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裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第3回】「募集株式の発行等②」
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第3回】 「募集株式の発行等②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、大阪地裁昭和47年4月19日判決について解説を行った。 【第3回】に当たる本稿では、大阪地裁昭和48年11月29日判決について解説を行うこととする。 2 大阪地裁昭和48年11月29日判決・判時731号85頁 (1) 事実の概要 本事件は、会社更生法による更生手続終結決定を得た直後に、1株当たり85円である一般公募の新株発行を行う際に、①有利発行に該当する、②支配権剥奪目的の不公正発行に該当するという理由により新株発行差止の仮処分を請求し、仮処分決定を得たことから、その認可の裁判を求めた事件である。本稿は、非上場株式の評価についての連載であるため、前者のみについて解説を行うこととする。 前回と同様に、やや古い事件であるが、少数株主にとっての株式価値で評価をされた裁判例という点のみに限定すると、現在でも参考にすることができる事件である。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、少数株主にとっての株式価値として、配当還元方式もしくは類似会社比準方式(または同業種比準方式)を採用すべきであると判示した。 配当還元方式はともかくとして、類似会社比準方式が少数株主にとっての株式価値であると判示された点に違和感がある読者もいるかもしれないが、市場で構成される株価は少数株主による売買により構成されていることから、少数株主にとっての株式価値を示すものであるという仮説が存在し、したがって、類似会社比準方式により算定された株式価値から支配株主にとっての株式価値を算定するためには、支配権プレミアムを加算するというのが株式評価の実務である。 そのため、相続税評価では原則的評価方式のひとつとして位置づけられている類似業種比準方式が、株式評価においては少数株主にとっての株式価値になってしまうという特徴がある。 さらに、裁判所は、最終的には、挙証責任によって債権者の主張を退けている。これは、①配当還元方式のうち実績値方式を採用しているところ、会社更生手続き中で配当をなしえなかったことから、年8%に修正していたが、その根拠も全く示されていなかったこと、②類似会社比準方式において選定した企業が売上高、純資産額については類似性が認められるものの、その他の点、ことに事業の種類については、果たして類似性があるのかが不明であることなどから、債権者が算定した株価に疑問があるということが理由である。 これは、非訟事件と異なり、訴訟事件では、債権者(≒原告)に立証責任があることから、かなり会社側に有利な判決となっている。類似会社比準方式が、選定対象となる企業が存在しないことから、結果的に採用されないというのは最近の訴訟事件、非訟事件の特徴ではあるが、そうなると配当還元方式のみが少数株主にとっての株式価値の算定で採用されることになる。 そして、裁判所の判断としては、「右鑑定書が仮想した年8パーセントの配当率も、その算定根拠が全く示されていないのみならず、≪証拠略≫によれば、債務者会社は、次期(昭和47年10月1日から昭和48年9月30日まで)には15%以上の配当を目標としていたことが、≪証拠略≫によれば、債務者会社は将来年10%の配当は堅持する積り(原文ママ)でいることがそれぞれ一応認められるが、これらの事実に照らして、必ずしも妥当な予想配当率とはいえない。」としている。 しかし、年10%や15%の配当率となれば、より株価は引き上げられるはずであり、有利発行に該当するか否かの事件において、このような理由により疎明がないとするのは如何なものであろうか。債権者が、「少なくても8%」と主張したうえで、「少なくても〇〇円以上」と主張すれば、認められる余地はあったのであろうか。やや、本事件における裁判所の判断は乱暴であるという印象を拭いきれない。 次回では、やや珍しい事件であるが、大阪高裁昭和51年4月27日決定により争われた検査役選任決定に対する即時抗告事件等について解説を行う予定である。 (了)
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マイナンバーの会社実務Q&A 【第6回】「マイナンバーの廃棄」
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第6回】 「マイナンバーの廃棄」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 会社が従業員から取得した個人番号を廃棄する際の対応について教えてください。 〈A〉 1 廃棄の時期 (1) 所管法令により保管期間が義務付けられている書類(【第5回】参照) 保管期間が経過した時点で廃棄する。 (2) 所管法令により保管期間が義務付けられていない書類・データ 個人番号を利用する必要がなくなった時点で廃棄する。 上記(1)、(2)の時点から実際に廃棄を行うまでの期間は、例えば、毎年度末に個人番号の見直しを行い、必要ない個人番号を廃棄するなど、会社で判断すればよいとされる。 2 廃棄の方法 (1) 書類 シュレッダーで裁断する。 (2) データ データを消去する。 廃棄した書類・データの種類、名称、責任者、取扱部署、廃棄状況等を記録として残さなければならない。その記録には、個人番号自体は含めない。 (了)
