〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第2回】 「損金不算入額の計算方法」 アースタックス税理士法人 税理士 中村 武 前回は本制度創設の背景及び概要について解説したが、より理解を深めるため、今回は事例及び図解により、「損金不算入額」及びその後の事業年度における「損金算入額」の計算イメージについて示すこととする。なお、解説の都合上、適用除外基準については考慮外とする。 1 損金不算入額の計算イメージ 事例1 〈損金不算入額の計算〉 ① 調整所得金額の計算 当期所得金額50(C)に、関連者純支払利子等の額200(A)と減価償却費30(B)を加算し、調整所得金額を求める(計算イメージとしては、関連者純支払利子等の額及び減価償却費の損金算入前の所得金額を算出する形となる)。 本事例では280となる。 ② 損金算入限度額の計算 ①の調整所得金額の50%相当額である140が損金算入限度額となる。 ③ 損金不算入額の計算 (A)の関連者純支払利子等の額200から、②で求めた損金算入限度額140を引いた60が、損金不算入額となる。 〈事例1:イメージ図〉 このように、所得金額に比して関連者純支払利子等の額が多額である場合には、本制度導入により「所得の金額に比して過大な利子の金額」について損金不算入額が計上されることとなる。 これに対し、次の事例のように、関連者純支払利子等の額が、所得金額に比して多額でない場合には、本規定による損金不算入額は計上されない。 事例2 〈損金不算入額の計算〉 ① 調整所得金額の計算 調整所得金額は、(C)+(A)+(B)の算式により480となる。 ② 損金算入限度額の計算 損金算入限度額は①の50%相当額である240となる。 ③ 損金不算入額の計算 当該事業年度の損金不算入額の計算を行う。(A)-②で、-40となり、当該事業年度の関連者純支払利子額の全額が損金算入される。 〈事例2:イメージ図〉 2 超過利子額の損金算入額の計算 より理解を深めるためのため、その後の事業年度における超過利子額の損金算入額の計算及びそのイメージ図を次にまとめる。なお、上記の事例1を適用初年度、事例2を適用次年度として取り上げる。 事例3 〈超過利子額の損金算入額の計算〉 適用次年度において、 関連者純支払利子等の額(200) ≦ 損金算入限度額(240) であったことから、損金算入限度額に満たない部分の金額の40を限度として、適用初年度に生じた超過利子額が損金算入されることとなる。 具体的には、超過利子額60のうち40が適用次年度において損金算入され、残りの部分である20については翌事業年度以降に繰り越されることとなる。 〈事例3:イメージ図〉 このように、過大支払利子税制においては、損金不算入額を計算する際に、当期所得金額等を考慮に入れる必要があることが、従前の移転価格税制及び過少資本税制との大きな違いの1つとなっている。 また、損金不算入額についても、その後の事業年度において多額の所得金額が出ることが予想される場合には、その時に損金算入が考えられるため、当期のみならず翌期以降の所得予想が、本制度の影響を検討する際に必要となる。 次回以降においては、今回の損金不算入額及びその後の損金算入額計算のイメージをもとに、関連者純支払利子等の額、関連者等に対する支払利子等の範囲等、規定の具体的な内容について確認を行うものとする。 (了)
新社名・新ロゴマークの 商標登録までに生ずる費用の 取得価額算入の要否 日本税制研究所研究員 朝長 明日香 【問】 当社は、来年度に行われる同業社A社との統合に伴い、現在、当社で使用している新社名・新ロゴマークを作り替えて、商標登録する予定です。 この新社名・新ロゴマークの制作費用は、「商標権」として無形固定資産に計上するものと考えますが、商標登録までに生ずる調査費用、出願費用や弁理士に対する報酬などは、法人税基本通達7-3-3の2(固定資産の取得価額に算入しないことができる費用の例示)(1)ニ「登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」として商標権の取得価額に算入しないこととしてよいのかという疑問が生じています。 新社名・新ロゴマークの商標登録までに生ずる次の一連の費用の法人税法上の取扱いについて、ご教授をお願い致します。 なお、当社は、新社名・新ロゴマーク入りの商品を既にホームページ上に掲載しているため、早期審査を受ける条件を満たしていると考えています。 【回答(要旨)】 これらのうち、登録費用(印紙代(登録免許税及び印紙税)及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料)は、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニ「登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」に該当すると考えられるため、商標権の取得価額に算入しなくてもよいと考える。 出願費用(印紙代(印紙税)、弁理士への出願代理手数料及び電子化手数料)も、課税実務上、損金の額とすることが容認されているようである。 登録費用及び出願費用以外の費用は、原則どおり、取得価額に算入する必要があると考える。 