公開日: 2021/08/05 (掲載号:No.430)
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2021年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応 【前編】

筆者: 北尾 聡子

2021年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと
企業実務における対応

【前編】

 

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
公認会計士 北尾 聡子

 

金融庁及び東京証券取引所が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の改訂が提言され、パブリック・コメント期間を経て、2021年6月11日に改訂版が公表された。

【参考】 東京証券取引所ホームページ
改訂コーポレートガバナンス・コードの公表
2021年4月7日から5月7日のコメント募集期間に、103の団体・個人からコメントが寄せられたが、改訂全般については、改訂案の方向性に賛成する意見が多数を占めていたとのことである。

本稿では、2021年改訂コードのポイントと企業実務における対応のヒントを2回にわたってご説明する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。

 

〔改訂の概要〕

2021年改訂コードにおいて、5つの補充原則の新設を含む18項目(内容に影響しない語句修正を除く)の加筆・修正がなされた結果、基本原則5項目、原則31項目、補充原則47項目を合わせた各原則の数は83項目となった。

今回の改訂の特徴として、2022年4月4日に移行予定の新市場区分におけるプライム市場の上場会社に関しては、一段高いガバナンス水準を求める内容が6項目追加されたことが挙げられる。また、現在の市場区分におけるマザーズ及びJASDAQの上場会社においては、基本原則5項目のみが適用対象となっているが、新市場区分においてプライム市場又はスタンダード市場を選択する場合には、全原則(83項目)への対応が求められる点に留意を要する。

【2021年コード改訂箇所】

※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。

(出所) コーポレートガバナンス・コード(2021年改訂版)を基に筆者が作成。

 

〔改訂の背景〕

コロナ禍を契機として、企業は、その取り巻く環境の変化にスピード感をもって対応しなければならない状況に直面している。環境が変化していく中で、課題を先取りし、持続可能性を追求することが求められ、そのためには企業が、取締役会の機能発揮、中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組みといったガバナンスの諸課題に取り組む必要がある。今回の2021年改訂コードにおいては、そういったガバナンスの諸課題に対処するための内容が織り込まれた。

また、2022年4月より東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となる。プライム市場は、国際的に見ても魅力あふれる市場となることが期待されることから、プライム市場上場会社には一段高いガバナンス水準を目指した取組みを求める内容が追加されている。

 

〔2021年改訂コードの主な内容と実務上のポイント〕

ここからは、2021年改訂コードの内容とそれに対応する実務上のポイントについて説明する。

1 取締役会の機能発揮

事業環境の不確実性が高まる中、企業がコロナ後の経営課題を先取りすることは容易ではない。取締役会が、経営者の迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督機能を発揮することが期待される。そのための前提条件として、取締役の知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保される必要がある。

また、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させるためには、他社での幅広い経営経験を備えた人材を独立社外取締役として取締役会に迎え、そのスキルを取締役会の議論に反映させることが求められる。取締役会における独立社外取締役の割合を増やして、取締役会全体の3分の1以上ないし過半数の選任を求めているグローバルスタンダードに近づけ、独立社外取締役が取締役会機能の実効性向上に大きく貢献することが期待されている。さらに、取締役会の機能発揮をより実効的なものにするためには、指名委員会・報酬委員会の独立性を確保し、指名・報酬などに係る取締役会の透明性を向上させることが重要と考えられる。

取締役会の機能発揮の実効性向上といった観点から、2021年改訂コードでは、以下の諸原則について改訂(あるいは新設)が行われた。実務上の対応としては、市場区分の選択ならびに自社の取締役会の構成のあるべき姿について社内で議論を重ね、拙速に独立社外取締役を増員するのではなく、適切な候補者の調査を行うなどしっかりとした検討プロセスに基づいた対応が望まれる。

  • 「プライム市場上場会社は独立社外取締役を3分の1(その他の市場においては2名)以上選任、必要と考える場合にはプライム市場上場会社は独立社外取締役を過半数(その他の市場においては3分の1以上)選任」(原則4-8
  • 「プライム市場上場会社は、指名委員会・報酬委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、独立性の考え方・権限・役割等を開示すべき」(原則4-10①
  • 「職歴・年齢」面での多様性(原則4-11
  • 「スキルマトリックスの開示」(原則4-11①
  • 「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべき」(原則4-11①

*  *  *

【後編】では、引き続き、2021年改訂コードの内容とそれに対応する実務上のポイントについて触れていきたい。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

2021年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと
企業実務における対応

【前編】

 

PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
公認会計士 北尾 聡子

 

金融庁及び東京証券取引所が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の改訂が提言され、パブリック・コメント期間を経て、2021年6月11日に改訂版が公表された。

【参考】 東京証券取引所ホームページ
改訂コーポレートガバナンス・コードの公表

2021年4月7日から5月7日のコメント募集期間に、103の団体・個人からコメントが寄せられたが、改訂全般については、改訂案の方向性に賛成する意見が多数を占めていたとのことである。

