公開日: 2022/08/04 (掲載号:No.480)
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令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第1回】

筆者: 足立 好幸

令和4年度税制改正における

『グループ通算制度』改正事項の解説

【第1回】

 

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト
足立 好幸

 

連載の目次はこちら

~はじめに~

令和4年度税制改正では、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるグループ通算制度についても改正が行われている。

この改正については、グループ通算制度が施行される前の最後の手直し(一応できあがったあとで、不完全な部分を直すこと)といえる改正であるが、その中でも、特に、M&Aの障害になると懸念されていた投資簿価修正制度の見直しが行われたことはサプライズといえる。

そこで、本稿では、グループ通算制度に関する改正法令を読み解くことで、その内容と想定される実務への影響を解説したい。

また、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。

 

Ⅰ グループ通算制度改正の概要

令和4年度税制改正では、グループ通算制度の施行に伴い、次の見直しが行われている。

(※) 画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

投資簿価修正制度の見直し グループ通算制度からの離脱時の投資簿価修正について、企業買収時のプレミアム相当額が株式譲渡原価に含まれないという問題がM&Aの障害になることが懸念されていることなどを踏まえ、離脱時に通算子法人株式の帳簿価額とされるその通算子法人の簿価純資産価額にその資産調整勘定等対応金額(プレミアム相当額)を加算することができる措置を講ずる(法令119の3⑥⑦⑧)。 離脱時の時価評価の対象資産の見直し グループ通算制度からの離脱等に伴う資産の時価評価制度について、時価評価資産から除外される資産から帳簿価額1,000万円未満の営業権を除外する(法令131の17③三)。 利子税に相当する通算税効果額の取扱い 益金不算入及び損金不算入の対象となる通算税効果額から、利子税の額に相当する金額として各通算法人間で授受される金額を除外する(法法26④、38③)。 繰越欠損金の切捨て、特定資産譲渡等損失額等の損益通算制限又は損金算入制限に係る支配関係5年継続要件の見直し 共同事業性がない場合等の通算法人の欠損金額の切捨て、共同事業性がない場合等の損益通算の対象となる欠損金額の特例及び通算法人の特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入の適用除外となる要件のうち支配関係5年継続要件(設立日からの支配関係継続要件)について、新設法人の除外規定等について見直しを行う(法令112の2③、131の8①、131の19①)。 外国税額控除の当初申告固定措置及び進行事業年度調整措置に係る改正 税務当局が調査を行った結果、進行事業年度調整措置を適用すべきと認める場合には、通算法人に対し、その調査結果の内容(進行事業年度調整措置を適用すべきと認めた金額及びその理由を含む)を説明し、その説明と異なる申告をした場合は、税額控除不足額相当額又は税額控除超過額相当額に係る固定措置を不適用とするなど、外国税額控除に係る当初申告固定措置について改正を行う(法法69㉑㉜、地方法法12⑪⑱)。 交際費等の損金不算入制度 ① 通算グループ内のいずれかの法人が中小法人等に該当しない場合は定額控除限度額800万円が使えない(措法61の4①②)。 ② 定額控除限度額800万円を通算グループ全体で使用する(措法61の4③)。 ③ それに係る遮断措置の取扱い(全体再計算が必要となる事由を含む)が設けられている(措法61の4③)。 ④ 通算グループ内のいずれかの法人で資本金の額が100億円を超える場合は通算法人のすべてで接待飲食費の損金算入が認められない(措法61の4①)。 欠損金の繰戻還付制度 ① 通算グループ内のいずれかの法人が中小法人等に該当しない場合は欠損金の繰戻還付制度が使えない(措法66の12①)。 ② 他の通算法人が大通算法人に該当する場合には、清算中に終了する事業年度において通算対象外欠損金額のみ繰戻還付の対象となる(措法66の12②)。 租税特別措置の不適用措置の見直し 研究開発税制に係る租税特別措置の不適用措置(通算グループ全体判定)について、通算グループ内のいずれかの法人が「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上」である場合、「継続雇用者給与等支給総額が前年度から1%(通算親法人の事業年度が令和4年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度である場合には、0.5%)以上増加していないこと」に要件が見直される(措法42の13⑤⑦)。

