組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第16回】 「日本IBM事件①」 公認会計士 佐藤 信祐 第16回以降においては、みなし配当と株式譲渡損の両建てを行った後に、連結納税により損益通算を行った行為に対して、同族会社等の行為計算の否認が適用された事件について解説を行う。 本事件で利用されたストラクチャーについては、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入されたことにより利用することができなくなったが、資本等取引、連結納税に対する同族会社等の行為計算の否認の適用可否について、今後、参考になるものと考えられる。 4 日本IBM事件(東京地裁平成26年5月9日判決) (1) 判決の概要 本件は、外国法人である米国WTを唯一の社員とする同族会社であった原告(内国法人)が、平成14年2月に海外の親会社である米国WTから日本IBMの発行済株式の全部の取得をし、その後、平成17年12月までに3回にわたり同株式の一部をそれを発行した法人である日本IBMに譲渡をして、当該株式の譲渡に係る対価の額(利益の配当とみなされる金額に相当する金額を控除した金額)と当該株式の譲渡に係る原価の額との差額である有価証券(日本IBMの株式)の譲渡に係る譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額にそれぞれ算入し、このようにして本件各譲渡事業年度において生じた欠損金額に相当する金額を、平成20年1月1日に連結納税の承認があったものとみなされた連結所得の金額の計算上損金の額に算入して平成20年12月連結期の法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁が、法人税法132条1項の規定を適用して、本件各譲渡に係る上記の譲渡損失額を本件各譲渡事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することを否認する旨の更正の処分をそれぞれするとともに、そのことを前提として、 をそれぞれしたため、原告が、本件各譲渡事業年度更正処分は同項の規定を適用する要件を満たさずにされた違法なものであるとして、本件各更正処分等の取消しを求める事案である。 被告は、本件において、本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることは法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価されるべきである旨主張し、その評価根拠事実として、 を挙げたが、裁判所は、「本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められる旨の評価根拠事実として被告が挙げるいずれの事実についても、これを裏付けるものと認めるに足りる証拠ないし事情があるものとは認め難い」として、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用を認めなかった。 被告はこれを不服として、東京高裁に控訴を行っている。 (2) 事実の概要 ① 当事者の概要 原告は、平成11年4月1日にデロイトが資本の総額300万円の全額の出資の払込みをして成立した有限会社であり、成立した当時の商号は、有限会社トーマツプランニングであった。米国WTは、平成14年2月12日、デロイトから、原告の持分の全部を譲り受け、原告は、同月28日、商号を有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ピーホールディングスに変更した。その後、原告の持分の全部は、平成16年12月16日、米国WTからIBM World Trade Asia Holdings LLCに譲渡され、会社法の施行に伴い平成18年5月1日に特例有限会社となった後、平成19年5月23日には、その株式の全部が同社からIBM Japan Holdings LLCに譲渡された。 米国WTは、米国IBMにその持分の全部を保有される同社の海外の関連会社を統括する持株会社であり、米国IBMは、明治44年に成立してその株式をニューヨーク証券取引所に上場し、同社及び同社によって直接又は間接に株式を保有されている子会社及び関連会社から成る企業グループ(IBMグループ)の経営を率いる本部としての機能を有する株式会社である。 IBM World Trade Asia Holdings LLC及びIBM Japan Holdings LLCは、その持分の全部をいずれも米国WT又は米国IBMに直接又は間接に保有されている。 原告には、専任の役員及び使用人はいない。 原告は、固有の事務所を有していない。 米国IBMは、ハードウェア中心の製造販売多国籍企業からグローバルに統合された組織体制でのハードウェア、ソフトウェア及び企業向けサービスを併せて提供するグローバルに統合された企業グループへの業態変革という大きな変革を遂げること目指し、財務管理の権限を米国IBMの財務部門に集中させたり、不要となったハードウェア製品部門の多数の事業を売却してソフトウェア又は企業向けサービス事業を営む多数の企業を買収したりするとともに、平成13年から平成16年にかけて、北米、欧州及び日本を含む事業上主要と考えられる地域に地域又は国単位の中間持株会社を置くことによる子会社の組織の再編をすることとし、日本においても、従前、米国WTの下に日本IBM、APSC及びYSCが、米国IBMの下にDTIが子会社として置かれていたところ、日本IBM、APSC、YSC及びDTIをすべて原告の下に子会社として置くこととする組織の再編(日本再編プロジェクト)をすることとした。 ② 原告(有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ピーホールディングス)による日本IBM株式の取得 平成14年4月22日に日本IBMの発行済株式の全部を代金1兆9,500億円で購入した。本件株式購入における取得価額以外の主な契約の内容を成すものは、次のとおりである。なお、当該株式の取得価額はDCF法により算定されている。 原告は、取得の価額のうち、1,317億8,000万円は現金で支払い、残額の1兆8,182億2,000万円の代金支払債務については、米国WTと原告との間で消費貸借の目的とする。 本件融資につき担保の定めはない。 本件融資は、平成24年12月20日を弁済の期日とし、当該日において、原告は本件融資に係る残高総額及び未払利息の総額を支払う。ただし、原告は、米国WTに通知することによって、上記の日の前に融資額の一部又は全部を返済することができる。 原告は、米国WTに対し、本件融資に係る利息を毎年12月20日に支払う。なお、原告は、利息の支払日に利息を支払うことに代えて、利息相当額を未返済残高に組み込むことを選択できる。 平成14年4月22日から平成17年12月20日までの期間の利率は、年0.6344%とする。 ③ 自己株式の取得について 平成14年12月20日において、前事業年度終了の時における簿価純資産価額を基に同社の1株当たりの価額を30万5,586円、当該1株当たりの価額を基に取得する株式数を69万7,000株、取得価額の総額を2,129億9,344万2,000円として、自己株式の取得を行った。ただし、平成15年1月6日付けで、直近の取引価額である本件株式購入時の1株当たりの価額(127万1,625円。時価純資産価額)を基礎として、上記の取得する株式数を算出し直している。これにより、日本IBMから送金を受けた金員については、日本IBM株式を取得するための借入金の返済に充てられている。 なお、上記の結果、平成14年12月期において、有価証券(日本IBMの株式)の譲渡に係る譲渡損失額1,981億9,782万9,185円が、原告の所得の金額の計算上、損金の額に算入される金額として生じた。 このような取引が、平成15年度、平成17年度にそれぞれ行われている。 (3) 主たる争点 ① 本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度において原告の所得の金額の計算上損金の額に算入されて欠損金額が生じたことによる法人税の負担の減少が、法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができるか否か【争点1】 (ⅰ) 原告をあえて日本IBMの中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと (ⅱ) 本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること (ⅲ) 本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められること ② 前記①において法人税の負担の減少が法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することができる場合に、処分行政庁による本件各譲渡事業年度の課税標準等に係る引き直し計算が適法であるか否か【争点2】 ③ 本件更正理由に理由の附記の不備による違法があるか否か【争点3】 上記のうち、裁判所は【争点1】のみを判断し、「不当」なものと評価されるべきであると認めるに足りないものとして、【争点2】、【争点3】については、【争点1】が否定されている以上は判断するまでもないものとしているため、本稿においても、【争点1】のみを検討するものとする。 (4) 本事件における特徴 本事件においては、原告による日本IBM株式の取得については、純粋な国内取引であれば課税されていたところ、株式の譲渡を行った者が米国法人である米国WTであり、日米租税条約により日本において課税されず、チェック・ザ・ボックス規則により米国においても課税されない結果となる。 これに対し、自己株式の取得により、平成22年度改正前法人税法においては、みなし配当と株式譲渡損の両建てが可能になっていたところ、当該株式譲渡損を平成20年12月期から開始した連結納税制度を利用して、日本IBMの所得との通算を行っている。 さらに、法人税法61条の11第1項2号において、最初連結親法人事業年度開始の日の5年前の日から継続して100%子会社であれば、連結納税開始に伴う時価評価課税の適用を避けることができると規定されているところ、最初連結親法人事業年度開始の日が平成20年1月1日であり、その5年前の日が平成15年1月1日であり、日本IBM株式を取得したのが、平成14年4月22日であることから、これら一連のストラクチャーが5年を超える長期に渡るものであったということは、連結納税開始に伴う時価評価課税の適用を避けるためであったという可能性も窺える(なお、当時の繰越欠損金の期限は5年であったことから、原告はその可能性を否定している)。 なお、本事件においては、法人税法132条の3に規定する包括的租税回避防止規定ではなく、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認を適用しているが、連結事業年度開始の日前の株式譲渡損について損金算入を否定するためであったからと推定される。 