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税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第19回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第19回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解⑩」   東洋大学法学部准教授 泉 絢也     問12 NFT取引に係る消費税の取扱い②(デジタルアートに係るNFTの転売者) マーケットプレイスを通じてデジタルアートの制作者からデジタルアート(著作物)が紐付けられたNFTを購入した個人が、その後、そのマーケットプレイスを通じてそのNFTを他者に有償で譲渡するケース(二次流通)である。   【内外判定のルール】 問11で述べたとおり、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等で一定のものなどについて、消費税を納める義務があり、資産の譲渡等が国内において行われたかどうかという内外判定を行う必要がある。その判定は、次の場合の区分に応じて、それぞれに定める場所が国内にあるかどうかにより行う。   【本事例の場合】 FAQの解説は、次のとおり説明している。 解説は、本事例のNFTを他社に譲渡する取引について、「利用の許諾に係る権利(利用権)を他者に譲渡するもの」と理解した上で、「当該利用権の譲渡が行われる時における資産の所在場所が明らかでないことから、本取引が国内において行われたものかどうかの判定(内外判定)は、譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所等の所在地が国内かどうかにより行うこととなります(消法4③一かっこ書、消令6①十)」としている。 そして、「本取引が、国内において(譲渡に係る事務所等が国内に所在する事業者が)、事業として対価を得て行うものであれば、当該事業者に消費税が課される」と結論付けている。 内外判定との関係では、FAQは、本事例のような「利用の許諾に係る権利(利用権)を他者に譲渡する」ことは、上記「資産の譲渡又は貸付けの場合」の内外判定に係る「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずる権利を含む。)」(消令6①七)の譲渡に含まれると解していないことを暗に示している。 FAQの解説では、次の点も明らかにしている。   (了)
#522(掲載号)
#泉 絢也
2023/06/08
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第87回】「財産分与と譲渡所得課税事件」~最判昭和50年5月27日(民集29巻5号641頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第87回】 「財産分与と譲渡所得課税事件」 ~最判昭和50年5月27日(民集29巻5号641頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)
#522(掲載号)
#菊田 雅裕
2023/06/08
会計 税務・会計 解説 解説一覧

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2023年5月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年5月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年5月1日から5月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から、次のものが公表されている(②については、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所とともに公表)。 ① 企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等(公開草案)(内容:借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準を開発する。意見募集期間は2023年8月4日まで) ② 改正「中小企業の会計に関する指針」(内容:収益の計上基準の注記に関する改正) ③ 実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」等(公開草案)(内容:改正資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いを示すもの。意見募集期間は2023年8月4日まで) また、国際会計基準審議会(IASB)によるIAS第12号「法人所得税」の修正が公表されている。これは、国際的な税制改革から生じる繰延税金の会計処理からの一時的な救済措置を企業に与えるものである。   Ⅲ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 監査役監査実施要領の改定について(内容:会社法の改正及び改正会社法に係る法務省令の改正及びコーポレートガバナンス・コードの改訂などを反映したもの) (了)
#522(掲載号)
#阿部 光成
2023/06/08
