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事例で学ぶ内部統制【第1回】「5年目の内部統制報告制度、各企業が抱える課題とは?」

事例で学ぶ内部統制 【第1回】 「5年目の内部統制報告制度、 各企業が抱える課題とは?」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 筆者が代表を務める株式会社スタンダード機構は、内部統制報告制度が踊り場に差し掛かった3年目にあたる平成22年6月から定期的に、企業で内部統制を担当されている部課長に参集いただき、内部統制報告制度をどうやって有効かつ効率的に運用するべきかを考える交流会を行ってきた。交流会では、毎回、内部統制をめぐり企業の現場で起こっている実務課題と解決策を持ち寄る。 参加企業は、年商100億円程度の中堅企業から数兆円程度の大企業にまでわたり、業種も、電機、食品、卸、重工業、建設、商社、情報通信など、多種多様である。また、交流会には監査法人は参加しておらず、企業の実務担当者による意見交換となった。 本稿では、交流会で交わされた内容を振り返り、「内部統制の現場で何が問題となっているのか」、「その解決として各企業がどういう知恵を絞っているのか」という視点で、今後の内部統制の運用に役立つ事例を紹介していく。   5年目に入った内部統制報告制度 内部統制報告制度は、平成24年4月から5年目に入った。金融庁が実施基準を公表したのが平成19年2月、内部統制報告の開始が平成21年3月決算からであるから、企業に与えられた準備期間は2年余りであった。経理部門に限らず、企業のさまざまな部門を巻き込んで取り組む制度としては、極めて急ピッチで対応が進められたことになる。 参加企業Aは、「正直、導入2年目までは、監査法人が何をどのレベルまで対応するのかという基準を持ち合わせていなかったし、私たちには知識も経験もなかったので、監査法人からの場当たり的な要望の内容を斟酌しながら対応を進める手探り状態だった」(食品メーカー)と、導入当時を振り返った。 金融庁によれば、初年度の内部統制報告制度で、開示すべき重要な不備があると報告した企業の比率は2.4%、その後もこの比率は低位で推移している。そこで、制度4年目を迎えた平成23年3月、金融庁は早々と実施基準の簡素化案を公表した。 各社で簡素化案をどのように自社に取り込むべきかという議論が交わされる中、平成23年末にオリンパスや大王製紙の巨額会計不正が絡む内部統制の不備が発覚し、現在に至っている。 参加企業Bは、「従来の実施基準は抽象的だったため、わが社が他社よりも過剰な対応をしていないかどうかを検証したくても、物差しがなかった。基準が改定されて簡素化に向けた方法が提示されたが、この簡素化案を他社はどの程度採用しているのだろうか、という新たな疑問も出てきた」(建設会社)と、簡素化案の公表後も依然として基準の適用に悩む実情を吐露した。 参加企業Cは、「日本は米国に比べて内部統制の重要な不備の報告が少ないというが、実態を表しているのだろうか。日本では、内部統制の重要な不備を外部に公表するのは恥を晒すことに等しいと考える企業が多いのではないか。わが社はまさにその思想で、内部統制評価部門が合格を出すまで評価を何度も繰り返すとか、評価される側の部門が、事前にすべての伝票を全件チェックして、不備があれば修正して評価に臨み、不備の発覚を防ぐという対応をしていた。簡素化案に踏み切ることは、わが社の場合は拙速だと思う」(商社)と話し、簡素化の適用には懐疑的だった。 このように、内部統制の開始からこれまでの企業の対応状況は悩ましく、紆余曲折を経ている。   制度がもたらした便益とは 他方、内部統制報告制度が企業に良い効果をもたらした面もある。 参加企業Dは、「株式を公開している企業にとって財務報告の信頼性が重要だということに、経理部だけでなく、経理部以外の従業員が理解を示すようになった」(精密機器メーカー)と、全社的な活動としての内部統制の効果を認めた。 参加企業Eは、「財務諸表監査も含めて、監査法人との付き合い方が変わった。内部統制報告制度が導入される前は、私たちはいわば丸腰で、監査法人に言われるままだった。導入後は、リスクとかアサーションとか、監査法人の思考パターンが分かり、監査法人とのコミュニケーションに必要な武器を持つことができた。そのうち、監査法人の言うことを丸呑みするのではなく、他社の事例も踏まえて監査法人と協議する姿勢が生まれ、効果的な監査につながった」(電機メーカー)と話した。 参加企業Fは、「内部統制に対する理解が高まることで、取引先との関係が健全になった。顧客が上場企業の場合、顧客側が購買業務の内部統制を整備する過程で、わが社に対して無理難題のある取引条件を強いることがなくなり、商売がしやすくなった。他方、わが社の仕入先に対して特別な条件や無理な条件で取引することがなくなり、取引条件の透明性が高まり、業務の効率化が実現できた」(食品メーカー)と話した。 いずれも、当初から内部統制に期待された便益である。   山積する実務上の課題 それでも、参加企業の声を聞くにつけ、依然として企業の現場では、制度全般と個別具体的課題の両面で課題が山積しており、どの指摘も、これからの内部統制の課題として正鵠を射ていると感じる。 参加企業Gは、「内部統制も5年目に入り、現場は監査慣れしてしまった。均一化されたルーティーン運用を続けていて、本当に役立つのだろうか、という悩みや疑問が尽きない。もっと効果のある運用をしたい。でも、監査法人はなかなかメリハリのある評価の方法や簡素化の方法を教えてくれない」(情報通信会社)と、制度全般に対する課題を漏らした。 個別具体的な実務課題は次のようなものだ。 まず、「内部統制評価は、毎年同じ作業の繰り返しだが、どの作業をいつごろから開始すればよいのか」という年間スケジュールの問題がある。 監査組織上の実務課題は数多いが、 「社内の内部監査部門の人員が削減される中、少ない人員で内部監査部門の独立性を保つための工夫は何か」 「そもそも内部監査部門の負荷として、1名あたりいくつのコントロールの評価を担当するのがちょうどよいのか」などだ。 評価の手法をめぐる実務課題としては、 「全社レベルの内部統制で、実施基準はCOSOモデル42項目となっているが、企業の実情に応じて追加した評価項目の事例はあるのか」 「プロセスレベルの内部統制で、評価の対象となる重要なコントロールを絞り込むため、キーコントロールと呼ばれる概念を使う場合、その比率は何%ぐらいか」 「決算プロセスの内部統制の評価は専門性が高く、リスクも高いと言われるが、そもそも、どのようなリスクとコントロールを認識しているのだろうか。また、リスクコントロールマトリクス(RCM)を使わない企業があると聞いたが本当か」 などが挙げられた。 運用評価のあり方は、今回の簡素化に大きく関係しており、 「効率化のために、どのように評価対象となるコントロールの絞込みをするのか」 「効率化のために、どのように評価対象部門の集約をするのか」 「運用テストの対象期間とサンプル数は、本当に各社で同じなのか」 「エラーが発生したときの再評価の方法を工夫したい」 などの重要な実務課題が多い。 今回は、内部統制報告制度の開始からこれまでを振り返り、交流会に参加した各企業が制度の便益を認めながらも、より有効かつ効率的に運用するための実務上の悩みや課題を抱えている実情を紹介した。 次回以降では、交流会で交わされた個別具体的な実務課題と解決に向けた取組みの事例を順次紹介していく。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#島 紀彦
2012/10/25

