件すべての結果を表示
会計
税務・会計
解説
解説一覧
〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第8回】「「自己株式」と「自社の株式」と「ストック・オプション」」-それぞれの定義と意味の整理-
〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第8回】 「「自己株式」と「自社の株式」と「ストック・オプション」」 -それぞれの定義と意味の整理- 公認会計士 阿部 光成 ◆はじめに 株主への利益還元などを理由に、自己株式の取得を行う企業がある。 実務では、自己株式や自社株など類似の用語が使用されることがあるが、これらの用語の違いを理解して使い分けることはできているだろうか。 今回は、「自己株式」に関連する用語の定義を取り上げ、その意味を整理する。 ◆「自己株式」と「自社の株式」 「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という)では、「自己株式」と「自社の株式」という用語をそれぞれ次のとおり定義している(連結財務諸表規則2条19号、20号)。 上記からわかるとおり、「自己株式」と「自社の株式」という用語の意味は異なっている。 ◆ストック・オプション ストック・オプションに関して、次の用語が定義されている(連結財務諸表規則2条21号、22号)。 つまり、ストック・オプションは、大まかにいうと、自社株式オプションのうち、報酬として付与するものということである。 ストック・オプションの定義では、次の用語が用いられており、定義の全体像の理解がポイントとなる。 (了)
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
社員の不妊治療をサポートする会社環境整備のポイント 【後編】
社員の不妊治療をサポートする会社環境整備のポイント 【後編】 Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明 4 どんな制度が必要か 会社は不妊治療と仕事の両立を支援するために、どのような制度を整えればよいかについて考えてみます。 〈図表6〉 不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度等の実施状況 〈図表6〉を見ると実際には、制度として行っていると回答した会社の割合は9%となっており、まだまだ支援の制度化は進んでいないようです。支援をしていない理由としては、「要望等が表面化していないため」「対象者がいないため」「不妊治療を行っている従業員を把握していないため」が多く挙げられています。労働者が会社に「伝えていない」ので、「不妊治療と仕事の両立」を課題として捉えられていない現状となっていると考えられます。 〈図表7〉 不妊治療のための制度導入数 なお、実際に会社が導入している制度の具体例としては、以下のものが挙げられます。 いかがでしょうか。制度を設計する際の参考にしていただけるとよいかと思います。ちなみに労働者は、不妊治療と仕事の両立をする上で会社や組織にどんなことを希望しているのかというと、次の〈図表8〉のとおりです。 〈図表8〉 会社等への希望 これを見ると、「休暇制度」が多く挙げられていますが、働き方を柔軟にすることで対応できる部分も多くあリます。例えば、「半日単位・時間単位の休暇制度」「時差出勤制度」「フレックスタイム制度」「テレワーク」です。これらの制度をすでに導入されているのであれば、「不妊治療と仕事の両立」の際も利用できることを明確にすることで、新たな制度を導入しなくても充分対応できると考えます。まずは、柔軟な働き方ができるようにすることから始めるのがよいでしょう。 なお、これらの制度を、あえて「不妊治療」のためと理由を会社に伝えなくても利用できるようにすることもぜひご検討ください。例えば、「年5日」までは、自身や家族などの体調不良等の際に取得できる休暇を導入することで、「不妊治療をしていることを知られたくない」方たちも利用しやすくなります。 5 まとめ 皆さんが想像していたよりも、多くの方が「不妊治療で悩まれている」、と感じた方も多数いるのではないでしょうか。本稿を読んで「これは、会社としての支援が必要だ!」と感じた人事担当者の方もいると思われます。ただ逆に、「会社がここまでやる必要があるのか」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。 しかしながら、自社の社員に長く勤めてもらいたいと考えるなら「不妊治療」に限らず、多様な働き手のライフステージに寄り添う必要があります。「育児」、「介護」や「自分の体調不良」、最近は、リスキング(仕事能力の再開発、再教育)なんてこともあり「長期留学」といったことも考えられ、様々なライフステージを迎えることが考えられます。これらのどのライフステージを迎えたとしても、働き続けられる、お互いの事情を理解し合える職場がこれからは求められるのではないでしょうか。 なお、厚生労働省が行っている「くるみん」認定について、2022年4月1日から「不妊治療と仕事の両立」をしやすい職場環境整備に取り組む会社に対する新たな認定制度がスタートしています。 また、不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度について、導入し、利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者に休暇制度・両立支援制度を利用させた中小企業事業主を支援する助成金として両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)があります。 制度整備の際は、これらの会社を支援する制度の活用もご検討ください。 (了)