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第39回】「セクハラ訴訟における被告の防衛のポイント」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第39回】 「セクハラ訴訟における被告の防衛のポイント」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社の社員A(女性)が、上司B(男性)からセクハラを受けたと主張し、当社に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。現在、裁判の準備をしているところですが、セクハラ訴訟における被告の防衛のポイントを教えていただけますでしょうか。 【Answer】 客観的な証拠に裏付けられた説得力のある「ストーリー」を示すことができるかどうかがポイントになります。例えば、「加害者の性的言動について被害者の合意があった」、「加害者の性的言動を受け入れることについて被害者にもメリットがあった」等のストーリーを示すことが考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 裁判における「ストーリー」の重要性 セクハラの被害者(とされる者)から会社(雇用主)に対する損害賠償請求は不法行為(民法709条、715条)に基づく場合と債務不履行責任(民法415条)に基づく場合とが考えられるが、いずれにしろ加害者(とされる者)のセクハラ行為が認められるか否かが会社の責任の成否のポイントになる。 セクハラ訴訟において、加害者は、そもそもセクハラ行為を行っていない、といった反論の他、(被害者が主張する加害者の性的言動があったとしても)被害者は加害者の性的言動に合意していた、といった反論を行うことが多い。これらの事実の有無にかかる判断については、被害者と加害者の関係や両者の心情等が深く関わってくるが、裁判という物理的・時間的制約のある場において、被害者と加害者の関係やそれぞれの心情等について、裁判官に十分に理解してもらうことはなかなかに困難なことである。よって、裁判官に「真実」を理解してもらうには、主張立証上の工夫が必要になる。 ハラスメント事案においては、事実認定を行うに十分な客観的な証拠がなく、被害者・加害者それぞれの供述に基づいて事実認定を行わなければならないことが多い。その際、裁判官は、供述の内容が自然で合理的か、供述が不合理に変遷せず一貫しているか、供述が客観的証拠と一致しているかなどの観点から、被害者の供述と加害者の供述のどちらが信用できるかを判断し、事実認定を行う。その際、ある事情が供述の信用性を肯定する事情・否定する事情のどちらに位置づけられるかは、以下のとおり、「ストーリー」を示すことができるか否かによるところが大きいと思われる。   2 セクハラ事案の事実認定のポイントとなる要素 上記のとおり、セクハラ事案においては、そもそも問題とされている性的な言動の存否や、(かかる性的な言動の存在を前提としたうえで)被害者の合意の有無が争点になることが多いが、例えば以下の事実は、被害者の供述の信用性を否定する方向に働き、もって性的言動の存在を否定したり、合意の存在を肯定したりする要素となり得る。 しかし、他方で、これらは以下のとおり、被害者の供述の信用性を肯定する方向にも働き得るものであって、確実に決め手になるとは言い難い。 (※1) バドミントン協会の役員Yによるバドミントン部の女性選手Xに対する強姦等の事実の有無が争われた事案(熊本地判平成9年6月25日・判時1638号135頁)において、YはXの合意の存在を主張したが、裁判所は、概要以下のとおり判示してXの合意の存在を否定し、Yによる強姦等の事実を認めた。 (※2) 男性上司Yが女性部下Xと数回にわたり性的交渉をもったこと等がセクハラに該当するか否かが争われた事案(東京地判平成24年6月13日・労経速2153号3頁)において、裁判所は、部下Xは、職を失うことを危惧して上司Yとの性交に応じたに過ぎないなどと述べて、XのY等に対する損害賠償請求を認めた。 なお、上記②の事実については、被害者の供述の信用性を肯定する理由はなさそうにも思われるが、筆者は、裁判官が、被害者が多数の親しくもない第三者にセクハラ被害を打ち明けたのは、被害者が混乱状態にあったためであり、不自然ではない、と述べたケースを知っている。このような理由で被害者の供述の信用性が認められるのであれば、いかなる事実も被害者の供述の信用性を肯定する事実として位置づけられてしまうのではないかとも思われるが、それだけに、やはり「ストーリー」を提示できるかどうかは防衛のうえで重要なポイントになると言えるであろう。   3 「ストーリー」提示のコツ では、説得力のある「ストーリー」はどのように示せばよいか。 まずは、客観的証拠に裏付けられた事実に即したストーリーである必要がある。客観的証拠に沿わない主張をいくら展開しても裁判官を納得させることは難しいし、事実に即した主張を行うべきことは当然のことである。 次に、仮にセクハラの事実がない、または、被害者の合意があったという場合は、被害者が虚偽の事実を述べているということになるが、なぜ被害者が虚偽の事実を主張して裁判まで起こしたのか、その理由を説得的に述べる必要がある。 「ストーリー」の内容としては、被害者の同意があったというものの他、加害者と性的関係を持つことについて被害者にメリットがあった、というストーリーを示すことが有効なこともあるので(※3)、場合によってはそのような事情がないかどうか、確認してみるのもよいであろう。 (※3) S工業事件(東京地判平成22年2月16日・労判1007号54頁)は、上司Yの従業員Xに対する言動を「外形的にはセクシャルハラスメントに当たるということもできる」としつつ、XがYから経済的援助を引き出すためにYと定期的に食事等をするという状態を自発的に解消しようとしなかったことに照らすと、不法行為は成立しないとして、XからY等に対する損害賠償請求を認めなかった。 (了)
#522(掲載号)
#柳田 忍
2023/06/08
お知らせ 消費税・地方消費税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 インボイス制度開始を踏まえ、各個別通達を消基通に統合等する改正案がパブコメに付される~軽減・インボイス通達等を取り込み、Q&AやR5改正に係る所要の改正も~

