こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第22回】 「投資信託の分配金に課された所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成27年2月20日に当社名義で500万円の投資信託を購入しました。この投資信託は、国内の株式割合が80%です。投資信託の分配金として、3月3日に普通分配金2,234円、3月14日に特別分配金7,419円が入金になりました。証券会社の明細によると、普通分配金からは所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されており、特別分配金からは所得税及び復興特別所得税は源泉徴収されていませんが、会計処理がよくわかりません。 投資信託の分配金に課された所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 1 会計上の取扱い 普通分配金は、15.315%の税率で所得税及び復興特別所得税が源泉徴収される。特別分配金は、元本の払い戻しに相当するため、投資有価証券の帳簿価額を減額する。 会計処理は、次の通りである。 〈投資信託の購入時の会計処理〉 【2月20日】 〈普通分配金の入金時の会計処理〉 【3月3日】 〈特別分配金の入金時の会計処理〉 【3月14日】 2 税務上の取扱い 普通分配金から源泉徴収された所得税及び復興特別所得税は、所得税額控除の適用があるため、法人税の税務申告書の別表六(一)所得税額の控除に関する明細書に記載する。 また、外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれも50%以下の株式投資信託は普通分配金の2分の1が益金不算入の対象になり、外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれも75%以下の株式投資信託は普通分配金の4分の1が益金不算入の対象になる。外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれかが75%超の株式投資信託は普通分配金の全額が益金算入になる。 当社が購入した投資信託は国内の株式割合が80%なので外貨建資産割合及び株式以外の資産割合のいずれも50%以下の株式投資信託に該当し、普通分配金の2分の1が益金不算入の対象になる。したがって、受取配当等の益金不算入の適用があるため、法人税の税務申告書の別表八(一)受取配当等の益金不算入に関する明細書に記載する。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第22回】 「裁決例②」 公認会計士 佐藤 信祐 平成18年に会社法が施行されたときに、みなし配当や資本金等の額の規定が整備され、その他利益剰余金の配当については利益積立金額の減額、その他資本剰余金の配当はプロラタ処理を行うことになった。 本号においては、その他利益剰余金とその他資本剰余金の配当を同時に行った場合において、その全額をその他資本剰余金の配当と同一の処理を行うべきであるとされた事件について取り扱う。 7 平成24年8月15日裁決 (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が請求人の子会社からその他利益剰余金及びその他資本剰余金をそれぞれ原資とする剰余金の配当を受けたことについて、原処分庁が、これらの剰余金の配当は、その効力発生日が同じ日であることなどから、その他利益剰余金及びその他資本剰余金の双方が同時に減少されて配当されたものであり、当該配当に係る配当金の全額が資本の払戻しによるものであるとして、いわゆるみなし配当の額の計算、当該みなし配当の額に係る所得税額控除、所有株式の譲渡損益の計算を行うなどして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、これらの剰余金の配当は会社法上別々の決議に基づくものであり、その全額が資本の払戻しによるものには該当しないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。 なお、本事件の争点は以下の4つである。 本稿においては、このうち、【争点1】についてのみ解説を行うこととする。 (2) 原処分庁の主張 法人税法第24条第1項第3号は、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち」と規定しているから、剰余金の配当の原資に資本剰余金が含まれる場合には、当該剰余金の配当に係る全額が同号に規定する「資本の払戻し」によるものに該当することになる。そして、J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、同年11月1日を効力発生日とする、本件2号議案配当と本件4号議案配当を行うことを決議しており、同日(同年11月1日)に利益剰余金及び資本剰余金の双方を同時に減少させたものと認められるので、法人税法上の所得金額の計算における本件配当は、資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当の額に該当し、その全額が法人税法第24条第1項第3号の資本の払戻しによるものに該当する。 (3) 請求人の主張 J社は、普通株式、A種株式及びB種株式を発行しているが、このうち、B種株式については、J社の定款規定により平成36年12月期までの間は利益剰余金からの配当は行わないこととされている。