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現代金融用語の基礎知識 【第12回】「日本版コーポレートガバナンス・コード」
現代金融用語の基礎知識 【第12回】 「日本版コーポレートガバナンス・コード」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 日本版コーポレートガバナンス・コードとは 日本版コーポレートガバナンス・コードとは、日本の上場企業における望ましいコーポレートガバナンスのあり方を示すものであり、現在、金融庁と東京証券取引所を事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」において、その内容が検討されている。平成27年6月頃までに東京証券取引所がその規則として策定する予定である。 以前解説した日本版スチュワードシップ・コードは、日本の上場企業のコーポレートガバナンスの質を向上させるために、機関投資家の投資先企業への適切な関与の仕方についての指針を示すものであるが、日本版コーポレートガバナンス・コードの方は、日本の上場企業自体に対してコーポレートガバナンスの指針を示すものである。 なお、日本版コーポレートガバナンス・コードは、上述のとおり東京証券取引所の「規則」として策定される予定ではあるが、日本版スチュワードシップ・コードと同様に、「しなければならない」規則ではなく、あくまで「すべきである」原則であり、日本の上場企業すべてが受け入れなければならないものではない。ただし、受け入れない場合には説明が必要とされる(コンプライ・オア・エクスプレイン)。 2 そもそもコーポレートガバナンスとは 日本版コーポレートガバナンス・コードは、日本の上場企業における望ましいコーポレートガバナンスのあり方を示すものなのだが、そもそもコーポレートガバナンスとは何なのだろうか。何となく分かるようでいて、正確に説明しようとすると、困ってしまうのではないだろうか。 コーポレートガバナンス(corporate governance)は、日本語では「企業統治」と訳されるが、実はそれには明確な定義があるわけではない。様々な言説の中で定義付けされることがあるが、それらは同一であるとは限らず、また、社会や時代によっても定義が異なることがある。 コーポレートガバナンスの様々な定義に共通する部分を抽出し、あえて最も簡潔な定義付けを行うとするならば、「企業が適切な意思決定を行うための仕組み」といえるのではないかと筆者は考えている。 企業には様々な利害関係者が存在するため、企業の意思決定はそれらの意向を踏まえて行われる必要がある。しかし、様々な利害関係者の意向をどのように企業の意思決定に反映させるのかについて何らかの仕組みが存在していなければ、混乱し、適切な意思決定など不可能なはずである。その仕組みがコーポレートガバナンスなのである。 3 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容 「企業が適切な意思決定を行うための仕組み」という定義は、抽象的でわかりにくいかもしれないが、具体的には、わが国の場合、その仕組みは「会社法」という法律において定められている。株主総会、取締役会、代表取締役、監査役といった言葉は聞いたことがあるだろう。それらがコーポレートガバナンスを具体的に構成する要素である。 日本版コーポレートガバナンス・コードにおいては、それらの望ましいあり方が示される。具体的な内容は、現時点では分からず、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」の議論の結果を待たなければならないが、OECD(経済協力開発機構)コーポレートガバナンス原則が参考になるかもしれない。コーポレートガバナンス・コードは欧米各国において定められているのだが、それらは各国の事情に応じて異なる。それに対して、OECDコーポレートガバナンス原則は、各国に適用可能なものとして定められているので、日本版コーポレートガバナンス・コードの内容も、それとかけ離れたものにはならないだろう。 【OECDコーポレートガバナンス原則の構成】 4 適当な社外取締役の人数 平成27年中に施行される改正会社法では、経済界の反対により、社外取締役設置を義務付けることは見送られた。しかし、監査役会設置会社(公開大会社に限る)のうち、その発行する株式について有価証券報告書の提出義務が課される会社は、社外取締役を置かない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を定時株主総会で説明する必要があるとされた。したがって、上場企業には、最低1名の社外取締役の設置が実質的に義務付けられたといえる。 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容についての議論で最も難航しそうなのが、この社外取締役の人数である。 さらに複数の社外取締役を置くよう求めるべきとする意見がある一方、当然のことながら経済界の側はこれに反対している。複数の社外取締役を置くべきとする意見は、外部の客観的な視点を経営に反映させるのが望ましいという考えに基づくのだが、企業側にとっては、適当な社外取締役を複数確保するのはハードルが高い。また、社外取締役といっても、企業とまったく無関係の人物が就任するわけではなく(結局、経営者の「お友達」かもしれない)、その意義に懐疑的な意見もある。 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容がどのようなものになるのか、そして、それをどの程度の上場企業が受け入れるのか、現時点では分からない。しかし、確実であるのは、内向きの経営はもう許されないということだろう。 (了)
