外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第4回】 「外国人留学生(大学生)を社員として雇うとき (「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格への変更)②」 ~詳細・具体例等~ 社会保険労務士・行政書士 永井 弘行 1 審査基準の詳細~「通訳・翻訳」業務のケース~ 以下では「通訳・翻訳」の業務へ従事する例をもとに、詳しく説明していきます。 前回ご紹介した次の図表をご覧ください。 〈入管法第7条第1項第2号(入国審査官の審査)の基準を定める省令(基準省令)の要旨〉 (注) それぞれの職種は、あくまでも例示です。会社で従事する業務内容と、大学・専修学校等で履修した科目等の専門的知識、技術との関連性があること、入管法の定める基準を満たすことが必要です。 入国管理局の審査は、個別の内容により判断されます。詳細は申請先の入国管理局に確認することが重要です。 この図表のとおり、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は活動内容が3つに分かれています。ちなみに2015年3月までは「技術」と「人文知識・国際業務」という2つの在留資格でしたが、2015年4月以降、一本化されました。 この中の「人文知識」と「国際業務」では、許可基準が異なります。「人文知識」は「人文科学の分野に属する技術もしくは知識を必要とする業務に従事する場合」の基準です。一方、「国際業務」は「外国の文化に基盤を有する思考または感受性を必要とする業務に従事する場合」の基準です。 例えば、経営学部出身の留学生が、会社で「営業・販売、マーケティング」などの業務に従事するときは「人文知識」の基準で判断され、「通訳・翻訳」の業務に従事するときは、原則「国際業務」の基準で判断されます。 外国人が会社で通訳・翻訳の業務に従事するときは、3年以上の実務経験があることが必要です。ただし、大学を卒業した人が、翻訳・通訳または語学の指導の業務に従事する場合は、基準省令の取り扱いにより、3年以上の実務経験は免除されます。つまり、大学を卒業していれば(学士の学位を有していれば)、学部学科を問わず、翻訳・通訳または語学の指導の業務に従事することが可能です。 先の例で言えば、経営学部出身の留学生が、会社で翻訳・通訳の業務に従事する場合は、他の要件(給料などの水準、会社の事業の安定性・継続性、他)に問題がなければ基準を満たしていますので、許可される可能性が高いということです。 そのため、筆者の感覚としては、会社の業種を問わず「翻訳・通訳」業務で申請することで、許可されるケースが多いと感じます。 少し古いデータですが、法務省入国管理局のホームページに掲載された統計資料(平成24年における留学生の日本企業等への就職状況について)でも、就職先の職務内容として「翻訳・通訳」が最多になっています。 なお、この「大学を卒業した者」の中には、短期大学を卒業し、短期大学士の資格を得ている人も含まれます。つまり、日本で短期大学を卒業した留学生も、実務経験がなくても翻訳・通訳業務に従事することが可能です。 2 専門学校生は厳密に審査される 一方、専門学校を卒業した「専門士」の人は、「大学を卒業した者」の中に含まれません。 例えば、経理専門学校(簿記専門学校)を卒業し「専門士」の資格を持つ留学生は、「人文知識」に該当する経理業務・事務業務に従事する社員として、在留資格変更許可申請を行うことが可能です。しかし、専門学校で翻訳・通訳の分野を学んでいなければ、「専門士」の資格では、「国際業務」に該当する翻訳・通訳業務に従事する社員として、在留資格変更許可申請を行うことができないということです。 このように、「留学」から「技術・人文知識・国際業務」への変更については、大学生に比べ、専門学校の卒業生(「専門士」の資格を持つ外国人)は、学校で学んだ内容と従事業務の関連性が、より厳密に審査されます。 例えば、専門学校のホテル学科を卒業した留学生は規模の大きなホテル・国際観光旅館のフロント業務に従事する、経理専門学校(簿記専門学校)を卒業した留学生は経理業務・事務業務に従事することが前提になっています。 (今回は大学生についての話が中心ですので、「専門士」の詳細については今後この連載で解説する予定です。) 3 業務内容がアルバイトの延長線上では許可されない場合が大半 アルバイト従業員の留学生を、大学卒業後に正社員として採用することを検討する場合には、注意が必要です。 入国管理局が「単純労働的」と判断する業務には、在留資格が許可されません。アルバイトと同じ業務内容で正社員にしようとしても、入国管理局が許可しない、ということです。 