公開日: 2013/02/07 (掲載号:No.5)
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〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第1回】「雇用契約書作成のメリットと明示事項」

筆者: 真下 俊明

〔形態別〕雇用契約書の作り方

【第1回】

「雇用契約書作成のメリットと明示事項」

 

社会保険労務士 真下 俊明

 

雇用契約書を作成する義務

本連載において、形態別の雇用契約書の作り方に入る前に、雇用契約書について確認しておきたい。

雇用契約とは、労働者が役務を提供し、使用者がそれに対して賃金を支払うことを意味する。雇用契約自体は、労働者と使用者の合意があれば口頭でも成立し、書面による契約締結が義務付けられているわけではない。
実際に多くの企業では、書面を作成せず雇用しているケースが見受けられるのも事実である。

しかし、労働基準法では、雇用契約の締結に際して、労働条件を書面で明示することを義務付けている。

◇労働基準法第15条(労働条件の明示)◇
 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

 

雇用契約書を作成するメリット

法的に作らなければいけない雇用契約書ではあるが、主に以下のようなメリットもあるため、義務だから仕方なく作るのではなく、前向きに捉え、必ず取り交わしていただきたい。

① 労働者と使用者との「思い違い」がなくなり、トラブル防止になる

② 仮にトラブルが起きた際、契約者が証拠になり、紛争解決につながる

③ 労働者も署名押印することで「契約を守ろう」という自覚が生まれる

④ 使用者としても、労務管理に対する意識が高まる

⑤ しっかりした労務管理を行っている会社であることを入社時点で示すことができる

⑥ 労働者に対し期待することが明確に伝えられる

特に、上記⑥については、次に記す「法的に明示しなければいけない事項」以外の、会社から本人に求めること(期待)になるので、雇用契約書を両者のベクトルを合わせるツールとして、積極的に活用することをお勧めする。

※労働条件通知書との違い
労働条件を明示する書面として、「労働条件通知書」がある。
労働基準法は、書面の様式については指定していないので、労働条件通知書による明示も適法である。しかし、両者が押印し持ち合うという点で違いがあり(労働条件通知書は労働者の押印なし)、上記のメリットを考えても、雇用契約書の方がベターと考える。

 

雇用契約書に明示しなければいけない事項

絶対的明示事項(必ず明示しなければならない事項)

  *「昇給に関する事項」以外は書面の交付が義務
  • 雇用契約期間の有無(期間を定める場合は原則3年まで)
  • 就業場所、及び従事する業務の内容
  • 始業・終業時刻と休憩時間、所定休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無(交替勤務の場合は就業時転換に関する事項)
  • 賃金の決定・計算・支払いの方法、及び締切日と支払日
  • 退職に関する事項(解雇事由含む)
  • 昇給に関する事項

相対的明示事項(定めをした場合に明示しなければならない事項)

  • 退職手当(労働者の範囲、決定方法など)
  • 臨時に支払われる賃金・賞与など
  • 労働者に負担させる食費・作業用品などに関する事項
  • 安全衛生・職業訓練・災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰・制裁・休職・に関する事項

さらに、有期雇用契約の場合は「契約更新の有無」等の明示も必要であり、パートタイム社員については「昇給の有無」等も書面で明示しなければならない。

上記の「明示すべき事項」に漏れがないかをチェックして契約書を2通作成し、雇入れ日前までに、労働者にも署名押印してもらい、労使双方で1通ずつ保管することになる。

次回は「正社員の雇用契約書」の作り方について解説する。

(了)

〔形態別〕雇用契約書の作り方

【第1回】

「雇用契約書作成のメリットと明示事項」

 

社会保険労務士 真下 俊明

 

雇用契約書を作成する義務

本連載において、形態別の雇用契約書の作り方に入る前に、雇用契約書について確認しておきたい。

雇用契約とは、労働者が役務を提供し、使用者がそれに対して賃金を支払うことを意味する。雇用契約自体は、労働者と使用者の合意があれば口頭でも成立し、書面による契約締結が義務付けられているわけではない。
実際に多くの企業では、書面を作成せず雇用しているケースが見受けられるのも事実である。

しかし、労働基準法では、雇用契約の締結に際して、労働条件を書面で明示することを義務付けている。

◇労働基準法第15条(労働条件の明示)◇
 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

 

雇用契約書を作成するメリット

法的に作らなければいけない雇用契約書ではあるが、主に以下のようなメリットもあるため、義務だから仕方なく作るのではなく、前向きに捉え、必ず取り交わしていただきたい。

① 労働者と使用者との「思い違い」がなくなり、トラブル防止になる

② 仮にトラブルが起きた際、契約者が証拠になり、紛争解決につながる

③ 労働者も署名押印することで「契約を守ろう」という自覚が生まれる

④ 使用者としても、労務管理に対する意識が高まる

⑤ しっかりした労務管理を行っている会社であることを入社時点で示すことができる

⑥ 労働者に対し期待することが明確に伝えられる

特に、上記⑥については、次に記す「法的に明示しなければいけない事項」以外の、会社から本人に求めること(期待)になるので、雇用契約書を両者のベクトルを合わせるツールとして、積極的に活用することをお勧めする。

※労働条件通知書との違い
労働条件を明示する書面として、「労働条件通知書」がある。
労働基準法は、書面の様式については指定していないので、労働条件通知書による明示も適法である。しかし、両者が押印し持ち合うという点で違いがあり(労働条件通知書は労働者の押印なし)、上記のメリットを考えても、雇用契約書の方がベターと考える。

 

雇用契約書に明示しなければいけない事項

絶対的明示事項(必ず明示しなければならない事項)

  *「昇給に関する事項」以外は書面の交付が義務
  • 雇用契約期間の有無(期間を定める場合は原則3年まで)
  • 就業場所、及び従事する業務の内容
  • 始業・終業時刻と休憩時間、所定休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無(交替勤務の場合は就業時転換に関する事項)
  • 賃金の決定・計算・支払いの方法、及び締切日と支払日
  • 退職に関する事項(解雇事由含む)
  • 昇給に関する事項

相対的明示事項(定めをした場合に明示しなければならない事項)

  • 退職手当(労働者の範囲、決定方法など)
  • 臨時に支払われる賃金・賞与など
  • 労働者に負担させる食費・作業用品などに関する事項
  • 安全衛生・職業訓練・災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰・制裁・休職・に関する事項

さらに、有期雇用契約の場合は「契約更新の有無」等の明示も必要であり、パートタイム社員については「昇給の有無」等も書面で明示しなければならない。

上記の「明示すべき事項」に漏れがないかをチェックして契約書を2通作成し、雇入れ日前までに、労働者にも署名押印してもらい、労使双方で1通ずつ保管することになる。

次回は「正社員の雇用契約書」の作り方について解説する。

(了)

連載目次

筆者紹介

真下 俊明

(ましも・としあき)

社会保険労務士
真下労務サポートオフィス 代表
ハート&ブレイン株式会社 代表取締役

昭和39年群馬県高崎市生まれ。学習院大学法学部卒業後、平成15年に大手ゼネコンを退職後、社会保険労務士事務所(真下労務サポートオフィス)を設立。さらに、平成19年、人事労務管理のコンサルティングを専門に行うハート&ブレイン(株)を設立。

真摯な姿勢、誠実をモットーに業務を行い、群馬県内有数の社会保険労務士事務所・人事コンサルティング会社に成長させる。

【著書】
・『人事を変えれば社員は育つ』共著(アチ-ブメント出版・2009年)

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