平成24年分 おさえておきたい 年末調整のポイント ① 今年度適用となる改正事項 (生命保険料控除の改正) 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】改正の概要 平成23年分までの生命保険料控除は、一般の生命保険料控除と個人年金保険料控除から構成されていた。平成24年分以後は、この2つに介護医療保険料控除が加わることとなる。 これら3つの控除額は、保険契約の締結時期が平成24年1月1日以降(新契約)か平成23年12月31日以前(旧契約)かによって、下記の【2】(1)~(3)の計算式を適用し、別々に計算する。ただし、適用限度額は3つの合計で12万円である。 新契約にかかる保険料は、契約の保障内容に応じ、次のように区分される(支払った保険料が具体的にどの控除の対象となるかは、保険会社から発行される控除証明書に記載される)。 【2】控除額の計算方法 (1)平成24年1月1日以後に締結した保険契約(新契約)にかかる控除額の計算式 (対象:一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除、介護医療保険料控除) (2)平成23年12月31日以前に締結した保険契約(旧契約)にかかる控除額の計算式 (対象:一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除)=平成23年分までの計算式と同じ (3)新契約と旧契約の双方に加入している場合の計算 一般の生命保険料、個人年金保険料それぞれについて、次の①~③のいずれかを選択 なお、平成23年12月31日以前に締結した保険契約について、平成24年1月1日以後に一定の契約内容の変更(更新、特約の中途付加等)が行われた場合には、変更時点で新契約を締結したものとみなして、その後の控除額を計算する。 【3】具体的な計算例 〈ケース1〉すべての保険契約が旧契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(2)より50,000円 →生命保険料控除の額:100,000円 ※(50,000円+50,000円=100,000円≦120,000円) 〈ケース2〉すべての保険契約が新契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(1)より40,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(1)より40,000円 ・介護医療保険料控除…………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:115,000円 ※(40,000円+40,000円+35,000円=115,000円≦120,000円) 〈ケース3〉一般の生命保険と個人年金保険が旧契約、介護医療保険が新契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(2)より50,000円 ・介護医療保険料控除…………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:120,000円 ※(50,000円+50,000円+35,000円=135,000円>120,000円よって120,000円) 〈ケース4〉一般の生命保険について旧契約と新契約の双方がある場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(3)より42,500円 ① 新契約のみを対象:32,500円 ② 旧契約のみを対象:42,500円 ③ 新・旧双方を対象:40,000円(32,500円+42,500円=75,000円>40,000円) ①~③のうちの最大控除額は②の42,500円 ・個人年金保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・介護医療保険料控除………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:120,000円 ※(42,500円+50,000円+35,000円=127,500円>120,000円 よって120,000円) 【4】控除額計算のまとめ 【5】記載例 上記ケース4における「給与所得者の保険料控除申告書」の記載例を示すと、以下のとおりである。 次回は「年末調整について質問の多い事項」について解説する。 (了) 【参考】国税庁ホームページ 「平成24年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」 ※PDFファイル
