検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10404 件 / 9971 ~ 9980 件目を表示

女性会計士の奮闘記 【第5話】「お客様の“見えない要望”を汲み取る」

女性会計士の奮闘記 【第5話】 「お客様の“見えない要望”を汲み取る」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   ※名義株とは、株主としての名義を借りたもので、実質の所有者が別にいる株式のこと。   〈ワンポントアドバイス〉 お客様の信頼を勝ち取るためには、望んでおられることに一生懸命応えることが必要ですが、その要望を実現するための問題点を挙げ、きちんと説明しなければなりません。 さらに、お客様の言いたいことの「代弁者」になることも、信頼関係を築く近道です。 (了)

#No. 20(掲載号)
#小長谷 敦子
2013/05/23

教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について 【第1回】「制度創設の背景と制度の概要」

教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【第1回】 「制度創設の背景と制度の概要」   ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典   1 はじめに 平成25年3月1日付で国会に提出された平成25年度税制改正法案は、同年3月29日に可決成立し、同年4月1日付で施行されたところである。 本連載では、平成25年度税制改正で創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(以下「本制度」という)について、法令及び国税庁、文部科学省等にて公表されたQ&A等の情報に基づき、制度創設の背景、制度の概要、適用上の留意点について、全5回にわたり解説していく。 なお、本連載終了後、通達等新たな情報が公表された場合には、本誌の速報解説又は本連載の追補としてご案内する予定である。   2 制度創設の背景 本制度は、我が国の家計のうち、高齢者世代の保有するおよそ1,500兆円の金融資産のうち約6割の資産について、消費支出の高い子育て世代への移転を促進することにより、子育て世代を支援し、経済活性化に寄与することを期待するものとして創設された。 従来の税制では、扶養義務者相互間において教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められるものが贈与税の非課税とされるため、基本的には教育費として実際に支出した金額のみが贈与税の非課税対象とされていた(相法21の3①二)。 しかし、本制度創設により、上述の扶養義務者間で必要な都度支払われる教育費の贈与税の非課税の他に、本制度により扶養義務者かどうかを問わず、両親、祖父母等から子・孫への教育資金の贈与のうち1,500万円までは、贈与時に実際に教育費として支出されていなかったとしても、一定要件を満たせば将来の学費として非課税とすることが可能となった。   3 本制度の概要 本制度は、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、両親や祖父母等から子・孫に教育資金を一括贈与する場合には、その贈与を受けた子・孫ごとに1人当たり1,500万円(学校以外の学習塾などへの学費は500万円)を限度として贈与税が課税されない。 【図表1-1】 本制度のイメージ 出典:国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A」(以下「国税庁QA」)P5   【図表1-2】 本制度の資金の流れと手続のイメージ  出典:同上 教育資金として一括贈与された資金は、金融機関で子・孫名義の教育資金口座を開設し管理することになる。そして、教育費の支払時に口座から資金を引き出した際には、その資金が教育費として使われたことを証明する領収証等を金融機関へ提出する必要がある。 なお、この教育資金口座は、子・孫が30歳に達する日に終了し、口座に使残しがあれば、贈与税が課税される。 口座を管理する各金融機関の手続の流れは、下記【図表1-3】のとおりである。 なお、本制度は、外国に所在する金融機関(日本の金融機関の海外支店を含む)では取り扱っていないため、留意が必要である(文部科学省「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について」(以下「文科省QA」)Q1-4)。 【図表1-3】 各金融機関の手続の流れ ① 信託銀行の場合 ② 銀行の場合 ③ 証券会社の場合  出典:「国税庁QA」P6 次回より、より詳細な本制度の内容について解説する。 (了)