1 商標権の取得価額 減価償却資産の取得価額に関しては、法人税法施行令54条1項各号に定めがあり、自己の建設、製作又は製造(以下「建設等」という)に係る減価償却資産の取得価額は、次のⅰとⅱの合計額とされている(同項2号)。 法令上は、新社名・新ロゴマークの商標登録までに要した費用の額は、すべて、商標権の取得価額を構成するとされている、と考えてよいであろう。 2 取得価額に算入しないことができる費用 商標権の取得価額に関する法令の規定は、上記1で述べたとおりであるが、この規定に関し、法人税基本通達に次のような解釈が示されている。 そして、この通達に関しては、次のように解説が行われている。 (森文人編著『法人税基本通達逐条解説〔六訂版〕』527頁(税務研究会出版局)) 上記の通達及びその解説には、そもそも上記1の法令の解釈として妥当であるのか否かという点に多分に疑問が存すると言わざるを得ない。 通達に関しては、(1)イからニまでの租税公課を固定資産の取得価額に算入しないことができる理由は何か、また、これらの租税公課と「登記又は登録のために要する費用」は性格が大きく異なるにもかかわらず同様に固定資産の取得価額に算入しないことができるとした理由は何か、というような疑問がある。 また、上記の解説に関しても、上記(1)イからニまでの租税公課等の取扱いの原則と特例が明確ではなく、「ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」が「一種の事後費用である」という根拠は何か、そもそも「事後費用」か否かという時間軸を用いて取得価額となるのか否かということを判断することはできないのではないか、また、「流通税的なもの」「第三者対抗要件を具備するための費用」が取得価額とならない理由は何か、というような疑問点がある。 ただし、このような根本的な疑問は、一応、措いて、上記の通達及び解説に則して本件の取扱いの検討を進めることとする。 本件に関しては上記通達の(1)の「ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」の範囲が問題となるわけであるが、「登記」又は「登録」とは、次のように定義されている。 要するに、「登記」又は「登録」とは、公簿や帳簿に記載することをいうわけである。 また、この「登記又は登録のために要する費用」に関しては、単独で掲げられているのではなく、「その他」という用語を用いて「登録免許税」と併記されていることからも分かるとおり、「登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明(以下「登記等」という。)について課する」(登録免許税法2)こととされている「登録免許税」と併記してよい内容のものを指すはずである、という点にも留意する必要がある。 上記(1)においては、イからニまで租税公課を列挙し、その租税公課の中の「登録免許税」に併記した用語は、自ずと、登記等について課される「登録免許税」と併記してよい同種のものを指すものとなっているはずである。 そして、この「登記又は登録のために要する費用」に関しては、「もともとこれらの租税公課等は一種の事後費用であるうえ、その性格も流通税的なものないしは第三者対抗要件を具備するための費用」であるため、固定資産の取得価額に算入しなくてもよい、という考え方がとられているわけである。 このため、上記(1)ニに関しては、「公簿や帳簿に記載するために要する費用」で、「一種の事後費用」かつ「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」という要件に該当するものが、上記(1)ニにおいて固定資産の取得価額に算入しなくてもよいとしているものと捉えることができるはずである。 3 具体的な判定 新社名や新ロゴマークなどを商標登録するまでの間に発生する費用の取扱いは、次のようになるものと考える。 (1) 登録済みの他の商標と同一又は類似するものでないかを調査するための調査費用 「調査」のための費用であって、「登録」のために要する費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニに含まれないことは、明らかである。 (2) 出願費用(印紙代、弁理士への出願代理手数料及び電子化手数料) 「出願」のための費用であって、「登録」のための費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニには含まれないということになるはずである。 しかし、課税実務上は、この印紙税、出願手数料及び電子化手数料に関しては、損金とすることを容認しているケースが多いようである。 その理由は必ずしも明確ではないが、印紙税が租税公課であること、そして、「出願」を行わなければ「登録」も行われないという関係にあるためではないかと想定される。仮に、「登記又は登録のために要する費用」について前提を置かずにその用語のみを捉えるとすれば、その範囲はかなり広くなる可能性がある。 課税実務において、出願費用を損金とすることを容認するということであれば、細かな理由の是非等は別にして、特段、異論が出てくることはないものと考えられるが、税務執行当局の見解が明確でないことは事実であるから、何らかの形で税務執行当局の見解を明確にする方がよい、と考える。 (3) 早期審査費用 「早期審査」のための費用であって、「登録」のための費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニには含まれない。 (4) 拒絶理由通知に応答するための意見書・補正書の作成・提出費用 「意見書・補正書の作成・提出」のための費用であって、「登録」のための費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニには含まれない。 (5) 登録費用(印紙代及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料) 登録免許税と「登録」のための費用(印紙税及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料)であって、「第三者対抗要件を具備するための費用」であり、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニに含まれる。 (了)
租税争訟レポート【第6回】 税理士の過失による損害賠償義務と 納税者の過失相殺 (税理士損害賠償請求事件控訴審判決) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 【第一審及び控訴審の判断】 第一審は、承継前第一審原告であった税理士の作成した相続税申告書には、 という誤りがあり、委任者である被控訴人(第一審原告)について、重加算税及び相続税の軽減措置を受けることができなかった損害を認定し、訴訟を承継した相続人らに対して、1億円余りの損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払いを命じた。 控訴審判決では、上記(1)については第一審と同じく税理士の過失を認める判断を示したが、(2)については、帰属不明であった2万5,000株余りについては、現在の代表者ですら誰に帰属するかわからないものであり、株主構成に関する客観的資料がない状況で、法人税申告書の持株数に依拠して、帰属不明株式を被相続人の相続財産に含めないで(過少に)申告したことが善管注意義務違反には当たらないとした。 また、税務調査の最中に委任契約を解除した行為が、委任契約を一方的に解消した点について、被控訴人は税理士の債務不履行を主張したが、判決では、依頼者である被控訴人は、当時すでに他の税理士法人との間で委任契約を締結しており、被控訴人である納税者の不利な時期に解除したものとはいえないとした。 さらに、納税者である被控訴人の過失について、「被控訴人は、海外資産の存在を認識していた上で、税理士がこれを除外した申告をすることを認識していたのであるから、(中略)海外資産を相続税の申告に反映させる義務があり、これにより隠ぺいに基づく申告を是正あるいは防止することができた」とし、被控訴人にも相応の過失があったから、損害の分担における衡平の観点から、過失相殺割合を3割と判断した。 【解説】 第一審では争点にならなかった被控訴人の過失に対する控訴人の主張ついて、被控訴人は、「時機に遅れた攻撃防御方法であるから却下されるべきである」と主張したが、東京高等裁判所は、「新たな証拠調べを要せず、訴訟の完結を遅延させるとはいえない」として、その主張を斥け、「被控訴人にも過失があったといえる」として、3割の過失相殺を認める判決を下した。 前回のレポートで取り上げたとおり、税理士に対する損害賠償請求事件では、一般納税者と専門家たる税理士との租税に対する知識や経験の差を勘案して、税理士に対して厳しい判決が出されることが多いが、本件は、被相続人の経営する法人の株主構成について、後継者である子すら知らなかったこと、被控訴人が、海外資産の存在を知りながら、それが相続税の課税標準から除外されることを正当化できないことなどを理由に、納税者の側にも相応の責任を認めた判決である。 (了)
平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第6回】 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 (第2章 制度の詳細な内容) 2-4 記載事項 政令の規定に定めるもののほか、国外財産の所在及び国外財産調書の書式その他国外財産調書の提出に係る手続に関し必要な事項は、財務省令で定めるとされており(送金等令10⑥)、同規則12条に定められている。 改正送金等規 別表第一(第12条関係) 「国外財産調書の記載事項」 この表に規定する「事業用」とは、その者の不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業又は業務の用に供することをいい、「一般用」とは、当該事業又は業務以外の用に供することをいうこととされている。 様式のイメージは以下のとおりである。 【国外財産調書の様式(イメージ)】 (出所)国税庁ホームページ「国外財産調書の提出制度が創設されました」 ※PDFファイル 2-5 加算税の減額・加重措置 適正な国外財産調書の作成・提出を促進することを目的として、所得税に関する修正申告等があった場合の加算税について5%の減額又は加重、相続税について5%の減額が行われることとなった。 具体的内容は、以下のとおりである(送金等法6①)。 (1) 概要 イ 国外財産について所得税・相続税の申告漏れがあった際、国外財産調書の提出があれば、加算税を5%減額する。 ロ 国外財産につき所得税の申告漏れがあった際、国外財産調書の提出がない(重要な事項の記載が不十分であると認められるときを含む)ときは、加算税を5%加重する。 死亡した者に係る所得税は除き、相続税について加重はない。 相続税について加重が適用されないこととした理由は、相続人にとって被相続人の財産をすべて漏れなく把握していなかった場合に、相続人の責めに帰すことはできない場合もあるからであると思われる。なお、贈与税については、減額も加重もない。 (2) 対象となる「国外財産から生ずる所得」 加算税の減額・加重の対象となる「国外財産から生ずる所得」は、以下のとおりである。 国外財産から生ずる果実としての所得金額そのものを指しており、事業所得の申告漏れの結果として国外資産が形成されている場合のその事業所得の申告漏れ相当額を指すものではないと考えられる。 具体的には、政令・省令において以下が列挙されている(送金等令11①)。 (3) 減額・加重の適用対象の判断の根拠となる国外財産調書 減額措置、加重措置の適用の可否は、以下の国外財産調書で判断される(送金等法6③)。 イ 所得税の場合 その修正申告等に係る年分の国外財産調書(提出は翌年)に記載があるかどうかで判断される。ただし、年の中途で修正申告等の基因となる国外財産を有しなくなった場合には、もはやその財産は記載されなくなるため、その年に提出すべき国外財産調書つまり前年分の調書に記載されているかどうかで判断することとされている。 ロ 相続税の場合 次のいずれかの国外財産調書に記載があれば、5%減額される。 上記の国外財産調書に記載がなければ、他の年分に記載があっても記載なしと判断されることになるため、過去の調書と比較して、単純な記載漏れがないように注意する必要がある。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載10〕 外国子会社合算税制 (タックス・ヘイブン対策税制)の 適用の有無 税理士 郭 曙光 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)の適用関係については、内国法人に係る外国法人に個人株主が存在する場合には、十分注意する必要がある。 以下では、次の例を用いて、内国法人A社に外国子会社合算税制の適用があるのか否かについて、解説を行うこととしたい。 1 内国法人A社は外国子会社合算税制の適用対象法人になるのか否か 外国子会社合算税制の対象となる内国法人は、次に掲げる法人とされている(措法66の6①)。 すなわち、内国法人が外国関係会社に対する株式等の保有割合が10%以上である場合、又は、内国法人の単独の保有割合が10%未満ではあるが、その内国法人の属している同族株主グループの保有割合が10%以上である場合は、その内国法人は、外国子会社合算税制の適用対象法人とされる。 内国法人A社に外国子会社合算税制が適用されるのか否かは、香港法人B社が外国関係会社に該当するのか否かということを検討するとともに、内国法人A社が属している同族株主グループが香港法人B社の株式等の10%以上を保有しているのか否かということを検討する必要がある。 2 香港法人B社が「外国関係会社」に該当するのか否か 「外国関係会社」とは、「外国法人で、その発行済株式等(自己株式等を除く)のうちに居住者及び内国法人並びに特殊関係非居住者が直接及び間接に保有する割合が50%を超えるもの」とされている(措法66の6②一)。 国外に居住する親族等にその株式等を分散保有することが懸念されるため、外国関係会社の判定においては、「特殊関係非居住者」の持分が例外的に考慮されている。 この「特殊関係非居住者」とは、居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある非居住者で、次に掲げるものとされている(措法66の6②一、措令39の14③)。 香港法人B社が「外国関係会社」に該当するのか否かは、香港法人B社の発行済株式総数の93%を保有している乙が「居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある非居住者」(措法66の6②一括弧書)に該当するのか否かによって決まることとなる。 乙が甲の親族(弟)であることは間違いないものの、香港法人B社の株式を保有していない甲がこの「特殊関係非居住者」の判定における「居住者」に含まれることになるのか、という疑問が生じる。 租税特別措置法66条の6第2項1号の「特殊関係非居住者」の定義に関する部分の前後の規定は、次のとおりである。 上記の規定の「特殊関係非居住者」の括弧書き中の「居住者」に関しては、その括弧書きの前に外国法人の株式を保有する「居住者」という文言があるにもかかわらず、その括弧書きの前の「居住者」を指す場合に用いられる「当該」又は「その」という文言が用いられていない。このため、法令の規定の正しい解釈という観点からすると、上記の規定の括弧書き中の「居住者」は、括弧書きの前の「居住者」に限定されない、ということになる。 このような解釈の妥当性を裏付けるものとして、この「居住者」に関し、「判定対象となる外国法人の株式等を直接及び間接に保有しているか否かを問わない」※という指摘がある。 