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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第5回】「DPC/PDPSにおける医療機関別係数」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第5回】 「DPC/PDPSにおける医療機関別係数」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   DPC/PDPSでは、医療機関別係数が存在し、医療機関ごとの係数に基づき診療報酬の支払いを受ける。DPC/PDPSが包括払いだからといって、必要な検査や投薬を行わない粗診粗療は行うべきではなく、大切なことは王道に立ち返り、医療機関別係数を高めることである。医療機関別係数が高い病院と低い病院では1.5倍の差がついており、1点10円全国一律が診療報酬の常識である中で、特別な存在ともいえる。 医療機関別係数は、基礎係数、暫定調整係数、機能評価係数Ⅰ及び機能評価係数Ⅱの4つから構成されている。このうち、機能評価係数Ⅰは、主に医療機関の構造的な側面が評価されたものであり、7対1入院基本料などDPC/PDPSに固有のものではない(図表1)。係数の金額的な重みは今のところ大きく、体制を整備し、施設基準等の届出を適切に行うことが期待される。 図表1 機能評価係数Ⅰ(一部) 次に基礎係数は、2012年度診療報酬改定で導入されたものであり、医療機関群ごとに異なる係数設定が行われている。基礎係数における医療機関群は、Ⅰ群・Ⅱ群・Ⅲ群の3群から構成されており、Ⅰ群が大学病院の本院(80病院、基礎係数:1.1565)、Ⅱ群が大学病院本院に準ずる高診療密度を有する病院(90病院、基礎係数:1.0832)、Ⅲ群がその他急性期病院(1,335病院、基礎係数:1.0418)とされている(図表2)。 図表2 調整係数の見直しに係る対応と経過措置 暫定調整係数は、DPC/PDPSが導入された当初より、前年度並みの収入を保証する役割を果たしてきたものであり、平成30年までには廃止されることになっている。ただし、現状では暫定調整係数の高い医療機関も存在し、これらの医療機関は今後、他の係数を高めなければ大幅な減収になる可能性がある(図表3)。 図表3 暫定調整係数/機能評価係数Ⅱ 全国トップ30病院 暫定調整係数には、その性格が不明瞭であるという批判もあり、また、地域差も存在する。特に北海道は当該係数が高く、出来高算定時代に標準化が進んでいなかった、あるいは標準化しづらい患者が多かったということを意味する可能性がある(図表4)。 図表4 都道府県別 暫定調整係数の平均値 最後に機能評価係数Ⅱが医療機関の質的面からの機能を評価したものであり、6項目から構成されている(図表5)。 図表5 機能評価係数Ⅱの見直し 2012年度診療報酬改定において、地域医療係数、救急医療係数、データ提出係数については多少の変更が加えられたが、基本的な仕組みは変更されず、今後も大きな方向性は変わらないものと予想される。 2012年度診療報酬改定では、前述したように、医療機関群の設定が行われ、DPC対象病院全体で評価された項目(データ提出係数、効率性係数、救急医療係数)と医療機関群ごとに評価された項目(複雑性係数、カバー率係数、地域医療係数)に分かれた。 今後、暫定調整係数が廃止され、機能評価係数Ⅱのウェイトが高くなるため、当該係数の向上に向けた取組みが期待される。 (了)
#13(掲載号)
#井上 貴裕
2013/04/04
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《速報解説》 金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令の改正ポイント

《速報解説》   金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う 金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する 内閣府令の改正ポイント   宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問  小谷  融 (大阪経済大学教授) 研究員 増田 美和   Ⅰ 改正された内閣府令 「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第14号)が平成25年3月29日に公布された。   Ⅱ 主な改正内容等 平成21年6月24日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号)。以下「改正法」という)による金融商品取引法の改正により、「有価証券の売出し」に係る開示規制は大きく見直しが行われた。これらを実施するための政府令に、平成21年12月28日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第78号。以下「改正府令」という)がある。 改正法による改正前の法23条の14第1項ただし書に基づき、日本証券業協会の規則に定めるところによる有価証券の内容等を説明した文書(外国証券内容説明書)を投資者に交付することなどにより「海外発行証券の少人数向け勧誘」が行われた有価証券(少人数向け勧誘対象海外発行有価証券)が存在していた。 改正法により、この「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を開示の行われないまま転売するには、「外国証券売出し」(法4条1項4号、27条の32の2)又は「少人数私売出し」(法2条4項2号イ・ハ)を行うことが必要となった。しかしながら、その「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」が「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しない場合には、「少人数私売出し」を行うことになり、転売制限が付される。 その結果、改正前に、譲渡制限が付されていない「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を取得した投資者がそれを売却する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止されるなどの譲渡制限が付されることとなり、売却が困難となることがある。このため、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」のうち、「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しないものについては、平成25年3月31日までの間、「少人数私売出し」の要件を「改正前の外国証券内容説明書を交付すること」とすることができるとされた(改正府令附則4条1項)(注)。 (注) 谷口義幸「有価証券の売出しに係る開示規制の見直しの概要(上)」『商事法務』No.1902(2010.6.25) これにより、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を転売する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の譲渡制限は付されず、その勧誘の相手方に外国証券内容説明書を交付することにより、「少人数私売出し」を行うことができることとなった。なお、この場合、「少人数私売出し」である旨の告知を勧誘の相手方に行う必要がある(法23条の13第4項) 本改正は、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」について、「少人数私売出し」の要件に関するこの経過措置を3年間延長し、平成28年3月31日までの間とするものである。   Ⅲ 適用時期 平成25年3月29日から適用する。 (了)