そのため、J社は、平成20年9月17日に開催した取締役会において、本件2号議案配当については、同年10月14日を基準日とする普通株式及びA種株式に割り当てること、本件4号議案配当については、同月15日を基準日とする普通株式、A種株式及びB種株式に割り当てることを別々の議案として決議しており、本件2号議案配当と本件4号議案配当は、会社法上、それぞれ別々の法律行為として成立している。 したがって、本件2号議案配当と本件4号議案配当は、配当の効力発生日が同じ日であったとしても、それぞれの法律行為に法令を適用することとなるので、本件2号議案配当は、法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当に、本件4号議案配当は、同法第24条第1項第3号に規定する資本の払戻しに該当するから、本件配当は、その全額が資本の払戻しによるものには該当しない。 (4) 国税不服審判所の判断 法人税法第23条第1項第1号は「剰余金の配当(〔中略〕資本剰余金の額の減少に伴うもの〔中略〕を除く。)」と規定し、同法第24条第1項第3号は「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち、〔中略〕)」と規定しているところ、剰余金の配当の原資に資本剰余金の額が含まれている場合には、当該剰余金の配当は、「資本剰余金の額の減少に伴うもの」として同号に規定する資本の払戻しに該当するものと解され、資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少させて剰余金の配当を行った場合もまた、当該剰余金の配当に係る全額が同号に規定する資本の払戻しによるものに該当すると解するのが相当である。 (5) 評釈 本事件においては、会社法上、別々の手続きとして取り扱っているその他資本剰余金の配当とその他利益剰余金の配当を、効力発生日が同日であることを理由として、一体として取り扱われているという特徴がある。 おそらくは、納税者側の主張の方が理論的であり、これを支持する見解も少なくないと考えられる。しかしながら、本裁決例は『改正税法のすべて(平成18年度版)』256-257頁において、 と解説されていたことを受けたものであり、実務上は、このように解さざるを得ないと考えられる。そのため、別々に取り扱うことを望むのであれば、効力発生日を1日ずらすということが必要になってくると考えられる。 また、納税者に有利な取扱いになるような場合には、このような裁決例を悪用する事例も想定されるという問題もあるため、本来であれば、別々に取り扱うべきだったのかもしれないが、この点については、立法論として考えるべきものともいえる。 いずれにしても、本事件のようなことが生じる可能性は十分に考えられ、実務上、慎重な対応が必要になってくる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【56】 〔第7章〕判例の探し方 (その3) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (7) 『高等裁判所刑事裁判速報』『高等裁判所刑事裁判速報集』 『高等裁判所刑事裁判速報』は、各高等検察庁により昭和26年(国立国会図書館の紹介ページでは昭和24年からとなっている。ただし未所蔵)から刊行されているもので、それぞれの高等検察庁が、その高等裁判所における刑事事件の裁判(判決・決定)として実務的有用と判断した判決を編集したものである。最高裁判所図書館で閲覧可能である。 最高裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所刑事裁判速報」と入力して検索。 ただし、上記検索結果画面を見て分かる通り、福岡高裁・大阪高裁の分は昭和26年より所蔵されているが、東京高裁の分は昭和28年分からしか所蔵されていない。 『高等裁判所刑事裁判速報集』は、『高等裁判所刑事裁判速報』に掲載された裁判(判決・決定)を1年ごとにまとめて全文を収録したものである。昭和56年から法務大臣官房司法法制調査部(平成12年からは法務省大臣官房司法法制部)により編集され、法曹会から出版されている。各高等裁判所別で速報番号順に掲載されており、巻頭に法条別索引、巻末に裁判年月日索引、事項索引が付されている。 CiNiiによれば、現在37大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「高等裁判所刑事裁判速報集」 (8) 『高等裁判所刑事判決特報』 最高裁判所事務総局刑事局が、各高等裁判所の刑事事件の判決の中から重要なものをピックアップし掲載したものである。重要とされる部分のみが抜き出された抄録となっており、条文別、裁判年月日順の総索引が付いている。昭和25年から昭和31年の1号~40号まであり、最高裁判所図書館で全号が閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所刑事判決特報」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在71大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「高等裁判所刑事判決特報」 国立国会図書館にも所蔵されているが、23号は欠号となっている。 「高等裁判所刑事判決特報」(国立国会図書館) (9) 『高等裁判所刑事裁判特報』 最高裁判所事務総局刑事局が、各高等裁判所の刑事事件の裁判(判決・決定)の中から重要なものをピックアップして掲載したものである。