〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第9回】 「裏付け取りの重要性について」 中小企業診断士 西田 純 前回は、特に情報共有に関係して陥りがちなワナについてお話しました。今回は「仮説検証」プロセスにおける裏付け取りの重要性についてお話します。 ▷ 人間は、自分が見たいようにしか事実を見ない ・・・と言ったのは、かのカエサルだそうですが、F/Sに限らず真理を突いた一面があると思います。F/Sに従事するエンジニアや責任者となる人たちは、経歴や専門などさまざまな背景を持っていても、その分野の第一人者とされる人であればこそ、そのF/Sにおける重要な役目に任ぜられたのだろうと思います。そういう方々には、ほぼ共通に「余人をもって代えがたい知見」という知的アドバンテージが備わっていまして、それがゆえに確度の高い仮説を立てることに長けているという場合が多いです。 確度が高いことは、多くの場合プラスに働きます。少し調べただけで仮説の正しさが証明されたり、いくつかの場面でその人の言う通りにものごとが進んだりします。そうすると、周りもついつい「あの人がいうことなら間違いない」というようなレッテルを貼ったりすることがあるのですが、実はこのプロセスが大きな落とし穴をもたらします。話をするほうも、果たしてそれが単なる仮説(ご意見)なのか、具体的な検証済みの情報(事実)なのか、ちょっと聞いただけでは区別がつきにくい言い方をしたりします。 「いや、そういうことになってるんだから」「見てみなよ、そうなってるでしょ」など、やや上から目線の言い方で具体的な根拠に言及しない発言があったときは、実は要注意だったりします。同じ不確かな情報でも、権威が発言すると本当らしく聞こえたりするから余計に性質が悪いのです。 これとは逆に、常に慎み深くかつ周到に、たとえ自分が手がかりを知っているような情報についても「〇〇は、どうなっていましたかね?」と確認を求める人がいます。気を付けてみていると、まったく同じ質問を違うシーンで違う相手にぶつけたりしています。F/Sにおいてそういう行動をとる人の場合は、まさか以前質問したことを忘れているわけではなく、慎重に情報の裏付けを取ろうとしているのだろうと理解してあげるべきでしょう。推論を述べるときでも、「〇〇は、こうなっているのだから××はこうなんじゃないですかね」というように、背景や理由を明らかにしつつそれが検証済みの情報であることを積極的に共有する。聞いているほうとしても素直に腑に落ちる話だろうと思います。 原則論を言うとF/S、特に新規事業の現地調査だと、いかに恵まれた知見があったにせよ、それがそのまま使えるばかりとは限らない事例がほとんどです(考えてみれば、だからこそF/Sをするわけです)。そういう場面に接したとき、これまでの知見が通用しないと困る、とばかりに自分の考えを押し付けるか、あるいは虚心坦懐に周りの知恵に教えを乞うか、という人間の属性があらわになります。たとえある程度知っていることであったとしても、「こういう場合はどうなるか」「それはなぜなのか」について、異なる場面で繰り返し検証を試みる、という態度は「仮説検証」プロセスを徹底させるために大変重要な態度なのです。 ▷ 売上予測こそ要注意 F/Sでは様々な情報を収集・分析しなくてはなりませんが、それが例えばメーカーの海外進出であれば、コスト構造や生産開始に向けたさまざまな手続きなど、支出を伴うものについてならある程度自分の知識でも通じてしまうところがあります。考えてみれば、国が変わっても製造するものが同じであれば、ある程度の共通性は担保されているわけですから、気を張って裏付け取りを繰り返しても、いつまでたっても同じことの繰り返しが続いたりします。 実は、しっかりとした裏付け取りをするべき急所というか脈があって、その第一は何をおいても「売上予測」なのです。これに続く優先順位は、次にその予測につながる市場データ、最後はその市場データの決定要因となるマクロ経済や社会の変化、ということになると思います(【第6回】で述べたPEST分析で把握される部分です)。 なぜなら、売上こそ製品やサービスに対する市場の特性的な反応を表すものであり、他の市場における経験値が必ずしも通じる部分ではないからです。複数の市場開拓を経験したベテランであっても、いやベテランであればこそ、仮説の検証を慎重に進めるべきポイントでしょう。基本的には単価と数量が予測できれば良いわけですが、そのいずれもがおそらくは幅を持ったデータとして認識されることが多いと思います。であればなおのこと、振れ幅を正確に認識するためのヒアリングは念を入れて実施することが重要になります。 ただ、いくらヒアリングを繰り返してもデータはなかなか一定レベル以上には収れんしないものです。