件すべての結果を表示
税務 税務・会計 解説 解説一覧

税務判例を読むための税法の学び方【10】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その3)

税務判例を読むための税法の学び方【10】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その3)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ③ 選択的接続詞「又は」「若しくは」による段階構造の分析 法令文において語句を選択的に結び付けるときには、「又は」と「若しくは」が用いられる。すなわち、複数の語句の中から1つを選択する場合に使われる。両者は、文字的意味の上では同じものであり、日常用語としては同じような意味で区別せずに使われている。 しかし、法令用語としての「又は」と「若しくは」は、明確に使い分けられている。 選択的接続詞を用いる場合で数個の語句を単純に並列するだけのときには、「又は」が使われる。選択肢が3つ以上であっても、同じ段階で並べて選択するときは、最初の接続は「、」でつなぎ、最後の部分を「又は」で結ぶ。すなわち、「A又はB」や「A、B又はC」「A、B、C又はD」というふうに表現される。 一方、選択的に列記される語句でも、意味の上で、あるいは語句のつながり方の関係から、単純に並列することができない場合がある。そのような場合には、「又は」のほかに「若しくは」を用いて段階の差異を示すことになる。すなわち、「又は」は大きな接続の段階で使い、小さな接続の段階には「若しくは」を使う。 すなわち、「AとB」で選択したものを、「C」と選択的に結び合わせる場合には、「A若しくはB又はC」と表現されることになる。 所得税法第10条には「金融機関その他の預貯金の受入れ若しくは信託の引受けをする者、金融商品取引業者又は登録金融機関で政令で定めるもの」とあるところを前回「①金融機関その他の預貯金の受入れ若しくは信託の引受けをする者」、「②金融商品取引業者」又は「③登録金融機関で政令で定めるもの」の選択であると図示したが、それは①~③が大きな接続の段階として「又は」で結び付けられているからである。 そして、小さな接続の段階として「①金融機関その他の預貯金の受入れ若しくは信託の引受けをする者」の中では、以下のようになるのである。 なお、この選択的接続が3段階以上になるときは、一番大きい段階の接続だけに「又は」を用い、その下の接続は段階がいくつあっても、すべて「若しくは」を用いる。 一般に、その場合の最も大きい接続に用いる「若しくは」を「大(おお)若しくは」、それよりも小さい接続に用いる「若しくは」を「小(こ)若しくは」と呼んでいる。なお、この「小若しくは」がさらに2段階以上になることもある。 この「大若しくは」も「小若しくは」も、共に「若しくは」と表示されているだけなので、どちらが「大若しくは」でどちらが「小若しくは」かは、語句の意味により解釈しなければならない。 所得税法第9条(非課税所得)第4号には「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」とある。 この下線部分を段階的に図で示せば、以下のようになる。 〔2015/8/31追記〕上図につき本稿掲載時に誤りがあったため修正を行った。 前回、同一用語の併置に着目して整理することを書いたが、ここでは「旅行をした場合」に着目して整理する。そして「又は」を一番上の段階の選択肢を結ぶものとして、「若しくは」を第2段階以降の選択肢を結ぶものとして整理していく。 この中の「就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族」においては、「就職若しくは退職をした者」と「死亡による退職をした者の遺族」が対比し、前者の「就職若しくは退職をした者」の中の「就職」と「退職」が対比している。すなわち「就職」の後に続く「若しくは」が「小若しくは」であり、「退職をした者」の後に続く「若しくは」が「大若しくは」である。 次に、「A又はB・・・(に係る)・・・C又はD」といえば、その組合せは、「A(に係る)C」、「A(に係る)D」、「B(に係る)C」及び「B(に係る)D」の4通りがあり、通常、これらのすべての組合せを含んでいる(いわゆるタスキ掛けあり)と解される。 (いわゆるタスキ掛けあり)の場合 しかし、場合により「A(に係る)C」、「B(に係る)D」の2通りの組合せのみ(いわゆるタスキ掛けなし)を意味する場合もある。 国税通則法第115条(不服申立ての前置等) 第2項には、「国税に関する法律に基づく処分についてされた異議申立て又は審査請求について決定又は裁決をした者は・・・」とある。 しかし、この下線部の「「A異議申立て」又は「B審査請求」について「C決定」又は「D裁決」をした者」においては、「「A異議申立て」について「C決定」をした者」と「「B審査請求」について「D裁決」をした者」であって、タスキ掛けにはならない。 これがタスキ掛けとなるかどうかは、内容から判断しなければならない。 (了)
#19(掲載号)
#長島 弘
2013/05/16
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載19〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の資本金等の額と利益積立金額の計算

