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会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第5回】「会計事務所の価値評価」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第5回】 「会計事務所の価値評価」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 会計事務所の価値とは何か 今回は個人事務所を営む税理士を売り手、税理士法人を買い手とするM&Aを前提として、会計事務所の価値評価について説明する。 会計事務所のM&Aでは、その譲渡対象のほとんどは、顧客との顧問契約や職員の雇用契約といった無形資産である。無形資産を譲渡するといっても、そもそも営業権がないと法的に定められている税理士業務の価値評価に際して、相続税法上の財産評価基本通達を使う必要はないため、当事者間の交渉を通じて、公正価値すなわち時価による価値評価を行うことになる。 現在、会計事務所のM&A実務において、経常売上高マルチプル(倍率)1倍という評価で取引される事例が多いといわれている。 「基本的には顧問先を全部承継するという条件で、決算を除く臨時手数料(相続関連など)以外の手数料、毎月の顧問料および決算手数料の合計、すなわち、経常売上高の100%から80%ほどになるのではないだろうか。」(増山雅久『会計事務所のM&A成功術』幻冬舎メディアコンサルティング、2010年)とされるケースである。 しかし、前回の記事において述べたように、会計事務所のM&Aにおける買い手の取引は「投資」である。これは事業会社のビジネスの基本原理と同じである。 投資をした者は、それを回収して利益を得なければならない。したがって、買い手は回収可能性を予測したうえで、投資額を見積もる。これが価値評価のプロセスである。 理論的な公正価値(時価)は、一般的なファイナンス理論においては、将来キャッシュ・フローの割引現在価値であるといわれる。すなわち、DCF法によって評価した価値のことである。 DCF法の価値評価は、決算書の数値に基づく純資産法などと異なり、不確実な将来予測に基づいて行う。それゆえ、将来キャッシュ・フローをどれくらい確実に予測できるかが、その評価の信頼性のポイントとなる。 そこで、DCF法を会計事務所の価値評価に使えるかを検討する必要があるが、この点、顧問料収入からの将来キャッシュ・フローが安定していることが税理士業務の特徴であるため、会計事務所は、DCF法の価値評価がまさに適合するビジネスであるといえる。 それゆえ、経常売上高1年分という価値評価は、単なる業界慣行又はM&A実績の結果にすぎず、その方法論そのものに合理性はない。 先日、ある税理士法人の代表社員から、買収した会計事務所が赤字になり、既存の事務所経営まで苦しくなってしまったという話を聞いた。 詳しく聞いてみると、会計事務所M&Aの仲介業者から、「税務顧問料1年分です。」と言われ、直前期の売上(相続税申告の報酬は除く)と同額の5,000万円で、言われるがままに買収したという。 筆者が「当時、利益は出ていましたか?」とたずねると、「買収前は、優良顧客と優秀な税理士を抱えていたので、利益が出ていました。しかし、買収後に優良顧客3社から『前の先生の方がいい』と言われて契約を切られてしまいました。また、優秀な税理士職員が退職したため、代わりに無資格者を2人雇うことになって人件費が増えてしまったのです。結果として、収益減少と費用増加の状況、なんと赤字に転落ですよ。」とのこと。 このような事態に陥ってしまうと、もはや利益によって投資額5,000万円を回収することができず、買収は失敗に終わったということになる。その5,000万円は水の泡である。   2 投資回収計算とは何か DCF法は、経営者が新規事業を行うに際して考える投資回収計算そのものを活用した評価方法である。 すなわち、1年目、2年目、3年目・・・・N年目と将来の収入額(フリー・キャッシュ・フロー及び残存価値)を見積もり、それによって投資案件の事業価値を見積もる。この予測はまさに経営者のセンスによるものであり、予測が外れるリスクは経営者自らが負担するのであるから、正確である必要はない。 将来の収入額とは、固定資産投資を伴う事業における追加投資や減価償却、運転資金の必要性を考慮しなければ、会計上の利益と考えてよいだろう。収益を獲得するために費用を負担する。手元に残った利益を収入額と考えよう。 この点、会計事務所の税理士業務には大きな固定資産投資は伴わないため、税引後利益をもって将来の収入額と考えてよい。 したがって、会計事務所の投資回収計算は、買収価額(投資)を将来の利益によって回収していくプロセスであるといえる。M&Aにおける買い手は、将来の利益額を見積もることによって事業価値を評価する。事業価値(回収)を下回る買収価額(投資)で取引が成立するならば、M&Aによって買い手は利益を得ることができる。 すなわち、【 事業価値 > 買収価額 】という評価結果の場合、買い手の投資は成功することになる。   3 買収価額は買い手が決めるもの 繰り返し述べるが、M&Aにおいてリスクを負うのは、売っておしまいの売り手ではなく、投資を回収する仕事が待ち構える買い手である。 事業価値を超える買収価額を支払ってしまえば、将来回収することは不可能となり、その時点で投資は失敗である。それゆえ、買い手は買収価額の決定において、細心の注意を払わなければならない。 この点、仲介によるM&Aによく見られるケースは、「売り手の希望価格」を提示するケースである。 売り手の希望価格は、売り手にとっての事業価値であるから、仮に売り手が経営を続けた場合に実現する事業価値を意味する。とすれば、売り手と同等の経営力を有する買い手でなければ、売り手が評価する事業価値は実現しない。 誤解を恐れずに単純化して述べると、売り手よりも経営力のない買い手が、「売り手の希望価格」で買収を実行すると、必ず投資回収に失敗する。この点に注意し、買い手は必ず自ら価値評価を行わなければならない。自ら評価した事業価値が「売り手の希望価格」を下回った場合は、買収してはならない。   4 それでもなぜ価値評価は年間顧問料の1年分なのか 経済合理性を無視すれば、十分な資産家である所長が、手取り現金が多いか少ないかだけで単純に会計事務所の売却の意思決定を行うわけではない。M&A実務における判断基準としては、所長の人生における効用(自らの幸せ)が高まるかどうかでM&Aを決めることになるのである。 すなわち、働くことによって得られる現金収入だけでなく、残りの人生から得られる効用を考慮して、M&Aを実行すべきかどうか判断することになる。 例えば、妻や家族と過ごす時間、趣味に充てて楽しむ自由時間、そして、会計事務所経営のプレッシャーから解放される喜びなどである。 残りの人生の過ごし方を考え、働くよりも売却する方が人生の効用が高まる(幸せになれる)と判断するのであれば、M&Aによる売却を決断することになる。 あまりに高く売却して買い手が投資回収に失敗するよりも、買い手に成功してもらい、その後は感謝してもらう方が良い。また、残された職員には、新しい所長から支給される給与水準が上がり、幸せになってもらいたい。 このようなことを考えて、取引をスムーズに進めるべく、分かりやすく「年間顧問料1年分」という割安の価値評価によって会計事務所を譲渡するのであろう。 (了)