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
給与計算の質問箱 【第36回】「令和5年に予定されている給与計算に関する改正」
給与計算の質問箱 【第36回】 「令和5年に予定されている給与計算に関する改正」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和5年に予定されている給与計算に関する改正についてご教示ください。 A 令和5年4月1日から給与計算に関しては、以下の改正が予定されている。 * * 解 説 * * 1 中小企業の月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ(25% ⇒ 50%) 中小企業とは、次の図表の❶又は❷のいずれかを満たす企業をいう。 〈中小企業の範囲〉 (出典:厚生労働省リーフレット「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」以降の図表も同様) 令和5年4月1日から、中小企業において月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が現行の25%から50%に引き上げられる。月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金の支払いに代えて、有給休暇(代替休暇)を付与することもできる。 また、月60時間を超える時間外労働を深夜(22時~5時)に行わせる場合、「深夜割増賃金率25% + 時間外割増賃金率50% = 75%」の割増賃金率になる。 なお、月60時間の時間外労働時間には、法定休日に行った労働時間は含まれない。法定休日労働の割増賃金率は、現行の35%のままである。 〈割増賃金率の引上げ〉 2 給与のデジタル払いが可能に 令和5年4月1日から資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うことができるようになる。厚生労働省で指定申請を行った事業者の審査を行い、基準を満たしている場合には、その事業者を指定資金移動業者として認める。 会社と労働組合(労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)との間で給与のデジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定を締結する。 労働者は給与のデジタル払いを希望する場合には会社に同意書を提出し、同意書に記載する支払い開始希望時期以降、給料を資金移動業者の口座で受け取ることができるようになる。一部を資金移動業者の口座、一部を銀行口座で受け取ることもできる。なお、現金化できないポイントや仮想通貨での給与の支払いは認められていない。 (了)
労務・法務・経営
法務
税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第36回】「鑑定評価における土地建物一体減価という発想」~容積率未消化の建物が建つ不動産の価値は下がる?~
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第36回】 「鑑定評価における土地建物一体減価という発想」 ~容積率未消化の建物が建つ不動産の価値は下がる?~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 対象不動産の現実の利用状況が周辺環境に適合していない(例えば、周囲は住宅であるが対象建物は遊興施設である等)という理由で土地建物一体としての不動産の価値が下がるという捉え方は、従来から鑑定実務においてもごく一般のこととして受け止められてきました。 しかし、今日では不動産の保有価値だけでなく利用価値という側面に関心が向けられており、環境に適合して建築されている建物でも、その地域で指定された容積率をはるかに下回ったものとしてしか利用されていない場合には、土地建物一体の価値が下がるという発想が取り入れられています。鑑定評価ではこれを「容積率未消化による一体減価(市場性の減退)」と呼んでいますが、今回は筆者が実際にこのような物件を評価した例を取り上げます。 2 容積率未消化による一体減価が必要となった事例の概要 本件建物(一棟の建物)は鉄筋造3階建てであり、法人が一社で所有しています。なお、1階から3階まで自社で事務所として使用しています。 物件の所在する地域の状況及び対象不動産の状況は以下のとおりです。 (1) 近隣地域の状況 ① 近隣地域の範囲 近隣地域は、通称「〇〇通り」(都道)に沿い、〇〇区〇〇一丁目の交差点から南に約200mまでの範囲で下記⑤の公法上の制限を受ける地域が対象範囲です。 ② 街路条件 幅員約25mの都道に沿い、系統・連続性は良好です。 ③ 交通事情 地下鉄〇〇線「〇〇」駅より近隣地域の中心まで南東方へ約600mの距離にあります。 ④ 地域の特性 近隣地域は、中層事務所と中層共同住宅が混在する商業地域ですが、地域要因に格別の変動要素はないため、当分の間、現状を維持すると予測されます。 ⑤ 公法上の規制 商業地域、指定建蔽率80%、基準建蔽率100%(商業地域かつ防火地域内で、耐火建築物の場合)。