山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第7回】 「租税法の原点を探る」 税理士 山本 守之 1 現行税法の創生 所得税法、法人税法、相続税法は昭和40年に全文改正が行われましたから、現行税法は創生されてから50年になります。つまり、現行税法は50年の歴史を持っているということです。 この全文改正は、昭和38年12月の税制調査会の答申「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」(以下「整備答申」といいます)を基礎にしていますから、税法の基本がわからないときには、この答申を読めばよいでしょう。 例えば、収益をどの段階で計上すべきかについては、「・・・各種の意見」「(外部取引につき、①対価請求権の確定したとき、②所有権の移転又は役務の提供があつたとき、③引渡し又は対価請求につき債務者が同時履行の抗弁権を失なつたとき、④定められている債務履行期等のいずれかを基準とする意見)があつたが、個別規定で補うことにより具体的な適用は③の引渡し又は対価請求権につき債務者が同時履行の抗弁権を失なつたときによることに近くなるとしても、法的な基本基準としては②の所有権の移転又は役務の提供があつたときとすることが適当と認められる。」としています。 したがって、「所有権の移転」は当事者が売り、買いの意思表示をしたときですが、品物の引渡しをする前に売主が代金を請求したときは品物を引き渡すまでは金は払わないという「同時履行の抗弁権」を使うでしょうから、引渡し時に売上げがあったと考えることもできるのです。 これを税務では、権利確定主義というように頭の体操的用語だけで説明していますが、分かりにくいものです。 2 条文の書き方 整備答申では、「規定の内容を理解しやすいものにするため、各条文をできる限り簡素平明な表現でまとめ上げることに留意し」としながら、次のような注文をつけています。 この整備答申のように税法条文が簡易で理解しやすいように作成されていれば、税法条文は親しみやすいものとなっていたでしょうが、実際には財務省の担当官によって必要以上に複雑に、長文で難しい内容のものとされたので、税法自体が親しみにくいものとなってしまったのです。 例えば、必要以上に専門用語を使い、二重カッコどころか五重カッコ、六重カッコとしたり打ち消しを打ち消すものが多用されています。この意味では、財務官僚は昭和38年の「整備答申」を読み直し、勉強をする必要があるでしょう。 税法条文は毎年のように改正され、改正の都度法規集は分厚い難解なものになってしまいましたが、このようにしたのは誰でしょうか。 昭和38年に税制調査会が示したルールが守られなかったのは何故でしょうか。 官僚はもちろんですが、これを受け入れた税理士の側でも反省しなければならないでしょう。 3 保険差益等の考え方 納税者の所有している家居(建物)が火災で焼失して、1,000万円の火災保険金を収受したとしましょう。 この場合の建物の帳簿価額が600万円、滅失経費が30万円だとするとしますと焼太りが370万円(言葉は悪いですが)となってしまいますが、所得税法第9条(非課税所得)第17号で次のように規定してあり、非課税となります。 これに対して、法人税法では保険差益は課税しますが、同時に圧縮記帳による損金と相殺されます。 何故、このようになったかについて、整備答申では次のように説明しています。 4 損害賠償請求権 小売業を営むA商店の店舗に危険ドラックを吸った男の運転するトラックが突入して、店舗にあった商品(3,000万円)をメチャクチャにしてしまいました。 この事故でA商店は3,000万円の損金となりますが、不法行為を行った相手方に対する損害賠償請求権(3,000万円)を益金の額に算入することになります。 この場合の損害賠償請求権の益金算入時期については学説上次の2つの考え方があります。 この点について「法人税基本通達逐条解説」では、課税庁の考え方が次のように述べられています。 これらの点について、法人税基本通達では、「他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、・・・」(法基通2-1-43)(下線筆者)としています。これは、ほぼ異時両建説によっているものといえます。 注意したいのは、通達で「他の者から支払を受ける」としていますから、社内の経理部長が使い込みをした場合は、損害賠償請求権は社内の経理部長に対するもので、「他の者から支払を受ける」ものではありませんから法基通2-1-43を適用することはできません。 つまり、請求対象が社外の者か役員・使用人のような社内の者かで、適用は次のように異なるのです。 各国税局や税務大学校では、次のような判決例から同時両建説によって処理しているようです。 しかし、他人の不法行為に基づく損失と損害賠償請求権(益金)をめぐって同時両建説や異時両建説で問題を解決していた学界、税務大学校、国税庁に対して激しく批判する判決が平成24年2月29日仙台地裁でありました。ここでは損害賠償請求権がどのような場合に成立するのか、その要件は何かを問うものでした。 ここではA社の従業員が出入りの業者からリベートを受け取った事件について、原処分庁(塩釜税務署長)は、A社の従業員が受け取った手数料に係る収益を益金の額に算入せず、A社に属する手数料を費消して横領した従業員に対する損害賠償請求権の額を課税資産の譲渡等の対価の額に算入せずに隠ぺい又は仮装を行ったと判定したのです。A社は、本件手数料に係る収益は従業員ら個人に帰属するものであって、隠ぺい又は仮装を行った事実もない旨主張して争った事件です。 裁判所では、次のように判示しました。 税大や学者がキャンパスの中で「同時両建説」や「異時両建説」を振りまわすことは、実務の面からすれば誤った考え方といえるでしょう。 * * * 今回は租税解釈の原点(昭和40年全文改正)に戻って、その構成、趣旨を知るための基本的な答申(昭和38年「整備答申」)を実務家に紹介してみました。 この答申が守られていれば租税法や通達はもっと分かりやすいものになっているはずでした。この答申を基礎として、租税法の解釈の考え方を学んでください。 (了)
〈あらためて確認しておきたい〉 『所得拡大促進税制』の誤りやすいポイント 【第1回】 「給与等の範囲」 ~休業手当等の取扱い~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)は、平成26年度税制改正による適用要件の緩和を踏まえ、平成27年3月期決算申告においてより多くの企業に利用されることが期待されている。 そのような中、昨年11月21日には、プロフェッションネットワーク社主催のセミナー『【平成27年3月決算・申告対応】一日で徹底理解 所得拡大促進税制-適用判断と申告実務-』を開催し、多くの受講者にお越しいただいた。本税制に対する関心の高さを実感した次第である。 このセミナー時間中、多くの受講生から、今まさに実務で直面している疑問点に関する質問をお寄せいただき、またセミナー資料の作成を通じて筆者自身、改めて気づかされる点も多かった。 そこで本連載では、全3回にわたり、本税制の適用に当たって誤りやすいと思われるポイントを紹介することとしたい。 2 本連載で取り上げる論点 - 質 問 - (休業手当等の取扱い) 以下のそれぞれのケースで支給される「手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となるか教えてください。 - 回 答 - 〈ケース1〉 ⇒ 該当しない 〈ケース2〉 ⇒ 該当する 〈ケース3〉 ⇒ 該当する 〈ケース4〉 ⇒ 該当しない - 解 説 - 所得拡大促進税制の適用対象となる「雇用者給与等支給額」とは、以下のように定義されている(措法42の12の4②三)。 ここで「給与等」とは、所得税法第28条第1項に規定する給与等をいう(措法42の12の4②二)。 所得税法第28条第1項は給与所得に関する規定であり、給与所得の対象となる「給与等」について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」とされていることから、名義のいかんによらず、給与の性質を有するものは広く含まれるものと考えることができる。 したがって、お問い合わせの各ケースについては、それぞれの手当が給与所得として課税されるかどうかによって判断することとなる。 〈ケース1〉の判定 業務上のケガにより休職している社員に対して支払われる「休業手当」は、労働基準法第76条に定める「休業補償」に該当する。 同条に定める「休業補償」はまさに「補償」であって、業務疾病等に起因して労働不能状況に陥ったことに対する「償い(賠償)」としての性質を有するものである。 このように、労働基準法第76条の規定に基づく「休業補償」は、所得税法上は非課税所得とされている(所法9①三イ、所令20①二)。 なお、労働基準法では平均賃金の60%の休業補償を定めているが、企業独自の判断として、60%を超える休業補償を行うケースも考えられる(付加給付金)。この場合にあっても、その本質は「補償」である以上、付加給付金も含めた総支給額が通常支給されるべき賃金の範囲内であることなど、補償額として相当なものであれば非課税所得となる。 したがって、本ケースにおける「休業手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」には該当しない。 〈ケース2〉の判定 業績悪化に伴い自宅待機を余儀なくされる場合等、使用者責任により労働者環境を奪われ休業に至る場合には、労働基準法第26条の定めに従い「休業手当」を支払わなければならない。 同条に定める「休業手当」は、〈ケース1〉の「休業補償」とは異なり、本来であれば労働力の提供対価として受け取るべき賃金について、使用者側の都合で休業することとなった労働者の生活保障を図るため使用者側に支払が義務づけられたものであり、「賃金」の性質を有するものである。