2021年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと
企業実務における対応
【前編】
PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー
公認会計士 北尾 聡子
金融庁及び東京証券取引所が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の改訂が提言され、パブリック・コメント期間を経て、2021年6月11日に改訂版が公表された。
本稿では、2021年改訂コードのポイントと企業実務における対応のヒントを2回にわたってご説明する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。
〔改訂の概要〕
2021年改訂コードにおいて、5つの補充原則の新設を含む18項目(内容に影響しない語句修正を除く)の加筆・修正がなされた結果、基本原則5項目、原則31項目、補充原則47項目を合わせた各原則の数は83項目となった。
今回の改訂の特徴として、2022年4月4日に移行予定の新市場区分におけるプライム市場の上場会社に関しては、一段高いガバナンス水準を求める内容が6項目追加されたことが挙げられる。また、現在の市場区分におけるマザーズ及びJASDAQの上場会社においては、基本原則5項目のみが適用対象となっているが、新市場区分においてプライム市場又はスタンダード市場を選択する場合には、全原則(83項目)への対応が求められる点に留意を要する。
【2021年コード改訂箇所】
※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。
(出所) コーポレートガバナンス・コード(2021年改訂版)を基に筆者が作成。
〔改訂の背景〕
コロナ禍を契機として、企業は、その取り巻く環境の変化にスピード感をもって対応しなければならない状況に直面している。環境が変化していく中で、課題を先取りし、持続可能性を追求することが求められ、そのためには企業が、取締役会の機能発揮、中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組みといったガバナンスの諸課題に取り組む必要がある。今回の2021年改訂コードにおいては、そういったガバナンスの諸課題に対処するための内容が織り込まれた。
また、2022年4月より東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となる。プライム市場は、国際的に見ても魅力あふれる市場となることが期待されることから、プライム市場上場会社には一段高いガバナンス水準を目指した取組みを求める内容が追加されている。
〔2021年改訂コードの主な内容と実務上のポイント〕
ここからは、2021年改訂コードの内容とそれに対応する実務上のポイントについて説明する。
1 取締役会の機能発揮
事業環境の不確実性が高まる中、企業がコロナ後の経営課題を先取りすることは容易ではない。取締役会が、経営者の迅速・果断なリスクテイクを支え重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督機能を発揮することが期待される。そのための前提条件として、取締役の知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保される必要がある。
また、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させるためには、他社での幅広い経営経験を備えた人材を独立社外取締役として取締役会に迎え、そのスキルを取締役会の議論に反映させることが求められる。取締役会における独立社外取締役の割合を増やして、取締役会全体の3分の1以上ないし過半数の選任を求めているグローバルスタンダードに近づけ、独立社外取締役が取締役会機能の実効性向上に大きく貢献することが期待されている。さらに、取締役会の機能発揮をより実効的なものにするためには、指名委員会・報酬委員会の独立性を確保し、指名・報酬などに係る取締役会の透明性を向上させることが重要と考えられる。
取締役会の機能発揮の実効性向上といった観点から、2021年改訂コードでは、以下の諸原則について改訂(あるいは新設)が行われた。実務上の対応としては、市場区分の選択ならびに自社の取締役会の構成のあるべき姿について社内で議論を重ね、拙速に独立社外取締役を増員するのではなく、適切な候補者の調査を行うなどしっかりとした検討プロセスに基づいた対応が望まれる。
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【後編】では、引き続き、2021年改訂コードの内容とそれに対応する実務上のポイントについて触れていきたい。
(了)
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