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能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス
【第1回】
「不動産の権利証を紛失・滅失したとき」
司法書士法人F&Partners
司法書士 北詰 健太郎
〇はじめに
令和6年1月1日に発生した能登半島地震は、被災地に大きな被害をもたらした。報道を通じて被災地の状況を知るにつれ、筆者を含め、多くの国民が心を痛めている。
さまざまな形での復興へ向けた協力が考えられるが、今般、本誌プロフェッションジャーナルとしても被災地の復興に役立つ情報発信を行っていきたい旨の依頼を編集部より受け、寄稿を行うことになった。
今回の寄稿では、震災に関連して生じうる法務上の問題について、参考になる情報をコンパクトにまとめて紹介する。
被災者の方々には心よりお見舞い申し上げるとともに、本稿が少しでも復興の役に立つことを祈りながら筆を執るものである。
1 不動産の権利証を紛失しても所有権が失われるわけではない
筆者の過去の経験上、大きな自然災害が発生した際には、家屋の倒壊や火災の発生を原因として、不動産の権利証を紛失・滅失してしまったという相談を寄せられることがある。令和6年能登半島地震でも、多くの家屋に損害が出ており、同様の相談が寄せられる可能性がある。
まず本稿の読者の方々へ理解していただきたいのは、仮に自宅の権利証を紛失・滅失してしまっても、直ちに問題が生じるものではないということである。
所有する不動産の土地建物について、しっかりと登記申請を行っていれば、登記簿に「所有者」として明記されており、権利は保護されている状態にある。
つまり、権利証を紛失・滅失しても、それだけで所有権が失われてしまうものではない。
2 不動産の権利証を紛失して困るケースと対処法
そもそも不動産の権利証とは、正式には「登記識別情報」又は「登記済証」といい、所有権移転登記や抵当権設定登記が申請された場合に、所有権を取得した者や抵当権者に対して法務局が発行する。
不動産の権利証が必要になるのは、不動産の所有者が売却を行う場合(記載例①)や、抵当権者が担保を抹消する場合(記載例②)など、権利証を持つ者が「登記義務者」として登記申請に関与する場合である。
【記載例①:登記記録「甲区」】
【記載例②:登記記録「乙区」(抵当権設定の登記記録)】
すなわち、これらの登記申請を行う場合に、登記義務者から権利証を添付書面の1つとして提出させることにより、所有者や抵当権者が本当に登記申請に関与したかを確認する本人確認の資料としているのである。
もし、権利証を失くしていれば、登記申請に必要となる添付書面が提出できないことになり、登記申請の障害となる恐れがあるが、代替手段が用意されている。それは主に「事前通知制度」と「本人確認情報」である(不動産登記法23条)。
事前通知制度とは、権利証が提供できない場合に、法務局が登記義務者に対して、登記申請がなされた旨等の通知を行い、登記義務者から登記申請の内容に間違いがない旨の届出があった場合には、権利証の提出がなくとも登記を行う制度である。
また、本人確認情報とは、司法書士等が登記義務者に対して本人確認を行い、本人に間違いない旨を証明する書面を作成し、権利証の代わりとする制度である。
権利証は大切な書類ではあるが、紛失・滅失した場合のリスクを正しく理解し、対処することが重要である。
(了)
「能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス」は、不定期の掲載となります。