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国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第2回】「非居住者の役員の給与と住宅ローン控除」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第2回】 「非居住者の役員の給与と住宅ローン控除」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私(日本国籍)甲は、メーカー乙社の専務取締役をしています。平成29年3月10日より、A国の100%子会社の社長として3年間赴任します。日本には月に1回開催される取締役会の出席のために帰国します。 会社の給料の締めは従業員と同様に、毎月25日に支払われます。給料は赴任後も乙社から支払われます。家族は日本の自宅に住み続け、単身赴任となります。なお、収入は乙社からの役員報酬のみです。 従業員が海外赴任した場合、所得税は非課税となりますが、私の場合も同様でしょうか。 また、平成28年9月に自宅をローンで購入したことから住宅ローン控除を受けていますが、海外赴任後、家族が住み続けている場合は、住宅ローン控除の適用を受けることができますか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者の所得 所得税法においては、納税義務者を居住者(非永住者、非永住者以外の居住者)と非居住者に区分し(所法2三・四)、非居住者(所法2五)については、国内源泉所得について、所得税の納税義務がある。 居住者か非居住者かは、日本に住所又は1年以上の居所を有するか否かで区分されるが、事実認定にすべて委ねると実務が混乱することから、一定の要件を満たす場合は、居住者や非居住者として推定される。国外において1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合には、非居住者と推定される(所令15①一)。 本件の場合、甲は3年間A国の子会社に赴任することになることから、国外において1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合に該当し、3月10日以降、非居住者と推定される。したがって、日本での所得税の納税義務は国内源泉所得に限定される。   ▷役員給与の原則的な考え方 従業員の給与の場合、その従業員が1年以上の期間、海外赴任になったときは、その赴任期間に支払われた給与については、原則として、国外源泉所得として課税されない。 しかし、日本の法人役員が国外で勤務した場合に支払われる役員報酬については、原則的には、国内源泉所得とされる(所法161①十二イ)。なぜなら、役員報酬というのは、「役務の提供の対価」だけでなく「経営の対価」という部分もあり、日本法人の経営の対価(取締役会に参加等して経営に関わる)である部分は国内源泉所得に該当すると考えられ、役員報酬を合理的に「経営の対価」と「海外勤務の対価」に区分することが困難であることから、一括して国内源泉所得として取り扱うものと考える。 この給与所得を国内に恒久的施設を有しない非居住者が取得した場合の課税関係は、20.42%の税率で所得税及び復興特別所得税が課せられ、課税関係が完結し、確定申告で精算されることはない(所法161①十二イ、162②二、169、170、復興財源法28)   ▷役員給与の例外的な考え方 しかし、役員がすべて上記の取扱いになるとは限らない。役員としての勤務を行う者が、同時に、その内国法人の使用人として常時勤務を行う場合は、従業員と同様の取扱いとされる(所令285①)。国税庁のタックスアンサーでは、取締役支店長のような形で海外勤務した場合が挙げられている。 本社の平取締役が子会社の社長として勤務した場合はどうなのか、税務調査でも問題となることが多々あるが、その子会社での勤務の実態が親会社の使用人に相当するものであることを客観的に証明する必要がある(※)。 (※) 所基通161-43によると、次のようなケースは従業員として認められている。 (1) その子会社の設置が現地の特殊事情に基づくものであって、その子会社の実態が内国法人の支店、出張所と異ならないものであること。 (2) その役員の子会社における勤務が内国法人の命令に基づくものであって、その内国法人の使用人としての勤務であると認められること。 本件の場合、甲は内国法人乙社の専務取締役であることから、使用人として常時勤務が行われているとは考えられない。したがって、海外赴任期間中の役員報酬に係る給与所得は、国内源泉所得として20.42%の税率で所得税等が源泉分離課税される。   ▷住宅ローン控除の適用 住宅ローン控除は、住宅をローンを利用して取得等してから6ヶ月以内に居住し、年末にローン残高がある場合は、一定の税額控除が受けられる制度である(措法41①)。 平成28年度税制改正前は、住宅ローン控除を受けることができるのは居住者に限定されていたことから、海外赴任中に帰国後の住宅を購入して、その後居住した場合や、海外に本人が単身赴任し、家族が留守宅で居住している場合は、住宅ローン控除を適用することができなかった。 しかし、改正により、平成28年4月1日以後に住宅の取得等をした場合は、非居住者も住宅ローン控除が適用可能となった。非居住者期間中の住宅の取得や、海外赴任中に家族が留守宅で居住している場合においても、住宅ローン控除が可能である(措法41①、措通41-2(1))。ただし、本人が非居住者の期間の場合は、納税管理人を定めて確定申告を行わなければならない(通則法117)。 本件では、甲の所得が役員報酬に限られた場合、甲は恒久的施設を有しない非居住者であることから源泉分離課税となり、確定申告により精算をすることができない。このため、役員報酬に係る所得税から住宅ローン控除をすることはできないこととなる。 (了)