このため、労働基準法第26条に定める「休業手当」は給与所得として課税されることとなる。 したがって、本ケースにおける「休業手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」に該当する。 (※) 労働基準法の休業手当等の課税関係(所得税)については、国税庁タックスアンサーにも掲載されているため、参考にしていただきたい。 タックスアンサーNo.1905「労働基準法の休業手当等の課税関係」 なお、景気変動等の理由により一時的な雇用調整を行った事業者については、従業員の雇用を維持する場合には雇用調整助成金の支給を受けることができる。 所得拡大促進税制の適用上、雇用調整助成金は「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」に該当し、雇用者給与等支給額の計算上はこれを控除する必要がある点に留意が必要である(措通42の12の4-2(1))。 〈ケース3〉の判定 会社の福利厚生制度の一環として「産休・育休制度」が定められ、これに基づき支払を受ける休業手当など、労働基準法第26条及び第76条のいずれにも該当しない休業手当は、一般的な取扱いにより給与所得として課税されることとなる。 したがって、本ケースにおける「休業手当」は、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」に該当する。 〈ケース4〉の判定 使用者が労働基準法第20条(解雇の予告)の規定による予告をしないで使用人を解雇する場合に、その使用者から支払われる「解雇予告手当」は、退職所得とされる。 このように「解雇予告手当」は給与所得ではなく退職所得として取り扱われることから、所得拡大促進税制の適用対象となる「給与等」には該当しない。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例22(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 設立2期目である平成26年3月期の消費税につき、特定期間(その事業年度の前事業年度開始の日から6月間)の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支給額の合計額が1,000万円超であったため、課税事業者となった。しかし、これに気づいたのが平成26年3月期になってからであったため、有利な簡易課税の選択ができなくなってしまった。これにより、有利な簡易課税と不利な原則課税との差額150万円につき損害が発生し、賠償請求を受けた。 なお、簡易課税の選択には2年間の継続適用要件があるが、設立1期目の課税売上高が5,000万円超であり、平成27年3月期は原則課税しか採れないことから、2年間の継続適用要件による回復額はない。 《賠償請求の経緯》 平成24年4月15日 法人設立。 平成24年6月20日 関与開始。 平成25年3月31日 設立1期目が終了。特定期間の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支給額の合計額が1,000万円超であったため、平成26年3月期は課税事業者となる。「簡易課税制度選択届出書」の提出期限(提出失念)。 平成25年11月13日 「課税事業者届出書」を作成中、有利選択の失念に気づく。 平成26年3月31日 設立2期目が終了。簡易課税有利が確定。 平成26年5月7日 関与先に報告。損害賠償請求を受ける。 平成26年5月31日 平成26年3月期の消費税を不利な原則課税で申告。 《基礎知識》 ◆特定期間(消費税法第9条の2第4項) 特定期間とは、法人の場合は原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう。 ◆特定期間における課税売上高(消費税法9条の2第3項) 特定期間における課税売上高については、法人が特定期間中に支払った所得税法第231条第1項(給与等、退職手当金等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき給与等の金額に相当するものの合計額とすることができる。 ◆特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例(消費税法第9条の2第1項)) 法人のその事業年度における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、その法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されない。 平成23年度の税制改正により、免税事業者の判定について、基準期間の課税売上高に加えて前年の上半期の課税売上高も加味されることとなった。本事例のように、法人の特定期間の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支給額の合計額が1,000万円超である場合には、設立2期目から課税事業者となる。なお、この免税事業者の判定の改正は平成25年1月1日以後に開始する事業年度から適用される。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は平成24年4月に資本金100万円で設立された法人で、設立2期目の特定期間の課税売上高及び給与等支給額の合計額が1,000万円超であったことから、設立2期目から課税事業者となった。しかし、税理士はこれに気づかず、設立2期目になって、税務署からの「お尋ね」によりはじめてその事実に気づいたため、事前に有利選択に係るシミュレーションを行うことができず、結果として不利な原則課税での申告となってしまった。 免税事業者の判定を正しく理解し、事前に有利選択のシミュレーションを行っていれば、簡易課税は選択できたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 設立2期目の納税義務に注意 以前は資本金1,000万円未満で会社を設立すれば、基準期間のない設立当初2年間は免税事業者であった。しかし平成23年度の税制改正以降は、設立2期目から課税事業者になることもあることから、事業者免税点制度を依頼者に説明し、設立2期目から消費税の納税義務が発生することも想定した法人設立のアドバイスを行わなければならない。 [ポイント②] 事前に有利選択を必ず行う 納税義務者に該当した場合には事前に原則課税、簡易課税のいずれが有利になるかの検討を依頼者を含めて必ず行う。その際、2年間の継続適用要件のある簡易課税は、2年間のトータルで有利、不利の判断をする必要がある。 [ポイント③] 意思決定の証拠を書面に残す。 上記検討の結果、最終的にどちらを選択するかの意思決定は依頼者に求め、その判断を「意思決定通知書」などを作成して依頼者に提出してもらう等、証拠として書面に残すことが重要である。 [ポイント④] 改正項目の確認 今回の事故は税制改正の内容を正しく理解していなかったことにより起きている。税制改正は毎年必ずあることから、改正により関与先で影響のあるところがないかどうかをその都度具体的に確認すること。また、担当者だけでなく、所内や税理士法人全体でどのように確認し、チェックするかのルール作りも必要である。 (了)
平成26年分 確定申告実務の留意点 【第4回】 (最終回) 「誤りやすい事例Q&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 シリーズ最終回は、扶養親族等の判定や住宅税制、医療費控除等に関し、確定申告実務において誤りやすい以下6つ事例をQ&A形式で取り上げることとする。 【Q1】 合計所得金額の計算 妻の本年分の所得が次の各ケースの場合、夫は妻を控除対象配偶者とすることができるか(夫婦の生計は一であり、妻は青色事業専従者又は白色事業専従者には該当しない)。 【A】 (ケース2)は、夫は妻を控除対象配偶者とすることができるが、(ケース1)と(ケース3)については、控除対象配偶者とすることはできない。 【解説】 控除対象配偶者とは、次の4つの要件をすべて満たす配偶者のことをいう(所法2①三十三)。 事例の各ケースは、①、②、④は満たしているので、③の所得基準についての判定がポイントとなる。 「合計所得金額」とは、総所得金額、山林所得金額、退職所得金額、特別控除前の土地建物等に係る譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る配当所得の金額(申告分離課税を選択したもの)、先物取引に係る雑所得等の金額の合計額をいう(所法2①三十ロ、所基通2-41(2)(注)、措法8の4③一、31③一、32④、37の10⑥一、41の14②一)。 ただし、損失(純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失、上場株式等の譲渡損失、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失、先物取引の差金等決済に係る損失)の繰越控除の適用がある場合には、繰越控除を適用する前の金額が合計の対象となる。 また、合計所得金額には、租税特別措置法の規定によって源泉分離課税とされるもの、確定申告をしないことを選択したものなど、次のような所得は含まれない(所基通2-41、措通3-1、8の2-2、8の3-1、37の11の5-1)。 以上から、各ケースにおける妻の合計所得金額を計算し、夫の控除対象配偶者に該当するか否かの判定を行うと、次の通りとなる。 【Q2】 借換えをした場合の住宅借入金等特別控除 住宅ローンの借換えを行った。新たな住宅ローンには、借換え前のローン残高に借換えにかかる諸費用分を上乗せしている。 借換えした年以降の住宅借入金等特別控除の計算はどのように行うのか。 【A】 下記算式で計算される金額を、住宅借入金等の年末残高として制度を適用する。 