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載19〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の 資本金等の額と利益積立金額の計算   税理士 掛川 雅仁    【解説】 1 現行法人税法における適格分割型分割の場合の資本金等の額と利益積立金額の計算規定 現行法人税法における適格分割型分割の場合の資本金等の額と利益積立金額の計算規定は、次のように整理することができる。 それぞれの項目の増減金額を算式で示せば、次のとおりになる。 【分割承継法人】 増加資本金等の額(法令8①六)  = 適格分割型分割に係る分割法人の分割減少資本金等の額 増加利益積立金額(法令9①三)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+増加資本金等の額) 【分割法人】  ※分割移転割合・・・小数点以下3位未満切上げ 減少利益積立金額(法令9①十)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+分割減少資本金等の額) ここで注目すべきは、次の2点である。 このうち、上記2)の分割承継法人の増加利益積立金額の計算は、分割法人の減少利益積立金額の計算と同様に、移転する純資産の帳簿価額から適格分割型分割に係る移転資本金等の額を減算した金額と規定されている。 つまり、現行法人税法における適格分割型分割の場合の資本金等の額と利益積立金額は、①まず、移転資本金等の額を計算し、次に、②移転利益積立金額を移転する純資産の帳簿価額から移転資本金等の額を減算した金額として計算する。 したがって、適格分割型分割に係る移転利益積立金額は、精緻な確定計算を行うのではなく、移転純資産の帳簿価額と移転資本金等の額との差額として計算するように規定されている。   2 平成22年度改正で逆転した組織再編成税制における利益積立金額と資本金等の額の関係 平成22年度改正前の組織再編成税制においては、適格分割型分割のように、法人に加えてその株主等も当事者となる適格組織再編成の場合には、課税関係を継続させるという観点から、過去の課税済み金額を引き継がせるとともに、資産・負債の帳簿価額を引き継がせて将来の課税の担保も引き継ぐべきである、という考え方が採られていた。 このために、平成22年度改正前の組織再編成税制においては、①まず、資産・負債・利益積立金額が引き継がれ、次に、②法人と株主等との間の取引があれば、資本の金額・旧資本積立金額(資本金等の額)は減少したり増加したりする、と整理されていた。 しかし、平成22年度改正においては、改正法の立案担当者は次のように説明して、改正前の組織再編成税制における利益積立金額と資本金等の額の関係を逆転させた。 この背景には、平成22年度改正において、分割型分割におけるみなし事業年度の廃止があると思われる。 ちなみに、平成22年度改正前の適格分割型分割における資本金等の額と利益積立金額の増減金額に関する規定を算式で示せば、次のとおりとなる。 【分割承継法人】 増加資本金等の額(法令8①六)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+増加利益積立金額) 増加利益積立金額(法令9①四)  = 適格分割型分割に係る分割法人の分割減少利益積立金額 【分割法人】 減少資本金等の額(法令8①十七)  = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+分割減少利益積立金額)  ※分割移転割合・・・小数点以下3位未満切上げ   3 現行法人税法における分割移転割合の上限・下限 ところで、平成22年度改正後の移転割合の計算において、移転簿価純資産価額(分子の金額)が前事業年度末簿価純資産価額(分母の金額)を超える場合には、単純に計算すると移転割合が1を超えてしまい、分割法人の資本金等の額を超える資本金等の額の減少が生じ、その結果、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスとなりかねない。 そこで、このようなことが生じないように、法令8①十五ロ括弧書において、移転割合の計算上、分子の金額(移転純資産の帳簿価額)が分母の金額(分割法人の分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額)を超える場合には、分子の金額は分母の金額と同額にする、と規定し、移転割合は1を上限とするとしている。 この結果、分割法人の資本金等の額を超える資本金等の額の減少は生じず、その結果、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスにもならず、最少でもゼロに留まるように手当てされている。 そのほか、次のように移転割合計算上の分子と分母の額の各種ケースを想定し、移転割合の上限・下限を定めて、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスとなったり、不適切な増加が生じないように手当てされている。   4 債務超過である分割法人が分割型分割を行った場合 分割法人が債務超過である場合には、その資本金等の額と利益積立金額とがプラスであるのかマイナスであるかによって、下表太線内のように上表のケースA・C・Dと関連付けて整理することができる。 ケースAは、分割法人の資本金等の額がマイナスの場合であるが、これは、分割法人が債務超過であるか否かを問わない。 なお、ケースBは、利益積立金額がマイナスだが、資本金等の額がそれより大きなプラスであるため、純資産額はプラスである場合も含むが、ここでの議論の大勢に関係しないので取り上げていない。 (1) 分割法人の資本金等の額がマイナスである場合(ケースA) 組織再編成やグループ法人税制の適用により、資本金等の額がマイナスとなっている分割法人が純資産の一部を移転した場合には、分割法人の資本金等の額はマイナスであるから、上表のケースAに該当する。 この場合には、分割移転割合は0とすると定められているため(法令8①十五括弧書)、減少する資本金等の額はゼロとなり、マイナスの資本金等の額は分割承継法人に移転せず、移転純資産の帳簿価額の全額が分割法人の利益積立金額の減少額となる。 【設例(1)】 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】   (2) 分割法人の資本金等の額がプラスである場合(ケースC・ケースD) 次に、債務超過である分割法人の資本金等の額がプラスである場合に分割型分割を行った場合の資本金等の額と利益積立金は、どのようになるかを検討する。 ケース①(債務超過である分割法人がプラスの純資産を分割承継法人に移転した場合) 債務超過である分割法人がプラスの純資産を分割型分割により分割承継法人に移転した場合に、分割法人の分割直前の資本金等の額がプラス(つまり、利益積立金額のマイナスを原因として、債務超過になっている状況)であれば、上表のケースDに該当する。 この場合は、分割移転割合は1とすると定められているため(法令8①十五括弧書)、移転する資本金等の額は分割法人の分割直前の資本金等の額の全額となる。その結果、分割法人の分割後の資本金等の額は0となる。 【設例2】 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 ※分割直前の資本金等の額がプラスであり、分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額がマイナス(債務超過)であり、移転純資産がプラスである場合には、分割移転割合は1とする。 =400×1(分割移転割合は1とする) =400 【分割法人の分割時の仕訳】 しかし、このケースに関しては、次の観点から、実務家からの疑問が呈されている。 この点に関しては、稿を改めて検討したい。 ケース②(債務超過である分割法人がマイナスの純資産を分割承継法人へ移転した場合) それでは、債務超過である分割法人がマイナスの純資産を分割型分割により分割承継法人に移転した場合には、分割直前の資本金等の額がプラス(つまり、利益積立金額のマイナスを原因として、債務超過になっている状況)であれば、上表のケースのどれに該当するのであろうか。 【設例3】 設例2と同じ分割直前及び前事業年度末の貸借対照表の分割法人が資産300、負債500を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】(このまま単純に計算した場合) しかし、実際の条文では、上記計算の分割移転割合の分子は、300-500=▲200でなく、0とする規定がある。 条文(法令8①十五)では、分母(同号イ)が「減算した金額」と規定されている一方で、分子(同号ロ)は「控除した金額」と規定されている。 「控除」ということは、マイナスにならず、ゼロを限度とする場合に用いる法人税法上の用語である。 分子(同号ロ)も「減算した金額」と規定すると、マイナス(上記▲200)をマイナス(上記▲500)で除することで、資本金等の額がプラス(上記160)になるという不都合を回避しているわけである。 したがって、実は、このケースは、移転純資産がゼロという上表のケースCに収斂することになる。 分子(法令8①十五ロ)が「控除した金額」と規定されていることを考慮すれば、その結果は、次のとおりとなる。 この結果、移転純資産▲200から、減少資本金等の額0を減算した、▲200が利益積立金額の減少額となり、この場合の分割型分割の後では、分割法人の利益積立金額は200だけ増加することになる。 【分割法人の分割時の仕訳】 (参考文献:「『法人税の純資産』法人税法施行令8条・9条の口述コンメンタール」2012年9月20日第1版第1刷発行、〔著者〕濱田康宏、岡野訓、内藤忠大、白井一馬、村木慎吾、〔発行所〕中央経済社) (了)
#19(掲載号)
#掛川 雅仁
2013/05/16
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 退職給付会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第6回】退職給付会計③「企業年金制度」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第6回】 退職給付会計③ 「企業年金制度」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   〈事例による解説〉 退職給付債務の計算を依頼している受託機関からの報告によると、期首の退職給付債務は5,000で、当期に発生する勤務費用は500です。また、期末の退職給付債務の実際額は6,000です。一方、年金資産の受託機関からの報告によると、期首の年金資産は1,000で、期末の年金資産の時価は1,100です。 そして、当社で計算した利息費用は100で、利息費用の計算に用いた割引率は2%です。また、期待運用収益相当額は10で、期待運用収益相当額の計算に用いた期待運用収益率は1%です。さらに、年金基金に掛金を200支払っています。 未認識数理計算上の差異は翌期以降、従業員の平均残存勤務期間である15年、定額法で費用処理を行います。なお、税効果会計は適用していません。 〈会計処理〉 1 退職給付費用の計上 2 掛金の拠出 3 数理計算上の差異の計上   (仕訳なし) 〈会計処理の解説〉 1 退職給付費用の計上 退職給付費用は、基本的に「勤務費用+利息費用-期待運用収益相当額」で計算されます。 本事例では、勤務費用500、利息費用5,000×2%=100、期待運用収益相当額1,000×1%=10です。したがって、退職給付費用は、500+100-10=590となります(退職給付に係る会計基準三)。 そして、退職給付費用の相手の勘定科目は、退職給付引当金となります(退職給付に係る会計基準四)。 2 掛金の拠出 年金基金への掛金の拠出により、年金資産が増加します。したがって、企業にとって、退職金や退職年金の支払いのため原資が増えることから、退職給付引当金を減少させます。 3 数理計算上の差異の計上 退職給付費用の計上及び掛金の拠出により、退職給付債務及び年金資産は以下のとおりとなります。数理計算上の差異は、下記の表の「(※)」のとおり510となります。 そして、本事例では、数理計算上の差異は、当期に費用処理を行わないため、当期末の未認識数理計算上の差異は510となり、当期末の貸借対照表に計上される「退職給付引当金」は4,390となります。 (了)  
#19(掲載号)
#西田 友洋
2013/05/16
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