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〔小説〕『東上野税務署の多楠と新田』~税務調査官の思考法~ 【第2話】「赤羽のスナックにて」
〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第2話】 「赤羽のスナックにて」 税理士 堀内 章典 ▼ ▲ ▼ 上野のとある日本料理店の座敷で、酒を酌み交わす6名の男女がいた。 東上野税務署法人課税第5部門の田村統括官をはじめとする5名の部下、新田調査官と多楠調査官、そして他署から異動してきた三浦上席調査官、小泉調査官、淡路調査官が初めてそろった部門の顔合わせ会である。 調査官の序列は、小泉、新田、淡路、多楠といった並びである。 淡路調査官は女性で、今回の異動で希望が叶い、十条税務署管理運営部門から法人の調査部門に配属になった。法人課税第1部門の経験はあるが、調査は多楠と同じく初めてである。三浦上席が淡路の指導役として指名されていた。 同じ部門に調査経験1年目の調査官が2人、職員の若返りが進んでいる最近の税務署ではけっして珍しい配置ではない。ベテランの調査官が毎年続々と定年で退官し、新たに採用された若手職員が調査官として調査部門に補充されているというのが主な理由である。 飲み会も開始から30分を過ぎ、メンバーが席の移動を始めたころ、末席にいた多楠ははじめに田村にビールを注ぎに、次に新田のところに行った。新田は東北出身ということもあり(1部門で同じだった先輩から聞いた)、先ほどから手酌で一人、冷酒を飲んでいた。 多楠が新田に対しあいさつ以外で言葉を交わすのは初めてであった。 恐る恐る冷酒を注いだが、緊張で少々手が震えていた。 「新田先輩、よろしくお願します。調査は初めてなのでいろいろと教えてください。」 新田は冷酒の入った杯を見つめながら、ポツリと言った。 「多楠、お前、なぜ調査部門に来た。」 多楠 「専科(国税専門官採用の職員の通称)は法人課税部門の内部事務を1年やったら必ず次の年は調査部門に配属になるようです。」 新田 「そんなことは百も承知。俺はおまえ自身の気持ちを聞いているんだ。」 多楠は戸惑いながら 「僕は1部門にいたころから早く調査に出たくて仕方なかったのです。大学の商学部で会計学を専攻していましたし、ゼミで2年間、みっちり租税法も勉強しましたので、調査で自分の力を試してみたいのです。」 それを聞いた新田は苦笑を浮かべ、初めて多楠に顔を向けた。 「じゃお前に聞くが・・・調査で一番大切なもの、なんだと思う?」 少し思案した多楠 「やはり仕事に対する意気込み、調査への情熱ですか。」 新田 「・・・・・・。」 多楠 「それに税法や通達を日ごろから勉強して、それを調査で活用することですか。」 先ほどから淡路と会話を始めた田村統括官が、心配そうに多楠の方をチラチラ見ている。 その視線を感じた新田は小さな声で 「多楠、お前このあと俺につき合え。いいな。」 もともと体育会系なので、先輩から無理難題を言われるケースには慣れている。心の内は顔に出さないように心がけたが、“まさかあの新田さんから誘いを受けるなんて”、目が点になる多楠であった。 「わかりました。よろしくお願いします。」 ▼ ▲ ▼ 顔合わせ会はその後1時間半ぐらいで終了、5部門のメンバーは三々五々解散した。皆にあいさつをして別れた多楠は、新田に指定された上野駅前にある大型電気店の入り口で、再び落ち合った。 多楠が待ち合わせ場所に到着すると、新田はすでにイライラした様子でタバコをふかしながら待っていた。 酒に強いと思われる新田であったが、2時間以上冷酒を呑んでいたので頬のあたりがやや赤く染まっている。しかし、あいかわらずのしかめっ面。 新田は多楠の顔を見るとすぐに 「行くぞ。」 と言って、さっさとタクシーに乗ってしまった。 多楠もあわててタクシーに乗り込むと、新田は運転手に赤羽に行くよう告げ、うたた寝を始めた。 多楠が聞いた話によれば、新田は山形出身で地元の高校を卒業したあと、家庭の事情で大学進学ができず、仙台国税局初級(普通科)採用として税務職員になったらしい。 多楠は思った。“新田が常々冷たい態度を取っていたのは、新田が多楠との境遇の違いを肌で感じていたからなのか?” 沈黙のうちにタクシーは赤羽の路地裏にある一軒のスナックに到着した。新田がスナック「かわばた」のドアを開けると、ママと思わしき40代後半の女性がカウンター越しに甲高い声で声をかけてきた。 