《速報解説》 第3回 ACFE JAPANカンファレンス 「不正防止とコーポレート・ガバナンス」 ──マイケル・ウッドフォード氏を招聘して開催── 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)は、10月12日(金)、青山学院アイビーホールで、ACFE JAPANカンファレンスを開催した。オリンパス社元社長マイケル・ウッドフォード氏を招聘し『「身を賭して真実を追究する」ことの代償』と題して基調講演があった。講演の後、八田進二氏(青山学院大学教授)との対談へと続いた。会場は、ウッドフォード氏の言葉を聞こうと詰めかけた会員・非会員の聴衆で満席だった。 今回のウッドフォード氏の来日は、アメリカ・フロリダで開催されたACFE年次総会に出席したACFE JAPAN理事長の濱田眞樹人氏が、日本のカンファレンスでも講演をしてもらいたいと懇請し、実現したものである。 マイケル・ウッドフォード氏 (写真提供:ACFE JAPAN) ウッドフォード氏が、日本におけるスポークスマンであるミラー和空氏を伴って登場した。長身。冒頭、自らを“Western Salary Man”と称して会場の笑いを誘った後は、30年に及ぶオリンパスでの勤務の後社長にまで上り詰めた氏が、FACTA誌に掲載された、オリンパスが過去のM&A(企業買収・合併)において不透明な取引と会計処理を行っていたという記事を読み、菊川会長に真実をただす場面へ向かって、一気に話が進む。彼らが指定したランチミーティングで「FACTAの記事は事実か」という問いに対し、菊川氏は「ほぼ、その通りだ」と答えたという。 そのとき、菊川、森両氏の前には豪華な寿司が用意されていたにもかかわらず、寿司が大好きなウッドフォード氏の前にはツナ・サンドイッチが置かれていたことなど、ウッドフォード氏自身の著書『解任』でもお馴染みのエピソードをユーモアを交えて語る。 その後、事態はウッドフォード氏の解任へ一気に進むことになった。 基調講演とその後の八田教授との対談で、ウッドフォード氏が繰り返し強調していたことは、氏が30年にわたって勤めてきたオリンパスという会社を本当に愛していること(もちろん「過去形」ではなく「現在形」で)、自分を引き上げてくれた菊川元社長に敬意と感謝を持ちつつ、それでも氏の正義感が不正を見逃すことを許さなかったこと、日本のジャーナリズムが当初、この件に対して消極的だったことに対する不信感であった。氏はそのことを「絶対権力は必ず腐る」、「報道機関として欧米ではあり得ない」という言葉で表現した。また、八田教授の「日本の会計監査について信頼しているか」との問いに対し、明確な返答はなかった。 氏のスピーチを聞きながら、『解任』の中で、最も印象的だった氏の言葉を思い起こす。 「私の忠誠心は盲目ではない」 そうしたウッドフォード氏のスピーチについて、最後のパネルディスカッションにパネラーとして登壇された弁護士の山口利昭氏は、内部告発者には「組織に対する愛」があるからこそ、自分を育ててくれた組織の不正を許せないのではないかという趣旨の発言をされ、会場からも深い同意があったように思う。 公認不正検査士Certified Fraud Examinerは「会計」、「調査」、「法律」、「犯罪学と倫理」という4つの分野に関する知識を習得した不正対策の専門家資格であり、現在世界150ヶ国に約6万人の会員を擁し、日本にも1,000人の会員と600人を超える有資格者がいる。(参照:一般社団法人 日本公認不正検査士協会) (了)
「一体改革」を総括する 一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 「社会保障・税一体改革」は、民主・自民・公明の3党協議による大幅な修正を経て、8月10日に関係8法案が成立、8月22日に公布された。国・地方合わせた消費税率を2014年4月から8%、2015年10月から10%に引き上げることで、社会保障の安定財源を確保し、財政再建への第一歩を踏み出すことができた意義は極めて大きい。 一方で社会保障は、子育て支援、被用者年金制度の一部が大幅な修正のうえで実現したものの、公的年金、医療、介護、少子化対策の抜本改革は結論を先送りされ、「社会保障制度改革国民会議」を設置し、施行後1年以内に検討することとされている。ここで、すでに「社会保障・税一体改革」ではなくなってしまっているが、税制だけを見ても多くの課題が残されている。 〈低所得者対策〉 何よりも、消費税率引上げに伴う低所得者対策として、「複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(以下、改正消費税法)7条1号ロ)」こととなった。少なくとも10%を超える段階までは単一税率でというのが政府当初案のスタンスであったが、3党協議の中では8%引上げ時から軽減税率導入との主張もあった。仮に軽減税率の対象をEU諸国並みにするならば、消費の4割程度が軽減税率対象となる。これを5%にとどめるならば、8%一律で得られる税収を3兆円程度下回ることとなり、当座の社会保障財源も確保し難くなる。百歩譲っても、複数税率は10%の段階での議論とすべきである。 一方で、政府当初案で本命とされていた給付付き税額控除は、その前提となるマイナンバー法が未成立である。仮に年内に成立できなければ、2015年1月1日はもとより2015年10月の消費税率10%引上げ時においてもマイナンバー制度の本格稼働は困難であり、複数税率導入か「簡素な給付措置」の延長が現実的な選択肢となってこよう。 〈消費税率引上げに伴う転嫁・表示対策〉 さらに、消費税率引上げ時における転嫁対策・表示の問題も大きな課題である。