公開日: 2013/01/10 (掲載号:No.1)
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誤りやすい[給与計算]事例解説〈第1回〉 【事例①】最低賃金法の適用

筆者: 安田 大

誤りやすい [給与計算] 事例解説

〈第1回

 

税理士・社会保険労務士  安田 大

 

《連載に当たって》

給与計算の実務を正確に間違いなくこなしていくためには、労働基準法などの労働法規から、社会保険や労働保険に関する法律、所得税法や地方税法まで、実に幅広い知識が要求される。

また、法律の規定は一つであっても、会社によって給与規程の内容は異なるし、計算期間(締日)や支給日もまちまちなので、それぞれのケースに合わせて、法律を正しく適用することが求められる。

給与計算は、そのように複雑な事務であるから、いろいろな誤りが発生しがちである。その内容も基本的な部分での誤りからイレギュラーなケースでの誤りまで様々であろう。

ここでは、毎月の給与計算で発生しがちな事例を取りあげ、正しい処理と考え方を解説していくことにする。

 

1 支給額の算定

【事例①】―最低賃金法の適用―

当社(東京都所在)では、新規採用のパートタイマーについて、日給6,300円、交通費実費(1日500円が上限)としている。
なお、パートタイマーの1日の所定労働時間は7時間30分である。

〔正しい処理〕

1日の所定労働時間が7時間30分で日給6,300円の場合、賃金の時間額は
6,300円÷7.5時間=840円
となり、東京都の地域別最低賃金額850円(平成24年10月1日適用)に満たないため、最低でも
850円×7.5時間=6,375円
とする必要がある。
なお、通勤手当(交通費実費)は、含めないで計算することになる。

〔解   説〕

1 賃金の決定
賃金は、原則として、労働契約により労働者と使用者との合意によって決められるものであるが、最低賃金法によって、その最低基準が定められ、使用者には最低賃金額以上の賃金の支払いが義務づけられている。
そして、労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めた場合は、その部分については無効とされ、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる。

2 最低賃金の種類
最低賃金には、地域別最低賃金と事業別(産業別)最低賃金の2種類がある。
地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわらず、都道府県単位でその都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金である。
事業別(産業別)最低賃金とは、特定の産業の基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認められるものについて設定されている。
東京都(地域別)の現在(平成24年10月1日~)の最低賃金額は、時間額で850円である。

3 最低賃金の適用労働者
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、その都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して、パートタイマーやアルバイト、臨時雇いや嘱託などの雇用形態や呼び方にかかわらず、適用される。
事業別(産業別)最低賃金については、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者に対して適用され、18歳未満や65歳以上の労働者、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の労働者、その他その産業に特有の軽易な業務に従事する労働者などには適用されない。

4 最低賃金の減額適用
最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、一般の労働者よりも著しく労働能力が低い場合など、次の労働者については、都道府県労働局長の許可を受ければ、個別に最低賃金の減額の特例が認められる。

① 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い労働者
② 試の使用期間中の労働者
③ 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている一定の労働者
④ 軽易な業務に従事する労働者
⑤ 断続的労働に従事する労働者

5 最低賃金の対象
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされており、次の賃金については、含めないで計算する必要がある。

① 臨時に支払われる賃金
② 賞与など1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
③ 時間外労働手当(所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金)
④ 休日労働手当(所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金)
⑤ 深夜労働手当(午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分)
⑥ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

6 最低賃金額の判定
最低賃金額以上の賃金が支払われているかどうかの判定は、最低賃金額が時間(時給)で定められているため、その支給形態によって次のとおりとなる。
① 時間給制の場合
時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)

② 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
*日額が定められている事業別(産業別)最低賃金が適用される場合には、日額で判定する。

③ 月給制の場合
月給÷1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

④ 出来高払制その他の請負制の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算して、判定する。

⑤ 上記①~④の組み合わせの場合
の時間給換算額の合計額 ≧ 最低賃金額(時間額)
*たとえば、基本給については日給制で、その他に月給制の手当があるような場合には、上記で計算した基本給の時間額と、上記で計算した月額手当の時間額との合計で判定することになる。

(了)

【参考】 厚生労働省ホームページ
平成24年度地域別最低賃金全国一覧

誤りやすい [給与計算] 事例解説

〈第1回

 

税理士・社会保険労務士  安田 大

 

《連載に当たって》

給与計算の実務を正確に間違いなくこなしていくためには、労働基準法などの労働法規から、社会保険や労働保険に関する法律、所得税法や地方税法まで、実に幅広い知識が要求される。

