〔令和3年度税制改正〕
中小企業経営強化税制における
D類型(経営資源集約化設備)の追加
【前編】
税理士 坂井 晴行
1 はじめに
M&Aによる中小企業の経営資源の集約化を図ることを目的に、令和3年度税制改正により中小企業経営強化税制(以下「本税制」という)の対象にD類型(経営資源集約化設備)が追加され、適用期限が2年延長された。
正確に述べると、本税制の対象資産及び手続きに関しては、中小企業等経営強化法に規定されており、中小企業等経営強化法の改正によりD類型が対象資産に追加された。
税務上の取扱いは、従来からあるA・B・C類型と同様に対象資産につき、即時償却又は税額控除の選択適用となり、主務大臣の認定を受けた経営力向上計画の申請書等の写しの添付が要件となる。よって、中小企業等経営強化法に従った手続きをスケジュールに則り申告期限内までに行う必要がある。
本稿では前後編の2回にわたり、新たに追加されたD類型を中心に、①税務面(租税特別措置法)と②手続面(中小企業等経営強化法)から解説していく。
2 税務面(租税特別措置法)
(1) 内容
青色申告書を提出する中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定(強化法17①)を受けた中小企業者等が平成29年4月1日から令和5年3月31日までの期間内に、認定を受けた経営力向上計画に基づき新品の特定経営力向上設備等を取得又は製作若しくは建設して、国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、即時償却又は取得価額の7%(一定の法人は、10%)相当額の税額控除の選択適用ができる(措法42の12の4①②)。
(2) 対象者「中小企業者等」
適用対象者となる「中小企業者等」とは、次の法人等のうち、中小企業等経営強化法の認定を受けた「特定事業者等」(※)に該当するものをいう(措法42の4⑧七、八、強化法2⑥)。
(※) 「特定事業者等」とは、「経営力向上計画」を提出できる事業者で、常時使用する従業員数が2,000人以下の法人又は個人、協同組合等、医療法人等、社会福祉法人、特定非営利活動法人が該当する(詳細については【後編】の3の(1)参照)。
① 資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
ただし、次の法人は、資本金の額が1億円以下でも本税制の対象とはならない。
(ⅰ) 同一の大規模法人(資本金若しくは出資金の額が1億円超の法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人超の法人又は大法人(資本金又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間に当該大法人による完全支配関係がある法人等をいい、中小企業投資育成株式会社を除く)から2分の1以上の出資を受ける法人
(ⅱ) 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
(ⅲ) 前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人
② 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
③ 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
④ 協同組合等
(3) 対象資産「特定経営力向上設備等」
中小企業等経営強化法に規定する「経営力向上設備等」のうち、政令で定める一定の取得価額以上のものが「特定経営力向上設備等」として対象となる(詳しくは【後編】の3の(2)参照)。
特定経営力向上設備等に該当するものであることを証するために、確定申告書に経営力向上計画の写し及び経営力向上計画に係る認定書の写しを添付しなければならない(措令27の12の4②③⑤、措規20の9①②、強化規16②)。
(4) 指定事業
この制度の適用対象となる指定事業は、次に掲げる事業をいう(措法42の6①)。
製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、採石業、砂利採取業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(注3)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、損害保険代理業、不動産業、情報通信業、駐車場業、物品賃貸業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、教育、学習支援業、医療、福祉業、協同組合(他に分類されないもの)、サービス業(他に分類されないもの)
(注1) 電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)等は対象外。
(注2) 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条5項に規定する性風俗関連特殊営業に該当するものを除く。
(注3) 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する飲食店業は、生活衛生同業組合の組合員が営むもののみが指定事業。
法人の営む事業が指定事業に該当するかどうかは、当該法人が主たる事業としてその事業を営んでいるかどうかを問わない。指定事業は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する(措基通42の12の4-6)。
(5) 特別償却
特別償却限度額は、取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額とされ、普通償却限度額と併せその取得価額の全額を償却(即時償却)することができる。
なお、所有権移転外リース取引により取得した特定経営力向上設備等については、特別償却を適用することはできず、税額控除のみ適用を受けることができる(措法42の12の4①⑥)。
(6) 特別償却不足額の1年間の繰越
特別償却限度額まで償却費を計上しなかった場合に生じる特別償却不足額は、1年間繰り越すことができる(措法52の2)。
(7) 税額控除
税額控除限度額は、特定経営力向上設備等の取得価額の7%相当額(中小企業者等のうち、資本金又は出資金の額が3,000万円以下の法人は10%)となる。
ただし、その税額控除限度額がその事業年度の法人税額の20%相当額を超える場合には、控除を受ける金額は、その20%相当額が限度となる。
なお、租税特別措置法42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)の税額控除額及び繰越税額控除限度超過額の金額がある場合には、その20%相当額からこれらの金額の合計額を控除した残額が限度となる(措法42の12の4②)。
(8) 繰越税額控除限度超過額の1年間の繰越
税額控除限度額がその事業年度の法人税額の20%相当額を超えるために、その事業年度において税額控除限度額の全部を控除しきれなかった場合には、その控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)について1年間繰り越すことができる(措法42の12の4③④)。
(9) 留意点
以下、税務面に係る主な留意点についてまとめたので参考とされたい。
① 同一資産について特別償却と税額控除の重複適用は認められない(措法42の12の4②)。
② この制度による特別償却又は税額控除の適用を受ける資産は、租税特別措置法上の圧縮記帳、他の制度による特別償却又は他の税額控除の規定の重複適用は認められない(措法53)。
③ 租税特別措置法上の圧縮記帳との併用はできないが、法人税法上の圧縮記帳との併用は可能であるため、国庫補助金等により対象資産を取得した場合には、法人税法42条(国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)の圧縮記帳と本税制の適用が可能となる。
 この場合の取得価額は、本来の取得価額から圧縮による損金算入額を控除した金額となる。補助金の交付年度が翌事業年度になる場合においては、本来の取得価額から予定交付額を差し引いた金額となる。
 圧縮記帳をした特定経営力向上設備等の取得価額の判定も圧縮後の金額に基づいて判定することとなる(措基通42の12の4-9、42の12の4-5)。
④ 特定経営力向上設備等を指定事業の用に供した日を含む事業年度後の事業年度において当該特定経営力向上設備等の対価の額につき値引きがあった場合には、供用年度に遡って税額控除限度額の修正を行う必要がある(措基通42の12の4-10)。
* * *
次回は手続面(中小企業等経営強化法)を中心に解説を行う。
〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措基通・・・租税特別措置法関係通達
強化法・・・中小企業等経営強化法
強化規・・・中小企業等経営強化法施行規則
(例)措法42の12の4①・・・租税特別措置法第42条の12の4第1項
(【後編】に続く)
【後編】は9/30に公開します。