指定容積率500%、基準容積率500%、防火地域、35m高度地区。最低限高度地区(建築物の高さの最低限度は原則7m)。 ここに登場する「指定」とは都市計画で指定された建蔽率や容積率の限度を指し、「基準」とは建築基準法の規定を個々に適用した場合に許容される建蔽率や容積率の限度を指しています。 ⑥ 標準的な画地 近隣地域において標準的な利用形態と認められる土地のイメージは、都道に一面が接し、規模120㎡程度の画地(間口10m、奥行12m)と判断されます(いわゆる中間画地です)。 ⑦ 標準的使用 近隣地域においては6階建て程度の中層事務所及び中層共同住宅の敷地としての土地利用が標準的といえます。 ⑧ 最有効使用 上記状況を踏まえた場合、近隣地域での最有効使用(土地の価値を最も発揮できるような使用方法)は中層事務所又は中層共同住宅の敷地であるといえます。 (2) 対象不動産の状況 ① 土地 ② 建物 〈イメージ図:容積率未消化の不動産〉 ③ 建物及びその敷地としての最有効使用 既に述べた近隣地域での標準的使用の状況を踏まえ、対象不動産の建物及びその敷地としての最有効使用を6階建て程度の中層事務所の敷地と判断しました。 (3) 一体減価の織り込み 本件においては、容積率未消化により対象不動産は最有効使用の状態にないことから、土地建物を一体とした場合の複合不動産としての減価を、最有効使用の状態の実現に係るコスト等を勘案して土地建物の一体価格の10%と査定しています。 3 一体減価の根拠をどこに求めるか 本件のように土地建物一体として減価を行うことの根拠は以下のとおりです。 (1) 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(国土交通省) ここでは、次の考え方が示されています。 (2) 「鑑定実務Q&A〈第7集〉」(平成15年3月 社団法人東京都不動産鑑定士協会研究委員会)17頁 ここでは、次の考え方が示されています。 4 まとめ 一体減価という捉え方は税理士の皆様には馴染みが薄いかも知れません。しかし、土地建物の価格を物理的な視点から単純に積み上げて求めただけでは、それが市場の実態を的確に反映し切れないケースも生じます。今回紹介したのはその一例です。 このことは、容積率を消化し切れていない(=床面積を多く確保できるにもかかわらず、有効利用ができていない)不動産を仮に賃貸しようとした場合、周辺にあり容積率をほぼ消化している建物と比べて少ない賃貸料しか得られない状況を思い浮かべれば理解し得ることと思われます。 (了)
読み物
連載
〈エピソードでわかる〉M&A最前線 【第8回】「調剤薬局業界のM&A」-会社譲渡により夢を叶える-
〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第8回】 「調剤薬局業界のM&A」 -会社譲渡により夢を叶える- 株式会社日本M&Aセンター 調剤薬局業界専門チーム 太田 昇真 提携統轄事業 戦略コンサルタント営業部 林本 和也 【第8回】は、現在、最もM&Aが活発な業界の1つである調剤薬局業界について、M&Aにて会社の譲渡により夢を叶えられた売り手社長の事例を、調剤薬局業界の動向に触れながら紹介します。 【調剤薬局業界の動向】 今回は、譲渡企業の社長が40代と若くしてM&Aを決断された理由、また、すでに100店舗展開している譲受会社が1店舗のみを経営している譲渡会社を引き継いだ理由について、両者のM&A後のエピソードと合わせて、譲渡側・譲受側のそれぞれの視点に立ち、メリットに焦点をおいて紹介します。 また、調剤薬局業界のM&Aは通常、株価がEBITDAの3倍程度であるところ、EBITDAの5倍程度まで高く評価され、かつ、価格交渉においてスムーズに進んだ理由についても紹介します。 【譲渡側・譲受側のデータ】 ※秘密保持の観点から、実際の事例とは一部内容を変更しております。 1 譲渡側の視点~事業成長の意欲があるにも関わらず成長実現が困難~ A社は、関西に処方元を複数持つ高収益な調剤薬局1店舗を運営する企業です。譲渡側のオーナー社長(以下「X氏」とします)は創業者でありながらまだ40代前半と若く、業績も非常に好調でした。 元々、X氏は1店舗の運営に留まることなく20店舗以上の事業展開を見据えて、自分自身は経営者として現場で薬剤師業務を行わないで済むような体制にすることを目標とし、30代で起業しました。 しかし、薬剤師の採用難や、度々行われる調剤報酬改定への対応、金融機関との融資交渉など、自社単独では超えられない壁に直面する中で、創業から約10年経過しても日々現場で薬剤師業務を行っている現状に閉塞感を感じていらっしゃいました。また、店舗数も1店舗から増やせずにいました。調剤薬局業界は市場が成熟しきっており、今後業界再編がさらに加速していくであろうという先行き不安を以前から強く危機感として持っていたこともあり、以前から面識があった日本M&Aセンターに相談し、他社との資本提携についての検討を始めました。 2 譲受側の視点~次世代の経営幹部の育成が課題~ B社は当時100店舗を全国展開する調剤薬局企業です。業績も順調でさらに事業を拡大できる薬剤師の数・資金的な余裕は十分にあるものの、創業社長(以下「Y氏」とします)への依存度が高く、組織の急速な事業拡大に対して次の経営幹部となる人材がいないという経営課題がありました。 3 それぞれのメリット (1) 譲渡側のメリット A社のM&A譲受候補先として、実際に大手の会社も手を挙げてくれましたが、大手の会社へのM&Aを実行して仮に社長として残ったとしても、結局1店舗の会社のオーナーという状況は変わりません。