改正消費税法を読む 公認会計士・税理士 鈴木 基史 〈消費税法改正のための法律が公布〉 8月10日、改正消費税法(「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」)が国会で可決成立し、同月22日に公布された。施行日は、平成26年4月1日又は平成27年10月1日とされている。 改正法の全体像は、次のとおりである。 (注)3月の法案提出段階では全7条からなっていたが、民自公の3党合意により、消費税以外の改正条項(4条~6条)は削除された。 〈消費税率の引上げ〉 第2条・第3条及び附則第1条により、消費税率が次のように段階的に引き上げられる。 (注)改正消費税法と同時に公布された改正地方税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律)により、地方税法第72条の83で定める地方消費税の税率が、次のように改められた。 なお、第2条では税率の引上げ以外に、新規設立で基準期間がない法人に関する新たな取扱いを、消費税法12条の3に設けることとされた。 これは、課税売上高が5億円超の法人を親会社とする新設法人(「特定新規設立法人」)については、消費税法9条1項《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定を適用しないというものである。 〈給付付き税額控除制度・複数税率の導入を検討〉 第7条には、今後の検討課題として次の事項が掲げられている。 〔第7条(検討課題)〕 〈附則で新旧税率の適用関係を規定〉 附則第5条において、旅客運賃や電気料金等に関する経過措置、工事等の請負や資産の貸付け、役務提供に関する経過措置が規定されている。税率引上げの前後における旧税率と新税率の適用関係に関する定めで、平成9年の消費税引上げ時にも同様の措置が講ぜられたが、今回は次のような規定になっている。 〔附則第5条(経過措置)〕 今回の税率引上げは2段階で行われるため、施行日と指定日がそれぞれ2通りあって規定ぶりが少々複雑となっている。なお、適用対象となる取引等の詳細は今後、政省令で定められる。 (了)
改正消費税法 経過措置を検証する 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成24年8月10日に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(以下、改正消費税法)が参議院で可決・成立した。これにより、国税・地方税を合わせた消費税率が現在の5%から8%、そして10%へと段階的に引き上げられることになった。 ここでは、今回の改正における経過措置の内容を確認する。 1 経過措置の一覧 今回の改正では、改正法の附則において経過措置が設けられている。 その一覧は以下のとおりである。 2 主要な経過措置の解説 今回の消費税法の改正においては、上表のとおり様々な経過措置が設けられている。その中でも特に影響が大きそうなものを選んで、以下で解説する。 (1)工事の請負契約に関する経過措置 工事の請負契約についても、本来はその譲渡等が行われる時期が改正法の施行日以後であれば、改正後の税率を適用することになる。つまり、平成26年4月1日【施行日①】以後の譲渡等であれば8%が適用され、平成27年10月1日【施行日②】以後の譲渡等であれば10%が適用される。しかし、金額的影響が大きいなどの理由から経過措置が設けられている。 具体的には、平成25年10月1日【指定日①】より前に締結された契約については、平成26年4月1日以後の譲渡等であっても旧税率(5%)が適用される(改正消費税法附則5条3項)。 また、平成25年10月1日以後で平成27年4月1日【指定日②】より前に締結された契約については、平成27年10月1日以後の譲渡等であっても、旧税率(8%)が適用される(改正消費税法附則16条1項)。 【適用される税率のイメージ】 最終的に譲渡される成果物が同じであっても、その契約締結のタイミングによっては適用される消費税率が異なってくる。よって、適用税率を誤ることのないよう契約締結日の管理を適切に行っておく必要がある。また、指定日より前に契約を締結してしまえば消費税が安くなるともいえるので、そういった面からの検討も必要となるであろう。 ただし、契約締結を指定日より前に行ったとしても、指定日後に契約金額を増額した場合は、その増額部分については経過措置が適用されないので注意が必要である。 (2)資産の貸付契約に関する経過措置 資産の貸付契約についても、一定の要件を満たす場合は経過措置が適用される。具体的には、平成25年10月1日【指定日①】より前に締結された契約に基づいて、平成26年4月1日【施行日①】より前から同日以後にかけて、引き続き資産の貸付を行っている場合、平成26年4月1日以後も旧税率(5%)が適用される(改正消費税法附則5条4項)。また、平成25年10月1日以後で平成27年4月1日【指定日②】より前に締結された契約に基づいて、平成27年10月1日【施行日②】より前から同日以後にかけて、引き続き資産の貸付を行っている場合、平成27年10月1日以後も旧税率(8%)が適用される。 ただし、当該契約の内容が以下の要件を満たしている必要がある(改正消費税法附則16条1項)。 (3)旅客運賃等に関する経過措置 旅客運賃や映画等の入場料など、不特定多数の者に対する課税資産の譲渡等の対価を平成26年4月1日【施行日①】より前に領収しており、同日以後に譲渡等が行われる場合には、旧税率(5%)が適用される(改正消費税法附則5条1項)。 また、平成26年4月1日以後で平成27年10月1日【施行日②】より前に領収しており、平成27年10月1日以後に譲渡が行われる場合にも、旧税率(8%)が適用される(改正消費税法附則16条1項)。 【適用される税率のイメージ】 (了)
