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《速報解説》 金融庁、有報の作成・提出に際しての留意すべき事項等を公表~サステナビリティや重要な契約等の識別された課題への対応の参考となる開示例集も示す~

《速報解説》 金融庁、有報の作成・提出に際しての留意すべき事項等を公表 ~サステナビリティや重要な契約等の識別された課題への対応の参考となる開示例集も示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年3月27日、金融庁は、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)について」を公表した。 2026年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、2026年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書のレビューについては、後日公表する予定とのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 令和7年度 有価証券報告書レビューにおいて識別された主な課題及び留意事項等 「令和7年度 有価証券報告書レビューにおいて識別された主な課題及び留意事項等」として、以下に述べる課題が指摘されている。 今後の提出会社による自主的な改善に資するよう、有価証券報告書レビューで識別された課題への対応にあたって参考となる開示例が「別紙2」として取りまとめられている。   1 サステナビリティに関する考え方及び取組   2 コーポレート・ガバナンスの状況等   3 重要な契約等   4 内部統制報告書 (了)
#阿部 光成
2026/03/30
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《速報解説》 収用に伴い建物を買取り等の申出日の6月経過後に取り壊す場合の収用等の5,000万円控除の適用に関する文書回答が東京国税局から示される

《速報解説》 収用に伴い建物を買取り等の申出日の6月経過後に取り壊す場合の収用等の5,000万円控除の適用に関する文書回答が東京国税局から示される   税理士 菅野 真美   令和8年3月9日に東京国税局が文書回答した「収用に伴い建物を買い取り等の申出日の6月経過後に取り壊す場合の租税特別措置法第65条の2(5,000万円控除)の適用について」が令和8年3月25日に国税庁のHPで公表された。 今回はこの事例について解説するとともに申告上の留意点も検討する。   1 収用等の5,000万円控除と期間制限の要件 収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2)(以下「5,000万円控除」)は、収用換地等によって対価補償金を取得した場合で、一定の要件を満たすときは、5,000万円と譲渡益のいずれか少ない金額を損金算入することができる制度である。土地の上にある資産についても、収用等により資産の譲渡があったものみなされ、収用に伴い建物を取り壊した場合の補償金も対価補償金に該当する場合がある(措法64②二、措法65の2①括弧書、措通64(2)-8)。 5,000万円控除の適用を受けるための要件の一つとして、その譲渡が買取り等の申出のあった日から6か月を経過した日まで(措法65の2③一)がある。これは、迅速な公共用地の収用を実現させるための優遇税制だからと考える。   2 照会事例 今回の照会事例は、次のようなものである。 法人である納税者に対して収用等の最初の買取り等の申出がX1年2月に行われた。対象となるのは、当社保有甲土地と当社保有A建物、B建物であるが、A、B建物の敷地である乙土地は他社が保有している。 X1年3月に甲土地の売買契約(同日に所有権が移転)とA建物、B建物の取壊し補償契約を締結した。ただし、A建物の取壊し予定はX1年9月(取壊し期限X2年1⽉31⽇)、B建物の取壊し予定はX2年8月(取壊し期限X3年1⽉31⽇))である。もし、A建物、B建物の譲渡の日が取壊し予定日となると、買取り等の申出の日から6か月経過後となるからA建物、B建物の補償金については収用等の特別控除の適用を受けることができなくなる。   3 納税者の見解と当局の回答 納税者は、取壊し補償契約の締結が買取り等の申出の日から6か月を経過した日までに行われ、かつ取壊し補償契約で公共事業施行者が設定した取壊し期限が付されているような場合には、その取壊しに係る意思決定は6か月を経過した日までにされ、それに基づき近い将来に取壊しが行われることが明らかであり、建物の取壊しが6か月を経過した日までに行われたものと同視できると考えるから、建物について5,000万円の特別控除の適用ができるかと照会した。 納税者のこの照会に対して、東京国税局審理課長は、照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見の通りで差し支えありませんと回答した。   4 申告上の留意点 本件は取壊し補償契約の締結が買取り等の申出の日から6か月を経過した日までだから、5,000万円控除の適用ができるとした。 次に、譲渡損益の帰属事業年度がいつかという論点がある。、令和7年7月関東信越国税局・税務署「事前協議の手引き-譲渡所得等の課税の特例の適用関係-」の中の「【事例2】「買取り等の申出のあった日」から6か月経過後の引渡し」において、買取り等の申出の日から6か月を経過する日までに売買契約を締結している場合の引渡し年度における5,000万円控除(所得税)を認めていることから、取壊し事業年度の譲渡損益認識が可能と考える。 取壊し事業年度での譲渡損益の帰属が可能な場合、一の収用換地等について、2年以上に渡って譲渡が行われたときは、5,000万円控除は最初の年の譲渡に限られる(措置法65の2③二)に該当するか否かという論点が生ずるが、この照会事例では、首記論点以外は特別控除の適用要件が満たされているとしている。 なお、5,000万円控除を適用するためには、法人税の別表10(6)「収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」(※)を添付する必要がある。法人税に関しては、収用証明書等を添付しなくても保存をすることにより適用が認められる(措法65の2④)。 (※) 収用等の特別控除の適用のための別表は令和6年4月1日以後終了事業年度分までは、別表10(5)であったが、令和7年4月1日以後終了事業年度分に関しては、別表10(6)となった。 (了)
#菅野 真美
2026/03/30