次回以降は、【争点1】における被告、原告の主張についてそれぞれ解説する予定である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第16回】 「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額の還付請求」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、設立直後に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出しています。 7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税の合計額は20万円、年末調整による還付額の合計額は25万円、結果として、1月20日までに納付する所得税及び復興特別所得税は0円となりました。また、当社は、業績不振のため、平成26年12月31日をもって休眠します。差額の5万円は、平成27年1月以降の給与から順次控除すべきですが、平成27年中に給与を支給する予定はなく、控除ができないため、還付を受けたいと考えています。 源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額の還付請求についてご教示ください。 次のいずれかに該当する場合には、会社は税務署に年末調整過納額の還付請求をすることができる。 今回のケースにおいては、上記下線部に該当することから、会社は税務署に年末調整過納額の還付請求をすることができる。具体的には、会社は所轄の税務署に次に掲げる書類を提出する。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【50】 〔第6章〕判例の見方 (その8) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ④ 通常訴訟と特別訴訟 民事訴訟には、通常の手続で訴訟が進められる「通常訴訟」と、対象となる事件の性質に応じて手続上の特則が定められている「特別訴訟」がある。 特別訴訟には、人事訴訟手続法が規定する人事訴訟、行政事件訴訟法が規定する行政訴訟がある。また、通常の手続より簡略な手続が定められた特別訴訟に、手形・小切手訴訟、少額訴訟、支払督促などがある。 (A) 通常訴訟 民事訴訟法の原則的規定に従った通常の訴訟をいう。 (B) 特別訴訟 (ア) 人事訴訟 身分関係の争いを解決するための民事訴訟である。家族法上の法律関係について民事訴訟法の特則を定めた法律である人事訴訟法に所定の婚姻関係訴訟(第2章)、実親子関係訴訟(第3章)、養子縁組関係訴訟(第4章)がこれにあたる。 なおこれと類似の概念で、家事事件というものがある。ただし家事事件といった場合、日常用語としては家庭内の紛争に対する法的解決手段のすべてを指す言葉であるから、広義の意味として、家事調停、家事審判、人事訴訟をすべて含む概念となる。 しかし、法律的には、人事訴訟と対比して、家事審判と家事調停を家事事件と呼ぶことになる。 家事事件手続法では、第1条に「家事審判及び家事調停に関する事件(以下「家事事件」という。)の手続については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。」と規定されており、人事訴訟は人事訴訟法に規定されているのであるから、家事事件と人事訴訟は、適用法令の点から見た場合には、明確に区分されている。 ただし例えば、離婚事件については、調停前置主義が採られているため、最初は離婚調停によらなければならないが、この離婚調停は家事調停の一種であり、家事事件に該当することになる。しかし離婚調停が不成立となり、離婚訴訟に至れば、それは人事訴訟となる。 (イ) 行政訴訟 公権力の行使に当たる行政庁の行為の取消しを求める訴訟である行政訴訟もまた、通常、特別訴訟の一種とされている。 行政事件訴訟法第7条に「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」と規定されているように、行政訴訟は行政事件訴訟法を根拠法令としつつも、行政事件訴訟法の規定がない事項に関しては民事訴訟法に依ることから、広い意味で民事訴訟の一種とされ、その意味で特別訴訟の一種されている。 (ウ) 手形・小切手訴訟 手形訴訟は、手形による金銭の支払の請求及びこれに附帯する法定利率による損害賠償の請求を目的とする(民事訴訟法第350条)略式訴訟である。手形に関する訴訟はその性格上、迅速さが要求されるものであるため、通常の訴訟とは異なる特徴を有している。民事訴訟法では第350条から第366条までに規定がある。 小切手に関する同様の訴訟は小切手訴訟として、民事訴訟法第367条に定めが置かれている。しかし内容は、手形訴訟の規定を準用することとされている。そこでこの両者を合わせて、「手形・小切手訴訟」と呼ばれる。 この手形・小切手訴訟の場合には、反訴はできず(民事訴訟法第351条)、また文書提出命令や文書の送付嘱託は認められないため(同法第352条第2項)、原則として証拠として提出できるのは当事者自身が有する書証(すなわち「手形」自体である)のみといった大きな特徴がある。 (エ) 少額訴訟 民事訴訟法第368条から第381条までに規定のある、60万円以下の金銭の支払請求について争う裁判制度である。 同一の簡易裁判所において同一の年に少額訴訟ができる回数は10回までであり、訴えの際にその年に少額訴訟を求めた回数を申告しなければならず(同法第368条第1項及び第3項、民事訴訟規則第223条)、もし回数を偽って申し立てた場合には、10万円以下の過料に処せられことになる(同法第381条第1項)。そして通常審理を終え、その日のうちに判決が下される(同法第370条、第374条)。 (オ) 支払督促 ここまで紹介したものと異なり名称は「〇〇訴訟」ではないが、これも民事訴訟法第382条から第396条までに規定のあるものであり、広義では特別訴訟と一種とされている。 ただしその内容は、債権者の申立てに基づき、債務者に金銭の支払等をするよう督促する旨の裁判所書記官の処分をいう。 したがって、厳密な意味では訴訟にはあたらない。 (続く)
