2014年12月25日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.100 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第6回】 「寄附金課税を考える」 税理士 山本 守之 1 寄附金はなぜ損金不算入か 寄附金の損金不算入規定が創設されたのは昭和17年2月(太平洋戦争〈昭和16年12月8日〉勃発の直後)でしたから、この規定の趣旨は、寄附金を損金の額に算入すると、企業が負担する税の減少を生じ、寄附金の一部を国が負担したと同じような結果になって課税の公平上好ましくないというものでした。 ただ、現行の法人税法においても損金不算入の規制を行っているのは、財政収入の確保や課税の公平の見地からだけでなく、費用収益対応の所得計算原理が大きく影響していると考えるべきでしょう。 すなわち、寄附金は反対給付がなく、個々の寄附金支出について、これが法人の事業に直接関連があるものであるか否か明確ではなく、かつ、直接関連のあるものとないものを区別することは実務上極めて困難ですから、一種の形式基準によって事業に関連あるものを擬制的に定め(損金算入限度額)、これを超える金額を損金不算入としているのです。 この点について、昭和38年12月6日の大阪地裁では、 としています。 2 税制調査会委員の誤り 税制調査会の討議のなかで、次のように誤った指摘があります。 ①は税制調査会が個人と法人との間の所得計算における「必要経費」と「損金」の違いを理解していないために生じたものでしょう。 個人の「必要経費」は、収入を得るために直接要した費用としているため、それが収入を得るために必要な費用か否かで必要経費性を判断すればよいので、事業関連のない寄附金は必要経費ではないのです。そこで、損金算入限度額のような特別の規定を税法に置く必要はないのですが、法人の場合は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準からみて費用であれば原則として損金ですから、一般寄附金のように損金算入について規制を設ける必要があるものについては別段の定めを置いているのです。 ②については、例えば、アメリカの内国歳入法典162条(a)項では、 としています。 したがって、会計とセパレートとなっているアメリカの課税所得計算では、費用が「通常かつ必要でない」と認められれば、もともと損金の額に算入されないので、一般寄附金もその内容に応じて「通常かつ必要なものか否か」で振り分けられるため、一般寄附金の損金算入限度額を設ける必要がないのです。 このような意味からすれば、税調委員の指摘は的はずれといえます。 もともと、寄附金損金不算入という規定では海外にはないものです。例えば、日本では、親会社が子会社を援助すると直ちに寄附金の支出があったものとする税務執行が行われていますが、アメリカでは、親会社が子会社を援助するのは当然と考えており、強いて言えば一種の投資を行ったと考えるのです。 この点については、かつて筆者がアメリカの財務省(Department of Treasury)を訪問した際に財務副長官代理(制度問題担当)=〈当時〉のEric SOLOMON氏に「日本の税務では、親会社が子会社を援助すると寄附金として損金の額に算入されません。」と説明したところ、「それはおかしい。親会社が子会社を援助するのは当然だ。アメリカでは特別の場合は出資となるが、寄附金として損金不算入とすることはしない。」と抗議されました。日本の規定は戦費調達のために設けられたものですから、不合理なのは仕方ありません。 3 寄附金の課税 法人税法第37条第8項では、法人が資産の譲渡又は経済的利益の供与をした場合に、その譲渡又は供与の対価の額がその資産の譲渡時の時価又はその経済的利益の供与時の時価の額に比べて低いときは、その対価の額と時価との差額のうち実質的に贈与又は無償の給与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含めることを明らかにしています。 これは、有償契約であっても、売買価額等を低くすることによって実質的に贈与する場合は、売買と贈与の混合した取引ですから、寄附金に含めようとするのです。 ところで、子会社(A社)が他に販売した鋼材を親会社(X社)が時価によって買戻しを行い、これを転売したところ鋼材の相場が下落したため損失が生じたという取引について争われた事件があります。 この事件で原処分庁(国税局)は、 として更正したのです。 これに対して、裁判所では、 として課税処分を取り消しました。 上記の判決文のうち、「自己の損失において専ら他の者に利益を供するという行為だけが寄附金になる」としたのは、寄附金の課税要件を示したものとして評価されます。 寄附金に該当すべき要件(課税要件)を整理してみると、次のようになります。 4 寄附金とならない場合の事例 自動車メーカーでは部品供給について「カンバン方式」(ジャスト・イン・タイム生産)を採用しているところが多いようです。これは後工程から前工程に部品運搬を指示するカンバンを回し、前工程はカンバンをみながら引き取られた分だけ部品を補充するというもので、過大な部品在庫は不要になります。 自動車メーカーが部品在庫を持たないとなると、部品メーカー等が災害で被害を受け、生産を停止すると、その納入を受けている自動車メーカーの生産がストップします。 自動車を構成する部品は3万点になりますが、部品在庫を減らすための「カンバン方式」は日本の自動車メーカーのコスト競争力の原点ともなっているのです。 このため、災害時には「如何に止めないか」より、「如何に再開するか」に力点が置かれるのです。 自動車メーカーと部品メーカーが一種の運命共同体となっているとき、自動車メーカーの部品メーカーに対する支援を単に贈与とみて寄附金課税をしてよいか否かが問題となります。 事例のように部品会社1社(A社)の災害による操業停止が次々と自動車メーカーに連鎖するのは、既に述べたカンバン方式(在庫を極力持たない)とともに、集中購買戦略によるコストの引下げという背景があるのです。 いずれにしても、部品在庫を持たない自動車メーカーは、部品メーカーの災害による生産の停止により部品の供給がストップし、自らの自動車生産の停止に追い込まれたのです。 このため、A社に災害復旧のために応援人員を配置したのです。 これは、部品メーカーの救済を通して、自動車メーカーが自ら被るであろう損失を回避するための費用支出です。寄附金になるはずはありません。 寄附金について、訴訟の場において判決文から捉えると次のようになります。 寄附金は、単に贈与又は経済的利益の供与という現象面からだけ捉えるのではなく、行為の背景を有機的に捉えて判断すべきです。 (了)