次のような業務は、アルバイトとして従事させることは入管法上、問題ありません。しかし、正社員としての「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は許可されません。 では実際に、どのようなケースなら許可されるのでしょうか。 次の「許可事例」を参考にしてください。 4 許可・不許可の具体例 留学生が「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を得て、会社で勤務するケースについて、具体的な事例をいくつか紹介します(カテゴリーについての説明は前回を参照)。 (1) 許可の事例 (2) 不許可の事例 行政書士の研修会などでは不許可となった事例を聞く機会がありますが、筆者自身が取り扱った事案で不許可になったものは、あまり多くありません。 法務省入国管理局のホームページでは、平成27年2月付の「留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更許可のガイドライン」が公表されています。その中で「別紙1(事例)」として許可事例、不許可事例が紹介されているのですが、特に不許可事例は、行政機関(入国管理局)の視点で「何が不十分なのか(基準を満たしていないのか)」、「どんな理由で許可できないのか」が書かれていますので、ご一読されることをお勧めします。 5 一度不許可になった場合に、再申請できるか 一度不許可になった場合に、その不許可の理由について正しく理解し、会社、外国人双方で不許可になった事項を改善・変更した後、再申請することは可能です。 例えば、ホテル・旅館業の人事担当者が、当初は在留資格の知識に不慣れで、外国人の従事業務を「ホテル業務全般」として申請した場合、入国管理局が「客室清掃や調理補助などの現業の業務を含む」と解釈して、不許可になる場合があります。「技術・人文知識・国際業務」の範囲外の業務についても行うのではないか、と判断されるようなケースです。 こうしたケースでは、会社が「技術・人文知識・国際業務」の範囲内の業務について正しく理解し、例えば、ホテルフロント業務、旅館内で団体客・個人客への通訳・翻訳業務を行う、として再申請すれば、許可されることがあります(もちろん実際にそうした業務に従事させることが必要です)。 また、もし一度申請して不許可になれば、申請者本人が入国管理局に出向いて、行政相談として、不許可になった理由を聞くことができます(本人が出向いていれば、会社の人事担当者や行政書士などが同席することも可能です)。 このように、再申請する場合は、なぜ不許可になったのか、その理由を明らかにし、その事項を改善・変更した後に、申請することが必要です。 6 大学卒業後に就職活動を行うための「特定活動」の在留資格とは 「大学を卒業したけれど、まだ就職が決まっていない」という留学生の場合、在留資格はどうなるのでしょうか。 こうしたケースでは、留学生が「留学」の在留資格から、就職活動のための「特定活動」の在留資格に変更して、日本での就職活動を続けることができます。 この「特定活動」の在留資格は通常、6月が付与されます。1回の更新が可能ですので、最長で卒業後1年間(6月×2回)、「特定活動」の在留資格で就職活動を行うことが可能です。 在学中に会社の採用内定が決まると「留学」から「技術・人文知識・国際業務」に変更するのと同様に、上記の場合も「特定活動」から「技術・人文知識・国際業務」への在留資格への変更申請を行うことができます。 留学生が学校を卒業して、「無職で就職活動中」の状態になれば、もはや留学生ではありません。元留学生、現在は無職(就職活動中)の外国人、という立場になります。「留学」の在留カードを持っていても、学校に在籍していなければ留学生としての実態がありません。 ここで、留学の在留期限が残っていれば、ただちに不法な状態になるわけではありません。例えば、2017年3月末に大学を卒業した人が、2017年7月15日が期限の「留学」の在留カードを持っているような場合です。 しかし、留学生としての「本来の活動を継続して3ヶ月以上行っていない」場合は、「在留資格の取り消し」に該当することがあります(入管法第22条の4第1項第6号)。 留学生が多く在籍する大学のキャリアセンターなどでは、留学生に「特定活動」の制度や手続きの方法を説明することもあります(本稿では留学生が行う手続きは割愛します)。 会社の側としては、もし就職説明会に「すでに日本で大学を卒業しています」という外国人(元留学生)が訪問してきたら、「特定活動」の在留資格を持っていることを確認してください。 