減損会計を学ぶ 【第23回】 「減損処理後の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 減損会計の適用については、固定資産の帳簿価額を減額し、減損損失を計上すれば終了というわけではない。 減損処理後も、引き続き、固定資産を使用し続けることがあるからである。 本稿では、減損処理後の会計処理について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 減価償却の実施 1 減損処理後の減価償却 減損処理後も、引き続き、固定資産を使用し続けることがある。 「固定資産の減損に係る会計基準」では、減損処理を行った資産については、減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行うことを規定している(三、1)。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)は、減損損失を控除した帳簿価額から残存価額を控除した金額を、企業が採用している減価償却の方法に従って、規則的、合理的に配分すると規定し、減価償却後の未償却残高が貸借対照表価額となると規定している(減損適用指針55項、134項)。 2 残存価額の算定 残存価額の算定に際しては、次のことに注意する(減損適用指針135項)。 3 期中の減損処理 減損会計は、固定資産について、直接的に貸借対照表価額を求めるものではないと考えられており、期末だけでなく、期中において減損処理が行われる場合がある(減損適用指針134項)。 Ⅱ 処分予定の固定資産 1 減損処理後すぐに処分するケース 減損処理の対象となった固定資産について、減損処理後、すぐに処分する予定のものがある。 このような処分予定の固定資産については、通常、回収可能価額は、売却による回収額である正味売却価額となるため、減損処理後の帳簿価額と残存価額は一致していると考えられる(減損適用指針137項)。 2 減損処理後、一定期間経過後に処分するケース 処分予定の固定資産であったとしても、減損処理後、一定期間経過後に処分する予定のものがある。 この場合には、当該一定期間において固定資産として使用されることから、残存価額まで減価償却を行うこととなる(減損適用指針137項)。 3 保有目的を変更して固定資産から流動資産に振り替えるケース 従来、固定資産として保有していたものについて、保有目的を変更し、流動資産に振り替えることがある。 減損適用指針は、従来、自社使用又は賃貸事業用目的のために保有していた固定資産を、減損処理後、合理的な理由に基づき、販売目的で保有することに変更した場合には、当該固定資産の帳簿価額を固定資産から流動資産に振り替えることとなると規定している(減損適用指針136項)。 保有目的の変更が、財務諸表に重要な影響を与える場合は、追加情報として、その旨及び金額を貸借対照表に注記することになると考えられる。当該ケースについては、日本公認会計士協会から「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会報告第69号)が公表されており、その「7.販売用不動産等及び固定資産の保有目的変更への対応」に規定されている。 Ⅲ 遊休資産 減損の兆候として、資産又は資産グループが遊休状態になり、将来の用途が定まっていないことがあげられている(減損適用指針13項(4)、85項)。 「遊休状態」とは、企業活動にほとんど使用されていない状態であって、過去の利用実態や将来の用途の定めには関係がない現在の状態であり、このような状態にある資産が遊休資産である(減損適用指針72項)。 遊休資産について減損処理を行った場合、減損処理後の減価償却費は、原則として、営業外費用として処理する(減損適用指針56項)。 また、減損処理を行うこととはされなかった遊休資産についても、減価償却を行うこととなり、当該遊休資産の減価償却費についても、原則として、営業外費用として処理する(減損適用指針56項)。 「固定資産の減損に係る会計基準」が設定される前には、日本公認会計士協会から「休止固定資産の会計処理及び表示と監査上の取扱い」(監査第二委員会報告第2号)が公表されていた。 同委員会報告は、平成16年3月17日付の「監査第二委員会報告第2号『休止固定資産の会計処理及び表示と監査上の取扱い』の廃止について」により、廃止されている。 廃止する理由において、監査第二委員会報告第2号における以下の取扱いについては、すでに実務慣行として定着していると考えられたことが述べられているので、実務における取扱いについては、注意が必要である。 Ⅳ 減損損失の戻入れは行わないこと 減損損失の戻入れは、行わないと規定されている(「固定資産の減損に係る会計基準」三、2)。 「固定資産の減損に係る会計基準」においては、減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識及び測定することとしていること、また、戻入れは事務的負担を増大させるおそれがあることなどが、その理由である(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四3(2))。