公開日: 2015/04/30 (掲載号:No.117)
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欠損金の繰越控除制度に関する平成27年度税制改正事項 【第1回】「控除限度額と繰越期間の見直し」

筆者: 新名 貴則

欠損金の繰越控除制度に関する

平成27年度税制改正事項

【第1回】

「控除限度額と繰越期間の見直し」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成27年度税制改正では、法人税率引下げに伴う代替財源確保のために、欠損金の繰越控除制度について見直しが行われている。本稿では、3月31日に公布された改正税法を踏まえ、改正内容とその影響について確認していく。

 

1 控除限度額の段階的引下げ

青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度における控除限度額について、次のように段階的に引き下げられることとなった。

 平成27年4月1日から平成29年3月31日までに開始する事業年度

 繰越控除前所得の金額の65%相当額(現行80%相当額)

 平成29年4月1日以後に開始する事業年度

 繰越控除前所得の金額の50%相当額

ただし、中小法人等については現行の控除限度額を据え置くこととし、引下げは行われていない。ここで、「中小法人等」とは次の法人のことをいう。

事業年度末の資本金もしくは出資金が1億円以下の普通法人、又は資本もしくは出資を有しない普通法人(資本金等が5億円以上である大法人の100%子法人、及び100%グループ内の複数の大法人に発行済株式等のすべてを保有されている法人を除く)

公益法人等

協同組合等

人格のない社団等

また、法人の規模に関係なく、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において発生する欠損金については、繰越期間が「9年」から「10年」に延長された。

これを受けて、欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存期間も、9年から10年に延長されている(平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金について適用)。

この結果、中小法人等については、平成27年度改正後も控除前所得の全額を控除できることは変わりなく、欠損金の繰越期間が9年から10年に延長されたのみである。

以上をまとめたものが以下の表である。

◆平成27年度税制改正前後における欠損金の繰越控除制度

(※)
平成29年3月31日までに開始する事業年度において発生した欠損金は9年間繰越し可能であり、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において発生した欠損金は10年間繰越し可能であるということを意味する。
例えば、平成27年3月期に発生した欠損金は平成36年3月期まで繰越しが可能であり、平成30年3月期に発生した欠損金は平成40年3月期まで繰越しが可能である。

 

2 事例を用いた検証

平成27年度税制改正後の欠損金の繰越控除について、中小法人等に該当しない場合と該当する場合に分けて、事例によりその影響を検証する。

【事例①】

平成27年3月期決算において欠損金90,000,000円が発生した場合
(中小法人等に該当しない場合)

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
 決算期 年数 (控除前)所得 限度の率 控除限度額 控除額 欠損金残高 H27/3期 (発生) △90,000,000 △90,000,000 H28/3期 1年目 10,000,000 65% 6,500,000 △6,500,000 △83,500,000 H29/3期 2年目 10,000,000 65% 6,500,000 △6,500,000 △77,000,000 H30/3期 3年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △72,000,000 H31/3期 4年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △67,000,000 H32/3期 5年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △62,000,000 H33/3期 6年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △57,000,000 H34/3期 7年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △52,000,000 H35/3期 8年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △47,000,000 H36/3期 9年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 ★ 0

計算上、欠損金が42,000,000円残るが、繰越期限切れであるため切り捨てられる。

中小法人等に該当しないため、平成29年3月期までの控除限度額は控除前所得の65%相当額となり、その後は50%相当額となる。平成27年3月期に発生した欠損金の繰越期間は9年間であるため、平成36年3月期までに控除できなかった欠損金42,000,000円は切り捨てられることになる。

 

【事例②】

平成27年3月期決算において欠損金90,000,000円が発生した場合
(中小法人等に該当する場合)

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
 決算期 年数 (控除前)所得 限度の率 控除限度額 控除額 欠損金残高 H27/3期 (発生) △90,000,000 △90,000,000 H28/3期 1年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △80,000,000 H29/3期 2年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △70,000,000 H30/3期 3年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △60,000,000 H31/3期 4年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △50,000,000 H32/3期 5年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △40,000,000 H33/3期 6年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △30,000,000 H34/3期 7年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △20,000,000 H35/3期 8年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △10,000,000 H36/3期 9年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 ★ 0

欠損金を全額控除できたので、切捨ては発生していない。

中小法人等に該当するため、繰越期間を通して控除限度額は控除前所得の100%相当額となる。平成27年3月期に発生した欠損金の繰越期間は9年間であるため、平成36年3月期までに控除できなかった欠損金は切り捨てられることになるが、この事例では欠損金の全額を控除できたので切捨ては発生していない。

(了)

※次回は5/14(本誌No.119)に掲載されます。

欠損金の繰越控除制度に関する

平成27年度税制改正事項

【第1回】

「控除限度額と繰越期間の見直し」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成27年度税制改正では、法人税率引下げに伴う代替財源確保のために、欠損金の繰越控除制度について見直しが行われている。本稿では、3月31日に公布された改正税法を踏まえ、改正内容とその影響について確認していく。

 

