monthly TAX views -No.26- 「誤解されている消費税“インボイス”」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 与党の税制協議会が立ち上がり、軽減税率やインボイス(区分経理)の議論が再開される。昨年すでに軽減税率の対象範囲の8つの案が出されており、いまさら何を議論するのだろうか。 果てしない堂々巡りが年末まで続く、というのが正直な印象である。 筆者が注目するのは、軽減税率に加えて、インボイス(区分経理)の取扱いだ。これについても4つの案が出されている。 公明党案(A案)は、「売手が軽減品目に印をつけ、買い手がそれに基づき判断・経理区分する」というものである。この提案の背景にあるのは、「インボイスという話が前面に出ると、事業者の反対が強くなり、軽減税率そのものがとん挫するので、現行制度から最小限の変更にしたい」という意向である。 与党税制協議会の事業者ヒアリングでも、「インボイスの導入は多大の事務コストがかかる」と反対の意見が圧倒的に多かった。 しかし、仮に生鮮食料品に軽減税率が導入されるとなったらどうだろう。 おそらく事業者の意見は、「軽減税率が導入された場合には、インボイスがなければやってられない」というものに変わる可能性が高い。 このあたり、話がねじれているのである。 * * * そもそもインボイスは、納税者間で取引に伴う消費税をダブルチェックするためにある。売手と買手の間には、仕入税額控除という制度のもとで相互けん制効果が働き、それにより納税の正確性が担保される。 同時に、インボイスは、軽減税率に伴う煩雑な作業を軽減する効果も持つ。特定の品目が軽減税率の対象になるかどうか、売手と買手の認識をインボイスにより一致させることができるからである。 事業者は、消費税申告の計算に際して、インボイスに記された、売上と仕入れに関わる税額を足し上げていけば、納税額が算出できる。 つまりインボイスは、軽減税率に伴う複雑な事務の手間を省くためのツールでもある。 事務コストが大変なのは、軽減税率の導入であり、インボイスではない。 * * * もう一つ、インボイスには重要な機能がある。 それは、事業者間で価格を転嫁しやすくするという機能である。 買手は、売手がインボイスに記載した消費税額を売手に支払うが、買手が負担した消費税額は、自らの仕入税額控除額となるので、負担は生じない。消費税額は「通過するだけ」である。 事業者間の価格は税抜きで決まり、消費税額はインボイスにより相手事業者にきちんと転嫁できる、これが欧州における取引の姿である。 このように見ていくと、インボイスには、簡素で正確な納税計算、確実な転嫁というメリットがあるので、軽減税率導入の成否にかかわらず、導入すべきものとも考えられる。 もちろん導入に際しては、わが国に根付いた請求書などを活用して、「番号を付さない税額別記方式」C案(「日本型インボイス」)から始めていくことが実践的であろう。大半の領収書にはすでに消費税額が別記されているので、追加的な手間は大きくはないはずだ。 最後にひとこと。 巷ではこの問題が、集団的自衛権・安保法制への公明党の協力と関連している、と言われている。真偽のほどは筆者には不明であるが、人命に関わる安保の問題と、消費税軽減税率の問題が同じ天秤にかけられるとしたら、何とも割りきれない気持ちになる。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第2回】 「買換え特例の対象となる「一の家屋」の判断基準を示した事例」 税理士 佐藤 善恵 〔概要等〕 納税者(以下「甲」)は、居住の用に供していた土地建物を譲渡して、1棟のマンションの中に存する2つの区分建物(本件各居室)を取得し、当該2つの区分建物を一体として買換え特例制度(本件特例)の適用を受けるものとして確定申告をした。これに対して、課税庁は、本件特例の適用を受けるのは一方の区分建物だけであるとして更正処分等を行ったことから、甲がその取消しを求めた。 争点は、本件各居室が、本件特例の適用対象となる「買換資産」に該当するか否かである。 〔双方の主張の要旨〕 〔課税要件等〕 措置法施行令第24条の2第12項2号(※)は、2以上の家屋を買換資産として取得する場合の本件特例の対象となる範囲を規定している。 整理すると次のとおりである。 したがって、原処分が取り消されるためには、「本件各居室」が全体で「一の家屋」を構成した上で、居住の用に供されていることが必要である。 