#No. 19(掲載号)
#岸田 康雄
2013/05/16

〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第3回】「中小企業の情報セキュリティ」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第3回】 「中小企業の情報セキュリティ」   公認会計士 神崎 時男   ◎財務諸表の前提としてのシステム利用 公認会計士、税理士は、財務諸表を利用する。その財務諸表は、近年、システムを利用して作られていないものはないと言っても過言ではない。そのシステムのセキュリティが脆弱であれば、そこから作成された財務諸表の信頼性は疑わざるを得ない。 公認会計士であれば、上場企業に関しては、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)でIT内部統制の監査が要求され、それ以外の企業についても、会社法監査の対象となる会社については、少なくとも必要最低限のセキュリティを確認することになる。 また、税理士であれば、あまりにセキュリティが脆弱なシステムを利用しながら決算書や申告書を作成することにリスクを感じるだろう。 以下、筆者の経験上、セキュリティが脆弱となっているケースが多い事象を中心に、中小企業においても押さえておきたいセキュリティをいくつか紹介する。   ◎特権IDの管理 特権IDの定義は様々である。まず、どのような特権IDを確認すべきかを明確にし、その状況を把握する必要がある。 財務諸表への影響を考えると、次のようなものを確認すべきである。 これらの特権IDは、すべてが一つの特権IDで実行できるケースや、いくつかのことを一つの特権IDで実行できるケース、すべて異なる特権IDであるケース等、システムの状況によって様々であることに注意しながら、まずは該当する会社の特権IDを特定することから始めると良い。 なお、①②については、中小企業であればパッケージシステムを利用し、プログラム更新やデータベースの直接修正を実施しないケースが多いため、ここでは説明を省略する。 ③については、例えば、商品単価マスター登録、受注登録、出荷登録、会計仕訳計上処理といった一連の処理を一人で実行することが可能なため、架空の財務関連データを誰のチェックもなしに登録することが可能となってしまう。 また、④については、適当なユーザIDを追加して不正なデータを登録した場合、誰がそのIDを利用して不正なデータを登録したかが事後的に追跡できなくなる。また、そもそも追跡できないことがわかっているので不正なデータを登録しやすいのである。 中小企業において、例えば経理部全員が③及び④が実行できる権限となっているケースも見受けられ、数名の管理者のみに限定すべきである。 また、複数人で共有しているケースも多く、その場合は、実行ログを追跡したとしても誰がその特権IDを利用して不正を実行したのかが特定できなくなるおそれがある。原則として個人別に付与し、共有するのであれば、少数に限定して利用者を特定できる状況にしておくべきである。 さらに、近年、情報漏えい事件が頻発しており、中小企業においても他人事ではない。特にこういった特権IDを利用して大量にデータをダウンロードするケースもあり、その点からも注意が必要である。   ◎パスワードの管理 上述の特権IDも含め、その他の一般ユーザIDに関してもいえることであるが、ほとんどのシステムでは、システム利用時にユーザIDとパスワードが要求される仕様となっているが、そのパスワードの社内ルール(最低桁数、英数や大文字小文字の混在、定期変更等)がなく、結果として容易に推測可能なパスワードが設定され、いわばパスワードが設定されていないのと同じ状況が散見される。 よくあるケースとしては、ユーザIDとパスワードがともに社員番号であるケースである。 これでは、他の社員のパスワード(つまり社員番号)は容易に知りうる状況が多く、ユーザID、パスワードによるセキュリティ機能が無意味になっているといえる。 別の言い方をすると、ほとんどの社員に関して、他人のユーザIDとパスワードでログインすれば、上述の特権ID③と同様に、システム上のすべての処理が実行できる状態となっているのである。 その他、パスワードの社内ルールを規定しないと、パスワードが単純な数値の羅列(1234、1111等)や氏名になるケースも多く、注意が必要である。 まずは、特権IDのほか、重要なシステム処理(仕訳計上、入出金処理等)を実行するユーザIDについてだけでもパスワードの社内ルールで制約し、可能であればシステムでこういったルールを強制してルールを満たさないパスワードは登録できないようにすることが必要である。   ◎バックアップの管理 データのバックアップについては、震災の影響もあって、セキュリティ意識が高まってきているようである。 しかし、まだまだ杜撰なバックアップ管理も散見され、なんらかの事情によってシステムがダウンした時に、バックアップデータからリカバリが実施できないおそれがある企業も存在している。 対処方法としては、バックアップの実施をチェックすることが重要である。 システム担当者がバックアッププログラムを起動するケースと、システムのスケジュールによって自動で起動するケースがあるが、両者ともに必要である。 前者においては、担当者が実施を失念する、ないし、日常業務に追われ実施しないといったケースもあるため、できれば運用日誌等に実施結果を記載し、責任者が確認するといった運用が望ましい。 後者においても、バックアッププログラムが正常終了されていないこともありうるため、定期的に実行結果のシステムログを確認するとよい。 また、震災後、バックアップ媒体を分別保管する会社も増えている。 サーバーの本番機とバックアップデータを格納している媒体が同じ場所に存在すると、災害発生時には同時にデータを喪失することが懸念されるため、少なくとも同じ建屋には保管しないことが望まれる。 また、そもそもサーバールームがなく、システム担当者の足元にサーバーが設置されているようなケースも見受けられる。飲食物をこぼす、清掃中に破損するといった初歩的なミスが会社の重要データが喪失するといったことにもつながりうることから、サーバールーム等への設置が望ましいのはいうまでもない。 さらに、サーバールームの入室制限に関しては、過去には、会社を解雇された従業員が腹いせにサーバーを破壊して退職したといった事件もあるようなので、システム管理者以外は入室できないように施錠管理をすることも望まれる。 (了)