#No. 207(掲載号)
#菅野 真美
2017/02/23

金融・投資商品の税務Q&A 【Q33】「外国のパートナーシップを通じて有価証券投資を行う場合の所得区分」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q33】 「外国のパートナーシップを通じて有価証券投資を行う場合の所得区分」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 パートナーシップからの所得 【Q31】の通り、外国籍のパートナーシップが日本の税務上、任意組合等に類するものとして取り扱われるのか、外国法人として取り扱われるのかにより、税務上の取扱いが異なります。 ここでは、本件のパートナーシップは日本の税務上、任意組合等に類するものとして取り扱われるとのことですので、構成員課税が適用され、基本的にはパートナーシップ等の投資対象について投資家が直接投資している場合と同様の税務取扱いとなります。 投資家は、投資家の各年の期間に対応するパートナーシップの損益を認識する、又は(毎年1回以上、一定時期においてパートナーシップ損益が計算される等の条件下で)パートナーシップの計算期間の末日が属する年の総収入金額として認識することになります。   2 利益等の額の計算 【Q29】の通り、組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次の①の方法により計算されます。ただし、①の方法により計算することが困難と認められる場合で、かつ継続して②又は③の方法により計算している場合は、その計算が認められるとされています。 ①(総額方式)、②(中間方式)の場合は、投資家における所得の金額の計算上、投資組合において発生する所得をその属性に応じて所得税法に規定する各種所得に区分することが必要となります。 一方、③(純額方式)の場合は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とされます。   3 本件へのあてはめ 本件のパートナーシップからの利益の分配については、個人投資家が上記①から③のいずれかの方法により計算するかにより、所得分類が異なります。 上記①又は②の方法による場合、原則としては個々の所得に応じた所得区分を用いるものと考えます。したがって、配当であれば配当所得、上場株式の譲渡損益であれば上場株式等の譲渡に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、総称して上場株式等に係る譲渡所得等)に分類されると考えられます。 配当所得は原則として総合課税の対象となりますが、本件の対象株式は上場株式とのことですので、上場株式等の配当所得の特例(申告分離課税)が適用できるものと考えられます。上場株式等に係る譲渡所得等については申告分離課税の対象となります。 一方、個人が③の経理方法をとる場合は、本件のパートナーシップからの利益は原則として雑所得として取り扱われ、総合課税の対象になると考えられます。   (了)

#No. 207(掲載号)
#箱田 晶子
2017/02/23

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第13回】「別表6(15) 地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第13回】 「別表6(15) 地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第13回目は、平成27年度の税制改正において創設された地方拠点強化税制のうち、「別表6(15) 地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」についての内容と書き方について解説することにする。   Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる地方拠点強化税制のオフィス減税(地方活力向上地域において特定建物等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 これは、平成27年8月10日から平成30年3月31日までの間に、地域再生法に基づき都道府県知事が認定する「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」を実施する法人が、その認定を受けた日から2年以内に、その地域内において特定業務施設に該当する建物等を取得し事業に供した場合に、以下の税額控除ができるものである。 ① 【拡充型】 地方活力向上地域で特定業務施設を整備した場合には、特定建物等取得価額のうち以下の割合を税額控除(当期の法人税額の20%が上限)。 ② 【移転型】 東京23区から地方活力向上地域に特定業務施設を移転して整備する場合には、特定建物等取得価額のうち以下の割合を税額控除(当期の法人税額の20%が上限)。   なお、地方拠点強化税制はこのオフィス減税と、雇用促進税制の特例措置の2種類があるが、雇用促進税制部分についてはすでに本連載の【第11回】で解説済みである。 [適用にあたっての注意点] 1 適用対象となる資産は、認定地方活力向上地域特定業務施設整備計画に記載された特定業務施設に該当する建物及びその附属設備並びに構築物で一定の規模以上(※)のものとなる。 (※) 一の建物及びその附属設備並びに構築物の取得価額の合計額が2,000万円以上(中小企業者にあっては1,000万円以上)のものをいう。 2 確定申告書等に、控除の対象となる特定建物等の取得価額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付が必要。 3 法人の有する減価償却資産が、租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度等及び震災特例法の規定による特別償却又は税額控除制度等のうち、2つ以上の規定の適用を受けることができる場合であっても、これらの特別償却又は税額控除制度等のうちいずれか一つのみの適用となる。   Ⅲ 「別表6(15)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 [法人税額の特別控除額の計算] ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)

#No. 207(掲載号)
#菊地 康夫
2017/02/23

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例47(法人税)】 「国庫補助金等の圧縮記帳を行ったが、経理処理を誤ったため、損金経理がされていないとして税務調査で否認された事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例47(法人税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮記帳(法法42~44) 法人が、固定資産の取得に充てるための国庫補助金等の交付を受け、当該事業年度においてその国庫補助金等をもってその交付の目的に適合した固定資産の取得をした場合、圧縮記帳をすることができる。 圧縮記帳は、法人税法上、その取得に充てた国庫補助金等の額に相当する金額(以下「圧縮限度額」という)の範囲内でその帳簿価額を以下のいずれかの方法により経理処理した場合に認められる。 ① 損金経理により帳簿価額を直接減額する方法 ② 当該事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法 ③ 決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法 そして上記方法①②③いずれかの方法により減額し又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 さらに、圧縮記帳は別表13(1)「国庫補助金等、工事負担金及び賦課金で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」の記載がある場合に限り適用すると規定されているが、この明細については、 その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、圧縮記帳の適用が可能となっている。       (了)