今から予測・検討する 中小企業の消費税増税対策 マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 今村 仁(監修) 税理士 村田 直(執筆) 〈駆け込み特需には、事前に事業年度変更などの対策〉 平成24年8月10日に社会保障と税の一体改革関連法案が可決・成立し、平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%と国税・地方税を合わせた消費税率が引き上げられることが決まった。消費税の増税は、中小企業の経営に大きな影響を与えることとなる。 そこで本稿では、消費税増税が及ぼす影響を予想しながら、増税までに中小企業が考えておくべきこと、事前に検討しておくべき対策等をまとめてみたい。 前回、平成9年の消費税引上げ時と同様、今回もいわゆる駆込み特需、増税特需が発生することが予想される。住宅などの不動産においては、既にその動きが始まっており、取引が活発化していると聞く。中小企業においても、業種によっては特需の恩恵を受ける会社が出てくることが予想される。 「特需」と聞くと、良いイメージを持つかもしれないが、実際はその逆である。増税特需はあくまで一時的であり、その後に待っているのは特需の反動としての売上急減である。特需を取り込むことも大事だが、できるだけその後の反動が少なくなるよう、売上や利益が平準化できるような対策を考えておく必要がある。 例えば、3月決算や9月決算の法人であれば、決算直前での増税特需による利益発生を避けるため、事前に事業年度を変更する、ということも考えられるだろう。また、増税時期を挟む前後の事業年度では、役員報酬の設定も慎重に行わなければならない。 〈非課税業種は、増税がダイレクトに影響〉 消費税は、すべての取引に課税されるわけではなく、非課税取引が規定されており、中小企業の中には、売上のほぼ全額が消費税法上の非課税取引となる業種がある。消費税は、売上で預った消費税から仕入等で支払った消費税を差し引いて納税するのが原則である。しかし、売上全体が非課税であれば、免税事業者であるため、消費税を納税しなくてもよい代わりに、課税仕入等で支払った消費税を取り戻すこともできない。つまり、消費税が増税された分は、ダイレクトに利益が減ることになる。医療関係や調剤薬局、居住用住宅の賃貸業などがこのタイプに該当する。 例えば、下記のような会社の場合、消費税増税によって他の数字が変わらないとすれば、利益は6,000千円から2,000千円へと3分の1に減少する。同様に、売上高営業利益率も6%から2%になる。 今後の税制改正の中で、こういった業種に対する支援策が講じられる可能性もあるため、今後の動向には注意しておかなければならないが、支援策の有無にかかわらず、できる限り増税後の固定費を抑制する努力が必要だろう。 〈増税後の資金繰りに注意〉 消費税が増税になった場合、納税がスムーズに行えるかどうかも懸念材料となる。消費税は原則預り金であるため、法人が実質的に税金を負担しているわけではない。納税分の資金は預り金の形で手元にあるはずなので、それを納税すれば済む話である。しかし現実には、日々の資金繰りに含まれてしまい、いざ納税時には手元にない、ということが起こり得る。消費税が現在の倍の10%になれば、なおさら資金管理は重要な問題となる。 このような場合、納税準備預金などの消費税納税のための専用の口座を設けておく方法がある。納税準備預金なら、原則、税金の支払以外に出金することができないため、運転資金として使ってしまう心配がない。定期的に、消費税納税資金をこれらの預金に入金し、通常の資金繰りとは別に管理することで、円滑に納税することができる。 〈益税制度の見直しとインボイス制度〉 現状の消費税においては、いわゆる“益税”が発生する構造となっている。原因は2つあり、1つが免税点制度、もう1つが簡易課税制度である。免税点制度においては、消費者から預った消費税を税務署に支払わなくてもよいため、事業者が利益を得ていることになる。簡易課税制度においても同様で、実際に預っている消費税より、納税する消費税の方が少ないケースが多い。今後の議論の中で、この益税問題が取り上げられる可能性がある。 実際、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」7条1号ニにおいて、「消費税の簡易課税制度の仕入れに係る概算的な控除率については、今後、更なる実態調査を行い、その結果も踏まえた上で、その水準について必要な見直しを行う」と記載されている。現在、免税事業者又は簡易課税を適用している中小企業は、適正な消費税を負担したとしても資金が回っていくような経営を今から意識しておかなければならないだろう。 図表 簡易課税のみなし仕入率 また消費税増税時には、給付付き税額控除や軽減税率制度の導入が検討される。 軽減税率制度を導入する場合には、原則、インボイスの発行が前提となるであろう。インボイスは課税事業者が発行するものであり、インボイスがないと仕入税額控除ができなくなるものと思われる。欧米では、免税事業者はインボイスを発行できないとされているため、仕入税額控除が適用できない免税事業者からの仕入が敬遠される傾向がある。 免税事業者の方は、益税問題と合わせて、これらのことも念頭に置いておく必要があるだろう。 〈輸出取引等を活用して、増税負担を緩和〉 消費税法では、国外取引は課税対象外、輸出取引は(輸出)免税とされている。そのため、例えば同じ商品でも、国内で販売すれば消費税が課税され、海外に輸出すれば消費税が免税となる。 今後、消費税率が10%に増税になれば、“消費税格差”はさらに広がることになる。中小企業としてはこれを逆手に取り、積極的に輸出取引を活用することで、増税負担を緩和できる可能性があるかもしれない。最近はITの発達により、中小企業でもこれらの取引をしやすい環境が整ってきているので、業種によっては検討の余地があるだろう。 (了)