平成24年分 おさえておきたい年末調整のポイント ①今年度適用となる改正事項 (生命保険料控除の改正)

平成24年分 おさえておきたい 年末調整のポイント ① 今年度適用となる改正事項 (生命保険料控除の改正)   公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】改正の概要 平成23年分までの生命保険料控除は、一般の生命保険料控除と個人年金保険料控除から構成されていた。平成24年分以後は、この2つに介護医療保険料控除が加わることとなる。 これら3つの控除額は、保険契約の締結時期が平成24年1月1日以降(新契約)か平成23年12月31日以前(旧契約)かによって、下記の【2】(1)~(3)の計算式を適用し、別々に計算する。ただし、適用限度額は3つの合計で12万円である。 新契約にかかる保険料は、契約の保障内容に応じ、次のように区分される(支払った保険料が具体的にどの控除の対象となるかは、保険会社から発行される控除証明書に記載される)。    【2】控除額の計算方法 (1)平成24年1月1日以後に締結した保険契約(新契約)にかかる控除額の計算式 (対象:一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除、介護医療保険料控除) (2)平成23年12月31日以前に締結した保険契約(旧契約)にかかる控除額の計算式 (対象:一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除)=平成23年分までの計算式と同じ (3)新契約と旧契約の双方に加入している場合の計算 一般の生命保険料、個人年金保険料それぞれについて、次の①~③のいずれかを選択 なお、平成23年12月31日以前に締結した保険契約について、平成24年1月1日以後に一定の契約内容の変更(更新、特約の中途付加等)が行われた場合には、変更時点で新契約を締結したものとみなして、その後の控除額を計算する。   【3】具体的な計算例 〈ケース1〉すべての保険契約が旧契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(2)より50,000円 →生命保険料控除の額:100,000円 ※(50,000円+50,000円=100,000円≦120,000円) 〈ケース2〉すべての保険契約が新契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(1)より40,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(1)より40,000円 ・介護医療保険料控除…………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:115,000円 ※(40,000円+40,000円+35,000円=115,000円≦120,000円) 〈ケース3〉一般の生命保険と個人年金保険が旧契約、介護医療保険が新契約の場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・個人年金保険料控除…………【2】(2)より50,000円 ・介護医療保険料控除…………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:120,000円 ※(50,000円+50,000円+35,000円=135,000円>120,000円よって120,000円) 〈ケース4〉一般の生命保険について旧契約と新契約の双方がある場合 ・一般の生命保険料控除………【2】(3)より42,500円 ① 新契約のみを対象:32,500円 ② 旧契約のみを対象:42,500円 ③ 新・旧双方を対象:40,000円(32,500円+42,500円=75,000円>40,000円) ①~③のうちの最大控除額は②の42,500円 ・個人年金保険料控除………【2】(2)より50,000円 ・介護医療保険料控除………【2】(1)より35,000円 →生命保険料控除の額:120,000円 ※(42,500円+50,000円+35,000円=127,500円>120,000円 よって120,000円)   【4】控除額計算のまとめ   【5】記載例 上記ケース4における「給与所得者の保険料控除申告書」の記載例を示すと、以下のとおりである。 次回は「年末調整について質問の多い事項」について解説する。 (了) 【参考】国税庁ホームページ 「平成24年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」 ※PDFファイル