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理由付記の不備をめぐる事例研究 【第7回】「棚卸資産計上漏れ」~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第7回】 「棚卸資産計上漏れ」 ~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して、棚卸資産の明細書と商品出納帳との照合により、預け在庫の期末棚卸資産計上漏れを認定した法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた岐阜地裁平成12年12月6日判決(税資249号1002頁。以下「本判決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(控訴審である名古屋高裁平成13年10月30日判決・税資251号順号9014もこの判断を維持している)。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 関係法令の確認 法人税法における売上原価に係る損金算入の考え方を確認しておく。 売上原価について、法人税法22条3項1号は、「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」を当該事業年度の損金の額に算入すべき金額とする旨規定している。「当該事業年度の収益に係る」という文言からわかるように、原価は収益と個別的に対応させて計上することとされており、ある商品の仕入高は当該商品を売り上げた事業年度の売上原価として損金の額に算入することになる。 もっとも、法人税法は売上原価の算定方法について細かく示した規定を用意していない。したがって、売上原価の算定方法は、企業会計における売上原価の算定方法に従うことになり(法法22④)、結局、売上原価を算定する算式は次のとおりとなる。 この算式からは、期末商品棚卸高が増えると売上原価は減少して法人税の所得金額が増加し、期末商品棚卸高が減ると売上原価は増加して法人税の所得金額が減少するという関係であることがわかる。なお、法人税法が、このような算式に基づく売上原価の計算を予定していることは、棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法について定める法人税法29条1項とも整合する。 以上からすれば、本件生機がX社の当期における売上原価を構成するか、これを構成せずに期末棚卸資産として計上すべきかを判断する過程は、次のとおりとなる。 (2) 求められる理由付記の程度 課税庁は、X社において当期の売上原価として計上し、期末棚卸資産として計上していなかった本件生機について、当期の売上原価に算入(損金算入)するのではなく期末棚卸資産として計上(損金不算入)しなければならないものと認定して更正処分を行ったことになる。そうであれば、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記には、X社は本件生機を売上原価として計上し、期末棚卸資産として計上していなかったことが記載されている。また、本件生機の品名、数量、金額等を具体的に摘示した上で、X社の帳簿書類である棚卸資産の明細書と商品出納帳とを対照させた結果、B社から仕入れ、期末にC等に預けていた本件生機が期末棚卸資産に計上されていないことを根拠に、期末棚卸資産計上漏れとして当事業年度の所得に加算した旨が記載されている。 したがって、本件理由付記は、①当期商品仕入高に本件生機が含まれること及び②本件生機は期末棚卸資産として計上すべきであることという課税庁の判断過程を、帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示するものである。 そうであれば、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 * * * 次回は、減価償却資産を架空資産と認定した上で、これに係る減価償却費の損金算入を否認した法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【78】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その6:「事業に従事したことその他の事由」の解釈② ~夫弁護士・妻弁護士事件(最判平16.11.2))
税務判例を読むための税法の学び方【78】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その6:「事業に従事したことその他の事由」の解釈② ~夫弁護士・妻弁護士事件(最判平16.11.2)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 2 「夫弁護士・妻弁護士事件」(最高裁平成16年11月2日判決) 前回示した問題の所在に続き、具体的な判決内容を見ていくこととする。 この判決は、弁護士業を営む原告の所得税の申告につき、被告(国)が、妻が「生計を一にする配偶者」であるとして所得税法56条を適用し、原告が同じく弁護士である妻に対して支払った報酬は必要経費として算入することができないとして更正処分等をしたため、原告が各処分の取消を求めた事案である。 (1) 第一審の判断 重要な事案であるが裁判所ホームページには掲載されていないため、ここで判決を紹介しながら進めていこう。 この裁判では、争点が以下の2つとなっている。 ① 争点1 所得税法56条の適用要件について、一般的法命題として以下のように判示する。 次いで、事実認定として、以下のように判示する。 また続けて、原告の主張に対して次のように判示する。 原告は、この点、次のような主張をしていた。 