5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第3回】 「全額控除方式による具体例」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 今回は全額控除方式を採用している事業者の確定申告書及び付表の記載方法を具体例に従って解説する。 設 例 A株式会社の当課税期間(平成26年1月1日~平成26年12月31日)の課税売上高等の状況は以下のとおりである。 【付表2-(2)の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【付表1の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 《確定申告書の記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 * * * 次回は、個別対応方式の場合の確定申告書及びその付表の作成方法を確認する。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例21(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成X4年9月期の消費税につき、分譲住宅に係る非課税売上げがあり、これに対応する仕入はすべて非課税仕入との思い込みから、個別対応方式を選択して申告を行ったが、土地の仕入以外の建物の建設費用や土地の造成費用などは非課税売上対応課税仕入であったため、一括比例配分方式の方が有利であった。このため、不利な個別対応方式と有利な一括比例配分方式との差額200万円につき損害が発生し賠償請求を受けたものである。 なお、一括比例配分方式には2年間の継続適用要件があるため、平成X4年9月期に一括比例配分方式を選択した場合には、平成X5年9月期も一括比例配分方式となるが、平成X5年9月期は一括比例配分方式が有利であり、税理士も一括比例配分方式を選択して申告していることから、2年間の継続適用要件による回復額はない。 《賠償請求の経緯》 平成X2年5月10日 関与開始。 平成X4年5月31日 分譲住宅が完成し分譲開始。 平成X4年11月30日 分譲住宅に係る仕入はすべて非課税仕入との思い込みから、平成X4年9月期の消費税を個別対応方式で申告。 平成X5年11月2日 分譲住宅に係る仕入のうち土地以外は非課税売上対応課税仕入であったことから一括比例配分方式が有利であったことに気づく。 平成X5年12月5日 関与先に報告し、賠償請求を受ける。 《基礎知識》 ◆非課税仕入れ 非課税仕入れとは、土地や株券の購入費、支払利息などで、いかなる場合でも仕入税額控除はできない。 ◆非課税売上対応課税仕入 個別対応方式による仕入税額控除に規定する「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」であり、非課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいう。販売用の土地の造成に係る課税仕入れ、賃貸用住宅の建築に係る課税仕入れ等がこれに該当する。 この非課税売上対応課税仕入は個別対応方式を選択した場合には一切控除できないが、一括比例配分方式を選択した場合には課税売上割合分だけは控除することができる。 【個別対応方式】 【一括比例配分方式】 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は不動産業を営んでおり、損害期である平成X4年9月期に、自ら土地を購入してその上に住宅を建設して販売する分譲住宅の完成引渡しを受け、販売を開始していた。税理士は、この分譲住宅の仕入はすべて非課税仕入と思い込み、課税売上割合が30%であったことから、個別対応方式で消費税を計算して申告した。 しかし、実際には、非課税仕入は土地だけであり、建物の建設費用や土地の造成費用などは非課税売上対応課税仕入であったため、一括比例配分方式を選択すれば、これら非課税売上対応課税仕入は課税売上割合の30%部分の控除は可能であり有利であった。税理士は申告後にこの事実に自ら気づいている。 分譲住宅の仕入れのうち、建物の建設費用や土地の造成費用などは非課税売上対応課税仕入であることを正しく認識していれば、一括比例配分方式は採れたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 非課税売上げが発生する業種には注意する 不動産業や不動産賃貸業、医療法人などの非課税売上げがあり、課税売上割合が恒常的に低い業種については、非課税売上対応課税仕入が多額に発生する事業年度には、一括比例配分方式が有利になる可能性があることを念頭に、事前にシミュレーションを行い、有利判定を行うように心がけたい。 [ポイント②] 意思決定の証拠を書面に残す 上記検討の結果、最終的にどちらを選択するかの意思決定は依頼者に求め、その判断を「意思決定通知書」などを作成して依頼者に提出してもらう等、証拠として書面に残すことが重要である。 