次回以降、適用期限の延長で初めてグループ通算制度の取扱いが明確となった「交際費等の損金不算入制度」とグループ通算制度の実務に大きな影響を与える「投資簿価修正制度の見直し」について詳細を解説することとする。

 

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法通・・・法人税基本通達
地方法法・・・地方法人税法
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措通・・・租税特別措置法関係通達
令4改法令・・・法人税法施行令等の一部を改正する政令(令和4年政令第137号)
令4改法規・・・所得税法施行規則の一部を改正する省令(令和4年財務省令第14号)
(例)法法66⑤二・・・法人税法66条5項2号

(続く)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

令和4年度税制改正における

『グループ通算制度』改正事項の解説

【第1回】

 

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト
足立 好幸

 

連載の目次はこちら

~はじめに~

令和4年度税制改正では、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるグループ通算制度についても改正が行われている。

この改正については、グループ通算制度が施行される前の最後の手直し(一応できあがったあとで、不完全な部分を直すこと)といえる改正であるが、その中でも、特に、M&Aの障害になると懸念されていた投資簿価修正制度の見直しが行われたことはサプライズといえる。

そこで、本稿では、グループ通算制度に関する改正法令を読み解くことで、その内容と想定される実務への影響を解説したい。

また、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。

 

Ⅰ グループ通算制度改正の概要

令和4年度税制改正では、グループ通算制度の施行に伴い、次の見直しが行われている。

(※) 画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

投資簿価修正制度の見直し グループ通算制度からの離脱時の投資簿価修正について、企業買収時のプレミアム相当額が株式譲渡原価に含まれないという問題がM&Aの障害になることが懸念されていることなどを踏まえ、離脱時に通算子法人株式の帳簿価額とされるその通算子法人の簿価純資産価額にその資産調整勘定等対応金額(プレミアム相当額)を加算することができる措置を講ずる(法令119の3⑥⑦⑧)。 離脱時の時価評価の対象資産の見直し グループ通算制度からの離脱等に伴う資産の時価評価制度について、時価評価資産から除外される資産から帳簿価額1,000万円未満の営業権を除外する(法令131の17③三)。 利子税に相当する通算税効果額の取扱い 益金不算入及び損金不算入の対象となる通算税効果額から、利子税の額に相当する金額として各通算法人間で授受される金額を除外する(法法26④、38③)。 繰越欠損金の切捨て、特定資産譲渡等損失額等の損益通算制限又は損金算入制限に係る支配関係5年継続要件の見直し 共同事業性がない場合等の通算法人の欠損金額の切捨て、共同事業性がない場合等の損益通算の対象となる欠損金額の特例及び通算法人の特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入の適用除外となる要件のうち支配関係5年継続要件(設立日からの支配関係継続要件)について、新設法人の除外規定等について見直しを行う(法令112の2③、131の8①、131の19①)。 外国税額控除の当初申告固定措置及び進行事業年度調整措置に係る改正 税務当局が調査を行った結果、進行事業年度調整措置を適用すべきと認める場合には、通算法人に対し、その調査結果の内容(進行事業年度調整措置を適用すべきと認めた金額及びその理由を含む)を説明し、その説明と異なる申告をした場合は、税額控除不足額相当額又は税額控除超過額相当額に係る固定措置を不適用とするなど、外国税額控除に係る当初申告固定措置について改正を行う(法法69㉑㉜、地方法法12⑪⑱)。 交際費等の損金不算入制度 ① 通算グループ内のいずれかの法人が中小法人等に該当しない場合は定額控除限度額800万円が使えない(措法61の4①②)。 ② 定額控除限度額800万円を通算グループ全体で使用する(措法61の4③)。 ③ それに係る遮断措置の取扱い(全体再計算が必要となる事由を含む)が設けられている(措法61の4③)。 ④ 通算グループ内のいずれかの法人で資本金の額が100億円を超える場合は通算法人のすべてで接待飲食費の損金算入が認められない(措法61の4①)。 欠損金の繰戻還付制度 ① 通算グループ内のいずれかの法人が中小法人等に該当しない場合は欠損金の繰戻還付制度が使えない(措法66の12①)。 ② 他の通算法人が大通算法人に該当する場合には、清算中に終了する事業年度において通算対象外欠損金額のみ繰戻還付の対象となる(措法66の12②)。 租税特別措置の不適用措置の見直し 研究開発税制に係る租税特別措置の不適用措置(通算グループ全体判定)について、通算グループ内のいずれかの法人が「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上」である場合、「継続雇用者給与等支給総額が前年度から1%(通算親法人の事業年度が令和4年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度である場合には、0.5%)以上増加していないこと」に要件が見直される(措法42の13⑤⑦)。