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#篠藤 敦子
2012/10/25

〔会計不正調査報告書を読む〕【第1回】沖電気工業スペイン販社・不正会計事件「外部調査委員会報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第1回】 沖電気工業スペイン販社・不正会計事件 「外部調査委員会報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【資本関係】   【報告書のポイント】 1 不正の内容 販売代理店に対する架空売上の計上 架空売上債権をファクタリングして得た資金を販売代理店に循環して債権回収を偽装 液晶テレビ仲介業者に対する不正な資金支援(債務の肩代わり、売上債権の隠蔽) 同一売掛金をファクタリングした上で手形回収して割引に出す、重複ファイナンス リベート負担額の未計上、前受金を別の社の売掛金消し込みに充当する、等 2 影響額 6年3ヶ月間の累計で、売上高が75億円の減少、営業利益が216億円の損失、当期純利益が308億円の損失、純資産が244億円の減少。   3 不正発生の原因 ODCによる無理な販売計画を達成するため、卸売業者に対して過度な押込販売を行った結果、卸売業者の在庫が増加、購入代金の未払いが続出したため、売上の計上・取消しを繰り返したり、債権回収を偽装したりして、卸売業者を支援したことがきっかけとなる。 スペイン販社代表者Aは、以下の理由により不適切な会計処理ではないと抗弁している。 ① 一部行為に関与していない ② スペインにおける商慣習 ③ 会計監査において長年指摘を受けていなかった Aは、スペイン販社設立当時(1993年)からあらゆる業務を掌握しており、スペインにおけるプリンタのシェアを急伸させた実績を有していた。   4 不正が長期にわたって隠蔽されてきた理由 上述のとおり、Aに対する親会社の信頼は厚く、また、スペイン販社内ではAに対して批判的なことは口に出せなかった。 ODC監査室は、2008年7月、初めての監査を実施したが、往査期間は2日間、実施手続はヒアリング中心で、特段の問題を認識することなく監査を終了し、これ以降内部監査は実施していない。   5 会計監査人の責任 報告書は、スペイン販社の会計監査を長く担当してきたErnst & Young Spainに関して、会計監査において、不自然な取引が検知されていた可能性もあるが、判明した事実のみでは会計監査の適切性を評価できないし、調査の目的でもないから結論表明は差し控える、としている。   6 経営陣による事態の掌握と対策 (1) 2008年度には、OEL傘下のドイツ販売子会社で本件同様大量の流通在庫が累積し、翌年以降買い戻すに至ったことがあったが、その後も流通在庫のモニタリング体制は改善されなかった。 (2) 2011年6月段階で、スペイン販社において、不正の端緒となる事象が、親会社であるOKI副社長、常務に報告されていたこと (3) スペイン販社の実態解明、改善の先頭になっていたD氏は、その手法、改善提案の内容を批判され、わずか半年足らずの在任期間で、退職したこと (4) D氏の退職後、OKI及びODC経営陣は、スペイン販社からの改善報告を漫然と受け入れ、むしろ、タイを襲った大洪水の対策を最優先課題としたこと   7 提言された再発防止策 (1) 再発防止に向けた役職員の意識改革 (2) 子会社管理体制の見直し (3) 関係会社等の事業及びリスクの特性に適合した財務報告に係る内部統制の再構築 (4) 関係会社等の経営状況のモニタリング体制の強化   8 報告書に対する評価 海外子会社による不正は、ここ数年の企業不祥事に多く見られる。親会社、日本国内のグループ会社は、金融商品取引法における内部統制報告制度の導入以来、リスクの評価、リスクに対するコントロールといった考え方が浸透しつつあるようだが、物理的な距離、商習慣や言葉の壁のせいか、海外グループ会社まで目が行き届かないというところか。 本報告書は、沖電気工業が、スペインのプリンタ販売会社(曾孫会社)の会計不正について、外部調査委員会を設置して調査したものである。本報告書の特徴を一言でいえば、全般的に経営者にとって非常に厳しい内容となっている点にある。例えば、「関係者において実態を直視することにより問題が明瞭になることを避けようという考えが働いた可能性は否定できない。」(42頁)における「関係者」とは、OKIの社長、副社長、常務、経理部長、財務部長を含むと考えられ、「任務懈怠」という直接的な表現こそないものの、経営トップとして適切な判断とは言い難いと評価されている。 また経理部門では、アメリカ子会社における会計処理が会計監査の責任者の交代により否認され、2008年に前年度の財務諸表を訂正した経験があることから、こうした事態を回避したいという認識が働いていたことも指摘されている。 スペイン販社は、「全社的な内部統制だけでなく、売上、仕入及び在庫等の重要な業務については業務プロセスに係る内部統制も含めて、経営者による有効性評価を実施すべき会社として区分されている。」(44頁)ということであるが、内部統制プロセスの運用評価はどのように行われていたのか。会計監査人がどのようにして、「財務報告に係る内部統制の評価結果について、すべての重要な点において適正に表示しているものと認める。」という評価ができたのか、不明である(その後、9月14日になって、内部統制報告書が訂正された)。 これまでに取り上げた不正以外にも、スペイン販社は簿外で4.85百万ユーロの手形を振り出していたという記述に続いて、「Q社(テレビ仲介業者)はこの手形を金融機関に持ち込み手形割引を行い換金したが、スペイン販社は手形の決済期日に支払いを行っていない」旨の記述がある(22頁)が、だとしたら、手形は不渡りになっているのではないかと思うのだが、その後の記述が見当たらない。筆者は、スペインの手形制度についての知見を有しないため、結論めいたことは書けないが、気になる記述であった。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#米澤 勝
2012/10/25