#12(掲載号)
#増田 美和
2013/04/02
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《速報解説》 金融庁 企業会計審議会開催~不正リスク対応基準を承認。IFRSの議論はかみ合わず

《速報解説》 金融庁 企業会計審議会開催 ~不正リスク対応基準を承認。 IFRSの議論はかみ合わず   Profession Journal編集部   金融庁は3月26日、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開き、「監査基準の改定及び監査における不正リスクの対応基準の設定に関する意見書」を承認するとともに、IFRSについて、カナダと韓国における適用状況の報告及び我が国の当面の対応について意見交換を行った。 出席した島尻安伊子内閣府金融担当大臣政務官から「日本における国際会計基準適用の在り方については様々な考え方があり、適用の今後の方向性については、幅広い共通理解が得られるよう、引き続き議論を行っていく必要がある。国際情勢を踏まえ、日本が孤立することのないように留意をしつつ、日本にとって最適な対応を総合的に検討してほしい」という発言があり、当面、これまでの議論を続けるという政府のスタンスを明らかにした。   IFRSのカナダ・韓国での適用状況 事務局(金融庁)より、カナダ、韓国ともIFRS適用についておおむね順調に適用されているという報告があった。しかしそれを受け、佐藤行弘委員(三菱電機常任顧問)から、経済産業省企業財務委員会が、韓国高麗大学のジョン・ソクウ教授を招請し行った「韓国でのIFRS導入について」の講演の中で、「韓国でのIFRS適用はほぼ問題なく進捗したが、企業間の比較可能性が低下し、また海外からの投資、特に欧州からの投資が低下した」という指摘があったことを報告した。   経団連の当面の対応 谷口進一委員(新日鐵住金常任顧問)から、日本経済団体連合会(経団連)企業会計委員会の立場から「国際会計基準(IFRS)への当面の対応について」報告があった。 原則主義といわれるIFRSを実務で適用する際には様々な課題が生ずることから、円滑な任意適用を進めるために、具体的解決策を互いに紹介し合い、後に続く企業に実例としてフィードバックする必要がある。 具体的には、ゼロベースで会計実務を変更しなければならないという誤解や、当期利益に代表されるマネジメントの考え方からは受け入れ難い基準があること、さらに開示負担が過大であることなどが挙げられる。 これらの課題に実務的に対応していくためには、タイムリーにガイダンスを作成し、データベース化等により実務を共有する仕組みが必要であり、また、受け入れ難い基準についての改善、開示の簡素化等をIASBに要求していく必要がある。そのために、我が国の発言力を高めていかなければならない。 現在、IFRS適用企業が8社、任意適用公表企業が8社である。報道等により明らかになっている適用を検討している企業を含めると、約60社が任意適用の対象企業である。この約60社の時価総額は2月末ベースで約75兆円。2012年末の市場の時価総額は韓国が100兆円、ロシア70兆円、シンガポール65兆円であり、ロシア・シンガポールの時価総額に匹敵する。また、我が国の時価総額上位50社のうち約4割の企業が任意適用の公表あるいは検討を行っていると考えられる。 今後の検討課題として、IFRSの適用に関する予見可能性を高められるような時間軸(ロードマップ)を示すことが重要であること、受け入れ困難な基準については、我が国での取扱いのプロセスを明確化していく必要があることを挙げ、その場合でも、諸外国の証券市場での使用を可能とするため、ピュアなIFRSの適用が必須である。 補足説明として、経団連企業会計委員会委員長の釜和明委員が、IASBに対する発言力を高めていく必要性について、リース、収益認識の開示などに我が国の意見が十分に反映されていないという懸念を示した。   ロードマップ また、別の委員から、「グローバルな枠組みが構成されていく中で、2012年7月のSECの最終報告書で米国はコンドースメントアプローチを採用し、US-GAAPを残すことが明確になった以上、IFRSの強制適用はないという、我が国の企業会計制度の枠組みの方向性を明確化するタイミングに来ているのではないか」という意見があった。 ロードマップについて事務局から、「時間軸を早く示すべきであるという意見が多々あることは承知しているが、国際情勢の変化もあり、容易ではないことはご理解いただきたい。とりあえずは、2012年7月に公表された「中間的論点整理」の検討課題を順番にやっていく」との考えを示した。さらに、もし強制適用になった場合には、ロードマップがないと困るのではないかという意見に対し、「その場合は、強制適用が決まった時点からその先どういう工程で進めるのかという強制適用のロードマップを、その時点で作ることになる」という考えを示した。 金融庁、基準作成サイド、企業サイドの意見がかみ合っておらず、2012年の「中間的論点整理」以降、議論が進んでいない現状が明らかになった。 (了)
#12(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2013/03/28
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《速報解説》 商業・サービス業・農林水産業活性化税制の創設─平成25年度税制改正

《速報解説》 商業・サービス業・農林水産業 活性化税制の創設 ─平成25年度税制改正─   公認会計士・税理士 新名 貴則   平成25年1月29日に閣議決定した平成25年度税制改正大綱(本稿公開時点では改正法案が参議院にて審議中)において、中小企業活性化のために設備投資を促進する税制が創設された。 具体的には「商業・サービス業及び農林水産業を営む中小企業等の経営改善に向けた設備投資を促進するための税制措置の創設」という(改正法案では租税特別措置法42条の12の3)。 ここではその内容について解説する。 税制の概要 中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置を創設する。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。   〔イメージ図〕 (了)
#12(掲載号)
#新名 貴則
2013/03/28
国税通則 相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

後発的事由による更正の請求と未分割財産