〈留学生が卒業後に就職活動を行うときの在留資格「特定活動」(イメージ図)〉 ※特定活動(6ヶ月)を更新する(1年近く就職活動を行う)ケース (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第16回】 「信託契約作成上の留意点③」 -信託財産の特定- 弁護士 荒木 俊和 前回に引き続き、信託契約作成上の留意点について述べる。 今回は信託契約における信託財産の特定における留意点を紹介したい。 1 信託財産の信託契約における位置付け 信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産をいう(信託法第2条第3項)。 これまで述べてきた通り、委託者が信託契約において受託者に管理・処分を委ねようとする財産であって、信託の効力発生時に受託者に所有権が移転する財産である。 委託者及び受託者は、この信託財産をいかに管理処分するかを信託契約において約定するのである。 2 信託の対象となる財産 原則的に、譲渡が禁止されている財産を除いて、金銭に見積もれるものであり、積極財産であって、委託者から移転することができる一切の財産が信託の対象となる。 ここで「譲渡が禁止されている財産」とは、委託者の一身専属的な権利や約定により譲渡禁止特約が規定されているような権利をいう。 また、「事業信託」という言葉があるが、厳密にいうとこれは積極財産である事業に関連する財産を信託し、委託者が債務者となっている借入れ等の債務を受託者が信託財産責任負担債務として債務引受することによって(信託法第21条第1項第3号)、外形上は事業全体が信託されたように見受けられるものである。 家族信託においては、現在のところ不動産を対象とする場合が多いと思われるが、委託者が認知症になる場合に備えて金銭を対象としておき、生活費や介護費に充てるとともに、相続税対策として建物の建築資金に充てることを目的とするような場合もある。 また、会社経営者の場合には自社株を保有していることが多いが、その場合の株式(非上場株式)を信託の対象として、事業承継対策を行うような場合もある。近時では上場株式も(実務上)家族信託の対象とすることができるようになったとの情報もある。 3 信託財産の特定の方法 他の契約書でも同様であるが、信託財産の特定にあたっては、信託契約書において二義を許さない特定を行うことが必要であろう。 不動産であれば登記の内容に従った記載とし、土地の場合には所在、地番、地目、地積を特定するべきであるし、建物の場合には所在、家屋番号、種類、構造、床面積を特定するべきである。共有の場合には持分割合の特定も必要である。 株式の場合には、銘柄、株式の種類、数量を特定することが必要である。 動産の場合には、種類によるが、品名、型番、個体番号・製造番号、色、寸法、数量、所在地等で特定することが通例であると思われる。 契約に基づく債権の場合には、その発生原因となる契約の当事者、契約締結日、契約書名、債権の名称、金額、元本・利息・遅延損害金の別等によって特定が行われる。 これらに対して金銭の場合には、金額を特定するしかない。 これら信託財産の特定が明瞭でない場合、受託者による分別管理の実行や信託終了時の残余財産の分配において問題が生じることも考えられるため、厳密に特定しておく必要がある。 また、登記や登録の制度がある財産については、登記や登録が信託の対抗要件となるため(信託法第14条)、登記や登録ができる形で特定がなされているかを確認する必要がある。 4 信託財産の物上代位性 信託契約において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、信託財産に属する財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産は、信託財産に属するものとされている(信託法第16条第1号)。 すなわち、受託者のもとで不動産を賃貸して得られた賃料、受託者が不動産を売却して得られた売買代金、建物が焼失して得られた保険金のようなものも、元来の信託財産(不動産等)から金銭に形を変えた状態で信託財産となる。 この物上代位性の議論の中では、受託者が受益者のためではなく、受託者自らの利益を図ったことで得た利益を受益者が取り戻すような場面においても適用されるとされており、受益者が得た財産は当然に信託財産とみなされることとなる。 5 担保権の付いた財産についての信託設定 特に不動産を信託財産にしようとする場合、金融機関から住宅ローン等を借り入れて購入したようなもののときには、ローンの残高が残存していることがある。 そしてローンを借り入れる場合には、不動産に抵当権が設定されることが通常であり、信託を行おうとしたときに抵当権が残存していることになる。 この場合、金融機関と委託者との間でローン契約に加え抵当権設定契約が締結されており、抵当権設定契約においては通常、信託の対象としようとしている担保物件の処分を禁止している。 