改正「退職給付会計」の要点と実務上のポイント 【第2回】「主要な改正ポイント(その2)」

改正「退職給付会計」の要点と 実務上のポイント 【第2回】 「主要な改正ポイント(その2)」 有限責任監査法人トーマツ 堀田 晃裕 2012年5月17日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表された。改正後基準(前述の会計基準及び適用指針を総称してこう呼ぶことにする)の改正前基準からの主な変更点は5点あり、以下のとおりである。 このうち前回は、会計処理に関する(1)、開示に関する(2)について取り上げた。今回は、年金数理計算に関する(3)と、それ以外の変更点、適用時期について取り上げる。 なお、本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことを、あらかじめお断りしておく。   退職給付債務及び勤務費用の計算方法 〈退職給付見込額の期間帰属方法の見直し〉 改正前基準では、退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準を原則とし、その他の方法(給与基準、支給倍率基準、ポイント基準)は一定の場合にのみ認められていた。 改正後基準では、期間定額基準、給付算定式基準のいずれかの方法を選択適用することとなる。給付算定式基準とは、「退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積もった額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法」であり、国際的な会計基準と同様な方法であるとされている。 なお、給付算定式基準による場合、勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときには、当該期間の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従わなければならない。 改正後基準の適用にあたり、その適用前に期間定額基準を採用していた場合でも、給付算定式基準を選択することができる。ただし、期間定額基準、給付算定式基準のいずれかを採用した後は、原則として、これを継続して適用しなければならない。 〈割引率の見直し〉 改正前基準では、割引率の基礎となる期間について、退職給付の見込支払日までの平均期間を原則とするが、実務上は従業員の平均残存勤務期間に近似した年数とすることもできるとされていた。 改正後基準では、割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければならないとされ、「従業員の平均残存勤務期間に近似した年数」といった表現が削除された。 具体的には、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれるとしている。 なお、「割引率等の計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができる」といういわゆる「重要性基準」については、改正後基準においても変わらず残されている。 〈予想昇給率の見直し〉 改正前基準では、退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には「確実に見込まれる」昇給等が含まれるものとされていた。 改正後基準では、退職給付見込額の見積りにおいて合理的に見込まれる退職給付の変動要因には「予想される」昇給等が含まれるものとされた。   その他の変更点 〈複数事業主制度の取扱いの見直し〉 「複数事業主制度のうち、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないケースでは、要拠出額をもって費用処理される」という従来からの取扱いは変更されない。 このケースにあたらないものとして、改正前基準では、「親会社等の特定の事業主に属する従業員に係る給付等が制度全体の中で著しく大きな割合を占めている場合」、「複数事業主間において類似した退職給付制度を有している場合」があげられていたが、改正後基準においては、このうち前者のみが引き継がれ、後者については、一律にあたらないとはみなさず、制度の内容を勘案して判断することとされた。 〈長期期待運用収益率の考え方の明確化〉 改正前基準における「期待運用収益率」は、改正後基準において「長期期待運用収益率」に名称が変更された。 この長期期待運用収益率の設定の際に考慮すべき事項は、改正前基準における取扱いを引き継いでいるが、長期期待運用収益率の算定は、退職給付の支払いに充てられるまでの期間等を考慮して設定することを明らかにしている。 なお、これは従来の考え方を改めるものではなく、取扱いの明確化にすぎないため、会計方針の変更には該当しないとされている。   適用時期 改正後基準は、平成25年4月1日以降開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用する。ただし「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」及び「複数事業主制度の取扱いの見直し」の改正については、平成26年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用する。 「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」及び「複数事業主制度の取扱いの見直し」の改正を適用することが実務上困難な場合には、一定の注記を条件に、平成27年4月1日以降開始する事業年度の期首から適用することができる。 早期適用は、前記のいずれも平成25年4月1日以降開始する事業年度の期首から認められる(「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」及び「複数事業主制度の取扱いの見直し」以外の早期適用は、「平成24年4月1日以降開始する事業年度の年度末」からではないことに留意しなければならない)。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#堀田 晃裕
2012/10/25