後発的事由による更正の請求と 未分割財産   税理士 小林 磨寿美   解 説 1 申告期限後3年以内に分割取得した財産についての配偶者の税額軽減等の適用 配偶者の税額軽減の特例及び小規模宅地等の減額特例については、未分割財産には適用されない。しかし、対象としたい財産が相続税の申告期限において未分割であっても、申告期限後3年以内に分割されれば、これらの特例の対象財産となることとなり、相続税の更正の請求を行うことで、軽減規定等の適用を受けることができる(相法19の2②ただし書、同32①八、措法69の4④ただし書、相基通19の2-4(7))。 もっとも、この規定の適用を受けるためには、この期限内申告書の提出時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出していたということが必要となる(相規1の4③二、措規23の2⑦五)。 ところで、平成23年12月改正により、一般の場合の更正の請求期間が原則として法定申告期限から5年となったことにより、上記の場合の更正の請求期限は、相続税法32条1項の「事由が生じたことを知つた日の翌日から4月以内」と、国税通則法23条1項の「法定申告期限から5年以内」のいずれが適用されるか疑問が生じる。 もともと、後発的事由による更正の請求の規定は、既に確定した課税要件事実が、遡って変動することとなった場合に、その事由が生じた日から一定期間に限り、更正の請求ができる旨を定めたもので、国税通則法23条2項の他、各個別税法において設けられているものである。そしてこの規定は、課税要件事実の変動により、課税の根拠が失われたことに対応したものであり、「確定済みの租税法律関係を変動した状況に適合させるために認められた救済手続」(金子宏『租税法(17版)』721頁)という性格のものである。 そして、遺産の分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずることから(民909)、申告期限後に遺産分割が行われた場合、期限内に行われた当初申告は、「国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたこと」により、その申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときという要件を満たすこととなり、相続税法32条1項と、国税通則法23条1項の両方の規定がそのまま適用できることになる。 また、国税通則法23条2項括弧書に、「納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。」とあることからも、後発的事由が生じた場合の更正の請求の期限が後になる場合を除き、一般の更正の請求の規定が優先されることが分かる。   2 分割期限を伸長した場合にやむを得ない事情が解消され特例の適用を受ける場合 相続税の申告期限から3年以内に遺産分割を行うことが、配偶者の税額軽減の特例及び小規模宅地等の減額特例の規定の適用を受けるための要件であるが、やむを得ない事情があるときは、税務署長の承認を得て、3年という分割制限を伸長することができる(相令4の2①、措令40の2⑪、相基通19の2-15)。 そして、分割できることとなった日から4ヶ月以内に分割することを条件に、更正の請求により、これらの規定の適用を受けることができることとなる(相法19の2②括弧書、措法69の4④括弧書)。 この税務署長の承認を得るためには、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する必要がある(相令4の2②④、相規1の4②、同1の6②、措令40の2⑪)。 この特例については、上記のような承認を必要とすること及び平成23年改正前は一般の場合の更正の請求期限に間に合い得なかったことから、分割後4ヶ月以内の更正の請求が特例適用のためには必要と考えられていた。 しかし、分割取得財産について軽減特例等の適用対象とするための要件は、その分割可能となった日から4ヶ月以内に分割により取得することのみであることから、この分割期限を満たしたならば、3年以内の分割規定と同様に、相続税法32条1項と、国税通則法23条1項の両方の規定がそのまま適用できることになり、そのいずれか遅い日までに更正請求書を提出すればよいこととなる。   3 相続させる旨の遺言があった場合 遺産全部を一部の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに遺産全部について分割の効果が発生し、もはやその遺産について再度の分割がなされる余地はなく、また、その相続人に法定相続分を超える遺産を相続させることになるから、遺産分割方法の指定と同時に相続分の指定がなされたものと解すべきであるとした裁決例がある(平23.12.6裁決)。 この判断は、最高裁平成3年4月19日第二小法廷平成1年(オ)174号土地所有権移転登記手続請求事件判決(民集45巻4号477頁)をベースとしたものである。 判決では、「「相続させる」趣旨の遺言は、正に民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」としている。 一方、実務的にはすべての相続人及び受遺者の合意により、遺言に従わない遺産分割が認められている。そうすると、相続税の申告期限までに遺言に従うかどうか、関係者間で方針が定まらない場合に、3年以内の分割見込書を提出し、その後遺産分割がされたとして配偶者の税額軽減や小規模宅地等の減額特例を適用したところで更正の請求書を提出できるかという疑問が生じる。 しかし、上記裁決、そして最高裁判決の趣旨からは、このような分割見込書の提出は遺産が未分割であるという前提を欠くものとなり、国税通則法23条1項に該当し得ないこととなる。   4 当初申告において特例の適用を選択した宅地等を変更する場合 小規模宅地等の減額特例の規定では、「第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第27条又は第29条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む) に第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。 」(措法69の4⑥)とあることから、当初申告においてこの特例を適用した宅地について、税務調査等によりその要件に該当しないことを指摘された場合に、別の宅地について特例の申請を前提に修正申告を行うことも可能とされている。 しかし、納税者が申告期限までに適法に選択した宅地について、申告期限後に別の宅地を選択した方が納税額が少ないことが分かったとしても、更正の請求によって選択替えの変更はできない。さらに、同特例の適用を受けた相続人が他の相続人と共有している宅地であっても、申告期限後においては選択した適用者を変更することはできない。 これに対し、当初の遺産分割協議が錯誤により無効とされ、申告期限後3年以内に改めて分割がされた場合、小規模宅地等の減額特例が適用できるかという問題がある。法律行為が無効とされた場合、その行為は始めから生じなかったこととなる。したがって、3年以内分割特例の適用は、選択替えには該当しない。しかし、3年以内分割特例については、上述のように、期限内申告書の提出時の「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が要件となることから、やはり、この場合も特例の適用は受けられないこととなり、国税通則法23条1項の前提を欠くこととなる。 (了)
#12(掲載号)
#小林 磨寿美
2013/03/28