「あら新田チャンいらっしゃい。今日は珍しくお連れさんがいるのね。」 スナックは横長の狭い店で、奥の方に3人ほど先客がいてカラオケを熱唱していた。 店に入ってすぐの席に案内された新田と多楠に、ママが近づいてきた。 「新田チャンどうだった? 税務署転勤したの?」 「いいや、残留。」 「あらそう、でも転勤したからといってご栄転とは限らないし、新田チャンなら間違いなく偉くなるはずだわ。仕事ができる男って、見ればわかるもの。」 (“新田、チャン?”) 新田はどうやらこの店の馴染みらしい。多楠は、このママが新田の勤め先、しかも民間からすればけっして快く思われない税務署の調査官であることを知っていることに驚いた。 新田は席に着き、水割りを二杯一気に飲み干した後、歌詞カードを広げるや、最近流行のポップスを歌い出した。歌はけっしてうまい方ではなかったが、熱唱するタイプのようだ。普段のクールな新田とは異なる姿を、ただ驚き、見つめるだけの多楠であった。 ▼ ▲ ▼ 会話らしい会話もないまま、どのくらいの時間が経っただろうか。ようやく店を引き上げようとしたとき、新田は多楠の方をまっすぐ見て言った。 「多楠、さっき聞いたことをもう一度聞く。・・・調査で一番大切なものはなんだ?」 「えっと・・・・・・」 答えを探している多楠に向かって、新田は小さな声であったがきっぱりと言った。 「それはな、不正を見つけることさ。税金をごまかしてスマしているヤツを絶対に見逃さないことだ。」 そう言い終わると新田はすばやく支払いを済ませ、店を出て通りへ出るなりタクシーをつかまえ、多楠に見向きもせずにさっさと帰ってしまった。 “新田さんはいったいオレに、何を言いたかったんだろう・・・” 今日の会話や立ち振る舞いで、ますます“新田”という男がわからなくなった多楠。 先が思いやられる長い長い一日が、ようやく終わった。 (続く)
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《速報解説》 ASBJより「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表~6月改正に続きリース契約変更時の取扱いについて新たに規定~
《速報解説》 ASBJより「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表 ~6月改正に続きリース契約変更時の取扱いについて新たに規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年11月21日付で、 企業会計基準委員会は、「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第43号(実務対応報告第31号の改正案))を公表し、意見募集を行っている。 「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第31号)については、平成26年6月30日付で、すでに公表されている(詳細はこちらの拙稿を参照)。 ただし、同実務対応報告において、契約変更時の借手の会計上の取扱いについて別途定めることとされていたため(実務対応報告第31号、13項)、これに関する取扱いについて、公開草案を公表するものである。 意見募集期間は、平成27年1月21日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 リース・スキームにおけるリース契約の変更の取扱いについて、以下のように会計処理を行う。 公開草案では、次の設例が示されている。 1 ファイナンス・リース取引かどうかの再判定 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された場合のファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの再判定にあたっては、契約変更時に、契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日に遡って判定を行う(公開草案3項、6項)。 判定を行うにあたって、借手が現在価値基準を適用する場合において現在価値の算定のために用いる割引率は、契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日における貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率とし、知り得ない場合は契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日における借手の追加借入に適用されていたであろうと合理的に見積もられる利率とする(公開草案7項)。 2 オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引への変更 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された結果、オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引となるリース取引については、契約変更日より通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う(公開草案8項)。