従業員用の借上げ社宅①
~従業員社宅制度の基本と税務上のメリット~
公認会計士・税理士 桝井 康弘
◇◆◇連載開始にあたって◇◆◇
法人が従業員や役員に社宅を貸与する際の税務処理は、多くの実務家が直面する重要なテーマです。適切な家賃設定を行わなければ、給与認定による源泉徴収漏れや追徴課税といった重大なリスクを招く可能性があります。
本連載では、社宅制度における税務上の取扱いやその周辺知識を体系的に解説してまいります。従業員と役員では課税上の扱いが大きく異なり、福利厚生費として処理できるか、給与課税されるかの分岐点を正確に理解することが不可欠です。
特に役員社宅については、裁判例や税務通達における判断基準が複雑で、実務上も判断を誤りやすい論点といえます。税務調査でも着目されやすい項目であることから、国税庁の見解(タックスアンサー・質疑応答事例)や裁判例を交えながら、実務的な対応策や判断のポイントを丁寧に紹介していきます。
〇社宅制度の導入の相談
サトウ社長:
タカイ先生、お世話になります。
今日は社宅について相談があって伺いました。
タカイ税理士:
お待ちしていましたサトウ社長。
社宅ですか・・・やはり採用対策でしょうか?
サトウ社長:
さすが、お見通しですね。実は来春、新卒を6名も採用する予定なんです。
最近の学生は住宅費をすごく気にするみたいで。
住宅手当を出そうかと思っていたんですが、知人の経営者から『社宅の方が断然いいよ』と聞きまして。税務上有利だとか。本当なんでしょうか?
タカイ税理士:
ええ、その方の言う通りです。
借上げ社宅なら、住宅手当と比べて大幅な節税が可能ですよ。
まず基本的な仕組みから説明しましょうか。
〇課税の仕組み
タカイ税理士:
社宅は税法上、原則として現物給付、つまり経済的利益として課税されます。
ただし、『通常の賃貸料の額(以下、「賃貸料相当額」とします。)の50%以上』を従業員から徴収すれば、課税されません(所基通36-41、36-47)。
サトウ社長:
賃貸料相当額・・・ですか。実際の家賃のことですよね?
タカイ税理士:
いえいえ、そこがポイントなんです。
税法上の『賃貸料相当額』は、実際の家賃相場より大幅に低く設定されているんですよ。
サトウ社長:
えっ、低いんですか?
それはどうしてですか?
タカイ税理士:
昭和26年の地代家賃統制令の計算式に準じているからなんです。
古い基準がそのまま残っているわけですね。
サトウ社長:
昭和26年! ずいぶん昔の基準なんですね。
ということは・・・かなり有利な計算になるということでしょうか。
タカイ税理士:
その通りです。では具体的な計算式をお見せしましょう。
賃貸料相当額 = ①+②+③
① その年度の家屋の固定資産税課税標準額 × 0.2%
② 12円 × その建物の総床面積 ÷ 3.3(㎡)
③ その年度の敷地の固定資産税課税標準額 × 0.22%
サトウ社長:
うーん・・・正直パッと見ただけではピンときませんね。
タカイ税理士:
そうですよね。数式だけ見てもイメージしにくいと思います。
実際の物件で計算してみましょうか。
〇具体的なシミュレーション
タカイ税理士:
では、こんな物件を例にしてみます。
【物件情報】
- 家賃:70,000円(共益費込み)
- 賃貸面積:48.65㎡
- 登記床面積:667.59㎡
- 構造:鉄筋コンクリート造5階建(2階の1室を賃貸)
- 建物固定資産税課税標準額:56,460,858円
- 土地固定資産税課税標準額:8,931,798円
タカイ税理士:
これを先ほどの式に当てはめると・・・
① 56,460,858円 × 0.2% = 112,922円
② 12円 × 667.59÷3.3 = 2,428円
③ 8,931,798円 × 0.22% = 19,650円
合計:135,000円
床面積按分:135,000円 × 48.65÷667.59 = 9,838円
サトウ社長:
ちょっと待ってください。
月額9,838円? 家賃7万円の物件ですよね?
タカイ税理士:
ええ、そうです。驚かれるのも無理はありません。
サトウ社長:
いや、これは驚きますよ。
だって7万円の物件が1万円以下の評価になるなんて・・・
タカイ税理士:
つまり、従業員から50%の4,919円以上を徴収すれば課税されないわけです(所基通36-47)。
仮に5,000円徴収すれば、従業員は7万円の物件に月5,000円で住めることになります。
サトウ社長:
従業員にとってはありがたい話ですね。
でも会社としては、実際に7万円払うわけですから・・・住宅手当と比べると、どうなんでしょう?
〇経済効果の比較
タカイ税理士:
いい質問ですね。では7万円の物件に住む場合を比較してみましょう。
【住宅手当の場合】
- 住宅手当:65,000円(給与所得として課税)
- 所得税・住民税:約20%として13,000円
- 従業員の手取り:52,000円
- 家賃70,000円を支払うため、従業員は自己資金から18,000円を追加
- 従業員の実質負担:18,000円
【借上げ社宅の場合】
- 従業員負担:5,000円
- 会社負担:65,000円
- 従業員の実質負担:5,000円
サトウ社長:
実質の負担額が13,000円も違う!
月額でこれだけ違うなら、年間にすると・・・
タカイ税理士:
156,000円の差になりますね。
新卒社員にとっては相当大きい金額でしょう。
サトウ社長:
これは確かに採用の武器になりますね。
でも会社側としては、65,000円出すのは同じですよね?
会社にもメリットがあるんでしょうか。
タカイ税理士:
敷金・礼金・仲介手数料も損金算入できます。
入社や退社及び転勤にあたり社宅に引っ越す場合、その引っ越し費用についても損金算入できるんです(所法9①四)。
サトウ社長:
新しく社宅制度を導入した場合、新入社員以外で社宅に入ることになる社員の引越費用は会社で面倒見てあげられるのでしょうか。
タカイ税理士:
面倒は見てあげられるのですが、現物給与として課税されることになると思います。
サトウ社長:
転勤の場合と何が違うのでしょうか。
タカイ税理士:
転勤の場合は、会社の都合で社員が引っ越しを余儀なくされますので、引越費用は実費弁償的な考え方で会社が負担できます。
一方、現状自宅から通勤している社員については、業務上転居する必要性がなければ、個人的な引越費用ということになります。
他にも社宅制度であれば社会保険料が下がったりもしますよ。
サトウ社長:
なるほど。住宅手当だと給与扱いだから社会保険料も高くなるけど、社宅なら・・・
タカイ税理士:
その通りです。ただし、社会保険料については少し注意が必要なんです。
(次回に続く)
《今回のまとめ》
◆社宅制度の基本的な仕組み
- 税法上の「賃貸料相当額」の50%以上を従業員から徴収すれば課税されない
- 賃貸料相当額は昭和26年の地代家賃統制令に準じた計算式を使用するため、実際の家賃相場より大幅に低くなる
◆住宅手当との比較
- 住宅手当:給与課税されるため所得税・住民税が発生し、従業員の手取りが減少
- 借上げ社宅:課税されないため、従業員の実質的な手取りが大きく増加
◆会社側のメリット
- 敷金・礼金・仲介手数料も損金算入可能
- 転勤に伴う引越費用も損金算入可能
- 社会保険料の軽減効果もある(詳細は次回)
「税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識」は、毎月第3週に掲載されます。




