〔裁判所の述べる判断基準等〕 ▷解説 裁判所は、本件特例及びその適用対象を規定する措置法施行令が「建物の構造、機能、規模等の客観的状況」に着目して適用範囲を定めていることから、「一の家屋」かどうかは、まず、建物の客観的状況を考慮して判断すべきものと解している。そして、建物使用状況といった主観的事情は、「主としてその居住の用に供するとき」の判断で考慮されるものの、「一の家屋」該当性については副次的な判断要素にとどまると解している。 〔判断(要約)〕 ▷解説 裁判所は、(1)で客観的状況を評価し、(2)で主観的事情を評価している。その上で、(3)の〈1〉で、客観的事情により「一の家屋」に当たらないとの判断を示し、〈2〉で主観的事情によりその判断は左右されないとしている。 判断の結論は、乙号室のみが、本件特例の適用対象というものである。 〔判断の分水嶺〕 本件における判断の分水嶺は、本件特例の「一の家屋」要件が、「建物の客観的状況」により判断すると解された上で、2つの居室が客観的に独立性の高い2つの区分建物であったという事実にある。 この点、納税者は、使用状況等の主観的事情によって「一の家屋」に当たることを前提に主張しているようであり、「一の家屋」の判断基準が裁判所と異なるようである。 なお、裁判所は、「主としてその居住の用に供する」要件については、家屋の客観的状況及び使用状況を「総合考慮」して、甲号室はB夫妻の、乙号室は原告の各生活の本拠であると判断している。 〔本判決が示唆するもの〕 判断(要旨)の(1)の客観的状況を評価するにあたって裁判所が重視したことは、①本件各居室の機能的独立性、②譲渡資産と取得資産(1つの居室)の広さ、③両居室の距離等である。 そうすると、仮に、2つの居室を併せて初めて家屋としての機能を有し(①)、譲渡資産は2つの居室の合計面積に近く(②)、2つの居室が隣接(③)しているといった条件をすべてあるいは一部満たしている場合には、客観的状況からみて、2つの居室で「一の家屋」を構成すると認められる余地があるのかもしれない。 もっとも、「主観的事情」も、家屋の個数の判断において副次的に斟酌されると本件は解しているから、それを前提とすれば建物の実際の使用状況等も「一の家屋」該当性において考慮されるのであり、客観的状況からみて、「一の家屋」にあたる可能性があっても、建物の使用状況等によって、「一の家屋」該当性が排除される可能性があることにも留意したい。 (了)
贈与実務の頻出論点 【第1回】 「税務署に否認されない贈与の方法」 税理士法人チェスター 解 説 生前贈与は計画的にやれば相続税対策として有効ですが、誤った方法で贈与をした場合には、税務署から指摘をされ、名義預金として相続財産に含めなければならない場合もあるため、注意が必要です。名義預金と認定されるということは贈与が成立していないといわれることと同義です。 贈与の成立を適正に立証するために、下記に重要なポイントをまとめます。 [1] 贈与契約書の作成 民法上、贈与契約は口頭でも成立しますが、口頭の贈与契約は取消しができるため、贈与契約書を作成し、贈与契約の内容を明確に書面で記録しておくことがいいでしょう。 [2] 贈与契約の実行 贈与契約書を作成しただけで、贈与を実際に行わなければ、贈与が成立したとはいえません。よって、作成した贈与契約書に基づき必ず贈与を実行してください。また、贈与の実行は現金ではなく、できるだけ客観的な記録が残る預金を通して行うべきでしょう。 [3] 贈与後の管理支配 受贈者は、贈与を受けた預貯金等を実質的に管理支配する必要があります。すなわち、受贈者の意思で自由に使える状態になければ贈与が成立したとはいえません。たまに親が子どもに内緒で子ども名義の預金通帳を作成しているケースが見受けられますが、これでは贈与の成立を立証することは困難です。 よって、問題なく贈与を成立させる方法のひとつとして、受贈者の普段使っている預金口座に振り込むことが考えられます。 [4] 贈与税の申告 贈与税の基礎控除額である110万円を超える贈与をし、贈与税の確定申告をすることも贈与を立証するために有効です。 例えば、120万円の贈与であれば贈与税は1万円ですむため、比較的低コストで行うことが可能です。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第5回】 「市街地山林、2つの評価方法」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 [1] 参考資料 解説書においては、宅地造成が不可能と認められるような形状としては、急傾斜地(分譲残地等)が考えられている。 