平成23年・24年の消費税改革が 非営利法人制度へもたらす影響 公認会計士 上村 恒雄 1 非営利法人に対する消費税の概要 公益法人の申請などで近年脚光を浴びている非営利法人であるが、消費税に関係する非営利法人は特殊法人、独立行政法人、社会福祉法人、宗教法人、学校法人、医療法人など多岐にわたる(「消費税法別表第三」参照)。 消費税における非営利法人に対する特例の概要は、下記のとおりである(国・地方公共団体関係分を除く)。 以上の特例のうち、①資産の譲渡等の特例と③申告・納付期限の特例については税務署長の承認が必要となる。特定収入については、別途詳細な説明が必要であろう。 2 特定収入に係る特例 特定収入とは、寄附金・補助金などの消費税法上の不課税項目のうち、一定の収入をいう。 「特定収入に係る特例」とは、この対価性のない寄附金・補助金などの収入を原資とした支出について、非営利法人を最終消費者とみなして仕入控除消費税の対象としないという特例である。ただし、当該特定収入割合が5%以下の場合は特定収入がなかったものとして計算する。 具体的には、補助金等の使途が課税仕入のみの場合は、当該仕入消費税額は仕入控除消費税額から除き、また使途が不特定(共通)の支出に係る仕入消費税額は、按分等の調整計算(仕入控除税額を減額する)を実施します。 したがって、補助金の使途で課税仕入を伴う支出が多い法人については、この特例計算がなければ還付なのだが、特例があるため納税が発生するという場合も多数あるであろう。 3 平成23年・24年度改正関係 消費税に係る平成23年・24年度税制改正の要旨は、下記のとおりである。 以下では、これらの改正の内容を個別に検討し、非営利法人への影響を検討する。 ① 免税制度の見直し 改正前における免税事業者の判定は、概ね2事業年度前の基準期間における課税売上高(1,000万円以下)で判断していたが、平成23年6月の改正では前事業年度の上期(特定期間)の課税売上高(又は給与総額)が1,000万円以下で免税を判断することとなった。新規法人設立の場合で、事業規模が比較的大きな場合は、従来より概ね1期間、消費税の納付時期が早くなり、実質増税項目となっている。 非営利法人の場合は、課税売上高が少なく免税事業者となっている小規模法人も多数ある。決算時に前年度の上期データ(課税売上高、給与等)を税法基準で正確に確認する作業、及び新設法人の場合、最初の特定期間の取り方については6ヶ月の期間の算定で月末等を基準とすることにするなど特例がある点もあり、税理士等の専門家の必要性が大きくなるものと考える。 なお、本改正は平成25年1月1日以後に開始する事業年度から適用される(特定期間は平成24年1月1日以後から始まっている)。 ② 仕入控除制度における95%ルールの見直し 課税売上高が全体の売上の95%以上であれば、課税仕入等の消費税額を全額控除できる制度(いわゆる「仕入税額控除の95%ルール」)について改正があり、その適用が、その課税期間の課税売上高が5億円以下の課税事業者に限定された。 課税売上高5億円超で課税売上割合95%以上の法人については、改正後は仕入税額控除に関する調整計算(個別対応方式又は一括比例配分方式)を実施する必要がある。 非営利法人の場合は、この調整計算とともに前述の「特定収入」に関する特例計算があり、算定が複雑になる。 課税売上高5億円以上の非営利法人を前提とした仕入控除税額算定手続は、下記の流れとなる。 なお、本改正は平成24年4月1日以後に開始する課税期間から適用される。なお、仕入税額控除の調整計算において個別対応方式を検討する法人が増加すると思われるが、その際は平成24年3月付「95%ルールの適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A」(国税庁消費税室)を参照いただきたい。 特に共通対応分(個別対応方式)に係る仕入税額控除の計算における「課税売上割合に準ずる割合」に関して注意が必要となる。税務署長承認事項ではあるが、効果が高くなる可能性があるため事前の十分な検討が望まれる項目である。 ③ 消費税の税率引上げ及び関連する改正 平成24年8月10日に改正消費税法案(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案)が可決・成立した。この改正法は、国税・地方税を合わせた消費税率を、平成26年4月1日以降8%、平成27年10月1日以降10%へ段階的に引き上げるものである。この改正法には附則があり、平成25年9月30日までに締結された請負契約等については、従来の税率(5%)となる点に留意が必要である(同10%引上げについては平成27年3月31日までの契約)。 また、実質出資50%超の関連法人を新設する場合は、事業者免税点制度を適用しないことになる(=初年度から課税事業者:平成26年4月1日以後に設立される法人より適用)。 非営利法人でも学校法人のように関連会社を設立することが可能な法人形態もあるので、事務担当者において十分な留意が必要である。 なお、一般法人では消費税率の引上げにより実質負担の問題が発生し、特に、小売関係、中小企業等については増加する消費税を価格転嫁できず、結果として利益低下につながる傾向がある。 非営利法人では課税売上高が少ないこと、及び、政府・地方公共団体等との取引が比較的多いため、その影響を受けることは少ないものと推定されるが、下記のとおり別の面で大きな影響があり留意が必要である。 具体的には、消費税率の引上げの影響は非課税売上高が大きい法人で、比較的大きな影響が発生し、非営利法人では特に医療法人、社会福祉法人などがこれに該当する。売上は非課税取引が主(課税売上割合が大幅に低い)で、仕入は課税取引が多く、結果として控除対象外消費税額が多く発生することから、消費税増税により法人の利益が大幅に低下する可能性がある。この点に関しては、公布された法令等では、厚生労働省での診療報酬等の医療保険制度で手当てすることで別途検討する旨記載されているが、未確定であり留意を要する。 また、特定収入が比較的多い公益法人などは、前述の特定計算の影響で、仕入に関する消費税の増額を吸収する収入要素が少ないため実質的には利益が減少することが予想される。 公益法人については業種が多種多様であり、この点に対する公的な対策等が提示されるか不明である。公益認定基準での収支均衡条件もあり、公益申請前後で収支均衡に近づけた法人も多いものと推定される。 経営改善等を含めた中期計画レベルでの事前検討が望まれる。 (了) 【参考】国税庁ホームページ 「消費税法改正のお知らせ(平成23年9月)」
