に置きつつも、副業・兼業にも広げながら論じてみたい。 * * * 「実行計画」は、テレワークを、事業者と雇用契約を結んだ「雇用型テレワーク」と、請負契約の「非雇用型テレワーク」の2つに分けている。 一般的には、前者は雇用契約のある給与所得、後者は個人事業主として事業所得(ただし、規模が小さいなどから雑所得となる可能性もある)という区分になる。 給与所得になれば、源泉徴収、年末調整、給与所得控除という経費の概算控除の3点セットが適用される。事業所得であれば、自己申告、経費の実額控除が適用され、源泉徴収制度はなく予定納税制度が適用される。 ただし、税理士、弁護士、司法書士などに支払う報酬などには、源泉徴収が行われる。また、事業所得は給与所得など他の所得との損益通算が可能で、青色申告をすれば損失の繰越控除ができるが、雑所得であれば損失はないものとみなされる。 このように課税方法が大きく異なるので、どの所得区分に当たるかにより、税負担の多寡や事務手間の有無が生じてしまう。 わが国の判例によると、給与所得とは「従属的・非独立的な労務提供の対価」とされており、必ずしも「雇用契約を結んでいるから給与所得」とはなっていない。雇用契約を結んでなくても、給与所得とされる例もある。 一方事業所得は、「自己の計算と棄権において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務から生ずる所得」とされている(判例)。 このような中で、実態に即したよりきめ細かいガイドラインの整理が必要となる。 とりわけ問題になるのは経費の取扱いであろう。一般的には、給与所得控除の方が実額で控除される経費より手厚いので、給与所得に分類される方が有利、つまり税負担が少ないということになる。 次に、所得把握の問題がある。副業やマルチジョブワーカーの所得を効率的に把握するには、マイナンバーの活用が欠かせない。そのためには、支払調書(資料情報制度)の範囲を今より広げて、執行上の公平性を高めていく必要があろう。 そのような目で、17年6月19日に開催された政府税制調査会の海外調査報告(総論)を見ると、問題意識として、 と記載されている。じっくり読む必要がありそうだ。 なお、2月掲載の本連載No.49では「シェアリングエコノミーと税制」と題し、Uberを例にとり、配車アプリを使って、自分の空き時間と自家用車で他人を目的地に運ぶサービスを提供する一般人の税金、社会保障の問題を論じたので、あわせ参考にしてほしい。 (了)
平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第1回】 「平成29年度税制改正における設備投資減税の見直し全体像」 アースタックス税理士法人 代表社員 税理士 島添 浩 シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志 《平成29年度税制改正における主な改正内容》 ▷中小企業投資促進税制は対象資産から器具備品を除外した上で、平成31年3月31日まで延長 ▷中小企業投資促進税制の上乗せ措置(即時償却等)を廃止し、代わりに中小企業経営強化税制を創設 ▷税額控除は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制の3つの税制の合計で法人税額の20%まで ◆平成29年度税制改正の概要 中小・小規模事業者の「攻めの投資」を後押しするため、中小企業投資促進税制の上乗せ措置(即時償却等)を改組し、中小企業経営強化税制を創設したうえで、対象設備を拡充し、これまでの上乗せ措置において対象外であった器具備品・建物附属設備が追加された(適用期限は平成31年3月31日まで)。 なお、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制の適用期限も2年延長された(平成31年3月31日まで)。 (※) 中小企業庁ホームページより ◆中小企業経営強化税制の概要 平成29年度税制改正で創設された中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法に基づく支援措置(税制措置、金融支援)の1つで、経営力向上計画の認定を受けた事業者は、法人税について即時償却又は取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)が選択適用できる制度である。本税制は、改正前の中小企業投資促進税制の上乗せ措置を改組し、新たに創設されたものである。 なお、中小企業等経営強化法に基づく支援措置には税制措置と金融支援があり、税制措置は固定資産税の特例と前述した法人税に関する中小企業経営強化税制の2つの措置がある(詳細は次回以降(【第2回】・【第3回】)を参照されたい)。 一方、金融支援は政策金融機関の低利融資、民間金融機関の融資に対する信用保証、債務保証等の資金調達に関する支援を受けることができる。 ◆中小企業投資促進税制の概要 中小企業投資促進税制は、中小企業における生産性向上等を図るため、一定の設備投資を行った場合に、税額控除(取得価格の7%)又は特別償却(取得価格の30%)の適用を認める措置である。 平成29年度税制改正において、対象設備等について一部見直しを行い(上乗せ措置を改組し、中小企業経営強化税制を創設、器具備品を縮減)、適用期限を平成31年3月31日まで2年間延長した。 ◆商業・サービス・農林水産業活性化税制の概要 商業・サービス業・農林水産業活性化税制は、商業・サービス業・農林水産業を営む中小企業等の活性化を図るため、一定の要件を満たした経営改善設備の取得を行った場合に、税額控除(取得価格の7%)又は特別償却(取得価格の30%)の適用を認める措置である。 消費税率の引上げに向けて、経営改善の取組みを行う事業者の設備投資を後押しするため、適用期限を平成31年3月31日まで2年延長した。 ◆即時償却は中小企業経営強化税制に 平成29年度税制改正前の中小企業投資促進税制においては、上乗せ措置により即時償却を選択できたことから、同措置が廃止されることにより即時償却ができなくなる可能性があった。しかし、この上乗せ措置が廃止された代わりに「中小企業経営強化税制」が新設されたことから、一定の要件を満たせば引き続き即時償却を選択することが可能となった。 ◆業種は要注意 例えば、不動産業、物品賃貸業については、中小企業投資促進税制の指定事業には該当しないが、商業・サービス業・農林水産業活性化税制では指定事業に該当する。したがって、適用税制の検討にあたっては、まず指定事業に該当するか否かを確認することが肝要である。 ◆税額控除の上限額は法人税額の20%まで 税額控除の上限額は、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制を合わせて法人税額の20%である。 ◆措置法適用対象となる中小企業の範囲が縮小される 平成31年4月1日以後に開始する事業年度から、平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が年15億円を超える事業年度については、法人税関係の中小企業向けの各租税特別措置法の適用が停止されることになる。具体的にどの特例措置が適用停止の対象となるか、留意が必要である。 * * * 次回からは、新設された中小企業経営強化税制について、要件、対象設備、手続き等を確認する。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第1回】 「「3,000万円特別控除」と「相続空き家の特例」の適用要件の主な相違点」 -相続空き家の特例の適用要件の概要- 税理士 大久保 昭佳 Q 「3,000万円特別控除(措法35①)」と「相続空き家の特例(措法35③)」の適用要件の主な相違点について説明してください。 A 適用要件ごとの主な相違点について比較すると次のとおりです。 上記の内容を対比表としてまとめると、次のようになります。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ●○●○解説○●○● 平成28年度税制改正により、被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下、本連載では「相続空き家の特例」という)が創設され、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を相続した場合に一定の要件に該当する譲渡は、租税特別措置法第35条第1項《居住用財産の譲渡所得の特別控除》(以下、本連載では「3,000万円特別控除」という)に規定する居住用財産を譲渡した場合に該当するものとみなすこととされました。 「相続空き家の特例」は、いわゆる旧耐震基準(昭和56年5月31日以前の耐震基準)の下で建築された相続後の古い空き家の増加を抑制することを目的として創設されていることから、その適用要件について「3,000万円特別控除」と対比してみると、改めて全く新しい特例の創設であることに気づかされます。 被相続人居住用財家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等に係る遺産分割や相続開始日前後のその利用状況等は多様多種にわたることから、本特例の適用にあたっては慎重な判定が要されるところと考えます。 【第2回】以降から、その適用要件に係る詳細を一問一答形式により解説していきます。 (了)
平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第2回】 「スクイーズアウトにおける特定連結子法人の範囲の拡大」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [2] スクイーズアウトにおける特定連結子法人の範囲の拡大 1 改正内容 平成29年10月1日以後に行われる「スクイーズアウトによる完全子法人化」について、以下のように特定連結子法人の範囲が拡大する(平成29年所法等改正法附則1三ロ、11②)。 ① 支配関係がある法人間の「全部取得条項付種類株式方式」「株式併合方式」「株式売渡請求方式」による完全子法人化について、組織再編税制の適用対象となる「株式交換等」とし、以下の適格要件を満たせば、適格株式交換等に該当することとなり、その完全子法人が特定連結子法人に該当する(新法法61の11①四、61の12①二、2十二の十六・十二の十七、新法令4の3⑲)。また、その株式交換等完全子法人の100%子法人も一定の要件を満たす場合、特定連結子法人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。 なお、株式交換等に含まれる「全部取得条項付種類株式方式」「株式併合方式」「株式売渡請求方式」の定義については、組織再編税制に係る他の改正記事を参照してほしい。 ② 株式交換完全親法人が株式交換完全子法人となる法人の2/3以上の株式を所有していれば、現金交付型株式交換も他の要件を満たせば適格株式交換等に該当し、株式交換完全子法人が特定連結子法人に該当する(新法法2十二の十七、61の11①四、61の12①二)。 また、その株式交換完全子法人の100%子法人も一定の要件を満たす場合、特定連結子法人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。 ③ 合併法人が被合併法人となる法人の2/3以上の株式を所有していれば、現金交付型合併も適格合併に該当し、被合併法人の時価課税が回避され、合併法人である連結法人で被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが可能となる(新法法81の9②二、2十二の八)。 