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《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和7年7月~9月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和7年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2026(令和8)年3月25日、「令和7年7月から9月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係が3件、所得税法関係及び消費税法関係が各2件で、合計7件となっている。公表された裁決は、「全部取消し」が2件、「一部取消し」が1件、「棄却」が4件となっている。 【表:公表裁決事例令和7年7月から9月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 税目・税法 主に争点となった項目 裁決結果 国税通則法 ① 更正の請求(更正の請求ができないとした事例) 棄却 ② 重加算税 隠蔽、仮装の認定(認めなかった事例) 一部取消し ③ 審査請求の適法性 不服がある者に該当するか否か 全部取消し 所得税法 ④ 低額譲渡 取引相場のない株式の株式の価額 棄却 ⑤ 納税告知処分 退職所得の源泉徴収 全部取消し 消費税法 ⑥ 実質行為者課税の原則(消費税法第13条) 棄却 ⑦ 仕入税額控除 簡易課税制度(みなし仕入率) 棄却   本稿では、公表された7件の裁決事例のうち、税務調査における質問応答記録書の申述の信用性を否定して隠蔽又は仮装行為はなかったと認定した事例(②)、定年を超えていた勤務医に支払った一時金は退職所得に該当するとした事例(⑤)及び請求人が行ったとしていた仕入取引に係る資産の譲受け及び販売取引に係る資産の譲渡は、請求人に帰属しないとした事例(⑥)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 質問応答記録書における審査請求人代表者の申述の信用性に疑いがあるとして、隠蔽、仮装を認めなかった事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、古物営業法に基づく古物商等を目的とする法人である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、請求人名義の預貯金口座に入金された売上代金を売上に計上していなかったとして、法人税等及び消費税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、当該売上を計上していなかったことにつき隠蔽又は仮装の事実があったとして、法人税等及び消費税等に係る重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 請求人に、国税通則法第68条第1項又は第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿あるいは故意に脱漏することをいい、「仮装し」とは、所得、財産、あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲することをいうものと解されると法律解釈を述べた。 そのうえで、原処分庁が、故意に、古物品の販売に係る各入金額についての会計仕訳を入力していなかったと主張し、この主張を裏付ける証拠として、質問応答記録書に記載の請求人代表者の申述を挙げているいっぽうで、請求人は、この申述の信用性を争っているため、国税不服審判所は、申述の信用性について検討した結果、質問応答記録書には、代表者による明らかに相矛盾する内容が録取されており、申述は採用することができないと判断したうえで、原処分庁提出証拠並びに審判所の調査及び審理の結果によっても、質問応答記録書のほかに、代表者が、パソコンに、自身で、総勘定元帳の基となる会計仕訳を入力する際、故意に入金額についての会計仕訳を入力していなかったとする原処分庁の主張を裏付ける証拠はないと事実認定を行った。 そして、結論として、国税不服審判所は、原処分庁の主張はいずれも理由がなく、その他審判所における調査及び審理の結果によっても、請求人に通則法第68条第1項又は第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められないとして、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すという裁決を行った。   2 定年年齢を超えて勤務していた医師に支払った一時金は、退職を原因として給付されたものと認められるから、退職所得に該当するとした事例・・・⑤ (1) 事案の概要 本件は、病院を運営する法人である審査請求人が、雇用する医師の定年を定める旨の就業規則の改正を行ったことに伴い、改正時、既に定年に達していた医師らに対して退職金として支払った金員について、原処分庁が、当該医師らは退職扱いとなった後も引き続き勤務しており、勤務の内容等に重大な変動はなく、退職の事実又は退職に準じた事実がないことから、当該金員は給与等(賞与)に該当するとして、請求人に源泉所得税等の納税告知処分等をしたのに対し、請求人が、当該金員は、当該医師らの退職という事実に基因して支払ったものであるから、退職手当等に該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 退職金として支払った一時金は、所得税法第28条第1項に規定する給与等又は同法第30条第1項に規定する退職手当等のいずれに該当するか。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、ある金員が、所得税法第30条第1項にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、①退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、③一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であり、また、同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、それが、形式的には①から③までの各要件の全てを備えていなくとも、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすべきであるとしたうえで、継続的な勤務の中途で支給される退職金名義の金員が、同項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、この金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算の必要があって支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要するものと解すべきであるという法律解釈を述べた。 そのうえで、国税不服審判所は、退職金の支給を受けた4名の医師のうち、一般勤務医である医師3名については、令和4年3月31日付で、審査請求人における期間の定めのない雇用契約である従来の勤務関係が終了し、退職した上で、新たに有期雇用契約が締結されたものと認めるべきであり、これら医師3名に係る一時金は、上記退職を原因として給付されたものと認められることから、この一時金は、請求人における本件医師3名のこれまでの勤務関係の終了という事実によって初めて給付されたものと認められ、これらの一時金は、上記の①から③までの各要件を満たすことから、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当すると認められるという判断を示した。 