公開日: 2014/03/27 (掲載号:No.62)
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弁護士の必要経費訴訟からみた「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察

筆者: 米澤 勝

弁護士の必要経費訴訟からみた

「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

 

はじめに

必要経費とは、所得を得るために必要な支出のことである、と定義される。

所得税は、「収入」からそれを得るために支出した「必要経費」を控除した金額である「所得」に対して課税されるため、必要経費に該当するか否かを争点に、課税当局と納税者との意見の食い違いは絶えない。

本稿では、弁護士の必要経費認定をめぐって争われた一連の訴訟(第1審:東京地裁平成23年8月9日判決、控訴審:東京高裁平成24年9月19日判決、上告受理申立事件:最高裁判所第二小法廷平成26年1月17日決定)を基に、士業を中心とする個人事業者の必要経費について、再考することを目的とする。
なお、引用した判決以外の意見に関わる記述は、筆者の個人的見解であることにご留意いただきたい。

【現行規定の確認】

はじめに、必要経費に関連する所得税法の規定を確認しておきたい。

所得税法第37条《必要経費》 ※一部抜粋
第1項
 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。

これをまとめると、必要経費となるのは、

 売上原価その他収入を得るために直接要した費用の額

 販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額

であり、「その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額」の範囲をめぐって、これまでも多くの訴訟が提起されてきた。

過去の判決では、本件第1審判決同様、「事業所得を生ずべき業務との直接関連性」と「業務遂行上の必要性」を要件として、法律上明文規定のない「直接関連性」がないことを理由に、必要経費であるとの納税者の主張を否定してきた。

学説としても、金子宏名誉教授が論じられた、「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが事業所得と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用でなければならない。」(金子宏『租税法(第18版)』264ページ)というのが一般的な理解であった。

しかし、引用した所得税法からもわかるように、業務との「直接」関連性については、法律上の明文規定はなく、そこを明らかにしたのが本件控訴審判決であった。

必要経費から除外される支出として、個人課税に特有の費用がもうひとつある。

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弁護士の必要経費訴訟からみた

「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

 

はじめに

必要経費とは、所得を得るために必要な支出のことである、と定義される。

所得税は、「収入」からそれを得るために支出した「必要経費」を控除した金額である「所得」に対して課税されるため、必要経費に該当するか否かを争点に、課税当局と納税者との意見の食い違いは絶えない。

本稿では、弁護士の必要経費認定をめぐって争われた一連の訴訟(第1審:東京地裁平成23年8月9日判決、控訴審:東京高裁平成24年9月19日判決、上告受理申立事件:最高裁判所第二小法廷平成26年1月17日決定)を基に、士業を中心とする個人事業者の必要経費について、再考することを目的とする。
なお、引用した判決以外の意見に関わる記述は、筆者の個人的見解であることにご留意いただきたい。

【現行規定の確認】

はじめに、必要経費に関連する所得税法の規定を確認しておきたい。

所得税法第37条《必要経費》 ※一部抜粋
第1項
 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。

これをまとめると、必要経費となるのは、

 売上原価その他収入を得るために直接要した費用の額

 販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額

であり、「その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額」の範囲をめぐって、これまでも多くの訴訟が提起されてきた。

過去の判決では、本件第1審判決同様、「事業所得を生ずべき業務との直接関連性」と「業務遂行上の必要性」を要件として、法律上明文規定のない「直接関連性」がないことを理由に、必要経費であるとの納税者の主張を否定してきた。

学説としても、金子宏名誉教授が論じられた、「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが事業所得と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用でなければならない。」(金子宏『租税法(第18版)』264ページ)というのが一般的な理解であった。

しかし、引用した所得税法からもわかるように、業務との「直接」関連性については、法律上の明文規定はなく、そこを明らかにしたのが本件控訴審判決であった。

必要経費から除外される支出として、個人課税に特有の費用がもうひとつある。

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筆者紹介

米澤 勝

(よねざわ・まさる)

税理士・公認不正検査士(CFE)

1997年12月 税理士試験合格
1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

【著書】

・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

【寄稿】

・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

【セミナー・講演等】

一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
「会計不正の早期発見
――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

公益財団法人日本監査役協会主催
情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

株式会社プロフェッションネットワーク主催
「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

 

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