#No. 207(掲載号)
#齋藤 和助
2017/02/23

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第26回】「まとめ」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第26回】 (最終回)  「まとめ」   公認会計士 佐藤 信祐   前回まで、会社法及び租税法の観点から、裁判例、裁決例を分析してきた。 最終回となる本稿では、今までの裁判例、裁決例を踏まえたうえで、実務上の留意事項について解説を行う。   1 会社法の観点からの評価 【第2回】から【第10回】までは、募集株式の発行等における公正な払込金額について検討を行った。その結果、引受人が支配株主になる場合には、支配株主にとっての株式価値により評価され、引受人が少数株主になる場合には、少数株主にとっての株式価値により評価されていることが分かった。さらに、アートネイチャー事件にあるように、取締役の損害賠償責任が問われる場合には、外部専門家による鑑定評価を事前に入手しておくことにより、結果として、払込金額が実際の時価よりも安かったとしても、責任が問われない可能性が高いことが分かった。 【第11回】から【第14回】までは、譲渡制限株式の譲渡における売買価格について検討を行った。その結果、経営権の移動に準ずる場合には支配株主にとっての株式価値により評価され、少数株主間の譲渡の場合には少数株主にとっての株式価値により評価されていることが分かった。さらに、買主が支配株主であり、売主が少数株主である場合には、支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値を折衷することにより評価がなされている。 さらに、【第15回】から【第16回】までは、組織再編における反対株主の株式買取請求に対する公正な価格について検討を行った。その結果、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントが認められない可能性が高いことが分かった。このことは、株式併合、株式等売渡請求によるスクイズアウトにおいても同様の結論になる可能性が高いと思われる。 学説の傾向を見ても、組織再編、スクイズアウトにおける公正な価格では、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントを認めるべきではないとする傾向が強いように思われる。これに対し、募集株式の発行等、譲渡制限株式の譲渡では、統一的な見解は存在しないと思われる。そのため、募集株式の発行等、譲渡制限株式の譲渡では、今後、異なる裁判例が出てくる可能性があるという点にご留意されたい。   2 租税法の観点からの評価 【第17回】から【第25回】までは租税法の観点からの裁判例、裁決例の検討を行った。財産評価基本通達が改正される前の事件や、実務家の見解が統一される前の事件も多かったため、今になってみれば、実務家の見解を裏付けるものもあったと思われる。 とりわけご留意されたいのは、実務において、「第三者間取引だから」という理由で、時価とかけ離れた評価をしてしまうという点である。 第三者間取引は、利害の対立する第三者間の取引を意味するため、本来はその範囲は狭いはずである。とりわけ、非上場株式については、その株式を欲しがる人はほとんどいない。M&Aのような分かりやすい事案でもない限りは、本当に第三者間取引であるかどうかについて、慎重な判断が必要になると思われる。 さらに、実務でも議論がなされるのは、財産評価基本通達と異なる評価方法が採用されてしまう可能性である。 実際に税務調査で議論になった経験は無いが、筆者の専門が組織再編であることから、組織再編を利用して相続税評価額を引き下げるというコンサルティングは数多く行っている。その際に、経済合理性や事業目的からは説明ができない手法を選択した場合には、税務調査において、財産評価基本通達と異なる評価方法が採用される可能性があるということは指摘している。結果として、経済合理性や事業目的から十分に説明できる手法を採用しているため、そのような否認リスクはほとんどないと自負しているが、それでは、否認されない限界値はどこなのかという点は、誰も説明できないと思われる。 本誌における別の連載(包括的租税回避防止規定の理論と解釈)でも解説しているが、租税回避に対する否認は、解釈論の範疇では限界がきており、今後、立法論で対応される可能性もある。これに対し、財産評価基本通達はそもそも法律ではないため、解釈論により否認を受ける可能性もあることから、より慎重な対応が求められると考えられる。   3 まとめ このように、実務上は、会社法の観点からの分析と租税法の観点からの分析の両方が必要になると考えられる。 蛇足ではあるが、租税法の観点から、会社法上の裁判例の傾向と異なる結論になるかどうかについて分析したい。まず、募集株式の発行等については、株主において受贈益が生じるかどうかが問題となる。そのため、引受人が支配株主になる場合には、支配株主にとっての株式価値により評価され、引受人が少数株主になる場合には、少数株主にとっての株式価値により評価されるという裁判例の傾向は、租税法の観点からも受け入れやすい。 しかし、譲渡制限株式の譲渡については、買主が支配株主であり、売主が少数株主である場合は異なる結論になる可能性が高い。租税法上は、一物二価を認めることに差し支えはないため、買主の受贈益については支配株主にとっての株式価値、売主のみなし譲渡益については少数株主にとっての株式価値により評価がなされる可能性が高いと思われる。 そして、組織再編、スクイズアウトについても、支配株主の観点からすれば、マイノリティ・ディスカウントを認めるべきではないという裁判例の傾向は整合的であると考えられる。さらに、非適格組織再編に該当する場合における合併法人等の受入処理、被合併法人等の譲渡損益の計算においても、株主レベルでのディスカウントを反映させるべきではないため、同様の結論になると考えられる。 このように、会社法の結論がそのまま租税法も容認されるわけではないため、別々に検討が必要になってくる。 今回まで26回にわたり、会社法と租税法の両方の観点からの裁判例、裁決例の検討を行った。税務専門家の立場からすると、会社法上の時価を意識することは多くはないかもしれないが、公認会計士、税理士が会社法を意識しないで株式評価を行った結果、裁判で問題になった事案も存在する。そのため、本来であれば、会社法の観点からの分析も必要になろう。 本連載は、ここで終了させていただくが、いずれ機会を見ながら、新たな情報発信をしていきたい。本連載が、皆さまの実務のお役に立てれば幸いである。 (連載了)