従来どおり現場に出る働き方に縛られ、結局できることは限られてしまうため、譲渡後の自分の理想の働き方のイメージが湧かず、譲渡の決断には至りませんでした。 そんな中、譲受候補企業であったB社のY氏は、A社創業者であるX氏の将来を見据えた経営判断ができる決断力、優良店舗を育てあげてきた運営力・考え方を評価して、M&A後に譲受企業のB社の経営に参画してもらいたいとのオファーを出しました。そういうことであれば、X氏としても創業時に思い描いていた理想の働き方と変わらない大きなやりがいを得ることができると判断してM&Aを実行する決断に至りました。 結果的に、元々1店舗のオーナーだったX氏は、株式を売却後も譲渡企業の社長を継続しつつ、100店舗規模の企業の西日本統括という役職・立場に就くことになりました。ビジネスマンとしての視座も高まり、自社単独では困難だったダイナミックな事業展開を行う素地もでき、夢を叶えることができました。 (2) 譲受側のメリット B社はY氏のオーナーワントップの会社で、Y氏の右腕となるような人材が社内にいないというのが経営課題でした。 A社の地域性とその事業内容、そしてX氏の能力は、B社の経営課題を解決するためのM&Aに最適なお相手であり、これからのさらなる事業展開にアクセルを踏むことができるようになりました。 X氏に経営に参画してもらい、事業の一部を任せることで、自社単独では育成が困難だった次世代の経営幹部となるような人材の獲得を実現したのです。 本事例においては、双方の経営上の課題がM&Aを実施することで相互に補完される形で無事成約したものでしたが、M&Aにおいて重要なポイントとなる株価算定については、どのように行われたのか、また調剤薬局業界においては一般的にどのように算定されるのかについて解説していきます。 ① 定性面について 調剤薬局業界のM&Aでは、企業価値を算出するためにEBITDAなどの複数の指標を活用した評価方法である「EBITDAマルチプル」で株価算定を行います。定量面で計算方法が決まっている相続税評価と異なり、M&A株価は定性面も踏まえた上でお相手によって全く変わり、具体的には下図の倍率決定要素等が加味されて決定されます。 本事例においては、主要処方元の医師の年齢が40代と若く、処方箋枚数も80枚/日と多く、かつ、集中率も70%を下回っていたため、結果としてはEBITDAの約5倍と高く評価されました。 〈倍率決定要素のイメージ〉 ② 定量面について 本事例においては、株価算定へ影響を与える定量的な要素について、事前に譲受側への提案の中で明確にしていたことから双方の認識相違がなく、後々の論点とはならずスムーズに交渉が進みましたが、以下参考までに論点となりやすい代表的なものについて紹介します。 (i) 在庫について デューデリジェンス(買収監査、以下「DD」)や譲渡時の棚卸により、使用期限が切れている不良在庫の存在が発覚するケースがあるため、留意する必要があります。 (ⅱ) 仕入れの薬価差改善について 株価評価において、仕入れの薬価差益改善額を、EBITDAに織り込むべきではないとする公認会計士や監査法人なども多いのが実情です。買い手と売り手の間で事前に認識のすり合わせを行っておくことが望ましいです。 (ⅲ) 不動産について EBITDAマルチプルの場合、調剤薬局業界のM&Aにおいては別途評価を行っているケースが多いです。また、非事業用資産をオーナーが買い取る場合や退職金の一部とする場合など、時価評価損益が発生する場合は、税効果の認識を行う必要があります。 (ⅳ) ネットキャッシュ(余剰資産)について 調剤薬局業界のM&Aでは基本的に、「ネットキャッシュ=現金及び現金同等物-有利子負債」として評価する考え方が主流ですが、公認会計士や監査法人などによっては「ネットキャッシュ=現金及び現金同等物-有利子負債-運転資金(ミニマムキャッシュ)」と考えるケースもあるため、事前に買手と売手の間ですり合わせておくことが必要です。 (ⅴ) 運転資金について 運転資金とは、仕入による買掛金の支払から、調剤報酬の売掛金の入金までの期間のズレに備えた資金のことです。調剤薬局の運転資金の主なポイントとして、調剤報酬の入金はレセプト(調剤報酬請求書)請求後、約2ヶ月後と決まっています。 一方で買掛金の支払期限は長短のズレがあるため、株価調整対象にするか検討する必要があります。例えば、売掛金の入金までの期間が2ヶ月、買掛金の支払期限が1ヶ月の場合、1ヶ月分相当額を株価増額要素とするケースもあります。 (ⅵ) 店舗改修費について 店舗が極端に古い場合や、新規に許認可を取得する際に改修を必要とする場合、費用をあらかじめネットキャッシュの負債項目に入れておくことが株価調整要因の発生を未然に防ぐためにも望ましいです。 (ⅶ) 人件費について 従業員採用の際の紹介手数料、人の補充が必要となる案件(役員が薬剤師として勤務しておりM&A後退任するケースなど)において、買手が派遣会社に支払う紹介手数料をネットキャッシュで調整するかどうかなど、売手との事前のすり合わせが重要です。 4 最後に 調剤薬局業界においては、2020年から2021年にかけては新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、M&Aや新規出店に慎重な姿勢を見せる企業が目立ちましたが、2022年度はポストコロナを視野に入れた事業計画を立てている企業も数多くあります。 今後も業界再編が加速していくことが予想される中、積極的に情報収集をして、自社の強み・弱み、そして将来の展望を事前に整理しておくことが、M&Aの成功のために有効です。 (了)
