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「従業員の解雇」をめぐる企業実務とリスク対応 【第5回】「普通解雇①」~能力不足、適格性欠如による解雇~

「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第5回】 「普通解雇①」 ~能力不足、適格性欠如による解雇~   弁護士 鈴木 郁子   1 はじめに ~能力不足・適格性欠如による解雇の難易度は従業員の地位・採用経緯により異なる~ 他の従業員より勤務成績が低く能力不足で任せられる仕事がないとして、従業員を解雇することができるだろうか。 従業員は、会社に対し労務提供義務を負っているのであり、能力不足や適格性欠如により雇用契約において想定された業務を全く履行できないというのであれば、雇用契約上の債務不履行として、普通解雇の解雇原因となりうる。 (※) なお、実際の解雇にあたっては、①解雇制限に違反しないこと、②解雇手続の履践は当然必要となる。【第4回】を参照されたい。 しかしながら、実際にどの程度の能力不足や適格性の欠如であれば、解雇権濫用法理(【第4回】参照)との関係で、「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」であるとして、解雇が適法となるのであろうか。 能力不足・適格性欠如の場合、裁判では、能力不足が著しいことが必要とされ、 等に基づいて、総合考量により判断されることになる(なお、一般的な解雇権濫用の判断要素(【第4回】)も参照されたい)。 ①の当該職務に期待されている職務内容の如何は、当該従業員の地位・採用経緯により異なり、それに応じて解雇の難易度が明らかに異なってくるため、類型毎に検討したい。   2 新卒採用の場合 ~新卒は解雇できないと考えておいた方が無難~ (1) 一般新卒の場合 新卒採用は、そもそも長期雇用が前提の採用であり、また、採用時に業務経験・能力がないため、入社後の教育・研修や経験の積み重ねにより職務遂行能力を身につけることが期待されている。また、採用時に、最終的に担当する業務も固定化しておらず、将来、部署異動があることが前提となっている採用形態である。 したがって、一般新卒の場合、特定の能力や適格性があることは、必ずしも雇用契約の内容とはなっておらず、単なる能力不足や適格性の欠如を理由とする解雇は、非常に困難である。 またそもそも会社には、評価の高い者もいれば低い者もいることが当然に想定されるため、相対的に能力が低いことを理由として解雇することもできない。 すなわち、一般新卒の場合、辞めてもらうためには、合意退職を成立させるか、能力不足や適格性欠如以外の他の解雇理由が必要となる。 それも、他の解雇理由が、それのみで解雇理由たり得ないのであれば、研修・教育の機会を与えた上、他の部署での配属の現実的可能性がないことまで必要となると考えておいた方が無難である。 (2) 職種を限定した新卒採用の場合 もっとも、新卒採用であっても、職種を限定して採用がなされている場合には、雇用契約の内容として、採用時に一定の能力や適格性が備わっていることを前提としているとみる余地がないわけではない。 とはいえ、新卒の場合、職務経験がない中での採用である点において、後述する中途採用の場合とは異なる。したがって、ある程度の期間にわたる教育や改善機会の付与をすることが最低限必要であろうし、他の職種への配置換えの可能性の検討についても、場合によっては必要となるものと思われる。   3 中途採用の場合 ~解雇の余地はあるが、職務に想定されている内容の特定が必要~ (1) 中途採用の特殊性 中途採用の場合は、新卒の一括採用の場合と異なり、すでに職務経験があり、一定の経験・能力があることを前提とし、即戦力を期待されて雇用契約が締結される場合が多い。 したがって、一定の経験や能力を有していたり、特定の職務をなし得ることが雇用契約の内容となっている場合が多く、上述した新卒の場合に比べて、解雇の有効性は緩やかに判断される。 (2) 地位を特定して中途採用した場合 例えば、「人事部長」や「営業部長」などの地位を特定して採用した場合には、その地位に想定されている業務を遂行し得る能力がなく、不適格であるというのであれば、解雇し得る。 そして、地位を特定した採用を行っている以上、その地位に期待されている職務を遂行できないのであれば、原則として、降格や配置換えの措置を講じなくとも、債務不履行として解雇は可能である。 もっとも、雇用契約時に、地位に期待されている職務の内容が従業員との間で了解事項となっていたのか、職務を遂行する能力がなかったことを客観的に立証できるのか等、解雇に対して超えるべき現実的なハードルは決して低くない。 また、例えば営業部長の場合で、売上目標などを雇用契約の内容として定めていた場合であっても、そもそも客観的に時勢等から売上達成が不可能な状況であったり、売上目標に足りなくとも目標に対して一定程度の売上を達成できていた場合、また、そもそも地位に相応しい給与が支給されておらず、本人は降格・配置換え等により在職することを希望している等の事情がある場合は、解雇が難しいことには留意する必要がある。 (3) 専門職として中途採用した場合 職種を特定した専門職として中途採用した場合も、職種を特定した採用をしている以上、その職種に期待されている職務を遂行できる能力がないのであれば解雇し得るが、職種を特定する場合は、上記の地位を特定した採用よりも、能力と職務の結びつきが弱い。 したがって、改善の機会を与えることは当然として、解雇の前に、事務職等他の職種への職種変更を試みるべきである。 (4) 新卒と同様の中途採用の場合 中途採用であっても、いわゆる第二新卒であったり、能力や経験とは無関係に採用された者については、新卒と同様に考える必要がある。   