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第66回】 外貨建取引③ 「為替予約」 ―振当処理 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 販売契約の締結時(X1年1月1日) ② 輸出時(X1年2月1日) (*1) 1,000ドル×取引発生時レート 100円/ドル=100,000 ③ 為替予約の締結時(X1年3月1日) (1) 直々差額 (*2) 1,000ドル×(予約時レート 99円/ドル-取引発生時レート 100円/ドル)=-1,000 (2) 直先差額 (*3) 1,000ドル×(予約レート 104円/ドル-予約時レート 99円/ドル)=5,000 ④ 決算時(X1年3月31日) 直先差額の期間配分(X1年3月1日~X1年3月31日分) (*4) 5,000((*3)より)×1ヶ月(X1年3月1日~X1年3月31日)/2ヶ月(X1年3月1日~X1年4月30日)=2,500 ⑤ 決済時(X1年4月30日) (1) 売掛金の決済 (2) 直先差額の期間配分(X1年4月1日~X1年4月30日分) (*5) 5,000((*3)より)×1ヶ月(X1年4月1日~X1年4月30日)/2ヶ月(X1年3月1日~X1年4月30日)=2,500 〈会計処理の解説〉 為替予約とは、将来の一定の期日において、一定量の通貨を他の通貨による一定の価額で売買する先物為替取引です。 為替予約の会計処理は、前回の記事で説明した「独立処理」が原則的な処理方法となります(金融商品会計基準25項)。一方で、特例処理として「独立処理」よりも実務上の煩雑さが排除された「振当処理」の採用も認められています(外貨基準注解 注7)。 振当処理を採用するためには、ヘッジ会計の要件を満たす必要があります。同一通貨建てによる同一金額で同一期日の為替予約を振り当てる場合には、為替予約契約が企業のリスク管理方針に従っていることが客観的に確認できる必要があります(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針(以下、実務指針)4項前段)。 本事例のように、輸出取引の後に為替予約が締結された場合、まず輸出時に取引発生時レートに基づき売掛金が計上されます(②の仕訳)。 その後、為替予約の締結時において、売掛金を予約レートで換算替えします(③の仕訳)。このとき、取引発生時レート(100円/ドル)と予約時レート(99円/ドル)の差額により生じた換算差額、すなわち直々差額については、予約日の属する期の損益(為替差損益)として処理します(③(1)の仕訳)。 また、予約時レート(99円/ドル)と予約レート(104円/ドル)との差額により生じた換算差額、すなわち直先差額については、為替予約の決済時までの期間において合理的な方法(日割り又は月割り)により期間配分します(③(2)および④の仕訳)。 ここでポイントとなるのは、(Ⅱ)の期間に配分される為替差益2,500円は、X1期の損益とはせずに、前受収益として翌期に繰り延べるということです(為替差損を繰り延べる場合は、前払費用を計上することとなります)。また、決算時において計上された前受収益についてX3期に属するものが存在する場合は、その分を長期前受収益に振り替える必要があります。 なお、本事例では商品の輸出後に為替予約を締結していますが、商品の輸出に先立ち為替予約を締結した場合、例えばX1年1月1日の販売契約の締結時において為替予約の締結を行った場合については、実務上の煩雑さを避けるために、取引発生時レートと予約レートの差額を期間按分せずに、取引発生時(輸出時)に計上される売上および売掛金を予約レートによる円換算額で計上する簡便的な方法も認められています(実務指針8項)。 ただし、振当処理を採用した場合でも、為替予約の締結後に、輸出取引を行わずして決算日を迎えた場合は、決算日において為替予約を時価評価することになります。時価評価により認識した評価差額については、税効果会計を適用した上で、純資産の部に繰延ヘッジ損益として計上し、翌期以降に繰り延べます(実務指針4項後段)。 ※2015年1月は2014年1月に続き、企業結合会計を取り上げます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《賞与引当金》編 【第3回】 「未払賞与」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 前回までにご紹介した賞与引当金は、引当金計上した事業年度には有税引当となりますが、所定の要件を満たす賞与については、当期末現在従業員への支給が未払であっても税務上当期の損金として算入できるケースがあります。 今回は、この未払賞与についてご紹介します。 1 当期末及び翌期X2年12月10日における仕訳 〈当期〉 〈翌期X2年12月10日〉 税法上、次に掲げる要件のすべてを満たす賞与については、使用人にその支給額を通知した日の属する事業年度において、損金に算入します。 上記の処理は、会計上も当期末X2年11月30日までの支給対象期間に係る賞与について、当期の費用として計上されているので、会計上も妥当な処理となります。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 上記1で記載したとおり、この設例では会計上の処理と税務上の取扱いが一致しているので、当期における損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整はありません。 (了)