《速報解説》 インボイス制度開始を踏まえ、 各個別通達を消基通に統合等する改正案がパブコメに付される ~軽減・インボイス通達等を取り込み、Q&AやR5改正に係る所要の改正も~   Profession Journal編集部   国税庁は令和5年6月1日付で「消費税法基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)を示し、本改正案に対する意見募集を行っている。 本改正案は、令和5年10月1日のインボイス制度の開始を踏まえ、制度開始前から制定し法令解釈を示している軽減税率制度やインボイス制度、総額表示に係る個別通達を廃止した上で、その内容を消費税法基本通達に統合等するものである。 なお、意見募集期間は6月30日までとしている。   1 改正案の概要 (1) 統合する個別通達 次の個別通達を消費税法基本通達に統合することとしている。具体的には、各個別通達を消費税法基本通達の該当する箇所に挿入するとともに、一部表現の適正化等を行っている。 (2) 既存の取扱いに係る整備 これまで国税庁は、事業者のインボイス制度対応に資するよう、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(以下「インボイスQ&A」という)を国税庁ホームページに掲載し、随時、事例の追加・掲載内容の改訂をしてきたところ、今回の統合に合わせ、インボイスQ&Aで示していた内容を踏まえて、消費税法基本通達の改正を行っている。なお、従前のインボイスQ&Aの内容と異なるものではないとしている。 主な改正内容は次のとおりである。 (3) その他消費税法基本通達の整備 上記(1)及び(2)のほか、インボイス制度を踏まえて一部の通達を改正している。また、次のとおり令和5年度税制改正に関する取扱いの明確化等に係る所要の改正を行っている。   2 適用時期 改正後の消費税法基本通達の取扱いは、令和5年10月1日から適用となる。 なお、同日前においては、引き続き、改正前の消費税法基本通達及び同日をもって廃止する各個別通達の取扱いを適用する。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#Profession Journal 編集部
2023/06/05
お知らせ 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 財産評価 速報解説一覧

《速報解説》 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議、第2回を開催~現行評価額に市場価格との乖離率を乗じる方法が有力か~

《速報解説》 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議、第2回を開催 ~現行評価額に市場価格との乖離率を乗じる方法が有力か~   Profession Journal編集部   マンションの評価方法の適正化を目的として、既報のとおり本年1月30日(月)に第1回が開催された「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」について、6月1日(木)に第2回が開催され、翌2日付けでその内容が公表された。 まず、マンションの評価額が市場価格と乖離する主な要因として、下記の見解が示された。 次に、乖離を是正するための評価方法の案として、 が提示され、後者2についてはさらに下記2つの方法が考えられるとしている。 その上で、上記の各評価方法に対する公平性等の問題点が指摘されたが、②については「乖離要因を説明変数とすることから、相続税評価額と市場価格の乖離を補正する方法として直截的であり、乖離要因に基づき補正すれば足りるため執行可能性も高い。」とされた。 また、相続税評価額が市場価格と乖離する要因として考えられる築年数、総階数(総階数指数)、所在階、敷地持分狭小度の4つの指数を説明変数とし、乖離率を目的変数とした重回帰分析の結果も公表されている。 今後の見直しの方向性としては とされており、委員からは下記の意見があったとのこと。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#Profession Journal 編集部
2023/06/05
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.521が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年6月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.521を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2023/06/01
税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.124-「『安倍晋三 回顧録』に歴史的な価値があるか」