【解説】 住宅借入金等特別控除は、住宅の新築や取得、増改築等に要する資金として借り入れた借入金等について適用される制度である(措法41)。借換えをした場合、新たな借入金は住宅取得等の資金として直接借り入れたものではないため、原則として、借換え後は住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできない。 しかし、次の①と②の要件を共に満たす場合に限り、継続して制度の適用を受けることができる(措通41-16)。 借換えをした場合、控除の対象となる住宅借入金等の年末残高は次の通り計算する。 なお、制度の適用を受けることができる年数は、居住の用に供した年からの一定期間であることに変わりはなく、借換えによって延長されることはない。 また、借換えをした借入金を再度借り換えた場合にも、先に述べた①と②の要件を満たせば、引き続き住宅借入金等特別控除の適用を受けることができる。 【Q3】 土地と建物の所有者が異なる場合の 居住用財産の3,000万円特別控除 土地の所有者が父、建物の所有者が子である自宅(父と子はこの家で生計を一にしている)を譲渡した。 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除は、どのように適用するのか。 【A】 家屋の所有者である子の譲渡所得から特別控除額を控除し、残額がある場合には残りの金額を土地の所有者である父の譲渡所得から控除する。 【解説】 居住の用に供している一定の家屋を譲渡したとき、もしくは当該家屋とともに敷地の用に供されている土地等の譲渡をした場合には、譲渡所得の金額から3,000万円(控除前の譲渡所得の金額を限度とする)を控除することができる(措法35)。 (※) 制度の要件等については、拙稿「平成25年分 確定申告実務の留意点 【第3回】「住宅税制の要件・手続(まとめ)」」をご参照いただきたい。 家屋と土地の所有者が異なる場合には、まず家屋の所有者の譲渡所得から特別控除額を控除する。そして、特別控除額に残額があれば、次の①から③のすべての要件に該当する場合に限り、土地の所有者の譲渡所得からも控除することができる(措通35-4)。 計算例を示すと、次の通りとなる。 【Q4】 契約者を変更した生命保険金 父が死亡したことにより、生命保険金を受け取った。この保険契約の契約者は当初父であったが、父に所得がなくなったため、途中から契約者を子に変更し、子が引き続き保険料の支払を行っていた。 受け取った生命保険金は、全額が子の一時所得となるのか。 【A】 子の一時所得となる金額は、受け取った生命保険金のうち、子が保険料を負担した割合に相当する金額となる。 【解説】 死亡保険金(一時金)を受け取った場合の課税関係は、次の通りである。 上表の通り、保険料を負担した人が受取人となる場合には、受け取った保険金は一時的、偶発的な所得として一時所得となる(所法34、所基通34-1(4))。 受取人以外の人が保険料を負担した保険契約の場合には、受け取った保険金は、保険料負担者からの相続又は贈与により取得したものとして相続税又は贈与税の課税対象となり、所得税は課税されない(所法9①十六、相法3①、5①)。 計算例を示すと、次の通りとなる。 【Q5】 ふるさと納税により受け取った謝礼 ふるさと納税を行った地方公共団体から、謝礼として地元の特産品を受け取った。この特産品を受け取ったことによる経済的利益は、所得税法上どのように取り扱われるのか。 【A】 特産品を受け取った場合の経済的利益は、一時所得に該当する。 【解説】 所得税法上、所得として収入すべき金額には、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額も含まれる(所法36①②)。 ふるさと納税の謝礼として受け取った特産品に係る経済的利益は、法令上非課税所得として規定されていない。また、地方自治法では、地方公共団体は法人とすると規定されている(地方自治法2①)。 したがって、謝礼として特産品を受け取った場合の経済的利益は、法人からの贈与により取得するものとして一時所得に該当する(所法34、所基通34-1(5))。 なお、一時所得は、その年の総収入金額からその収入を得るために支出した金額を控除し、さらに50万円の特別控除額を差し引いて算出することとされているため、他に一時所得がなく、年間数万円のふるさと納税をしている人の場合には、課税関係は生じない。 【Q6】 ガン診断給付金と医療費控除 ガンと診断され治療を受けたことにより、生命保険会社から診断給付金と手術給付金、入院給付金を受け取った。医療費控除の計算上、これらの給付金はすべて支払った医療費から控除するのか(契約者、被保険者及び受取人は同一である)。 【A】 診断給付金は、がんと診断されたことを基因として支払われるものであり、医療費の補填を目的に給付されるものではない。よって、支払った医療費から控除する必要はない。手術給付金と入院給付金は、医療費を補填する性質のものであるため、支払った医療費から控除する。 【解説】 医療費控除の対象となる金額は、その年に支払った医療費から医療費を補填するものとして給付される保険金や損害賠償金等を控除して計算することとされている(所法73①)。 ガンであると診断されたことにより給付される診断給付金は、給付目的が医療費の補填ではないため、医療費控除の計算において支払った医療費から控除する必要はない(所基通73-9(1))。 手術給付金と入金給付金は、医療費の補填を目的として支払いを受けるものであるため、支払った医療費から控除することになる(所基通73-8)。 (注) これらの給付金は、身体の傷害に基因して支払を受けるものであるため、非課税所得に該当する(所法9①十七、所令30)。 (連載了)
〔平成26年分〕 贈与税申告の留意点 【第2回】 「贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を活用するときの留意点」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 1 相続税対策としての居住用不動産の生前贈与 平成27年1月1日以後、相続税の基礎控除額が引き下げられるため、相続税対策として生前贈与を検討するケースが増えている。その中でも、贈与税の配偶者控除(*)を検討することが多いと考えられるが、その場合の留意点につき、検討してきたい。 相続税節税を目的として相続財産を圧縮する一つの手段として、居住用財産を配偶者へ贈与し、この贈与税の配偶者控除を適用しようとする場合、相続で取得したほうが税務上有利なのか、生前贈与で取得したほうが有利なのか、十分に検討する必要がある。 確かに、相続財産を圧縮するという観点からは、贈与税の配偶者控除が適用できる2,000万円分までの居住用財産を贈与することは効果が期待できる。ただし、以下のデメリットがあるため、その点も踏まえて、実行するか否か判断する必要がある。 (1) 不動産取得税・登録免許税をめぐる留意点 (2) 相続税の小規模宅地特例の適用について 個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合(特定居住用宅地の場合には80%)が減額される(租税特別措置法69条の4)。 この小規模宅地の特例の適用にあたっては、対象となる土地は、あくまで相続・遺贈で取得したものに限定されている。つまり、生前に贈与で取得した土地については、相続税の小規模宅地特例を適用することはできない。 2 1筆の土地の上に賃貸住宅・自宅(2棟)がある場合の贈与税の配偶者控除の適用 1筆の土地の上に、賃貸住宅・自宅の2棟がある場合、分筆を行った上で、自宅敷地部分の土地(又は土地持分)についてのみ配偶者へ贈与を実施し、贈与税の配偶者控除を適用する必要がある。分筆せずに贈与を行うと、「専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋」には該当しないと判断され、贈与税の配偶者控除が適用できないこととなる(平成13.9.13裁決、国税不服審判所)。 1筆の土地の上に、1棟の賃貸併用住宅がある場合のケースでは、その敷地のうち自宅部分を特定することが困難であるため、土地持分を贈与しても一定の条件のもとに、すべて居住用不動産の贈与として、贈与税の配偶者控除が適用できる(相続税基本通達21の6-3)。 これに対して、1筆の土地の上に、賃貸住宅・自宅の2棟がある場合、分筆を行った上で、自宅敷地部分の土地(又は土地持分)についてのみを「専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋」として配偶者へ贈与し、贈与税の配偶者控除を適用する必要がある。このような異なる取扱いを行う判断理由として、以下のように平成13.9.13裁決は述べている。 居住用不動産の生前贈与を行い、贈与税の配偶者控除を適用する場合、1筆の土地の上に、自宅、賃貸住宅など複数棟の家屋が存在していることも多々あるため、上記の取扱いには十分に留意する必要がある。 (連載了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第6回】 「改正の内容⑤」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-1-6 恒久的施設非帰属所得に係る所得金額の計算 PE非帰属所得とPEを有しない外国法人の国内源泉所得については、その課税範囲が同一であることから、「その他の国内源泉所得に係る所得の金額」として、その計算については、PE帰属所得に係る計算に準じて計算することとした(法法142の9、法令191)。 3-1-7 繰越欠損金 《改正前》 外国法人の各事業年度開始の日前9年以内に開始した事業年度において生じた青色欠損金額及び災害損失金がある場合には、欠損金控除前の所得金額の80%相当額(外国法人が中小法人である場合は100%)を限度として損金算入できる(旧法法142、旧法令188①十六)。 