#No. 207(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/02/23

平成29年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】

平成29年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋     Ⅱ 税効果会計の改正   平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収適用指針」という)」が公表された。   「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」の主な改正点 回収適用指針では、以下の実務指針について、基本的にその内容を引き継いだ上で、必要と考えられる見直しが行われている。 本解説では、以下の主な改正点について解説する。 【主な改正点】 (1) 企業の分類 監委66号において、企業を5つに分類することが求められていた。回収適用指針においても基本的に踏襲した上で一部必要な見直しが行われている。 繰延税金資産の回収可能性を判断する際に、回収適用指針第16項から第32項に従って、要件に基づき企業を「分類1」~「分類5」に分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定する(回収適用指針15)。 「分類1」~「分類5」の要件は、監委66号と回収適用指針で以下のように異なる(回収適用指針15、17、19、22、26、30)。ポイントは将来の状況が要件に入っていること、及び会計上の指標である利益要件から税務上の指標である課税所得要件へ変更されていることである。 (※1) 営業損益項目に係る益金及び損金は通常の事業活動から生じたものであることから、原則として、「臨時的な原因により生じたもの」に該当しないと考えられる。一方、営業外損益項目及び特別損益項目に係る益金及び損金のうち、企業が置かれた状況等に基づいて検討した場合に将来において頻繁に生じることが見込まれないものは「臨時的な原因により生じたもの」に該当することが考えられる。 また、営業外損益項目に係る益金及び損金は毎期生じるものが多く、通常は「臨時的な原因により生じたもの」に該当しないと考えられるが、項目の性質によっては「臨時的な原因により生じたもの」に該当するものが含まれることがあると考えられる。 一方、特別損益項目に係る益金及び損金であっても必ずしも「臨時的な原因により生じたもの」に該当するとは限らず、企業が置かれた状況や項目の性質等を勘案し、将来において頻繁に生じることが見込まれるかどうかを個々に項目ごとに判断することになると考えられる(回収適用指針71)。 (※2) 課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値は、負の場合となる場合を含む(回収適用指針22)。 (※3) 一時差異等加減算前課税所得とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額及び当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額を除いた額をいう(回収適用指針3(9))。 なお、上記の「分類1」~「分類5」に示された要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得(上記(※3))の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する(回収適用指針16)。回収適用指針において、この判断は、各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することを意図していない(回収適用指針65)。ポイントは、過去、当期、将来の情報から総合的に判断することである。 (2) 「分類2」に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異 監委66号では、「分類2」に該当する企業でスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について、回収可能性がないものとされていた。一方、回収適用指針では、取扱いが以下のように変更されている。 「分類2」に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、原則として、回収可能性がない。 ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性がある(回収適用指針21)。 例えば、スケジューリング不能な株式の減損損失、役員退職慰労引当金について、将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、繰延税金資産を計上できる(回収適用指針75、106)。 なお、役員退職慰労引当金の場合、将来のいずれかの時点で解消されるものであるため、この点について説明は不要と考えられるが、将来減算一時差異の残高と課税所得の水準との関係から回収できることについては合理的な根拠をもって説明することが求められると考えられる(企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」に対する主なコメントの概要とその対応47)。 (3) 「分類3」に該当する企業における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積可能期間 監委66号では、「分類3」に該当する企業では、課税所得の見積期間がおおむね5年とされていた。しかし、実務上はおおむね5年ではなく、一律5年を限度として課税所得の見積りを行うことが多かったと考えられる。このような硬直的な運用では、企業の実態を反映しない可能性もあるため、回収適用指針では以下のように見直されている。 「分類3」に該当する企業は、合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を検討する(回収適用指針23)。 ただし、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(回収適用指針では、おおむね3年から5年を想定)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする(回収適用指針24)。 (4) 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」又は「分類3」に該当する場合 上記(1)の「分類4」の要件を満たす企業で、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積り、以下の①に該当する場合は「分類2」に、②に該当する場合は「分類3」に該当するものとして取り扱う。 ① 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」に該当する場合 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(回収適用指針では、おおむね3年から5年を想定)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、「分類2」に該当するものとして取り扱う(回収適用指針28)。 この場合、スケジューリング可能な一時差異等に係る繰延税金資産は回収可能性がある(回収適用指針20)。さらに、上記(2)のとおり、スケジューリング不能な一時差異等に係る繰延税金資産も回収可能性ありと判断する場合がある(回収適用指針21)。 例えば、過去において「分類2」に該当していた企業が、当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから「分類4」に係る分類の要件を満たしたが、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積った場合に、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときが該当する(回収適用指針91)。 ② 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類3」に該当する場合 臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画(回収適用指針では、おおむね3年から5年を想定)、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは、「分類3」に該当するものとして取り扱う(回収適用指針29)。この場合、合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を検討する(回収適用指針23)。 これは、監委66号における例示区分「4ただし書」に該当する。 例えば、過去において業績の悪化に伴い重要な税務上の欠損金が生じており「分類4」に該当していた企業が、当期に代替的な原材料が開発されたことにより、業績の回復が見込まれ、その状況が将来も継続することが見込まれる場合に、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときが該当する(回収適用指針92)。 