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第16回】税率変更の問題点(15) 「税込処理における消費税の転嫁に関する問題」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第16回】 税率変更の問題点(15) 「税込処理における 消費税の転嫁に関する問題」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 消費税の転嫁における問題点 平成9年4月の税率改正時においても問題となった項目であるが、消費税につき税込価格を前提として事業を行っている事業者が1円単位まで徴収することが可能かどうかといった問題点がある。 今回の税率改正では、平成16年4月の総額表示義務規定の創設により、平成9年の改正時よりも価格の表示や設定につき厳密に取り扱われる可能性があり、注意が必要である。 この問題において、特に注意が必要な事業として、事業の性質上、消費税込みの対価の額を10円単位や100円単位で設定しなければならない事業者が考えられる。 例えば、10円単位で価格を設定している事業者で本体価格を400円とした場合には、税率によって以下のようになる。 上記の場合において、10%の税率においては、5%と同様に消費税額を転嫁しても10円単位となり問題は生じないが、8%の税率においては、10円単位にするには、430円として2円分を切り捨てて販売するのか、又は8円分を上乗せして販売するのかといった問題が生ずる。 また、上記の8%の取引を継続的に行う場合において、その価格を430円又は440円にした際の消費税の計算は、以下のようになる。 なお、上記の取扱いについては、10円の端数処理をしていることから、第3回で紹介した旧規則22条の規定の適用はないことに注意しなければならない。 上記のように、税込価格を430円にて販売すると消費税の納付税額が3,185,000円となり、消費税として転嫁した部分の3,000,000円を超えることから、本体価格を実質的に値引販売したこととなり、事業者の収益を大きく減少させる可能性がある。 これに対し、税込価格を440円で販売すると消費税の納付税額が3,259,100円となり、消費税を転嫁した部分の4,000,000円よりも少なくなることから、本体価格を実質的に値上販売したこととなり、「便乗値上げ」ということで独占禁止法等の問題が生じる可能性がある。 10円単位や100円単位で価格を設定しなければならない事業には、以下のようなものがある。 これらの事業における対応策として、自動販売機の場合には、その販売する商品等の容量を減量して対応することも考えられ、同様の手法によれば、旅客運賃やタクシーの場合には距離の短縮、コインパーキングの場合は時間の短縮を行うことで消費税を適正に転嫁できる可能性がある。 また、各事業者の企業努力により本体価格を値下げして対応することも考えられるが、先ほども述べたように収益が減少する点、値下げしたことにつき「消費税を転嫁しない」や「消費税を還元する」旨の広告等を打ち出せば景品表示法などの規定に違反する可能性がある点につき注意しなければならない。 これとは逆に、仕入れのコストが上がったことを理由に端数を切り上げて対応する方法も考えられるが、やはり「便乗値上げ」になるのではないかという懸念が生じることとなる。 上記のように、いずれの方法によっても問題が生じることから、消費税転嫁に関する対応策については慎重に検討しなければならない。 また上記以外にも、経過措置の適用がない請負契約や賃貸借契約において、その契約書が「税込」という文言しかないような場合において、収受すべき金額が施行日後も同額になるときは、実質値下げとなるので注意しなければならない。 同様に、機械やシステム等の保守契約で5年分を前受金として受領している場合において、施行日後に係る部分につき相手先から税率の増加分を受け取ることができないときは、実質的に値下げとなる。 さらに、元請業者から事業を受注している下請業者がその消費税込みの対価の額について、施行日後においても施行日前と同額の対価の額で取引を行うこととされた場合には、消費税の増税部分だけ値下げしたこととなる。 このように、1円単位まで厳密に消費税の徴収を行うことができない事業者、実質的に増税分を追加で徴収できない事業者など、多くの事業者がこの消費税の転嫁に関する問題を抱えており、消費税の転嫁ができない場合には、その事業による収益が減少し、さらに徴収した消費税よりも多額の消費税を納付することから、その事業者のキャッシュフローが悪化し、会社の経営状態にも大きな影響を及ぼすこととなる。 さらに、平成9年当時にもみられた消費税率の上昇に伴う個人消費の冷込みが想定され、それによる売上減少の可能性も踏まえた上で、この消費税の転嫁問題に対応する経営計画の策定を検討する必要がある。 なお、今回の改正では、政府側もこの消費税の転嫁に関する問題点につき、改正消費税法とは別に特別措置法を制定して対応する方針を打ち出しており、各事業者はその法律の内容を確認した上で対応策を検討する必要がある(下記2参照)。   2 「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」の制定 上記1の問題に対応するために、政府は今回の税率改正に伴う「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」案を制定し平成25年3月22日に閣議決定した。 この法案については、今国会での成立を目指しているが、その具体的な内容は、以下のとおりである。 また、公共料金やその他の業種の価格表示の方法については、その基本的な考え方を4月以降に公表することとしている。 消費税の転嫁に関する問題点については、上記の法案が可決され、価格の表示方法の具体例などが公表された時点で、各事業者において関連する項目を把握した上で対応策を講じる必要があり、時間的な余裕が少ない状況での対応を余儀なくされることから注意しなければならない。   連載終了に当たって 今回の税率改正について、平成9年の改正時において実務上問題となった論点を中心に確認してきたが、今回の改正においても流用できる項目が多く、経過措置規定の内容については、平成9年当時の規定とほぼ同じ内容となっている。 したがって、本稿の各論点は、税率改正に伴って事業者が事前に準備・検討しなければならない対応策の参考として位置付けていただければ幸いである。 しかしながら、この税率改正については、未だ決まってない項目も多く存在し、今後政府や各省庁から発表される法案やそれに関連する情報等についても確認が必要となるので留意されたい。 (連載了)
#12(掲載号)
#島添 浩
2013/03/28
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

『日米租税条約 改定議定書』改正のポイントと実務への影響 【第3回】「徴収共助の拡大」