ある程度煮つまった段階で「悲観論・楽観論・中立論」というような場合分けをしたシナリオを作成することになります。ざっくりとした分け方のシナリオが、他の場合は問題ないが、いつも悲観論の場合のみ失敗するという単純な「2勝1敗パターン」に陥って、F/Sの意義に疑問が呈されるようなことにならないためにも、重要なデータについては特に丁寧な裏付け取りを心がけることをお勧めします。 * * * 次回は「結果を見える化することのメリット」についてお話します。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、「会計不正防止における監査役等監査の提言」を公表 ~三様監査において求められる監査役等の役割についてとりまとめ~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 公益財団法人日本監査役協会(以下「監査役協会」と略称する)会計委員会は、11月24日、「会計不正防止における監査役等監査の提言―三様監査における連携の在り方を中心に―」と題された提言集を、監査役協会会員会社へのアンケート結果とともに公表した。 提言を取りまとめた監査役協会会計委員会(第43期)の委員長は、元株式会社日立製作所取締役監査委員長(元副社長)三好崇司氏。筑波大学大学院の弥永真生教授と日本公認会計士協会の住田清芽常務理事が専門委員を務めるほか、上場企業の監査役が委員として参加している。 その提言内容について、「はじめに」から引用する。 1 提言の概要 提言内容は下記のとおり大きく3つに分類され、合計で9項目になっている。 本提言の構成は、各項目の最初に「提言」が示され、その後に提言内容の解説が述べられ、必要に応じてアンケート結果の引用が示される形式で統一されている。 2 監査役等の選任・構成 最初に、「監査役等の選任・構成」に係る提言の中で、いくつか特徴点を挙げてみたい。 まず、監査役候補者の選定プロセスに関する提言では、「監査役等が、実効性ある監査を実現するためには、監査役等として求められる経験・資質等を有していなければならない」としたうえで、監査役会等の構成については、「独立性・透明性が担保される必要がある」とまとめている。 また、社外監査役等については、「リスクの抽出・分析において社内監査役等とは異なる観点から貢献できる経営経験者、専門家が望ましい」とし、会計不正防止の観点から特に、「財務及び会計に関する相当程度の知見を有する監査役等を少なくとも1名以上選定すべきである」と提言している。 3 会計不正防止のための三様監査 監査役等が果たすべき三様監査における連携については、以下のように提言されている。まず、三様監査について、 としたうえで、「監査の有効性、効率性向上の観点で、監査計画、監査方法、監査報告内容等について議論を深め」る中で、「相互の改善点について真摯な意見交換を行い、緊張感ある連携を実現」することによって監査品質の向上を図ることの必要性が示されている。 次いで、内部監査部門との連携については、 と「可能な限り一体感のある運用を行うことが望ましい」としたうえで、情報を共有するため、「内部監査部門のレポートラインは監査役等にも平時・有事に関係なく確保されるべき」であるとしている。 最後に、会計監査人との連携については、 と提言の冒頭で述べたうえで、特に、会計不正防止の観点から、リスク情報の共有は最優先事項であるとして、「監査計画時・期中・期末時点各々で情報・意見交換を図り、懸念がある場合は都度報告する体制を確保すべきである」と解説している。 また、監査役等から積極的な情報提供を行うべきであるとして、「監査役会等の監査体制や監査計画、実施状況に加え、監査役等として認識している事業運営上の課題やリスク、業務監査等を通じて得た会計監査人の監査に影響を及ぼすと思われる情報、内部統制の評価状況や問題点等」について情報を提供し、議論を深めるべきであるとしている。 4 その他 その他の項目としては、グループ監査と監査役会等の評価について提言が行われている。まず、グループ監査の在り方については、 と述べたうえで、特に、親会社への影響度の大きい主要子会社はもちろん、「本業とは異なる事業を行う子会社及びM&Aで取得した子会社」などのリスクの実態把握が難しい子会社について、「子会社のガバナンス及び監査体制の把握に重点」を置くべきであることを提言している。 監査役会等の評価については、 として、まずは自己評価を実施し、取締役会等に対して監査活動の説明を行う機会を設けて、取締役会等のメンバーからの意見聴取を行うことが、「監査品質の向上だけでなく、監査役会等の監査活動の理解を深めることにも繋がる」と提言をまとめている。 