#No. 19(掲載号)
#甲田 義典
2013/05/16

国外財産調書に関する通達の発遣について

国外財産調書に関する 通達の発遣について   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   1 はじめに 国税庁は、平成25年3月29日付け「内国税の適正な確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「本通達」)を発遣した。 国外財産調書制度とは、平成24年度税制改正により導入された制度であり、各年の12月31日に5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)に対して、翌年3月15日までに、保有する国外財産の内容を記載した報告書を所轄税務署長に提出することを義務付けるものであり、平成26年1月1日以降提出すべき調書から適用となる。 なお、本制度の詳細については、拙稿「「国外財産調書制度」の実務と留意点」(全8回)を参照いただきたい。 本稿では以下、本通達の内容のうち、留意すべき点を中心に解説する。   2 財産等の定義 (1) 対象となる「財産」の定義 「財産」とは「金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいう。」とされた。 (2) 「居住者」の判定時期 その年の12月31日の現況によることとされた。   3 所在の判定 (1) 保険金 「保険金」の所在判定については、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令(以下「送金等令」)10①により、相続税法に定めるところによることとされており、相続税法10①五に「保険金」が規定されている。 同規定によれば、その所在地は、「その保険の契約に係る保険会社等の本店又は主たる事務所(この法律の施行地に本店又は主たる事務所がない場合において、この法律の施行地に当該保険の契約に係る事務を行う営業所、事務所その他これらに準ずるものを有するときにあっては、当該営業所、事務所その他これらに準ずるもの・・・)の所在」とある。また、本通達は、「保険金」には「保険の契約に関する権利を含む。」としている(本通達5-5(1))。 以上から、日本に営業所のない外国の保険会社と保険契約を締結した場合の「保険の契約に関する権利」の所在地は国外になるが、その外国の保険会社が日本に営業所がある場合には、外国における営業所において締結した場合でも国外財産に該当しないことになる。 (2) ストックオプション (注)以下は平成25年改正前の送金等法令及び今回発遣の通達の取扱いであり、改正に伴う変更がありうる点に注意。 「株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利」の所在については、送金等令10①により、相続税法に定めるところによるとされ、相続税法10①八の中に「社債若しくは株式、法人に対する出資又は政令で定める有価証券」とあり、その所在は「株式の発行法人の所在」によるとされている。 本通達では、「株式」に含まれるものとして、ストックオプションを例に挙げ、「12月31日が権利行使可能期間内に存しないものについては、国外財産調書への記載を要しないことに留意する。」とされた。 したがって、発行法人の所在が外国である、つまり本店又は主たる事務所が外国にある法人のストックオプションを保有する場合には、12月31日にストックオプションが権利行使期間内にあるものは「国外財産」として報告の対象となる。 なお、「その他これに類する権利」については、「株主となる権利、株式の割当てを受ける権利、株式無償交付期待権が含まれる。」とされた(本通達5-5(2))。 これらの権利は、その発行主体の法人が外国に本店又は主たる事務所を置く場合に「国外財産」となる。 (3) 信託に関する権利 信託財産については、相続税法10①九に集団投資信託又は法人課税信託に関する権利の所在についての定めがあり、その所在は、信託の引受けをした営業所、事務所等の所在地とされている。 集団投資信託は受益者に分配時に課税される信託であり、法人課税信託は受託者に発生時に法人税が課税される信託である。これらの他に、受益者に発生時に課税される信託がある。 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則(以下「送金等規則」)12③によれば、送金等法適用上の「信託に関する権利」の意義については、上記相続税法の規定する財産を除くとされているところ、本通達において、具体的には「信託法第2条第7項《定義》に規定する「受益権」及び外国の法令上これと同様に取り扱われるものが該当する。」とされた(本通達5-6(3))。その多くは受益者に発生時課税される信託に分類されると考えられるが、そのような「信託に関する権利」の所在は、送金等規則12③により、「当該信託の引受けをした営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在」により判定することとなる。 したがって、集団投資信託や法人課税信託と同様、受益者発生時課税信託についても引受けをした金融機関の営業所が外国にある場合、その信託の受益権は国外財産となる。   4 価額の算定 (1) 価額の意義 調書に記載する価額は、送金等法(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律)に基づくものであり、実際に課税価格を算定する際には各税法による価額によらなければならない(本通達5-10)。課税価格を決定する時ほどの精緻さは要求されていないといえる。 国外財産の価額は、時価又は時価に準ずるものとして送金等規則12④に規定する「見積価額」によるが、時価とは、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立するものと認められる価額」をいい、その価額は、12月31日における専門家による鑑定評価額、金融商品取引所の公表する同日の最終価格(ない場合には同日に最も近い日の価額)などをいう。 見積価額とは、12月31日における財産の現況に応じ、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的な方法により算定した価額をいうとされた(本通達5-7)。時価と取得価額が乖離している場合は、取得価額を記載するだけでは足りないことになる。 見積価額の計算上の減価償却費の計算は、一般用部分と事業用部分に分ける必要はない(本通達5-9)。 (2) 見積価額の例示 見積価額については、「例えば、次に掲げる方法により算定することができる。」とされている。 イ 土地、山林 ロ 建物 ハ 未上場有価証券、書画骨とう及び美術品、貴金属類 ニ ストックオプション(株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利) その目的たる株式がその年の12月31日における取引所の公表する最終価格がないものである場合には、その年の12月31日における株式の見積価額から1株当たりの権利行使価額を控除した金額×株式数により計算した金額(本通達5-8(10))。 ホ 組合契約、匿名組合契約等の契約に基づく出資 12月31日の最も近い組合の計算書等に基づいて合理的に算出した価額(ただし、計算書等の送付がない場合には出資額によることとして差し支えない)。 ヘ 信託受益権 ト その他の財産 取得価額を基に取得後における価額の変動を合理的な方法によって見積もって算定した価額 (3) 邦貨換算 換算レートは調書提出義務者の取引金融機関が公表するその年の12月31日における最終の対顧客直物電信買相場による。同日に相場がない場合には、それ以前の最も近い日の相場による(本通達5-11)。 (4) 共有持分の定めのない場合 共有持分が定まっていない場合には、共有者の持分は等しいものと推定して按分した価額とする(本通達5-12)。   5 加算税の加重・軽減 (1) 国外財産に基因して生ずる所得の意義 「国外財産に基因して生ずる所得」に該当するかどうかは、加算税の加重及び軽減の要件となるため重要である。 通達は該当する所得の例として、以下の4つを挙げている(本通達6-1)。 一方、人的役務の提供に係る対価及び給与等の人的役務の提供に対する報酬については、株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利その他これに類する権利の行使による経済的利益を除いて、国外財産に基因して生ずる所得に該当しないとされている(本通達6-2)。   6 実務上の留意点 実務において問題となるのは、土地や相場のない株式の見積価額の算定であろう。 しかし、課税価格そのものを報告するものではないため、実際に問題になるのは、評価の仕方によって合計金額が5,000万円超に届くかどうかが微妙な場合である。 そうした場合には、仮に5,000万円を超えなくても、そのままの金額で国外財産調書を提出しておくのも1つのリスク対策になるであろう。 (了)