『日米租税条約 改定議定書』 改正のポイントと実務への影響 【第3回】 「徴収共助の拡大」   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   1 はじめに “徴収共助”とは、異なる国家間における租税債権の徴収に関する相互協力の枠組みをいう。 例えば、外国企業が我が国から撤退する際に税金の滞納をしたままであった場合、我が国の滞納税金の徴収を当該外国企業の所在地を管轄する外国政府に要請し、外国政府が税金を徴収して送金してくれるといったことを可能にする。 相互協力が基本なので、逆に我が国が外国から要請された場合は、国税庁が外国の税金を徴収し、外国政府に送金しなければならない。 現在の日米租税条約にも徴収共助の規定はあるが、対象が租税条約の規定の濫用により発生する租税債権の徴収の場合に限定されているため、実際に行われたという例を聞かない。 改正後は、対象が滞納租税債権一般に拡大されることになるため、実例も出てくるだろう。 例えば、米国法人で日本に支店等を有しない企業に対し国税当局がPEありと認定して法人税を課しても、自主的に納付されない限り、日本国内に資産がないので差押えなどの滞納処分手続を行うことができず、課税しても実際の税収に結び付かないという問題があった。 今回の改正により、こうしたケースで日米間での協力が進むものとみられる。 ただし、懸念される事項もある。 といった問題がある。 今回の改正において、こうした問題がどのように扱われることになったかが注目される。   2 徴収共助規定の内容 (1) 対象となる租税の税目 日本は、所得税、法人税、特別復興所得税、特別復興法人税、消費税、相続税、贈与税が対象となる。 米国は、連邦所得税、連邦遺産税及び連邦贈与税、外国保険業者の発行した保険証券に対する連邦消費税、民間財団に関する連邦消費税、被用者及び自衛業者に関する連邦税が対象となる(議定書13、新条約27④)。 (2) 対象となる租税債権 支援の対象となるのは、次に掲げる租税債権の徴収のみである(新条約27②)。 ただし、条約の恩典を受ける権利のない者が恩典を受けないようにするための租税債権の徴収も支援の対象になる(新条約27③) なお、要請の対象となる租税債権は、要請国の法令の下において「最終的に決定されたものである」ことについての権限のある当局の証明を付する必要がある。 「最終的に決定されたものである」とは、自国の法令に基づき徴収する権利を有し、かつ、納税者が当該租税債権に関する争訟のために行使できる行政上及び司法上のすべての権利が消滅し、又は尽くされていることをいう(新条約27⑤)。 (3) 自国の租税債権との関係 要請が受理された租税債権は、受理されたときに、被要請国の法令に基づき確定した租税債権として取り扱われ、自国の租税債権と同様に徴収される(新条約27⑥)。 (4) 被要請国がとった時効中断等の措置の要請国における効果 支援の要請に従い、被要請国がとった徴収のための措置であって、要請国の法令によれば、要請国が当該措置をとった場合に要請国において租税債権の徴収の時効を停止し、又は中断する効果を有することとなるものは、当該租税債権に関して、要請国の法令の下においても同様の効果を有する。 被要請国は、当該措置について要請国に通報する(新条約27⑦)。 (5) 被要請国の法令による時効の援用の否定 被要請国による支援が行われている租税債権は、被要請国において、被要請国の法令の下で租税債権であるとの理由により適用される時効の対象とされず、かつ、その理由により適用される優先権を与えられない(新条約27⑧)。 (6) 被要請国における行政・司法上の審査を受ける権利の否定 被要請国による支援が行われている租税債権が、自国の租税債権と同様に徴収されるからといって、被要請国において行政上又は司法上の審査を受ける権利を生じさせるものと解してはならない(新条約27⑨)。 (7) 要請国において租税債権を徴収する権利を喪失し、又は徴収を終了する場合 要請国において支援を要請した租税債権が消滅した場合には、要請国の権限のある当局は、徴収における支援の要請を速やかに撤回し、被要請国は、当該租税債権の徴収に係るすべての措置を終了する(新条約27⑩)。 (8) 要請国において自国の法令に従い租税債権の徴収を停止する場合 要請国が自国の法令に従い要請の対象である租税債権の徴収を停止する場合には、要請国は被要請国に速やかに通報し、被要請国の選択により要請を停止し、又は撤回する(新条約27⑪)。 (9) 徴収した額の送金 この条の規定に基づき被要請国が徴収した額は、要請国の権限のある当局に送金される(新条約27⑫)。 (10) 徴収費用の負担 両締約国の権限のある当局が別段の合意をする場合を除くほか、徴収における支援を行うに当たり生じた通常の費用は被要請国が負担し、特別の費用は要請国が負担する(新条約27⑬)。 (11) 被要請国の義務(新条約27⑭) 被要請国に次のことを行う義務を課すものと解してはならない。 (a) 被要請国又は要請国の法令及び行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとること (b) 公の秩序に反することとなる措置をとること   (12) 要請国の措置が不十分である場合の被要請国の義務の免除(新条約27⑮) 次のいずれかに該当するときには、被要請国は要請を受理する義務を課されない。 (a) 要請国が支援の要請の対象となる租税債権を徴収するために自国の法令又は行政上の慣行の下においてとることができるすべての適用な措置をとっていないとき (b) 要請国が得る利益に比して被要請国の行政上の負担が著しく不均衡であるとき   (13) 実施方法に関する合意(新条約27⑯) 実際に支援が行われる前に、両締約国の権限のある当局は、以下を含む実施方法について合意する。 ・各締約国に対する支援の程度の均衡を確保するための方法 ・一方の締約国が特定の年において行うことができる支援の要請の数の上限 ・支援を要請することができる租税債権の最低金額 ・この条の規定に基づいて徴収された額の送金に関する手続規則   (14) 支援の程度に不均衡が生じたときの支援の停止 一方の締約国は、他方の締約国の措置により両国の支援の程度において不均衡が生じたと認める場合には、支援を停止することができる。 この場合には、両締約国は、新条約27条16項の規定に整合的となる支援の程度の均衡を回復するため、協議を行うとされている(新議定書14⑮(b))。 (15)適用対象 徴収共助の規定は議定書が効力を生ずる日から適用される(議定書15④)。 具体的には、両国における承認手続が終了し、交換公文が交わされた日から適用されることになる。   3 実務への影響 実際に問題になりそうなケースとして、米国法人が日本に恒久的施設を持たずに投資活動を行っているようなケースが考えられる。 国税当局が米国法人の日本における活動がPEに該当するとして課税を行ったのに対し、米国法人は納得せず税金を納付しようとしない。しかし、日本国内に資産がないために滞納処分もできないといったケースである。 また、個人について問題になりそうなケースとして、日本の居住者が国税の調査で多額の追徴課税を受けたが、税金を納付せずに行方不明になってしまったが、国税は、本人が保有する資産が米国の銀行に預けられていることは把握している、といったケースが考えられる。 これまでは、上記のようなケースで日本の国税が税金を徴収する手段はなかったが、今後はIRSに徴収支援を要請することにより徴収できる道が開かれた。 今回の改正は日米間における徴収協力に限られるが、今後こうした国際間の税務執行協力のネットワークはますます拡大していくことが予想される。 【参考】財務省ホームページ ・「アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書が署名されました」 ・「アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書のポイント」 (連載了)
#12(掲載号)
#小林 正彦
2013/03/28
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第4回】「控除対象受取利子等合計額」 及び「関連者純支払利子等の額」