このような点からすれば、香港法人B社の株式を保有していない甲は、「特殊関係非居住者」の判定における「居住者」に含まれることになり、乙は、上記①の居住者の親族に該当し、「特殊関係非居住者」となることになる。乙が「特殊関係非居住者」に該当すれば、内国法人A社と「特殊関係非居住者」が香港法人B社の発行済株式等のすべてを保有していることとなり、香港法人B社は「外国関係会社」に該当することになる。 ※大蔵省主税局長 高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』116頁(清文社)昭和54年1月10日 3 同族株主グループが香港法人B社の株式等の10%以上を保有しているのか否か 内国法人A社が単独で保有する香港法人B社の株式等の割合は7%であり、単独では10%未満ということになっているが、内国法人A社が属する一の同族株主グループの保有割合が10%以上か否かによって、外国子会社合算税制の適用があるのか否かが決まることになる。 この「同族株主グループ」については、租税特別措置法66条の6第2項6号で次のように定義されている。 この規定の「政令で定める特殊の関係のある者」に関しては、次に掲げる個人又は法人とされている(措令39の16⑥一・二)。 上記の租税特別措置法66条の6第2項6号の規定中の「当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者」の「一の居住者」に関しては、「当該」という用語が付されているため、その前に存在する「一の居住者」を指すことになる。この「当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者」の「一の居住者」は、外国関係会社の株式等を直接又は間接に保有する者ということになるわけである。 この点は、上記2において検討を行った租税特別措置法66条の6第2項1号括弧書きの「居住者」とは異なることとなる。 このため、香港法人B社の株式を保有していない甲は、この「一の居住者」に含まれず、非居住者乙も、「当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者」に該当しないこととなる。 このように、内国法人A社と非居住者乙は一の「同族株主グループ」に属することとはならないため、株式等の保有割合が7%である内国法人A社は、外国子会社合算税制の適用対象法人とはならないこととなる。 4 結論 居住者甲は、判定対象である香港法人B社の株式を保有していないため、「同族株主グループ」の判定における「一の居住者 」に該当しない。非居住者乙も、居住者と「特殊の関係のある者」とならず、「同族株主グループ」に属する者とはならないこととなる。 この結果、内国法人A社は、香港法人B社の株式等の単独の保有割合が10%未満であり、「同族株主グループ」に属することもなっていないため、外国子会社合算税制の適用対象法人に該当せず、外国子会社合算税制の適用を受けることはない、ということになる。 (了)
会計リレーエッセイ 【第3回】 「企業の会計人材」 住友商事株式会社 特別顧問 島崎 憲明 会計との付き合いは、44年前の入社以来ということになる。 特に経理の仕事を希望したわけではないが、決算・業績管理・税務などを担当する部署に配属された。その後、国内外での異動や昇格などにより担当業務の拡がりはあったが、幸か不幸か、会計との縁が切れぬまま役員を卒業した。卒業後、IFRS財団のトラスティとして、単一で高品質の会計基準の作成と各国での適用に協力してきた。 今や会計がライフワークになってのめり込んでいる自分が居る。 総合商社にこのような業務があるとは知らずに入り込んだ経理の仕事には、本気で取り組めない時期もあった。しかし、入社当時の私の上司は部下の指導に熱心で、会計の知識だけでなく企業経営と会計という視点から新しいことへのチャレンジ精神が旺盛な方であった。 彼の机の上には『連結会計』とタイトルが書かれたファイルがあった。44年も前のことであるが、子会社も含めた決算が必要になる時代が来る、そのための勉強中だと聞かされた。 自分でとことん考える、工夫をこらす、原典にあたる、この3点を徹底して叩き込まれたが、これが私の企業会計人としてのバックボーンとなった。 私はこの教えを同僚と共有してきたが、駅伝のタスキのごとく、脈々と次の世代に受け継がれていると感じている。 企業会計人には、一般的に財務報告と経営管理の2つの機能が求められる。 前者は、利害関係者が経済的な意思決定を行う際に必要な情報を提供する機能であり、後者は、マネジメントが会社の状況を計数的に正確に把握し、企業価値の最大化を図るために経営資源の最適な配分を決定し、その結果を評価するために必要な情報を提供する機能である。 日本企業のほとんどは、企業会計人を新卒から自前で育成してきたが、近年その傾向に変化が見られる。 自前の養成に加え、公認会計士資格保有者や高度な会計スキルを持つ会計人材のキャリア採用、企業からの会計大学院派遣などが増加している。 これは企業活動の国際的拡がりや高度な会計知識と経験を必要とする複雑な事業が増えてきたことが一因である。 企業会計人(会計のみならず財務やリスクマネジメント業務も含まれる)に求められる会計リテラシーは、次の4段階に整理できる。 第一段階は、月次、四半期、通期の財務諸表作成など日々の経理実務を行う上で求められる基本的な会計・税務知識。 