monthly TAX views -No.124- 「『安倍晋三 回顧録』に歴史的な価値があるか」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   安倍晋三元総理が読売新聞社の橋本五郎氏と尾山宏氏のインタビューに応じた『安倍晋三 回顧録』が中央公論新社から今年2月に発刊された。インタビューは2020年10月から2021年10月まで計18回、36時間にわたり行われたもので、ベストセラー本になっている。 安倍氏が内政・外交を赤裸々に語っており、当時のオバマ大統領、トランプ大統領、プーチン大統領、習近平国家主席などへの個人的な評価や秘話も描かれており、大変興味深い内容である。 筆者がとりわけ興味を持ったのは、2度の消費増税延期を巡っての財務省との駆け引きの部分で、特に印象に残るのは以下の2ヶ所である。 とりわけ後者の認識は、世間一般で言われている、「総理夫人の名前が出てくるので財務省の担当局長が『忖度して』公文書を改ざんした」という評価と真逆なもので、驚かされた。 それはともかく、回顧録が歴史に耐える内容となっているかどうかについて、文藝春秋2023年5月号に御厨貴氏と中北浩璽中央大学教授との対談が掲載され、それに対してインタビュアーである橋本五郎読売新聞特別編集委員が「[五郎ワールド]正義は一つではない」(2023年5月6日付読売新聞)で真っ向から反論するなど興味深い議論が続いているので、筆者の感想を書いてみたい。 *  *  * 御厨氏の論点を筆者なりに要約すると、「インタビュアーの橋本五郎氏は立場からして安倍シンパで、いわば身内ともいえる。そのため、質問が対等の立場でなされておらず、安倍氏の自己正当化や美化をそのまま容認する内容になっており、オーラルヒストリーとして歴史的な価値があるとは言えない」ということである。これに橋本氏は色をなして「真剣勝負をした」と反論をしているのだが、筆者の専門分野である経済政策・アベノミクスに関する記述を見る限り、御厨氏に軍配を上げざるをえない。 10年もアベノミクス・異次元の金融緩和を継続したにもかかわらず、トリクルダウンは生じず高所得層と低所得層への2極分化が進み、国民の実質賃金も停滞したことをどう認識しているのか、どこにも質問や記述はない。 正統派経済学からは異端とされる「リフレ派」の考え方を信奉し、国債発行しても政府の子会社である日銀が無制限に買うので問題はない、孫子に借金を残すわけではないという「MMT(現代貨幣理論)」を担いだのはなぜなのか。 デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向けて日本銀行と政府が出した共同声明(2013年1月22日)で、政府のコミットした構造改革や成長戦略が進まなかった理由はどこにあるのかなど、本来問うべき事柄は数多くあるはずだ。 いずれにしても、経済政策に関する部分は財務省批判に終始しており、歴史的価値を論ずるにはあまりにも質の面で問題がある。アベノミクスの評価は、客観的な資料に基づく冷静な分析が必要だ。 (了)
#521(掲載号)
#森信 茂樹
2023/06/01
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例52】「請負契約により取得した機械装置の取得時期」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例52】 「請負契約により取得した機械装置の取得時期」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、中部地方において自動車部品の製造業を営む株式会社A(資本金20億円で3月決算)において、経理部長を務めております。中部地方にはわが国を代表する自動車メーカーの工場が多数存在しており、わが社もそれらに属する担当者から要求される厳しい品質基準とコスト管理に音を上げつつも、何とか食らいついて、これまで事業を維持することができてきたところです。 自動車業界は技術革新のスピードが極めて速く、完成品メーカーにその部品を納入する下請けも常にそのような流れの中で、最新の技術に見合う品質と、それと相反する「リーズナブルな」コストとを両立した製品を製造し続けることが求められています。そのため、わが社を取り巻く経済環境が厳しい中、将来の自社の収益源を維持・開拓するため、設備投資への資金投入には余念がないところであります。 そんな中、先日来受けている税務調査でわが社が過去に行った設備投資に関し、調査官から問題が提起されています。すなわち、自動車の完成品メーカーからの要請で、一昨年の事業年度(X1年3月31日決算)終了間際において、新たに納入することとなった部品を製造するのに必要な工作機械を導入したのですが、その導入のタイミングに係る経理処理が間違っていると指摘されました。 わが社は、メーカーの要請に1日でも早く応えるため、事業年度末に近いX1年3月30日に機械の据付工事を終え、直ちにサンプルとなる部品の製造を開始し、翌事業年度であるX1年4月3日にはその第1弾を相手方に提供しております。したがって、わが社の経理上の処理としては、据付工事を終え部品の製造を開始したX1年3月期において当該機械装置に係る減価償却費を損金に計上しております。ところが、調査官は、納入メーカーによる据付工事はX1年3月30日に終了しているとしても、その試運転により当該機械に期待される性能の発揮をわが社が確認したのは早くてX1年4月1日以降であり、事業年度末であるX1年3月31日において機械を取得したというための要件である検収を終えていないため、当該事業年度において減価償却費を損金に計上することはできないと主張しております。このような場合、当該機械装置の取得時期及び減価償却費の損金計上のタイミングはどうなるのでしょうか、教えてください。 【A】 製造機械や医療機器のような値も張り、据付工事も必要で、試運転等によってメーカーが保証するスペックが確実に発揮されているのか、顧客によって確認することが必須となる棚卸資産の販売に係る収益の計上基準としては、検収基準が適当であると考えられます。本件の機械装置は正に検収基準によるべきものと考えられることから、機械装置を取得する側であるA社においても、自らが行う検収を経ることなく前倒しで取得したものとみなし、当該タイミングで減価償却費を計上して損金算入することは、困難と言わざるを得ないでしょう。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 収益の計上時期に係る基準 企業会計上の収益の計上基準については、一般に、実現主義の原則に従って計上することとされている(企業会計原則第二・三B)。