この点、原告の主張は正しく、戦後は個人単位課税に制度の根本を変えながらも、この世帯単位課税という戦前の名残を残すことになったのは、以下のシャウプ勧告から読み取れるように、所得分割による税負担回避を防止するためであった。 ◆シャウプ使節団編(1949)『日本税制報告書第1巻』第1編第4章E節「世帯単位の取扱」より抜粋 このシャウプ勧告を受けて、旧所得税法11条の2が制定されたのであるが、それは以下のように規定されていた。 だが、立法趣旨が原告の主張するものであるとしても、56条の文理から、この原告の主張する解釈が可能か否かが争われた。 また原告は、所得税法第12条及びその解釈通達である所得税基本通達12-5(2)からもこの点を主張している。 そして原告は、続けて次のように主張する。 しかし、所得税法12条の原則に対して、56条が特則として規定がなされている以上、この12条による原告の主張は説得力を欠いたものである。 というのもこの通達は、生計主宰者以外の親族が医師、歯科医師等として、生計主宰者とともに事業に従事している場合には、その当該親族もまた生計主宰者とは別に事業主となる点を明確にしているが、生計主宰者と当該親族との間において授受された対価についてまで別個の事業主体として計算することまでを明らかにしたものではないのである。基本的にはこのように個別に計算するとしても、生計主宰者と当該親族との間において授受された対価については56条が例外として適用されるということに何ら矛盾はないのであるから、この所得税基本通達12-5を論拠に主張するのは難しいものと思われる。 ② 争点2 次のように判決の冒頭で原告の主張を取り上げている。 これに対しては、以下に示すように、【72】で紹介した大島訴訟による合憲性の推定に基づく「ゆるやかな合理性の基準」によって合憲と判断している。 続けてこの観点からの検討に入り、以下のように判示する。 ここでは、その立法目的の点で、合理性があるとし、また「他の企業等で勤務している生計を一にする親族が事業者の事業にも従事していて、事業者が対価を支払ったという場合」にも同様の必要経費の不算入が生じることから、特別不平等な規定ではないとの結論を導いている。 しかし他の事業内容の場合には容易に法人化が可能であり、士業のいくつかに限って法人化が難しいため不利益が生じるという点を軽視した判決ともいえよう。 もっともこれを、上記「ゆるやかな合理性の基準」から見た場合に、違憲とまで言えるかは難しいものと思われる。 (2) 控訴審の判断 これも第一審同様、重要な事案であるが裁判所ホームページには掲載されていないため、ここで判決を紹介しながら進めていこう。 ① 争点1(争点は、第一審と同じである) この判決は、冒頭部分に法律解釈として一般的法命題を掲げていない。よって事例判決の形式で判決が出されている。 続けて控訴人の主張に対して、次のように判示する。 このように控訴審において、今回のテーマである「事業に従事したことその他の事由」についての主張がなされている。 この点、控訴人は次のように主張していた。 この「従事する」の用語の意味についての控訴人の主張は、注目に値する。というのも、控訴人の主張するように、この事案のような対等事業者として報酬を受け取った場合に「従事する」とはならないように思えるからである。 「従事する」という以上、「事業の一員として参加し又は事業に雇用される等従たる立場で当該事業に関係している」というような従属的な関係にあってこそ「従事」なのである。 裁判所の判示に「従属的な立場で当該事業に関係する場合に限定されると解すべき根拠は、規定の文言上何ら見当たらない」とあるが、それは「従事」の「従」の文字に何ら意味がないと解しているからである。しかし、「従事」の文字から考えればこれが従たる立場で当該事業に関係した場合を指すものと解すべきであろう(もっとも「その他の事由」がこの「従事」に制約を受けるか否かといった問題はあるが)。 また控訴人は続けて第一審同様、所得税法第12条等を根拠とした主張をしているが、これに対しては以下のように判示されている。 ② 争点2 当裁判所も、所得税法56条が消費単位課税を採用し、同条の適用される「生計を一にする配偶者その他の親族に対価を支払う場合」と同条の適用されない「それ以外の者に対価を支払う場合」との間に設けた区別は、合理的なものであり、憲法14条1項の規定に違反するものではないから、その違反をいう控訴人の主張は、理由がないものと判断する。そのように判断する理由は、原判決が説示するとおりであるから、これを引用する。 そうすると、憲法14条1項の違反をいう控訴人の主張は、採用することができない。 (3) 最高裁の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 ここでは、最初にこの所得税法56条の立法趣旨を述べた後、 と「従事」の文言については触れずに判示する。 そしてまた専従者となりえない場合との不均衡については特に言及することなく所得税法57条1項や3項が と判示し、一部士業に法人化が困難な場合ある点については全く考慮することなく、判断を示している。 もっとも法人化が困難であるという問題は、税法の問題なのではなく業法側の問題という主張もありえようが、租税公平主義の点からすれば、その差異にも配慮した立法が必要であったはずであり、この点、軽視すべきものではないといえよう。 また争点2については、「ゆるやかな合理性の基準」から、この規定を合憲と判断している。 * * * 次回は同じ論点として重要な「夫弁護士・妻税理士事件」を見ていくこととする。 (続く)
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「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」を踏まえた平成28年度税制改正への対応 【第1回】「適用指針における適用税率の判定基準」