《速報解説》 産業経理協会 連・単分離に関するアンケート調査結果・分析を公表

《速報解説》 産業経理協会 連・単分離に関するアンケート調査結果・分析を公表 ──連・単分離は投資意思決定に混乱──   Profession Journal 編集部 10月19日、(財)産業経理協会は、6月に実施した「2012年度 連・単分離に関するアンケート調査研究」の結果・分析を公表した。アンケート対象会社は466社(上場302社・非上場164社)、回答会社は156社(上場128社・非上場27社・無回答1社)であった。報告は、東京理科大学・吉岡正道教授、野口教子講師、創価女子短期大学・大野智弘教授が行った。 2011年6月21日の自見庄三郎金融担当大臣の「2015年3月期についての強制適用は考えていない」という表明以降、会計基準のコンバージェンスについては、連・単分離の方向に進む兆しが見られるが、一連のコンバージェンスによってIFRSに近づくに従い、会計と税務との乖離が非常に大きくなっているという現状認識のもと、次の2つの仮説を立て、アンケート調査を行った。 連・単が分離されると、投資意思決定に混乱を生じることが懸念される。 個別財務諸表へのIFRS適用により会計基準と税法との乖離が一段と進むと、2011年度までのような税務調整だけでは両者の調整に限界をきたすことになり、新たな課税所得計算基準の必要性が高まる。 アンケート分析の結果、仮説1が裏付けられたほか、仮説2については、製造業では、新たな課税所得計算基準を設ける必要があるとの回答傾向が見られたのに対して、非製造業では、税務調整による確定申告には限界があるものの、新たな課税所得計算基準を設ける必要性は低いと回答する傾向が見られることが明らかになり、IFRSとのコンバージェンスが進められてきたことで、日本の会計と税務の間には著しい乖離が生じ、これまでの税務調整では対応しきれず、新たな課税所得計算が必要であると結論づけている。 アンケートの集計で特に注目されたこととして、所有株主構成上の外国人株主の影響があまり大きいものではなかったこと、また、連結財務諸表も個別財務諸表もJPGAAPで作成したいと回答した企業が無回答を除く146社中75社(51%)で、連結財務諸表はIFRS、個別財務諸表はJPGAAPで作成したいと回答した52社(32%)を大きく上回ったことが挙げられる。また、税務調整の必要性について製造業と非製造業に大きな相違がみられたのは、固定資産の保有と減価償却の規模がその原因であろうと分析している。 (アンケートの詳細資料は(財)産業経理協会発行『産業経理』第72巻第3号に掲載予定)  (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2012/10/22

《速報解説》 第3回 ACFE JAPANカンファレンス「不正防止とコーポレート・ガバナンス」

《速報解説》 第3回 ACFE JAPANカンファレンス 「不正防止とコーポレート・ガバナンス」 ──マイケル・ウッドフォード氏を招聘して開催──   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)は、10月12日(金)、青山学院アイビーホールで、ACFE JAPANカンファレンスを開催した。オリンパス社元社長マイケル・ウッドフォード氏を招聘し『「身を賭して真実を追究する」ことの代償』と題して基調講演があった。講演の後、八田進二氏(青山学院大学教授)との対談へと続いた。会場は、ウッドフォード氏の言葉を聞こうと詰めかけた会員・非会員の聴衆で満席だった。 今回のウッドフォード氏の来日は、アメリカ・フロリダで開催されたACFE年次総会に出席したACFE JAPAN理事長の濱田眞樹人氏が、日本のカンファレンスでも講演をしてもらいたいと懇請し、実現したものである。  マイケル・ウッドフォード氏 (写真提供:ACFE JAPAN) ウッドフォード氏が、日本におけるスポークスマンであるミラー和空氏を伴って登場した。長身。冒頭、自らを“Western Salary Man”と称して会場の笑いを誘った後は、30年に及ぶオリンパスでの勤務の後社長にまで上り詰めた氏が、FACTA誌に掲載された、オリンパスが過去のM&A(企業買収・合併)において不透明な取引と会計処理を行っていたという記事を読み、菊川会長に真実をただす場面へ向かって、一気に話が進む。彼らが指定したランチミーティングで「FACTAの記事は事実か」という問いに対し、菊川氏は「ほぼ、その通りだ」と答えたという。 そのとき、菊川、森両氏の前には豪華な寿司が用意されていたにもかかわらず、寿司が大好きなウッドフォード氏の前にはツナ・サンドイッチが置かれていたことなど、ウッドフォード氏自身の著書『解任』でもお馴染みのエピソードをユーモアを交えて語る。 その後、事態はウッドフォード氏の解任へ一気に進むことになった。 基調講演とその後の八田教授との対談で、ウッドフォード氏が繰り返し強調していたことは、氏が30年にわたって勤めてきたオリンパスという会社を本当に愛していること(もちろん「過去形」ではなく「現在形」で)、自分を引き上げてくれた菊川元社長に敬意と感謝を持ちつつ、それでも氏の正義感が不正を見逃すことを許さなかったこと、日本のジャーナリズムが当初、この件に対して消極的だったことに対する不信感であった。氏はそのことを「絶対権力は必ず腐る」、「報道機関として欧米ではあり得ない」という言葉で表現した。また、八田教授の「日本の会計監査について信頼しているか」との問いに対し、明確な返答はなかった。 氏のスピーチを聞きながら、『解任』の中で、最も印象的だった氏の言葉を思い起こす。 「私の忠誠心は盲目ではない」 そうしたウッドフォード氏のスピーチについて、最後のパネルディスカッションにパネラーとして登壇された弁護士の山口利昭氏は、内部告発者には「組織に対する愛」があるからこそ、自分を育ててくれた組織の不正を許せないのではないかという趣旨の発言をされ、会場からも深い同意があったように思う。 公認不正検査士Certified Fraud Examinerは「会計」、「調査」、「法律」、「犯罪学と倫理」という4つの分野に関する知識を習得した不正対策の専門家資格であり、現在世界150ヶ国に約6万人の会員を擁し、日本にも1,000人の会員と600人を超える有資格者がいる。(参照:一般社団法人 日本公認不正検査士協会) (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#米澤 勝
2012/10/17