租税争訟レポート【第1回】 弁護士業の必要経費・弁護士会役員の交際費(控訴審判決) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事件の概要】 弁護士を開業している納税者(控訴人、第一審原告)の所得税の確定申告について、仙台中税務署長は、納税者が仙台弁護士会会長及び日弁連副会長としての職務に関係して支出した費用(主に会務の前後に行われた懇親会、慰労会等の支出)は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできず、また、消費税法における課税仕入にも該当しないとして、所得税及び消費税等の更正処分を行った。 納税者は、異議申立及び不服審査を経て、東京地裁に提訴、第一審では、国(処分行政庁)の主張をほぼ全面的に支持して、納税者が敗訴したため、控訴したものである。 【争点】 弁護士が、弁護士会の役員として行う会務活動に伴う支出が、事業所得の計算上必要経費に算入できるかどうかが、第一審、控訴審を通じて争われた。 第一審判決は、「原告が弁護士会等の役員として行う活動は、原告が弁護士として対価である報酬を得て法律事務を行う経済活動に該当するものではなく、社会通念上、弁護士の所得税法上の「事業」に該当するものではない」として、弁護士会役員としての会務の事業性を否定し、更正処分の対象となった支出(主に懇親会等の参加費用)が、「原告が弁護士として行う事業所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要なものであれば、必要経費に該当する」が、本件各支出は、業務に直接関係するものではないから、必要経費には当たらないと判示した。 【裁判所(控訴審)の判断】 控訴審判決は、原審が、「事業所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要である」こととした部分をことごとく「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要である」ことと書き改めたうえで、被控訴人の主張を、「事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず、「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではない」として退けている。 そして、「弁護士が弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士の事業所得の一般対応の必要経費に該当する」と判示し、個別の支出内容を検討したうえで、懇親会等の費用は「特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事」であり、「費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であった」として、必要経費算入を認めた。 一方、二次会参加費用、納税者が過大な負担をした(参加者の分もすべて支払ったなど)慰労会などの支出、役員への立候補に伴う支出のうち不可欠とは認められないものなどは、必要経費には該当しないと判断した。 【解説】 弁護士だけでなく、他の士業でも会務活動は不可欠であり、会務活動後の懇親会費用が「特定の集団の円滑な運営に資する」から、社会通念上も業務の遂行上必要な支出であると判断されたことは、税理士としても当然であると考える。 同時に、必要経費について「業務と直接関係する」ことを求めた処分行政庁の主張を退けたのも当然である。 なぜなら、控訴審判決でも引用されているが、サラリーマン税金訴訟として知られている大島訴訟の控訴審判決(大阪高裁昭和54年11月7日)では、必要経費を、「事業を営むため、すなわち収入を終局の目的として直接あるいは間接に支出を余儀なくされたもの」と判示しており、原審のように「業務と直接関係」することは要求していないからである。 また、「弁護士会等の活動は、弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであり、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っている」という事実認定は、たいへん実感に近いものがあるのではないだろうか。 (了)
「包括利益の表示に関する 会計基準」の改正ポイント 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 改正された会計基準等 平成24年6月29日、企業会計基準委員会は次の「包括利益の表示に関する会計基準」などを改正した。 Ⅱ 主な改正内容等 1 改正内容 ① 包括利益の開示は、当面の間、個別財務諸表には適用しない(包括利益会計基準16‐2)。 ② 組替調整額の開示について、為替予約の振当処理は、実務に対する配慮から認められてきた特例的な処理であることを勘案し、組替調整額及びこれに準じた開示は必要ない(包括利益会計基準31(2))。 ③ 上記に対応した「四半期財務諸表に関する会計基準」等の改正 2 改正理由 ① 個別財務諸表への適用 改正前の包括利益会計基準では、個別財務諸表への適用について、「本会計基準の公表から1 年後を目途に判断することとする。」と規定されていたため(改正前包括利益会計基準14)、包括利益の開示については、連結財務諸表に関して行われていた。 