「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」を踏まえた 平成28年度税制改正への対応 【第1回】 「適用指針における適用税率の判定基準」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 Ⅰ はじめに 平成28年3月14日に、企業会計基準委員会は「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第27号、以下「本適用指針」という)を公表した。 本適用指針における従前からの主な改正点としては、税効果会計の適用にあたり、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率に関する取扱いを、従前のいわゆる「公布日基準」に代えて、新たに「成立日基準」に変更するものである。 そこで本稿では、平成28年度税制改正法案(所得税法等の一部を改正する法律案及び地方税法等の一部を改正する等の法律案)(以下、「改正税法」という)が近々国会において成立することを前提に、法人税等の税率の改正により取扱いが具体的にどのように変更になるのかについての解説を行う。 なお、文中の意見に関する部分は、筆者の私見であることを申し添える。 Ⅱ 具体的な取扱いの変更点 1 従前の取扱い まずは、従前の「公布日基準」における取扱いがどのようなものであったかについて述べる。 本適用指針公表前においては、税効果会計の適用にあたって使用する税率について、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号)第18項では決算日現在における税法規定に基づく税率によるものとされ、したがって、改正税法が当該決算日までに公布され、将来の適用税率が確定している場合には改正後の税率を適用するものとしていた。 上記の従前の取扱いについて、図示すると以下のようになる。 【表1】 従前の取扱いの設例(3月末決算会社を想定) 2 本適用指針公表の背景 本適用指針の公表によって、従前の取扱いに変更が加えられることとなった背景には、いかなる要因があったのか。本適用指針では結論の背景として第17項で次の2項目を挙げている。 (1) 3月末決算会社において決算手続等に与える影響 上記の公布日基準は、ここ数年、税制改正法案の国会での審議が遅れ、その成立が3月の下旬頃、公布に至っては3月末日直前となる状況の下、処理を複雑なものとし、企業の経理担当者等の実務家にとってその対応に苦慮する場面を生じさせることとなっていた。 すなわち、実務上の取扱いにおいて、当事業年度に改正税法が国会で成立していても官報による公布が3月末日間際までなされないことが多くなり、特に3月末決算会社にとっては、改正税法の公布日までは決算処理や業績予想の策定に用いる税率が確定しないことから、決算・開示業務等に遅延が生じるなどの実務上の困難性が生じる結果となっていた。 また、地方税の税率については、改正条例の公布のタイミングにより、さらにその取扱いが複雑化する状況が生じていた。 すなわち、地方税の税率の改正は地方税法等を改正するための法律(以下、改正地方税法等という)が国会で成立し、その上でそれを受けた形で地方自治体の議会で改正条例が成立することになるのであるが、改正地方税法等は決算日以前に公布されていても、改正条例の公布のタイミングが前後することによって、改正前・改正後のどちらの税率を用いるかが変わってしまうという状況を作っていた。 実際、前年の2015年においては、改正地方税法の公布が3月31日であったが、東京都では都税条例の公布日が4月1日となった。一方で、大阪府においては改正条例の公布も改正地方税法の公布日と同日の3月31日に公布がなされたことから、同じ3月末決算会社でありながら、会社の所在地により、使用する税率が異なるという事態が生じた。 このような、近年の税制改正の遅れが会計実務にもたらすマイナス影響や、改正条例の公布のタイミング如何で、国と地方で使用する税率が改正前後どちらのものとなるかに差異が生じ、実務上の対応が複雑になるという意見が、本適用指針の公表の主要な理由になっていると思われる。 (2) 財務諸表利用者にとっての財務情報の有用性 今ひとつの理由は、財務諸表利用者にとっての財務情報の有用性の観点からの要因である。 すなわち、決算日以前に税法を改正する法律が国会で成立した時点で、一時差異の解消年度においてはほぼ間違いなく改正後の税率が適用されているはずである。それにもかかわらず、公布が決算日以前になされていない場合に、改正前の税率で計算される繰延税金資産及び繰延税金負債の金額は有用な情報とは言えないとの意見があったようである。 3 本適用指針の取扱い 続いて、本適用指針における取扱い「成立日基準」について解説する。 本適用指針では法人税法等について、第5項において以下のとおり規定している。 すなわち、これまでは決算日までに公布された税法に基づく税率を適用して税効果会計の計算を行うこととしていたところ、これを改め、決算日までに国会で成立している税法に基づく税率を適用することになっている。 この適用指針の取扱いについて、図示すると以下のようになる。 【表2】 本適用指針の取扱いの設例(3月末決算会社を想定) (※) 変更点を下線で示した。 さらに、住民税等については、 と、第6項で規定した上で、続く第7項において、改正地方税法等の成立の有無やそれを受けた改正条例の成立の有無などの場合分けを行い、それぞれの場合における取扱いを定めている。 このように、第5項の法人税等とは別に、住民税等について第6項、第7項において別途取扱いを定めていることに、本適用指針の特徴的な部分が見られる。 すなわち、これは、改正地方税法等が成立しているにもかかわらず、これを受けた改正条例が各地方公共団体の議会等で成立していない場合の取扱いを明確にすべきとの意見があったことを受け、住民税等について別途項目を設け、規定したものである。 それぞれの場合における取扱いを図示すると、以下のようになる。 【表3】 住民税等の取扱い(3月末決算会社を想定) (※1) 標準税率又は超過税率による税率 (※2) 改正地方税法に規定された税率 (※3) 改正地方税法の標準税率に、改正前の条例の超過課税の税率が改正前地方税法の標準税率を超える差分を調整 * * * 次回は、改正税法が今国会で成立した後、実際の取扱いについて設例を用いた解説を行う。 (了)