#No. 19(掲載号)
#神崎 時男
2013/05/16

NPO法人 “AtoZ” 【第7回】「NPO法人の税務②」~法人税・住民税・源泉所得税等~

NPO法人 “AtoZ” 【第7回】 「NPO法人の税務②」 ~法人税・住民税・源泉所得税等~   税理士 岩田 聡子   1 法人税 NPO法人も収益事業を行う場合には、各事業年度終了の日から2ヶ月以内に、税務署長に対し、法人税の申告書を提出しなければならない(法法74)。 提出書類は、法人税確定申告書、貸借対照表・損益計算書、勘定科目内訳明細書、事業等の概況に関する書類で、添付書類は収益事業以外の事業に係るものを含む、とされている。 法人税は収益事業から生ずる所得のみに課せられるため、NPO法人は、資産・負債、収益・費用を収益事業と収益事業以外の事業に区分して経理することが必要となる。 費用は、収益事業に係る事業費と、管理費のうち収益事業と収益事業以外の事業に共通する資産や費用について資産の使用割合、従業員の従事割合、資産の帳簿価額の比、収入金額の比等の合理的な基準により、按分して計算した収益事業に係る金額を合計して計算する。 また、通常NPO法人が委託者から委託を受けて事業を行う場合には請負業に該当し、収益事業に該当することから、その所得に対し、法人税が課されることとなる。 しかし、その委託が実費弁償による事務処理の委託等に該当する場合には、事前に税務署長に申請して確認を受けることにより、収益事業としないこともできる。 「実費弁償による事務処理の委託等」とは、委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用の額を超えないことが契約等により定められているものをいう。 NPO法人が委託を受ける業務の中には、請け負った業務の収入がその業務に係る費用相当分か、それ以下となり、利益を生じないよう定められた契約もあるため、このような業務を行う際には、あらかじめ、税務署長に申請することを失念しないよう、留意しなければならない。   2 住民税 収益事業を行っている場合には、法人税だけでなく、各事業年度終了の日から2ヶ月以内に、住民税の申告が必要である(地法53①、321⑧)。 都・県民税はそれぞれ都税事務所、県税事務所へ、市町村民税は市役所、町役場、村役場へ申告する。 収益事業を行っていない場合でも、住民税では均等割が課される(地法23①一、292①一)。 ただ、この場合の均等割については、通常、条例の定めにより、住民税の減免申請をすることで、免除を受けることができる。 減免申請書の提出は年1回であり、自治体ごとに期限が定められているため、提出期限に注意しなければならない。 この期限は4月頃としているところが多いようだが、それぞれの自治体に確認する必要がある。   3 源泉所得税 NPO法人が給与を支払う場合には、所得税を源泉徴収しなければならない(所法183)。 給与に対する源泉徴収は、給与の支給条件、雇用状況により、源泉徴収税額表に基づき計算する。 NPO法人が原稿料、講演料、出演料、弁護士・税理士等に対する報酬料金等を支払う場合には、支払金額の10.21%(100万円を超える部分は20.42%)の源泉所得税(復興特別所得税含む)を徴収しなければならない(所法204、復興財源確保法28①②)。 謝金、取材費、調査費、お車代等の名目で支払う場合でも、これらの実態が講演料等と同様であれば、金額の多寡にかかわらず、源泉徴収の対象となる。 ただし、直接交通機関等へ通常必要な範囲の交通費や宿泊費などを支払った場合、つまり、かかった費用の実費相当額をホテルや旅行会社に支払う場合には、その実費相当額は源泉徴収の対象とはならない。 源泉税の納付は原則、支払日の翌月10日までであるが、給与等の支払いを受ける者が10人未満の場合には、弁護士・税理士等に対する報酬については、税務署長に申請書を提出することにより、半年ごとの納付も認められている(所法216)。   4 印紙税 NPO法人が発行する領収書や受取書は、たとえ収益事業に係るものであっても、営業に該当しないものとして印紙税は非課税となるため、印紙を貼る必要はない。 定款についても、印紙税は非課税とされている。 (了)

#No. 19(掲載号)
#岩田 聡子
2013/05/16

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第8回】「DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅱ」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第8回】 「DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅱ」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅱは、第5回で掲載した図表5に示すように、6項目から構成されている。 (【第5回】より再掲) 図表5 機能評価係数Ⅱの見直し 2012年度診療報酬改定において、地域医療係数、救急医療係数、データ提出係数については多少の変更が加えられたが、基本的な仕組みは変更されず、今後も大きな方向性は変わらないものと予想される。 2012年度診療報酬改定では、医療機関群(Ⅰ群・Ⅱ群・Ⅲ群)の設定が行われ、DPC対象病院全体で評価された項目(データ提出係数、効率性係数、救急医療係数)と医療機関群ごとに評価された項目(複雑性係数、カバー率係数、地域医療係数)に分かれた。これらは医療機関の質的側面を評価したものであり、DPCに参加するか否かにかかわらず、今、急性期病院に求められていることが凝縮されている。 A) データ提出係数 DPC/PDPSでは、適切なデータを提出することが極めて重要であり、院内で一生懸命行っているベンチマーク分析は、データが正確でなければその意義が薄れてしまう。このデータ提出係数は、DPC/PDPSの中で今後さらに重要性が増すことが予想される。 2012年度改定では、データ提出については、新たに精査した「部位不明・詳細不明のコード」の使用割合が20%以上の場合に減算が行われ、従来の40%よりも厳しくなった。また、今後は、郵便番号やがんのステージなどの必須項目への入力が適切に行われない場合には減算が行われる予定になっている。 B) 効率性係数 効率性係数は、包括評価の対象となっている診断群分類において、在院日数を短縮する努力が評価されたものである。 在院日数の短縮は、患者1人1日当たりの入院診療単価を高めるだけでなく、効率性係数においても評価されていることから、DPC/PDPSの環境下では、在院日数の短縮が成長のための重要な鍵を握っている。つまり、ベッドコントロールが病院経営にとって重要であることを意味している。 ただし、この効率性係数は、平均在院日数を単純に短くすることとは異なる側面を有している。DPC/PDPSでは診断群分類ごとに入院期間Ⅱ(全国の平均日数)が決まっており、その日数と比較して長いか短いかを検討することが、この係数の向上につながる。 ただでさえ短い日数の患者を無理やり短縮するよりも、全国平均と比べて長い疾患の患者を短縮する方が合理的である。 C) 複雑性係数 複雑性係数は、各医療機関の患者構成の差を1入院当たり点数に補正して評価したものであり、重症な患者割合を表している。 ここでいう重症とは、全国平均でみたときに在院日数が長く、1入院当たりの包括点数が高い疾患がどのくらいの割合を占めているかが評価されている(自院で在院日数が長いか短いかが評価されたのではなく、全国平均の在院日数であることには注意が必要である)。 つまり、白内障などの短期入院が多い病院では、複雑性係数は低くなるし、がんや脳卒中などの患者が多い病院は複雑性係数が高くなる。複雑性係数は、どのような疾患の患者を診ているかが評価されたものであり、在院日数が短い疾患は手がかからないのであろうという前提が置かれている。 なお、患者構成については、中長期的には変更することができるかもしれないが、短期では医師の大量退職や入職がない限り、ほとんど変わらない。その際にできることは、副傷病名を実態に合わせて入力することである。 副傷病名とは、疾患コード・疾患名を決定するに至った主傷病名以外の傷病名であり、入院時併存症と入院後発症疾患の両方が含まれている。漏れがちな病名記載を患者の病態に合わせて適切に行うことが必要となる。 DPC/PDPSは包括払いだから主病名以外の病名を記載しなくていいということは、全くの誤りである。入院中に行った診療行為すべてをきちんと記録するように心掛けることが求められている。 D) カバー率係数 カバー率係数は、多様な疾患への対応力を持つ総合的な医療機関が評価されたものである。つまり、医療機関の総合性を表している。 診断群分類のカバー率が高いということは、いつ来るか分からない患者へも対応するだけのマンパワーと設備を有しているので、そのことを評価しようという意味である。 図表1に示すように、カバー率はDPC算定病床数と有意な相関がみられ、規模が大きい病院ほど高くなる傾向がある。ただし、同規模病院でも専門病院などは不利な扱いを受ける傾向がある。 診断群分類を決定する際にあまりにもパターン化しすぎるとカバー率は低下する恐れがある。実態に合わせたコーディングを行うことにより、適切な評価を受けることができることできる。 図表1 カバー率と病床数の分布   E) 救急医療係数 救急医療係数は、救急医療入院患者について、入院後2日目までの包括範囲出来高点数と診断群分類点数表の設定点数の差額の総和を症例当たりに補正したものである。救急医療入院における入院初期の医療資源の投入量が多い場合の損失分が評価されている DPC/PDPSは包括払いであるから、検査や投薬を行い過ぎると赤字になると捉えられることが多い。しかし、救急医療入院の場合には、入院から2日目まではこの係数で補填されているので、予定入院とは性格が異なることには留意すべきである。 F) 地域医療係数 地域医療係数は、地域医療への貢献が評価されたものである。災害拠点病院やがん診療拠点病院の承認などの体制評価指数が半分のウェイトを占めている。 さらに、2012年度診療報酬改定から、医療機関が所属する地域の患者シェアが用いられており、小児(15歳未満)とそれ以外(15歳以上)について定量評価が行われている。体制評価については、4疾病5事業に係る関連事業のうち、特に入院医療において評価すべき項目であって、客観的に評価できる項目が採用された。 地域医療係数は、都市部に位置する病院には不利な傾向があり、中山間部やへき地で地域医療を支える病院に有利な傾向がある。 (了)