過労死等防止対策推進法と企業への影響 【第3回】 (最終回) 「企業への影響」 特定社会保険労務士 池上 裕美 前回までに、法律制定の背景、過労死等防止対策推進法の概要をお伝えした。 今回は、企業への影響についてお伝えする。 《各関係団体の談話等》 各関係団体は、過労死等防止対策推進法について、次のとおり談話等を公表している。 各関係団体は、過労死等防止対策推進法について、プラスに評価しているとともに、3年後の法改正に大きな期待を寄せている。 つまりこの法律は、将来的にどうするのか、どのようにして過労死被害の根絶を実現していくのか、ということが重要とされているのである。 《企業への影響》 この法律では、企業の責務として、「国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるものとする」としている。直接的な労働時間の上限規制などはなく、企業は、直ちに何らかの法的義務を負うわけではない。 では、企業は法律制定後も、今までと何ら変わりなくいることができるのであろうか。 企業の責務については、「自らの職場内での過労死等を発生させない責務」も入れるべきではないかとの議論もなされていた。しかし、既に労働基準法や労働安全衛生法等では、企業の義務づけを定めており、あえて規定されなかった。だが実際は、現行法に従って、労働基準監督署が企業を監査できておらず、徹底されていないことも事実である。 過労死等防止対策推進法は、労働諸法令の適用について、過労死等の防止等という理念から、一層の徹底を図って、各法律の解釈と運用を行うことになるものとして、作成されたのである。 また、前回紹介した通り、国の調査研究が進行し、遺族、労働者代表、使用者代表及び専門的知識を有する者から構成される過労死等防止対策推進協議会の意見のもと、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が策定される。となれば、今後、企業にはより実践的な長時間労働防止の対策を求められることが予想される。 さらに国の啓発活動も進めば、労働者やその家族は知識を得て、企業を訴えるケースも増加するであろう。いったん紛争が起こると、コストや時間がかかり、労使双方がエネルギーを消耗する。 このような消耗を避けるためにも、過労死をリスクと捉え、企業は過労死等の原因となる長時間労働の防止やメンタルヘルスのケアを行っていく必要があるのではないか。 今回の過労死等防止対策推進法で企業の義務として定められたのは、「国の対策に協力するよう努力すること」であるが、やはり、企業は傍観していられない。 現時点から、長時間労働防止の対策として、仕事の仕方・させ方の仕組みを考え、業務効率を図っていく必要があるであろう。 (連載了)
介護事業所の労務問題 【第3回】 「休暇・休職問題と夜勤体制の問題点」 クロスフィールズ人財研究所 代表 社会保険労務士 三浦 修 1 休暇(年次有給休暇・産前産後休暇等)・休職時の問題点 介護事業所のような女性職員が多い職場でよくある問題の1つが、産休や育休を含む休暇や休職をめぐる問題である。 中でも、特に問題となりやすいのが年次有給休暇(以下、年休)の問題だ。これは介護事業所の特徴から大きく2点に分けられる。1つ目の問題は、人員を必要最小限で行う傾向があるため年休が取得しづらいという問題。2つ目の問題は、年休をよく取得する職員と、取得しない職員に二分されてしまう権利意識の問題である。 1つ目の問題は、介護保険法との関連性もあるが、そもそも介護事業所(特に小規模)は、高利益体質の業種ではないため、必要最小限の人員配置で事業を行っているところが多く、その体制による問題が大きい。もちろん中には大規模・中規模、また併設型等で事業を行うことにより、人員配置上、多少の余裕をもっている事業所もあるが、小規模なものが多い介護事業所でそういった対応を行うのはかなり難しいのが現状である。 もちろん、小規模事業所であれば介護事業以外でも同様の問題は発生するが、介護事業所の場合はその問題にプラスして、人員基準の問題がある。この問題の解決方法としては、大規模・中規模経営を行い人員に余裕を持てる体制を作ることも考えられるが、現実的ではないであろう。 2つ目の問題については、介護事業所をはじめ医療・福祉など女性が多い職場、特にシフト編成が必要な職場でよくありがちなのが、年休の取得について積極的な職員と、消極的な職員の差が大きいということである。 このことは、経営者や管理者が注意・指導をしなければ、年休に対して積極的な職員と、消極的な職員の差が開く一方で、最悪の場合、パワハラ問題に発展することも考えられる。 このような権利意識を強くもつ職員が現れることは、介護事業所にかかわらずよく耳にするが、大きな問題とならないような事業所の風土づくりの一環として、労務管理上、また事業運営上、様々な工夫をしていかなければならない。ハラスメントにも関連するが、管理職としての役割を理解し、コミュニケーションを取れる職場環境作りのためにも、定期的な管理職研修を行うことが重要になる。 介護保険法から考えられる問題点 産休や育休を含む年休とその他の休暇・休職問題については、女性が多い職場であれば、あらゆる業界に共通することだと予測されるが、介護事業所の場合はさらに人員基準が影響してくる。職員が年休や産前産後休暇等、また休職を行うと、人員基準を満たさなくなってしまう場合もあり得るからである。 例えば、デイサービスの生活相談員が休暇を取得した際や、デイサービスの看護職員が休暇を取得した際に、それにより配置基準を満たすことができなくなることが想定される。また、訪問介護事業所で休暇を取得した際に、常勤換算2.5人を満たすことができないといった状況が生じる可能性が考えられる。