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、リース適用指針23 項から30項の方法に準じて会計処理し、所有権移転ファイナンス・リース取引については、リース適用指針38項から44項の方法に準じて会計処理する。 リース物件とこれに係る債務をリース資産及びリース債務として計上する場合の価額は、原則として①の方法による。ただし、当該リース資産及びリース債務の価額を②の方法によることもできる(公開草案9項、25項)。 Ⅲ 適用時期 適用時期は、公表日以後適用する。 (了)
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Profession Journal No.95が公開されました!~今週のお薦め記事~
2014年11月20日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.95 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
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日本の企業税制 【第13回】「解散・総選挙で平成27年度税制改正はどうなる」
日本の企業税制 【第13回】 「解散・総選挙で平成27年度税制改正はどうなる」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 安倍総理は、18日(火)夜の会見で、消費税率10%への引上げを2017年4月まで18ヶ月延期し、国民にアベノミクスへの信を問うために、11月21日(金)に衆議院を解散することを表明した。 当然ながら来年度税制改正や予算編成は中断し越年は免れないであろうが、その場合、平成27年度税制改正、とくに法人税制改正にはどのような影響が出るのであろうか。 あくまでも予測でしかないが、あり得るシナリオを考えてみたい。 2 消費税率引上げは延期へ まず、消費税率10%の引上げ時期の先送りは、どのような意味を持つのであろうか。 もともと、一体改革法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)附則第18条第3項では とされているが、これは「経済財政状況の激変にも柔軟に対応する」ための規定であった。 11月17日(月)に公表された7-9月のGDP(第1次速報値)は、年率換算で実質マイナス1.6%であり、4-6月の消費税率8%への引上げの反動減をカバーしきるものではないが、決して「激変」とはいえないものである。むしろトレンドとしては、プラスの方向に向かっていることが見て取れるものである。 にもかかわらず引上げ延期とするのは、アベノミクス第3の矢である成長戦略が確実に効果を表すまでは、消費への悪影響があることが確実である消費税率引上げは、先送りするとの判断であろう。 一方で、先送りをするのであれば、財政再建に大きなマイナスとなる。安倍総理は、プライマリーバランスを2020年に回復させるとの財政再建目標を維持すると言明しているが、そのためには、社会保障支出抑制をも含む、厳しい歳出削減に取り組む必要がある。 また、消費税10%時とされていた軽減税率の導入については、消費税率引上げ延期により時間的余裕を得たことで、自民・公明両党間で、平成27年度税制改正とりまとめに向けて具体的な姿が示される可能性が高くなったが、本件については別の機会に述べることとしたい。 3 平成27年度税制改正への影響 解散総選挙となれば、平成27年度税制改正作業も中断するが、投票日が12月14日であれば年内に与党税制調査会が再開でき、越年しても1月初めには与党大綱とりまとめが可能である。 時期以上に注視すべきは、与党選挙公約の中で税制にどのような言及がなされるのかである。 既に地方創生や景気対策として様々な税制措置が取り沙汰されているが、これらが公約に盛り込まれることとなれば、与党の税制改正審議を待たずに既定路線となる。 また、大型の所得税減税等の予想外の内容が公約に入れられれば、平成27年度改正の枠組み全体が変わることにもなりかねない。 4 法人税改正は予定通りか 一方で、解散・総選挙や消費税率引上げ先送りが、法人税改正へ与える影響はさほど大きくないと考えられる。 当初より、法人実効税率引下げの財源としての法人税課税ベースの見直しや法人事業税の外形標準課税の拡大は、消費税議論が本格化する11月中旬までに、事務的な調整を終えることを前提として進められており、ほぼ9割方まで終えた段階である。解散・総選挙による中断があるとしても、再開までには財源問題は整えられているはずである。 ただし、事務的な調整では、実効税率については触れられていない。 法人税課税ベースの見直しや法人事業税の外形標準課税の拡大は段階的に実施することとなるので、現状で課税当局側が考える財源額を税収中立レベルで実効税率に換算すれば、平成27年度(初年度)べースで、2.1~2.2%程度となる。 11月10日の経団連との会合で宮沢経済産業大臣は、平成27年度で2.5%以上の実効税率引下げに言及している。自民党経済産業部会では3%の引下げを主張しており、選挙公約に具体的な税率引下げ幅が言及されるかどうかに注目していきたい。 (了)