#No. 19(掲載号)
#井上 貴裕
2013/05/16

《速報解説》 産活法に関連する会計監査に係る監査上の取扱い(公開草案)の解説

《速報解説》 産活法に関連する会計監査に係る 監査上の取扱い(公開草案)の解説   公認会計士 阿部 光成   平成25 年4月24 日、日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)は、次の公開草案を公表した。 意見募集期間は平成25年5月15日(水)までである。 公開草案の本文は、日本公認会計士協会のホームページから入手できる。 今般、これらの公開草案が公表されたのは、①「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(以下「産活法」という)の改正への対応と②新たな会計基準の公表や監査基準の改訂等に対応するためである。 本稿では、これら公開草案について解説を行う。 公開草案は、経済産業省から平成25年4月24日付けで公表された「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」の内容と密接に関連しているので、同Q&Aもお読みいただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 監査上の取扱い(案)について 1 対象 産活法の適用に当たり、従来から会社法監査又は金融商品取引法監査を受けている会社は、当該法定監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付することとなる。このため、監査上の取扱い(案)は、産活法の適用により初めて監査を受ける会社を対象としたものである(監査上の取扱い(案)4項)。 また、会社法監査のみを受けている会社においては、産活法の適用により半期報告に添付される貸借対照表及び損益計算書の監査に当たり、監査上の取扱い(案)を適用することとなる(監査上の取扱い(案)5項)。 2 監査対象となる貸借対照表及び損益計算書 主務大臣から債権放棄を含む計画の認定を受けた会社は、認定を受けた債権放棄を含む計画(以下「認定計画」という)の実施期間の各事業年度における実施状況、及び事業年度開始以後6ヶ月間の実施状況について主務大臣に報告するに当たり、公認会計士等の監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付する(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則48 条7項)。 「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」Q4では次のことが述べられているので、注意が必要である(監査上の取扱い(案)6項)。 3 監査の実施時期等 産活法に基づく監査は、産活法適用の申請及び認定という手続を受けて行われるため、その監査委嘱の時期及び監査の実施時期は通常の監査とは異なる場合が想定される(監査上の取扱い(案)7項)。 産活法に基づく監査は、その認定時期により次の計算書類の監査が必要となる。 4 監査契約に係る予備的な活動 監査契約に係る予備的な活動として、監査契約の十分な理解に関して、監査基準委員会報告書210「監査業務の契約条件の合意」において要求される事項など、監査基準委員会報告書300「監査計画」5項及び12 項の規定に基づき実施する必要がある。 監査契約の締結に伴うリスクを評価については、慎重に判断することが必要と考えられる(監査上の取扱い(案)8項~13項)。 5 資産の評価その他の会計処理 認定計画においては、企業再生のための抜本的な事業の見直しや今後事業に供さない資産の処分等の計画が織り込まれる。このため、会計監査上のポイントとしては、資産評価に重点が置かれることが多いと考えられる。 監査上の取扱い(案)で述べられている次の事項については、認定事業者の会計処理上、特に留意が必要と思われるものを例示列挙したものであり、従来の会計基準と異なる新たな処理方法等を示したものではないとしているので、実務への適用に際しては注意が必要と考えられる(監査上の取扱い(案)15項~23項)。 6 監査手続に関する留意事項 法定監査を受けていない会社は、産活法の適用により初めて監査を受けることとなる。この際、次の事項と共に、監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」にも注意する(監査上の取扱い(案)25項~34項)。 7 監査範囲の制約 監査範囲の制約が存在する場合には、監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に基づき対応することとなる(監査上の取扱い(案)35項)。 8 監査人の責任 監査人の責任は、計算書類又は臨時計算書類について、独立の立場から、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行い、監査意見を表明することにある(監査上の取扱い(案)36項)。 監査報告書は、認定事業者の認定計画における将来予測の正確性や適正性を保証するものではないことに留意する。 監査報告書の文例としては、文例1から文例4が掲載されている(監査上の取扱い(案)37項)。 そのほかの除外事項付意見の監査報告書の記載方法については、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」に基づくこととなる。 9 継続企業の前提との関連 監査基準委員会報告書570「継続企業」に基づき慎重な対応をすること、監査基準委員会報告書560「後発事象」及び監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」に基づいて後発事象に関する検討を行うことが述べられている(監査上の取扱い(案)38項、39項)。 10 初めて監査を受けることとなった決算期(臨時会計年度)の取扱い 監査契約の締結時期により監査範囲の制約を受けた場合は、その重要性を勘案し、監査範囲の制約の影響につき除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、又は意見を表明しないこととなる(監査上の取扱い(案)40項)。   Ⅱ 研究報告(案)について 公認会計士又は監査法人は、事業再構築計画又は経営資源再活用計画(以下「事業再構築計画等」という)の認定の申請のために、申請事業者が申請書に添付する「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」を作成するための業務を申請事業者から依頼されることがある。 当該業務は、公認会計士等が申請事業者との間で合意の上で手続を実施し、その実施結果の事実を申請事業者に報告する、「合意された手続業務」として実施される。 研究報告(案)は、会員の実務の参考に資するように、このような合意された手続業務を実施する上での留意事項を提供するものである。 実際の業務の実施に当たっては、監査・保証実務委員会研究報告第20号「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」が参考となる。 1 公認会計士等による報告書の目的並びに利用及び配布の制限 「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、申請事業者の事業再構築計画等の認定申請に関連して、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則4条3項又は9条3項において定める「資金計画」に記載された計算式及び計算結果が、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」二 イ 「2 事業再構築による財務内容の健全性の向上に関する目標」の①及び②に定められた計算式、及びこれに関連する「貸借対照表等の予想推移」に基づくものであるか否かに関して、報告書の利用者による評価に資することを目的として作成されるものである。 「貸借対照表等の予想推移」とは、債権放棄を前提に申請事業者により策定される事業再構築計画等の申請において申請事業者によって作成された対象期間中における貸借対照表及び損益計算書等の予想推移をいい、「資金計画」とは「貸借対照表等の予想推移」並びに「貸借対照表等の予想推移」に基づく上記の計算式及び計算結果を示す書類をいう。 「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、合意された手続業務の性質や実施された手続の内容、報告書の目的を十分に理解した者のみが利用すべきものであり、認定申請以外の目的による配布又は利用を制限する旨を記載することが必要となる。 このため、上記報告書の想定利用者は、認定申請の関連者である申請事業者及び申請先である主務官庁に限られる。 主務官庁は報告書の利用者であるが、公認会計士等と個別の業務ごとに実施する手続について合意することなく業務を実施することとなる。 監査・保証実務委員会研究報告第20号においては、業務実施者が報告書の利用者との間で実施する手続について合意ができない場合があるとされており、「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」の作成業務はそのような例外的な場合に該当する。 2 実施手続 報告書作成業務のために公認会計士等が実施する手続は、通常、以下のとおりである。 (1)の手続において、計算式の中に、「資金計画」から直接的に確かめることができない項目や金額があった場合には、当該部分について「資金計画」の修正又は明細書の添付を申請事業者に要請した後、修正後の「資金計画」等の項目及び金額が、前述の計算式の項目及び金額と一致していることを確かめる。 計算式に含まれる項目の定義等については、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」の備考として記載されているが、その解釈に関しては、主務官庁の解釈に従うこととし、必要に応じて、その都度主務官庁に確かめる。 なお、研究報告(案)では、「公認会計士等の報告書の文例」が掲載されている。 3 公認会計士等の責任 報告書作成業務は、一般に公正妥当と認められる監査、レビューの基準、又はその他の保証業務の基準に基づく保証業務ではないため、「資金計画」に記載されている計算式に含まれる貸借対照表等の予想推移について監査意見又はレビューの結論を表明するものではない。 報告書作成業務は、その実施する手続の実施結果の事実のみを報告するものであり、「資金計画」の適正な表示やその将来予測の正確性を保証するものではない。 (了)