また、被合併法人の100%子法人が一定の要件を満たす場合、特定連結子法人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。 この結果、連結納税におけるスクイーズアウト課税について、改正前と改正後を比較すると次のとおりとなる。 【連結納税におけるスクイーズアウト課税の見直し】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 この改正は、組織再編税制の改正に連動して、特定連結子法人を定める条文(旧法法61の11①四・五、61の12①二・三)において「株式交換」が「株式交換等」という用語に変わっただけであり、連結欠損金制度の仕組み自体が変わる改正ではない。 しかし、この改正は、次ページに述べるように、平成22年度税制改正による「特定連結子法人の繰越欠損金を連結納税へ持込可能とする規定」の創設以来、その採用と加入の妨げとなっている懸案事項を解消させる改正であり、連結納税の採用や加入を後押しする改正である。 なお、次ページ以下では、連結欠損金及び連結欠損金個別帰属額の取扱いを解説するものとし、事業税に係る繰越欠損金は、単体納税と同様の取扱いとなるため、解説の対象外としている。 2 連結納税の不利益を受けずに少数株主排除が可能に! 連結法人(連結納税開始前の連結法人となる法人を含む)が、ある法人を完全子法人化したいが、売却に応じない株主がいる場合に、強制的にその株主から退出してもらうために採用される手法(スクイーズアウトの手法)として、現金交付型株式交換、全部取得条項付種類株式方式、株式併合方式、株式売渡請求方式が採用されている。 しかし、従来、スクイーズアウトの手法によって完全子法人となる法人は、現金を対価に完全子法人化されているため、非特定連結子法人に該当することとなり、その完全子法人において連結納税開始又は加入時に時価評価や繰越欠損金の切り捨てが行われることになり、それが障害となって連結納税の採用や完全子法人化を断念する会社も多かった(旧法法61の11①四、61の12①二、81の9②一、2十二の十六)。(注1)(注2) (注1) その完全子法人となる法人に100%子法人がある場合、その100%子法人についても非特定連結子人に該当する(旧法法61の11①五、61の12①三)。 (注2) 株式交付型株式交換の場合(交換対価は連結親法人株式)で、適格株式交換に該当する場合、その株式交換完全子法人は特定連結子法人に該当するが、少数株主が連結親法人の株主となるためスクイーズアウトが成立しない。 ▷ケース1 スクイーズアウトよる完全子法人化 ~平成29年9月30日以前~ ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 これが、今回の改正によって、平成29年10月1日以後にスクイーズアウトの手法によって完全子法人化する場合、現金を対価に完全子法人化する場合であっても、一定の要件を満たせば、適格株式交換等に該当するため、その完全子法人は特定連結子法人に該当することになり、連結納税開始又は加入時に時価評価は不要になるとともに、繰越欠損金が連結納税に持ち込まれることになる(新法法61の11①四、61の12①二、81の9②一、2十二の十六・十二の十七)。(注3) (注3) その完全子法人となる法人に100%子法人がある場合、その100%子法人については、「5年前の日(※)又は設立日からの完全支配関係継続要件」を満たしていれば、特定連結子人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。 (※) 連結納税開始の場合は、「最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日」、連結納税加入の場合は、「適格株式交換等の日の5年前の日」を意味する。 ▷ケース2 スクイーズアウトよる完全子法人化 ~平成29年10月1日以後~ ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 また、連結法人(連結納税開始前の連結法人となる法人を含む)が、ある法人をスクイーズアウトするために、現金交付型吸収合併を採用する場合についても、従来は、現金交付により非適格合併に該当したため、時価譲渡となり、被合併法人の繰越欠損金も切り捨てられたが、今回の改正によって、現金を交付しても他の要件を満たせば適格合併となるため、簿価譲渡となり、「5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件」又は「みなし共同事業要件」のいずれかを満たす場合、合併法人である連結法人(連結納税開始前の連結法人となる法人を含む)で被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが可能となった(旧法法81の9②二、57②③、2十二の八、新法法81の9②二、57②③、2十二の八)。(注4)(注5) (注4) ただし、「5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件」又は「みなし共同事業要件」のいずれも満たさない場合、被合併法人の繰越欠損金及び合併法人の繰越欠損金又は連結欠損金個別帰属額のうち、一定のものについて利用制限が生じることになる(新法法81の9②二・⑤三、57②③④)。 (注5) その被合併法人となる法人に100%子法人がある場合、その100%子法人については、「5年前の日(※)又は設立日からの完全支配関係継続要件」を満たしていれば、特定連結子人に該当する(新法法61の11①五、61の12①三)。 (※) 連結納税開始の場合は、「最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日」、連結納税加入の場合は、「適格合併の日の5年前の日」を意味する。 ▷ケース3 スクイーズアウトよる吸収合併 ~平成29年9月30日以前~ ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ▷ケース4 スクイーズアウトよる吸収合併 ~平成29年10月1日以後~ ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 今回の改正は、「連結納税制度の採用法人を増やす」という面では、その影響は大きくないと予想される。 しかし、あるグループ法人について、スクイーズアウトにより完全子法人化をしたいが、時価評価や繰越欠損金が切り捨てられることを懸念して連結納税へ加入させることに踏み切れなかった連結納税グループにとって、連結納税の加入を後押しする改正であるといえる。 3 連結納税開始日が平成29年10月1日以後であっても、株式交換等が平成29年9月30日以前に行われた場合は旧税制が適用される! この改正は、平成29年10月1日以後に行われる株式交換等(株式交換、全部取得条項付種類株式割当方式、株式併合方式、株式売渡請求方式)又は合併について適用される(平成29年所法等改正法附則1三ロ、11②)。 そのため、連結納税の開始日が同日以後であっても、スクイーズアウトによる完全子法人化又は吸収合併が平成29年9月30日以前である場合は、その株式交換等又は合併は適格株式交換等又は適格合併に該当しないため、旧税制が適用される点に注意を要する。 4 全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式により連結納税に加入した場合、「完全支配関係を有することとなった日」はいつになるのか? スクイーズアウトによる完全子法人化のうち、現金交付型株式交換は「株式交換の効力発生日」、株式売渡請求方式は「株式取得日」が完全支配関係発生日となると考えられる(連基通1-2-2)。 この場合の「株式取得日」とは、株券発行会社の場合、「株式の引渡しのあった日」、株券不発行会社の場合、「株式売買契約書で定めた株式譲渡の効力発生日」、上場株式の場合、「譲渡人の口座から譲受人の口座への株式の振替の記録がされた日」(注)になると考えられる。 (注) 「連結納税基本通達逐条解説」(秋元秀仁編著、税務研究会出版局)の連結納税基本通達1-2-2の解説参照。 一方、全部取得条項付種類株式方式又は株式併合方式の場合、全部取得条項付種類株式の取得又は株式併合の効力発生日と端数処理が完了した日のいずれになるのか疑問が生じるが、実態として、買収会社及び買収対象会社以外に買収対象会社の株式を所有する者が存在しないことが確定するのは、端数処理が完了した時であると考えられるため、完全支配関係発生日も端数処理が完了した日、具体的には、裁判所の許可を得て、買収会社又は買収対象会社が株式を取得した日(上記「株式取得日」参照)に完全支配関係が生じると考えられる。 この場合、裁判所の許可や買取り手続の進行状況によっては、連結納税に加入する日がわからない状態が続く可能性もあり、少なくとも、スキームの検討段階では、連結納税への加入がいつになるのか(決算をまたぐのかまたがないのか)わからない、ということになる。 いずれにせよ、完全支配関係発生日が、全部取得条項付種類株式の取得又は株式併合の効力発生日と端数処理が完了した日のいずれになるのかについて、今後、通達で明確化した方が実務上の混乱も生じないであろう。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第15回】 「株式の売買は無権代理行為によるものであり譲渡所得の課税要件は充足されないとした事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告(甲)は、同族会社A社の株式(本件株式)を所有していたところ、平成19年中に本件株式が関係会社(Hら)に移転して、その対価とされる金員が甲名義の銀行口座に入金されたため、課税庁は、甲のその年分の所得税について本件株式に係る譲渡所得が申告漏れであるとして更正処分等をした。 甲は、譲渡収入とされた金員は、甲の父である乙(平成19年10月28日死亡)又は乙が代表取締役を務めていた複数の法人(H法人グループ)に対する自らの「預け金」が返還されたものであって、譲渡所得は発生していないとして処分の取消しを求めて争った。 甲は、予備的主張として、仮に本件金員が株式の譲渡代金であるとしても、前提となる本件株式の譲渡という私法上の行為が存在しない(譲渡契約そのものの不存在)旨も主張をしていた。 〔裁判所の判断〕 裁判所は、本件株式の売買契約が、甲とHらの間で成立していれば本件金員は本件株式の移転に伴う金員であって、譲渡代金として甲が取得したことになるとして、次のように検討した。 また、甲が本件金員を自己のものとして費消しているから、本件株式の譲渡を追認し、その法律効果を容認しているといった課税庁の主張については、裁判所は、次のように排斥した。 〔判断の分水嶺〕 本件では、甲が売買契約の一連の手続に一切関与していないこと、その他の事実関係から無権代理行為より株式が移転したと推認(甲による追認もなかった)されたことが、一応の判断の分水嶺といえる。 もっとも、事実上の判断の分水嶺としては、平成24年2月に甲とHグループとの間で「本件株式の売買契約が存在しなかった」旨の和解が成立し、和解日付で甲が本件株式の譲渡を前提とした平成24年分の譲渡所得の申告納税を済ませているという事実であろう。 譲渡がなかった旨とする和解内容であるから、甲には金員を返還する義務が生じたが、それと同時(平成24年2月)にHらから甲に対して本件株式を譲渡する旨の和解条項が含まれていた。