#No. 19(掲載号)
#小林 正彦
2013/05/16

分割の後に合併があった場合の分割承継法人及び合併法人における試験研究費の特別控除

分割の後に合併があった場合の 分割承継法人及び合併法人における 試験研究費の特別控除   日本税制研究所研究員 朝長 明日香   【問】 当社は、数年前よりA社及びB社の発行済株式の100%を有しています。 A社は、従来から2つの商品の研究開発事業を行ってきましたが、経営の効率化のため、平成24年8月1日に、当社との間で当社を分割承継法人とする適格分割を行い、P1商品の開発事業を当社に移転しました。 その後、平成25年10月1日に、A社とB社との間でB社を合併法人とする適格合併が行われ、A社は解散し、P2商品の開発事業がB社に移転されました。 当社及びB社においても、従来から、それぞれ独自に商品の研究開発事業を行っていましたが、当社及びB社がそれぞれ当期(平成25年4月1日から平成26年3月31日まで)に試験研究を行った場合の法人税額の特別控除の適用を受けるに当たって、A社から移転を受けた研究開発事業に係る試験研究費の額や売上調整年度の売上金額の取扱いが分かりませんので、ご教授下さい。 なお、いずれの法人も、事業年度は、毎年、4月1日から3月31日までとなっています。   【回答(要旨)】 分割承継法人や合併法人における増加型の比較試験研究費の額若しくは基準試験研究費の額、高水準型又は総額型の売上調整年度の売上金額の算定方法に関しては、いずれも分割法人や被合併法人の試験研究費の額又は売上金額を加味するという考え方が採られている。 本稿では、増加型の比較試験研究費の額を例にとって説明することとする。 貴社は、原則として、貴社の調整対象年度の試験研究費の額に、平成22年4月1日から平成24年7月31日までの期間のA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額を加算して、比較試験研究費の額を計算することとなる。ただし、届出をすることにより、P1商品の開発事業に係る試験研究費の額のみを加算して計算することが可能である。 B社は、B社の調整対象年度の試験研究費の額に、平成22年4月1日から平成25年9月30日までの期間のA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額を加算して、比較試験研究費の額を計算することとなる。 各法人の各事業年度における試験研究費の額を下図のとおりと仮定し、貴社及びB社における取扱いを具体的な数値を用いて述べることとする。 〈各法人の各事業年度における試験研究費の額〉 ※1 「基準日」とは、適用年度開始の日前3年以内に開始した事業年度のうち最も古い事業年度開始の日をいう。 ※2 690,000円のうち、分割の日の前日を事業年度終了の日とした場合にその事業年度に係るものとみなされる金額は、230,000円とする(計算方法に関しては、次の1(1)ⅱ注記を参照されたい)。   1 貴社(分割承継法人)における取扱い (1) 原則による場合 分割承継法人の基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内に行われた分割に係るその分割承継法人の適用年度における比較試験研究費の額の計算の基礎となる試験研究費の額は、その基準日から分割の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度(以下、1において「調整対象年度」という)については、その各調整対象年度ごとに次のⅰとⅱの金額を合計した金額をもって各調整対象年度に係る試験研究費の額とすることとされている(措令27の4⑫二)。 上記注書きからも分かるとおり、比較試験研究費の額の計算上加算することとなる分割法人の月別試験研究費の額は、原則として、移転事業に係るものとそれ以外のものとを区分せず計算することとされているため、貴社は、調整対象年度である平成23年3月期から平成25年3月期までの期間におけるA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額の合計額を加算して適用年度の比較試験研究費の額とすることとなる。   (2) 特例による場合 分割法人が、納税地の所轄税務署長の認定を受けた合理的な方法によって各事業年度の試験研究費の額を移転事業に係るものと移転事業以外の事業に係るものに区分している場合において、分割法人及び分割承継法人のすべてがそれぞれの納税地の所轄税務署長に特例の適用を受ける旨の届出をしたときは、上記(1)ⅱにおける月別試験研究費の額の合計額は、分割法人の月別試験研究費の額のうち移転事業に係る金額(月別移転試験研究費の額)の合計額とすることとなる(措令27の4⑭二・⑮)。 このため、貴社が特例の適用を受ける場合には、平成23年3月期から平成25年3月期までの期間のA社の試験研究費の額のうち、移転を受けたP1商品の開発事業に係る金額のみを加算の対象とすることができることとなる。 本件のように、分割法人が移転事業の他にも研究開発業務を行っているような場合には、特例の適用を受ける方が有利となる。 なお、試験研究費の法人税額からの控除は、確定申告の時に行うこととなるが、上記の特例の認定の申請及び届出は、分割の日以後2月以内に行うこととされているため(措規20⑦・⑫)、この申請及び届出を失念することのないように、十分に注意する必要がある。   2 B社(合併法人)における取扱い 適用年度において行われた合併に係る合併法人(新設合併に係るものを除く)の適用年度における比較試験研究費の額の計算の基礎となる試験研究費の額は、その基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度(以下、2において「調整対象年度」という)については、その各調整対象年度ごとに次のⅰとⅱの金額を合計した金額をもって各調整対象年度に係る試験研究費の額とすることとされている(措令27の4⑫一)。 このため、B社においても、平成23年3月期から平成25年3月期までの期間のA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額の合計額を加算して適用年度の比較試験研究費の額を計算しなければならないこととなる。   3 まとめ 以上のように、貴社(分割承継法人)は、特例の適用を受けることにより、A社(分割法人)の移転事業に係る試験研究費の額のみを加算して比較試験研究費の額の計算をすることが可能となるが、現行の法令の規定上は、本件のように分割の後に合併を行うといったケースにはこのような特例は設けられておらず、B社(合併法人)は、既に分割承継法人に移転した事業に係る試験研究費の額についても、これを加算した金額で制度の適用可否の判定等を行わなければならないこととなっている。 合併法人は移転を受けていない事業に係る試験研究費の額までも加味して制度の適用の可否等を判断しなければならないこと、また、分割法人の過年度の試験研究費の額が分割承継法人及び合併法人において重複して計算の基礎とされることには、多分に疑問が残らざるを得ないが、現行の法令の規定においては、このような取扱いとなると解さざるを得ない。 なお、上記の取扱いは、適格分割や適格合併に限定されたものではなく、非適格分割や非適格合併であっても同様の取扱いをすることとなる。 (了)