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〈平成26年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第4回】「『保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書』記載内容の検討」
〈平成26年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第4回】 「『保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書』記載内容の検討」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 (1) 申告書の受領時期 保険料控除申告書の記載内容に基づいて、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除の4つの控除が適用され、配偶者特別控除申告書の記載内容に基づいて、配偶者特別控除が適用される。 これらの控除は、源泉徴収の時には考慮されず、年末調整で適用を受ける。よって、給与の支払いを受ける者は、保険料控除申告書と配偶者特別控除申告書を、その年最後の給与の支払いを受ける日の前日までに給与の支払者に提出することとされている(所法195の2①、196①)。 (2) 保険料控除申告書の記載内容の検討と注意点 ① 基本的事項 保険料控除申告書を提出する場合には、ほとんどの保険料について〈表1〉のとおり、証明書の添付が求められている(所法196②、所令319)。 控除の対象となる保険契約や掛金、受取人の範囲等については、所得税法等で詳細に規定されているが、実務的には添付された証明書により、保険料の内容及び控除の対象となる金額を確認することができる。 したがって、保険料控除申告書に記載される4つの控除の年末調整業務は、次の2つとなる。 〈表1〉 証明書の添付が求められる保険料の範囲 ② 生命保険料控除 申告された保険料について、一般の生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料の区分を確認し、生命保険料と個人年金保険料については、旧契約と新契約のどちらに該当するかを検討する。 従業員等が、最近の税制改正の内容を十分に理解していないことも多く、申告漏れや記載誤りが散見されるため、事前に制度の周知を行うとともに、申告書と証明書の内容を十分に照らし合わせることが必要である。 なお、生命保険料控除についての詳細は、拙稿「平成24年分おさえておきたい年末調整のポイント ①今年度適用となる改正事項」(本誌創刊準備2号掲載)及び「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「生命保険料控除について」」(本誌No.42掲載)をご覧いただきたい。 【誤りやすい事例】 ③ 社会保険料控除 保険料控除申告書で申告する社会保険料は、給与から徴収される社会保険料以外の保険料である(所法196①二)。 自分自身が負担すべき社会保険料の他、生計を一にする配偶者やその他の親族が負担することとなっている社会保険料を支払った場合にも、その金額を控除の対象とすることができる(所法74①)。 例えば、子の国民年金保険料を親が支払った場合や、妻の国民健康保険料を夫が支払った場合には、名義人ではなく実際に保険料を支払った親や夫が控除を受けることになる。 なお、上記〈表1〉に記載のとおり、国民年金保険料と国民年金基金の掛金を申告する場合には、証明書の添付が求められる(所令319一)。これら以外の社会保険料(例:国民健康保険料、介護保険料)を申告する場合には、証明書を添付する必要はない。 【誤りやすい事例】 (3) 配偶者特別控除申告書の記載内容の検討と注意点 配偶者特別控除を適用する場合の主な要件は、次の3つである(所法83の2①②)。 配偶者の所得要件だけでなく、本人の所得要件もあるので注意が必要である。 (注) 「合計所得金額」については、前回の解説を参照いただきたい。 【誤りやすい事例】 (4) 保険料控除申告書、配偶者特別控除申告書の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 * * * 次回は、「住宅借入金等特別控除申告書」を取り上げる予定である。 (了)