5 解説―三様監査(※)の変容と提言― (※) 監査役協会が考える「三様監査」については、同協会の「新任監査役ガイド(第5版)」137ページなどにも、解説がある。 本提言をまとめた監査役協会会計委員会委員長の三好崇司氏は、ACFE Japanカンファレンス(2016年10月7日開催)にパネリストとして登壇した中で、「監査役協会としても提言をまとめている」旨の発言をされていたので、筆者としても、本提言の公表を待っていた次第である。 提言内容について異論を差し挟む余地はないものと思料するので、解説に代えて、変容の兆しがみられる三様監査について、少し現状をまとめておきたい。 既述のとおり、本提言Ⅱ.2.「監査役等と内部監査部門との連携」では、「内部監査部門の組織上の位置づけは社長直属の会社が多い」としながらも、「可能な限り一体感のある運用を行うことが望ましい」と解説しているが、より一体的な運用を目指して、内部監査部門を監査役会等の直属とする上場企業が増加している。 昨年、会計不正事件が明らかになった株式会社東芝は、今年3月15日公表した「改善計画・改善状況報告書」の中で、内部監査部門を執行部から切り離し、監査委員会の直轄組織とすることを明らかにした。また、大阪市に本店を置くステラケミファ株式会社のコーポレートガバナンス体制を見ると、内部監査部は、執行部門の枠外に置かれ、監査等委員会・会計監査人との連携が強調されている。 こうした動きには賛否両論があるようだが、目的とするところは「監査品質の向上」であり、「監査業務の有効性・効率性向上」であることから、企業規模や監査部門の人的リソースに応じた体制を選択する会社が増えることは間違いないと思料するところである。 (了)
《速報解説》 「MBO後の再上場時における上場審査について」パブコメを開始 ~再上場時の上場審査の視点・運用について整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月2日、株式会社東京証券取引所 日本取引所自主規制法人は、「MBO後の再上場時における上場審査について」を公表し、意見募集を行っている。 これは、MBO(Management Buy-Out)を実施して上場廃止となった会社が再度上場しようとする際の審査に関する視点・運用を再整理するものであり、通常のパブリック・コメント手続に準じて意見募集するものである。 意見募集期間は平成29年1月1日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 MBOとは MBO(Management Buy-Out)は、上場会社の経営者が株主から株式を買い取って会社を非公開化する取引である。 次のような意義がある。 2 MBO後の再上場 取引所では、これまで、過去にMBOを実施して上場廃止となった会社が再上場する際には、市場に対する信頼を維持する観点から、通常の上場審査に加えて、個別に投資者保護のための追加的な審査を行っている。 今回は、再上場時の上場審査の視点・運用について整理するものであり、(1)上場審査の視点と(2)上場審査の運用について、次のように述べている。 (了)
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《速報解説》 国税庁、HP上の「質疑応答事例」を更新 ~マンションの施工不良により受領する補償金の課税関係等、15問を新設 Profession Journal編集部 国税庁は2016年11月28日にホームページ上の質疑応答事例を更新し、新たに15問が追加された。 新設された15問の内訳は、法人税関係の7問に続き、消費税関係3問、所得税関係2問、財産評価関係2問、印紙税関係1問となっており、先日改正税法が公布された本年度の第2次の税制改正を反映してか、昨年、一昨年に比べ少ない追加数となっている(源泉所得税、譲渡所得、相続税・贈与税、酒税、法定調書については新設事例なし)。 なお、新設15問についてはこのページ下部にリンク先一覧を掲載している。 まず所得税関係については世情を反映し、建設されたマンションが耐震基準を満たしておらず耐震補強工事を実施する場合に、施工業者からマンション居住者へ損害賠償金として支払われる仮住まい補償金の課税関係について、不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金として非課税となるとした事例、さらに不動産貸付業者が賃貸用アパートを購入した際に売主に支払う固定資産税等清算金が必要経費とはならず取得価額に算入されるとした事例が追加されている。 法人税関係は、新設の7問中、組織再編関係が5問と昨年同様多くを占めており、合併法人と被合併法人との間に適格合併に該当するための関係が複数存在する場合の適格判定について照会された2問や、分割と合併を同日に行う場合に、消滅する被合併法人に属する当該分割に係る譲渡損益の損金算入時期等の取扱いについて解説した事例等が追加されている。 