#No. 19(掲載号)
#朝長 明日香
2013/05/16

企業不正と税務調査 【第8回】「従業員による不正」 (2)営業部門・購買部門社員による横領

企業不正と税務調査 【第8回】 「従業員による不正」 (2) 営業部門・購買部門社員による横領   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   最も不正を行う機会に接している従業員は経理部門の社員であり、しかも出納業務を1人で任されている者であることは前回説明したとおりである。 今回は、「経理部門以外の従業員」のうち、営業部門・購買部門社員による横領事件を取り上げる。 前回の経理部門社員による不正との大きな違いは、単独で不正を行うことはできず、必ず「共犯者」が存在するということである。したがって、不正の発見にあたっては、共犯者の存在をうかがわせるような兆候を見つけることがポイントになる。   1 営業部門社員による不正の事例 ここでは、ネットワンシステムズ株式会社(以下、「ネットワン社」と略称する)が去る2013年3月8日に公表した「当社元社員による不正行為に係わる調査結果に関するお知らせ」をもとに、同社の元社員が中心となって行なった不正――架空発注した外注費の横領――について、その手口、不正発覚を回避するための隠蔽工作、不正が長く発見されなかった理由などを検証したい。 なお、本事例の詳細については、拙稿「会計不正調査報告書を読む【第6回】」を参照いただきたい。 (1) 会社による発表(3月8日付リリースより引用) (2) 不正の手口 不正の手口としては、Z社を架空の発注先として使い、ネットワン社の得意先の銀行でシステム部門を担当する元行員Bが横領する金員の原資となる商談を銀行内で確実に実行させるよう手を尽くし、ネットワン社元社員Aがネットワン社社内手続を行わせて、Z社に対して架空発注と支払いを行わせ、別のシステム会社の元社員Cが騙取した金銭を現金化して配分する役目を分担していた。 〔ネットワン社架空外注費の横領事例〕   (3) 不正発見の経緯と隠蔽工作 2012年2月から国税局による税務調査が行われ、Z社に対して支払った外注費に実体がない(原価性が認められない)のではないかという疑いが生じた。 元社員Aは、対応に当たる財務経理部門や営業担当者に対し、シナリオに沿った回答をするよう指示し、自らは、Z社が納入した「成果物」と称するDVDを捏造し、Z社が納入したものであるかのように偽装して国税局に提出した。 長引く税務調査の重大性を経営陣が認識したのは同年11月、税務調査対応メンバーではない業務管理グループの担当者が、強い懸念を担当役員に報告したことをきっかけに、外部弁護士を加えた調査チームが設置されることとなった。   2 営業部門・購買部門担当者による不正の特徴 (1) 必ず共犯者(社内・社外)が存在すること (2) 不正実行者の特徴 (3) 不正を生みやすい土壌   3 税務調査により発覚するパターン (1) 支払先から見た不審点 ネットワン社の事例では、「アパートの一室を本社とし、代表1名で事業活動を行っている」「売上高約5,000万円」の規模であったZ社に対し、多額の外注費が支払われていたことが国税調査官の不審につながり、外注費に作業実体があるかどうかが、税務調査で問題となった。 このように支払先の規模、実績などから見て、多額の発注がされた場合、とりわけ個人名義の口座への支払いは、税務調査において必ず納品物や提供された役務に内容について確認がされ、不審点については徹底した調査が行われる。 (2) 反面調査 同時に、調査対象法人の説明の裏付けを取るため、支払先に対し反面調査が行われる。納品物の確認、請求書類等の照合はもちろん、反面調査先の帳簿等を検めて、不審な支出(キックバック)がないか、確認される。 さらに、帳簿等に不審な点があれば、反面調査先の取引銀行において、口座の入出金履歴が調査され、資金の流れを明らかにされる。 上記のネットワン社の事例では、支払先であるZ社だけでなく、騙取した金銭を分配する役割を担っていた別のシステム会社元社員Cのところへも反面調査が入り、同社特別調査委員会の調査の結果、ネットワン社の調査の結果で明らかになった不正以外にも架空発注が疑われる取引があったことが判明している※。   ※ITホールディングス株式会社「当社子会社の元従業員による不成功に係る調査結果に関するお知らせ」 (3) 銀行調査 騙し取った資金の流れを解明するため、従業員名義に預金口座も税務調査の対象となる。上記のネットワン社の事例では、AとCは、過去に、銀行振込により得た利益を申告していなかったことが税務署に発覚して5年分の修正申告を行った経験を有していることから、金銭の授受はすべて現金で行っており、自宅に多額の現金を保管していたらしく、国税局の銀行調査だけでは、資金の流れは把握できなかったようである。 *  *  * 次回は、従業員による不正をいかに防止し、早期に発見するかについて、税務調査の手法を参考にしながら、検討したい。 従業員による不正を防ぎ、早期に発見するための仕組みを構築することは、会社が経済的損失を出さないために必要であることは言うまでもないが、同時に、従業員を犯罪者にしないためにも、必要なことである。 (了)