いっぽう、退職金の支給を受けた4名の医師のうち、審査請求人の理事である1名については、令和4年3月31日の前後を通じて理事の身分に変更はなく、同日をもって請求人における勤務関係が終了したとはいえないため、理事である医師に係る一時金は、請求人におけるL医師の退職という事実によって給付されたものとは認められないため、①退職、すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されることという要件を満たさないため、所得税法第30条第1項に規定する「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」には該当しないとしたものの、同医師に係る一時金は、その基礎となる基本給等の金額に理事報酬を含めず、使用人としての勤続期間に対応する金額として算出された退職手当が含まれており、かつ、同医師の身分変更による退職金上の不利益及び勤務した病院に対する功績等を考慮して支給されることとなったもので、その金額は、令和3年分の使用人としての給与を基礎とし、理事報酬を含めず算出された退職功労金であること並びに同医師が請求人の理事に就任した際に、それまでの使用人としての勤続期間に対応する退職金が支払われていないことを考慮すれば、同医師に係る一時金は、理事としての職務に対するものではなく、使用人としての勤務や労務に対するものであると認められることから、同医師の審査請求人における使用人としての勤務関係の終了という事実によって初めて給付されるとともに、それまでの使用人としての継続的な勤務に対する報償又はその間の労務の対価の一部の後払の性質を有する一時金であると認められるとして、所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」に該当するという判断を示した。 そして、国税不服審判所は、これらの一時金は、いずれも所得税法第30条第1項に規定する退職手当等に該当するから、これらの一時金が同法第28条第1項に規定する給与等に該当するとしてされた納税告知処分は違法であり、その全部を取り消すべきであると結論づけたうえで、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すという裁決を行った。   3 請求人が行ったとしていた仕入取引に係る資産の譲受け及び販売取引に係る資産の譲渡は、請求人に帰属しないとして、審査請求を棄却した事例・・・⑥ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、国内法人であるN社及び中華人民共和国で設立されたP社との間で、令和2年10月1日から令和2年10月31日までの課税期間をはじめとする複数の課税期間において、審査請求人がN社から商品を仕入れ、これをP社に販売する取引について、原処分庁が、これらの取引に係る対価を享受するのは請求人ではないとして、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、原処分庁による事実認定及び法令解釈には誤りがあるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 【参考】消費税法第13条第1項(資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定) (3) 国税不服審判所の判断 本件の争点は上記のとおり多岐にわたるが、本稿では中心的な争点である「争点3」に絞って、国税不服審判所の判断を検討する。 国税不服審判所は、消費税等の納税義務者は課税資産の譲渡等を行った事業者であり、消費税法第13条第1項は、資産の譲渡等を行った者が誰であるかについて、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、その享受する者が資産の譲渡等を行ったものとして同法の規定を適用する旨規定し、いわゆる実質課税の原則について定めており、その趣旨は、担税力に応じた公平な税負担を実現するため、資産の譲渡等の法形式上の帰属主体と法律的実質的な帰属主体が一致しない場合においては、後者すなわち実質的に資産の譲渡等に係る対価を享受する者を資産の譲渡等の帰属者とするとの法律解釈を行った。 そのうえで、国税不服審判所は、事実認定の結果、審査請求人は、各取引に係る取引当事者の決定に関与しておらず、各取引は飽くまでN社とP社が取引当事者となることが前提とされたうえで、N社とP社によって主導されることが予定されていたものであり、現に、各取引はN社を実質的な売主、P社を実質的な買主とする二者間の売買取引というべきであって、各取引の関係者においても、そのような認識を有していたと認められることから、法律的実質的にみて、審査請求人は、各販売取引について資産の譲渡等に係る対価を享受しておらず、消費税法第13条の規定に基づき、請求人以外の者が各仕入取引に係る資産の譲受け及び各販売取引に係る資産の譲渡をしたものとして同法を適用すべきであると結論づけて、原処分庁による各更正処分及び各賦課決定処分はいずれも適法であり、審査請求は理由がないから、これを棄却するという裁決を行った。 (了)
#米澤 勝
2026/03/30
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.662が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年3月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.662を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/03/26
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第89回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第89回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   (エ) 海外CEX、DEX、プライベートウォレットと税務調査 より具体的に調査選定と個別の調査の場面を検討してみよう。 A 調査選定の場面 調査選定の段階において、CARFに参加しておらず、かつ本人確認手続を実施していない海外CEXは、国税庁にとって情報の把握が極めて困難な、いわば「強固なブラックボックス」である。 利用者の身元や取引内容の詳細な情報にアクセスできないため、納税者を特定したうえで調査対象とすることが難しくなる。すなわち、情報の非対称性により、調査対象のリスク評価・選定プロセス自体が著しく制約を受けることになる。 しかし、後述するブロックチェーン分析等の手法によって、これらの海外CEXを利用しており、しかも日本の居住者が管理していると推定されるウォレットアドレスを特定できる可能性はある。 このようなアドレスは、税務コンプライアンスリスクが高いと判断され、調査選定の際に注目される可能性がある。例えば、DEXで繰り返し高額の流動性供給報酬を得ているアドレスや、大口送金を継続して行っているアドレスなどは、ハイリスク対象として検出されやすい。 プライベートウォレットについても、一般に、本人確認手続を実施せずに利用することが可能である。 これを提供する事業者は中央集権的な機関に該当するとしてもRCASP(報告暗号資産サービスプロバイダ)には該当しない可能性があるため、CARF以外のルートで各国から情報が提供されない限り、国税庁がプライベートウォレットの利用者の身元に関する情報を把握することは難しい。 