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〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《有価証券》編 【第1回】「売買目的有価証券」
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《有価証券》編 【第1回】 「売買目的有価証券」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 「中小企業会計指針」では、有価証券は保有目的の観点から、①売買目的有価証券、②満期保有目的の債券、③子会社株式及び関連会社株式、④その他有価証券の4つに分類し、それぞれの分類に応じた貸借対照表価額とします。 今回は、①売買目的有価証券の貸借対照表価額及び会計処理をご紹介します。 1 ×1年12月期の期末、×2年12月期における仕訳 (ⅰ) 〈×1年12月期の期末〉 [X社株式] [Y社株式] (ⅱ) 〈×2年12月期の期首〉 (ⅲ) 〈×2年6月のX社株式売却時〉 [X社株式] (ⅳ) 〈×2年12月期の期末〉 [Y社株式] 「中小企業会計指針」では、有価証券(株式、債券、投資信託等)は、保有目的の観点から、①売買目的有価証券、②満期保有目的の債券、③子会社株式及び関連会社株式、④その他有価証券の4つに分類し、それぞれ次のように会計処理します(中小企業会計指針19)。 2 決算書の金額 ×1年12月期 〈貸借対照表〉 〈損益計算書〉 ×2年12月期 〈貸借対照表〉 〈損益計算書〉 3 法人税法の規定における売買目的有価証券(参考) 法人税法の規定による売買目的有価証券とは、短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した有価証券(企業支配株式を除く)であって、以下に掲げるものとされています。 (了)
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計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第12回】「うっかりミスを防ぐ習慣」
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第12回】 「うっかりミスを防ぐ習慣」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例12-1】 前期数値が更新されずに残っている注記 【事例12-1】は連結注記表に記載されている担保提供資産とその対応債務の注記です。この中に間違いが1ヶ所あります。 この会社の前年度の当該注記に記載されていた数字がそのまま更新されずに残ってしまっているのです。どの数字がそれだかわかりますか。 ヒントを出しましょう。計算チェックをやってみてください。 2 間違っているのはここだった では、答えを見てみましょう。 計算チェックですぐに判明したと思います。 計算が合わなかったのは、担保に供している資産の合計金額のところでした。【事例12-1】に記載されていた「324,732」です。これはこの注記の前期の数値だったのです。 この注記の作成者は、前期の連結注記表のデータをコピーして、そこに当期の数値を順次上書きしていきました。「① 担保に供している資産」のうち、個々の資産の数値については正確に当期の数字に置き換えたようですが、合計の数値を置き換えるのを忘れてしまったのです。これは「リサイクル・ミス」です。 注記を作成し終わった後計算チェックをすれば気がついたはずですが、それもやらなかったのでしょう。自分で作成した注記は、「正しく転記したので間違いない」という思い込みがあるので、計算チェックをわざわざやらないことが結構あるものです。 しかし、こういうミスを防ぐためには、習慣的に計算チェックを実行することが必要です。 3 類似事例の紹介 当期の計算書類に前期の数字が残ってしまっているというミスは、この連載の【第1回】でも紹介しました。そこで取り上げたのは貸借対照表の純資産の部で発生するミスでした。純資産の部というのは、転記作業のリズムが乱れやすい箇所であるため、間違いが起こりやすいということを述べました。 今回取り上げた【事例12-1】は「合計値」に係るミスですが、合計値というのもこのミスがよく起こる場所の1つです。【第2回】でも触れたとおり、特に貸借対照表の大科目、中科目といった箇所は要注意です。以下はまさにその事例です。 【事例12-2】 流動負債合計の数値が前期数値のままとなっている。 この事例も計算チェックをすればわかることなのですが、第三者から指摘されるまで見つからないことが多いのです。時間に追われて計算チェックをやらなかったのでしょうか。 しかし、どんなに時間がなくても、BSの貸方は計算チェックをかけるべきでした。入力作業は借方から順に行うので、貸方の入力作業に差し掛かるころに疲れが出始めて、そこでミスを犯すからです。 4 前期数値が残ってしまう仕組み うっかりミスをやってしまった時は、その原因を究明することも大切です。 