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第4回】 「改正の内容③」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-1-5-4 PE帰属資本に対応する負債利子の損金不算入 (1) 概要 AOAでは機能リスク分析の結果、PEが分離独立した企業であるとした場合に負担すべきリスクに見合う資本がPEに帰せられるべきとの考え方をとる。PEの有利子負債の額とPE帰属資本相当額(=自己資本+資本配賦額)を比較し、前者が後者を超える部分に相当する支払利子は損金不算入とされる(法法142の4①)。 (※) 上記及び下記①~⑨の算式・図表については「平成26年度税制改正の解説」(財務省)699~711頁より引用。 (2) PE帰属資本相当額 PE帰属資本相当額とは、外国法人の資本に相当する額のうちPEに帰せられるべき金額をいい、独立企業原則との整合性及び執行可能性といった観点から、「資本配賦法」と「同業法人比準法」のいずれかにより計算する(法令188②~⑥)。 イ 資本配賦法 外国法人の資本の額に、PE帰属資産の額の外国法人の総資産の額の割合を乗じて計算した金額による方法であり、外国法人の区分に応じて算定方法が選択できる。 ロ 同業法人比準法 外国法人のPE帰属資産の額に国内で同種の事業を行う法人(比較対象法人)の自己資本比率を乗じてPE帰属所得を計算する方法であり、外国法人の区分に応じて算定方法が選択できる。 (表) 外国法人のPE帰属資本配賦方法 【イ 資本配賦法】 【ロ 同業法人比準法】 (3) 危険勘案資産額の計算日の特例 各事業年度の確定申告書の提出期限までに危険勘案資産額を計算することが困難な常況にあると認められる場合には、上記の9つの算定方法のうち、簡易な方法を用いることが認められている方法以外の方法については、事業年度終了日前6月以内の一定の日における発生し得る危険を勘案して計算した金額を用いることができる(法令188⑦)。 (4) PE帰属資本相当額の計算方法の選定・変更 資本配賦法か同業法人比準法の選択は任意であるが、いったん選択した方法は特段の事情がない限り、継続適用する必要がある(法令188⑨)。簡便法から原則法への変更は自由にできる。 (5) 受取配当等の益金不算入制度に係る負債利子控除との調整 本制度により損金不算入とされる負債利子は、受取配当益金不算入制度における負債の利子からは控除される(法令188⑭)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第33回】 「法人税基本通達改正の歴史②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回、解説したように、昭和25年度にシャウプ勧告に基づいて貸倒準備金制度が導入されるとともに、法人税基本通達において、貸倒損失の明確化が図られた。 しかし、それだけで問題は解決されたわけではなく、「売掛債権の償却の特例等について(昭和29年7月24日直法1-140)」と題する通達が公表され、現在の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の原型ともいえる「債権償却引当金」が導入されるに至った。 以下では、本通達の具体的な内容と、昭和25年度税制改正から昭和29年度の上記通達導入までにおける貸倒損失の考え方について解説を行うこととする。 2 昭和29年個別通達の導入 まず、昭和29年3月6日に「会社更生法の適用を受けた会社に対して債権を有する者の課税上の特例について(昭和29年3月6日直法1-33、直所1-10)」が公表された。 その後、同年7月24日に「売掛債権の償却の特例等について(昭和29年7月24日直法1-140、直所1-77)」が公表された。なお、同年3月6日に公表された「会社更生法の適用を受けた会社に対して債権を有する者の課税上の特例について」は本通達の公表により廃止されることになった。このうち、「売掛債権の償却の特例等について」については、後述する昭和30年改正通達とともに、本稿の末尾に記載しているため、興味のある読者は一読されたい。 このような通達が公表された経緯については、 とのことである。 「売掛債権の償却の特例等について」は、1年を超える期末売掛債権の取扱いと、債権の貸倒れの特例の2つに大きく分かれている。 前者については1年以上こげつきとなっている売掛債権のうち利益部分について未収差益勘定として損金の額に算入することを認めるものであり、現在の法令通達には見られない規定である。当該未収差益勘定の取扱いについては、昭和39年度に本通達の内容が法人税基本通達に繰り入れられる際に廃止されることになる。 これに対し、後者については、同通達第1の二の2において、債権償却引当金勘定として処理することが明らかにされているが、その後、昭和39年度の法人税基本通達の改正により債権償却特別勘定に衣替えされた後に、平成10年度の税制改正により個別評価金銭債権に対する貸倒引当金として取り扱われることになる。 本通達の趣旨について、昭和35年当時、国税庁調査査察部調査課長であった松井静郎氏は ことから、一定の事由が生じた場合には、「直ちにその者に対する債権の2分の1を貸倒として損金に算入する特例」を認めることとしたためであると説明されている(『法人税の実務』600頁)。 なお、実際の通達を見てみると、貸倒れとなる金額が明らかに2分の1を超えることと認められるときは、所轄国税局長の承認を得て、当該超える金額についても、損金の額に算入することが認められており、その手続きについては、昭和29年12月7日付で「売掛債権の償却の特例等に関する通達の実施に伴う承認事務の取扱について」と題する通達が公表されている。 