消費税関係では、平成28年度改正で手当てされた「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」について、本改正に該当し納税義務が免除されないケースを取り上げたほか、インターネットを介して株式投資の分析ツール(ソフトウェア)を提供等している国外事業者のサービス内容が事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するかを照会した事例等が追加された。 印紙税関係では、外国人旅行者向けの消費税免税制度(輸出物品販売場制度)に関し、平成27年度改正で創設された、ショッピングセンターなどで免税手続をワンストップ化できる手続委託型輸出物品販売場制度において、輸出物品販売場を経営するテナントと承認免税手続事業者との間で締結される「免税販売手続業務委託契約書」が第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する旨を解説した1問が追加された。 財産評価関係で新設された2問は、景観法に基づき指定された「景観重要建築物」及び歴史まちづくり法に基づき指定された「歴史的風致建造物」の家屋及びその敷地の評価方法について、それぞれ財産評価基本通達5の定めに基づき、同通達24-8(文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価)及び89-2(文化財建造物である家屋の評価)に定める評価方法に準じて評価する点が示されている。 なお、各事例には次の文言が記載されており、実際には各取引等の状況により判断の異なるケースがあるため留意されたい。 新設された15問とリンク先は下記のとおり。 〈新たに追加された質疑応答事例〉 〈所得税〉 「マンションの施工不良に伴う耐震補強工事により損害賠償金として受領する仮住まい補償金について」(総則9) 「賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて」(必要経費5) 〈源泉所得税〉 新設なし 〈譲渡所得〉 新設なし 〈相続税・贈与税〉 新設なし 〈財産の評価〉 景観重要建造物である家屋及びその敷地の評価(上記以外の土地等・家屋の評価42) 歴史的風致形成建造物である家屋及びその敷地の評価(上記以外の土地等・家屋の評価43) 〈法人税〉 「金銭債権を譲渡担保に提供した場合の取扱いについて」(収益の計上2) 「合併法人と被合併法人との間に「当事者間の完全支配関係」と「法人相互の完全支配関係」のいずれにも該当する関係がある場合の適格判定について)」(組織再編2) 「合併法人と被合併法人との間に「当事者間の完全支配関係」と「法人相互の支配関係」のいずれにも該当する関係がある場合の適格要件の適用関係について」(組織再編3) 「分割と合併を同日に行う場合に当該分割により移転する資産及び負債に係る譲渡損益の取扱いについて」(組織再編22) 「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」(組織再編25) 「いわゆる「三角分割(分割型分割)」に係る具体的な適格判定について」(組織再編27) 「連結納税の開始に当たり、過去に特別償却の適用を受けた減価償却資産を有する場合の時価評価損益について」(連結法人1) 〈消費税〉 「ATMの銀行間利用料に係る仕入税額控除」(仕入税額控除(その他)6) 「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」(納税義務者10) 「事業者向け電気通信利用役務の提供の範囲」(国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等1) 〈印紙税〉 「免税販売手続業務委託契約書」(継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)25) 〈酒税関係〉 新設なし 〈法定調書〉 新設なし (了)