重要とされる部分のみが抜き出された抄録となっており、昭和29年から昭和33年(※ 下記追記参照)の1巻1号~5巻12号まである。なおこの『高等裁判所刑事裁判特報』の役割は、昭和34年以降、『第一審刑事裁判例集』と併合して『下級裁判所刑事裁判例集』に引き継がれている。 (8)の『高等裁判所刑事判決特報』(以下「高判特」)と期間的に重複している部分もあるが、高判特と異なり、判決以外の決定も収録されている。最高裁判所図書館で全号が閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「高等裁判所刑事裁判特報」と入力して検索。 CiNiiによれば、高判特と同様、現在71大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「高等裁判所刑事裁判特報」 国立国会図書館にも所蔵されているが、2巻5号と3巻3号は欠号となっている。 「高等裁判所刑事裁判特報」(国立国会図書館) 昭和34年以降は、『第一審刑事裁判例集』と合併して『下級裁判所刑事裁判例集』に引き継がれている(次回詳述)。 (10) 『東京高等裁判所刑事判決時報』『東京高等裁判所判決時報』 東京高裁が独自に発行しているもので、『東京高等裁判所刑事判決時報』(以下「東高刑時報」)は、東京高等裁判所調査室が東京高裁の刑事事件の裁判の中から実務上参考となる裁判(判決・決定)を選択して掲載したものである(タイトルは「判決」となっており紛らわしい)。重要とされる部分が抜き出された抄録となっている。昭和26年から刊行されており、刊行当初は1号~13号と巻が付されていなかったが、27年から28年までは2巻1号~3巻6号となっている。4巻以降は民事を加えて下記の『東京高等裁判所判決時報』(以下「東高時報」)となっている。 東高時報自体は1つの冊子であるが、『最高裁判所判例集』等と同様、刑事と民事の二部に分かれている(前回参照)。刑事の部は上記東高刑時報を引き継いだものであり、民事の部には、民事事件及び行政事件の裁判(判例・決定)が掲載されている。通常、この刑事と民事を分けて各々をひとまとめにして製本し、前者を『東京高等裁判所判決時報 刑事』又は『東京高等裁判所刑事判決時報』、後者を『東京高等裁判所判決時報 民事 』又は『東京高等裁判所民事判決時報』と呼ぶ(どちらの呼び方の場合にも、「民事」・「刑事」に括弧を付し「(民事)」・「(刑事)」や「〈民事〉」・「〈刑事〉」等とする場合もある)。 なお上述のとおり東高時報は4巻からとなるため、『東京高等裁判所判決時報 民事』には1巻~3巻が存在しない。これも重要とされる部分のみが抜き出された抄録となっており、最高裁判所図書館で閲覧可能である。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「東京高等裁判所刑事判決時報」又は「東京高等裁判所判決時報」と入力して検索。 CiNiiによれば、東高刑時報については、現在47大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 「東京高等裁判所刑事判決時報」 国立国会図書館にも所蔵されているが、民事の部を「東京高等裁判所判決時報 」、刑事の部を「東京高等裁判所判決時報 刑事 」と称している。 「東京高等裁判所判決時報 民事」(国立国会図書館) 「東京高等裁判所判決時報 刑事」(国立国会図書館) 東高刑時報は後に駿河台出版社から市販されており、下記リンク先の大学図書館に所蔵されている。 「東京高等裁判所刑事判決時報」 一方、東高時報の刑事、民事のそれぞれについては、名称が不統一なこともあり、検索結果がまとまって表示されないため(刑事の場合には上記東高刑時報に含まれている場合もある)、大学図書館へ収集に行く際には注意が必要である。 「東京高等裁判所判決時報」 「東京高等裁判所判決時報 刑事」 「東京高等裁判所判決時報 民事」 「東京高等裁判所刑事判決時報」[公文書版] 「東京高等裁判所刑事判決時報」[市販書版] (続く)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第75回】 税効果会計⑥ 「法人税等調整額の計上」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 X2年3月期 繰延税金資産の計上 (*1) [X2年3月期 期末 繰延税金資産:105]-[X2年3月期 期末 繰延税金負債:0]=105 [X2年3月期 期首 繰延税金資産:70]-[X2年3月期 期首 繰延税金負債:0]=70 [X2年3月期 期末 差額:105]-[X1年3月期 期首 差額:70]=35 〈会計処理の解説〉 会計上棚卸資産の評価損を、X1年3月期において200、また、X2年3月期において300計上していることから、それぞれの繰延税金資産は、X2年3月期 期首70、期末105となります。なお、X1年3月期に評価損計上の対象となった棚卸資産はX2年3月期には売却されているか廃棄されており、評価損が税務上損金算入される結果、X2年3月期の期末時点で一時差異は解消しています。 一方、資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額を直接純資産の部に計上する場合には、当該評価差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を当該評価差額から控除して計上しなければなりません(基準 第二.二.3)。