残業代の適正な計算方法 【第3回】 「残業時間の考え方②」

残業代の適正な計算方法 【第3回】 「残業時間の考え方②」   社会保険労務士 井下 英誉   1 はじめに 今回も前回に続き、残業時間を取り上げる。 前回は時間外労働の基本的な考え方について解説を行ったが、今回は第1回で取り上げた変形労働時間制における時間外労働の考え方について解説する。 変形労働時間制における時間外労働を理解するためには、変形労働時間制の内容を理解していなければならないので、改めて各労働時間制の内容も記しておく。   2 1ヶ月単位の変形労働時間制における時間外労働 ① 1ヶ月単位の変形労働時間制 労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定、又は就業規則その他これに準ずるものにより、1ヶ月以内の一定の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない定めをしたときは、特定された週において40時間又は特定された日において8時間を超えて、労働させることができる。 ② 時間外労働の考え方 1ヶ月単位の変形労働時間制では、次のア~オの時間を合算した時間が、その月の時間外労働時間となる。   3 フレックスタイム制における時間外労働 ① フレックスタイム制 就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねることとした労働者については、労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定により、必要な事項を定めたときは、1ヶ月以内の清算期間として定められた期間を平均して1週間当たりの労働時間が週40時間を超えない範囲内において、1週間において40時間又は1日において8時間を超えて、労働させることができる。 ② 時間外労働の考え方 フレックスタイム制では、清算期間中の総労働時間しか定められていないので、時間外労働となるものも、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間についてであり、1日当たりの時間外労働は発生しない。   4 1年単位の変形労働時間制における時間外労働 ① 1年単位の変形労働時間制 労働組合又は労働者の過半数代表者との書面による協定により、必要な事項を定めたときは、対象期間(1年限度)として定められた期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、特定された週において40時間又は特定された日において8時間を超えて、労働させることができる。 ② 時間外労働の考え方 1年単位の変形労働時間制では、次のア~ウの時間を合算した時間が、時間外労働時間となる。 1年単位の変形労働時間制の場合、ア、イは合算して毎月支払うことになるが、ウは対象期間を経過した後に支払うことになる。 (了)
#19(掲載号)
#井下 英誉
2013/05/16
健康保険 労働基準関係 労務 労務・法務・経営 社会保険

〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第3回】「産前・産後期間中の対応(2)」 ―健康保険による給付への対応―

〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第3回】 「産前・産後期間中の対応(2)」 ―健康保険による給付への対応―   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回(第2回)は、産前・産後に会社が行うべきことについて触れた。 既に紹介したとおり、労働基準法等で就業制限の規定が設けられ休みは確保することができるものの、従業員はその間の生活費、出産に伴う費用の面で不安を抱えることもある。 そこで今回は、産前・産後の期間に健康保険から行われる給付について触れていく。 会社の担当者が給付の詳細を把握していなくても従業員自身が受給手続を進めることはできるが、保険給付の中には報酬との調整が行われ、休業中に報酬を支払うと支給額が減額されるものもある。 そのようなことから、人事担当者は給付の種類や支給要件、支給額など、基本的な事項については把握しておきたい。   2 給付の種類 産前産後に健康保険制度から行われる給付には、次のものがある。   3 出産育児一時金 まずは、出産時に一時金として支給される「出産育児一時金」について触れていくこととする。 (1) 支給額 出産育児一時金は、被保険者又は被扶養者が出産したときに1児につき42万円が支給される。 なお、産科医療補償制度(【参考】参照)に加入していない医療機関等で出産したときは、39万円となる。 (2) 支給方法 出産育児一時金には、医療機関への直接支払い制度がある。 この制度ができる前は、出産時に病院に対してまとまった費用を支払い、後から健康保険制度より出産育児一時金を受給していた。 現在では、一時的な経済的負担を緩和するため、出産費用を病院窓口で支払わず、健保から医療機関に対して出産育児一時金相当額が支払われる仕組みが設けられている。 ※出産費用が42万円未満に収まったときは、その差額が後日被保険者に対して支払われる。 なお、医療機関等に直接出産育児一時金が支払われることを希望しない者は、出産後に受給する方法を選択することもできる。 (3) 会社の対応 出産育児一時金の支給にあたっては、会社による書類記入や印鑑の押捺をせずに、被保険者自身が受給手続を進めることができる。 後述する出産手当金は、所定の様式に報酬支払い・出勤状況の記載、会社の印鑑押捺を要する点が出産育児一時金と異なる。   4 出産手当金 次に、出産手当金について触れていくこととする。 (1) 支給期間 出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲の休業期間を対象として出産手当金が支給される。 注)予定日より後に出産したときは、産前の支給日数は42日より多くなることがある。 (2) 支給額 1日につき被保険者の標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給される。 ※標準報酬日額・・・標準報酬月額の30分の1に相当する額。   5 資格喪失後の給付 出産に伴い退職する従業員がいる場合、退職後についても前述の健康保険の給付が行われることがある。 (1) 資格喪失後の出産育児一時金 資格喪失日から6ヶ月以内に出産したときは、出産育児一時金が支給される。 この給付は、退職日まで被保険者期間が継続して1年以上ある者が対象となることに注意を要する。 したがって、従業員から退職後の出産育児一時金について質問を受けた人事担当者は、被保険者期間の長さに注意をしながら受給可能性の回答をする必要がある。 (2) 資格喪失後の出産手当金 退職日まで被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に、現に出産手当金の支給を受けているか、受けられる状態であれば、資格喪失後も所定の期間(支給期間の長さは、在職中に受給するときと同様)の範囲内で引き続き支給を受けることができる。   6 おわりに 今回は産前・産後の休業期間中に健康保険制度から支給されるものについて触れた。 出産手当金の手続様式は会社側が記載をする欄もあるため、従業員から依頼があって初めて書類を目にすることとなると、書類の完成まで時間を要する(給付が遅くなる)こともあり得る。 出産予定の連絡を受けた担当者は、あらかじめ書類の記入方法を協会けんぽ(又は健康保険組合)に確認しておくとよい。 なお、協会けんぽの出産手当金の支給申請書の記載例については【参考】を参照していただきたい。 次回は、子が1歳(又は1歳6ヶ月)に達するまでの育児休業や休業中の保険給付について触れていくこととする。 (了)
#19(掲載号)
#佐藤 信
2013/05/16
労務・法務・経営 経営