改正前の包括利益会計基準の公表日である平成22年6月30日からすでに1年が経過したことから、個別財務諸表に関する包括利益の開示について検討した結果、個別財務諸表への適用に関して市場関係者の意見が大きく分かれている状況や、個別財務諸表の包括利益に係る主な情報は現行の株主資本等変動計算書から入手可能でもあることなどを総合的に勘案し、当面の間、本会計基準を個別財務諸表に適用しないこととされた(包括利益会計基準16‐2、39‐2~39‐4)。 ② 組替調整額の開示 組替調整額の開示に関して、包括利益会計基準第31項(2)は、「繰延ヘッジ損益に関する組替調整額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額による。また、ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額は、組替調整額に準じて開示することが適当と考えられる。」と規定している。 実務上、繰延ヘッジ損益に関する組替調整額の対象に、外貨建予定取引に対して為替予約の振当処理を採用している場合や、金利スワップの特例処理を採用している場合でも、包括利益会計基準第31項に従って、その他の包括利益となり、組替調整額の開示対象となるかどうかについて議論があった。 今回の包括利益会計基準の改正に際して、公開草案に寄せられたコメントに対応して(企業会計基準委員会の「主なコメントの概要とそれらに対する対応」8)、「なお、為替予約の振当処理は、実務に対する配慮から認められてきた特例的な処理であることを勘案し、組替調整額及びこれに準じた開示は必要ないと考えられる。」との記述が追加された。 ③ 四半期会計基準等の改正 従来、四半期個別財務諸表の範囲について、四半期個別損益及び包括利益計算書(1 計算書方式)と、四半期個別包括利益計算書(2 計算書方式)が規定されていた(改正前四半期会計基準6)。 包括利益会計基準の改正に対応して、四半期個別財務諸表の範囲は、四半期個別貸借対照表、四半期個別損益計算書及び四半期個別キャッシュ・フロー計算書とするとされている(四半期会計基準6)。 Ⅲ 実務上のポイント ① 包括利益の開示は、当面の間、個別財務諸表には適用しないとされたが、これは従来の取扱いと同様であるので、実務に対して特段の影響はないものと考えられる。 ② 個別財務諸表のみを作成・開示している会社についても、開示制度にも関わる問題であり、個別財務諸表の包括利益に係る主な情報は現行の株主資本等変動計算書から入手可能でもあること等も勘案し、会計基準上は特段の対応は行われていない(「主なコメントの概要とそれらに対する対応」6)。 ③ 個別財務諸表における包括利益の表示に関する任意開示については、当面の間、個別財務諸表には適用しないこととしており、会計基準上、個別財務諸表において包括利益を任意に表示することは想定されていない(「主なコメントの概要とそれらに対する対応」8)。 ④ 為替予約の振当処理に関する組替調整額及びこれに準じた開示については必要ないと考えられると明記された。為替予約の振当処理を採用している会社においては、従来もあえて、組替調整額及びこれに準じた開示は行っていないのではないかと思われるので、当該取扱いが確認されたものと考えられる。 Ⅳ 適用時期 改正包括利益会計基準は、現行の取扱いを変更するものではないため、公表日(平成24年6月29日)以後に適用されている(包括利益会計基準16‐3)。 また、改正四半期会計基準の適用についても包括利益会計基準と同様とされている(四半期会計基準28‐12)。 (了) 【参考】ASBJ/FASFホームページ ・「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号) ・「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号) ・「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)
改正「退職給付会計」の要点と 実務上のポイント 【第1回】 「主要な改正ポイント(その1)」 有限責任監査法人トーマツ 堀田 晃裕 2012年5月17日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表された。これらにより、これまでいくつもの基準などに分かれて定められていた「退職給付会計」が整理・統合されたことになる。 以下では、改正後基準(前述の会計基準及び適用指針を総称してこう呼ぶことにする)の改正前基準からの変更点を見ていく。なお、企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」は改正後基準に統合されず引き続き存続する。 主な変更点は5点あり、以下のとおりである。 このうち、特に重要と思われるのは、会計処理に関する(1)、開示に関する(2)、年金数理計算に関する(3)である。本稿では(1)と(2)を取り上げ、(3)以降については次回述べる。 なお、本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことを、あらかじめお断りしておく。 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法 〈貸借対照表上での取扱い〉 改正前基準では、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用については貸借対照表に計上せず、これに対応する部分を除いた、退職給付債務と年金資産の差額を負債または資産として計上することとしていた。 改正後基準では、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を、税効果を調整の上で貸借対照表の純資産の部(その他の包括利益累計額)で認識することとし、積立状況を示す額(退職給付債務と年金資産の差額)をそのまま負債又は資産として計上する。 