また、法律の規定は一つであっても、会社によって給与規程の内容は異なるし、計算期間(締日)や支給日もまちまちなので、それぞれのケースに合わせて、法律を正しく適用することが求められる。

給与計算は、そのように複雑な事務であるから、いろいろな誤りが発生しがちである。その内容も基本的な部分での誤りからイレギュラーなケースでの誤りまで様々であろう。

ここでは、毎月の給与計算で発生しがちな事例を取りあげ、正しい処理と考え方を解説していくことにする。

 

1 支給額の算定

【事例①】―最低賃金法の適用―

当社(東京都所在)では、新規採用のパートタイマーについて、日給6,300円、交通費実費(1日500円が上限)としている。
なお、パートタイマーの1日の所定労働時間は7時間30分である。

〔正しい処理〕

1日の所定労働時間が7時間30分で日給6,300円の場合、賃金の時間額は
6,300円÷7.5時間=840円
となり、東京都の地域別最低賃金額850円(平成24年10月1日適用)に満たないため、最低でも
850円×7.5時間=6,375円
とする必要がある。
なお、通勤手当(交通費実費)は、含めないで計算することになる。

〔解   説〕

1 賃金の決定
賃金は、原則として、労働契約により労働者と使用者との合意によって決められるものであるが、最低賃金法によって、その最低基準が定められ、使用者には最低賃金額以上の賃金の支払いが義務づけられている。
そして、労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めた場合は、その部分については無効とされ、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる。

2 最低賃金の種類
最低賃金には、地域別最低賃金と事業別(産業別)最低賃金の2種類がある。
地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわらず、都道府県単位でその都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金である。
事業別(産業別)最低賃金とは、特定の産業の基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認められるものについて設定されている。
東京都(地域別)の現在(平成24年10月1日~)の最低賃金額は、時間額で850円である。

3 最低賃金の適用労働者
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、その都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して、パートタイマーやアルバイト、臨時雇いや嘱託などの雇用形態や呼び方にかかわらず、適用される。
事業別(産業別)最低賃金については、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者に対して適用され、18歳未満や65歳以上の労働者、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の労働者、その他その産業に特有の軽易な業務に従事する労働者などには適用されない。

4 最低賃金の減額適用
最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、一般の労働者よりも著しく労働能力が低い場合など、次の労働者については、都道府県労働局長の許可を受ければ、個別に最低賃金の減額の特例が認められる。

① 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い労働者
② 試の使用期間中の労働者
③ 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている一定の労働者
④ 軽易な業務に従事する労働者
⑤ 断続的労働に従事する労働者

5 最低賃金の対象
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされており、次の賃金については、含めないで計算する必要がある。

① 臨時に支払われる賃金
② 賞与など1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
③ 時間外労働手当(所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金)
④ 休日労働手当(所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金)
⑤ 深夜労働手当(午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分)
⑥ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

6 最低賃金額の判定
最低賃金額以上の賃金が支払われているかどうかの判定は、最低賃金額が時間(時給)で定められているため、その支給形態によって次のとおりとなる。
① 時間給制の場合
時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)

② 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
*日額が定められている事業別(産業別)最低賃金が適用される場合には、日額で判定する。

③ 月給制の場合
月給÷1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

④ 出来高払制その他の請負制の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算して、判定する。

⑤ 上記①~④の組み合わせの場合
の時間給換算額の合計額 ≧ 最低賃金額(時間額)
*たとえば、基本給については日給制で、その他に月給制の手当があるような場合には、上記で計算した基本給の時間額と、上記で計算した月額手当の時間額との合計で判定することになる。

(了)

【参考】 厚生労働省ホームページ
平成24年度地域別最低賃金全国一覧

連載目次

筆者紹介

安田 大

(やすだ・だい)

税理士・社会保険労務士

東京都出身、慶應義塾大学経済学部卒業。
1993年、税理士・社会保険労務士登録、開業。現在、あすか会計事務所代表。
事務所経営の傍ら、書籍・雑誌の執筆や実務セミナー講師、社会福祉法人・公益財団法人等の監事を務める。

【著書】
・『Q&A人事・労務専門家のための税務知識』(中央経済社)
・『入門の入門 図解でわかる減価償却のしくみ』
・『小さな会社の総務・経理の仕事ができる本』
・『人気講師が教える税理士最短最速合格法』
・『税金のキモが2時間でわかる本』 (以上、日本実業出版社)
・『税務・会計担当者のための労務知識』(TAC出版)
・『給与計算セミナー実況中継』
・『初心者にもよくわかる給与計算マニュアル』 (以上、日本法令)
など

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