なお、「分類4」の要件を満たす企業で「分類3」に該当する企業には、上記(3)のただし書の部分については、適用されない(回収適用指針89)。 また、「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」に該当するケースは、「分類3」に該当するものとして取り扱われるケースに比べて多くはないものと考えられる(回収適用指針89)。 (5) 会計方針の変更 回収適用指針の適用にあたり、すべての企業が会計方針の変更に該当するわけではない。回収適用指針の適用初年度の期首(下記(6)参照)において、以下の①~③の項目を適用することにより、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う(回収適用指針49(3))。 ① 「分類2」に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産について回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い(上記(2)ただし書参照。回収適用指針21ただし書) ② 「分類3」に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には回収可能性があるとする取扱い(上記(3)ただし書参照。回収適用指針24) ⇒ 単純に5年を超える場合ではなく、おおむね5年を明らかに超える場合には、会計方針の変更に該当する。 ③ 「分類4」の要件に該当する企業であっても、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には「分類2」に該当するものとする取扱い(上記(4)①参照。回収適用指針28)   《適用初年度の取扱い》 上記のとおり、回収適用指針を適用するにあたり、①~③の項目を適用することとなった場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる。 なお、遡及適用は認められず(回収適用指針123)、回収適用指針の適用初年度の期首時点で新たな会計方針を適用した場合の繰延税金資産及び繰延税金負債の額と、前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債の額との差額を、適用初年度の期首の利益剰余金又はその他の包括利益累計額(評価・換算差額等)に加減する(回収適用指針49(4))。 《注記》 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更のため、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(以下、「遡及基準」という)」10項に従って注記を行う(下記(ⅰ)~(ⅲ)参照)。 ただし、表示する過去の財務諸表に対する影響額については、遡及基準第10項(5)ただし書の規定にかかわらず、下記(ⅳ)~(ⅵ)の事項のみを注記する(回収適用指針49(5)、125)。 連結財務諸表作成会社においては、子会社についても影響額を算出する必要がある。 (注) 遡及基準10項ではこの他にも注記事項が定められているが、今回の回収適用指針の適用に当たっては、ここに記載していない注記事項は不要であると考えられる。 会社計算規則でも、会計方針の変更に関する注記の定め(会社計算規則102の2)はあるが、上記と同一の注記内容の規定はない。しかし、会計基準等の改正による会計方針の変更に関する注記であることを考慮すれば、計算書類においても同様の注記を行うことになると考えられる。 また、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しない場合、会計方針の変更の注記は不要であるが、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しなくても、回収適用指針を適用していることには変わりはない。そのため、追加情報で回収適用指針を適用している旨について注記することが考えられる(財務諸表等規則8の5、連結財務諸表規則15、会社計算規則116)。 【会計上方針の変更の注記例】 【追加情報の注記例】 (6) 適用時期 回収適用指針は、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる(回収適用指針49(1))。   Ⅲ 減価償却方法の変更   (1) 税制改正 平成28年度税制改正において、平成28年4月1日以後「取得」(※)する建物附属設備、構築物、鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物に限る)について定率法が廃止された。 (※) 「事業供用日」ではなく、「取得日」で判断する。 (2) 会計上の取扱い 上記(1)の改正に伴い、平成28年6月17日に実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(以下、「実報32」という)」が公表された。 ① 会計処理 従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業において、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している場合、平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う(※)(実報32.2)。この場合、以下の事項を注記する(実報32.4)。 (ⅰ) 会計方針の変更の内容として、法人税法の改正に伴い、実報32を適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨 (ⅱ) 会計方針の変更による当期への影響額   また、上記注記事項は、建物附属設備又は構築物を実報32の適用初年度に取得したかどうかにかかわらず、平成28年度税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合に、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを意図しているため、建物附属設備又は構築物を取得していない場合も記載する(実報32.18)。 また、事業セグメントの利益(又は損失)の測定方法を前年度に採用した方法から変更した場合に該当するため、変更の旨、変更の理由及び当該セグメント情報に与えている影響を開示する(企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」24(5)) (※) 実報32による会計基準等の改正に伴う会計方針の変更「以外」の減価償却方法の変更については、今までと同様に、正当な理由に基づき自発的に行う会計方針の変更として取り扱う(実報32.3)。 【会計上方針の変更の注記例】 ② 適用時期 実報32は、平成28年度税制改正に係る減価償却方法の改正に「限定」して緊急に対応したものであり、今回に限られたものである(実報32.16)。 したがって、実報32は、公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する。ただし、平成28年4月1日以後最初に終了する事業年度が実報32の公表日前に終了している場合には、当該事業年度に適用することができる。   Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正   平成28年11月9日に企業会計基準公開草案第59号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計上基準(案)(以下、「公開草案59」という)」が公表されている。 (1) 内容 公開草案59では、監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計上処理及び表示に係る監査上の取扱い(以下、「監査保証実務指針63」という)及び会計制度委員会「税効果会計に関するQ&A」における税金の会計処理及び開示に関する部分のほか、実務対応報告第12号「法人事業税における外形標準課税部分の損益計算書上の表示についての実務上の取扱い(以下「実務対応報告12」という)」に定められていた事業税(付加価値割及び資本割)の開示について、基本的にその内容を踏襲した上で表現の見直しや考え方の整理等を行っている(公開草案59.23)。 そのため、実質的な内容は今までと変更がない(公開草案59.38)。したがって、本解説では、詳細に解説していない。 (2) 適用時期 公開草案59が会計基準として公表された日以後から適用される(公開草案59.18)。 公開草案59の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しない(公開草案59.19)。 公開草案59が会計基準として公表されることに伴い、実務対応報告12は廃止される(公開草案59.20)。また、企業会計基準委員会は、日本公認会計士協会に、監査保証実務指針63の改廃を検討することを依頼することになっている(公開草案59.21)。 (了)