#No. 19(掲載号)
#米澤 勝
2013/05/16

組織再編税制における不確定概念 【第8回】「適格合併における繰越欠損金の利用②」

組織再編税制における不確定概念 【第8回】 「適格合併における繰越欠損金の利用②」   公認会計士 佐藤 信祐   前回(第7回目)においては、支配関係が生じてから5年経過するまで待つ場合、みなし共同事業要件を形式的に充足させる場合についてそれぞれ解説を行った。 第8回目の本稿においては、さらに発展させた論点として、繰越欠損金を利用するための企業買収と適格合併、繰越欠損金飛ばしスキームについてそれぞれ解説を行う。   1 繰越欠損金を利用するための企業買収と適格合併 『平成13年版改正税法のすべて』(大蔵財務協会)244頁では、包括的租税回避防止規定が適用される具体例として、「繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために組織再編成を行う」ものが挙げられている。 しかし、支配関係が生じてから合併事業年度開始の日まで5年を経過していない場合には、繰越欠損金の引継制限が課されており(法法57③)、それ以外の場合において、包括的租税回避防止規定を適用することは行き過ぎであると思われる。 さらに、平成18年度税制改正において、「欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法法57の2)」が導入されたことにより、「繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために組織再編成を行う」ことは難しくなってきている。 したがって、繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために、適格合併を行ったものとして、包括的租税回避防止規定が適用されることは稀であると考えられる。 なお、企業買収の現場において、繰越欠損金を利用することができるという節税効果を買収価格に上乗せするということが行われているが、法人税、住民税及び事業税の支出額を軽減する効果については、将来キャッシュ・フローを改善させるものであることから、繰越欠損金を利用することができるという節税効果を買収価格に上乗せたとしても、それ自体によって包括的租税回避防止規定を適用すべきものではないと考えられる。 これは、被買収会社の将来収益力だけでは繰越欠損金が使いきれない場合において、買収会社と合併を行うことにより繰越欠損金を利用するという行為が前提となっていたとしても、同様であると考えられる。 ※なお、ヤフー株式会社がソフトバンクIDCソリューションズ株式会社との合併について租税回避行為として否認された事例(平成22年6月30日、ヤフー株式会社によるプレスリリースより)では、株式譲渡契約において繰越欠損金が課税当局によって修正された場合の売却価格調整事項が存在することが書かれているため、これを課税当局が問題視した可能性もあり得る。 この点につき、太田洋弁護士は、「そもそも、M&Aの実務において、税効果に関する表明保証条項やそれについて違反があった場合の補償条項(Tax Indemnification条項)が入ることは、欧米におけるM&Aの契約実務では広く行われており、特に、税務上の繰越欠損金の存在及びその将来における利用可能性が、当事者間で定められた買収対価の額の前提となっているような場合には、このような条項が用いられることはごく一般的である(このような税務上の繰越欠損金の将来における利用可能性が、買収対価の額をその分だけ減額する要因となっている場合には、それが覆った場合のリスク・ヘッジのために、買い手から、M&A契約実務に上記のようなTax Indemnification条項を挿入すべきことが主張されるのは、ある意味当然である)。」(西村あさひ法律事務所 太田洋・矢野正鉱編著『M&A・企業組織再編のスキームと税務』大蔵財務協会、464頁)と述べたうえで、「そうであるとすれば、M&A契約に上記のようなTax Indemnification条項が定められていたとしても、それを根拠として「異常で変則的な」取引と解すべきではなく、従って、そのことを法人税法第132条の2を適用すべき根拠として援用すべきではない。」(前掲書 465頁)とされている。   2 繰越欠損金飛ばしスキーム 子会社に繰越欠損金がある場合において、当該子会社で使用できるだけの十分な収益力がないときは、親会社において繰越欠損金を使用したいというニーズが生じる。 このような場合には、親会社と子会社の統合を考えるのが一般的であるが、稀に、繰越欠損金だけを移転したいというニーズが生じる。 すなわち、適格新設分社型分割により子会社の事業を新会社に移転し、抜け殻になった子会社を適格吸収合併により親会社に移転した場合には、繰越欠損金のみを親会社に移転することが可能となる(無論、ここでは、支配関係が生じてから合併事業年度開始の日まで5年を経過していることを前提としている)。 なお、この場合における税制適格要件の判定としては、合併については、親会社が子会社の発行済株式のすべてを直接又は間接に保有していれば適格合併に該当するが、50%超100%未満である場合には、従業者引継要件及び事業継続要件を満たすことができないため、このようなストラクチャーが行われるのは、100%グループ内の関係にある場合だけであろう。 これに対し、新設分社型分割については、新設分社型分割後に、分割法人である子会社が解散することが見込まれていることから、分割法人が分割承継法人の発行済株式のすべてを直接又は間接に継続して保有することが見込まれなくなるため、当該新設分社型分割が税制適格要件を満たすことができるか否かが議論になる。 この点については、平成15年度税制改正により、分割法人(子会社)が適格合併により解散することが見込まれている場合には特例が認められており、適格合併後に適格合併に係る合併法人(親会社)が分割承継法人の発行済株式のすべてを継続して保有することが見込まれている場合には、100%グループ内の適格分割の要件を満たすことができるようになった(法令4の3⑥)。 平成15年度税制改正については、複数の組織再編成が組み合わされることに対応したものであり、このような新設分社型分割及び合併を組み合わせたストラクチャーについても想定内であると考えられる。しかしながら、想定されていると予想されるストラクチャーの内容については、新設分社型分割によりすべての資産及び負債を移転するものではなく、一部の資産及び負債を移転するものであることは容易に想像がつく。 すなわち、合併により、親会社に子会社の事業や従業者の一部が移転するのであれば、このストラクチャーについては、現行法が予定している範囲内であることから、節税の範囲内であり、租税回避行為として認定すべきではない。さらに、親会社に子会社の保有している重要な資産(ex.不動産、有価証券など)を移転する場合についても、合併により資産を移転した方が、単純に資産を売却するよりも容易であることから、このようなストラクチャーを選択する経済合理性が認められる。 これに対し、子会社が抜け殻になってしまうようなストラクチャーについては、繰越欠損金を移転するためだけに行われたストラクチャーであり、経済合理性があるとは言い難い。 すなわち、このケースにおいては、そもそも組織再編成を行う必要性がなく、これら一連の行為については、繰越欠損金を移転するためだけの行為であるといえる。 したがって、包括的租税回避防止規定(法法132の2)を適用し、合併や分社型分割を行わなかったものとして、子会社の繰越欠損金を親会社に引き継ぐことを認めるべきではないし、そのような更正が行われるリスクは十分に考えられる。 また、前述のように、子会社の事業や従業者の一部を親会社に移転する場合や、子会社の重要な資産を親会社に移転する場合についても経済合理性が認められるが、めぼしい資産を移転しておらず、単純に資産を譲渡した方が容易であるような場合については、わずかな事業目的を外形的に作り出して、実行された組織再編成に経済的合理性があることを主張したとしても、税務調査においては認められない可能性があるという点に留意が必要である。 ※なお、上記のようなストラクチャーに対して、財務省主税局で法人税法の立法に関与されていた佐々木浩氏(税理士法人プライスウォーターハウスクーパース勤務)は、「ただ、平成13年度のスタートの頃は玉突きのものがそうなるのではないかと言われていましたよね。A社とB社があって、B社がA社に吸収合併されるのですが、同日にB社事業を分割で切り出して、A社にB社の欠損金だけ置いていくといったケース。これは、何の目的で合併と分割を行ったのかという理由がないのではないかと思われます。だから、欠損金の移転といった税目的としか考えられなく、経済合理性があるとはいえないような感じがします。昔話ですが。全体としては、きちんとした事業目的があるかを確認し、その事業目的が税目的より上位にこないと、なかなか説明するほうも苦しいでしょうし、最終的にどうなるのかということはあるにしても、少なくとも課税当局との論点となるのは避けがたいのではないかといった感じを持っていますが。」(『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩著、一般財団法人大蔵財務協会、130頁)と述べられている。   (了)