宅地造成が不可能な急傾斜地等に該当するか否かの判定にあたっては、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律が「急傾斜地」の定義を「傾斜度が30度以上である土地」としていることから、急傾斜地の目安として傾斜度30度以上とすることも一案であると考えられている(谷口裕之『財産評価基本通達逐条解説(平成25年版)』大蔵財務協会〔2013年〕289頁)。 [2] 重要裁決事例 (1) 宅地比準方式によることができないとされた事例 平成14年3月27日裁決〔裁決事例集第63集538頁〕においては、2つの山林の評価が争われている。 まず、傾斜が約30度を超える平坦な部分のないがけ状の岩山である山林(地積124㎡)においては、開発後に宅地として客観的な交換価値を見いだせない限り、通達を適用して評価することに不都合と認められる特段の事情が認められるとされている。 なぜなら、宅地として開発する場合には多額の造成費が見込まれ、仮に宅地に転用したとしても十分な地積を確保することはできないと認められ、開発後に宅地としての客観的な交換価値があると認めることはできず宅地比準方式を適用して評価することが不都合と認められるからである。 裁決では、本件土地と状況が類似する(固定資産税評価額が同額、譲渡日が評価時点が近い、譲渡価額が正常価格)近隣の土地の売買実例の単価(総額12万円)が採用されている。 (2) 宅地比準方式によることが相当とされた事例 一方、傾斜度が約20度の山林(地積4,660㎡)においては、宅地としての客観的な交換価値がない土地とは認められず、評価通達を適用し、宅地比準方式により評価することに、特に不都合と認められる特段の事情は認められないとされている。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第21回】 「復興特別所得税の確定申告」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、平成26年5月に飲食店を開業した個人事業主です。先日、税務署から「平成26年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書B」が送られてきましたが、復興特別所得税の記載箇所や計算方法などがよくわかりません。 復興特別所得税の確定申告についてご教示ください。 復興特別所得税は、所得税と併せて確定申告する。記載箇所や計算方法などは、以下の通りである。 1 復興特別所得税の記載箇所 申告書Aは第一表(35欄)、申告書Bは第一表(41欄)に記載する(下図参照)。 【復興特別所得税の記載箇所】(出典:国税庁ホームページ) 【申告書A】 【申告書B】 2 復興特別所得税の計算方法 3 復興特別所得税の納付 振替納税を利用していない場合、確定申告書の提出期限(平成27年3月16日)までに確定申告書に記載した所得税及び復興特別所得税の合計額(申告書Aは第一表(39欄)、申告書Bは第一表(47欄))を納付しなければならない。 振替納税を利用している場合、振替日(平成27年4月20日)に指定の預金口座から所得税及び復興特別所得税の合計額が引き落とされる。 4 復興特別所得税の還付 確定申告書に記載した所得税及び復興特別所得税の合計額から控除しきれなかった予定納税額や源泉徴収税額があるときは、その控除しきれなかった金額(申告書Aは第一表(40欄)、申告書Bは第一表(48欄))が還付される。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第21回】 「裁決例①」 公認会計士 佐藤 信祐 第21回から第29回までにおいては、重要な裁決例についていくつか取り上げることとする。 本号においては、M&Aの世界では一般的に想定される話であるが、条件不成就により、有価証券の譲渡代金の返還として受領した金員が、損害の補てん金なのか、売買代金の返還なのかが争われた事件について解説を行う。 6 平成18年9月8日裁決 (1) 事件の概要 本件は、リース業を営む審査請求人(以下、「請求人」という)が、譲渡人から対象会社の株式を購入するに当たり、本件株式の売買契約に基づき、請求人が譲渡人から受領した金員について、原処分庁が雑益であるとして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、本件金員は本件株式の購入の代価の返還に当たるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、本件金員が以下の性格に基づくものであることから、雑益として益金に算入すべきであると主張している。 