インタビュー
読み物
《編集部レポート》 近畿税理士会と近畿司法書士会連合会が「事業承継の連携に関する協定」を締結
《編集部レポート》 近畿税理士会と近畿司法書士会連合会が 「事業承継の連携に関する協定」を締結 Profession Journal 編集部 2022年12月9日(金)、近畿税理士会と近畿司法書士会連合会は、「事業承継の連携に関する協定」を締結し、税理士と司法書士が協力して中小企業等の事業承継に取り組む環境を整備することとした。 現在、少子長寿化の進展による人口減少や経営者の高齢化・人手不足が深刻な問題となっており、今後数年で多くの中小企業等が事業承継又は廃業のタイミングを迎えるとみられている。しかし、事業承継を支援する公的機関による様々な取組はあるものの、現状として中小企業等の事業承継対策は進んでいない。 そこで、日常的に経営者と接している税理士と、法務手続の専門家である司法書士が情報を共有し連携することで、中小企業等の円滑な事業承継をより一層支援していくことを目指す。 大阪司法書士会館で行われた「事業承継の連携に関する協定」締結式には、近畿税理士会から4名、近畿司法書士会連合会から5名、日本司法書士会連合会から2名が出席。近畿税理士会・杉田宗久会長と近畿司法書士会連合会・香山恭慶理事長による挨拶の後、「事業承継の連携に関する協定書」の調印が行われた。 近畿税理士会会長 杉田宗久氏(写真右) 近畿司法書士会連合会理事長 香山恭慶氏(写真左) (了)
お知らせ
消費税・地方消費税
税務
税務・会計
税務情報の速報解説
速報解説一覧
《速報解説》 国税庁が「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」を公表~システム修正費用が修繕費又は資本的支出かの法人税法上の取扱いの判断基準を示す~
《速報解説》 国税庁が「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」を公表 ~システム修正費用が修繕費又は資本的支出かの法人税法上の取扱いの判断基準を示す~ 税理士 石川 幸恵 国税庁は、令和4年12月9日、「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」をQ&A形式で公表した。 当該ページは、国税庁ホームページの消費税インボイス制度特設サイトの「Q&A」からもリンクを辿ることができる。 このQ&Aでは、法人が自社の固定資産であるPOSのレジシステム等のプログラムにつき、適格請求書等保存方式に対応するための修正を行った場合に、その修正に要する費用は修繕費か、資本的支出かという法人税法上の取扱いの判断基準を示している。 「修繕費か、資本的支出か」は、法人税基本通達7-8-1で「固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」として建物の避難階段などを例示している。 〇法人税基本通達7-8-1 今回公表されたQ&Aでは適格請求書等保存方式に対応するためのシステムの改修につき、修繕費に該当するもの、資本的支出に該当するものを次のように具体的に示している。法人が適格請求書等保存方式に対応するためのシステムの改修を行った場合は、作業指図書等を基に、いずれに当てはまるかを検討することになろう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
お知らせ
その他お知らせ
プロフェッションジャーナル No.498が公開されました!~今週のお薦め記事~
2022年12月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.498を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
税務
税務・会計
解説
解説一覧
酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第114回】「節税商品取引を巡る法律問題(その8)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第114回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その8)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅶ 最近の節税商品取引と租税リテラシー 前回の「Ⅵ 租税法の不知・誤解」では、節税商品取引等の勧誘を受ける側の租税リテラシーのレベルに関する問題について、いくつかの事例を確認した。本節においても引き続きこの点に着目してみたい。 1 節税マンション投資 例えば、いわゆるレオパレス21事件の一つに岐阜地裁令和2年2月28日判決(判例集未登載)がある。高齢者であるAは、レオパレス21(被告)の担当者から、Aが金融機関から融資を受けて所有地上に共同住宅を建築し、被告が同共同住宅を一括して借り上げて転貸するといういわゆるサブリース事業の勧誘を受け、建築した共同住宅を、被告に対し、契約期間30年、当初10年間は賃料額固定(その後は2年ごとに協議)等の約定で賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、被告から賃料(管理費等は控除)を受領していた。 