#No. 19(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/05/16

税務判例を読むための税法の学び方【10】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その3)

税務判例を読むための税法の学び方【10】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その3)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ③ 選択的接続詞「又は」「若しくは」による段階構造の分析 法令文において語句を選択的に結び付けるときには、「又は」と「若しくは」が用いられる。すなわち、複数の語句の中から1つを選択する場合に使われる。両者は、文字的意味の上では同じものであり、日常用語としては同じような意味で区別せずに使われている。 しかし、法令用語としての「又は」と「若しくは」は、明確に使い分けられている。 選択的接続詞を用いる場合で数個の語句を単純に並列するだけのときには、「又は」が使われる。選択肢が3つ以上であっても、同じ段階で並べて選択するときは、最初の接続は「、」でつなぎ、最後の部分を「又は」で結ぶ。すなわち、「A又はB」や「A、B又はC」「A、B、C又はD」というふうに表現される。 一方、選択的に列記される語句でも、意味の上で、あるいは語句のつながり方の関係から、単純に並列することができない場合がある。そのような場合には、「又は」のほかに「若しくは」を用いて段階の差異を示すことになる。すなわち、「又は」は大きな接続の段階で使い、小さな接続の段階には「若しくは」を使う。 すなわち、「AとB」で選択したものを、「C」と選択的に結び合わせる場合には、「A若しくはB又はC」と表現されることになる。 所得税法第10条には「金融機関その他の預貯金の受入れ若しくは信託の引受けをする者、金融商品取引業者又は登録金融機関で政令で定めるもの」とあるところを前回「①金融機関その他の預貯金の受入れ若しくは信託の引受けをする者」、「②金融商品取引業者」又は「③登録金融機関で政令で定めるもの」の選択であると図示したが、それは①~③が大きな接続の段階として「又は」で結び付けられているからである。 そして、小さな接続の段階として「①金融機関その他の預貯金の受入れ若しくは信託の引受けをする者」の中では、以下のようになるのである。 なお、この選択的接続が3段階以上になるときは、一番大きい段階の接続だけに「又は」を用い、その下の接続は段階がいくつあっても、すべて「若しくは」を用いる。 一般に、その場合の最も大きい接続に用いる「若しくは」を「大(おお)若しくは」、それよりも小さい接続に用いる「若しくは」を「小(こ)若しくは」と呼んでいる。なお、この「小若しくは」がさらに2段階以上になることもある。 この「大若しくは」も「小若しくは」も、共に「若しくは」と表示されているだけなので、どちらが「大若しくは」でどちらが「小若しくは」かは、語句の意味により解釈しなければならない。 所得税法第9条(非課税所得)第4号には「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」とある。 この下線部分を段階的に図で示せば、以下のようになる。 〔2015/8/31追記〕上図につき本稿掲載時に誤りがあったため修正を行った。 前回、同一用語の併置に着目して整理することを書いたが、ここでは「旅行をした場合」に着目して整理する。そして「又は」を一番上の段階の選択肢を結ぶものとして、「若しくは」を第2段階以降の選択肢を結ぶものとして整理していく。 この中の「就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族」においては、「就職若しくは退職をした者」と「死亡による退職をした者の遺族」が対比し、前者の「就職若しくは退職をした者」の中の「就職」と「退職」が対比している。すなわち「就職」の後に続く「若しくは」が「小若しくは」であり、「退職をした者」の後に続く「若しくは」が「大若しくは」である。 次に、「A又はB・・・(に係る)・・・C又はD」といえば、その組合せは、「A(に係る)C」、「A(に係る)D」、「B(に係る)C」及び「B(に係る)D」の4通りがあり、通常、これらのすべての組合せを含んでいる(いわゆるタスキ掛けあり)と解される。 (いわゆるタスキ掛けあり)の場合 しかし、場合により「A(に係る)C」、「B(に係る)D」の2通りの組合せのみ(いわゆるタスキ掛けなし)を意味する場合もある。 国税通則法第115条(不服申立ての前置等) 第2項には、「国税に関する法律に基づく処分についてされた異議申立て又は審査請求について決定又は裁決をした者は・・・」とある。 しかし、この下線部の「「A異議申立て」又は「B審査請求」について「C決定」又は「D裁決」をした者」においては、「「A異議申立て」について「C決定」をした者」と「「B審査請求」について「D裁決」をした者」であって、タスキ掛けにはならない。 これがタスキ掛けとなるかどうかは、内容から判断しなければならない。 (了)

#No. 19(掲載号)
#長島 弘
2013/05/16

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載19〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の資本金等の額と利益積立金額の計算