このため、このような不動産に信託を設定しようとするためには、金融機関と折衝を行い、承諾を得る必要がある。 なお、現在のところ、必ずしも全ての金融機関が家族信託の仕組みについて理解があるというわけではないので、金融機関に対する十分な説明を行うこと、時間的な余裕を設けることが必要であると思われる(詳しくは本連載の【第12回】を参照)。 6 預貯金を信託しようとする場合の留意点 金銭を信託する場合のよくあるミスとして、信託財産の特定を「〇〇銀行 ××支店 普通預金 口座番号△△△△△△△ 口座名義人(委託者)の預金」としてしまうことがある。 しかし、「預金」とは、預金者の金融機関に対する債権であり、金融機関は取引約款によってその債権の譲渡を禁止しているのが通常である。 そうであるとすると、預金債権を金融機関に無断で受託者に信託譲渡することはできない。 この場合、信託財産を単に「金銭」としておき、信託契約締結後、委託者が預金を解約した上で受託者名義の信託口口座に預け入れる等する方法が考えられる。 (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第5回】 「定期メンテナンスの入り口」 -定款を活用した任期到来の時期の特定②- 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 本稿では、【第4回】で検討した最新の定款規定をもとに、役員の任期到来の時期を特定する方法について解説する。 定款では任期の年数だけではなく、機関設計や事業年度等、複数の規定を組み合わせることによってはじめて任期到来の時期を特定することができる(以下、任期に関する表記については「〇年」と省略して表記する。監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除いた株式会社を想定して記述する)。 大枠のイメージは、下記の拙稿で解説しているが、本稿では1つひとつの規定を具体的にみていくこととする。 主に参照する規定 任期到来の時期を特定するために参照する規定は、以下のとおりである。 一般的な定款は、第1条に商号、第2条に目的・・・と順に定められており、第1条から読んでいくと、任期特定に必要な規定は以下で示した順序で並んでいる。 それでは、上記定款の各規定がどのような役割を果たしているのか、以下詳しくみていこう。 ①株式の譲渡制限 【第3回】の解説のとおり、当該規定があると、取締役と監査役の任期をそれぞれ最長10年まで伸長することができる。一方で、当該規定がないと取締役の任期は2年以内、監査役は4年となる。 ②基準日 ④でも取り上げるが、取締役の任期が定時株主総会の終結時まで(会社法第332条第1項)とされているとおり、定時株主総会の時期が任期到来の時期と関連づけられる。 そのため基準日制度は、任期到来の時期を特定する資料となる。 基準日制度とは、その日時点の株主名簿上の株主を、後日における権利行使ができる者として定めたものである(会社法第124条第1項)。 上場会社では株式が広く流通し、頻繁に譲渡が行われるため、定時株主総会に先立ち、一定の日を「基準日」として、定時株主総会で議決権を行使できる者や剰余金の配当を受領する者を確定する必要がある。上記の規定例のとおり、決算期が基準日であることが多い。 また、中小企業では株主の変動こそ少ないが、上場会社と同様、決算期が基準日である定款が広く浸透している。 基準日株主と定時株主総会における権利行使時の株主があまりにもかけ離れていると、基準日後に株式を取得した者が議決権を行使することができる機会が限られてしまうため、基準日は定時株主総会等の権利行使時の前3か月以内とされている(会社法第124条第2項)。 例えば、決算期を基準日と定める、3月31日を決算期とする会社は、基準日の3か月以内である4月1日から6月30日の間に定時株主総会を招集する必要がある。 そして、下図のように、上記期間内に基準日株主AからBが株式を取得した場合であっても、定時株主総会で議決権を行使したり、剰余金の配当を受領したりする者はAということになる。 ③招集 上記の規定例のとおり、定時株主総会の招集は基準日の規定と関連づけられる。決算期を基準日とする場合、定時株主総会は決算期の翌日から3か月以内に招集することになる。 ④取締役の任期 本稿でも任期に関する規定を省略して表記しているが、例えば「任期2年」の言い回しは、実際には2年ちょうどではない。年数は、任期満了となる定時株主総会の時期を特定する過程の資料として活用し、任期そのものを示すわけではない。 一言一句みていくと、条文の意味を紐解きやすくなるため、掘り下げてみていこう。 ※1 選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会 「~以内に終了する事業年度のうち最終のもの」とは、過去に向かって直近の決算期を示す。 基準日制度や招集の規定から定時株主総会の時期を導き出すため、決算日から3か月以内に定時株主総会を招集する例が多いことはすでに説明した。 それでは以上を参考に、事例に当てはめてみることとする。 例えば、事業年度が4月1日から翌年3月31日とする株式会社で、平成27年6月25日にいわゆる「任期2年」として取締役に選任され就任承諾した場合を想定して語句を分割すると以下のとおりとなる。 《任期規定の算定式》 ※2 補欠、 ※3 増員 取締役には、「補欠」と「増員」の2つの概念がある。 補欠は前任者の交代要員となり、前任者と補欠の人数は一致する。 一方、増員は既存の取締役に追加するものである。 補欠や増員規定が適用される場合、補欠は前任者、増員は在任者の任期をもとに計算することになり、新たに任期が起算するのではない。つまり、本来の任期よりも短くなる。 以下、補欠と増員を比較しつつ、任期満了の時期を特定してみよう。 ◆補欠 取締役Cが任期中の平成28年5月1日に辞任し、同日に取締役DがCの補欠として選任され就任承諾する場合、取締役Dは、前任者Cの任期が満了する平成29年6月30日までの任期となる。新たに任期が起算する場合に満了が見込まれる平成30年6月30日までではない。 ◆増員 取締役Dが平成28年5月1日に選任され就任承諾する場合、既存の取締役の任期が満了する平成29年6月30日までの任期となる。新たに任期が起算する場合に満了が見込まれる平成30年6月30日までではない。 ⑤監査役の任期 監査役には、「補欠」の概念があるが、「増員」の概念がない。監査の独立性の観点から、任期を短縮できる場面が限定され、任期を短縮できるのは補欠の規定が適用される場面のみである。 補欠監査役の任期は、上記補欠取締役の事例と同一である。 ⑥事業年度 例えば、事業年度が毎年4月1日から翌年3月31日までの場合、3月31日が決算期となる。決算期は②の基準日や③の招集の規定で用いられる毎事業年度末日をいい、役員の任期が到来する定時株主総会を特定する資料となる。 * * * 以上を踏まえて、一度自社の役員や顧問先企業について任期満了の時期を確認してみてはいかがだろうか。 任期満了の時期を特定できると、定期メンテナンスの軸を作ることにつながる。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第22話】 「相互持合の株式の評価」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「田中統括官・・・会社が株式を互いに持ち合っている場合の株式の評価って・・・どうするんでしたっけ?」 谷垣調査官は頭を掻きながら尋ねる。 「会社がそれぞれ、株式を持っているケース・・・???」 田中統括官は谷垣調査官を見た。 「・・・具体的には、どんな持合の会社の株式なんだ?」 「ええ、このような関係なんですけど・・・」 そう言いながら、谷垣調査官は2社の貸借対照表と株式評価の資料を分厚いファイルから取り出して、田中統括官に見せる。 「なるほど・・・それで、負債に関しては、帳簿価額は変わらないと思うけれど・・・それぞれの会社の「その他資産」の相続税評価額はいくらになるんだ?」 田中統括官が尋ねる。 「甲社と乙社のその他資産の相続税評価額は、これです。」 そう言って、谷垣調査官は2枚目の資料を示した。 田中統括官は暫く考える。 「ということは・・・甲社株式の相続税評価額をYとし、乙社株式の相続税評価額をXとして・・・甲社が所有する乙社株式評価額は・・・」 そう言いながら、田中統括官は罫紙に図を描く。 「これで・・・甲社が所有する乙社株式の株価(X)と乙社が所有する甲社株式(Y)の連立方程式を計算すると、それぞれの相続税評価額が算出される・・・」 田中統括官は算式を罫紙に書く。 「乙社は小会社だから純資産価額方式で計算することになるが、甲社は中会社で、Lの割合が75%だから、こんな計算式になるだろう・・・」 そう言って、田中統括官は自分が書いた計算式を確認する。 暫くして、田中統括官は「・・・これでXとYを解くと・・・谷垣君、いくらになる?」と尋ねる。 谷垣調査官は計算式を見ながら、素早く電卓を叩き始める。 「谷垣君は電卓のスピードが速いんだね。」 田中統括官は腕を組んで、谷垣調査官を見ている。 「・・・。統括官、計算できました。」 谷垣調査官は、褒められてうれしかったのか頬を赤らめて、田中統括官に言う。 「Xが107,574千円で・・・Yが514,025千円になります。」 田中統括官は、谷垣調査官の書いた計算の数値を辿って確認する。 