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第4回】 「控除対象受取利子等合計額」 及び「関連者純支払利子等の額」   アースタックス税理士法人 税理士 中村 武   前回は、本制度による損金不算入額計算の第一段階である「関連者支払利子等の額」に関して、確認すべきポイントを解説した。 今回は第二段階として、その「関連者支払利子等の額」の合計額から控除されることとなる「控除対象受取利子等合計額」及び控除した残額となる「関連者純支払利子等の額」について解説を行う。   1 控除対象受取利子等合計額 「関連者支払利子等の額」の合計額から控除されることとなる「控除対象受取利子等合計額」とは、法人の事業年度の受取利子等の額の合計額を、その事業年度の関連者支払利子等の額の合計額のその事業年度の支払利子等の額の合計額に対する割合で按分した金額として、次の算式により計算した金額をいう(措法66の5の2③、措令39の13の2⑯)。 〈控除対象受取利子合計額〉       〈ポイント1〉 本制度における受取利子等の範囲 本制度の適用対象となる支払利子の範囲には、通常の負債の利子だけでなく負債の利子に準ずるもの及びその他一定の費用又は損失が含まれていることから、控除対象受取利子等合計額の計算対象となる受取利子等についても、その支払いを受ける利子だけでなく、これに準ずるものが含まれる(下記参照)ことに留意が必要である。 また、同様に、特定債権現先取引などに係る支払利子等が本制度の適用対象となる支払利子等の額から除外されていることから、除外対象特定債権現先取引等に係る対応債権現先取引等に係る受取利子等の額についても受取利子等の額の範囲から除外されている。   〈ポイント2〉 関連者等から受ける受取利子等が対象 本制度においては、損金不算入の対象となる支払利子等が関連者等に対する支払利子等の額に限定されているため、純支払利子等の計算において控除対象となる受取利子等についても、関連者等から受ける受取利子に係る部分のみが控除対象となっている。 実務上、支払利子等と受取利子等の紐付き関係を特定することが困難であると考えられるため、①受取利子等の額の合計額を、②その事業年度の関連者支払利子等の額の合計額の、③その事業年度の支払利子等の合計額に対する割合で比例按分することとされている。 〔イメージ図〕   〈ポイント3〉 国内関連者等から受ける受取利子についての特例 本制度による損金不算入額の計算上、受取利子等の額が支払利子等の額から控除されることを利用して、国内関連者等に貸付けを行い利子を受け取ることにより、関連者純支払利子等の額を少なくし本制度の適用を逃れることが可能となる(しかも、その場合には、貸付けを受けた国内関連者等の課税所得の減少をも図ることが可能となる)。 したがって、国内関連者等から受ける受取利子等については、控除対象受取利子等合計額の計算の基礎となる受取利子等の額の合計額への算入を制限する措置が設けられている。 具体的には、国内関連者等ごとに計算した次の①と②のいずれか少ない金額が、法人がその国内関連者等から受ける受取利子等の額となる(措令39の13の2⑯)。 〈具体例〉 上記の場合、適用対象法人が国内関連者等Aから受ける受取利子①120のうち、国内関連者等Aが非国内関連者から受ける受取利子100までの金額(受取利子①120と、受取利子②100とのいずれか低い金額)が、その国内関連者等から受ける受取利子等の額となる。 なお、「国内関連者等」の定義は以下の通りとなっている(措令39の13の2⑯)。 ポイントとしては、所得税法164条1項1号に掲げる非居住者及び法人税法141条1号に該当する外国法人(いわゆる1号PE)が、国内関連者等に加えられている点である。   2 関連者純支払利子等の額 第3回において解説を行った「関連者支払利子等の額」の合計額から、上記1の「控除対象受取利子等合計額」を控除した残額が「関連者純支払利子等の額」となり、その後の損金不算入計算の基礎となる。   *  *  * 以上の通り、前回(第3回)と今回(第4回)により、損金不算入計算の基礎となる「関連者支払利子等の額」、「控除対象受取利子等合計額」及び「関連者純支払利子等の額」の計算までの段階について解説を行った。 次回(第5回)においては、損金不算入額計算の最終段階として「調整所得金額」、実際の「損金不算入額」及び「適用除外」の規定について解説を行うものとする。 (了)
#12(掲載号)
#中村 武
2013/03/28
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

平成26年1月から施行される「国外財産調書制度」の実務と留意点【第8回】

平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第8回】   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   (第2章 制度の詳細な内容) 2-7 不提出・虚偽記載・質問検査に対する不答弁等に対する罰則 次の行為をした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するとされている。 ただし、②については情状により刑を免除することができることとされている。   2-8 国外財産調書の作成上の留意点 (1) 納税義務がなくても提出する必要がある 所得税の申告や相続・贈与税の申告義務がなくても、国外財産を5,000万円以上保有していれば提出義務がある。 (2) 税務調査を意識して作成する必要がある 国外財産調書の内容は、国税職員による質問検査権の行使の対象となる。 通常、所得税又は相続税・贈与税の調査が開始された後において、調査官から調書の内容の説明や証拠書類の提示・提出を求められることが多いと考えられるが、調書の内容自体も質問検査の対象となる。 国外財産調書の内容に不審な点がある場合の税務署の対応としては、文書による「お尋ね」によって疑問点をチェックする方法と、いきなり所得税や相続税の調査を開始する方法があると思われる。 例えば、前年の国外財産調書に掲載されていた外国の土地が今年は記載されていないけれども、譲渡所得の申告もなければ相続や贈与の申告もないという場合、その土地がリストから消えた理由について、書面による「お尋ね」を出して申告義務がないかどうか確認することもあるだろう。 金額が大きい場合や、国税当局が別の情報源から入手した情報と突き合わせると、多額の申告漏れが想定されるような場合には、ただちに実地の調査に着手することもあるだろう。 文書の「お尋ね」の法的意味だが、「お尋ね」が質問検査権の行使による「調査」である場合には、その旨を明らかにする文言が「お尋ね」に記載されているはずである。 もし、「質問検査権に基づく調査です」という文言が記載されている場合、不答弁や虚偽答弁は罰則の対象となる。 「お尋ね」の回答を税務署で検討した結果、さらに調査が必要と判断されると、実地の調査に移行することになる。 (3) 初回提出分でも過去年分の調査の資料となる 国外財産調書としては平成26年3月が初めての提出であっても、所得税や相続税・贈与税の調査の資料として用いられた場合には、実質的に過去5年間遡及(隠ぺい・仮装がある場合には7年間遡及)して内容が検討される可能性があるため、注意が必要である。 例えば、平成26年3月の国外財産調書に記載された個々の財産の形成過程が、税務調査の過程で調査されることになる。 その点を考慮して、初回の提出時においては、平成25年12月末現在の保有資産をリストアップすることと同時に、過去5年分の財産の移動状況もチェックして、過去の申告や海外送金の実績と照らし合わせた場合に整合的な説明が可能か、申告漏れがないか、といった観点から確認しておくことが望ましいといえる。 