転嫁対策については、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び下請代金支払遅延防止法の特例に係る必要な法制上の措置を講ずること(改正消費税法7条1号ホ(6)」とされ、消費税導入時に採られた中小企業に限定しての価格転嫁カルテルの容認に加え、下請法の特例措置も予定されている。 しかし、表示については「事業者間取引、相対取引等におけるその表示の在り方を含め、引き続き、実態を踏まえつつ、様々な角度から検討する(改正消費税法7条1号ヘ)」とされるのみで方向は示されていない。なお、対消費者取引では現行の総額表示方式が定着しており、これを変更することには大きな抵抗があろう。 〈消費税率引上げに伴う他税目との調整〉 消費税率引上げに際して、他の税目との調整も一筋縄ではいかない難問である。 車体課税については、3党合意において消費税率8%への引上げ時までに自動者取得税、自動車重量税の「抜本的見直し」について結論を得るとされているが、一方で「安定的な財源を確保した上で、地方財政にも配慮しつつ、簡素化、負担の軽減及びグリーン化(環境への負荷の低減に資するための施策をいう。)の観点から、見直しを行う(改正消費税法7条1号カ)」ともされている。 自動者取得税(都道府県税、24年度税収見込み2,068億円)については、取得価額に対して5%(普通乗用車)、3%(軽自動車・営業車)であり、まさに消費税との二重課税であることから廃止の方向で議論が進むと思われるが、自動車重量税(国税、24年度税収見込み7,032億円)については、24年度改正における環境対策としての軽減措置の延長・拡充に止まるのではないか。 また、タックス・オン・タックスが指摘されている酒税、たばこ税、石油関係諸税については、「個別間接税を含む価格に消費税が課されることが国際的に共通する原則である(改正消費税法7条1号ヌ)」とされており、手つかずに終わる可能性が高い。むしろ燃料課税については、24年度改正で決定された石油石炭税の段階的増税の再検討が課題となろう。 最大の問題は、住宅関連税制である。住宅の取得については、「一時の税負担の増加による影響を平準化し、及び緩和する観点から、住宅の取得に係る必要な措置について財源も含め総合的に検討する(改正消費税法7条1号チ)」とされ、さらに3党合意では、消費税率8%、10%への引上げ時に「それぞれ十分な対策を実施する」とされている。不動産取得税、登録免許税、固定資産税等では負担増分を解消することはできず、関係業界からは消費税率引上げ分についての還付も要望されているが、住宅取得促進税制(ローン税額控除)の大幅な拡充での対応が現実策ではないか。 〈所得税・個人住民税〉 所得税の最高税率引上げ、及び相続税増税等の資産課税の見直しは政府当初案(4条~6条)から削除され、平成25年度税制改正での再検討となった。 しかし3党協議においても、政府案をはさんで、そもそも増税に消極的な自民党と、政府案以上の増税を求める公明党の主張が乖離しており、どのような決着になるのかは予断を許さない。消費税率引上げの政治的環境整備として、所得税・相続税の強化はやむを得ない面もあるが、活力の維持と社会的公正のバランス論でようやくまとめられた政府案を、さらに増税の方向に進めるならば疑問は残る。 〈法人税・地方法人税〉 法人税については、「平成27年度以降において、雇用及び国内投資の拡大の観点から、実効税率の引下げの効果及び主要国との競争上の諸条件等を検証しつつ、その在り方について検討すること(改正消費税法7条3号)とされているにすぎないが、法人税実効税率の引下げとの関係では、地方法人特別税の扱いが重要な課題である。 税制抜本改革までの暫定措置として創設された経緯からも消費税8%への引上げまでに決着すべき問題であるが、都道府県の間でも東京都等と他府県とでは主張が大きく隔たっている状況にある。そもそも偏在性の少ない代替財源として地方消費税の拡充があり、地方法人特別税は廃止されて当然であるが、財源をどのように補填するかが大問題である。総務省では、法人事業税の外形標準部分の拡充等も検討課題としているが、それでは法人税負担の軽減にならないばかりか、中小法人にまで対象を拡充するとなれば政治的にも困難であろう。法人課税の枠内で代替財源を検討すること自体に無理があり、他の地方税目、さらには地方交付税を含めた国・地方間の財政調整まで射程を拡げて検討すべきと考える。 〈社会保障制度の安定財源確保=財政健全化〉 このほかにも残された課題は数多くあるが、最大の課題は、消費税率を10%に引き上げただけでは、社会保障の安定財源としても不十分であり、財政再建の目途も立たないことである。 政府の財政健全化目標である2020年度に国・地方財政の基礎的収支(プライマリー・バランス)の黒字化を達成するには、なお16.6兆円(GDP比3%分)が不足するとされている。これを解消するにはさらなる消費税率の引上げが必要であるが、2015年の10%までの引上げがようやく決められた段階であり、「近いうち」に行われるはずの解散・総選挙も見据えて、その先の議論を行う環境は整えていく必要がある。 (了)