「・・・ということは、乙社の1株の価額は、107,574千円を3,780株で除せば、28,458円になるということか・・・」 田中統括官も机の上に置かれている電卓を素早く叩く。 「そうですね・・・甲社は、514,025千円を26,740株で除すると、19,223円になります。」 谷垣調査官は「19,223」の数値が示されている電卓を見せる。 「どうだい、簡単に相互持合の株式の評価ができるだろう。」 田中統括官は笑いながら、谷垣調査官を見る。 「ええ、この程度の連立方程式であれば、簡単に計算できますね。」 谷垣調査官も頷く。 「君のようなスピードで電卓を叩くことができれば、こんな連立方程式の解なんてあっという間に出せるだろう・・・ただし、計算式さえ間違わなければね・・・」 田中統括官が言う。 「田中統括官の電卓の腕も年に似合わぬ早さですね。」 谷垣調査官の意外な言葉に、田中統括官は思わず笑った。 (つづく)
《速報解説》 会計士協会、監査人の交代理由等の開示の充実に向けた施策を公表 ~具体的な交代理由の適時な把握・交代に関する質問等を実施~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年6月30日、日本公認会計士協会は、会員に対して、副会長通知「監査人の交代理由等の開示の充実に係る日本公認会計士協会の取組について」を公表した。 これは、会計監査の在り方に関する懇談会の提言において、株主等にとってより有用な情報の提供を確保するという観点から、監査人の交代時における開示の充実が求められていることを踏まえたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査人交代時における開示制度の運用上の留意事項 1 アンケート調査 監査人の交代時における開示制度として次のものがある。 平成28年に日本公認会計士協会は会員向けに「監査人の交代理由等に関するアンケート調査」を実施している。 これによれば、監査人が無限定適正意見を表明した後に交代し、被監査会社の監査人交代に係る臨時報告書又は適時開示情報に、交代理由に対する監査人の意見が開示されなかった場合であっても、監査人と被監査会社の見解の相違等が交代の背景に存在していたことを伺わせる回答が得られているとのことである。 2 監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果 参考資料として、「監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果」が公表されている。 これは、平成28年7月25日に会員専用サイトにて会員宛てに公表した「監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果」を一般公表用に編集したものである。 アンケート調査での「交代理由(会社からの契約解除申入れ理由)」に関する回答の選択肢としては次のものがあり、前任監査人と後任監査人からの回答の結果が示されている。 また、「交代理由(監査人からの辞任申出理由)」についてもアンケート結果が示されている。 3 留意事項 上記のアンケート調査結果は、監査人の交代理由等の開示が、制度の趣旨に則って行われていない可能性があることを示していると考えられるとし、次の事項に留意するようにと述べている(「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条2項九の四ハ(4)~(6))。 Ⅲ 日本公認会計士協会の施策 日本公認会計士協会は、監査人の交代理由等の開示の充実に向けて、次の施策を行うとのことである。 上記の施策を行うにあたって、上場会社監査事務所登録制度の定めに基づいて日本公認会計士協会への提出が求められている「登録事務所概要書変更事項届出書(会社数及び会社名)」及び「監査契約会社リスト変更事項届出書」の監査対象会社数の増減理由記載箇所について、現行の自由記載から選択肢形式に変更し、具体的な交代理由の把握や監査人に対する質問等の実施などを行うとのことである。 この対応として、平成29年6月30日、「上場会社監査事務所登録制度における「登録事務所概要書変更事項届出書」等の様式変更について」が公表されており、改正後の様式は、平成29年7月1日以後提出する届出書から適用される。 (了)