4 実務上の留意点 ~地位・職務・職種の内容を特定する重要性~ (1) 採用条件の証拠化 上記のとおり、能力不足・適格性欠如を理由として解雇できるかどうかは、地位・職務・職種が限定された雇用契約であり、その地位・職務・職種に期待される内容が雇用契約時に明らかとなっており、雇用契約の内容となっているかという点に帰着する。 したがって、実務上、以下のような工夫をすることが望ましい。 実際には、採用面接で上記のような説明はしているが、これを雇用契約書の中身に盛り込んでいなかったり、説明したことの記録が何も残っていないため、争いになっているケースが極めて多い。 雇用契約書に盛り込むか、少なくとも、採用にあたり、採用時に説明した職務内容等をメールなどで本人に送っておくなどの工夫が必要である。 採用時にこれらの証拠化をしていないのであれば、改善指導等の際に改めて雇用条件の内容の確認をし、これを書面化しておくことが望ましい。 (2) 能力不足の立証 また、雇用契約時に、地位・職務・職種が限定されており、その内容が明らかになっていたとしても、期待された業務を遂行し得なかったこと、実際に当該職務についての能力が不足していたことの立証責任は会社側にある。 その評価期間は能力の有無を算定するのに十分な期間である必要があるし、その評価方法についても恣意の入らない客観的なものであることが必要である。また求める評価結果も、そもそも実現不能であったり、時勢の変化などを考慮していなかったり、評価結果に僅かに足りないだけで解雇するなど、不合理なものであってはならない。 人事評価制度がある場合には、その評価制度に評価期間の評価結果を反映させておくべきである。そしてその評価結果は、逐次本人に対してフィードバックし、これらを達成できないのであれば、解雇があることを伝えていくべきである。 なお、解雇するとしても、企業秩序違反の行為ではないので、懲戒解雇ではなく、普通解雇である(【第1回】参照)。 *  *  * このように、雇用契約時に採用条件を明確にし、さらに逐次その評価結果をフィードバックしていけば、期待された成果が上がらなかったとき、従業員は、会社が解雇というリスクを伴う手段(【第2回】参照)を講じるまでもなく、退職勧奨に応じたり、自ら辞めることを選択することが多い。   (了)
#177(掲載号)
#鈴木 郁子
2016/07/14
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マイナンバーの会社実務Q&A 【第14回】「就業規則の改定⑦(「特別休暇」の条文の追加)」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第14回】 「就業規則の改定⑦(「特別休暇」の条文の追加)」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 社員が平日に市区町村役場にマイナンバーカードを取りに行けるようにしたいのですが、特別休暇の条文を新たに追加するのと現在の年次有給休暇の条文で対応するのとどちらがよいでしょうか。 現在の年次有給休暇の条文は、以下の通りです。   〈A〉 年次有給休暇は、入社6ヶ月後に10日付与される。入社6ヶ月以内の新入社員は年次有給休暇が0日なので、全社員をカバーできない。また、マイナンバーカードを取りに行く程度で年次有給休暇を消化してもよいのだろうかと考える社員、もっと有効なことのために年次有給休暇を消化したいと考える社員がいるかもしれない。 したがって、特別休暇の条文を追加する方がよい。慶弔休暇に代表される特別休暇は、設定するもしないも会社の自由、有給・無給も会社の自由である。 〈パターン1〉 特別休暇としてマイナンバーカード取得休暇の条文を追加した。無給だと制度の利用者が少なくなると予想されるため、有給とした。 〈パターン2〉 第2項に“ただし、マイナンバーカード取得後1週間以内にマイナンバーカードの写しを会社に提出しない場合、無給とする。”を追加した。社員がマイナンバーカードを市区町村役場に取りに行った事実を確認し、マイナンバーをすみやかに取得するためである。 (了)
#177(掲載号)
#上前 剛
2016/07/14
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〔誤解しやすい〕各種法人の法制度と税務・会計上の留意点 【第8回】「医療法人(後編)」

〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第8回】 「医療法人(後編)」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏   ▷〔前編〕はこちら ▷ 税務・会計について 3 基金について 持分なしの社団医療法人の場合に限り、定款で定めることで、基金を設置できる。この基金は、法人の財政的基盤を支えるものとの位置づけであり、利息を付されず、返済期限を定めない劣後債務として、会計上は、純資産の部に表示されることになる。 ただし、税務上は、あくまでも債務として扱われるため、法人税法における資本金あるいは資本金等の額についての規定の適用は行われないことになる。詳細は、下記の文書照会回答を確認されたい。 なお、法人設立時には一定の資金を必要とするため、個人事業からの法人成りでは、認可時において一定額の基金を拠出するように都道府県から指導を受けるのが通例である。この基金は、拠出側個人においては、相続財産となり、通常は、額面評価されることになる。 最近、この基金が相続財産としてそのまま額面評価されることを後で知ったがために生じたトラブルの例を幾つか聞いている。法人設立だけで話が終わらないということを、税理士がきちんと理解しておかないために生じた悲劇という見方もできるのではないだろうか。   