#No. 207(掲載号)
#西田 友洋
2017/02/23

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第16回】「金融商品の時価情報で記載漏れしやすい事項」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第16回】 「金融商品の時価情報で記載漏れしやすい事項」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例16-1】 金融商品の時価情報の表に記載漏れの項目がある。 【事例16-1】は、連結計算書類のうち連結貸借対照表と金融商品の時価情報の注記を一部抜き出して掲載したものです。 これらのうち時価情報の方に、間違いと思われる点が1ヶ所あります。 どこだかわかりますか? 実は、何かが記載漏れになっている可能性があるのです。 何が記載漏れになっているかは、時価情報の表を連結貸借対照表と見比べてみるとわかるかもしれません。   2 連結貸借対照表と時価情報の突き合せの結果 ではさっそく、答えを見てみましょう。 記載漏れとなっていたのは、「電子記録債権」でした。 この科目について、時価情報の表に掲載することを忘れてしまったようです。 時価情報の表には、連結貸借対照表に計上されている資産負債の各項目のうち、金融資産・金融負債である科目について、時価等を掲載するのが通例です(重要性の乏しいものを除きます)。 したがって、時価情報で掲載されている科目と連結貸借対照表に計上されている金融資産・金融負債の科目とを突き合わせれば、記載漏れとなっている科目を見つけることができます。 この事例でそうやって見つかったのが、電子記録債権です。 電子記録債権とは、電子債権記録機関の記録原簿に電子記録することを発生・譲渡の要件とする金銭債権です。金融資産なので、時価情報の記載対象科目です。この科目の金額について、重要性が乏しいと認められる場合を除き、基本的には時価情報の表に掲載することになります。   3 電子記録債権だからこそ記載漏れになった 時価情報の表に電子記録債権を載せ忘れてしまったのは、単なるミスではありません。しかるべき理由があります。 結論から言うと、電子記録債権だからこそ、載せ忘れてしまったのです。 以下、順に説明しましょう。 まず、時価情報の表の作成プロセスを確認します。この表は、初めて作成する会社でない限り、前年度に作成した同じ表のデータを使って、そのデータに上書きしながら作成していくはずです。【事例16-1】の会社でも、おそらくそうやって作成したことでしょう。 そうすると、前年度に記載されていた科目については今年度も同じように記載されますが、今年度から新たに発生した科目については、書き加えない限り、記載漏れとなってしまうのです。 時価情報の表に掲載する科目は、たいていの場合、毎年同じ科目です。会社が同じビジネスを同じように継続している以上、結果的に同じ科目が発生するので、時価情報の記載対象も同じになることが多いのです。 ところが、100%そうだと思い込んでいると、失敗します。 これまでなかった科目(金融資産・金融負債の科目)が、今年度から新たに発生するということも当然あるからです。 【事例16-1】の場合、電子記録債権がまさにそれでした。 電子記録債権は、電子記録債権法(2008年12月施行)により創設された、比較的新しいタイプの金銭債権です。会社によっては、まだ利用実績がないというところもあるでしょう。 そのような会社で、たとえば、新たな取引先と取引が始まったことから電子記録債権が発生する、ということもあるのです。 【事例16-1】の会社については、そのあたりの事情はわかりませんが、前年度の連結貸借対照表を調べてみると、そこには電子記録債権が見当たらず、当期からそれが発生したと見られます。 その結果、上で述べたような作業プロセスを原因として、電子記録債権を時価情報から漏らしてしまったと考えられます。   4 類似パターンの事例 今回のミスは、パターンで言えば、『リサイクル・ミス』か『ファーストタイム・ミス』ということになります。 今年初めてこの連載をお読みになった方、もう忘れてしまった(悲)という方は、『リサイクル・ミス』については【第1回】を、『ファーストタイム・ミス』については【第13回】を、それぞれご参照ください。 「前年度の注記フォームを使いまわす」という作業プロセスに着目すれば、リサイクル・ミスと言えるでしょう。 参考までに、典型的な事例を紹介しておきましょう。 【事例16-2】 増減がないにもかかわらず、増減説明の注がある。 また、新たに発生した事項に関して起きたミスという側面に着目すれば、今回のミスはファーストタイム・ミスです。最近では、前回取り上げた「非支配株主に帰属する当期純損失」という科目に、関連するミスが散見されています。 【事例16-3】 損失について「利益と表示してマイナス数値で計上する」方法によっている。   〈今回のまとめ〉 金融商品の時価情報の表については、表に記載した科目を連結貸借対照表と突き合わせてみることで、記載漏れを防ぐことができます。 (了)