《速報解説》 『租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて』等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)

《速報解説》 『租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて』等の 一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報) ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 国税庁は、平成24年度税制改正の施行に伴い、平成24年6月27日において相続税法の特例関係の法令解釈通達(「『租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて』等の一部改正について」(法令解釈通達)、以下「本通達」という)により、所要の整備を行ったところである。 その後、国税庁は、平成24年9月28日に本通達に係るあらまし(以下、「あらまし」という)を公表した。 あらましの主な内容は、以下のとおりである。 (了)  【参考】国税庁ホームページ ・「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#甲田 義典
2012/10/11

《速報解説》 「資産課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について

《速報解説》 「資産課税関係の申請、 届出等の様式の制定について」 の一部改正について 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 資産課税関係の税務申告書等の様式は、国税庁長官名で個別通達「資産課税関係の申請、届出等の様式の制定について」(以下、「様式制定個別通達」という)として公表されている(国税庁ホームページの相続税関係の個別通達で閲覧可能)。 平成24年度税制改正等に伴い、所要の整備を図るため、平成24年6月28日付けで国税庁長官名にて「「資産課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について」(以下、「平成24年6月改正」という)が公表されている。 本稿では平成24年6月改正に関し、そのポイントについて解説を行う。 平成24年6月改正では、相続税関係(第2)、贈与税関係(第3)、納税猶予関係(第8)、租税特別措置法40条の規定による承認申請関係(第9)、更正の請求関係(第10)の様式について改正が行われている(括弧内は様式制定個別通達の項目番号を示している)。改正の詳細は、平成24年6月改正として公表されている新旧対照表で確認することができる。 ここでは改正の重要ポイントのみ解説を行うこととするが、重要なポイントは以下の3点である。 ① 山林についての相続税の納税猶予の創設 平成24年度税制改正で、山林について一定の条件のもとで相続税の納税猶予が認められる制度が創設された(措置法70の6の4)。この制度の適用を受けるためには、相続税の申告書を申告期限内に提出し、当該申告書にこの制度の適用を受けようとする旨を記載し、一定の書類を添付する必要がある。 添付書類の一部として、「山林納税猶予税額の計算書(第8の3表)」(第2 相続税関係:様式番号13-5)、「山林についての納税猶予の特例の適用を受ける特例山林及び特例施業対象山林の明細書(第8の3表の付表)」(第2 相続税関係:様式番号13-6)が、平成24年6月改正で追加された。 ② 贈与税の納税猶予を適用している場合の特定貸付けの特例の創設 平成24年度税制改正で、農地等に係る贈与税の納税猶予について特定貸付けの特例が創設された(措置法70の4の2)。なお、農地等に係る相続税の納税猶予については特定貸付けの特例が既に制度化されている(措置法70の6の2)。農地等に係る贈与税の納税猶予について、特定貸付けの特例を適用するためには、特定貸付けを行った日から2ヶ月以内に特定貸付けを行っている旨の届出書を納税地の所轄税務署長へ届出を行う必要がある。 その届出書について、平成24年6月改正で「贈与税の納税猶予の特定貸付けに関する届出書」(第8 納税猶予関係:様式番号83-16-1)が追加された。 ③ 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の改正 平成23年度税制改正で、贈与税・相続税の納税猶予制度を適用する認定会社等が外国子会社の株式等を有する場合、その納税猶予額は外国会社の株式等を有していなかったものとして計算することとされた。 贈与時に納税猶予の適用を受け、その贈与者が死亡した場合、相続税の納税猶予額の計算(措置法70の7の4)について、平成24年6月改正で新しく様式「認定相続承継会社等が外国会社等の株式等を有する場合の納税猶予税額算出の基となる特例相続非上場株式等の価額の計算書」(第8 納税猶予関係:様式番号105)が追加された。 (了) 【参考】国税庁ホームページ ・「資産課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達) ・「資産課税関係の申請、届出等の様式の制定について(法令解釈通達)」 【参考】拙著『知っておきたい やっておきたい 相続のキホンと対策』清文社(2012年)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#根岸 二良
2012/10/10