【事例12-2】の場合は、おそらく以下のような仕組みでミスが起きてしまったと推定されます。 試算表から計算書類に数字を転記する場合に、流動負債合計の掲載位置が両者で異なっていることがミスにつながりました。試算表では一番下に、計算書類では一番上に掲載されています。 そのため、転記作業を機械的に進めていくと、流動負債の「支払手形」から始めて「その他」まで転記したところで、流動負債の転記はすべて終わったと勘違いし、そのまま固定負債の転記に移ってしまうのです。 その結果、流動負債合計の数値が転記されないのです。 こうしたミスも一度経験して原因をつかんでおくと、二度目からは間違える確率が減ります。原因がわかればミス防止の対策が打てる場合もあります。 うっかりミスは直して終わりではなく、原因を究明することが大切なのです。 〈今回のまとめ〉 うっかりミスを防ぐためには、合計値の計算チェックを行う、「ミスの原因を考える」といった日頃の習慣が大事です。 (了)
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第111回】圧縮記帳③「交換」
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第111回】 圧縮記帳③ 「交換」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 譲渡益と圧縮損を両建計上する方法 ①-1 土地A及び土地Bの交換 ② 圧縮損の計上 (※1) 圧縮限度額=取得資産の時価8,000,000-(譲渡資産の帳簿価額3,000,000+譲渡経費の額200,000)=4,800,000 2 譲渡益を計上しない方法 ①-2 土地A及び土地Bの交換 〈会計処理の解説〉 固定資産に係る国庫補助金、保険差益及び交換差益は、原則として益金となり課税所得を構成しますが、これを原則どおりに課税すると様々な弊害が生じます。 例えば、同一種類の資産を交換し、取得資産を譲渡資産と同一用途に供した場合、譲渡資産に係る譲渡益が発生したとしても、通常の譲渡取引のように金銭の収受がないため、当該益金に担税力はなく、これに課税すれば納税資金に窮することとなります。 このような事態を防ぐために、税法上では、圧縮記帳という制度が設けられています。 本事例で取り扱っている交換差益については、以下の要件に適合する固定資産の交換をした場合に、圧縮記帳の適用が認められます(法人税法第50条第1項及び第2項)。 また、損金算入できる圧縮限度額は、以下の算定式により計算されます。(法人税法施行令第92条第1項) 本事例において、当社は土地A(時価8,000,000円、帳簿価額3,000,000円)を譲渡し、土地B(時価8,000,000円)を取得しています。そのため、土地Bの時価8,000,000円と土地Aの帳簿価額3,000,000円の差額5,000,000円を土地譲渡益として計上します(①-1の仕訳)。 本事例では、交換差金は発生していないため、圧縮限度額は取得資産の時価8,000,000円-(譲渡資産の帳簿価額3,000,000円+譲渡経費の額200,000円)=4,800,000円となります(②の仕訳)。 一方で、譲渡益と圧縮損を両建計上せずに、取得資産の取得価額を譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額と譲渡経費との合計額とする方法もあります(連続意見書第3・第1の四の4)(①-2の仕訳)。 なお、交換差益の圧縮記帳は、税務上、原則として直接減額方式しか認められません。剰余金処分方式では、損金算入の要件を満たしていないという点に注意が必要です。 (了) ※4月は減損会計を取り上げます。
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改正労働者派遣法への実務対応《派遣元企業編》~人材派遣会社は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第2回】「雇用安定措置等への対応」
改正労働者派遣法への実務対応 《派遣元企業編》 ~人材派遣会社は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第2回】 「雇用安定措置等への対応」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【第2回】は、新たな許可基準への対応について検討する。 1 雇用安定措置への対応 派遣元は、一定の者に対して雇用安定措置を講ずる義務がある。そこで、雇用安定措置を講ずるべき対象者を特定する体制を整備し、その者に対して必要な措置を講ずるための準備が必要となる。 (1) 対象者の特定 雇用安定措置の義務化の対象となるのは、派遣先の同一の組織単位の業務に継続して3年従事する見込みがある、引き続き就業を希望する有期雇用派遣労働者となる。したがって、まず、派遣先の同一の組織単位で派遣就業させるために締結する有期雇用契約が更新により3年となることが見込まれる者を抽出し、その者に3年の派遣就業後の希望を聴取した上で、雇用安定措置の対象者を特定することになる。 希望を聴取すべき対象者になるかは、契約期間という客観的な指標により判断する必要があるため、有期雇用契約の更新のタイミングで判断することとなる。したがって、派遣先の同一の組織単位での就業期間の見込み(当該契約を満了したときの継続通算就業期間)を、契約の更新の際に必ず確認する体制が必要となる。 希望の聴取については、3年の派遣就業が終了する日の前日までに行えばよいとされ、4つの雇用安定措置((2)を参照)のうちどの措置を講ずるかは派遣元の裁量に委ねられているが、派遣労働者の意向を尊重するためには、早期に希望する雇用安定措置の内容について聴取を行い、十分な時間的余裕をもって対応することが望ましいとされている。