また、同通達第1の二の1において2分の1を計上することができる一定の事由が定められているが、その内容として、会社更生法、和議法(現在の民事再生法)、会社整理、特別清算、破産等が掲げられており、現在の個別評価金銭債権に対する貸倒引当金のうち、2分の1について貸倒引当金を計上することを認める規定(法令96①三)の原型ともいえるものが掲げられている。 さらに、同通達第1の二の4においては、弁済までの据置期間が5年を超えるものについて、損金の額に算入することを認めており、現在の個別評価金銭債権に対する貸倒引当金のうち、弁済までの据置期間が5年を超えるものについて貸倒引当金を計上することを認める規定(法令96①一)の原型ともいえるものが掲げられている。 しかしながら、現在の法人税法施行令96条1項2号に掲げる「債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由により、当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められること」に相当するものは見当たらず、この点については本連載において解説する予定であるが、昭和42年度の法人税基本通達の改正により導入されることとなる。 このように、現在の個別評価金銭債権に対する貸倒引当金の原型ともいえる通達が公表されたが、昭和30年度に改正がなされた。債権償却引当金勘定についてのみ解説を行うと、昭和30年度の主な改正内容としては、以下のものが挙げられる。 債権償却引当金は未収差益勘定と異なり、利益部分についてのみ損金処理を行うものでないことから、売掛債権に限られるものではないが、その債権の種類の明確化を図り、「債権(売掛金、貸付金、前貸金等貸倒準備金勘定の設定の対象となる債権をいい、債権及び抵当権によつて担当されている部分を除く。)」が債権償却引当金勘定の対象となることが明らかにされた。 債権から担保物の価額を控除した金額が債権償却引当金勘定の対象となるが、担保物の価額は債権償却引当金を設定しようとするときの価額であることが明らかにされるとともに、当該担保が2番抵当であるときは、貸倒れの処理をしようとするときにおける当該担保物の価額から1番抵当によって担保されている債権の価額を控除した金額を当該担保物の価額とすることが明らかにされた。 債権金額について債権償却引当金勘定に繰り入れた金額があるときは、当該弁済は、まず債権償却引当金勘定に繰り入れた部分の債権金額以外の部分の債権金額から受けたものとみなして取り扱うことが明らかにされた。 このように導入された債権償却引当金勘定については、昭和39年度において、法人税基本通達に繰り入れられ、債権償却特別勘定と名前を変えることになる。 債権償却引当金勘定の特徴としては、法令の根拠なく導入されたものであり、通達により緩和措置を図ったということにある。当然のことながら、租税法律主義の観点からは問題となるため、平成10年度税制改正により個別評価金銭債権に対する貸倒引当金として法令に取り込まることになるが、当時の文献においても、「部分貸倒れを実質的に認めた」ように書かれているものもあり、平成10年度税制改正後においても、金子宏教授他多くの学者によって、現行法上の解釈としても、部分貸倒れが認められるべきであるとする主張がなされるに至っている。 次回においては昭和39年度の法人税基本通達による債権償却特別勘定の導入について解説を行う予定である。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第22回】 「雇用関連税制と税額控除」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 制度の概要 新たに従業員を雇用したり、従業員への給与を増額した場合には、経済産業省が所管する所得拡大促進税制や厚生労働省が所管する雇用促進税制が適用となり、税額控除を受けることができます。こられの制度の概要は、次に掲げる表に示すとおりであり、適用要件にいくつかの相違点があります。 (※1) 基準雇用者割合:当期の雇用者増加数÷前期末の雇用者総数をいいます。 (※2) 給与等支給額:当期の所得の計算上、損金の額に算入される給与等で、雇用者に対して支給するものをいいます。 (※3) 基準事業年度:平成25年4月1日以後に開始する事業年のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度をいいます。 (※4) 給与等支給額の増加割合:適用1~2年目は2%以上、3年目は3%以上、4~5年目は5%以上となります。 (※5) 比較給与等支給額:前期の給与等支給額+(前期の給与等支給額×基準雇用者割合×30%) (※6) 平均給与等支給額:年間の給与等支給額÷(月別給与等支給対象者数×月数) (※7) 平成23年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度は20万円となります。 所得拡大促進税制は、給与等支給額が増加していることが要件となりますが、新規雇用は必要ありません。また、事前の届出や事後の確認が不要なため、事業年度末に適用の可否を検討することができ、使い勝手が良い制度といえます。 一方、雇用促進税制は、給与等支給額が増加していることは要件となっていませんが、新規雇用が必要です。従業員を新たに採用する可能性がある場合には、適用年度開始後2ヶ月以内にハローワークに雇用促進計画書を提出しておくことをお勧めします。 なお、これらの制度は、どちらか一方との選択適用となります。雇用促進税制について事前の届出を行った場合でも所得拡大促進税制を選択することはできますので、事業年度の終了時に、どちらの税制を適用した方が有利かを比較検討することができるように準備しておきましょう。 