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組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第14回】「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括③」
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第14回】 「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括③」 公認会計士 佐藤 信祐 2つの東京地裁平成26年3月18日判決については、初めて包括的租税回避防止規定が適用されたものであり、実務家の注目度も極めて高いものとなっている。 本稿においては、平成24年5月14日付鑑定意見書で触れられているグループ内の組織再編成による繰越欠損金の引継ぎについて考察を行うものとする。 ④ グループ内合併による繰越欠損金の引継ぎ 平成24年5月14日付鑑定意見書においては、 と記載されている。 また、近年においては、繰越欠損金の繰越期限が9年に延長されたことから、支配関係が生じてから5年待つという行為が想定されるため、財務省主税局で法人税法の立法に関与されていた佐々木浩氏は、 とした上で、 と指摘されている(※1)。 (※1) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』大蔵財務協会59頁 しかしながら、本鑑定意見書は、さらに一歩進んで、「親会社が自ら設立したり長期にわたって株式を保有している100%子会社」が保有している繰越欠損金を吸収合併で引き継ぐという行為を問題視しており、一歩進んだ解釈となっている。 たしかに、事業を抜き出してから、抜け殻になった会社を吸収合併するような場合には、長期的な100%子会社であったとしても問題視すべき場合もあり得るであろうし、この点については、佐々木浩氏も指摘されている(※2)。 (※2) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)前掲書130頁 本鑑定意見書については、単なるペーパー会社となった子会社について問題としているのか、このような事業を抜き出して、抜け殻になった子会社を吸収合併するようないわゆる繰越欠損金飛ばしスキームを問題としているのかについては、それほど明確には記載されていない。本事件においては、合併の前に分社型分割が行われており、繰越欠損金飛ばしスキームの変形ともいえるものであることから、それを念頭に置いたものと考えられなくもないが、これはあくまでも推測の域を出ない。 しかしながら、事前に事業を移転させるのではなく、単なるペーパー会社として放置されていたような100%子会社を吸収合併するような行為については、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 なぜならば、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、完全支配関係のある子会社を解散し、残余財産が確定した場合についても、親会社に繰越欠損金を引き継ぐことが可能になったため(法法57②)、そもそもとして、法人税の負担を不当に減少させたことにはならず、包括的租税回避防止規定を適用すべき事案ではないと考えられる。 そうなると、親会社が子会社を吸収合併する場合ではなく、他の子会社が吸収合併する場合については、繰越欠損金が引き継がれる法人が異なってくることから、法人税の負担が減少することも考えられるため、この場合には問題になりそうであるが、親会社が吸収合併をしようが、他の子会社が吸収合併しようが、解散させようが、事務上の手間はほとんど変わらないため、経済人として不自然・不合理な行為であるとまではいうことはできず、さらに、制度の趣旨・目的などから考えても、子会社から親会社にすべての資産および負債とともに繰越欠損金が移転するのは問題がなく、子会社から他の子会社にすべての資産および負債とともに繰越欠損金が移転するのは問題であるとするのは理路整然としないため、この点についても問題とすべきではないと考えられる。 さらに、前述のように、事業を抜き出してから、抜け殻になった会社を吸収合併するような場合であっても、実務上は、完全に抜け殻にすることはほとんどなく、主要な固定資産や借入金を残しておくことが一般的である。 なぜならば、例えば、事業を新会社に移転させた後に、旧会社を親会社に吸収合併させる場合において、当該旧会社に繰越欠損金が存在していたということであれば、新会社において新たに繰越欠損金が生じる可能性も否定できず、新会社においては資金調達能力に疑義が生じることも考えられる。むろん、親会社において連帯保証を行えば足りることであるが、金融機関との関係を考えた場合には、今後、必要となる設備投資に備えるために、主要な固定資産や借入金を親会社に移転した方が望ましいということも生じる。さらに、新会社に移転する資産は限定的にした方が望ましいということもあり、有価証券などを残しておくということも考えられる。このように完全に抜け殻にするということは考えにくく、実務上、大きな問題になったということはあまり聞かないというのも実態である。 本事件において、朝長英樹氏が鑑定意見書において敢えてこの点について触れたのは、いわゆる繰越欠損金飛ばしスキームと取締役副社長の送り込みという組み合わせが存在していたからであると想定され、実務上、今までとそれほど変わらない対応になると考えられる。 次回においては、平成24年7月12日に提出された補充意見書について考察を行うこととする。 (了)