2016年12月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.196を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.47- 「トランプ税制の最大注目点」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 トランプ大統領の誕生には驚かされたが、氏の税制改革案も驚くべき内容だ。 税率引下げによる所得税減税は高所得者優遇になり、さらなる格差の拡大につながる。法人税率の大幅な減税は、失敗に終わったレーガン1期の税制改革を想起させる。さらに財源なき大幅減税は、財政赤字の拡大・金利高騰をもたらす(すでに先取りが始まっている)。 次の図表は、最新の情報に基づき税制改革案をまとめたものだが、今後は共和党の税制改革案とのすり合わせなしには物事は運ばないので、現実的な案ができるのだろう。 トランプ次期大統領税制改革案 (※) Tax Policy Centerなど米国シンクタンクの情報から筆者作成 筆者が最も注目するのは、国際課税の改革である。米国多国籍企業が海外(タックスヘイブンや低税率国)に留保している莫大な利益(2兆ドルともいわれている)の還流を促す税制改革を行うというもので、この成否がトランプ経済政策のカギを握っているといってもよい。 国際課税原則として、わが国を含む多くの先進国は、国外所得免除方式(子会社が海外で稼ぎその国で税を支払えば、配当としてわが国に還流させても非課税、わが国では5%分は課税、また支店については全世界所得課税)を採用しているが、米国は、全世界所得課税方式、つまり米国企業が世界で稼ぐ全所得に対して米国は課税権を持ち、二重課税は外国税額控除で調整する。 この方式の下では、米国多国籍企業が海外での税引き後利益を配当として米国に還流させると、差額が追加的に米国で課税される。企業はこれを避けるため、米国に還流せず海外の低税率国に利益を留保する。つまり、全世界所得課税方式という税制が、米国企業が2兆ドルを超える利益を海外に留保する最大原因となっている。 そこでこれを国外所得免除方式に変更しようというのが、かねてからの共和党案であり、今回のトランプ案である。 問題は、たまっている利益をどう還流させ、どう課税するのか、という点である。追加課税が大きすぎると、企業にはインバージョン(国籍を変える租税回避)の誘因が働き、米国への還流は夢に終わる。他方、税率が低すぎると、財源にはならない。 これに対しては、トランプ案と共和党案との間で意見の相違があるので、未だ明確ではないが、04年にブッシュ大統領が行った一時的な利益還流への軽減税率(10%)での課税(リパトリエーション税)が有力案となっている。 これを財源としてラストベルト(Rust Belt:錆びついた工業地帯)のインフラ投資の財源に充てるということのようだ。 うまく還流させ、米国経済の底上げになるような投資などに活用されれば、トランプ税制は中期的に好影響を米国経済に与えるであろう。 また還流マネーには、ユーロ建てのものもある。それがドルとして還流されれば、わが国にはドル高・円安要因として歓迎されるだろう。 トランプマジックは、成功するのだろうか。これが最大の見ものだ。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q22】 「外国籍会社型投資法人の投資口を保有する場合の タックス・ヘイブン税制の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 タックス・ヘイブン税制の概要 タックス・ヘイブン税制(外国子会社合算税制)は、外国子会社を通じて行われる租税回避に対処するため、一定の条件の下で、軽課税国に所在する外国の子会社の所得をその株主である内国法人又は居住者の所得に合算して課税するものです。 具体的には、その発行済株式又は出資の総数又は総額(発行済株式総数等)の50%を超える数又は金額の株式又は出資(株式等)を、居住者及び内国法人並びにこれらの特殊関係非居住者によって直接に又は他の外国法人を通じて間接に保有(直接及び間接に保有)されている外国法人(外国関係会社)で、法人の所得に対する税の負担が日本での負担に比して著しく低い国又は地域に本店を有するもの(特定外国子会社等)の所得(適用対象金額)のうち、当該外国法人の発行済株式総数等の10%以上を直接及び間接に保有する居住者(同族株主グループを含む)の当該保有する株式等に対応する部分の金額(課税対象金額)は、特定外国子会社等の各事業年度終了の日の翌日から2ヶ月を経過する日の属する年分のその居住者の雑所得に合算して、日本において課税されます。ここで、間接に保有する株式等は、各段階の持株割合を乗じて計算します。 ただし、当該外国法人が独立企業としての実態を備え、かつ、その地で事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があると認められる等一定の要件に該当する場合には、タックス・ヘイブン税制の適用から除外され、合算課税は行われません(特定外国子会社等の営む事業が株式債券の保有等や船舶・航空機の貸付等である場合を除く)。