第二は、会社法・金融商品取引法上の開示、会計監査対応、内部統制に必要となる高度な会計知識。 第三は、事業経営の成果や問題点などを財務諸表から読み解く力。 第四は、経営資源の最適配分と適切なリスクマネジメントにより、企業の持続的成長を促す事業計画を策定し、PDCAサイクルを確実に回していく力、である。 私の場合、経理という仕事が面白いと前向きな気持ちに変わったきっかけは、前述した第三段階の管理会計の仕事を始めてからであった。 入社5年目頃、会社の事業計画策定に際して、ある事業の将来性や業界における競争力などについて分析を行い、トップマネジメントに提言する機会があった。 同業他社の有価証券報告書による財務分析や、今でいうビジネスモデルの比較考量なども行い、分析対象となった事業の将来性についてかなり大胆に言及した。 纏めたレポートに対してトップから直々のコメントもあって、経理マンとしてのモチベーションが高揚したことを今でもよく覚えている。 私が財務報告に関して会計基準などの勉強に真剣に取り組み始めたのは、ニューヨーク駐在から帰国し、部長に就任した頃からであった。 1990年代に入ってのバブル崩壊により、右肩上がりを前提にした経営に様々な歪みが顕在化し、日本的な会計対応にも課題山積の時期であった。ワラント付社債の金利処理、有価証券の評価方法、持合株式売却損益の認識方法、特金・ファントラの処理など、ファイナンス絡みの日本の会計基準は、米国に比べて大きく遅れていた。 入社早々企業会計原則を学び、日本基準に保守主義の原則があることは知っていたが、当時適用されていた基準には、企業経営の健全性からみて疑問を感じた。米国駐在時に当時のグローバルスタンダードである米国基準を学んだからこそ日本基準の問題点もよく見えたし、バブル崩壊後の処理についても企業の永続性という観点から適切な会計的対応も採れたと思う。 アベノミクスの三本の矢である成長戦略について、日本の企業が持続的成長を図るためには、アジア諸国をはじめ諸外国の成長を取り込んでいくことが必須である。 我が国におけるIFRS導入論議は一昨年の金融担当大臣の発言以来、具体的な方向性の審議が止まっている。 企業のグローバル展開が進む中、各企業の財務報告基準はどの基準に拠るのが好ましいのか、また現在の基準を使い続けることにより将来発生しうるリスクを回避するにはどうしたらよいのか、企業の経理担当者には深い考察に基づく企業トップに対する明確な提言が今、求められているのである。 (了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第5回】 「繰延税金資産及び繰延税金負債等の 表示方法並びに注記事項」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法 「税効果会計に係る会計基準」第三及び「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)28項から30項、45項は、繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法を次のように規定している。 Ⅱ 注記事項 「税効果会計に係る会計基準」第四及び個別税効果会計実務指針31項は、次のように注記事項を規定している。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第5回】 明治機械連結子会社・ 不適切な会計処理 「第三者調査委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【明治機械株式会社の概要】 明治機械株式会社(以下「明治機械」という)は、東京都に本店を置く産業機械メーカーで、創業1899(明治32)年。連結売上高8,348百万円、連結経常利益388百万円。従業員205名(数字はいずれも2012年3月期)。東証2部上場。 今回不正会計が発覚したラップマスターエスエフティ株式会社(以下「ラップ社」という)は、明治機械が2004(平成16)年に株式取得により子会社化(議決権割合85%)した半導体製造装置メーカーであるが、明治機械の2012年3月期有価証券報告書によれば、2,670百万円の債務超過と報告されている。 【報告書のポイント】 1 ラップ社の不適切な会計処理が発覚した経緯 明治機械は、2012年10月、金融庁証券取引等監視委員会から、ラップ社における不適切な会計処理の疑義について指摘を受けたことから、自社において不正会計の実態と責任の所在の解明及び再発防止策立案等が必要であると判断し、第三者委員会を設置した。 2 調査結果により判明した事実 (1) 押込・架空売上の計上 ラップ社が売上計上した装置機械のうち、2008年3月期に売上計上した6台及び翌年3月期に売上計上した11台、売上代金約15億円が長期滞留債権として資金回収がなく、調査の結果、押込販売あるいは架空販売であったことが判明した。 17台のうち、未出荷であったものが4台、保管されたままになっているものが5台、他のオーダーに転用された後事業譲渡されたものが1台(したがって、本機は2台とカウントされている)、販売又は事業譲渡されたものが6台であり、これらの販売・譲渡代金の合計は約2億4,000万円であった。 (2) 不正な原価流用 調査の過程で、ラップ社において、本来売上原価に計上すべき金額の一部を仕掛品として増額する、不正な原価流用が判明した。 原価流用とは、明治機械において、製造委託をしていた装置機械が完成した時点で、余った部材が他の仕掛中の装置機械の製造部材として転用できる場合に、製造委託先とラップ社の判断により、完成済み装置機械の原価の一部を他の仕掛中の装置機械の部材に付け替えることをいう。 この結果、明治機械の損益計算書上の「売上原価」が減少し(利益が増加)、貸借対照表上の資産である「仕掛品」の金額が増加することとなる(報告書22ページ)。 利益の水増し等のために行われた不正な原価流用が行われ始めた時期、金額は特定できていない。 3 原因分析と責任の所在 (1) 債務超過回避、親会社からの圧力 明治機械は、会計監査人に対し、ラップ社の減損の判断を2008年3月期に行う旨の報告書を提出しており、ラップ社の債務超過回避が最重要問題となっていた。 ラップ社幹部は、そうした親会社からのプレッシャーを受け、同期に約6億8,000万円、翌期に13億6,000万円の押込・架空売上を計上し、それだけでは足りないことから、不正な原価流用により利益を捻出したものである。 これに加え、ラップ社では、幹部から多数の従業員に対して押込・架空販売の処理を指示するメールが公然と送信されており、コンプライアンス意識も欠如していた。 (2) 明治機械社長の責任 ラップ社の元社長はじめ不正の当事者の責任が問われるのは当然であるが、明治機械社長のもとにも、ラップ社H氏から、「注文書を捏造します」「無理やり船積みもします」「時期が来るまで海外代理店の保全倉庫で保管してもらう」といった不正の具体的手口にまで言及したメールが送信されており、同社長が不正や隠蔽工作を指示した、あるいは知っていながら阻止しなかったとまでは言えないまでも、不正な会計を是正する措置をとることができた可能性が十分にあり、かつ、そうすべき立場であったことから、その責任は否定できない、と調査委員会は判断した。 (3) 明治機械監査役会 2009年12月8日、ラップ社元社長が送信したとされる内部告発メールが会計監査人宛てに届いたため、明治機械監査役会が調査に当たった。 調査の結果、「事実無根」という一部関係者の証言や出荷関係書類が形式的に整っていたことから、不正会計を否定する結論を出した。 しかし、監査役会が、広く関係者をヒアリングし、販売先に現物確認等を行っていれば、内部告発メールには事実が含まれており、不正の発見、是正につながった可能性があり、不正が早期に是正できなかったことについての責任の一端があると、調査委員会は指摘した。 (4) 会計監査人 会計監査人は、2009年3月期に多額の売掛債権(前期の押込販売)が回収されていない状況にもかかわらず、長期滞留の原因調査が十分であったと考えられるし、ラップ社が採用していた出荷基準により売上計上を研修基準に変更させるべきではなかったかとも考えられる。 また、上記の内部告発メール後の監査においても、仕掛品の現物確認にあたっては一層注意を払う必要があったし、売上原価を仕掛品に付け替えていないかについて慎重に検討するなど、十分な監査を行う必要があったと、調査委員会は指摘した。 4 調査報告書の特徴 報告書の冒頭「調査の限界」の中で、ラップ社の本件調査に係る事業が、2011年3月に事業譲渡されており、従業員のほとんどが転籍・退職している上、PCや証憑書類が残っていないこと、ラップ社元社長へのヒアリングが病気のためできなかったこと、明治機械幹部も、記憶が明確でないという陳述に終始することが少なくなく事案の解明は困難を極めたという記述があり、調査は、ラップ社H氏の証言と、同氏のメールの分析を中心に行われたようである。 報告書は、会計監査人宛てに届いた内部告発メールに対し、監査役会が十分な調査をしないまま事実無根であるとの結論を出しただけではなく、その報告を受けた会計監査人も、独自に調査をすることも、その後の監査において特段に注意を払うこともなく、監査を行っていた結果、不正の発見・是正が遅れたものであると指摘し、こうした不正の端緒につながる情報に接したとき、監査役、会計監査人はどうあるべきかを改めて考えさせられる内容になっている。 また、内部告発メールに止まらず、ラップ社H氏から発信された、明治機械社長へのメール、監査役への説明、会計監査人担当者に対する監査における虚偽説明を認めたかのようなメールなど、不正会計の是正につながる可能性があった事象を詳細に取り上げ、彼らの責任を理詰めで追及した記述には、説得力を感じると同時に、共感させられる点も多い。 【追記】 本調査報告書受領後の明治機械の適時開示は以下のとおり。 2月22日、同日開催の取締役会において、社長の解職を決議。これを受けて、同氏が取締役を辞任したことを発表した。 同月26日、監査法人との間で監査契約の解除を合意し、一時会計監査人を選任したこと、22日に就任した新社長を委員長とする社内調査委員会を設置したことを発表した。 委員会設置の目的は、以下のとおりである。 (了)