この点、裁判所は「なお・・・平成19年分として、本件金員に対して更に課税する根拠は実質的に失われているものといわざるを得ない。」と述べている。 〔本判決が示唆するもの〕 課税の構成は、形式(「契約」や「決議」など)が重視されるが、本件のように、形式と異なる認定となるケースもあることに留意したい。また、「無権代理」は売買行為そのものは存在することが前提であるから、本件の納税者の主張(「売買契約そのものが不存在」)とは、若干次元が異なる点もおさえておきたい。 なお、一般論としては、甲は和解内容に基づき平成24年分の譲渡所得の申告をしたものであるが、和解条項に記載された内容が、常に直ちに事実として課税の基礎となるわけではない(和解内容は事実認定の1つの材料にすぎない)点に注意が必要である。 なお、課税庁の判決情報のコメントを一部紹介する。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第26回】 「有価証券譲渡益計上漏れ」 ~有価証券譲渡益の計上が漏れていると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「有価証券譲渡益の計上漏れ」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁昭和55年10月28日判決(訟月27巻4号789頁。以下「本判決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 4 検討 (1) 関係法令等 本件更正処分は、X社が取締役Aに対して譲渡したT(株)の譲渡価格と公表価格との差額1株当り15円、総額5,407,500円が有価証券譲渡益の計上漏れとなっているとするものである。要するに、当該譲渡がいわゆる低額譲渡に該当し、上記差額が益金の額に算入されるというのである。 この点、法人税法22条2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、無償による資産の譲渡に係る当該事業年度の収益の額を当該事業年度の益金の額に算入すべきものと規定しており、資産の無償譲渡も収益の発生原因となることを認めている。この規定は、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される。そして、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲渡が行われた場合には、譲渡時における当該資産の適正な価額をもって法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たるものと解される(最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決・民集49巻10号3121頁参照)。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、昭和50年11月に取締役Aに対し、T(株)の株式360,500株を1株当り85円、総額30,642,500円で譲渡したものとするX社の会計処理を前提とした上で、T(株)の株式の譲渡日における東京証券取引所の公表価格は1株100円であることからすると、当該譲渡はいわゆる低額譲渡に該当し、譲渡価格と公表価格との差額1株当り15円、総額5,407,500円が有価証券譲渡益の計上漏れとなっているとするものである。そうすると、本件更正処分は、X社の帳簿書類に記載されているT(株)の株式の譲渡数や譲渡価格を否認するものではないため、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記からは、昭和50年11月に取締役Aに対しT(株)の株式360,500株を1株当り85円、総額30,642,500円で譲渡したものとするX社の会計処理を前提とした場合に、T(株)の株式の譲渡日における東京証券取引所の公表価格は1株100円であることからすると、当該譲渡はいわゆる低額譲渡に該当し、譲渡価格と公表価格との差額1株当り15円、総額5,407,500円が有価証券譲渡益の計上漏れとなる、という本件更正処分の理由を読み取ることができる。 このように、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実(X社の上記会計処理の内容及びT(株)の株式の譲渡日における適正な価額は1株100円であること)を記載するものである。また、T(株)の株式の譲渡日における適正な価額は1株100円であることの根拠資料として、東京証券取引所の公表価格を摘示している(本件理由付記には正確な譲渡日付の記載はないものの、X社においては当然に知りうる事項である)。 そうであれば、本件理由付記は、更正処分に係る法律上及び事実上の根拠を示すものであって、結論に至る判断過程並びに判断の前提となる事実及びその根拠資料を記載するものであるといえる。したがって、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであり、法の求める理由付記として十分なものである。 なお、本件訴訟において、X社は、T(株)の株式の譲渡がX社の主張する急な資金需要があったなどの特殊事情の下でも低額譲渡に当たるとする具体的根拠が理由付記に示されていない旨主張した。これに対して、本判決は、次のとおり判示し、これを排斥している。 また、X社は、株式の譲渡価格と公表価格との差額を益金に計上する法律的根拠についての記載がない旨主張した。これに対して、本判決は、次のとおり判示して、これを斥けている。 いずれの判示も、少なくとも本件においては妥当なものであると考える。 * * * 次回は、財団法人Xに対して行われた「不動産賃貸料収入の収益事業収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第11回】 「仕入の対価として仮想通貨を支払った場合の会計・税務」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 A 仮想通貨による会計・税務の取扱いの各論として、前回は売上取引について確認したが、今回は仕入取引のケースを取り上げる。 なお、仕入取引に限らず、販売費及び一般管理費等として支出が行われる場合についても、費用計上取引としては同様のものであるため、基本的には以下の解説と同様の考え方で処理することができるものと考えられる。 1 会計処理 (1) 仮想通貨を取得した際の処理 仕入取引の対価の支払時に使用される仮想通貨の取得方法には、大きく分けて以下の2つの態様がある。 以下、それぞれの場合について検討する。 ① 売上取引の対価として得意先から受け取った場合 前回解説を行ったとおり、売上取引の対価として受け取った仮想通貨は、基本的にはトレーディング目的で保有する棚卸資産とは考えられず、取得時の時価をもって貸借対照表価額とされる。 ② 仕入取引の決済のために市場で取得した場合 仕入先との間で比較的長期にわたって物品の納入等を継続的に受ける場合などには、仕入取引に係る対価の支払のために、あらかじめ取引所において、ある程度まとまった金額の仮想通貨を取得しておくことも考えられよう。 この場合も、取得時の時価によって仮想通貨を計上することになる。当然、市場から仮想通貨を購入する際に購入時の時価に基づく円貨額を支払っているのであるから、特段疑問点はないものと考えられる。 これを設例を用いて示すと以下のようになる。 (2) 仕入取引を行った際の処理 仕入取引時における処理については、前回・前々回の連載でも取り上げた『ビットコインと税務』(税大ジャーナル 第23号(2014.5))において、以下のように記載されている。 高度資本主義社会において、時代にそぐわない「物々交換」という用語が使用されているため、少しわかりにくい部分もあるが、会計処理のポイントとしては2つ重要な点があると考えられる。すなわち の2つである。 以下、若干の補足を加える。 仕入取引時における時価に基づく金額で仕入取引を計上することについては、仕入計上金額の測定に関する論点である。すなわち、仮想通貨の取得時の時価に基づく金額と仕入取引時の時価に基づく金額のどちらが適切なのかという問いである。 類似した性格を持つ外貨建取引においても、損益項目については発生時の換算レートを用いて計上することが要求されているし、仮想通貨取得時と仕入取引発生時とで仮想通貨の時価に変動が起きている場合に、どちらで計上することが取引の実態をより表すかということを考えれば、特段不合理な点はないものと考えられる。 確かに、取引の実態としてはいったん取得した仮想通貨を円に換金することなく、仮想通貨のまま決済されていることを考えると、仕入取引の段階で精算・決済が行われたものとみる考え方に違和感を感じる向きもあるかもしれない。ただし仕入取引時の時価で計上することで、上記のとおり、物々交換として考えることにより、仮想通貨保有期間の時価の変動はいったんその時点で実現したものと整理できるし、棚卸資産の在庫金額の基礎となる仕入金額について、より実態を表す評価額を付すことができるものと考えられる。 以上の点について設例・仕訳例を示すと以下のとおりとなる。 2 消費税の取扱い 前回の解説でも述べたため、簡潔な確認に留める。 国内における課税資産の譲渡のタイミングで消費税は課税されるため、上記設例2のタイミングで課税仕入を計上することとなる。 なお、平成29年7月1日以後における、仮想通貨の譲渡について消費税が非課税となったため、設例1のタイミングでは消費税は課されないことも同様である。 3 期末評価 仮想通貨の期末評価については、これをトレーディング目的で保有するものでなければ、その処理に関して取得の態様は影響しない。すなわち、前回解説した販売取引の対価として取得したものと同様、仮想通貨取得時の時価(取得原価)に基づき貸借対照表に計上されることになる。 また、直接的に仮想通貨の評価とは異なるが、仮想通貨による決済で取得した商品等の期末評価については、仕入取引発生時の取引所における時価に基づき計上される。 (了)
〔判決からみた〕 会計不正事件における当事者の損害賠償責任 【第2回】 「「監査役」の損害賠償責任」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 セイクレスト損害賠償請求事件 (大阪高等裁判所平成27年5月21日判決) 1 訴訟当事者 2 責任限定契約の締結 控訴人は、破産会社との間で、控訴人が破産会社の社外監査役として職務を行うに際して破産会社に対して会社法423条1項の損害賠償責任を負う場合であっても、控訴人が善意無重過失のときは、控訴人がその在職中に破産会社から職務執行の対価として受ける財産上の利益の1年間当たりの額に2を乗じた額をもって、控訴人の破産会社に対する上記損害賠償責任の限度とすることに合意していた。また、控訴人は、平成20年4月以降、破産会社との間で、監査役の報酬を1年当たり324万円とすることを合意していた。 本件責任限定契約にいう「重過失」とは、当該監査役の行為が、監査役としての任務懈怠に当たることを知るべきであるのに、著しく注意を欠いたためにそれを知らなかったことであると解すべきところ、これを前提として、本件責任限定契約によって、控訴人が負うべき会社法423条1項所定の損害賠償責任の額が限定されることはないといえるか否かが争点となった。 