次回以降、適用期限の延長で初めてグループ通算制度の取扱いが明確となった「交際費等の損金不算入制度」とグループ通算制度の実務に大きな影響を与える「投資簿価修正制度の見直し」について詳細を解説することとする。

 

〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法通・・・法人税基本通達
地方法法・・・地方法人税法
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措通・・・租税特別措置法関係通達
令4改法令・・・法人税法施行令等の一部を改正する政令(令和4年政令第137号)
令4改法規・・・所得税法施行規則の一部を改正する省令(令和4年財務省令第14号)
(例)法法66⑤二・・・法人税法66条5項2号

(続く)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 

▷令和7年度税制改正(全8回)

【第1回】 ★無料公開中★

はじめに

Ⅰ 「中小法人等の法人税の軽減税率の特例」の適用除外

1 改正の概要

【第2回】

2 グループ通算制度における取扱い

(1) 通算法人の法人税率

(2) 通算親法人が協同組合等である場合の法人税率

(3) 通算親法人である協同組合等が特定の協同組合等に該当する場合の法人税率

(4) 通算親法人である特定医療法人に対して適用される法人税率

(5) 適用時期

【第3回】

Ⅱ スピンオフ等に伴うグループ通算離脱時の分配割合等の計算の見直し

1 改正の概要

【第4回】

2 グループ通算制度における取扱い

(1) 改正後の分割割合及び分配割合の計算方法

① 分割割合

② 分配割合

③ 調整対象通算法人・修正前帳簿価額・修正帳簿価額の定義

【第5回】

(2) 改正後の分割割合及び分配割合が適用される税務上の取扱い

① 分割の適格要件

② 分割型分割における分割承継法人の税務仕訳

【第6回】

③ 分割型分割における分割法人の税務仕訳

④ 分割法人の株主の税務

⑤ 被株式分配法人の税務仕訳

⑥ 株式分配法人の税務仕訳

(3) 調整対象通算法人(離脱法人)の株式に係る投資簿価修正について

【第7回】

Ⅲ 防衛特別法人税の創設

1 改正の概要

2 グループ通算制度における取扱い

(1) 課税事業年度

(2) 課税標準の基礎になる基準法人税額

(3) 基礎控除額

(4) 特定同族会社の留保税額がある場合の課税標準法人税額の計算

① 課税標準法人税額

② 基礎控除額の計算

③ 基礎控除残額の計算

【第8回】

(5) 基礎控除額の遮断措置

① 基礎控除額の遮断措置

② 基礎控除残額の遮断措置

③ 基礎控除額又は基礎控除残額の全体再計算

④ 期限内申告額の洗替え

(6) 基礎控除額の計算例

(7) 外国税額控除

(8) 申告及び納付等

① 中間申告

② 確定申告

③ 電子申告

④ 一括電子申告

⑤ 一括ダイレクト納付

⑥ 繰戻還付

(9) 適用時期

(10) 通算税効果額

▷令和6年度税制改正(全5回)

【第1回】 ★無料公開中★

はじめに

Ⅰ 研究開発税制の見直し

1 改正の概要

【第2回】

2 グループ通算制度における取扱い

(1) 通算子法人の改正法の適用対象事業年度について

(2) 一般試験研究費の税額控除制度の控除上限率の見直し

【第3回】

Ⅱ 特定税額控除規定の不適用措置の見直し

1 改正の概要

2 グループ通算制度における取扱い

(1) 特定税額控除規定の不適用措置(個社判定)

(2) 通算特定税額控除規定(試験研究費の税額控除規定)の不適用措置(全体判定)