例えば、外国不動産を有していて、国外財産調書に不動産が夫婦の共有であるとの記載があった場合に、妻に所得がないと、税務署は、「贈与」ではないかという仮説を立て、それを確認するために、購入資金の出所等についての「お尋ね」の文書を送るかもしれない。 それに対して、「妻に資金を貸して共有にした」と回答しても、金銭消費貸借契約がきちんと作成されていない場合には「贈与したもの」と認定される可能性がある。 口頭の説明だけでは調査官の主張を崩せないことも多々あるため、万が一の対応として、不服申立てや訴訟に移行することも視野において、証拠書類を作成・保管しておくことが望ましいといえる。 また、外国の所有権に関する法制度は我が国とは違うことも多く、その点の理解の度合いが低いと、調査の際にトラブルの原因になる可能性があるため、法制度についてはしっかり押さえた上で、国外財産調書を作成する必要がある。 (4) 国内財産の移動状況も調査の対象になる 調査の際には、国外に財産を保有するに至った経緯や資金の出所が問われるため、国外財産の原資が国内財産である場合には、国内財産の移動についても説明する必要が出てくるだろう。 したがって、国内財産の移動についても、国外財産との関連がある場合には整理しておく必要がある。 (5) 税務当局は独自の情報を持っている可能性がある 国外財産調書を作成するにあたって、税務当局サイドでも独自に情報を入手するルートを持っていること、さらに、どのようなル-トを持っているかを認識しておくことは有意義である。 国外への送金の場合、1回に100万円以上送金すると、国外送金調書が金融機関から送金者の納税地の所轄税務署に送付される。 また、外国法人から利子や配当が支払われた場合、その国と日本との間に租税条約が締結されている場合には、支払いに関する情報が寄せられることがある。 税務署はそのような情報をすべて“KSKシステム”というオンライン・データベースに入力しており、個々の納税者やその親族、関連会社のデータが一発で入手できる。そうした情報と説明の内容を照合し、整合的な説明であるかどうかが調査される。 つまり、国税当局が調査に来る場合は、何らかの国外財産に関する資料情報に基づいて調査対象に選定されている可能性がある。 国税当局にとって海外の財産に関する情報を入手する範囲は限定的ではあるが、国税当局が情報を入手しているといないとにかかわらず、取引を適切に記録・管理し、正しい税務申告を行い、調査があった場合には証拠をもとにクリアに説明することで、申告是認通知を獲得するというのがスマートな対応といえる。 (6) 財産の移動に関する税務処理については税務専門家に相談 財産の移動に係る税務には意外な落とし穴があるので、本人も気づかないうちに、多額の申告漏れをしていたということもあり得る。 そうした結果を避けるためには、財産の移動がある場合には、税務上の問題がないかどうか、税務の専門家にチェックしてもらうことが望ましい。 (7) 税理士にとっての留意点 税理士が個人のクライアントから所得税申告又は相続・贈与税申告等に関する相談を受けた場合には、国外財産の保有状況を質問し、総額が5,000万円を超える場合には国外財産調書の提出の必要があることをアドバイスし、必要に応じて、作成方法についてアドバイスをすることが、専門家としての職責を果たすことであると考える。 (連載了)
#12(掲載号)
#小林 正彦
2013/03/28
税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載12〕 配当優先の限界

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載12〕 配当優先の限界   税理士 掛川 雅仁   税務上、配当優先株式の優先配当は、どの程度まで認められるのか。また、認められる金額を超えた部分の課税関係は、どのようになるのか。本稿では、これを検討する。   Ⅰ 会社法上の規制 1 財源規制 まず、会社法上の配当上限には、分配可能額の範囲内であることという財源規制がある(会461)。 この財源規制は、株主と債権者との間の利害調整事項であり、本稿の検討における当然の前提である。 2 配当に関する株主平等の原則 種類株式である配当優先株式を発行している場合には、財源規制に加えて、配当優先株主と普通株主(配当劣後株主)との種類株主間での利害調整が必要になってくる。 この点に関して、会社法は、配当決議は株主の有する株式の数に応じて配当財産を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定し、まず、株主平等の原則を示している(会454③)。 3 配当種類株式がある場合の配当に関する株主平等の原則 次に、会社法は、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行う定めがある場合には、各種類の株式の数に応じて配当財産を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定して、配当に関する種類株式がある場合の配当に関する株主平等の原則は、その種類株式毎の株主平等の原則であることを示している(会454③かっこ書)。 このことは、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行う定めがある場合は、既にその定めを定款に置いた時点で配当種類株主間の調整は完了しているとの考え方によるものであろう。 4 会社法における配当種類株主間の調整 会社法においては この配当種類株主間の調整は、次のように行われる。 会社法は、まず、定款に配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行う定めを置く場合には、種類株式の内容と発行枠(発行可能種類株式総数)を決定する定款変更に関する株主総会の特別決議を要すると定めている(会108②③、466、309②十一)。 さらに、株式の種類の追加や株式の内容の変更により、種類株式である配当優先株式を発行する場合において、ある種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときには、その種類株主の権利を保護するために、通常の株主総会決議だけでなく、その種類株主総会の決議が必要であると定めている(会322①)。 つまり、配当種類株主間の調整は、こうした株主総会の特別決議や種類株主総会の決議によって担保されているとの考え方である。 なお、既発行株式の一部の内容を変更して、普通株式から配当優先株式に変更する場合において、株主全員の同意が得られたときには、組合法理により、上記のような種類株主総会の決議は不要である。 これも、株主全員の同意が得られているのであるから、配当種類株主間の調整は完了しているとの考え方であろう。 5 配当に関する属人的株式の場合 ところで、公開会社でない株式会社(株式のすべてが譲渡制限株式である会社(会2五))では、定款に規定することにより、特定の株主の保有する株式の次の権利の事項について、他の株主と異なる取扱いとすることも可能である。 この取扱いは、旧有限会社法においても認められていたものであるが、種類株式のように株式自体の属性を変更するものではなく、特定の株主の保有する株式を種類株式のように取り扱うもので、普通株式しか発行していない場合でも、①の剰余金の配当を受ける権利について、他の株主と異なる取扱いをすることにすれば、その株式を配当優先株式と同様に取り扱うことが可能である。 