一般に、株式の売買の当事者間で売買が成立したということは、その売買価額が確定したということであり、その後に企業価値が変動し、当該株式の価額が増減したとしても、当該確定した売買の価額は変更されるものではない。 本件契約書第5条の定めによる金員の返還は、契約時において不確実であった見込利益について現実に利益が確定した段階で精算することとしたものにすぎず、提示した予想利益に満たない利益しか上げられなかったことに対する一種の補てんであると認められる。 本件契約書第14条の定めによる金員の返還も、対象会社の予想利益の達成及び既存債権の回収という前提条件が満たされなかったことにより対象会社の資産が減少等し、請求人が損害を被ったときには、本件株式の売買代金を減額することが定められており、これも、契約時には不確実であった事象に対して事後的に一定の事実が生じた場合には、請求人が被る損失に対して補てんをすることを定めたものであり、本件金員は、取得した本件株式の価値の低下に対する損害を補てんするためのものと認められる。 したがって、本件金員は、本件契約書を締結した時点では、その発生が不確実であった事象に基因して本件株式の価値が減少したことにより生じる損失に対する一種の補てんであり、受領した事業年度の益金の額に算入されるべきものである。 (3) 請求人の主張 これに対し、請求人は、本件金員が以下の性格に基づくものであることから、有価証券の取得価額の減額として取り扱うべきであると主張している。 本件契約書第2条に定める〇〇〇〇円という金額は、①本件覚書第3条に定める予想利益が達成されること、②本件覚書第12条第3項に定める既存債権のすべてが約定どおり弁済されることという2つの条件が満たされた場合の本件株式の売買代金であり、本件株式の売買実行時に売買価額は確定していない。これら2つの条件の一方又は双方が満たされなかった場合には、本件覚書第4条又は同第12条の定めに基づき調整された後の金額が本件株式の売買代金となる。 したがって、調整後の本件株式の売買代金の額を法人税法施行令第119条第1項に規定する本件株式の購入の代価として取り扱うことが適当であり、本件株式の売買代金確定までのプロセスにおいて生じた返金額は、法人税法上本件株式の取得価額の減額として取り扱うことが相当である。 また、本件各事業年度における本件金員は、本件株式の売買価額を修正し確定させるためのプロセスにおいて生じたものであり、原処分庁が主張する「損失の補てん」又は「一種の補てん」とは全く性質の異なるものである。 (4) 国税不服審判所の判断 これらの主張に対し、国税不服審判所は、本件金員が以下の性格に基づくものであると認定し、納税者の主張を認め、売買代金の返還として、有価証券の取得価額を減算させるべきであり、益金の額に算入すべきではないとした。 株式の価額は、本件のように請求人と譲渡人の相対取引による売買の場合、当事者間で適正と考える価額で取引が成立するものである。また、株式の価額を将来発生するかもしれない不確定な事象により変更するという条件を付すことは、この条件が違法行為等に当たらない限り、当事者間で自由に決定されるものである。 予想利益の未達成による本件金員については、平成12年4月1日から平成15年3月31日までの計算期間における実際に算定された利益が予想利益に到達しなかったので、請求人と譲渡人の間で合意された本件株式の売買代金を減額する条件を満たし、譲渡人から請求人へ本件金員が支払われたものであるため、本件株式の売買代金の返還と認められる。 本件覚書第12条は、請求人と譲渡人との間で、本件株式の売買代金については、既存債権が約定どおりに弁済されることを前提として合意されたと定めている。よって、既存債権が約定どおり弁済されなかった場合の本件金員についても、本件株式の売買代金の返還と認められる。 (5) 評釈 M&Aにおける株式の売買契約書においては、本事件のような表明保証が付されていたり、具体的に損害が生じた場合の取扱いについて定めていたりするものは珍しくない。 本事件においては、予想利益が達成しなかった場合における売買代金の返還、既存債権が約定どおり弁済されなかった場合における売買代金の返還についても定められており、通常のM&Aに比べて詳細に売買代金の返還条項が定められていたというのが率直な感想である。 請求人は、本事件における売買代金の返還が企業結合会計における条件付取得対価に類似するものであると主張しているが、売買代金の返還であるということが明確であれば、その点については論じるまでもない。