下図のような退職給付の状況を考えよう。 この例では、退職給付債務が10,000、年金資産が8,000であるが、未認識項目(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用)が1,500ある。 改正前基準では10,000と8,000の差額2,000から、1,500を除いた額500を貸借対照表に「退職給付引当金」の科目で負債に計上していた。 改正後基準では、10,000と8,000の差額2,000をそのまま、積立状況を示す額として貸借対照表に「退職給付に係る負債」の科目で負債に計上する。 なお、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用について、改正前基準では貸借対照表にこれを直接反映させることはなかったが、改正後基準においては、純資産の部のその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」の科目で計上する必要がある。したがって、マイナス1,500を純資産の部に計上することとなるが、実際には税効果を考慮する必要がある。 そこで、法定実効税率が40%、繰延税金資産については回収可能性があると判断される場合を考えよう。 上図は改正後基準において「退職給付に係る負債」が2,000、「繰延税金資産」が2,000×40%=800計上されている状況であるが、このとき「退職給付に係る調整累計額」に計上する金額はマイナス900(1,500-1,500×40%=900として計算)である。 〈損益計算書及び包括利益計算書上での取扱い〉 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の費用処理方法については変更されていないので、損益計算書上、改正後基準でも改正前基準と同様に平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理する(従来の費用処理方法を継続する必要がある)。 ただし改正後基準では、当期に発生した数理計算上の差異及び過去勤務費用のうち、当期に費用処理されない部分についてはその他の包括利益に「退職給付に係る調整額」として計上する。また、その他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」として計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分についてはその他の包括利益の調整(組替調整)を行うこととなる。 たとえば、発生した数理計算上の差異を翌期から費用処理する会計方針の会社では、当期に発生した数理計算上の差異を、その他の包括利益に「退職給付に係る調整額」として計上する。翌期以降、未認識数理計算上の差異を費用処理するにあたり、その他の包括利益累計額に計上されている「退職給付に係る調整累計額」を調整することとなる。 以上の取扱いの変更に伴い、「退職給付引当金」は「退職給付に係る負債」に、「前払年金費用」は「退職給付に係る資産」に、それぞれ勘定科目が変更される。ただし、「未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法」の変更は、個別財務諸表には適用されず、当面の間、改正前基準の取扱いを継続する。したがって個別財務諸表では引き続き、「退職給付引当金」、「前払年金費用」の勘定科目を使用する。 また、改正前基準における「過去勤務債務」の用語は、改正後基準では「過去勤務費用」に変更されているが、その内容には差異はない。 開示の拡充 改正後基準では、退職給付債務や年金資産の増減の内訳など、国際的な会計基準で採用されているものを中心に開示項目を拡充している。 〈会計方針に係る注記〉 「退職給付の会計処理基準に関する事項」として、以下の注記が求められている。 ・退職給付見込額の期間帰属方法 ・数理計算上の差異及び過去勤務費用の費用処理方法(並びに会計基準変更時差異の費用処理方法) 〈退職給付に係る注記〉 まず、 ・企業の採用する退職給付制度の概要 の注記が求められている。また財務諸表に計上された金額の説明として、以下の注記が求められている。 ・退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表 ・年金資産の期首残高と期末残高の調整表 ・退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表 ・退職給付に関連する損益 ・その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳 ・貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳 「年金資産に関する事項」として、以下の注記が求められている。 ・年金資産の主な内訳として、株式、債券などの種類ごとの割合又は金額 (なお、退職給付信託が設定された企業年金制度について、年金資産の合計額に対する退職給付信託の額の割合が重要である場合には、その割合又は金額を別に付記する) ・長期期待運用収益率の設定方法に関する記載(年金資産の主要な種類との関連) 「数理計算上の計算基礎に関する事項」として、以下の注記が求められている。 ・割引率 ・長期期待運用収益率 ・その他の重要な計算基礎(予想昇給率等) (了)