そのため、当期に納付すべき法人税等の調整額を算定する場合において、評価差額に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の増減額を含めないことに留意が必要です。 本事例においては、保有する有価証券の時価がX1年3月期において120、また、X2年3月期において140であることから、有価証券の評価替えの仕訳は以下のとおりです。 X2年3月期 有価証券の評価替え (*2) X1年3月期 (時価120-取得原価100)× 法定実効税率35% = 繰延税金負債7 (*3) X2年3月期 (時価140-取得原価100)× 法定実効税率35% = 繰延税金負債14 上記のとおり、有価証券の評価替えからは法人税等調整額は計上されません。そのため、当期に納付すべき法人税等の調整額を算定する際に、評価差額に係る繰延税金負債を含めません。 以上より、X2年3月期において法人税等調整額は、貸方に35計上されます。 法人税等調整額を算定するための上記の表には、評価差額に係る繰延税金負債の増減額を含めません。 ※4月は純資産会計を取り上げます。 (了)
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《固定資産》編 【第3回】 「圧縮記帳」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 特定資産の買換えの圧縮記帳には、税法上、帳簿価額直接減額方式と積立金方式がありますが、中小企業会計指針では後者の方法が原則とされます。 今回は、この特定資産の買換えの圧縮記帳について、会計処理の一例をご紹介します。 1 大阪工場売却時、鳥取工場建物取得時、圧縮記帳の特例適用時の仕訳 〈大阪工場売却時(X0年4月1日)〉 〈鳥取工場建物取得時(X0年4月1日)〉 〈圧縮記帳の特例適用時(X1年3月31日)〉 (1) 特定資産の買換えの場合の圧縮記帳(税務上) 税法上、特定資産の買換えの場合に、圧縮記帳の制度があります。 法人(清算中の法人を除く)が、所定の期間内に、その有する所定の固定資産を譲渡した場合、その譲渡の日を含む事業年度において、特定の買換資産を取得し、かつ、その取得の日から1年以内にその法人の事業の用に供した(又は供する見込である)ときは、その買換資産につき、その圧縮基礎取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の80%に相当する金額(圧縮限度額)の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額をその事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法(剰余金の処分により積立金として積み立てる方法を含む)により経理したときに限り、その減額又は経理した金額に相当する金額は、その事業年度の損金の額に算入します(措法65の7①)。 この設例は、既成市街地等の内から外への買換え(措法65の7①)に該当するものとし、圧縮限度額を、次のように算定します。 (ⅰ) 圧縮基礎取得価額 (ⅱ) 差益割合 (ⅲ) 圧縮限度額 このように算定した圧縮限度額56,000,000円を圧縮額とし、この金額を当期(X0年4月1日~X1年3月31日)において損金の額に算入します。 (ⅳ) 当期(X0年4月1日~X1年3月31日)における圧縮額の取崩し 圧縮額56,000,000円をその事業年度の確定した決算において積立金として積み立てる方法により経理したときは、減価償却費の計上に対応させて、積立金を取り崩して益金の額に算入していきます。当期(X0年4月1日~X1年3月31日)においては次の金額だけ圧縮積立金を取り崩し、益金の額に算入します。 (2) 中小企業会計指針の会計処理 上記のとおり、税法上、圧縮記帳には買換資産の帳簿価額を直接減額する方法と決算において積立金として積み立てる方法があります。しかし、中小企業会計指針では、圧縮記帳は原則としてその他利益剰余金の区分における積立て及び取崩しにより行うものとされ(中小企業会計指針 固定資産要点)、決算において積立金として積み立てる方法が原則とされています。上記〈圧縮記帳の特例適用時(X1年3月31日)〉の仕訳は、この方法によっています。圧縮積立金は、圧縮額から繰延税金負債を控除した純額を計上します。また、減価償却資産についてはその耐用年数にわたり、減価償却に対応して圧縮積立金を取り崩します(中小企業会計指針35)。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第4回】 「金融資産の消滅の認識」 公認会計士 阿部 光成 第3回では、金融資産及び金融負債を、いつ、財務諸表に計上すべきか、すなわち、金融資産及び金融負債の発生をいつ認識するのかについて解説した。 財務諸表に認識した金融資産及び金融負債を、いつ財務諸表から除外するのか、すなわち、金融資産及び金融負債の消滅の認識についても、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)において規定されている。 今回は、金融資産の消滅の認識に関する基本的な規定について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 金融資産の消滅の認識要件 金融商品会計基準は、①金融資産の契約上の権利を行使したとき、②権利を喪失したとき又は③権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識しなければならないと規定している(金融商品会計基準8項、9項)。 