本稿では、2021年改訂コードのポイントと企業実務における対応のヒントを2回にわたってご説明する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。

 

〔改訂の概要〕

2021年改訂コードにおいて、5つの補充原則の新設を含む18項目(内容に影響しない語句修正を除く)の加筆・修正がなされた結果、基本原則5項目、原則31項目、補充原則47項目を合わせた各原則の数は83項目となった。

今回の改訂の特徴として、2022年4月4日に移行予定の新市場区分におけるプライム市場の上場会社に関しては、一段高いガバナンス水準を求める内容が6項目追加されたことが挙げられる。また、現在の市場区分におけるマザーズ及びJASDAQの上場会社においては、基本原則5項目のみが適用対象となっているが、新市場区分においてプライム市場又はスタンダード市場を選択する場合には、全原則(83項目)への対応が求められる点に留意を要する。

【2021年コード改訂箇所】

※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。

(出所) コーポレートガバナンス・コード(2021年改訂版)を基に筆者が作成。

 

〔改訂の背景〕

コロナ禍を契機として、企業は、その取り巻く環境の変化にスピード感をもって対応しなければならない状況に直面している。環境が変化していく中で、課題を先取りし、持続可能性を追求することが求められ、そのためには企業が、取締役会の機能発揮、中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組みといったガバナンスの諸課題に取り組む必要がある。今回の2021年改訂コードにおいては、そういったガバナンスの諸課題に対処するための内容が織り込まれた。

また、2022年4月より東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となる。プライム市場は、国際的に見ても魅力あふれる市場となることが期待されることから、プライム市場上場会社には一段高いガバナンス水準を目指した取組みを求める内容が追加されている。

 

〔2021年改訂コードの主な内容と実務上のポイント〕

ここからは、2021年改訂コードの内容とそれに対応する実務上のポイントについて説明する。

1 取締役会の機能発揮

事業環境の不確実性が高まる中、企業がコロナ後の経営課題を先取りすることは容易ではない。取締役会が、経営者の迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督機能を発揮することが期待される。そのための前提条件として、取締役の知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保される必要がある。

また、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させるためには、他社での幅広い経営経験を備えた人材を独立社外取締役として取締役会に迎え、そのスキルを取締役会の議論に反映させることが求められる。取締役会における独立社外取締役の割合を増やして、取締役会全体の3分の1以上ないし過半数の選任を求めているグローバルスタンダードに近づけ、独立社外取締役が取締役会機能の実効性向上に大きく貢献することが期待されている。さらに、取締役会の機能発揮をより実効的なものにするためには、指名委員会・報酬委員会の独立性を確保し、指名・報酬などに係る取締役会の透明性を向上させることが重要と考えられる。

取締役会の機能発揮の実効性向上といった観点から、2021年改訂コードでは、以下の諸原則について改訂(あるいは新設)が行われた。実務上の対応としては、市場区分の選択ならびに自社の取締役会の構成のあるべき姿について社内で議論を重ね、拙速に独立社外取締役を増員するのではなく、適切な候補者の調査を行うなどしっかりとした検討プロセスに基づいた対応が望まれる。

  • 「プライム市場上場会社は独立社外取締役を3分の1(その他の市場においては2名)以上選任、必要と考える場合にはプライム市場上場会社は独立社外取締役を過半数(その他の市場においては3分の1以上)選任」(原則4-8
  • 「プライム市場上場会社は、指名委員会・報酬委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、独立性の考え方・権限・役割等を開示すべき」(原則4-10①
  • 「職歴・年齢」面での多様性(原則4-11
  • 「スキルマトリックスの開示」(原則4-11①
  • 「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべき」(原則4-11①

*  *  *

【後編】では、引き続き、2021年改訂コードの内容とそれに対応する実務上のポイントについて触れていきたい。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

2021年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応

【前編】 ★無料公開中★

〔改訂の概要〕

〔改訂の背景〕

〔2021年改訂コードの主な内容と実務上のポイント〕

1 取締役会の機能発揮

【後編】

2 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

3 支配株主を有する上場子会社における少数株主保護

4 サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み/事業ポートフォリオの検討

5 監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理

6 株主総会関係

7 株主との対話の対応者(監査役も追記)

〔おわりに〕

筆者紹介

北尾 聡子

(きたお・さとこ)

PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター
公認会計士・公認不正検査士

国内上場企業・非上場企業の法定監査業務、J-SOX監査、外資系企業の親会社連結目的の財務諸表監査を担当後、IFRS・US GAAPのコンバージョン支援業務に従事、開示全般を専門分野とし、取締役会の実効性評価支援などのコーポレートガバナンス強化支援業務に従事している。コーポレートガバナンスに関連するセミナーや寄稿などの活動も行っている。

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