(3) 通算法人の改正法の適用事業年度(対象年度)について

【第4回】

Ⅲ 交際費課税の特例の拡充・延長

(1) 接待飲食費に係る損金算入の特例の対象法人の範囲

(2) 中小法人に係る定額控除限度額の特例の対象法人の範囲

(3) 通算子法人の適用年度

(4) 中小通算法人の定額控除限度額の計算

【第5回】

Ⅳ 戦略分野国内生産促進税制

Ⅴ イノベーションボックス税制

▷令和5年度税制改正(全5回)

【第1回】 ★無料公開中★

はじめに

Ⅰ 研究開発税制の見直し

1 研究開発型スタートアップの定義の見直し

2 試験研究費の範囲の見直し(サービス開発、デザインの設計・試作)

3 高度研究人材の活用を促す措置の創設

【第2回】

4 一般試験研究費の税額控除制度及び中小企業技術基盤強化税制の税額控除率及び控除上限率の見直し

(1) 一般試験研究費に係る税額控除制度(一般型)

【第3回】

(2) 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制)

【第4回】

(3) 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)

【第5回】

Ⅱ 残余財産が確定した通算子法人の確定申告書の提出期限の見直し

▷令和4年度税制改正(全9回)

【第1回】 ★無料公開中★

はじめに

Ⅰ グループ通算制度改正の概要

【第2回】

Ⅱ 交際費等の損金不算入制度

1 交際費等の損金不算入制度(概要)

2 通算法人の区分の判定

(1) 資本金の額等が100億円超の通算法人の判定

(2) 定額控除限度額の特例が適用される通算法人の判定(中小通算法人の判定)

【第3回】

3 中小通算法人の定額控除限度額の計算

(1) 中小通算法人に該当する通算法人の定額控除限度額の計算(下記(2)を除く)

(2) 中小通算法人に該当する中途離脱法人の定額控除限度額の計算

(3) 別表添付要件

(4) 定額控除限度額(通算定額控除限度分配額)の特例と接待飲食費の額の50%の損金算入の選択

4 通算定額控除限度分配額の遮断措置

(1) 通算定額控除限度分配額の遮断措置

(2) 通算定額控除限度分配額の全体再計算

(3) 期限内申告額の洗替え

5 通算定額控除限度分配額の計算例

【第4回】

Ⅲ 投資簿価修正制度の見直し

1 令和4年度税制改正の趣旨・背景

2 投資簿価修正の加算措置の取扱い

(1) 加算措置の対象となる離脱法人

(2) 計算対象となる株式(対象株式)

(3) 加算措置を適用した場合の離脱法人株式の投資簿価修正後の帳簿価額の計算方法

【第5回】

(4) 資産調整勘定等対応金額の計算方法

(5) 時価純資産価額の計算

【第6回】

(6) 資産調整勘定等対応金額を0とする事由

【第7回】

(7) 通算内適格合併又は連結内適格合併をした場合の取扱い

【第8回】

(8) 別表添付及び書類保存要件

【第9回】

3 連結納税制度からグループ通算制度へ移行した場合の投資簿価修正の取扱い

(1) 移行通算子法人の株式に係る投資簿価修正の適用関係

(2) 移行通算子法人の投資簿価修正の加算措置に関する取扱い

筆者紹介

足立 好幸

(あだち・よしゆき)

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト

グループ通算制度・連結納税制度・組織再編税制を専門にグループ企業の税制最適化、企業グループ税制に係る業務を行う。

著書に、『令和6年10月改訂 プロフェッショナル グループ通算制度』『グループ通算制度への移行・採用の有利・不利とシミュレーション』『グループ法人税制Q&A』『M&A・組織再編のスキーム選択』(以上、清文社)、『グループ通算制度の実務Q&A』『グループ通算制度の税効果会計』『早わかり 連結納税制度の見直しQ&A-グループ通算制度の創設で何が変わる?』『ケーススタディでわかる連結納税申告書の作り方』『連結納税の組織再編税制ケーススタディ』『連結納税の清算課税ケーススタディ』『連結納税の欠損金Q&A』『連結納税導入プロジェクト』(以上、中央経済社)など多数。
 

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