会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第5回】「会計事務所の価値評価」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第5回】 「会計事務所の価値評価」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 会計事務所の価値とは何か 今回は個人事務所を営む税理士を売り手、税理士法人を買い手とするM&Aを前提として、会計事務所の価値評価について説明する。 会計事務所のM&Aでは、その譲渡対象のほとんどは、顧客との顧問契約や職員の雇用契約といった無形資産である。無形資産を譲渡するといっても、そもそも営業権がないと法的に定められている税理士業務の価値評価に際して、相続税法上の財産評価基本通達を使う必要はないため、当事者間の交渉を通じて、公正価値すなわち時価による価値評価を行うことになる。 現在、会計事務所のM&A実務において、経常売上高マルチプル(倍率)1倍という評価で取引される事例が多いといわれている。 「基本的には顧問先を全部承継するという条件で、決算を除く臨時手数料(相続関連など)以外の手数料、毎月の顧問料および決算手数料の合計、すなわち、経常売上高の100%から80%ほどになるのではないだろうか。」(増山雅久『会計事務所のM&A成功術』幻冬舎メディアコンサルティング、2010年)とされるケースである。 しかし、前回の記事において述べたように、会計事務所のM&Aにおける買い手の取引は「投資」である。これは事業会社のビジネスの基本原理と同じである。 投資をした者は、それを回収して利益を得なければならない。したがって、買い手は回収可能性を予測したうえで、投資額を見積もる。これが価値評価のプロセスである。 理論的な公正価値(時価)は、一般的なファイナンス理論においては、将来キャッシュ・フローの割引現在価値であるといわれる。すなわち、DCF法によって評価した価値のことである。 DCF法の価値評価は、決算書の数値に基づく純資産法などと異なり、不確実な将来予測に基づいて行う。それゆえ、将来キャッシュ・フローをどれくらい確実に予測できるかが、その評価の信頼性のポイントとなる。 そこで、DCF法を会計事務所の価値評価に使えるかを検討する必要があるが、この点、顧問料収入からの将来キャッシュ・フローが安定していることが税理士業務の特徴であるため、会計事務所は、DCF法の価値評価がまさに適合するビジネスであるといえる。 それゆえ、経常売上高1年分という価値評価は、単なる業界慣行又はM&A実績の結果にすぎず、その方法論そのものに合理性はない。 先日、ある税理士法人の代表社員から、買収した会計事務所が赤字になり、既存の事務所経営まで苦しくなってしまったという話を聞いた。 詳しく聞いてみると、会計事務所M&Aの仲介業者から、「税務顧問料1年分です。」と言われ、直前期の売上(相続税申告の報酬は除く)と同額の5,000万円で、言われるがままに買収したという。 筆者が「当時、利益は出ていましたか?」とたずねると、「買収前は、優良顧客と優秀な税理士を抱えていたので、利益が出ていました。しかし、買収後に優良顧客3社から『前の先生の方がいい』と言われて契約を切られてしまいました。また、優秀な税理士職員が退職したため、代わりに無資格者を2人雇うことになって人件費が増えてしまったのです。結果として、収益減少と費用増加の状況、なんと赤字に転落ですよ。」とのこと。 このような事態に陥ってしまうと、もはや利益によって投資額5,000万円を回収することができず、買収は失敗に終わったということになる。その5,000万円は水の泡である。   2 投資回収計算とは何か DCF法は、経営者が新規事業を行うに際して考える投資回収計算そのものを活用した評価方法である。 すなわち、1年目、2年目、3年目・・・・N年目と将来の収入額(フリー・キャッシュ・フロー及び残存価値)を見積もり、それによって投資案件の事業価値を見積もる。この予測はまさに経営者のセンスによるものであり、予測が外れるリスクは経営者自らが負担するのであるから、正確である必要はない。 将来の収入額とは、固定資産投資を伴う事業における追加投資や減価償却、運転資金の必要性を考慮しなければ、会計上の利益と考えてよいだろう。収益を獲得するために費用を負担する。手元に残った利益を収入額と考えよう。 この点、会計事務所の税理士業務には大きな固定資産投資は伴わないため、税引後利益をもって将来の収入額と考えてよい。 したがって、会計事務所の投資回収計算は、買収価額(投資)を将来の利益によって回収していくプロセスであるといえる。M&Aにおける買い手は、将来の利益額を見積もることによって事業価値を評価する。事業価値(回収)を下回る買収価額(投資)で取引が成立するならば、M&Aによって買い手は利益を得ることができる。 すなわち、【 事業価値 > 買収価額 】という評価結果の場合、買い手の投資は成功することになる。   3 買収価額は買い手が決めるもの 繰り返し述べるが、M&Aにおいてリスクを負うのは、売っておしまいの売り手ではなく、投資を回収する仕事が待ち構える買い手である。 事業価値を超える買収価額を支払ってしまえば、将来回収することは不可能となり、その時点で投資は失敗である。それゆえ、買い手は買収価額の決定において、細心の注意を払わなければならない。 この点、仲介によるM&Aによく見られるケースは、「売り手の希望価格」を提示するケースである。 売り手の希望価格は、売り手にとっての事業価値であるから、仮に売り手が経営を続けた場合に実現する事業価値を意味する。とすれば、売り手と同等の経営力を有する買い手でなければ、売り手が評価する事業価値は実現しない。 誤解を恐れずに単純化して述べると、売り手よりも経営力のない買い手が、「売り手の希望価格」で買収を実行すると、必ず投資回収に失敗する。この点に注意し、買い手は必ず自ら価値評価を行わなければならない。自ら評価した事業価値が「売り手の希望価格」を下回った場合は、買収してはならない。   4 それでもなぜ価値評価は年間顧問料の1年分なのか 経済合理性を無視すれば、十分な資産家である所長が、手取り現金が多いか少ないかだけで単純に会計事務所の売却の意思決定を行うわけではない。M&A実務における判断基準としては、所長の人生における効用(自らの幸せ)が高まるかどうかでM&Aを決めることになるのである。 すなわち、働くことによって得られる現金収入だけでなく、残りの人生から得られる効用を考慮して、M&Aを実行すべきかどうか判断することになる。 例えば、妻や家族と過ごす時間、趣味に充てて楽しむ自由時間、そして、会計事務所経営のプレッシャーから解放される喜びなどである。 残りの人生の過ごし方を考え、働くよりも売却する方が人生の効用が高まる(幸せになれる)と判断するのであれば、M&Aによる売却を決断することになる。 あまりに高く売却して買い手が投資回収に失敗するよりも、買い手に成功してもらい、その後は感謝してもらう方が良い。また、残された職員には、新しい所長から支給される給与水準が上がり、幸せになってもらいたい。 このようなことを考えて、取引をスムーズに進めるべく、分かりやすく「年間顧問料1年分」という割安の価値評価によって会計事務所を譲渡するのであろう。 (了)
#19(掲載号)
#岸田 康雄
2013/05/16
労務・法務・経営 経営

〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第3回】「中小企業の情報セキュリティ」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第3回】 「中小企業の情報セキュリティ」   公認会計士 神崎 時男   ◎財務諸表の前提としてのシステム利用 公認会計士、税理士は、財務諸表を利用する。その財務諸表は、近年、システムを利用して作られていないものはないと言っても過言ではない。そのシステムのセキュリティが脆弱であれば、そこから作成された財務諸表の信頼性は疑わざるを得ない。 公認会計士であれば、上場企業に関しては、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)でIT内部統制の監査が要求され、それ以外の企業についても、会社法監査の対象となる会社については、少なくとも必要最低限のセキュリティを確認することになる。 また、税理士であれば、あまりにセキュリティが脆弱なシステムを利用しながら決算書や申告書を作成することにリスクを感じるだろう。 以下、筆者の経験上、セキュリティが脆弱となっているケースが多い事象を中心に、中小企業においても押さえておきたいセキュリティをいくつか紹介する。   ◎特権IDの管理 特権IDの定義は様々である。まず、どのような特権IDを確認すべきかを明確にし、その状況を把握する必要がある。 財務諸表への影響を考えると、次のようなものを確認すべきである。 これらの特権IDは、すべてが一つの特権IDで実行できるケースや、いくつかのことを一つの特権IDで実行できるケース、すべて異なる特権IDであるケース等、システムの状況によって様々であることに注意しながら、まずは該当する会社の特権IDを特定することから始めると良い。 なお、①②については、中小企業であればパッケージシステムを利用し、プログラム更新やデータベースの直接修正を実施しないケースが多いため、ここでは説明を省略する。 ③については、例えば、商品単価マスター登録、受注登録、出荷登録、会計仕訳計上処理といった一連の処理を一人で実行することが可能なため、架空の財務関連データを誰のチェックもなしに登録することが可能となってしまう。 また、④については、適当なユーザIDを追加して不正なデータを登録した場合、誰がそのIDを利用して不正なデータを登録したかが事後的に追跡できなくなる。また、そもそも追跡できないことがわかっているので不正なデータを登録しやすいのである。 中小企業において、例えば経理部全員が③及び④が実行できる権限となっているケースも見受けられ、数名の管理者のみに限定すべきである。 また、複数人で共有しているケースも多く、その場合は、実行ログを追跡したとしても誰がその特権IDを利用して不正を実行したのかが特定できなくなるおそれがある。原則として個人別に付与し、共有するのであれば、少数に限定して利用者を特定できる状況にしておくべきである。 さらに、近年、情報漏えい事件が頻発しており、中小企業においても他人事ではない。特にこういった特権IDを利用して大量にデータをダウンロードするケースもあり、その点からも注意が必要である。   ◎パスワードの管理 上述の特権IDも含め、その他の一般ユーザIDに関してもいえることであるが、ほとんどのシステムでは、システム利用時にユーザIDとパスワードが要求される仕様となっているが、そのパスワードの社内ルール(最低桁数、英数や大文字小文字の混在、定期変更等)がなく、結果として容易に推測可能なパスワードが設定され、いわばパスワードが設定されていないのと同じ状況が散見される。 よくあるケースとしては、ユーザIDとパスワードがともに社員番号であるケースである。 これでは、他の社員のパスワード(つまり社員番号)は容易に知りうる状況が多く、ユーザID、パスワードによるセキュリティ機能が無意味になっているといえる。 別の言い方をすると、ほとんどの社員に関して、他人のユーザIDとパスワードでログインすれば、上述の特権ID③と同様に、システム上のすべての処理が実行できる状態となっているのである。 その他、パスワードの社内ルールを規定しないと、パスワードが単純な数値の羅列(1234、1111等)や氏名になるケースも多く、注意が必要である。 まずは、特権IDのほか、重要なシステム処理(仕訳計上、入出金処理等)を実行するユーザIDについてだけでもパスワードの社内ルールで制約し、可能であればシステムでこういったルールを強制してルールを満たさないパスワードは登録できないようにすることが必要である。   ◎バックアップの管理 データのバックアップについては、震災の影響もあって、セキュリティ意識が高まってきているようである。 しかし、まだまだ杜撰なバックアップ管理も散見され、なんらかの事情によってシステムがダウンした時に、バックアップデータからリカバリが実施できないおそれがある企業も存在している。 対処方法としては、バックアップの実施をチェックすることが重要である。 システム担当者がバックアッププログラムを起動するケースと、システムのスケジュールによって自動で起動するケースがあるが、両者ともに必要である。 前者においては、担当者が実施を失念する、ないし、日常業務に追われ実施しないといったケースもあるため、できれば運用日誌等に実施結果を記載し、責任者が確認するといった運用が望ましい。 後者においても、バックアッププログラムが正常終了されていないこともありうるため、定期的に実行結果のシステムログを確認するとよい。 また、震災後、バックアップ媒体を分別保管する会社も増えている。 サーバーの本番機とバックアップデータを格納している媒体が同じ場所に存在すると、災害発生時には同時にデータを喪失することが懸念されるため、少なくとも同じ建屋には保管しないことが望まれる。 また、そもそもサーバールームがなく、システム担当者の足元にサーバーが設置されているようなケースも見受けられる。飲食物をこぼす、清掃中に破損するといった初歩的なミスが会社の重要データが喪失するといったことにもつながりうることから、サーバールーム等への設置が望ましいのはいうまでもない。 さらに、サーバールームの入室制限に関しては、過去には、会社を解雇された従業員が腹いせにサーバーを破壊して退職したといった事件もあるようなので、システム管理者以外は入室できないように施錠管理をすることも望まれる。 (了)
#19(掲載号)
#神崎 時男
2013/05/16
労務・法務・経営 経営