#No. 18(掲載号)
#阿部 光成
2013/05/10

中小企業のM&Aでも使える税務デューデリジェンス 【第1回】「買収の形態により異なる税務の取扱い」

中小企業のM&Aでも使える 税務デューデリジェンス 【第1回】 「買収の形態により異なる税務の取扱い」   公認会計士・税理士 並木 安生   1 はじめに 昨今、オーナー株主が保有する中小企業に対して、M&A(合併と買収)の話が持ち上がるケースが非常に多い。 その際、買収の手法・形態ごとの税務上の取扱いを予め理解しておくことで、不測の納税が生じてしまう等のリスクを回避・軽減することができる。 また、その買収形態並びに買収価額については、いわゆる「税務デューデリジェンス」の結果に基づき決定されることが多いため、その手続や考え方を理解しておくことも非常に有用である。 税務デューデリジェンスとは、資料の閲覧・計算チェックや税務責任者やマネジメントへの質問を通じて、買収対象会社の過年度における税務の状況を把握・検討・分析し、税務リスク(将来の税務調査で追徴課税を受けるリスク)を洗い出す手続である。 そこで本連載では、現在の中小企業が遭遇する様々なM&Aのケースにおいて、この税務デューデリジェンスの手法を有効に活用する方法と考え方について解説することとする。 まず第1回では、税務デューデリジェンスの具体的な内容を解説する前に、買収の各形態の内容及びその税務上の取扱いやポイントについて、事例を交えて解説する。   2 買収の形態 A社のオーナー株主(個人)が、競合他社(B社)から買収の申し出を受けたとする。この際、その買収の手法・形態によって税務上の取扱いが相違することになる。 以下、数値例を用いて解説する。 《A社に係る前提》 ●X事業とY事業を運営しており、税務上の各数値は下表のとおりである。 ●青色繰越欠損金100を有している。 ●負債は存在しない。 ●オーナー株主におけるA社株式の簿価は400である。   ① 株式譲渡(現金で株式を購入するケース) オーナー株主が、競合他社(B社)から自社(A社)株式を譲ってもらえないかとの申し出を受け、A社株式売却の代金として現金を受け取るものとする(図①)。 これは、「株式譲渡」という最も一般的な買収形態である。 図① 株式譲渡 [ステップ1] [ステップ2] 株式譲渡取引は原則として組織再編税制の対象ではないため、いわゆる「適格要件」を判定する必要はない。 そのため、本事例の下では、買収対象会社A社が保有する資産の含み益100等が、A社において課税対象となることはない。 また、売り手となるオーナー株主側では、譲渡価額(事業価値880)とA社株式簿価400の差額480が課税対象の譲渡益として認識されることになる(所得税における申告分離課税の対象)。 ただし、本事例のように買収時点において買収対象会社A社に含み損のある資産や青色繰越欠損金がある場合、欠損等法人(法法57の2)に該当することで、含み損のある資産の売却による損失や青色繰越欠損金に対して、A社において損金算入制限が将来課される可能性がある点に注意されたい。 ② 株式交換(株式で株式を購入するケース) オーナー株主が、競合他社(B社)から自社(A社)株式を譲ってもらえないかとの申し出を受け、B社(買い手)株式をA社株式売却の代金として受け取るものとする(図②)。 これは「株式交換」という買収形態であり、買い手にとっては手許に資金(現金)がなくとも買収が実行できる点にメリットがあり、広く利用されている手法である。 図② 株式交換 [ステップ1] [ステップ2]   株式交換は組織再編税制の対象となる取引であり、適格要件の判定が必須となる。適格要件を満たさない場合は非適格株式交換となり、買収対象会社A社の一定の資産に係る評価損益を税務上認識しなければならない。 本事例の下で、A社の有するすべての資産及び正ののれんが評価損益の対象となる場合、A社では評価益280が課税対象として認識される(ただし、青色繰越欠損金100との相殺が可能である)。なおA社で認識された正ののれん200はその償却費が将来損金算入できるため、租税の削減効果が享受できることになる。 また、売り手となるオーナー株主側では、譲渡価額(事業価値の880)とA社株式簿価400の差額480が譲渡益として原則認識されるが(所得税における申告分離課税の対象)、この株式交換が金銭等交付を伴わない場合(本事例のようにB社株式のみオーナー株主へ交付される場合)、適格要件を満たすかどうかにかかわらず、例外的に譲渡益は繰延対象となる。 ③ 事業譲渡(現金で事業を購入するケース) 自社(A社)が、競合他社(B社)から事業(X事業)を譲ってもらえないかとの申し出を受け、譲渡代金としてA社が現金を受け取るものとする(図③)。 これは「事業譲渡」という買収形態であり、売り手が複数の事業を運営している下で特定の事業のみを譲り受けたい場合に、従来から広く利用されている手法である。 図③ 事業譲渡 [ステップ1] [ステップ2] 事業譲渡は、組織再編税制の対象ではなく単なる資産の譲渡取引であるため、税務上時価で譲渡されたものとして取り扱う必要がある。 本事例では、税務上の簿価500である資産を有する事業を譲渡価額800(事業価値)で売却するため、A社で譲渡益300が生じることになる。また、B社側では正ののれん(資産調整勘定)200が認識され、その償却費が将来損金算入できるため、租税の削減効果が享受できることになる。 ④ 分社型分割後の株式譲渡(事業の分社化後に現金で株式を購入するケース) 自社(A社)が、競合他社(B社)から事業(X事業)を譲ってもらえないかとの申し出を受けた際、まず譲渡対象のX事業をA社から分社化した後にその子会社(C社)株式を売却し、代金として現金をA社が受け取るケースがある(図④)。 これは分社型分割と事業譲渡をセットにした買収形態であり、売り手が複数の事業を運営している下で特定の事業のみを株式の形態で買収したい場合に有効な手段である。 図④ 分社型分割+株式譲渡 [ステップ1] [ステップ2] この分社型分割は、組織再編税制の対象となる取引である。 本事例ではC社株式のすべてを買い手に譲渡することから、適格要件の判定結果は非適格分割となるため、税務上の簿価500である資産を有する事業を譲渡価額800(事業価値)で分社化した場合、分割時点でA社において譲渡益300が生じることになる。 買収対象会社C社では、正ののれん(資産調整勘定)200が税務上認識されることになり、償却費の損金算入により将来に租税削減効果が享受できることになる。なお、上記②の株式交換と比べて、この買収形態の下ではC社で正ののれん額に対応する評価益が認識されず、代わりに資本金等の額が認識されることになる。   3 まとめ 以上のように、いずれの買収形態を選択するかで、オーナー株主、買収対象会社並びに買い手の課税関係が異なることになる。 また、選択した(選択する予定の)買収形態に従い、税務デューデリジェンスを実施する必要性も異なることになるが、詳細については次回解説する。 (了)