このような場合には、介護報酬が請求できなくなることも想定しておかなければならない。 2 夜勤(有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅等)の管理体制 夜勤に関しての労務問題としては、労働時間と深夜割増、そして採用難の問題が生じることが推測できる。また、夜勤中は管理職等の不在が多いため、怠慢、虐待等あってはならない問題も発生する可能性があり、それによる懲戒、または解雇が問題となることも考えられる。 (1) 労働時間と深夜割増 介護事業所は労働時間と休憩時間が曖昧な場合が多く、また弊所の地元である熊本県のように、宿直の許可が受けられない可能性が高い自治体も存在する。よって、どの介護事業所も夜勤については宿直としてではなく、通常の労働時間として算入し、シフト管理を行っていくことになる。 これは、社会福祉法人として運営を行っている特別養護老人ホームや、医療法人として運営を行っている介護老人保健施設だけでなく、有料老人ホームやサービス高齢者住宅等の住まい住宅としてみなされる施設であっても同じことが言える。 例えば、有料老人ホームやサービス高齢者住宅等居住系で行われる可能性がある、訪問介護の早朝加算の対象となっている早朝時間(6~8時)、夜間時間(18~22時)などの時間帯は、場合によっては他の業務がほとんどなく、夜勤担当職員としての労働時間ではないと判断したいところだが、実際にはそういった時間帯についても労働時間として算入しれなければならないであろう。よって、その際の作業内容も勘案し、賃金の設定をすることになる。 (2) 夜勤専従等職員の採用が難しい 上記にもあるように、介護事業所では夜勤の時間帯の拘束時間が長く、場合によっては過度な肉体労働であること、また入居者とのトラブルや虐待等の可能性があることから、採用が難しいポストの1つである。 このため、一般の介護職員に夜勤の従事をしてもらう場合も多々あると思われる。または、小規模の事業所の場合は経営者自らが夜勤を行っていることもよくあるだろう。しかし疲労が蓄積してしまい、様々な問題を引き起こしかねないといったリスクも理解しなければならない。 (3) 怠慢、虐待等に対する懲戒・解雇問題 上記のような労働環境によるストレス等も考えられるが、夜勤の時間帯における入居者、利用者への虐待等の問題も発生しているのが実情である。これはモラルの問題とも言えるが、どうしても管理が難しい時間帯なので、発見が遅れたり、発見できなかったりといった状況も多くなる。そのため、多くの事業所では問題が顕在化していない可能性も多くあるのではないかと想定される。 対策方法の一つとして、廊下に監視カメラをつけることによる抑止力を活用することや、また定期的に入居者とそのご家族にアンケートを取るなどの工夫をしていく必要があると思われる。 介護保険法から考えられる問題点 夜勤がある介護サービスは、ほとんどが施設系・居住系であり、通所介護(お泊りデイサービスを除く)、訪問介護等においてこれらの問題が発生し、人員基準が直接影響することは多くはないと思われる。しかし、夜勤の担当者がいない、夜勤専従者が退職した場合などは、昼の勤務を行っている職員が夜勤に従事することになるため、勤務シフトの問題、すなわち労働時間の問題上、日中の介護サービス提供事業で人員基準の問題が生じる可能性も考えられる。 その他に想定される問題として、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など併設型の場合、夜勤担当職員の業務と、訪問介護サービス提供者が早朝(6~8時)・夜間(18~22時)、また深夜(22~6時)の勤務の際に介護サービス、保険外サービス提供が混同されることも考えられる。夜勤担当者が誤って訪問介護サービスを提供した時など、介護報酬、また早朝・夜間・深夜加算の請求ができなくなる可能性もあるので、注意が必要である。 * * * 最終回である次回は、職員の懲戒問題と、突然の退職をめぐる問題について解説する。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第3回】 「仕様に漏れのないプロトタイプ型開発。 それでもERP導入が失敗するワケ」 公認会計士 小田 恭彦 はじめに 会計システムをはじめ販売、購買など企業の業務を取り扱うシステムを一般的に「基幹システム」と呼ぶ。 この基幹システムの開発は、「オーダーメイドによる開発」から「パッケージシステムをベースにした開発」が主流になりつつある。 今回はパッケージシステムをベースとした導入をより効率的かつ効果的に進めるための手法である「プロトタイプ型」についてまとめてみたい。 ▼基幹システム開発の主流は「オーダーメイド」から「パッケージ」へ▼ “ERP”という言葉の説明はいまさら不要かもしれないが、改めて簡単に解説しておく。 ERPとは“Enterprise Resource Planning”の略であり、企業が保有しているヒト・モノ・カネなど経営資源を統合的に管理し、業務の効率化や全体最適化を目指すという概念であり、一般的にはそれを実現するために導入する統合型パッケージ型の基幹システムを指す。 1990年代から2000年代にかけてのERPの台頭やクライアント・サーバー型システムの普及を境に、企業の基幹システムは大きく変化した。それ以前はいわゆる「オフコン時代」と呼ばれる汎用機によるオーダーメイド型の開発が中心であったが、それ以降はERPを中心としたパッケージシステムによる既製品の導入が主流となった。 ▼期待ギャップが起こりやすい開発手法▼ オフコン時代のオーダーメイド開発は、いわゆる「ウォーターホール型」の開発が主流であった。