4 会計 既に述べた点以外について、若干の補足を行う。 (1) 会計報告は現状病院会計準則主体だが医療法人会計基準への切り換えが必要な場合がある 医療法人については、従前、医療法人会計基準が制定されておらず、病院会計準則という施設基準を基礎に、法人の会計がなされてきた。しかし、ようやく医療法人会計基準の制定がなされ、今般、法令化もされたことで、今後、各法人は徐々に対応を進めていくものと考えられる。 特に、一定規模以上で、会計監査人による監査が必要とされた法人については、対応が強制となるため、早期の対応が必要不可欠となる。 詳細は、下記指針を確認されたい。 (上記指針より) (2) 施設会計などの管理会計が必要 先述したような業務区分(本来業務・附帯業務・収益業務)による事業の区別に加えて、既に社会福祉法人の回で説明したような、施設会計が必要になる。   5 税務 (1) 法人税 ① 同族会社関係の規定の適用はない 別表2における出資者の記載や別表3の留保金課税計算など同族会社を前提とする規定の適用はない。ただし、同族会社の行為計算否認については、これを肯定したと評価される裁判例が存在する。 ② 純資産の部は出資持分のありなしで分かれる 出資持分ありの場合には、決算書上「出資金」評価されているものを、株式会社の資本金同様に取り扱えばよいことになるが、出資持分なしの場合、「基金」はこれとは異なる点は、既に説明した通りである。 ③ 法人税率は特定医療法人の場合優遇だが利益供与チェックは厳しい 特定医療法人は、普通法人でありながら、税率の軽減を受けることが可能になる。承認申請が必要になるとともに、毎年定期提出書類が要求されている。 持分ありから持分なしに移行する際の課税関係を生じさせないことについて、いわばお墨付きのある類型であり、法人税の税率優遇だけでないメリットが得られる。反面、利益供与関係の税務調査は、国税局の専担者が行うが、通常の税務署の税務調査よりも非常に厳しく確認が行われる点、税理士としては要注意であろう。 ④ 社会医療法人は収益事業課税 社会医療法人は、法人税法上は、公益法人等に該当し、34業種の収益事業課税が行われることになる。既にNPO法人の回などでも説明したみなし寄附金制度が利用可能である。 この社会医療法人の収益事業課税の税務及び持分なしの普通法人から社会医療法人に移行する際の課税所得範囲の変更問題については、既に本誌において寄稿済みであるため、下記を参照されたい。 特に、収益事業課税の範囲については、業務範囲との関係での検討が重要になるが、筆者は他に扱った事例を見たことがないため、上記の論考は、関係する読者の参考になると考えている。 なお、週刊税務通信が過去に出した記事は、最近になって、実質的な訂正記事と思われる追加取材記事が出ているが、上記論考では、既に税務通信記事への疑問を呈している。 ⑤ 医療機器には、中小企業投資促進税制は適用できない 中小企業者等に該当する病院を経営する法人については、中小企業投資促進税制(措法42の6)の適用時に注意が必要である。 診療用又は治療用として取得をし、事業の用に供した超音波診断装置、人工腎臓装置、CTスキャナ装置、歯科診療用椅子などの医療機器は、該当しないとされているからである。詳細は、下記を参照されたい。 その代わりに、医療機器の特別償却(措法45の2)を使うべきだということになるが、ここで、医療機器の特別償却と中小企業投資促進税制は、選択適用できるかという論点がある。これについては、選択適用できないという裁決が出ている。 また、この特別償却は、金額だけでなく、リスト指定がある点に注意が必要である。 なお、獣医師の場合、「獣医業」もこの特別償却を適用可能とされている。 (2) 寄附税制 社会医療法人については、みなし寄附金制度の適用があるが、個人拠出者からの寄附金控除は存在しない点、他の公益法人とは異なっている部分がある。 (3) 事業税 事業税では、医療法人は特別法人とされ、税率適用区分が異なっている。 また、社会保険診療収入の非課税制度があるが、都道府県により、収入按分方式と所得按分方式との違いがあるとともに、計算方法に若干の違いがある。該当する都道府県の手引を入手して、熟読しておくことをお勧めする。 (4) 均等割 持分なし医療法人の場合の均等割については、従業者数が関係ない。ときに勘違いがあり、筆者の場合、同じ市町村からの照会を担当者が変わる都度受けたこともある。 (5) 消費税 社会医療法人については、特定収入計算(消法60④)が必要となる。 (6) 相続税・贈与税 近年、納税猶予・税額控除制度が新設された。第6次医療法改正により、既存の持分あり医療法人は、持分なし医療法人への移行計画を作成し、これについて認定を受ける仕組みが平成26年10月よりスタートしている。 元々、出資持分の定めがある医療法人を出資持分なしにするには、課税上3つのハードルがあった。 この税制改正では、この[2]についての解決策を提示している。 元々、[1]については、払戻しを受けるあるいは基金拠出型に切り替える場合以外には課税関係を生じない。 そして、[2]についても、出資者が全員同時にすべての出資持分を放棄すれば、残余する出資者が残らないので、課税関係は生じなかった。 今回の特例は、一度に全員がすべての放棄をできない場合、新制度である認定医療法人制度に乗っていれば、全員の放棄が終わるまで納税猶予を受けることを認めたものである。 ただし、納税猶予は課税関係が先に続くので、反射的に受けた経済的利益について、その時点で放棄すれば、贈与税の税額控除制度を用意して、その時点で、その残存出資者の課税関係を終わらせることもできることとした。とはいえ、この場合でも、[3]の問題は残ることになる。 最後に、[3]だが、同族関係で役員を固めているなどの条件を満たす場合には、法人に贈与税を課す場合があるものとされている(相法66④)。これについては、今回の制度では何ら手当がされていない。 結局、この点については、安全な移行を行うには、特定医療法人になるのとほぼ同じレベルの環境整備が必要になるという従来実務と全く変わっていないということができる。 診療所規模であれば、財産を失ってしまうリスクを考えると、積極的な移行を勧める意義はあまりないものと思われる。病院についても、診療所への転換の可能性について、充分検討が必要であろう。 ただし、地域医療との関係で、もはや病院としての経営を止めることができない場合で、同族経営からの脱皮やむなしとの判断が可能な場合には、本制度の利用を検討して良いのであろう。特に、今回の特例対象である「一度に出資者全員の持分全部放棄が難しい場合」に該当する法人であれば、まさに前向きに検討すべきかもしれない。 (了)
