取引先企業が倒産したときに対応すべき
税務・会計上の留意事項
【第1回】
「貸倒損失及び貸倒引当金の税務処理」
公認会計士・税理士 新名 貴則
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、世界的に経済が大打撃を受けており、経営状況が悪化する企業が増加している。政府や自治体が様々な給付金等を創設し、企業の救済を図っているが、残念ながら倒産する企業も出ている。
そこで本連載では、このような情勢に応じ、取引先企業が倒産したときに、税務・会計上どのような点に留意すべきかについて解説する。
【第1回】では税務上の留意点について解説する。
1 貸倒損失の計上
取引先企業が倒産し、その企業に対する売掛金等の債権が回収不能となった場合、その損失額を貸倒損失として計上することになる。ただし、税務上貸倒損失として損金算入が認められるためには、厳しい要件が設定されている。
具体的には、税務上、貸倒損失として損金算入が認められるためには、次の3つのいずれかに該当する必要がある。
① 法律上の貸倒れ
次の事実により債権が法的に消滅した場合。
➤更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定により債権が切り捨てられた場合
➤特別清算に係る協定の認可の決定により債権が切り捨てられた場合
➤債権者集会の協議や第三者のあっせんによる当事者間協議の決定により債権が切り捨てられた場合
➤債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、債権が回収できないと認められる場合で、その債務者に対して書面により債務免除を行った場合
② 事実上の貸倒れ
債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合。
③ 形式上の貸倒れ
債務者について次の事実が発生した場合。
➤継続的な取引先との取引を停止した時以後1年以上経過した場合
➤債権の残高が、その取立てに要する旅費その他の費用に満たない場合で、債務者に支払を督促しても弁済がない場合
「① 法律上の貸倒れ」の場合は、損金経理をしているか否かにかかわらず、その事実が発生した事業年度の損金に算入される。
「② 事実上の貸倒れ」の場合は、回収できないことが明らかになった事業年度に、貸倒れとして損金経理をすることで損金算入が認められる。ただし、当該債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないことに注意が必要である。
「③ 形式上の貸倒れ」の場合は、売掛債権(売掛金等のことであって、貸付金等は含まない)について、備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理することで、損金算入が認められる。
2 貸倒引当金の計上
(1) 税務上の貸倒引当金を計上できる法人
取引先企業が経営破綻に陥った場合、税務上、貸倒損失を損金算入することまでは認められなくても、貸倒引当金を計上することができる場合がある。ただし、平成23年12月の税制改正により、税務上の貸倒引当金の計上は次の法人だけに認められている。
- 資本金又は出資金1億円以下の中小法人(資本金又は出資金5億円以上の大法人の100%子法人を除く)
- 資本金又は出資金を有しない普通法人
- 公益法人等又は協同組合等
- 人格のない社団等
- 銀行、保険会社等
- 金融取引に係る金銭債権等を有する法人
資本金1億円超の法人においては、会計上貸倒引当金を計上したとしても、税務上は認められないため、全額否認する必要がある。
(2) 税務上の貸倒引当金の概要
税務上の貸倒引当金には、次の2種類がある。
《個別評価金銭債権に係る貸倒引当金》
回収不能と認められる債権について、個別の状況に応じて貸倒れ見込額を算定。
《一括評価金銭債権に係る貸倒引当金》
個別評価の対象外の金銭債権について、貸倒実績率又は法定繰入率により一括して貸倒れ見込額を算定。
取引先が倒産してしまった場合には、個別評価金銭債権として貸倒引当金を算定することになる。
(3) 個別評価金銭債権の貸倒引当金
税務上、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の計上が認められるためには、次の4つのいずれかに該当する必要がある。これらに該当する場合は、繰入限度額を上限として損金算入が認められる。
① 長期棚上げ債権
次の事実により、翌期首から5年以内に弁済されない部分の金額。
➤更生計画認可の決定
➤再生計画認可の決定
➤特別清算に係る協定認可の決定
➤債権者集会等の協議決定
② 事実上の回収不能債権
次のような理由によって金銭債権の一部が回収不能となった場合の、その一部の金額。
➤債務超過の状態が相当期間(おおむね1年以上)継続し、事業に好転の見通しがないこと
➤災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたこと
③ 形式上の回収不能債権
次の事由が生じている金銭債権(※1)の50%相当額。
➤更生手続開始の申立て
➤再生手続開始の申立て
➤破産手続開始の申立て
➤特別清算開始の申立て
➤手形交換所で取引停止処分を受けたこと
④ 外国の回収不能な公的債権
外国の政府、中央銀行又は地方公共団体に対する金銭債権であり、長期にわたる債務の履行遅滞により経済的な価値が著しく減少し、かつ、弁済を受けることが著しく困難と認められる金銭債権(※2)の50%相当額
(※1) 次の金額を控除する。
・債務者から受け入れた金額があるため、実質的に債権とみられない金額
・担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる金額
(※2) 債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額や、保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を控除する。
一口に倒産と言ってもその意味するところは幅広く、取引先の状況に応じて判断する必要がある。貸倒損失を損金算入できる状況にまで至っている場合は貸倒損失を計上するが、そこまでには至っていなければ、貸倒引当金の計上を検討することになる。
本連載では、取引先が倒産した場合を想定しているので、「④ 外国の回収不能な公的債権」以外のいずれかに該当するか否かを検討することになる。
なお、次回は会計上の留意点について解説する。
(了)
次回は10月29日に掲載します。