《改正後》 PEを有する外国法人の欠損金は、PE帰属所得に係る欠損金とPE非帰属所得に係る欠損金に区分され、それぞれPE帰属所得とPE非帰属所得から控除される。PEを有しない外国法人の欠損金は、PE非帰属所得に係る欠損金となる(法法141二、法法142の9、法令191)。 なお、改正前の欠損金はどちらの所得からも控除できる(改正附則25)。 3-1-8 税額の計算 (1) 法人税率 《改正前》 基本税率は25.5%、中小法人の所得800万円以下の部分は19%である。 《改正後》 課税標準がPE帰属所得とPE非帰属所得に区別されたことから、税率もそれぞれ別に定められているが、税率は基本が25.5%、外国中小法人については所得800万円以下の部分の税率が19%である。 (2) 所得税額控除 PE帰属所得に係る所得税額控除とPE非帰属所得に係る所得税額控除は別々に行われる。 なお、外国法人が受ける内国法人からの配当等については、国内に支店等を有する外国法人が支払いを受ける配当等でその支店等を通じて国内において行う事業に帰せられるもの以外のものについては、所得税額控除が認められないものとされていたが、帰属主義への見直しに伴い、このような配当等はそもそも法人税の課税対象外とされ、源泉徴収のみで課税関係が終了することとなった。このため、所得税額控除を認めないことをあえて規定するまでもなくなった。 (3) 外国税額控除 ① 趣旨 帰属主義への移行によりPEが本店所在地国以外の第三国で稼得した所得がPE帰属所得として我が国の法人税の課税対象となることから、当該第三国とわが国における二重課税を調整するために設けられた。内国法人との取扱いの公平性・整合性の観点から、基本的な仕組みは内国法人の外国税額控除と同様である。 ② 控除対象外国法人税の額 外国法人の恒久的施設帰属所得に係る所得について課される外国法人税の額に限ることとされた(法法142の2①)。ただし、高率の部分の外国法人税の額は、控除対象とはならない(法法142の2①、法令195)。 ③ 控除限度額(法令194①) ④ 国外源泉所得 外国税額控除の控除限度額の算定の基礎となる国外所得金額を算定するため、国内源泉所得とは別に、国外源泉所得が定義されている(法法144の2④)。 国外源泉所得としては、国外にある資産の運用又は保有により生ずる所得、国外にある資産の譲渡により生ずる所得として一定のもの、国外にある不動産等の貸付け、国外における租鉱権の設定又は居住者若しくは外国法人に対する船舶若しくは航空機の貸付けによる対価などが規定されている。 それらを国内源泉所得と対比する形で示したのが下表である。 (「平成26年度税制改正の解説」(財務省)729頁) なお、租税条約に国外源泉所得について異なる定めの適用がある場合には、その外国法人については租税条約の規定による(法法144の2⑤)。 ⑤ 国外所得金額 外国税額控除の控除限度額を算定する基礎となる国外所得金額の計算について、以下の定めがある。 イ 共通費用の額の配分 PE帰属所得に係る共通費用がある場合には、国外源泉所得に係るものとそれ以外のものに配分する必要がある。 この配分の基礎となる共通費用の額は、PE帰属所得金額の計算上損金の額に算入された金額のうち、販売費・一般管理費その他の費用で、外国法人の国外源泉所得に係る所得を生ずべき業務とそれ以外のPE帰属所得に係る所得を生ずべき業務の双方に関連して生じたものの額である(法令193②)。この販売費・一般管理費には、法人税法142条3項2号により配分された本店配賦経費も含まれる。 共通費用の額の配分の基準は、収入金額、資産の価額、使用人の数、その他の基準で、外国法人が行う業務の内容や費用の性質に照らして合理的と認められる基準とされる。 ロ 共通費用の配分に関する書類の作成 共通費用の配分に関する説明書類を作成しなければならない(法令193③、法規60の12)。 ハ 確定申告書等への国外所得金額の計算に関する明細書の添付 PEを有する外国法人が外国税額控除を受ける場合には、確定申告書、修正申告書、更正請求書に国外所得金額の計算に関する明細書を添付しなければならない(法令193④)。 ⑥ 控除限度額の繰越し 繰越控除限度額は3年間繰越しができる(法法144の2②)。また、その事業年度に納付することとなる控除対象外国法人税の額がその事業年度の控除限度額に満たない場合において、過去3年内の繰越対象外国法人税があるときは、その一定額につき外国税額控除を行う(法法144の2③)。 ⑦ 外国法人税の減額 外国税額控除の適用を受けた事業年度開始の日後7年以内に開始する各事業年度において当該外国法人税の額が減額された場合には、減額控除対象外国法人税額を、 こととされている(法法144の2⑧、法令186①二②、法令201①③④)。 ⑧ 適用要件 外国税額控除の適用を受ける際の要件は、内国法人と同様に、確定申告書等に控除を受けるべき金額、計算明細、控除対象外国法人税の額の計算明細書等の添付があり、かつ外国法人税を課されたことを証する書類その他一定の書類を保存していること等とされている(法法144の2⑩、法規60の14)。 (了) ※上記の内容は、本稿公開日(2015/1/29)現在の法令通達等によります。
貸倒損失における税務上の取扱い 【第35回】 「法人税基本通達改正の歴史④」 公認会計士 佐藤 信祐 前回解説したように、昭和39年度税制改正により貸倒準備金制度から貸倒引当金制度に変更されるとともに、今まで個別通達で定められていた債権償却引当金については、法人税基本通達に組み込まれる形で、債権償却特別勘定に変更されることになった。 その後、昭和42年度法人税基本通達の改正により、平成10年度税制改正前までの法人税基本通達の内容とほぼ同じものが出来上がることになる。 本稿においては、昭和42年度法人税基本通達の改正内容について解説を行うものとする。 4 昭和42年度法人税基本通達の改正 昭和42年度法人税基本通達の改正に先立って、昭和41年度に公表された「税法と企業会計との調整に関する意見書(大蔵省企業会計審議会中間報告)」において、 と指摘されている。 また、それだけではなく、債権償却特別勘定の繰入れについては、 とのことである。 昭和42年度法人税基本通達の改正は、このような批判に対応したものであると言われているが、本通達の前書きを見てみると、昭和40年度税制改正から昭和42年度税制改正までの税制簡素化の一環として、貸倒処理に関する取扱いの弾力化と手続の簡素化を目的として行われたものであることが分かる。 さらに、主な改正内容として以下のものが挙げられている。 上記に掲げたもののほか、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができない場合における債権放棄については、「当事者間の協議により締結された契約で公証力のある書面によるもの」ではなく、「書面により明らか」にされたもので足りることになり(法基通78の2(4))、現行の法人税基本通達9-6-1(4)に近い形となった。 なお、「当該契約に基づく切捨てにより当該債務者に対して贈与したこととなると認められる場合において切り捨てられることとなるものを除く。」という文言については、 と解説されているため、回収可能部分について債権放棄した場合には寄附金になるという点については従前通りである。 また、特筆すべき点としては、法人税基本通達78の3において「法人の有する貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその金額が回収できないことが明らかになった場合において、法人が貸倒れとして損金経理したときは、これを認める。」と規定されるとともに、同通達78の5において、「債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見透しがないこと。」が債権償却特別勘定の設定対象として認められることとなったという点である。 前者の貸倒損失については、従前の法人税基本通達78の3においても認められていたが、 により、現在の法人税基本通達9-6-2に近い形になった。 なお、改正前通達においては、担保物が劣後的である場合において、担保物の価額を超える部分の金額についての貸倒れの容認(法基通78の7)がなされていたが、 という趣旨により廃止された。逆に言えば、改正後通達においては、担保を処分してからでないと貸倒損失を認識することができないこととされ、現行通達においても同様に規定されているが、二番抵当権者が担保により1円も回収することができないことが明らかであれば、本通達の適用により、貸倒損失を認識することができるという結論になる。 この点については、いずれ本連載においても詳細に解説することとする。 また、後者の債権償却特別勘定については、法人税基本通達78の5を原則的な取扱いとして回収不能見込額を税務署長の認定により繰り入れを認めるとともに、同通達78の6により50%基準による繰り入れを例外的に認める形となっている。すなわち、会社更生法の規定による更生手続きの開始の決定があった場合であっても、税務署長の認定により回収不能見込額について債権償却特別勘定の繰り入れが認められるという結論になる。 同通達78の5の取扱いにつき、当時の国税庁審理課の課長補佐であった御園生均氏は、 と説明されている。この結果、税務署長の認定が必要であるという点を除けば、現行の法人税法施行令96条1項2号に掲げる「債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由により、当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められること」に相当するものが導入されたということができる。 なお、この取扱いの導入に伴い、改正前基本通達78の8において認められていた形式基準のうち、「業況不況のため、またはその事業につき重大な損失を受けたため、その事業を廃止し、または休業の期間が6か月に至ったとき」については削除されることとなったため、債権償却特別勘定を認識するためには、同通達78の5により、税務署長の認定を要することになった。