#No. 18(掲載号)
#並木 安生
2013/05/09

雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第3回】「所得拡大促進税制の要件確認及び適用上の留意点」

雇用促進税制・ 所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第3回】 「所得拡大促進税制の要件確認 及び適用上の留意点」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成25年度税制改正大綱において創設されることが明らかとなった「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に関し、関連する法律、政令並びに省令が平成25年3月30日付で公布されたことにより、その詳細が明らかとなった。 そこで今回は、所得拡大促進税制を適用する際の要件を確認し、留意すべき点について解説を行う。 なお、内国法人以外の法人及び連結納税に係る部分は対象外とし、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。   2 所得拡大促進税制の概要 青色申告法人が平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度(以下「適用年度」という)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、以下の①~③の要件を満たすときには、その雇用者給与等支給増加額の10%の税額控除ができる。ただし、法人税額の10%(中小企業者については20%)を限度とする(改正措法42の12の4①)。 さらに中小企業者については、適用年度における道府県民税及び市町村民税(法人税割)の額も、税額控除後の法人税額を基礎として計算される(地方税法附則8⑨)。 これを図示すると、以下のようになる。 (経済産業省ホームページ「平成25年度税制改正について」より) ※PDFファイル   3 用語の意義 (1) 国内雇用者 法人の使用人(法人の役員、その役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のうち、その法人の有する国内の事業所に勤務する一定の雇用者をいう(措法42の12の4②一)。 そして、税制改正大綱及び税制改正法案段階では明らかではなかった「雇用者」が満たすべき要件が政令により明らかとされた。 すなわち、所得拡大促進税制の対象となる「雇用者」とは、その法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法108条に規定する賃金台帳に記載された者をいう(措令27の12の4②)。 賃金台帳は、労働基準法により作成が義務付けられているものであるから、すべての労働者について作成されることとなる。つまり、正社員のみならず、嘱託社員、派遣社員(*追記参照)、パートタイマー、アルバイト、日雇労働者も対象となる。この点、雇用促進税制における「雇用者」※よりも範囲が広い点に留意する必要がある。 ※雇用促進税制における「雇用者」とは、法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者並びに使用人兼務役員を除く)のうち、雇用保険の一般被保険者に該当するものをいい、高年齢雇用者(高年齢継続被保険者)は含まれない(措法42の12②二、三)。   (2) 雇用者給与等支給額 適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措法42の12の4②三)。 ここでいう「給与等」とは、所得税法28条1項に規定する給与等をいう(措法42の12の4②二)。具体的には、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいう(所法28①)。 雇用者給与等支給額については、その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額とする※点に留意が必要である。 ※「他の者から支払いを受ける金額」を控除することについては、雇用促進税制における「給与等支給額」と同じような規定ぶりとなっているため、その具体的な内容は雇用促進税制における通達(措通42の12-2)が参考になると思われる(第1回を参照)。ただし直接的には、その取扱いが明らかとされていないため、今後通達が整備される可能性があると考える。   (3) 基準雇用者給与等支給額 基準事業年度(平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度(以下単に「最も古い事業年度」という)開始の日の前日を含む事業年度)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措法42の12の4②四)。 基準事業年度の月数と適用年度の月数が異なる場合には、基準雇用者給与等支給額について以下の調整を行う(措法42の12の4②四ロ) その法人が平成25年4月1日以後設立されたものである場合(合併、分割又は現物出資により設立されたものである場合を除く)、基準事業年度がないこととなる。 このときの基準雇用者給与等支給額は、最も古い事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者等に対する給与等の支給額の70%相当額とする(措法42の12の4②四ハ)。 (4) 比較雇用者給与等支給額 適用年度の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう(措法42の12の4②五)。 前事業年度の月数と適用年度の月数とが異なる場合には、比較雇用者給与等支給額について以下の調整を行う(措法42の12の4②五ロ)。   (5) 平均給与等支給額 適用年度における一定の給与等支給額を、一定の給与等支給者数で除して計算した金額をいう(措法42の12の4②六)。 平均給与等支給額の計算に用いられる「給与等支給額」は、雇用者給与等支給額から日雇労働者に係る金額を控除した金額であり(措令27の12の4⑪)、「給与等支給者数」は、適用年度に含まれる各月ごとの給与等の支給の対象となる国内雇用者(日雇労働者を除く)の数を合計した数である(措令27の12の4⑫)。 具体的な計算イメージは、下表を参照されたい。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 このように、平均給与等支給額の算定上、分母及び分子から日雇労働者に係る部分を控除することとされているが、これはあくまでも平均給与等支給額の算定局面のみの取扱いであり、控除税額の計算における国内雇用者給与等支給増加額の計算には影響しない(日雇労働者も国内雇用者に含めて計算する)点に留意が必要である。 (6) 比較平均給与等支給額 適用年度の前事業年度における平均給与等支給額((5)により算定)をいう(措法42の12の4②七)。   4 適用要件 本税制の適用を受けるためには、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の計算明細書※を添付する必要がある。この場合における控除税額は、その確定申告書等の添付書類に記載された雇用者給与等支給増加額を基礎として計算した金額が限度となる(措令27の12の4④)。 ※なお、平成25年4月12日に交付された「法人税法施行規則の一部を改正する省令」(官報号外第80号)により、下記の申告書別表の様式が公表されている。 〈別表6(20) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 このように本税制には、いわゆる「当初申告要件」が付されている。したがって、確定申告書等において本税制の適用を受けていない場合には、修正申告や更正の請求によって追加的に本税制の適用を受けることができないので留意が必要である。 また、雇用促進税制を適用する事業年度については、所得拡大促進税制の適用を受けることができない(措法42の12の4①)。すなわち、雇用促進税制※と所得拡大促進税制は、いずれかを選択適用するという関係にあるので、あわせて留意したい。 次回は、雇用促進税制と所得拡大促進税制との比較を通じ、選択適用上の留意点について考察していきたい。 (了)