3 元代表取締役青木勝稔による不正な金員交付 破産会社は、平成22年9月15日開催の臨時取締役会において、払込期日を同年12月29日とする株主割当の新株式の発行を決議し、同年12月20日に開催された定時取締役会において、本件募集株式の払込金額が約4億2,000万円であることが報告された。 本件募集株式の払込金として、平成22年12月29日、合計4億2,108万9,900円が破産会社に振り込まれたところ、青木元代表取締役は、同日、8,000万円を出金させた上、これを第三者に交付した。 4 裁判所の判断 (1) 破産裁判所の判断 被控訴人は、平成23年10月12日、控訴人他3名を相手方とする役員責任査定の申立てを行い、控訴人が破産会社の監査役として破産会社に負っていた善管注意義務に違反したことにより、平成22年12月29日、破産会社に8,000万円の損害を生じさせたと主張した。 破産裁判所は、平成24年5月28日、控訴人には、破産会社の代表者であった青木元代表取締役の代表権限行使を制約するような内部統制システムを構築するよう取締役に進言したり、青木元代表取締役の行為の差止請求等を行えるようにしておくべきであったにもかかわらず、これを怠ったとはいえるものの、重過失があったとまではいえないとして、控訴人に対する損害賠償請請求権の額を、責任限定契約に基づき、648万円と査定する旨の本件査定決定を行った。 (2) 控訴審判決 控訴審では、まず、「青木元代表取締役による本件金員交付は、青木元代表取締役の取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものであるということができ、取締役としての任務懈怠行為に該当する」とした上で、「破産会社の取締役ら及び監査役らは、青木元代表取締役が、本件募集株式の発行に係る払込金が入金された機会等に、破産会社の資金を、定められた使途に反して合理的な理由なく不当に流出させるといった任務懈怠行為を行う具体的な危険性があることを予見することが可能であった」とし、監査役の職務を次のように判示した(一部条文番号等を省略)。 その上で、控訴人については、 などから、監査役の職務として、取締役会に対し、破産会社の資金を定められた使途に反して、合理的な理由なく不当に流出させるといった行為に対処するための内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務があったということができるが、このような助言又は勧告を行ったことを認めるに足りる証拠はないことから、控訴人が助言又は勧告を行わなかったことは、監査役としての義務に違反するものであったということができる、とした。 しかし、控訴人を含む破産会社の監査役会は、青木元代表取締役によって行われた一連の任務懈怠行為に対して、取締役会において度々疑義を表明し、事実関係の報告を求めるなどしており、特に、平成22年10月に取締役会で約束手形の発行の一時停止の決議がされたにもかかわらず、多額の約束手形の発行が続けられた際には、約束手形の所在についての説明がされない場合には、監査役3名は辞任する所存である旨の申入れを行い、また、同年11月に、取締役会の承認決議を経ないで多額の約束手形が振り出された際には、監査役として看過できず、然るべき対応をせざるを得ない旨を申し入れるなどしていて、監査役として、取締役の職務執行の監査を行い、一定の限度でその義務を果たしていたことが認められることから、本件金員交付によって破産会社に損害が発生したことについて、控訴人に職務を行うについて重大な過失があったと認めることはできない。 よって、控訴人は、本件責任限定契約の定める限度で、会社法423条1項所定の損害賠償責任を負うことになる。そして、控訴人は、平成20年4月以降、破産会社との間で、監査役の報酬を1年当たり324万円とすることを合意していたのであるから、本件責任限定契約に基づいて控訴人が負うべき上記損害賠償責任の限度額は、648万円であると認めることができる。 ニイウスコー損害賠償請求事件 (東京地方裁判所平成26年12月25日判決) 1 訴訟当事者 2 事案の要旨 原告は、東京証券取引所に上場していたニイウスコー株式会社(以下「ニイウスコー」という)の有価証券報告書等に虚偽の記載があったにもかかわらず、そのことを知らずにニイウスコー株式の取引をしたため損害を被ったと主張して、同社の取締役、監査役又は会計監査人であった被告ら各自に対し、主位的に金融商品取引法24条の4及び24条の5第5項において準用する同法22条に基づき、予備的に民法709条又は旧商法266条の3第1項、2項、旧商法特例法10条、18条の4第2項、21条の22第1項、会社法429条1項、2項に基づき、損害賠償として、合計2,604万8,983円及び遅延損害金の支払を求めた。 3 訴訟の争点 本事件の争点は、以下のとおりであるが、本連載では、主に、争点②及び争点③について、裁判所の判断を検討することとしたい。 4 社外監査役の損害賠償責任について 本稿では、裁判所がどのような事実認定を行い、弁護士である社外監査役2名(被告Y6及び被告Y7)について、損害賠償責任の有無を判断したのかを中心に見ておきたい。 (1) 監査役の職務執行状況 ① 監査役会の活動 常勤監査役は、監査役間の職務分担に従い、経営会議等に出席し、稟議書等の重要書類を閲覧し、内部監査室との意見交換等を行った上で、これらの活動により収集した情報(取締役会の開催状況、取締役の利益相反取引の有無、子会社又は株主との非通例的取引の有無等)と、Eが実施した監査の結果及び監査方法等を記載した書面を監査役会に提出し、被告Y6及び被告Y7に報告した。 被告Y6及び被告Y7は、監査役会において常勤監査役から報告を受けただけではなく、毎月の取締役会の前後の時間を利用して監査役全員が集まって意見交換や協議をしていたほか、メール等でも随時連絡をし、必要に応じて取締役や関係者との面談等を行い、弁護士としての専門的見地から意見を述べるなどした。 