また、認定申請書等の様式については、「債権償却特別勘定の認定事務等の取扱いについて(昭和43年1月23日付直審(法)4査調4-41)」が公表された。 このように、昭和42年度の法人税基本通達の改正により、平成10年度税制改正前の法人税基本通達の内容とほぼ同じものになった。昭和42年度の法人税基本通達の改正は、昭和42年度税制改正により導入された公正処理基準による影響を受けたものであり、貸倒損失についての法人税法上の位置付けを理解するうえで、企業会計との関係は理解しておく必要がある。 次回においては、「税法と企業会計原則との調整に関する意見書(昭和27年6月16日・経済安定本部企業会計基準審議会中間報告)」、「税法と企業会計との調整に関する意見書(昭和41年10月17日大蔵省企業会計審議会中間報告)」と法人税法22条4項に規定する公正処理基準について解説を行うこととする。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第23回】 「中小企業向けのその他の特例措置」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 平成22年4月1日((1)については平成24年4月1日)以後に開始する事業年度から、次の中小法人(資本金の額が1億円以下の法人をいう)に対する税務上の特例措置は、資本金の額が5億円以上の法人等の100%子法人等(①資本金の額が5億円以上の法人等(以下「大法人」という)による完全支配関係がある普通法人、②完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人をいう)には適用されなくなりました。 1 軽減税率(法法66、措法42の3の2) 法人税の税率は原則として25.5%ですが、中小法人については、平成24年4月1日から平成27年3月31日までに開始する各事業年度分の年800万円以下の所得金額に対しては、15%の軽減税率が適用されます。一方、中小法人以外の法人については、年800万円以下の所得金額に対する法人税の軽減税率の適用はなく、法人税の税率は一律25.5%となります。 なお、平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」において、平成27年4月1日以後開始事業年度から法人税率が23.9%に引き下げられる一方、当該中小法人の軽減税率の特例については、適用期限を平成29年3月31日まで2年間延長することとされています。 2 交際費等の定額控除制度(措法61の4) 法人が支出する交際費等の額は、原則として損金の額に算入されませんが、中小法人については一定額を控除することができます。平成25年4月1日以後に開始する事業年度から、定額控除限度額が年800万円に引き上げられ、800万円以下の交際等の全額損金算入が認められています。 一方、100%子法人等に該当した場合には、定額控除制度を適用することはできず、支出する交際費等の額の全額が損金不算入となります。 平成26年度税制改正で、現行の800万円の交際費等の定額控除制度について、その適用期限を平成28年3月31日まで2年延長するとともに、交際費等のうち飲食費の50%相当額を損金算入できることとされました(措法61の4①④、措規21の18の4)。したがって、中小法人においては、現行の800万円の定額控除の措置と飲食費の50%損金算入の措置のいずれかを選択適用できることになります。 3 中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制)(措法42の4、42の4の2) 青色申告法人である中小法人等が試験研究費(製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する原材料費、人件費、委託費、経費をいう)を支出する場合、試験研究費の額の一定割合について、事業年度の法人税額から控除することができます。 研究開発税制では、試験研究費の総額の12%の税額控除ができる「総額型」に加え、一定の要件を満たす場合には、「増加型」か「高水準型」のいずれかを選択し「総額型」とは別枠で税額控除することができます。 また、「総額額」の税額控除の限度額は、通常は当期の法人税額の20%相当額ですが、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度においては30%相当額となります。なお、「増加型」と「高水準型」は、平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されます。 (※1) 比較試験研究費の額:過去3事業年度において損金に計上入される試験研究費の額の平均額をいう。 (※2) 基準試験研究費の額:過去2事業年度において損金に計上される試験研究費の額のうち最も多い額をいう。 (※3) 平均売上金額:当該事業年度を含む過去4事業年度の売上金額の平均額をいう。 (※4) 超過税額控除割合:(当該事業年度において損金に計上される試験研究費の額÷平均売上金額-10%)×0.2 なお、平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」において、総額型の試験研究費の税額控除の限度額が当期の法人税額の30%相当額から25%相当額に引き下げられることとされています。一方、特別試験研究費については、税額控除の限度額が総額型とは別枠の計算となり、当期の法人税額の5%相当額が控除できることとされています。 4 少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5、措令39の28) 青色申告法人である中小法人等が、取得価額30万円未満の減価償却資産を平成28年3月31日までに取得し事業の用に供した場合には、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。 この特例の対象となる資産は、取得価額が30万円未満の減価償却資産で、適用を受ける事業年度における取得価額の合計額300万円が限度となります。例えば、中小法人における少額の減価償却資産の損金算入に取り扱いは、次のように整理されます。 5 法人事業税の外形標準課税(地法72の2) 期末における資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人は外形標準課税の対象外となり、所得に対する事業税(所得割)のみが課税されます。一方、期末における資本金の額または出資金の額が1億円超の法人は外形標準課税の対象となり、赤字の場合でも報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料等の付加価値等と資本金等の額に対する事業税(付加価値割・資本割)が課税されます また、東京都では超過課税を適用していますが、資本金の額が1億円以下の法人と1億円超の法人での法人事業税の税率は、次のようになります。一方、地方法人特別税額の申告は、標準税率により算定した基準法人所得割額が課税標準額となります。 なお、平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」では、外形標準課税は従前とおり資本金の額が1億円超の法人に限って対象とされていますが、平成28年度以降も適用対象法人の拡大等、さらなる課税ベースの拡大等が検討されています。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第13回】 「有価証券の評価」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、有価証券の評価について解説する。具体的には、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券の評価を解説する。 なお、売買目的有価証券、外貨建有価証券、種類株式の評価は、本フロー・チャートでは解説していない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 満期保有目的の債券(満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券)の評価は、通常時の評価(減損が必要でない場合の評価)、減損の順に検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 通常時の評価 満期保有目的の債券は、原則として、取得原価をもって貸借対照表価額とする(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準(以下、「基準」という)」16)。 ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない(基準16)。 したがって、時価のある債券であっても、時価評価することはない。 償却原価法とは、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合において、当該差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいう。この加減額は、受取利息又は支払利息で計上する(基準注5)。 また、償却原価法には、利息法と定額法の2つの方法がある。原則として利息法によるものとされているが、継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することができる(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」70)。 