一体改革で 企業労務はこう変わる 社会保険労務士 平澤 貞三 1 一体改革の概要 社会保障と税の一体改革関連法案が、2012年8月10日の参院本会議で可決・成立した。 将来の社会保障費の増大が見込まれる中、安定財源確保を目的として、消費税率を現在の5%から2014年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げ、その増収分すべてを社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化)に充てることが明言されている。 本稿では、この一体改革のうち企業労務に影響を与えるであろう年金と就労促進に関する法律について、その改正内容と実務上の注意点について解説していきたい。 2 受給資格期間の短縮(平成27年10月施行) 【改正内容】 老齢基礎年金の支給を受けるためには、受給資格期間(保険料納付済期間+保険料免除期間+合算対象期間)が最低25年必要であるが、平成27年10月以後は10年に短縮することとなる。 平成19年の(旧)社保庁の調べによれば、65歳以上の無年金者のうち、約40%の人が10年以上の保険料納付済み実績があり、今回の改正により無年金者が大幅に減少することが期待されている。 【実務上の注意点】 無年金者が減るのはいいが、「10年さえ払えばいい」という誤解が拡がり、低年金者が増える恐れもある。 そもそも老齢基礎年金を満額で受け取るためには40年(480ヶ月)の納付が必要であり、10年ほどの納付実績では、単純計算で満額の4分の1しか受給できないことになる。 したがって、従業員から「10年さえ保険料を払っていれば老齢年金を受給できるのか?」という問い合わせを受けた場合には、「受給はできるが、当然ながら受給額は非常に少なくなる」という点についても合わせて補足しておきたいところである。 3 短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大(平成28年10月施行) 【改正内容】 パートタイマーなどの短時間労働者の厚生年金・健康保険の適用基準が、以下のように変更される。 【実務上の注意点】 現在、被扶養者として認定されるための収入要件は、所得税において103万円、健康保険において130万円である。したがって、103万円超130万円未満の収入をもつパートタイマーについては、所得税の扶養控除対象にはならないが、健康保険は配偶者の被扶養者として保険料の支払いを免除されていた層が存在した。 今回の改正により、ほぼ所得税の扶養認定基準をパスしない限り、パートタイマーであっても保険加入を求められるケースが多くなることが予想される。 501人以上の企業担当者にあっては、まず、年収103万円超130万円未満の収入をもつパートタイマーの洗い出しを行い、労働時間を下げて働いてもらうか、あるいは、どうせならもっと多くの時間を働いてもらうか、事前に検討しておく必要がある。 4 産休期間中の保険料免除(2年以内の政令で定める日から施行) 【改正内容】 次世代育成支援の観点から、育児休業同様に、産前産後休業期間中の厚生年金保険料や健康保険料などの負担が免除される。 【実務上の注意点】 育児休業終了時の扱いと同様に、産前産後休業終了後に育児等を理由に報酬が低下した場合に、次の定時決定まで保険料負担が従前のものとならないよう、復帰後3ヶ月間の報酬月額を基に標準報酬月額の見直しを行うことが可能である。したがって、復帰後3ヶ月の給与支給状況に応じて、産前産後休業終了時報酬月額変更届の作成・提出の有無を確認し、適宜、給与計算で控除する保険料の変更を行う必要がある。 5 労働契約法の一部改正(有期労働契約/雇止め法理の法定化) 【改正内容】 【実務上の注意点】 今回の〔改正1〕により、同一の使用者との間で締結された有期労働契約が、更新の結果5年を超える場合に、労働者が無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者はその申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立することとなる。あらかじめ、有期契約の労働者に対して、無期契約への転換申込みをしないことを更新の条件とするなどの取扱いは、公序良俗に反し無効とされるため、短期雇用予定者の採用・契約更新では、十分な注意が必要となる。なお、通算5年の計算では、労働契約が6ヶ月以上の間(クーリング期間)をおいて再度締結された場合には、通算期間に算入しないとされる。 〔改正2〕では、有期労働契約を更新しないことが一般の正社員を解雇することと同視できると認められる有期労働契約であって、その労働者が更新の申込みをした場合には、使用者による申込みの拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上からも相当と認められないときは、有期労働契約が同一の条件で成立するとされる。前提となる有期労働契約が、上記①又は②の要件に該当するかどうかは、その雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約更新管理の状況や、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無などを勘案して、個々の事案ごとに判断される。 本改正は8月10日から施行されており、今後、有期契約社員の雇止めの際には、一般社員への解雇と同じく慎重な対応が必要となる。 〔改正3〕では、有期労働契約による労働者について、無期労働契約を締結している労働者と比較して、労働条件が相違する場合、その相違が有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことが明らかにされた。たとえば、通勤手当、食堂の利用、安全衛生等について、有期契約労働者の労働条件を相違させることは、特段の理由がない限り合理的とは認められないとされる。 6 65歳までの継続雇用(平成25年4月1日から施行) 【改正内容】 主な改正点は次のとおりである。 【実務上の注意点】 現在、大多数の企業は定年者の再雇用制度を導入し、労使協定で一定の基準を定めて対象者を限定している。しかし、この仕組みの廃止により、最終的には、希望者が全員65歳まで雇用されることとなる。一定の経過措置が設けられているが、実質的な定年延長に向けて、企業は、今後の要員計画、人員の配置、職務設定の再検討と共に、人件費の配分も考慮する必要がある。 (了)