すなわち、売買代金を定める際に未確定事項や当事者間に争いがある内容については、とりあえずの売買代金を決めておいて、これらが確定した段階で売買代金を最終的に確定させるということは十分に考えられ、実態に応じた事実認定が必要であるということがいえる。 本事件は、租税回避に該当するものではなく、条文の解釈について争われた事件であるが、M&Aが行われたのが平成12年8月28日、更正処分が行われたのが平成17年6月29日、国税不服審判所の裁決が行われたのが平成18年9月8日であることを考えると、M&Aが日本に定着し始めた初期の事件であるということができる。筆者がM&Aの世界に入ったのが、平成13年のことであるが、当時も、このような金員をどのように取り扱うべきかという点は議論となっており、拙著『企業買収の税務-ストラクチャー選択の有利不利判定-(第3版)』135-140頁において解説させていただいた。 本事件は、結果的に納税者の主張が認められたが、納税者の主張を国税不服審判所が認めた理由を理解し、損害の補てん金として、益金に算入すべきであるという認定が行われないように配慮する必要があると考えられる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【55】 〔第7章〕判例の探し方 (その2) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 判例集の紹介と蔵書検索 次に裁判例が公開されている判例集やサイトについて紹介する(民間企業によるものは必要最小限に留める)。 なお前回、判例の検索項目について解説する関係上、最高裁判所判例集等について紹介したが、本来はここで紹介すべきであるため、改めて取り上げることとする。 ① 公的(準公的)な判例集、裁判集 (1) 『最高裁判所判例集』:『最高裁判所民事判例集』『最高裁判所刑事判例集』 最高裁判所判例委員会が重要な判例として選んだものが掲載されている。過去に同種の判断を下した判例であっても担当した法廷が異なる場合等は掲載される。また、新しく任命された裁判官が初めて少数意見を述べた判例は掲載されることになっている。 『最高裁判所判例集』自体は月刊の1つの冊子であるが、民事(行政事件を含む)と刑事の二部に分かれており、各々を『最高裁判所民事判例集』『最高裁判所刑事判例集』として、通常の図書館では分けて製本されている。通常、雑誌等で引用を示す場合には、『最高裁判所民事判例集』を「民集」、『最高裁判所刑事判例集』を「刑集」と略称を用いる。発行は昭和22年からである。 CiNii(サイニィ。国立情報学研究所が運営する学術論文、図書、雑誌などの術情報データベース)によれば、現在293大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「民集」 「刑集」 また当然ながら、最高裁判所図書館で閲覧可能である。最高裁判所図書館の蔵書検索は、最高裁判所図書館のページ内の「蔵書検索システム」(以下「裁判所図書館蔵書検索頁」)より可能である。 なおこの最高裁判所図書館の蔵書検索においては、上にあるように「資料区分」として「図書」「雑誌」「製本雑誌」「視聴覚資料」があり、判例集が「図書」「雑誌」「製本雑誌」のいずれになるかという点で注意が必要である。検索結果の例を以下に示したが、それを見ると分かるように、判例集の製本されたものの資料区分が「図書」、最近のもの(未製本のものと思われる)は「雑誌」となっている。 判例集の製本されたものは、「製本雑誌」や「雑誌」とは思っても、通常「図書」とは思わないであろうから、このように「図書」に分類されていることは注意しておく必要がある。 なお、この最高裁判所図書館の蔵書検索の検索結果ページは特定のURLで示すことができないため、裁判所図書館蔵書検索頁に筆者が入力した検索キーワードや各欄の選択について記載しておく。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「最高裁判所判例集」と入力して検索。 (2) 『最高裁判所裁判集』:『最高裁判所裁判集刑事』『最高裁判所裁判集民事』 最高裁判所判例集に掲載されなかった裁判でも、後日参考になると思われる判決・決定が裁判年月日順に掲載されている。通常、雑誌等で引用を示す場合には、『最高裁判所裁判集民事』を「裁判集民」または「集民」、『最高裁判所裁判集刑事』を「裁判集刑」または「集刑」と略称を用いる。 最高裁判所の部内資料として刊行されているため市販されていないが、裁判所資料室や一部の大学で所蔵されている。