したがって、有期雇用契約の期間にもよるが、更新により3年となることが見込まれる最後の契約の更新のタイミングで希望を聴取するとよいだろう。 また、雇用安定措置の努力義務の対象となる、派遣先の同一の組織単位の業務に継続して1年以上3年未満従事する見込みがある者等に対しても同様の対応を検討されたい。 (2) 雇用安定措置の準備 雇用安定措置としては、以下の4つのいずれかの措置(①で、結果的に派遣先で直接雇用に至らなかった場合は、②~④のいずれかの措置)を講ずる必要があるが、①については直接雇用に至るか否かは派遣先の意向となり派遣元では決定できない、②については合理的な条件で就業できるものに限られるためその時の状況により新たな派遣先を提供することが難しい場合も想定される、また、③については派遣元で決定できるものの雇用可能な範囲には限りがある。よって、対象となるすべての派遣労働者に対して雇用安定措置を講ずるためには、④の措置を検討しておく必要がある。 ④の措置は、「派遣労働者の雇用の継続が確実に図られる措置であれば教育訓練に限定されるわけではなく、例えば、派遣元事業主が職業紹介をできる場合にあっては当該派遣労働者を職業紹介の対象とすること(ただし雇用に結びついた場合に限る)等も含まれる。」(労働者派遣事業関係業務取扱要領より)とされている。派遣元の状況にもよるが、有給で研修等を実施する体制が必要となるだろう。 (3) その他 派遣労働者に対して実施した雇用安定措置については、日時や内容を派遣元管理台帳に記載する体制が必要となる。なお、雇用安定措置として①の措置(派遣先に当該派遣労働者を直接雇用するよう依頼する)を講じた場合は、派遣先の受入れの可否についても記載が必要となる。 派遣労働者を雇用安定措置の義務化の対象としないよう、派遣元が派遣期間を故意に3年未満とするような行為を行い、繰り返し行政により指導があったにもかかわらず是正しない場合は、派遣事業の許可の基準を満たさず許可の更新を行わないこともあるとされているので注意が必要となる。 また、雇用安定措置を講じて雇用契約の更新を行い、契約期間が通算して5年を超えたときは、派遣労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換できる(労働契約法第18条第1項)ため、この点も踏まえて対応の整理が必要となる。 2 キャリアアップ措置への対応 (1) 教育訓練プログラムの周知 派遣元は、派遣労働者に対して、段階的・体系的に必要な知識や技能を習得するための教育訓練を実施しなければならない。教育訓練計画については派遣事業の許可又は更新時に策定しているが、実際に派遣労働者に実施するためには、どのような教育訓練プログラムがあるのか等、その内容を派遣労働者に周知することが求められる。 周知の方法としては、ホームページでプログラムを紹介したり、プログラムを記載したパンフレットを配布する等が考えられる。 (2) 受講への配慮等 派遣元は、派遣労働者が教育訓練プログラムを受けられるよう配慮しなければならない。例えば、同じプログラムについて複数の受講機会を設けたり、開催日時や時間を配慮する等により、可能な限り派遣労働者が受講しやすいものとすることが望ましいとされていることから、eラーニング等の方法により、柔軟に受講できる体制の検討が必要だと考える。 また、教育訓練は有給で実施する必要があるため、その取り決めも必要になるだろう。派遣就業する際の時給とは別の定めをすることも、法令に抵触しない範囲で可能となる。 (3) キャリアコンサルティングの実施 派遣元は、派遣労働者が希望した場合は、キャリアコンサルティング(労働者の職業生活の設計に関する相談その他の援助)を実施しなければならず、キャリアコンサルティングの知見を有する者を相談窓口に配置する必要がある。当該窓口を周知し、対面のみならず電話等でも相談を受け付ける等して、派遣労働者が積極的に当該コンサルティングを活用できる取組みが望まれる。 (4) その他 派遣労働者に対して実施した教育訓練については、日時や内容を派遣元管理台帳に記載する体制が必要となる。また、キャリアコンサルティングを行った日時とその内容についても同様に記載が必要となる。 3 対応スケジュール 雇用安定措置の義務化への対応については、改正法施行後に締結する労働者派遣契約により派遣先の同一の組織単位の業務に継続して3年従事する見込みがある者が対象となるため、時間的な余裕があるものの早めの対応を検討されたい。 キャリアアップ措置への対応については、改正法施行後、すべての派遣労働者が対象となるため、急ぎ対応が必要となる。 * * * 次回は、労働者派遣契約等の見直しへの対応について検討する。 (了)
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養子縁組を使った相続対策と法規制・手続のポイント 【第20回】「虚偽の嫡出子出生届と養子縁組」
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第20回】 「虚偽の嫡出子出生届と養子縁組」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 問 題 甲は乙と婚姻後、長年、子に恵まれなかったところ、地元紙の片隅に「急募、生まれたばかりの男の赤ちゃんを、わが子として育てる方を求む。某産婦人科医院」との広告を見つけた。早速、甲乙夫婦は某産婦人科医院を訪れ、某医師から赤ちゃん丙の斡旋を受け、甲乙夫婦の子として出生届を提出した。甲乙夫婦は自己の子のようにして丙を育てた。なお、某医師は、子に恵まれない夫婦に実子として赤ちゃんを斡旋するため、出生証明書を偽造していたもので、後にマスコミ等でも大きく取り上げられることとなった。 