《速報解説》 国税庁29年分の路線価を公表 ~全国平均路線価は2年連続で上昇 Profession Journal編集部 国税庁は7月3日、平成29年分の路線価等を公表した。 平成29年分の全国平均路線価は対前年比0.4%の上昇となり、昨年に続き2年連続の上昇となった。全国のうち上昇したのは13都道府県であり、昨年の14都道府県からは減少したが、その分1都道府県あたりの上昇率は高くなっている。 〇都市部は依然として上昇傾向 都市部は引き続き上昇傾向にあり、東京都で3.2%、千葉県で0.5%、神奈川県で0.4%、埼玉県で0.3%と首都圏は4年連続の上昇となった。また、愛知県は1.2%の上昇で5年連続、大阪府も1.2%の上昇となり、4年連続で前年より高くなっている。 また、昨年は路線価が上昇した熊本県は熊本地震の影響もあってか、0.5%の下落となり、2011年に東日本大震災で被災した宮城県は昨年の2.5%を大きく上回る3.7%の上昇となった。 地点別の最高路線価は東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前が32年連続のトップとなり、1平方メートルあたりの価格は4,032万円だった。これは過去最高価格だったバブル直後(1992年)の3,650万円を大きく上回っている。 なお、「三越銀座店」前や「和光本館」前、昨年9月に開業した「GINZA PLACE(銀座プレイス)」前も鳩居堂前と同額であり、銀座の地価上昇が著しい。この要因としては、近年の再開発と訪日外国人客の増加の影響が大きいとみられる。 〇課税対象者の増加に伴う路線価への注目 2015年に行われた相続税の制度の見直しにより、課税対象者が増加した。国税庁によれば、2015年の課税対象者は10万3,000人で、前年の約5万6,000人から大幅な増加となっている。路線価は相続税、贈与税算出の基準となるため、路線価の変動は課税対象者に直接影響を及ぼすこととなる。 路線価の上昇が著しい都市部、特に東京都において、以前は小規模宅地特例等、土地の評価額を減らすことができる特例を適用しなくても控除の枠内に収まっていた案件でも、路線価の上昇により特例を適用する必要がある場合が増加している。 路線価の変動によるこれら特例制度の適用有無について、あらためて確認しておきたい。 (了)
《速報解説》 監査事務所への品質管理レビュー結果をまとめた 「平成28年度 品質管理委員会年次報告書」が公表 ~会計上の見積りや監査証拠等についての指摘事項を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年6月26日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「平成28年度 品質管理委員会年次報告書」及び「平成28年度品質管理委員会活動に関する勧告書」を公表した。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する指摘事項 会計上の見積りの監査に関して、次の指摘が多いとのことである。 次の事項(金融機関の監査業務の改善勧告事項を含む)が述べられている(年次報告書14~17ページ)。 Ⅲ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書55ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査においては、当該項目のほぼ半数で共通して見られた指摘として、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘が述べられている。 (了)
-お知らせ- いつもプロフェッションジャーナルをご愛読いただきありがとうございます。 2017年上半期(1月~6月)掲載分の目次をアップしました。 2017年上半期(1月~6月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、ご活用下さい(PDFファイル内の文字検索もできます)。 Back Number ページからもご覧いただけます。 ▷半年ごとの目次一覧 2017年 1月~6月(No.201~224)⇒[こちら] ★ 2016年 1月~6月(No.151~175)⇒[こちら] 7月~12月(No.176~200)⇒[こちら] 2015年 1月~6月(No.100~125)⇒[こちら] 7月~12月(No.125~150)⇒[こちら] 2014年 1月~6月(No.51~75)⇒[こちら] 7月~12月(No.76~100)⇒[こちら] 2013年 1月~6月(No.1~25)⇒[こちら] 7月~12月(No.26~50)⇒[こちら] 2012年 創刊準備1号~5号⇒[こちら]