金融商品会計基準56項は、例えば、債権者が貸付金等の債権に係る資金を回収したとき、保有者がオプション権を行使しないままに行使期間が満了したとき又は保有者が有価証券等を譲渡したときなどには、それらの金融資産の消滅を認識することとなると述べている。 Ⅱ 金融資産の消滅の認識に係る会計処理 1 発生の認識と消滅の認識に関する基本的な会計処理 金融資産がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該金融資産の消滅を認識することになり、帳簿価額とその対価としての受払額との差額については当期の損益として処理することになる(金融商品会計基準11項)。 有価証券(その他有価証券に分類される株式)の売買の例を用いて、発生の認識と消滅の認識に関する一連の会計処理を示すと次のようになる(約定日基準により会計処理する。金融商品会計実務指針22項)。 下記の例では、発生の認識と消滅の認識に関する会計処理の趣旨を示すために、付随費用などについては省略した例としている。また、金額及び日付については、仮定のものである。 2 金融資産の一部が消滅の認識要件を充たすケース 金融資産又は金融負債の一部がその消滅の認識要件を充たした場合には、当該部分について消滅を認識し、消滅部分の帳簿価額とその対価としての受払額との差額については当期の損益として処理することとなる(金融商品会計基準12項)。 この際、消滅部分の帳簿価額は、当該金融資産又は金融負債全体の時価に対する消滅部分と残存部分の時価の比率により、当該金融資産又は金融負債全体の帳簿価額を按分して計算する。 また、金融資産又は金融負債の消滅に伴って新たな金融資産又は金融負債が発生した場合には、当該金融資産又は金融負債は時価により計上することとなる(金融商品会計基準13項)。 (了)
テレワーク・在宅勤務制度導入時に 気をつけたい労務問題 【第4回】 (最終回) 「『テレワーク勤務規程』の作成」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 テレワーク勤務時と通常の職場での勤務時において同じ労働時間制度を採用する場合は、テレワーク勤務規程を作成しなくても、既存の就業規則でテレワーク勤務は可能である。 ただし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じることもあり、この場合、労働時間に関わるような原則的な事項は就業規則を改正すべきで、テレワーク勤務のみの限定事項については『テレワーク勤務規程』として別規程を用意した方がよいといえる。 なお、別規程を用意した際には、本規程は就業規則の一部とされ、本規程を作成・変更したときは所轄労働基準監督署へ届出が必要となる。 テレワーク向け規程を用意する際には、以下の項目について検討していただきたい。 ▷テレワーク勤務者の対象範囲・業務の種類 育児休業明けの従業員を対象とするのか、又は業務内容によって適用される範囲を定めるかなどを具体的に取り決める。 ▷テレワーク勤務者の選定基準 テレワーク勤務を認める従業員の勤続年数や職位など、適用される従業員の選定基準について具体的に定める。 ▷就業場所等の労働条件の明示 実務上注意しなければならないのは、実際に在宅勤務やモバイル勤務を命じるときは「労働条件通知書」あるいは「辞令」、新たに労働者を雇い入れる場合は「雇用契約書」等でその内容を明示する必要があるという点である。また、自宅で勤務させる場合にはその就業場所を「自宅」と明記しなければならない。 テレワーク勤務規程を別に設ける場合は、その規程の適用があることを就業規則に記載しておくのが望ましい。 ▷テレワーク時の服務(ルール) オフィス勤務と違い、その勤務形態が「離れて働く」ことから、会社から見えない場所であっても「職務専念義務」のあることを規則に記載しておくことが必要である。 企業によっては、在宅勤務において「図書館」「スポットオフィス」等で作業することを禁止している例も見受けられ、これは労働災害、通勤途上災害や機密保持等を懸念したものである。 なお、資料の持ち帰りルールや漏洩防止のための情報管理の方法も必要である。 ▷テレワーク時の労働時間制 テレワーク勤務が、就業規則に規定されていない勤務体系(例えばフレックスタイム制)を適用する場合や在宅勤務時のみなし労働時間制を適用する場合において、就業規則に事業場外みなし労働時間制の規定がないときは、その規定を追加する。 ▷賃金、通勤手当、在宅勤務手当等の諸手当 人事評価制度を新設あるいは改定したり、通勤手当を変更する場合や在宅勤務手当を新設する時、又は、業務内容の変更による給与の変更を行う場合のルール等を定める。 ▷テレワーク勤務者に対する安全衛生・健康 常時型在宅勤務の場合、健康管理については自己に委ねることが多くなることから、導入時や定期的に、一般の健康診断とは別に健康診断を実施したり、産業医による健康相談を義務づける。 作業環境として、特に在宅勤務では働く場所が従業員の自宅であるため、使用者が従業員の自宅まで干渉することとなり、プライバシーの侵害等の問題がある。一方、使用者には職場の安全衛生に関する配慮義務があることから、在宅勤務については作業環境に関するルールを作り、これに従って作業環境を整えるよう指示をする。 ▷テレワーク勤務者に対する教育・研修 テレワークを導入する際には、当然ながら、その内容を社内にきちんと周知を行うことが重要である。 具体的には、在宅勤務を導入するねらい・目的、対象となる部門、実施の概要などを社内に伝える。