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こんなときどうする?復興特別所得税の実務Q&A 【第14回】「源泉所得税の納期の特例」
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第14回】 「源泉所得税の納期の特例」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、平成26年11月1日に会社を設立し、代表取締役に就任しました。役員は1名、従業員は0名です。また、11月10日に「法人設立届出書」、「青色申告の承認申請書」、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」、「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署へ提出しました。 第1期の役員報酬は月額30万円とし、11月30日から毎月末日に支給します。今後の源泉所得税の納期についてご教示ください。 源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、源泉徴収した月の翌月10日までに納付しなければならない。ただし、次の①~③のすべてを満たす場合には、1~6月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を7月10日までに納付、7~12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を翌年1月20日までに納付の年2回払いにすることができる。 上記③の「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出した後、税務署長から却下の通知がない場合には、提出した月の翌月末日に承認があったものとみなされる。そして、承認を受けた月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税から納期の特例の対象になる。 今回のケースにおいては、11月10日に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出しているので、翌月末日の12月31日に承認があったものとみなされ、12月に源泉徴収した所得税及び復興特別所得税から納期の特例の対象になる。したがって、源泉所得税の納期は、以下の通りとなる。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【48】 〔第6章〕判例の見方(その6)
税務判例を読むための税法の学び方【48】 〔第6章〕判例の見方 (その6) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ② 裁判の形式 裁判の形式には、「判決」「決定」「命令」がある。 「判決」は、裁判所が、口頭弁論に基づき、公開法廷で言い渡しを行う裁判である。口頭弁論とは、当事者が裁判官の面前で、口頭で法的な主張をし、それを立証する、正規の審理手続である。 これに対し「決定」と「命令」は、重要度が低い場合であるとか、迅速な判断が求められる事項について、口頭弁論を開かない形で行われる裁判である。そして、この口頭弁論を開かない形で行われる裁判には、組織としての裁判所が行う場合と、単独の裁判官が行う場合とがある。 この裁判所が行うものを「決定」、単独の裁判官が行うものを「命令」という。 なお、この「裁判所」とは、裁判機関としての裁判所をいい、複数の裁判官で構成される合議制の場合はその合議体、1人の裁判官で行う単独制の場合はその裁判官である。一方、「命令」は裁判官(裁判長や受命裁判官、受託裁判官)が行うものである。 なお地方裁判所は通常単独制であるが、社会的影響が大きい事件や複雑な事件などでは、3人の裁判官による合議制となる。高裁では、常に3人の裁判官によって1つの裁判所が構成される。 合議制の場合は、このように裁判所と裁判長を区別するのは容易であるが、単独の場合、1人の裁判官が裁判所と裁判長を兼ねることになる。すなわち、ある場合は裁判所として行動し、ある場合は裁判長として行動することになるのであるが、その行動が裁判所としての行動か、裁判長としての行動かは法令で定められている。 したがって、単独制の場合に、裁判所としての「決定」と裁判長単体での「命令」との裁判主体の実体的差異は乏しいようであるが、これも同様、裁判所としてなされたものが「決定」であり、裁判長(裁判官)としてなされたものが「命令」であり、法令で定められている。 