過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A
【第1回】
「正当な理由による会計方針の変更」
公認会計士 阿部 光成
Q
会社は、会計方針の変更を行うことを考えています。
会計方針の変更を行う場合には、監査人から厳しくチェックされると聞きましたが、会社としてはどのような事項を検討すればよいでしょうか。
A
「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号。以下「実務指針78号」)に具体的なポイントが示されているので、同実務指針に示された事項を検討する必要があると考えられる。
《解 説》
日本公認会計士協会は「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号)を公表し、当該実務指針を過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針の取扱いを前提とした監査人の判断の指針と位置付けている。
文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。
1 正当な理由を判断する際のポイント
会計方針に関しては、経営者による会計方針の選択及び適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかどうかが重要である(実務指針第78号8項、「監査基準の改訂に関する意見書」(平成14年1月25日、企業会計審議会)三9(1)②)。
【参考】 金融庁ホームページ
「監査基準の改訂に関する意見書」(平成14年1月25日、企業会計審議会) ※PDFファイル
実務指針第78号は、会計方針の変更に関する正当な理由の有無については、次の事項を総合的に勘案して判断する必要があると述べている(実務指針第78号8項)。
① 会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること
経営環境とは、会計事象等について会計方針を選択する場合の判断に影響を及ぼす社会的経済的要因(物価水準、為替相場、金利水準の動向等)又は企業内部の要因(管理システムの整備、諸制度の改定、事業目的の変更等)をいう。
② 会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること
会計方針の変更により、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況がより適切に示され、財務諸表等の利用者の意思決定又は企業の業績などの予測に、より有用かつ適切な情報が生み出されるものであることが必要である。
③ 変更後の会計方針が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして妥当であること
会計方針の変更は、1つの会計事象等について複数の会計処理の原則又は手続が認められている場合に、その範囲内で行われるものである。
それに加えて、変更後の原則又は手続が類似の会計事象等に対して適用されている原則又は手続と首尾一貫したものであることにも留意しなければならない。
その会計事象等について適用すべき会計基準等が明確でない場合や会計基準等において詳細な定めのない場合の会計方針については、経営者が採用した会計方針が会計事象等を適切に反映するものであるかどうか監査人が自己の判断で評価し、あるいは会計基準等の趣旨を踏まえ評価することが必要である。
④ 会計方針の変更が利益操作等を目的としていないこと
財務諸表等の利用者は、当期純利益の金額だけでなく、企業の成長性、財務の安定性、事業区分ごとの収益性、所有資産の評価額等多くの事項に関心を持っている。
それらは財務諸表の勘定科目の金額だけでなく、注記事項としても表示されている。
会計方針の変更によって、これらに関する情報を不当に操作する意図がないことにも留意することが必要である。
個別的には正当な理由による会計方針の変更と認められる場合であっても、当該事業年度において採用されている他の会計方針と総合してみるとき、財務諸表に著しい影響を与えることを目的としていることが明らかであると認められる場合には、正当な理由による変更とは認められないことに留意する。
⑤ 会計方針を当該事業年度に変更することが妥当であること
会計方針の変更のための正当な理由があるかどうかを判断するに当たっては、なぜ当該事業年度において会計方針を変更しなければならないのか(変更の適時性)についても、留意することが必要である。
2 文書化について
監査人は、会社が会計方針の変更を行おうとするときには、上記の①から⑤について、会社の置かれた状況を踏まえて慎重に検討し、総合的に判断することになる。
会社としても、行おうとする会計方針の変更の正当性を主張するには、上記の①から⑤までの事項について、実際に会社が置かれている状況を踏まえて検討し、正当な理由の存在について文書化しておく必要があると考えられる。
このとき、重要なことは事実の把握であると考えられる。
会社の置かれている状況が変化しているという事実がある場合、従来採用していた会計方針では会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に示さないこととなる可能性が高いので、会計方針の変更を行わなければならないことが考えられるためである。
3 会計方針の変更の注記
正当な理由による会計方針の変更を行う場合、「会計方針の変更に関する注記」が記載される(財規8条の3、8条の3の2等)。
会社の置かれている状況が変化しているという事実を踏まえ、さらに前述の①から⑤について適切な理由がある場合には、会計方針の変更に関する注記を行う際に、非常に読みやすい文章が作成されることが多いと考えられる。
実務上、会計方針の変更に関する注記が適切に記載できるかどうかについても、正当な理由の存在に関するポイントの1つになるのではないかと考えられる。
4 会計方針変更のタイミング(変更の適時性)
実務指針78号9項では、会計方針は、原則として、事業年度を通じて首尾一貫していなければならないと規定している。このため、会計方針の変更を行う場合には、原則として、四半期決算を行う企業の第1四半期から行うことになると考えられる。
実務指針78号8項(5)では、会計方針の変更に際しての検討ポイントとして、会計方針を当該事業年度に変更することが妥当であること(変更の適時性)を規定している(上記⑤)。
実務上、例えば、上記①から④までについては適切な理由が存在するとしても、⑤の変更の適時性の存在に適切な理由がないことも考えられるので、正当な理由による会計方針の変更を行う際には、特に、変更の適時性に関して慎重に判断する必要があると考えられる。
(了)