社内に周知がされていないと、誤った情報や噂などが広がり、従業員が困惑したり、テレワーク実施者に対する批判(怠けている等の誤解)などが起こることも考えられる。 特に在宅勤務者については、「楽をしているように見える」であるとか「厚遇を受けている」とかの批判も見られるため、このような誤った考えがテレワーク導入の阻害要因となっていることが少なからず見られる。 テレワーク導入時にはこの点にも配慮が必要であり、在宅勤務者だけでなく、その部署の従業員に対してもテレワークの研修と理解が必要である。 ▷テレワーク時の情報セキュリティ 本連載の第2回で取り上げたように、在宅勤務時は、ネットワーク回線を通じて、オフィスに設置されたサーバーへアクセスしたり、電子メールを活用する機会が増える。また、自宅で仕事するために、オフィスに置いてある資料などを持ち帰ることもあり、在宅勤務時には、これまで以上に情報セキュリティに気をつかわなければならない。さらに電子メールやホームページを閲覧することによって、ウィルスなどの被害に遭う確率も高まるため、こうした点への対応も必要となる。 そこで、会社としてのセキュリティ・ポリシーや情報管理規程を策定ないしは改定し、情報システム上の機密防衛策と、従業員に対するセキュリティ教育を実施することが必要になる。在宅勤務者に対する条件は、こうした会社全体のポリシーや運用体制を整備するなかで合理的に定めていくべきである。 ▷テレワーク時の通信費等の費用負担 厚生労働省の「在宅勤務ガイドライン」にも示されているとおり、在宅勤務に関わるコストに関しては、労使の話し合いにより会社負担か個人負担かを項目によって決めておくことが必要である。 (連載了)
最新!《助成金》情報 【第11回】 「雇用関連助成金の活用(その11) 《雇用調整助成金・障害者雇用関連助成金》」」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 《雇用調整助成金》 1 目的 この助成金は、景気変動や産業構造の変化など経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、休業、教育訓練、出向により雇用を維持する事業主を助成することで、労働者の失業予防や雇用安定を図ることを目的とする。 2 対象要件 対象となる事業活動の縮小の要件は、次のすべてを満たすこと。 3 対象措置 この助成金の対象となる措置の概略は、事業主自らが指定した対象期間(1年間)内に行われる次のものとなる。 ① 休業 所定の労働日・時間内に1日又は1時間以上行い休業手当を支払うもの。 ② 教育訓練 職業に関する知識、技能、技術の習得向上を目的とする次のもの。 事業所内訓練 事業主自ら実施するもので所定の労働日・時間内に賃金を支給し1日又は3時間以上行い受講日に業務に就かせないもの。 事業所外訓練 外部の教育訓練機関等で所定の労働日・時間内に賃金を支給し1日又は3時間以上行い受講日に業務に就かせないもの。 ③ 出向 同意を得て出向元事業主が賃金を支払い3ヶ月~1年以内で出向し、終了後は出向元事業所に復帰するもの。 4 支給額 (1) 対象措置ごとの支給額 ① 休業 対象者に支払われた休業手当相当額に下記表[1]の助成率を乗じた額。 ② 教育訓練 対象者に支払われた賃金相当額に下記表[1]の助成率を乗じた額にさらに下表[2]の加算額を加えた額。 ③ 出向 出向元事業主の負担額に下表[1]の助成率を乗じた額。 【助成率と加算額】 (2) 支給対象期間 1年間に100日、3年間で150日を限度とする。 5 手続の流れ 6 活用のポイント 売上などが減少して従来の雇用者数を維持することが困難になった事業主が、必要な人材の雇用を継続するにはとても有効な制度である。 特にこの助成金を活用して業務に関連する教育や訓練を実施し、従業員の知識や技能、技術を向上することにより事業所全体のレベルの向上を実現できれば、将来に向けてさらに高い効果が期待できる。 《障害者トライアル雇用奨励金》 1 目的 この助成金は、ハローワークや民間職業紹介事業者等の紹介により就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより、その適性や業務遂行能力を見極めて求職者と求人者の相互理解を促進させ、障害者の早期の就職の実現と雇用機会を創出することを目的とする。 2 対象労働者 この奨励金の対象となる労働者は、次の(1)か(2)のいずれかの労働者となる。 (1) 障害者トライアル雇用の対象労働者 次の①と②の両方に該当する者。 (2) 障害者短時間トライアル雇用の対象労働者 次の①と②の両方に該当する者。 3 支給額 (1) 支給対象期間 [障害者トライアル雇用] 雇用開始日から1ヶ月単位で最長3ヶ月間を対象として支給する。各月の合計額をまとめて1回で支給する。 [障害者短時間トライアル雇用] 雇用開始日から1ヶ月単位で最長12ヶ月間を対象として支給する。最初の6ヶ月間とその後の6ヶ月間の合計額を2回に分けて支給する。 (2) 支給額 [障害者トライアル雇用] 対象者1人につき月額4万円 [障害者短時間トライアル雇用] 対象者1人につき月額2万円 4 対象外事業主 雇入日前日から6ヶ月前の日からトライアル雇用終了日までに、事業主都合による解雇者や勧奨退職者又は一定数以上の特定受給資格者となる退職者を出した事業主はこの助成金の対象とならない。 5 手続の流れ 6 活用のポイント この助成金は、障害者を初めて雇用しようとする事業主にとって、その適性や業務遂行の可能性を見極めるにはとても有効である。 