〔緊急掲載〕 雇用調整助成金等の 支給要件変更について 社会保険労務士 佐藤 信 1 支給要件の変更は10月1日以降 平成24年10月1日より、雇用調整助成金(中小企業事業主は助成内容が拡充された「中小企業緊急雇用安定助成金」)の支給要件等が変更された。 具体的には、生産量等の要件を厳しく、支給日数の上限を低くすることとされている。 これは、平成20年9月のリーマン・ショック後、支給要件が緩和されていた同制度について、経済状況の回復に応じ見直されたものである。 従来の支給日数を基に事業再生のスケジュール、休業期間や教育訓練のプログラムを検討していた事業主については、支給日数変更に伴いスケジュールの見直しを要する。 2 助成金の概要 雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化などに伴う経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的に休業、教育訓練または出向を行って労働者の雇用の維持を図る場合に、休業手当、賃金などの一部を助成するものである。 なお、支給額・手続の詳細は、当記事の最後にリンクを示したリーフレット等を参照していただきたい。 3 支給要件変更の概要 (1)生産量要件の見直し ※なお、中小企業事業主で直近の経常損益が赤字であれば、5%未満の減少でも助成対象とする要件は撤廃された。 (2)支給限度日数の見直し ※岩手、宮城、福島の事業所は半年遅れて実施。上記の「H24.10.1」を「H25.4.1」、「H25.10.1」を「H26.4.1」と読み替える。 (3)教育訓練費(事業所内訓練)の見直し ※H24.10.1以降の判定基礎期間から変更となるが、岩手、宮城、福島の事業所は半年遅れのH25.4.1からとなる。 4 教育訓練を実施する事業主の提出書類変更 従来は「事業所内訓練」のみ、受講者本人が作成した受講レポートなどの提出を要したが、平成24年10月以降に判定基礎期間の初日がある支給申請からは、「事業所外訓練」を行った場合も提出が必要になる。 5 東日本大震災の影響を受けた事業主の特例 (1)特例内容 生産量又は売上高の減少の確認について、最近3ヶ月の平均値と前年同期との比較のほか、「最近3ヶ月の平均値と前々年同期との比較」も可能とされた。 ※平成25年3月10日までに特例を利用開始する場合に適用される。「前々年同期との比較」とは、すなわち震災前と比べ10%以上の生産量等が低下している事業主を対象とする措置である。 (2)対象事業主 ① 被災地事業主 青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、長野の災害救助法適用地域に所在する事業主 ② 被災地関連事業主 上記①の事業主と一定規模以上(助成金を受けようとする事業所の総事業量の3分の1以上)の経済的関係を有する事業主 ③ 2次下請負等事業主 上記②の事業主と一定規模以上(助成金を受けようとする事業所の総事業量の2分の1以上)の経済的関係を有する事業主 (了) 【参考①】厚生労働省ホームページ 「雇用調整を行わざるを得ない事業主の方へ」 【参考②】厚生労働省ホームページ 「雇用調整助成金等リーフレット」※PDFファイル
改正労働契約法 【① 改正のポイント】 社会保険労務士 桑野 真浩 「労働契約法の一部を改正する法律」(以下、改正法)が平成24年8月10日に公布された。今回の改正では、有期労働契約について、下記の3つのルールを規定している。 なお、有期労働契約とは、1年契約、6ヶ月契約など期間の定めのある労働契約のことをいう。パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託など職場での呼称にかかわらず、有期労働契約で働く人であれば、新しいルールの対象となる。 改正法の3つのルール Ⅰ 無期労働契約への転換(労働契約法18条(改正法2条)) 有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールである。 ※5年のカウントは、このルールの施行日以後に開始する有期労働契約が対象である。施行日前に既に開始している有期労働契約は5年のカウントに含めない。 Ⅱ 「雇止め法理」の法定化(労働契約法19条(改正法1条)) 最高裁判例で確立した「雇止め法理」が、そのままの内容で法律に規定された。一定の場合には、使用者による雇止めが認められないことになるルールである。 Ⅲ 不合理な労働条件の禁止(労働契約法20条(改正法2条)) 有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールである。 施行期日 Ⅱ……平成24年8月10日(公布日) Ⅰ及びⅢ……公布日から起算して1年を超えない範囲内で、政令で定める日 (平成24年10月1日時点では、政令が公布されていない。) 罰則等の有無 違反した場合の罰則は設けられていない。労働審判や民事訴訟の対象となる。 対象となる企業 対象となる企業は、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託など有期労働契約で働く人がいる企業・職場である。 いわゆる正社員だけの企業・職場においては、今回の労働契約法の改正部分は、気にかける必要はないと思われる。 まとめ 労働契約法においては、有期労働契約はあくまで「臨時的・一時的」なものとして扱われており、本来は不安定な有期労働契約を長期間継続、更新を重ねることは好ましくないとされる。 企業としては、一度、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託などの仕事の在り方を見つめ直す良い機会にしたいものである。 次回は、これらの改正を受けた企業対応策について解説する。 (了) 【参考】厚生労働省ホームページ 「労働契約法が改正されました」