原告(Aの相続人)は、被告が、平成22年頃から、業績回復のため、オーナーに対し賃料の減額等を迫る活動(通称「終了プロジェクト」)を全国的に開始し、手段を選ばず、賃料の減額ありきで、強引に賃料の減額を求めていたところ、被告の担当者は、誤った説明(減額に応じなければ被告が賃貸借契約を解除できる等)をしたり、長時間自宅に居座ったり、威圧的な言葉遣いをしたりして、強引に賃料の減額に応じさせており、現に、Aは、被告の担当者が突然同契約の解約を通告してきたため、やむなく減額合意に応じることになったと主張した。 本件では、かかる減額合意が錯誤によるものであるか否かが争点となった。 被告は、オーナーの節税対策としても活用されることが多いサブリース取引では、「事業の収益性だけが考慮されているわけではない」のであるから、「本件賃貸借契約の期間満了後の事情は、本件において考慮されるべき要素とはなり得ない。」などと主張した。 これらの主張に対し、同裁判所は、本件減額合意が「錯誤により無効である」と判断した。 このように、不動産購入による節税効果が強調される事例は枚挙に暇がない。例えば、確定申告をすればその節税効果も高いなどと、マンション投資のメリットが強調されてマンションの購入が勧誘されるケースにおいて損害賠償請求が争点とされる事例などがある(請求が一部認容された例として、東京地裁平成31年4月17日判決・先物取引裁判例集82号165頁など。請求が認容されなかった例として東京地裁平成28年9月5日判決・判例集未登載など参照)。 一昔前には、いわゆる変額保険訴訟が数百件にものぼったが、同様の事例はその後も頻発しているとみてよかろう。 2 税務署・国税局を名乗るメール 近時、しばしば税務署や国税局などを名乗る偽装メールが横行しているようである。 「税金の滞納があるから、ご連絡ください」などといった趣旨の次のようなメールが国税庁を名乗る発信者から届き、安易にかかるメールを開いてしまうことが危惧されている。このような危険性が広く国民一般に十分に共有されているであろうか。 国税庁は、上記のような偽装メールについて、次のような注意喚起をホームページ等(※)で行っている。 (※) 国税庁「国税局・税務署をかたった不審なメールにご注意ください」〔令和4年11月27日訪問〕 すなわち、「国税局・税務署をかたった不審なメールにご注意ください」とし、「最近、・・・国税局・税務署をかたった不審なメールが送信されております。国税局・税務署では、電子メールで納税に関する催告を行っておりません。指定されたURLをクリックしないようお願いします。」とする。また、「ご不審な点がある場合には、最寄りの税務署(総務課)までお問い合わせください。」ともしており、情報収集にも努めているように思われる。 かような詐欺的な行為に対して、行政が注意喚起を行うことは非常に重要であると思われるが、それ以前の問題として、国民に一定の租税リテラシーがあれば、かような詐欺に騙されることはないのではなかろうか。例えば、上記の例でいえば、自分の納税額がいくら程度であって、それが納付済みであるはずだなどという点についての理解があれば、稚拙な詐欺的行為に翻弄されることはないであろう。 しかしながら、以前、東京税理士会内に設けられた「成人向け租税リテラシー教育検討委員会〔座長:筆者〕」が行った国民向けアンケート調査の結果からして、自分がいくらの所得税を納税しているかをしっかりと認識している者の数は必ずしも多くないということが判然とした。 そのごく一部をここに紹介しよう。 ※ なお、アンケート調査のサンプル数は、一般サラリーマンのみ、年代ごとにサンプル数を確保する方法を採用し、他のカテゴリーより多いサンプルを収集した。すなわち、経営者1,000人、一般社員から部長クラスの給与所得者につき、20代300人、30代300人、40代300人、50代300人、60代300人の合計1,500人、自営業者1,000人の総計3,500人を対象に行った。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (出典) 東京税理士会租税教育推進部「平成30年度 租税リテラシー教育研究報告書」18頁 このように、所得税を納めていることは分かっているが金額までは分からないという者の数が、35.7%にも及んでいるのが現状なのである。 上記の不動産建築に係る勧誘にしても、偽装メールにしても、個々の法的対応などの重要性に加えて、事故防止という意味での予防法学的視角からは、成人の租税リテラシーの底上げが重要であると思われるのである。 3 成人向け租税リテラシー教育の重要性 かような消費者保護ないし投資者保護問題が発生する理由の一つに、消費者ないし投資者側の租税リテラシーの欠如を挙げることができるのではなかろうか。さすれば、「成人向け租税リテラシー教育」としての租税教育が改めて見直されてもよいように思われるのである。すなわち、そこにあるのは、安易なうまい節税話に騙されない「生きる力」の醸成を目的とした成人教育の必要性である。 (続く)
国税通則
税務
税務・会計
解説
解説一覧
谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第9回】「国税通則法12条(~14条)及び22条」-書類の送達と提出-