平成18年、会計監査人から、医療サービス事業については取引先からの回収可能性が低く、引当金の計上を要することや金融機関向けASP事業についてはソフトウェア資産の販売実績がほとんどなく、減損会計を適用する必要があること等の報告があった際には、監査役らは、平成19年3月29日の取締役会の後、元代表取締役社長と面談し、売掛金回収のための交渉経緯及び返済計画の受領についての報告や資料の提出を受けた。 また、同年6月末、ニイウスコーの決算、負債処理、医療サービス事業からの撤退及びファンドからの資金注入による事業再興について元代表取締役社長に説明を求め、同年7月6日、被告Y2と面談して、事業再興計画の作成に当たっては、社内関係者に情報提供をし、十分に検討した上で、取締役会決議を経るよう求めた。 そして、監査役会として、事業再興という重要な意思決定が適切に行われることを確保するため、社内検討会の開催についての助言や事業再興の検討経緯を整理した資料の提出を求めるなどした。 ② 内部統制システム等の整備・運用状況に関する監査 常勤監査役は、内部統制システムの整備・運用状況に関して、内部統制検討会及び内部統制委員会に出席した結果や、内部監査室との情報交換等により得た情報を、被告Y6及び被告Y7に随時報告していた。さらに、監査役会は、平成16年度から平成18年度までの間、監査状況について会計監査人と面談を行った際、内部統制システムについても検証を実施したが不備は発見されなかったとの報告を受けた。 ③ 会計監査 被告Y6及び被告Y7は、常勤監査役から、平成16年度から平成18年度までの各年度において、常勤監査役が会計監査人から監査計画概要書等に基づき中間及び期末の各監査状況等の説明を受け、適宜監査実施状況の視察や意見交換を行うなどしたこと及び会計監査人の独立性、監査の方法・内容、会計監査人の注意義務に問題がなく、中間監査結果が相当であると判断したことの報告を受けていた。 また、監査役会は、平成16年度から平成18年度までの間、各年度の中間及び期末の各監査状況について会計監査人と面談を行い、監査実施報告書のドラフトに即して、実施された監査の方法及び結果について報告を受け、報告が元代表取締役社長の説明と一致することを確認した。 被告Y6及び被告Y7は、会計監査人から、計算関係書類において会社の状況が適正に表示されていること、取締役の職務執行に関する不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実の発見はなかったことから、無限定適正意見及び有用意見を表明する等の報告を受けていた。 (2) 社外監査役の損害賠償責任 上記の職務遂行状況から、裁判所は次のように述べ、社外監査役である被告Y6及び被告Y7について、損害賠償責任を否定した。 判決の比較検討 本連載【第1回】では、エフオーアイ事件判決における、社外監査役の損害賠償責任に関する裁判所の判断のポイントを以下のように説明した(再掲)。 一方、ニイウスコー事件では、社外監査役について、詳細な事実認定に基づき、「監査は、相当なもので」あり、有価証券報告書等の「記載が虚偽であることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかった」と判断して、責任を認めなかった。 粉飾の手法も異なり、好業績企業として知られていたニイウスコーと、不可解な上場申請の取り下げを2回も行ったFOI社とでは事情が異なるとはいえ、監査役としての知見や経験を活かして、職務を誠実に履行し、かつ、その事実を証明できるように記録を残しておくことの重要性が、あらためて裁判所の判断から理解できるところである。 セイクレスト事件においては、控訴人(第1審被告)が公認会計士であることが、控訴人にとって不利な判決につながった可能性は否定できないが、それよりも、監査役としての不作為が、重過失とまでは言えないものの、責任限定契約の限度内において損害賠償責任を負うという判断につながったものと言えよう。 公認会計士、弁護士、税理士といった有資格者が、社外監査役に就任するケースが増加していると言われて久しいが、資格に基づく知見や経験を活かして、監査役としての職務を果たせているかどうかという点も争点になることを記しておきたい。 * * * 連載3回目となる次回の論考では、会計不正の首謀者ではない取締役の損害賠償責任について、裁判所の判断を検討したい。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第134回】 引当金の会計処理⑦ 「修繕・特別修繕引当金」 仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:百万円) (X1年3月決算時) 法定点検にかかる修繕引当金の計上 (X1年4月時) 修繕にかかる支出の計上 (X1年11月時) 特別修繕にかかる支出の計上 (X2年3月決算時) ① 法定点検にかかる修繕引当金の計上 ② 特別修繕にかかる引当金の計上 (※) 3年に1度、11月の自主点検時に支出することが見込まれるため、X2年度に帰属する費用を月次按分しています。 〈会計処理の解説〉 (1) 修繕や特別修繕にかかる引当金の考え方 現在の設備の利用によって、次回の修繕や特別修繕が必要となり、その際に費用が発生する可能性が高く、その金額を過去の経験等に基づいて合理的に見積もることができる場合には、定期点検が法律に基づくものであるかどうか、あるいは、大型設備に係る定期的な修繕に該当するかどうかに関わらず、引当金を認識することになると考えられます。 (2) 事例へのあてはめ 引当金の計上要否は、企業会計原則注解18の4要件を満たすかどうかを検討することになります。 上記の通り、本設例では4要件をすべて満たすため引当金が計上されることになります。 (了)