ここでいう「実現主義」の具体的態様については、例えば棚卸資産の販売に関していえば、一般に当該棚卸資産の引渡しの時点(引渡基準)ということになるが、その他に棚卸資産の出荷の時点(出荷基準)や売り先による当該棚卸資産の検収の時点(検収基準)によることも妥当であると考えられている。これらは、いずれも収益認識に係る「販売基準」の一形態であると考えられる。 しかし、収益認識に係る会計基準は近年、大幅な変更がなされたところである。すなわち、2021年4月以降に開始する年度からは、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が適用されている。当該基準によれば、売上高などの収益は企業が契約上の履行義務を充足したときに認識することとされ、具体的には、一時点で支配が移転する取引には販売基準の適用を、継続的に支配が移転する取引には生産基準(工事進行基準など)の適用を求めている。   (2) 減価償却費の計上時期 固定資産のうち、使用又は時間の経過によって価値が減少する資産を一般に減価償却資産というが、当該減価償却資産につき各事業年度において価値が減少(減価)した部分の金額を減価償却費という。減価償却資産は、費用収益対応の原則から、使用又は時間の経過によって減価するのに応じて徐々に費用化すべきと考えられるが、このような考え方に基づいて費用化される金額が減価償却費である。法人税法は、このような考え方に基づきつつ、減価償却費のうち損金に算入されるのは、法人が償却費として損金経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額と規定している(法法31①)。 また、法人税法は、その費用につき、原則として債務の確定をもって損金に計上できるとする債務確定主義を採用しているものと解されている。しかし、減価償却資産に係る減価償却費の損金計上は、当該債務確定主義の例外とされている(法法22③二)。そのため、減価償却費の法人税法上の計上時期について検討するにあたり、重要なのは、そもそも減価償却の対象となる減価償却資産をいつ取得し、事業の用に供したかである。 この点につき裁判例においては、企業が減価償却費を各事業年度の損金に算入するためには、その事業年度の終了より前にそれを取得していることが必要とされており、この場合の「取得」のタイミングに係る判断基準としては、機械装置の完成・設置の請負契約の場合、その「引渡し」を受けていること、更に当該引渡しの判断基準としては、当該機械装置の試運転及び調整作業を完了し、所期の性能を有することが確認されることが必要とされている(名古屋高裁平成4年10月29日判決・行裁例集43巻10号1385頁、TAINSコード:Z193-7011)。ここから、機械装置の完成・設置が要請される請負契約の場合、上記(1)の「販売基準」、なかでも「検収基準」の重要性がクローズアップされるわけである。   (3) 請負契約により取得した機械装置の取得時期が争われた事例 それでは、業種や業務内容は異なるものの、本件と同様に、請負契約により取得した機械装置の取得時期が争われた事例(東京地裁平成30年3月6日判決・訟月65巻2号171頁、TAINSコード:Z268-13126、「香月堂事件」)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 愛知県においてバウムクーヘン等の菓子の製造を行う株式会社である原告が、自社の工場において設置した機械装置(製品格納自動倉庫システム・取得価額1億7,650万円(税抜))について、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度の法人税の所得の金額の計算上、法人税法第31条の規定の適用による減価償却の方法により計算した減価償却費、及び租税特別措置法第52条の3の規定の適用による特別償却準備金として積み立てた金額を損金の額に算入して法人税の確定申告を行い、かつ、当該法人税の確定申告に基づき平成24年4月1日から平成25年3月31日までの課税事業年度の復興特別法人税(法人税額の10%相当額の加算税、平成24年4月から2年間に限り実施)の確定申告を行った。 そのような確定申告の内容に関し、豊橋税務署長は、原告は本件機械装置を本件事業年度終了の時において取得しておらず、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、本件減価償却費等を損金の額に算入することはできず、かつ、この処理を前提とした本件課税事業年度の復興特別法人税の計算には誤りがあるとして、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに本件課税事業年度の復興特別法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。それに対して、原告が本件各更正処分等のうちの一部分の取消しを求めた事案である。 ② 事案の争点 本件の争点は、原告が本件減価償却費等を本件事業年度の損金の額に算入することができるか否かであり、具体的には、原告が本件事業年度終了の時において、本件機械装置を「取得」していたか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが棄却され(東京高裁平成30年9月5日判決・訟月65巻2号208頁、TAINSコード:Z268-13182)、さらに上告されたが不受理となり(最高裁平成31年3月28日決定・税資269号-38(順号13261)(TAINSコード:Z269-13261))、確定した。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例において裁判所は、減価償却資産に係る減価償却費の損金算入は、当該減価償却資産を取得した事業年度において行うことができるとしていることから、本件の機械装置の場合、その取得したタイミングがいつであるのかが問題となる。 