2 所得拡大促進税制の適用に際しての留意点 (1) 給与等支給額の増加割合 平成26年度税制改正により、当初の基準事業年度と比較した給与等支給額の増加割合5%以上の要件が緩和され、給与等支給額の増加割合は、適用1~2年目は2%以上、適用3年目は3%以上、適用4~5年目は5%以上となりました。 3月末決算法人の場合、次に掲げる表に示すとおりです。なお、3月末決算法人の適用1年目については、平成26年度税制改正に伴う経過措置の特例があります。 (※) 経過措置:平成26年3月期に平成26年度税制改正前の旧規定の適用を受けておらず、平成26年度税制改正後の新規定の要件をすべて満たすときは、平成26年3月期を新規定の適用年度とみなした場合の税額控除相当額については、平成27年3月期の税額控除限度額に上乗せされます。 (2) 継続雇用者 平均給与等支給額の計算については、前期より増加しているかどうかを比較する際に、当期及び前期の2年間にわたって在籍している継続雇用者に対する給与等支給額とその人数で計算するように緩和されています。したがって、前期に在籍していない新規採用者は、当期の平均給与等支給額の計算から除かれます。同様に、当期に在籍していない前期の退職者は、前期の平均給与等支給額の計算から除かれます。 なお、平均給与等支給額の計算に限っては、雇用保険の一般被保険者に該当する者に対して支給したものとなります。一方、当期の給与等支給額が、基準年度と比較して一定割合以上増加しているかどうか及び前期の給与等支給額以上であるかどうかの判定に際しては、雇用保険の一般保険者に該当しない者も含めますので、留意が必要です。 3 雇用促進税制の適用に際しての留意点 (1) 雇用促進計画 適用年度の開始後2ヶ月以内に、雇用促進計画を作成し、本社・本店を管轄するハローワークに提出します。その後、適用年度終了後2ヶ月以内に、本社・本店を管轄するハローワークで雇用促進計画の達成状況の確認を求めます。達成状況の確認を受けた雇用促進計画の写しを確定申告書等に添付して、税務署に申告します。 なお、ハローワークでは、提出された書類を預かり雇用促進計画の達成状況を確認しますが、4~5月は確認に1ヶ月程度要しますので、確定申告期限に間に合うように送付することが必要です。 (2) 会社都合による離職者 雇用促進税制の適用要件の一つに、当期と前期に、会社都合による離職者がいないことがあります。会社都合による離職者とは、人員整理、事業の休廃止等による解雇や会社の退職勧奨等による任意退職が含まれます。 4 まとめ 所得拡大促進税制は、労働分配率の増加を税制面で支援する制度であるのに対して、雇用促進税制は法人の雇用拡大を税制面で支援する制度です。したがって、新規事業の立ち上げや業容拡大等、雇用者の人数が増加する場合には、雇用促進税制の方が有利となる可能性が高まります。 いずれの税制が適用できるかどうか、法人の採用を含む人件費計画を検討の上、雇用促進税制を適用することができそうな場合には、適用年度開始後2ヶ月以内に本社・本店を管轄するハローワークへ雇用促進計画を提出することを忘れないようにすることが肝要です。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第12回】 「工事完成基準と工事進行基準」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、工事完成基準と工事進行基準の会計処理について解説する。 工事完成基準と工事進行基準の会計処理は以下の6つのSTEPで検討することになる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 工事契約の収益認識基準としては工事完成基準と工事進行基準がある(企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、「基準」という)6(3)(4))。 工事契約に関して、工事の進行途上において、工事の進捗部分の成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用する。成果の確実性が認められない場合には工事完成基準を適用する(基準9)。 そのため、工事完成基準と工事進行基準を選択するために成果の確実性が認められるかどうかを検討する必要がある。 具体的には、成果の確実性が認められるには① 工事収益総額、② 工事原価総額、③ 決算日における工事進捗度の3つについて信頼性をもって見積ることができなければならない(基準9)。したがって、この3つについて信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する必要がある。また、当初の成果の確実性と翌期以降の成果の確実性に分けて検討する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 当初の成果の確実性 ① 工事収益総額、② 工事原価総額、③ 決算日における工事進捗度について検討する。 ① 工事収益総額 工事収益総額について信頼性をもって見積るためには以下の2つの条件を満たす必要がある。 (ⅰ) 工事の完成見込みが確実であること 信頼性をもって工事収益総額を見積るための前提条件として、工事の完成見込みが確実であることが必要である。具体的には、施工者に当該工事を完成させるに足りる十分な能力があり、かつ、完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要である(基準10)。 工事の完成見込みが確実であれば、下記(ⅱ)を検討する。確実でなければ、工事完成基準を適用するため【STEP2】を検討する。 (ⅱ) 対価の定めがあること 工事収益総額について信頼性をもって見積るためには、工事契約において当該工事についての「対価の定め」があることが必要である。「対価の定め」とは、当事者間で実質的に合意された対価の額に関する定め、対価の決済条件、決済方法に関する定めをいう。 