#177(掲載号)
#濱田 康宏
2016/07/14
労務・法務・経営 経営

〔新規事業を成功に導く〕フィージビリティスタディ10の知恵 【第4回】「F/Sの深追いがリスク感知装置を働かせる」

〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第4回】 「F/Sの深追いがリスク感知装置を働かせる」   中小企業診断士 西田 純   フィージビリティスタディ(F/S)についてのお話も第4回目になりました。先月までは基本となる考え方についてお伝えしてきましたが、今月以降はやや踏み込んだ実践的な話題へとシフトしていきます。 まず今月お伝えするのは「深く検討すればするほど、なぜフィージビリティは低下するのか」という、F/Sに従事したことのある人なら必ず経験するジレンマについてお話したいと思います。   ▷ リスクに対する考え方:普通の人は「リスク回避型」の志向を持つ 今、手元に投資に使えるお金が1,000万円ほどあったと仮定します。誰かがあなたのところにやってきてこう言います。 数学的に検証すると、この投資案件の期待値は1,200万円となり、1,000万円よりもあきらかに大きくなります。 それなのにこの誘いに乗る人はいないか、いたとしてもごく少数だろうと思われます。なぜなら、「リスクはわずか20%」の20%は全く「わずか」ではなく、決定的に大きな数字だからです。 同じ20%でも降水確率の場合には、傘を持ったり雨合羽を着ていこうとする人は必ずしも多くないと思いますが、投資の場合はどうしてそうなるのか?という点について少し考えてみたいと思います。 次のグラフは、一般に、金額の多寡に対応してリスク回避型の意思決定へと行動を変える人が多いことを示しています。少額では気にならないリスクが、金額が大きくなると嫌でも気になる、という人間の性質をよく現しています。 【リスク回避型の投資行動】   ▷ 中には「リスク中立型」の人もいる しかしながらビジネスで数字を扱っていると、多くの場合、所詮は自分のおカネではないことから、リスク選好型とは言えないまでも、必ずしもリスクに大きな注意を払わず、先ほどの例で言うと期待値1,200万円が1,000万円よりも納得的に大きい、と判断して投資する人が出てくるのも事実です。 このような考え方を「リスク中立型」と呼びます。   ▷ 同じことを2度調べられると、調べられる方は「リスク感知装置」が働く リスク回避型の人間がリスクを感知するのは、なにも投資案件の条件を示されたときばかりではありません。道を歩いていて事故に遭う可能性を高める行動は極力避けようとするでしょうし、賞味期限を過ぎてしばらくした食品は、たとえ外見におかしなところがなくても食べずに廃棄するという人は少なくないと思います。 F/Sでも同様のことが言えるのは、「社内の新規事業向け」という触れ込みそのものが、見る人によってはリスク満載に見えるからです。 F/Sを担当する人間は社内の反応について、社長の指示がある、またはクライアントの要請がある等の理由づけがあって初めて調査に協力してくれはするものの、心のどこかで「新規事業≒リスク」と思っている人が少なくない、ということを認識する必要があります。 もしもF/Sが順調に進み、結果が肯定的な数字でまとまるような場合は、これらの懸念が顕在化しないままで終わることもあると思います。というのも、リスク回避型の行動様式においては、社内の人事評価において消極的な考え方の人間であるとされることもまた、忌避されるべきリスクになるため、自ら積極的に「自分はリスク回避型人間である」と言う人はほとんどいないからです。 微妙なのは、F/Sにおいて何度かシナリオの書き直しが発生し、同じことが何度も調べられるケースです。 ありがちなのが、収益性が十分でないことから売上予測を何とか上方修正できないか、あるいはコストダウンを織り込めないかという検討のために繰り返しヒアリングやデータ収集が行われることになる場合で、同じ担当者が同じヒアリング先に似たような(でもちょっと違う)データについて何度かコンタクトする、という現象が発生するのですが、そうなるとヒアリングされる側のリスク感知装置には自動的にネガティブ・スイッチが入ります。 つまり、本当は5%のコストダウンができる、と思っていても「何かわからないリスク」を回避する意味で3%しかできないと回答する(差分の2%は自身のリスクをヘッジするための余裕代)と回答するかもしれませんし、当初は2ヶ月の納期で完成できると言っていたものが、よく調べたら2ヶ月半必要だということが分かった、などと、期待とは逆の回答をされるようなケースも出てきます。 一件一件は小さな差でも、これらが積み重なると全体の収益性には無視できない影響を及ぼすことになるのです。   ▷ F/Sの結果が伸びないことを見ると中立的だったスタッフも雪崩を打ってリスク回避型に さらに悪いことには、「F/Sの結果が思わしくない」という情報が流れることで、新規事業そのものが「勝ち馬」ならぬ「負け犬」的な扱いを受けるようになるケースです。 実ビジネスの世界では、温情主義で生き残れるような余地はないため、「負け犬」扱いされた新規事業については、誰もが皆リスク対策を優先させるようになります。 相変わらず社内報では華々しい扱いを受けているその裏で「あのプロジェクト、ヤバいらしいぜ」というような噂が広まり出すと、それまで勝ち馬に乗るために恩を売ろうとしていた人たちが急に大人しくなったりします。 *   *   * では、ピンチに陥る前に、このような状況を打開するにはどうすればよいのでしょうか。次回は「社内の逆風を回避するには」と題して、状況打開の方策についてお伝えします。 (了)