なお、適用除外基準を満たし、合算課税の対象とならない場合であっても、一定の資産性所得については合算課税が行われます。 外国関係会社の判定は、その発行済株式総数等のうち50%超を居住者及び内国法人(特殊関係非居住者を含む)が直接及び間接に保有しているかどうかで判定しますが、議決権の数が1個でない株式等や請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該発行済株式総数等の割合と、次の①、②、③に定める割合のいずれか高い割合により判定します。 タックス・ヘイブン税制適用の有無の判定は、特定外国子会社等の発行済株式総数等の10%以上を居住者又は内国法人(同族株主グループを含む)が直接及び間接に保有しているかどうかで判定しますが、特定外国子会社等が議決権の数が1個でない株式等や請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該発行済株式総数等の割合と上記①、②、③に定める割合のいずれか高い割合により判定します。 2 本件へのあてはめ 外国籍の会社型投資法人についても、当該投資法人が法人格を有していること等により日本の税法上は外国法人として取り扱われる場合は、タックス・ヘイブン税制の適用対象となりえます。 まず、投資法人全体に占める日本人投資家の割合をカウントする必要があります。日本人投資家(特殊関係非居住者を含む)の割合が50%超の場合、投資法人は外国関係会社に該当します。 次に、投資法人がどの程度税負担をしているかをチェックする必要があります。基本的に外国投資法人の場合、その設立国では課税されていないことが多く、その場合は特定外国子会社等に該当します。 投資法人の場合、通常は株式債券の保有等が主たる事業であることから、基本的には適用除外基準は満たさないと考えられます。 さらに、個々の居住者(特殊関係非居住者を含む)が保有する投資口の割合が発行済株式総数等の10%以上の場合、タックス・ヘイブン税制の適用があります。 適用対象となる場合、投資法人の所得(適用対象金額)のうち居住者の保有する株式等に対応する部分の金額(課税対象金額)は、投資法人の各事業年度終了の日の翌日から2ヶ月を経過する日の属する年の雑所得に合算して日本において総合課税の対象とされます。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第41回】 「金銭又は有価証券の受取書⑦(介護サービス利用料金に係る領収書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は介護サービス事業所です。利用者から介護サービスの利用料金を受領する際には、領収書を発行しています。この場合、同じ介護サービスを行っている事業所でも、事業所の組織形態によって領収書に収入印紙を貼付する事業者と貼付しなくてもよい事業者がいると聞きました。当社は特定非営利活動法人(NPO法人)ですが収入印紙は必要ですか。 【領収書例】 介護サービス事業者が、介護サービスに係る利用料金を受領した場合に作成する領収書は、第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当する。ただし、特定非営利活動法人(NPO法人)が作成する領収書は第17号文書の非課税物件欄2の規定により、営業に関しないものとして非課税となる。 [検討1] 受取書の範囲 金銭又は有価証券の受取書は、債権者が作成する債務の弁済事実を証明するものに限らず、金銭又は有価証券の受領事実を証明するすべてのものをいう。 介護サービスに係る利用料金を受領した場合に作成する領収書は、売上による金銭の受領事実を証明するものであり、第17号の1文書に該当する。 [検討2] 非課税文書 第17号の1文書に該当したとしても、次の場合には非課税になる。 (1) 地方公共団体そのものが作成者であるもの (2) 記載された受取金額が5万円未満のもの (3) 営業に関しないもの (※) 営業に関しないものとは、例えば、その領収書の作成者が公益法人(財団法人、社団法人、社会福祉法人又は医療法人等)であるもの及び特定非営利活動法人(NPO法人)等が該当する。 ▷ まとめ (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第3回】 「義援金、災害見舞金等の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 義援金 義援金とは、被災者を支援するために、日本赤十字社等に対して拠出する寄附金のことである。これに対して、後述する災害見舞金とは、被災した従業員等や取引先に対して直接渡す見舞金のことをいう。 