対価の額に関する定めには、対価の額が固定額で定められている場合のほか、その一部又は全部が将来の不確実な事象に関連付けて定められている場合がある(基準11)。 ② 工事原価総額 工事原価総額(材料費、外注費、労務費、経費)について信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する。工事原価総額について信頼性をもって見積るためには、工事契約に関する実行予算等や工事原価等に関する管理体制の整備が不可欠である(基準50)。 工事原価総額について信頼性をもって見積ることができれば、下記③を検討する。信頼性をもって見積ることができなければ、工事完成基準を適用するため【STEP2】を検討する。 ③ 決算日における工事進捗度 決算日における工事進捗度を見積る方法を決定し、信頼性をもって見積ることができるかどうか検討する。決算日における工事進捗度とは、工事契約に係る認識の単位に含まれている施工者の履行義務全体のうち、決算日までに遂行した部分の割合である(基準35)。また、決算日における工事進捗度は原価比例法等の、工事契約における施工者の履行義務全体との対比において、決算日における当該義務の遂行の割合を合理的に反映する方法を用いて見積る(基準15)。 決算日における工事進捗度としては、原価比例法(決算日における工事進捗度を見積る方法のうち、決算日までに実施した工事に関して発生した工事原価が工事原価総額に占める割合をもって決算日における工事進捗度とする方法)を採用することが多いが、原価比例法以外にも、より合理的に工事進捗度を把握することが可能な見積方法があり得る(基準6(7)、15)。 決算日における工事進捗度を見積る方法として原価比例法(【STEP3】参照)を採用している場合と原価比例法以外の方法を採用している場合で検討過程が異なる。 (ⅰ) 原価比例法を採用している場合 決算日における工事進捗度を見積る方法として原価比例法を採用する場合、上記②の要件が満たされていれば、通常、決算日における工事進捗度も信頼性をもって見積ることができる(基準13)。 成果の確実性が認められるため、工事進行基準を適用する。次は【STEP3】を検討する。 (ⅱ) 原価比例法以外の方法を採用している場合 原価比例法以外の方法を採用する場合は、決算日における工事進捗度が信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する必要がある。 例えば、工事の進捗が工事原価総額よりも直接作業時間とより関係が深い場合には、直接作業時間比率を採用することになる。そして、この場合、当期の直接作業時間の正確な集計及び総直接作業時間等について信頼性をもって見積ることができるかどうかを検討する必要がある。 決算日における工事進捗度について信頼性をもって見積ることができれば、成果の確実性が認められるため、工事進行基準を適用する。この場合、【STEP3】を検討する。 信頼性をもって見積ることができなければ、工事完成基準を適用するため【STEP2】を検討する。 (2) 翌期以降の成果の確実性 当初は成果の確実性が認められなかったが、翌期以降に成果の確実性が認められる場合がある。また、当初は成果の確実性が認められていたが、翌期以降に成果の確実性が認められなくなる場合がある。このような場合には、以下のような検討が必要となる。 ① 当初は成果の確実性が認められなかったが、翌期以降に成果の確実性が認められる場合 当初は成果の確実性が認められなかったため工事完成基準を適用している工事契約について、その後に工事が進捗し、工事の完成が近づいたことによって成果の確実性が増した場合でも、そのことのみを理由として、工事完成基準から工事進行基準に変更することはできない(企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、「適用指針」という)3前段)。 ただし、工事収益総額等、工事契約の基本的な内容が定まらないこと等の事象の存在により、成果の確実性が認められないと判断されていた場合で、その後に当該事象の変化により、成果の確実性が認められることとなったときには、その時点より工事進行基準を適用する(適用指針3後段)。 ② 当初は成果の確実性が認められていたが、翌期以降に成果の確実性が認められなくなった場合 事後的な事情の変化により成果の確実性が失われた場合には、その後の会計処理については工事完成基準を適用する。この場合、原則として過去に遡って修正する必要はない(適用指針4)。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 工事完成基準における工事収益と工事原価は以下のように会計処理を行う。 工事収益については、工事が完成し、目的物の引渡しが行われた時(2つの要件を満たした時)に損益計算書に計上する。 工事が完成するまでにかかった工事原価(材料費、外注費、労務費、経費)は「未成工事支出金」等の勘定科目で資産に計上し、工事が完成し、目的物の引渡しが行われた時(2つの要件を満たした時)に損益計算書に計上する(基準18)。 《設例1》 【前提条件】 【会計処理】 【X1期/期末】 【X2期/期首】 【X2期/期末】 工事収益及び工事原価の検討後は、【STEP5】を検討する。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 工事進行基準における工事収益と工事原価は以下のように会計処理を行う。 工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を損益計算書に計上する。 発生した工事原価のうち、未だ損益計算書に計上されていない部分は「未成工事支出金」等の勘定科目で資産に計上する(基準14)。 