#No. 18(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2013/05/09

入院による臨時改定と日割計算の役員給与

入院による臨時改定と 日割計算の役員給与   税理士 妹尾 明宏   Question 年1回3月決算法人である当社は、毎月末に役員給与を支給しています。 X年9月15日から役員の1人が病気のため3ヶ月程度入院することになりました。そこで、毎月80万円の役員給与をX年9月は日割計算して40万円、X年10月からは支給なしとしました。 退院・療養後は、体調が万全でないながらもX+1年1月から週2回のみ出社できることとなったため、職務執行の程度を勘案して30万円の役員給与を支給することとしました。各減額・増額改定は、それぞれ取締役会を開催して決議しています。 この役員へ支給した役員給与は損金算入できるでしょうか。 Answer X年4月から8月まで、及びX+1年1月から3月までに支給された役員給与については損金算入される。 X年9月支給分については、検討を要するが損金算入されると考えられる。 ◆ 解 説 ◆ 1 定期同額給与の臨時改定事由   -病気のため職務の執行ができなくなった場合 役員給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与に該当しないものは損金の額に算入されない(法法34)。 このうち定期同額給与について、会計期間開始日から3月経過日までにされる改定以外の改定があった場合に定期同額給与として認められるのは、その改定が臨時改定事由又は業績悪化改定事由に該当する場合に限られ、臨時改定事由は「職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」とされる。 ご質問の「病気のため職務の執行ができなくなった場合」については、「役員給与に関するQ&A(国税庁)」P17の[Q5 臨時改定事由の範囲-病気のため職務が執行できない場合]において、役員の職務の内容の重大な変更その他これに類するやむを得ない事情があると認められることから、臨時改定事由に該当することが明示されている。   2 退院後に職務に復帰した場合の増額改定(X+1年1月から3月) 1で引用したQ&Aの[Q5]では、退院後に従前と同様の職務の執行が可能となったことにより、取締役会の決議を経て入院前の給与と同額の給与を支給することとする改定についても、「役員の職務の内容の重大な変更その他これに類するやむを得ない事情」に該当するとしている。 ご質問のように、リハビリや通院のため、復帰後に従前と同様の職務執行まではできないケースも当然に考えられる。 この場合、入院前の給与と同額でない支給額としても、臨時改定事由による改定であり、その前後の支給額が同額であれば定期同額給与に該当することになる。これは、何らかの事情により入院前よりもその役員の職務が増加し、入院前より支給額を増額した場合においても同様と考えられる。ただし、増額した場合は過大役員給与について検討が必要である。   3 日割計算で支給した役員給与(X年9月) 会社法上、役員報酬は会社との委任契約による包括的な委任の対価であり、役員ではない従業員給与のように締日の概念はなく、日割計算はなじまない。 ご質問のように月の途中で入院し、入院後は職務執行ができない場合においても、日割計算による一部の金額を支給するのではなく、前月までの支給額と同額を支給する、又は次月同様に支給をなしとすべきである。職務執行が停止する日を含む月の支給の有無は、会社の方針等にもよるため、どちらが適切か一概にはいえない。 しかし、職務執行の内容等が大幅に変更されたときに役員給与を改定することは法人税法上も予定されていることであり、予期しない偶発的な事由によって職務の期間が減少したことによる職務執行の量的な変更に合わせた役員給与を支給するという考え方も間違いではないと考えられる。 ご質問の場合は、X年9月は職務執行が通常月の1/2程度しかできないため支給も半額とし、X年10月から12月は職務執行がまったくできないため支給なしとする、いわば「入院」という一つの事象により臨時改定事由が2回発生したともいえるのではないか。そして一事業年度内に臨時改定事由が複数回発生したことにより複数回給与改定しても問題はない。 この2段階の減額改定が、その役員の職務執行の変化に適正に対応した改定であるならば、その前後の役員給与は定期同額給与に該当すると考えられる。   4 自主的返還の場合 ご質問と同様の効果を得る方法として、X年9月は前月と同額の80万円を支給し、その役員に自主的に40万円を会社へ返還(贈与)してもらって雑収入として計上することが考えられる(X年9月分を40万円とする取締役会決議は行わない)。 この処理の場合は、臨時改定事由による改定前後であるX年4月から9月及び10月から12月の支給額が同額であるため定期同額給与に該当する。この場合、返還した40万円はあくまで会社へ贈与したものであって、給与自体が40万円減額されることにはならないため、源泉所得税は80万円の給与支払いとして計算することになる。   5 過大役員給与の検討 ご質問の場合は、入院により職務執行ができないことから給与を減額しているが、減額せずに同額を支給し続けたときはどうなるであろうか。 この場合、定期同額給与には当然に該当するが、一方で長期にわたり職務執行ができないとすれば、その支給額が不相当に高額な部分の金額として損金不算入となり得ることも考慮しなければならない(法法34②)。 (了)

