弁護士の必要経費訴訟からみた
「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察
税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝
はじめに
必要経費とは、所得を得るために必要な支出のことである、と定義される。
所得税は、「収入」からそれを得るために支出した「必要経費」を控除した金額である「所得」に対して課税されるため、必要経費に該当するか否かを争点に、課税当局と納税者との意見の食い違いは絶えない。
本稿では、弁護士の必要経費認定をめぐって争われた一連の訴訟(第1審:東京地裁平成23年8月9日判決、控訴審:東京高裁平成24年9月19日判決、上告受理申立事件:最高裁判所第二小法廷平成26年1月17日決定)を基に、士業を中心とする個人事業者の必要経費について、再考することを目的とする。
なお、引用した判決以外の意見に関わる記述は、筆者の個人的見解であることにご留意いただきたい。
【現行規定の確認】
はじめに、必要経費に関連する所得税法の規定を確認しておきたい。
所得税法第37条《必要経費》 ※一部抜粋
第1項
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。
これをまとめると、必要経費となるのは、
① 売上原価その他収入を得るために直接要した費用の額
② 販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額
であり、②の「その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額」の範囲をめぐって、これまでも多くの訴訟が提起されてきた。
過去の判決では、本件第1審判決同様、「事業所得を生ずべき業務との直接関連性」と「業務遂行上の必要性」を要件として、法律上明文規定のない「直接関連性」がないことを理由に、必要経費であるとの納税者の主張を否定してきた。
学説としても、金子宏名誉教授が論じられた、「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが事業所得と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用でなければならない。」(金子宏『租税法(第18版)』264ページ)というのが一般的な理解であった。
しかし、引用した所得税法からもわかるように、業務との「直接」関連性については、法律上の明文規定はなく、そこを明らかにしたのが本件控訴審判決であった。
必要経費から除外される支出として、個人課税に特有の費用がもうひとつある。
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