#177(掲載号)
#西田 純
2016/07/14
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧 IFRS

《速報解説》 金融庁、「国際会計基準(IFRS)に基づく四半期連結財務諸表の開示例」を公表~IFRS規定に基づく説明の充実や最新のIFRS改訂を反映~

《速報解説》 金融庁、「国際会計基準(IFRS)に基づく 四半期連結財務諸表の開示例」を公表 ~IFRS規定に基づく説明の充実や最新のIFRS改訂を反映~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年7月8日、金融庁は、「国際会計基準(IFRS)に基づく四半期連結財務諸表の開示例」を公表した。 「国際会計基準に基づく四半期連結財務諸表の開示例」は、平成22年4月に公表されているが、今般、それを改訂し、「IFRSに基づく四半期連結財務諸表の開示例」として公表するものである。 開示例に意見がある場合には、平成28年9月30日までにお寄せ頂きたいとのことである。 なお、国際会計基準(IFRS)に基づく年度の連結財務諸表に関する開示例については、平成28年3月31日に公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主なポイント 1 改訂のポイント 改訂のポイントは次のとおりである。 2 開示例のポイント 開示例は表紙を含めて34ページある。 開示例の利用にあたっての主な留意事項として次のことが述べられている。 3 IFRSの各基準と開示例での取り扱い箇所の関係 例えば、次のような一覧表が記載されており、IFRSの理解に資する工夫がなされている。 次のような記載が行われており、実務に役立つ工夫がなされている。 (了)
#176(掲載号)
#阿部 光成
2016/07/11
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.176が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年7月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.176を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2016/07/07
税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.42-「仮想通貨と税制」

monthly TAX views -No.42- 「仮想通貨と税制」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   新聞で、三菱東京UFJ銀行が「仮想通貨」を発行するということが大きな話題として取り上げられた。マウントゴックス社の不正事件で有名なビットコインなどの仮想通貨だが、本年6月資金決済法が改正され、「仮想通貨」の取引業者を登録制にしてマネロンなどの規制を強化することになり、法律で「仮想通貨」が定義されることとなった(情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(6月3日付けで公布、施行は公布から1年以内))。 これを機会に、税制の問題も考えてみたい。 まず、どのように定義されたのか。改正資金決済法第2条第5項は、「仮想通貨」を以下のように定義している。 (※) 参議院ホームページより 要するに、「代価の弁済のために」「不特定多数の者に使用することができ」「財産的価値であること」「相互に交換できること」を要件としたものである。もっとも、「強制通用力がない」点で、通貨とは異なる。 このように「仮想通貨」としての定義が明確になると、税制面でその取扱いを変える必要が出てくる可能性がある。所得税だけでなく、消費税の世界にもその影響は及ぶ。 *  *  * どのように変わる可能性があるのだろうか。 まず所得税の世界であるが、現在は「モノ(資産)」扱いであると考えれば、仮想通貨の取引により得られた利益は譲渡所得(キャピタルゲイン)となる。評価益(含み益)段階では課税はなく、売却した時点の実現利益が課税対象となる。 50万円の特別控除があり、保有期間が5年超の場合は2分の1が課税対象となり、税率は総合課税という点では通常の資産と同様である。また棚卸資産の場合、事業所得となり、規模によっては雑所得の場合もありうる。 これが法律で定義された「仮想通貨」となると、現行の外国通貨の取引と同様な課税方式になる可能性が高くなる。 その場合、その差益は原則雑所得となり、棚卸資産である場合には、事業所得・雑所得になる。そこで生じた損失については、雑所得の場合には損益通算ができず、事業所得の場合には、通常の損失と同じ取扱いとなる。 *  *  * では、消費税の世界はどうか。現在は、「モノ」であるため、決済のために仮想通貨を利用すると、モノ(仮想通貨)の譲渡として消費税が課税される。仮想通貨を通貨と同じように利用する者からすれば、理解しがたい奇妙な状況が生じている。 