「一体改革」を総括する

「一体改革」を総括する              一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 「社会保障・税一体改革」は、民主・自民・公明の3党協議による大幅な修正を経て、8月10日に関係8法案が成立、8月22日に公布された。国・地方合わせた消費税率を2014年4月から8%、2015年10月から10%に引き上げることで、社会保障の安定財源を確保し、財政再建への第一歩を踏み出すことができた意義は極めて大きい。 一方で社会保障は、子育て支援、被用者年金制度の一部が大幅な修正のうえで実現したものの、公的年金、医療、介護、少子化対策の抜本改革は結論を先送りされ、「社会保障制度改革国民会議」を設置し、施行後1年以内に検討することとされている。ここで、すでに「社会保障・税一体改革」ではなくなってしまっているが、税制だけを見ても多くの課題が残されている。 〈低所得者対策〉 何よりも、消費税率引上げに伴う低所得者対策として、「複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(以下、改正消費税法)7条1号ロ)」こととなった。少なくとも10%を超える段階までは単一税率でというのが政府当初案のスタンスであったが、3党協議の中では8%引上げ時から軽減税率導入との主張もあった。仮に軽減税率の対象をEU諸国並みにするならば、消費の4割程度が軽減税率対象となる。これを5%にとどめるならば、8%一律で得られる税収を3兆円程度下回ることとなり、当座の社会保障財源も確保し難くなる。百歩譲っても、複数税率は10%の段階での議論とすべきである。 一方で、政府当初案で本命とされていた給付付き税額控除は、その前提となるマイナンバー法が未成立である。仮に年内に成立できなければ、2015年1月1日はもとより2015年10月の消費税率10%引上げ時においてもマイナンバー制度の本格稼働は困難であり、複数税率導入か「簡素な給付措置」の延長が現実的な選択肢となってこよう。 〈消費税率引上げに伴う転嫁・表示対策〉 さらに、消費税率引上げ時における転嫁対策・表示の問題も大きな課題である。転嫁対策については、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律及び下請代金支払遅延防止法の特例に係る必要な法制上の措置を講ずること(改正消費税法7条1号ホ(6)」とされ、消費税導入時に採られた中小企業に限定しての価格転嫁カルテルの容認に加え、下請法の特例措置も予定されている。 しかし、表示については「事業者間取引、相対取引等におけるその表示の在り方を含め、引き続き、実態を踏まえつつ、様々な角度から検討する(改正消費税法7条1号ヘ)」とされるのみで方向は示されていない。なお、対消費者取引では現行の総額表示方式が定着しており、これを変更することには大きな抵抗があろう。 〈消費税率引上げに伴う他税目との調整〉 消費税率引上げに際して、他の税目との調整も一筋縄ではいかない難問である。 車体課税については、3党合意において消費税率8%への引上げ時までに自動者取得税、自動車重量税の「抜本的見直し」について結論を得るとされているが、一方で「安定的な財源を確保した上で、地方財政にも配慮しつつ、簡素化、負担の軽減及びグリーン化(環境への負荷の低減に資するための施策をいう。)の観点から、見直しを行う(改正消費税法7条1号カ)」ともされている。 自動者取得税(都道府県税、24年度税収見込み2,068億円)については、取得価額に対して5%(普通乗用車)、3%(軽自動車・営業車)であり、まさに消費税との二重課税であることから廃止の方向で議論が進むと思われるが、自動車重量税(国税、24年度税収見込み7,032億円)については、24年度改正における環境対策としての軽減措置の延長・拡充に止まるのではないか。 また、タックス・オン・タックスが指摘されている酒税、たばこ税、石油関係諸税については、「個別間接税を含む価格に消費税が課されることが国際的に共通する原則である(改正消費税法7条1号ヌ)」とされており、手つかずに終わる可能性が高い。むしろ燃料課税については、24年度改正で決定された石油石炭税の段階的増税の再検討が課題となろう。 最大の問題は、住宅関連税制である。住宅の取得については、「一時の税負担の増加による影響を平準化し、及び緩和する観点から、住宅の取得に係る必要な措置について財源も含め総合的に検討する(改正消費税法7条1号チ)」とされ、さらに3党合意では、消費税率8%、10%への引上げ時に「それぞれ十分な対策を実施する」とされている。不動産取得税、登録免許税、固定資産税等では負担増分を解消することはできず、関係業界からは消費税率引上げ分についての還付も要望されているが、住宅取得促進税制(ローン税額控除)の大幅な拡充での対応が現実策ではないか。 〈所得税・個人住民税〉 所得税の最高税率引上げ、及び相続税増税等の資産課税の見直しは政府当初案(4条~6条)から削除され、平成25年度税制改正での再検討となった。 しかし3党協議においても、政府案をはさんで、そもそも増税に消極的な自民党と、政府案以上の増税を求める公明党の主張が乖離しており、どのような決着になるのかは予断を許さない。消費税率引上げの政治的環境整備として、所得税・相続税の強化はやむを得ない面もあるが、活力の維持と社会的公正のバランス論でようやくまとめられた政府案を、さらに増税の方向に進めるならば疑問は残る。 〈法人税・地方法人税〉 法人税については、「平成27年度以降において、雇用及び国内投資の拡大の観点から、実効税率の引下げの効果及び主要国との競争上の諸条件等を検証しつつ、その在り方について検討すること(改正消費税法7条3号)とされているにすぎないが、法人税実効税率の引下げとの関係では、地方法人特別税の扱いが重要な課題である。 税制抜本改革までの暫定措置として創設された経緯からも消費税8%への引上げまでに決着すべき問題であるが、都道府県の間でも東京都等と他府県とでは主張が大きく隔たっている状況にある。そもそも偏在性の少ない代替財源として地方消費税の拡充があり、地方法人特別税は廃止されて当然であるが、財源をどのように補填するかが大問題である。総務省では、法人事業税の外形標準部分の拡充等も検討課題としているが、それでは法人税負担の軽減にならないばかりか、中小法人にまで対象を拡充するとなれば政治的にも困難であろう。法人課税の枠内で代替財源を検討すること自体に無理があり、他の地方税目、さらには地方交付税を含めた国・地方間の財政調整まで射程を拡げて検討すべきと考える。 〈社会保障制度の安定財源確保=財政健全化〉 このほかにも残された課題は数多くあるが、最大の課題は、消費税率を10%に引き上げただけでは、社会保障の安定財源としても不十分であり、財政再建の目途も立たないことである。 政府の財政健全化目標である2020年度に国・地方財政の基礎的収支(プライマリー・バランス)の黒字化を達成するには、なお16.6兆円(GDP比3%分)が不足するとされている。これを解消するにはさらなる消費税率の引上げが必要であるが、2015年の10%までの引上げがようやく決められた段階であり、「近いうち」に行われるはずの解散・総選挙も見据えて、その先の議論を行う環境は整えていく必要がある。 (了)