これも発行は昭和22年からであり、最高裁判所図書館で閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「最高裁判所裁判集」と入力して検索。 CiNiiによれば、民事・刑事とも現在20余りの大学の図書館に所蔵されているのみである(下記リンク参照)。 「集民」 「集刑」 (3) 『最高裁判所民事判例特報』 最高裁の裁判の中から裁判所の実務上参考となるものを、最高裁判所事務総局(昭和23年までは事務局)民事部が編集し収録したもので、上記同様、部内資料として刊行されているため市販されていないが、裁判所資料室や一部の大学で所蔵されている。発行は、昭和22年~25年の間の1~7号のみである。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「最高裁判所民事判例特報」と入力して検索。 CiNiiによれば現在20大学の図書館に所蔵されているが、1号~7号まで揃えて所蔵しているところは多くはない(下記リンク参照)。 「最高裁判所民事判例特報」 (4) 『最高裁判所刑事判決特報』 最高裁の裁判の中から裁判所の実務上参考となるものを、最高裁判所事務総局(昭和23年までは事務局)刑事局が編集し収録したもので、上記同様、部内資料として刊行されているため市販されていないが、裁判所資料室や一部の大学で所蔵されている。発行は昭和22年~25年の間の1~28号のみであるが、最高裁判所図書館においても17号以降しか所蔵していないようであり、16号までのものについては、確認が困難である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「最高裁判所刑事判決特報」と入力して検索。 なお国立国会図書館においてもこれは「未所蔵」となっている(ただしここには『最高裁判所刑事判例特報』と記載されている)。 CiNiiによれば、現在9大学の図書館に所蔵されているが、20号以前のものはない(下記リンク参照)。 「最高裁判所刑事判決特報」 (5) 『高等裁判所判例集』:『高等裁判所民事判例集』『高等裁判所刑事判例集』 各高等裁判所の判例委員会により選択された裁判例(判決と決定)が掲載されている『高等裁判所判例集』のことである(編集は最高裁判所判例調査会)。 これも『最高裁判所判例集』と同様、内容は民事判例集と刑事判例集に分かれているが、各々を『高等裁判所民事判例集』『高等裁判所刑事判例集』として、通常の図書館では分けて製本されている(ただし平成14年より部内資料とされている)。 通常、雑誌等で引用を示す場合には、『高等裁判所民事判例集』を「高民」、『高等裁判所刑事判例集』を「高刑」と略称を用いる。これも発行は昭和22年からである。 これはCiNiiによれば、民事・刑事とも現在200余りの大学の図書館に所蔵されている(ただし継続中のものは多くない)(下記リンク参照)。 「高民」 「高刑」 なおこれも当然、最高裁判所図書館で閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所判例集」と入力して検索。 (6) 『裁判所時報』 最高裁判所事務総局の編集になるもので、毎月2回、最高裁判所の重要判例全文(事件名・当事者名・主文・理由)を、判決の約1ヶ月後に掲載しており、民集・刑集の速報として利用することができる。 CiNiiによれば、現在96大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「裁判所時報」 なおこれも当然、最高裁判所図書館で閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「裁判所時報」と入力し、「資料区分」欄を「製本雑誌」として検索(このような選択をしないと、検索件数が1,000件以上となるため、検索結果が表示されない)。また最近のものならば「資料区分」欄を選択せず(「雑誌」と「製本雑誌」を選択しても結果は同じであるが)、「フリーワード検索」欄に「裁判所時報 平成」と入力して検索。 (続く)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第73回】 税効果会計④ 「法定実効税率の算定」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈法定実効税率の算定〉 法人実効税率の算定式に前提条件の各税率を当てはめると次のとおりとなります。 〈算定式の解説〉 はじめに利益に対して課税される税額の算定式を示します。ここで住民税は法人税額を課税標準としますので、法人税額の算定式を用いて、課税所得を含んだ式に展開します。