2017年6月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.224を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第2回】 「デジタルエコノミーの進展と恒久的施設(PE)の変質」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 恒久的施設(PE)とデジタル経済 法律関係の雑誌や学会誌は、法律条文の構成を反映してか、長い間、縦書き印刷物と相場が決まっていたようである。しかし、その場合には外国語文献の引用表記等には不自由を強いられてきた。 国際税務の中で最も古い伝統を持つ概念の1つである「恒久的施設」は、欧州で物理的施設概念を中心に発達してきた。支店、営業所、工場など営業施設や生産施設の存在が、事業活動と管轄地を結びつける連節(Nexus)として、課税の前提条件とされてきたのである。機能に着目した“派生的PE概念”といわれる建設工事や代理人についても、建設工事現場の一定期間の存続や一定の機能を果たす代理人の存在という管轄地における事業活動の実態が確認できることが前提とされてきた。 ところが、デジタルエコノミーの進展は、管轄地において伝統的な上記PEを媒体としない各種電子商ビジネスを可能としている。消費課税では、グローバルなデジタル経済の拡大による内外取引の中立性維持や税収確保の観点から、いち早くOECD標準に基づく国内法改正が行われた(H.27改正によるB2B及びB2Cに区分した納付義務の創設)。他方で、所得課税については、抜本的な見直しが行われないまま現在に至っており、前述した縦書き印刷物と同様の窮屈さが残ったままである。 2 BEPS最終報告書での勧告 BEPS最終報告書の行動1(電子経済への対応)では、PE媒体を必要としない電子ビジネスの所得課税のためのNexusとして、従来のPEに代わる新たな概念導入を含めた3つのオプション(重要な経済的プレゼンス・電子商取引用源泉徴収・平衡税導入)が提示された。 ただし、当面はPE概念の修正等により課税の空白を埋める方策で対応可能と結論付け、オプションの詳細検討は将来に繰り延べている。 そこで以下においては、現行条約修正の方向性と抜本改革案の課題を検討する。 (1) 現行条約の修正 今や発行株式の時価総額ベースで世界のトップ3は、いずれもIT系企業(アップル、マイクロソフト、アマゾン)である。これらの事業は通信機器等を通じて顧客とダイレクトに契約対応し、消費者所在地には、一定の定型補助業務をフィービジネスとして担当する、いわゆる受託業務担当企業あるいはその施設のみが存在するケースが多い(契約主体は、海外のプリンシパル企業)。 これら受託企業は、代理行為該当性及び準備的・補助的以外の行為該当性といった従来のPE認定要件を充たさない契約の下で稼働することも多く、Nexus認定が困難で、源泉地国(消費者所在地国)における所得課税に支障をきたしているといわれている。 BEPS行動7では、施設にPE認定を回避する余地を与えている(その結果、二重非課税の結果を許している)現行モデル条約の5条を、以下の通り修正するよう提言した。 (2) 将来に向けたオプションの検討 ① 重要な経済的プレゼンス 3つのオプションのうち、伝統的なPE概念と同じ文脈で新たなNexusを提示するものが、第1オプション(「重要な経済的プレゼンス:Significant Economic Presence(SEPと略す)」)である。 大まかに言えば、従来のPE概念を制約する「物理的施設」要件を緩和し、経済活動の機能面に着目した帰属先をイメージするものであり、BEPS検討過程では、その主要な構成要素を捉えて「重要なデジタルプレゼンス」と呼ばれることもあった。 PE概念の延長上に位置付けられうる強みから、今後優先的に検討されるものと思われるが、①SEPの認定要件をどう設定するか、②SEPが認定されたとして、それへの帰属主義の適用指針をどう定めるべきかなど、ハードルの高い検証項目が残っている。 ② 電子商取引用源泉徴収・平衡税導入 残りの2つは、電子経済のもたらす所得課税について、従来のPE帰属所得課税論(汎用的な所得課税論)から離れて、独自の処方箋を提示するものである。 まず、電子商取引に対する源泉徴収構想は、オンライン取引対価の非居住者向け支払いに源泉徴収義務を課すものであるが、電子経済の主たるプレーヤーである消費者にそのような義務を課すことが可能かという課題があり、また、WTOなどの通商合意違反の批判にもこたえねばならない。 また、3つ目の平衡税オプションは、これまで課税漏れであった国外事業者をターゲットにした新規課税であるが、これも、現在トランプ税制改革案で議論されている国境調整税と同様、内国民待遇などWTOの要請とバッティングするほか、二重課税のリスクも高まるという課題がある。 いずれも困難な課題を抱えているが、ポストBEPSの最大テーマの1つであり、OECDでの検討と並行して、研究者・実務家が真剣に取り組むべき時期と考える。 (了)