ただし、消費税の納税義務者は、(基準期間の)課税売上高が1,000万円以上の事業者であるから、仮想通貨を利用する一般消費者には、ほぼ実害はない。 仮に、資金決済法第2条第5項に定義される「仮想通貨」が通貨に類似するものであるとすれば、消費税法第6条の非課税に当たるかどうかが問題になる。つまり別表第1の二において、「法に規定する支払手段その他これに類するものとして政令で定めるもの」と記されており、これに該当するかである。 政令(第9条第3項・第4項)を読んでみると、現行では「仮想通貨」を想定していないので、課税対象となるわけだが、きちんと定義され、「モノ」とは異なることになれば、他の先進諸国と横並びの取扱い、すなわち非課税ということにしなければ平仄が合わなくなるであろう。 また、「仮想通貨」を用いて支払いする場合に消費税がかかれば、「二重の負担」が生じるので、普及するには非課税が必要、という意見もある。 この点、数多ある仮想通貨の中にはその利用実態が通貨に類似しているとは言えないものもあるようなので、何が非課税とすべき「仮想通貨」なのかについては、更なる議論が必要だろう。 年末の税制改正でこのあたりが議論され課税の取扱いが決まるものと思われる。 (了)
#176(掲載号)
#森信 茂樹
2016/07/07
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

金融・投資商品の税務Q&A 【Q2】「上場株式を譲渡し譲渡損が出た場合の損益通算の範囲」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q2】 「上場株式を譲渡し譲渡損が出た場合の損益通算の範囲」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 上場株式等の譲渡に係る所得区分 上場株式等の譲渡から生じる所得については、他の所得と区分し、上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「上場株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税15.315%、地方税5%)が適用されます。 上場株式等が証券会社等の特定口座内の源泉徴収選択口座で保管されており譲渡益について証券会社等により源泉徴収がなされる場合を除き、原則として申告が必要となります。 上場株式等の譲渡について譲渡損が生じた場合、上場株式等に係る譲渡所得等の範囲内で損益通算が可能です。しかしながら、この損失については、下記2に記載する場合を除き、他の所得(例えば給与所得等)との損益通算を行うことはできません。 なお、平成27年12月31日以前は、上場株式等かそれ以外の株式等(一般株式等)の区別はなく、株式等の譲渡に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能でしたが、平成28年1月1日以後は、株式等を上場株式等又は一般株式等に区分し、それぞれの所得内でのみ損益通算が可能となりますので注意が必要です。 すなわち、上場株式等の譲渡損について、非上場株式の配当や譲渡益との損益通算はできません。   2 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除 上場株式等に係る譲渡損失について、その年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額は、一定の要件のもと、(1)上場株式等に係る配当所得等との損益通算及び(2)翌年以降3年間の繰越しといった特例が認められています。 本特例の対象となる上場株式等の譲渡は、主に以下に掲げる譲渡とされています。 したがって、相対取引や外国の証券会社に対して直接譲渡した場合等は本特例の対象とはなりません。 (1) 配当所得等との損益通算 上場株式等の譲渡により生じた譲渡損失のうちその譲渡日の属する年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除しきれない金額については、申告を要件に、当該損失をその年分の上場株式等に係る配当所得等の金額(申告分離課税を選択したものに限る)から控除することが認められます。 平成28年1月1日以後、損益通算の対象となる上場株式等に係る配当所得等には、申告分離課税を適用した上場株式等の配当のほか、申告分離課税を適用した特定公社債の利子等が含まれます。 この上場株式等の譲渡損失と上場株式等に係る配当所得等の金額との損益通算は、損益通算の適用を受けようとする年分の確定申告書に、規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書その他の書類の添付がある場合に限り適用されます。 (2) 損失の繰越控除 上場株式等の譲渡により生じた譲渡損失のうちその譲渡日の属する年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除しきれない金額((1)の適用を受けて控除されたものを除く)は、一定の条件のもと、その年の翌年以後3年内の各年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除が認められます。 この上場株式等の譲渡損失の繰越控除については、①上場株式等の譲渡損失が生じた年分について、その上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算明細書などが添付されている確定申告書を提出し、②その翌年以降、連続して確定申告書を提出し、③繰越控除の適用を受けようとする年分の確定申告書に、この規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書その他の書類の添付がある場合に限り適用されます。 上記をまとめると、上場株式等の譲渡損失の控除の順序としては以下の通りとなります。   3 本件へのあてはめ おたずねの上場株式の譲渡により生じた譲渡損は、上場株式等に係る譲渡所得等の範囲内で、他の上場株式等の譲渡により生じた譲渡益から控除することが可能です。また、上場株式は国内証券会社への売委託により売却したとのことですので、上記2の特例の対象となります。 すなわち、他の上場株式等の譲渡益からの控除後、なお上場株式等の譲渡に係る譲渡所得等が損失となる場合は、申告を要件に、申告分離課税を選択した上場株式等の配当等(特定公社債等の利子等を含む)との損益通算や損失の繰越控除を行うことができます。それ以外の所得との通算はできません。   (了)