なお、法人事業税には、所得割、付加価値割及び資本割がありますが、付加価値割及び資本割は利益に関連する税金でないため、算定式上の法人事業税には含めません。 これらの税額を合計すると次のとおりになります。 ここで、税額合計を課税所得で除した場合に、課税所得に対する税額合計の比率が算定されます。 ただし、法人事業税が損金算入されることから、その影響を考慮した比率が法定実効税率となります。 税効果会計上で、適用する税率は決算日現在における税法規定に基づく税率によります。したがって、改正税法が当該決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合は改正後の税率を適用します(実務指針18項)。 また、平成26年3月31日に公布された「地方法人税法(平成26年法律第11号)」により地方法人税が創設されました。これに伴い、平成26 年10 月1日以後に開始する事業年度から、地方法人税を含めた法定実効税率を用いる必要があります。地方法人税を含めた法定実効税率の算定式は次のとおりです。 * * * 次回は「繰延税金資産の回収可能性」について解説します。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第3回】 「金融資産及び金融負債の発生の認識」 公認会計士 阿部 光成 金融資産及び金融負債は、いつ、財務諸表に計上すべきであろうか。 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)では、金融資産及び金融負債の発生の認識について規定しており、今回は、この問題について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 簿記上の取引 簿記上の取引概念としては、資産、負債及び資本の増減変化の事実を指す考え方がある(井上達雄『新例解会計簿記精義』(白桃書房、昭和57年8月)12ページ)。 商品の売買、費用の支払いのように、通常の商取引は簿記上の取引となるが、固定資産の減価償却、火災損失なども、資産、負債及び資本の増減変化をもたらすので、簿記上の取引となる。 一方、土地、建物の賃貸借契約は、資産に変動がないので、簿記上の取引とは言われない(前掲書、12ページ)。 Ⅱ 金融資産・金融負債の発生の認識 1 発生の認識に関する規定 金融商品とは、一方の企業に金融資産を生じさせ他の企業に金融負債を生じさせる契約及び一方の企業に持分の請求権を生じさせ他の企業にこれに対する義務を生じさせる契約(株式その他の出資証券に化体表章される契約である)である(金融商品実務指針3項)。 このように、金融商品は契約として定義されているが、いつ、財務諸表に計上すべきであろうか。 金融商品会計基準は、次のように規定し、原則として、金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときに、その発生を認識するとしている。 2 発生の認識に関する考え方 前述したように、簿記上の取引としては、資産、負債及び資本の増減変化を対象としており、契約を締結しただけで資産、負債及び資本の増減変化をもたらさない場合には、簿記上の取引とは言われない。 金融商品会計基準が、原則として、金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したときに、その発生の認識を行うとした理由は、金融資産又は金融負債自体を対象とする取引については、当該取引の契約時から当該金融資産又は金融負債の時価の変動リスクや契約の相手方の財政状態等に基づく信用リスクが契約当事者に生じるためである(金融商品会計基準55項)。 Ⅲ 金融資産・金融負債の発生の認識に関する具体的な時点 金融商品実務指針では、次のように規定している(7項、22項~28項)。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第5回】 「「事業年度」と「連結会計年度」の書き換えミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトには、うっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例5-1】 個別注記表の注記文章の中で、「事業年度」と記載すべきところを「連結会計年度」と記載してしまう。 【事例5-1】は、個別注記表に記載される税効果会計に関する注記の一部です。