《設例1》 【前提条件】 【会計処理】 【X1年4月1日】 【X2年3月31日】 (※1) 利息配分額 (※2) クーポン受取額 (※3) 利息配分額-クーポン受取額 クーポン受取額=額面10,000×2% 利息配分額=直前帳簿価額×実効利子率 実効利子率の算定 (2) 減損 減損とは、著しい時価(又は実質価額)の下落があり、かつ、回復可能性が認められない場合に、時価(実質価額)と貸借対照表価額の差額を当期の損失として処理することである(基準20、21、実務指針91、92)。 満期保有目的の債券の減損においては、「時価のある満期保有目的の債券」と「時価を把握することが極めて困難と認められる債券」に分けて検討する。 なお、減損処理を行った満期保有目的の債券については、取得差額はもはや金利調整差額とは考えられないため、減損後は、償却原価法は適用しない(金融商品会計に関するQ&A (以下、「Q&A」という)Q25)。 ① 時価のある満期保有目的の債券の減損 時価のある満期保有目的の債券において、著しい時価の下落があり、かつ、回復可能性が認められない場合には、減損処理を行う必要がある。そのため、著しい時価の下落に該当するか否かの判断が必要となる。具体的には、(ⅰ)50%程度以上の下落、(ⅱ)30%以上50%未満の下落、(ⅲ)30%未満の下落に分けて判断することになる。 (ⅰ) 50%程度以上の時価の下落がある場合 個々の銘柄の満期保有目的の債券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、時価が「著しく下落した」ときに該当する。この場合、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならない(実務指針91)。 時価が50%程度以上下落した場合には、通常、合理的な反証を行うことはできず、減損処理することが多いと考えられる。 (ⅱ) 30%以上50%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%以上50%未満であっても、状況によっては時価の回復可能性がないとして減損処理が必要な場合があることから、時価の著しい下落があったものとして、回復可能性の判定の対象とされることがある。この場合、時価の著しい下落率についての固定的な数値基準を定めることはできないため、状況に応じて個々の企業において時価が「著しく下落した」と判定するための合理的な基準を設け、回復可能性がない場合には、減損処理をする(実務指針284)。 したがって、各社で、状況に応じて50%未満の時価の下落における、著しい時価の下落の合理的な基準を設定(例えば、2期連続して時価が30%以上低下している場合等)し、毎期、減損処理が必要かどうかを判断する必要がある。 (ⅲ) 30%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しないと考えられるため、減損処理は不要である(実務指針91)。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められる満期保有目的の債券の減損 時価を把握することが極めて困難と認められる満期保有目的の債券の貸借対照表価額は、債権の貸借対照表価額に準ずるとされている(基準19(1))。したがって、償却原価法を適用した上で、債権の貸倒見積高の算定方法に準じて信用リスクに応じた償還不能見積高を算定し、会計処理を行う。また、償還不能見積高の算定は、原則として、個別の債券ごとに行う(実務指針93)。 償還不能額がなければ、貸借対照表価額は当然に(1)通常の評価の場合と同額になる。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 子会社株式及び関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)の評価は、時価のある子会社株式等と時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等で検討方法が異なるので、まず時価の有無を検討する。その後に、時価及び実質価額の低下の程度を検討し、さらに、通常時の評価、減損、投資損失引当金について検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 時価の有無 時価の有無により、この後の検討過程が異なる。そのため、時価のある子会社株式等の場合、「(2) 時価の著しい低下の有無」を検討する。時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等の場合、「(4) 実質価額の著しい低下の有無」を検討する。 (2) 時価の著しい低下の有無 時価のある子会社株式等で、時価の著しい低下(【STEP1】(2)①(ⅰ)~(ⅲ)参照)がある場合、減損が必要かどうかの検討が必要となるため、(7)①を検討する。時価の著しい低下がない場合は、(3)を検討する。 (3) 時価のある程度以上の下落の有無 時価が著しく低下していないが、ある程度以上下落している場合、健全性の観点から時価の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上することができる(監査委員会報告第71号「子会社株式等に対する投資損失引当金に係る監査上の取扱い(以下、「取扱い」という)」3.(1)、2.(2))。 時価がある程度以上下落している場合、投資損失引当金の計上の検討が必要となるため、(8)①を検討する。時価がある程度下落していない場合は、(6)を検討する。 なお、「ある程度以上の下落」の水準は「取扱い」で明らかになっていないため、各社で設定する必要がある。 (4) 実質価額の著しい低下の有無 実質価額とは、原則として、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額をいう。 そして、実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下している場合、実質価額が著しく低下している状態である(実務指針92)。 実質価額が著しく低下している場合、(7)②を検討する。実質価額が著しく低下していない場合、(5)を検討する。 (5) 実質価額のある程度の低下の有無 実質価額は著しく低下していないが、ある程度低下している場合、健全性の観点から実質価額の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上することができる(取扱い2.(1)①、(2))。 実質価額がある程度低下している場合、投資損失引当金の計上の検討が必要となるため、(8)①を検討する。実質価額がある程度低下していない場合は、(6)を検討する。 なお、「ある程度の低下」の水準は「取扱い」で明らかになっていないため、各社で設定する必要がある。 (6) 通常時の評価 減損処理が必要ではない子会社株式等は、取得原価をもって貸借対照表価額とする(基準17)。 (7) 減損 減損の検討は、時価のある子会社株式等と時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等で検討過程が異なる。 ① 時価のある子会社株式等の減損 時価のある子会社株式等における減損の検討は、時価のある満期保有目的の債券(【STEP1】(2)①参照)と同様である。 時価のある子会社株式等において、著しい時価の下落があり、かつ、回復可能性が認められない場合には、減損処理を行う必要があるため、著しい時価の下落に該当するか否かの判断が必要となる。具体的には、(ⅰ)50%程度以上の下落、(ⅱ)30%以上50%未満の下落、(ⅲ)30%未満の下落に分けて判断することになる。 (ⅰ) 50%程度以上の時価の下落がある場合 個々の銘柄の子会社株式等の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、時価が著しく下落したときに該当する。この場合、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならない(実務指針91)。 時価が50%程度以上下落した場合には、通常、合理的な反証を行うことはできず、減損処理することが多いと考えられる。 (ⅱ) 30%以上50%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%以上50%未満であっても、状況によっては時価の回復可能性がないとして減損処理が必要な場合があることから、時価の著しい下落があったものとして、回復可能性の判定の対象とされることがある。この場合、時価の著しい下落率についての固定的な数値基準を定めることはできないため、状況に応じて個々の企業において時価が「著しく下落した」と判定するための合理的な基準を設け、回復可能性がない場合には、減損処理をする(実務指針284)。 したがって、各社で、状況に応じて50%未満の時価の下落における、著しい時価の下落の合理的な基準を設定(例えば、2期連続して時価が30%以上低下している場合等)し、毎期、減損処理が必要かどうかを判断する必要がある。 (ⅲ) 30%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しないと考えられるため、減損処理は不要である(実務指針91)。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等の減損 時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等は、子会社等の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、減損処理を行う。ただし、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理をしないことも認められる。(実務指針92)。 したがって、(ⅰ)財状状態の悪化の判定、(ⅱ)実質価額の著しい低下の判定、(ⅲ)減損の判定を検討する必要がある。 (ⅰ) 財政状態の悪化の判定 財政状態とは、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいう。「財政状態の悪化」とは、この1株当たりの純資産額が、当該株式を取得したときのそれと比較して相当程度下回っている場合をいう(実務指針92)。 「相当程度下回っている」とは、どの程度かが基準等で定められていないため、各社で相当程度下回っている場合を決定する必要がある。 なお、財政状態の悪化がなくても、減損処理が必要な場合(下記(ⅲ)参照)があるため、財政状態の悪化の有無にかかわらず、下記(ⅱ)、(ⅲ)実質価額の著しい低下を検討する必要がある。 (ⅱ) 実質価額の著しい低下の判定 上記(4)より、すでに実質価額の著しい低下があると判定されているため、ここで改めて判定する必要はない。 (ⅲ) 減損の判定 上記(ⅰ)、(ⅱ)より、財政状態の悪化により実質価額が著しく低下している場合には、減損処理を行う。なお、子会社等の実質ベースの財務諸表や事業計画等を入手し、回復可能性(取得原価までの回復)が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理をしないこともできる(Q&A Q33、実務指針92)。減損処理をしない場合は、(8)②を検討する。 また、財政状態の悪化がなくても、以下のような場合、実質価額の著しい低下のみで減損処理を行う。 企業買収においては、会社の超過収益力や経営権等を反映して、財務諸表から得られる1株当たり純資産額に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得することがある。その後、超過収益力等が減少したために実質価額が大幅に低下することがある。このような場合には、たとえ発行会社の財政状態の悪化がないとしても、将来の期間にわたってその状態が続くと予想され、超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならない(Q&A Q33)。 (8) 投資損失引当金 投資損失引当金の検討は、実質価額の低下の程度により分けて検討する。時価のある子会社株式等の場合は、ある程度以上低下している場合のみ検討する。 ① 時価又は実質価額がある程度低下している場合の投資損失引当金 時価又は実質価額がある程度低下している場合、健全性の観点から実質価額の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上する必要があるかどうかを検討する(取扱い2.(1)①、(2)、3.(1))。 ② 実質価額が著しく低下している場合の投資損失引当金 実質価額が著しく低下しているが、回復可能性が見込めるとして減損処理を行っていない場合、回復可能性の判断はあくまでも将来の予測に基づいて行われるものであり、その回復可能性の判断を万全に行うことは実務上困難なときがある。そのため、健全性の観点からこのリスクに備えて、実質価額の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上する必要があるかどうかを検討する(取扱い2.(1)①、(2))。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) その他有価証券は売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券をいう。そのため、その他有価証券には、株式のみならず、債券、証券投資信託等も含まれる。 時価のあるその他有価証券と時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券で検討方法が異なるので、まず時価の有無を検討する必要がある。その後に、時価及び実質価額の低下の程度を検討し、さらに、通常時の評価と減損に分けて検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 時価の有無 時価の有無により、この後の検討過程が異なる。そのため、時価のあるその他有価証券の場合、「(2) 時価の著しい低下の有無」を検討する。時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の場合、「(3) 実質価額の著しい低下の有無」を検討する。 (2) 時価の著しい低下の有無 時価のあるその他有価証券で、時価の著しい低下(【STEP1】(2)①(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)参照)がある場合、減損が必要かどうかの検討が必要となるため、(5)①を検討する。時価の著しい低下がない場合は、(4)①を検討する。 (3) 実質価額の著しい低下の有無 実質価額が著しく低下している場合(【STEP2】(4)参照)、(5)②を検討する。実質価額が著しく低下していない場合、(4)②を検討する。 (4) 通常時の評価 時価のあるその他有価証券と時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券で通常時の評価方法も異なる。 ① 時価のあるその他有価証券の通常時の評価 時価のあるその他有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とする。時価と取得価額の差額である評価差額は、全部純資産直入法又は部分純資産直入法のいずれかの方法により、税効果を考慮の上、貸借対照表に「その他有価証券評価差額金」として計上する。 また、期末に計上した「その他有価証券評価差額金」は翌期首に税効果も含めて、洗い替え処理する(基準18、実務指針73)。 原則は、全部純資産直入法であるが、継続適用を条件として部分純資産直入法を適用することもできる。また、株式、債券等の有価証券の種類ごとに両方法を区分して適用することも認められる(実務指針73)。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の通常時の評価 株式や証券投資信託等の場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする(基準19(2))。 また、債券の場合も原則として、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とする(基準16、19(1))。 (5) 減損 減損の検討は、時価のあるその他有価証券と時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券で検討過程が異なる。 ① 時価のあるその他有価証券の減損 時価のあるその他有価証券における減損の検討は、時価のある満期保有目的の債券(【STEP1】(2)①参照)や子会社株式等(【STEP2】(7)①参照)と同様である。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の減損 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の場合、債券と株式でその検討過程が異なる。 (ⅰ) 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券(株式)の減損 時価を把握することが極めて困難なその他有価証券(株式)は、株式発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、減損処理を行う。ただし、時価を把握することが極めて困難と認められる株式の実質価額について、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理をしないことも認められる(実務指針92)。 したがって、(イ)財状状態の悪化、(ロ)実質価額の著しい低下、(ハ)減損の判定を検討する必要がある。 (イ) 財政状態の悪化の判定 財政状態とは、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいう。「財政状態の悪化」とは、この1株当たりの純資産額が、当該株式を取得したときのそれと比較して相当程度下回っている場合をいう(実務指針92)。 「相当程度下回っている」とは、どの程度かが基準等で定められていないため、各社で相当程度下回っている場合を決定する必要がある。 なお、財政状態の悪化がなくても、減損処理が必要な場合(下記(ハ)参照)があるため、財政状態が悪化しているか否かにかかわらず、下記(ロ)、(ハ)を検討する必要がある。 (ロ) 実質価額の著しい低下の判定 上記(3)より、すでに実質価額の著しい低下があると判定されているため、ここで改めて判定する必要はない。 (ハ) 減損の判定 上記(イ)、(ロ)より、財政状態の悪化により実質価額が著しく低下している場合には、減損処理を行う。なお、特定のプロジェクトのために設立された会社で、中長期の事業計画等を入手することが可能な場合、当該事業計画等において、開業当初の累積損失が一定期間経過後に解消されることが合理的に見込まれており、かつ、その後の業績が当該事業計画等を大幅に下回っていなければ、当該会社の株式の実質価額の下落は恒久的なものではないとして、減損処理の対象としないことができる。(Q&A Q33、実務指針92)。 また、財政状態の悪化がなくても、以下のような場合、実質価額の著しい低下のみで減損処理を行う。 会社の超過収益力や経営権等を反映して、財務諸表から得られる1株当たり純資産額に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得することがある。その後、超過収益力等が減少したために実質価額が大幅に低下することがある。このような場合には、たとえ発行会社の財政状態の悪化がないとしても、将来の期間にわたってその状態が続くと予想され、超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならない(Q&A Q33)。 (ⅱ) 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券(債券)の減損 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券(債券)の減損の検討は、【STEP1】(2)②と同様に、償却原価法を適用した上で、債権の貸倒見積高の算定方法に準じて信用リスクに応じた償還不能見積高を算定し、会計処理を行う。また、償還不能見積高の算定は、原則として、個別の債券ごとに行う(実務指針93)。 償還不能額がなければ、貸借対照表価額は当然に(4)②また書きの場合と同額になる。 * * * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