#No. 207(掲載号)
#石王丸 周夫
2017/02/23

〈業種別〉会計不正の傾向と防止策 【第7回】「地方公共団体」

〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第7回】 (最終回) 「地方公共団体」   公認会計士・税理士 中谷 敏久   どのような業種業態か? 地方公共団体とは、地方自治法により人格を認められた公法人で、都道府県及び市町村の普通地方公共団体と、特別区、財産区などの特別地方公共団体がある。住民の福祉を増進するために必要とされる事務(自治事務)のほか、本来国の役割に係る事務(法定受託事務)を処理している。 自治事務として、団体の組織・財務・自治立法に関する事務、学校・保育所・市場・授産所・と畜場などの設置管理、埋火葬、ゴミ・し尿処理、バス・地下鉄、ガス事業などを行う。一方、法定受託事務としては、国道や一級河川の管理、生活保護などがある。 戦前は官僚的中央集権制の下、国の出先機関の感が強かったが、戦後は地方分権制による団体自治と住民自治が強化され、それぞれの自治体が独自の事業を展開し特色を出している。情報公開法の施行後は、住民が監視する体制も整い、また、1999年からは包括外部監査制度も導入されている。 なお、議会で承認された政策事業を首長が執行し、監査委員等がチェックするという、いわゆるPLAN-DO-SEEの自己完結型の組織が形成されているものの、国からの全面的な税源移譲が先送りされており、真の意味での地方分権は実現されていない。   どのような不正が起こりやすいか? 予算単年度主義の考え方から、職員には、その年度に計上された予算はすべて使い切ることが求められる。仮に予算の未消化が発生した場合、それは議会で承認された事業が適切に実施されなかったことを意味し、翌年度以降の予算を減らされる恐れがある。 これを避けるために、職員は以下のような不正を起こしやすい。   事例検証 平成21年9月9日に公表された千葉県の事例を紹介する。「千葉県経理問題特別調査結果報告書」によると、平成15年度から平成19年度の5年間で、約30億円の不適正な経理が組織的に行われたことが確認された。 内訳としては①預け:18億円、②一括払:4億円、③差替:1億円、④翌年度納入:2億円、⑤前年度納入:0.1億円、⑥先払い:0.1億円であり、①預けにより業者にプールされた公金は4億円にのぼった。   不正の防止策 地方公共団体の職員は公金を取り扱うことから、規則規定が詳細に定められており、また、内部牽制が有効に働くよう組織も整備されている。さらに、職員の知的レベルも高い。 にもかかわらず、先に挙げたような不正が発生するのは、職員のコンプライアンス意識や倫理観が欠如しているからに他ならない。 公務員倫理研修の充実強化が最大の防止策である。   同様の不正が起こりうる業種業態は? 大学法人において、教授等が公的研究費、民間との共同研究費、寄付金などを財源として同様の不正が起こりうる。 (連載了)

#No. 207(掲載号)
#中谷 敏久
2017/02/23

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第7回】「よくある質問・留意点②」-家族信託を設定した場合の相続財産への影響-

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第7回】 「よくある質問・留意点②」 -家族信託を設定した場合の相続財産への影響-   弁護士 荒木 俊和   - 質 問 - 保有する財産に家族信託を設定した場合、その財産は相続財産から外れるのか。 家族信託を設定した後、委託者兼受益者が死亡した場合には、どのような取扱いがなされるのか。   1 問題の所在 ある財産に対して家族信託を設定した場合、その所有権は委託者から受託者に移転することとなる。このため、委託者の相続財産からその財産が単純に外れるように見えるが、そのような考え方が正しいのか。 以下では、信託契約上の定め方で場合分けして解説する。   2 家族信託設定時の財産の転換 家族信託を設定する場合、委託者と当初受益者を同一の者とし、委託者の財産管理の困難を回避することが多く行われているため、以下はそのケースを前提とする。 この場合、信託契約の締結により委託者から受託者に信託財産の所有権が移転し、それと同時に委託者が受託者に対する受益権を保有することとなり、受益者としての地位を兼ねることとなる。 このとき、委託者が所有していた財産が受託者に対する債権である受益権に転換することとなり、これ以降、委託者兼受益者が保有する財産権は受益権となる。 このため、委託者が所有していた財産そのものは相続財産から外れ、代わって受益権が相続財産となることが原則である。 受益権が相続財産となることから、遺言の定めがない限り、受益権は委託者兼受益者の相続人による遺産分割協議によって分割されることとなる。   3 委託者兼受益者の死亡時に関する信託契約上の場合分け (1) 信託契約上の定め方 2に対し、信託契約上で委託者兼受益者の死亡時に、原則と異なる定めを置くことも可能である。 例としては、 が考えられる。 (2) 委託者兼受益者の死亡時に信託を終了させる定め 信託の終了原因は信託法第163条各号に列挙されているものの他、信託契約において定めることができる。 このため信託契約において「委託者兼受益者の死亡」を「信託の終了原因」とすることができる。 これは、家族信託が「委託者の資産管理」のみを目的として定められたものであるなどの事由から、委託者が死亡した場合には家族信託の必要性が消滅するといったケースにおいて用いられる。 この場合、帰属権利者として誰かに信託財産を取得させる旨を信託契約において指定しておくこともできるし、信託財産を委託者兼受益者の相続財産として持ち戻し、遺産分割協議の対象とすることも可能であると解される。 このため委託者兼受益者が死亡した場合に、信託契約において一旦は相続財産から外れた財産を戻すこともできるし、逆に遺贈と同様に、第三者に財産を取得させることも可能である。 なお、帰属権利者の定めを置く場合、帰属権利者が適正な対価を負担しないときには、税務上も遺贈の場合と同じく相続税の課税対象となる。 (3) 委託者兼受益者の死亡時に新受益者に対して受益権を取得させる定め また、信託契約において、委託者兼受益者の死亡時に、別の者が受益権を取得する定めを置く場合もある。 いわゆる「受益者連続型信託」と呼ばれる方式である。 このような新受益者の定めを置くことによって、遺言による遺贈と類似する効果を生じさせることができる。 また、遺言の機能に加え、新受益者の次以降も受益者を定めておくことができるため、遺言ではできるか明確ではない、いわゆる「後継ぎ遺贈」に代わるものとして、二代先以降の相続対策においても有効であるとされる(詳細は【第3回】参照)。 この場合、委託者兼受益者の死亡によっても受益権自体はなくならないが(ただし厳密に言うと、当初受益者から新受益者に対して受益権が移る場合、当初受益者のもとでの受益権が消滅し、同時に新受益者のもとに受益権が発生すると考えられている)、委託者兼受益者の相続財産から信託財産が外れているのはもとより、受益権も死亡によって相続財産から外れることになる。 なお、この場合にも新受益者は委託者兼受益者から遺贈によって受益権を取得したものとみなされるため、新受益者が適正な対価を負担するものでない限り相続税の課税対象となる。   4 付随する問題点 このように家族信託を設定することにより、相続財産の性質が変わるということ、信託が遺言代用機能を持つことにより信託財産も受益権自体も相続財産から除くことができるといえる。 一方で、委託者兼受益者の死亡によって受益権又は信託財産が第三者に移るということになると、委託者兼受益者の相続人の相続に対する期待を裏切ることになる場合がある。 法律的には、相続人に保障されている遺留分を侵害するという立論が可能か問題となる。 この問題自体が大きい論点であることから、詳細については別稿に譲るが、少なくとも相続人間の公平を害する恐れがあるということについてはご留意いただきたい。 (了)