つまり、プライベートウォレットの提供事業者が、顧客の情報を収集・管理する義務を負わない立場にある場合、当局はその背後にいる個人の身元や取引状況を把握することが困難となる。 さらに、複数の取引候補の中から条件が合致する者を選び、様々な種類の暗号資産の売買ができるピアツーピア取引所(BybitなどのCEXがサービスを提供するものや、BisqなどDEXと称して運営されているものがある)(※)においては、利用者同士が直接メッセージをやりとりし、暗号資産、銀行振込、Amazonギフト、PayPay、LINE Pay、Wiseなど多様な決済手段を使って暗号資産取引をすることも可能である。 (※) ピアツーピア取引所では、売り注文と買い注文をペアにしてプラットフォームの資産を管理するオーダーブックを使用せず、資金の保管や取引の処理に仲介業者を挟むことなく利用者同士で直接取引ができるし、利用可能な決済手段も多様であるが、メッセージのやりとりなど取引完了までに多少の手間や時間がかかる(Bybit「安い手数料と高い安全性を提供するP2P暗号資産取引所15選」(2022.2.5))。 この場合も利用者の身元や取引内容に関する情報を把握することが難しい。 加えて、DEXも、そのトランザクションデータはブロックチェーン上に記録され、公開され、外部から閲覧可能であるが、DEXは利用者の身元に関する情報を収集していないし、ブロックチェーンにもそのような情報は記録されていない。 このため、DEXを利用するプライベートウォレットのアドレスの管理者を特定することはできないし、日本の居住者によって管理されているものであるかも判断できない。 利用者からそのような情報を得ることができる中央集権的な機関も介在しておらず、他に身元を照会できる「者」は存在しない。 もっとも、DEXのトランザクションのデータは容易に把握できるため、例えば、DEXで多額の報酬を得ているプライベートウォレットに係るアドレスを検出・特定し、税務コンプライアンスリスクの高い者であるとして調査選定に活用することは考えられる。 B 個別の調査の場面 一方、個別(特定)の調査の場面では、国税調査官が調査中の納税者(当然ながら身元は把握済み)の保有する海外CEXの口座やプライベートウォレットを把握したいと考えても、事実上照会する手立てがなく、把握することができないといったケースが想定される。 暗号資産の譲渡原価は平均法で算出することが原則となっている(所法48の2、所令119の2)。 このため、CEXの口座やプライベートウォレットが1つでも抜けていると、その口座やウォレットに係る損益を税額計算に反映できないだけでなく、他の口座やウォレットで行った暗号資産取引に係る税額計算全体に広範な影響を与える可能性がある。 これは調査選定の場面だけでなく、個別の調査の場面においても重大な問題である。 個別の調査の場面においては、調査官が納税者のパソコンやスマートフォン等のデバイスの中を確認し、利用している海外CEX、DEX、ウォレット、これらにおける取引履歴等を確認するという従来の調査手法である現物確認調査(ブロックチェーン外で実施されるという意味ではオフチェーン調査)を利用することが一定程度有効である。 しかしながら、暗号資産の分野ではこの方法の有効性には限界がある。 例えば、ウォレットに関連づけられた秘密鍵は暗号化されてデバイスのローカルストレージ内に保存されることが多い。このような場合に、ブラウザやアプリの起動、トランザクションの送信、残高の確認などの操作画面や操作方法を他人に見せるだけでは、秘密鍵が直接的に表示されることはない。 ただし、操作ミス等により、シークレットリカバリーフレーズ(シードフレーズ、ニーモニックフレーズ)や秘密鍵を表示する操作を行ってしまうリスクはゼロではない。 これらの情報が漏洩すれば、そのウォレットに紐づけられている暗号資産が第三者によって抜き取られる可能性が出てくる。 このため、プライベートウォレットを利用している人の中には、秘密鍵を管理しているウォレットの画面や管理状況等を他人に見せることに抵抗を感じる人が少なくないと考える。 よって、納税者が自らの端末内のウォレット情報の開示に消極的な態度をとるのは自然なことであり、とりわけ多額の資産を管理している場合には、拒否の姿勢はより顕著であると考えられる。 このような事情から、調査官がデバイスの中の確認を求めた場合、これを拒否する納税者がいても不思議ではない。そのような場合に、直ちに検査忌避(通法128二)に当たると断ずることはできない。 また、そもそも、ウォレットの利用状況を確認するために納税者のデバイスを直接確認することに躊躇する調査官もいるであろう。 調査官が納税者にウォレットの画面操作を依頼して確認を行った数日後に、当該ウォレットに紐づく暗号資産が窃取された場合、その調査官に対して疑いの目が向けられる可能性があるからである。 C まとめ 以上を整理すると、質問検査権による調査、特定事業者等の報告の求め、CARFはいずれも課税当局への情報提供等に係る義務を課しうる国・地域内に当該義務を負担すべき者が存在する場合にのみ有効に機能するものである。 また、CARFのRCASPには、単に、暗号資産の保管や移転に係るサービスを提供するような純粋なウォレット提供事業者等は含まれない。 このため、海外CEX、特にCARFに参加していない国に所在するCEX、DEX、プライベートウォレットを利用して、匿名性を保ちながら、グローバルに暗号資産の取引・運用をしている納税者の情報を国税庁が把握することは難しく、上記で示したような調査選定及び個別の調査の場面における問題が起こりうる。 特定取引等の報告の求めやCARFを通じて、国税庁が利用者の身元を把握できるわけではないし、特定の納税者が利用している海外CEX、DEX、プライベートウォレットを把握することも困難である。 よって、納税者がCEXの口座やプライベートウォレットの情報を国税庁に提出することを義務付ける又は納税者に提出を促すような制度を検討すべきである。 さらに、国税庁としても、情報ハブとなる外部の中央集権的機関に依存するだけではなく、ブロックチェーン分析会社等の外部調査機関と連携を強化し、独自の分析手法や調査技術を継続的に開発していくことが不可欠である。   (了)
#662(掲載号)
#泉 絢也
2026/03/26
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例156(法人税)】 「従業員の横領を長年にわたり看過する結果になり、このような決算書作成方法自体が、税理士の債務不履行になるとして、損害賠償請求を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例156(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 顧問先従業員の不正発見義務については次のような裁判例がある。 (1) 富山地裁平成12年8月9日判決 税理士と税務書類の作成等の準委任契約を締結していた医院の従業員の横領行為について、税理士に横領行為の発見・報告義務はないとして債務不履行を否認した判決。 この判決は、次のように判示している。 (2) 東京地裁平成28年5月18日判決 税理士と顧問契約を締結していた原告である医院の従業員が横領した行為について、税理士が会計上の不正行為の有無を調査しなかったこと又は会計上の不正行為が疑われる事実を報告しなかったことが、税理士顧問契約上の債務不履行にはならないとした判決。 この判決は、次のように判示している。       (了)