#176(掲載号)
#箱田 晶子
2016/07/07
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

連結納税適用法人のための平成28年度税制改正 【第3回】「減価償却制度の見直し」

連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第3回】 「減価償却制度の見直し」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   [5] 減価償却制度の見直し 1 改正内容 平成28年4月1日以後に取得をする建物附属設備及び構築物並びに鉱業用の建物の償却の方法について、定率法を廃止し、これらの資産の償却の方法を次のとおりとする(法令48の2①)。   2 平成28年4月1日以後の資本的支出の取扱い 既存の減価償却資産に対する資本的支出については、原則、新たな減価償却資産が取得されたものとして、減価償却制度が適用される(法令55①⑤)。 ただし、平成19年3月31日以前に取得された減価償却資産(旧定額法又は旧定率法が適用されるもの)に対する資本的支出については、既存の減価償却資産の取得価額に加算して、旧定額法又は旧定率法を適用することができる(法令55②)。 また、平成24年4月1日以後に取得された減価償却資産(200%定率法又は250%定率法が適用されるもの)に対する資本的支出については、既存の減価償却資産と資本的支出について定率法を適用している場合、資本的支出を行った翌事業年度の開始時に、既存の減価償却資産の帳簿価額と資本的支出の帳簿価額を合算した金額を取得価額とした新たな減価償却資産を取得したものとして減価償却制度を適用することができる(法令55④)。 したがって、既存の建物附属設備・構築物(以下、建物附属設備等という)に対して、平成28年4月1日以後に行われた資本的支出については、既存の建物附属設備等が平成19年3月31日以前に取得された減価償却資産(旧定額法又は旧定率法が適用されるもの)である場合は、当該資本的支出を既存の減価償却資産の取得価額に加算して、旧定額法又は旧定率法を適用することができるが、それ以外の場合には、新たな減価償却資産が取得されたものとして定額法が適用される(法令55①②④、平成28年法令改正法令附則6③)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 《平成28年4月1日以後に支出した資本的支出の取扱い》   3 平成28年度税制改正に伴う償却方法の変更は「正当な理由に基づく会計方針の変更」に該当するか? 平成28年度税制改正に合わせ、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物から減価償却方法を定額法に変更する場合、当該減価償却方法の変更が正当な理由に基づく会計方針の変更に該当するかが問題となる。 この点、企業会計基準委員会は、平成28年6月17日に『平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(実務対応報告第32号)』(以下、「本実務対応報告」という)を公表し、従来、法人税法の償却限度額を減価償却費として処理している企業において、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している場合、平成28年4月1日以後に取得する当該減価償却資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものとした(本実務対応報告第2項)。 そして、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)』第19項及び第20項の定めにかかわらず、次の事項を注記することとした(本実務対応報告第4項)。 また、本実務対応報告は、公表日(H28.6.17)以後最初に終了する事業年度のみに適用されることとされた。ただし、平成28年4月1日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には、当該事業年度に本実務対応報告を適用することができるとしている(本実務対応報告第5項)。 なお、この取扱いは、平成28年度税制改正に係る減価償却方法の改正に限定して緊急に対応したものであり、今回に限られたものとしている(本実務対応報告第15項)。   4 適用時期 平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物、鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物に限る)について適用される(法令48の2①、平成28年法令改正法令附則1・6①)。 (了)
#176(掲載号)
#足立 好幸
2016/07/07