#No. 207(掲載号)
#荒木 俊和
2017/02/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例12】株式会社デジタルデザイン「臨時株主総会の開催日並びに基準日の変更に関するお知らせ」(2017.1.6)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例12】 株式会社デジタルデザイン 「臨時株主総会の開催日並びに基準日の変更に関するお知らせ」 (2017.1.6)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社デジタルデザイン(以下「デジタルデザイン」という)が平成29年1月6日に開示した「臨時株主総会の開催日並びに基準日の変更に関するお知らせ」である。平成28年12月21日に開示した「臨時株主総会招集のための基準日設定に関するお知らせ」において示された臨時株主総会の開催日と基準日を変更するという内容なのだが、次のような記載が含まれている。 平成28年12月29日開催の取締役会で決議しているため、本来は同日に開示すべきであったが、平成29年1月6日に開示しており、遅延開示である。しかも、1日や2日ではなく、年をまたいで1週間以上の遅延である。おそらく12月30日から1月3日までお正月休みだったのだろう。「明日から休みだし、正月が終わってから考えようか」と思ったのだろうか。   2 混乱のなか デジタルデザインはずっと業績が低迷し、不安定な状態にあったのだが、平成28年7月26日に、同社の代表取締役社長の経費利用に不適切な処理があったとする「当社代表取締役社長の経費利用に関する不適切処理について」を開示した後、目まぐるしい混乱が続いている。 数が多いので、全てに触れることはできないが、経費利用の不適切な処理の責任をとって代表取締役社長を辞任した者から、取締役の解任などを目的とする臨時株主総会の招集を請求されたり(平成28年11月14日に「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」を開示。これも遅延開示)、第三者割当増資を行おうとしたのに(平成28年12月21日に「資本業務提携並びに第三者割当により発行される新株式及び新株予約権の募集及び主要株主の異動に関するお知らせ」を開示)、それを中止せざるを得なくなったり(平成29年1月6日に「第三者割当による新株式及び新株予約権発行(平成29年1月6日払込期日分)中止等に関するお知らせ」を開示。これも遅延開示)、といった具合である。 そうした混乱のなか、「明日から休みだし、正月が終わってから考えようか」と本当に思っていたのだとしたら、いささか呑気過ぎるといえるだろう。   3 上場会社なのか? デジタルデザインは、この遅延開示などを理由として、東京証券取引所から公表措置及び改善報告書の徴求がなされている。東京証券取引所による通知には、次のように記載されている。 上場会社であるにもかかわらず、適時開示を行える体制が整備されていなかったのである。率直に言って、上場会社としての体をなしていない。当然、財務報告に係る内部統制も有効であるはずがなく、財務報告に係る内部統制を有効と評価した過年度の内部統制報告書を訂正している(平成28年10月14日に「内部統制報告書の訂正報告書の提出に関するお知らせ」を開示)。   4 会計基準に対しては 【事例5】で取り上げた株式会社小僧寿しも公益財団法人財務会計基準機構(FASF)に加入していなかったが、デジタルデザインも加入していない。平成28年5月9日に「公益財団法人財務会計基準機構への加入状況および加入に関する考え方等に関するお知らせ」を開示しているのだが、その「2.会計基準等の内容の適切な把握、会計基準等の変更等への的確な対応体制の整備状況」には、次のように記載されている。 「知識の習得に努めており、会計基準等の変更等につき適切に対応できている」状態にあるとは、とても思えないのだが。   【追 記】   本稿執筆後、デジタルデザインは、平成29年2月8日、東京証券取引所に対して改善報告書を提出した。その中で、今回の遅延開示の理由として次のように記載している。 お正月休みは、12月30日から1月3日までではなく、12月26日から1月5日までだったようだが、やはり上場会社としての体は全くなしていなかったようである。そもそも経営陣に適時開示の重要性に関する認識が全くない。 同社は、今回の遅延開示を含めた過去の不適正開示の原因として、①社内開示体制の不備、②適時開示業務フローの不明確、③経営陣および開示担当者の適時開示等に関する理解の欠如、④内部監査の未設置および開示業務に対する監査の未実施、をあげて、それらを改善するとしているが、最も重大なのは「経営陣および開示担当者の適時開示等に関する理解の欠如」である。いくら体制を整備し、業務フローを明確にしても、適時開示に関する理解が伴わなければ、それらは絵に描いた餅になるだけである。 「経営陣および開示担当者の適時開示等に関する理解の欠如」を改善する措置として、外部講師を招聘した研修の実施や、外部セミナーへの参加などを計画しているとのことだが、それらが形だけで終わることがないようにして頂きたい。 (了)

#No. 207(掲載号)
#鈴木 広樹
2017/02/23
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