#No. 0 創刊準備1号(掲載号)
#阿部 泰久
2012/10/09

《速報解説》 企業内容等の開示に関する内閣府令等(臨時報告書及び外国会社が提出する有価証券届出書等)の改正ポイント

《速報解説》 企業内容等の開示に関する内閣府令等 (臨時報告書及び外国会社が提出する有価証券届出書等) の改正ポイント 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 改正された内閣府令等 平成24年9月28日、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令64号)が公布された。 次の内閣府令等が改正されている。 Ⅱ 主な改正内容等 1 臨時報告書による開示対象子会社の範囲の適正化 臨時報告書の提出事由に、①提出会社による子会社取得が行われるケース(開示府令19条2項8号の2)と、②連結子会社による子会社取得が行われるケース(開示府令19条2項16号の2)が新設されている。 これは、売上高等の小さな会社に係る高額な対価による子会社取得について、金融商品取引法上の開示が行われていなかったとの指摘に対応するものである。 開示府令19条2項8号の2(上記①のケース)は、提出会社による子会社取得が行われることが、当該提出会社の業務執行を決定する機関により決定された場合であって、当該子会社取得に係る対価の額に当該子会社取得の一連の行為として行った、又は行うことが当該機関により決定された当該提出会社による子会社取得(「近接取得」という)に係る対価の額の合計額を合算した額が当該提出会社の最近事業年度の末日における純資産額の15%以上に相当する額であるときに、次に掲げる事項を開示することについて規定している。 子会社取得とは、子会社でなかった会社の発行する株式又は持分を取得する方法その他の方法(金融商品取引法27条の3第1項に規定する公開買付けによるものを除く)により、当該会社を子会社とすることである。また、対価の額は、子会社取得の対価として支払った、又は支払うべき額の合計額である。 「企業内容等の開示に関する留意事項について」(企業内容等開示ガイドライン)では、開示府令に対応して、開示府令19条2項8号の2に規定する「子会社取得の対価として支払った、又は支払うべき額」には、株式又は持分の売買代金、子会社取得にあたって支払う手数料、報酬その他の費用等の額が含まれることに留意すると規定している(企業内容等開示ガイドライン24の5‐22‐2)。 また、開示府令19条2項8号の2及び16号の2に規定する「当該子会社取得の一連の行為として行った、又は行うことが当該機関により決定された」子会社取得とは、子会社取得の目的、意図を含む諸状況に照らし、当該子会社取得と実質的に一体のものと認められる子会社取得が該当することに留意すると規定している(企業内容等開示ガイドライン24の5‐22‐3)。 連結子会社による子会社取得が行われるケース(上記②のケース)については、開示府令19条2項16号の2に規定されている。 2 外国会社が提出する有価証券届出書の記載内容等の見直し (1)外国会社が提出する有価証券届出書に記載する財務書類の年数の柔軟化 外国会社が提出する有価証券届出書について、最近5事業年度分の財務書類(最近2事業年度分は公認会計士の監査を受けたもの)の記載に代えて、発行者が当該届出書を提出する日前に届出書又は有価証券報告書を提出している者でない場合には、発行者の選択により最近3年間の財務計算に関する書類であって、公認会計士又は監査法人に相当する者により監査証明に相当すると認められる証明を受けているもののみを掲げることができる。 (2)発行登録制度におけるプログラム・アマウント方式(発行残高の上限の記載)の柔軟化 プログラム・アマウント方式により発行登録を行う場合、発行予定期間に係る発行残高の上限の記載にあたり、過去の募集により発行された社債の発行予定期間中の償還予定額の記載を可能とする。 Ⅲ 適用時期 平成24年10月1日から施行する(経過措置に注意)。 (了)

#No. 0 創刊準備2号(掲載号)
#阿部 光成
2012/10/09
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