NPO法人 “AtoZ” 【第7回】「NPO法人の税務②」~法人税・住民税・源泉所得税等~

NPO法人 “AtoZ” 【第7回】 「NPO法人の税務②」 ~法人税・住民税・源泉所得税等~   税理士 岩田 聡子   1 法人税 NPO法人も収益事業を行う場合には、各事業年度終了の日から2ヶ月以内に、税務署長に対し、法人税の申告書を提出しなければならない(法法74)。 提出書類は、法人税確定申告書、貸借対照表・損益計算書、勘定科目内訳明細書、事業等の概況に関する書類で、添付書類は収益事業以外の事業に係るものを含む、とされている。 法人税は収益事業から生ずる所得のみに課せられるため、NPO法人は、資産・負債、収益・費用を収益事業と収益事業以外の事業に区分して経理することが必要となる。 費用は、収益事業に係る事業費と、管理費のうち収益事業と収益事業以外の事業に共通する資産や費用について資産の使用割合、従業員の従事割合、資産の帳簿価額の比、収入金額の比等の合理的な基準により、按分して計算した収益事業に係る金額を合計して計算する。 また、通常NPO法人が委託者から委託を受けて事業を行う場合には請負業に該当し、収益事業に該当することから、その所得に対し、法人税が課されることとなる。 しかし、その委託が実費弁償による事務処理の委託等に該当する場合には、事前に税務署長に申請して確認を受けることにより、収益事業としないこともできる。 「実費弁償による事務処理の委託等」とは、委託により委託者から受ける金額が当該業務のために必要な費用の額を超えないことが契約等により定められているものをいう。 NPO法人が委託を受ける業務の中には、請け負った業務の収入がその業務に係る費用相当分か、それ以下となり、利益を生じないよう定められた契約もあるため、このような業務を行う際には、あらかじめ、税務署長に申請することを失念しないよう、留意しなければならない。   2 住民税 収益事業を行っている場合には、法人税だけでなく、各事業年度終了の日から2ヶ月以内に、住民税の申告が必要である(地法53①、321⑧)。 都・県民税はそれぞれ都税事務所、県税事務所へ、市町村民税は市役所、町役場、村役場へ申告する。 収益事業を行っていない場合でも、住民税では均等割が課される(地法23①一、292①一)。 ただ、この場合の均等割については、通常、条例の定めにより、住民税の減免申請をすることで、免除を受けることができる。 減免申請書の提出は年1回であり、自治体ごとに期限が定められているため、提出期限に注意しなければならない。 この期限は4月頃としているところが多いようだが、それぞれの自治体に確認する必要がある。   3 源泉所得税 NPO法人が給与を支払う場合には、所得税を源泉徴収しなければならない(所法183)。 給与に対する源泉徴収は、給与の支給条件、雇用状況により、源泉徴収税額表に基づき計算する。 NPO法人が原稿料、講演料、出演料、弁護士・税理士等に対する報酬料金等を支払う場合には、支払金額の10.21%(100万円を超える部分は20.42%)の源泉所得税(復興特別所得税含む)を徴収しなければならない(所法204、復興財源確保法28①②)。 謝金、取材費、調査費、お車代等の名目で支払う場合でも、これらの実態が講演料等と同様であれば、金額の多寡にかかわらず、源泉徴収の対象となる。 ただし、直接交通機関等へ通常必要な範囲の交通費や宿泊費などを支払った場合、つまり、かかった費用の実費相当額をホテルや旅行会社に支払う場合には、その実費相当額は源泉徴収の対象とはならない。 源泉税の納付は原則、支払日の翌月10日までであるが、給与等の支払いを受ける者が10人未満の場合には、弁護士・税理士等に対する報酬については、税務署長に申請書を提出することにより、半年ごとの納付も認められている(所法216)。   4 印紙税 NPO法人が発行する領収書や受取書は、たとえ収益事業に係るものであっても、営業に該当しないものとして印紙税は非課税となるため、印紙を貼る必要はない。 定款についても、印紙税は非課税とされている。 (了)
#19(掲載号)
#岩田 聡子
2013/05/16
労務・法務・経営 経営