この点、「決定」と「命令」が近く、「判決」に対比する概念となるが、「判決」と「決定」の主体は裁判所であるのに対して、「命令」の主体は裁判官であり、この点からは、「判決」と「決定」が近いものとなる。 なお先に、「判決」は、口頭弁論に基づき公開法廷で言い渡しを行う裁判であると記したが、「決定」や「命令」も口頭弁論を開くことができる。ただし、判決と異なり、口頭弁論を経るか否かは裁量に委ねられている(民事訴訟法(以下、民訴法)第87条第1項ただし書)。 ここで受命裁判官と受託裁判官について記そう。 ところで、「判決」に不服だった場合の上訴方法は、「控訴・上告」である(民訴法第281条、第311条)のに対し、「決定」や「命令」の不服の申立て方法は、「抗告・再抗告」である(同第328条)。 また、それぞれの告知方法は、「判決」が判決書及び言い渡しであるのに対し、「決定」と「命令」は、相当と認める方法で告知すれば足り(同第119条)、書面による必要もない(民事訴訟規則第67条第1項第7号)。また「決定」や「命令」は、判事補が単独ですることができる(民訴法第123条)。 なおこの「命令」と「決定」の相違は、個々の裁判の名称から判断してはならない。というのも、この個々の裁判の名称は、その内容に基づいて定められていることがあり、裁判形式と一致しないことがあるためである。 例えば、文書提出命令(民訴法第223条第1項)は、名称に「命令」が付されているが、形式的には「決定」である。 実は条文では、以下のようになっている。 このように、「決定で、・・・命ずる」となっており、これが「決定」によってなされることが法令で明らかにされている。 (続く)
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《編集部レポート》 東京税理士会・東京税理士政治連盟が報道関係者との懇談会(2014・秋)を開催~平成27年度税制改正要望、マイナンバー法、相続税増税対応状況等を表明~
《編集部レポート》 東京税理士会・東京税理士政治連盟が 報道関係者との懇談会(2014・秋)を開催 ~平成27年度税制改正要望、マイナンバー法、相続税増税対応状況等を表明~ Profession Journal 編集部 東京税理士会、東京税理士政治連盟は2014年11月17日(月)、日本記者クラブにおいて「報道関係者との懇談会2014・秋」を開催し、平成27年度税制改正要望や平成28年1月から実施されるマイナンバー法、施行が目前に控えた相続税増税への対応状況等について報道関係者への説明を行った。 〇平成27年度税制改正に対する要望事項 東京税理士政治連盟の坂田覚政策委員長より、「平成27年度税制改正に関する要望」について、重要要望項目として以下2点の説明があった。 ①については前回の報道関係者との懇談会(2014.5.23)でも東京税理士会から主張がなされていたが、軽減税率の効果は低所得者世帯だけでなく全世帯に及び逸失税収額が多額になる点や軽減税率の対象品目の選定が困難である点を理由に導入すべきではないとし、将来的には給付付き税額控除が有用な制度でありマイナンバー制度の施行までは簡素な給付措置により対応を図るべきとした。 ②については外形標準課税や欠損金の繰越控除の制限は財政基盤の弱い中小法人には適用を行わないことに加え、平成22年度税制改正で廃止された特殊支配同族会社における業務主宰役員給与の損金不算入制度(旧法法35)に代わる税制として、オーナー役員に係る給与所得控除について別途の基準を設けないことを求めた点について説明が行われた。 〇マイナンバー法への対応 東京税理士会の宮本雄司規制改革・納税環境整備等対策室長より、平成28年1月より運営が開始されるマイナンバー法について、制度概要及びロードマップと、11月9日でパブコメ受付が終了した「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(案)」についての説明が行われた。 さらに税理士事務所はマイナンバー制度において一般企業と同様、従業員等のマイナンバーを扱う「個人番号関係事務実施者」であると同時に顧問先企業との関係においては「委託を受けた者」にも該当するとしたほか、様式が大きく変わる源泉徴収票や「番号」が記載された申告書の提出時期など税分野への影響についても説明があった。 〇相続増税へ向け「相続税フォーラム相談会」の第2回を開催(2015.2.22) 東京税理士会の伊藤佳江副会長(業務対策部担当)より、平成27年1月1日以後発生の相続分からの基礎控除額の引下げ等、改正相続税法の施行時期が迫り、東京国税局管内においても申告・納税対象者が増えることから、課税当局からの要請もあり、相続税についての一般納税者向けへ周知活動を行っている点について説明があった。 具体的には本年9月7日の第1回に続き平成27年2月22日(日)にも都内8会場において、相続税について税理士が一般納税者向けにわかりやすく説明する無料相談会「相続税フォーラム相談会」を開催するとのことである(事前予約制)。 (※) 詳しくは東京税理士会ホームページにて告知。 (了)