ハローワーク等障害者の紹介機関には障害者の雇用に関する多くの情報もあるため、仕事内容や受入れ態勢などを説明し、また、障害者の適性などについても相談することもでき、障害者の雇入れと雇用継続には有効となる。 《障害者初回雇用奨励金(ファースト・ステップ奨励金)》 1 目的 この助成金は、障害者雇用の経験のない中小企業(労働者数50~300人)において、障害者を初めて雇用することで障害者の法定雇用率を達成する場合に助成するものであり、中小企業の障害者雇用を促進することを目的とする。 2 対象となる措置 この奨励金は、次の(1)の対象労働者を(2)の条件により雇入れし、(3)の要件を満たした場合に支給される。 (1) 対象労働者 次の①②③のいずれかに該当する65歳未満の求職者。ただし、事前に雇用予約があった場合や過去に派遣やアルバイトなどで就労経験がある場合、雇入れ事業主と密接な関係にある事業主に雇用されていた場合などは対象とならない。 (2) 雇入れ条件 次の①②いずれかの条件を満たすこと。 (3) 支給要件 1人目の対象労働者を、雇入れ日の翌日から起算して3ヶ月後までに雇い入れた対象労働者数が、障害者雇用促進法第43条第1項に規定する法定障害者数以上となり法定雇用率を達成すること。 【法定雇用率達成のために必要な対象労働者数】 3 支給額 支給申請時に常用労働者数が50人~300人の事業主が、要件をすべて満たして雇い入れた場合に120万円が支給される。 4 対象外事業主 過去3年間に対象となる障害者の雇用実績のある事業主や、雇入日前日から6ヶ月前の日から1年経過日までに、事業主都合による解雇者や勧奨退職者又は一定数以上の特定受給資格者となる退職者を出した事業主はこの助成金の対象とならない。 5 手続の流れ 6 活用のポイント この助成金は、障害者の法定雇用率を達成しようとする対象中小事業主にとってはとても有効である。 特に平成27年4月から障害者雇用納付金制度が常用労働者101人以上の事業主も対象とすることになるため、ぜひ検討していただきたい。 《中小企業障害者多数雇用施設設置等助成金》 1 目的 この助成金は、中小企業事業主が事業計画に基づき障害者を10人以上雇用するとともに、障害者の雇入れに必要な事業所の施設・設備等を設置整備した場合に、その費用に対して助成することで、中小企業での障害者の雇入れを促進することを目的とする。 2 対象措置 この助成金は、次の(1)の計画に基づき、(2)の対象労働者を(3)の条件により雇い入れるとともに、(4)の施設を設置した場合に支給する。 (1) 計画書の提出 次の①②③を満たしたうえで労働局へ提出する。 (2) 対象労働者 次の①~③のいずれかに該当する65歳未満の障害者が対象となる。 (3) 雇入れ条件 次の①②いずれかの条件を満たすこと。 (4) 施設設置等 次の①から⑤のすべてを満たすこと。 3 支給額 (※) 事業主の希望により、それぞれ下段〔 〕内の支給額を選択することも可能。 4 対象外事業主 雇入日前日から6ヶ月前の日から支給申請書が受理された日の前日までに、事業主都合による解雇者や勧奨退職者又は一定数以上の特定受給資格者となる退職者を出した事業主はこの助成金の対象とならない。 5 手続の流れ 6 活用のポイント この助成金は、障害者の状況に適したレベルで一定量の業務が確保できる中小企業にとってとても有効である。 施設設備費用に対する助成額は多額であり必要な施設設備の設置に効果的であり、多数の障害者の雇用で地域に対する貢献度も高くなるため、新たに多数の障害者雇用を計画している中小事業主は、ぜひ検討してほしい。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第6回】 「システム担当者不在が引き起こすリスクと回避策」 公認会計士 中原 國尋 はじめに 情報システムを導入する際に問題になることがある事象の一つとして、社内で情報システムをコントロールする担当部署や担当者が不明確になっているケースが挙げられる。 このような状況下で情報システムの導入作業をしなければならない場合、責任の所在が不明確になることも多く、導入時に問題が起こることも少なくない。 そのため以下では、担当者不在での情報システム導入が、実際にどのような問題を引き起こすのかについて紹介する。なお、最近のシステム導入では、特に会計システムの部分についてはフルスクラッチ(いわゆるゼロからの新規開発)で対応する事案は皆無であるため、本稿では、導入するシステムをパッケージソフトウェアに限定する。 ▼昨今の情報システム管理の体制▼ 言うまでもなく情報システム部門は間接部門であり、コストセンターである。そのため、多くの会社ではコスト削減のため縮小を図ってきた。現在では国内に多くのシステムベンダーが存在しており、情報システムを開発・導入する際には社内の人的資源ではなく、社外のシステムベンダーを活用するという状況が成立している。 しかし、外部のシステムベンダーは社内の状況を逐次、正確に把握しているわけではないため、残された情報システム部門の機能としては、経営戦略に沿った情報システム投資などの戦略を立案するなど、情報システムに関する企画機能が中心になる。 実際には、情報システム部門が廃止されその機能は総務部門や会計部門が担っている場合もあり、そのような企業では、それら総務部門などで情報システムに関する企画を検討・立案することが求められる。情報システム部門の役割が十分に認知されていない組織は特にこのような傾向にあり、結果として担当者の対応能力の欠如やスキル不足などの問題が生じやすい。 ▼情報システム部門に求められる役割▼ 情報システム導入段階における情報システム部門の役割は、情報システムの利用者である各部門の担当者と、実際にシステム導入を行う役割を持つシステムベンダーとのコミュニケーションの支援が重要であろうと想定される。 導入されるシステムのユーザーとなる各部門の担当者は、情報システムがどのように構成されているのかについて十分な知識はなく、またシステムベンダーについてはシステム導入の対象となる業務を詳細に理解しているわけではない。 また、一般に社内用語と呼ばれる、社外では通用しない業務に関する専門的な言葉が存在している場合もあり、またシステムベンダーの担当者も技術的な用語を頻繁に用いるなど、ユーザーとベンダーとの間の意思疎通を阻害する要因は多く存在している。 そのため情報システム部門としては、以下のようなことを役割として認識し、それを果たしていくことが必要となる。 ▼システムベンダーとのつき合い方▼ 情報システムの導入を行うにあたって、企画段階からシステムベンダーと協働するケースが見受けられる。 早い段階で情報システム導入にあたってのパートナーを選定し協議を重ねることは有効性が高い方法の一つであると考えられるが、一定程度のデメリットが存在していることも認識する必要がある。 まず、検討の初期段階からシステムベンダーを確定することによって、選択可能なパッケージソフトウェアは、そのベンダーが取り扱うことのできる製品に限られることから、パッケージの選択肢が制約されるケースがある。選択可能なパッケージソフトウェアが導入すべきシステムの要件を比較的満たすことができる場合は問題ないが、想定している業務に適合するパッケージソフトウェアが見当たらない場合には、別途検討を要することになる。 また、システムベンダーとユーザーとの間には情報の非対称性が存在することから、議論がベンダー有利に進む傾向にあることが挙げられる。つまり、システムベンダーはパッケージの機能については当然詳細な情報を有しているが、一方、ユーザー側では、どのようにシステム化を果たせばよいのかという点も含めて情報に乏しいケースが多い。ベンダーが議論を優位に進めることが可能という特徴は、特にコスト面において表れやすい。 同様にユーザー側がシステム化したいと考えている機能のうち、業務プロセス全体として考慮したときに、システム化すべきか否かの判断が合理的に行われないリスクも否定できない。すなわち、ユーザーが実装したいと考えているシステム上の機能について、パッケージそもそもの機能としては存在しないが、追加開発をすれば対応可能である場合に、システムベンダーは多くの場合、実現可能であるとの判断を下す傾向にあるように思われる。実際、それは可能ではあるにせよ、費用対効果の議論が欠落しているかもしれない。一般的に、実装が困難な機能は、期間とコストが多く必要であるし、ソフトウェアの品質としても管理が難しくなるのである。 そのため、あらかじめ情報システム担当者を中心にある程度情報の整理を行うことが望まれる。例えば、対象の業務プロセスを明らかにしたうえで自動化すべき業務を明らかにし、その優先度合いを検討する。それによってシステム上の機能として優先すべき項目が明らかになるので、その希望を実現できるパッケージソフトウェアを選定することが可能になる。 必要な機能等をRFP(Request For Proposal:要求仕様書)として取りまとめ、同じ条件でシステムベンダーに検討してもらうことによって、想定されるシステム導入のコストと期間を比較・検討することが可能となるのである。 ▼外部人材を活用したリスク回避▼ 仮に、情報システム担当者が中心になった導入作業を行うことができない場合、ユーザーの要求を無制限に取り込み、全体としての業務処理のデザインを考慮せず、ベンダーの提案をすべて受け入れる等のリスク事象が発生する。それによって導入したシステムは、ユーザーからの不評を買い、導入したシステムの利用が限定的になるリスクが生じる。 情報システムの導入は非常に大きな投資であるため、それが失敗することは将来数年間の業務処理を不効率化ならしめる結果となる。 ユーザーニーズのうち、将来の業務プロセスを想定する中で全体最適を図るために必要な機能のみを実装することで、ユーザー満足度の向上や開発コストの適正化、円滑な業務遂行の実現を支援することができる。その目的を達成するために、社内の人的資源を質・量ともに補完する意味合いで外部の人材(コンサルタント等)を一時的に利用することは、1つの判断として有用であると考えられる。 結果的に開発期間の短縮、コストの低減、ユーザー満足度の向上が実現すれば、外部のリソースの利用は必ずしもコスト高につながるものではないだろう。 ▼まとめ▼ システム担当者が不在である場合、あるいは不在ではなくともシステム導入のプロジェクトに時間を割くことが困難な場合、結果的にベンダーに都合良く対応されるケースがある。それを社内でコントロールできないのは、不幸な結果を招くことになりかねない。 情報システム部門の組織を拡充し担当者を増やすことは容易ではない。そのような場合には、外部人材の活用を通じ、システム導入の失敗を回避できるように検討することが望まれる。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第27話】 「自信のないことは知ったかぶりしない」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ◆ワンポントアドバイス◆ 会社に新しい仕組みを導入する場合には、ひと足飛びにはいきません。入念な準備が必要です。時間をかけて進めましょう。 その際、自信のないことは知ったかぶりをせず、正直にわからないことを告げ、その分野のスペシャリストに確認しましょう。 (了)