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第8回】「DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅱ」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第8回】 「DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅱ」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅱは、第5回で掲載した図表5に示すように、6項目から構成されている。 (【第5回】より再掲) 図表5 機能評価係数Ⅱの見直し 2012年度診療報酬改定において、地域医療係数、救急医療係数、データ提出係数については多少の変更が加えられたが、基本的な仕組みは変更されず、今後も大きな方向性は変わらないものと予想される。 2012年度診療報酬改定では、医療機関群(Ⅰ群・Ⅱ群・Ⅲ群)の設定が行われ、DPC対象病院全体で評価された項目(データ提出係数、効率性係数、救急医療係数)と医療機関群ごとに評価された項目(複雑性係数、カバー率係数、地域医療係数)に分かれた。これらは医療機関の質的側面を評価したものであり、DPCに参加するか否かにかかわらず、今、急性期病院に求められていることが凝縮されている。 A) データ提出係数 DPC/PDPSでは、適切なデータを提出することが極めて重要であり、院内で一生懸命行っているベンチマーク分析は、データが正確でなければその意義が薄れてしまう。このデータ提出係数は、DPC/PDPSの中で今後さらに重要性が増すことが予想される。 2012年度改定では、データ提出については、新たに精査した「部位不明・詳細不明のコード」の使用割合が20%以上の場合に減算が行われ、従来の40%よりも厳しくなった。また、今後は、郵便番号やがんのステージなどの必須項目への入力が適切に行われない場合には減算が行われる予定になっている。 B) 効率性係数 効率性係数は、包括評価の対象となっている診断群分類において、在院日数を短縮する努力が評価されたものである。 在院日数の短縮は、患者1人1日当たりの入院診療単価を高めるだけでなく、効率性係数においても評価されていることから、DPC/PDPSの環境下では、在院日数の短縮が成長のための重要な鍵を握っている。つまり、ベッドコントロールが病院経営にとって重要であることを意味している。 ただし、この効率性係数は、平均在院日数を単純に短くすることとは異なる側面を有している。DPC/PDPSでは診断群分類ごとに入院期間Ⅱ(全国の平均日数)が決まっており、その日数と比較して長いか短いかを検討することが、この係数の向上につながる。 ただでさえ短い日数の患者を無理やり短縮するよりも、全国平均と比べて長い疾患の患者を短縮する方が合理的である。 C) 複雑性係数 複雑性係数は、各医療機関の患者構成の差を1入院当たり点数に補正して評価したものであり、重症な患者割合を表している。 ここでいう重症とは、全国平均でみたときに在院日数が長く、1入院当たりの包括点数が高い疾患がどのくらいの割合を占めているかが評価されている(自院で在院日数が長いか短いかが評価されたのではなく、全国平均の在院日数であることには注意が必要である)。 つまり、白内障などの短期入院が多い病院では、複雑性係数は低くなるし、がんや脳卒中などの患者が多い病院は複雑性係数が高くなる。複雑性係数は、どのような疾患の患者を診ているかが評価されたものであり、在院日数が短い疾患は手がかからないのであろうという前提が置かれている。 なお、患者構成については、中長期的には変更することができるかもしれないが、短期では医師の大量退職や入職がない限り、ほとんど変わらない。その際にできることは、副傷病名を実態に合わせて入力することである。 副傷病名とは、疾患コード・疾患名を決定するに至った主傷病名以外の傷病名であり、入院時併存症と入院後発症疾患の両方が含まれている。漏れがちな病名記載を患者の病態に合わせて適切に行うことが必要となる。 DPC/PDPSは包括払いだから主病名以外の病名を記載しなくていいということは、全くの誤りである。入院中に行った診療行為すべてをきちんと記録するように心掛けることが求められている。 D) カバー率係数 カバー率係数は、多様な疾患への対応力を持つ総合的な医療機関が評価されたものである。つまり、医療機関の総合性を表している。 診断群分類のカバー率が高いということは、いつ来るか分からない患者へも対応するだけのマンパワーと設備を有しているので、そのことを評価しようという意味である。 図表1に示すように、カバー率はDPC算定病床数と有意な相関がみられ、規模が大きい病院ほど高くなる傾向がある。ただし、同規模病院でも専門病院などは不利な扱いを受ける傾向がある。 診断群分類を決定する際にあまりにもパターン化しすぎるとカバー率は低下する恐れがある。実態に合わせたコーディングを行うことにより、適切な評価を受けることができることできる。 図表1 カバー率と病床数の分布   E) 救急医療係数 救急医療係数は、救急医療入院患者について、入院後2日目までの包括範囲出来高点数と診断群分類点数表の設定点数の差額の総和を症例当たりに補正したものである。救急医療入院における入院初期の医療資源の投入量が多い場合の損失分が評価されている DPC/PDPSは包括払いであるから、検査や投薬を行い過ぎると赤字になると捉えられることが多い。しかし、救急医療入院の場合には、入院から2日目まではこの係数で補填されているので、予定入院とは性格が異なることには留意すべきである。 F) 地域医療係数 地域医療係数は、地域医療への貢献が評価されたものである。災害拠点病院やがん診療拠点病院の承認などの体制評価指数が半分のウェイトを占めている。 さらに、2012年度診療報酬改定から、医療機関が所属する地域の患者シェアが用いられており、小児(15歳未満)とそれ以外(15歳以上)について定量評価が行われている。体制評価については、4疾病5事業に係る関連事業のうち、特に入院医療において評価すべき項目であって、客観的に評価できる項目が採用された。 地域医療係数は、都市部に位置する病院には不利な傾向があり、中山間部やへき地で地域医療を支える病院に有利な傾向がある。 (了)
#19(掲載号)
#井上 貴裕
2013/05/16
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 監査 税務・会計 財務諸表監査 速報解説一覧