この点につき裁判所は、機械装置等を特定の場所に設置し、これを稼働させることを目的とする請負契約において、注文者が請負人から引渡しを受けたというためには、「請負人において当該機械装置等の物理的な設置及び所要の調整作業等を完了した上で、注文者による当該機械装置等が所期の性能を有することの確認等が必要であると解すべき」と判示し、当該引渡しの時点において所有権が移転したものと認定している。 ここで示されている判断基準は、企業会計における棚卸資産の販売に係る収益の計上時期に関し、いわゆる実現主義の具体的な態様としての引渡基準、出荷基準と並ぶ「検収基準」に相当するものと考えられる。検収基準は、一般に、大量生産の規格品のように、通常中身を細かくチェックすることなく商品棚等に陳列して販売するものに係る収益計上時期の基準ではなく、製造機械や医療機器のような値も張り、据付工事も必要で、試運転等によってメーカーが保証するスペックが確実に発揮されているのか、顧客によって確認することが必須となる棚卸資産の販売に係る基準として適当であると考えられる。本件の機械装置は正に検収基準によるべきものと考えられることから、検収を経ることなく前倒しで取得したものとみなして減価償却費を計上し損金算入することは、困難と言わざるを得ないであろう。   (4) 本件へのあてはめ 製造機械や医療機器のような値も張り、据付工事も必要で、試運転等によってメーカーが保証するスペックが確実に発揮されているのか、顧客によって確認することが必須となる棚卸資産の販売に係る収益の計上基準としては、検収基準が適当であると考えられる。本件の機械装置は正に検収基準によるべきものと考えられることから、機械装置を取得する側であるA社においても、自らが行う検収を経ることなく前倒しで取得したものとみなし、当該タイミングで減価償却費を前倒しで計上して損金算入することは、困難と言わざるを得ないであろう。 (了)
#521(掲載号)
#安部 和彦
2023/06/01
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租税争訟レポート 【第67回】「税理士法人による期限後申告と青色申告承認取消処分(福岡地方裁判所令和4年12月14日判決)」

租税争訟レポート 【第67回】 「税理士法人による期限後申告と青色申告承認取消処分 (福岡地方裁判所令和4年12月14日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】   【事案の概要】 本件は、青色申告の承認を受けていた株式会社である原告が、確定申告書を提出期限までに提出しなかったことを理由として、処分行政庁から青色申告承認取消処分(本件処分)を受けたため、被告を相手として、本件処分の取消しを求める事案である。 原告は、税理士法人の担当者が期限内に申告書を提出することを失念していたことから、平成30年6月期の法人税確定申告書(提出期限8月31日)を同年9月18日に、令和元年6月期の法人税確定申告書(提出期限9月2日)は同年9月10日に、それぞれe-Taxを利用して提出した。処分行政庁は、原告が2事業年度連続して確定申告書を期限までに提出しなかったとして青色申告承認取消処分を行ったものである。 なお、本件処分に係る青色申告承認取消通知書(本件通知書)には、法人税法127条1項4号に該当する旨の記載とともに、その「(取消処分の基因となった事実)」として、「自 平成30年7月1日 至 令和1年6月30日事業年度の法人税確定申告書が、その提出期限までに提出されていないこと」との記載がある。   【福岡地方裁判所による判決の概要】 1 争点 2 青色申告承認取消処分に関する規定と事務運営指針 青色申告の承認取消しに係る法人税法の規定は、次のとおりである(一部、かっこ書き等を省略している)。条文上は、一度、確定申告書を提出期限までに提出しなければ、所轄税務署長は、その申告書に係る事業年度に遡って、青色申告の承認を取り消すことができる。 一方、国税庁長官による事務運営指針「法人の青色申告の承認の取消しについて (以下、「本件事務運営指針」という)」では、次のように、法人税法第127条第1項の規定の適用に関し留意すべき事項等が定められている(一部、文章を省略している)。 3 争点に対する原告と被告の主張 (1) 本件処分が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法であるか〔争点1〕 ① 原告の主張 原告は、処分行政庁が、次のような事情を考慮せずに本件処分を行ったことは、その判断が合目的的かつ合理的なものとして許容される限度を超え、著しく不当である場合に当たり、処分行政庁に委ねられた裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものとして、違法であると主張した。 さらに、原告は、本件事務運営指針5の「相当の事情」があるとして次のような事実を列挙したうえで、2事業年度連続の確定申告書期限内不提出につき原告に帰責性はないことから、本件処分は、処分行政庁に委ねられた裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものとして、違法であると主張した。 ② 被告の主張 被告は、原告の期限後申告が2事業年度連続して行われたものであることは争いのない事実であり、原告には、青色申告承認の取消事由があり、これが本件事務運営指針の4に該当することは明らかであって、これらを踏まえてされた本件処分に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用による違法があるとはいえないと主張した。 (2) 本件処分が理由付記の不備により違法であるか〔争点2〕 ① 被告の主張 被告は、法人税法127条1項4号は、所轄税務署長が、当該法人の1事業年度の確定申告書の期限内不提出をもって、同法人に対し、青色申告承認取消処分を行うことができる旨を規定したものであり、本件処分の通知書には、原告が令和元年6月期確定申告書を提出期限までに提出しなかったこと及びこの事実が同号に該当する旨が記載されていることから、処分の名宛人である原告は、いかなる事実に基づき、いかなる法令を適用して処分がされたのか十分に了知し得たものであり、本件通知書における理由の記載は、理由付記の程度として必要かつ十分なものであったといえると主張した。 ② 原告の主張 原告は、法人税の青色申告承認取消処分が納税上の種々の特典を剥奪する重大な不利益処分であることに鑑み、税務署長が適切にその裁量権を行使するための基準として、本件事務運営指針が設定され、公にされていることからすれば、本件通知書の理由付記の程度として、処分基準である本件事務運営指針への適用関係の記載が要求されているというべきであり、本件事務運営指針の適用関係についての記載を欠いた本件通知書の記載は、理由付記の要件を欠くものであって、本件処分は違法であると主張した。 (3) 本件処分において事前に原告に防御する機会を与えなかったことが憲法31条に反して違憲・違法であるか〔争点3〕 ① 被告の主張 被告は、処分行政庁が、本件処分を行うに当たり、原告に対して、告知、弁解、防御の機会を付与しなければならない旨の税法上の規定や根拠は存在しないとしたうえで、法人税法127条1項4号の規定及びこれを受けた本件事務運営指針の4の定めや、本件事務運営指針は国税庁のホームページ上で公表されていることからすれば、原告が平成30年6月期確定申告において期限後申告をした際、令和元年6月期確定申告については、青色申告承認取消処分を回避すべく、確実に期限内申告をするため準備、対応する機会を十分に与えられていたというべきである。それにもかかわらず、原告は、令和元年6月期確定申告についても期限後申告をしており、本件事務運営指針の5で定める事情も見当たらないため、税務職員において、本件処分に当たり、原告に対し、ことさらにその理由等について事情聴取する必要性はなかったことから、本件処分につき原告に事前の防御の機会を与えなかった点が違憲・違法であるとの原告の主張には理由がなく、本件処分は適法であると主張した。 ② 原告の主張 原告は、青色申告承認取消処分には、更正処分等のような除斥期間の定めがなく、これを速やかに行うべき緊急性はないうえ、過去の事業年度に遡って納税上の種々の特典を剥奪するという重大な不利益を納税者に対して課す処分であることを考慮すると、少なくとも本件のような事案において、青色申告承認取消処分をするに際し、事前の告知、弁解、防御の機会を納税者に対して全く与えなかった場合、同処分は、憲法31条に反するものであると主張した。 さらに、青色申告承認取消処分は、納税上特典を受け得る地位を剥奪する非金銭的処分であるため、行政手続法適用除外の理由が妥当しないうえ、行政手続法13条2項各号にも当たらず、国税通則法74条の14第1項による行政手続法第3章の適用除外を正当化することはできないことから、国税通則法74条の14第1項は、本件に適用する限度で憲法31条に反して違憲であると主張した。 4 福岡地方裁判所の判断 福岡地方裁判所は、それぞれの争点について、以下のような判断を示した。 (1) 本件処分が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法であるか〔争点1〕 裁判所は、まず、青色申告の承認を取り消すものとした処分行政庁の判断につき、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があった場合には、青色申告の承認を取り消す旨の処分は違法として取り消されるべきものであるという判断を示したうえで、確定申告書を提出期限までに提出することは、青色申告法人の基本的義務というべきであり、2事業年度連続で確定申告書を期限内に提出しないことは、法人税法127条1項4号の違反の程度としては軽視することのできないものというべきであること、さらに、税理士法2条1項1号に規定する税務代理は、民法99条が規定する代理人が本人に代わって意思表示を行う行為に該当し、その法律効果は直接本人に帰属するのであるから、納税者が自己の判断と責任において、申告手続を税理士に委任し、税理士が代理人として行った申告は申告名義人である納税者の行為として取り扱われるものと解され、2事業年度連続で確定申告書が期限内不提出となった原因が、税理士法人の担当職員の過誤によるものであるとしても、こうした事情は、原告と税理士法人との間の内部事情によるものといわざるを得ないことから、処分行政庁が本件処分(青色申告の承認の取消し)をしたことについて、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認められないと判示した。 原告の主張について、裁判所は、2事業年度連続で期限後申告をしていることそれ自体が軽視することのできないものであるから、原告主張の事情をもって、本件処分が考慮すべき事情を考慮せずにされたものということはできず、また、その判断内容に明らかに合理性を欠く点があるということもできないこと、本件処分が「原告が税理士法人による期限後申告を知らなかったこと」を考慮せずにされたとしても、その判断内容に明らかに合理性を欠く点があるとはいえないことから、処分行政庁が本件処分をしたことにつき、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものということはできないとして、その主張を斥けた。 (2) 本件処分が理由付記の不備により違法であるか〔争点2〕 裁判所は、本件通知書には、原告が法人税法127条1項4号に該当することとともに、その「(取消処分の基因となった事実)」として、「自 平成30年7月1日 至 令和1年6月30日事業年度の法人税確定申告書が、その提出期限までに提出されていないこと」との記載があったことから、原告において、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件処分がされたかをその記載自体から了知することができるものであるといえるという理由を示したうえで、本件通知書の理由付記に不備があるとはいえず、本件処分が理由提示の要件を欠いた違法な処分であるとはいえないと判示した。 