法人税等の税率の変更があって、繰延税金資産負債の金額修正があった場合に記載されます。計算書類では必ずしも記載を強制されている注記事項ではありませんが、該当する年度は、多くの企業でこの記載が見られます。 【事例5-1】は、上段が誤った記載例で、下段が正しい記載例です。ご覧いただきたいのは赤字部分です。上段の誤った事例では「連結会計年度」となっていますが、下段の正しい事例では「事業年度」となっています。 会社法の決算書では、税効果会計関係の注記は個別注記表で記載が求められます。連結注記表では記載は不要です。【事例5-1】も個別注記表の記載文章です。したがって、年度を表す用語は「事業年度」であって、「連結会計年度」ではありません。 この事例の作成者もそのことは十分にわかっていたはずです。にもかかわらず、どうしてこんなミスをしでかしてしまったのでしょうか。 実はこのミス、起こるべくして起こったものです。 注記表(連結・個別)では、この種のミスが頻繁に起きています。 2 注記表の文章はコピペのミスが多い 注記表(連結・個別)の記載内容は、数字主体の決算書本体とは違って、文章による部分がかなりあります。特に会計方針の記述は典型的ですが、他にも、【事例5-1】のような記述式の注記が各所に見られます。 そうした記述式部分の文章は、担当者が自分の表現を使って書くのではありません。ほとんど決まった表現と言い回しにより作成するのが実務上の慣行なのです。開示規則が要求している開示事項をすべて網羅するような文章でなければならないからです。 そのため、注記表(連結・個別)の文章というのは、他社の注記表(連結・個別)の事例や自社の他の開示書類(有価証券報告書等)からコピペすることが当然のごとく行われています。 コピペが悪いとは言いませんが、気を付けなければならないことがあります。それは、丸々コピーして貼り付けるだけで終わってはいけないということです。コピペした文章に加筆修正しなければならない点がないか、よく確認することが必要なのです。比較的高い確率で、単に丸写し(フルコピー)しただけで終わってしまっていることがあるからです。筆者はこれを『フルコピー・ミス』と呼んでいます。 3 作業の流れを考えるとミスの原因がつかめる 【事例5-1】もコピペで作成した文章のはずです。 有価証券報告書の連結財務諸表の注記事項に、この文章が記載されているので、その文章をコピーして、計算書類の個別注記表に張り付けたとみられます。 【事例5-1】の税率変更時の注記は、そもそも有価証券報告書の注記事項として要求されているものです。計算書類のほうは、有価証券報告書の注記に準じて記載する実務になっています。したがって、この文章は有価証券報告書用、具体的に言えば、連結財務諸表の注記用にまず作成し、それを個別財務諸表の注記にコピペし、さらに、必要に応じて計算書類のほうにコピペするというのが、基本的な作業の流れです。 この流れで作業が進められた結果、有価証券報告書の連結財務諸表の注記の文章が、計算書類の個別注記表にコピペされたわけです。 その場合、連結ベースの注記で使用される用語を個別ベースの用語に置き換える作業が必要なのですが、それを忘れてしまったのが【事例5-1】です。 4 他にもある有報からのコピペのミス 計算書類の注記事項には、有価証券報告書からコピペしてくるものが結構あります。そして、コピペ作業でミスが起こることも多いのです。 類似事例として、次のようなものがあることを紹介しておきましょう。 【事例5-2】 連結注記表の注記文章の中で、「連結計算書類」と記載すべきところを「連結財務諸表」と記載してしまうミス この注記は、連結計算書類で記載が義務付けられているものではありませんが、有価証券報告書の注記にならって、各社の判断で任意に記載されているものです。したがって、コピー元は有価証券報告書にあり、これを連結計算書類にコピペするときは、用語の書き換えに注意をしなければなりません。 【事例5-2】では赤字の部分が用語の書き換え忘れです。決算書類の呼び名の違いで、有価証券報告書では「連結財務諸表」としますが、会社法の決算書では「連結計算書類」とします。この言い換えをしてあげなければならないところを忘れてしまったというミスです。 この事例も先ほどの【事例5-1】も、間違いの部分を赤字にしてあるため、間違いであることが一目でわかりますが、これが周囲の文字と同じように黒字で書かれていると、なかなか気づかないものです。こういうミスがあることを意識して確認作業を行うことが大事だといえます。 〈今回のまとめ〉 連結注記表や個別注記表の中で、本来使用されない用語や言い回しが出てきていないか、よく確認すること。 (了)