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第9回】 「国税通則法12条(~14条)及び22条」 -書類の送達と提出- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法12条(書類の送達) 国税通則法22条(郵送等に係る納税申告書等の提出時期) 1 税務行政による書類の送達に係る到達主義の意義と問題 送達とは、「訴訟上の書類を一定の方式により当事者その他の訴訟関係人に了知させることを目的とする裁判権の作用」(角田禮次郎ほか編『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』(学陽書房・2016年)501頁)をいうが、国税通則法はこれに「準じた送達の規定」(同頁)を定めている。すなわち、12条で「書類の送達」の通則について、13条で「相続人に対する書類の送達の特例」について、14条で書類の送達ができない場合の「公示送達」についてそれぞれ定めている。 送達は、単なる通知とは異なり、「一定の法効果がこれに結びつけられているのが普通である」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)816頁)といわれている(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])D503頁[須貝脩一・村上義弘執筆]参照)。このように送達には一定の法効果が伴うことから、租税法律主義の下では、送達には法律の根拠が必要であると考えられるので、国税通則法の規定にいう送達は、「国税に関する法律の規定に基づいて税務行政官庁またはその職員が発する書類が、相手方に交付されて、その内容が了知され、または了知の機会が与えられることを確保するための、法定の方法による手続」(中川=清永編・前掲書D503頁)と定義するのが相当である。「特定の相手先に対して、行政処分等の内容を知らしめるためにする法定の形式による命令的及び公証的行為」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)952頁)といってもよかろう。 送達について、租税法律主義の観点からは、「国税に関する法律の規定に基づいて、税務官公署が行う納税者等への通知が行政処分等の内容をその当事者に知らせるものであることにかんがみ、その通知が相手先に到達したかどうかにより、その行政処分等の効力の発生の時点を明確にする必要がある」(武田監修・前掲書952頁。下線筆者)ことから、国税通則法12条1項は、同法制定前の国税徴収法5条1項と同旨(到達主義)の規定を、「国税の賦課徴収、還付又は再調査若しくは審査に関する書類」についてだけでなく、「国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発する書類」について一般的に、送達の方法(郵便又は信書便による送達と交付送達)とともに定めている。 ただ、書類の送達の方法として「通常の取扱いによる郵便又は信書便」による送達が採用された場合について、国税通則法12条2項は、基本的には同法制定前の国税徴収法5条4項と同じく、その郵便物又は信書便物は「通常到達すべきであつた時に送達があつたものと推定する。」と規定している。この規定にいう「推定」については、「その時より遅く送達があつたとか、送達の事実がなかつたという反証があれば、その推定はくつがえされることになる。」(武田監修・前掲書968頁。下線筆者。志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)240頁も同旨)と解説されているが、この解説はこの立法技術を法律上の(事実)推定として性格づけながら、税務訴訟においては書類の送達に関する証明責任は国が負うことを前提にして、法律上の(事実)推定に基づく証明責任の転換(一般の民事訴訟ではこれが認められることについては伊藤眞『民事訴訟法〔第7版〕』(有斐閣・2020年)389頁参照)までは認めないものと解される。 この推定規定については、その次の項(税通12条3項)を含め、「税務官庁の発する書類のように多数の納税者に対し、しかも手続的な面から回数的にも数多く送達すべきもの(・・・・・・)を個々に交付送達したり、書留郵便等で送達することは、煩雑にたえないし、費用もかかると同時に、近時における郵便組織は整備され、確立しているので、極力国及び納税者等にとって簡便な手法で書類の送達の効果を確保しようとする趣旨に基づくものである。」(志場ほか共編・前掲書234頁)と解説されている。 この解説の説くところに一定の合理性があることは確かである。ただ、「この推定規定の背後にある思想」を問題視する次の見解(中川=清永編・前掲書D507頁[須貝・村上執筆])の説くところにも傾聴すべき点はある。 この見解の説くところは、一見すると、極論であるかのように思われるかもしれないが、しかし、よく考えてみると、前記の推定規定という「窓」を通して国税通則法の本質的問題を鋭く看破するものであるように思われる。それは、書類の送達についていえば、「当事者間における意思の伝達」(磯邊律男『研修国税通則法』(新都心文化センター・1984年)45頁)という観点なり考え方が国税通則法には希薄であるという問題であり、その問題は、根本的には、国税通則法が租税実体法と租税手続法との目的従属的関係に基礎を置く体系的構造(第1回3参照)に対する配慮をほとんど欠いていることに基因すると考えられる。そのような構造の下では、国(課税権者)と納税者との租税手続法上の法律関係も、租税実体法上の対等な法律関係(租税債権債務関係)を基礎にして、原則として対等な関係として構成されるべきであるが、このことは国税通則法では特段顧慮されてはいないように思われる。 