工事進行基準では工事収益総額、工事原価総額、工事進捗度を合理的に見積った上で、工事収益及び工事原価を計上することになる。ここでは原価比例法を採用している場合を前提に解説する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 工事収益総額の見積り 【STEP1】(1)で工事収益総額は把握しているため、ここでもその金額を用いる。 (2) 工事原価総額の見積り及び決算日までに発生した工事原価の集計 工事契約に関する実行予算等をもとに工事原価総額を見積る。また、決算日までに発生した工事原価を集計する。決算日までに発生した工事原価を集計する際には①間接費及び②請求書締日後から期末日までに発生した工事原価の2点に留意が必要である。 なお、発生した工事原価が工事原価総額との関係で、決算日における工事進捗度を合理的に反映しない場合には、これを合理的に反映するように調整が必要となる(基準56)。 ① 間接費 各工事に直接紐付けられる材料費、外注費、労務費、経費のみならず、各工事に直接紐付けられない労務費、経費の間接費についても配賦計算を行い各工事に集計する必要がある。 配賦計算は実際作業時間等を配賦基準として行うことが考えられる。ただし、月次で実際作業時間等をもとに配賦計算することは困難なため、月次では予定配賦単価に実際作業時間等を乗じた金額を配賦額(予定配賦額)とすることが考えられる。 そして、決算日に実際発生額と予定配賦額の差額を計算し、その差額を工事原価(損益計算書)に計上するか、又は、配賦計算を行い未成工事支出金と工事原価(損益計算書)に按分することが考えられる。 ② 請求書締日後から期末日までに発生した工事原価 月次では請求書をもとに工事原価(未成工事支出金)を計上する場合もあると考えられるが、決算日までに発生した工事原価の集計においては、請求書の締日後から期末日までに発生した工事原価も集計する必要がある。 また、期末日後に到着する請求書を待ってから決算作業を行うと、決算作業に遅れが生じる可能性がある。迅速な決算作業を進めるために請求書の到着を待たずに実行予算、工事の工程表、現場の作業日報等をもとに発生工事原価を集計することも考えられる。 (3) 決算日における工事進捗度の見積り 上記(2)で見積もった工事原価総額及び集計した決算日までに発生した工事原価をもとに工事進捗度を算定する。 (4) 工事収益及び工事原価の算定 当期に計上する工事収益と工事原価を算定し、損益計算書に計上する。 《設例2》 【前提条件】 【会計処理】 【X1期/期末】 (※1) 1,000×工事進捗度 500/800=625 【X2期/期首】 【X2期/期末】 (※2) 1,000×工事進捗度 (500+300)/800-前期までに計上した売上625=375 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 工事の追加や削減、工事内容の変更、対価の変更が行われた場合、工事収益総額、工事原価総額又は決算日における工事進捗度の見積りを変更する。見積りが変更されたときは、変更が行われた期にその影響額を損益として会計処理する(基準16)。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(以下「工事損失」という)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する(基準19)。 当初は、工事損失が見込まれなかったが、工事の途中段階で工事損失が見込まれることとなった場合には、その時点で工事損失引当金を計上する。 (次ページ【STEP6】へ進む) (前ページ【STEP5】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 工事契約においては以下の事項を注記する(基準22)。 なお、計算書類では上記(3)及び(4)の注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《賞与引当金》編 【第4回】 「役員賞与引当金」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 平成18年の会社法施行以前は、利益処分により役員賞与を支給するのが一般的で、このような役員賞与は未処分利益の減少として処理されていましたが、会社法施行以後は、費用として処理することに変わりました。 《賞与引当金》編の最後となる今回は、定時株主総会により承認される役員賞与の会計処理についてご紹介します。 1 当期末、定時株主総会決議時X2年5月29日及び支給時X2年6月10日の仕訳 〈当期末〉 〈定時株主総会決議時X2年5月29日〉 〈支給時X2年6月10日〉 役員報酬は、確定報酬として支給される場合と業績連動型報酬として支給される場合がありますが、職務執行の対価として支給されることには変わりがなく、会計上はいずれも費用として処理されます。役員賞与は、業績連動型報酬と同様の性格であると考えられるため、費用として処理することとされました(役員賞与に関する会計基準)。 役員賞与を費用処理する時期は、発生した会計期間です。当期の職務に係る役員賞与を期末後に開催される株主総会の決議事項とする場合には、当期末においては、その支給は株主総会の決議が前提となるので、その決議事項とする額又はその見込額を、役員賞与引当金に計上します(中小企業会計指針51、役員賞与に関する会計基準)。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上、役員給与は、所定の要件を満たす定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与(法法34、法令69)のいずれかに該当しなければ、損金に算入することができません。 この設例のケースでは、このいずれにも該当しないため、役員賞与引当金を計上した事業年度や役員賞与を支給した日の属する事業年度ともに、損金不算入とされます。 〈翌期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 (《賞与引当金》編 終了)