《速報解説》 産活法に関連する会計監査に係る監査上の取扱い(公開草案)の解説

《速報解説》 産活法に関連する会計監査に係る 監査上の取扱い(公開草案)の解説   公認会計士 阿部 光成   平成25 年4月24 日、日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)は、次の公開草案を公表した。 意見募集期間は平成25年5月15日(水)までである。 公開草案の本文は、日本公認会計士協会のホームページから入手できる。 今般、これらの公開草案が公表されたのは、①「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(以下「産活法」という)の改正への対応と②新たな会計基準の公表や監査基準の改訂等に対応するためである。 本稿では、これら公開草案について解説を行う。 公開草案は、経済産業省から平成25年4月24日付けで公表された「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」の内容と密接に関連しているので、同Q&Aもお読みいただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 監査上の取扱い(案)について 1 対象 産活法の適用に当たり、従来から会社法監査又は金融商品取引法監査を受けている会社は、当該法定監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付することとなる。このため、監査上の取扱い(案)は、産活法の適用により初めて監査を受ける会社を対象としたものである(監査上の取扱い(案)4項)。 また、会社法監査のみを受けている会社においては、産活法の適用により半期報告に添付される貸借対照表及び損益計算書の監査に当たり、監査上の取扱い(案)を適用することとなる(監査上の取扱い(案)5項)。 2 監査対象となる貸借対照表及び損益計算書 主務大臣から債権放棄を含む計画の認定を受けた会社は、認定を受けた債権放棄を含む計画(以下「認定計画」という)の実施期間の各事業年度における実施状況、及び事業年度開始以後6ヶ月間の実施状況について主務大臣に報告するに当たり、公認会計士等の監査を受けた貸借対照表及び損益計算書を添付する(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則48 条7項)。 「債権放棄を含む計画Q&A(改訂版)」Q4では次のことが述べられているので、注意が必要である(監査上の取扱い(案)6項)。 3 監査の実施時期等 産活法に基づく監査は、産活法適用の申請及び認定という手続を受けて行われるため、その監査委嘱の時期及び監査の実施時期は通常の監査とは異なる場合が想定される(監査上の取扱い(案)7項)。 産活法に基づく監査は、その認定時期により次の計算書類の監査が必要となる。 4 監査契約に係る予備的な活動 監査契約に係る予備的な活動として、監査契約の十分な理解に関して、監査基準委員会報告書210「監査業務の契約条件の合意」において要求される事項など、監査基準委員会報告書300「監査計画」5項及び12 項の規定に基づき実施する必要がある。 監査契約の締結に伴うリスクを評価については、慎重に判断することが必要と考えられる(監査上の取扱い(案)8項~13項)。 5 資産の評価その他の会計処理 認定計画においては、企業再生のための抜本的な事業の見直しや今後事業に供さない資産の処分等の計画が織り込まれる。このため、会計監査上のポイントとしては、資産評価に重点が置かれることが多いと考えられる。 監査上の取扱い(案)で述べられている次の事項については、認定事業者の会計処理上、特に留意が必要と思われるものを例示列挙したものであり、従来の会計基準と異なる新たな処理方法等を示したものではないとしているので、実務への適用に際しては注意が必要と考えられる(監査上の取扱い(案)15項~23項)。 6 監査手続に関する留意事項 法定監査を受けていない会社は、産活法の適用により初めて監査を受けることとなる。この際、次の事項と共に、監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」にも注意する(監査上の取扱い(案)25項~34項)。 7 監査範囲の制約 監査範囲の制約が存在する場合には、監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」に基づき対応することとなる(監査上の取扱い(案)35項)。 8 監査人の責任 監査人の責任は、計算書類又は臨時計算書類について、独立の立場から、我が国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行い、監査意見を表明することにある(監査上の取扱い(案)36項)。 監査報告書は、認定事業者の認定計画における将来予測の正確性や適正性を保証するものではないことに留意する。 監査報告書の文例としては、文例1から文例4が掲載されている(監査上の取扱い(案)37項)。 そのほかの除外事項付意見の監査報告書の記載方法については、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」に基づくこととなる。 9 継続企業の前提との関連 監査基準委員会報告書570「継続企業」に基づき慎重な対応をすること、監査基準委員会報告書560「後発事象」及び監査・保証実務委員会報告第76 号「後発事象に関する監査上の取扱い」に基づいて後発事象に関する検討を行うことが述べられている(監査上の取扱い(案)38項、39項)。 10 初めて監査を受けることとなった決算期(臨時会計年度)の取扱い 監査契約の締結時期により監査範囲の制約を受けた場合は、その重要性を勘案し、監査範囲の制約の影響につき除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、又は意見を表明しないこととなる(監査上の取扱い(案)40項)。   Ⅱ 研究報告(案)について 公認会計士又は監査法人は、事業再構築計画又は経営資源再活用計画(以下「事業再構築計画等」という)の認定の申請のために、申請事業者が申請書に添付する「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」を作成するための業務を申請事業者から依頼されることがある。 当該業務は、公認会計士等が申請事業者との間で合意の上で手続を実施し、その実施結果の事実を申請事業者に報告する、「合意された手続業務」として実施される。 研究報告(案)は、会員の実務の参考に資するように、このような合意された手続業務を実施する上での留意事項を提供するものである。 実際の業務の実施に当たっては、監査・保証実務委員会研究報告第20号「公認会計士等が行う保証業務等に関する研究報告」が参考となる。 1 公認会計士等による報告書の目的並びに利用及び配布の制限 「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、申請事業者の事業再構築計画等の認定申請に関連して、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行規則4条3項又は9条3項において定める「資金計画」に記載された計算式及び計算結果が、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」二 イ 「2 事業再構築による財務内容の健全性の向上に関する目標」の①及び②に定められた計算式、及びこれに関連する「貸借対照表等の予想推移」に基づくものであるか否かに関して、報告書の利用者による評価に資することを目的として作成されるものである。 「貸借対照表等の予想推移」とは、債権放棄を前提に申請事業者により策定される事業再構築計画等の申請において申請事業者によって作成された対象期間中における貸借対照表及び損益計算書等の予想推移をいい、「資金計画」とは「貸借対照表等の予想推移」並びに「貸借対照表等の予想推移」に基づく上記の計算式及び計算結果を示す書類をいう。 「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」は、合意された手続業務の性質や実施された手続の内容、報告書の目的を十分に理解した者のみが利用すべきものであり、認定申請以外の目的による配布又は利用を制限する旨を記載することが必要となる。 このため、上記報告書の想定利用者は、認定申請の関連者である申請事業者及び申請先である主務官庁に限られる。 主務官庁は報告書の利用者であるが、公認会計士等と個別の業務ごとに実施する手続について合意することなく業務を実施することとなる。 監査・保証実務委員会研究報告第20号においては、業務実施者が報告書の利用者との間で実施する手続について合意ができない場合があるとされており、「資金計画に係る公認会計士又は監査法人の報告書」の作成業務はそのような例外的な場合に該当する。 2 実施手続 報告書作成業務のために公認会計士等が実施する手続は、通常、以下のとおりである。 (1)の手続において、計算式の中に、「資金計画」から直接的に確かめることができない項目や金額があった場合には、当該部分について「資金計画」の修正又は明細書の添付を申請事業者に要請した後、修正後の「資金計画」等の項目及び金額が、前述の計算式の項目及び金額と一致していることを確かめる。 計算式に含まれる項目の定義等については、「我が国の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する基本的な指針」の備考として記載されているが、その解釈に関しては、主務官庁の解釈に従うこととし、必要に応じて、その都度主務官庁に確かめる。 なお、研究報告(案)では、「公認会計士等の報告書の文例」が掲載されている。 3 公認会計士等の責任 報告書作成業務は、一般に公正妥当と認められる監査、レビューの基準、又はその他の保証業務の基準に基づく保証業務ではないため、「資金計画」に記載されている計算式に含まれる貸借対照表等の予想推移について監査意見又はレビューの結論を表明するものではない。 報告書作成業務は、その実施する手続の実施結果の事実のみを報告するものであり、「資金計画」の適正な表示やその将来予測の正確性を保証するものではない。 (了)
#18(掲載号)
#阿部 光成
2013/05/10

新着情報

もっと見る

記事検索

メルマガ

メールマガジン購読をご希望の方は以下に登録してください。

#
#