災害が発生した際に法人が義援金を支出した場合、法人税法上は寄附金として取り扱い、損金に算入されるか否かはその支出先によって異なる。その義援金が「国又は地方公共団体に対する寄附金」や「財務大臣が指定した寄附金(指定寄附金)」に該当する場合は、その全額が損金に算入される(法法37③)。 「特定公益増進法人に対する寄附金」は、定められた算定式によって求められる限度額の範囲内で損金に算入される(法法37④、法令77、77の2)。 また、これら3種類の寄附金に該当しない義援金については「一般の寄附金」に分類され、定められた算定式に基づく限度額の範囲内で損金に算入される(法法37①、法令73)。 2 被災した従業員等への災害見舞金 (※) 被災した取引先に対する災害見舞金の取扱いについては、【第4回】を参照されたい。 ① 従業員等 被災した従業員やその親族等に対して、法人が一定の基準に従って支給する災害見舞金品に要する費用は、福利厚生費として損金に算入される(措通61の4(1)-10(2))。 ここでいう「一定の基準」とは、災害前から定めていた規程等であれ、災害を機に新たに定めた規程等であれ、次の2つの要件を満たすものが該当する。 ② 元従業員や採用内定者 また、既に退職した元従業員や採用内定者に対して、災害見舞金品を支給する費用についても、従業員と同一の基準(上記の2要件を満たすもの)によって支給するものについては、福利厚生費として損金に算入される(措通61の4(1)-10(2)、国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q14)。 ③ 専属下請先の従業員等 法人が従業員と同等の事情にある専属下請先の従業員等又はその親族等に対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金品に要する費用についても、損金に算入される(措通61の4(1)-18(4))。 ④ 消費税の取扱い 従業員等に対して金銭で支給する災害見舞金については、対価性がないため不課税取引となる。物品を購入して支給する場合には、課税取引となる。 3 同業団体への分担金 法人が所属する同業団体等へ次のように分担金等を拠出する場合、寄附金として取り扱わず、支出した事業年度の損金に算入する(法基通9-7-15の4)。 ここでいう「構成員相互の扶助等に係る規約等」とは、災害前から定めていた規約等であれ、災害を機に新たに定めた規約等であれ、次のような事項を定めている必要がある。 同一の連合会に属する他の同業団体等の構成員が被災し、その者に対する災害見舞金に充てるための分担金等を拠出した場合も、当該団体等との事業関連性などからみて、構成員相互の扶助等を目的として実施するものであれば、損金に算入される(国税庁「義援金に関する税務上の取扱いFAQ」 Q6)。 4 自社製品等の提供 (※) 被災した取引先に対する事業用資産の供与の取扱いについては、【第4回】を参照されたい。 ① 不特定又は多数の被災者救援のための緊急の提供 法人が不特定又は多数の被災者を救援するために、緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金や交際費等としては取り扱わず、全額を損金に算入する(法基通9-4-6の4、措通61の4(1)-10の4)。 この取扱いは、自社製品等の提供が次のような側面を持つためである。 したがって、予め特定の限られた者(得意先の従業員等)に対する贈答として、自社製品等を提供する場合は、寄附金又は交際費等に該当する。 しかし、得意先の従業員等が避難している避難所に対して自社製品等を提供する場合でも、多数の被災者の救援のために緊急に行うのであれば、広告宣伝費に準ずるものとして損金に算入する(「災害FAQ」Q24)。 ② 「自社製品等」とは 上記のような自社製品等の提供が寄附金や交際費等には該当せず、全額が損金に算入されるのは、広告宣伝費に準ずる側面も有しているからである。 この趣旨からして、ここでいう「自社製品等」は次のように整理される。 ③ 消費税の取扱い 被災者への自社製品等の無償提供は、対価性がないため不課税取引となる。 仕入税額控除を個別対応方式で行う場合、自社製品等の提供のために要した課税仕入等については、提供した自社製品等の内容に応じて次のように取り扱う。 (※) 自社製品等の提供時に要した関連費用(被災地までの旅費や宿泊費等)に係る課税仕入は、「課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入」に該当する。 5 ボランティア活動の人件費 法人の従業員が被災地でボランティア活動を行う場合、その活動中の給与相当額は寄附金には該当しない。これは、次のいずれの場合も同様である(「災害FAQ」Q27)。 (了)