2 納税者による書類の提出に係る発信主義の意義と展開 国(課税権者)と納税者との租税手続法上の法律関係は、税務行政による課税処分等の行為や納税者による納税申告等の行為が相手方の支配圏内に入りその了知し得る状態におかれること(「到達」の意義については最判平成11年10月22日民集53巻7号1270頁、山本敬三『民法講義Ⅰ 総則〔第3版〕』(有斐閣・2011年)129頁等参照)によって、成立することから、納税者による納税申告書等の書類の提出も、税務行政による書類の送達と同じく、到達主義によることに原理的には問題はない。 この点について、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)』(昭和36年7月)10頁は、「申告書の提出については、到達主義によることを明らかにする。ただし、申告書を郵便で提出した場合については、郵送に要した日数は算入しないものとする。」と述べていたが、国税通則法は、同法制定前の国税徴収法で「一般には民法の原則によりいわゆる到達主義を採るべきものと解釈されてい[た]」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)55頁)ことを踏襲し(磯邊・前掲書45頁参照)、税務行政による書類の送達とは異なり到達主義に関する明文の規定を定めなかった。 ただし、「この到達主義による運用も、申告納税方式の諸税について画一的にされているとはいえず」(税制調査会・前掲答申別冊55頁)、これに加え、「現在の郵便事情の下では、必ずしも通常の場合の郵送日数内に目的地に到達することが保証できない状況にあること、また、訴願法においても郵送日数を訴願期間に算入しないこととしていること等にかえりみ」(同頁)、国税通則法22条の規定が定められた(現行税通23条7項、31条2項、77条4項も参照)。立法者はこの規定によって、「この[到達主義の]原則を郵送による納税申告書等の提出にも厳格に適用するときは、納税者と税務官庁との地理的条件に基づく不公平が生ずるのではないか・・・・・・(税務署から遠隔の地にある納税者は、実質的に、申告期限が早く到達することとなる。)」(磯邊・前掲書45-46頁)という問題を解決しようとしたのである。 国税通則法22条は、郵便物・信書便物の通信日付印により表示された日等にその提出がされたものと「みなす」という立法技術(擬制)によって発信主義を定めているが、平成18年度税制改正では、「民法の到達主義の原則を維持しつつ、納税者と税務官庁との地理的間隔の差異に基づく不公平を是正し、納税者の利便の向上と円滑な申請ができるような環境を整備するため、従来の納税申告書等に加えて、後続の手続に影響を及ぼすおそれのない書類として、別途、国税庁長官が定める書類についても、通則法22条の適用を受けること」(青木孝徳ほか『改正税法のすべて〔平成18年版〕』(大蔵財務協会・2006年)658頁)とされた(平成18年3月31日国税庁告示第7号、国税庁ホームページ「発信主義の適用範囲を定める告示の制定」・「税務手続に関する主な書類の提出時期の一覧」参照)。 国税通則法22条は、同法12条2項がなお到達主義の枠内に位置づけられるべき規定であり、しかも法律上の推定規定であるのに対して、発信主義を定める擬制規定であることからすると、前述の「当事者間における意思の伝達」(磯邊・前掲書45頁)の点では、税務行政よりも納税者を有利に取り扱っているという見方もできるかもしれない(同46頁は税通22条について「これにより、到達主義の原則を維持しつつ、納税申告書等については実質的に発信主義に準ずる利益を納税者が受けることとなる。」と述べている)。 しかし、納税者と税務行政との「当事者間における意思の伝達」に関する租税手続法上の法律関係を、租税実体法上の対等な法律関係(租税債権債務関係)を基礎にして対等な法律関係として構成しようとする場合には、そもそも、租税が「国・・・・・・が、収入を得ることを目的にして、法令に基づく一方的義務として課す、無償の金銭的給付」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)2頁)である以上、納税者による書類の提出について発信主義を定めることは、納税者間の公平の観点からだけでなく、国家と納税者との衡平の観点からみても、妥当である。しかもそうすることは、前記1の最後で述べた国税通則法の本質的問題の是正にも資することになろう。 このように考えてくると、納税者による書類の提出については発信主義こそが原則であると考えるべきであろう。その意味では、国税通則法が納税者による書類の提出について到達主義に関する明文の規定を定めなかったのは、結果論ではあるが、賢明な選択であったように思われる。 なお、近時、電子申告が普及してきたが(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル行政推進法)6条、法人税に関する義務化については法税75条の4第1項参照)、電子申告については、デジタル行政推進法6条3項が次のとおり定める到達主義が適用される(法税75条の4第4項も同旨)。 確かに、電子申告については到達主義を採用しても、国税通則法22条が考慮した地理的間隔の差による納税者間の不公平の問題は生じず、しかも電子データの「送信」は「到達」と通常は事実上同視することができるので、納税者による書類の提出について発信主義を原則とする立場からも、特に問題にする必要はないであろうが、ただ、通信回線・システムの混雑等による不具合が生ずる可能性は排除できないことから、電子申告に関する到達主義に関する規定については立法技術として擬制ではなく法律上の推定を定めるのが妥当であろう。 (了)
