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能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス
【第2回】
「被災により納品ができない場合における不可抗力条項の活用(1)」
~契約書に記載がない場合の対応~
弁護士法人飛翔法律事務所
弁護士 濱永 健太
〇はじめに
令和6年1⽉1⽇に発⽣した能登半島地震によって現地では甚大な被害が生じ、未だに生活するにも苦労を強いられており、また、事業活動においても従前のような活動が再開できていない事業者も多い。
例えば、事業者が製造メーカーであり、既に取引先から製品の発注を受けていたとしても、今回の地震によって事業所や生産設備、在庫商品などが毀損し、また、役員及び従業員の方も被災されて避難生活を余儀なくされている状況においては、物理的な面だけでなく、人的な面でも生産活動が困難な状況と言える。さらには、流通経路自体も十分に復旧されておらず、材料が入っていないことによって生産を行いたくても行えない状態が続いている事業者も多いかと思われる。
このような場合、受注に際して取り決められていた納期を遵守することが難しくなるところ、発注者側が任意に納期の変更や義務の免除を認めてくれる場合もあるが、発注者がこれらを承諾しない場合に受注者として検討すべきものが契約書の不可抗力条項である。
本連載では、2回にわたって不可抗力条項の基本的な理解や活用しやすい不可抗力条項への見直しに関するアドバイスを行いたい。
1 不可抗力条項とは
「不可抗力」とは、人の力による支配・統制を観念することができる事象か否かを基準として、外部から生じた要因であり、かつ防止のために相当の注意をしても防止し得ない事由を言うとされている。
簡単に言えば、人の力ではコントロールができない事象が生じ、事業者が相当の注意をしても避けられないようなケースである。
一般的な契約書においては、下記のような条項が設けられている場合が多いかと思われる。
〈一般的な不可抗力条項〉
第〇条(不可抗力)
地震、津波、暴風雨、洪水、戦争、暴動、内乱、反乱、革命、テロ、大規模火災、ストライキ、ロックアウト、法令の制定・改廃、その他の当事者の合理的支配を超えた偶発的事象(以下「不可抗力」という。)による本契約の全部または一部の履行遅滞または履行不能については、売主は責任を負わない。
数年前には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって生産ができない場合に、契約書の不可抗力条項を用いて免責されるか否かが大きな議論になったが、今回の能登半島地震が上記の条項に列挙されたもののうち「地震」に該当することは明らかである。
そうすると、当該不可抗力条項をそのまま見れば、地震によって納品が不可能ないし遅れが生じるような場合には一律に責任を負わないとの結論になりそうである。
しかしながら、上記の通り、不可抗力はコントロールできない事象が生じたことに加えて、防止のために相当の注意を払っても防止できないものであるとされているところ、例えば、予測不可能な地震によって壊滅的な被害を受けた上で、事業所は被災地にしかなく、従業員も被災している状況の中では基本的には不可抗力条項によって免責が認められるものと思われる。
他方、会社内の別の事業所が被災地以外にあり、その事業所では生産が可能な場合や、被災地以外にある別の協力業者に臨時で委託することで対応が可能な場合のように、代替措置を採ることができるようなケースでは、そのような代替措置の有無や容易性、それを選択する現実的な可能性を考慮しながら、免責を認めるべきか否かが判断されることになる点は注意が必要である。
なお、代金を支払うべき債務(金銭債務)については、法律上、不可抗力による免責を受けられないものとされており(民法419条3項)、その旨を確認する条項が規定されている場合も多い。これは金銭については流通性が高いため、他からの調達が十分に可能であり、不可抗力があっても履行が行われるべきとの考え方があるからである。
2 不可抗力条項がない場合の対応
契約書に不可抗力条項がない場合において、受注者が納期遅延等の責任を負うか否かについては、債務不履行に関して債務者の帰責事由がないこと(民法415条1項但書)、危険負担の考え方(民法536条)、あるいは事情変更の原則による免責を検討することになる。
まず、帰責事由に関しては、不可抗力の概念と非常に共通する部分が多く、上記で述べた通り、相当の注意を払っても避けられなかった場合には帰責事由がないことを理由に免責される場合が多いであろう。しかしながら、免責されるためには受注者にて自身に帰責事由がないことを立証する必要があるが、どのような場合に帰責事由がないと言えるのかの判断については、具合的な事由が明確に列挙された不可抗力条項がある場合に比べて困難な場合がありうる。
また、地震などのようなケースでは双方に帰責事由がない場合も多いと思われるが、その場合には危険負担(民法536条1項)によって事実上の免責を得られる可能性はある。つまり、現在の危険負担は双方に帰責事由がない状態で受注者が履行できない場合、発注者側は代金の支払を拒否できるというものである。これによれば、双方の債務自体は当然には消滅しないものの、受注者側は債務不履行責任を負わず、かつ、発注者側も支払義務を負わないので、免責を受けるのと同様の状態となる。ただし、受注者において帰責事由がないことを立証する必要があることは上記と同様である。
最後に、予見できない重大な事象が生じたことで契約をそのまま維持するのが不合理であることを理由に契約内容の変更を求める事情変更の原則については、裁判所もこれを認めることに非常に消極的であるため、これをもとにした免責の主張は現実的でないと言える。
* * *
次回は、不可抗力条項による契約解除と活用しやすい不可抗力条項に見直すための方法について述べたい。
(了)
「能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス」は、不定期の掲載となります。