1 控除限度額の段階的引下げ

青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度における控除限度額について、次のように段階的に引き下げられることとなった。

 平成27年4月1日から平成29年3月31日までに開始する事業年度

 繰越控除前所得の金額の65%相当額(現行80%相当額)

 平成29年4月1日以後に開始する事業年度

 繰越控除前所得の金額の50%相当額

ただし、中小法人等については現行の控除限度額を据え置くこととし、引下げは行われていない。ここで、「中小法人等」とは次の法人のことをいう。

事業年度末の資本金もしくは出資金が1億円以下の普通法人、又は資本もしくは出資を有しない普通法人(資本金等が5億円以上である大法人の100%子法人、及び100%グループ内の複数の大法人に発行済株式等のすべてを保有されている法人を除く)

公益法人等

協同組合等

人格のない社団等

また、法人の規模に関係なく、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において発生する欠損金については、繰越期間が「9年」から「10年」に延長された。

これを受けて、欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存期間も、9年から10年に延長されている(平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金について適用)。

この結果、中小法人等については、平成27年度改正後も控除前所得の全額を控除できることは変わりなく、欠損金の繰越期間が9年から10年に延長されたのみである。

以上をまとめたものが以下の表である。

◆平成27年度税制改正前後における欠損金の繰越控除制度

(※)
平成29年3月31日までに開始する事業年度において発生した欠損金は9年間繰越し可能であり、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において発生した欠損金は10年間繰越し可能であるということを意味する。
例えば、平成27年3月期に発生した欠損金は平成36年3月期まで繰越しが可能であり、平成30年3月期に発生した欠損金は平成40年3月期まで繰越しが可能である。

 

2 事例を用いた検証

平成27年度税制改正後の欠損金の繰越控除について、中小法人等に該当しない場合と該当する場合に分けて、事例によりその影響を検証する。

【事例①】

平成27年3月期決算において欠損金90,000,000円が発生した場合
(中小法人等に該当しない場合)

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
 決算期 年数 (控除前)所得 限度の率 控除限度額 控除額 欠損金残高 H27/3期 (発生) △90,000,000 △90,000,000 H28/3期 1年目 10,000,000 65% 6,500,000 △6,500,000 △83,500,000 H29/3期 2年目 10,000,000 65% 6,500,000 △6,500,000 △77,000,000 H30/3期 3年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △72,000,000 H31/3期 4年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △67,000,000 H32/3期 5年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △62,000,000 H33/3期 6年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △57,000,000 H34/3期 7年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △52,000,000 H35/3期 8年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 △47,000,000 H36/3期 9年目 10,000,000 50% 5,000,000 △5,000,000 ★ 0

計算上、欠損金が42,000,000円残るが、繰越期限切れであるため切り捨てられる。

中小法人等に該当しないため、平成29年3月期までの控除限度額は控除前所得の65%相当額となり、その後は50%相当額となる。平成27年3月期に発生した欠損金の繰越期間は9年間であるため、平成36年3月期までに控除できなかった欠損金42,000,000円は切り捨てられることになる。

 

【事例②】

平成27年3月期決算において欠損金90,000,000円が発生した場合
(中小法人等に該当する場合)

※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
 決算期 年数 (控除前)所得 限度の率 控除限度額 控除額 欠損金残高 H27/3期 (発生) △90,000,000 △90,000,000 H28/3期 1年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △80,000,000 H29/3期 2年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △70,000,000 H30/3期 3年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △60,000,000 H31/3期 4年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △50,000,000 H32/3期 5年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △40,000,000 H33/3期 6年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △30,000,000 H34/3期 7年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △20,000,000 H35/3期 8年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 △10,000,000 H36/3期 9年目 10,000,000 100% 10,000,000 △10,000,000 ★ 0

欠損金を全額控除できたので、切捨ては発生していない。

中小法人等に該当するため、繰越期間を通して控除限度額は控除前所得の100%相当額となる。平成27年3月期に発生した欠損金の繰越期間は9年間であるため、平成36年3月期までに控除できなかった欠損金は切り捨てられることになるが、この事例では欠損金の全額を控除できたので切捨ては発生していない。

(了)

※次回は5/14(本誌No.119)に掲載されます。

連載目次

「欠損金の繰越控除制度に関する平成27年度税制改正事項」(全2回)

筆者紹介

新名 貴則

(しんみょう・たかのり)

公認会計士・税理士

京都大学経済学部卒。愛媛県松山市出身。
朝日監査法人(現:有限責任あずさ監査法人)にて、主に会計監査と内部統制構築に従事。
日本マネジメント税理士法人にて、個人商店から上場企業まで幅広く顧問先を担当。またM&Aや監査法人対応などのアドバイスも行う。
平成24年10月1日より新名公認会計士・税理士事務所代表。

【著書】
・『新版 退職金をめぐる税務』(清文社)
・『Q&Aでわかる 監査法人対応のコツ』
・『現場の疑問に答える 税効果会計の基本Q&A』
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』(共著)
・『消費税申告の実務』(共著)
(以上、税務経理協会)

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