IFRS第16号「リース」の要点と実務への影響
【第1回】
「改訂趣旨と新基準の特徴」
公認会計士 松橋 香里
2016年1月13日に国際会計基準審議会(IASB)からIFRS第16号「リース」が公表された。本基準について、要点を解説する。
はじめに
新基準のもとでは借手について原則として全てのリースがオンバランス処理されるという意味で、現行のIAS第17号及び現行の日本基準とは異なる処理が要求される。
特に、航空機、小売、運輸業など、現行の会計基準でオぺレーティング・リースに分類される資産を多く保有する業界では、財務数値及び実務に与える影響が大きくなることが予想される。
1 改訂の経緯・趣旨
現行のIAS第17号「リース」は、30年以上前に導入された古い基準であり、もはやリース取引の実態を忠実に表さなくなっているとの批判が存在していた。
すなわち、リース契約をファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2つに分類し、どちらに該当するかで異なる会計処理が適用されることが投資家にとっての比較可能性を害すること、特にオペレーティング・リース取引として会計処理がなされた場合、関連するリース資産及びリース負債がオフバランスになり、財務諸表の透明性を害するといった問題点が指摘されていた。
このため、財務諸表の透明性と比較可能性を高めるべく、借手側について現行の会計基準を大きく改訂し、新基準では原則として全てのリースについてオンバランス処理を要求している。具体的には、一定期間にわたり資産を使用する権利を資産として、リース料支払義務を負債として財務諸表に計上する会計処理が求められる。
米国財務会計基準委員会(FASB)と共同で始まった基準の改訂プロジェクトは、2010年8月に最初の公開草案、2013年に改訂公開草案がリリース、さらに内容が一部見直されるなど通常よりも慎重に審議され、2016年1月にようやく完成に至った。
2 新基準の特徴
IAS第17号ではリース取引と売買取引の経済的実質の類似性に着目し、リースを2つに分類する。すなわち、経済的実質が売買と認められる場合には、ファイナンス・リースとして借手にオンバランス処理を要求する。他方、オペレーティング・リースとして分類された場合には、関連する資産・負債が貸借対照表に計上されない。
これに対し、新基準では、資産の使用から得られる経済的便益のほぼ全てを享受し、顧客が資産を自由に使用する権利を有しているか否か、言い換えれば、借手が資産の使用権に対して「支配」を有しているかどうかに焦点を当て、資産の使用に対して支配を有している場合にはリースとしてオンバランス処理を行う点が特徴的である。
3 発効日及び経過措置
本基準は2019年1月1日以降に開始する事業年度から適用される。また、IFRS第15号(顧客との契約から生じる収益)を適用している会社には、早期適用が認められる。
新基準の適用に際しては原則として遡及適用が求められるが、実務上の負担を軽減するために以下が認められる。
- 契約にリースが含まれるかどうかの判断に際し、契約日にまで遡って再評価を行う代わりに、適用日においてIAS第17号による評価をそのまま用いることができる。
- 借手のオンバランス処理にあたり、使用権資産から生じた累積的影響額を適用日(IFRS第16号を最初に適用する会計期間の期首) の資本に反映させる方法を採用することができる。(比較年度の修正再表示は不要)
- 借手のファイナンス・リース、貸手のリースについて、適用日までIAS第17号を採用し続けることができる。
また、初度適用企業に対しては、以下が認められる。
- 契約にリースが含まれるか否かの判断に際し、契約日にまで遡ることなく移行日時点の事実と状況に基づいて判定することができる。
- 借手のオンバランス処理にあたり、使用権資産から生じた累積的影響額を移行日(最初のIFRS財務諸表において、IFRSに基づく完全な比較情報を表示する最初の期間の期首)の資本に反映させる方法を採用することができる。(比較年度の期首から適用)
(了)