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載19〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の 資本金等の額と利益積立金額の計算   税理士 掛川 雅仁    【解説】 1 現行法人税法における適格分割型分割の場合の資本金等の額と利益積立金額の計算規定 現行法人税法における適格分割型分割の場合の資本金等の額と利益積立金額の計算規定は、次のように整理することができる。 それぞれの項目の増減金額を算式で示せば、次のとおりになる。 【分割承継法人】 増加資本金等の額(法令8①六)  = 適格分割型分割に係る分割法人の分割減少資本金等の額 増加利益積立金額(法令9①三)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+増加資本金等の額) 【分割法人】  ※分割移転割合・・・小数点以下3位未満切上げ 減少利益積立金額(法令9①十)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+分割減少資本金等の額) ここで注目すべきは、次の2点である。 このうち、上記2)の分割承継法人の増加利益積立金額の計算は、分割法人の減少利益積立金額の計算と同様に、移転する純資産の帳簿価額から適格分割型分割に係る移転資本金等の額を減算した金額と規定されている。 つまり、現行法人税法における適格分割型分割の場合の資本金等の額と利益積立金額は、①まず、移転資本金等の額を計算し、次に、②移転利益積立金額を移転する純資産の帳簿価額から移転資本金等の額を減算した金額として計算する。 したがって、適格分割型分割に係る移転利益積立金額は、精緻な確定計算を行うのではなく、移転純資産の帳簿価額と移転資本金等の額との差額として計算するように規定されている。   2 平成22年度改正で逆転した組織再編成税制における利益積立金額と資本金等の額の関係 平成22年度改正前の組織再編成税制においては、適格分割型分割のように、法人に加えてその株主等も当事者となる適格組織再編成の場合には、課税関係を継続させるという観点から、過去の課税済み金額を引き継がせるとともに、資産・負債の帳簿価額を引き継がせて将来の課税の担保も引き継ぐべきである、という考え方が採られていた。 このために、平成22年度改正前の組織再編成税制においては、①まず、資産・負債・利益積立金額が引き継がれ、次に、②法人と株主等との間の取引があれば、資本の金額・旧資本積立金額(資本金等の額)は減少したり増加したりする、と整理されていた。 しかし、平成22年度改正においては、改正法の立案担当者は次のように説明して、改正前の組織再編成税制における利益積立金額と資本金等の額の関係を逆転させた。 この背景には、平成22年度改正において、分割型分割におけるみなし事業年度の廃止があると思われる。 ちなみに、平成22年度改正前の適格分割型分割における資本金等の額と利益積立金額の増減金額に関する規定を算式で示せば、次のとおりとなる。 【分割承継法人】 増加資本金等の額(法令8①六)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+増加利益積立金額) 増加利益積立金額(法令9①四)  = 適格分割型分割に係る分割法人の分割減少利益積立金額 【分割法人】 減少資本金等の額(法令8①十七)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+分割減少利益積立金額)  ※分割移転割合・・・小数点以下3位未満切上げ   3 現行法人税法における分割移転割合の上限・下限 ところで、平成22年度改正後の移転割合の計算において、移転簿価純資産価額(分子の金額)が前事業年度末簿価純資産価額(分母の金額)を超える場合には、単純に計算すると移転割合が1を超えてしまい、分割法人の資本金等の額を超える資本金等の額の減少が生じ、その結果、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスとなりかねない。 そこで、このようなことが生じないように、法令8①十五ロ括弧書において、移転割合の計算上、分子の金額(移転純資産の帳簿価額)が分母の金額(分割法人の分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額)を超える場合には、分子の金額は分母の金額と同額にする、と規定し、移転割合は1を上限とするとしている。 この結果、分割法人の資本金等の額を超える資本金等の額の減少は生じず、その結果、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスにもならず、最少でもゼロに留まるように手当てされている。 そのほか、次のように移転割合計算上の分子と分母の額の各種ケースを想定し、移転割合の上限・下限を定めて、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスとなったり、不適切な増加が生じないように手当てされている。   4 債務超過である分割法人が分割型分割を行った場合 分割法人が債務超過である場合には、その資本金等の額と利益積立金額とがプラスであるのかマイナスであるかによって、下表太線内のように上表のケースA・C・Dと関連付けて整理することができる。 ケースAは、分割法人の資本金等の額がマイナスの場合であるが、これは、分割法人が債務超過であるか否かを問わない。 なお、ケースBは、利益積立金額がマイナスだが、資本金等の額がそれより大きなプラスであるため、純資産額はプラスである場合も含むが、ここでの議論の大勢に関係しないので取り上げていない。 (1) 分割法人の資本金等の額がマイナスである場合(ケースA) 組織再編成やグループ法人税制の適用により、資本金等の額がマイナスとなっている分割法人が純資産の一部を移転した場合には、分割法人の資本金等の額はマイナスであるから、上表のケースAに該当する。 この場合には、分割移転割合は0とすると定められているため(法令8①十五括弧書)、減少する資本金等の額はゼロとなり、マイナスの資本金等の額は分割承継法人に移転せず、移転純資産の帳簿価額の全額が分割法人の利益積立金額の減少額となる。 【設例(1)】 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】   (2) 分割法人の資本金等の額がプラスである場合(ケースC・ケースD) 次に、債務超過である分割法人の資本金等の額がプラスである場合に分割型分割を行った場合の資本金等の額と利益積立金は、どのようになるかを検討する。 ケース①(債務超過である分割法人がプラスの純資産を分割承継法人に移転した場合) 債務超過である分割法人がプラスの純資産を分割型分割により分割承継法人に移転した場合に、分割法人の分割直前の資本金等の額がプラス(つまり、利益積立金額のマイナスを原因として、債務超過になっている状況)であれば、上表のケースDに該当する。 この場合は、分割移転割合は1とすると定められているため(法令8①十五括弧書)、移転する資本金等の額は分割法人の分割直前の資本金等の額の全額となる。その結果、分割法人の分割後の資本金等の額は0となる。 【設例2】 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 ※分割直前の資本金等の額がプラスであり、分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額がマイナス(債務超過)であり、移転純資産がプラスである場合には、分割移転割合は1とする。 =400×1(分割移転割合は1とする) =400 【分割法人の分割時の仕訳】 しかし、このケースに関しては、次の観点から、実務家からの疑問が呈されている。 この点に関しては、稿を改めて検討したい。 ケース②(債務超過である分割法人がマイナスの純資産を分割承継法人へ移転した場合) それでは、債務超過である分割法人がマイナスの純資産を分割型分割により分割承継法人に移転した場合には、分割直前の資本金等の額がプラス(つまり、利益積立金額のマイナスを原因として、債務超過になっている状況)であれば、上表のケースのどれに該当するのであろうか。 【設例3】 設例2と同じ分割直前及び前事業年度末の貸借対照表の分割法人が資産300、負債500を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】(このまま単純に計算した場合) しかし、実際の条文では、上記計算の分割移転割合の分子は、300-500=▲200でなく、0とする規定がある。 条文(法令8①十五)では、分母(同号イ)が「減算した金額」と規定されている一方で、分子(同号ロ)は「控除した金額」と規定されている。 「控除」ということは、マイナスにならず、ゼロを限度とする場合に用いる法人税法上の用語である。 分子(同号ロ)も「減算した金額」と規定すると、マイナス(上記▲200)をマイナス(上記▲500)で除することで、資本金等の額がプラス(上記160)になるという不都合を回避しているわけである。 したがって、実は、このケースは、移転純資産がゼロという上表のケースCに収斂することになる。 分子(法令8①十五ロ)が「控除した金額」と規定されていることを考慮すれば、その結果は、次のとおりとなる。 この結果、移転純資産▲200から、減少資本金等の額0を減算した、▲200が利益積立金額の減少額となり、この場合の分割型分割の後では、分割法人の利益積立金額は200だけ増加することになる。 【分割法人の分割時の仕訳】 (参考文献:「『法人税の純資産』法人税法施行令8条・9条の口述コンメンタール」2012年9月20日第1版第1刷発行、〔著者〕濱田康宏、岡野訓、内藤忠大、白井一馬、村木慎吾、〔発行所〕中央経済社) (了)