IFRSの適用と会計システムへの影響 【第4回】 「サブシステムへの影響(後編)」 公認会計士 小田 恭彦 (総勘定元帳システムへの影響) 【前編】 《財務諸表の表示》 《セグメント情報》 《過年度遡及修正》 「過年度遡及修正」とは、過去の決算書に誤りがあった場合に、過去に遡って財務諸表を修正することです。以前は、過去の財務諸表における誤りが発見された場合、今期の財務諸表で前期損益修正として当期損益の中で調整する方法が示されていました。 この過年度遡及修正もIFRSとのコンバージェンスのひとつとして、2011年4月から日本基準にも採用されるようになりました。なお、この基準は連結財務諸表だけでなく、個別財務諸表にも適用されます。 過年度遡及修正が生じた場合、単純に考えると、総勘定元帳システムに保存されている過年度分のデータに対し修正仕訳を入れる方法が思い浮かびます。この処理をすることにより、過年度修正がそれ以降の事業年度の総勘定元帳データに反映されます(図1)。 〈図1〉 過年度遡及修正はそれ以降の年度に反映 ちなみに、この処理を行うための前提として、各事業年度のデータが「繰越残高」を通じて連動している必要があります。最近のパッケージシステムのほとんどが、過去の事業年度に対して仕訳を計上した場合には、リアルタイムないしは手作業による繰越処理を実施することにより、次年度以降の残高に反映される仕組みになっています。 一方で、パッケージシステムではなく企業が独自に開発した会計システムの場合、年度確定処理をした時点で残高は確定され、確定後は修正できない構造になっているものが多いかと思います(そもそも過年度遡及修正は想定していないので)。その場合は、この方法は採用できません。また、大前提として、過年度遡及修正したい事業年度のデータが元帳システムに保存されていることが必要です。 実際には、一度確定して開示や税務申告を行った財務諸表の数値の元となる総勘定元帳は保存しておく必要があります。よって、総勘定元データの本番データを直接修正することは、実務的には行われません。ただし、システムによる集計機能を活用するために総勘定元帳データのコピーを作成し、そのコピー環境の中で数値の集計作業を行い開示情報の基礎としたうえで、対確定申告や確定決算のため、過年度修正の累積影響額は当期に調整されることになろうかと思います(図2)。 〈図2〉 オリジナルデータには手を加えずコピーデータを使って集計 その他の方法としては、総勘定元帳そのものをコピーするのではなく、対象事業年度以降の財務諸表のサマリー版を別の総勘定元帳システムに登録し、そこで数値を作成するという方法もあろうかと思います。もちろん過年度遡及修正の内容が簡単なものであれば、システム外で、表計算ソフトなどで数値を作成することもあろうかと思います。 債権債務管理システムへの影響 「債権債務管理システム」とは、売掛金、受取手形、前受金などの残高を得意先別、取引明細別に管理するサブシステムです。総勘定元帳システムへは仕訳連携が行われ、債権債務管理モジュールの残高と総勘定元帳の勘定残高の整合が担保されることになります。 いま、売掛金などの債権を例に説明しましたが、買掛金でも基本的には同じ考え方ですので、以降は債権をベースに説明します。 債権に関する計上、換算、決済及び評価が日本基準とIFRSで異なる場合、債権債務管理システムの中で両者を区別して管理する必要があります。また、それに対する仕訳についても、複数元のそれぞれ(日本基準元帳、IFRS元帳)に反映される必要があります(図3)。 〈図3〉 債権債務管理システムと総勘定元帳システムとの連携 ただ、債権債務管理に関しては日本基準とIFRSのギャップはさほど多くないこともあり、債権債務管理システムでここまでの機能を持ち合わせているものはさほど多くないと思います。 よって、このような機能がない場合には、債権債務管理システムは日本基準で運用しIFRSとの差分はシステム外で計算したうえで、総勘定元帳システムのIFRS元帳に対して直接仕訳を計上する対応になろうかと思います(図4)。 〈図4〉 債権債務管理システムで複数評価等が対応できない場合 固定資産管理システムへの影響 「固定資産管理システム」とは、有形無形固定資産やリース資産の減価償却、評価、ロケーションなどを管理するサブシステムです。総勘定元帳システムとの間では仕訳を通じ、固定資産管理システムの残高と総勘定元帳の勘定残高の整合が担保されることになります。 固定資産管理モジュールも債権債務管理システムと同様に、資産にかかるオンバランスの要否、減価償却計算、評価などが日本基準とIFRSで異なる場合、システムの中で両者を区別して管理することができる必要があります。また、それに対する仕訳についても複数元帳のそれぞれに反映される必要があります(図5)。 〈図5〉 固定資産管理システムと総勘定元帳システムとの連携 なお、固定資産やリース資産ついては、IFRSが議論になる以前から複数の減価償却計算が可能であったり(管理会計用、税法用、オンバランス用など)、会計処理上はオフバランス処理(資産計上せずに費用処理)だが現物管理の点から資産台帳には計上することが必要であったりと、1つの事実(資産)に対し複数の償却や評価ができる機能を従来から持っていました。 よって、IFRS対応に関してもこの機能をベースにした対応が行われており、いわゆる「IFRS対応固定資産管理システム」と呼ばれるシステムは、大小さまざまなものがすでに市販され利用されています。 * * * なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えます。 (了)