#662(掲載号)
#齋藤 和助
2026/03/26
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

グループ企業の税務Q&A 【第3回】「通算税効果額の授受を行わない場合」

グループ企業の税務Q&A 第 3 回 通算税効果額の授受を行わない場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太   ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 グループ通算制度における通算税効果額 (1) 通算税効果額 通算税効果額とは、法人税法第64条の5第1項(損益通算)又は同法第64条の7(欠損金の通算)の規定その他通算法人(通算法人であった内国法人を含みます)のみに適用される規定を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額(利子税の額を除きます)に相当する金額として通算法人と他の通算法人との間で授受される金額をいいます(法法26④)。 この通算税効果額の計算方法については、法人税法では規定されておらず、合理的に計算することとされており、国税庁ウェブサイトの「グループ通算制度に関するQ&A」問58で計算方法の例示がなされています。 (2) 通算税効果額を受け取る場合 内国法人が他の内国法人から当該他の内国法人の通算税効果額を受け取る場合には、その受け取る金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しないこととされています(法法26④)。 なお、通算税効果額のうち附帯税の額に係る部分の金額を受け取る場合には、その受け取る金額は、利益積立金額の期末の増加項目となり(法令9一ホ)、通算税効果額のうち附帯税の額に係る部分の金額以外の金額を受け取ることとなる場合には、その受け取ることとなる金額は、利益積立金額の期末の増加項目となります(法令9一ヘ)。 (3) 通算税効果額を支払う場合 内国法人が他の内国法人に当該内国法人の通算税効果額を支払う場合には、その支払う金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととされています(法法38③)。 なお、通算税効果額のうち附帯税の額に係る部分の金額を支払う場合には、その支払う金額は、留保していない金額として利益積立金額の期末の減少項目となり(法令9一)、通算税効果額のうち附帯税の額に係る部分の金額以外の金額を支払うこととなる場合には、その支払うこととなる金額は、利益積立金額の期末の減少項目となります(法令9一カ)。   2 グループ法人税制(完全支配関係のある法人間の寄附金の損金不算入と受贈益の益金不算入) (1) 寄附金の損金不算入 内国法人が各事業年度においてその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額は、その支出した内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しません(法法37②)。 (2) 受贈益の益金不算入 内国法人が各事業年度においてその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人から受けた受贈益の額は、その受贈益の額を受けた内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しません(法法25の2)。   3 通算税効果額の授受を行わない場合の取扱い 連結納税制度と同様に、通算税効果額の授受自体は任意で行われることが想定されていますが、授受すべき金額を授受しない場合の処理方法について法人税法及び会計基準で規定されていません。   4 本件へのあてはめ グループ通算制度を適用している場合、通算税効果額を合理的に計算したうえで、通算法人間でその金額を授受することになりますが、通算税効果額の授受を行う場合には、その支払額又は受取額は、損金の額又は益金の額に算入されないこととされており、課税関係は生じません。 授受すべき通算税効果額を授受しない場合で、連結納税制度と同様に未収入金・未払金を計上したうえで、債権放棄損と債務免除益を計上したときは、通算税効果額を受け取るべき法人側では債権放棄損について完全支配関係のある法人間の寄附金の損金不算入が適用され、通算税効果額を支払うべき法人側では債務免除益について完全支配関係のある法人間の受贈益の益金不算入が適用されるため、課税関係は生じないこととなり、結果として、授受しなかった事業年度におけるグループで納める税額の合計額は、授受した場合と変わらないこととなります。   (了)
#662(掲載号)
#川瀬 裕太
2026/03/26
税務 税務・会計 解説 解説一覧 財産評価

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第58回】「土地の評価に関して相続税の申告書において鑑定評価額が是認されたとしても、固定資産税の登録価格の決定にあたり、適切であるとはいえないとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第58回】 「土地の評価に関して相続税の申告書において鑑定評価額が是認されたとしても、固定資産税の登録価格の決定にあたり、適切であるとはいえないとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税における時価とは 土地について、固定資産税の課税標準となるのは、賦課期日における価格で課税台帳等に登録されたもの(地法349①)である。この価格とは、適正な時価である(地法341⑤)。 個別性の強い土地の適正な時価を評価することは容易ではない。そこで、総務大臣が告示する「固定資産評価基準」によって土地の評価方法が定められており(地法388①)、原則としてこの方法で算定された価格が適正な時価とされる。登録価格が評価基準に従って算定されている限り、適法とされる。評価基準に従って算定した場合で違法とされるのは、特別な事情がある場合に限られる。 土地の評価額を課税標準とする税として、相続税や贈与税がある。土地の評価方法については、財産評価基本通達に基づいて算定される。財産評価基本通達での評価が不合理であるとして、鑑定評価額に基づいて土地を評価して申告するケースもある。申告が是認されたケースも否認されたケースもある。 今回は、相続税の申告書で鑑定評価額が是認された土地について、固定資産評価基準に基づいて算定された土地の登録価格の適否が争われた事案を検討する。   ▷事案の概要 納税者の所有する横須賀市内にある土地の令和3年度の価格(4,492万9,700円)を不服として審査の申出をしたところ、登録価格を4,043万6,300円に変更決定した。しかし、納税者は、この決定のうち1,100万円を超える部分の取消しを求めて訴えたものである。 この土地は、地積741.00㎡、登記上の地目は雑種地だが、周辺は、一般住宅や駐車場が連なる住宅地である。南北に細長いやや不整形の土地であり、北西から南東側に下がっている。北側、東側、南側で道路に面し、東側の道路に沿った部分には2段の擁壁がある。 