原告の主張について、裁判所は、本件通知書の記載によれば、原告において、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件処分がされたかをその記載自体から了知することができたことに加え、本件通知書の記載とあらかじめ公表されていた本件事務運営指針の定めとを照らし合わせることによって、原告において、いかなる理由に基づいてどのような基準が適用されて本件処分が選択されたのかをも知ることができるものというべきであるとの判断を示し、本件通知書に付記された理由は、法の要請を必要最小限は満たしているものであり、本件事務運営指針に関する記載がなかったことをもって、不備であるとはいえないとして、その主張を斥けた。 (3) 本件処分において事前に原告に防御する機会を与えなかったことが憲法31条に反して違憲・違法であるか〔争点3〕 裁判所は、税務署長が、青色申告承認取消処分を行うに当たり、被処分者に対して告知、聴聞その他弁明の機会を付与しなければならない旨の法律上の規定や根拠は存在しないのみならず、国税通則法74条の14第1項は、「国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為」については、行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3章(不利益処分)の規定は適用しない旨を規定しており、上記の「国税に関する法律に基づき行われる処分」である青色申告承認取消処分については、行政手続法第3章の規定を適用しないこととしており、これらの処分が、①金銭に関する処分であるから事後的な手続で処理することが適当であり、この点の事後的な手続として、税務署長に対する異議申立てと国税不服審判所長に対する審査請求の2段階の不服申立手続が整備されていること、②大量・反復的に行われること、③限られた人員で適正・公平・迅速に手続の処理を図らなければならないこと、④処分理由の提示が要求されていること等の理由によるものと解されることから、国税通則法74条の14第1項の規定は、憲法31条に反して違憲であるとはいえないという判断を示した。同時に、法人税法127条1項の規定による青色申告承認取消処分については、その処分の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に告知、弁解、防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとは解されないというべきであると判示して、原告の主張をいずれも斥けた。 (4) 結論 裁判所は、上記の争点に対する判断に基づき、原告の請求は、理由がないから棄却するという判決を下した。   【解説】 申告代理を依頼していた税理士法人担当者が2期連続して申告期限内に申告を行わず、しかも納税者である原告に対しては申告期限に申告したと偽って報告をしていた事案で、裁判所は、納税者が自己の判断と責任において、申告手続を税理士に委任し、税理士が代理人として行った申告は申告名義人である納税者の行為として取り扱われるとして、「帰責性がない」とする原告の主張を斥けて、処分行政庁による青色申告承認取消処分は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認められないという、きわめて当然の判断を示した。 判決を読んでいて最も驚いたのは、原告が、税理士法人から、「申告期限末日の日付を打刻された申告書の写し」を受け取っていたという事実である。こうした偽装行為は、自らの過誤を隠蔽しようと考えた税理士法人担当者によるものであろうが、担当者を管理監督すべき立場にあった税理士法人の代表をはじめとする税理士たちが期限後申告に気づいていなかったとすれば、その監督責任は大いに問われるところであろう。 1 青色申告承認取消処分の性格 訴訟では、青色申告承認取消処分が金銭的処分か非金銭的処分であるかをめぐって、原告と被告の間で争いがあった〔争点3〕。 原告は、青色申告承認取消処分は、納税上特典を受け得る地位を剥奪する非金銭的処分であるため、事後的な手続で処理することが適当ではないと主張したのに対して、被告は、青色申告承認取消処分による不利益は、青色申告承認による①欠損金の繰越し(法人税法57条)や②中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(租税特別措置法67条の5)等の特典が受けられなくなるものであるが、これらはいずれも金銭的損失であって、青色申告承認取消処分は非金銭的処分ではないと主張した。 これらの主張に対し、裁判所は、青色申告承認取消処分による効果は、青色申告による特典である欠損金の繰越控除(法人税法57条本文)、欠損金の繰戻しによる還付(法人税法80条1項)等をすることができなくなるものであるが、これらの特典はいずれも金銭的恩恵を受けるものであって、青色申告承認取消処分は非金銭的処分とはいえないとの判断を示した。 2 国税不服審判所「裁決要旨検索システム」における裁決要旨 国税不服審判所が公開している「裁決要旨検索システム」では、本件の争点についても要旨が公開されているので、見ておきたい。 国税不服審判所は、審査請求人(本判決における原告)の主張に対し、次のような理由を述べたうえで、本件青色申告承認取消処分は違法又は不当な処分ではないという裁決をしている。   (了)
#521(掲載号)
#米澤 勝
2023/06/01
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