ウォーターホール型とは、「要件定義」「概要設計」「詳細設計」「プログラミング」「テスト」といった開発手順をその時系列通りに行い、前工程の成果物の品質を確保し前工程への手戻りを最小限にする開発手法である。逆に言えば、手戻りが発生した場合のリスクが大きい開発手法でもある。 ウォーターホール型の開発のポイントは上流工程の精度であり、それは「最も上流工程の要件定義の精度」に依存すると言っても過言ではない。 つまり、このシステム開発においては、「最初が肝心」ということである。 ただしこの「最初」が、以下の理由により、非常に難しい作業となる。 ソフトウエア開発の作業が難しい理由の1つに「無形のもの」を作り上げていくという点がある。要件定義はベンダーからユーザーへの要件の聞き取り作業を中心に行われるが、そのやりとりは互いが「無形のモノ」をイメージしながら行われる。 この「自社業務は理解しているがシステムには詳しくないユーザー」と、「システムには詳しいがユーザーの業務に詳しくないベンダー」が、互いのイメージにズレないよう要件を取りまとめるのは、簡単なようで非常に難しい作業なのである。 失敗するシステム開発の多くは、テストの段階(要件定義、設計及び開発が終わった後で実際にユーザーがシステムの出来上がりを確認する段階)で“事”が発覚するケースが多い。 その時にベンダーとユーザーとの間でよく繰り広げられる会話は、以下のようなものである。 このように、その多くは誤解や期待ギャップによる「仕様の漏れ」に関する事項であり、それは要件定義に関連するもの(つまり「最初」の作業に関するもの)がほとんどである。 ▼プロトタイプ型によるパッケージ開発で“漏れ”をなくす▼ 上述したように、2000年以降、オフコンによるオーダーメイド開発からクライアント・サーバー型のパッケージ導入へ移行することにより、開発手法も「ウォーターホール型」から「プロトタイプ型」へと変化した。 「プロトタイプ型」とは、開発プロセスの比較的早い段階において、機能制限版、簡易版等の試作環境(プロトタイプ)を作成し、ユーザーにそれを評価させる開発手法である。 パッケージシステムの特徴は、いくつかのパラメータを設定し、マスタデータを登録すれば「すぐに動かすことができる」という点である。プロトタイプ型はこの点に着目して考えられた導入手法である。 住宅建築や土木建築のような「有形のもの」作り上げる場合、完成予想図や模型を用いることにより最終製品を視覚的に共有することができる。視覚的に捉えることができると、そこからさらなる疑問や要件が出やすく、実現が難しい要求に対する代替案や妥協案も出やすくなり、お互いの認識のズレは発生しにくくなる。 プロトタイプ型では、要件定義を行った後(ないしは要件定義の途中で)、プロトタイプを構築し、実際の画面の動きやアウトプット(帳票や証票)を確認したり、ユーザーに実際にシステムを操作したりすることより、よりリアリティをもって要件定義を進めることができる。 つまり、プロトタイプ型はあくまで試作品であるため、機能範囲も限定的であったり、要件漏れや誤認がある状態であったりするが、ウォーターホール型とは異なり「有形のもの」を評価することで、ユーザーの想像力は無形のそれを評価するよりも圧倒的に広がり、具体的な議論を進めることができるのである。 そしてプロトタイプの検証により生じる要件の追加や変更をとりまとめ、さらに次のプロトタイプに反映させることによって精度を高めていくことになる。 さらに、プロトタイプ型の利点として、ユーザー側がシステムを実際に操作しながら工程を進めるため、開発作業を通じ操作方法の習得も進められることが挙げられる。 なお、プロトタイプ型の場合、プロジェクトメンバーの中に「パワーユーザー」などと呼ばれるユーザー部門から選出したメンバーが入り、このパワーユーザーが自部門の業務要件定義の取りまとめや他部門との調整を行うとともに、自部門の他のユーザ(「一般ユーザー」と呼ぶことが多い)に対して機能説明や操作説明を展開する。 ▼プロトタイプ型でも起こる開発失敗の要因とは▼ このようにプロトタイプ型はユーザーとベンダー間の誤認や要件漏れも生じにくく効率的な開発手法であるが、この導入手法によるパッケージシステムの導入が主流となった現在でも、プロジェクトの失敗がなくなったわけではない。 その理由のひとつに、プロトタイプ型開発が十分に効果を出せないという点があり、具体的には以下のような状況が考えられる。 このようにパッケージシステムをプロトタイプ型で導入する場合においても、実際にはその利点を生かすことができずに失敗する場合があるという点については、十分留意しなければいけない。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第24話】 「社長の決断。そしてM子の決断。」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 《退職金の計算のしくみ》 一般的に退職金の限度額の計算は以下の通りとされています。 (※1) 役位別係数は1倍から3倍とされています。 (※2) 功労金加算は30%までとされています。 (再びホワイトボード) 法善寺社長の退職金の限度額=50万円×30年×3×1.3=5,850万円 ◆ワンポントアドバイス◆ 退職金に対する所得税は、以下のように軽減されています。 そのため、退職金規定が一般的に認められる形で整備されており、それに基づいて支給されなければ、税務上退職金と認められないことがあります。 また、役員退職金を支給する場合には、支給の3年以上前から月額報酬の見直しや資金の準備をしておく必要があります。 (了)