建物を建築するためには、擁壁を撤去して新規擁壁を整備しなければならないが、造成工事費が3,900万円に及ぶ。土地の相続に際し、多額の造成工事費が必要であることなどから、不動産鑑定評価書に基づいて土地を1,600万円と評価して相続税の申告をし、是認されていた。このようなことから、登録価格のうち1,100万円を超える部分の取消しを納税者は求めた。   ▷争点は何か 争点は、①登録価格の決定方法、②登録価格が評価基準の定める評価方法によって決定される価格を上回るか否か、③評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として、一般的な合理性を有するか否か、④評価基準の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるかの4点であるが、本稿では、相続税申告で是認された鑑定評価の是非に焦点をあてる。   ▷判決は 裁判所は、納税者の請求を棄却した。主な理由をまとめると以下のようになる。 登録価格は、評価基準に基づいて算定されている場合は、特別な事情がない限り客観的な交換価値(適正な時価)を上回らないと推認される。 納税者が提出した不動産鑑定評価額が評価基準による価額より低いからといって、直ちに鑑定評価額が客観的な交換価値を示すとは限らない。 納税者は多額の擁壁工事費が必要だと主張するが、建築手法(荷重を擁壁にかけない設計等)により、既存擁壁を撤去せずとも建築は可能と解される。本件土地に沿接する道路の一部が土砂災害特別警戒区域に指定されることを考慮しても、新規擁壁を整備しなければ住宅を建築することができないということにはならない。 相続税と固定資産税は、課税主体や課税目的が異なる。相続税申告において鑑定評価が是認された事実があったとしても、登録価格の決定にあたり、鑑定評価の方法が適切であるとはいえない。 評価基準の定める評価方法によって適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情があるものとは認められない。   ▷まとめ 本件では、相続税では認められた鑑定評価が固定資産税では通用しなかった。結論を分けたのは、擁壁設置のための工事費用が建物建築に不可欠かという判断だろう。裁判所は、擁壁を新設しなくとも建物の建築が可能である以上、評価基準を覆すほどの「特別な事情」はないと結論付けた。 固定資産税は全国統一の基準で大量・迅速に処理される必要があるため、個別の鑑定評価を「特別な事情」として認めるハードルは非常に高い。実務上も、他税目の是認実績を過信せず、同様の事例においては、物理的な建築不可条件などを精査する必要がある。 なお、本事案は控訴しているが、顛末は不明である。 (了)
#662(掲載号)
#菅野 真美
2026/03/26
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第93回】「日星両国の複数法人代表の居住者該当性が争われた事例(東地令5.4.12)(その2)」~所得税法2条1項3号~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第93回】 「日星両国の複数法人代表の居住者該当性が争われた事例 (東地令5.4.12)(その2)」 ~所得税法2条1項3号~   税理士 大野 道千     2 検討 (1) 東京高判令和元年11月27日(シンガポール居住者該当性訴訟)(※1)事案との比較 (※1) 本連載【第54回】及び【第55回】「シンガポール居住者該当性訴訟(地判令1.5.30、高判令1.11.27)(その1)(その2)」参照。 ① 事案の概要 X(原告・被控訴人)は、所得税法2条1項5号の「非居住者」に該当するとの認識により、日本で申告を行わずシンガポールの居住者として同国で所得税の申告を行っていたところ、所轄税務署長から「居住者」に該当するとして、期限後申告を勧奨されたため、期限後申告を行ったうえで平成23年及び平成24年分の所得税につき更正の請求をしたが認められず、本件各年分の所得税の無申告加算税に係る各賦課決定処分を受けたため、その取消しを求めた。原審の東京地裁令和元年5月30日(金判1574号16頁)は、Xの請求を認容したが、これを不服として課税庁が控訴した。 Xは経営する会社の海外展開を目指し、インドネシア、米国、シンガポール、中国に現地法人を設立し、これらの現地法人及び日本の内国法人2社の代表を務めていた。Xは、日本、米国及びシンガポールに居所を有し、平成21年から平成24年までの滞在日数合計は、日本が409日、米国が363日、シンガポールが300日であった。平成24年末時点のXの資産状況は、日本国内に約1億9,800万円、米国に約440万円、シンガポールに約1,780万円であった。原告Xと生計を一にする妻や二女は、日本居宅において居住を続けていた。 ② 滞在日数に係る判断の比較 (※) 平成25年は転出後の6月~12月 当事案では、平成25年及び平成26年においては、国内の滞在日数の方が大きく上回っているとした一方、平成27年においては、国内が177日、シンガポールが163日と国内での滞在日数は、平成25年及び平成26年における滞在日数とは異なり、年間の半分に満たないし、シンガポールでの滞在日数と比較しても、有意な差があるということはできないとした。 比較事案では、いずれの年についても、日本国内における滞在日数が上回っていたが、その差は平成21年において11日、平成22年において35日、平成23年において3日、平成24年において60日であり、これらを総じてみると、両国における滞在日数に大きな差があるとはいえないとした。 ③ 職業に係る判断の比較 当事案 比較事案 国内業務 ・代表取締役等の対価として、多額の役員報酬等が支給されていた。 ・事業関係者等との飲食、ゴルフ番組の収録等をしていた。 ・最終的な意思決定(追認等をする程度)。 ・原告Xの弟であるKが原告に代わって経営判断を行っていた。原告Xが行っていた具体的な業務は、原告各社の代表取締役会長として毎月1回の経営会議や年2~3回程度の株主総会及び取締役会に出席する等でその割合は原告Xが日本に滞在した日数のおよそ半分に相当する年間13~17%の日数に過ぎない。 シンガポール業務 (平成25年・平成26年) ・O社を設立してワイン事業を開始。 ・原告元代表者はシンガポールでの人脈構築や情報収集等、仕入先との交渉や営業活動等も自ら行い、第三国へ渡航して仕入れ等をしたこともあった。 ・1ヶ月以上も連続してシンガポールへ渡航していない期間も間々あった。 (平成27年) ・シンガポールへ渡航する頻度が増加し、毎月シンガポールに滞在するようになった。O社のワイン事業に従事していた日数は115日であり、年間の32%程度。 ・本件各海外法人に係る経営判断は専ら原告Xが行ってきた。現地責任者には委ねることができないものも多数含まれ、顧客との面会や工場を視察するなどのために現地へ赴く回数も多数にのぼった。 ・各海外法人の営業活動や工場の管理等の業務のため、年間の約4割の日数においてシンガポール又は同国を起点として渡航したインドネシアや中国及びその他の国に滞在していた。 判断 (平成25年・平成26年) ・シンガポール滞在中、専らO社のワイン事業に従事していたが、その頻度等からして、生活の本拠たる実体を判断する上で決定的な事情にはならず、滞在日数及び住居の検討結果を覆してまでその生活の本拠たる実体がシンガポールにあったとみることは相当でない。 ・原告Xの職業活動は、シンガポールを本拠として行われていたと評価した。原告Xがグループ法人の本店所在地のある日本国内に最も密接な関連を有していたとの当局の主張に対して、原告Xの父であるSが創業した内国5法人と原告Xが自らの才覚をもって築いた海外法人とで実態は大きく異なるとし、そもそも、原告Xの職業活動がどの国を本拠として行われていたかの判断はその職業活動を行うに当たって当該国に滞在する必要性がどの程度あったかによって決せられるべきであり、本件グループ法人の中心が日本法人であるか否かによって決まるものではないとして、原告Xの職業活動はシンガポールを本拠として行われていたものと認定した。 (2) 課税管轄権の基準からの検討 税管轄権の基準には「国籍や『居住』の事実に基づく『本拠地管轄(domiciliary jurisdiction)』ないし『居住地管轄(residential jurisdiction)』と、課税対象となる領域内の経済的活動や財産の所有等の事実を定める源泉管轄(source jurisdiction)」との二つ」(※2)があり、「居住地管轄と源泉管轄はその一般的原則となっている」(※3)とされる。前者は人的なネクサスを根拠に全世界所得に課税し、後者は物的な関連性を根拠に国内源泉所得に課税する(※4)。我が国では、住所基準に基づき、人的ネクサスの有無が判断される(※5)が、「住所」の意義は所得税法では定められていない。 (※2) 水野忠恒『国際課税の制度と理論-国際租税法の基礎的考察-』(有斐閣、1987)4頁。 (※3) 同上、水野(※2)書、5頁。 (※4) 村井正編『入門国際租税法〔改訂版〕』(清文社、2020)49頁。 (※5) 同上、村井(※4)書、50頁。   3 私見 本判決に概ね賛成するが疑問も残る。 「住所」の意義については、所得税法上、定義がなく、租税判例上は、借用概念論に基づき、民法上の住所解釈である生活の本拠を住所として解釈しており本判決も同様の解釈をとっている。 「住所」が国家と自然人とのネクサスを示すのに対し、国家と経済的活動とのネクサスを根拠にした源泉地管轄があるとの理解にたつと、当事案が、職業以外の要素にも触れ、生活や国との結びつきといった観点から資産の所在の判断を行い、資産の形成や源泉といった点には触れていない点や、シンガポールでの事業業績が日本での事業業績に比べて小さいことや日本法人からの多額の役員報酬を受けていたことについては住所の判断に直接的に影響していない点から、当事案の「住所」は職業(源泉)を重視したとみるよりもその国との人的ネクサスを判断する要素の一つとして職業を捉えているとみることができる。この理解は、所得を有さないこともあり得る扶養親族等の規定に用いられる「住所」の解釈としてみた場合にも齟齬が生じないだろう。 比較事案では、「原告Xの職業活動がどの国を本拠として行われていたかの判断は、その職業活動を行うに当たって当該国に滞在する必要性がどの程度あったかによって決せられるべき」と判示し、当事案では「生活の本拠たる実体を判断する上でその要素となる職業の観点については、それに係る活動をするに当たり、当該国に滞在する必要性がどの程度であったかということを中心に考慮すべき」ほか「必要性」というワードが判旨中に頻出し、その国に滞在する必要性を判断する基準として「職業活動の内容」を重視していることがうかがえる。つまり、事案において注目しているのは、源泉(地管轄)ではなく、その国に滞在しなければできない仕事かどうか、という点であろう。この点については、所得税法施行令14条の住所推定規定(※6)が、住所を有する者と推定するには「継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること」を要件の一つとして述べていることとも整合的である。 (※6) 所得税法施行令は、第14条及び第15条において、住所を有する者又は住所を有しない者と推定する場合について、次のように定める。 当事案では、滞在日数に有意な差がある場合は、職業活動による滞在の必要性を認めつつも滞在日数の多い国に住所があったと判断し、滞在日数に有意な差がない場合には、職業活動を考慮して滞在する必要性の程度を測って住所を判断している。 第一に滞在日数を考慮した点は賛成するが、日本に滞在した日数が多い場合にも職業活動の状況から住所を判断した点に疑問が残る。職業活動は本人の生活に大きく関わる要素ではあるが、滞在の必要性は職業活動のみから発生するものではない。職業活動と並行して、介護や留学、帯同、治療といった理由で滞在するケースも考えられる。総合的判断によるとはいえ、住所を生活の本拠としてみる場合、基本となる判定基準は滞在日数になると思われる。 なお、実務に与える示唆としては、当事案では、滞在日数に有意な差がない場合に、ある特定の場所でのみ滞在する場合と当該特定の場所を拠点としつつも他の場所を転々として当該特定の場所で滞在しないことが多い場合では、その者の生活との関係やつながりの程度等の点でおのずから差異があるものと考えられると判示していることから、特定の場所でのみ滞在する場合に優先的にその国とのつながりを認めたことにも留意する必要がある。 (了)
#662(掲載号)
#大野 道千
2026/03/26
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

2026年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】

2026年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 (最終回)   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   Ⅶ 有価証券報告書の株主総会前開示 2025年3月28日に金融庁より「株主総会前の適切な情報提供について」が公表され、有価証券報告書を株主総会前に開示するように要請が行われた。そして、株主総会前開示の負担軽減のため、2026年2月20日の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「開示府令」という)の改正が公表された。   1 「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正 (1) 有価証券報告書 改正前は定時株主総会前又は総会直後の取締役会で決議予定事項について、その旨と概要を有価証券報告書に記載することになっていた。しかし、改正後は、その記載が限定されている(開示府令第三号様式記載上の注意(1)g)。この改正は、2026年3月期の有価証券報告書から適用される。なお、早期適用も可能である。 改正前 改正後 定時株主総会前又は総会直後の取締役会で決議予定事項について、その旨と概要を有価証券報告書に記載する。例えば、以下を記載する。 【配当関係】 主要な経営指標等の推移、配当政策、株主資本等変動計算書における配当に関する注記について、決議予定の旨とその概要を記載する。 【ガバナンス関係】 コーポレート・ガバナンスの概要、役員の状況、監査の状況、役員の報酬等について、現時点の内容だけでなく、決議予定の旨とその概要も記載する。 定時株主総会前又は総会直後の取締役会で決議予定の自己株式の取得と配当に関する事項のみを記載する。 ① 自己株式の取得等の状況 ② 主要な経営指標等の推移 ③ 配当政策 ④ 株主資本等変動計算書における配当に関する注記 ① 自己株式の取得等の状況 (出所:金融庁「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」P.2) ② 主要な経営指標等の推移 (出所:金融庁「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」P.3) ③ 配当政策 (出所:金融庁「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」P.4) ④ 株主資本等変動計算書における配当に関する注記 (出所:金融庁「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」P.5) (2) 半期報告書 半期報告書の大株主の状況、議決権の状況の記載は、改正前は中間会計期間末日の状況で記載していたが、中間配当日基準を後ろ倒しにすることも想定し、改正後は中間配当基準日現在の状況について記載し、難しい場合は中間会計期間末日の状況で記載する(開示府令第四号の三様式記載上の注意(15)a、(16)a)。当該改正は、2026年4月1日以後開始する事業年度に係る半期報告書から適用される。 改正前 改正後 半期報告書(大株主の状況、議決権の状況) 中間会計期間末日の状況で記載 半期報告書(大株主の状況、議決権の状況) 中間配当基準日現在の状況で記載 難しい場合は中間会計期間末日の状況で記載   2 株主総会前開示の実現方法 多くの会社では株主総会の数日前に有価証券報告書を提出することで対応していると考えられる(下図の①の方法)が、現行でもそれ以外の方法もある。 (出所:金融庁「総会前開示の実現方法」)   Ⅷ 有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 2025年4月1日に金融庁より「令和6年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」が公表された。有価証券報告書作成にあたって留意すべき事項であるため、各社参考にしてもらいたい。また、令和7年度版も近日公表される予定であるため、そちらも確認してもらいたい。 (1) サステナビリティに関する考え方及び取組み 有価証券報告書におけるサステナビリティの記載について、現状、記載の充実に差があると考えられる。サステナビリティの記載は、各社の対応により毎期記載内容が変わる、また、具体的に記載することが有用な情報の提供につながるため、前期と同様の記載で良いのか十分に検討することが重要であると考えられる。金融庁の審査結果でも課題が取り上げられているため、各社参考にしてもらいたい。 (出所:金融庁「令和6年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」P.18、19) (2) 従業員の状況及びコーポレート・ガバナンスの状況等 有価証券報告書における従業員の状況における女性管理職比率、コーポレート・ガバナンス、政策保有株式の記載誤りがあるため、金融庁の審査結果で課題が取り上げられている。 (出所:金融庁「令和6年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」P.38、39) Ⅸ 後発事象に関する会計基準 2026年1月9日にASBJより企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」(以下、「後発事象基準」という)及び「後発事象に関する会計基準の適用指針」(以下、「後発事象指針」という)が公表された。日本では、後発事象に関する会計基準がなく、日本公認会計士協会から公表されていた監査・保証基準委員会 監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」をもとに会計処理も検討されていたが、後発事象基準が公表されたことにより、会計基準の体系化がより進んだ。   1 後発事象の定義 「後発事象」は、以下のとおり定義された(後発事象基準4)。 修正後発事象と開示後発事象は、以下のとおり定義された(後発事象基準5、6)。 修正後発事象 決算日後に発生した事象ではあるが、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断又は見積りをする上で、追加的又はより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない事象 開示後発事象 決算日後において発生し、当期の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌期以降の財務諸表に影響を及ぼす事象   2 後発事象の評価期間 (1) 原則 後発事象の評価期間の末日は、原則として、財務諸表の公表の承認日とする(後発事象基準7)。「財務諸表の公表の承認日」は、財務諸表を公表することを承認する権限を有する社内の機関又は個人が公表を承認した日付を指す(後発事象基準BC16)。 今までは監査報告書日を評価期間の末日としていたが、IFRSと同様に財務諸表の公表の承認日とされた。 (2) 会社法の場合 会計監査人設置会社において会計監査人により監査される計算書類及び附属明細書(計算書類等)又は連結計算書類に関する後発事象の評価期間の末日は、企業が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準及び会社計算規則に準拠して計算書類等又は連結計算書類を作成する監査契約上の責任を果たしたことを確認した日(確認日)とする(後発事象指針4)。確認日は、通常、経営者確認書の日付と同一になる(後発事象指針BC7)。   3 会計監査人設置会社における確認日後に発生した修正後発事象の取扱い 以下の(1)及び(2)の事象については、修正後発事象として取り扱わず、開示後発事象に準じて取り扱い、重要な開示後発事象に関する注記を行う(後発事象指針5、BC11)。 (1) 計算書類等に関する確認日後、個別財務諸表の公表の承認日までに発生した後発事象(修正後発事象)に該当する事象 (2) 連結計算書類に関する確認日後、連結財務諸表の公表の承認日までに発生した後発事象(修正後発事象)に該当する事象   4 注記 以下の注記を行う(後発事象基準10、11)。連結財務諸表を作成している場合、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一の内容であるときには、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる(後発事象基準12)。   5 適用時期 2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する(後発事象基準13)。適用初年度においては、後発事象基準及び後発事象指針を 2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から将来にわたって適用する(後発事象基準14)。 (連載了)
#662(掲載号)
#西田 友洋
2026/03/26
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