なお、属人的株式についての規定を定款に追加する場合には、定款変更が必要で、この定款変更は、旧有限会社法において認められていたものを会社法にも導入したことから、特別決議ではなく、特殊決議(総株主の半数以上、かつ、総株主の議決権の4分の3以上の多数決)によらなければならない。 この場合でも、配当種類株主間の調整は、こうした株主総会の特殊決議によって担保されているとの考え方である。   Ⅱ 税法の考え方 以上のように、会社法においては、利害の対立する種類株主間の調整は、株主総会における特別決議や特殊決議、種類株主総会決議で担保していると考えている。 これに対して、税法においては、利害の対立する種類株主間の調整よりも、むしろ、株主間の利害が一致することの多い非上場同族会社においては、株主等との間においても経済的な衡平が維持されているかどうかに関心がある。 1 法人税法・所得税法における考え方 例えば、株式割当等の場面ではあるが、法基通2-3-8や所基通23~35共-8においては、いわゆる株式の有利発行となっていないか否かの判定は、会社法322条《ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会》の種類株主総会の決議があったか否かのみをもって判定するのではなく、その発行法人の各種類の株式の内容や割当ての状況などを総合的に勘案して、その株主等とその内容の異なる株式を有する株主等との間においても経済的な衡平が維持されているかどうかをもって判断するとしている。 配当優先株式の優先配当に関しても、ここで示された考え方と同様に、各種類の株式の内容や割当ての状況などを総合的に勘案して、その株主等とその内容の異なる株式を有する株主等との間においても経済的な衡平が維持されているか否かを判定することになろう。 2 相続税法上の考え方 また、これも募集株式引受けの場面ではあるが、相基通9-4においては、同族会社が新株の発行をする場合において、当該新株に係る引受権(募集株式引受権)の全部又は一部が会社法206条各号《募集株式の引受け》に掲げる者(その同族会社の株主の親族等に限る)に与えられ、その募集株式引受権に基づき新株を取得したときは、原則として、その株主の親族等が、その募集株式引受権をその株主から贈与によって取得したものとして取り扱われる。 ただし、その募集株式引受権が給与所得又は退職所得として所得税の課税対象となる場合を除くものとされている。 配当優先株式の優先配当に関しても、ここで示された考え方同様に、同族会社の株主が優先配当収受権をその親族等に取得させたと認定された場合には、その取得させた優先配当額に関しては、その株主の親族等が、その株主から贈与によって取得したものとして取り扱われることがあり得ると考えられる。 3 具体的な課税関係 次に、具体的な課税関係がどうなるかを検討する。 例えば、株主X(親)と株主Y(子)の2人しか株主がいない非上場同族会社A社において、発行済株式総数4株で、それぞれの持株数が株主X(親)普通株式3株と株主Y(子)配当優先株式1株だったとする。 また、A社の資本金等の額が2,000、利益積立金額が8,000、資産には含み損益はないものとする。 A社は、株主X(親)に2,000、株主Y(子)に6,000の配当をした。 なお、残余財産請求権や議決権については、株主X(親)と株主Y(子)の持株数に応じた割合であるとする。 この場合の株主の課税関係は、どうなるか。 所得税法でも、法人税法でも、法人が株主等に対しその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益が含まれる(所基通24-1、法基通1-5-4)。 したがって、株主X(親)と株主Y(子)とがそれぞれ受け取った2,000と6,000は配当所得として課税されるのが原則である。 しかし、配当受取後の両者の株式に係る持分価値は、次のように4,000だけ移転している。 この課税関係も考慮しなければ、適正な課税を維持できない。 そこで、持分価値が移転している4,000については、株主Y(子)に対して相続税法9条のみなし贈与として課税し、所得税と贈与税の二重課税とならないよう、その分、株主Y(子)の所得税法上の配当所得を4,000だけ減じて、2,000として課税することが考えられる。 ところで、株主Y(子)が所有する優先株式をその100%出資法人であるB社が所有するという間接保有であったなら、課税関係は、どうなるであろうか。 B社が受け取った6,000の全部が配当として課税されるとの考え方もあるだろうが、上記個人間の課税関係との平仄を考えると、やはり、持分価値が移転している4,000については、次のように株主X(親)からの受贈益と認定されることとなると考えられる。 なお、この受贈益4,000が生じることによって、株主Y(子)が所有するB社株式の価値が増加する。 これは、相基通9-2《株式又は出資の価額が増加した場合》の「(1)会社に対し無償で財産の提供があった場合」に該当し、その財産を提供した親から子へのみなし贈与として、贈与税が課税されることとなると考えられる。 4 税法上の配当優先の許容範囲 では、税務上、配当優先株式の優先配当部分は、すべてみなし贈与(受贈益)として課税されるのだろうか。 配当優先株式は、無議決権と結び付けて、ベンチャー企業や上場企業のファイナンス手法として利用されてきた歴史がある。 したがって、優先配当額が、必要事業資金の調達コストとして、合理的と認められる場合は、みなし贈与(受贈益)課税を行うことは困難であろう。 なお、無議決権株式に関しては、議決権の有無を考慮せずに評価することを原則とするが、一方では、議決権の有無によって株式の価値に差が生じるのではないかという考え方もあることを考慮し、同族株主が無議決権株式を相続又は遺贈により取得した場合には、納税者の選択により、原則的評価方式により評価した価額から、その価額に5%を乗じて計算した金額を控除した金額により評価するとともに、その控除した金額を当該相続又は遺贈により同族株主が取得した当該会社の議決権のある株式の価額に加算した金額で評価することができる、という取扱いがある(国税庁「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日付))。 この考え方を敷衍すれば、配当優先株式について、無議決権として株式評価額の5%ダウンを想定するが、その分、優先配当額を増額させれば、株式評価額が増加することになる。 例えば、発行会社が財産評価基本通達上の大会社であれば、類似業種比準方式により評価する場合には、財産評価基本通達183《評価会社の1株当たりの配当金額等の計算》の(1)に定める「1株当たりの配当金額」については、株式の種類ごとに計算して評価することから、普通株式の2割5分増の配当優先額であれば、それによる株式評価額の増加と無議決権として株式評価額の5%ダウンとが相殺されて、配当優先株主と普通配当株主との間の価値移転は生じないと考えることもできるであろう なお、従業員持株会に配当優先株式を持たせる場合があるが、同族株主ではない従業員にとっての税法上の時価は、特例的な評価額である配当還元価額とされているので、上記3で検討した持分価値の移転は認識しないでよいと考えられる。 【参考文献】 ・国税庁「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日付) ・増井良啓「有限会社の利益配当と所得税」『税務事例研究』Vol.78 (了)
#12(掲載号)
#掛川 雅仁
2013/03/28
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