長時間労働と労災適用
【第1回】
「労災認定基準の基本的な考え方」
特定社会保険労務士 大東 恵子
近年、うつ病の発症やそれに伴う自殺が増大し、それに伴って労災請求も増大している。
平成9年には41件であった精神障害等に関する労災請求件数はほぼ増加の一途をたどり、平成23年度には1,272件を記録するほどまで大幅に増加し、今後もさらに増加することが見込まれる状況となっている(厚生労働省「平成23年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」まとめ」【P14 表2-1】)。
企業としても、従業員が業務上の理由でうつ病を発症し、また、うつ病により自殺する事態が生じると、労災請求に加え、企業に安全配慮義務違反があるとして、従業員又はその遺族から民事訴訟が提起される可能性がある。
このため、企業としては、こうした事態を未然に防ぐ対策が必要であり、うつ病発症の一因となっている長時間労働に対する対策もその一つとなる。
さて、精神障害を発症した者が、労災認定されるためには、その精神障害が「業務上の疾病」に該当しなければならない。そして、精神障害が「業務上の疾病」といえるためには、以下の要件を満たす必要がある。
(1) 対象疾病を発症していること
(2) 対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められたこと
(3) 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
上記要件のうち、(2)について補足したい。
「認定基準」には、「業務による心理的負荷評価表」があり、この表を判断指標として、業務による心理的な負荷の強度を、「強」「中」「弱」の三段階に区分し、総合評価で「強」と判断される場合には、上記(2)の要件を満たすことになる(「業務による心理的負荷評価表」については、厚生労働省「精神障害の労災認定」P5を参照)。
また、「認定基準」にはついては、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と判断する場合の「出来事」の具体例が示され、その「出来事」の発生の有無や程度を考慮して、総合評価を行うことになっている。
〈総合評価の対象となる「出来事」〉
① 自己や災害の体験
② 仕事の失敗、過重な責任の発生等
③ 仕事の量・質
④ 役割・地位の変化等
⑤ 対人関係
⑥ セクシャルハラスメントやいじめ
(了)