J-SOXの経験に学ぶ マイナンバー制度対応のイロハ 【第2回】 「プロセスで理解するマイナンバー制度の保護措置」 公認会計士 金子 彰良 ◆はじめに 第1回では、マイナンバー制度への対応は、コンプライアンスに焦点をあてた内部統制の構築作業であると述べた。そのため、内部統制が「存在し、かつ機能している」状態を作らなければならない。 一見すると経営管理のしくみをゼロから構築するイメージがあるが、実は、マイナンバー制度への対応は、従来から企業に存在する業務プロセスに個人番号関連の事務を付加することによって構築する。すなわち、マイナンバー制度への対応にあたって業務プロセスを全く新規に構築する必要はない。 また、関連事務が付加される業務プロセスの数は、その性質から5つに集約される。したがって、これら付加される関連事務を具体的にどのように既存業務に取り込むかを検討すればよい。 第2回では、マイナンバー制度対応に伴い関連事務が付加される5つの業務プロセスとガイドラインにおける保護措置を整理する。これによって、全体を鳥瞰する眼を持つとともに、具体的な安全管理措置を検討する準備としたい。 ◆マイナンバー制度で関連事務が付加される業務を鳥瞰する(プロセスマップ) ▷マイナンバー制度対応のための業務構築は、5つの業務に焦点をあてる 新しく公表される法令やその取り組みに当たっての指針を示すガイドラインなどは、その性質から文字による情報が多い。 また、条文は必ずしも業務の順序と同じではなく、また体系立てて説明される形になっていないため、これらは読み込まないと全体が頭に入らない。 番号法に基づくガイドラインも同じである。 このようなとき、ガイドラインを読むために全体を鳥瞰した絵があると理解しやすくなる。 〇5つの管理段階=関連事務が新たに付加される業務プロセスとは ガイドラインの「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」(以下「別添資料」という)では、事務の流れを整理し、特定個人情報等の具体的な取扱いを定める取扱規程等を策定しなければならないとしている。 その上で、手法の例示として、次の5つの管理段階ごとに特定個人情報等の具体的な取扱いを定めることが記載されている。 これらの各管理段階は、マイナンバー制度によって個人番号関連の事務が新たに付加された業務プロセスを表す。したがって、安全管理措置の構築に際しては、制度対応が必要となるこれらの業務プロセスに焦点をあてて、関連事務を既存業務に具体的にどのように取り込むかを検討することになる。 ▷関連事務が付加される業務をプロセスマップで表現し、頭の中にマイナンバー制度を鳥瞰するための地図をつくる 個人番号関連の取扱事務において、それぞれの管理段階の関係を考慮し、全体を1枚のプロセスマップとして表現すると図表2-1のようになる。なお、「③保存する段階」については、必要な時にはすぐに取り出せる意味を含め「保管」としている。 図表2-1 プロセスマップ(5つの管理段階) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 実務上はもう一段階レベルを下げたイベントごとの業務プロセス(例えば、入社や退社、休職や復職、組織異動など)別に手続を規定するが、その前にこの5つの業務プロセスを制約するガイドライン上の考え方をまず理解しなければならない。 ▷ガイドラインにおける保護措置は、プロセスマップに位置づけると理解しやすい 個人番号は、当面、社会保障、税及び災害対策の分野において利用されるものであるが、個人番号が漏えいした場合など、個人の権利や利益を侵害する恐れがある。そのため、番号法では、特定個人情報について個人情報保護法よりも厳格な各種保護措置を設けている。 保護措置は、大別すると①特定個人情報の利用制限、②特定個人情報の安全管理措置、③特定個人情報の提供制限等の3つに分類されるが、事業者にとって、いつ、どのような保護措置が適用されるのか把握しなければならない。 そこで、以下では、5つの業務プロセスが各保護措置とどのような関係にあるのかを整理している。 まず、①特定個人情報の利用制限、③特定個人情報の提供制限等について確認をする。この2つは、以下のように、個々の業務プロセスと関連づけることができる。 〇取得 個人番号の取得にあたっては、いつでも取得できるわけではなく、個人番号関係事務を処理するために必要がある場合に限って、本人などに対して個人番号の提供を求めることができる(個人番号の提供の要求)。 また、個人番号の取得目的は限定されており、番号法で限定的に明記された場合を除いて、個人番号の提供を求めることはできない(個人番号の提供の求めの制限)。 さらには、個人番号を含む特定個人情報について、番号法で限定的に明記された場合を除いて、集める意思を持って自己の占有に置いてはならない(収集制限)。 なお、事業者は本人から個人番号の提供を受けるときは、個人番号カードの提示等、番号法で認められた方法で本人確認を行う義務がある。 図表2-2 取得 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇保管 特定個人情報は、番号法で限定的に明記された場合を除いて保管してはいけない(保管制限)。なお、特定個人情報等は、企業によってシステムのデータベースであったり、紙のファイルであったりする。 図表2-3 保管 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇利用 事業者が個人番号を利用できる事務は、番号法によって限定的に定められている(個人番号の利用制限)。また、事業者は個人番号関係事務を処理するために必要な範囲を超えて、特定個人情報ファイルを作成することはできない(特定個人情報ファイルの作成の制限)。 図表2-4 利用 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇提供 事業者は番号法で限定的に明記された場合を除いて、特定個人情報を提供してはいけない(特定個人情報の提供制限)。現時点(2015/1/29)では、社会保障及び税に関する手続書類に従業員等の個人番号を記載して行政機関等及び健康保険組合等に提出する場合が該当する。 図表2-5 提供 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇削除・廃棄 個人番号関係事務を処理する必要がなくなった場合で、所管法令において定められている保存期間を経過した場合には、個人番号をできるだけ速やかに廃棄又は削除しなければならない(廃棄)。 図表2-6 廃棄・削除 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 次に、残った②特定個人情報の安全管理措置であるが、これはすべての業務プロセスに関連する。 〇安全管理措置 個人番号及び特定個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止等のために、必要かつ適切な安全管理措置を講じなければならない。別添資料では、安全管理措置の検討手順として、個人番号を取り扱う事務の範囲と特定個人情報等の範囲及び事務取扱担当者を明確にした上で、基本方針の策定と取扱管理規程等の策定をするとしている。 また、取扱管理規程等では、業務プロセス(各管理段階)ごとの具体的な取扱い事項を定めるにあたって、安全管理措置の具体的な内容として「組織的安全管理措置」「人的安全管理措置」「物理的安全管理措置」「技術的安全管理措置」の4つを織り込むことが重要としている。 図表2-7 安全管理措置 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 なお、ガイドラインでは委託の取扱いについて記載しており、個人番号関係事務の委託にあたっては、安全管理措置は事業者自らが講じた上で、委託先にもその措置を求めるというのが基本的な考え方となっている。 〇安全管理措置(委託の取扱い) 個人番号関係事務の全部又は一部の委託者は、委託先において、番号法に基づき委託者自らが果たすべき安全管理措置と同等の措置が講じられるように必要かつ適切な監督を行わなければならない。 図表2-8 安全管理措置(委託の取扱い) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 以上のように、プロセスマップと関連する保護措置を整理することで、ガイドラインや別添資料で記載されている内容が、どのプロセスの話をしているのか、または、プロセス共通の全体の話をしているのかなど理解しやすくなる。いわば、ガイドライン等を読む際に、頭の中にマイナンバー制度の地図を持つことができる。 * * * 次回は、マイナンバー制度に対応したコンプライアンス体制構築のアプローチを解説する。その中で、企業にとっては気になるであろう安全管理措置の検討において策定する基本方針と取扱規程等が、どの程度整備されればよいかを検討する際の考え方も解説したい。 (了)