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第10回】「調査期間中に修正申告書を提出したが、更正があるべきことを予知してされたものではないとして加算税賦課決定処分が取り消された事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第10回】 「調査期間中に修正申告書を提出したが、 更正があるべきことを予知してされたものではないとして 加算税賦課決定処分が取り消された事例」   税理士 佐藤 善恵     (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告の法人(X社)は、米国の100%子会社で半導体基盤の製造及び設計開発等を主な事業としている。X社は、機械及び装置の増加償却の特例の適用要件である増加償却の「届出書」(本件届出書)を提出していないにもかかわらず、増加償却の特例の適用があるものとして法人税の申告書を提出した。 X社の担当者は、税務調査の初日の朝、本件届出書の提出を失念した可能性に気づいた。その後、X社は、調査期間中に修正申告書を提出し、過少申告加算税が賦課されたため、国税通則法第65条第5項が適用されるべきであるとして、賦課決定処分の取消しを求めて争った。   〔調査開始までの状況〕 (1) 大阪国税局の調査担当者(職員A)は、平成21年7月3日、X社に対し、同月21日から法人税及び消費税の調査を行う旨の電話連絡をした。 (2) 職員Aは、平成21年7月15日、X社を訪問し、経理部課長の乙及びその部下の丙に対して、調査当日までに準備を依頼する趣旨で、書類のリスト(本件依頼書)及び調査時に確認する事項を例示列挙した書面(本件確認事項書面)を交付した。 (3) 丙は平成21年7月21日(調査初日)の朝、職員Aが臨場する前に、準備した書類ファイルを確認していたところ、中に綴られているはずの本件届出書の控えが綴られていないことに気づき、乙にそのことを伝えた。   〔調査開始から修正申告書提出までの経緯〕 (1) 7月22日(水)及び23日(木)、丙は、調査に対応しつつ本件届出書の控えを探したが、発見することができなかった。 (2) 7月24日(金)、乙は、顧問税理士である税理士法人から、本件届出書の追加提出は認められないこと等の説明を受けた。 (3) 7月25日(土)、乙は、社内の財務担当部長に、本件届出書提出の失念の可能性が高いことを説明したところ、親会社から、税理士法人と相談の上、対応方針を決定するとの連絡を受けた。 (4) 7月26日(日)、乙は、社内の資金管理担当者に、修正申告をした場合の納税資金の手配が可能であるかを確認したところ、可能である旨の回答を受けた。 (5) 7月27日(月)朝、丙は、市役所に行き、償却資産申告書に本件届出書が添付されていないことを確認した。その後、乙、丙、税理士法人等が参加して親会社の担当者と電話会議が開かれ方針が検討された。 電話会議終了後、丙は、修正申告書を作成して代表者に署名してもらった。 (6) 7月28日(火)未明、親会社は乙に対し、電子メールで修正申告をすること及び追加納税を指示した。同日午前、丙は、修正申告書を税務署に提出し、約10億6,000万円の追加納税をした。 (7) 職員Aは、7月27日(月)までの間に、増加償却の特例が要件を満たしているかに関する具体的調査は行っていなかった。   〔結論〕 職員Aの調査により、本件届出書の不提出が発見されるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達する前に修正申告書が提出されたものと認められる。 国税通則法第65条第5項の適用により、過少申告加算税は取消し。   〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、「本件届出書の不提出が発見されるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達していたか」ということが判断基準にされた点にある。これを、より大雑把にいうと、職員Aが過少申告の原因たる本件届出書提出の失念という具体的な事実に気づき得る段階であったかどうかである。 職員Aの行っていた調査の具体的内容は、減価償却計算の適否などであったが、裁判所は、それをもって、本件届出書の確認に関して客観的確実時期に達していたとはいえず、「単に一般的抽象的可能性があったに過ぎない状況」にあったというべきであると述べて原処分庁の主張を排斥した。   〔本判決が示唆するもの〕 本件では、X社は、修正申告書を提出した後に、職員Aにその旨を伝えている。興味深いのは、その際、職員AにICレコーダで会話を録音する旨告げて、本件届出書不提出に気づいていたかどうかといった趣旨の質問や、減価償却方法についてまだ調査していないことを確認する旨の質問もしたが、職員Aからは明確な回答が得られなかったという事実が認められていることである。 このような客観的証拠があったため、裁判所は、職員Aが本件届出書の提出に関して「調査しようと考えるに至っていたことをうかがわせる証拠も存在しない」とまで判断することができたのだろう。証拠がいかに重要かということである。 なお、本論点については、平成28年度税制改正によって、平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税に関して、調査の事前通知後は更正を予知したものでなくとも5%の加算税が課されることとなったため、同法施行後は、本件のようなケースについては、加算税が免除されるのではなく5%でかかることとなる。 なお、課税庁の判決情報のコメントを一部紹介する。 (了)
#176(掲載号)
#佐藤 善恵
2016/07/07
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