#No. 18(掲載号)
#妹尾 明宏
2013/05/09

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第7話】「優良法人の税務調査(その1)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第7話】  「優良法人の税務調査(その1)」  公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「田村上席、ちょっと・・・」 渕崎統括官が田村上席を呼ぶ。 田村上席は、自分の机で、納税者から預かった請求書をチェックしている。 「はい、すぐに行きます」 田村上席は、途中まで見ていた請求書の束を机に置いて、渕崎統括官の席に向かった。 「今度、優良法人の調査に行くから、君も同伴してくれないか?」 渕崎統括官は少し申し訳なさそうに言う。 「統括官が調査に行くのですか?」 田村上席は大きな声で確認する。 「そうだ・・・優良法人で、規模が少し大きいから、君にも手伝ってほしいんだ。まあ、3日ぐらい一緒に会社に行ってもらいたい・・・」 「ええ、それは構いませんが・・・来月の中旬にしていただけると、調査日程が比較的空いていて助かります」 田村上席は、自分の調査スケジュールを思い出しながら伝える。 「そうか・・・それじゃあ会社には、そのように連絡しよう」 渕崎統括官は、大きく頷く。 「・・・しかし、統括官も大変ですね。部下の調査の指示もしなければならないし・・・統括官自身も直接、調査をしなければならないし・・・」 田村上席は、渕崎統括官に同情する。 「まあ、中間管理職は仕方がない。年間2~3件の調査は、統括官もすることになっているからね。今回は優良法人だから、少し気が楽だよ・・・」 渕崎統括官は、少し笑みを浮かべた。 「この会社の調査履歴を読んでも、経理状況は良好で特に大きな問題は過去になかったから、そんなに手間はかからないと思う・・・」 田村上席は、渕崎統括官の机の上に置かれている申告書のファィルを見つめている。 そして、少し不満そうに、渕崎統括官に言った。 「しかし、優良法人に、そんなに調査時間を取らなくても・・・もっと悪質な納税者のところへ調査の時間を割いた方が良いと思うのですが・・・」 「・・・確かに、君の言うとおりかもしれない」 渕崎統括官は軽く頷いた後、自分を納得させるように言った。 「まあ、これも組織の規定だからな・・・」 渕崎統括官と田村上席は、会議室で、会長、その息子である社長、経理担当者の齋藤課長、そして吉田税理士の4人とテーブルを挟んで、会社の概要を聞いている。 「今の社長で、三代目ですよ」 会長は、簡単に会社の設立からの経緯を説明した。 その後、社長は、会社の現況を10分ぐらい説明すると、用事のため退席した。 しばらくして、渕崎統括官が話を切り出した。 「・・・すみませんが、御社の確定申告書を3期分見せてもらえませんか?」 税務署では、納税者から提出された確定申告書は、紛失の恐れがあるということで、署内から持ち出し禁止となっている。したがって、税務調査では、必要の都度、納税者の保管している確定申告書を見せてもらうことになっている。 会議室の隅には、段ボール箱がうずたかく積まれている。 田村上席は、経理担当者の齋藤課長に、直近の総勘定元帳の提出を求めた。 齋藤課長は、片隅に置かれてある一つの段ボール箱を開けて、一冊の分厚い総勘定元帳を取り出した。 田村上席は、段ボール箱の置かれている所まで行って、総勘定元帳を受け取る。 経費項目と給与等の源泉徴収関係は田村上席が調べることに、あらかじめ2人の間で決められていた。 「・・・ところで、会社更生手続で、このL社の債権(社債)を損失に処理していますが、これに関する書類を見せてもらえませんか?」 渕崎統括官は、申告書の内訳書に計上されている雑損失6,000万円の金額について確認をしている。 齋藤課長が、L社の更生計画案のファイル2冊を3階の事務室から持ってきた。 渕崎統括官は、その2冊のファィルを受け取ると、その中味を確認し始めた。そのファイルを何度もめくりながら、その日付を罫紙に記録している。 「・・・11月20日に、裁判所から免除額の通知があったのですよね」 齋藤課長に確認する。 「はい、そこには6,000万円が「免除される金額」として示されています」 「しかし、その後、債権者の合意書を求める書類が、ここにファイルされていますね・・・そして、この債権者の合意書の結果通知がここにありますけど・・・これって、翌年の2月27日となっていますが、これが最終的に、確定の日になるのでは・・・?」 渕崎統括官が尋ねる。なお、会社の決算日は、12月31日である。 「・・・えっ、裁判所からの免除額の通知日が・・・確定日でしょ・・・」 吉田税理士が立ち上がって、渕崎統括官に確認する。 渕崎統括官は黙ったまま、ファィルを見詰めている。 吉田税理士は、渕崎統括官の傍らまで行って、ファィルを覗く。 渕崎統括官は、黄色い附箋を更生計画案に何枚か付け、齋藤課長に、それらのコピーを依頼する。 「・・・・・・」 吉田税理士は、少し青ざめた顔で、渕崎統括官を見詰めた。 (つづく)

#No. 18(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/05/09

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載18〕 海外子会社から受け取る役員退職金の取扱い

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載18〕 海外子会社から受け取る 役員退職金の取扱い   税理士 郭 曙光     1 居住形態と課税範囲 A国に常駐することがなく、月に1週間程度のA国への出張で仕事を行っていたという事実から、甲は、日本の居住者に該当すると推定される。 非居住者であれば、国内源泉所得に対してのみ課税されるが、居住者の場合は、その国内及び国外で生じたすべての所得に対して日本の所得税が課税される。 このため、日本の居住者甲が海外子会社から受け取る500万円の役員退職金については、国内源泉所得に該当するか国外源泉所得に該当するかを問わず、その全額に対して日本の所得税が課税されることとなる。   2 退職所得に該当するのか否か 長年の勤労に対する報償を一時に支払う特性に配慮し、退職金については、総合課税ではなく、「退職所得」として他の所得と区分して分離課税の方法により課税される。 しかし、ご質問のような海外法人から支払われる退職金は、日本の所得税法における「退職所得」に該当するか否かという疑問が生ずる。 この点について、所得税法30条1項(退職所得)では、次のように規定している。 退職したことに基因して一時に支払われる給与は、退職所得に該当するとされてはいるが、日本法人から支払われるものなのか海外法人から支払われるものなのかについては問われていない。このため、ご質問の海外法人から支払われる退職金も日本の所得税における「退職所得」に該当し、課税されることとなる。   3 退職所得の金額と特定役員退職手当等 退職所得については、他の所得と分離して、「退職所得の金額」に所得税の税率を乗じて税額を求めることとされている。 「退職所得の金額」は、その年中の退職手当等の収入金額から、勤務年数に応じて計算された退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とされている(所法30②)。 ただし、平成24年度税制改正により、退職手当等のうち、特定役員退職手当等(注)に該当するものついては、上記の残額の2分の1とする措置が廃止された。平成25年分以後は、特定役員退職手当等に該当する「退職所得の金額」は、特定役員退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額とされた(所法30②括弧書)。 (注) 特定役員退職手当等(所法30④) 特定役員退職手当等とは、退職手当等のうち、役員等としての勤続年数(以下、「役員等勤続年数」という)が5年以下である者が、退職手当等の支払いをする者からこの役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払いを受けるものをいう。 なお、役員等とは、公務員や議員のほか、法人の取締役、執行役、監査役、理事等、法人税法2条15号(定義)に規定する役員を指す。 海外の法人における役職が、必ずしも内国法人における役職と一致するとは限らないが、ご質問の海外子会社A社の社長である甲が、日本の所得税法に規定する役員等に該当することには疑義がないと思われる。 なお、甲がA社社長として勤務した期間は3年5ヶ月間であるため、甲の役員等勤続年数は4年(1年未満の端数は1年に切り上げる)となり、ご質問の役員退職金は「特定役員退職手当等」に該当することとなる。 甲がA社から受け取った500万円の役員退職金に係る所得税額の計算は、以下の通りである。   4 確定申告等 退職手当等を日本国内の勤務先から受け取る場合は、その勤務先により源泉徴収される。退職手当等に係る納税額がそのまま源泉徴収されるのが一般的であるため、通常、課税関係は源泉徴収により終了する(注)。 しかし、日本の所得税の源泉徴収義務のない海外法人A社から支給されるご質問の退職金については、退職金の受給者本人が確定申告をして税額を清算する必要がある。 このため、甲は、翌年(平成26年)の2月16日から3月15日までの間に、「確定申告書B」及び「分離課税用申告書(第三表)」等を提出して確定申告を行う必要がある。 確定申告に当たっては、ご質問の退職金500万円に対して課税されたA国の所得税(外国所得税)がある場合は、一定の控除限度額を限度として、甲の所得税額から控除することができる。このため、外国所得税が課税されたことを証する書類を入手しておく必要がある。 なお、翌年以後4年以内に甲が貴社から退職手当等を受け取る場合の退職所得控除額は、海外子会社A社の勤続期間と貴社の勤続期間が重複している期間(3年。1年未満の端数は切り捨てる)を勤続年数とみなして計算した退職所得控除額を控除した後の金額となる点に留意する必要がある。 (了)

#No. 18(掲載号)
#郭 曙光
2013/05/09
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