改正高年齢者雇用安定法の 実務上の留意点 【第2回】 「継続雇用制度の対象者を限定できる 仕組みの廃止」 社会保険労務士 平澤 貞三 背景 報酬比例部分に関する厚生年金の支給開始年齢が引き上げられ、平成25年4月には60歳であっても年金を一切受けられない人が出てくることになる。 年金の支給開始年齢の引上げは、平成25年4月1日から平成37年3月31日の期間で、以下のように予定されている。 (老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢) 年金を含めた一切の収入が絶たれないようにするためには、60歳以後も安定して職に就ける環境を整備する必要がある。 これが継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止した理由である。 経過措置 改正高齢法の趣旨は、無収入、無年金状態に陥ってしまう人を極力出さないという点にあるので、年金支給開始年齢に到達した者については継続雇用の対象者基準を適用してもよい、という経過措置が設けられている。 つまり、平成25年4月に60歳で定年となった者の場合、その者が希望する限り一定の場合を除いて自動的に継続雇用となるが、翌年から61歳で年金を受けられるようになったら、労使協定に定める継続雇用の対象者基準でふるいにかけ、基準を満たさない時はその時点で雇用を打ち切られることもあり得る、ということである。 ただし、労使協定で定める継続雇用の対象者基準は、平成25年4月1日以後に定めることは不可とされているので、対象者基準を設ける場合には、平成25年3月31日までに労使協定を締結しておく必要がある。 (厚生労働省ホームページ「高年齢者雇用安定法Q&A」Q1-1より) 経過措置の具体例と留意点 平成28年4月に60歳を迎える者が同年4月に定年退職となる場合、老齢厚生年金の支給開始年齢は62歳となるから、本人が継続雇用を希望する限り、原則として定年時点では継続雇用しなければならない。 その後、62歳になった時点で継続雇用の対象者基準を適用することが可能となり、継続か否かの判定ができるようになる。 ここで留意したいのは、対象者基準は、60歳定年時の状況で判断するのか、それとも62歳時点で判断するのか、という点である。 多くの企業では、直近の健康状態、過去の懲戒処分、出勤率、人事考課(平均点以上)などを継続雇用の対象者基準として設けているが、たとえ60歳時点ではそのような基準をクリアしていなくとも、希望する限り62歳までの雇用は保障されることになる。 一方、62歳になった時点で今後も雇用を継続すべきかどうかの判断において、2年前の定年退職時に遡って対象者基準に沿った評価ができるのか、という疑問が残る。 これについては法律上の制約は特に設けられておらず、労使協定で定めるルールに従うことになるため、決め方によっては60歳時点に遡った評価も可能なのである。 つまり、労使協定において継続雇用の対象者基準を平成25年3月31日までに定めておくことはもちろん、その評価の判断時点は定年時点なのか基準対象年齢時点なのかを明確にしておくことも重要であるといえる。 これらを踏まえて、次回では、改正高齢法対応の就業規則と労使協定について触れていきたい。 (了)
誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第10回〉 -賞与計算(1)- 税理士・社会保険労務士 安田 大 【事例①】―退職時の社会保険料控除― 〔正しい処理〕 〔解 説〕 1 社会保険の被保険者資格喪失 被保険者が退職した場合には、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者資格を喪失することになるが、資格喪失日は退職日の翌日とされている。 したがって、事例の場合には、12月28日が退職日であるため、資格喪失日はその翌日の12月29日になり、資格喪失月は12月となる。 2 社会保険料の負担 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)については、月単位で保険料を負担することになっている。原則として、資格を取得した月分から資格を喪失した月の前月分まで、社会保険料を負担する必要がある。 事例の場合には、社会保険料の負担は資格喪失月(12月)の前月分(11月分)までであり、賞与についても資格喪失月の前月である11月までに支給する賞与は対象となるが、資格喪失月である12月に支給する賞与については、社会保険料を負担しないことになる。 このため、賞与から社会保険料を控除する必要はないし、会社負担分も必要ないことになる。 もっとも、実務上は12月5日の賞与支給時(賞与計算時)に退職することがわからなかった場合には、当然、賞与から社会保険料を控除していることになるので、控除した社会保険料を後から還付する必要がある。 3 源泉徴収税額の再計算 12月5日支給の賞与に対する所得税等の源泉徴収税額について、社会保険料の負担を前提として計算されているため、社会保険料の負担がないものとして源泉徴収税額の再計算が必要となる。 また、本年分の年末調整についても、賞与に対する社会保険料負担を前提として計算が終了している場合には、その再計算(社会保険料控除が減少するため、年税額は増加することになる)も必要となる。 4 末日退職の場合 今回の事例では、12月28日の退職であるが、その月の末日(12月31日)に退職した場合には、退職日の翌日である翌年1月1日が資格喪失日となるため、資格喪失月は1月である。 したがって、資格喪失月の前月である12月に支給する賞与については、社会保険料を控除することになるので、還付する必要はないことになる。 (了)