近隣に住んでいた甲の弟丁は、某医師に関する報道直後、丙が甲乙夫婦の実子ではないと感じ、甲乙夫婦に問いただしたところ、甲乙はそれを認めたが、丁もそれ以上何も言わなかった。丙が41歳になったときに甲は死亡したが、その数年前から丙と丁との関係は些細なことをめぐって次第に悪化していた。 丁としては、丙ではなく自己が乙とともに甲の遺産を相続すべきと考え、甲丙間の親子関係不存在確認訴訟を提起した。丁の請求は認められるか。 回 答 丁の請求は権利濫用として棄却される可能性がある。 解 説 1 本問の参考事件 本問は、菊田医師赤ちゃんあっせん事件を参考としている。産婦人科開業医であった菊田医師は、妊娠後期での人工中絶は殺人に等しいと考え、中絶可能期間を経過しても中絶を望む妊婦に子を出産するように説得し、生まれてきた赤ちゃんを子のいない夫婦に実子として無報酬で斡旋した。 戸籍法第49条第3項は、「医師、助産師又はその他の者が出産に立ち会った場合には、医師、助産師、その他の者の順序に従ってそのうちの一人が法務省令・厚生労働省令の定めるところによって作成する出生証明書を届書に添付しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。」と規定されているが、菊田医師は、違法を承知の上で虚偽の出生届出書を発行した。その数は約10年間で100を超えるとされている。 1973年、菊田医師は医師法違反で告発され、6ヶ月の医療停止処分を受けるなどしたが、この事件は後の特別養子縁組制度の制定に大きな影響を与えたとされている。 2 虚偽の嫡出子出生届を普通養子縁組届として認めないとする判例 本問において被告となる丙としては、嫡出子としてなされた出生届には養子縁組届出としての効力が認められるべきであり、甲と丙との間には養親子関係があるとの抗弁を主張することが考えられる。虚偽の嫡出子出生届がなされている場合に、その出生届をもって普通養子縁組届として認めることができるかという問題である。 この問題に関し、過去、下級審判例等ではそれを肯定する例もあったが、最高裁は、大審院時代から一貫してこれを否定してきた(大判昭和11年11月4日、大判昭和13年7月27日、最高裁判昭和25年12月28日、最高裁判昭和49年12月23日、最高裁判昭和50年4月8日等)。養子縁組は要式行為であり、嫡出子出生届では養子縁組届としての要式性を具備せず、この届出を無効行為の転換という形で養子縁組届とみることができないということを主たる理由とする。 その後、下級審判決には養子縁組届として認めるべきとの判断を下したものもあるが、この点に関する最高裁の考え方は現在においても維持されている。 3 親族等からの確認請求を権利濫用とする最高裁判決 しかし、虚偽の出生届に端を発したとはいえ、長期にわたり親子同然の生活を続け、関係者もこれを前提として社会生活上の関係を形成してきたにもかかわらず、実親子関係が存在しないとの結論をすべてにおいて貫く場合には、虚偽の届出について何ら帰責事由のない丙に多大な精神的苦痛、経済的不利益を強いることになるばかりか、関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。しかも、本問のように甲がすでに死亡しているような場合には、丙は甲と改めて養子縁組の届出をすることもできない。 そのため、平成18年以降、虚偽の出生届によって嫡出子とされている子を被告とする親子関係不存在確認請求事件について、親族等からの請求を、権利濫用を理由に破棄、差し戻した最高裁判例が3件続いた(最高裁判平成18年7月7日(平成17年(受)第1708号)、最高裁判平成18年7月7日(平成17年(受)第833号)、最高裁判平成20年3月18日。なお、最高裁平成20年3月18日判決については韓国法を準拠法として判断されている)。 4 実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえる事情 これら判決では、下記事項等、諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないと判示している。 なお、上記最高裁判例では、①30年以上から50年強にわたり実の親子と同様の生活実態があり、その間、原告において、被告が戸籍上の両親の子であることを否定したことがないこと、②相続問題が絡んでおり被告の受ける経済的不利益も軽視し得ない可能性が高いこと、③戸籍上の父または母の死亡等により養子縁組をして嫡出子としての身分を取得することが現時点では不可能であること、④原告の動機、目的が自己の経済的利益を図るものや、法要の参列者などが原告に相談なく決めようとされたこと等、合理的な事情とはいえないこと、⑤実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に原告以外に著しい不利益を受ける者が存在しないこと等については、権利濫用とされるための積極的要素として判断しているものと考えられる。 5 本問のケースでは? 本問においても、①約40年もの長期にわたり甲丙間において実の親子と同様の生活実態があり、その間、丁において、丙が戸籍上の両親の子であることを否定したことがないこと、②相続問題が絡んでおり丙の受ける経済的不利益も軽視し得ない可能性が高いこと、③甲が死亡している以上、甲丙間での養子縁組を行うことができないこと、④丁が訴訟を提起するに至った経緯、動機等が甲死亡に至るわずか数年間における些細な出来事を発端とすること、⑤実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丁以外に著しい不利益を受ける者は存在しないと考えられること等からすれば、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえ、丁の請求は権利濫用として棄却される可能性が高い。 (了)