#No. 19(掲載号)
#掛川 雅仁
2013/05/16

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第6回】退職給付会計③「企業年金制度」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第6回】 退職給付会計③ 「企業年金制度」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   〈事例による解説〉 退職給付債務の計算を依頼している受託機関からの報告によると、期首の退職給付債務は5,000で、当期に発生する勤務費用は500です。また、期末の退職給付債務の実際額は6,000です。一方、年金資産の受託機関からの報告によると、期首の年金資産は1,000で、期末の年金資産の時価は1,100です。 そして、当社で計算した利息費用は100で、利息費用の計算に用いた割引率は2%です。また、期待運用収益相当額は10で、期待運用収益相当額の計算に用いた期待運用収益率は1%です。さらに、年金基金に掛金を200支払っています。 未認識数理計算上の差異は翌期以降、従業員の平均残存勤務期間である15年、定額法で費用処理を行います。なお、税効果会計は適用していません。 〈会計処理〉 1 退職給付費用の計上 2 掛金の拠出 3 数理計算上の差異の計上   (仕訳なし) 〈会計処理の解説〉 1 退職給付費用の計上 退職給付費用は、基本的に「勤務費用+利息費用-期待運用収益相当額」で計算されます。 本事例では、勤務費用500、利息費用5,000×2%=100、期待運用収益相当額1,000×1%=10です。したがって、退職給付費用は、500+100-10=590となります(退職給付に係る会計基準三)。 そして、退職給付費用の相手の勘定科目は、退職給付引当金となります(退職給付に係る会計基準四)。 2 掛金の拠出 年金基金への掛金の拠出により、年金資産が増加します。したがって、企業にとって、退職金や退職年金の支払いのため原資が増えることから、退職給付引当金を減少させます。 3 数理計算上の差異の計上 退職給付費用の計上及び掛金の拠出により、退職給付債務及び年金資産は以下のとおりとなります。数理計算上の差異は、下記の表の「(※)」のとおり510となります。 そして、本事例では、数理計算上の差異は、当期に費用処理を行わないため、当期末の未認識数理計算上の差異は510となり、当期末の貸借対照表に計上される「退職給付引当金」は4,390となります。 (了)  

#No. 19(掲載号)
#西田 友洋
2013/05/16

残業代の適正な計算方法 【第3回】 「残業時間の考え方②」

残業代の適正な計算方法 【第3回】 「残業時間の考え方②」   社会保険労務士 井下 英誉   1 はじめに 今回も前回に続き、残業時間を取り上げる。 前回は時間外労働の基本的な考え方について解説を行ったが、今回は第1回で取り上げた変形労働時間制における時間外労働の考え方について解説する。 変形労働時間制における時間外労働を理解するためには、変形労働時間制の内容を理解していなければならないので、改めて各労働時間制の内容も記しておく。   2 1ヶ月単位の変形労働時間制における時間外労働 ① 1ヶ月単位の変形労働時間制 労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定、又は就業規則その他これに準ずるものにより、1ヶ月以内の一定の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをしたときは、特定された週において40時間又は特定された日において8時間を超えて、労働させることができる。 ② 時間外労働の考え方 1ヶ月単位の変形労働時間制では、次のア~オの時間を合算した時間が、その月の時間外労働時間となる。   3 フレックスタイム制における時間外労働 ① フレックスタイム制 就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定により、必要な事項を定めたときは、1ヶ月以内の清算期間として定められた期間を平均して1週間当たりの労働時間が週40時間を超えない範囲内において、1週間において40時間又は1日において8時間を超えて、労働させることができる。 ② 時間外労働の考え方 フレックスタイム制では、清算期間中の総労働時間しか定められていないので、時間外労働となるものも、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間についてであり、1日当たりの時間外労働は発生しない。   4 1年単位の変形労働時間制における時間外労働 ① 1年単位の変形労働時間制 労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定により、必要な事項を定めたときは、対象期間(1年限度)として定められた期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、特定された週において40時間又は特定された日において8時間を超えて、労働させることができる。 ② 時間外労働の考え方 1年単位の変形労働時間制では、次のア~ウの時間を合算した時間が、時間外労働時間となる。 1年単位の変形労働時間制の場合、ア、イは合算して毎月支払うことになるが、ウは対象期間を経過した後に支払うことになる。 (了)

#No. 19(掲載号)
#井下 英誉
2013/05/16
#